アイドルマスターディアリースターズの日高舞さんのお話です
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482069237
事務所
舞「つまんない、つまんない、つまんなーい!」
P「急になんだよ……」
舞「急に!? 急じゃないわよ!」
舞「ここ数日ずーっと言ってるじゃない! つんまなーい!って」
P「そうだっけ?」
舞「張り倒すわよ!?」
P「まぁまぁ」
舞「まぁまぁじゃない!」
P「わかったわかった。何がそんなにつまんないんですか? お姫様」
舞「……レッスンばっかだもん」
P「レッスン楽しいって言ってたじゃないか」
舞「そりゃ始めの頃は楽しかったわよ」
舞「今までやったことのないものばかりだったし」
P「じゃあ今は何もかも出来るのか?」
舞「そう言うわけじゃないけど……」
舞「でも、何回かやれば出来るもん」
P「舞は本当に天才だよなぁ」
舞「当然でしょ? なんてったって舞ちゃんだもの!」
P「うむうむ。その調子で頑張ってくれたまえ」
舞「って! そうじゃないわよ!」
P「流されなかったか」
舞「流すつもりだったの!?」
P「だってめんどくさそうだったし?」
舞「張り倒すわよ!?」
P「はいはい」
P「で、要するに舞はレッスンが簡単なものばかりでつまらない、と言いたいのか?」
舞「簡単なものばかりじゃないけど……」
舞「聞いてた話と違うもん……」
舞「プロデューサーが私をスカウトした時言ってたじゃない?」
舞「『アイドルになれば楽しくてキラキラ出来る』って」
P「あー、言ったな」
舞「その言葉を信じてアイドルになったのに、今は本当につまんないの!」
P「そりゃなぁ。まだ舞はアイドルじゃなくて、アイドル候補生だしな」
舞「じゃあ早くデビューさせてよ! いいでしょ?」
P「ダメだな」
舞「なんでよ」
P「舞がつまらなさそうにレッスン受けるからだよ」
舞「だってつまんないんだもん」
P「アイドルは星みたいなもんなんだよ」
舞「……星?」
P「うむ。アイドルは常に輝いてなきゃいけない」
P「ファンが見上げればどこでも見られるように、常にな」
舞「私が輝いてないからデビューさせてくれないの……?」
P「わかってるじゃないか」
舞「……じゃあどうすればいいのよ」
P「んー。せめて楽しそうなフリで良いからしてくれないか?」
舞「楽しくもないのに楽しそうになんてできない……」
P「ふむ……困ったな」
舞「あんたプロデューサーでしょ? あんたのアイドルが困ってるのよ? 何とかしようとは思わないの?」
P「なんとかしてやりたいのは山々なんだがな」
P「如何せん、ちと忙しくてな。舞ばかりに構っていられない」
舞「忙しいって理由で担当ほったらかしにして良いと思ってるの?」
P「大人は色々あるんだよ」
P「ま、子供の舞にはわからんだろうがな」
舞「子供じゃないもん……」
P「レッスン嫌だーって癇癪起こしてるうちは子供だなぁ」
舞「ふん……」
P「じゃあ、舞はどうしたい?」
舞「どうって?」
P「舞はどうすればレッスンが楽しくなると思う?」
舞「え……?」
P「難しいレッスンをやれば楽しいか?」
舞「ううん……私が難しいなんて思うレッスンなんてありえないし」
P「じゃあ、どうすれば楽しくなる?」
舞「うーん……」
P「例えばだが」
舞「ん?」
P「今、舞は基本的には俺と二人きりでレッスンしてるよな。たまにトレーナーさんが居るけど」
舞「そうね」
P「ここに、他の誰かが参加したら楽しくならないか?」
舞「これ以上トレーナー増やされても変わんないわよ」
P「トレーナーじゃないよ」
舞「じゃあ誰よ」
P「ライバルだな。いや、仲間かな」
舞「仲間……?」
P「あぁ。一緒に切磋琢磨して上を目指す仲間だ」
舞「……」
P「想像してみてくれ。仲間と一緒にレッスンしてるところを」
舞「……よくわかんない」
P「そうか? ただ、一人で、あれじゃ駄目だこれじゃ駄目だってなるレッスンと、一緒にああじゃないこうじゃない、こうすればいいんだってなるレッスン」
P「どっちが楽しいかは明白じゃないか?」
舞「そう……かもしれないけど……」
舞「でも、そんな仲間居ないじゃない。居ないものをいくら想像しても無駄よ」
P「なんで俺がここ数日舞をほったらかしにしてまで忙しくしてたと思ってるんだ?」
舞「?」
P「俺だって舞の事を常に考えてるんだよ」
P「と言うわけで、明日アイドル候補生……いや、アイドル候補生候補が見学に来る」
舞「私のレッスンを見に?」
P「その通りだ」
舞「その娘は私の仲間になってくれるの?」
P「わからん」
舞「わからんって……」
P「舞次第だからな」
P「舞がアイドルはこんなに楽しいんだって言うのを見せれば仲間になってくれるかもな?」
舞「……」
P「それとも、舞には難しいか?」
舞「はっ。簡単よ! そんなもん!」
P「それでこそ舞だな」
舞「ふふん! この舞ちゃんのすごさをその娘に思い知らせてあげるわよ!」
P「まったく頼もしい限りだ」
P「あとな、舞」
舞「何よ?」
