冬にアニメ化するChaos;Child とのクロスですが、俺ガイルさえ知っていれば問題なく読めると思います。名ありキャラは俺ガイルオンリーです。
アニメ放映前であるChaos;Child のネタバレは避けますので、知らない人もぜひ読んでみてください。
それと、SS書くの初めてなので何かおかしな点があれば教えていただけると嬉しいです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480144149
雪乃「…何かしらこのメール」
結衣「どーしたの?」
いろは「どーしたんですかー?
雪乃「大したことではないわ。ただ、どういえばいいのか分からないのだけれど、気持ち悪くて」
いろは「…先輩」
八幡「いや何で俺が睨まれんだよ。気持ち悪いイコール俺なの? 言っとくがな、俺は自分から仕事を増や」
雪乃「比企谷くんの気持ち悪さはどうでもいいのだけれど」
八幡「すような真似はしないって最後まで言わせろよ」
雪乃「……」
八幡「お悩み相談メールだよな?」
雪乃「ええ」
結衣「どれどれ?」
いろは「…うわ、なんですかこれ」
八幡「俺も見たほうがいいか?」
雪乃「こっちみんな」
八幡「はいよ」
いろは「先輩違います。雪ノ下先輩はメールを読んだだけです」
八幡「は?」
雪乃「こっちみんな、音漏れたん、回転DEAD、ごっつぁんDEATH、上手に焼けました、非実在青少女。これがメールに書かれていた本文よ」
結衣「…意味わかんない。あたし頭悪い?」
いろは「大丈夫です結衣先輩。私も意味不明ですから」
雪乃「そうね。これに関しては由比ヶ浜さんの頭の悪さは関係ないわ」
結衣「何気にひどい!?」
八幡「で、それのどこが気持ち悪いんだよ。確かに意味はわからんが」
雪乃「…画像が添付されているの」
八幡「画像?」
雪乃「…」
いろは「っ…」
結衣「ヒッキーも見てみればわかるんじゃない? なんかお相撲さんの顔みたいな画像なんだけど」
八幡「相撲…?」
その画像を見た途端、強烈な吐き気と目眩が俺を襲ってきた。
八幡「っ…なんだこれ」
いろは「…」
結衣「ヒッキー大丈夫!?」
八幡「ああ。つーかこれ、どっかで見たことあるな」
確かあれは…
八幡「そうだ、力士シールだ」
結衣「力士シール?」
八幡「何年か前にそこら中に貼られて一時期話題になったらしい。ネットで見た記憶がある」
結衣「へぇ~」
雪乃「…でも、どうしてそんなものが添付されているのかしら」
八幡「さあな」
結衣「なんでだろうね」
いろは「…あの、先輩。今日はもう帰ってもいいですか?」
八幡「帰るも何も、お前は部員じゃないわけだが」
いろは「それはそうなんですけど…」
八幡「?」
いろは「なんだかすごく気分が悪くて、家でゆっくり休みたいというか」
八幡「…本気で調子悪そうだな」
結衣「いろはちゃん大丈夫? 送っていこうか?」
いろは「いえ、そこまではしなくて大丈夫、だと思います」
雪乃「大丈夫という顔をしていないわ。少し早いけれど、今日はもう終わりにしましょう」
八幡「んじゃ、帰るか。ほれ」
いろは「…?」
八幡「気分悪いんだろ。荷物持ってやるからよこせ」
いろは「なんですかそれ口説いてるんですか弱ってる女の子に優しくすれば落とせるとか思ってるなら大間違いですごめんなさい」
八幡「お、おう。つーかお前元気じゃねーか」
いろは「…あれ?言われてみれば」
雪乃「はぁ。とりあえず、今日はもう帰りましょう」
帰り道
八幡「なんか視線を感じるな…」
気のせいか?
次の日。奉仕部部室。
…に、行く途中
いろは「せーんぱい」
八幡「なんか用か」
いろは「雑よ…生徒会のお仕事を手伝ってほしいんですけどー」
八幡「いや言い直さなくていいけどね。今日はあれだ、妹の調子が悪くてな」
いろは「嘘ついてもわかりますよ?」
八幡「…わかったよ。とりあえず部活に顔出してからでいいか?」
いろは「はい。逃げないでくださいね。私、先輩のことちゃーんと待ってますから」
八幡「はいはい、あざといあざとい」
部室に入ると、雪ノ下と由比ヶ浜がはっとこちらを見た。
八幡「…なんかあったのか?」
結衣「……」
雪乃「昨日のメールについて、由比ヶ浜さんが友達に聞いてくれたそうなのだけれど…」
八幡「何かわかったのか?」
結衣「…殺人事件、だって」
八幡「は? 殺人事件?」
雪乃「こっちみんなと音漏れたん。その2つは最近起きた殺人事件に対するネット上の俗称らしいわ」
結衣「隼人くんが言ってたから、たぶん」
雪乃「ネットでも調べてみたけれど、間違いなさそうね。どちらもかなりグロテスクな死に方をしている。趣味がいいとは言えないわね」
今気がついた。
グロ展開にするつもりはなくていってもせいぜいR15だと思ってたけど、原作的に立てる場所間違えたかもしれない…
大丈夫かな
結衣「あとね、この事件なんか変なの」
八幡「変?」
雪乃「被害者の二人は、超能力者と呼ばれていたらしいのよ」
八幡「は? 超能力者?」
雪乃「あくまでも噂、なのだけれどね」
八幡「…まだあと4つくらいあったろ。回転DEAD、ごっつぁんDEATH、あと二つなんだったっけ」
雪乃「美味しく焼けましたと非実在青少女よ。その4つに関しては調べても出てこなかったわ」
結衣「やっぱりその4つも殺人事件ってことなのかな」
雪乃「それなら、ネット上に多少の情報が出ていてもおかしくないでしょう」
八幡「これから起きるとか」
結衣「へ、変なこと言わないでよ!」
八幡「…悪い。怖がらせたか」
雪乃「今回のことに関しては無視した方が良さそうね」
八幡「だな。殺人事件なんて俺らみたいな高校生が関わるべきものじゃない」
結衣「私も賛成かな。超能力者とかよくわかんないし。そうだ、おやつ食べようよ」
八幡「あ、いや悪い。今日は一色に手伝い頼まれててな」
結衣「そっか。ならしょうがないね」
雪乃「くれぐれも、一色さんに変なことはしないように」
八幡「しねーよ」
事件の名前間違えた
美味しく焼けました
じゃなくて
上手に焼けました
だった。
他にもミスありそうなので色々確認してきます
生徒会室
いろは「先輩遅いです!」
八幡「そりゃ悪かったな。で、手伝いってなんだ。見たところ他の生徒会役員はいないみたいだが」
いろは「あー…それはですね…先に帰ってもらったというか」
八幡「よし。帰るか」
いろは「なんでですか!?ちょっと待ってくださいよ!」
八幡「いや、仕事がなければ帰るだろ普通」
いろは「そうじゃなくて。今日は先輩に相談したいことがあったんです」
八幡「相談?」
いろは「…実は私、ストーカーされてるっぽいんですよね」
八幡「ストーカー?」
いろは「昨日の帰り道、誰かに見られている気がしてたんですけど、今日の登校中もやっぱり同じような感じがして」
八幡(一色も? 俺と同じじゃねーか)
いろは「それで、今朝すごく変な人を見たんです。変、というか怖い人なんですけど」
八幡「それって雪ノ下くらい?」
いろは「茶化さないでください! 余裕で雪ノ下先輩より怖かったです」
八幡「…それは相当だな」
いろは「髪がピンクの長髪で、片足を引きずった女の人でした」
八幡「女?」
いろは「はい、たぶん。前髪で顔のほとんどが隠れてましたし、見たのは一瞬なので確証は無いんですけど」
八幡「女のストーカー、ね」
いろは「先輩、信じてくれてますか?」
八幡「一応な。視線を感じるってのは心当たりもあるし」
いろは「心当たり?」
八幡「昨日の帰りにちょっとな。気のせいかと思ってたんだが、何かあるのかもしれん」
いろは「……」
八幡「それと、昨日奉仕部に来たメール。あれ、最初の2つは殺人事件の俗称だった。ネットじゃ話題になってるらしい」
いろは「殺人事件…」
八幡「おそらくいたずらだろうが、物騒なもんだよな」
いろは「そうですね…」
八幡「まあ、なんだ。そんな心配すんな。ストーカーの件は雪ノ下や由比ヶ浜たちにも声かけて複数人で登下校すればいい。そうすりゃ手出しはできねーだろ」
いろは「…あの二人にも話すんですか?」
八幡「その方が良くないか?」
いろは「あまり人に知られたい話じゃありませんし、怖がらせない方がいいかなとも思ったんですけど」
八幡「あーそれもそうか。でもそれだとお前一人だぞ」
いろは「何言ってるんですか? 先輩がいるじゃないですか」
八幡「やっぱりそうなるのか」
いろは「…嫌、ですか?」
八幡「嫌っつーか、ほら、友達に噂されると恥ずかしいし」
いろは「先輩友達いるんですか?」
八幡「……」
帰り道
八幡「大丈夫か、一色」
いろは「なんとか。でも、やっぱり見られてるみたいで気分は悪いです」
八幡「それなんだけどな、もしかしてこいつのせいじゃねーか?」
俺は電柱に貼られたシールを指差した。
いろは「あ、これ…」
八幡「力士シールだ。昨日部室で見た画像と同じ」
いろは「確かに、これ見てると気持ち悪くなるんですよね。全身の力が抜けるというか」
八幡「同感だ。一体誰が貼ってるんだか知らんが、同じのをさっきからいくつか見かけてる。お前の言ってた女はともかくとして、視線はたぶんこの目のせいだな」
いろは「そうかもですね」
いろは「……!?」
八幡「どうした?」
いろは「先輩、あれ…」
八幡「…ピンクの、長髪」
???「みーつけた」
今日中に終わる気がしないから酉つけてみたつもり
補足
ピンクの髪の謎の女はカオチャのキャラです。このSSでは???と表記します。
あと受験勉強しながらなので書くのちょっと遅いかもです。プロットは完成しているので時間さえあれば完結はできるはず。
謎の女がニヤリと口角を釣り上げる。
それと同時に道路が赤く燃え上がった。
いろは「きゃっ!」
八幡「うわっ、なんだこれ」
炎。
外見も、熱も、疑い用もなく本物の炎。
それが、目の前にいきなり現れた。
女は片足を引きずりながら近づいてくる。
八幡「逃げるぞ、走れ一色」
いろは「は、はいっ」
???「ーーーー」
女が何かを呟いた。
それと同時に、俺達の進行方向にまた炎が出現する。
赤く、高く、燃え上がる。
八幡「…どうなってんだよ、これ」
いろは「先輩…」
一色が俺の手を強く握る。
怖くて震えているようだった。
状況が理解できない。
こんなの普通じゃない。
『あとね、この事件なんか変なの』
『被害者の二人は、超能力者だと呼ばれていたらしいのよ』
部室で聞いた言葉が脳裏を過ぎる。
超能力者。
まさか、本当に?
八幡「こいつ、発火能力者なのか…?」
言っているうちにまた火柱が上がった。
このままではまずい。
幸い、女は片足を引きずっているため歩くのはそう早くなさそうだ。
…全力で走れば逃げ切れるかもしれない。
八幡「一色、こっちだ」
いろは「っ…はい」
どれだけ走っただろうか。
普段なら来ないようなところまで来てしまった。
俺のホームグラウンドである千葉にも知らない場所はあるのだと思い知る。
要するに道に迷っていた。
目の前にある建物を見上げる。
八幡「ここは…」
いろは「ラブホテル…?」
八幡「待て一色。これは事故だ」
いろは「…わかってますよ、先輩が嘘をついていないことは。私のために必死になってくれてるのが伝わってきましたし」
一色の視線を追うと、俺達はまだ手を繋いだままだった。
八幡「おう…悪い」
いろは「なんで謝るんですか?」
八幡「つい条件反射で」
いろは「さっきの先輩、結構かっこよかったですよ」
八幡「……あざとい」
いろは「あざとくないです!」
いろは「入ってみますか?ここ」
八幡「ふぁ!? お前何言って」
いろは「ふふっ、冗談ですよ」
その時。
後ろから足音が聞こえてきた。
片足を引きずるような、特徴的な足音。
誰のものなのかは確認するまでも無い。
息を呑む。
一色も気づいたようだ。
八幡「入るしかないかもな」
いろは「隠れるってことですか?」
八幡「ああ。この辺の地形わからんし、闇雲に動き回るよりいいだろ」
いろは「…わかりました」
ぎゅっと、一色は緊張気味に俺の手を握った。
ホテル内
八幡「無人フロントか…助かったな」
やむを得ないとはいえ、制服でこんなところに来たことがバレたら色々とまずい。
いろは「これからどうするんですか?」
八幡「個室に入って鍵を閉めればとりあえず安全だろ。適当に時間が経ったら出ていけばいい」
いろは「なるほど。ではそうしましょう」
適当に開いていた部屋に入った。
八幡「ん、電気はつけっぱなしか」
いろは「誰かがいるってことはないですよね?」
八幡「すいませーん、誰かいますかー」
いろは「ちょ、先輩声大きいです。外まで聞こえたらどうするんですか!」
八幡「…返事なし。やっぱ電気消し忘れただけみたいだな」
いろは「はぁ…そうみたいですね」
八幡「…なあ一色、お前奉仕部に届いたあのメールの内容覚えてるか?」
いろは「2つが殺人事件の俗称だったってやつですか?」
八幡「それだ。その5つ目な、上手に焼けましたっていうんだよ」
いろは「!? 焼けましたって、もしかして」
焼ける。
それは今俺達に迫っている危機そのものだ。
八幡「割りと笑えない話だよな」
いろは「割りとっていうかまったく笑えませんけど!?」
八幡「次の被害者は俺達かもしれない」
いろは「そんな…」
可能性は高い。
そしてそれと同時に、別の仮説も浮かび上がる。
超能力者が被害者と言われる2つの事件。
そして今度は犯人が超能力者。
見過ごすには大きすぎる共通点だ。
他の2つの事件もあの女が犯人なのかもしれない。
だとすると……
八幡「一色、変なこと聞いてもいいか?」
いろは「なんですか?」
八幡「お前、もしかして…」
と、ちょうどそのタイミングでスマホが鳴った。
八幡「ったく、誰だよこんな時に。…もしもし?」
陽乃『あ、比企谷くん? ひゃっはろー』
八幡「出るんじゃなかったです」
陽乃『相変わらず酷いなー君は。せっかく美人なお姉さんが電話してあげてるのに』
八幡「電話じゃ顔は見えないんで」
陽乃『ねぇ、比企谷くん。今どこ?』
八幡「どこって……家、ですけど」
陽乃『へぇ』
八幡(嫌な予感がする)
陽乃『ところで、比企谷くんがすごいところに入っていくの見ちゃったんだー。雪乃ちゃんに言っちゃおうかなー』
八幡「な、あんたまさか」
部屋の奥に向かい、窓の外を見る。
そこには下からこちらへ向けて手を振る雪ノ下陽乃がいた。
八幡「あの、これには深いわけがあってですね…」
そこまで言って、それに気がつく。
部屋に設置されたベッド。
どうやら回転ベッドのようだ。
ゆっくりと回転している。
明かりがついているおかげで、カーテンに影ができていた。
まるで、人間が糸に絡まって固定されているかのような影が。
思わず、スマホを落としてしまう。
いろは「先輩?」
一色が隣まで来ていた。
ベッドは回転を続ける。
それに合わせて人影も回転する。
何かがミシミシと軋む音。
糸は人影の手足、そして首に絡まっているように見える。
八幡「…まずい」
気づいてしまった。
一つ目の事件がこっちみんな。
二つ目の事件が音漏れたん。
仮に、事件がメールに書かれた順番通りに起きるとすれば。
次の事件は上手に焼けましたじゃない。
3つめの事件の名前は…
回転DEADだ
八幡「一色、ここから出るぞ!」
いろは「先輩っ!ドアが!」
焦った声音で一色が叫ぶ。
八幡「ドアがどうした」
いろは「開かないんです! ピクリとも動きませんっ!」
八幡「っ…そこ変われ」
一色に変わってドアを開けようとする。
しかし、ドアはピクリとも動かない。
八幡「…何で。さっきはちゃんと開いただろ」
ベッドの方からは、ミシミシと何かが軋む音。
ガチャガチャと強引に開けようとするも、やはりドアは開かない。
そしてー。
何かが破裂する音がした。
ぴちゃりと水滴が跳ねる音。
ゴロリと何かが転がる音。
ベッドの方を向く気にはなれなかった。
コン、コンコン、コン
いろは「ひゃっ!」
突然ドアをノックする音が聞こえて、一色が悲鳴をあげる。
コン、コンコン、コン
八幡「………誰、だ…?」
コン、コンコン、コン
カチャ…
陽乃「あれ、もしかして鍵開いてる? おーい、比企谷くん」
ドアを開けて現れたのは雪ノ下陽乃だった。
八幡「助かった…のか?」
この人の顔を見て安心するのは初めてだ。
俺と一色は雪ノ下さんに事情を説明した。
すると警察からの事情聴取などは雪ノ下さんが代わりに受けてくれることになった。
警察に超能力者がどうとかって話をしても信じてもらえる保証はないし、そうなると未成年がラブホにいたことも問題になるからだ。
異常な状況下だったからか、雪ノ下さんは普段より優しかった。
案外友達いるかもしれないな、あの人。
今日はここまでです。
需要ないのかなと思いつつも、エタるのは嫌なので完結までは頑張って書きます。
しかし今は受験生なのでこれから勉強をせねばなりません。
なんとか時間作ってまた来ます。
夜 比企谷家
八幡「…ただいま」
小町「おっかえりーお兄ちゃん」
八幡「おう」
小町「今日は遅かったね。また奉仕部の活動?」
八幡「いや、そういうわけでもないんだが」
小町「となるとー、いろはさんかな?」
八幡「なんで分かるんだよエスパーかお前は」
小町「やだなぁ、お兄ちゃん知り合い少ないんだからこれくらい余裕だよ。奉仕部でもいろはさんでもなかったら、戸塚さんと中二さんしか残らないじゃん」
八幡「友達どころか知り合いが少ない認定されちゃったよ。いや、間違ってないからいいけどね?」
小町「あ、大志くんのお姉さん忘れてた」
八幡「大志なんてやつは知らん。川なんとかさんなら知ってるが川崎大志なんてやつは知らん」
小町「お兄ちゃん、それ名前言ってる…」
小町「それで? いろはさんとは何があったの?」
八幡「…別に。生徒会の手伝いでちょっとな」
小町「ほうほう、生徒会のお手伝いねぇ」
八幡「何ニヤニヤ考えてるのか知らんがお前の考えているようなことはなかったと思うぞ」
それでも、本当のことを知られるよりはマシか。
小町に心配かけるわけにはいかないからな。
あの後、俺は一色を家まで送ることになった。
いつあの女が出てくるかとビクビクしていたが、どうにか遭遇することなく一色を送り届けることができた。
震えながら俺の手を握っていた一色の姿が思い浮かぶ。
悪かったな、葉山じゃなくて。
俺ではさぞかし頼りなかったことだろう。
次の日 朝の教室
…仮説を立ててみよう。
昨日起きた事件は回転ベッドの上での殺人。
すなわち回転DEADだ。
こっちみんな、音漏れたん、回転DEAD。
これらの事例から、殺人があのメールに書かれた順番通りに起こると仮定してみる。
すると、次の事件はごっつぁんDEATH ということになる。
ごっつぁんといえば力士シールだ。
そんな事を考えながらスマホで力士シールの画像を眺めていると、吐き気が込み上げてきた。
戸塚「変な画像だね」
そう言いながら戸塚が俺のスマホを覗き込んでくる。
やばい近い戸塚かわいい略して戸塚わいいやばい近い。
何がやばいって俺の語彙力がやばい(やばい)
力士シールによる吐き気は戸塚の顔を見た途端に消え去っていた。
もしかして戸塚も能力者なんじゃね?
