槍使い「ったく、勇者の奴遅いな……いつまで待たせやがる」
槍使い「王様との謁見はまだ終わらねえのかよ」
剣士「まあいいじゃないか。俺たちは城に入れる身分じゃないし、ゆっくり待とう」ペラ…
槍使い「――ん? お前、なに読んでるんだ?」
剣士「小説だよ」
槍使い「なんて小説?」
剣士「『魔剣大戦争』ってやつ。一振りの魔剣をめぐって巻き起こる戦乱を描いた小説だ」
槍使い「へっ、いかにもお前が好きそうなやつだな」
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剣士「でさ、この小説読みながら思ったんだけど……」
槍使い「?」
剣士「名前だけ登場するキャラクターっていいよな」
槍使い「名前だけ? どういうこと?」
剣士「たとえば、この小説の舞台になってる大陸には」
剣士「“五剣士”っていう凄腕の五人の剣士がいるって設定なんだけどさ」
槍使い「へえ、ベスト5ってやつか」
剣士「このうち四人は出てくるんだけど、残る一人はずっと謎のままなんだよな」
槍使い「謎のまま? つまり登場しないってことか」
剣士「そうそう、名前と設定だけはあるんだけど、実際に出てこないんだ」
剣士「でさ、こういうキャラってなんかグッとこないか?」
槍使い「へ? なんで?」
剣士「いや、なんでといわれても、なかなか説明するのが難しいんだけど……」
剣士「この出てこない一人はどんな奴なんだろう、とか、どれぐらい強いんだろう、とか」
剣士「想像する余地が残されてるのがいいっていうか……」
槍使い「うーん……分かるような分からないような」
槍使い「逆に俺は、せっかくそういう設定があるんなら、全員出して欲しいって思っちまうなぁ」
剣士「どうして?」
槍使い「だってモヤモヤするじゃん。この残ってる奴がどんな奴だったんだろうって」
槍使い「いくら想像したところで、作者が登場させなきゃそれは想像のまま終わっちまうしさ」
槍使い「いってみりゃ、あれこれ悩んだクイズの答えを教えてもらえないようなもんだ」
剣士「まあ、そういう気持ちも分かる」
剣士「でもさ、全員出ちゃうと、なんつうか世界が狭くなる気がするんだよな」
剣士「なにか一つぐらい、謎や不明点が残ってた方が世界が広がるっていうか」
槍使い「ふうむ、世界が広がる、ねえ……」
剣士「そりゃもちろん、謎だらけで終わるのは勘弁だけどな!」
剣士「五剣士の例でいうと、五人のうち誰一人出ないまま終わっちゃうとか」
槍使い「人気が出なくて物語が打ち切られちゃうと、そういうことも起こるよな」
槍使い「ま……もし仮に俺たちが今やってる会話が“一つの物語”だったとすると……」
槍使い「勇者なんかはまさに“名前だけ登場するキャラクター”だな」
剣士「ハハッ、たしかに」
剣士「だけど、あいつはもうすぐ来るはずだぞ」
槍使い「ああ、それにしても遅いな……なにやってんだあいつ」
槍使い「もうそろそろ王様との謁見も終わった頃だろうし、ちょっと城の兵士に聞いてみるか」
剣士「あのー、すみません」
兵士「はい?」
剣士「勇者って、今どこにいるか知ってます?」
兵士「勇者さんなら、とっくに出発しちまったけど?」
剣士「は!?」
槍使い「なんで!?」
剣士「とっくにって、いつ頃ですか!?」
兵士「んー、もう一時間以上前じゃないかな」
槍使い「あいつ、俺たち二人も魔王退治に連れてってくれるっていってたのに!」
兵士「あー、たしかにいってた」
兵士「王様にも『剣士と槍使いも連れていきます』っていってたけど、やっぱり気が変わったそうだ」
剣士&槍使い「なんだってえええええええ!!?」
槍使い「ど、どうするよ!」
剣士「決まってるだろ!」
剣士「全速力で勇者に追いつくんだ!」
槍使い「おう!」
剣士&槍使い「名前だけ登場するキャラになるのは嫌だああああああああああああ!!!」タタタタタッ
おわり
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