P「『その娘』じゃない。『その娘達』だ」
翌日 レッスン場
P「とりあえず自己紹介してもらおうかな」
小鳥「お、音無小鳥です!」
菜々「安部菜々です! よろしくお願いします!」
舞「日高舞よ、よろしくね」
P「まぁ、そう堅くならずに。小鳥ちゃんも菜々ちゃんも舞とは歳が近いんだしさ」
舞「そうなの? いくつ?」
小鳥「あ、あたしは12歳です!」
菜々「ナナは11歳です!」
舞「ふーん。小鳥は私の一個下。菜々は二個下なのね」
舞「ま、仲良くなれそうで何よりね!」
P「舞にしちゃ珍しく緊張してたからなぁ」
舞「なっ!?」
小鳥「そうなんですか?」
菜々「やっぱりアイドルでも緊張するんですね!」
舞「ち、違うわよ! 緊張なんてしてないし!」
P「じゃあそういう事にしておいてあげるか」
P「さ、とりあえずレッスン始めようか?」
舞「えぇ!」
小鳥「あの……あたし達はどうしてれば……?」
P「んー。そうだな。とりあえず舞のレッスンを一度見てもらおうかな」
P「というわけで、舞。まずはボーカルレッスンだ」
舞「わかったわ」
P「じゃあいつものように、頼むよ」
舞「任せておきなさい!」
◆
舞「ふぅ……こんなもんかしらね」
P「んー……」
舞「何か言いたげね」
P「そうだなぁ……」
P「二人は舞の歌聴いてどう思った?」
菜々「す、すごいです! 舞ちゃんとっても上手ですねぇ!」
舞「でしょう? ま、私くらい出来なきゃアイドルはなれないのよね~♪」
P「小鳥ちゃんは?」
小鳥「えっと……その……」
舞「何よ、はっきりしないわね」
小鳥「あたしの方が……」
P「ん?」
舞「何?」
小鳥「あたしの方が、きっと歌……上手だと思います」
舞「は?」
P「どうして小鳥ちゃんはそう思うのかな?」
小鳥「えっと……舞、さんの歌は間違ってないけど……間違ってるって言うか……」
舞「何よそれ、意味わかんない」
P「なるほど」
舞「あんたはわかるの?」
P「まぁね」
舞「……菜々は?」
菜々「ナナは……わからないです……」
P「じゃあさ、小鳥ちゃん」
小鳥「はい?」
P「ちょっと歌ってみてくれないかな? 好きな曲で良いから」
小鳥「え……?」
舞「そうよ! 私より上手いなら歌ってみなさいよ」
P「舞、喧嘩腰にならない」
舞「……なってないし」
P「いや、かな?」
小鳥「いや……じゃないです……」
小鳥「でも……一人で歌うのは恥ずかしくて……」
菜々「あ! じゃあナナも一緒に歌いますよ!」
P「菜々ちゃんもこう言ってくれてるし、どうかな?」
小鳥「じゃあ……歌います」
◆
小鳥「~~♪」
菜々「~~♪」
舞「……」
P「どうだ?」
舞「確かに上手いけど……私とそんなに変わらないわよ」
P「そうか? 俺は小鳥ちゃん達の歌の方が好きだけどな」
舞「なんで」
P「なんでってそりゃ、聴いてて楽しくなるからだな」
舞「私の歌は楽しくならないの?」
P「ならないな」
舞「……」
P「あんなにつまんなさそうに、機械みたいに歌われてもなぁ」
P「せっかくなら小鳥ちゃん達みたいに楽しそうに歌ってくれた方が、聴いてる側としても楽しくなる」
小鳥「ふぅ……」
菜々「えへへ……! どうでしたか!?」
P「うん。とても良かったよ」
小鳥「本当ですか!?」
P「あぁ。小鳥ちゃんも菜々ちゃんもすごく楽しそうに歌うからね。俺まで楽しくなれたよ」
小鳥「そう言ってもらえると嬉しいです!」
菜々「褒められちゃいましたねぇ、小鳥ちゃん!」
小鳥「うん!」
舞「……納得いかない」
P「何がだ?」
舞「小鳥も菜々も間違えてたじゃない! それなのになんで二人の方が良いの!?」
P「舞」
舞「何よ!?」
P「アイドルのファンは機械を見に来てるんじゃないんだ」
P「アイドルがステージの上で頑張る所を見に来るんだ」
P「そのステージが一つのミスもなく完璧だったとしても、ミスだらけであったとしても、アイドルがステージの上で精一杯輝こうとしている、そんな姿を見に来るんだ」
舞「なによ……それ……」
P「さっきの小鳥ちゃんと菜々ちゃんは精一杯輝こうとしてただろ?」
P「でも、舞はどうだった? ミスなく完璧だったかもしれないが、ちゃんと輝こうとしたか?」
舞「……」
菜々「ナ、ナナは舞ちゃんも頑張ってたと思いますよ!」
P「菜々ちゃんはそう言ってくれてるが、どうだ?」
舞「……やってないわよ」
P「だろうな。舞にとっては簡単な事だからな。適当にやってもこなせるしな」
小鳥「て、適当であんなに上手いの……?」
P「これが舞と二人の差だよ」
P「完璧に正確無比にまるで機械のように冷徹にこなすのが舞だけど、二人はミスがあったとしてもめげずに最後まで一生懸命に楽しそうに歌う」
P「人の心を動かすのは機械じゃない。人だ」
舞「……」
菜々「ま、舞ちゃん……?」
P「これでわかっただろ? 舞がデビュー出来ない理由が」
P「舞がどれだけ上手く歌おうが、踊ろうが関係ない」
P「アイドルをやる機械に興味はない。アイドルをやる人間だから俺達は応援したくなるんだ」
舞「……どうすればいいのよ」