回復能力的な。
だとしたら戸塚も狙われちゃうかも!
俺がずっと傍にいて守らないと!
…そういえば、回転DEADの被害者は超能力者だったのだろうか。
材木座「ぬぅ…これは最近そこらに貼ってあるシールだな…我、これを見ると全身の力が抜けていくのだ…ばたり」
奇遇だな材木座。
俺もお前を見た途端吐き気が戻ってきた。
ていうか何でいんの?
クラス違うでしょ君。
戸塚「もう、大袈裟だなぁ材木座くんは」
そう言って戸塚は笑う。
大袈裟。
しかし、本当にそうなのだろうか。
一色も、俺も、このシールを見た途端に気分が悪くなった。
戸塚は何も感じないらしい。
一方で、材木座の反応は俺達に近い。
まだ何もわからないが、もしかしたら、それが事件に関わる重要な手がかりになるかもしれない。
…可能性は低いと思うが。
八幡「もう少し調べてみるか」
戸塚「八幡?」
戸塚「何か考え事?」
八幡「ちょっとな。大したことじゃないから安心してくれ」
戸塚「うん、わかった!」
かわいい。
材木座「…あの、我も仲間に入れてくださいませぬか?」
お前はまずその気持ち悪い話し方をやめろ。
放課後 奉仕部部室
結衣「ヒッキー聞いた? 今日いろはちゃん休んでるんだって」
八幡「いや、初耳だ」
結衣「やっぱり体調悪かったのかな…」
一色が休んだ理由は想像に難くない。
命を狙われた次の日に呑気に出かけるほうがどうかしてる。
俺も学校来たくなかったしな。
なんなら何もなくても学校休みたいまである。
しかし、一色が命を狙われているとなれば休んでいるわけにもいかない。
あれでも一応、かわいい後輩だ。
八幡「なあ雪ノ下。あのメール、というかそれに添付されてた画像って今開けるか?」
雪乃「力士シール、だったかしら」
八幡「それだ」
雪乃「いいけど、どうするつもり?」
八幡「…ちょっとな」
結衣「?」
雪乃「これよね」
八幡「そうそれだ」
結衣「変な画像だよね、これ」
八幡「お前らはこれどう思う?」
雪乃「……」
結衣「どうって?」
八幡「何かないのか。気持ち悪いとか」
結衣「あー。確かに気持ち悪いよね、この顔」
八幡「違う。画像が気持ち悪いんじゃなくて、見ていて気分が悪くならないか?」
雪乃「…昨日の一色さんのことを言っているの?」
八幡「…お前らはどうなんだ?」
結衣「そこまでではないかな。流石に体調悪くなったりはしないよ。ゆきのんはどう?」
雪乃「……そうね、比企谷くんの方が余程気持ち悪いわね」
八幡「さいですか」
二人は戸塚と同じパターン、か。
雪ノ下は画像を閉じた。
雪乃「ねえ、もしかして事件について調べているの…?」
八幡「…まあな」
雪乃「何故? このメールについては無視するという結論が出たはずでしょう?」
結衣「ゆきのん…?」
雪乃「メールそのものは悪戯の可能性が高いわ。けれど、書かれていたうち2つは実際に起きている殺人事件なのよ。関わったら危険だっていうのがわからない?」
八幡「それくらい俺にもわかってる」
雪乃「ならどうして?」
八幡「それは…」
雪ノ下は知らないことだが、昨日起きた第三の事件で一色は命を狙われている。
いや、狙われていたのは俺も同じか。
奉仕部にメールが届き、その次の日に奉仕部に縁ある人の周りで事件が起きた。
それはただの偶然だろうか。
どうもそんな風に楽観的な考え方はできそうにない。
それに、俺と一色は犯人の顔を見てしまっている。口封じに来る可能性は決して低いものじゃない。
一方的に殺されないためにも、情報収集は必要だ。
結衣「もしかして、今日いろはちゃんが休んだのと関係あるの?」
八幡「……いや、それは知らない」
結衣「そっか」
雪乃「……」
一色は自分がストーカーされていたことを知られたくないと言った。
二人には心配をかけたくないと言った。
その気持ちは尊重すべきものだろう。
幸か不幸か、狙われたのは俺と一色。
犯人の顔を見た俺達が生きている以上、殺す優先度は俺達の方が上のはず。
雪ノ下も由比ヶ浜も、まだいくらか安全なところにいる。
だから、巻込みたくない。
昇降口
俺がほとんど何も答えなかったことで会話は途切れ、今日の部活は解散となった。
雪ノ下が鍵を返しに行き、俺はそれを待つ由比ヶ浜に引き止められた。
結衣「ヒッキーさ、隠し事してるよね」
八幡「…そう見えるか?」
結衣「見えるよ」
八幡「そうか」
結衣「それってさ、あたしたちのため?」
八幡「……」
結衣「話したくないなら、話さなくてもいい。でもさ、独りで抱え込まないで」
八幡「…由比ヶ浜」
結衣「さっきのゆきのんもね、言い方キツくなっちゃったけど、ヒッキーの心配してたんだと思うよ」
八幡「それはわかってる」
結衣「そっか。…うん、わかってるなら、もう言わない」
八幡「……」
結衣「また、明日ね」
八幡「…ああ、じゃあな」
ありがとう由比ヶ浜。
ごめん。
心の中だけで、そう呟いた。
今日はここまでです。
SSは初めてと最初に書きましたが、ラノベもどきなら実は結構書いています。
台本形式、二次創作、地の文少なめの形式で書くのが初めてという意味で書いたつもりでした。
これからテストと模試が続くので次は少し間が空くかも知れませんが、気長に待ってくれると嬉しいです。
あでぃおすぐらっしあー、また来ます。
あ、一箇所ミスってた。
第三の事件は比企谷たち狙われてないですね。
第三の事件の前にってことにしておいてください。
すみません。
次の日 放課後
八幡「一色はいない、か」
俺はサッカー部の練習を覗きに来ていた。
理由の一つは、一色が登校しているかどうかを確認するため。
そしてもう一つは、葉山隼人に会うためだ。
サッカー部練習終了後
八幡「ちょっといいか」
葉山「!? …なんだ比企谷か。すまない、気がつかなかった。」
八幡「慣れてるからいい。それより頼みがある」
葉山「頼み? 珍しいな」
八幡「今日、一色来てないだろ?」
葉山「ああ、休みらしい。でもそれを言うなら、最近は生徒会の方が忙しいのかあまりこっちには来てないよ」
何やってんだあいつ。奉仕部来てる場合じゃねえだろ。
八幡「そうじゃなくてだな。昨日からあいつが休んでるのにはちょっとした理由があるんだ」
葉山「理由、か」
八幡「俺からは詳しいことは言えない。ただ、今あいつは結構傷ついてる、というか怯えてると思う」
葉山「怯えてる?」
八幡「ああ。だからお前から連絡して話聞いてやってくれないか?」
葉山「どうして俺が?」
八幡「適任だろ」
葉山「そうかな。そうでもないと思うが」
八幡「どういう意味だ?」
葉山「君は事情を知っているんだろう? なら、その役目は部外者の俺より君が引き受けるべきだと思っただけさ」
八幡「あいつはお前からの電話なら無条件で大喜びだと思うけどな」
葉山「俺はいろはの気持ちに応えることができなかった。辛い記憶を思い出させてしまう可能性だってある」
八幡「……」
葉山「それに、俺がそういうことをする人間じゃないのはいろはも気づいてるよ。だから、やっぱり俺より君の方が相応しい」
八幡「いや…あいつの連絡先知らねえからな、俺」
葉山「そうなのか?」
八幡「素で驚くなよ。ちょっと傷ついちゃうだろうが」
葉山「なら、俺が教えようか」
八幡「は?」
葉山「連絡先」
八幡「いや、本人に許可とってからだろそういうのは」
葉山「今回は特別だ。いろはだって、君に知られるのを嫌とは思わないさ」
八幡「待て。よく考えろ。お前の言葉を借りるなら、俺こそそういうことはしない人間だ。自分から誰かに連絡なんてとらないぞ」
葉山「それを言ったら今日のこの行動だって君らしくない。それだけの理由があるんだろ?」
八幡「…まあ、それなりには」
確かに、今の俺は俺らしくない。
けれど、命を狙われたなんてことがあれば、さすがの俺でも放っておけないと思ってしまうことはある。
その感情はきっと間違いじゃない。
八幡「とにかく、連絡先はいらん」
葉山「そうか」
八幡「……」
葉山「連絡することはできないけど、俺もいろはのことは心配だ。他に協力できることがあったら言ってくれ」
八幡「…なら、一ついいか」
葉山「早速来たな。何だ?」
八幡「とある殺人事件の犯人を捕まえたい。知恵を貸してほしい」
葉山「こっちみんなと音漏れたんか?」
八幡「さすが、察しがいいな」
葉山「結衣とその話をしたばかりだから」
そういえばこいつに聞いたって言ってたっけ。
葉山「それと今回のいろはの件、関係あるのか?」
八幡「……」
葉山「話してくれ。もしもそうなら俺も放っておけない」
八幡「…わかった」
一色には悪いが、葉山に先日の出来事を話した。
発火能力者に命を狙われているということ、殺人事件の現場に遭遇したこと。
奉仕部へのメールと事件の関係。
知っていることはだいたい話したと思う。
葉山「なるほどな。それで、君は外出して大丈夫なのか?」
八幡「大丈夫ではない。が、この方がいいはずだ」
次にあの女に遭遇したらまず殺されると見て間違いない。
だからリアルヒッキーになろうかとも考えた。
だがそれでは駄目なのだ。
あの女が目撃者である俺を本気で殺そうとするなら、家に引きこもっていることが安全だとは限らない。
最悪の場合小町も巻き添えだ。
だから、こちらから何か手を打つ必要がある。
葉山「わかった。とりあえず続きは帰りながら話そう。いくつか気になるところもあったし」
葉山は快く協力してくれた。
仲間にするなら葉山隼人ほど頼りになるやつもそういない。
俺もこいつ相手なら迷惑をかけることに気を使わなくていい。
ある意味、理想の関係といえる。
こうして、葉山との同盟が結成された。
海老名「!?」
三浦「はいはい、擬態しろし」
帰り道
葉山「さっきの話だけどさ、この事件、狙われているのは超能力者だったよな」
八幡「そうみたいだな」
葉山「でもそうすると…おかしくないか?」
八幡「俺もそこが気になってた」
あの夜、一色は確かに命を狙われていた。
もし、狙われるのが能力者だというのなら。
八幡「一色も何らかの能力者…の可能性がある」
葉山「じゃないと辻褄は合わない」
八幡「心当たりは?」
葉山「まったく。そもそも、能力者なんて話をこんなに真面目にする日が来るとは思っていなかったから」
八幡「そりゃ同感だ」
八幡「葉山。これ見てくれ」
スマホでその画像を表示する。
葉山「なんだ、これ。趣味が悪いな」
八幡「力士シールっていうんだ。で聞きたいんだが、お前これを見て気分が悪くなったりしないか?」
葉山「その言い方だと、体調が悪くならないかってことか?」
八幡「ああ」
葉山「そんな感じはしないな。ただの画像だし」
八幡「そうか」
葉山「それがどうかしたのか?」
八幡「奉仕部に送られてきたメールに添付されてた。そして、俺と一色はこれを見て気分が悪くなった」
葉山「結衣と雪ノ下さんは?」
八幡「なんともなさそうな感じだ」
葉山「他の人は?」
八幡「戸塚はなんともないみたいだったが、材木座は俺や一色と同じパターンだったな」
葉山「…見ただけで三人が体調不良になる画像か。興味深いな」
八幡「あのメールに添付されてたってことからしても無視はできないと思うんだが、何の意味があるのかはさっぱりでな。手がつけられん」
葉山「…ん? 比企谷、この音」
八幡「音?」
葉山「ああ。消防車みたいな」
言われてみれば、確かにサイレンの音が聞こえる。
八幡「火事か…いや、これは…」
ドクン。
心臓が一度大きく跳ねた。
消防車、火事、炎。
炎、炎、炎。
背中に嫌な汗が滲む。
頭の中にピンクの長髪がチラつく。
あの女が、近くにいるのか…?