P「さぁ? 舞がアイドルを楽しいって思えば良いんじゃないか?」
舞「……つまんないんだもん」
P「それは舞が一人だからだろ」
舞「他にも候補生は居るじゃない」
P「舞が他の候補生を見てないなら、それは一人だな」
舞「だって!」
P「だって私よりも下手なんだもん、か?」
舞「……そうよ」
P「じゃあ、この二人ならどうだ?」
小鳥「え?」
菜々「ナナ達ですか?」
P「舞より技術は拙い面もあるかもしれない。でも、少なくとも今の舞よりは俺は好きだぞ」
舞「私の方が上手いもん」
P「ま、負けは早々認められんもんだよな」
舞「負け……?」
P「あぁ。舞は今日初めて負けたんだよ。アイドルとして」
舞「私が……負けた……」
菜々「そ、そんな事ないですよ! ナナは舞ちゃんもすごいって思いましたし!」
小鳥「菜々ちゃんの言う通りです! あたし達はやっぱり出来てないとこも多いし……」
P「だそうだが、舞は納得出来るか?」
舞「出来ない」
舞「出来るわけないでしょ!? 目の前であんな風に歌われたのよ!?」
P「じゃあ、舞がやる事は分かってるな?」
舞「そこの二人よりも上手くなればいいでしょ! 簡単よ!」
P「じゃあ俺は楽しみにしてて良いんだな?」
舞「当然よ! この舞ちゃんに説教した事、後悔させてやるわ!」
舞「小鳥! 菜々!」
小鳥「は、はい!」
菜々「ひゃい!」
舞「あんた達、アイドルやりなさい! 舞ちゃんがいつまでも負けっぱなしなんて許されないの!」
舞「絶対にあんた達に勝ってみせるから!」
一か月後 レッスンスタジオ
舞「なーんて啖呵切ったは良いけど」
小鳥「はい?」
菜々「なんですか?」
舞「さっぱりわかんないわ。どうやったらあんた達みたいに歌えるのかしら」
菜々「ナナは舞ちゃんみたいに歌ってみたいんですけど……」
小鳥「あたしも……」
舞「私みたいに?」
小鳥「ミスなく、ぶれる事もなく」
菜々「最後まで笑顔を絶やさず、元気よく」
小鳥、菜々「「そんな風に歌いたい……」」
舞「こんなの反復練習で身につくわよ」
舞「それよりも、あんた達みたいに楽しく歌う方法教えなさいよ」
小鳥「楽しくって……うーん?」
菜々「ナナはそんなに意識してないんですけど……」
舞「くそぅ……これだから天才どもは……」
小鳥「天才って……舞さんの方がよっぽど天才ですよ」
菜々「ですねぇ……舞ちゃんなんでも出来ちゃいますし」
舞「なんでも出来ても意味がないのよ」
舞「いかに自分が楽しくやれるかが重要だもの」
小鳥「みんな自分の中に課題があるんですね」
菜々「じゃあその課題を乗り越えればきっとアイドルになれますよね!」
舞「そうね! さすが菜々は良い事言うじゃない!」
菜々「えへへ……!」
小鳥「じゃあ、今日もレッスン頑張ってみんなでアイドルになりましょう!」
舞「目指す夢は!」
小鳥「トップアイドル!」
菜々「キャハっ☆」
舞、小鳥、菜々「「「あははっ!」」」
舞「あー、やっぱあんたらと一緒だと飽きなくて楽しいわね」
菜々「ナナもすっごく楽しいです!」
小鳥「あたしも!」
小鳥「……そういえばプロデューサーさん遅いですね」
菜々「確かに……レッスン開始時間はもう過ぎてますよね」
舞「ま、あいつも忙しいでしょうし、とりあえず私達で出来る範囲の事はしておきましょ」
小鳥、菜々「「はい!」」
偉い人「君もしつこいな!」
P「待ってください! まだ時間を貰える約束でしたよね!?」
偉い人「おはよう、諸君」
小鳥、菜々「「おはようございます」」
舞「何があったの?」
P「舞は気にしなくて良いから向こうに行っててくれ」
舞「む」
偉い人「君ね……私は日高君に話があって来たのだからそれじゃ困るじゃないか」
舞「私に話?」
P「ですから! 舞のプロデュースは俺に一任してくれるって約束でしょう!?」
偉い人「事情が変わったのだ! いいから君は引っ込んでなさい!」
P「くっ……!」
舞「で、話って?」
偉い人「日高君、デビューしたくはないかね?」
舞「そりゃデビューはしたいけど」
偉い人「なら、私の前で歌って踊ってみなさい」
舞「はぁ?」
偉い人「私が見て問題なければ君のデビューが決まる」
舞「良いの?」
P「良いわけないだろ……でも、上の命令なんだよ……」
偉い人「私だって時間がないんだ。早くしたまえ」
舞「何よえらっそうに……」
舞「はいはい。やれば良いんでしょ、やれば」
舞「まったく……なんなのよ……」
菜々「ま、舞ちゃん……」
小鳥「大丈夫……ですか?」
舞「ま、適当にやれば問題ないでしょ。悪いけど、二人はちょっと端に行っててね」
小鳥「はい……」
菜々「わかりました……」
舞「で? 普段レッスンでやってるようにやれば良いのね?」
偉い人「その通りだ」
舞「んじゃ……」
◆
偉い人「ほう! 君からの報告以上の出来栄えじゃないか」
P「これじゃ駄目なんです! ただ技術が完璧でもファンの心は掴めません!」
偉い人「そうかね? これで充分だろう」
偉い人「それに、完成したのならばさっさと出荷しないとコストばかり嵩んでしまうしな」
P(くそっ……これだから現場に来ないお偉方は……!)