八幡「葉山、一色に電話してくれ。無事を確かめたい」
葉山「…わかった」
その間、俺は周囲を警戒する。
今のところあの女の姿は見えない。
一色はすぐに電話に出た。
いろは『…もしもし。葉山先輩?』
スピーカーモードになっているのか、一色の声がこちらにまで聞こえる。
葉山「もしもし。いろは、今家か?」
いろは『…そうですけど、急にどうしたんですか?』
一色の声音にはいつものあざとさがなかった。
葉山が話し相手だというのに。
相当精神的に追い詰められているのだろう。
葉山「いろはに電話してくれって頼まれたんだ、比企谷に。理由はわからないけど」
いろは『……比企谷先輩に?』
葉山「ああ。電話変わるぞ」
八幡「は? おい葉山、今そんな事してる場合じゃ…」
葉山「いいから」
いろは『…先輩?』
八幡「……どうだ調子は」
いろは『別に普通です。それより先輩、もしかしてあの事葉山先輩に話したんですか?』
八幡「いや」
いろは『話したんですね』
八幡「…すまん」
いろは『はぁ、まあいいです。それで、どうして急に電話を?』
八幡「無事かどうか確かめたかっただけだ。学校休んでるみたいだったしな」
いろは『 』
八幡「どうした?」
いろは『え、あ、いえ、な何でもないです。学校も、ちゃんと行かなきゃって思ってますし』
八幡「そうか」
いろは『一応生徒会長ですからね、誰かさんのせいで』
八幡「誰のせいだろうな」
いろは『なんですかーその言い方。責任取ってくださいよー』
八幡「…一色、多分この会話葉山に聞こえてるぞ。通話モードがスピーカーになってる」
いろは『えっ!?』
葉山はこちらを向いて穏やかに笑っていた。
いろは『…とりあえずスピーカーやめてもらえますか?』
拗ねたような声で言う一色。
八幡「はいよ」
いろは『そしたら葉山先輩に代わってください』
八幡「了解」
言われた通り、スマホを葉山へと返す。
責任取ってください、か。
いつものあざとさが戻ってきたようで、少しだけ安心した。
しばらくして葉山と一色の通話が終わる。
葉山「比企谷、これ」
八幡「なんだ?」
葉山「いろはの連絡先。今、本人から教えていいって許可を取った」
八幡「……」
まあ、ここまでされたら仕方あるまい。
渋々と、俺は葉山に教えられたアドレスと電話番号を登録した。
材木座「は、八幡っ!」
葉山「…君は」
八幡「うわっ、なんだ材木座か脅かすなよ。って、何かいつもと違くないか?」
少し考えて、その違和感の正体に気づいた。
材木座がコートを着ていない。
さらに言うならば、材木座は焼け焦げたコートを両手に抱えていた。
八幡「おい材木座、お前それどうした!?」
材木座「あ、ああ。謎の、謎の女が、と、とと突然こっちを向いて。…我にはわかっていた、あの女が只者ではないことは。いやでもあれは流石に反則であろう? ふっ…まさか音に聞いたパイロキネシストが実在するとはな… で、これなんてエロゲ?」
くそっ、やっぱめんどくさいなこいつ。
緊張感がどっか行きそうになる。
八幡「落ち着け材木座。キャラがブレるにも程があんだろ。あの女ってもしかしてピンクの髪の女か?」
材木座「…もしや、八幡もあの女を知っているのか?」
八幡「知ってる。いや知ってるって程には知らないが見たことはある」
材木座「そうか。やはり八幡は我が相棒に相応しいな。まさかあんな恐ろしい女と日夜戦っていたとは」
八幡「いや戦ってねーよ。頼むからこんな時くらいそのキャラやめてくれ」
材木座「…くっ、仕方あるまい」
だからそのキャラやめろ出ていってんだろ!
誤字。
最後のとこ
やめろって言ってんだろ!
です。
葉山「その女はどうしたんだ? 逃げてきたんだろう?」
材木座「あ、はい。そうなんですけど、今はいない、みたい?」
ナイス葉山。
八幡「あの女は片足が悪いんだ。だから、いくら材木座でも本気出せば逃げ切れないってことはない」
葉山「そうだったのか」
材木座「剣豪将軍たる我の真の力に気づいて恐れをなしたか。それとも八幡と我という最強のコンビが揃ったために逃げ出したという可能性も」
八幡「ないな」
材木座「…ですよねー」
葉山「とりあえず、君は俺と比企谷で家まで送ろう。男三人で固まっていれば少しは安全だろう」
材木座を家まで送ったあと。
葉山「比企谷。実は一つ気づいたことがある」
八幡「?」
葉山「襲われている人間は、力士シールを見て気分が悪くなる人間なんじゃないか?」
八幡「…なるほど。それには気が付かなかった」
葉山の言う通り、現時点で襲われた俺と一色、そして材木座には力士シールを見て気分が悪くなったという共通点がある。
逆に、その共通点に当てはまらない人は狙われないのだとしたら、さっき材木座を追ってこなかったのは葉山がいたからだろうか。
八幡「だが仮にそうだとすると、能力者の話はどうなる? 被害者の共通点っていうならアレもそうだ」
葉山「俺の話はあくまで仮定だ。それに、能力者だけが襲われているという確証もないだろ。能力者と力士シール、どちらの共通点も偶然なのかもしれないし、2つに関連性があるのかもしれない」
八幡「……」
葉山「今はあらゆることを疑っても損にはならない。むしろ損をするつもりくらいで丁度いいと思う。命がかかっているんだから」
八幡「…そうだな」
八幡「じゃ、俺こっちだから」
葉山「家まで送っていこうか?」
八幡「は?」
アレか。
海老名さん大歓喜か。
いや駄目だ、俺には戸塚がいるのに!
…って、戸塚でも海老名さん大歓喜じゃねえか。
葉山「もしも力士シールで気分が悪くなる人が襲われているなら、君を一人にするのは危険だ」
八幡「…心配すんな。そのときはなんとかする」
葉山「なんとかって」
八幡「何かあったとき1人の方がやりやすいんだよ。そうやって生きてきたからな」
葉山「…わかった。気をつけろよ。事件のことはこっちでも調べてみる」
八幡「さんきゅ。じゃあな」
葉山「ああ、また明日」
今日はここまでです。
キリのいいとこまで頑張ってみたけど何故か男ばかりになってしまった。
しかも全然ストーリー進んでない。
明日は早く帰ってこれそうなので頑張って書きます。
そろそろディソード登場するといいなぁ。
比企谷家
八幡「さて、どうしたもんかな」
一刻も早くあの女をどうにかしないと、落ち着いて出かけられないどころか落ち着いて引きこもることもできない。
だが、その方法が思いつかない。
だいたい、超能力ってのがもう反則すぎて手の出しようがない。
あまりに理不尽すぎる。
比企谷「…超能力、か」
数日後 朝
スマホを取り出し、そこに登録された名前を見つめる。
一色いろは。
色々と考えてはみたが、どうしても現状を打開する策は見つからなかった。
八幡「だから、今回だけだ」
誰にでもなくそんな言い訳をしながら、電話をかけた。
……。
……。
八幡「…出ねぇ」
from比企谷八幡
to一色いろは
『比企谷だ。電話でろ』
これでも無視されたら…
いやいや、気づいてないだけって可能性もある。
案外明日の朝になったら『ごめんなさい寝てました』って返信があるかもしれないし。
…それ完全に無視されてんな。
まだ朝なのに返信翌朝なのかよ。
とにかく、メールを送ろう。
よし、もう一度電話してみるか。
いろは『…はい』
うおぅ、出やがったこいつ。
びっくりした。
八幡「私メリーさん」
いろは『何言ってんですか先輩ですよね』
ほんとだよ、何言ってんだ俺。
八幡「……おちゃめな八幡ジョークだ。どうよ、調子は」
いろは『はぁ……』
こいつ、ため息つきやがった。
いろは『体調が悪いってわけじゃないんですけど、その、怖くて家を出れなくて』
八幡「そうか。まあ仕方ないな」
いろは『…はい。ご迷惑おかけしてすみません』
八幡「別に迷惑じゃねえよ。もし学校行く時は言ってくれ、そしたらまた来るわ。それで今日は…」
いろは『ちょっと待ってください。今また来るって言いました?』
八幡「んだよ、それがどうした。今お前の家の前にいんだよ。最初に言ったろ」
いろは『言ってませんけど!?』
八幡「…そうだったか?」
いろは『そうですよ! ちょっと待っててください着換えます学校行きます』
八幡「お、おう…わかった、待ってる」
通学中
いろは「まったく、いきなり家に押しかけてくるなんて何考えてるんですか先輩は。普通連絡の一つくらい入れますよね」
八幡「人の家を尋ねる機会がほとんどなかったから普通がわからん」
いろは「本気で言ってるんですよね、それ…」
八幡「当然だろ」
いろは「ですよねー」
八幡「まあ、でも良かったわ。思ってたより元気そうで」
いろは「……はっ、なんですか今の口説いてましたか結構キュンときてときめきましたが唐突過ぎて驚きの方が大きいですごめんなさい」
八幡「ほんと変わらんなお前は。まじで安心したわ」
いろは「…なんか先輩、いつもと違いませんか?」
八幡「あんなことがあったんだ。多少優しくもなるだろ。今日だけだ」
いろは「…そう、ですか。それは、えっと、ありがとうございます?」
八幡「何故そこで疑問系になる」
八幡「で、お前家出てよかったのか? 命狙われてたんだぞ」
いろは「それ先輩が言いますか。迎えに来ておいて」
八幡「…いや、別に迎えに来てないんだが」
いろは「は?」
ちょ、声低い怖い。
いろは「なんですか迎えに来てくれたんじゃなかったんですか?」
八幡「ちょっと聞きたいことがあっただけだ」
いろは「そんなことないですよね。正直に話してください」
…ほんとに迎えに来たわけじゃないんだが。
せいぜい顔を見て安心したいくらいのものであって、学校に行かせるつもりなんて全くなかった。
八幡「……」
いろは「……」
八幡「で、その聞きたいことなんだが」
いろは「無視ですか!?」
八幡「聞きたいことなんだが」
いろは「…もういいです。何ですか?」
さて、どこから切り出したものか。
八幡「昨日葉山と話して、事件に関して一つの共通点、と言えるかもしれないことを発見した」
いろは「共通点?」
八幡「まだ確定じゃないんだが、襲われるのは力士シールを見て気分が悪くなる人物なんじゃないかって」
いろは「私以外にも襲われた人がいたんですか?」
八幡「材木座。…と、一応俺もだろ」
いろは「……材?」
一色は材木座のこと知らないのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
あ、葉山と話したの昨日じゃない。
ほんとにミス多くてすみません。
八幡「で、ここからが本題だ。この事件の被害者にはもう一つ共通点があった。何だか覚えてるか?」
いろは「……超能力者ってことですね」
八幡「正解。つまり、だ」
いろは「なるほど。言いたいことはわかりました。私や先輩も能力者なんじゃないかって言いたいんですね?」
話が早くて助かる。
八幡「そういうことだ。心当たりないか、一色」
もしこちらにも超能力があるのなら、あの女への対抗手段となり得るかもしれない。
数秒の沈黙のあと、一色は観念したように口を開いた。
いろは「……まあ、もう隠してもいられませんよね」
八幡「ってことは」
いろは「はい。私も能力者ですよ」
……まじか。
予想していなかったわけじゃない。
むしろそうであってほしいと願ってすらいた。
だが実際に言葉にされる衝撃は想像以上にでかかった。
八幡「どんな能力なんだ? それうまく使えばあの女にも対抗できるんじゃねぇの?」
いろは「それは…ちょっと難しいかもですね…」
八幡「というと?」
いろは「私の能力は戦ったりするのには向いてないんですよ。そういう先輩はどうなんですか? さっきの話だと、先輩も能力者ってことになりそうですけど」
八幡「困ったことに全く心当たりがないんだなーこれが」
いろは「…本当にそうみたいですね。でも、試してみる価値はあるかもです」
八幡「試す? 何を」
いろは「先輩が能力者かどうか、ですよ」
八幡「え、何。そんなことできんの?」
いろは「できますよ。とりあえず放課後、生徒会室まで来ていただけますか?」
八幡「とかなんとか言って仕事手伝わせるつもりじゃないだろうな」
いろは「やーだなぁ、そんなことしませんよー」
…不安だ。
何はともあれ、久々に一色が登校した。
後で由比ヶ浜たちにも知らせてやろう。
ちなみに体育の時間、何故か材木座の姿が見えなかった。死んだのかとうっかり心配しそうになったが欠席しているだけらしい。
まあ、材木座は別にいいか。材木座だし。
すみません今日ここまでです。
まだまだ書いてあるのですが、書く方に時間割きすぎて勉強がアレなので。
多分次は週末になります。
昼休み 教室
葉山「比企谷、今いいか?」
八幡「……ああ」
廊下
葉山「これ、第四の事件じゃないかな? ごっつぁんDEATHだったか」
葉山がスマホでニュースを見せてくる。
八幡「…間違いないな」
その記事には、昨夜力士シールを大量に飲み込んで窒息死した男性のことが書かれていた。
何を思ってそんなことをしたのかは不明。
状況の異常性から連続殺人第四の事件と見る見方が強いようだ。
記事ではあの回転DEADを含むこれまでの事件についても触れられていた。
そして。
八幡「…また能力者、か」
コメント欄に書かれた噂に過ぎないものだが、今回の被害者にも能力者の疑惑がかかっている。
一色の件もある。
これで狙われているのは能力者だけと見て間違いない。
一色を連れ出してしまったのは失敗だっただろうか。
順番通りなら次の事件はいよいよ上手に焼けましただ。
殺害の方法は考えるまでもないだろう。
だから、一刻も早く対策を講じなければならない。
放課後 教室前
結衣「ヒッキー、今日いろはちゃん学校来てたね。見た?」
八幡「ああ、さっきちょっとな」
結衣「ほんとよかったよねー。結構心配してたんだ」
八幡「……由比ヶ浜、今日部活休むって雪ノ下に言っといてくれ」
結衣「あ、うん…」
八幡「じゃ、そういうことで」
結衣「………………待って」
八幡「どうした」
結衣「…危険なこと、してない?」
八幡「……」
結衣「ごっつぁんDEATHってあのメールに書いてあったやつだよね。さっき、廊下で話してるの聞こえちゃったんだ」
八幡「……」
結衣「奉仕部のパソコンに来たメールなんだからさ、何かするならみんなでやらない?」
八幡「……」
結衣「言ったよね、独りで抱え込まないでって。あたしじゃ頼りないかもしれないけど、ゆきのんなら」
八幡「いや、いい」
結衣「でも…」
八幡「俺は自分でできることは自分でやる主義なんだよ。…だから、どうにもならなくなったら頼る。今はその時じゃないってだけだ」
結衣「ほんとに?」
八幡「ああ」
結衣「…わかった。じゃあ待ってるね、頼ってくれるの。ちゃんと待ってるから」
そう言った由比ヶ浜は、けれど何かを納得できずに我慢しているようだった。
そんな彼女の表情に見とれそうになって、同時に胸を締め付けられる。
八幡「…どうにもならなくなるの待ってどうすんだよ。解決するのを待ってろ」
結衣「あれ!? あ、いやそういう意味じゃなくって、あれ!?」
八幡「とにかく、こっちで解決するから気にすんな」
結衣「あ、うん…。わかった」
八幡「…じゃ、俺は行くから」
結衣「うん、行ってらっしゃい、ヒッキー」
行ってらっしゃい、ね。
そう言われたからには、やるしかない。
彼女たちの待つあの場所へ帰るために、
今俺にできることをしよう。
…と、珍しく意気込んでみたのに。
生徒会室
城廻「あれ、比企谷くんも手伝いに来てくれたの?」
八幡「…どういうことだ、一色」
いろは「私のせいじゃないですよ~」
どうも一色が休んでいた数日で生徒会の仕事が溜まっていたらしい。
帰り道
八幡「結局仕事をやらされてしまった」
いろは「いやー、先輩が来てくれて助かりました」
八幡「で、どうすんだ。生徒会室閉まっちまったぞ」
いろは「どこかゆっくり話せる場所があればいいんですけど」
八幡「なるほど、サイゼだな」
いろは「サイゼ…」
八幡「だめか?」
いろは「…まあ、別に構いませんけど」
サイゼ
八幡「で、俺が能力者なのかどうか試すって言ってたよな」
いろは「そうですね」
八幡「具体的にはどうすればいいんだ? そもそも、お前が本当に能力者だってのも信じられないんだが」
いろは「まあ、無理もないですねー、では先輩、今からする質問に答えてください」
八幡「何で」
いろら「いいから答えてください。いきますよ」
八幡「お、おう」
いろは「一つ目の質問。先輩って、実は自分のこと頭いいって思ってますよね?」
八幡「は? なんだその質問」
いろは「答えてください」
八幡「…まぁ、悪くはないんじゃねえの」
いろは「うわぁ…」
八幡「おい、露骨に引くのやめろ」
いろは「2問目。葉山先輩ってかっこいいですよね?」
八幡「否定はしない」
いろは「…なんかさっきから曖昧ですね」
八幡「日本人だからな」
いろは「じゃあ、次からは全部『いいえ』で答えてもらえますか?」
八幡「…全部? 別にいいが、これに何の意味があるんだ?」
いろは「あとでわかりますよ」
いろは「3問目。結衣先輩ってかわいいですよね?」
八幡「おまっ、なんだその答えづらい質問」
いろは「先輩、今は真剣な話の最中ですよ。それに、『いいえ』って答えるだけです」
八幡「……いいえ」
いろは「へぇ~、そうなんですか~」
八幡「おい、そのムカつく顔やめろ」
いろは「4問目。雪ノ下先ぱ」
八幡「いいえ」
いろは「…即答ですね。まだ質問途中なんですけど」
八幡「どうせ答えは『いいえ』なんだろうが。あんな怖いやつそうそういねえよ。迷うまでもなくいいえだ」
いろは「でも、怖いだけじゃないですよね?」
八幡「と言っても怖さが強すぎて台無しだけどな」
いろは「二択で」
八幡「じゃあ、『いいえ』」
いろは「ふむ、なるほど」
何がなるほどなんだろうか。
いろは「では、質問は次が最後です」
八幡「やっとか」
いろは「五問目。私のことかわいいと思いますか?」
八幡「…あざとい」
いろは「あざとくないです!」
八幡「いや、あざといだろ。今の質問のどこにあざとくない要素があった」
いろは「私のこと、とりあえずあざといって言っておけばいいと思ってません?」
八幡「いや、そこまでは思ってないが」
いろは「あ… そう、ですか。それで、質問の答えは?」
八幡「……いいえ。これでいいのか?」
いろは「はい。大丈夫ですよ」
八幡「で、今の質問に何の意味があったんだ? 俺をからかって楽しんでるようにしか見えなかったんだが」
いろは「やーだなぁ、そんなことないですよー」
八幡「……」
いろは「では、説明しますね」
いろは「まず、先輩は自分の頭が悪くないと思ってます。葉山先輩がかっこいいのも認めてて、結衣先輩のことはかわいいと思ってます」
八幡「は? 最後のは『いいえ』って答えただろうが」
いろは「雪ノ下先輩のこともかわいいと思ってますね。しかも、怖い以上に魅力的だと思っています」
八幡「…思ってねえ」
いろは「あ、やっぱり思ってるんじゃないですか。嘘ついてもわかりますよ、それが私の能力ですから」
八幡「は? 能力?」
いろは「はい。他人の口にした言葉が、嘘か真実かわかる。それが私の能力なんです」
八幡「なん…だと…」
八幡「それ、本当なのか?」
いろは「まだ疑ってるんですか?」
八幡「…いや、簡単に信じられる話じゃねぇだろ」
と、その時いきなり現れた誰かが、俺の隣に座った。
陽乃「来ちゃった♪」
いろは「はるさん先輩?」
八幡「…なんであなたが」
陽乃「外から比企谷くんの姿が見えたから、思わず」
思わずって…
陽乃「あ、荷物そっちに置いてもいいかな?」
いろは「はい、構いませんよ」
陽乃「ありがとー」
八幡「荷物をこっちに置いて一色の隣に座るのはどうですか?」
陽乃「なんで?」
…近い。
陽乃「ところで、さっきの話聞いちゃったんだけど」
八幡「あー、えっと、それはですね」
いろは「先輩、大丈夫です。私の能力のことならもう知られてますから」
八幡「は? そうなの?」
いろは「…進路相談会の時に、バレてしまって」
バレたって、マジか。
そうそうバレる能力じゃねぇだろこれ。
そもそも、能力者の存在を知っていなければそれを見破るのは不可能だ。
もしかして、陽乃さんは能力者のことを知っている?