偉い人「日高君!」
舞「……なに?」
偉い人「素晴らしい! 素晴らしいよ! 充分な出来栄えだ」
偉い人「おめでとう。すぐに君のデビューの準備を整えさせよう」
舞「……私、デビュー出来るの?」
偉い人「もちろんだ! いやはや君の才能は素晴らしい」
舞「こんな程度で?」
偉い人「こんな程度? 充分じゃないか」
舞「……そう」
偉い人「デビュー出来るんだ。何がそんなに不満なのかね?」
舞「別に? デビューに不満はないわよ」
舞「小鳥と菜々ももちろんデビュー出来るのよね?」
偉い人「小鳥と菜々?」
偉い人「あぁ、そこの候補生二人か。いや、彼女達はまだここでレッスンを積んでもらう」
舞「……じゃあ私もデビューしないわ」
偉い人「何を言ってるんだね!」
舞「私はそこの二人よりも上手く歌えないし、踊れないもの」
偉い人「おい、君。それは本当かね」
P「……技術だけなら舞の方が上です。でも、アイドルとしてなら小鳥ちゃんと菜々ちゃんの方が上です」
偉い人「アイドルとして? そんなものはどうでもいい。今、技術が仕上がっているかどうかが問題なのだよ」
P「しかし!」
偉い人「ええぃ! うるさい! これは私の決定だ! 文句は言わせん!」
偉い人「日高君もいいね!?」
舞「あと一つだけ聞かせて」
偉い人「なんだね」
舞「私のプロデュースは誰がやるの?」
偉い人「それは私の直属の部下が行う。何、腕はいい。そこの彼よりもな」
舞「そ。じゃあ私アイドル辞めるわ」
小鳥「舞さん!?」
偉い人「なっ!?」
舞「小鳥と菜々と、そいつも辞めて別の事務所にでも行くわよ」
菜々「舞ちゃん……!」
偉い人「ふ、ふざけるんじゃない!」
舞「ふざけてなんかいないわよ」
舞「私は私のためにアイドルやるの。少なくともあんたみたいなハゲデブのためじゃないわよ!」
偉い人「ちっ……! 何が望みだ!」
舞「小鳥と菜々も一緒にデビューすること。私とユニットとして」
偉い人「そんなものは認めるわけにはいかん! どうしてそんなにロスになるような事を……」
舞「じゃあ辞める」
偉い人「……辞めてどうする」
舞「だから、さっきも言った通り別の事務所に……」
偉い人「日高君。私を甘く見るなよ」
偉い人「芸能界なんて所詮狭い世界なんだ。私がその気になれば君たちを業界から消し去る事も出来るのだよ」
舞「……ほんとに?」
P「……やれるだろうな」
偉い人「わかったかね? 君はこの事務所からデビューするしかないのだよ。他の道は無い。諦めたまえ」
舞「……わかったわよ」
偉い人「そう、それでいいんだ」
舞「でも、プロデューサーはこいつよ。こいつじゃなければ私はデビューしないから」
偉い人「……ちっ。わかった。それでいいだろう」
P「舞……」
舞「私のプロデューサーはあんただけよ」
偉い人「おい! そうと決まれば早速日高君のデビューについて整えるぞ、来い!」
P「はい……」
菜々「い、いっちゃいましたね……」
小鳥「舞さん……」
舞「あー! もう! なんなのよ! あのハゲデブ!」
舞「あーっ! くそっ! イライラするっ!」
◆
舞(それからあっと言う間に私のデビューの日が決まった)
舞(まるで、すべてが最初から決まっていたかのようにあっという間に決まった)
◆
舞「ねぇ……」
P「なんだ?」
舞「どうして急に私をデビューさせる話になったの?」
P「……実はな、うちの事務所の経営が若干やばいらしい」
舞「らしいって?」
P「俺も詳しくは聞けていないんだ」
P「ただ、少しでも利益を確保するために、使える物は使い捨てる事にしたんだそうだ」
舞「……最悪ね」
P「……本当にな」
P「……ただ、最初は今うちで抱えてる候補生で、即時デビューに耐えられない娘は全て切り捨てるって話もあったらしい」
舞「何よそれ」
P「それに比べれば、切り捨てられないだけまだマシだ」
舞「ほんと最悪……」
P「大人達の尻拭いを舞達子供にさせるなんて本当に情けないよ」
P「俺にもう少しだけ力があればもっとなんとかなったかもしれないのに、すまない……」
舞「仕方ないわよ。あんただってまだ20そこそこのぺーぺーなんだし」
P「高木先輩と黒井先輩がな」
舞「高木さんと黒井さんが?」
P「うちから独立する事を考えているらしい」
P「腐った芸能界を変えるためにも、外からの新しい風を取り入れるそうだ」
舞「じゃあ、その新しい風が入ってくればこの空気も変わるのかしら」
P「きっとな」
舞「その未来のためにも私が頑張らないといけないのね」
P「そう、だな……。舞にばかり負担を強いて本当にすまない」
舞「仕方ないわよ。あんたのせいじゃない」
舞「それに、私が頑張れば小鳥や菜々もアイドルになれるんでしょう?」
舞「なら、私は一足先にアイドルになって二人を待つわよ」
舞「だから、今日のデビューでアイドル日高舞の存在を世界に知らしめてくるわ」
P「……頼んだ」
舞「じゃ、行ってくるわね」
P「舞」
舞「何?」
P「今の俺が言えたことじゃないんだがな」
P「出来る限りで良い。ステージを、アイドルを楽しんでくれ」
P「俺はアイドルを楽しんでる舞が見たいんだ」
舞「……善処するわよ」
舞「行ってきます」
レッスンスタジオ
小鳥「『時代の寵児、日高舞誕生!』、『超新星、日高舞降臨』か……」
菜々「おはようございまーす!」
小鳥「おはよう、菜々ちゃん」
菜々「何読んでるんですか?」
小鳥「舞さんの事に書かれてる雑誌よ」
菜々「舞ちゃん、すごかったみたいですね」
小鳥「えぇ……あの日以降、事務所も大忙しみたいだし……」
菜々「どのテレビを見ても舞ちゃんの事ばっかりですもんね!」
菜々「お陰で舞ちゃんがすごく忙しくなっちゃって、ナナ達も会えなくて寂しいです……」
小鳥「仕方ないわよ。プロデューサーさんもこっちに手が回らなくなっちゃったみたいだし」
菜々「もうずーっとトレーナーさんからのレッスンしか受けてないですもんね……」
小鳥「そうね……」
菜々「会いたいなぁ……舞ちゃん……」
テレビ局
P「舞、次は35分後に歌番組だ」
舞「ちょっと休みたいんだけど」
P「5分が限界だな」
舞「……さすがの舞ちゃんでも壊れちゃいそう」
P「今日耐えてくれればなんとか明日は半日オフになるから、もうちょっとだけ頑張ってくれ」
舞「……はーい」
舞「ん」
P「なんだ、その手は」
舞「歩きたくないから引っ張って」
P「さすがに朝から曲録って、ドラマ出てと立て続けだったもんな」
P「よっと」
舞「きゃあっ!」
舞「な、なんで抱っこすんのよ!」
P「引っ張るよりこの方が早いだろ?」
P「それに、少しでも休む時間確保しないと本当に舞が死んじまう」
舞「ん……そうね……」
舞「じゃあ……このままで……」
◆
P(舞が頑張ってくれたお陰もあって、どうやら事務所の経営は持ち直したらしい)
P(……いや、持ち直したどころか大幅な黒字だ)
P(舞がテレビに出れば視聴率は歴代最高を叩きだし、ライブをやればチケットは瞬殺、CD出せばあっという間にミリオン。ビルが建つほどの売り上げだ)
P(ついに日高舞はアイドル界の生ける伝説とまで言われるようになった)
P(でも……舞の活躍と比例するように、舞自身がどんどんと疲弊しているのが目に見えて分かる)
P(ファンの前では決して見せはしないが、相当無理をしている)
P(事務所のお偉方は舞さえ居れば大丈夫と信じて疑っていないが、こんな無茶なやり方は遅かれ早かれ限界が来る)
P(……今の舞がアイドルを続ける理由はあの二人と一緒にアイドルをやりたいからなのだろうが、あの二人がデビューする前に舞が壊れてしまう)
P(なんとか……なんとかしないと……)
1年後 レッスンスタジオ
小鳥「……本気なの?」
菜々「はい……」
小鳥「舞さんには?」
菜々「言ってません」
菜々「舞ちゃんが忙しすぎて会うことも電話すらも繋がりません……」
小鳥「プロデューサーさん……も同じね……」
菜々「はい……」
小鳥「夢を諦めちゃっていいの?」
菜々「諦めたくはないですよ」
菜々「でも、一年間アイドル候補生をやらせてもらってわかりました」
菜々「ナナにはアイドルをやれる才能がないんだって」
小鳥「菜々ちゃん……」
菜々「ナナには舞ちゃんみたいな圧倒的な才能も、小鳥ちゃんみたいな歌の才能もありません」
菜々「ただ、人一倍努力して、練習して、なんとかやってたんです」
菜々「でも、そんな人は世の中にたくさん居て、そんな人では輝くお星さまにはなれないんです」
菜々「だから……ナナはアイドルになるのを辞めます」
小鳥「もうちょっとだけ……頑張ってみない?」
菜々「ごめんなさい……」
菜々「ナナも来年には中学生です」
菜々「夢を諦めるには丁度良いかなって……」
小鳥「菜々ちゃん……」
菜々「小鳥ちゃん。今までありがとうございました」
菜々「ナナの分も、アイドル頑張ってくださいね!」
小鳥「えぇ……! 必ずアイドルになって舞さんに追いついてみせるわ!」
菜々「はいっ!」
数日後 車内
舞「……」
P「……顔が怖いけど、大丈夫か」
舞「どうして菜々が辞めなきゃいけなかったのよ」
P「菜々ちゃんが決めた事だからな……」
舞「私は待ってるって言ったのに、どうして菜々は辞めたのよ」
P「……」
舞「ねぇ、どうして?」
舞「私、なんのためにアイドルやってるの?」
P「舞……」