陽乃「ねえいろはちゃん、比企谷くんに能力を信じさせるなら、アレを見せてあげた方が早いんじゃない?」
いろは「…ここでですか?」
陽乃「リアルブートしなければ他の人には見えないよ。私にもね」
リアルブート??
いろは「いいですけど、先輩にも見えないかもしれませんよ?」
陽乃「どうせ後で見せるつもりだったんでしょ? 比企谷くんが能力者かどうか試すって言ってたし」
そんなとこから聞いてたのかよ。
ほとんど最初からじゃねえか。
いろは「…わかりました」
気乗りしない様子で言うと、一色は立ち上がった。
いろは「先輩、よく見ててくださいね」
一色は気持ちを落ち着かせるように小さく呼吸すると、何も無い空気中に手を突き出した。
そして、ゆっくりと何かを引き抜くような仕草をした。
八幡「…………!?」
……あり得ない。
何が起きてる?
そこにはたった今まで何も無かったはずだ。
だというのに、一色はそれを引き抜いていた。
歪にして流麗。
醜悪にして妖艶。
無機物でも有機物でもあり。
この世界の全ての型という型を閉じ込めたような。
そんな――――。
八幡「……それは、剣、なのか?」
一色いろはの手には、確かに剣が握られていた。
それはあまりにも禍々しく、けれど見入ってしまうほどに美しかった。
かなり中途半端ですが時間ないので今日はここまでです。すみません。
ちょっとネタバレしてるんじゃないかと不安になってきました。でもまだ問題なくカオチャを楽しめるレベルのはず。だと思いたい。
一応最後まで重要なネタバレは無しで行く予定ですが、「重要なネタバレ」の範囲は私の主観です、と保険をかけさせてください。
いろは「やっぱり、見えるんですね」
八幡「見えるも何も、そんだけデカければ当たり前だろ」
陽乃「私には見えないけどね」
八幡「…?」
いろは「ディソード、って言うんだそうです」
八幡「ディソード?」
いろは「詳しい説明ははるさん先輩にお願いしてもいいですか? 私も、実はこの力についてはよくわかっていなくて」
陽乃「おっけー、お姉さんに任せなさい」
陽乃「ディソードっていうのは、ギガロマニアックスが妄想を現実にするために使う端末のこと」
八幡「ギガロマニアックス…?」
陽乃「君たちの言う能力者のことだよ」
八幡「…!」
陽乃「ギガロマニアックスは自身の妄想をリアルブート、つまり現実にすることができる。それが超能力の正体ってわけ」
八幡「妄想を、現実に…」
なんだそれ。
発想がぶっ飛びすぎていて理解できない。
だが、その話が本当ならあの女の発火能力にも説明がつく。
陽乃「比企谷くん、理系科目は得意?」
八幡「え? …苦手、ですけど」
陽乃「じゃあその辺りは説明しても難しいかなー。うん、とりあえず能力者ってことで納得しておいて」
八幡「…はぁ、わかりました」
陽乃「でね、今いろはちゃんが持っているディソードもリアルブートすることができるの。今はまだしていないみたいだけど」
八幡「まだ妄想ってことですか? それはおかしいでしょ。この剣は俺にも見えてる」
陽乃「君にだけね。私には見えないし、他のお客さんだって気づいてないと思うよ」
八幡「そんなわけ………」
辺りを見回す。
一色の剣に注目している人は、誰一人としていなかった。
こんなにも大きく、目を引く外見をしているのに。
本当に見えていないのか?
陽乃「リアルブートする前のディソードが見えるのは、ギガロマニアックスだけ」
八幡「……俺もそのギガロマニアックスってことですか?」
陽乃「ピンポーン。大正解」
そうか。
俺が能力者かなのかを試す。
一色が言っていたのはそういうことだったのか。
八幡「でも俺には剣なんてありませんよ。能力だって使えない」
いろは「無意識に使っているってことはありませんか?」
八幡「無意識に?」
いろは「私の能力も、特に意識して使っているわけではないんです。だから、先輩が気づいていないだけで、実際は能力を使っているのかも」
陽乃「ギガロマニアックスであることは間違いないしね」
いろは「今までに先輩の周りで、よく考えたらおかしなこととかありませんでしたか?」
おかしなこと。
おかしなことか。
というと……
八幡「…………存在が認識されない、とか」
陽乃「あっはっははは、それはない、それはないよ比企谷くん」
陽乃さんに爆笑された。
ですよね、知ってました。
いろは「先輩のトラウマを能力のせいにしないでください。もっと真面目に」
八幡「…お前に真面目にしろと言われる日が来るとは」
いろは「なんだか引っかかる言い方ですね」
八幡「というか、どうしてそんなことを知ってるんですか。ギガロマニアックスってわけじゃないんですよね?」
陽乃「一言で言えば家庭の事情。あんまりうちの家を甘く見ないほうがいいってことかな」
八幡「…別に甘く見てはいませんけど」
陽乃「そう?」
八幡「……あいつは知ってるんですか、この、ギガロマニアックスのこと」
陽乃さんが知っていて、それは雪ノ下家の事情なのだと言った。
なら、雪ノ下雪乃はどうなのか。
彼女はそれを知っていて、隠しているのではないか。
少なくとも、部室で事件に超能力者が絡んでいるかもしれないと言った雪ノ下は、その存在を知っているというような態度は見せなかった。
知っていたのなら、あの時話してくれても良かったのではないか。
そんなことを考えて、自分に嫌気が差した。
まただ。
雪ノ下雪乃は嘘をつかない。
けれど、本当のことを言わずに隠すことはある。
そんなこと、とっくに気づいていたはずなのに。
俺が雪ノ下について知らないことなんて、まだまだある。
それは理解していたはずだったのに。
それでも、俺の知らない一面が彼女にあるかもしれないという疑念が、酷く気持ち悪くて、その上なかなか消えてくれない。
そして、陽乃さんの答えは突き放したように冷たかった。
陽乃「本人に聞いてみたら? 比企谷くんの望む本物って、そんなことも聞けないような関係のこと?」
八幡「……」
いろは「…あの、今は先輩の能力についての話に戻りましょう。雪ノ下先輩のことは今は関係ないじゃないですか」
陽乃「ふーん、いろはちゃんって比企谷くんに優しいんだね」
いろは「別に普通ですよ」
陽乃「なら、雪乃ちゃんに嫉妬したとか?」
いろは「なんでですか、そんなのありえません。先輩のことなんてなんとも思っていませんし」
陽乃「そっか。ま、比企谷くんだもんねー」
いろは「そうですよー。当然じゃないですかー」
……怖い。二人とも怖い。
いつになく真剣な表情の一色と、余裕の笑みを浮かべる陽乃さん。
やめて! 俺のために争わないで!
っていうか、いつの間にか俺ディスられてない?
気のせい?
いろは「で、先輩。先輩がギガロマニアックスなのは間違いありません。視界の何処かにぼんやりと剣が見えたりしませんか?」
八幡「中二病は卒業しちゃったからなぁ」
今では立派な高二病である。
いろは「となると、先輩の能力も期待できそうにないですね…」
八幡「悪いな。頼りにならなくて」
いろは「ほんとですよー。葉山先輩とは大違いです」
陽乃「隼人ねえ」
いろは「…何か」
陽乃「別に。隼人ってそんなに頼りになるかなーって疑問に思っただけ」
いろは「……」
これ以上二人に会話させるのはさすがに一色がかわいそうだ。止めるべきだろう。
八幡「あの、俺らそろそろ帰りたいんですけど」
陽乃「もう?」
八幡「俺が全く頼りにならないんで、あまり遅い時間になる前に帰らないと」
いろは「先輩…」
陽乃「ま、そういうことなら仕方ないね」
言うなり、陽乃さんは立ち上がり荷物を持った。
一色に立ち上がるよう促しているようだ。
陽乃「支払いは私がしておくから、お先にどうぞ」
八幡「そういうわけにはいかないでしょ」
ほとんど食べていないが、注文したのは俺たちだ。
だいたいこんなもんだろうと予想して、陽乃さんにお金を渡す。
陽乃「比企谷くんは真面目だねえ」
八幡「そりゃどうも。ほら、行くぞ一色」
一色「…はい」
陽乃「またねー」
帰り道
――見られている。
いろは「…先輩。これ、なんだかおかしくないですか?」
――見られている。
八幡「っ…………」
――見られている。
いろは「先輩!? 大丈夫ですか!?」
見られている。
誰に?
確認するまでもない。
力士シールだ。
通りのあちこちに力士シールが貼られている。
それも、異常な数だ。
吐き気。頭痛。立ちくらみ。
体が異常を訴えてくる。
一色も、気味悪そうに自身の肩を抱いていた。
八幡「……一色こそ、大丈夫か?」
いろは「はい、なんとか……。今は先輩も一緒ですし」
そういうのは勘違いするからやめろ。
そんなことを言う気力も湧かない。
八幡「……シールがないところを探すぞ。このままだとまずい」
いろは「はい……」
十数分後。
八幡「このあたりはシールが無いみたいだな」
いろは「……ですね」
安心してどっと疲れが出たのか、一色ほっと息を吐いた。
辺りはすっかり暗くなってしまっている。
早く一色を家に帰さないと……。
いろは「……っ! 先輩!」
突然、一色が驚きの声をあげる。
いろは「先輩、あれ!」
八幡「……うそ、だろ」
一色が指差した方向。
???「――――」
そこに、あの女がいた。
前髪で顔が隠れるほどのピンクの長髪は見間違えようがない。
???「ようやく、見つけた」
何でこんなところに?
見つけたってことは、俺たちを探していた?
待ち伏せされたのか?
だが、それなら俺達が普段通る通学路にいるのが自然だろう。
今日の俺たちはサイゼに行った上、力士シールを避けて普段通らない道まで来ている。
こんな、人通りの少ないところまで。
八幡「……誘導されたってことか」
いろは「え…っ?」
八幡「俺たちは力士シールがない場所を選んでここまで来た。そこであいつが待っていた。だから、そういうことだろ」
いろは「そんな…っ」
八幡「次の事件は五番目。今度こそやばい」
いろは「先輩…」
八幡「逃げるぞ」
いろは「っ……はい」
俺たちが駆け出すのと同時に、たった今俺達がいた場所で炎が燃え上がった。
一色が息を飲むのがわかった。
あと少し走るのが遅れていたら。
それを考えただけで背筋が凍る。
女は足を引きずりながら追いかけてくる。
俺達の進む先で次々と炎が上がる。
いろは「きゃっ!」
八幡「くそっ、ならこっちだ」
走る。
また、炎が上がる。
熱も伝わって来る。
――熱い。
だから実感してしまう。
この炎は妄想なんかじゃない。
現実だ。
陽乃さんが言っていた言葉を借りるならリアルブート。
妄想を現実にする力。
こんなの反則じゃないか。
追いつかれたら死ぬ。
逃げなければ。
足を止めちゃいけない。
俺達は走り続けた。
走るのは俺達のほうが早い。
しかし、炎が次々と上がるせいで思うように逃げられない。
いろは「はあ…はあ…。あっ」
小さな悲鳴をあげて一色がその場に倒れ込む。
どうやら足を挫いたらしい。
八幡「頑張れ。今ここで立ち止まったら死ぬぞ!」
いろは「わかってます。…あっ」
一色は立ち上がったが、やはり足は痛いようで、また小さな声を漏らす。
こんな状態ではまともに走れないだろう。
八幡「…どうする、少し休むか?」
あの女は足がよくない。
だから移動速度は遅い。
少しなら休んでも問題ないかもしれない。
いろは「平気です………うっ」
歩き出そうとした一色が俺の胸に倒れ込んできた。
呼吸が乱れているのが伝わってくる。
こんな状態で走るのは不可能だ。
八幡「おい、やっぱり休んだ方が」
そこまで口にした時、それが許されないことを知った。
視界にピンクの髪が、あの女の姿が入ってくる。
八幡「くそっ、どうすれば」
いろは「先輩っ……」
一色は怯えて俺にしがみついてきた。
けれど、俺にはどうすることもできない。
俺は死ぬのか。
一色もいるのに。
こんなところで、こんなにも呆気なく。
家では小町が待っているはずだ。
それに、あいつらも。
俺があの場所へ戻るのを、きっと待ってくれている。
それなのに、俺は。
死んでたまるか。
死にたくない。
女は着実に俺たちに近づいて来ていた。
考えろ。
何かここから逃れる術はないか。
並大抵の方法では駄目だ。
あの女のもつ発火能力。
あんな反則にも太刀打ちできるほどの何かが必要だ。
いろは「先輩…っ」
一色が震えながら俺を呼んだ。
――そうか、一色だ。
超能力は何もあの女だけの特権じゃない。
一色にも、そして……
その瞬間――。
視界の端に、奇妙なそれが出現した。
全てを拒絶するかのように鋭利。
また何もかもを拒むように歪曲。
けれど、矛盾にして正しく。
どうしようもなく不正解。
それは痛々しくも魅惑的で。
この、弓形に反った剣が――――
八幡「……ディソード」
いろは「……え?」
一色のものとは形の違うディソードが、この目に見えていた。
けれど、引き抜く方法がわからない。
こんな蜃気楼みたいな剣を、一色はどうやって引き抜いたのか。
わからない。
あと少しなのに、どうにもできない。
だから、俺はただこの状況が早く過ぎ去ってくれるように、助かるように、ひたすら念じ続けるしかなかった。
???「…………っ?」
……何してるんだ?
女は首を左右に振り、周囲を見回している。
まさか、俺が何かしたのだろうか。
だとしたら、それは一体何か。
それを考えている暇は無かった。
立ち止まっていた女が、こちらへ向かって歩き始める。
くそっ、駄目なのかよ。
そりゃそうだ。ただ念じただけでは意味がない。
軽率だった。
こんなことになるなら一色は家にいさせるべきだった。
誰か。
奇跡でも何でもいいから、助けてくれ。
いつの間にか俺は一色を抱きしめていた。
死なせたくない。
死にたくない。
恐怖で目を瞑る。
すまない、一色。
由比ヶ浜、約束守れなくてごめん。
ゆっくりと。
一歩、また一歩。
目を瞑っているから見えはしないけれど。
不規則なリズムで。
女はこちらへ歩み寄ってくる。
そして、そのまま俺たちのすぐ横を通り過ぎた。
八幡「……へ?」
思わず目を開けて振り返る。
女はこちらを見向きもしない。
時々首を左右に振って、まるで何かを探すようにしながら、そのまま歩いて姿を消してしまった。
八幡「……助かった…のか?」
いろは「……」
八幡「!? わ、わりぃ」
慌てて一色から離れる。
いろは「いえ、その…… 気にしないでください。…というか」
八幡「?」
いろは「手を、繋いでもらってもいいですか? …怖くて」
八幡「……」
【一色いろは編】
数分後
あの女が戻ってくる様子はない。
どうやら本当に見逃してくれたらしい。
ただ、その理由はわからなかった。
八幡「…動けそうか?」
いろは「無理をすれば、なんとか」
八幡「そうか」
要するに、歩けないってことだ。
いろは「……」
八幡「……」
いろは「先輩? どうしたんですか?」
八幡「……背中、いるか?」
いろは「はい?」
八幡「だから……いや、何でもない?」
いろは「おんぶってことですか?」
八幡「まあ……そうなる」
いろは「クスッ、それ口説いてますか?」
八幡「別に」
いろは「えっと……お願いしてもいいですか?」
八幡「まあ……いいんじゃねえの」
とはいえ、流石に一色の家まで連れて行くのは無理がある、か。
比企谷家
八幡「ただいま」
小町「あ、遅かったねお兄ちゃ…」
こちらへ振り返った小町が固まっている。
まあ、気持ちはわかる。
いろは「…お、おじゃましまーす」
一色はかなり遠慮気味な挨拶をした。
…なんだこれ、すげーきまずい。
八幡「あー、なんだ。こいつ怪我してんだ。小町、手当てとかできるか?」
小町「あ、うん…」
八幡「……」
小町「……」
いろは「……」
八幡「…じゃ、頼むわ」
いろは「えっ、先輩どこ行くんですか!?」
八幡「別に。自分の部屋だよ。お前が手当されるとこ見てるのもアレだろ」
いろは「ああ、確かに…」
八幡「……」
小町「いやいやちょっと待ってお兄ちゃん!」
八幡「待たん。お兄ちゃんは今疲れてる。一色、小町に何か聞かれたら適当に答えといてくれ」
いろは「えっ? 全部私任せですか!?」
八幡「…とりあえず手当しとけ。適当に時間たったら戻ってくる」
……で。
年下…というか、先輩の妹さんに手当をされてしまった。
なんだろう。
複雑な気分だ。
小町「いやぁ、お兄ちゃんがいきなり女の子連れて帰ってくるから何かと思いましたよ」
いろは「あはは…ごめんね、ほんと突然で」
小町「いえいえ、大丈夫ですよ。小町的にはむしろ嬉しいですし」
いろは「そうなの?」
小町「はい。我が兄ながら将来が不安で不安で。できれば早いとこ花嫁さんを見つけてほしいなーと日々思っておりまして」
いろは「花嫁!? 待って待って、なんかだいぶ話が飛んでる!」
小町「おや、もしかして… その反応は脈アリですか?」
いろは「そういうことじゃなくて… 私好きな人いるし…」
小町「うーん、それは小町的にポイント低いかもですねー」
いろは「ご、ごめんねー」
年下は、苦手だ。
小町「ところで、何故うちに?」
いろは「あ、それは…」
先輩に口止めされてるんだよね。
『小町に心配をかけるわけにはいかん』
って、なんかやけにかっこいい声で言ってたし。
いろは「たまたま怪我したときに、先輩が近くにいて…」
小町「いて?」
いろは「よくわからないうちにこんなことに…」
小町「……」
いろは「……」
小町「はあ、なるほど。よくわかりました」
いろは「わかったの!?」
小町「うちのお兄ちゃん、身内には優しくなるタイプですので、なんだかんだ捻デレながらもいろはさんのこと心配して、その結果こうなったんだろうなぁ、と」
いろは「うん、まあ、そんな感じ…」
小町「つまり、お兄ちゃん的にはいろはさんは身内ってことですね」
いろは「!?」
小町「お兄ちゃんに学校のこと聞くとだいたい戸塚先輩の話になるんですけど、時々他の人の話もするんですよ。それで、最近はいろはさんの話も多くなってきて」
いろは「先輩が、私の話を…」
ああ、それで小町ちゃんは私の名前知ってたんだ。
かく言う私も小町ちゃんの名前は先輩との会話で知ったような気がする。
小町「そりゃもう、べた褒めでしたよ。小町に似てかわいいとか」
あ、今小町ちゃん嘘ついた。
先輩、私のことどんな風に言ってるんだろうか。
少なくとも、かわいいとは言ってくれていないらしい。
こういうとき不便だなぁ、この能力。
その頃、廊下では。
そろそろ頃合いだろうと戻ってきたら、妹がとんでもない嘘をついていた。
小町に似てあざといとは言ったが、かわいいとは言ってない。
まあ、一色には能力があるから誤解はないと思うが。
こういうとき便利だな、あいつの能力。
…………入りづらい。
八幡「自分の部屋戻るか」
小町「小町に似てってところが小町的には複雑なんですけど、これお兄ちゃんからすればすごい高評価だと思うんですよ」
いろは「そうなの?」
小町「はい。…小町のお兄ちゃんは、シスコンなので」
いろは「ああ、そういう…」
すごく納得できる理由だった。
いろは「でもほら、先輩にはあの二人がいるし」
小町「あの二人というと、結衣さんと雪乃さんですか?」
いろは「そうそう。やっぱり先輩にとってあの二人は特別だと思うし、ちょっと敵わないかなーなんて思ってみたり」
小町「確かにあの二人は強敵ですねー。最有力候補ですし」
いろは「最有力候補?」
小町「花嫁の」
いろは「…なるほど」
小町「でもでも、小町はいろはさんも応援してますよ! お兄ちゃんが幸せにさえなってくれれば小町は満足なので」
嘘のないその言葉に、本気で感心してしまった。
先輩がシスコンになるのもわかるような気がした。
……わかるけど、やっぱり駄目だと思う。
八幡の部屋
二人が話し終えるのを待つ間、ベッドに横になって考えを巡らす。
八幡「ディソード。やっぱ間違いないよな…」
あの瞬間に見えた弓形、あるいは三日月形の剣。
あれはディソードで間違いない。
つまり、俺も一色と同じギガロマニアックスということになる。
なら、何らかの能力が使えるはずだ。
八幡「……つっても、心当たりはないんだよなぁ」
陽乃さんはディソードのことを『妄想を現実にするための端末』だと言った。
あれを自在に出せるようになれば、能力が使えるようになる可能性は高い。
八幡「どうすれば…」
ディソードが見えた瞬間、すなわち襲われていた時のことを思いだす。
出来る限り鮮明に、出来る限りリアルに。
通りは暗く、あまり広くはなかった。
人通りは少なく、静かだったと思う。
ゆっくりと、不規則なリズムで近づいてくる足の悪い女。
――――!
その時、視界にぼんやりとしたシルエットが浮かんだ。
ディソードだ。
ここまでは順調。
あとはこれを掴めれば…
虚空に手を伸ばす。
しかし、俺の右手はディソードに届かなかった。
もっとよく思い出そう。
さっきはもう少し鮮明に見えていたような気がする。
あの時は確か、一色が俺の胸にしがみつくようにして怯えていて…
八幡「……!?」
まずいまずいまずい。
余計なことは思い出すな。
その……感触とか。
煩悩を振り払うようにして飛び起きた。
…再チャレンジだ。
深呼吸をする。
すると視界には一本のディソードが浮かび上がる。
ディソードへ向けて手を伸ばす。
ちょうどその時、ドアをノックする音がした。
いろは「先輩、そろそろ帰ろうと思うんですけど…」
言いながらドアを開けた一色は、冷ややかな視線を俺に向ける。
いろは「…何してるんですか」
八幡「…あれだ、ちょっとディソードをだな」
いろは「あ、なるほど。てっきり中二病ってやつなのかと」
八幡「……」
いろは「そういえば、さっきのアレって何だったんでしょうね」
八幡「アレ?」
いろは「ほら、あの人見逃してくれたじゃないですか。なんでかなーって」
八幡「…まあ、逃がす理由は無いわな」
いろは「ですよね。それで私思ったんですけど、アレって先輩の能力だったんじゃないかと」
八幡「能力?」
いろは「ずばり、誰にも存在を気づかれない能力です」
八幡「ええ……」
いろは「先輩も言ってたじゃないですか。存在を認識されないとかなんとか」
ステルスヒッキーのことか。
八幡「君、あの時俺のこと馬鹿にしてなかった? 真面目にしろとかなんとか」
いろは「そんな昔のことは忘れました」
八幡「…今日の話なんだけどなぁ」
いろは「でも、本当にそれが先輩の能力ならかなり便利ですよね。逃げるのだけは最強じゃないですか」
なんだろう、褒められてる気がしない。
いろは「もう超お似合いっていうか、まさに先輩の能力って感じで」
あ、やっぱ褒められてないわこれ。
いろは「……なので、帰り、家まで送ってくれませんか?」
八幡「……」
いろは「……」
八幡「…まぁ、仕方ねえな」
一人で帰らせるのは不安だ。
いろは「ほんとですか。ありがとうございます。先輩ほんと扱いやす……頼りになりますね!」
八幡「……かわいくねえなぁ」
夜道
いろは「ふふっ」
八幡「……何かあったのか?」
いろは「? 何がですか?」
八幡「いや、別に」
いろは「えー、なんですかーそれ。気になるじゃないですか」
八幡「なんか楽しそうだったから聞いただけだ」
いろは「先輩は楽しくないんですか? こんなにかわいい女の子と夜道で二人きりですよ?」
確かにドキドキはしてる。
いつあの女が現れるか分からない的な意味で。
八幡「お前随分と余裕あるな」
いろは「そりゃあ先輩がついてますからね」
八幡「っ……」
あざとい、あざといよこの後輩。
いろは「いざとなったら全力で守ってくださいね。葉山先輩と違っていくらでも迷惑をかけられるのが先輩のいいところですから」
ああ、俺なら死んでもいいやとかそういう。
いろは「だから、頼りにしてますよ」
だからあざといっつーの。
一色の家が見えてきた。
いろは「あ、ここまででいいです」
八幡「了解」
いろは「今日は本当にありがとうございました」
八幡「大したことはしてねえよ」
いろは「そんなことないです。先輩がいてくれなければ今頃死んでいたかもしれないんですよ、私」
八幡「……そりゃよかったな」
いろは「もう、他人事みたいに……」
いろは「まあでも、そういうところ、いろは的にポイント高いかもですね」
八幡「ん?」
いろは「小町ちゃんの真似ですよー。どうですか、似てましたか?」
八幡「いや別に」
いろは「えー」
八幡「残念だったな。お前ごときが小町の真似なんて百年早い」
いろは「そこまで言いますか…」
まあ、可愛かったのは認めないでもないが。
それを言うと本音なのがバレてしまうので言わないでおこう。
八幡「じゃ、またな」
いろは「あ、そういえば先輩」
八幡「なんだ?」
いろは「明日の朝も迎えに来てくれますか?」
八幡「……まあな」
一色は命を狙われているのだ。
一人にするよりはいいだろう。
いろは「そうですか。じゃあ、お待ちしてますね」
帰宅後 八幡の部屋
小町「お兄ちゃん」
八幡「おう、どうした小町」
小町「いやぁ、ちょっと聞きたいことがあって」
小町はあざとい笑みを浮かべる。
うむ、かわいい。
小町「ズバリ、お兄ちゃんっていろはさんのこと好きなの?」
八幡「は? 何言ってんだお前」
小町「またまたー、とぼけちゃって」
八幡「なわけねーだろ。俺が愛するのは小町と戸塚だけだ」
小町「戸塚さんが入っちゃうのがポイント低いよお兄ちゃん。…でも気持ちはわかる」
八幡「だろ!? やっぱ戸塚は最高だよな。特に―――――」
以後、戸塚について語り尽くした。
それこそ、小町に呆れられて止められるくらい。
そうでもして気を紛らわせないといけないような、そんな気がした。
いったんここまでかな。
余裕があれば今日中にまた来ますが、明日以降になるかもしれません。
一応後半に入りました。しかし勉強の関係であまり時間が取れないので、ここから先は少し展開が駆け足になるかもしれません。
それと、それなりに物語も動き始めたので感想とか何か書き残してくれると嬉しいです。
次の朝
あれから何度か挑戦してみたが、結局ディソードは取り出せなかった。
今は一色と登校中だ。
八幡「コツとかないのか?」
いろは「コツ、と言われても。見ることはできるんですよね?」
八幡「かなり集中すればなんとかな。でも、いざって時使えないと意味ないからなぁ」
いろは「…確かに。今のままだとただの役立たずですね」
その役立たずに迎え来いだのと頼んできたのはお前なんだが。
八幡「あ、そうだ。今日放課後、奉仕部これるか?」
いろは「大丈夫ですけど、何かするんですか?」
八幡「ほら、昨日の」
いろは「?」
きょとんと首をかしげる一色。
本気で忘れちゃってるのかしらこの子。
八幡「雪ノ下に聞いて確かめるんだよ、あいつがギガロマニアックスのことを知ってるかどうか」
いろは「ああ、なるほど。そういえばしてましたね、そんな話」
八幡「まあ、多分知らないとは思うんだけどな」
いろは「で、どうやって聞くんですか?」
八幡「普通に、ギガロマニアックスって知ってるか、でいいだろ。お前がいればあいつがなんて答えようが事実がわかる」
いろは「…人をウソ発見器みたいに」
八幡「すまん」
いろは「別に構いませんけどね。ただ、わたしの能力のことは言わないでくださいね」
八幡「なんで?」
いろは「だって、なんかずるいじゃないですか、そんな能力があるなんて。知られたくないんです。嫌われるかもしれないですし」
その理論だと俺には嫌われてもいいことになっちゃうんだよなぁ。
八幡「…わかった、そうする」
学校到着
結衣「おはようヒッキー……と、いろはちゃん?」
八幡「おう」
いろは「おはようございます結衣先輩」
結衣「……なんで一緒に?」
いろは「……」
八幡「…ちょっとな」
結衣「ごまかした!? …あやしい」
八幡「怪しくねえ。それより今日、部活行くよな? お前らの知恵も借りたい」
結衣「あ…それって…」
八幡「ま、借りたいのは雪ノ下の知恵なんだけどな」
結衣「イジメだ!?」
八幡「イジメじゃねえ」
結衣「じゃあ仲間はずれ!」
八幡「……」
結衣「そこ黙っちゃうんだ!?」
いろは「……」
八幡「じゃあ一色、俺らあっちだから」
いろは「……えっ、あ、はい、ここまでありがとうございました」
八幡「…どうかしたか?」
いろは「何がですか?」
八幡「いや、なんとなく思っただけだ。悪い」
いろは「そうですか。別に平気ですよ」
八幡「そうか。じゃ、放課後部室でな」
いろは「はい」
結衣「いろはちゃんまたね!」
いろは「はい、またあとで」
放課後 奉仕部部室
いろは「こんにちはー」
結衣「いろはちゃん、やっはろー」
雪乃「……ようやく来たわね」