舞「私の目の前には誰も居ない。隣にも誰も居ない」
舞「でも、後ろを見ればはるか向こうにたくさんの人が居る」
舞「アイドル、テレビ局の人、音楽関係者、その他にもたくさん、たくさん」
舞「ねぇ、本当に私はアイドルを楽しめるの?」
舞「こんなにつまんないのに、本当に私はアイドルを楽しめるの?」
P「……すまない」
舞「……あんたに当たっても仕方ないのは分かってる。でも……」
P「舞はまだ子供なんだ。抱えきれなくても仕方がないよ」
舞「……っ」
P「それにな、俺はずっと舞の近くに居るから。隣には立てなくても、すぐ近くにずっと居るから」
舞「うん……」
レッスンスタジオ
小鳥「え? ほ、本当にデビュー出来るんですか!?」
スタッフ「はい。音無さんならもう充分だろうって上からの判断です」
小鳥「ついに……! ついにアイドルになれるのね!」
スタッフ「ですが」
小鳥「はい?」
スタッフ「専属プロデューサーはつけられません」
小鳥「え……じゃあセルフプロデュースなんですか?」
スタッフ「いえ、とりあえずは高木さんと黒井さんが面倒を見てくれるますよ。片手間にはなりますが」
小鳥「高木さんと黒井さん……」
スタッフ「あれ? お会いしたことありませんでしたっけ? 日高さんのプロデューサーの先輩にあたる方々ですよ」
小鳥「そうなんですね。じゃあ、安心かな?」
スタッフ「お二人とも優秀な方ですから大丈夫ですよ」
スタッフ「では、私はこれで」
小鳥「あ、はい。お疲れ様です」
小鳥「やっと……やっとアイドルになれました」
小鳥「待っててくださいね。舞さん!」
事務所
舞「プロデューサー!」
P「ん? どうした?」
舞「小鳥がデビューしたって本当に!?」
P「あぁ、本当だ」
舞「くぅ~! やっとね! やっと一緒にアイドル出来るのね!」
P「……それは難しいかもしれん」
舞「なんで?」
P「舞はユニット組めないんだよ」
舞「初耳だけど、どうしてよ」
P「舞のランクが上過ぎる」
舞「私のランク?」
P「あぁ、小鳥ちゃんはデビューしたばかりでFランクだが、舞はもうAランクだ」
P「一緒にユニットを組むと小鳥ちゃんが霞んじまうんだ」
P「だから、小鳥ちゃんが舞に追いつくまではユニットは組めない」
舞「何よそれ……やっと小鳥がデビューしたのにまだ待たなきゃいけないの……?」
P「小鳥ちゃんのプロデュースは高木先輩と黒井先輩がやってくれてる」
P「だから、大丈夫だ。時間はかかるかも知れないけど、小鳥ちゃんならAランクまで上がってきてくれるよ」
P「それまで、楽しみに待とうじゃないか。ようやく舞が楽しめるアイドルをやれるんだから」
舞「うん……」
P「俺も一緒に待つからさ」
舞「……うん」
◆
P(でも、そんな舞の願いが叶うことはついになかった)
P(舞がアイドルとして凄すぎた)
P(小鳥ちゃんがデビューして間もなく、舞は未だに誰もなった事のないSランクアイドルになった。誰も辿り着いたことのない頂点に登りつめてしまった)
P(そして……時代が、日高舞以外のアイドルの存在を認めないかのように、音無小鳥はデビューしてからわずかの間に引退してしまった)
P(日高舞一人を残して)
小鳥引退からしばらくのち フェス会場 控室
舞「……」
瞳子「お、おはようございます! 今日ご一緒させていただく服部瞳子と申します!」
舞「なに」
瞳子「い、いえ……ただご挨拶をと……」
P「ごめんな。舞、ちょっと機嫌が悪くて」
瞳子「えっと……大丈夫、ですか……?」
舞「余計なお世話よ」
舞「というか、早く戻った方がいいんじゃない? そろそろ本番でしょ?」
瞳子「あ、はい! では、失礼します」
P「舞……せっかく挨拶してきてくれたんだからもうちょっと穏やかにだな……」
舞「穏やかにしたところでどうせ本番が始まったら縮み上がるわよ」
P「それは……そうだが」
舞「あの娘が挨拶に来ようが来まいが、私がやる事は変わらない」
舞「このフェスで相手を徹底的に蹴散らす。そうでしょう?」
P「……なぁ、舞」
舞「なに」
P「アイドル、楽しくないだろ?」
舞「そうね。最高につまらないわ」
P「……引退するか?」
舞「……引退?」
P「事務所は絶対に許してくれんだろうけどな」
P「でも、今の舞を見てるとこれ以上アイドル続けろなんて言えないんだ」
舞「引退して、何か変わるの?」
P「……」
舞「菜々は戻ってくるの? 小鳥は戻ってくるの?」
P「……」
舞「私が引退すればこの腐った芸能界は変わるの?」
P「……」
舞「何一つ変わらないわよ。私が引退したくらいじゃ、何も」
P「……ならぶっ壊すか。こんな世界」
舞「え?」
P「舞と俺ならやれる。こんな窮屈でつまらない世界、ぶっ壊してしまおう」