八幡「じゃ、始めるか」
八幡「…実はこの間、俺と一色は命を狙われたんだが」
雪乃「!」
結衣「だ、大丈夫だった!?」
いろは「はい、なんとか」
雪乃「どうしてそんな重要なことを黙っていたのかしら。一色さんが死んでしまっていたかもしれないのに」
八幡「…とりあえずその話は今度だ。それより、その俺たちを襲った女が問題でな」
結衣「問題?」
八幡「そいつは発火能力を持った能力者だったんだ」
結衣「ハッカ能力………」
八幡「材木座曰くパイロキネシスト。何もないところに炎を出せる」
結衣「そ、そっか。言われてみれば、最近消防車の音よく聞くかも。…ほんとにいたんだ、超能力者」
八幡「で、それがきっかけで能力者について俺なりに調べてみた結果、それっぽい噂を発見した」
結衣「噂?」
雪乃「……」
八幡「由比ヶ浜、雪ノ下。ギガロマニアックスって聞いたことあるか?」
いろは「……」
結衣「ぎがろまにあっくす?」
八幡「ああ」
結衣「ないなぁ。ゆきのんは?」
雪乃「……ないわね。初めて聞いたわ」
いろは「……」
ちらりと一色の方を確認する。
一色は俺の視線に気がつくとあざとい笑みを浮かべた。
…いや、あの、そうじゃなくてだな。
まあいい。それは後で聞けばいいことだ。
八幡「ギガロマニアックスってのは、まあ要するに能力者のことだ。妄想を現実にすることができるらしい。何もないところに突然炎を起こしたりすることも可能みたいだ」
結衣「ってことは、ヒッキーといろはちゃんを襲った女の人も、そのぎがろなんとかっていうやつってこと?」
八幡「ああ。それと、前に部室に来たメールあったろ。あのうち2つは殺人事件の俗称だったが、それから後に二件、回転DEADとごっつぁんDEATHと思われる事件が起きてる。で、その被害者はもれなく超能力者って噂があった」
結衣「…そうなんだ」
雪乃「……そうすると、次の事件は上手に焼けましたということかしら」
八幡「だろうな」
結衣「焼けましたって…」
八幡「俺と一色を襲ったあの女が関わってくるのは間違いないな。実行犯の可能性が高い」
雪乃「……1つ聞きたいのだけれど」
八幡「何だ?」
雪乃「この事件の被害者は全員能力者なのよね? ……なら、あなたと一色さんも能力者ということ?」
八幡「…今のところ、その自覚はないな」
雪乃「……そう」
雪の下が一色に視線を向ける。
一色は気まずそうに目をそらした。
八幡「ただ、もっと単純に、顔を見たから狙われてるって線も考えておくべきだと思う」
結衣「やっぱり狙われてるんだ…」
八幡「多分な。だからその対策をしておきたいんだが、正直なところいい手が思いつかない」
雪乃「それで私たちに話に来たというわけね」
八幡「……ま、そんなところだ」
雪乃「…残念だけれど、私にもいい考えなんて思いつかないわ」
八幡「そうか。そんなに期待はしてなかったからいい」
結衣「待って、もっとよく考えようよ!」
雪乃「なら、由比ヶ浜さんはどうするつもり? 炎を操る能力者なんて、私達の手に負える問題じゃないでしょう」
結衣「そうだけど…」
雪乃「……」
結衣「…みんなで一緒に帰るとか、どうかな? その方がちょっとは安全じゃない?」
八幡「…それは一つの手だろうな」
葉山と一緒にいたときは俺も材木座も襲われなかった。
その事実を踏まえると、ギガロマニアックスでない二人と行動を共にするのは悪くない考えと言える。
いろは「……いえ、今日は別々に帰りましょう」
八幡「!」
結衣「…!?」
雪乃「……」
いろは「先輩にお話があるんです」
結衣「でも…」
八幡「わかった」
結衣「ヒッキー…」
八幡「……」
いろは「すみません」
雪乃「話があるのなら仕方ないでしょう。私達にそれを邪魔する資格はないわ」
いろは「……はい」
……。
帰り道
八幡「……」
いろは「……」
八幡「……」
いろは「……雪ノ下先輩、嘘ついてますよ」
八幡「!」
いろは「ギガロマニアックスのこと知らないって言ってましたよね。あれ、嘘です」
八幡「……ってことは」
いろは「はい。雪ノ下先輩はギガロマニアックスのことを知っていて、それを隠してる…ということになります」
八幡「……そうか」
いろは「もしかして結構落ち着いてますか?」
八幡「そうでもねえよ」
雪ノ下雪乃が嘘をついていた。
そのことに対して何も感じないというわけではない。
ただ、今は嘆くよりも先にすることがある。
雪ノ下が嘘を付いていたというのなら、その理由は何か。
俺は知りたい。
わからないことは怖いことだから、もっと知りたいと思う。
彼女が嘘をついていたのなら、その理由を。
そうしていた方が、何もせず考えているより楽だろう。
八幡「……もしかしてあいつ、ギガロマニアックスなんじゃないか?」
いろは「え?」
八幡「お前も言ってただろ。ずるい気がする、だから知られたくないって。それなら充分隠す理由になる」
いろは「…なるほど」
無論、これは俺の想像に過ぎない。
だがもしそうであるのなら、あの女が雪ノ下を狙う可能性もある。
それを無視することはできない。
しかし、能力者が狙われているのは雪ノ下も知っていることだ。
あの雪ノ下に限って、自分が狙われている状況で何も手を打たないなどということがありえるだろうか。
そうは考えにくい。
だとするならば、彼女はあの女に対して何らかの対抗手段を持っているのかもしれない。
そうなると俺の出る幕はないわけだが、しかし何かが引っかかる。
まずは彼女の安全に関して万全を期すべきか。
幸い、当てならある。
いろは「…………先輩?」
八幡「どした?」
いろは「いえ、急に黙り込んでしまったので」
八幡「ちょっと考え事をな」
いろは「…やっぱり雪ノ下先輩のこと、気になりますか?」
八幡「……まあな」
いろは「雪ノ下先輩のこと好きなんですか?」
八幡「は?」
びっくりして変な声が出た。
何を言い出すんだこいつは。
いろは「じゃあ結衣先輩ですか?」
八幡「いきなりどうしたんだお前」
何故そんな質問に答えにゃならんのだ。
そう文句でも言ってやろうとしたところで、一色が足を止めた。
いろは「なら、わたしはどの程度ですか?」
八幡「あのな、さっきからお前何言っ…て…」
言いながら一色の方へと振り返り、その姿を見て言葉を失う。
うつむいた一色の表情は、前髪で隠れてしまって読み取れない。
いろは「……答えてください」
八幡「……」
いろは「……私が先輩に能力のことを話したのは、先輩になら知られてもいいと思ったからです」
八幡「そんなことわざわざ言われんでもわかってるんだが」
散々聞いてきたことだ。
葉山には嫌われたくない。
俺になら嫌われても構わない。
だから一色は俺にだけ素を見せるのだ。
そこに勘違いの余地はない。
いろは「……わかってませんよ」
八幡「いや、だってお前が」
いろは「わかってないじゃないですか」
八幡「……」
いろは「わたしは…… わたしは、先輩なら、例え能力のことを知っても私を嫌ったりしないかもって、そう思ったから、だから話せたんですよ?」
一色の声は震えている。
いろは「自分の能力を打ち明けるなんて初めてだったんです。…はるさん先輩には見破られちゃいましたけど。でも、自分から話したことは無かったんです。怖くて、これまで一度も。家族にだって」
八幡「……」
いろは「でも、先輩言ってたじゃないですか。『本物が欲しい』って。あの時思ったんです。こんなずるい能力を持ってて、他人の嘘が分かってしまって、気づいてない振りして他人に合わせて、取り繕って、わたしってそんなのばっかりで…」
八幡「……」
いろは「もうこんなの嫌だなって、思ったんです。わたしも、本物が欲しくなったんです」
それはいつだか聞いた言葉と同じものだった。
本物。
俺がずっと求めていて、見つからなくて、あるかどうかもわからない、人によって定義の異なる、幻想のようなもの。
あるいは、『妄想』。
いろは「…先輩、本物って何ですか?」
一色は潤んだ瞳をこちらへ向ける。
八幡「…わからん」
いろは「なら、わたしは? わたしと先輩は、本物になれますか?」
そんなこと、わかるはずがない。
そもそも本物というのが何を指す言葉なのかすら、俺自身理解できていないのだ。
故に肯定はできない。
そんな保証はどこにもない。
けれど、だからといって否定することもできない。
八幡「…わからん」
そうとしか答えようがなかった。
八幡「わかるわけ無いだろ。あいつらとのことも、お前とのことも、何もわからない」
いろは「……」
見つけた気がした。
手に入りそうな気がした。
けれどそれが何なのかはまだわからなくて、未だにもがき続けている。
だからそれが、あの日に出した結論だった。
八幡「…わからないから、求めてるんだろ」
まだ、それは見つかりそうにない。
……
数分。数十秒。あるいは数秒。
それはどれほどの時間だったか。
一色がゆっくりと頷くまでに、彼女なりに納得ができるまでに、それだけかかった。
いろは「そうですよね… そうでした。すみません」
八幡「謝ることじゃねえよ」
いろは「……はい」
いろは「これからどうするんですか?」
八幡「今考えてる」
いろは「そうですか」
八幡「……」
いったん休憩しますが今日のうちにまた来ます。
書く時間が取れなくて話を圧縮したので上手く行けば今日中に終わりまで行けるかもしれません。
夜
とあるカフェにて
陽乃「比企谷くん、ひゃっはろー」
八幡「どうも」
陽乃「比企谷くんから呼び出してくるなんて珍しいね。こんな時間にどうしたの?」
八幡「ちょっと聞きたいことがあったんで」
陽乃「雪乃ちゃんのこと?」
頷く。
陽乃「本人には聞けなかったんだ」
八幡「……」
陽乃「そう。期待はずれだったな……」
失望した、と言外に含んだ呟きだった。
八幡「……あいつはギガロマニアックスですか?」
陽乃「さあ。知ーらない」
八幡「……」
陽乃「私が素直に答えると思ったの?」
八幡「まさか。思ってませんよ」
陽乃「なら、どうして?」
八幡「あなたがどう答えようと俺の目的は達成されるからです」
陽乃「目的?」
八幡「あの女の標的はギガロマニアックスですよね」
陽乃「そうみたいだね」
八幡「ということは、もし雪ノ下がギガロマニアックスなら、あいつも狙われる可能性がある」
陽乃「…なるほど。そうきたか」
陽乃さんは俺の言わんとしていることを察したらしい。
俺は雪ノ下がギガロマニアックスかどうかは知らない。
だが、この人はそれを知っている。
そして、この人は雪ノ下が危険に晒されるのを見過ごすことができないはずだ。
だから、雪ノ下の安全を確保するなら陽乃さんに任せてしまえばいい。
八幡「もしあいつが危険に晒されるような状況下にあるなら、ちゃんと守ってやってください。それくらいはできるでしょ、家の力を使えば」
陽乃「言うねぇ」
八幡「それほどでも。それで、俺の頼みは受け入れてもらえるんでしょうか」
陽乃「いいよ。もちろん、雪乃ちゃんがギガロマニアックスだったらの話だけどね」
八幡「はい」
陽乃「でもそこまで考えているなら、わざわざ私に話す必要はなかったんじゃない?」
八幡「そうかもしれませんね。ただ、確証が欲しかったんです」
陽乃「確証?」
八幡「あなたがあいつを守ってくれるという確証です。…どうだった? 一色」
陽乃「!」
いろは「嘘はついてませんでしたね、一応」
八幡「そうか」
これで雪ノ下の安全は保証された。
陽乃「ついてきてたんだ。気付かなかった」
いろは「隠れてましたから」
陽乃「良かった、余計なこと喋らなくて」
…何を話そうとしてたんだろうか、この人。
聞いてはいけない気がする。
そっとしておこう。
一色家の近く
八幡「さっきは助かった。サンキューな」
いろは「…先輩がやけに素直に。気持ち悪いです」
八幡「えー」
いろは「冗談ですよ。それじゃ先輩、おやすみなさい」
八幡「おう」
…………
夜道
ひとまず、雪ノ下のことは忘れよう。
由比ヶ浜もギガロマニアックスじゃない。
襲われることはないはずだ。
今危険なのは俺と一色。
ああ、材木座もいたな。
一応、電話くらいはしておくか。
………。
材木座『我だ』
八幡「おう材木座、生きてるか?」
材木座『突然電話してくるから何かと思えば… 無論、我はそう簡単にくたばったりはせ』
八幡「そうか、わかったわ。じゃ」
材木座『え? あ、ちょっと待っ』
通話終了。
これで今考えるべきことだけに集中できる。
と思ったら着信音が鳴った。
八幡「ったく、しつけえな。……もしもし」
陽乃『ひゃっはろー』
八幡「…何の用ですか」
陽乃『別に。いろはちゃんはいい子だねーって思って』
八幡「嘘でしょう、それ」
陽乃『そうでもないよ。だって、私が雪乃ちゃんを守るって確証を比企谷くんが得るためだけに、あの子は協力してくれたわけでしょ?』
八幡「……」
陽乃『ほら、いい子だ』
八幡「それ…」
まるで『比企谷八幡にとって都合のいい子』だと言っているように聞こえる。
陽乃『でもそれじゃあ、私は面白くないんだよね』
八幡「面白くない?」
陽乃『そう。比企谷くんがいろはちゃんになびいちゃったりとか』
八幡「…………まさか」
陽乃『おやおや、今の間は何かな?』
八幡「あいつが好きなのは葉山ですよ」
陽乃『ふーん、そう思ってるんだ』
八幡「思ってるも何も、本人が言ってました」
陽乃『で、君自身の気持ちは?』
八幡「……」
陽乃『ねえ比企谷くん、1つ聞いてもいい?』
八幡「何ですか?」
陽乃『君はこの一連の事件、誰が犯人だと思ってる?』
八幡「おかしな質問をしないでくれますか。前に話したでしょう、足の悪いギガロマニアックスの女ですよ」
陽乃『それっておかしくない?』
八幡「おかしい?」
陽乃『1つ、発火能力を持ったギガロマニアックスが、なぜその脳力を使わずに4つの事件を起こしたのか』
八幡「……」
陽乃『2つ、何故彼女はギガロマニアックスに狙いを定めたのか』
八幡「同族嫌悪、とか」
陽乃『なるほど。なら3つ目、その女の人は比企谷くんの知り合いではなかった」
八幡「……それの何がおかしいんですか?」
陽乃『だって、メールが来たんでしょ?』
八幡「……!」
忘れていた。
そもそもの始まりは奉仕部に届いた1件のメールだったのだ。
それまでに起きた事件と、そこから先に起きる事件について書かれたあのメール。
一種の殺人予告のようなもの。
あれが奉仕部へ向けて送られてきた以上、犯人にはあれを奉仕部に送る理由があったということになる。
すなわち、奉仕部に関わりのある誰か。
だとするならば――――
陽乃『誰が怪しいと思う?』
心当たりはいくつかあった。
俺が奉仕部の活動として行ってきた解決方法はお世辞にも褒められたものではない。
だから、恨みを買っている可能性は大いにある。
だが、その誰もが何か違うような気がする。
俺のやり方の被害者というなら、その最たるは相模南だ。
だが、彼女にここまでの行動力があるだろうか。
陽乃『君は悪意には敏感なくせに、好意には疎いよね。頑張って鈍感であろうとしている』
八幡「どういう意味ですか?」
陽乃『私はね、いろはちゃんが怪しいと思う』
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八幡「……は?」
陽乃『動機は比企谷くんと仲良くなること。吊り橋効果とかね』
得意げに。
電話の向こうで陽乃さんが不敵に笑うのが見えるようだった。
八幡「ありえませんね」
陽乃『本当に? 回転DEADだっていろはちゃんといっしょにいる時に起きたんだよ? それもラブホテルで』
八幡「あれは偶然です」
陽乃『二人でいる時ばかり例の女に狙われているのは?』
八幡「一人にさせないようにしてるんだから、当然だと思いますが」
陽乃『襲われたのに二人とも生きているのは?』
八幡「逃げたから、以外ありますか」
陽乃『本当に? 実は最初から殺すつもりなんてなくて、見逃してくれたなんてことはない?』
ふと、二度目に襲われた時のことを思い出す。
俺達の隣を素通りしていったあの女。
いや、あれは違う。
八幡「俺の能力が気配の遮断らしいんですよ。だからそれさえ発動すれば逃げ切れます。前回はまぐれでしたが」
陽乃『へえ、比企谷くんの能力。気配の遮断ねぇ… それ、本当に比企谷くんの能力だったの?』
八幡「……たぶん」
陽乃『ディソードは取り出せるようになった?』
八幡「…まだですけど」
陽乃『なら、どうしてそれが比企谷くんの能力ってわかるのかな? いろはちゃんが嘘をついてるわけじゃないっていう根拠は?』
八幡「根拠はないですね。でも、一色が犯人だなんていうよりは現実的です」
陽乃『比企谷くんは非現実的な事件に現実的かどうかなんて話を持ち出すんだね』
八幡「…どうしてそんなに一色を犯人にしたがるんですか?」
陽乃『どうしてそんなにいろはちゃんが犯人の可能性を否定するの?』
八幡「質問しているのはこっちです」
陽乃『最初に質問してたのはこっちだけど?』
八幡「…とにかく、あいつは違いますよ」
陽乃『認めたくないんだ?』
八幡「そういう問題じゃないでしょ」
陽乃『うーん、比企谷くんがそこまで言うなら違うのかなー』
八幡「……」
陽乃『ねえ、比企谷くん』
八幡「?」
陽乃『いつから君は、そんなにつまらなくなっちゃったの?』
陽乃『ビクビク怯えて人を疑ってばかりいたあの頃の君は、どこに行っちゃったのかな?』
八幡「っ……」
陽乃『今の君は必死に人を信じようとしてる。疑わしいところに目を瞑って。雪乃ちゃんのこともそうでしょ?』
八幡「それは…」
陽乃『それは?』
否定の言葉が出ない。
陽乃さんの言っていることは事実だ。
陽乃『改めて聞くけど、比企谷くんはいろはちゃんが犯人じゃないって言い切れる?』
八幡「……」
陽乃『――――そろそろ切るね。おやすみなさい』
八幡「……」
陽乃『あ、そうだ、一つ言い忘れてた』
八幡「……何か?」
陽乃『雪乃ちゃんのこと、裏切っちゃ駄目だよ』
そして、通話は一方的に終了した。
次の日の朝。登校中
ありえない推理だ。
そんなことがあるはずがない。
あの人の推理はこじつけに過ぎない。
そう思おうとしている自分に違和感があった。
八幡「………………」
いろは「…何かあったんですか?」
八幡「いや、別に」
いろは「わたしに嘘は通じませんよ」
八幡「大したことじゃない。気にすんな」
いろは「そうですか」
八幡「……」
いろは「……放課後、また奉仕部に行ってみましょう」
八幡「どうするんだ?」
いろは「雪ノ下先輩に聞くんですよ、ギガロマニアックスかどうかを」
どうやら、一色は俺が雪ノ下のことで思い悩んでいると思ったらしい。
今悩んでいたのはそのことではないのだが、全くの見当違いというわけでもなかった。
雪ノ下がギガロマニアックスかどうかは気になる。
そしてそれ以上に、彼女が俺に嘘をついているということが受け入れ難い。
本物なんてどこにもないのだということを突きつけられるような気がしてしまう。
八幡「聞くって、どうやって?」
いろは「直球で聞けばいいじゃないですか」
八幡「直球って…」
いろは「大丈夫ですよ」
八幡「何が?」
いろは「……先輩と雪ノ下先輩の絆は、そのくらいで壊れるようなものじゃないと思います」
絆、か。
そんな大層なものでも、安っぽいものでもないわけだが。
八幡「…わかった」
奉仕部部室
………
幸運にも、今日は由比ヶ浜が部活に来ていなかった。
三浦たちと買い物に行っているらしい。
部室にいるのは俺と一色、雪ノ下の三人だけ。
いろは「――雪ノ下先輩、ちょっといいですか?」
雪乃「何かしら」
いろは「聞きたいことがあるんですけど…」
そう言って、一色は俺を見る。
そうだ。俺が聞かなきゃ意味がない。
八幡「お前、ギガロマニアックスなんじゃないのか?」
雪乃「…いきなり何を言ってるのかしらこのゴミ谷くんは」
八幡「誤魔化すな。返事は『はい』か『いいえ』だ」
雪乃「…なら、『いいえ』ね」
いろは「……」
八幡「そうか。ならいい」
雪乃「そう」
八幡「……」
一色の表情を見て、察してしまった。
今のは嘘。
雪ノ下雪乃は、ギガロマニアックスだ。
いろは「どうして…」
雪乃「?」
いろは「どうして嘘をつくんですか? 雪ノ下先輩」
雪乃「…何のことかしら」
いろは「嘘ですよね、さっきの。雪ノ下先輩はギガロマニアックスです」
雪乃「どういうこと?」
いろは「とぼけないでください」
雪乃「……」
いろは「どうして本当のことを話してくれないんですか? 先輩は…… 先輩は雪ノ下先輩のこと、本気で大切に思ってるのに」
八幡「…おい、一色」
いろは「能力者だったら雪ノ下先輩も狙われるんじゃないかって心配して、嘘をつかれていることに傷ついて… それでも、雪ノ下先輩が危険にならないようにって、先輩はずっと、雪ノ下先輩のことを考えていたのに、それなのにっ…」
八幡「一色!」
いろは「…っ!」
八幡「その辺にしとけ。帰るぞ」
強引に一色の腕を掴み、立ち上がらせる。
いろは「でもっ!」
八幡「いいから。こっち来い」
雪乃「……」
そうして俺たちは部室を去った。
出ていく直前、雪ノ下の顔を見ることはできなかった。
帰り道
いろは「……」
八幡「……」
昨日の一色の言葉。
さっきの一色の言葉。
それが意味するところを考えて、そこで思考が止まる。
気になっていることがある。
…いや、あれはあの人の妄想だ。
一色が犯人のはずがない。
けれど、心のどこかでそれを確信できないでいる自分がいた。
あの人の話をありえないとする根拠はなんだ?
それを否定する理由は何だ?
一色いろはが犯人でないという証拠はどこにある?
絶対と言えるものが見つからない。
そうやって理由を探す自分に気づいて、また思考が止まる。
言われるまで気が付かなかった。
確かに、最近の俺は人を信じようとしている。
信じようと必死になっている。
人を疑うことを、忘れていた。
いろは「…先輩」
八幡「……」
いろは「せーんぱーいっ!」
八幡「うわ、びっくりした。いきなり大声出すな」
いろは「先輩が無視するからじゃないですかー」
八幡「……」
いろは「雪ノ下先輩のこと、ですよね…」
八幡「…まあな」
いろは「えっ」
八幡「?」
いろは「……雪ノ下先輩のことじゃ、ないんですか?」
失言に気がついたときには遅かった。
八幡「お前には関係ねーよ」
いろは「…関係あるんですね」
一色いろはは嘘を見抜くことができる。
いろは「…話してください」
これ以上隠し通すことはできそうになかった。
そして俺は、昨日の陽乃さんとの会話について語った。
いろは「…先輩、それ信じたんですか? わたしが犯人だなんて」
八幡「というより、否定できなかった」
いろは「ちゃんと答えてください」
八幡「…信じてない」
いろは「そうですか」
八幡「……」
いろは「もう一つ聞いてもいいですか?」
八幡「なんだ?」
いろは「先輩はわたしの事、信じてくれていますか?」
八幡「……」
いろは「答えられませんか?」
八幡「……信じたいとは思ってる」
いろは「つまり、信じられないんですね」
八幡「違う、そういうわけじゃ」
いろは「…嘘、分かるんですよ」
八幡「……」
いろは「別にいいですよ、それでも。なんとなく分かってましたから」
八幡「一色…」
いろは「わたしでは、奉仕部の二人のようにはなれないんですよね…」
それは違うと言ってやりたかった。
けれど、それすら本心なのかどうか疑わしくて、言葉を飲み込んでしまった。
いろは「今日はここまででいいです。家ももうすぐですから、大丈夫です」
八幡「いや、だが」
いろは「一人に…してください。お願いします」
八幡「……」
いろは「……さよなら」
すみません嘘つきました。
まだ終わっていませんが今日はここまでです。
一応ほぼ書き終わっているので近いうちに完結できると思います。……思います。たぶん。
比企谷家
八幡「………」
リビングでコーヒーを啜る。
言うまでもなくマックスコーヒーだ。
人生は苦いから、本当に苦いから、このくらい甘くなければやっていられない。
そこへ小町がやってきた。
小町「…お兄ちゃん、最近学校で何かあった?」
八幡「別に」
小町「うーん、これは何かあったパターン…」
八幡「何もねえって」
小町「前にも似たようなことを言っていたので信用できません」
八幡「そうだったか?」
小町「そうだったよ。お兄ちゃんとの大切な思い出を忘れるわけないじゃん。あ、今の小町的にポイント高い」
八幡「最後のひとことが余計なんだよなぁ」
小町「何があったのか知らないけど、小町に話してみ?」
八幡「……」
小町に一色との一件について話した。
もちろん、事件のことは言わない。
そこは生徒会関連のことだとごまかした。
小町「……これだからごみいちゃんは」
八幡「悪いな、だめな兄で」
小町「だめっていうか、ごみ?」
言い直さなくていいでしょ、それ。
小町「お兄ちゃんは小町のこと信じてる?」
八幡「もちろん」
小町「ありがと! 小町はそうでもないよ、ごみいちゃんだし」
八幡「……」
小町「お兄ちゃんがしたのって、そういうことなんだよ。今のは冗談だけど、ほんとに言われたらイヤでしょ?」
八幡「……そうだな」
小町「それで、お兄ちゃんはどうしたいの?」
八幡「どうって… 謝る、とか」
小町「ざんねん。不正解」
八幡「え、これクイズだったの?」
小町「そうだよ。ということで、次の回答をどうぞ」
八幡「……」
小町「はーい、時間切れ、ざんねん」
八幡「いや、突然どうしたいとか聞かれてもだな」
小町「正解は、いろはさんと仲直りしたい、でした!」
八幡「……それができたら苦労はないんだが」
小町「ばかだなぁ、お兄ちゃん」
八幡「?」
小町「そういうときはなんて言えばいいか、教えたでしょ?」
八幡「……?」
朝 一色家近く
八幡「よう」
いろは「…おはようございます」
八幡「……」
いろは「……」
八幡「行くか」
いろは「…はい」
八幡「その、だな… 昨日は悪かった」
いろは「…別に。先輩のせいではないですし」
八幡「……」
いろは「……」
八幡「……」
いろは「……今日は、どうして迎えに来てくれたんですか?」
八幡「一人で行かせるわけにも行かないだろ」
いろは「……そうですよね」
どうする。
このままじゃいけないのは明白だ。
俺はどうしたいのか。
俺の答え。
本物が欲しいと言った彼女に対する、答えられなかった俺の答え。
それはまだ見つかったわけじゃない。
けれど。
八幡「…はぁ」
小町、本当にこれでいいのか?
また間違えそうな気がしてならないんだが。
いろは「……先輩?」
立ち止まった俺の方へと一色が振り返る。
八幡「一色」
いろは「……何ですか?」
八幡「愛してる」
いろは「……え?」
八幡「……」
いろは「ふぁ!? へっ? え!?」
八幡「…言っておくが、口説いてるわけじゃないからな。お前が葉山のこと好きなのはわかってる」
それでも、小町曰くこういう時はこの台詞がベストだという。
八幡「お前のことを信じられるなんて言ったら嘘になるし、昨日言ったのも本音だ。そのことはお前の方が理解してると思う」
いろは「……」
八幡「ただ、その、なんつーか、信じたいと思ってるのも本当だし、それに……なれたらいいと思う。だからつまり、えっと」
いろは「……だからつまり、何ですか?」
八幡「……………よくわからん」
いろは「台無しですね」
八幡「すまん」
いろは「先輩、口説くの下手すぎません?」
八幡「だから口説いてねぇ」
いろは「…あんなことを言っておいてそれが嘘じゃないあたりすごいというか、流石というか。でも、わかりました」
八幡「?」
いろは「せっかくなので、わたしが見本を見せてあげます」
八幡「??」
いろは「先輩が好きです。わたしと付き合ってください」
八幡「!?」
いろは「口説いてないのも本当みたいですけど、愛してるって言ってくれたのも本当ですよね? だから、わたしと付き合ってください」
八幡「な、ななっ、なん、いや、ちょっと待った」
いろは「?」
八幡「お前、葉山のことが好きって言ってただろ」
いろは「そうですね」
八幡「…もしかしてからかわれたのか?」
いろは「何でそうなるんですか違いますよ先輩頭大丈夫ですか?」
八幡「…ならどういうことだよ」
いろは「葉山先輩のことは好きでしたし、嫌いになったわけでもないですよ。ただ、それ以上に先輩のことが好きになっちゃったんです」
八幡「」
いろは「……それとも、わたしでは駄目ですか?」
八幡「駄目ではないが。お前こそ本当に俺でいいのか?」
いろは「何度も言わせないでください。先輩がいいんです」
まっすぐに俺を見て、一色は言い切った。
ここまではっきり言い切られてしまうと、もういろいろなことがどうでも良くなってくる。
不満なんてあるはずがない。
一色いろはは素敵な女の子だ。
それは疑い用がない。
いろは「聞かせてください。先輩は、わたしのこと好きですか?」
でも、それはそれとして。
八幡「…好きじゃねえ」
好きだとか愛してるだとか、あれはやはり小町専用のコマンドだ。
もう絶対に言わない。
というか、恥ずかしくて言えない。
けれど、一色はあざとく笑ってみせた。
いろは「嘘はわかるんですよ、先輩」
もう、どうにでもなれ。
「……そう。比企谷くんも、私を選んではくれないのね」
八幡・いろは「!」
その声に、俺たちは同時に振り向いた。
現実離れした美しさに見とれる。
凍てつくほどの熱と、
凄惨なまでの魅惑。
同化と反発。
受容と諦観。
――ディソード。
それを手にしているのは
雪ノ下雪乃だった。
八幡「……雪ノ下」
雪乃「何かしら」
八幡「やっぱり、ギガロマニアックスだったんだな」
雪乃「ええ。隠していてごめんなさい」
八幡「……隠し事くらい、誰にでもあるだろ」
雪乃「優しいのね」
八幡「別に普通だ」
雪乃「そう… 少し、そこをどいてくれるかしら」
言って、雪ノ下はこちらへ近づいてくる。
八幡「?」
雪乃「邪魔なのよ。そこにいられると」
そして、雪ノ下はディソードを振り切った。
何かがぶつかり合う音。
遅れてそれを視認する。
一色のディソードが、雪ノ下のディソードを防いでいた。
リアルブート。
2つのディソードは実体化している。
八幡「……え?」
初撃を止められたとわかると、雪ノ下はすぐ次の攻撃に移る。
身の丈ほどの大剣を軽々と振り回し、一色を追い詰める。
八幡「……何、で」
一色はそれをどうにか防いでいる。
いろは「っ……、やめて、ください。雪ノ下先輩」
雪乃「残念だけれど、それはできないわ」
言いながら、雪ノ下はディソードを振り下ろす。
いろは「きゃっ」
一色は悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
その隙を雪ノ下は見逃さない。
雪乃「…終わりのようね」
…どうして雪ノ下が、一色を襲っているんだ?
それを考えるより先に駆け出していた。
理由なんて知らない。
それよりもまず二人を止めないと。
虚空へと手を伸ばす。
浮かび上がるシルエット。
それを強引に掴んで、二人の間に割って入った。
また、ディソードがぶつかる音。
雪乃「!?」
俺のディソードが、雪ノ下のディソードを受け止める。
いろは「先輩っ!」
八幡「早く立て!」
雪乃「……どういうつもりかしら」
八幡「それはこっちの台詞だ。どういうつもりだよ」
雪乃「決まっているじゃない。一色さんを殺すのよ」
八幡「――――っ!」
雪乃「邪魔なの。困るのよ。私から比企谷くんを奪ってしまうから。……駄目、もう終わりにさせて。何人殺せば気が済むというの?」
八幡「…何言ってんだ、お前」
雪乃「ずっと前から鬱陶しかった。比企谷くんにまとわりついて、部員でもないのに部室に入り浸って、三人の時間の邪魔をして」
いろは「……そんな」
一色の絶望する声が聞こえる。
それが意味することに気づいて戦慄した。
今雪ノ下が語っている言葉に、嘘はない。
雪乃「だから殺さないと。そうしないと、あなたが何処かへ行ってしまう」
八幡「っ…」
雪ノ下のディソードを押し返す。
二人の間に距離が生まれた。
雪乃「ほら、早くどきなさい。そこにいると邪魔よ」
八幡「……断る」
いろは「……先輩」
雪乃「一色さんを… そう、そうなのね。でもそうよね、その通り。だから、一色さんさえいなくなれば――!」
再び雪ノ下がディソードを振るう。
俺はそれを防ぐ。
八幡「やめろ雪ノ下! お前いったいどうしたんだよ!」
雪乃「どうもしていないわ。あの場所を、時間を、守りたいと思っただけ」
八幡「一色だってもうあの場所の一員だった! お前だってそれを受け入れてたんじゃないのかよ!」
雪乃「そうね、楽しかったわ。だけど仕方ないの。そうしないとあなたがいなくなってしまう」
八幡「何、言ってんだ。んなわけ…っ」
雪ノ下の剣戟は続く。
隙をみせればそれは一色へと向けられるだろう。
かといって、こちらから攻めることもできない。
雪ノ下を斬る?
そんなことありえない。
八幡「一色、離れてろ。ここじゃ危ない」
いろは「でも先輩が!」
八幡「いいからっ」
いろは「……っ」
雪乃「させないわ」
八幡「落ち着け雪ノ下!」
雪乃「どきなさい。どかないならあなたから殺すわ」
八幡「そうしたきゃそうしろ、一色に手を出すな」
雪乃「そう。なら遠慮なく」
いろは「…………?」
八幡「何してんだ一色! 早く逃げろって」
いろは「…でも」
一色は逃げようとしない。
こうなったら、アレにかけるしかないか。
成功するかはわからない。
方法もよくわからない。
それでもやるしかない。
雪乃「逃げないのね、一色さん。それは殺されたいということでいいのかしら」
いろは「……」
一瞬、雪ノ下の意識が一色に向いた。
――今だ。
感覚を研ぎ澄ませる。
イメージを、妄想をする。
誰にも存在を認識されないという妄想。
あの日のことが俺の能力なら、その効果は一色にも及ぶはず。
雪乃「……!?」
雪ノ下の動きが鈍る。
俺の気配を消す能力が発動したようだ。
逃げるなら今しかない。
八幡「行くぞ、一色」
いろは「はい」
少し離れた場所の物陰に身を潜めた。
今のところ、雪ノ下の姿は見えない。
いろは「雪ノ下先輩変ですよ」
八幡「見りゃわかる」
いろは「いえ、そうではなくて。雪ノ下先輩、一つも嘘をついていないんです」
八幡「……どういうことだ?」
いろは「わたしをずっと邪魔だったと言ったことも、わたしがいた時を楽しかったと肯定したことも、奉仕部の時間を守りたいと言ったことも、先輩を殺すと言ったことも、全部本気なんです」
八幡「……矛盾してるな」
いろは「そうなんです。だから変だと思いまして」
八幡「……あいつ自身錯乱していて、嘘も本当もないってことは考えられるか?」
いろは「ありえるかもです」
八幡「そうか。問題はその理由だが」
いろは「…誰かに操られているとか」
八幡「漫画かよ… いや、ギガロマニアックスならありえるか」
いろは「! 先輩走って!」
突然一色が俺の手を引いて駆け出した。
その直後、強烈な音と爆風が背中に直撃する。
焼け焦げるような匂いと、熱。
何もないところからの発火。
振り返り、その姿を確認する。
想像通りのピンクの長髪。
それは今の俺には絶望の色と映った。
???「――――――」
八幡「…こんな時に!」
いろは「これからどうするんですか!?」
八幡「どうするも何も逃げるしか」
いろは「でもこの先は雪ノ下先輩が」
八幡「……っ」
俺達が走っている方向には雪ノ下がいる。
前後を挟まれてしまった。
このまま走れば雪ノ下と遭遇してしまう。
それでも、あの女から逃げるには走るしかない。
そうして走っているうち、雪ノ下の姿が見えてきた。
雪乃「…あら、まさか出てきてくれるなんてね。観念したのかしら?」
平然とした口調でそう言う雪ノ下。
その顔が、紅く汚れていた。
八幡「…お前、それ」
彼女の様子は明らかに異常だった。
見開かれた両目から流れ出る真紅の液体に、彼女は気づいていない。
いろは「雪ノ下先輩、血が…」
雪乃「血? ああ、本当ね。気が付かなかったわ。ありがとう。でも大丈夫よ。今はあなたと比企谷くんを殺さなければならないから。そうしないと比企谷くんがどこかへ行ってしまうの」
明らかに矛盾したその言葉を、彼女は不思議に思っていないようだ。
雪乃「あなたを誰にも渡したくないの。だからいいでしょう?」
八幡「いいわけあるか。それより自分の体の心配を」
雪乃「私なら平気よ。今はあなたを殺す方が優先でしょう。私はあなたを殺さなければならないの」
八幡「……」
やっぱりそうだ。
今の雪ノ下は俺たちを殺さなければならないと無理矢理に思い込まされている。
でなければ、雪ノ下がこんなことを言い出すなんてありえない。
犯人のギガロマニアックスの能力は、思考誘導と言ったところだろうか。
許せない。
誰が何の目的でこんなことをしているのか。
それを考えている時間はなかった。
後方にあの女の姿が見えてくる。
前後から命を狙われているこの状況。
二人のうちどちらかを無力化できなければ待っているのは死だ。
どちらを無力化するか。
それは考えるまでもなかった。
八幡「一色、雪ノ下は任せた」
いろは「……はい!」
雪乃「待ちなさい!」
いろは「いかせません」
俺は女へ向かって走り出す。
これで俺は格好の的。
だが、あの能力さえあれば。
さっきと同じ要領で気配を消した。
女は接近する俺に気がつかない。
いける!
いろは「――――――――ッ!」
背後で一色の悲鳴が聞こえた。
まずい。急がないと。
女との距離がみるみるうちに縮まっていく。
そのまま女の頭へ向けて、ディソードを思い切り叩きつけた。
???「…!?」
女は何の抵抗もできずにその場へ倒れ込んだ。
その後は起き上がる様子を見せない。
気を失っているようだ。
八幡「……やりすぎたか? いや、それより今は」
いろは「先輩後ろ!」
八幡「え?」
腹部に違和感。
俺の背中から突き刺さっている鋭利な刃。
傷口から溢れ出る血液が、ディソードを伝う。
八幡「――――っ」
焼けるような痛み。
どうやら、俺は雪ノ下に刺されたらしい。
いろは「先輩っ!」
遠くで一色が叫ぶのが聞こえた。
雪乃「比企谷、くん……?」
呆然とした様子で雪ノ下が呟く。
八幡「…雪ノ下」
雪乃「どうして… 私は比企谷くんがいなくならないように一色さんを殺さなければならなくて、でも一色さんのことを比企谷くんが守るから比企谷くんを殺さないといけなくて… 殺したくなんてなくて…あ、れ…? どうなって…わた、し……は……?」
次の瞬間、俺の腹部に突き刺さったディソードが消滅した。
八幡「っ!」
支えを失った身体がその場に崩れ落ちる。
雪乃「ねえ、どうしてよ… 私は、こんなつもりじゃ… 比企谷くん…」
俺を呼ぶその声は、けれど俺に向けられたものではないようだった。
雪ノ下は血涙を流しながら空を見上げている。
その姿がぼやけていく。
意識が遠くなっていく。
……。
いろは「先、輩… 先輩!」
俺を呼ぶ一色の声で目が覚めた。
路上で横たわる俺のすぐ傍に彼女はいた。
八幡「…………一色?」
いろは「先輩!? 先輩しっかりしてください!」
八幡「………おう…………っ」
腹部に激痛が走る。
大剣によって空けられた大穴からの出血は止まっていない。
酷く、寒い。
八幡「雪ノ…下…は?」
いろは「気を失って倒れてるみたいです」
八幡「そう…か……っ」
いろは「喋らないでください! 救急車を呼びましたから!」
八幡「………油断、した。ちょっと…………しくじっ……た」
いろは「それはわたしのせいです。わたしが、雪ノ下先輩を止められなかったから」
よく見れば、一色の腕からも血が流れている。
雪ノ下にやられたのだろうか。
八幡「…気に…………すんな。お前、も………怪我、して……だろ」
いろは「わたしの怪我なんて大したことないです! それより、今は先輩が…」
八幡「…俺、も……大し…………こと、ねえ……よ。もう……痛み、も………」
いろは「大丈夫じゃないです! 死ぬつもりなんですか!?」
死ぬつもりかどうかの問題じゃない。
どうしたって助からない。
それを実感してしまうほどに、瞼が重い。
いろは「駄目ですっ……先輩……死んじゃ嫌です……っ……」
途切れ途切れの声に嗚咽が交じる。
泣いているのだろうか。
よく、見えない。
いろは「……しっかり、してください……っ……先輩……先、輩…………」
もし、泣いてくれているのだとしたら。
一色は俺のために泣いてくれているのだろうか。
そうだとしたら…
八幡「………っ……」
声が出ない。
言わなければならないのに。
いろは「…先輩……先輩……っ……」
ようやく見つかった気がするのだ。
嘘と偽物、欺瞞に満ちた世界で、俺がずっと探していたものが。
なあ、一色。
この涙が、きっと――――――
教室
………あれ?
わたしは微睡みの中から目を覚ます。
どうやら寝ているうちに授業は終わってしまったらしい。
まあ、そんなときもあるよね。
向かうのは特別棟のとある部室。
そこにいる彼のところ。
いろは「こんにちはー! すみません遅くなりました」
言いながら、わたしはその部屋のドアを開けた。
八幡「遅くってか、お前部員じゃないだろうが」
雪乃「あら、比企谷くんにしてはまっとうな発言ね。もしかして人間だったのかしら」
八幡「いや普通に人間だから。ヒキガエルとかじゃないから」
結衣「あはは…」
三人とも、相変わらずだなぁ。
あの後、先輩はなんとか一命を取り留めた。
雪ノ下先輩も正気に戻り、先輩が退院した時には以前と同じ奉仕部が戻ってきていた。
優しくて温かいこの場所が。
結衣「ほら、いろはちゃんも座って」
いろは「はい。ありがとうございます結衣先輩」
八幡「なあ雪ノ下。お前はそろそろ人に優しくすることを覚えた方がいい」
雪乃「問題ないわ。相手は選んでいるもの」
八幡「いや問題あるから。俺が超傷ついてるから」
雪乃「?」
雪ノ下先輩はきょとんと首を傾げた。
…なんだか面白くない。
結衣「まあまあ、二人ともそのくらいにして」
いろは「そうですよ。そんなに仲良さそうにされると嫉妬しちゃいます」
雪乃「!?」
結衣「!?」
八幡「おまっ……嫉妬って」
いろは「あ、先輩顔赤いですよ。大丈夫ですか?」
八幡「……くそ」
いろは「先輩って結構かわいいですよね」
八幡「妹が世界一可愛いからな、そういうこともあるかもしれん」
いろは「彼女の前でそういうこと言っちゃうなんて、いろは的にポイント低い」
八幡「似てねぇ」
結衣「結構似てたと思うけど…」
雪乃「だんだんうまくなっているのよね…」
八幡「っていうかあれだ。周りに人がいる時にそういうこと言っちゃうのが八幡的にポイント低い」
いろは「では部活が終わったらですかねー。……昨日のキス、結構良かったですよ」
八幡「な――――!」
雪乃「……比企谷くん。周りに人がいるところでいちゃつくのはポイント低いと思うのだけれど」
八幡「……今のは俺じゃないだろ」
結衣「もう今日の部活終わりにする? 誰も来ないみたいだし」
いろは「でしたら先輩、またあのお店行ってみましょうよ。今からなら間に合いそうです」
八幡「いや、勝手に部活終わりにするのはまずいでしょ」
雪乃「構わないわよ。あなたたちには酷いことをしてしまったから、私からのお詫びということで」
いろは「ほら、雪ノ下先輩の許可も出たことですし」
八幡「……はいはい、わかったよ」
廊下
いろは「先輩、わたしのこと好きですか?」
八幡「どうだろうな」
いろは「曖昧な返事するのずるいです」
八幡「……明確に言ったらお前のこと大好きなのがバレちゃうだろうが」
いろは「そうですよね…って、え?」
八幡「……」
いろは「ちょっと待ってください先輩、今のもう一度!」
八幡「……」
こういうところ、私より先輩の方がよほどあざといと思う。
先輩はかなり捻くれていて素直じゃない。
だけど、わたしはそんな先輩が好きでたまらない。
こうして一緒に過ごせる時間が、何よりも楽しい。
そして確信がある。
先輩となら、きっとわたし達だけの本物を見つけられるって。
いろは「先輩。わたし今、とっても幸せですよ」
END
以上で終了です。
駆け足にしすぎた感はありますがなんとか終われました。
事件がまだ残っていたりするのはカオチャのネタバレを避けたため、そして【雪ノ下雪乃編】用にネタを残すためです。
今回はカオチャの某ルートに近い終わり方になりましたが、雪ノ下編ではカオチャと違うエンディングを予定していました。
していましたが、時間がありません。
いろいろ落ち着いたら書きたいと思っていますが、書くという約束もできないので一旦ここまでで終了にします。
読んでいただきありがとうございました。
以下
勘のいい人はカオチャのネタバレ注意。
とある場所
葉山隼人が雪ノ下陽乃の元を訪れた時、彼女は誰かと電話中だった。
陽乃「…へぇ、比企谷くん雪乃ちゃんに刺されちゃったんだ。だから裏切っちゃだめって言ったのに」
『――――本物も見つけられたみたいですし、後悔はないと思いますけどね』
陽乃「ふーん」
葉山「……」
『――――では、そろそろ切りますね』
陽乃「はいはーい。またねー」
通話終了
陽乃「…ま、私も面白かったからいいんだけどね」
葉山「…相変わらずですね」
陽乃「そう?」
葉山「雪乃ちゃんの様子はどうですか?」
陽乃「回復してきてるから心配はいらないよ」
葉山「……」
陽乃「何か言いたいことでもあるの?」
葉山「…………その荷物、重そうですね」
陽乃「荷物って?」
葉山「背中のそれですよ」
陽乃「ああ、これね」
葉山「何が入ってるんですか?」
陽乃「さあ、何でしょう」
葉山「……どうして、あなたは」
陽乃「何でもいいじゃない。面白ければ。…雪乃ちゃんのものにならない比企谷くんなんて、いらないしね」
【一色いろは編 Dark Sky End】
「お兄ちゃん、楽しかった?」
このSSまとめへのコメント
面白やん
カオスチャイルド知らないけど面白い‼︎
すごい面白いです!
僕も受験生ですが、息抜きで読んでます!
頑張って下さい!!