P「創り変えるのは大変かもしれんが、ぶっ壊しつくして何もないところになら、新しく何かが作れるんじゃないかな」
舞「私が創れるの?」
P「舞と俺には無理だろうな」
P「でも、高木先輩と黒井先輩はまだこの世界を変えるのを諦めていない」
P「だから、後は二人に託して、俺達はこの時代の最後のプロデューサーとアイドルになろう」
P「そうすれば、遠くない未来に舞がまたアイドルをやりたいって思えるような世界が出来るかもしれない」
舞「その未来には私の隣を歩くアイドルは居るのかしら」
P「舞に並び立つアイドルか。なかなか難しいかもしれないが、高木先輩と黒井先輩ならやってくれるさ」
P「だから、期待してみないか?」
舞「……そうね。それも良いかも知れないわ」
P「じゃあ、まずは手始めに、このフェスをぶっ壊そう」
P「舞以外の他のアイドルすべてを蹴散らして、立っているのが舞一人だけになるように」
舞「……面白そうね。いいじゃない。久々に燃えてきたわよ」
P「よしっ! じゃあ、行って来い!」
舞「えぇ!」
◆
舞(あの時のプロデューサーの言葉の通り、私はあのフェスで参加者すべてを完膚なきまでに蹴散らした)
舞(まるでこの腐った世界を作った連中への見せしめかのように)
舞(二度と立ち上がろうと思えなくなるまでに、蹴散らしてみせた)
舞(あの時に見た、他のアイドルの怯えた目は生涯忘れることはないだろう)
夜
P「お疲れ様」
舞「えぇ。ちょっと疲れたわね」
P「これからが大変だぞ」
舞「大丈夫よ。プロデューサーが一緒なんだから」
舞「……でも、今日だけは甘えても良い?」
舞「明日から頑張るから……」
P「あぁ。辛い役目を負わせてごめんな」
舞「うん……」
数か月後 事務所
舞(なんか最近気持ち悪い……)
P「あ、舞。良いところに」
舞「なに?」
P「新曲の候補が出来たぞ」
舞「ふーん。デモテープは?」
P「はいよ」
舞「ありがと」
舞「えっと……『ALIVE』って言うのね」
P「今までの舞とはちょっと違う感じの曲になるな」
舞「ふーん……」
舞(命について……かしら。んー……)
P「お、おい。舞! 大丈夫か!?」
舞「え?」
P「だってお前、急に泣いて……」
舞「え……?」
舞(プロデューサーに言われて初めて私が泣いている事に気付いた)
舞(涙が次々に溢れてくる)
舞「あ……あれ……?」
P「ま、舞……!」
舞「だい……大丈夫だから……!」
舞「ちょっとだけ、ちょっとだけ待って」
P「あ、あぁ……」
舞「ふぅ……すぅー、はぁー……」
舞「よし、大丈夫よ」
P「本当か……?」
舞「えぇ、本当」
P「そうか……なら良いんだが」
舞「ねぇ、プロデューサー」
P「なんだ?」
舞「良い曲ね。これ」
P「だな」
舞「うん。すごく気に入ったわよ」
P「気に入ってくれたのなら何よりだな」
P「でも、この曲は舞みたいな子供が歌うにはちょっと重すぎるかとも思うんだよな」
舞「これが良い。これが気に入ったわ。歌わせて」
P「他のは聴かなくていいのか?」
舞「うん。私はこれが良い。この『ALIVE』が」
P「そっか。じゃあ、この曲で行くように進めるよ」
舞「えぇ、お願い」
舞「プロデューサー」
P「なんだ?」
舞「私、まだやらなきゃ駄目かしら」
P「……もう充分かもな」
舞「そう、よね……。もう充分やったわよね」
P「じゃあ、前から言ってたように引退するか」
舞「『ALIVE』が私の最後の曲よ」
舞「私の……アイドルの集大成」
P「あぁ。今までお疲れ様」
舞「うん」
P「さて、それじゃあどうやって舞を引退させるか考えないとなー……」
P「簡単にはいかんだろうなぁ……上の連中説得して……やる事多そうだ」
舞「その辺に関しては大丈夫よ」
P「ん? なんでだ?」
舞「ちょっとまだ確証が持てないから言えないけど、多分確実に引退出来る」
P「ふむ。舞がそこまで言うなら信じてみるか」
舞「えぇ。任せておいて」
歌番組
司会「はい、日高舞さんで『ALIVE』でしたー」
舞「どうもー」
司会「いやぁ、すごい曲を歌いこなせてますねぇ。さすが日高舞ちゃんだ!」
舞「それほどでもないわよ。舞ちゃんなら当然ね!」
司会「さすがですね! さて、じゃあ次の曲は……」
舞「あ、ちょっとだけ良い?」
司会「はい?」
舞「これって生放送よね?」
司会「え? そうですけど、それがどうかしました?」
舞「ちょっとマイク貸して」
司会「はぁ、どうぞ」
舞「あー、テレビの前の皆さま、どうも日高舞です」
舞「『ALIVE』お聴きくださりありがとうございます」
舞「突然ですが、私は今日で引退します!」
司会(!?)
P「なっ!?」
偉い人「!?」
偉い人「お、おい! 日高君は何を言ってるんだ!」
P「え、いや、ちょ!?」
司会「あ、あははー。面白い冗談だね!」
舞「冗談じゃないわよ。引退するの」
司会「や、やだなぁ、どうしてまた?」
舞「んー、アイドルやるのがつまんなくなったのも原因の一つだけど」
司会「けど?」
舞「子供が出来たの」
P「!?」
偉い人「な……なっ……、なにぃ!?」
舞「『ALIVE』良い曲よね。初めて聞いた時感動して涙が出てきたわ」
舞「良い曲ならたくさんある。それこそ私もたくさん歌わせてもらった」
舞「私に歌いこなせない曲なんてないけど、この『ALIVE』だけは別」
舞「アイドル日高舞ではこの曲は歌いこなせない」
舞「母親だから歌いこなせるのよ」
偉い人「お、おい! 良いから早く止めろ!」
P「待ってください! 最後まで舞にやらせてやってください!」
偉い人「えぇい! 知るか! 子供が出来ただと!? そんな事でせっかくの金の生る木を捨てられるか!」
P「いいから! 黙って最後まで舞の話を聞けってんだよ!」
司会「あ……あはは……えっと……」
舞「今頃、裏はてんやわんやでしょうね。でも、もうどうにもならないわよ」
舞「生放送で引退と妊娠を宣言したんだから、いくらお偉いさまでももみ消しは出来ない」
舞「アイドル日高舞の伝説は今日で終わりよ」
舞「ま、そういう事だから、帰るわ。じゃね~」
偉い人「貴様か!? 貴様だな!? うちの商品を傷モノにしやがって!」
P「あぁ! そうだよ! 俺だよ! 悪いかボケ!」
舞「ちょっとー、何してんのよ。帰るわよ」
偉い人「おい! 日高! 今まで目をかけてやった恩を忘れたのか!」
舞「は? 恩?」
舞「恩なんて受けた覚えはないわよ」
舞「私のおかげでこの事務所持ち直したんでしょ?」
舞「それに、あんたも甘い汁たくさん吸えたんでしょうし、むしろ感謝してもらいたいわ」
偉い人「き、貴様……!」
舞「さ、そんなとこで寝てないで帰るわよ」
P「あ、ああ……」
舞「あら、ずいぶんワイルドな顔になったじゃない。結構すてきね」
P「さ、触んな! いてぇ!」
偉い人「これで終わると思うなよ!」
舞「それがね、終わるのよ。これで」
偉い人「なにぃ……!?」
舞「今頃、この事務所の色々後ろ暗い部分が世間に公表されてるわよ」
P「!?」
舞「高木さんと黒井さんが協力してくれたの」
P「先輩たちが?」
舞「えぇ。だから、この事務所はお終い。というか、そこのハゲデブがお終い」
偉い人「高木と黒井だと……!?」
舞「ま、そういうわけだから。じゃあね」
舞「さ、帰るわよ」
P「お、おい! 舞!」
帰路
P「なぁ、舞」
舞「んー?」
P「子供が出来たって本当か?」
舞「えぇ。本当」
P「……そうかぁ」
舞「嫌だった?」
P「まさか。舞との子供なら嬉しいよ」
舞「今更だけど、あなたはこれからどうする?」
P「そうだなぁ……まずは就職活動かな。妻と子供を養うためにも」
舞「プロデューサーは続けないの?」
P「担当に手を出すプロデューサーなんてどこも雇ってくれないよ」
舞「そうかしら? 高木さんと黒井さんなら雇ってくれるんじゃない?」
P「かもしれないけど、そこに舞は居ないだろ?」
P「舞をプロデュース出来ないならプロデューサーなんてやっててもつまらんからな」
舞「ふふっ。そうかもね」
P「なぁ、舞」
舞「なに?」
P「アイドル、楽しかったか?」
舞「ぜんぜん。それはもうつまんなかったわよ」
舞「でも……菜々や小鳥に、それにあなたに出会えたからアイドルになって良かったわ」
P「そっか」
舞「あなたは?」
P「俺も舞に出会えたから、プロデューサーで良かったよ」
舞「うん! それでよろしい!」
舞「じゃあ帰りましょうか。これから色々大変でしょうし」
P「ニートになったのにまだ休めそうにないなぁ」
舞「当然でしょ! 舞ちゃんが一緒なんだから休む暇なんてあげないわよ!」
P「ははっ。それは楽しみだ」
舞「ねぇ」
P「んー?」
舞「これからはプロデューサーとアイドルじゃなくて、夫婦としてよろしくね!」
P「あぁ!」
End
以上です。
私が一年ちょっと前に最初に書いたSSは舞さんの話でした。
あの時は876を、DSを知ってくれる人が少しでも増えてくれればいいなって思って書きました。
まさか、7年越しにこうしてまた876が日の目を見るとは思ってもいませんでした。
私は嬉しくて思わず泣きそうになりました。
愛ちゃんと舞さんのデュオで泣きましたが。
舞さんは自分のライバルが居なくてつまらないからアイドルを辞めています。
きっと、アイドルだった時の舞さんはすごく辛かったんじゃないかなって。
だから、ようやく愛ちゃんや、シンデレラや765のアイドルと戦えてすごく幸せなんだと思います。
そんな幸せそうな舞さんを見れて私は幸せです。
では、かなり無茶苦茶な話になってしまいましたが、お読み頂ければ幸いです。依頼出してきます。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません