【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【三輪目】 (1000)

このスレは安価で

久遠天乃は勇者である
結城友奈は勇者である
鷲尾須美は勇者である
乃木若葉は勇者である
久遠陽乃は……である?

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的


・バーテックスの殲滅
・勇者部のみんなを生き残らせる


安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります


日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2


能力
HP MP SP 防御 素早 射撃 格闘 回避 命中 
この9個の能力でステータスを設定

HP:体力。0になると死亡。1/10以下で瀕死状態になり、全ステータスが1/3減少
MP:満開するために必要なポイント。HP以外のステータスが倍になる
防御:防御力。攻撃を受けた際の被ダメージ計算に用いる
素早:素早さ。行動優先順位に用いる
射撃:射撃技量。射撃技のダメージ底上げ
格闘:格闘技量。格闘技のダメージ底上げ
回避:回避力。回避力計算に用いる
命中:命中率。技の命中精度に用いる

※HPに関しては鷲尾ストーリーでは0=死になります


戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに



前スレ
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1464699221/)
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1468417496/)


天乃「なら、今回は夏凜と組むことにするわ」

本人もそう言ってくれてることだしね。と

くすくすと笑って見せると夏凜は肩をすくめて笑う

無駄なことを言わずに受けてくれるその気遣いは

今の天乃にとってはありがたいことで

その笑みに答えるように笑って、息をつく

天乃「風は樹。友奈は東郷。それでいいわね?」

東郷「……わかりました」

3組に分かれて活動し、

そのあと合流するのかどうかの話さえもなくそれぞれ道を進んでいく

みんな、一刻も早くその場から離れたかったのだ

なんて言えばいいのか、何をすればいいのか

それが分からないから

いつも通りに過ごすということが上手く出来なくなってしまったから

夏凜「ったく、面倒くさい奴らね。ほんと」

天乃「貴女もだけどね」

夏凜「自分を棚に上げんなっての」


車いすを押してくれる夏凜との雑談

それは、ついさっきまで勇者部の部室にあふれかけていた罪悪感の少し重い空気が溜まった肺を

少しだけ圧迫して、押し出す

夏凜は一番初めは嫌な子だった

けれど、ここ数日

いろいろと助けられている気がすると、天乃は夏凜を見上げる

夏凜「なによ」

天乃「ううん。別に、ただ。優しいなって」

夏凜「優しくはないわよ。ただ、あんたのことを任されてるから相手してやってるだけだし」

いや、だからこそ優しいのだ

ただ任されたという理由だけで

ここまで付き添ってくれるのだから

もっとも、夏凜のその言葉自体、本音を隠した建前なのだが

天乃はフフッと笑うと

天乃「そっか、不本意でもここまでしっかりと付き合ってくれるのね。やっぱり、優しいわ」

夏凜「なっ……あんたねぇ」

若干名嫌悪感を感じそうな声だったが

実際にはそんな感情などみじんも感じず、けれどもどこか呆れたような色が感じられた


天乃「でも、どうして夏凜はみんなみたいに気にしないでいられるの?」

夏凜「逆に聞くけど、出会って一週間足らずの相手にそこまで配慮しようって気になるわけ?」

夏凜はやや自信有り気にそう聞いた

もちろん、それは少し難しいという答えが来ると予想して。だ

しかし、相手は天乃

あの、久遠天乃なのだ。ゆえに

天乃「しちゃうかな」

答えは予想に反していて「はぁ……さすが」と

まったくもってほめていない賞賛の言葉を述べる

夏凜「残念だけど、私はそんな気にはなれないし、する気はない。あんたの目の前だから遠慮とか。してらんない」

それは聞く人によっては冷たいと思うかもしれない

でも、夏凜はそういう子なのだと天乃はなんとなくわかっている

だから、酷いと罵ることはない

むしろ、その有難い冷たさを持ち続けてほしいとさえ思う

夏凜「第一、気遣うならむしろ気にしないべきだって思うけど」


きゅるきゅると音をさせながら車いすを押す夏凜は

天乃の遠慮することなく厳しいことを言って、ため息をつく

本当にそう思う

友奈たちは優しいのかもしれない

だから、そういうことができないのかもしれない

けれど、それは誤りだ

優しければいいってものではないし

かといって意地悪であればいいわけでもないのが人付き合いというもの

分かったようなことを考えつつ、夏凜は深々とため息をつく

夏凜「面倒くさい、だから嫌いなのよ。人付き合いなんて」

人から嫌われてばかりだった

他人だけでなく、両親からだってそこまで有難く思われた覚えがない

けれど、兄はどうだったか。瞳はどうだったか

それを思い、くすっと笑う

天乃「どうかした?」

夏凜「いや、別に」


ちょっとばかりごまかしたような夏凜の表情

けれど、天乃はその笑みに悪い気は感じなかった

それならいいけれど。とさらっと流し、猫の飼い主はどうしましょうか。と

今二人きりでいる本来の目的を切り出す

夏凜「そういわれてもねぇ」

今回の依頼内容、というよりも残っていた仕事は

猫を引き取り、里親に出す

そんな割と簡単な仕事だ

猫を受け取ることに関してはすでに話が済んでいるし

猫を渡すことに関してもすでに話は済んでいる

天乃「とりあえず、猫を受け取らないことには話が進まないし。行きましょうか」

夏凜「そうね」



1、……でも、少しだけ寄り道しない?
2、ねぇ。どうして一緒に組んでもいいって言いだしてくれたの?
3、みんな。いつも通りに接してくれるかしら
4、私。また戦いから退いてくれって言われたわ
5、とりあえず依頼をこなす


↓1


天乃「でも、少しだけ寄り道しない?」

夏凜「………………」

唐突。というほどでもなかった

昨日の今日ということもある

それ以前に、何かしらがあったであろうことは夏凜も薄々と勘づいていて

だから「別に、時間はあるし」そういって近くの公園へと足を運ぶ

話したいことがあるのか

そうではなく、ただ何もしていない空白の時間が欲しいのか

いずれにせよ、断る理由はない

夏凜「ベンチに座る?」

天乃「ううん、私はもともと座ってるから」

夏凜「そ」

何かを悩んでいるような少し浮かない表情の天乃を一瞥して

夏凜は雲の少ない空を見る

土曜日ということもあって、ちらほらと人のいる公園

お父さんお母さんあるいは友達、あるいはカップル

様々な関係の一般人の喧騒の中、一般人に身をやつした勇者の二人は息をつく

夏凜は何も言わない

天乃達ほど人付き合いが上手くないから話せないのではなく

なんとなく、今は自分から何かを切り出すべきではないと思ったから

夏凜「…………………」

だから夏凜は、ただじっと待つ


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば似たような時間から


では初めて行きます


天乃「……何も言わないのね」

夏凜「あんたが何か言ってほしいなら言うけど?」

言えることはあるのか分からないが

少なくとも言いたいことはある。けれど

今まで生きてきた中で、勇者部と出会う以前の自分の発言が

周りの誰かにとって良く作用したことがないと自覚している夏凜は

疑問に疑問を押し返して、天乃を見る

夏凜「猫の受け取りと受け渡し。私、大して興味はないしね」

天乃「同族嫌悪?」

夏凜「あんたの中では私は煮干しだったんじゃないの?」

さらりといった冗談に、

夏凜は間を置くこともなく答えると天乃の少し驚いた表情を見て、くすっと笑う

夏凜「あんたの度肝を抜かせる回答。さすがで――」

天乃「ええ。まさか煮干しを咥えたどら猫にまで進化するなんて驚いたわ」

夏凜「おい」


天乃「ふふっ」

夏凜「あんたの中で私はどうなってんのよ」

天乃「どうなってるって、友達……だけど?」

天乃は当然のように

いや、きっと、天乃にとってはそれが当たり前なのだろう

なぜそんなことを聞くのかと言いたげな純粋な表情に疑問符を乗せて

天乃は答える

夏凜「ぁ……そ、う」

興味なさげな言い方をして内心、忙しない胸元に手を宛がう

純粋さというか無垢さもない悪戯っ子の純朴な瞳

それでありながら夏凜が欲していてもどうせないと切り捨てがちな答えを述べる

それが計算したうえでの行動であるのなら

天乃のことを素晴らしい悪女だと言えるのだろうが……

残念ながらそう責められない

あくまで、彼女は計略などないのだから

天乃「それとも、何? 夏凜の中では違うの?」

夏凜「……先輩後輩。あるいはライバル。まだ見えてないあんたの背中を見るのが今の私の目標よ」


照れくさそうに述べた夏凜は

小さく「それでいつか追い抜いてやるんだから」と言って

握りこぶしを震わせる

圧倒的な実力差の上での敗北

瞳は仕方がないといった。そうだ、仕方がない

一世代前の勇者なのだから経験が違う。確かにそうだ

けれど、だからと言って

健常者である自分が、なんの援護もない相手に敗北したことが許せるわけではなかった

いいや、違う

一番嫌だったのは、一番悔しかったのは、一番悲しかったのは……

夏凜「っ」

夏凜は頭を振ると、天乃を一瞥して笑う

それで誤魔化せるとたかを括ったわけではないが

けれど、どうしても笑ってしまいたかった

そうでなければ、天乃ではなく、自分が吐露しかねないと思ったから




1、貴女は出来る子よ。大丈夫、いつか私よりもずっと先に行ける
2、ふふっ。貴女には難しいんじゃない?
3、そう。楽しみにしてるわね
4、……でもね。私。大赦の人に退けって言われたの
5、夏凜は婚約者とかいる?


↓2


天乃「変なこと聞いても良い?」

夏凜「聞くだけならご自由に」

ぶっきら棒に言いつつも、しっかりと耳を傾けて

横目でちらりと天乃を見ると、くすっと笑う笑みが見えた

なに笑ってんのよ。と言うよりも

自分の態度で笑みを引き出せるということが少しばかり嬉しくて

夏凜は不問にしてやるか。と、息をつく

しかし

天乃「夏凜は婚約者とかいる?」

夏凜「婚約者ねぇ……って、はぁ!?」

いるわけあるか! と

せっかく真面目に聞いてやろうと思ったのに

なんて、まだ最後まで聞いていなくても

冗談だと判断して声を上げる

周りの子供が何か騒いでると顔を上げ、またすぐに遊びへと戻っていく

そんな視線を一瞬感じた夏凜はほほをかいて、「何言ってんのよ」と続ける

夏凜「私達何歳だと思ってんのよ。いや、まぁ、確かにあと二年で結婚とか出来るだろうけど。だけど、さすがに、ないわ」

天乃「そうよね……さすがにないわよね。私の家が特別なのかしら」

冗談だと流しに入った思考に喝を入れる声

それは決して激しさはない

むしろ激しさがなく、穏やかというよりも嵐の前の静けさのような不穏さがあった

夏凜「……何あんた、婚約者いんの?」

だから、夏凜は恐る恐るそう聞いた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



天乃「友達だと思ってる」

夏凜「わ、わた……」

夏凜(私も友達、私も友達、私も友達……)グッ

夏凜「私はどーとも思ってない」

夏凜(ちがあぁぁぁぁぁう!)


では初めて行きます


現状では、いるのかいないのかと聞かれれば、

それはノーだ。加えて言えば以降も絶対に婚約者ができるという確証はない

最も、今は疎遠になっている久遠家が

適齢期に近づいてきたことで接触を図ってきて

婚約者とお見合いをさせてくる可能性もあるのだけれど

天乃「今のところは。ね」

夏凜「なら何よその質問。なんなの? まさか、自分が結婚できるかーなんて将来の不安でもあるわけ?」

そんなことあり得ないと言いたげな夏凜の声に

天乃は「そうではないけど」と、笑う

一応真面目な話で、緊張感を持つべきかもしれない

けれども夏凜と話していると

どうも冗談を言いたくなってくる。真剣になり切れない

けれどもそんな会話の空気感が、天乃には居心地が良かった

天乃「まぁ、一応。久遠家って有名な家柄らしくてね。そういうのがあるかもって話を聞いたのよ」

夏凜「ふぅん……そ」

天乃「驚かないのね」

夏凜「黙ってればお嬢様っぽいしね。あんた。政略結婚だのなんだのって、忙しなくなるかもね」


明らかに茶化そうとしているのが分かる口ぶり

しかし、政略結婚ではないにしても

それに近しいものならありえそうだと、天乃は割と真面目に答える

もちろん、沙織が気にする必要はないと言っていたし

現状では問題が多く、そんなことはしていられないだろうから

婚約だのなんだのは後回しにされるのだろうけど

その余裕が出てきた後が少し怖い

もちろん

余裕が出るということはバーテックス関連で上手くいっているということだから

嬉しくはあるのだが。

天乃「まぁ、今すぐ婚約するってわけではないんだけど、いずれあるかもなぁ。なんて」

夏凜「確かに、あんたはあと一年くらいで出来る歳だし……否定はできないわね」

少し真面目に考え込む夏凜は

そうねぇ。と、小さく零して天乃に目を向ける

夏凜「誰かと駆け落ちでもしちゃえば?」

天乃「この狭い世界の中でどこに行けと」

夏凜「さぁ? そこは適当に頑張ってもらうにしても……いや、その流れで行くと最悪ロミオとジュリエット的な展開もあり得るか……」


ふむと考え込む

瞳のおかげで本を読む機会が増えた夏凜は

その中から適当に解決できそうなものを引っ張り出そうとしてみたのだが

どれもこれも逃避行しても生きていける年齢だったり世界の広さがある

今の世界のような、少し頑張って探せ場見つかってしまいそうなほどの世界

しかも、ほぼ全域にわたってその影を忍ばせている大赦からの追手から逃げ隠れ出来そうな知恵など到底見つからない

夏凜「なんにせよ、婚約者がいやだってんなら、相手でも見つけておくしかないんじゃないの?」

すぐに婚約ってわけでもないなら

別に今すぐそういうことしろって強制も何もしないけどさ。と

ベンチにふんぞり返るように体を預け、夏凜は空を仰ぐ

雲はあるが、太陽の見えるいい青空だ

夏凜「私はあんたほど期待されてないから、同情すらできないけど。ま、頑張ることね」

天乃「期待されてないって、夏凜……」

夏凜「ん……あれよ。不出来な娘ってやつ。あはは、余計な話でしょ。時間もつぶしたしさっさと行くわよ。天乃」

夏凜は誤魔化すように笑う

それは別に気にしていないことだと

取り繕うような、その笑みに天乃は何も言わせてはもらえなかった


√ 5月6日目 夕(某所) ※土曜日



1、依頼を終えて部室に戻る
2、依頼を終えても部室には戻らない  ※夏凜継続


↓2


部室判定


01~10  先生
11~20 
21~30  沙織
31~40 
41~50 
51~60 先生

61~70 
71~80 
81~90  沙織
91~00  男子生徒(2年・脚本家志望)

↓1のコンマ  


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



判定外れ。友奈たちと通常交流


時間も時間なので、少しだけ進めていきます


風「お疲れさまーっ!」

淡緑のカーテンが夕焼けのオレンジ色を遮り、

人工の白昼灯の光が天井から注がれる部室で

部長、犬吠埼風の声が上がる

普段通りを心掛けたそれは確かにそれらしく

けれど、やはりそこには緊張感が含まれてしまう

風にはその意志がなくても

大丈夫だろうか。という不安がどうしてもそれを作ってしまうのだ

風「友奈たちは上手くやってくれたみたいだし。副部長と新人ペアも無事完遂。アタシ達も滞りなく。で、万事おっけー!」

夏凜「って言っても。今回の分はってやつなんでしょ?」

窓際に立って腕を組み、右目を閉じた夏凜の言葉に

風はそれはそうだけど。と苦笑する

風「でもまぁ、今回はちゃんと終わったからオッケーでしょ」

夏凜「それはそれで文句はないけど。毎度毎度ここまで大回りだと訓練前につかれない?」

友奈「でも、それが勇者部の活動だよ。夏凜ちゃん。困ってる人。猫さんも犬もさんもっ。居るなら助けなきゃ。ねっ?」


ぐっと握りこぶしを作って掲げる友奈を見て、夏凜はふぅっと息をつく

その姿勢、その理念に文句はない

バーテックスとの戦いに専念すべきだという考えは今も昔も変わらないが

しかし、

自分にその確たる意思があるように

友奈達にもそれぞれの意思がある

それが分かっているからこそ、その押し付けをしようとは思わない

なにより、戦うことの重要さを分かっていることは

訓練に応じたことからも分かっている

で、あるのならば文句は一つとしてない。現状は。だが

夏凜「それで? 明日は?」

東郷「明日は……お休みの予定だけれど」

天乃「特に何もなかったっけ? 新しい依頼とかも?」

些細な疑問に、風は「たまにはね」と笑う

依頼がないのは平和な証。なら、それはきっと喜ぶべきことだ


天乃「明日は何もない……か」

夏凜「朝から晩まで訓練っていうのも悪くないんじゃない?」

冗談ではない。

夏凜は割と真面目にそういったのだが

東郷は困ったように「それはさすがに」とこぼす

訓練の重要さは重々承知している

しかし、そんな丸一日詰め込んだとしても

疲労=経験という好都合な数式にはならない

だから、提案を却下する

夏凜はやや不満げだったが、日曜くらいは休むのもありか。と

風ではなく、天乃を見る

肩書上では、部長は風なのだけれど

風「んーまぁ、ね。さすがに休日丸つぶしは問題よねぇ」

東郷「それぞれゆっくりするというのもいいかと思います」



1、昼に特訓
2、各自自由にゆっくり休む
3、朝に特訓
4、みんなで遊びに行く



↓1


天乃「みんなで遊びに行くのはどうかしら」

夏凜「それは冗談で言ってんの?」

天乃「ん?」

夏凜「いや、本気なら別にいいんだけど」

夏凜は少し困ったように言うと

遊びに行くって……と、聞こえないように呟いたつもりなのだろうが

残念ながら天乃には聞こえていた

風「久遠がそうしたいっていうなら、まぁ暇だし」

樹「う、うん。そうだね」

返事は少し、ぎこちない

友奈は嬉しそうな顔をしたが、その半面

おろおろとしてはいないが、東郷を見て何かを躊躇う

東郷は視線に気づいてか「大丈夫。時間は空いているから」と、笑う

いつもなら牡丹餅を作ってきますね。とでも言う場面

天乃のことを案じてか、どうしても。言えなかった


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



時間を与えないルート


では、少しずつ進めていきます


友奈「でも、どうしますか?」

風「んーあ、お昼からでいい? 家のこと、いろいろとやっておきたいし」

天乃「やることあるなら、そうね。全然いいわ」

風のハッと気づいた仕草が偽っているものであることは

天乃には容易く分かった。

そして、それは夏凜も気づいていることで

あからさまなのよ。と、ため息をつくと

夏凜「じゃぁ、各自お昼は取ってくるってことで」

そう、切り出す

樹「あとはどこに行くか、どこで集まるか。ですね」

東郷「通例通り現地集合でいいんじゃない?」

風「ならどこに行くか。だけど」

そういいながら、

風は天乃へと目を向ける

風「天乃、どこかある?」



1、運動公園
2、遊園地
3、イネス
4、海岸
5、んーみんなで居られるなら、どこでもいいかな


↓1


天乃「海、かな」

東郷「この時期に、ですか?」

今は五月だ

まだ海開きしていないし

そうでなくても泳いだりなんだりすることはできない

しかも、釣りをするにしても道具の一つさえもない

ならどうするのかと天乃を見てみるが、

天乃はみんなは嫌かしら。と

ちょっぴり冗談の混じった笑みを浮かべる

天乃「潮風に当たるというのも、悪くはないと思うのよ」

夏凜「車椅子がさびるだろうけどね」

天乃「ふふっ、そんなすぐにはさびたりしないわ」

夏凜の冗談めいた一言が、場をつなぐ

けれど、何をするか、どうするのか

なぜそんなことをするのかを

風達の誰一人として思いつくことはできない

もちろん、本当にただ【潮風に当たりたい】だけなのかもしれないが


樹「ゴミ拾いとかもしちゃいますか?」

天乃「汚かったら考えましょうか」

勇者部精神に満ち満ちた樹の発言に笑みを浮かべ、言う

ただ、そう

きっと。何かをしていないと耐えられないのだ

些細なことでもいい

何かをしていなければ、きっと。何もできなくなるから

そうなったら、いつも通りではなくなってしまうから

樹だけでなく、友奈や東郷、風だってそう

昼からでいいかと言ったのだって、

全員で昼食をとるという

今まではどうとでもなったそれが溜まらなく、怖かったからだ

気にしなくていいと言われても、絶対に気にしてしまうから

天乃「……………」

夏凜「……………」

天乃はそれを気付いている

夏凜もまた、気づいている

みんな、気づいている

だからこそ、天乃は常に歩を進めていく

動かなければ、良くも悪くも何一つ変わることはできないからだ


沈黙の中、夏凜はわざとらしく音を響かせた手合わせをすると

明日の予定を黒板に書き出していく

現地集合、海、お昼……時間は大体13時

夏凜「遅れるんじゃないわよ?」

天乃「海って範囲広いから、みんな違う場所に行くかもね」

友奈「大丈夫ですよ。そこはちゃんと決めますから」

天乃「ふふっ、それは当たり前よ」

分かり切っての冗談に、当然のことを言ってくれる友奈の優しさ、純粋さ

その愛らしさに笑みを浮かべる

けれど、勇者部の醸し出す空気は暗い

言葉が途切れてしまうことが増えたから

どうすればいいのか、何が今までと変わらないのか

分からなくなってしまったから

夏凜「風」

風「え?」

夏凜「解散、しないの?」

風「あ、そ、そうね……とりあえず今日は解散しましょ」



01~10 樹

11~20  風
21~30 
31~40 
41~50  友奈
51~60 
61~70 
71~80 夏凜

81~90 
91~00  東郷


↓1のコンマ  

夕方終了


√ 5月6日目 夜(自宅) ※土曜日


1、九尾
2、死神
3、素戔嗚
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
↓2

※7は電話


天乃「稲荷、ちょっとお願い」

そう声をかけると

やはり、どこからともなく精霊、稲荷は姿を現す

常に姿を見せている九尾、黒い靄とともに現れる死神は特殊だが

特殊な力を持つ稲荷は以外にも、他の精霊と大差のない現れ方をする

と、言っても

その場合に出てくるのは大体が稲荷の使いである稲狐なのだけども

天乃「主人は?」

稲狐「……………」

フルフルと首を横に振り、

白い狐は天乃をじっと見て、首にぶら下がったものを咥えて差し向ける

躊躇なく受け取って中を見てみると

これまた達筆かつ古めかしい漢字の羅列で

残念なことに読みにくい手紙となっていたが、四苦八苦しながらも読み解く

天乃「私の体内の穢れは約40%くらいって感じなのね……このくらいならまだ問題はないか」

しかし、70台、80台となっていくと気を失うだの、体調不良だのと

軽い症状ではなくなるらしい

天乃「100とかそこらへんになると最悪死ぬっていうのはまぁ、想定内だとして。70~80で吐血する場合もあるのね」

そのあたりになって来ると、ただでさえ重い負荷がさらに重くなってさすがに一時停止―気絶―では済まないようだ


天乃「けれど、どうしてこのことを?」

稲狐「?」

稲狐はやはり、首をかしげる

直接話ができないというのは、やはり、やりにくい

特に、質疑応答というべきか

こう、聞いたりしたいときは特に

そんな天乃の意思を感じ取ったのか

稲狐が飛び上がってくるっと回ると

まるで漫画やアニメでもあるかのように、

その姿は狐ではなく、お面をつけた女性へと切り替わる

途端に、部屋には稲穂の香りが満ちていく

天乃「わざわざ悪いわね」

稲荷「…………」

彼女は首を横に振って否定すると

お前は私の主だ。と、速記して見せる

そして

お前は知るべきだ。私の力を行使した先に訪れる結末を。と、書き記す


天乃「知ってるわ。死んじゃうんでしょう?」

稲荷に目を向けず、手元を見て天乃はそう溢す

さんざん、九尾に言われてきたことだ

穢れをため込みすぎれば死に至る

満開を使うことによる体の機能不全なんか軽々しいほどに苦しく死ぬと

使わせないための誇張も多少はあるのだろうけれど

緊張感を持つためにうのみにしたその死。であると理解しているつもりではある

しかし、それでも、天乃には守りたいものがあるのだ

どんなにひどい死に方をするのであろうと、守るためなら使う。それが、久遠天乃だから

稲荷「………………」

――お前がいれば、世界はなんの苦も無く生を謳歌出来るだろう。しかし、お前が死んだ先で、生の保証は誰がする

天乃「私が死ぬ前に、決着をつけるしかないわね」

天のが子をなさない、世継ぎを残さない。そうできなくなった場合

勇者であり巫女である久遠家の受け継がれてきた最強の力は失われる

しかし、だからと言って今ここで退くことなんてできない答えに、稲荷は黙り込む

――簡単な話ではない。先代が死してなお成しえなかったことだ

天乃「先代……? 先代って、まさか貴女」


ひと月前、男子生徒とのデートで言ったお店で知った、先代勇者

そこには九尾もいて、彼女に話を聞き

勇者や巫女のみならず、自分の先祖である久遠陽乃という名前を知った

その中の誰かに該当するのか

それとも、それらをまとめた先代勇者そのものを指しているのか

目を向けると、稲荷はじっと天乃を見る

狐の面の奥、闇の中で瞳が動く

――先代は優秀だった。九尾、死神のみならず。我ら自身を身に纏うことさえも可能としていた

天乃「貴女達も?」

死神や九尾だけでなく、そのほかの精霊たちの力も

勇者として発現させられていたとしたら

それはやはり、自分よりも、何よりも強力な力を持っていたということに他ならない

……けれど

天乃「待って。先代……陽乃さん達を知っているのは誰?」

最初は九尾だけしか知らないと思っていた

けれど、もしもそうではないのだとしたら……その問いに稲荷は

――お前の持つ精霊。そのほぼすべてが知っている

そう答えた


天乃「ほぼすべて……」

つまり、知らない精霊もいる。ということだ

そのことに関しては

なぜか教えてはくれなかったが、

稲荷は仮面の奥で見えそうで見えなかった橙色の瞳を天乃に向けると

――それでも彼女は死んだんだ

すでに分かっていることを、あえて告げる

それだけの力があっても寿命に勝てなかった。そういう話ではなく

きっと、そうだ

久遠陽乃という先祖は、九尾と死神の力によって激減した寿命

それすらも全うすることは出来なかったのだろう

天乃「………………」

そして、今度は天乃がそうなるかもしれない

だから気をつけろと、彼女たちは忠告してくれているに違いない


1、精霊について
2、先代勇者について
3、バーテックスについて
4、穢れについて

↓2


※1、2は再度安価


1、九尾について
2、死神について
3、獺について
4、火明命について
5、稲荷について


↓1


天乃「ねぇ、稲荷は獺について何か知らない?」

九尾と同じく幻惑系の力を持つ獺

彼か彼女か不確かではあるが……彼としておくとして

彼は一応妖怪の類だったという記憶がある

しかし、どうも、現在の天乃の精霊の中では普通すぎる気がしてならない

いや、もちろん

獺にも力はあるし、樹達だって木霊など

普通の妖怪を従えているのが現状だから気にしすぎかもしれないが……

稲荷「…………」

――獺は獺の姿をしているに過ぎない。あれはそう、単純な存在ではない

稲荷の返答は想像以上に不可解なものだった

獺は獺の姿をしているに過ぎない

と、言うのなら。いや、それを同じ能力を持つ九尾と併せて考えるなら

九尾が女性の姿になれるように

獺もまた、その姿を変えることができる。ということになる

では、彼の本当の姿とはいったい何なのだろうか

いやそもそも、獺とはいったい……何なのだろうか


謎が謎を呼ぶ負のスパイラル

一つとして解決しなさそうな流れを断ち切るように、

稲荷は一枚の紙を、天乃に見せる

――獺は、お前に近づきやすい姿でしかない。やつの正体は河童だ

天乃「河童って、あの河童?」

そう問い返すと、稲荷は紙に記すことなく頷く

稲荷が嘘をつくとは思えない

なら、そう。ただの妖怪に思えるあれは

三大妖怪の一つ、河童ということになる

もちろん、だからと言ってその力がすさまじいものであるという理由にはならないし

そうなれと願うこともないのだが

――しかし、やつは普通ではない。私も知らない何かが奴にはある

そう記した稲荷は天乃が読んだと察したか

すぐに紙を消滅させて、姿を消す

そしてひらりとベッドに落ちてきた紙には

――警戒はしておくべきだ

そう、書かれていた


01~10 大赦 
11~20 
21~30 
31~40  九尾と稲荷
41~50 
51~60 
61~70 夏凜と瞳

71~80 
81~90 
91~00 

↓1のコンマ  

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(部活、遊び)
・   犬吠埼樹:交流有(部活、遊び)
・   結城友奈:交流有(部活、遊び)
・   東郷美森:交流有(部活、遊び)
・   三好夏凜:交流有(部活、遊び、ペア、婚約者)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



5月6日目 継続 終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 40(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 32(中々良い)
  結城友奈との絆 51(少し高い)
  東郷三森との絆 38(中々良い)
  三好夏凜との絆 23(中々良い)
     沙織との絆 39(中々良い)
     九尾との絆 31(中々良い)
      死神との絆 30(中々良い)
      稲狐との絆 28(中々良い)
      神樹との絆 7(低い)

 汚染度43%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 5月7日目 朝(自宅) ※日曜日


1、九尾
2、死神
3、素戔嗚
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
↓2

※7は電話


九尾「今日は勇者部の連中と出かけるのじゃろう?」

天乃「ええ」

そう答え、九尾のほうに目を向けると

やや不満そうな表情が見え、天乃はふぅと息をつく

それだけで察したのか、九尾は不満があるわけではないぞ、と前置きをしたうえで

九尾「きゃつらにも時間が必要ではないのか?」

そう、聞いてきた

整理する時間。という意味なのはすぐに分かった

ここ最近、一気に現実を突きつけられすぎているのではないか

そう思うし、心配でもある

天乃の味覚の件だってそうだ

あれを教えてしまったら、今までの行いを悔いることは一目瞭然、明白だった

けれど

天乃「一人で考えて悩むより、自分の行動が私にどう影響しているのか。しっかりと見てもらうべきだと思う」

九尾「……普通にしてくれていい。気を使わなくていい。それをあえて見せたい。ということかや?」

天乃「うん」


くふふふっと、部屋に笑い声が響く

嬉しそうなものではなく、どこか挑発的な

そう、バカにするような笑い声

けれど、彼女はバカにしているわけではない

九尾「そううまくゆくとよいがのぅ」

天乃「その言い方だと、失敗してほしいみたいに聞こえるのだけれど」

九尾「ふむ。間違ってはおらぬな」

彼女の笑みは絶えない

しかし、失敗してほしいという思いというか呪い的なものは感じない

うらやましいことに

彼女は愉しんでいるのだ

試行錯誤して、友奈達との関係を元に戻そうとしている天乃の頑張りを

もっとも、それは彼女曰く、自業自得。なのだが

九尾「少しは痛い目を見て学ぶべきじゃ。失敗しない人間は。自分の考えは確実だと盲目的になるぞ」

天乃「自分のしているいことがすべて正しいなんて自負はもとよりないわ」

九尾「ほう?」

天乃「正しいのなら、銀は死ななかった。須美は須美のままだった。園子もまた、呆けた姿を見せてくれていた。そうでしょう?」


自分をあざ笑う笑みを浮かべる主の姿に

九尾は息をついて、首を振る

普段は強く見せている

普段は普通にふるまっている

けれど、いつだって天乃は自責の念に捕らわれている

自分がリーダーを担っていた一世代前の勇者がみな

全員死んだわけではないにしても、死者を出し、記憶を失い、動けなくなった

そんな、過去があるがゆえに

九尾「主様は少し、自分を許すつもりないのかや?」

天乃「私の何を許せっていうのよ」

力が足りなかった

誰かの力ではなく、自分の力が。だ

その結果、風の両親まで死なせた挙句

それをまだ、彼女に謝罪することすらできていない

それなのに、日々をこうして平然と生きている

天乃「ううん、きっと。そうしていることが私自身の罪滅ぼしなのかもしれない」

言えば許されてしまうかもしれないから

ずっと、許されないままでいるために


九尾「だれも望んでいることではあるまいに」

天乃「……そうね。いっそ。風に何か恨み言でも言ってもらえると助かるのにね」

卑屈になり切っている天乃の姿には、

九尾もさすがに笑みを浮かべていることは出来ず

けれど悲しい顔をすることもなく、ため息をつく

九尾「勇者部の誰かの前でその姿を見せられればのう」

天乃「出来るわけないでしょ。しちゃいけないわ」

九尾「弱さを見せるのは悪いことではないじゃろう」

もちろん、そういう意味で言っているわけではないと知ってはいるが

九尾はそういい、天乃の頭をポンポンと叩く

九尾「あまり責めすぎるな。捨てすぎるな。主様はその罪ゆえ人のためになりすぎた」

そう、誰かのためにと生きてきた

目につく人を助けようと手をつくしてきた

だから、そう。命を投げ打つことは、誰も救わない結果に陥ってしまう

九尾「……無理はするな」

天乃「してないわよ……大丈夫」




1、先代勇者について
2、精霊について
3、合体バーテックスについて
4、久遠家の伝統について
5、夏凜について
6、風について
7、東郷について

↓2


九尾「久遠家の……ふむ」

今のところ、

久遠家の伝統に関して知っているのは力を持った女の子は

みんな若くして子供を作っている。ということ

そして同じく、寿命が非常に短いということだ

それ以外に何かないのか。そう問う天乃に

九尾は少し困った様子で唸る

九尾「現代にはあまり必要のない知識じゃぞ。それでも、か?」

含みのある前置き

そういわれては、大丈夫と言わざるを得ないと思う

そんな軽い気持ちで頷くと

九尾はもう一度本当に? と問い直す


天乃「何なのよ」

九尾「あまり知るべきことではないからのう」

と言いつつも、

何も知らないと言わずに、そうやって含んだ言い方をするのが

いかにも九尾らしいが……

もちろん、嘘をついてもばれる可能性が高いから

あえて脅すような言い方をしている可能性もある

天乃「……そんなに危険なことなの?」

九尾「主様自身に危険はない。もう廃れた伝統じゃ。知る意味さえもない」

だから

それ以上は詮索しないことを進めるぞ。と

九尾は告げつつ、天乃を見る

そこはしっかりとえらばせてくれるようだ


1、知りたい
2、やめておく


↓1


天乃「それでも、教えて」

天乃がそういうと分かっていたはずだ

けれど、九尾は困ったように息をつくと

どうしようもない主様じゃな。と、呆れて呟く

九尾的には教えたくはないことなのかもしれない

それならやっぱり思わせぶりなことを言わなければいいのに。と、

思わずには居られない

九尾「久遠家の人間は人柱となるためだけに存続していた。いや、させられていた一族なのじゃ」

天乃「人柱って、曲解すべき?」

九尾「主様が知る意味で間違いはない。久遠というのは供物の女という蔑称から作られた名だ」

もちろん、現代の人間にそんなことを知っている存在はいない

だから、久遠というだけで蔑まされることも

人柱にささげられるようなことも、何もない

天乃「そんな……ことって」

九尾「……現実に起こっていたことじゃ。偽りはない。じゃが、もう。それは潰えた。その必要は、もうない」

大赦の人間が

そんな忌むべき負の歴史を掘り出し

それによる解決をしようとさえしなければ、そんなことは二度と起こることはない

そうすることさえなければ、その悲劇を知るのは、九尾だけだからだ


九尾「昔は巫女というのは、ただの肩書でな。力もないただの娘じゃった」

久遠家の娘は何の力もない非力な女で

ただただ、神様などに捧げられるだけだった

それが本当に巫女としての力を得たのはいつ頃だったか

だいぶ昔の話だ

陽乃よりも以前の話。すでに風化した記憶の海の中に沈んだ記憶だ

天乃「久遠家が巫女としての力を持ったのは、貴女が理由ではないの?」

九尾「くふふっ、妾では、ないやも知れぬ。すまぬ、はっきりとした記憶はない」

長生きするというのも、良いことばかりではない

記憶が積み重なっていくたびに

どれだけ大きな出来事であろうと

真実を覚えているかどうかは定かではなくなってしまうから

九尾「じゃが……陽乃に力をくれてやったのは妾じゃ」

天乃「……それは、聞いたわ」

九尾「その妾の力と反発する。となれば、くれたやったのは黄泉の者。やもしれぬな」

それが真実である保証はないが

推測の上で導き出した答えを、九尾は告げた


黄泉の者

それはつまり、死神が与えたということだろう

しかし、それは九尾の推測でしかない

と言っても、その可能性はゼロではない

九尾と同じ考えを持つ天乃は

そうね。と、呟いて死神を思い浮かべる

今でこそ感情豊かではあるが

以前はそうでもなく、無口だった精霊

彼女? 彼がもしも久遠家に深いつながりがあるのなら

最初から平気で話せても良いとは思う

しかし、あえて話せない演技をしている可能性も否めない

考えれば考えるほど、泥沼に陥っていく

天乃「……そう」

久遠家には何かしらの闇があるのかもしれない

それが、久遠家によるものか

その周囲の者によるものかはまだ不確かだけれど

少なくとも、歴史の一つはその周囲。だと思う

天乃「そろそろ時間かしら」

そういうのと同時に、インターホンが鳴った


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば少し早めの時間から



獺=河童。誕生日に気を付けて

久遠=供物の女 


では、少しずつ進めていきます


√ 5月7日目 昼(海岸) ※日曜日


瞳の運転する車で、夏凜とともに海へと向かうと

あまり乗り気ではないように感じられた勇者部メンバーはみんな

すでに集まってきていた

車が止まった音を聞き、振り向いた風が「こっちこっちー」と

明るく見せて、手を振る

瞳「夏凜ちゃん、久遠様をお願いいたします」

夏凜「瞳も来ても良いんだけどね。というか、そのほうが助かるかも」

瞳「いえ、あくまで。私は部外者ですよ。夏凜ちゃん。何も知らない人間の口出しなんて、火種でしかありませんよ」

運転席と助手席の間、その天井に取り付けられた鏡の中

夏凜と天乃を見る瞳はそういって笑みを浮かべる

瞳「物事というのは、取り返しがつかないこともあります。ですが、つかなくなるまでは。つけられるものです」

天乃「貴女は大人ね。瞳」

瞳「付け焼刃ですけどね。人生経験で語るのなら。久遠様の方が先輩だという自覚はありますから」

6、7年の歳の差があるが、しかし

その経過年数では絶対に経験できそうもないことをここ数年で経験してしまった天乃のことを

瞳は悲しげに、しかし、同情を見せることなく言う

瞳「さぁ、夏凜ちゃん。久遠様。行ってらっしゃいませ」

笑う瞳の表情には、メイドっぽいですか? なんて言う冗談じみたものが込められている気がした


風「言い出しっぺの二人が最後じゃない」

夏凜「時間的には10分前でしょ」

嫌味っぽく言う風に、夏凜は呆れ交じりに返す

風達にこれだけ早く来るような気力は感じられなかった

もちろん、だからと言って遅く来たつもりはなく

だから10分前に来たし

むしろ遅刻ギリギリに来たら説教の一つでもと考えていたくらいだ

夏凜「意外と早かったのね」

友奈「え、あ、うん。ねっ」

東郷「そうね、なんだかじっとしていられなくて」

くすっと笑う東郷の笑みには躊躇が見え隠れする

それはたぶん、東郷の言葉が嘘だからだ

じっとしていられないからこんなに早く来たのではなく

自分はいつも常にこうしているからと、素早い行動をしようとしてしまっただけだ

変に遅くなってしまったりしたらそれこそ

いつも通りではなくなってしまうから

――いつも通りではなくなってしまうから

東郷「牡丹餅を、作って、来たんですが……」

東郷は嫌そうに、切り出す


無理をしているのは一目瞭然だ

苦しませることが分かっていて

辛い思いをさせることが分かっていて

なぜ、牡丹餅を作ってこなければいけなかったのか

東郷は牡丹餅を入れた重箱を持つ手に力を入れる

いっそこのまま箱が砕け散って食べられなくなってしまえばいいのに。と、思いながら

樹「東郷先輩……」

天乃「っ」

天乃は車いすのひじ掛けをぎゅっと握る

唇をかんで、けれど、東郷からは目を離さない

友奈「ゎ、わーい。嬉しいなーっ」

自分が先であるべきだ。凍らせちゃいけない

そう強く体を押した友奈の声が響く

東郷の目が友奈に向き、風は少し顔を顰める

全然いつも通りではない

どう見ても、ぎこちないからだ


勇者部は優しすぎるのだ

風も、樹も、友奈も、東郷も

だから、気にするなと言われても気にしないことができない

だから、いつも通りでいてと言われると、そうしなければいけないという焦りが織り込まれてしまう

それが悪いことだとは言えない

間違っているとは言えない

もしもそう否定してしまったら、ならどうすればいいのかと。迷うことになってしまうから

夏凜「牡丹餅、ね。出来立て? あったかいやつ?」

東郷「え、ううん……少し冷めちゃってるけど……」

想定していなかった夏凜の問い

まじまじと重箱の中を見る夏凜の目を、東郷は見上げる

すると「気張りすぎ」そんな囁きのあと

わざとらしく大きな声で「じゃぁ、私はこの一番大きそうなやつにしよ」と、友奈を見てにやりとする

友奈「あ、ずるーいっ!」

夏凜「ふふんっ、こんな言葉を知ってる?」

友奈「?」

夏凜「――早い者勝ち」

ばくっと一個丸ごと口に押し込んだ夏凜は

やっぱり、してやったりと挑発的な笑みを浮かべる

友奈「知ってるよぉっ!」

本心の、いつもと変わらないちょっと落ち込んだ友奈の声が海岸に響く



1、ふふっ、なら友奈は二つ食べちゃえ
2、あらら。そんなに口に押し込んだら。次が食べられないんじゃない?
3、私ももらおうかしら
4、……がめついわね。夏凜
5、様子を見る


↓2


天乃「私も貰おうかしら」

周りの目が向けられる中、

紙皿とお箸を受け取って一つだけもらうと

天乃は「いただきます」と、平然と呟き、一口分齧る

天乃「ん……」

ぐじゅりと餡子がつぶれる中に、数粒の薄皮

そしてさらに採掘のごとく噛み締めるともちゃっとした

おそらくは米の食感が広がっていく

舌を紫に染める餡子に味はない

天乃「ぅ……んくっ」

終わりのなさそうな無味の流れを押し込むように

ほんのりと甘い匂いから過去、味わったその味覚を脳内に引っ張り出す

けれど

唾液と混ざり合っていく吐き気を引き起こしそうなどろりとした味のない食感は嘲笑うかのように喉の奥へ流れ込む

天乃「ん、んんっ、っ、ごくっ」

口腔のみならず、食道を犯した異物が流れ落ちていったのを感じて

天乃はふと、息を吐く

何度食べても、こればかりは慣れない


ふと、目の前に差し出された飲料水のペットボトル

それの持ち手をたどった先の主は

深緑の瞳を向けて「無茶しすぎ」と言いたげに息をつく

天乃「ありがと」

夏凜「無理して食べなくてもいいんじゃないの?」

天乃「そんなこと言われたら、何一つ食事できなくなるわ。牡丹餅を食べるのはね、私の数少ない楽しみの一つなの」

――嘘だ

これを食べても楽しいことはない。ただ辛い、ただ苦しい

しかし、だからこそ自分が失ったものを改めて実感できるし

改めて自分への責め苦と出来る

そうだ。つまりこれは、エゴイズムに基づいた自傷行為だ

しかし、これを続けたいからいつも通りを求めたわけではない

ただ、本当に

東郷たちの日常生活という光を見ていたいから、だから求めた

けれど、今目の前にあるのは

いつも通りとは程遠い、罪悪感に沈められた東郷の表情だった


東郷「……すみません」

天乃「どうして謝るの?」

東郷「私……」

角を握られた重箱がカタリと音を鳴らして

俯き、黒髪を垂らした東郷の体がかすかに震える

後悔している。自責している

――もう無理、耐えられない

言わないべきだとついさっき風達と話したばかりだというのに

東郷は、顔を上げて揺れる瞳を天乃に向ける

東郷「わた……しは」

天乃が望んでいることだと分かっている

望みをかなえるためにはそのままでいなくてはいけないことなんてわかっている

けれど、だけど――

ぎゅっと唇を噛み締めると、じんわりと鉄の味が広がっていく

東郷はそれでもなお、唇を噛みぎゅっと目を瞑って首を振る

東郷「……少し、一人にしてください」

言おうとしたこと

それを言うことなく、東郷は一人その場を離れた


√ 5月7日目 昼(海岸) ※日曜日


1、風
2、樹
3、友奈
4、東郷
5、夏凜
6、一人でぼーっとする

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から




東郷さんは一人になるために壁の外へ……いかない


では、少しだけ進めていきます


肉眼で確認できる程度の距離ではあるが

勇者部は散り散りになっている

顔を合わせていても気まずい

必要以上に疲労する。だから、自然と足は別々に向かって行ってしまったのだ

けれど決して、誰も望んでこうなったわけではない

いわば、敷かれたレールの上を走る列車のようなものだ

風「……………」

勇者部の部長、犬吠埼風は砂浜に降りなかった

落下防止柵に両腕を置き、その上に頭を置く

髪に触れる潮風の鼻をつくにおい

しかし、それに気を取られることなくため息をつく

――何をしてるんだろう

皆が悩むことと同じこと頭の中で繰り返す

天乃「なに物思いに耽ってるのよ。風」

風「……別に。耽ってるわけじゃないわよ。ただ」

くるりと身をひるがえして

風は柵に腰かけ天乃を見つめる

風「今までどうしてたんだっけって、思い出をまさぐってただけ」


天乃「……………」

夕日を背にしていれば映えるかもしれない

風の切なげな表情はそう思わせる

けれど、天乃は小首を振って目を向ける。逸らさない

しかし、風の瞳は天乃を見てはいない

足元に落ちたままだ。それは、

迷いの証

躊躇いの具現

犬吠埼風は、今、自分という存在が目の前の少女の前でどんな人間だったのか見失っているのだ

それは、いつも通りでいてほしいという天乃の願いによる焦り

苦しめてしまったという罪悪感からの重圧

天乃「……風」

風「上手く、上手くさ……勇者部として成り立たせようとしてるんだ」

けれど、上手くいかない

気まずいまま、重苦しいまま

自分がどうであったかですら曖昧なのに

周りの誰かを諭せるほど、器用ではないからだ

風「………っ」


なんであんなことを言ったのか

なんで隠してきたことを打ち明けてしまったのか

わずかでも、天乃を責めようとする心があることに

風は強く歯噛みして、握りこぶしを作る

あれは久遠のせいじゃない。それは分かってる。けど

風「……………」

風には責めようとしてしまう理由

恨んでしまう理由がある。だから、こんなことにまでその感情は湧き出してしまう

風「いつも通りってさ。考えてみるとすごく難しいのよね」

天乃「そうね」

風「考えてやってたわけじゃないからさ。一度考えだすと……なんていうか」

そう。書き残さなかった即興小説みたいにどうしていたのか分からなくて

全部アドリブになってしまう。と

風は笑い交じりに告げて、息をつく

そして

風「考えたんだけど」

天乃「うん」

風「――休部、しない?」

風は乱れない瞳でそう口にする



1、なにを。言ってるの?
2、……決めるのは貴女よ
3、みんなは、なんて?
4、私の……せいなの?
5、何も言わない


↓2


天乃「…………」

天乃はしばらく言葉を止めた

それに合わせるように、

吹きすさんでいた風が止まり、波の音が止み

つい先ほどまで普通に通っていた車ですら、音を消す

不可解な静寂の中、天乃はいくつかの考えを脳裏に浮かべたが

天乃「……決めるのは貴女よ」

答えならざる答えを返す

風は驚くこともなく、ただ、一瞬目を見開くと

ふっと笑うように息を吐いて目を伏せる

風「副部長、少しは考えてくれたっていいんじゃないの?」

天乃「ふふっ……お飾りだもの」

冗談で返す

そうすることが正しいと思ったわけではない

しかし、それだけが風の気持ちを変にゆがませないと判断したからだ

風「そっか」

調子のいいことばかり言ってくれちゃって。そう思う風は空を見上げて背中を支えるものがないと知りながら身を乗り出す

このまま落ちて頭を打ったら記憶をなくせないだろうかと……酷い考えをして

風「じゃぁ、アタシが決める」


――そしてこの日、勇者部の活動休止が決まった


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


一時休止、夕方がフリーになります
また、個人的に交流は可能ではあります


では、初めて行きます


√ 5月7日目 夕() ※日曜日


01~10 
11~20  夏凜
21~30 
31~40 
41~50  樹
51~60 
61~70 
71~80 友奈

81~90 
91~00 

↓1のコンマ  


友奈「すみません、無理言って」

天乃「ううん、別にいいわ。帰っても特にやることはないだろうし」

そう笑う天乃の乗る車椅子を押す友奈は

天乃には表情が読み取れないと知って、曇らせる

少し前、風が全員に向けて言った一言

【風「今日から、勇者部はしばらく休部しようと思う」】

その宣言……いや、その問いかけに

誰一人として異論を唱えることは出来なかったのだ

そう

今ここにいる、勇者という言葉に思い入れのある結城友奈でさえも

友奈「……………」

だから、車に乗り込もうとしていた天乃を呼び止め

無理言って時間をもらった

夏凜や運転手に押して連れ帰りますから。と、無茶を言ってまで。

なぜ自分がこんなことをしているのか

そんなことをする必要があったのか、友奈自身わかってはいない


少なくとも、今していることは

天乃が願ういつも通りの結城友奈とはかけ離れている

そう、自覚はしているのだが

しかし、連れ出すこと。わがままを言うことに躊躇いはなかった

つい先ほどまで、勇者部九部という唐突な出来事に

錯乱していた。と、言われればそれまでだが

けれど、そうではないと、友奈は首を振る

友奈「……久遠先輩」

天乃「うん?」

きゅるきゅると車輪が回る

時折かたんっと小石がけり出され、車体が揺れて

吹く風になびく華やかな桜色の髪が持ち手を握る手を撫でる

その優しさの温もりに、友奈は目を閉じ、足を止めた

友奈「今の勇者部、久遠先輩はどう思いますか?」

天乃「………………」

友奈「ぎこちない空気でした。それでも頑張ろうと話して……」

いや、きっと。頑張ろうと話した時点でダメだったのだ

そのときすでに、こうなることは決まっていたのだと。友奈は零れそうな涙をぬぐう

友奈「休部することになった勇者部を。私たちを……」


どう思いますか?

友奈は最後まで言葉を続けない

続ける必要がなかった

天乃「……友奈」

いつの間にか振り向いていた天乃と視線が絡まる

罪悪感、焦燥感、悲壮感

明らかな負の感情渦巻く心と思考はそこから視線をそらそうとするが

友奈の瞳は張りつけられたかのように、動かない

天乃「泣いてるの?」

友奈「泣いては……いません」

泣きそうですが。そう付け加えることはせず

けれどもそれ以上の否定は出来ずに首を振ると

友奈は「教えてください」と、促した

友奈は天乃の答えが聞きたかった

しかし、その答えがとても――恐ろしい



1、ただ、申し訳ないなって
2、……仕方がないわ。時間も必要だと思う
3、頑張ってほしい
4、いつも通りでいようと頑張りすぎてるわ
5、……………


↓2


友奈のおびえているような表情が目に入った天乃は

唇をきゅっと結ぶと

首を横に振って答えを拒否し、前を向く

空気を裂くような車のエンジン音が遠方から流れ横を通り過ぎて

しかし、その二人の空気は微塵も影響なく、重々しい

友奈「……先輩」

ぎゅっと、持ち手を強く握る

風と違い、友奈は天乃に対する憎しみも怒りもない

この手に伝わる力強さは、自分のふがいなさへの責め

――だって、これは間違いなく私のせいだ

友奈は天乃の秘密を知った

あそこで、追及したりしなければよかったのだ

してしまったとしても、ここまで隠し続けてきたことなのだから

二人の秘密にしようと言えばよかったのだと

友奈は普段の前向きさを損ない、後悔し、呻く

友奈「……ごめんなさい」

その一言は限りなく小さい

しかし、それは限りなく大きな言葉だった


天乃「っ」

天乃は振り返るべきか否か、ためらいに躊躇い、

膝の上の握りこぶしへの力の供給を過多にして、目を瞑る

振り向いて挙げるべきだ

抱きしめてあげるべきだ

貴女は悪くはないのだと、決めたのは私なのだと

そう、言いたい

しかし、それで何かが解決するのだろうか

この場の空気を収めることができたとして

それ以降、何か正しく道が切り開けるのだろうか?

――わからない

天乃「…………」

ふと空を見上げると

晴れていたはずの空はどんよりとした曇天に切り替わっていて

今すぐにでも降り出してもおかしくなさそうだった



1、ごめんなさい。私が悪いのよ
2、友奈……貴女だけじゃないわ。私も悪い
3、違うわ友奈。なにもかもバーテックスのせい。あれがいなければ、みんな幸せだった
4、帰りましょう。友奈
5、謝らないで。お願い
6、沈黙


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




天乃「悪い」

友奈「悪くない」

天乃「悪い」

友奈「悪くない!」

九尾「全部神樹が悪い!」

友奈「悪くな――くもない?」


では、少しだけすすめていきます


そんな暗雲立ち込める空の下

周りから切り取られたように沈黙する二人

その重苦しい空気を肺に溜め、

しかし、決して友奈のほうには振り向くことなく

天乃「ごめんなさい。私が悪いのよ」

天乃はそう、口にした

背後から呆然と息を吸い込む音が聞こえ、

天乃は友奈の表情と感情を悟る。けれどもやはり、振り向かない

なんでそんなこと

どうしてそんなこと

ううん、なんで、久遠先輩が

そう言いたいのだろう、そう考えているのだろう

それが分かっていながら。そして、分かっているにも拘らず

天乃「――言うと決めたのは、私だから」

続けて答えた天乃は、くすっと笑う

天乃「だから、私が悪いのよ」

友奈「っ」

友奈は首を振る

しかし、それは天乃の視界には映らなかった


違う。そんなことはない

友奈は自分たちが何の役にも立てなかったから

あんな被害を出したから。と、元を辿って天乃の罪悪感を否定しようと唇を噛む

しかし、きっと。天乃はそれを認めない

なにせ、天乃にはもっと力があった

最初から本気で戦っていればよかったという罪悪感がある

どこまで行っても、結城友奈の罪には出来ない

勇者部の罪には出来ない

久遠天乃という最強にして最凶である存在であるがために

天乃は常に、その責を負わなければならない。と、決めている

自分が隊長だった二年前の喪失から

犬吠埼家の両親を死なせてしまったと知った時から

常に、目に見えない自傷行為を行う天乃は、空を見ると

ぽつりと、しずくが天から落ちる

それは一つ、また一つ、延々と増え続け

ザァァァァァっと、降り注ぐ豪雨となって二人を襲う

しかし、二人は何も口にしない。ただ、雨に打たれ

ともに悲痛な表情を浮かべ、しかし、互いにそれを確認しあうことなく、時間を過ごす

友奈「……ごめん、なさい」

大雨の中、その微かな呟きは誰にも届くことはなかった


√ 5月7日目 夜() ※日曜日

01~10  樹海化
11~20 
21~30 
31~40 
41~50  樹海化
51~60 
61~70 
71~80 
81~90 不審者

91~00 

↓1のコンマ  


√ 5月7日目 夜(自宅) ※日曜日

1、九尾
2、死神
3、素戔嗚
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
↓2

※7は電話  ただし、沙織以外は判定が必要です


窓に衝突する雨風の騒音

いつもなら月明りを入れる部屋もさすがにと電気をつけて明るくする

普段とは違うその景色が

周囲の変化を連想させ、天乃は深々と息をつくと

死神さん。と、元気のない声で呼ぶ

死神「ダイジョウブ?」

天乃「ええ、お風呂には入ったから」

車椅子も制服も残念ながらまだびしゃびしゃではあるが

入浴済みの天乃はすでに問題はなくなっていた

と、言っても、体の気怠さは感じるのだが

死神「ゲンキ、ナイヨ?」

天乃「……わかる?」

死神「ワカル」

そして、知ってる。と

死神は頭蓋の奥、赤い瞳で天乃を見つめて頷く

精霊だから。というわけではないが

天乃と勇者部そして友奈とのやり取り

そのすべてを、死神は見聞きしていたからだ


死神「ワタシニ、ナニカ、シテホシイコトガ、アルノ?」

普段なら、

死神は頼られたことを喜んで、明るく言うのだが

このときばかりはあまり嬉しそうではない

というのも、天乃自身が元気がなく、沈んでいるからだ

もっとも、勇者部の休部に続き友奈との会話

罪の押し付け合いではなく

罪の奪い合いというなんとも珍妙な未解決なそれがあった後だ

さすがの天乃も、元気なままではいられない

天乃「貴女、何かできたかしら」

死神「タクサン、デキルヨ」

くるりと回った死神は

ものすごく短い両手を羽のようにパタパタと振って見せる

頼りない矮躯ではあるが、とても頼れる存在だ


天乃「……そうね」

小さな体を見つめて、天乃はクスリと笑う

しかし、その笑みにはいつものような明るさはまるで感じられない

寂しさと、悲しさだけが、うごめくその笑みに

死神は視線を注いで「クオンサン」と呼ぶ

天乃「なぁに?」

死神「シテホシイコト、ナイノ?」

天乃「してほしいこと……か」

そもそも、なぜ死神を呼んだのか

疲れているのなら寝ればいい

悩みが解決しないのなら落ち着くために眠ればいい

考えが変わらない頑固さが邪魔なのなら

一日おいて、考えればいい

なのに、なぜ――


1、先代勇者について
2、精霊について
3、一緒に寝よう?
4、私、間違ってたかな
5、ねぇ、貴女っていったい何者なの?


↓1


ではここまでとさせていただきます
明日も出来れば通常時間から


では、ほんの少しだけ


天乃「そうね……ちょっと、聞いてほしいかな」

天乃がそういうと、死神は「ワタシ、デイイナラ」と、

少し不思議そうに答える

無理もない。相談事で向いているのは死神ではなく九尾だ

大人な意見。と、言えるのかはともかくとして

まともな意見、議論、反論が貰えるのも出来るのも

どちらかと言えば九尾だからだ

しかし、天乃は「うん、いいの」と笑みを向ける

自分がどうして死神を選んだのか

なぜ、死神にこんなことを言おうと思ったのか

それはきっと、先日九尾と話したせいだろう。と、天乃は思う

天乃「私……間違ってたかな」

聞くのは、その一言

死神たち精霊が見守ってくれているのは知っているから

だから、それだけで十分だった


天乃の言葉の意味を理解した死神は

その場にただ、浮遊すると赤い瞳で天乃を見据える

天のが嘘をついているかどうか

それを見抜こうとしているのではない

天乃が今、何を思い何を考えているのかを、感じ取ろうとしているのだ

残念ながら今の死神には九尾のような頭の良さはない

だから、真面目な回答をしなければいけないのなら

それ相応の時間が必要になってくる

けれど、これがそう、時間をかけられるものではないと

見ていた死神は分かっている。だから、目には見えない焦りを抱いて死神はくるりと回る

死神「クオンサンハ、マチガッテタト、オモッテ、ルノ?」

天乃「質問に質問とは、高度な技を使ってくるじゃない」

もっとも、そんなのは高度でも何でもないのだが

少し茶化して言った天乃はそうね。と、小さく零す


自分はどう思っているのか……

そんなものは当然、聞かれることだと、

天乃は何気なく天井を見上げると、息をつく

さっきは雨が降ってきた空は、人工の白い天井に覆われていて、何も落ちてはこない

ただ

人工灯のまぶしさがあるだけ

しばらく沈黙が続いたが、天乃はもう一度ふぅ……と、息を吐くと

ゆっくりと死神に視線を移す

天乃「私は……私はたぶん。間違ってると思ってるんだと思う」

だって、死神に聞いているのだから

不安がないわけがない。恐れていないわけがない

そして、今の気持ちを考え

勇者部の現状を鑑みれば、おのずと答えは出るというもの

死神「イツカハ、ハナサナケレバイケナイコト」

天乃「それは分かってるの。だから、話したわけだし」


問題はそこじゃない

そのあと、どうしたのか。だ

全員に話すことは致し方ないことだった。と、割り切ることもできなくはない

けれど、そのあと時間を空けることなく、

全員でのお出かけを希望し、その時の風のあの発言に、何も言わずただ任せてしまったこと

それは致し方ないことだとは言えない

自分が選んだこと、決めたこと

その結果が、【勇者部の休部】なのだから

風は全員が余計に接しなければいけない部活という時間を切り離した

つまり、風は時間を空けるべきだと判断したということになる

天乃とは正反対に……

天乃「そしてその意見に、誰も異論を唱えることはなかった」

だから、そう。要するに

そういうことなのだ

今日のあの時間は誰も望んでなんていなかった

それを踏まえれば――明らかに天乃の選択は間違いだった。ということに他ならない

死神「クオンサン……」

天乃「……牡丹餅で無理したせい、でもあるんだと思う」

とことん、失敗したなぁ。と、冗談めいた悪態をつきながら。天乃は呻いた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




昼の部


では、本日は進めていきます


死神「バラバラ……ダメ、ゼッタイ」

天乃「それは私も分かってるわ。分かってるけれど……」

死神の感情の起伏の感じられない声に

天乃は目を向けることなく、独り言のように呟く

天乃は死神と話しているが、自分に対しても、問いかけたかったのだ

どうすべきか、どうしたいのか

ここまでミスを犯してきたことに怯えてしまっているであろう自分に

しかし、ため息が漏れ気落ちするばかりで

答えは一向に見えてこない

天乃「どうしたらいいのか、分からないの」

死神「………………」

まじまじと感じられる視線

けれど、天乃は照れた笑みを浮かべず

自虐的な笑みを浮かべて、死神を見る

今はまだ。時間が必要なのかもしれない

天乃「銀を失ったあともそう……駄目ね。全然ダメ。私は二年前から、何も変われていないのね」

どこか他人ごとのように、天乃はつぶやく

死神はただただ、悲しげに主を見つめていた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(遊び、休部について決めるのは風)
・   犬吠埼樹:交流有(遊び)
・   結城友奈:交流有(遊び、沈黙、悪いのは私)
・   東郷美森:交流有(遊び、牡丹餅を食べる)
・   三好夏凜:交流有(遊び、牡丹餅を食べる)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流有(遊びに関して、久遠家の伝統)

・       死神:交流有(間違っていたこと)
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



5月7日目 継続 終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 38(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 31(中々良い)
  結城友奈との絆 49(少し高い)
  東郷三森との絆 35(中々良い)
  三好夏凜との絆 21(中々良い)
     沙織との絆 39(中々良い)
     九尾との絆 32(中々良い)
      死神との絆 31(中々良い)
      稲狐との絆 28(中々良い)
      神樹との絆 7(低い)

 汚染度43%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 5月8日目 朝(自宅) ※月曜日

01~10 
11~20 大赦

21~30 
31~40 
41~50  大赦
51~60 
61~70 
71~80 沙織

81~90 
91~00  イベント

↓1のコンマ  


√ 5月8日目 朝(自宅) ※月曜日


1、九尾
2、死神
3、素戔嗚
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
8、勇者部部室
↓2

※7は電話
※8は勇者部直行。ただし、判定有


登校までの空き時間

ぼうっとどんよりとした外を眺めていたが

その憂鬱な気分を吐き出すようにため息をつくと

ドアに視線を移し、「九尾」と、名を呼ぶ

いつものように忽然と。ではなく

一般人であるかのようにドアを開け入ってきた九尾は

天乃とは正反対に、どこか愉し気な笑みを浮かべていた

天乃「……なに?」

九尾「くふふっ、いや、なに。自分の撒いた種が芽吹き、それに足を取られた愚かな農民を馬鹿にしているだけじゃ」

天乃「正直者は救われないわよ……まぁ、事実である以上。仕方がないことだけど」

いつもの張り合いがない天乃の返しを受け、

九尾は呆れ交じりに肩をすくめると、

金色の髪をかき上げ、赤い瞳で天乃を捉える

九尾「休む時間も必要だと、東郷も言うておったであろう。なぜ、あのようなことを言った……馬鹿者」

その理由はすでに知っている

けれど、それは言わなければならない。と、九尾は言葉を口にする


天乃「本当に、ね」

天乃は自分に向けてため息をつき

相変わらずの嘲笑を浮かべると

先日のことを思い返して、くすくすと笑う

そこには全く、楽しいという感情は感じられない

夏凜はあの時、「本気?」と聞いてきた

その言葉が本当に表していたことを

今更、理解して

天乃「夏凜もこうなることが分かってたのに……」

九尾「あの娘も意外に聡い。ただ、それを言動とすることに怯えておるだけで」

天乃「………………」

夏凜でもわかっていたのに。なんて

夏凜を馬鹿にしているようなことを言うつもりも思うつもりもない

しかし、他にもわかっている人がいたのに

一番の当事者ともいうべき自分の思慮の浅さに

ほとほと、呆れて

天乃「馬鹿ね、私」

自虐的にそういうと、九尾はそういうておるじゃろう。と返した


九尾「して、主様はどうするつもりじゃ?」

天乃「………………」

何も答えない

違う、何も答えられない

天乃は今、迷いの中にいる

だから、九尾の問いには何も答えられない

どうすべきかと考えるたびに

次も失敗してしまう可能性が、天乃の腕をつかんで笑いかけるのだ

本当にそれでいいの? 本当に間違ってないの?

ここまで失敗続きなのに、そんなに簡単に決められたの? と

九尾「ふむ……」

沈黙を保つ天乃を見つめ

九尾は声を漏らし、自分の髪を撫でる

――これは重症だ

九尾「では主様、問おう。なぜ妾を呼んだ」



1、学校、休みたい
2、どうしたらいいのか。教えて
3、バーテックスは大丈夫そう?
4、貴女なら。怒ってくれるかなって
5、私ってやっぱり、誰かの中心にいるべきじゃないのかもね


↓2


天乃はぐっと下唇を噛むと

俯いていた顔を上げ、九尾を見る

悔しいが、九尾の方が頭がいい。というよりも

こういったことに関しての打開策は

基本的には九尾向きだ

人生経験から考えてもそうだが、

人の頭の中を覗いているかのような答えも時折する九尾の思慮深さというべきか

そういうものには頼らざるを得ない

天乃「どうしたらいいのか。教えて」

九尾「どうすべきか……か。まずはなぜ、小娘共がおかしくなったのかを考えてみよ」

おかしくなった。というのはいささか過剰表現ではあるが

いつも通り出来なくなったのは事実だ

その理由は言うまでもなく

今までの自分たちの気遣い交じりの行動がすべて

逆に天乃を苦しませ、辛い思いをさせていたと知ったからであり

にもかかわらず、そのままでいてほしいと天乃に求められてしまったからだ


天乃「私が味覚の件を話して、いつも通りを望んだから。よね」

それに関しては分かっていたつもりだ

分かっていたからこそ

いつも通りでいてくれても大丈夫だと

そんなに気負わなくても平気なんだと示したかった

なのに……

九尾「うむ。しかし主様。人間というものは恐怖と比例して思慮深くなるものじゃ」

物事を恐れれば恐れるほど

思慮深く、あれもこれもと考えていく

そしてその結果、良い答えを導き出すことができることもあれば

どツボにはまって何も出来なくなってしまうこともある

悪いことだとは言えないが、良いことだとも言えない

勇者部はまさに、そのような状態だと言える

しかし、ここで問題となるのは

九尾「勇者部には思慮すべき時間がなかった。ゆえに焦り出した小娘共には何も出来なくなった」

それは残念ながら当然の流れだ。と、

九尾は続けて言う

九尾「主様を喜ばせたい気持ちはある。だが、それは以前にもあった。それらが裏目に出ていたと知ってしまったがゆえに。な」


天乃「……そっか」

九尾「今は時間をくれてやれ。主様ができるのは小娘共が戻った時にお帰りと言ってやることだけじゃ」

そう、それだけでいい

きっと、各々の答えを見つけて勇者部はまた集まることができるだろう

その時に、謝罪を口にするであろう勇者部の全員に

気丈な振舞いをしたりするのではなく、

ただ、そう言ってあげればよいのだと九尾は言う

天乃「お帰り……ね」

九尾「娘共がいること。それだけでよいという意思表示はそれで十分じゃ」

しかし問題は

問題の荒波にもまれている現状、

鮫だの雷雨だののさらなる追撃に襲われる可能性がわずかながらあることだ

そうなってしまえば、ただでさえ不安定な勇者部は本当に瓦解する

そしたらもう、そう簡単に修復できるという保証はなくなる

余計な一手、過ちの連続

それがどれだけ響くのか

九尾は珍しく悩ましげに眉をひそめていた


√ 5月8日目 昼(学校) ※月曜日

沙織との交流が可能です

1、沙織
2、イベント判定
3、勇者部部室

↓2


※勇者部メンバーとの交流は九尾の助言で自粛中


沙織「聞いたよ、久遠さん」

天乃「……そう」

何を聞いたのか、それを言わず聞かず

しかし二人はその言葉だけ理解し、天乃は短く言葉を返すと

いつも通り、九尾の作った無味の弁当を口にする

嫌に口に残るようなパサついたものや

どろっとしたクリームやチーズなどは一切使っていない弁当

一度噛めばポロリと崩れて飲み下せるジャガイモなどの

あえて柔らかく、咀嚼回数を節約した煮物を見て思えば、そう

九尾が作る料理は味覚のない天乃にはとてもありがたい物ばかりだった

沙織「それでね、久遠さん暇になったならデートしない?」

天乃「え?」

予想だにしていない

いや、それどころか脈絡さえないような言葉に

思わず箸を落としかけて、慌てて力を籠めると

微かにミシッ……と、音がした


天乃「デートって、貴女何言って」

沙織「んー……そこで照れてくれないのは、女の子として少し残念だよ」

沙織は箸の先を唇に当て

そういうと、冗談めいた笑みを浮かべる

天乃が男子生徒ならともかく、女子である以上

それは普通の人からしたら冗談でしかない

もちろん、沙織も冗談で言ったのだが

天乃が男女どちらに興味があろうと、今はそんなことで照れる余裕なんてないと

言われずとも、分かっているからだ

沙織「今までは部活があるから遠慮してたけど、ないよね?」

天乃「それはそうだけど、だからって。今この流れで言うこと?」

沙織「どうせ、久遠さんのことだから一人になったらみんなのことで悩みだすでしょ?」

分かり切ったように言う沙織を見て、天乃は息をつく

そうかもしれない

九尾には放っておくべき。というようなことを言われたが

だからと言って片時も考えずにいられるのかと言われればそんなことはない

つい先ほどだって、九尾とのことがなければ

確実にお昼に誘いに行っていたし、あった今でも。少しだけ考えてしまっている


天乃「けれど、それならデートなんて言わなくても良いと思うけど?」

沙織「……久遠さん、元気ないからね」

沙織は少し寂し気に笑う

天乃の元気がないから、少しでも気が引きたかったし

それで少しでも気を紛らわせてあげたいと思ったのだ

周りの男子や女子の驚愕に見開かれた目や

ああ、やっぱりか。なんていうなぜか納得した眼差しを感じながら

沙織は天乃だけを見る

沙織「どう、かな? 久遠さん。あたしとデートしない?」

天乃「………だから、デートって」

そういった理由は分かったが

分かったからこそ繰り返さなくても良いと思うけど。なんていう意味でのため息をつく

天乃「デート、ね」

確かに暇だ。時間的余裕はたくさんある。が……


1、する
2、しない


↓2


天乃「……そうね。たまには出かけるのも悪くないわ」

沙織「デートに?」

天乃「暇つぶしに」

沙織の嬉しそうな冗談に

天乃は半分ほど乗っかって笑みを見せる

一緒に出掛けることがデートというのなら

これはデートに他ならない

けれど、同性のそれがデートと言えてしまうのなら

よく見る男子生徒の放課後寄り道もデートになってしまうのだが……

天乃「沙織がエスコートしてくれるのかしら?」

沙織「えへへ。あたしには108通りのデートプランがあるよ」

天乃「煩悩まみれの計画は遠慮したいわね」

冗談とわかっているから冗談で返せる

そして、その返しを冗談だと分かってくれるから冗談が言える

今はその関係がとてもありがたいと、天乃は思う

気がまぎれるのは、確かなことだった


√ 5月8日目 夕(学校) ※月曜日

01~10  先生
11~20 
21~30 
31~40  夏凜
41~50 
51~60 
61~70 大赦

71~80 
81~90 
91~00  ばてくす

↓1のコンマ  


放課後、HRが終わるや否や

さぁ、デートに行こう。といきり立った沙織の横を通り過ぎた担任教師は

天乃の前に立ち、その目が向けられると

久遠。と、声をかけた

天乃「はい?」

「応接室に君に会いたいという人が来ている」

天乃「………拒否権はありますか?」

そんなものがないことは明白で

言いつつも天乃はため息をついて、肩をすくめる

天乃「分かりました」

残念そうな沙織が視界に入ったが

おそらくは大赦の呼び出しだ。どうしようもない

それを分かっているから、沙織も苦笑する

沙織「仕方がないね。少しだけ待ってるね」

天乃「ええ、ごめんなさい」

少しだけ。というのは少し薄情な気もするが

天乃に限って言えば

そうでも言っておかないと勝手に罪悪感を覚えるのが目に見えているから、仕方がなかった


沙織と別れ担任に付いて応接室へと向かうと

座っていた男性が顔を上げた

「これはこれは、お初にお目にかかります」

天乃「……そうね。瞳じゃなければあの時の女の人でもない。誰? 貴方」

今までは殆どの連絡係が女性だったが

今回はなぜか男性で、しかも見覚えのない軽そうな風貌

スーツを着込んではいるが、残念ながら不似合だというしかない男性は

眼鏡をクイっとあげると

「二人で話しても?」

「……ええ」

担任教師を下がらせ、天乃と二人きりになったのを確認すると

これを。と、カバンの中から資料を取り出した

天乃「……なに? お見合い写真でも持ってきたわけ?」

「その様子ですと、久遠家のしきたりについてはご存知のようですね。ですが、今回はその件ではございません」

天乃「無理に下手になる必要はないわ」

「さようですか」

訝しげな天乃の視線に目もくれず

そして、われ関せずと笑みのままの男性は、とりあえずそれを見てください。と、促す


天乃「な、なにを言っているのか良く分からないんだけど……」

資料に目を通した天乃は思わず、そんな声を漏らす

相変わらずニコニコと不気味な笑みを浮かべる男性は

そんな難しいことは書いていないと思いますが、と、頭をかく

天乃「確かに書いてあることは簡単よ……言うは易し。という言葉通りに」

困った様子を見せてはいるが、困っているような雰囲気は全くない

むしろ、驚くことは想定内で

あからさまに不服そうな表情を見せてくることも想定内だと言いたげだった

「ええ、確かに。通常の戦力ではまず不可能でしょう。しかし、久遠様ならば不可能ではない」

天乃「私に死んで欲しいのなら、はっきりそう言いなさい」

「まさか、そんなはずがありません。貴女ほどの力を失うわけにはいきませんから」

冗談じみた言い方ではあるが、事実なのだろう

男性は今度ばかりは困った笑みを浮かべる

「先日出現した集合型バーテックス。通称、レオ・スタークラスターを屠った久遠様ならば、可能でしょう」

天乃「……何も知らなそうだから言うけれど。私はあの状態では精霊による守りのない。いわば攻撃全振りなの。間違いなく死ぬわ」

前回の戦いだって、

勇者部がいて敵勢力が僅かだったから問題なく力を行使することができたのだ

多勢に無勢だったとしたら、もう一つの隠し玉。満開を使う他ない


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
出来るだけやる予定ではありますが、今しばらく、休みは多くなりそうです




「そうですか、じゃぁ満開使ってください。死にはしませんし」

九尾「お前の魂が散華してから考えてやろうぞ」


では、すこしだけ


「死ぬ……とは、久遠様の得意な嘘ではなく?」

天乃「信用ならないのは仕方がないけれど、事実よ」

男性の怪訝そうな瞳に、天乃はさして気にすることなく答える

今まで、と言ってももう二年も前のことだが

信用できない相手だと思わせるには十分なくらいにはいろいろなことをした

だから、気にするだけ無駄だ

「そうですか……しかし、久遠様はあの力を使わずとも十分な力を持っています」

天乃「……そう」

まだ最後まで言っていないが

天乃は納得したように独り言ちて、その虚空を見るようなまなざしに

冷酷であれと自身に言い聞かせてきた男性は僅かに気を惹かれ、首を振る

「考えるだけでも考えてください。ただし、勇者部の皆さまにはご内密に」

ピッと自身の口元に人差し指を立てる男性

行動は子供らしさが見えるがその実、年齢は天乃の倍以上だ

少々、寒気がする

男性はあからさまに引きつった表情を見せた天乃を一瞥すると

それでは。と、一礼して一人先に退室する

一人きりになった応接室、ふかふかのよさげなソファで

天乃はなぜか強い疲労感を覚え、背もたれに体を預けて天井を見上げて息を吐く


天乃「……ふざけないでよ」

死ぬのが惜しいとか言いながら

提示してきた資料に目を通してみれば、死ねと言っているような命令書

もちろん、自分の力に期待してのことであると理解はしている

しかし、先ほども言った通り、なんのリスクもない力ではないのだ

それを告げたうえで【十分な力を持っています】と、来るとは

相当、死んでほしいらしいと。天乃は苦笑する

あの後に続く言葉は容易に想像できた

天乃「……だから、どうかよろしくお願いします」

そう来ると分かったからあの短文を述べた

頭を下げさせない、願わせない

あの男性はひょうひょうとしている反面

その一言で察してくれるほどにはまともだった様で、強行せずに考えてくれとは言ったが……

天乃「勇者部のみんなには内密に……ね」

それはそうだ。と、資料の一文を見つめる

――結界外バーテックス討伐作戦

今のみんなは足手纏いだ。ただの餌だ

だからこれは決して、知られるべきことではない


考えるだけと言われても

考えることさえままならないまま

気づけば一時間と少しの時間が経っていて

もう帰ってる頃だろうと半ば残念そうに昇降口へと向かった天乃を

部活をしている運動部、文芸部ではなく

帰宅部であるはずの女子生徒が、見つめた

沙織「意外と、長かったね」

天乃「……帰らなかったの?」

沙織「んー」

弄っていた端末を胸ポケットに押し込んだ沙織は

少し困った様子で笑みを浮かべると「いろいろあったからね」と、答える

天乃「そう、よね」

何があったのかは聞くまでもない

沙織は天乃の監視、専属巫女

その彼女が、今回の一件を聞かされていないわけがないからだ


車での送迎を断り、沙織との下校をしながら

沙織からいかにしてそんなふざけた作戦が提示されたのかを教えてもらった天乃は

深々とため息をついて「臆病風に吹かれたわね」と、呟く

もちろん、一般人としてはどうしようもなく抗いがたい絶望なのだから

そうなるのも無理はないのだが

沙織「レクターは正直、現状の戦力では久遠さんでしか対処できないと思うんだ」

天乃「レクター?」

沙織「レオスタークラスターの略称。いちいち面倒だし」

最凶を略称で呼べる沙織はさすが巫女。と、言うべきなのか

ただのおバカさんだというべきなのか

きっと、大赦の全員が沙織と同じ精神だったら――

……それはそれで恐ろしいことになりかねない

笑みを浮かべる沙織はだから。と、続けて

沙織「レクターになる前に星屑とバーテックスを消し去って貰いたいんだと思うんだよね」


そんな命を危険にさらすような作戦を

天乃一人にやらせた挙句

それが完遂したあとどう動いてくるかを予見した沙織は

不満そうに眉を顰めて「気に入らないなぁ」と、呻く

天乃「何が?」

沙織「だって、後顧の憂いが無くなれば安心して久遠さんの力を次世代に回せるでしょ?」

天乃「なるほどね」

だからこその【今回は】という言葉だったのだろう

その醜悪な作戦は蹴とばしたくもあるが

しかし、確かにレオ・スタークラスターと名付けられたあの集合体は強敵だ

一回目であの火力。では、二回目はどうなのか

いや、そもそも

あれをあらかじめ用意したうえでさらにたくさんの戦力を用意して来たらどうなるのか

それはあまり想像したくはないことだった

沙織「あ、ところで久遠さん」

天乃「うん?」

沙織「予定通りデート、行く?」


1、そう、ね
2、デートはしないで家に行きましょ。少し真面目に話すべきだわ
3、ごめんなさい。止めておくわ


↓2


天乃「デートはしないで家に行きましょ。少し真面目に話すべきだわ」

沙織「それもそうだね……世界が危険にさらされる以上。簡単な拒絶ではだめだもんね」

男性が考えてくれと言ったからではなく

この世界や勇者部のみんな、世界中の人々

それを守るためにはどうすべきかを、考える

世界に嫌われていようと

天乃はそういう、性格だからだ

沙織「お泊りセットいる?」

天乃「……真面目な話、するんだからね?」

ぼけたつもりのなさそうな沙織の笑みに

天乃は相談相手はこれでいいのだろうかと、少し不安げにため息をついて、苦笑する

沙織だって真面目な時は本当にまじめだ

真面目でないときもあるが

きっと、今は真面目なのだ。【長い話になる】そう見越しての言葉だろうから

沙織「九尾さんも呼んだほうがいいね。いずれにしても力を借りるんだし」

天乃「そうね」

二人でそう決め、天乃は沙織を連れて、自宅への帰路につく

道中、事態の深刻さに比べ、沙織の機嫌は良かった


√ 5月8日目 夕(自宅) ※月曜日  延長



九尾「ふむ……なるほどのう」

沙織と話した通り、九尾を呼んで資料を見せると、

確かに必要なことかもしれないが。と彼女は唸る

天乃の壁外戦闘

そのことを考えているようにも見えるが

その瞳はどこか懐かしそうに、遠くを見ているようにも見える

天乃「で、どうするべきだと思う?」

資料を手に持ったままの九尾から沙織へと目を移し、問う

沙織「あたしは反対。かな……確かに守るためには必要かもしれない。けど。バーテックスが簡単にやられてくれるとは思えない」

天乃「……それは当たり前だと思うけど」

沙織「それに、久遠さん一人に全部押し付けるなんて、そんなの絶対間違ってるよ」

天乃しか決定打がない。というのは分かっていても

沙織は受け入れがたいと言いたげに不満をこぼして、天乃の肩に頭を乗せる

沙織「せめて乃木さんとか。三好さんだけでも連れていくべきだよ」

友奈達は確かに経験不足だが、その二人は他に比べて経験豊富で

決して戦力不足とは言えない

それさえも連れて行かせようとしないのなら、それこそ

死んでほしいと思っているとしか思えなかった


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



九尾「開幕満開で神樹含め辺り一帯消し飛ぶぞ」

沙織「久遠さんに殺されるなら、良いよ」

天乃「いやよ。貴女には死んでほしくないわ」


では、少しだけ


九尾「三好の娘は無理じゃろうな」

沙織の言葉に、黙り込んでいた九尾が口を挟む

横槍を入れられるとは思っていなかったのか

沙織は一瞬、驚いた表情を浮かべると

天乃の枕をぎゅっと抱きしめて

沙織「どうして?」

と、匂いを嗅ぐ

すぐ横から何してるのよ。と

怪訝そうな声が聞こえてきたが、

沙織は九尾を見つめたまま答えを促し

九尾は小さく息を吐くと「分かるじゃろう」と言い、つづけた

九尾「あの娘は外を知らぬ。ゆえに、出した結果役立たずになる可能性があるからじゃ」

沙織「そう……だ。なら、乃木さんは?」

九尾「交渉次第。というところじゃろうな……複数の意味合いを持つ抑止力である乃木園子を安易に動かしたくはないはずじゃからな」


それはつまりどういうことか

やはり、お前ひとりで頑張ってこい

孤立無援、多勢に無勢

けれどお前なら大丈夫。的なやつなのか、と

天乃は半ばあきれた様子で、夕暮れを眺める

空は生憎のどんよりとした灰色で

雨音が激しく、窓には水滴が張り付いては、

上から伝い落ちる根性なしに押し流されていく

どこかではゴロゴロと唸っていて

本当に神職の身ならば「ちょっと、神樹様の様子を見に」と

外出さえしそうな荒天に切り替わっている

……家系的には神職なんだけど

ふと、自分の右手を見つめ、そこに触れている沙織の手

そこからさらに上って、沙織の目を見つめる

天乃「どうかした?」

沙織「ん。ぼうっとしてるから、気が付くかなって」

さっと手を放した沙織は笑みを浮かべ、九尾へと向き直る

沙織「交渉次第なら、あたしが何とか頑張るのも厭わないけど……でも、できれば行くのは控えてほしいな」


はっきり言ってしまえば、不安なのだ

樹海化した時

沙織は巫女としての力を持ってしても活動することはできない

つまり、瞬きをした瞬間

天乃が息を引き取っていたり、致命傷を負っていたりする可能性があるわけだ

しかも、その不安が常に付きまとっている

ただでさえその状況なのに

戻ってくることさえできない可能性のある結界の外へなど

送り出したいわけがなかった

九尾「行かぬ選択も出来なくはなかろう。もちろん、行かなかったからと、次の襲撃が過激さを増すとも限らぬ」

ことは起きてからしか分からない

予測、予想、下準備

出来ることは多々あれど、起きてくれなければその数多の選択肢から

選び取ることなどできはしないのだから

そう、要するに。大赦のこの臆病な作戦は杞憂である可能性もあるし

そうでない可能性もあるということ


1、沙織、園子は絶対に連れ出せる?
2、九尾、結界の外について貴女。何かあるんじゃないの?
3、九尾はどうすべきだと思う?
4、……行きましょうか
5、園子がいるなら行くわ
6、行かないわ

↓2


天乃はどうすべきかと考えながら

先刻、九尾の様子が少し変わっていたことを思い出して

天乃「結界の外について、貴女。何かあるんじゃないの?」

そう尋ねた

些細なことでも、出れば致命傷足り得ることになることもあるのだ

知らない、聞かなかった。

そんなうっかりと言えないような見逃しは看過できない

そのまなざしを受けてか、九尾は「特にあるわけでもないが」と

どこか懐かし気に呟くと

300年前のことだ。と、切り出す

九尾「先代の時に、結界の外に出たことがある」

天乃「……その時もあんな感じだったの?」

太陽の周囲を渦巻くコロナや紅炎のようなものが広がる異質な世界

そして無数の白い餅……ではなく星屑

二年前、鷲尾須美を失った後に

園子と共にバーテックスを追いかけて出た結界の外を思い浮かべて聞くと

九尾は星屑を除けばただの荒廃した世界だった。と、答えた


九尾「妾が気になった。いや、思い出したのは……そう、その時のことじゃ」

沙織「?」

何を言うのかと興味深々な沙織を一瞥し、

天乃も九尾の言葉に耳を傾ける

今回の作戦に影響があることではないのかもしれないが

しかし、300年前

久遠陽乃という先祖の時代のことというのは

とても魅力的な見出しだったからだ

九尾「その時はまだ、ここ四国以外にも勇者がいた土地があってのう」

沙織「ここ以外にも……? 凄い」

天乃「最初期の話なら、あり得なくはないけれど」

素直に感心する沙織の一方で

天乃は顎に手を当て、考えこむように息をつく

しかし、今ではここ以外の場所はないという結末を知っているから

壊滅か、ここへの逃亡かの二択のどちらかだと思ったからだ

でも、恐らくは逃げることは出来なかったのだろう。と予想し

九尾「その勇者の祠を、陽乃が作ったのじゃが……どうなったのかと。思うてな」

それが正しいと知って思わず俯き

けれどすぐに、顔を上げた

天乃「陽乃さんが、祠を作ったの?」



沙織「DIYの流行に乗ってたのかな」

天乃「そういう意味じゃないでしょ」

真面目に言った沙織の顔が驚きに移ろいゆくのを横目に

まったくもう。と

呆れ交じりに、しかし、うれしそうな笑みを浮かべた天乃は

咳払い一つで気を引き締めて、九尾を見る

天乃「陽乃さんには、祠……ううん。神聖な領域を作る力があったの?」

九尾「陽乃は元々純粋な巫女じゃ。得意分野だったと言っても良い」

なぜ祠を作ったのかは聞くまでもない

そこで散った勇者を、巫女を、人々を

そのさまよう魂を救うためだと、天乃はすこし奇妙な感覚を覚えながらも思って

依然見た写真の中の久遠陽乃という少女が

清めた小さな神棚のようなものを備え付けた小屋の前に正座する姿を思い浮かべる

九尾「陽乃の力が残っていれば、その祠も残っているじゃろうが……300年はちと。厳しいのう」

天乃「……随分と寂しそうな顔をするのね。何かあるの?」

九尾「お参りにきてあげて。と、陽乃に言われたが、その約束は一度も果たせておらぬからな」


そういう九尾の顔は

珍しく、本当に寂しさを感じるものだった

九尾にとって

久遠陽乃は久遠天乃よりもきっと、親しい存在だったのだ

そして、大切な存在だったのだとその物憂げな表情は物語っていた

天乃「なるほどね……けど、残念ながら長野まで行くのは無理よ」

本気を出せばその限りではないかもしれないが

荒廃しただけの世界ならともかく

継続ダメージを受けそうな休みなしの長距離遠征は

それこそ、死にに行くようなものだからだ

九尾「それは分かっておる。だから関係ないと、言うたであろう」

くすくすと笑う九尾の表情には

もうすでにさびそうな感情も悲しそうな感情も感じられない



1、陽乃さん、私よりも強いの?
2、園子やみんながいれば。いけるかもしれないけど
3、まぁ、仕方がないわね。この作戦だけは受けてあげましょ
4、沙織、園子を絶対に誘惑出来る?
5、好きなのね。陽乃さんが


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



千景「貴女は人も神も嫌いなのに、見捨てきれない可愛そうな人ね」

陽乃「……だとしても、そう思ってくれる貴女がいるから不幸じゃない」

千景「………」

陽乃「今は、それで十分よ」


では、初めて行きます


そうね……と呟き、天乃は沙織へと目を向ける

陽乃のことが少しだけ分かったのは嬉しいことだったが

残念ながら、今重要なのは久遠陽乃についてではない

天乃は今度また話を聞くことにしよう。と、思考を切り離して

天乃「沙織、園子を絶対に誘惑できる?」

そう聞いた

沙織「え? 誘惑?」

天乃「この作戦に誘えるかってこと」

ほんのちょっと冗談のつもりだったのだが

沙織が疑問符を浮かべつつも心なしか嬉しそうな顔をしたのを見ると

ふぅと息を吐いて、言い直す

沙織「あぁ……うん。絶対とは言えない。かも」

天乃「……そう。難しい?」

沙織「乃木さんに話を通すことができれば確実なんじゃないかな? 大赦の人に邪魔される可能性があるから」

――あと、あたし自身の気持ちの問題

あえて言葉にしなかった思いを握るこぶしを開く

そこには、当然。何もなかった


何度も言うように、沙織は天乃が結界の外に出ることを好ましく思ってはいない

天乃の言葉が【園子を誘惑できる?】というものだった時点で

園子さえ連れていけるのなら安心して作戦に参加できるという気持ちがあることも

連れていけなくてもやれるだけやってみようかとかいう優しさがあることも

沙織は分かってしまった

冗談を言ったり、恍けてみたりする

それに対して、天乃は知ってか知らずか呆れた顔をする

そんな顔が、沙織は好きで

誘ってみたけれど駄目だった。そんな嘘を考える心が締め付けられるように痛む

沙織「……………」

大雨、防風、轟く雷

今日は帰れないからお泊りだーなんて叫びたい気持ちと

今すぐ飛び出してうやむやにしたいという気持ちを携える沙織は

しかし、天乃をまっすぐ見つめると。頷く

沙織「何とか誘ってみる……嫌だけど。でも、久遠さん。一人でも行っちゃいそうだから」

天乃「……………」


結局は、そうなってしまう

久遠さんに弱いなぁ。なんて

自分自身に呆れる沙織は

なぜか悲し気な表情を見せる天乃に、笑みを向ける

なぜか。ではないからだ

分かっている

伊集院沙織は、久遠天乃の表情の意味を知っている

だから、笑みを向ける。仕方がないなぁ。と、息をつく

沙織「これは、あたしが決めたことだよ」

天乃「貴女が決めたこと?」

沙織「うん……久遠さんのしたいことを全力でサポートする。支える側になるって」

たとえ、自分が嫌なことでも

意見をして、それでもと言うのなら天乃の意見を尊重しよう

かねてからそう決めていた沙織は「だからごめんね。なんて言わないで」と

天乃の抱く罪悪感を取り上げるように

ベッドへと押し倒す


ふわりと、甘い匂いが広がる

敷布に散らばった桜色の髪、見つめ返してくる橙色の瞳

驚きに止められた微かに開く唇

一つ一つを沙織はその目に収め、搭載されたハードディスクの容量が

異常な速度で減っていき

そのせいか、ドクンドクンと唸る肉体の電源が平熱なんてお構いなしに体温を上昇させていく

沙織「………………」

天乃「………………」

どうこうしたいとは、思わない

いや、思う

いや、そんなことはしたくない

なぜかする必要のない葛藤をする沙織は

深く息を吸い込むと

やはり、天乃のことを強く感じてしまうのだが

それでも首を横に振ると

沙織「あはは、驚いた? 要らないモノ抱えてるなら。追いはぎしちゃうよ?」

あえて、冗談を言って見せる

天乃は「……ありがと」とだけ、返した

√ 5月8日目 夜(自宅) ※月曜日


1、九尾
2、死神
3、素戔嗚
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
8、沙織

↓2

※7は電話


神樹様に守られているからと

台風に似た何かが起こらないかと言えばそうでもない

もっとも、二年ほど前までは雨が降ったりすることはあっても

ここまで大きなものが来ることはなかったのだが……

沙織「戦いが始まってから。だよね」

流れる雨水によって歪められた外を眺めていると

不意に、沙織が声をかけてきて

窓から目を離し、すぐ横に目を向けると

床に敷いた布団の上で、髪に櫛を通す沙織の姿が目に入った

沙織「巷では神樹様に何かあったんじゃないかって噂が流れる始末だよ」

天乃「その噂を流した人は、まさかあたってるだなんて思ってないんでしょうね」

苦笑しながら言うと、

沙織は「だろうね」と同調してくすくすと笑う

普段はすこし騒がしい沙織だが

風呂上がり、就寝前となるとやや大人びた印象を受けるものなのね。と

天乃は思わず見つめて、息をつく

普段の騒がしさがあってこその、魅力だろうか


沙織「明日、あたしは直接大赦のほうに行くから。学校は休んじゃうね」

天乃「そんな急ぐ必要はないんじゃないの?」

沙織「大赦に急かされても面倒だから……それに。個人的に乃木さんに早く会いたいし」

会おうと思えば会えなくもないが

天乃優先という自他ともに認められた優先順位を守っていると

どうも、接触する機会がなかったのだ

天乃「……私も会いたい」

沙織「一回、会いに行って門前払い食らったんだっけ? 今は勇者部に専念してくださいって」

そういいながら笑う沙織を横目に

冗談じゃないわよ。と肩をすくめた天乃は自分の手元に視線を落とす

協力をこぎ着けたとして、どうするかという問題がある

その問題以外にも気になることやらなんやら。そう

今、横で髪を梳かし終えた一見美人な沙織と話したいことは色色とあったりなかったり




1、精霊について
2、勇者部メンバーについて
3、勇者部の進退
4、先代勇者について
5、園子について
6、沙織の好きな人
7、東郷と須美について

↓2


※1、2は再安価


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



天乃「ねぇ、貴女は好きな人とかいるの?」

沙織「答えても良いけど……久遠さんはあたしの答えへの答えの用意は出来てる?」

天乃「? 私はとくにはいないわよ?」

沙織(あー……駄目かぁ)


では、初めて行きます


天乃「…………」

ふと、思った。

今まで話していいたこと

今、話そうとしていたこと。

それとはまったく関係ないことなのに、

なんとなく「好きな人はいるのかな」と、天乃は思った

ピンク地に桜の花びらが散ったみたいな柄模様のパジャマを着込んで、

沙織がぐっと伸びをすると

天乃よりはすこし控えめながら、しかし、ある。と、判断するには十分な

そう、天乃が最も理想としているくらいの胸が、あるんだぞ。と言いたげにパジャマを膨らませる

その姿を横目に見ながら「ねぇ」と、声をかける

天乃にしては、小さい声

どこか、恥じらいを感じるような声に沙織は「ん?」と、目を向ける

天乃「沙織は、好きな人って、いる?」

沙織「……好きな人、かぁ」

はじめは驚いたように目を見らいた沙織だったが

すぐに、いつもの瞳に戻って、薄く笑みを浮かべる

それは、間違いなく同級生の伊集院沙織に間違いはなく

けれど、天乃の目にはとても。大人に見えた


天乃「別に、他意はないんだけどね」

沙織「ぅ~ん……」

――それは照れ隠しじゃないかな

そう思いながら、考えるそぶりを見せる

いや、本当に沙織は考えていた

好きな人がいるかと聞かれたとき、基本的には「久遠さんかなっ」なんて

どこかの誰か、というか

女子トークでは大体そんなおどけた返事をしている

本気なのか冗談なのか沙織自身、それは定かではない

もちろん、好きという言葉だけでいいのなら間違いなく好きなのだが

きっと、誰もが思い悩む好きという言葉を当て嵌める枠としては

濃霧に包まれたかのように、不確かだった

沙織「……どう、かな」

天乃「別に、バカにしたり言いふらしたりしないわよ?」

沙織「うん、そこは信頼してるよ」

人生相談、進路相談、恋愛相談

いくつもの相談事がなだれ込んでくるような人が

馬鹿にしたり言いふらしたりなんてするはずがないし

相手が天乃である時点で、沙織からしてみれば信頼する。という言葉さえぶしつけに他ならない


良く聞く話では

彼氏彼女の話をした際に、口ごもったりした人は大体、相手がいないらしい

それならば、口ごもっている自分はその相手がいないんじゃないか。と思ったが

沙織はなんとなく、クラスメイトの男子生徒達を脳内名簿から適当に引っ張り出してみることにした

聞くところによれば、

讃州中学というのは男女ともに高水準らしく、クラスメイトも顔立ちは悪くない

性格は道徳という名の支柱に、

これまた道徳さんというコンクリートで固められた見事な出来で

それでもやっぱり血気盛んだったりおとなしかったり。個人差はあるし

某、恋愛マスターのように同年代は子供っぽいと考えているわけでもないのだが

しかし、どうにもしっくりとこない

人としては好きと言える。だが、異性として好きだとは言えない

好きなのに、好きではない

天乃「沙織? どうかした?」

沙織「んー……」

天乃が優しく声をかけると、沙織はそう唸って

沙織「居なくはない、かもしれない」

そう答えた


天乃「いるんだ」

すこし、喜んでいるような

すこし、寂しそうな

そんな声で笑った天乃を見つめて「似合わない?」と問う

天乃「ううん、そんなことはないけど……」

言葉が中途半端な天乃が見せる表情は

形容し難く、ただ、とても14歳が浮かべることができるものではないもので

沙織は思わず目を奪われて

天乃「置いて行かれちゃったなぁ。なんて」

しかし、次の瞬間には

天乃はお茶目に笑みを浮かべてみせる

沙織「置いて行ってないよ。付き合ってるわけでもないんだもん」

そう、付き合っているわけではない

むしろおいて行かれているのは自分だと、沙織は苦笑した


1、でも、付き合おうと思えば付き合えるでしょ?
2、告白はしないの?
3、ふふっ、貴女に好かれた男の子がうらやましいわね
4、ううん、だって。私にはそういう相手がいないもの……だから、置いて行かれてるわ
5、それで、どんな子なの?

↓2


天乃「でも、付き合おうと思えば付き合えるでしょ?」

沙織「え?」

天乃「?」

何を言っているんだろう、この人は。みたいな表情を浮かべた沙織に

天乃はきょとんとした表情で答える

分かってはいたことだが、

天乃は本気で、そういったのだ

揶揄うつもりも何もなく、純粋にそう思ったから

――その、無垢さがなぁ

思わず感動しかけた沙織は「あのね?」と、苦笑いしながら紡ぐ

沙織「久遠さん、告白されてるよね?」

天乃「え、ええ。まぁ」

沙織「付き合おうと思えばいつだって付き合えるのは久遠さんだよね?」

もっともである。

とはいえ、天乃が言った言葉の意味はそうではなく

天乃「そうかもしれないけど、私は沙織なら。好きな人に告白すれば必ずOKもらえるんじゃないかなと、思って言っただけよ」

沙織「それは」

天乃「私は、告白してくれた子には悪いと思うけど。でも、私が異性として好きな相手はまだいないから」

そういう意味では、天乃のさっきの言葉は、天乃自身には当てはまらなかった


男の子から告白されたという現実を受け止めて

その告白を断ったという現実を抱きしめて

儚げな笑みを浮かべる天乃を、沙織は黙って見つめる

それは。と、続きがある言葉を止められた沙織の

すこしだけ開いていた唇が閉じ、ぎゅっと絞められて

天乃を移していたはずの瞳には

気づけば、ベッドの足部分が映っていた

沙織「でも」

天乃「?」

沙織「あたしは、そんな自信はないよ」

だって、

なんて言ったって

その相手は自分なんて見ていないから

数多の中の一つとしか。まだ、見ていないから

沙織「その現実を突きつけられると……なんていうか。怖くなるんだよね」

天乃「どうして?」

沙織「その有象無象の中からでさえ、消えちゃうんじゃないかって。不安になるから」


それは他人から見れば臆病なだけかもしれない

しかし、本人からしてみればとても大事なことなのだ

それはもちろん、好きな人の特別になれることが一番のハッピーエンドだとは思う

しかし、

有象無象という世界の広さを知ったとき

その中のちっぽけな一つでしかないと知ったとき

無理に這い出た先が、好きな人の視界の外かもしれない

その恐怖と不安に気づいてしまうから

その場にとどまることがもう一つのハッピーエンドであることを知ってしまう

沙織「私は、告白なんてきっとできない」

相手がいる居ないの問題ではなく、

友達、親友。その場で十分だと思ってしまうから

その人の笑顔が好きなのに、それを見ることができなくなるのが怖いから

沙織「恋をすると変わるのは、その恐怖に負けないようにと自分を育てていくからなんだ」

天乃「……沙織は変わらないの?」

沙織「気が向いたら。かな」

ふとまじめなことを言ってしまったと苦笑した沙織は

そう返して、「今はまだ本気かもわからないし」と、おどけて見せた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば似たような時間から




陽乃「ねぇねぇ、ちーちゃん」

千景「ち……っ、何か用?」

陽乃「チカチュウって呼んでいい?」

千景「やめて」




では、初めて行きます


沙織「それはそうと……久遠さんは好きな人いるの?」

さりげなく、とはいかなかった

けれど、話の流れにしっかりと準じて沙織は問う

聞こうと思えばいつだって聞けること

けれど、月明りのない部屋で

輝いて見える琥珀のようなきれいな瞳を向けてくる天乃へのこの問は

なぜか、とてもドキリとした。高揚感を、覚えた

天乃「んー……私、かぁ」

沙織「うん」

しかし、聞いては見たものの

さっき、異性として好きな相手はいないから。と言っていたのだから

答えは分かってしまっているようなもので

安心していいのか、心配すべきか

悩む沙織はなぜか残念に思って、笑う

沙織「好きな人は、いるよね?」

天乃「まぁ、そうね」

それが友人として、人として

その程度の好意であると考えて、頷く


今目の前にいる沙織はもちろん

園子、銀、友奈、風、東郷、樹、夏凜、付け加えて、瞳

それ以外にだって、いろいろと

大赦は少しばかり嫌いでもあるけれど

天乃としては、この世界が好きだし、生きている人も好きではある

久遠陽乃という先代勇者が人も神も嫌いだったとか無関係に、天乃は好きだ

けれど、今ここで求められている答えは

今の話の流れは、そうじゃない

天乃「……沙織が悩んだ理由が少しだけ分かる気がする」

沙織「難しいよね」

互いを見合うこともなく、手元を見る二人

しかし、浮かべる笑みは同じ感情

抱く思いは、似た者同士

いつしか、吹き荒ぶ風が止み舞い踊っていた雫は跡形もなく消えて

天幕の薄れた闇には、微かに月明りが見える

そして、訪れた静寂を二人の微笑が跳ね飛ばす


天乃「なんて言えば、良いのかしら」

異性として

いや、恋愛対象として

好きだと言える人、そのたった一枠

当て嵌めることは簡単なはずなのに

なぜか、宝くじよりも。当たる気がしない

天乃「私、恋は出来ないかもしれない」

恋愛相談を受けておきながら何言っているんだと言われそうだが

天乃は本気で

そして、いくつもの理由でそう思った

久遠家の柵があって、そして、思いつくことのできない対象の存在

後者が続こうとも、前者は関係なく絡みついてくるのだから

結婚だとか子供だとか

きっと、その行いも存在も向こうから現れてくれるだろう

しかしきっと。天乃はそれを恋とは思えない。だから、このままでは絶対に。と

沙織に目を向けると、初めて感情の読みにくい表情の沙織と。目があった


1、でも。好きな子はいなくもないかな
2、……男の子じゃなくても。いいのかしら
3、なーんて。ね。きっといつか、出来るわよ
4、どうかした?


↓2


天乃「なーんて、ね」

不可思議な表情を見せる沙織に向かって

茶目っ気交じりにそう切り出し「きっといつかできるわよ」と、笑って見せる

けれど、沙織は表情を変えず

それどころか、天乃の声が聞こえていないかのように呆然として

ふと、目を見開いて辺りを見渡す

沙織「あれ、えっと……あ、ごめん」

聞いてなかった。おどけたようにごめんねと言いながら

えへへと笑う姿は偽りなく沙織だ。しかし、さっきまでの表情は

沙織のそれとはやはり。違って見えた

天乃「眠い? いつも何時に寝てる?」

沙織「もう寝てる。かも」

携帯で時間を確かめた沙織が、もう11時だよ。と欠伸をすると

天乃よりも血色の良い肌の色ながら、か細く容易く折れそうな腕が、天井に向かって伸びる

沙織「あたしたち」

天乃「うん?」

沙織「……いつか。互いに結婚式に呼び合うのかな」

天乃「そう、ね……このままいったら。きっと、そうなんでしょうね」


このまま行ったら。と言うのは

天乃からしてみれば、自分を含めたすべてを無事に守り切れて

みんなが生きていれば。と言う意味だった

けれど、沙織は「なんか、嫌だなぁ」と

おもむろに呟いて、ハッと、口をふさいで「寝る」と布団を被る

そんな子供のような仕草を見せた沙織を

布団にくるまった親友を

天乃はしばらく見下ろして、くすくすと笑う

天乃「そうね、なんか、嫌だわ」

沙織「………………」

――守れたらとか、守れなかったら。なんて

そう思い、言葉にせず

黙り込んだ沙織から目を離し、月明りを眺める

天乃「週末……晴れたら満月かな」

雲の消えた空にはいくつもの星と、月が見える

だんだんと大きくなりつつある月を見つめ、天乃はなんとなく

太陽に食い殺される月を――想像した

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(デート、家に、泊まり、好きな人、いつかきっと)

・      九尾:交流有(これからのこと、陽乃の祠)

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



5月8日目 継続 終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 38(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 31(中々良い)
  結城友奈との絆 49(少し高い)
  東郷三森との絆 35(中々良い)
  三好夏凜との絆 21(中々良い)
     沙織との絆 44(中々良い)
     九尾との絆 34(中々良い)
      死神との絆 31(中々良い)
      稲狐との絆 28(中々良い)
      神樹との絆 7(低い)

 汚染度43%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




『勇者負けたってマジかよ役立たねぇな』

千景「なん……で、なのよ……っ!?」

陽乃『では、役立つ君たちを地獄ツアーにご案内。九尾特急が自宅までお迎えに上がりまーす』カタカタカタ

千景「な、なにしてっ」

陽乃『他人の価値を決めて良いのは、同じ土俵に立てる者だけだってことを教えてやるわ』ギリッ


では、少しだけ


01~10 
51~60 
91~00 

↓1のコンマ  枠内で追加  

追加ナシ、続行


√ 5月9日目 朝(自宅) ※火曜日


朝、目が覚めると、まずは必ず天井が見えて

横に視線を移せば、カーテンとそれにさえぎられる光が見える

けれど、天井が見えるよりも先に激しい雨音が、耳に入った

ゆっくりと目を開けると、カーテンの下からわずかに外の灰色が僅かに見える

天乃「……夜は止んだのに」

降ったり、止んだり

それを繰り返しそうだとため息をつく天乃の横で「んぅ」と

可愛らしく声を漏らした沙織が寝返りを打つ

ベッドわきに置かれた沙織のための布団の上で。ではなく

天乃が使っているベッドの上で。だ

天乃「……?」

――なんでいるのよ

潜り込んできたのは明らかなのだから

それは聞くまでもないのだが


沙織「……大丈夫だよぉ。久遠さん」

えへへ。と、真横の親友は笑う

ただ寝ているだけなのに。いや、寝ているだけだからかもしれない

いつ忍び込んだのかは定かではないけれど

左腕を抱きしめる沙織は、とても幸せそうな寝顔で呟く

天乃「いい夢を、見れているのね」

普段、気を張っている姿を見ないし

頑張っている姿もそんなに見ない

天乃にとって非日常の一片であるべき沙織は

なぜか、日常の一片として存在している。だから、いつもお疲れさま。なんて

ありがちなシチュエーションではないが

しかし、天乃は優しく笑みを浮かべながら、頭を撫でる

沙織が幸せであること。日常を堪能できていること

それは、天乃にとっても有難いことで。そして

勇者部がばらばらになったという現実を再確認するには、ちょうどよかった


1、九尾
2、死神
3、素戔嗚
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
8、勇者部部室
9、沙織

↓2

※7は電話
※8は勇者部直行。ただし、判定有


01~10 風
11~20 友奈

21~30  夏凜
31~40  東郷
41~50  樹
51~60 3年男子B

61~70  1年女子B
71~80  先生
81~90  女性
91~00  樹海

↓1のコンマ  


短めでしたが、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から




陽乃「実は、私と友奈って襲来以前からの友達なのよね」

杏「そうなんですか?」

友奈「うんっ、格闘技の試合を見に行ったときにね。女の子がいるなーって」

球子「格闘技って……」

陽乃「何度か勘戦デートもした仲よ」ドヤッ

千景「こっち見ないで。切り殺したくなるわ」イラッ


では、初めて行きます


擦れ違う一年生、二年生

勇者部のこともあってか、少し心配そうな表情を見せる後輩に

おはよう。と、笑みを向ける

土砂降りの雨の中、昇降口に逃げ切った生徒の安堵と心配の声

激しく打ち付けてくる風に、窓は号泣していて

雨漏りはしないだろうか。なんて、気をそらしてみる

――沙織は、上手くやれるかしら

きっと、沙織は分かっている

たとえ園子を誘うことができなくても、たった一人でも

天乃「私が、出て行っちゃうんだって」

握り締めたこぶしを胸元に当てると

体の温かさかと、雨に濡れた手の冷たさが綯交ぜになった感覚が伝う

沙織のいない教室

空席を見てしまうと、今はまた考えてしまうだろう。と

なんとなく、部室へと向かうことにした


部室の前では、ただいま休部中と

勇者部にしてはとても簡素で明るみのない張り紙の張られたドアを開けようとする男性が佇んでいた

キュルキュルと、隠密性……ではなく、静穏性の欠けた車輪の音が聞こえたのか

こっそりと声をかけようとした天乃に、男性教師は振り向く

天乃「あら、気づかれた……でも、先生。その張り紙通り。勇者部はただいま閉鎖中ですよ」

「それは分かっているよ。公式のサイトでも、この張り紙でも、校内掲示板にもその情報は出回っているからね」

天乃「それでなくとも、休部だーって、大騒ぎでしたから。耳に入っていないわけがないですね」

珍しく。しっかりと、ですます口調で答える天乃に

男性教師は思わず苦笑いを浮かべる

それは天乃が若干揶揄っているからだと分かりそうなものだが

勇者部の休部という異常事態を前にしては、心中穏やかではなかった

「何か、あったのか?」

天乃「それは部長に聞くべきかと」

「犬吠埼には聞いたが、ただ。休みが必要だと思っただけです。としか言わなくてね」

天乃「手が早いですね。それで次は、副部長である私に話を聞こうと思ったわけですか」

「……まぁ、そんなところだ」

一瞬、男性教師は目をそらした

目の前ならばともかく、離れていては見えないくらいに小さくそして、素早く

しかし、天乃には男性教師の動揺が見えずとも。分かった


天乃「そうですね……」

悩む必要はない

痴情の縺れだとかそんな恥ずかしいことではなく、

ただ、天乃の体の件が引き金になっただけなのだから

けれど、勇者やバーテックスどころか

大赦とさえ無関係の男性教師には

満開の後遺症だのなんだの、言えるはずもなく

天乃「先生もお聞きの通り。以前と違い大赦のお役目もあります。なので、優先すべきことを優先することになっただけですよ」

最もな言い訳を考える余裕もなかったのだろう。と

風の不安をあおりそうな返答を飲み込むように嘘をつく

と言っても、お役目があるのは事実だし

それがかなり大変なことであるというのも嘘ではない

「そうか。そういえば、大赦の方から勇者部の部員はお役目があると通達があったな」

天乃「はい。ですので、ご心配なさらなくて大丈夫です」

ふふっと、口元に手を宛がって上品さを演出してみる

我ながら似合ってないな。と、天乃は本心で苦笑していた


天乃「それはそうと、先生」

「?」

天乃「本当の要件は、話す必要はないんですか?」

笑みの中で、天乃はそういった

年齢なんて干支一回りほど離れているというのに

人生経験なんてまるで差があるはずなのに

教師の心の内を見透かしたような表情で、天乃は言う

だから、男性教師は自身のほほを汗が伝うのを感じた

話には聞いていた。進路相談を教師ではなく勇者部の久遠天乃にしていると

人生の相談、恋愛の相談それを、たった14歳の少女にしていると

最初は不思議だったそれも、頼ろうとしている今は、酷く、納得するほかないと

男性教師は思わず、笑みを浮かべた

これがただの14歳の女子生徒であるというのなら、その認識がその枠組みが間違っている。と

天乃「そこに私は関係ないので、解決は可能かと思いますから。別に、話さなくても構いませんが」

「……年齢詐称を疑いたくなると言った進路指導の先生の気持ちが分かった気がするよ」

天乃「あら、年下に見えると口説く意味があるのは、三十路が近い人だけですよ」

嘘か本当かもわからないことをさらっと言う天乃を見つめ、

男性教師は部室のドアを軽くたたく

「カギは持ってるか?」

天乃「ええ、副部長ですから」

「なら、中で話そう。あまり聞かれたくはない話なんだ」


男性教師は天乃を先に入れ、自分も入ると

部室の電気をつけて、ドアを閉める

景色の歪む窓、汚れた空は相変わらずで

部員の足りない勇者部は、不思議と重苦しい

天乃「……適当に座って平気ですよ。どうせ、誰も来ないので」

休部しているのだから。当たり前だ

背後で「それなら」と、がたがたと椅子を鳴らして座る音を聞きながら

静けさに包まれていた部室を見渡す

みんなが来る前の部室。ただそれだけ

なのに、生憎の天気だからなのかもしれないが

とても、普段の部室らしさはない

その陰鬱な空気を吹き飛ばすように息をつき

天乃は振り返った

天乃「それで、本題は何なんです?」

「笑わずに答えてくれるか?」

天乃「内容によりますが」

「……で、デートでファミレスと言うのは。久遠的にどう思う? 意見を、聞かせてくれ」



1、希望の通り、笑ってあげる
2、私的には別にいいと思うけれど……
3、そうね。デートで行くのだとしたら好ましくは思えないかもしれないわ
4、とりあえず、自分の身を庇ってみる
5、そういうのは、同僚に相談すべきと思うけど
6、相手と私の年齢差があるのなら。参考にはならないと思うわよ


↓2


以前、デートの練習的な建前の元

自分から付き合ったものの、告白されてしまった経験のある天乃は

ないとは思いつつも、魅了の力もあって、とりあえず自分の体をぎゅっと抱きしめて身を引く

「な、待て。何か勘違いしていないか?」

天乃「……勘違い?」

じっと、目を向ける

焦っているし、動揺もしている

けれど、異常な緊張感は感じられず、天乃はふぅっと息を吐く

天乃「先生のこと、信じるわ」

取りあえず、自分への好意があるわけではないと判断し

姿勢を正す

「聞いて、くれるのか?」

天乃「同僚に相談したのかもしれないけれど、私にまで相談してきたんだもの」

そこには、男性教師の気持ちがある

恥を忍んでのその行いには、相手への本気が感じられる

そのデートを成功させたいという意思が感じられる

で、あるのならば

天乃「その本気に答えてあげるのが――問われた女の役目です」


天乃「先生の質問に答える前に、一つだけ聞いても?」

「何でも聞いてくれ」

天乃「じゃぁ……今回が初めてのデート? それとも、何度かした後のデート?」

デートの行き先で悩んでいるのだ

はじめてに他ならないのは分かり切っている

それでも聞いたのは、教師がそういった質問にどう答えるのか

どんな反応を見せるのかを、見たいからだ

「それは……」

ちらっと眼をそらし、口ごもる

交際経験を聞いたわけではないのだから

躊躇う必要なんてないはずなのに、素直になり切れていない

そのためらいを、天乃は見つめて苦笑する

天乃「ふふっ、ごめんなさい。初めてよね。わざわざ聞くんだもの」

さっきはそうではなかったのに、だんだんと緊張しだしているのだ

自分の質問への答えが返ってきそうだから

自分の考えたその行き先が、誤りかどうかのジャッジが下されるから

「言う通りだ……何度か挑戦しようとしたんだが。その上手くいかなくてな。今回が初めてなんだ」

天乃「……そう」


挑戦しようとしたという努力は素晴らしいのだが、それならお店選びにも努力してみればいいのに。と、思う

いや、こうして自尊心を代償に女子中学生にまで聞きに来ているのだから

それはそれで努力はしているのだろう

薄給ゆえの金欠によるファミレスという判断なのなら、それはかわいそうな返しになる

天乃「うーん」

「難しいか?」

天乃「まぁ、そうね……」

ここで重要なのは、相手がデートだと思っているのかどうかだ

普通に食事に誘われただけだと思っている場合、妙に気合の入った店に連れていかれると

相手にとって迷惑になりやすい。と言うのも

やはり、デートとそうでないときの服装には気の入れ方が変わるし

いいお店なら、周りの女性客やそのお店に比べて劣ったファッションというのは恥辱を感じるものだからだ

とはいえ、デートだと思ってファミレスだった時の場違い感、落胆。それはいささかダメージが大きい

さて、どうするべきかと天乃は息をつく


最初だからファミレスではいけない

しかし、気合が入りすぎていても相手が困惑する

その中間地点がいいのだが、これがまた見極めが難しい

なにせ、店の高低を判断するのは

男性教師ではなく、そのお相手だからだ

極端な話、子供と大人では財力が違うようなもの

だからこそ、年齢がずれている相手との交際は難しいし、大変なのだ

天乃「私的には、ファミリーレストランでもいいんだけどね」

――味覚ないし

心の中で一息入れてみると

なんだかとても悲しくて、浮かべた笑みは思わず、寂しいものになってしまう

それに気づいたのか、男性教師は気まずそうに頭をかく

「もしかして、勇者部の誰かが失恋でもしたのか?」

天乃「どうして?」

「いや、久遠の表情が曇ったのが見えたから。そういうことがあって休部につながったのではと思ったのだが」

どうやら、そうじゃないみたいだな。と

男性は一礼して、目をそらす


天乃「………………」

自分の悩み事を抱えているというのに

あくまでも生徒のことを気にするのは、良い教師だとは思うが……

天乃「失礼な人ですね。女の子に対して失恋したのか。だなんて」

「……急に畏まった口調に戻らないでくれ。僕が悪かった」

天乃「ふふっ。悪いほうのユーモアがあって素敵ですよ。デート失敗に恋愛相談無料券を一枚賭けても?」

それは自分のことじゃないのか。と男性教師は毒づきながらも

ハッとして、天乃を見る

「相談ごとを有料で請け負っていたわけではないだろうな?」

天乃「まさか。もともと無料ですよ。ただ、そうですね。この無料券があれば順番待ちしなくて済みますよ」

時期になると相談事が舞い込むために

割と使い道になる、今さっき作った即席無料券

整理券とか優先権でもいい気がしたが、冗談一つの為には知ったことではなかった

天乃「さて、時間もないし……」



1、ファミレスはやめておいたほうが無難ね
2、ファミレス以上、高級未満にしておくべきだわ
3、高級なお店にしておきなさい
4、最後に一つだけ。相手はファミレスに慣れている人? 慣れていない人?


↓2


天乃「最後に一つだけ、聞いても良い?」

「?」

これは重要なことだ

もしも、天乃が考えていることが正しければ

ついさっき男性教師にしようとしたアドバイスはバカみたいな大外れになる

そうなれば、失敗とはならないが、思考にはならない可能性がある

天乃「相手はファミレスに慣れている人? 慣れていない人?」

「詳しく聞いたことはないが……」

男性教師はその女性のことを思い浮かべているのだろう

すこし時間をおいてから、「そういえば」と切り出す

「割と家柄のよさそうな人だったな。思えば、ファミレスとか無縁かもしれない」

男性教師は今更ながらに笑って

それじゃファミレスなんて駄目に決まってたな。と、呟く

いや、そうとは限らない

舌の肥えた人にとっては満足できない程度のものかもしれないが。しかし

ファミレスと言うものに慣れていないのなら。むしろ

天乃「誘ってみるのも良いかもしれないわ」

存外、自分とは立場の差がある男性の生活に興味を持ってくれたから

デートに付き合ってくれるのかもしれない

それなら、無理をした自分ではなく、いつも通りを見せてあげることが彼女に対しての一番の良作

天乃「つまらない男だと思われないようにした方が良いわ。先生、年齢よりも年上に見えるから。顔では合格できないと思うし」

「なん……だと?」

天乃「失恋したか。なんて言うからよ。先生」

悪戯にまみれた天乃の笑顔に、男性教師は毒気を抜かれて

仕方がない問題児だと、ため息をつく

可愛げはあるが、可愛げのない生徒

その評価が良く、分かった

√ 5月9日目 昼(学校) ※火曜日

友奈、沙織、風、樹、東郷、夏凜との交流が可能です

1、風
2、樹
3、友奈
4、東郷
5、沙織
6、夏凜
7、イベント判定
8、九尾

↓2


夏凜「まぁ、呼び出す方法としては。間違ってなかったけど」

昼休み、部室には天乃のほかに夏凜の姿があった

端末の受信メール一覧の先頭

天乃からのメールに今一度目を通し、夏凜は呆れ交じりに肩を竦める

風は休部にしただけで、部員同士の接触は禁じていない

禁じていても、そんな越権行為には従う道理もないのだが。しかし……

夏凜「あんたが一番、部員に会うべきじゃないと思うんだけど」

天乃「夏凜なら、平気かなって」

夏凜「なにその信頼……バカみたい」

驚きに見開いた眼を逸らし、適当にぼやく

三好夏凜の常套手段だ

ただ、悪戯心なく本心の天乃はすこし残念そうにうなずく

天乃「そうね……虫が良すぎるかしら」

夏凜「私、一応いろいろ忠告したつもりだったのよ。あれでも」


落ち込んでいることは分かっている

けれど、この場面で慰めを言えるほど夏凜は器用ではないし

そんなことができないのだと、自覚している

だから、あえて、問題を掘り返す

傷つけてしまう可能性があると。分かっていながら

夏凜「確かに伝わりにくい言い方だった。非は認める。けど、あんたなら私の言葉なんてなくても気づけてたはずでしょうが」

天乃「……ええ。気づけてた。分かってた。そう。でも、私は」

あの選択をしてしまった

東郷も、夏凜も休みが必要だと言っていたのに

全員で遊びに行こうだなんて言ってしまった

そんなことを言えば、誰も嫌だとは言えないと分かっていたのに

いつも通りを演じようとしてしまった東郷の作った牡丹餅を無理に食べてしまった

すべて、関係修復をしようと思ったからだ

九尾には言ったが、肩ひじ張らなくてもいいのだと教えるためにあえてそうした

そうした結果が――どうだ

天乃「っ」

自分を責める天乃の手の平には、食い込んだ爪痕が深々と刻まれていく

ギュゥゥゥと、力の入りが分かる微かな音に夏凜は目を向け、眉を顰める

駄目だ。それではだめだ。それでは、意味がない

夏凜「みんな無理してた。けど、あんたが一番、無理してた」


どいつもこいつも、勇者部はバカばっかりだと夏凜はため息をつく

誰かが悪いわけじゃない、何かが悪いわけじゃない

あの嘘は付いた側が悪いと言い切れることではない

あの嘘に騙されていた間、裏目に出ていた善意が悪いことだったとは言えない

何も悪くない、誰も悪くない

なのになぜ、どうして、こうも傷つき合うのか

その哀傷に意味はない。その悲哀は思い過ごしだ

なのに……

夏凜は分からない。と、首を振る

夏凜「あんたにはその自覚がなかったかもしれないけど……」

天乃「………………」

夏凜「みんながあんたへの善意が間違っていたと嘆いていることが。あんたにとっての負担だった」

だから、ことあるごとに口を挟んだ

休むべきじゃないかと言ったし、無理して食べなくてもいいんじゃないかと言った

本当は、ただ一言。頑張るなと、言いたかっただけ。そういえばよかっただけなのに

夏凜「あんたはほんと。無意識なのか何なのか。自己犠牲の塊みたいで心配よ」

天乃「私が、自己犠牲の塊だなんて。どうして言えるのよ」

夏凜「だって、結局。あんたは自分が無理することで場を収めようとしただけじゃない。間違ってる?」


天乃「どうかしら。ううん、たぶん。そうなのかも」

覇気がない。張り合いがいがない

そう思う心を抑え込むように息を止め、夏凜は眼を逸らす

天乃だけが間違っていたわけじゃない

全員が間違っていた。自分を含めた全員が

夏凜は自責しつつも、目の前の落胆した少女を見定める

誰も助けては上げられないだろう

もしかしたら、自分にでさえそれは出来ないのかもしれない

いや、慰めるだの助けるだの

自分には力不足な話だ

いや、そもそも、不向きな話不得手な行い、役立たず

そうだ、役立たず……

【――どうしてこの子はこんなにも】

【――春信は優秀なんだがなぁ】

【――春信を見習いなさい】

夏凜「っ……」

脳裏に響く呪詛

三好夏凜という人格を傷つける過去の記憶

思い出した彼らの言葉を受けながら

しかし、夏凜は天乃から目を離さない

夏凜「あんたは、あんたはみんなといる時が幸せだったんでしょ? その時、あんた達はみんな無理なんてしてなかったんじゃないの?」


友奈達はもちろん、

味覚がない中で数々の物を食べなければいけなかった天乃も

きっと、無理はしていなかったはずだと、夏凜は思う

その時のことなんてほとんど知らない

そもそも

こんな友人関係の亀裂など遭遇したのは初めてだ

でも、何も言わないなんて我慢ならない

なぜ、そう思うのか。こんな気持ちを抱くのか

どうして頑張ろうと思うのか

夏凜はその迷惑な感情の理由を

――友達だから。でしょ

心の疑問に答えて、融解させる

夏凜「無理すんな。頑張んな……余計な言葉なんていらない。ただ、そう」

天乃「?」

夏凜「よろしくって言えば良い。友達の始まりなんて。そんな、簡単な話なはずなんだから」


夏凜「どうしてもっていうなら、全員で謝んなさいよ」

どっちが悪い、誰が悪い

そうじゃない

そんなんだから、いつまでたっても収拾がつかない

相手を悪者にしたいのではなく、

自分を悪者にしたいなんて、バカな精神だからなおさら

だったらもう。そうだ

夏凜「そうすりゃ、全員悪いでお話し終了。で、どう?」

天乃「……そうね」

夏凜の提案に答えた天乃の声は暗い

天乃「悪くない。かな」

収拾がつかないことは事実だろう

みんな優しいから。きっと、悪者にはしたくないって

それなら両成敗

うん、間違ってはいない


1、夏凜も優しいわね
2、どうして。そんなに気遣ってくれるの?
3、ありがと。夏凜。貴女のそういう不器用なところ大好きよ
4、それで、片付いてくれるといいんだけど


↓2


天乃「夏凜も優しいわね」

夏凜「何よ、似合わないって言いたいわけ?」

さっきまでと打って変わって浮かんだ笑みに

夏凜は照れ臭さを残しながら言い放つ

天乃「まさか」

また、笑う

その優しさを受けて切なげに

けれども、うれしさを携えて

天乃「夏凜が優しくて良い子だって、私は知ってるから」

夏凜「んな、こと……」

【――気にするな。夏凜が頑張っていることは私が良く分かっている】

いつか、誰かもそう言った

誰かの手はその頃の夏凜にとっては大きく、その声は優しく

しかし、傷ついた心には消毒液のように沁みる痛みが辛すぎて、突き放した誰かの思い

今度は、突き放さずにいられるだろうか。傷口に塩を塗りたくられるとしても

払い除けずにいられるだろうか

夏凜は悩み、首を振る

夏凜「なら、あんたが誰かのために頑張りすぎる馬鹿だってこと。私は知っててやるわ」

――怖いなら、自分から掴みに行けばいい

そうすれば突き放すことも、払い除けることも。しなくて済むのだから


夏凜「とはいえ……東郷たちは考えをまとめる時間も必要だろうし。明日の放課後、部室に来れる?」

天乃「明日の放課後?」

夏凜「そこで全員で話す。どう?」

明日の夕方

特に何も予定はないだろうから、平気だとは思うが……しかし

何か嫌な予感がしなくもない

けれど、夏凜が言うことも確かに間違いじゃない

休部して二日目

悩みだした月曜日、纏める火曜日

悩んでいる最中の呼び出しに、応えてくれるとは限らない

さて……


1、今日話す
2、明日話す


↓1


天乃「そうね、明日にしましょうか」

夏凜「素直に従われると、なんだか気味が悪いわね」

天乃「あら、酷い言いぐさね」

ほんの少し後退りする夏凜に微笑を向けて

天乃は弱まることを知らない暴風雨を見つめる

嫌な予感がする。天気のせいかそれとも自分の力故に気づく何かか

定かではない不安要素を胸に、天乃は息をつく

天乃「私は、貴女にリードされるのも悪くないと思ってるんだけど」

夏凜「……そ。厚い信頼をどうもありがと」

天乃「嬉しそうじゃないわね。貴女」

皮肉のような夏凜の声色

けれど、ただ照れくさいだけなのだ

夏凜のそれが分かるから、天乃は笑みを携えている

そして、それがあるから夏凜は素直には喜べない

その循環は決して、悪ではない

天乃「まぁ、私は好きでも貴女はそうじゃないなんて。良くあるすれ違いだものね」

夏凜「そういう無神経だと思うような言葉選びが呆れさせてるんだっての」

――好きとか、リードとか。信じてるとか

夏凜「馬鹿じゃないの?」

言葉とは裏腹に、やはり。夏凜は笑みを浮かべていた


√ 5月9日目 夕(学校) ※火曜日


01~10  沙織
11~20 
21~30  大赦(強硬)
31~40 
41~50  男性
51~60 
61~70 
71~80  素戔嗚
81~90 
91~00 女性


↓1のコンマ  


珍しく大雨が降っているせいか、

運動部は体育館……ではなく、運動部も文芸部も

どこの部活も早めの帰宅を促され、

昇降口では「この雨の中帰れとか鬼ーっ」などの言葉が飛び交う

けれども、天乃の教室は不思議と静かだった

雨の音、風の音

それは当然、あるのだが、足音も声も。何もしない

その中で、つい先ほど震えた端末のメールを、机に伏せたまま覗く

瞳『すみません。渋滞で遅れそうです。同じく送迎だとは思うんですが……もう少し待っていてください』

送迎担当の夢路瞳

彼女からの絵文字付きの謝罪メールに目を通す

天乃「もう少し、ねぇ」

いつもなら

【沙織「久遠さん、しりとりする? 怖い話でもいいよ」】

そう声をかけてくれる相方もいない

天乃「暇ね」

無防備でも寝てしまおうかと目を瞑った瞬間

ガシャッっと、金属音が聞こえて目を開ける

この時代、この教室

それには不釣り合いな手甲が視界に入り、顔を上げる

素戔嗚「……………」

その先にあるのは、紫色の瞳


天乃「あら、珍しいじゃない」

戦闘時には必ず姿を現すのだが

それ以外ではめったに姿を見せない素戔嗚の出現に

天乃はほんの少し動揺しかけた心を抑えて、笑みを浮かべる

こういう精霊関係の異変は、大抵。厄介なことの前触れだからだ

天乃「どうしたの?」

素戔嗚「……………」

カチャリ。腰元の刀が甲冑に触れた音がする

彼が持つ刀の名は、草薙の剣。ではなく、先代勇者が持っていたとされる刀だ

ゆえに、経年劣化による損傷の激しい刀は今でも粉々に砕け散りそうで

しかし、素戔嗚の手に握られても。それは朽ち果てることなく

まるで、それだけが時間に置き去りにされたかのように、形を保つ

天乃「どうしたの?」

素戔嗚「……………」

紫と橙

二つの瞳が交錯する中、雨も何も。遠慮するかのように音が途絶える

そして

素戔嗚「……………」

素戔嗚は抜刀すると、刀の柄を天乃に向ける

天乃「なに? まさか、これで貴方を刺せとでも?」

その問いに、素戔嗚は頷く


1、刺す
2、嫌よ。何が起こるかわからないもの


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



天乃「えいっ」グサッ

男子「…………」

天乃「あっ」

男子「く、久遠が人殺しにぃ!!」

天乃「ちょっ、待って。後でお願い聞いてあげるから代わりに待って!!」


では、初めて行きます


天乃「消えたり、しないのよね?」

この刀はもはや使い物にはならない

それを修復するために、自らの力を捧げる

ありえない話ではない

武器として、力として

勇者に宿ることのできる精霊だから

だから、そうしようとしていると考えて問うと

首を振って否定し、言葉を持たない彼の瞳は、見据える

その手で、その刀で、自分を刺して欲しい。と

その理由は不明瞭で、意味も分からない

しかし、手に持つ刀の刀身はきらりと光って、意識を引き抜く

考える必要はないと、迷う必要はないと

躊躇わず。導きに従え。と

天乃「………分かった」

すぅっと息を吸って、息を吐き

右肘を曲げ、刀を持つ右手をゆっくりと下げ

左手を前に、素戔嗚の甲冑の隙間を捉える

戦いの緊張感はない。しかし、確かな張りつめた空気の中

何もかもを感じず、その一突きだけに集約した天乃の動きは一瞬だった

金属音は響かない、髪は遅れて靡き、風は切られたことすら気づかずに平然と流れていく

朽ち掛けの古刀に胸を貫かれた素戔嗚はその刹那を今、感じて

紫色の瞳だけで、ほほ笑んだ

01~10 
21~30 
41~50 
61~70 
81~90   

↓1のコンマ

※上記範囲なら記憶有


貫いた刀が光り、甲冑が光り、

素戔嗚そのものが眩い光に包まれ――そして

若葉「――ここ、は」

彼女と変わらない金色の髪と、彼と変わらない紫の瞳

それを持つ少女は驚いたようにあたりを見渡し

天乃を見つけると首を傾げた

若葉「君は……誰だ?」

天乃「え?」

若葉「すまない。何もわからないんだ……私が乃木若葉であるということは分かる」

分かるが、それ以外には何も。分からない

若葉はそう繰り返すと、すぐ後ろの机にぶつかって、立ち止まる

若葉「学校……そうだ。学校。だが、なぜ私はここにいる。君は、私は……」

天乃「私は、久遠天乃。貴女はそう。乃木若葉。私は学生だからここにいる」

若葉「久遠……天乃?」


若葉「懐かしい……懐かしい。名だ」

若葉は感慨深そうに声を漏らす

記憶にはないのに

なぜか、聞き覚えがあるのだ

知らないはずなのに、分かる気がする

その名には――とてつもない安心感がある

若葉「久遠。久遠天乃……とても、大切な名前な気がするのだが」

彼女は自分の胸元に手を宛がい

欠けた記憶に思いを馳せて、ほほ笑む

記憶喪失の不安を、その何かが包み込んでいく

若葉「残念だ。私にはそれが分からない」

天乃「……若葉」

若葉「済まない。君と私はどのような関係なのかだけ。教えてはくれないか?」

大切だと思う理由

それは自分で思い出さなければいけない。と

あえて聞かずに若葉は問う



1、友達
2、親友
3、精霊と勇者
4、恋人(※友達)
5、先輩と後輩


↓1


天乃「忘れ、ちゃったの?」

若葉「なに……?」

張りつめた声

寂しそうな、悲嘆の声

潤み出す橙の瞳

若葉は何も覚えていないが

記憶にないからこそ、動揺してしまう

自分は彼女に何をしたのか

彼女との何を忘れてしまったのか

その疑問に、彼女は答えた

天乃「私たちは、恋人だったのよ?」

若葉「恋人……だと……?」

馬鹿な、ありえない

初めに思ったのは否定だった

しかし、愛というものは性別が捉えられないものである可能性だってある

いや、むしろ。難かしらの枠にとどめて置けるものではないかもしれない

しかし、それでもありえないと口にしようとした。否定しようとした。同性で恋人などおかしいと

だが、天乃の演技は上手かった。流石悪戯娘と神獣を唸らせるほどに

そして、若葉は記憶を失っているという欠点があった。すでに天乃を傷つけているのではないかと言う罪悪感があった

だから、否定できなかった。異議を唱えられなかった

若葉「すまない……謝って済むとは思わない。だが、済まない……こんな時。私は君に、何をしてあげれば良い」

天乃「本当に……忘れ、ちゃ、たのね……」

途切れ途切れの嗚咽未満の声

俯いた衝撃に揺れた嘆きの泉が一滴、煌めかせる

若葉「あ、まの……」

――泣かせて、しまった

強い罪悪感を握り締めて、若葉もまた。俯いた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「恋人よ」

若葉「なんだ、夫婦ではないのか。記憶のある私は、こんなにも愛らしい彼女を前に何していたんだ」フルフル

天乃「え、ちょ……」

若葉「どうした天乃。私は恋人では不満だ。だから今から、伴侶になってくれないか?」グイッ

天乃「ぅ、ぇ、ぇ、えぇぇっ!?」


では、初めて行きます


天乃「まぁ、実際はただの友達なんだけどね」

若葉「な、なんだとっ! 天乃ッ! 私のことをおちょくってるのか!?」

天乃「むふふっ」

若葉「否定も肯定もしない笑みが無性に腹立たしいなッ」

すぐに冗談だと訂正したとはいえ

記憶喪失と言う不安要素の中で嘘をつかれたのだ

憤るのも無理はない

しかし天乃は笑みを浮かべたまま若葉を見る

そこには悪戯心は感じられず

むしろ、安堵しているようにも感じた

天乃「ふふっ」

若葉「何がおかしい。私は――」

天乃「別に。ただ、嬉しくて」

若葉「嬉しい、だと? 私をコケにして楽しいか?」

天乃「違うわ。記憶喪失で変に他人行儀になるかもって不安になったけど。そうならなくて、嬉しかったの」

若葉「………………」

天乃「見ての通りの人間だからね。堅苦しいのは嫌いなの。今みたいな貴女の態度が、私は好きよ」


悪戯の笑み

安堵の笑み

そして、天乃が今見せている笑み。これは……

若葉「ぅ……」

若葉は何も悪くない

けれど、若葉はほほを赤く染めて眼を逸らす

これはいきり立って怒鳴ったのが恥ずかしいだけだ。と、言い訳を思いながら。

若葉「そう、か……君は私を責めないのだな」

天乃「責める理由が見当たらないもの」

若葉「私には記憶がない。何もわからない。それでもか?」

天乃「ねぇ、若葉」

少女は呼ぶ

さっきとまた違う、子供らしさのある笑みを携えながら

遊びに誘うように、若葉を呼ぶ

天乃「私は誰?」

若葉「久遠天乃、だろう? ついさっき自分で――」

天乃「そうね。そう。そうなの」

若葉「何が言いたい?」

天乃「貴女は私の名前を覚えてくれているじゃない。今は、それだけで十分よ」

ね? と、天乃は問いかけて

若葉はとっさに答えることができずに、頷く

なぜ、どうして、何が、なんで。いろいろと言いたいことはあるが

今は、天乃が言うようにそれだけでいいのだと。焦っても意味はないのだと。思った


√ 5月9日目 夜(自宅) ※火曜日


1、九尾
2、死神
3、若葉
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価

↓1

※7は電話


九尾「妾は何も知らんぞ」

天乃「出てきて早々。嘘つかないで」

若葉が自分を精霊だと認識していないからか

姿を消すことができず、瞳には存在が知られてしまった上に

乃木若葉と言う名前まで伝わったが、大赦からの接触がないのを見ると

車から降ろす際に言った【「一応黙っておきます」】というのは本気だったらしい

若葉の今後の対策と、若葉の存在

それを話すために、若葉の入浴中に呼び出した九尾は

明らかに知っている素振りで知らないと言う

突っ込めとでも言いたいのだろうか

天乃「なぜ、素戔嗚が若葉になったのよ」

九尾「それは認識が誤りじゃ。素戔嗚が若葉になったのではなく。若葉が素戔嗚になったのじゃ」

天乃「若葉が……素戔嗚に?」


彼女がもともと精霊だった。ということか

いや、それなら園子は精霊と人間のハーフというなんともSFチックと言うか

RPGゲームにありがちなものになる。と

天乃は頭の中で否定し、思考を整理する

若葉が先代勇者であり人間だったことに間違いはない

では、なぜ。精霊になっていたのか……

九尾「若葉はひどく悔やんでおったからのう……報いを受けさせたいと」

天乃「報い……バーテックスに?」

九尾「いかにも。それを果たせなかったがために悔やんでおった、だから、その怨念ともいえる意思を刀と素戔嗚。扉と鍵にした」

誰が。陽乃が

それは言われずとも結びつき、記憶の中の先代勇者の写真を引き出す

天乃「記憶喪失の理由は?」

九尾「刀の経年劣化による術式の不具合。あるいは、陽乃が悪霊や魔剣になることを防ぐために封印したのじゃろう」

天乃「……そう」

陽乃という先祖が元は列記とした巫女だったことは何度か聞いたが

そんなことまでできるほどの凄腕の巫女だったなど、初耳だ

いや。だからこそ、神様を従えることができていたのだと考えられなくはない

――恐らく、私なんて足元にも及ばないんでしょうね。陽乃さん


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




―風呂―

若葉「ふぅ」

若葉「……………」スンスン

若葉「天乃の匂いがするな。今は私の匂いだが」

若葉「二人とも同じ匂い。恋人……同棲///」ブクブクブク


では、少しだけ


九尾「巫女として、勇者として。陽乃は主様よりも優れていたのは事実じゃ」

天乃「でしょうね」

九尾「じゃが、戦闘能力の面では。主様の方が高かったのう」

九尾は思い出し笑いをしながら、言う

陽乃は平和だった旧世紀の人間

その一方で、天乃は来るべき戦いに備えて

様々な武術を仕込まれていたのだから、差があって当然で

しかし、九尾は続ける

九尾「逆に、陽乃は巫女としての経験を積んでおったからな。主様は巫女舞など踊れまい」

天乃「さぁ? 記憶を取り戻したら踊れるかも」

九尾「……いや、舞より武術と疎かにしておったのだ。無理じゃな」

冗談もなく、きっぱり

九尾の揶揄う表情に、天乃はあり得なくはないわねと息をつく

正直、天乃は自分の家が神社の通ずる巫女の家計と聞いた今でも

跡継ぎになるために頑張ろうとは思えていない

そもそも、神職というもの以前の神様が嫌いなのだから仕方がない

九尾「陽乃の作った口噛み酒は真、美味なる酒じゃった。あれに勝るものなど、妾は知らぬ」


天乃「………………」

思い出を溢した九尾の表情は

人間味にあふれている

悲しさと切なさ、寂しさと喜び

感情を感じるそれを前に、天乃は一瞬。言葉を失った

本当に、好きだったのだと

本当に、愛していたのだと

その思いを感じたから

天乃「貴女、お酒飲んでるの見たことないわ」

なんとなく、適当な話題を抓むと

哀愁を感じる九尾の瞳が、天乃に向いた

九尾「300年間禁酒しておるからのう」

天乃「良く続くわね」

九尾「不味い物をわざわざ口にする必要もないではないか」

天乃「一理あるわ」


いや、けれど

きっと九尾の禁酒の理由はそうではない

それが最後の味なら、ずっと。残り続けるからだ

最後に口にした最高の一品として

余計な酒に記憶を酔わされることなく、ずっと

天乃「……口噛み酒。ね」

口噛み酒と言うのは、言葉通り口で噛んだお米やイモ類を吐き出して溜め、

それが発酵することで出来るお酒だ

九尾「陽乃は時々、唐黍でも作っておったぞ。唐黍で作るとな。米よりも粒が残りやすくて妾は好きじゃったな」

天乃「陽乃さんは良く作ってたの?」

九尾「妾とは力の貸し借りがあるからか、基本的には頼めば作ってくれたのじゃ」

嬉しそうに、九尾は語る

口噛み酒なんて言うものは

思春期真っ只中。あるいは少し過ぎているであろう陽乃にとっては

羞恥を覚えるものであるはずなのに

頼めば作ってくれるというのだから、陽乃も九尾に対してはそれなりの好意があったのかもしれない


天乃「そっか……」

自分は口噛み酒なんて造らないし

作る技量……が、必要なのかはさておいて作る気はないが

しかし、もしもそういう経験があって

それができるのなら、やってあげているのかもしれない。と、天乃はひそかに笑う

自分と九尾しかいなかった昨日までの自宅

ここでならだれに見られるわけでもない分、羞恥心はすこし減るだろうから

天乃「陽乃さん、優しいのね」

九尾「厳しい時は、厳しいがな……」

ふと、九尾の声色から明るい色が消え、

すぐに「そういえば」と、切り替える

話したくないことがある。そんな気がした

九尾「若葉はどうするのじゃ?」

天乃「?」

九尾「今のままでは精霊化というべきか、姿を消せまい」

天乃「そうね……何か方法はある?」

九尾「妾の力ならば、若葉を学校に初めからいた生徒。として記憶の挿入もできるが……」



1、それで危険がないのならそうしましょう
2、ううん。若葉に精霊であることを話しましょう


↓1


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から




天乃「飲んでみて」

九尾「これは口噛み――」

天乃「べ、別に貴女の為じゃないんだから。本当に作れるのか、知的好奇心に負けただけなんだからっ」フイッ

天乃「勘違いしないでよね!」


九尾「……とか」

天乃「ない」


では、少しだけ進めていきます


天乃「ううん、若葉には精霊であることを話しましょう」

九尾「む……? 良いのかや?」

天乃「どちらにせよ。面倒なことにはなるだろうし。戦いに出て貰うちゃんとした理由でもあるからね」

乃木若葉を学生として生活させること

それも悪くはないと天乃は考えた

いや、先代の勇者として

きっと過酷だったであろう人生を歩んできた彼女には

日常と言うものを堪能してほしいと思った

しかし、だからこそ。仮初ではいけないとも思った

九尾「初めから嘘をつかねば良いものを」

天乃「私にとっては、友達だもの。みんな、ね」

九尾「それは間接的に妾も。となるが?」

天乃「嫌なら無視して貰って結構よ」

不躾な問いには冷たく返して、ため息一つ

恋人と言うのは嘘だ。冗談だ

だけれど、友達だと言ったのは嘘ではない

主従関係と言う物を、天乃はなかなかどうして、気に入らなかったからだ


九尾「くふふっ、まぁ良い……しかし。若葉は驚くじゃろうからな。対応は任せるぞ」

天乃「丸投げするの?」

九尾「友人。なのじゃろう?」

笑いながら調子づく九尾を横目で睨むと

やはり、くすくすとこ馬鹿にした笑い声を漏らして

白色の肌、黄金の髪、赤い瞳の女性は姿を靄と化して、消失

残された天乃は残香を目で追うように窓を見る

天乃「……記憶、ないのよね」

あれば陽乃の件を聞きたかった。と、思いつつも

ないからこそ、あの場で取り乱さずにいられたのだろうと思うと

一概に記憶喪失が悪手だとは思えなかった

天乃「陽乃さんが仕組んだのか、それとも故障か」

相当劣化していた刀だ

術式の一部が欠落していたとしても不思議ではない

なら、やはり……とも思うが

天乃「……300年間。刀が無事だったのなら。もしかしたら、祠も無事かもしれないわね」

興味はある。知的好奇心もわいてくる

けれど、行くのは簡単なことではないだろうし……と

近づく足音に、耳を傾けた


√ 5月9日目 夜(自宅) ※火曜日  継続


若葉「やはり、お風呂と言うのは素晴らしいな。心から疲れが抜けていく」

天乃「喜んで貰えて嬉しいわ。ただの、家のお風呂だけど」

若葉「天乃が出してくれた入浴剤。香りが凄く良かった」

……子供なのだが

年下の子供のように純真な喜びを見せる若葉の姿に

天乃はくすくすと笑みを浮かべる

記憶がないという不安の感じない表情だからか

すこしだけ安堵する

けれど、少しだけ罪悪感を抱く

なにせ、今からその安寧を打ち破ろうというのだから

若葉「それで、天乃」

天乃「うん?」

若葉「寝室、なのだが」

天乃「あぁ……」

部屋はいくつか空きがあるにはあるが……



1、その前に、話すことがあるわ
2、おいで? と、ベッドを叩く
3、押し入れに布団がある。と言う
4、隣の部屋が空いてるから。と、言う

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来ない可能性があります
出来れば通常時間から





天乃「おいで」ポンポン

若葉「……そうか」

天乃「?」

若葉「天乃」グイッ

天乃「ぁ、ちょ、待って冗――」

若葉「別に、寝れなくなっても構わないのだろう?」ギュッ


では、少しだけ


天乃「おいで」

ポンポンっと、ベッドを叩いて笑みを浮かべて見せると若葉は顔を顰め、後退る

恋人と言う冗談もあってか、本気だと思ってはいない。が

少しばかり心配にもなってしまうのだ

悪い人ではないと頭ではわかっているのだが

もしかしたら、そういう人間なのかもしれないという。不安がある

若葉「し、しかしだな」

若葉は躊躇った

困惑し、狼狽え、長考しようと口元に指を宛がうと

柑橘系果実のフローラルな匂いが鼻腔をつく

天乃の匂いで、自分の匂い

共有した、一つで二人の香り

若葉「……………」

だから、若葉は思う

天乃「若葉?」

若葉「……一つ、聞いて良いか?」

天乃「うん?」

若葉「私が……その。なんだ」

眼を逸らし、こぶしを握るそぶりを見せつつぐにゅぐにゅと忙しなく指を動かして

若葉「天乃を抱きしめたりしても……許してくれるの、だろうか?」

誤魔化しきれずに本心を問う


若葉「も、もちろん! こ、故意にそうしたりするつもりはないぞ!」

言い訳だ。いや、言い訳にすらなっていない

これはもはや白状していると言ってもいいだろう

髪を洗った時、体を洗った時、入浴した時

統一された甘い匂いを感じ、久遠天乃という心優しい友人の香りだと理解した

良い匂いがする人だと、分かっている。自分がそうなのだから

けれど、だから。しかし、でも

記憶のない中で、唯一の知人、友人とも呼べる彼女を強く感じたいと思う

それが最も容易いのが、抱擁することだからだ

だから、そう。つまりは

そう考えた若葉は「すまない、故意だ」と、言い直す

若葉「……不安なのだ。堪らなく」

天乃が同性愛者である可能性

その危機感など気にならないほどに

若葉は恐れてもいるのだ

若葉「記憶がなくて、何もなくて。だから、一人には……なりたくなくて」

天乃「だから、私のことを?」

若葉「ああ。私はきっと、君と眠れば無意識にも意識的にも君を抱きしめると思う。だから、それが駄目なら。私はここでは眠れない」


天乃「ん~……」

頬を冷汗が伝う。そんなことを宣言されても、と言うのが正直な気持ちだろうか

恋人だと言ってみたり、一緒に寝ようか。的な意味合いでベッドを叩いてみたりと

いろいろしてはいるが、8割は冗談でできているのだ

冗談に大して、そんな生真面目な答えを返されても困ると言えば困るのだが

九尾に言わせれば、それは自業自得と言うものだろう

二人して黙り込むと、風の唸り声が外から響いてくる

締め切ったカーテンの奥では何が起きているのか

いや、そのさらに遠くの壁の向こうでは何が起きているのか

沙織からの連絡も待っている天乃は多少の不安を感じ、飲み込むように息を吸って、吐く

若葉の姿を視界から押し出し、手元を見つめて、目を瞑る

不安を感じているのは自分もだ

恐れを抱いているのも自分もだ

そして、不安を増長させようとしているのは――自分だ




1、良いわよ。好きなだけどうぞ
2、……その前に。言っておくべきことがあるわ


↓1


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


では、初めて行きます


天乃「……良いわよ」

若葉「良い、のか?」

天乃「ええ、好きなだけどうぞ」

天乃の声は優しく、心地が良く

向けられた笑みは温かく、穏やかだった

本当の恋人のように

あるいは、幼子を抱く母親のように

若葉「……すまない」

自分との関係すら何一つ覚えていないわが身に

遠慮するなと衣食住を提供し

そのうえで、厚かましいとも言える我儘を願ったにも拘らず

受け入れてくれたその心は、今の若葉にとっては救いに他ならない

天乃「謝らないで」

きっと、普段の若葉はこんな弱弱しくはないのだろうと天乃は思う

しかし、今置かれている若葉の状況を鑑みれば

こう、誰かに頼りたくなってしまうものなのだろう

だから、突き放そうとは思えなかった


若葉「なら……ありがとう。か」

若葉は小さく呟く。聞こえていてくれと思いながら

気恥ずかしさに抑圧された声

こっそりと天乃に目を向ける。向けられた笑みはそのままで

こっちに来ないの? と、言いたげで

若葉「……」

一歩一歩を踏みしめて歩く。近づく旅に心臓の音が跳ね上がっていくのを感じ

止まりたいと思うが、しかし。体は意に反して動くのをやめない

それはきっと、意に反していないからだろう。と、若葉の心が呟く

どうしようもないほどに不安だった

事実を言えば、入浴だって心細くはあったのだ

だらしない話、みじめな話、一人であるという時間が耐えがたい苦痛だった

若葉「失礼、する」

天乃の体を覆う掛け布団を掴むと、覆い隠していた天乃の体温を強く感じ

追い打ちのように、天乃らしい匂いを感じる

思わず動きを止めると、天乃は「どうかしたの?」と心配そうに言う

どうもしていない。いや、している

若葉は葛藤の末に

若葉「天乃の匂い、私は好きだ」

そういってしまった


天乃「……は? えっ?」

酷く素っ頓狂な声だと、天乃は思った

若葉はいたって毅然とした表情で

冗談ではないことは分かりやすかったが

だからこそ、そんな声になってしまったのだ

若葉「好きなだけ、いいのだろう?」

白い肌を朱色に染め上げていく天乃を見ながら

それに気づけないほどに陶酔仕掛けている若葉は

ベッド脇に右手をつき、ゆっくりと。

天乃に向かって体を傾けていく

近づけば近づくほど、彼女の匂いがする

入浴したばかりで、どちらも同じ香りなはずなのに

なぜか、まったく違う安心感を覚える匂い

上半身を起こしていた天乃が「や、ちょ……待」などと狼狽え

体を寝かせていくのを追いかけて、自分も体を倒す

天乃「わ、若葉……?」

若葉「君は……美しいな」

ベッドに押し倒す形となって、追い詰めて

しかし、若葉の理性が失われているわけではない――のだろう

若葉は狂いがなく、純朴で嬉しそうな笑みを、浮かべた


若葉「本当に、美しい」

天乃「何言って……」

問おうとした天乃のほほに、

一滴のしずくがしたたり落ちて、言葉が止まる

泣いている。誰が、天乃が

違う。天乃ではなく、若葉が泣いている

また一つ、さらに一つ、天乃に振る涙の源泉は

その紫の瞳に嘆きと、悲しみと、悔しさを宿らせ

しかし、それが何か理解できない動揺に震えていた

若葉「君を見ているとどうしようもなく心が震える」

けれど、「分からないんだ」と、呟いて

天乃「若葉……」

天乃はそんな若葉に自分の不安も心配もかくして声をかける

若葉「…………」

美しい景色を目にした時の感動か

掛け替えのないものを失った悲しみか

天乃を目の前にしていると、どちらとも言えてしまう感情を抱いてしまう

しかし、そばにいないと不安になって。そばにいると安心できるから

どうしても、そばにいたくて感じたくて、若葉は天乃を抱きしめる

若葉「何も分からなくても……いや、分からないからこそ。私は――君と共にありたい」


↓1コンマ一桁+二桁

※0=10
※ぞろ目= 00=10+10+10=30

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流有(失敗、勇者部)
・   乃木若葉:交流有(復帰、一緒に)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流有(???)



5月9日目 継続 終了時点

  乃木園子との絆 25(中々良い)
  犬吠埼風との絆 38(中々良い)
  犬吠埼樹との絆 31(中々良い)
  結城友奈との絆 49(少し高い)
  東郷三森との絆 35(中々良い)
  三好夏凜との絆 23(中々良い)
  乃木若葉との絆 29(中々良い)
     沙織との絆 44(中々良い)
     九尾との絆 34(中々良い)
      死神との絆 31(中々良い)
      稲狐との絆 28(中々良い)
      神樹との絆 7(低い)

 汚染度43%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 5月10日目 朝(自宅) ※水曜日


いつになく強い暑さを感じて目を覚ますと

昨日、の夜からずっと抱きしめられたままだったことを思い出して、息をつく

すこし体を動かすと

張り付いたインナーがはがれ、空気が入り込んでひんやりとする

扇風機のありがたみを彷彿とさせる感覚に微笑みながら、横目で若葉を見て

そのまま窓に視線を移す

快晴であることを示すまばゆい光が、差し込んできていた

若葉「んん……ひ、なた……」

天乃「?」

眠ったままの若葉から零れた聞き覚えのある単語

――単語じゃない。名前だ

ひなた。そう、確か、上里ひなた

旧世紀における勇者メンバーのサポート役だったらしい巫女の名

どんな仲だったのかは分からない。けれど

安心した顔つきを見るに、少なくとも友人以上ではあったのだろう

きっと、こうして頼る相手だったに違いない


天乃「記憶……」

記憶がないのは間違いではないだろうが

こうして、寝言とはいえ名前を呟いてしまうということは

完全に消去されたわけではないはずだ

だとすれば、術式の劣化による記憶の欠落なのだろうか

考えている間にも、「今度は、守れたぞ……」と、さらに言う

天乃「……………」

先代勇者が経過年数的にそんざいしていないのは間違いない

乃木若葉が生き残ったことも確かだろう。久遠陽乃という人物が子孫を残したことも間違いはないだろう

だが、ほかのみんなはどうなのだろうか

結城友奈と高嶋友奈。瓜二つと言えそうな存在はいるが、それ以上には影も形も見当たらない

そのあたりに関しては、九尾に……

天乃「うん?」

考えをさらに巡らせようとしたところで

端末が光っていることに気づき、メールの差出人を見る

from:沙織

天乃「沙織から……?」

待ちに待った、沙織からの連絡だった


内容はいたってシンプルで、明日の朝

と言っても、昨日の夜に着信しており、【5月10日目の朝】つまりは

今日の朝なのだが、迎えに行くから大赦に行こう。とのこと

天乃「……話は付いたのかつかなかったのか」

これでは何もわからない

しかし、少なくとも

ここから先は、天乃がいなければ進まない話。ということだろう

若葉「ん……ぁ、まの?」

天乃「あら、起こしちゃった?」

端末をいじっていると

目を覚ました紫色が光を帯びて輝くのが見え、天乃は困ったように笑う

若葉「いや……それより、なんだか汗っぽいな。私のせいだ。すまない」

天乃「好きにしてって言ったのは私だもの。気にしないで」

若葉「……そうか。だが」

ゆっくりと体を起こし、同じく体を起こしていた天乃の体を見る

天乃「?」

その視線の動きに天乃が疑問符を浮かべる一方で

若葉はなぜか、照れくさそうに眼を逸らす

若葉「水が滴っているわけではないが――今の君は、どこか艶かしいな」

天乃「何言ってるのよ、貴女」


1、そんなことよりお風呂入りましょ。出かけるわよ
2、そんなことよりも、ねぇ。大切な話があるの
3、でも、貴女も負けてないわよ
4、……貴女、匂いが好きな人?


↓2


天乃「……それよりも、大事な話があるの」

若葉「大事な、話?」

またふざけたことでも言うのかと身構えようとしたが

天乃の真剣なまなざしに、若葉は思わず息を飲む

それはついさっきまでの和さを感じられそうな穏やかさはなく

張りつめた緊張感を引き連れていたからだ

若葉「私のことか?」

確証はないが、そう思った

まだ出会ってから半日程度でしかないが

天乃が優しい少女であることは十分身に染みた

心にだって、沁みた

だから。彼女が空気を変えてしまうほどに真剣なことなのなら

記憶喪失な自分に関することだろうと思ったのだ

そして、それは間違ってはいない

天乃は頷くと「私たちの関係よ」と、言う

若葉「……友人では、ないのか?」

天乃「それは間違いないわ。少なくとも私はそう」

若葉「私は……? どういう意味だ」

天乃「私と貴女は、勇者と精霊。いわば主従関係に近いのよ」


勇者と精霊

そんなことを言われても、そう簡単に理解はできない

勇者都はないか、精霊とは何か

それを若葉は【失って】しまったからだ

何をふざけたことを、なんの冗談だ

そういうこともできる。しかし、若葉は言わず「どういうことだ」と、問う

勇者と精霊について天乃から聞き

そして、若葉はそれを疑うことなく信じた

信じられないような話を、若葉は信じた

若葉「……そうか。私は天乃の精霊なのか」

天乃「疑う余地はあるわよ」

若葉「それでも。私の心が、天乃を信じたいと言っているんだ」

若葉はどこか、嬉しそうに言う

人間ではないこと。それは悲しいことだが

天乃の精霊ならば

記憶が戻って離れ離れになることもないし

勇者を守るための存在ならば、そばにいても問題がないからだ


若葉「天乃」

天乃「なに?」

若葉「君は先ほど、私は。と言ったが……」

勇者と精霊は主従関係のようなものだと言った

それは、決して友人関係になるべきものではないのだろうと思う

しかし、それでは、何か腑に落ちない

今こうして、自分が精霊であることをすんなりと受け入れようとしているのは

天乃が自分を友人だと言ってくれたからだ

それならば、だからこそ

これは憚れることなのかもしれないが

若葉「私も。と、訂正願いたい」

天乃「若葉……」

若葉「精霊でも構わない。だが、私は……天乃の友人と言う立場の方が好きだ」

後ろにいることもあれば、前にいることもあって

当然、隣にいることだってあるだろうし、守るというのも変わらない

殆ど何一つ変わらない精霊と友人

けれど、若葉にとってその二つは全くの別物だった

若葉自身には、まだ。そのはっきりとした理由など分かってはいないが

若葉「駄目か? 天乃」


天乃「ご主人様である私を友達……ね」

ふふっと笑みを浮かべながら言う天乃を見つめ

若葉は空気がまた、一変したのを肌に感じ、

見えないように微笑む

この優しい空気が好きだ

この落ち着く空気が好きだ

緊迫した空気のままでいられない

大人なような子供のような

成長途中の主のことが、若葉は気に入っていた

天乃「私はすでに言ったわ。あとは、貴女が決めて良い」

若葉「そうか、なら……」

天乃「うん」

若葉「私も君の友人が良い」

恋人が良い。そんな冗談を

昨日の仕返しとして言おうと思った

けれど、若葉はなんとなくそれではいけない気がして、言い換える

若葉「それで――」

ピンポーン。と、若葉の続きを遮るように

来客の音が響いた


↓1 コンマ一桁+二桁

園子の絆値補正


√ 5月10日目 朝(某所) ※水曜日


園子「ごめんね~、私が動けるなら。自分から行ったんだけど……」

そう言ったのは、ベッドに横たわったままの、乃木園子だ

彼女は残念そうに笑みを浮かべ、唯一光を持つ右目に天乃を映す

天乃「動けないのなら、仕方がないじゃない」

車いすがあれば動ける天乃と違って

園子はほぼ全身が動かせない

それでも目が見え、耳が聞こえ、話ができる

そんな奇跡を喜びながら悲しんだ過去を持つ二人は

悲しげな雰囲気のまま、再会を喜ぶことなく、見つめあう

そんな二人を陰から見守る若葉は、小さく息をついて

若葉「話があるから、天乃を呼んだんじゃないのか?」

園子「ん~……そうなんだけどね」

若葉「なんだ? 私に何かあるのか?」

まじまじと見つめられ、若葉は思わず後退る

見られるのは、あまり慣れていないのだ

園子「……まぁ、後でにしておこうかな」

気になることはあるのだが

それよりもまず、話さなければいけないことがある


園子「最近、天気が崩れやすくなってるのは。天さんも分かってるよね?」

天乃「それはもちろんだけど……やっぱり、そうなの?」

主語のない問い

けれど、園子はそれの意味するところを理解し、頷く

結界に何かが起きていて

それがこちら側の世界に荒天として悪影響を及ぼしているのだ

二人は同じことを考えているし、

流石の大赦も、そこに関しては不確定要素は色色とあるが

しかし、頷くしかなかった

だから、こうして天乃と園子が会うことができていて

そして、それはつまり

園子「私も行くよ~、天さんを一人にはさせないって。決めたから」

天乃「……大丈夫なの? 足手纏いにならない?」

園子「私の精霊の数を知ってるかい?」

冗談っぽく言う

その声のなつかしさ、愛らしさに

天乃はくすくすと笑う

精霊の数が多ければ多いほど、園子が傷ついたことになる

それは嘆くべきことだ

けれども天乃の前で、傷ついたことを嘆き続けているわけには、いかない

だから、園子は冗談を言う。笑って見せる

全身を包帯に包まれた痛々しさながら、笑みを絶やすまいと、笑っていた


園子「天さんと同じくらいには、強いつもりだよ~」

天乃「あら。それは期待できるわね」

そうは言うが、実際問題

園子は自分の力が天乃と同等であるという自信はない

もちろん、自分が強くなれているという自負はあるし

それは大赦も認めているほどで、きっと

現時点では天乃を除いた正規勇者の誰一人として足元には及ばないだろう

けれど、天乃は今も昔も勇者だ

園子が勇者となる前から鍛錬に励み、勇者となっても鍛錬に励み

敗北し、失って、苦渋を舐めさせられながらも

今もこうして生きてきている天乃とは、精霊では埋められない力の差を

園子は感じていた

天乃「……それで」

一言で、空気が変わる

真面目な話から、ふざけた話へ

そしてまた、真面目な話

二転も三転もしそうな二人を困ったように眺める若葉は

背後に感じる大赦の人間に目を向ける

若葉「邪魔をするなら、容赦はしないが?」

「時間がありません。今すぐに、出立をご用意を」

その言葉は、これからその話をしようとした二人の耳にも、届いた

天乃「え……? 今からなの?」


園子「今日か明日の予定ではあったんだけど……」

天乃「………」

園子の反応的に、

今日と言うよりは明日の可能性が高かったのだろう

朝は晴れていたのだが、窓のない園子の部屋からも

なぜか、雨風の強い音が聞こえるような気がして

天乃は歯を食いしばる

天乃「空気……読めないんだから」

今日の夕方にはいきたい場所があった

やりたいことがあった

そこで、勇者部について、自分について、みんなについて

しっかりと話し合う予定だった

なのに……

天乃「勇者部に、私が行くことを伝えたらだめなのよね?」

「はい。彼女たちに伝わった場合。高確率で久遠様、園子様の元へと向かうと思われますので」

行けば足手纏いになりかねない

だから、わざわざ勇者部ではなく。天乃単体に声をかけたのだ

天乃「……そっか」


天乃「まぁ……さっさとお掃除して帰ればいいだけの話よね」

園子「……………」

天乃「若葉、貴女にも手を貸してもらうわね」

若葉「言われなくても。私は君の剣であり、盾だ」

天乃の笑みに、若葉は笑みを返す

沈黙する園子は浮かない表情で

唖然とする大赦職員は「そんな馬鹿な……」と、声を漏らす

職員の記憶の片隅にある、彼女の姿

それが薄れたがゆえの勘違いでないのならば

天乃が若葉と呼んだ少女は、先代の勇者様

すでに亡き、存在だからだ

それを突き詰めたいという衝動はある

けれど、それを優先させている余裕はないのだと、自制心に従って首を振る

「では、園子様。久遠様。ともにご準備を」

園子「……うん」

職員の差し出した手

そこにある、懐かしい端末を天乃が受け取り、園子の手を握る



1、どうかしたの?」何か心配事?
2、行きましょう。園子
3、二人で暴れてやりましょ
4、大掃除、まだ時期じゃないのにね
5、若葉については、後で話してあげるわ


↓2


天乃「どうかしたの? 何か、心配事?」

そう問われ、園子は首を振れないもどかしさに

困り果てた笑みを浮かべて、息をつく

言うべきか迷う。だが、言わなくてもすぐに分かることだ

しかし、言えば覚悟が決まってしまうだろう

だから、言うわけにはいかないと、口を閉じる

園子「わっしーも、一緒だとよかったなーって。思っただけ~」

嘘だ。ごまかしだ

酷く醜い芝居だと、自己評価を下して

園子は職員へと目を向ける

園子「乙女が着替えるんだよ~? 男の子は退室、退室~」

「失礼いたしました」

一礼して、職員が去ったのを確認すると

園子はよろしく。と、呟き

天乃はそれに従って、端末に園子の手を触れさせると

園子の戦う意思に反応した端末はその機能を開放し、勇者へと変身させる

天乃「全身、補助器具だらけね」

園子「でも、これが意外と便利でね? ゲームをしながら料理も出来るんだよ~?」

天乃「そんなわけないでしょ。まったく」


園子「あははー」

けど、これの使い方は少しは学んである

ギリギリになってからではあるが、一応

大赦から端末を一時返却してもらい、戦闘訓練を積んでいたからだ

しかし、どうあがいても対人戦だったがために

学べたのは基本的な武器の扱い方くらいなのが口惜しい

……もっとも、アレを人間と呼んでいいのか疑問ではあるが

人間なのだから、人間なのだろう

精霊の障壁の有無に関わらず、鳩尾に掌底を叩きこんでくるアレが人間なら。だが

園子は笑みを浮かべたまま、自分の腹部を軽くなでて「天さんも」と、声をかける

天乃「そうね……」

今回は手を抜くわけにはいかない可能性がある

いや、早く終わらせたいならそれこそ

いかなる理由があろうと、全力全開であるべきだ



1、九尾勇者
2、死神勇者
3、混在勇者


↓1


天乃「死神、お願い」

死神「ワタシデ、イイノ?」

死神の心配する声に、笑みを返す

最初はそうするしかない

九尾の力の方が火力はあるが、回復を阻害する力がない

そして、混在差sる勇者の力ははるかに強力で

回復の阻害も可能だが、その分リスクのある

ハイリスク・ハイリターンな力だ

出来る限り使わない方が良いのが、現状だ

で、あるならば。必然的に死神の勇者になる。と言うわけだ

死神「ノコリモノニハ、フク。アルノ?」

天乃「そう願うばかりだわ」

消去法の選ばれ方に不満を言わず、

冗談らしいことさえ言う死神の頭を撫でる

若葉「では、準備ができたのなら行こうか」

園子「……そういえば、貴女は。天さんの恋人?」

若葉「今は友人だ!」

……無事に戻りたい、戻らなければいけない

天乃「…………」

何せ、今回はみんなに黙っての、出撃なのだから


↓1 コンマ一桁

補正値+5

戦闘難易度


マップ→【http://i.imgur.com/anrEHUj.png
マップとステータス、一からなのを失念
今回はここまでとさせていただきます明日もできれば通常時間から



若葉「今は友人だ!」

園子「今は?」

若葉「っ///」フイッ

天乃「そう、若葉は私の友達よ」

園子「そ、そうだよね~」

園子(それはないよ~……)


」では、少しだけ進めていきます


壁の外が地獄であることは

園子も天乃も二年前にすでに目にしている

けれど、それでも

暑苦しさを覚えてしまいそうな業火の吹く世界を目の当たりにして

園子は唇を噛み締めていた

頑張っても、頑張っても。戦いが永遠に続く

それを強く印象付けられる光景のように思えて、ならないからだ

だが、弱音を吐くわけにはいかない。視界を埋め尽くすほどの大軍勢

その背後に見える作りかけのバーテックス集団

それを、圧倒的戦力差に屈したからと見逃してはならない

そう、強く意思を持っているから

園子「……天さん」

天乃「うん」

名前を呼びつつ、天乃の満開ゲージを確認する

その花弁はすでに咲き誇っており

新しい花を芽吹かせようとさえしている

園子「これが運命だなんて……私は認めたくないなぁ」


嫌な予感は、ずっとしていた

何かが起こる。そんな不安をずっと感じていた

大赦があわただしくなり、天気が崩れ始め、神樹様から伝わる力が弱りつつあるのを感じ

いずれは大事に至るであろうことは、多少予想出来ていた

そして、その一大事に一世代前の勇者であり、

現在も勇者として活動を続けている天乃が呼ばれることも予想の範囲内で

園子「嫌だ……」

しかし

誰の計らいか、謀略か、導きか、悪戯か

天乃が形勢逆転の一手、【大いなる破壊の抑止力】を扱える状態でここに来ることになるとは、思わなかった

いや、それを考えたくなかっただけなのだろう

園子「なんで」

満開を使えば、文字通り形勢逆転だ

普通に戦えば、消耗戦で敗北もあり得る

そんな状況下に、なってしまっているのか。と

園子は神樹様へと振り返って、涙をこらえる

園子「天さん……絶対に満開は使わないで」


天乃「……園子?」

園子「約束して、お願い」

何を言っているの? そう言いたげな瞳

けれど、園子は強く願いを込めた瞳で見返す

駄目なのだ。確証はない。だが、使ってはいけないと直感が叫んでいる

勝つために重要なその一手

抗うための最良の一手、甘い誘惑

しかし、だからこそ果てしないリスクの可能性を感じる園子は、願う

園子「無理そうなら撤退……そうしよう。天さん」

天乃「……けど」

バーテックスの破壊だけでもしておきたいが、

あれははるか遠くにいる

無理まで行かずとも、無茶は必要な現状で満開を使わないというのは

もはや、【あきらめよう】と言っているに等しかった



1、それは出来ないわ
2、分かったわ――ごめんね。満開!
3、……考えておくわ
4、仕方がないわね……でも、出来る限りはやるわよ


↓2


本当に短いですが、ここまでとなります
明日は出来れば少し早めの時間から
仮作成ですが
敵の能力値は大体このような形で作られています


http://i.imgur.com/zlcS7hf.png


では、初めて行きます


天乃「仕方がないわね……」

最近はどうなのか知らないけれど

少なくとも、一緒にいたころはそんな真剣な願いなんてあまりしてこなかった園子の願い

茶目っ気交じりならふざけ返すこともできるが、

二年前の戦いを想起させる園子の表情には、その余地はなく

それなしでどうするのかと言いたげな心をため息に変える

天乃「でも、出来る限りはやるわよ」

園子「うん~、頑張るよ~っ」

星屑は名前の通り一つ一つは取るに足らない屑みたいなもの

けれど、ここまで数が多いとなると、正直邪魔だ

最奥で復活中のバーテックスにたどり着くまでの道も阻んでいるから、尚更

園子「私は念のため、結界周囲の星屑を倒すよ~」

機動力のない園子は

奥まで行かなければいけないのなら、攻めだろうと逃走だろうと

足手纏いになる。だから、結界付近から動くのは得策ではないと、判断したようだ

天乃「それなら………」



1、移動 ※マップより座標入力。黄色は加速込み
2、隠密(SP10) ※死神効果で消費-20
3、攻撃(移動無し J57)
4、攻撃(移動無し M57)


↓1


※久遠さんの現在使用可能攻撃は【突撃 威力:800 射程:1~3】です


□戦闘処理

天乃→J57(星屑) 撃破  移動無し
若葉→H58(星屑) 撃破  移動無し
園子→M57(星屑) 撃破  移動無し

星屑移動……


星屑→若葉 命中判定↓1  01~26命中
星屑→若葉 命中判定↓2  65~90命中
星屑→若葉 命中判定↓3  25~50命中
星屑→園子 命中判定↓4  01~11 命中
星屑→園子 命中判定↓5  55~65 命中



天乃全回避

※コンマなので連取可



天乃「突っ込んで」

九尾「妾が喰ろうてやっても良いのじゃがなぁ」

黄金の毛に包まれた獣型の九尾は

背にまたがる主に一言申し出て、足元の樹木に鉤爪をえぐりこませて

ゆっくりと体を前方に倒し、すぐ近くにいる【餌】を見定める

栄養のない、ただの餌。無数に広がるその白米に、

ギラリと牙を見せつける

相手が怯えるという感情を持ち合わせていれば、それで引いたかもしれない。が

星屑が引くわけもなく、人間にとっては巨大で。しかし、九尾にとっては小さな体で突進を試みる

その瞬間、ジャリッっと、音が響く

風が吹き、木片がパラパラと飛び散る

九尾「妾には役不足じゃ……失せろ小僧!」

星屑と九尾

互いの勢いに乗った突進が衝突すると、白い体は無残にも炸裂して消失

近場に降り立った妖狐はつまらなそうに首を振って、残りの【屑】に瞳を向ける

九尾「妾らを喰いたくば、その倍は連れてくるのじゃな」

天乃「……倍も来たら面倒だからやめて」

九尾「案ずるな。為せば成る」

天乃「止めてよね」


若葉と園子もそれぞれ周囲の敵を消し飛ばす

しかし、消した分だけ増えているわけではないが

周りにいた星屑は際限なく、天乃達めがけて迫ってくるため

さっきと同等どころか、

さっきよりも数が増えているような錯覚さえしかねない

天乃「っ」

ガクンッと体が揺れたかと思えば、

九尾の体は地面を蹴り飛ばしていて、ついさっきまでいた場所には

すでに星屑が群がってきていた

天乃「質より量を地で行くというか……人海戦術というか」

九尾「この場合は、星海戦術じゃな」

天乃「冗談言ってる場合じゃ――!」

叫ぼうとし、気配を感じて九尾の体にヘッドバッドを当てると、

ヒュンッっと星屑が頭上を通り過ぎていく

天乃「休む暇さえないじゃない……ッ!」

無理をしない。そんなことを言っている場合では、なかったのだ


若葉「くっ」

自分の力を過信してはいない

だから、慢心したつもりも、油断したつもりもない

けれど、若葉は自分の体を立ち上がらせなければいけなかった

精霊だから、血は出ない

だが、痛みはあって。痺れがあって

感覚はあるが、力が入らない左腕を見る

若葉「……弱いな」

若葉に向かってきた星屑は三匹。その初撃を躱した瞬間

背後から突撃され、浮いた左腕がもう一匹の突進によって

根元から引きちぎれるような痛みを受けたのだ

若葉「みんなの……足手纏いになるわけにはいかないのに」

精霊は死なない

ここで消えてもしばらくすればまた出てこれるというのだが

それが事実だろうと

今ここにいるのが二人になるという戦力ダウンだけはさせられないと、若葉は歯を食いしばる

痛みに呻くのも、嘆くのも。何もかも後回しで良い

今は

若葉「今は死んでも戦え――乃木若葉ッ!」


若葉に102ダメージ

http://i.imgur.com/tSQHH8y.png



天乃「まったく……」

キリがないと泣き言も言いたくなるような世界で

温かさを感じそうな背後の結界に目を向け、天乃は息をつく

園子は昔と比べて精霊の数が増え

その分勇者としての力も向上しているようで、問題はなさそうだ

けれど、幾分機動力が低いために、囲まれたらダメージを負うのは避けられない

若葉は昨日召喚されたばかりで馴染んでいないのか

動きがまだ鈍く、すでに被弾している状況だ

ここに来てからどれだけの時間が経過したのかは定かではないが

少なくとも、バーテックスの修復が進んでいるのは間違いない

天乃「……満開」

使えば一回で片が付く。今なら、間に合うのだ

再生中のバーテックスが完成した場合、前回よりも強力だろうし

そうなれば、勇者部の誰かがただでは済まない可能性がある

かといって……園子の願いを今更無碍にするというのは

天乃には、行い難いことだった


九尾「主様」

ぼそりと、九尾が呟く

何かと問い返すと、九尾は「逃げるのなら早めがいい」と、総毛だたせて唸る

何か危険なものが近づいて来ている

そんな気配は感じない

だが、胎動を二人は感じていた

何かが、星が、生まれ出ようかと

今か、今かと、蠢いているのを感じるのだ

九尾「増えるぞ……一つ一つは虫けらじゃ。が、一も百あれば百となる。場合によっては、それ以上にも」

天乃「…………」

言われている通りだ。間違いない

目測で推定200を超える大群を目の前にして、3人

力不足ではないはずだが、しかし……制約があるとなるとやや難しいのが現状だ

躱していればいい。そういう話ではないのだから

九尾「勇者といえど、疲労は溜まる。主様はともかく、実戦から離れておった園子や不安定な若葉はいずれ落ちるぞ」

天乃「でも、今ここで見逃したりなんかしたら……」

九尾「奴らの士気……あるのかは分からぬが。少なくとも勢いづく可能性はある。もちろん、力をつけて、じゃ」


そうなっても勝てないとは言わない

最強である自負はないが、敗北するような弱者であるとは認めない

だから、勝てないとは言わないが

犠牲が出るのはほぼほぼ確実だ

だからこそ、迷う

先ほどの約束が、天乃の選択肢の一つを固く。縛り付けている

勇者部を、傷つけるか

自分を傷つけるか

それなら迷わず自分を選ぶのに、今は自分だけでなく園子への裏切りが追加されている

だから、行動に移しにくい

だからといって、易々と逃げると言えない

九尾「使うかや? 妾の、力も」

天乃「……………」

混在する勇者の力は破格の力

満開を使用しているかのような強さが扱える

しかしその分、体への負荷がある……と言っても、今はまだ。満開よりも酷くはないだろうが



1、撤退
2、九尾の力も使う
3、園子に、勇者部を守りたいと話す


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



√2


では、初めて行きます


天乃「貴女の力も貸してちょうだい」

負荷はある。だから代償がないとは言えないが

満開するよりはまだ、誤魔化しが効く

夏凜との約束を破ることになるのは、きっと。免れないかもしれないけれど

でも、記憶がないとか。体の一部が動かなくなっているとか

みんなに余計な心配をかけるようなことになるよりはマシだ

その意志のある瞳を前にして

九尾は「逃げの一手は踏めぬか」と、なぜか残念そうに

しかし、納得した表情で言う

久遠天乃という人間は、中々にどうして、陽乃と似ている

決して、同じ人間ではないはずだが

しかし、陽乃がなにか珍妙な仕掛けを施していないとは、限らない

結城友奈とて、その一人だ

九尾「良かろう。じゃが、長居は無用じゃぞ。強き力は相応の代償があるということを」

天乃「分かってる。でも、それを恐れて身を引いたら、私以外の誰かが支払うことになる」

――私は、誰にも連帯保証人を任せる気はないわ

天乃はそういうと、「お願い」と、催促する

問答の時間はない。だから、九尾は何も言わず

ただため息一つで思考を振り切って、自らの力で。天乃を包み込んだ


さらりと流れ込んでくる。それが、九尾の力だった

しかし、体の中の穢れが増えたからか

九尾の力の流入はどろりとした粘液のような不気味さがあった

ミルククリームではなく、カスタードクリーム

そんな些細ともいえるほどの違いだが

それは、【変化】に他ならなくて

しかし、それを考えている余裕はない

天乃「……………っ」

自分の両手を見る。

こぶしを握り、腰元の刀の塚を軽くなでる

感覚も問題ない。動かせる。思考と行動のラグもない

天乃「少し、不快感はあるけど……まぁ。戦えるなら。それでいい」

バンテージに包まれた右手を握り締めながら肘から下げ、

対照的に、左手を開きながら、前に突き出す。臨戦態勢

天乃「行くわよ――星屑ッ!」



1、K56-57に攻撃  (最適行動)
2、I58に攻撃     (若葉援護A)
3、I57に攻撃     (若葉援護B)
4、I56に攻撃     (若葉援護C)
5、M58に攻撃     (園子援護A)
6、M57に攻撃     (園子援護B)
7、M56に攻撃     (園子援護C)
8、覚醒を使用    (SP70消費で再行動)


↓1


戦闘処理。コンマ不要

K56星屑→3100ダメージ
K57星屑→2480ダメージ

K56-57消滅


若葉・園子戦闘処理

・若葉→星屑(I58) 
・園子→星屑(M58)

  →共に判定不要。消滅完了

バーテックス行動処理
・バーテックス移動無し
・星屑移動

→星屑の戦闘

天乃回避確定


星屑→若葉 命中判定↓1  01~26命中
星屑→若葉 命中判定↓2  65~90命中
星屑→若葉 命中判定↓3  25~50命中
星屑→園子 命中判定↓4  01~11 命中
星屑→園子 命中判定↓5  55~65 命中



天乃全回避

※コンマなので連取可


ダメージ処理

・園子全回避
・天乃全回避
・若葉に攻撃2回命中 96ダメージ (残り、1002)


現状MAP【http://i.imgur.com/alxh6ye.png


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



明日処理
・星屑増加
・久遠さん戦闘
・ターン経過(4ターン目に双子、牡羊、天秤完成)


戦闘処理のみ


天乃の雰囲気が変わった

纏う雰囲気はより毒々しく、穢らわしく

触れる者を芯から朽ち果てさせてしまいそうな危うさ

流石に、それでもなお何も感じないわけがないのか

無数に漂う星屑の軍勢は進軍をやめ、周囲を漂い始める

躊躇うように

あるいは、観察をするかのように

帯刀し、しかし居合の構えさえ取らず身構える姿勢に移った天乃の死角

そこに回り込んでもなお、攻めあぐねる

視界に捉えられていないはずなのに、見られている。そう、感じているからだ

天乃「――ふぅ」

一息。

天乃の体が段々と前傾姿勢になり、踏み込まれた足場がミシリと軋む

浮かぶ星々は天乃の出方を見ようと静止する――瞬間

天乃「目障りだわ」

その声は星屑の真横から聞こえた

遅れて風が吹き、星屑は真横にいた自分と何一つ変わらない存在が跡形もなく消え去ったことを、察する

星屑に言葉があっても、きっと。今と何一つ行動が変わることはない

星屑は時が止まったかのように、二つを消し飛ばした【化物】に、狙いを定めた


こいつだけが、危険なのだと

こいつだけでも、何とかしなければと

意思があるのなら、言葉があるのならば

彼らはそう。口にしたに違いない

本能的に避けることを望みながら、しかし、本能的に避けることができず

絶望を与える立場の彼らは、その【希望】に、絶望する

若葉「……天乃」

真横にいた天乃の初動は、前傾姿勢。ただそれだけだった

いや【若葉が見れたのは、それだけだった】のだ

気づけば星屑が消え去っていた。気づけば吹くはずのない風邪を肌に感じ

ふわりと舞った自分と同じ匂いを感じた

踏み込み、地を蹴り飛ばし

掌底を一つ目に叩き込んだ瞬間、右回りに旋回して星屑を四散させると

その後方にいた星屑を左足で蹴り砕き、

勢いそのままに半回転して、右踵で消えかけの星屑への追撃

園子「…………………」

一瞬だった

精霊を数多く所有する園子にはかろうじて見えたそれは、瞬きする暇もなく、刹那に終えた

園子「……強い」

自分も強くなれたと思う。が、【久遠天乃を武力制圧する切り札】にはなり得ないと

改めて、園子は認識した


↓1 コンマ

0=10

星屑追加

ぞろ目99=9+9=18


□戦闘処理

・ターン経過
・星屑追加(29→9匹)


MAP→【http://i.imgur.com/3P6DZLJ.png


では、短いですがここまでとなります
明日もできれば、戦闘の判定だけでも



次のターンで双子座、牡羊座、天秤座が行動開始


では、少しだけ


天乃「!」

九尾とも繋がったからか

その誕生は天乃の感覚すべてに強く。流れ込む

一つ、一つ。数えれば恐らく九つ

魂の有無の定かではない、生物と言い難い異形の増殖

天乃はそれを誰よりも早く、強く

自分の中の何かで感じ、目を見開く

天乃「際限ない……」

いくら圧倒的な力を持っていようと

敵の数が倒した以上に増えてしまうのなら、意味がない

はっきり言おう。ジリ貧だ

すぐ隣で戦う若葉の体は傷だらけで、血こそ流れてはいないが

その被害は明白で、園子に関してはダメージはないが疲労感は段々と見え始めていた

園子「大丈夫……だよ~」

視線に気づいたのか、園子はそういって笑って見せたが

そこには無理が見て取れる

今すぐ倒れる。とは思えないが、少ししたら。回避できなくなってくるかもしれない


若葉「天乃、私も……」

まだ頑張れる。頑張ることはできる

だが、その努力と結果は決してイコールにはならない

若葉が悪いわけではない。そういうものなのだ

等価交換など、夢の中でしか起こりえない

少なくとも、今この場では

それが分かっているからこそ、若葉は言いかけた口を閉じて、息を飲む

若葉は自分が役立たずなのではないか、足手纏いなのではないか

守られているだけなのではないか。と、不安を抱き始めていた

天乃「…………」

最後まで言われなかったが

何かを言いかけていたことに気づいていた天乃は

若葉へと目を向けて……


1、若葉、園子。二人はもう下がって頂戴
2、……撤退しましょう
3、園子。満開、使ってはダメ?
4、あと少し【1ターン】粘りましょう
5、若葉はもう下がって


↓1


天乃「園子。満開、使ってはダメ?」

園子「!」

普段はおっとりとしている園子だが、この時ばかりは厳しい視線を浴びせた

驚きと、戸惑い

しかし、怒りはなく躊躇いと悲しさのある瞳

鋭く細められたその視線を受けてなお、天乃は「ダメ?」と、繰り返す

死にたいわけじゃない

何かを失いたいわけじゃない

自己犠牲を趣味にしているわけでもない

ただ、自分の好きな人たちを、守りたいだけ

天乃「この状況の打開するにはそれしかないと思うの」

園子「………………」

初めから、それは分かっていたこと

それ以外に、今回の任務達成は不可能だということも

だけど、それでもあえて、使わないようにと願った

天乃にはこれ以上犠牲になって欲しくないからだ


園子「っ」

園子は嫌そうに首を振る

けれど、何も言わない。言えなかった

満開を使うことは正しくないが間違いでもない

しかし、お役目だけを考えて言えば

それは間違いなく正しい行為だったからだ

――して欲しくないのは。私の我儘だもんね

必要なのだ。勝つためには

使わなければならないのだ。天乃が後悔しないためには

園子「天さん……私のお願い。聞いてくれないの?」

それでも、言う

弱音を見せている場合ではないこの場で

耐えることのできない涙を浮かべながら、園子は問う

自分の我儘が世界の命運を左右する。それを理解しているのに……

天乃「……ずるいこと、言うのね」

ずるい顔をする。ずるい声を出す。ずるい言葉を使う

天乃は表情を変えず、園子を見る

天乃「自分の言葉の影響。その結果。それを理解できているはずなのに」


天乃の言葉に園子は「ずるくても良いよ……」と

諦めに近い言葉を返しながらも、

その声色は悲し気で、受け入れがたい気持ちを強く表す

嫌なのだ

心の底から、本当に

しかし、園子はすでに天乃以上に満開を繰り返しているし

現状を打破することができるのも

その行為を行えるのも、天乃だけ

頼らざるを得ない現実に直面し、呻く

園子「……天さん」

天乃「うん」

園子「私はお願いした。それでも、天さんはやるっていう」

それなら。

嫌だけれど、それでもいうのなら

唇を噛み、補助ゆえに動くこぶしを握り締めて

園子は天乃を見つめる

園子「それなら……もう、私は何も言えないよ~」

笑って見せる。苦し紛れに

どうか、大切なものだけは奪われないでほしいと。願いを込めて


失礼しました
ここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼頃から




では、少ししたら初めて行きます


天乃「……始めるわ」

身体を立たせる分の力を残して、全身から力を抜く

大きく息を吸って、吐く

目に見えて煉獄のなぜか澄んでいる空気を体内に巡らせ、目を閉じる

ただの満開ではない

ただの犠牲ではない

これは、全てを壊す災厄の一手

身体の内側、目に見えない空間

霊的回路と言うべき貯蔵庫に蓄えられた二つの相反する力

右の扉を開く。ドクンっと強く脈打った血流の激しさを感じ、体に痛みが走る

左の扉を開く。僅かに足らない抑圧する力が、弾かれ、頭の中が真っ白に澄み渡る

徹夜明けの、無理をしているのだと判る状態

寝るべきだというのに、眠ることのできない覚醒状態

そんな程度のものだと、最初は思った

しかし、体からあふれ出していく禍々しい力は、赤き海を飲み込み、光を消し去り、結界を蝕み

有象無象の星々を容赦なく食い尽くす

それらは負の力と正の力として天乃の体内に逆流していく

否、【吸収】されていく

天乃「――満開ッ!」

これは。そう、この満開は――すべてを喰らう毒の花

他者の命を奪い、自身の糧とする寄生の害華


星屑の消えた世界で、

完成しかけのバーテックスの体がゆっくりと、ばらばらに砕けていく

朽ちた樹木が風にあおられ崩壊するように

すでに命の失われた容器は、土にかえることすら許されずに消し飛ぶ

天乃「……………」

神樹様の正式な勇者であり、

度重なる満開によって神聖な力を蓄えすぎていた園子は、

力を奪われて、倒れそうになったところを若葉が支える

精霊ではあるが、天乃の力による具現を成し遂げている若葉は影響が弱いらしい

若葉「……天乃」

さまざまな力の流入が激しいせいか

天乃の体は随時、乱れていた

身長は大きく小さく、髪も長く短く、瞳の色も不安定で、髪の色も変色する

天乃「……あと、一つだけ残ってる」

天乃のスカイブルーの瞳には、この場にあってもなお

まだ存在しようとする獅子座の崩れかけの姿が映る

死にかけだ。放っておいても消える定めだ。しかし、天乃は軽く地面を蹴とばすと

天乃「天火明命――天羽々矢」

囁き、腰元の刀を一本の矢に変え――穿つ

空気を貫き風を生み、一直線に駆け抜けたそれは獅子座の体を打ち抜くよりも先に崩壊させる

若葉「……………」

ほんの一瞬で、絶望的な状況は絶望的な希望へと切り替わった

MAP状況→【http://i.imgur.com/pja1SqU.png


天乃「っ……」

着地しようとした足がもつれ、倒れこむ

血は流れていないのに、怪我をしたわけでもないのに

目の前は真っ赤で、良く見えない

倒れたからだを起こそうと地面に手をつくと

起こした右腕は容易く折れて、また倒れこむ

変身はまだ解けていない

なのに、体に力が入らないのだ

天乃「あるいは……力が入りすぎた。かな」

身体のあちこちに重みを感じ、息苦しさを感じる天乃は

倒れこんだまま、笑う

笑うだけで肺に激痛が走って、丸みかけた体が押しつぶされるような圧迫感に悲鳴を上げる

初めて使った本当の意味での全力の満開

それに慣れていないのか、それ自体が許容範囲を大幅に超えているのか

思っていたよりも、体への負担は深刻なようで

しかし、後々の絶望へと置き土産を残さずに済んだだけで満足なのだと

白髪を揺らして、天乃は空を見上げる

光のない世界は――何も見えることはなかった


01:記憶 02:視覚 03:手 04:触覚 05:視覚 06:声 07:出産 08:触覚 09:成長 10:腕
11:視覚 12:記憶 13:触覚 14:視覚 15:触覚 16:記憶 17:嗅覚 18:嗅覚 19:腕 20:皮膚機能
21:視覚 22:視覚 23:記憶 24:触覚 25:視覚 26:声 27:嗅覚 28:腕 29:成長 30:腕

31:触覚 32:皮膚機能 33:視覚 34:視覚 35:記憶 36:嗅覚 37:腕 38:記憶 39:皮膚機能 40:皮膚機能 
41:色素 42:成長 43:嗅覚 44:触覚 45:視覚 46:記憶 47:記憶 48:腕 49:視覚 50:感情 
51:触覚 52:出産 53:腕 54:嗅覚 55:出産 56:視覚 57:聴覚 58:記憶 59:記憶 60:手 
61:手 62:触覚 63:記憶 64:嗅覚 65:成長 66:手 67:視覚 68:腕 69:成長 70:記憶 
71:触覚 72:色素 73:嗅覚 74:足 75:腕 76:記憶 77:聴覚 78:視覚 79:手 80:成長 
81:嗅覚 82:触覚 83:声 84:嗅覚 85:視覚 86:腕 87:成長 88:記憶 89:視覚 90:聴覚 
91:感情 92:成長 93:腕 94:嗅覚 95:触覚 96:出産 97:成長 98:視覚 99:視覚 00:記憶 

↓1コンマ

 代償①


↓1コンマ追加判定



01:左目 02:右目 03:左目 04:左目 05:右目 06:左目 07:右目 08:左目 09:右目 10:左目
11:右目 12:左目 13:左目 14:右目 15:左目 16:左目 17:右目 18:右目 19:左目 20:両目
21:右目 22:右目 23:左目 24:左目 25:右目 26:左目 27:右目 28:左目 29:右目 30:左目

31:左目 32:両目 33:右目 34:右目 35:左目 36:右目 37:左目 38:左目 39:両目 40:両目 
41:右目 42:右目 43:右目 44:左目 45:右目 46:左目 47:左目 48:左目 49:右目 50:両目 
51:左目 52:右目 53:左目 54:右目 55:右目 56:右目 57:左目 58:左目 59:左目 60:左目 
61:左目 62:左目 63:左目 64:右目 65:右目 66:左目 67:右目 68:左目 69:右目 70:左目 
71:左目 72:右目 73:右目 74:両目 75:左目 76:左目 77:左目 78:右目 79:左目 80:右目 
81:右目 82:左目 83:左目 84:右目 85:右目 86:左目 87:右目 88:左目 89:右目 90:左目 
91:両目 92:右目 93:左目 94:右目 95:左目 96:右目 97:右目 98:右目 99:右目 00:左目 


戦闘終了後、

天乃は九尾に、園子は若葉に抱えられて帰還した

若葉は負傷していたが、精霊ゆえか治りも早く問題はなかったが

怪我をしていないはずの勇者二名の衰弱は酷く

特に、天乃の状態は極めて深刻だった

脈はあるが、それだけで意識はなく、呼吸は浅く

しかし、苦しそうに汗をかき、呻く

大赦側の用意した通常の医療機関にはお手上げで

霊的医療班も駆け付けたものの、天乃の状態はそのほかの……

須美や園子のような状態とは全く違うため、どうしようもなかった

九尾「……愚か者」

止めることができた。けれど、しなかった

止めても無駄だと分かっていたから

だから、口を挟むことはしなかった

しておけばよかったのではないか? そう、思わずにはいられないが

しかし、思っても無意味だと九尾は目を伏せる

傍らにいる若葉は、罪悪感からか。誰よりも暗い面持ちだった


若葉「私が……私がもっと戦えていれば……」

九尾「無い物強請り程、無意味なことはないぞ」

心無い言葉を吐かれ、しかし若葉は憤ることはなかった

目を向けず俯いたまま何も言えない

九尾もまた、若葉のことなんて見えてはいない

戦えれば。こうしていれば、ああしていれば

そう、反省するのは大事なことかもしれないが

反省ではなく、ただ無意味に後悔し、自責の念に駆られるのは無駄だからだ

それはもちろん、誰かを責め立てるのも同じこと

若葉「くっ……!」

強く握ったこぶしが壁めがけて動く

けれど、ぶつかることなくそれは下にだらりと下がる

天乃の心配をする九尾に対して、自分への怒りしかない若葉

その差が、自身の愚かさをより強調していると感じたからだ

九尾「主様は自らの意思でそうした。妾やお主が戦えようと戦えまいと。きっと、結果は変わらぬ」

多勢に無勢すぎたのだ

瞬時に囲まれ、向かい打つことしか出来なくなったのが良い証拠だ

あの場では、撤退が正解だったのかもしれない

しかし、天乃にそれができないのだから。仕方がない結果だと割り切るほかない


九尾「まだ一度目じゃ、身体的負担はまだ軽いとは思うが……」

しかし、あの状態での満開は死神の時のような生易しさはない

なにせ、あれは満開時に周囲に存在したあらゆるものの力を奪う

いや、食い尽くすというべきか

そうすることで、より毒々しく、美しく

そして完全な華を咲かせる。寄生の害華

取り込んだ力は天乃の体に宿る為、場所が場所だっただけに

九尾は外見的には落ち着いて見えても

内心では、すごく不安だった

一体、どれだけの負を取り込んだのか

大して、どれだけの正を取り込んだのか

均衡は間違いなく、崩れている

意識がないのも、そのせいだ

若葉「天乃に」

九尾「む?」

若葉「天乃に謝らせるのだけは……ごめんだな」


九尾「うむ……」

天乃はきっと、ごめんなさいと言うだろう

心配かけてごめんなさいか、約束破ってごめんなさいか

何にせよ、第一声はそうなってくるはずだ

若葉「園子の方だが……」

そういえば。というような前置きを切り払った唐突感に一瞬目を見開いた九尾だったが

どうあっても血のつながりか。と、内心に思って顔を上げると

園子がどうしたのかと、聞き返す

若葉は言いだしておきながら

少しだけ躊躇うそぶりを見せて

若葉「大丈夫なのか?」

気になるのも無理はなく、園子がいきなり倒れたことを思いだした九尾は

主様よりは断然問題はないが。と切り出したうえで

九尾「体内に備わっていた大部分の神樹の欠片を食い荒されたからのう……少し時間はかかるが問題はなかろう」

そう答える。安堵の息をついた若葉は

それなら、今は天乃のことだけを考えていられるなと

やはり申し訳なさそうに言って

面会謝絶の掛札のある病室へと、入っていった


√ 5月10日目 夕(病院) ※水曜日


01~10  沙織
11~20 
21~30  瞳
31~40  若葉

41~50  妹だけど、愛さえあれば関係ない人
51~60 
61~70 春信

71~80 
81~90 
91~00  九尾

↓1のコンマ  


目を覚ますと、まず。天井が見えた

そして右側には夕焼け空が見える窓

沙織「久遠さんっ」

左側から沙織の声が聞こえたが

しかし、横になったまま目を向けるだけでは、姿が捉えられない

天乃「あ……」

沙織が見えないのではなく、自分の左目が見えなくなったのだと

天乃はすぐに察した

左半分が真っ暗で何も見えない

右目を頑張って動かせば多少は見えるが

補うことができるほどではなく

天乃は無理矢理に体を左に向けて、沙織を視界に収める

天乃「心配、させちゃった?」

てへへ。笑いながらそういうと

沙織は笑い事じゃないんだよぉっ! っと

嬉しさと怒りが綯交ぜになった表情で声を上げると

すぐに……ぽろぽろと涙をこぼした

沙織「久遠さんが大変だって。危ないって。あたし、だから……凄く心配して、なのに……」


なのになんで笑ってそんなこと言うのっ!

もう一度怒鳴った沙織は天乃に抱き着こうとして

しかし、自制心が残っていたからか

身体に障ったらあれだからと、身を引いて涙をぬぐう

沙織「体……何ともない?」

天乃「うん? んー……」

何ともなくない

まだ、だいぶ痛みが残っていたり気怠さがあったり

気を抜いたら嘔吐しそうな不快感もあるが

一番はやはり、左目が見えなくなったことだ

これは満開によるものだろうから仕方がないと言えば仕方がないが……



1、左目がね。見えなくなったわ
2、大丈夫よ。気だるさはあるけど。それくらい



↓2


天乃「……左目がね。見えなくなったわ」

自分の左目に手を添えて、

天乃は極めて冷静な声で心配に答える

変に悲しそうだったり、動揺していたり

そんなことになっていたら、沙織を余計に悲しませると思ったからだ

自分は受け入れているから

自分は納得しているから

そう、意思を込めた右目を向けると、沙織は目を見開いて

あふれ出る涙をぬぐおうともせずに、ただ。天乃を見つめていた

天乃「沙織……」

本当に、心の底から悲しんでいるのだ

嘆いているのだ

自分のことではないのに

きっと、この涙が枯れたら。沙織は絶望に浸ってしまうだろう

酷な命令を出した大赦に、激しい憎悪の念を抱くだろう

天乃「満開は、そういうものだって分かってるはずよ」

沙織「わか……て、けど……っ」


だから何だというのだろう

だから受け入れろと言うのだろうか

だからあきらめろと言うのだろうか

沙織の膝上にある手がスカートのすそを握り締めていく

怒り、悲しみ、恨み、憎しみ、嘆き

五本の指が、いくつもの感情を宿して固まっていく

その手に、天乃は手を重ねて、ほほ笑む

天乃「選んだのは、私よ」

大赦は嫌いだ。神樹様も嫌いだ

守る気なんて毛頭ない

守りたかったのは――

天乃「貴女達が守りたかった。どうしても。何を犠牲にしても。怒られるとしても」

沙織「…………」

天乃「……守らず怒られなくなるよりも。守って怒られたかった」

絶対にそうなるとは限らない。しかし、可能性があった

それくらいの絶望感があの場にはあったのだ

見逃せば、守り切ることができなくなる可能性があったのだ

天乃「これは誰の為でも。せいでもなく。ただ、私の自己満足よ」


沙織「自己満足なんて……っ」

そんなはずがないと思った

しかし、言っていることは間違っていないと気づく

沙織は犠牲になるくらいなら守らないでほしいと思っているのに

園子はそう、願いさえしたのに

それに反して、犠牲になりながらも守ってしまったのだ

自己満足と言わずして、何と言えるのだろうか

沙織「久遠さんの……バカ……ッ」

天乃「そうね」

沙織「嘘つきっ、天邪鬼っ、お人好しっ、あんぽんたんっ、聖人君子っ、ピーチ姫っ!」

天乃「そう……いや、えっ」

言いたいことではないが、

何でもかんでも言わなければ気が済まなくて、沙織は言い続ける

酷い自己中だ。酷い自己満足だ

自分を犠牲にしてでも他人を守る自己満足なんて、そんなの酷いにもほどがある

認めたくない。許したくない

でも、きっと。そんな人だから

沙織「そんな、優しすぎる人だから。あたしは……久遠さんが好きなんだ」

天乃「さお――」

沙織「駄目男に恋しちゃうてきな理論で」

天乃「怒っていい?」


沙織「久遠さんに怒る権利はありませんっ」

むっとした表情で言うと、天乃は困ったように笑みを浮かべて、

そうよね。と、言う

悪いことをしたわけではない

だが、沙織にとっては悪いことをしてしまったのだから

沙織とて、それが分かっているから本気で怒れていないのだし

少しでも気が収まるのなら。というところだ

沙織「……………」

思わず口走った本心を冗談で包み込んだ沙織は

少し不安そうに天乃を見るが、

冗談が上手く当てはまっていたのか、

様子に何一つ変わりがないのを確認して、ため息をつく

沙織「もう……いいや」

天乃「?」

沙織「何言っても仕方がないもんね……けど、久遠さん」

天乃「うん」

沙織「これ以上。無茶はしないで。お願いだから」


これだけははっきりと言っておきたかった

これからも大変なことはあるだろうが、

今までと同じように無茶し続ければさらに身体機能を損なうことになるし

それだけでなく、体内バランスが崩れ、最悪死ぬ可能性まであるからだ

後者に関しては九尾が言っていただけで信憑性は五分五分と言ったところかもしれないが

しかし、嘘であると切り捨てきれないのも事実だ

天乃「ん……うん」

無茶するなと言われても、

しないわけにはいかないのが現実だ

非情で、冷酷で、残酷なのが世界であり現実だから

勇者部の面々がどれだけ強くなれるのか

きっと、大事なのはそこになる

強化途中のバーテックスは消し去ったために、しばらく猶予はあるだろうが……

沙織「そういえば、三好さん達にはなんて説明するの?」

天乃「えっと……」

大事なことが、残っている

しばらく入院することになるのは確実なのだが。


1、ありのままに話す
2、大赦のお役目で今は会えないと話す(起きたことなどは黙秘)
3、満開と代償は伏せて、お役目の件を話す


↓2


天乃「大赦のお役目ってことにしましょう」

沙織「お役目はお役目だけど……」

天乃の表情を見つめ、沙織は口をいったん閉じると

察したように息をついて「そうしておくね」と、笑みを浮かべる

何がどうなっているのか

心配させたくない、不安にさせたくない

だから、今しばらくは時間が欲しいと言うことだろうと、思って

沙織「ただ、バレる前に言わないとだめだよ。久遠さん」

ばれてから、なんで言わなかったのかと問い詰められるよりも

自分から言って、なんですぐに言わなかったのかと問い詰められるのでは、

僅かな差ではあるが、違うからだ

天乃は「どっちにしても問い詰められるんだ」と笑うと

仕方がないよねと、続ける

天乃「うん。忠告ありがと。沙織」

沙織「どういたしまして……あ。端末だけど、今は回収されちゃってるから。明日くらいには代替品持ってくるよ」

天乃「回収?」

沙織「ここぞとばかりに、戦闘データとか引き出したいんだと思う。ほら、若葉さんのこともあるから」

天乃「……そっか」

それなら仕方がないかと、天乃は見えない左目に手を当てて、ため息をついた

√ 5月10日目 夜(病室) ※水曜日


1、九尾
2、死神
3、若葉
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定


↓2


若葉「……体の方は、大丈夫ではなさそう。だな」

天乃「動かし辛さはあるけれど、大丈夫よ」

若葉「いや、そうじゃない」

それもそうではあるけれど、言いたかったのはそうではない

若葉の瞳に映る天乃の瞳は左右で色が違うのだ

両目とも橙色だったはずなのに、左目だけが赤い

充血しているのではなく、赤目なのだ。ルビーのように

若葉がそれを指摘すると、天乃は窓ガラスに映る自分の瞳を見て、

確かに。と、苦笑する

今は会えないと断ったのは間違いではなかったようだ

若葉「その左目が、見えてないんだったか」

天乃「ええ。まぁ、片目だけで済んでよかったなぁ。なんて安堵さえしているわ」

若葉「そうか」

天乃「ええ」


若葉「……………」

会話が途切れ、若葉だけが罪悪感ゆえに息苦しそうに眼を逸らす

九尾にああ言われはしたが、

やはり、足手纏いだったことには変わりないのだ

だから、申し訳ないと思ってしまう。

必要ないと言われた罪悪感はなくならない

若葉「……その、天乃」

天乃「?」

若葉「すまなかった」

精霊なのに、守ると言ったのに

なのに、なんの役にも立てなかった

自分の分ですらまともに対応できなかった

若葉「私は精霊失格だ」

天乃「若葉……」


記憶がなくて、何もなくて

精霊だと言われ、戦いに参加させられ

不安があったはずだ。怖かったはずだ

ただの人間だと思っていた自分が精霊で、

そう教えられてから間もなく戦いに参加させられて

天乃「……………」

確かに被弾はしていたが

よけることができていたし、星屑を倒すことだってできていた

それだけで、天乃からしてみれば十分だった

むしろ、急に戦えと言ったことへの罪悪感があるくらいだ

若葉「天乃のことを、守ると言ったのに……私は無傷で天乃がこんな状態になるなんて」

天乃「これは私が自分でやったことなんだけどね……」



1、記憶取り戻したい?
2、大丈夫よ。若葉は頑張ってくれた。多少傷つきはしたけど。でも、無事でいてくれたじゃない
3、ん~じゃぁその罪滅ぼしに添い寝して?
4、貴女は精霊だけど。友達だもの。必ず守らなければいけないこともないわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼頃からとなります


まだ5月……5月で満開1回増加
明日、追加精霊


では、初めて行きます


天乃「貴女は精霊だけど。友達だもの。必ず守らなければいけないこともないわ」

主従関係ならそこには強制があるけれど

精霊であろうと主従ではなく対等な。そう、友人関係なのだから

絶対に守らなければいけないなんて、強い責任感は必要ないのだ

夏凜や九尾が聞いたら、お前がいうな。と、言われかねないことだが……

天乃「貴女は貴女自身を守りきれたのだから。それでいいのよ」

天乃はそういうが、若葉としては良くはない

精霊だけれど主従関係のない友人関係

そういってくれるのはうれしい限りだが、しかし

やはり。守れる自分でありたかったからだ

どうしてそこまで、守れる自分でいることに固執するのか

若葉はその理由が分からないが、本能的にそう思っていた

だから

若葉「それでは良くないんだっ!」

言い返す

それは認められないと。その優しさは嬉しいが

守らなければいけないなんてことがない。その言葉を、

受け入れるわけにはいかないのだと


若葉「私は……っ、私が……っ」

怒鳴り、俯き、胸元に手を宛がった若葉は

言い切ることができず、言葉を失って目を伏せる

赤と橙の瞳が見ていたからだ

怒っていない。悲しんでいない

ただただ、優しさの感じる表情が見ていたからだ

嫌いじゃない。好きだ

けれど、今ここで、こんな結果になって

それでどうして、その優しさに甘えられようか

若葉は力強く握った拳を震わせて、後退る

若葉「……怒鳴って、済まない。だが、私は」

天乃「それは強迫観念? それとも、あなた自身の強い意志?」

若葉「え?」

優しい声だ。穏やかで、慌ただしささえある若葉とは対照的で

その違いに、戸惑ってしまいそうなほどに落ち着いた声だ

天乃「そうしなければいけない。そう思っているのなら、それは自分の身を滅ぼすだけよ」


お前に何が分かるのか。そう言わせない力強さがある

説得力のような、何かがある

若葉は天乃の遠くを見ているようで近くを見ている瞳

その静かな声に、自分のすべてを傾ける

天乃「そうしたいのだと、そんな英雄でありたいと思っているのなら。望んでいるのなら。止めはしないけど」

子供の大きな夢

それが果てしなく大きくて

頑張り続けないと届かないようなものであっても

願う限り、求める限り。支え見守り導くことを厭わない

そう言いたげな表情で、天乃は紡ぐ

若葉「天乃……」

天乃「どうかしら?」

若葉「天乃、お前はそれが分かっているのに……」

しかし、若葉は思う

そうしなければいけない。その強迫観念が身を滅ぼしてしまうと分かっていながら

なぜ、その選択をするのか。と

天乃「私はそうしたいと思ってるのよ。本当よ?」


その笑みに、若葉は何も言えなかった

何を言っても意味がない。それが、分かってしまったからだ

若葉「……私は、天乃を守りたいと思っている」

たぶん、そうしなければいけないという気持ちもあるかもしれない

それはきっと、自分が精霊であり

天乃が失われれば自分までも失われる可能性があるからだろう

だけど、つい先日ここに来たばかりだが

その時に、友人だと言ってくれた天乃のことを

精霊だとしても対等な友人として扱ってくれる天乃の事を失いたくはない

そんな気持ちもあるのだ

若葉「だから。もっと、強くなりたい」

言いながら、若葉は天乃の見えなくなった左目

その下にあるほほに手を宛がう

肌に触れたことは感じているはずだが、目に見えないせいか

緊張して、強張った天乃に若葉は笑みを浮かべる

若葉「私は天乃の左目になりたい。その闇を埋める存在でありたいから」

天乃「若葉……」

若葉「だから、強くなる。絶対に……失うのは、ごめんだ」

1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(戦闘、無茶、約束)
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流有(約束)
・   乃木若葉:交流有(友達、守れなかった)
・ 伊集院沙織:交流有(障害)

・      九尾:交流有(勇者)

・       死神:交流有(勇者)
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流有(任務達成、浸食)



5月10日目 継続 終了時点

  乃木園子との絆 42(少し高い)
  犬吠埼風との絆 38(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 31(中々良い)
  結城友奈との絆 49(少し高い)
  東郷三森との絆 35(少し高い)
  三好夏凜との絆 23(中々良い)
  乃木若葉との絆 31(中々良い)
     沙織との絆 45(少し高い)
     九尾との絆 39(中々良い)
      死神との絆 36(中々良い)
      稲狐との絆 28(中々良い)
      神樹との絆 8(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


↓1コンマ

01~10  妖怪
11~20  神様
21~30  妖怪
31~40  勇者
41~50  神様
51~60 妖怪

61~70  勇者
71~80  神様
81~90  妖怪
91~00  神様


ぞろ目=選択


01~10  狂骨
11~20  自由選択
21~30  黄泉醜女
31~40  自由選択
41~50  七人ミサキ
51~60 自由選択

61~70  大蜘蛛
71~80  自由選択
81~90  精霊風
91~00  水虎

↓1のコンマ  


1、狂骨
2、黄泉醜女
3、七人ミサキ
4、大蜘蛛
5、精霊風
6、水虎
7、そのほか、妖怪から自由に


↓2


その他、妖怪の中から自由選択


→15:00に一番近い安価を採用


追加精霊、神野悪五郎

判定コンマ ↓1

40以下で10日目延長戦


√ 5月10日目 夜(某所) ※水曜日


「こちらが、久遠様の端末ですか?」

「ええ」

個人用にマイナーチェンジを施された端末は

他の勇者の面々に支給した物とはやはり、構造が違っており

中身のデータを抜きだそうにも、厳重なセキュリティゆえに容易ではない

だからと言って、おいそれとお手上げできないのが辛いところだ

などと思う女性職員は、天乃の端末をまじまじと見つめる

「確かに構造には手が加わってますが、どうも。これ自体には効果は期待できないと思うんですが……」

「だけど、神樹様の力を経由するためのご神体が朽ち果ててたのが気がかりなのよ」

「先輩はその理由がこの端末にあると?」

「そういうわけではないけれど。でも、彼女の力。その影響を受け続けた端末を解析する意味はあるはずよ」

先輩職員の目が端末に向けられ、同じく見ていた職員は息を吐くと

そういうものなんでしょうか。と、少し悩まし気に呟く

信じられないわけではないが、どうも。そう単純にはいってくれない気がしたのだ

もっとも、

その解析云々がなくとも、天乃が満開したことによるいろいろな調整の必要があるのだが


「それにしても、このセキュリティって誰がくみ上げたんでしょう?」

カタカタカタ……と

素早くタイピングを打ち込みながら、しかし

同じことを何度も繰り返している女性は呆れ交じりに息をついて

問いかけてきた主に目を向ける

同じく作業をしているはずの後輩は

もはやあきらめたと言わんばかりに、キーボードに触れていた手をだらりと下げているからだ

「少なくとも、普通の人ではないと思うわ」

「IT関係の人でしょうか? セキュリティ固すぎます……というか、毎度出てくる妹子ちゃんのブロークンマグナムって何なんですか」

「作った人の遊び心。かしらね……まぁ、そのせいで解析プログラムが破壊されたわけだけど」

そう。解析プログラムを破壊され、すでに十数回目

だからこそ、呆れた目でみながらも先輩は何も言えない

先輩自身も、さすがにいらだってきていて、放り投げたくなっているからだ

「組んでは壊され、組んでは壊され。この妹子ちゃんのどや顔のせいで画面割りそうです」

「精神的に責めてくるのが怖いところね。パソコンじゃなく人間自身にウイルスを送り込んできているみたい」


「ふわぁ……」

時間はすでに丑三つ時

一向に進むことのできない作業をあきらめて欠伸をする

隣に目を向けてみれば、

隣で頑張っていた先輩はコーヒーを片手に揺れている。いや、寝ている

なんだ、ずるいなぁ。そんなことを思いながら

普段と比べて数時間も遅い就寝につくべく、

ここで寝たら風邪ひきますよ。と、先輩の肩を叩こうとした時だった

「っ!」

締め切った部屋の中で、風を感じた

ふわりと髪が撫でられた。張り付いたタイトスカートとお尻の間に駆け込んだそれは

嫌に、冷たい

「な、なん……」

なぜか震える体を動かして、風が走った自分の席へと目を向けると

相も変わらず、画面には妹子ちゃんでしたー! と、ピースサインを掲げで自慢気な顔を見せるキャラクターが映るだけ

「ふぅ」

気のせいだった。何もなかった

そう、胸をなでおろして

「せんぱ――」

目を戻した先、先輩職員の持っていたカップが消えていた

落ちていない。置かれていない

なら、どこに消えたのか

嫌な予感がして振り向くと、自分のパソコンの横に、探し物

「え、ちょ……」

辺りを見渡し、自分と先輩と3人しかいないのを確認して息をつく。寝ぼけていたのだろう


さっきのはデジャヴュで、

自分が勝手に飲んだのだろう

そう考えて、先輩の近くに声をかける

そうでしたよね? と

「さて、先輩。起きてください。先輩」

こんなところで寝ていると、風邪をひきますよ

なんどもそういいながら、体を揺する

先輩は眠ったまま、動かない

動いてくれないと眠れないのに、動いてくれない

それはまるで、岩のように、動いてくれない

「先輩、先輩ってば……一度寝たら起きないとかなしですよ。もー」

起こさなかったら文句言われそうだし。と

職員の女性はひたすらに、それを揺する

「………………………」

―――――。


そして、翌朝

交代の職員が来た時には、その部屋には誰も。居なかった


√ 5月11日目 朝(病院) ※木曜日

1、九尾
2、死神
3、若葉
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定

↓2


九尾「なんじゃ? 主様」

天乃「私の左目、どうなってる?」

九尾「妾と同じく赤いままじゃな」

九尾のやや呆れた声に、天乃はくすくすと笑って見せる

それでいい方向に変わるわけもなく、

九尾はさらに顔を顰めて、首を振る

九尾「見えておらぬのじゃろう?」

天乃「まぁ、ね」

九尾「予めいうが、そればかりは妾にも補うことは出来ぬぞ」

変身時、足を補うことができる九尾は

それが視覚にも適応できるかどうか聞かれる前に、

あえて、答える

出来ないものは、できないからだ

九尾「両手足ならばともかく、視覚や聴覚などには適用できぬ」

天乃「そっか……それは残念」


まるで期待していなかった言い方だ

お茶目さを取り入れた天乃の笑みに、九尾はやはり呆れてしまう

治ることを望んでいないわけではないのだろうが

別に治らなくても良いと、思っていると感じたからだ

九尾は「良いのか?」と聞くと

天乃はなんの話なのかとはぐらかすように答えて、

やっぱり笑って見せると、自分の手元に視線を下す

天乃の視界からは、それだけで左横にいた九尾が消えてしまう

天乃「存在は感じるけど、やっぱり見えないのよね」

九尾「負荷がかかりすぎただけなら時期に戻るが……そう簡単な話ではないからのう」

天乃「というと?」

九尾「満開の代償として持っていかれた部分に、そのまま穢れが流入しておる。だから、瞳の色まで変わっておるのじゃ」


九尾「主様のあの状態での満開は、周囲の力を奪い去ってしまうのじゃ」

奪い去ってしまう

奪えるのではなく、奪い去ってしまうという言い方にどうしてもなってしまう

と言うのも、そこに天乃の意思は無関係だからだ

天乃が敵味方の区別をつけていようが

問答無用、分け隔てなく力を吸収する。それが、あの満開の力の一部だ

その力のせいで、満開した際に失われた視力

その穴に穢れが流れ込んだ

九尾「耐性のある人間だから良い物の、なければ最悪死んでおるぞ」

天乃「耐性があるから、その力がつかえたわけだけどね」

九尾「それもそうじゃが……」

しかし、いくら耐性があると言っても

ここまで劇的な変動や、穢れの定着と言うべきか

汚染が進んでしまうとなると、残念ながら他人事ではなくなってくる

生れた時から

いや、胎内にいる時から接してきている力とはいえ、扱いを誤れば死ぬのは生き物の定めだ

九尾「それで、主様はその穢れについて聞きたいのかや? それとも、若葉についてか?」


1、先代勇者について(再度安価)
2、若葉について
3、穢れについて
4、新しい精霊


↓2


天乃「若葉について、教えてくれない?」

九尾「若葉について……のう」

知ってはいるのだが、あまり話すべき内容ではない

先代勇者の話は、どちらかと言えばバッドエンドに近い

九尾自身も、そういうものだと思っているし

正直に言えば封印したい記憶だ

だが、素戔嗚が若葉であると分かってしまった上に

以前、先代の写真が見つかってしまったことで

もはや、隠していても仕方ないことだった

九尾「まぁ、良かろう。若葉は守ると誓った者達を守れずに失った悲劇の勇者じゃ」

天乃「それって……」

九尾「うむ。先代勇者部の面々、上里ひなたや、久遠陽乃。すべてを失ってなお。最後まで生き残った勇者」

若葉があ悪いわけではない

もちろん、誰かが悪いわけでもない

ただ、先代勇者の時点では何もかもが足りていなかったのだ

勇者へのサポート、戦力、人間たちの心

そして一番は、状況に対する経験値

九尾「主様がもし、今回屠った力がない状態であの場にいたらどうする?」

天乃「死ぬ気で特攻して、結界から引きはがすかな」

九尾「……聞かなかったことにするぞ」


伊予島杏や、土居球子など

悲惨な死に方をした勇者もいるために、

九尾はそのあたりはきれいに切り取って、若葉のことを話す

生きている頃はどんな人間だったのか

どんな勇者だったのか

一番関係が深かった上里ひなたとのこと

そして、若葉が素戔嗚になってまで戦いに参加し続けようとした理由

ひなたがどうして、死んだのか。を

天乃「……若葉、私以上に辛い経験してない?」

九尾「当たり前じゃ。今と昔では設備が違う」

最も、勇者へのサポートにも多少の違いがあり

もしも、そこが同じだったのなら、三ノ輪銀はいまだに生きていたのかもしれないが……

九尾「今でこそ、勇者を守る力があるが昔はそんなものなかったからのう」

天乃「貴女にも?」

九尾「陽乃の時は妾以前に陽乃が不安定だったからのう……どうしようもなかった」


天乃「郡さんの反乱って、今でも起こる可能性はある?」

九尾「民度の関係で問題はないやも知れぬ。が、ないとも限らぬな」

郡千景による反乱

戦力の減少、戦うだけで襲う代償

親友の死

色々なことが積み重なった結果の敗北

天乃「若葉の心が折れたのね」

九尾「折れてはなかろうが……戦意喪失はしておったな」

頑張って、頑張って

それでも、失って

折れない方がおかしいのだ

若葉が悪い、わけではない

天乃「つまり、何? 大赦って名前は報いを受けさせられなかったことによる懺悔とでも言うの?」

九尾「なぜその名をつけたのかは当人らにしか分からぬよ」

天乃「……高嶋さんについて、聞いても平気?」

九尾「結城友奈と高嶋友奈は、ほとんど同一人物じゃな。主様と陽乃くらいの差しかない」

九尾はそういってにやりと笑う

身長に大差があると知ってしまった天乃としては、その差は大きくて

むっとして睨むと、時期尚早じゃな。と、はぐらかした


√ 5月11日目 昼(病院) ※木曜日

01~10  大赦
11~20 
21~30  沙織
31~40 
41~50  大赦
51~60 
61~70 神野悪五郎

71~80 
81~90 
91~00  稲荷

↓1のコンマ  


「……申し訳ありません」

昼時、どうせ味のしない食事を持ってきたのだろうと、

客人を招き入れてみれば、

陰鬱な空気と共に、スーツを着込んだ二人組は揃って頭を下げた

聞いた話によれば、天乃の端末が行方不明になってしまったらしい

端末だけでなく、その時に仕事を請け負っていたはずの女性二人も居ない為

二人が何らかの理由で持ち出した可能性があるようだ

……などと言われても

天乃は困ったように首をかしげる

端末には自分含めいろんな情報が詰め込まれてはいるが

人生を捨ててまで盗むようなものではないからだ

天乃「その二人は……私の熱狂的なファンでもないんでしょう?」

「ねっきょ……いえ、はい。そのような話は全く」

天乃「だとしたら誰かに襲われて、慌てて持ち出したとか」

その侵入者が端末を狙っていたら、持ち逃げするのも説明がつかなくもない

もっとも、その場合はやはり。熱狂的な誰かがいるわけだが


そして今回、こんなにも早急に謝罪に来たのは

端末がまだ見つかっていないのもあるが

端末がないせいでデータの抽出も何もできず、

代替機の中身が真っ白しろすけだからだろう。と天乃がふざけ気味に言うと

二人はすみませんと口にする

どうやら、その通りなようだ

天乃「困ったわね……二人がどこにいるか皆目見当もつかない。みたいな感じだけど……」

「はい……何も持たず。ただ、端末のみがなくなっていたので」

「彼女たちの私服や荷物が更衣室に残っていたそうです」

なにも持たずになぜどこかへ行くのか

自分の端末がかかわっていることが気になって、

なんとなく死神を想像するが

それなら、端末だけしか持ち去らないし、盗ったそばから渡しに来るはずだ

なら九尾か。いや、それもまた同じだろう

稲荷はそんなことしないし、獺にはそんな力があるのかどうか……

考えを巡らせ、唸る。見当もつかない


1、で、それはそうと園子は?
2、夏凜達は大丈夫だったの?
3、沙織はいないの?
4、なにか、気になることはなかった?
5、で、どうしてくれるの?



↓2


天乃「夏凜達は大丈夫だったの?」

端末がないから、天乃から連絡することは出来ておらず、

沙織から報告しておいてくれているはずだが、

それ以前に黙って約束を破ってしまったのだ

不在着信は電話もメールも来ているだろうし、不満が溜まっているかもしれない

その心配をしつつ聞くと、「特にこれと言ったことはうかがっていませんが」と

一人がそう切り出して、間を置く

「久遠様の受けているお役目がどういったものなのか。探りを入れてきているようです」

「もちろん、内容を教えてはいませんが」

天乃「当たり前でしょ。教えたらどうなることか」

天乃自身もそうだが

大赦への不満が爆発するかもしれない

夏凜はああ見えて、とても優しい子だから

それを思って、思わず笑みを浮かべた天乃は

それで? と、続きを促す

「伊集院様より、登校の確認が来ております。表面上は、普段と変わらないようです」


表面上は……

その言葉が引っ掛かったが、天乃はあえて突っ込まずに愛想笑いを浮かべる

流石に、今まで通りには行っていないらしい

会えなくなった前日

その時点で勇者部が休部したりと、いろいろと問題が山積みで

その解決をしようとした矢先に、これだ

そもそも、みんなが悩んでしまったのは天乃が持つ障害に気づけず

今までの行動が善意という悪意になってしまっていたからだ

それなのに、また傷つくようなことをしているなんて考えだしたら

何をしてるんだ天乃は。なんて、憤慨しているに違いない

天乃「さて……一番駄目そうなのは誰?」

「そう聞かれましても……伊集院様は詳しいことは何も」

「ですが、結城様の様子が気になると言っていました。おそらく、久遠様の件を気にしているのではないかと」

友奈が気になる

確かに、一番気にしそうなのは夏凜よりも友奈かもしれない

勇者であるならば……そう考えて行動を起こそうとするはずだ

メールアドレスを知らないのなら、直接大赦にきて面会を申し込む可能性だってある

天乃「となると……不在着信は友奈の勝ちかな」

笑ってはみたが、正直冗談ではない


天乃「とにかく、端末が無くなったのなら急いで探して、急いで代替機用意してほしいわ」

この件は沙織にも伝わっているだろうから、

音信不通な件は何とか誤魔化してくれていることを祈るほかない

嘘が下手な沙織だから

夏凜や東郷には見破られる可能性も無きにしも非ずだが……

二人の職員は天乃の指示にうなずくと

早急に手配しますと言い残して病室を後にする

天乃「……でも」

ふと、窓から見える景色を眺めて息をつく

左半分が暗闇だが、見える範囲では久しぶりの快晴だ

全滅させたからこその明るさに、天乃は笑みを浮かべると

どこかにいるかもしれない消えた職員を想う

きっと、自分の端末のせいだろうから、ごめんなさい。と

天乃「無事、見つかって欲しいものだわ」

端末もそうだが、職員二人もだ

大赦は嫌いだが、その二人に罪があるわけでもないのだから

天乃は優しく、祈った


√ 5月11日目 夕(病院) ※木曜日

01~10  神野悪五郎
11~20 
21~30  沙織
31~40 
41~50  大赦
51~60 
61~70 神野悪五郎

71~80 
81~90 
91~00  稲荷

↓1のコンマ  


夕方、黄金色に染まりつつある空を眺めていると

前触れなく、真横に何かの存在を感じて目を向ける

稲荷「……………」

天乃「あら……珍しい」

稲狐ではなく、稲荷神本人の登場に

天乃はすこし不安を覚えながら

しかし、それを押し隠した笑みを浮かべて口を開く

天乃「どうかしたの? まさか、一緒に寝たいとか?」

冗談を呟いては見たが、稲荷の反応はない

何かを言いに来たはずなのに、ただじっと天乃の顔

赤くなってしまった瞳を見定めていて

天乃は左手を一度右目に確認させてから、左目を覆い隠す

すると、稲荷はようやく便箋一枚を取り出した

天乃「えっと……」

稲荷によれば、

何やらよくないものが、こちら側の世界に来てしまったらしく

しかも、運の悪いことに

それは天乃の精霊として来ているらしいのだ


神野悪五郎。そう記された精霊の名前は

天乃には聞き馴染みのない名前だった

もちろん、天乃の関係している神や妖怪から精霊が選出されているわけではないのだから

それは仕方がないことなのだが

知らない精霊が良くないもの、たちの悪い精霊

そんな評価をされてしまうと、気になってしまうもので

天乃は訝しげに眉を顰め、稲荷を見る

天乃「どういう精霊なの?」

そう聞いた後に差し出された手紙には、一部読めない字はあるものの

何とか解読してみた結果

九尾以上に悪戯を働く、はっきり言えば面倒な精霊だと分かった天乃は

大きくため息をつくと「端末は子の精霊の仕業で間違いないわね」と、呟く

稲荷もそれは分かっているようで、軽く頷くと

続きの一枚を差し向けた

天乃「ん……」

多くの妖怪を従えていた神野悪五郎は、魔王などと呼ばれているらしく

精霊化した結果多少、力は抑えられているものの。その力は健在で

さまざまな能力を有しているらしい

従えさせることができれば、実に有難い代物ではあるが

出来ていない現状は厄介そのもの

何とかした方が良い。と、稲荷は言いたいようだ


天乃「何とかする方が良いと言われてもね」

質の悪い精霊なら、呼んでも出てきてくれるとは限らないし

従える条件も面倒なことになりかねない

とはいえ、従えられないとまともに協力してくれないかもしれない

というか、恐らくしてくれないだろう

稲荷はなるべく協力すると申し出てくれているのだが……

果たして、どうなるのか

天乃「考えておく必要はありそうね」

どんなことを言い出すのか

動揺してまともに相対できなくなっては元も子もなくなるのだから

……さて


1、神野悪五郎を呼べるか聞く
2、胎内の穢れについて
3、稲荷について聞く
4、結界の外について
5、久遠陽乃について


↓2


では、今回はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
神野悪五郎は恐らく、サブシナリオ扱い




夏凜(返信が来ない、返信が来ない)

東郷「久遠先輩が心配なの?」

夏凜「そうよ……悪い?」

東郷「う、ううん」

東郷(苛立ってるからど直球な返答だったわ……)

http://i.imgur.com/QHhOixf.gif
まぁなんだ…その出来心だったんだが
良いな…うん提供してくれた人に感謝だな


では、少しだけ


天乃「なら……そうね」

何ができるのか、何が起こるのか

端末や職員のことがあるのだが、そんな不安もある天乃は

躊躇いがちな瞳を稲荷に向けると「神野悪五郎は呼べるの?」と、聞く

しかし、稲荷から提示された紙には

予め用意してあった乾きを感じる文字で、出来ないと記されていた

稲荷としても、手に負えなそうな悪鬼ともいうべきその精霊は早めに対応しておきたいのだが

そんな精霊だからこそ、おいそれと出てきてはくれないようだ

天乃「でも、私の精霊なのよね?」

稲荷「……………」

そうなのだが、そうではない

天乃の精霊として下につくのが気に食わないからこそ、端末を持ち去ったわけで

精霊だからと言って命令を聞いてくれるかどうかは多分。望まないべきだろう

そもそも、話さえも聞いてはくれなそうなのだから

稲荷はそれを書き記すと、困ったように肩を竦めて見せる

めったに感情を表さない稲荷がこうなのだ、もはやお手上げと言うべきだろうか


稲荷「…………」

天乃「そっか……」

しばらくすれば向こうから出てきてくれそうではあるのだが

出方を待っていると後出しになりかねない

何とか、先手を打ちたいところではある

そう考える天乃を見つめ、稲荷はさらにもう一枚を提示する

そこには、「九尾なら可能性はあるかもしれない」と

要約すればそんなことが書かれていた

確かに、何かがあった場合

大抵九尾に頼れば解決に近いことはできるのかもしれないけれど……

むぅぅっと悩んで見せた天乃は

手元を見つめ、稲荷へと向き直る

天乃「九尾なら、何とかできるのは間違いないの?」

頼んでも良いが、何かを要求されそうだから

だから、天乃はそう聞いたのだが、稲荷は頷かないまま「不確」と

二文字だけを見せてくる。不確定か不確かか

いずれにしても、出来ない可能性もあるわけで

天乃「藁じゃなくて、妾にすがることになるのね……嫌な予感しかしないわ」

微笑を浮かべて、天乃はそう呟いた

√ 5月11日目 夕(病院) ※木曜日


1、九尾
2、死神
3、若葉
4、獺
5、稲荷 (継続)
6、イベント判定

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から。もう少し、長く



>>663
周りに可愛いとか好きだとか言われたときの久遠さんの反応ですね


では、少しだけ


気になることがある。だからこそ呼ばなければいけない人もいる

下手に頼みごとをすると

あとあと倍返しされかねないのが難題ではあるけれど

彼女の力添えをもらえなければ今ある厄が何倍にも膨れ上がる可能性がある

だからこそ、呼ばざるを得ない

天乃は赤い瞳を動かして、失われた視界の中の存在を見上げる

天乃「九尾、貴女。前から気づいていたでしょう?」

九尾「……………」

九尾はすぐには答えず一拍おいて息をつく

九尾「妾のところに、来たからのう」

天乃「……会ったの?」

存在に気づいているとは思っていたが

まさか、すでに顔を合わせているとは思わず

しかし、動揺することなく目を向ける

九尾「妾が憎いじゃと。理由は知らぬが、きゃつは妾を好んではおらぬようでな」


九尾は困った様子で言うと、本当に分からないのか

肩を竦めて呆れたように笑って見せる

九尾にも、流石に分からないことがあるらしい

九尾「身勝手な因縁じゃな。妾以前の若輩者が抜かしてくれおる」

天乃「そうは言いつつ、貴女。楽しそうな顔してる」

九尾はそんなことはないと否定するけれど

残念ながら、浮かべている笑みは仮面のごとく変わりない

知り尽くした世の中に現れた一つのイレギュラー

それは、九尾にとっては麻婆の辛みのような必要不可欠なアクセントなのかもしれない

神野悪五郎という妖怪は知らないが、九尾が言う通りなのなら

九尾より後期の妖怪と言うことになる

力関係は不確かだけれど、一気に叩かず会うだけで終えたということは、相手も九尾の力を認めていないわけではないのだろう

だとすれば、相手の換算で同レベルか。九尾が少し下と言うところだろうか

九尾「そこで、妾に一つ話を持ち掛けて気負った。主様も聞いておくかや?」

天乃「ん。聞いたらどうなるの?」

九尾「この勝負に主様も参加することになる」

天乃「デメリットは?」

九尾「撒ければ揃って、あやつの下僕じゃな。くふふっ」

それは……笑える冗談ではないのだけれど



1、良いわ聞かせて
2、ううん。やめておくわ


↓2


天乃「良いわ。聞かせて」

九尾「良いのかや?」

九尾の笑顔は相変わらずで、そういわれると分かっていたと言いたげで

思い通りになっているような気がしてきて、少し不服ではあったが

天乃はその言葉を飲み込むと、「良いから」と、その勝負事の内容を催促する

聞かなければ話が進まないだろうし

何より、知らないところで物事が勝手に進むというのは

聊か気に入らなかったからだ

断じて、九尾のことを気遣ったわけではない

九尾は沈みつつある夕日を遠巻きに眺め、

笑顔の仮面を取り外す。真面目な話だぞ。と、言いたげだ

九尾「主様もすでに、大赦の職員二人が行方不明であることは分かっておるじゃろう?」

天乃「ええ」

九尾「その二人を見つけ出すこと。それがきゃつの提案してきた遊びの内容じゃ」

天乃「一つ聞いてもいいかしら」

九尾「良かろう」

天乃「それは【生きた人間】なのか【そう呼ばれていた物】なのか。どっち?」


真面目に問いを投げ合いたいというのなら。

そういうかのような表情を、齢14の少女は浮かべて紡ぐ

強調された二つの言葉は

残念ながら、齢不相応という他なかったが

天乃はそれを気にする様子もなく、九尾もまた本来なら笑って見せるのだろうが

考え込むように瞳を閉じて、息をつく

九尾「むろん、生きた状態で。じゃ」

天乃「それは確認したことなのね?」

九尾「抜かりはない。そこでどちらかをあやふやに始めては、きゃつに言い逃れ。後出しを許すことになる」

生きた人間を見つけろとは言っていない。とか

そう呼ばれていた物。つまりは、【遺体】では失格だ。とか

何でもありの妖怪のルールになんの問いかけもなく挑んでは敗色濃厚だからだ

そこは、流石九尾と言うべきなのだろう

九尾「事が始まる前に生存していることを証明させ、最中に手出しはしない。したらきゃつの敗北と言うことにもしておるぞ」

天乃「生存証明が幻術……と言うのも考えたけれど。貴女相手では店員の目の前で堂々と万引きするようなものよね」

九尾「くふふっ。そうじゃな。もちろん、生存証明が取れた時点でゲーム開始と言うことにもしてある」

天乃「なるほど。隠してからゲームスタートでは。その間に処分されかねないものね」


九尾が味方でよかった。と、天乃は改めて思う

この勝負事に関して、初めに話を受けていてくれたのは九尾だ

だからこそ、あらかじめ話を聞き

相手側の悪だくみを上手く相殺してくれているのだ

九尾でなくともできた可能性はあるけれど

残念ながら、その成功率は極めて低いと言える

天乃「それなら、問題はないかしら?」

九尾「結界の外は禁じなくてよいのか? 期限中。少なくとも最終日まで生きていられる場所と言う限定もなくてよいのか?」

天乃「ん……確かに」

結界の外なら、彼? が手を出さなくても手と言うか口出ししてくれるのがたくさんいるだろうし

嫌な話、冷凍庫や走っている電車の目の前に置かれたら即死は免れない

これが。九尾と言う妖怪が敵だったとしたら……というのは

あまり考えたくない話だ。本当に、心から

九尾「妖怪の提示してくる勝負事は必ず抜け穴がある。そこを埋めねば、足を取られて敗北するぞ」

天乃「妖怪である貴女の忠告と言うのが、すごく気がかりなのだけれど……」

九尾「負けたら妖の子を孕む可能性があるというのに、まったく。緊張感がないのう」

天乃「ちょっと待って、そんな話聞いてない」


では、短いですがここまで
明日もできれば通常時間から



九尾さんのトラップカードに気を付けましょう


では、少しだけ


九尾「うむ。相手も言うておったわけではないからのう」

しかし。と、九尾は紡ぐ

嫌な予感がした。聞きたくない言葉が続く気がした

けれど、当人ではない九尾はそんな気持ちを知らずか

知っていてあえてなのか―恐らく後者―にやりと笑って口を開く

九尾「主様の霊力と言うべきか、妖力と言うべきか。霊的能力値は一般のそれとは大きく違う」

だから、好まれる。だから、求められる

鬼のように暴食なものはもちろん、八岐大蛇のような美食家風情も

好んで喰らおうとするくらいには。と、九尾は笑顔で言い続けた

食べられるのと、孕む。つまりは子供を宿すというのは全く違う意味だと天乃は思ったが

どちらにせよ、喜ばしいことではなく

嫌悪感を示してみせると「安心せよ。下郎にはくれてやらぬ」と、

自信に満ち満ちた表情で、九尾は言う

天乃「何をどう安心すればいいのよ……」

九尾「妾がいる間は、余計な輩には指一本触れさせはせぬから安心するがよい」

少なくとも、主様が余計なことさえしなければ。と、あとがきを残す


天乃「……良くはないけど」

良くはないけれど

とりあえずそれは後回しにして。と天乃は言うと

九尾のことを右目でしっかりと捉える

左半身が九尾側のせいではたから見ても窮屈そうな姿勢だが

しかし、瞳半分が見切れるような視線というのは

中々に眼力を感じるものだと、九尾は口を閉じる

九尾「まだ、何かあるのかや?」

天乃「貴女、勝てる保証はあるの?」

九尾「妾を誰と心得ておる。あのような若造に後れを取るほど、生きてはおらぬよ」

冗談半分な言い方だ

だけれど、そこには確信めいた何かを感じる

本当に、本気で。間違いなく勝てると思っている。そんな雰囲気を感じる

ただの自信家か、それとも。策があるのか

どうせ、そのあたりは聞いても教えてはくれないだろう



1、先代勇者について(再度安価)
2、穢れについて
3、勇者部について
4、九尾について
5、満開について


↓2


天乃「ねぇ。九尾。私は連絡手段も何もないから、勇者部について教えてほしいの」

九尾「ふむぅ……」

聞いたそばからそう声を漏らした九尾は

身体の力を抜い多と言うよりも、少し残念そうな雰囲気を感じた

天乃の質問がつまらない物だったから。ではなく

その質問への回答が見つけ難くて、困っている。というような……

九尾「主様はこの件を誰にも話してはおらぬじゃろう?」

天乃「ええ、そうね」

大赦の方からのお願いがあったとはいえ

最終的に話さないことを決めたのは自分だ

それが何か問題があったのかと視線を送ると、

九尾は相変わらずの表情で

九尾「勇者である主様が大赦のお役目。考えられるお役目の内容は?」

そう聞いてきた


天乃「考えられる内容……」

まずは自分が勇者に属しているのは当たり前だとして

その勇者の中でどのくらいの位置にいるのかを考えてみる

自分が最強と謳う気はやはり、毛頭ないのだが

現在の勇者部の中ではトップクラスの実力だとは思う

そんな天乃だけが頼まれるお役目とは何か

実力が伴っていなければ参加さえさせられないようなお役目。と言うのが妥当な所だろう

天乃が巫女の力も兼ね備えていると周知しているのならばともかく、

していないのなら、勇者の仕事として連れ出されたと考えるのが妥当な判断だからだ

天乃「それが、なに?」

九尾「そこで、愚かな勇者部はこう考える。【また、久遠天乃に背負わせてしまった】と」

天乃「えっ、みんな裏では呼び捨てなの?」

九尾「茶化すな」

あまり考えたくなくて茶化したが、

流石に怒られ閉口した天乃はごくりと息を飲んで、目を伏せる

九尾が言っていることは、始まる前からどこかで予想・懸念していたことだからだ


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


勇者部を救うのは……


では、初めて行きます

前回同様の長期イベントは、
今回は久遠さんが大赦サイドかつ重要戦力なので
余程のことがない限り物語中は問題はありません


大赦職員からの話では、友奈が気になると言っていたことを思い出す

その少し前に探りを入れてきている。と言う言葉も

探りを入れてきているのが誰であれ――とりあえず、ここは気になるところの友奈と仮定しておくが

そうであるならば、それが一番良くない流れだと天乃は思う

天乃「貴女、実際に様子見てきてるのよね?」

九尾「残念ながら、そう。長々とみているわけではないが」

九尾の首が横に振られ、嘆息

嘆いても仕方がないことだが、ため息が零れるのは致し方ないことだった

もちろん、九尾に対してではなく。

天乃「大赦の人は、【探り】に対して【教えていない】のよ」

九尾「それは……うむ。主様の心配も理解できなくはないのう」

天乃「どうしようかしら……きっと。友奈はすごく不安になってると思うの」

ポジティブが取り柄の友奈だ

前向き思考で居られるのが強味の結城友奈だ

だけれども、果たして

彼女が一片の不安もないと言えるのだろうか?

否、そんなはずがない

前向き思考な人間を人は羨ましいと思うことがあるが

前向き思考になる人間が必ずしも【ネガティブな一面】をまったく持ち合わせていないなんてことは基本無い

人が思うほど、前向き思考の人間は強いわけではない

極端に言い換えれば、ただ前向き思考であるということは、つまり【現実からの永久逃避】だからだ


嫌なことに直面したとき、

こう考えようとプラスに考えることが悪いとは言わないが

それをあえて受け止めてしっかりと進んでいくのが一番いいことである

もちろん、それこそが最難関であるからこそ

挫けることや、折れる事、ネガティブ、ポジティブ、いろいろとあるわけだが

天乃「友奈はたぶん、周りが平然としていても。不安になっていても。自分の不安を打ち明けられるタイプの子じゃない」

九尾「なぜそう言える」

天乃「貴女は良く分かっているはずよ。あの子は他人の不安を見逃せない。他人を心配させられない」

それはとても優しい子だと

気遣いのできる子だと、誰かは言うと思うが

事ここに至っては、流石の天乃もおだててあげるわけにはいかない

はっきり言おう。それはもはや自己犠牲だ

鏡を見れば、似たことをしている人に出会える天乃は、それを熟知している

天乃「だからきっと、友奈は今にも破裂しそうな不安を抱えながら。だけど、みんなには大丈夫だよ。と、笑いかけてる」

大丈夫だよね? 戻ってきてくれるよね?

そんな不安と心配、恐れを抱えて、抱えて

なのに、他人のそれをまだ平気だからと引き取っている。過積載

天乃「……普段の東郷なら気づいてくれる。でも、余裕のない東郷はきっと。笑顔の友奈に救われてしまってるから」


九尾「……うむ。主様のその推測は間違ってはおらぬじゃろうな」

天乃「少なくとも二年は一緒にいるんだもの。さすがに、ね」

微かに笑って見せたが、焼け石に水を撒くように

空気は変わってくれてはいない

リーダーである風も、崩壊した勇者部がある以上。いきなり大きく動くということは出来ていないと思う

樹は意外としっかりしている子だから

立て直せるとしたら樹か

もしくは、ツインテールではあるけれど。ダークホースで夏凜と言ったところか

九尾「主様が望むのなら、明日。若造を片付けた後から勇者部に向かっておいてやっても良いが」

天乃「変なこと。しないでしょうね」

九尾「心配なら、若葉に代理を頼むかや? 元からいた生徒としての立場で割り込ませておくぞ?」

九尾も珍しく真面目なまま思考し、提案する

九尾か若葉か

それとも、向こうは向こうに委ねてみるか



1、九尾に任せる
2、若葉に任せる
3、勇者部は勇者部に委ねる


↓2


自分がいなくなった後

それ以降の勇者部の行く末がどうなるかを確かめたいのなら

このまま向こうに委ねてしまうのも手だが

今はそう、余裕のあるものでもない

天乃「なら九尾。頼める?」

天乃はそう考えて、九尾の名前を口にする

所々悪ふざけする姿も見せる九尾だが

その九尾がいつもの調子無く不自然なほどに生真面目なのだ

それこそが悪戯だと言うのならお手上げだけれど

しかし、だからと信じないわけにはいかない

何かを解決したいのならば、彼女にも手は借りるべきだろう

九尾「良かろう。しかし主様よ」

天乃「うん?」

九尾「……いや、その目は不便ではないかや?」

なぜ友奈のことが分かって自分を犠牲にし続けるのか

そんな説いても問いても無駄なことを言いかけた九尾は

自粛して、無理矢理に言葉を入れ替える

天乃「多少不便ではあるけど。でも、この程度なら安いものよ」

浮かべられたそれが純粋で

あまりにも穢れがなさそうに見えるから、九尾は眉を顰める

本気で。本気で【自分のことを考えていない】と、九尾には分かってしまうからだ


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から。可能ならもう少し長め



久遠さんの言った友奈像はあくまで、この物語上です
実際は違う可能性もあります


では、少しだけ


√ 5月11日目 夜(病院) ※木曜日

1、九尾
2、死神
3、若葉
4、獺
5、稲荷
6、イベント判定

↓2


右半分だけが月明りの心もとない視界に

床に敷かれた白無地のタオルを映す

特別、不安に思っているわけではなく、気丈に振舞っているつもりも毛頭ないのだが

しかし、だからといつものようにいくのかと言えば、そうでもない

さっきだってそうだ

置かれていることに気づいていたくせに

見えていなかったから机からコップが突き飛ばされた

いや、弾き飛ばしてしまった

手の痛みはとっくに引いてはいるものの、

上手くいかないもどかしさは、いまだ燻っている

だからと、この代償に関して後悔はしていない

不自由さを付加させたとしても、それで今の安寧があるのだから

そう、彼女たちは不安にさせてしまっているらしいけれども

少なくとも。犠牲にはならずに済んだのだから

久遠天乃としては【それで十分】だった


九尾が何かを……いや

なぜ、友奈のことが分かっているのにと言いたかったのだって

天乃は分かっている。けれど、そういわれたからと手、今の在り方を変える気は

今のところは、持ち合わせていない

コンビニにでも売っているのなら買ってきても良いのだが、

残念ながら、売っていないから。などと思って苦笑する

――つまらない

天乃「死神さん。死神さん。出てきてくださいな」

呪術的な何かの意味合いを持たせるような口ぶりで言うと

死神はどこからともなく姿を現して、くるりと回る

出てくるたびに回るというのが、死神の癖らしい

ちなみに、二回回った時は気分が絶好調の時だ

死神「ドウカシタノ?」

天乃「用事がなければ呼んではいけないの?」

死神「ソンナコト、ナイケド。デモ。ワタシハ、ハナシアアイテ。ナレル?」


一応話すことができる

だから、話し相手に慣れないなんてことはないのだが

残念ながら。と、言うべきか

死神はやはり人間ではないので、カタコトな話し方になってしまう

それはそれで愛くるしく、時々見せる小動物のような仕草は愛おしいので

天乃はさほど気にしていない

死神「ハジメ、ニ、イウケド」

死神はなぜ読んだのかと言う疑問の答えを得るよりもまず

小さな手を懸命にパタパタさせながら、「ワタシニハ、ソコマデ、ハリツイタケガレハ、ドウニモデキナイ」と

出来ないことをあらかじめ宣言する

後から言われて絶望させるよりは。と言う判断なのだろう

けれども残念ながら、それは早いか遅いかの違いであって

その差が数分程度なら影響は変わらなかったりもする

死神「ナニカ、ヨウジガ、アルノ? ソレトモ、タダ、オハナシ?」


1、私の満開ってこれで何回目?
2、貴方は、神野悪五郎ってわかる?
3、なら、誰ならどうにかできるの?
4、穢れは分かったけど。なぜ。赤い瞳なの?
5、貴方からは、何かお話ないのかしら
6、一緒に寝ましょ


↓2


天乃「なら、誰ならどうにかできるの?」

正直、期待はしていなかった

後悔しているわけでもないし

自分が選んでこうなったのだから、しっかりと受け入れているから

一応聞いてみようかな。程度の軽い気持ちだ

しかし死神は意外にも暗い雰囲気で

もともとの黒さゆえか、赤い瞳だけが目立ってやや不気味にも思えるままに、

天乃を見据える。その瞳は、どこか悲しげだ

死神「カタク、ムスビツイタモノハ、ホドクコトハデキナイ。ソレガツタナラ、クサリオチルマデ。エイエンニ」

天乃「そっか……そうよね」

残念な気持ちはなく、ひょうひょうと呟いて天井を仰ぎ見る

簡単に言えば、死ぬまでそれは絡み合ったまま。定着したままと言うことだ

穢れた体と言うと語弊があるかもしれないけれど

無垢な少女にはもう戻れないということだ

もっとも、無垢な少女だったなどと、天乃は思っていないが


天乃「これはどうあがいても手放せないのなら、上限が100だとして、この穢れが40なら残り60ってことよね?」

死神「……ソウ、ダヨ」

少し難しい言い方だったのか死神は少し間をおいて、答える

正直な話、このどうしようもない負荷が限界値のどこのあたりまで来ているのか。と言うのは

気になるところではある

もちろん、それがどれほどであろうと

必要ならば満開も穢れの請負も辞さないのだが

本当の限界を知っておく必要はあるかもしれない

しかし、そのあたりを聞くべきは死神よりも稲荷の方だろう

死神「クオンサン、ドウシテ、ガンバルノ?」

死神は九尾達のように思慮深くない

だから思うがままに、そう聞いた

天乃は沈黙したまま、右目と左目を死神に向け

横になっているがゆえに半分しか見えない死神を視界に招く


死神「クオンサン、コレイジョウガンバッタラ、モット、ヨゴレル」

天乃「分かってるわ」

死神「ミンナノタメ。デモ、クオンサンノタメニハナラナイ」

天乃「それも分かってる」

死神が言いたいこと、全部わかっている

分かっているけれど、だから何だと言うのだろうか

やらない方が良い。それは理解しているけれど

今ある日常を守りたいのだから、仕方がない

自分が得ることができなかった時間を生きている勇者部

そこに加わっている旧友

その全員を、守り通したいから

これは、やらされているわけではないし、

仕方がなく行っているわけでもない

だから、そう

天乃「ごめんね、死神さん」

死神「アヤマラナイデ。アヤマルナラ、ガンバラナイデ」

天乃「ごめんね、それは出来ない話だわ」

死を招く死神の死への拒絶

それを天乃は笑って受け流して、手を伸ばす。残念ながら。それは何にも触れない

天乃「それが私の生きる意味。生きる理由。私が勇者で居続ける理由なんだから」

周りから恐れられ、崇められ。敵視され、蔑視され……何されようとも。

それが守り切れなかった人たちへの、贖罪なのだから


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


おいかけっこは12日目の朝
死神交流はもう少し続きます


遅くなりましたが。少しだけ


死神「クオンサン、ソレハ、ヒドイヨ」

虚空をかいた天乃の手を見つめ、死神は言う

触って貰えなかったことではない

願いというのは烏滸がましいかもしれないが

数年連れ添った戦友からの希望を、受け取ってくれなかった事

それがとても、悲しかった

自分悲しいという感情があると思ってはいないが、

けれど、死神ではあるのだが。しかし

この少女には死んでほしくないと。思っている

だから力を貸しているし、守っている

天乃「……嫌いになった?」

面白いことなどないにも関わらず

笑みを浮かべる少女を死神は見下ろす

見れば見るほど、人ならば痛々しいと思う

その姿を、死神は見つめ。自分を見直す

小さな手、小さな体。丸いボールのような体

守れる。力を貸せる。けれども、力になることなどできはしない体

死神は若葉を羨み、九尾を羨む

死神は――人間になりたいと。思ったからだ


勿論、望んだところでそれは不可能だ

死神という精霊は人間には決してなり得ない

大元である存在が朽ち果てているがゆえに

しかし、死神は今ここで天乃に手を出したいと思った

夏凜がしているように、怒り

友奈がしているように、優しく

人間としての感情を見せ、言葉を扱いその両腕を動かしたかった

しかし、出来ない。出来る事はない

感情があるのに、感情のない声ではどうしようもない

だから、死神は天乃を見る

死神「クオンサン……ワタシ、ジャ、チカラブソク。ダネ」

天乃「死神……?」

死神「クオンサンハ、ツヨクナレバナルホド。ムチャ、シチャウカラ」

だから、誤魔化した

九尾と話して偽って。あるものを無い物とした

二つを一つにし、力を奪った

死神「ゴメンナサイ。クオンサンハ、コンカイフクメテ、ハチカイノマンカイヲシテル」

天乃「……どういうこと?」


死神「ワカラ、ナイ? ワカラナイ、ヨネ」

分かるわけがない。分かるはずがない

分からないようにしてきたのだから、分かっているはずがないのだ

天乃の精霊は

死神、九尾、稲荷、火明命、若葉、獺、神野悪五郎の7体

障害は視覚、味覚、聴覚、両足、記憶の5つ

この時点で数は不釣り合いなのだが、九尾を抜けば追加精霊は6体

そして、両足が片足ずつなら障害も6つでちょうど良い

天乃「そうでは、ないのね?」

天乃はそこまで考えて、間違ってはいないはずなのだけれど。と思いながら

しかし、死神を視界に収めて、問う

自分のそれは間違っているというような口ぶりで

死神「ウン。ダッテ。ワタシタチ、モ、マンカイノケイサンニハイッテル。ヨネ?」

天乃「……あ」

死神「ソウ。ナノ、カコヲシルセイレイハ、クオンサンノマンカイニアワセテ、デテキタダケ」

だから本来、精霊はあと二枠足りていないし

足りていないから、満開の障害も何もなく。数合わせが行われている

それはつまり、天乃は現状よりもさらに強くなることができるということだ


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


明日はとりあえず精霊選択


では、少ししたら初めて行きます


天乃「つまり、求めれば精霊を追加できるってことなのよね?」

死神「ウン」

本当は追加するつもりはなかった

神野悪五郎だってそうだ。あんな野蛮な存在でなければ

他の精霊と同様に付加を隠ぺいしてしまうつもりだったのだ

もっとも、今回に限っては反動が大きいがゆえに

障害を無かったことにはできない

それに、視覚を補うのは九尾にでも難しいらしい

出来ないこともないが。というのは、九尾らしかったと死神は思い、頷く

死神「クオンサン、ガ、ノゾムノナラ、ネ。セイレイヲ、ヨビオコセル。ヨ」

天乃「私が望むなら……ね。それは私が呼ぶ存在を選べたりするの?」

死神「ムズカシイ、ケド、ホセイ、ハ、デキルヨ」

補正は出来る。というのは

妖類、神類、英雄と呼ばれし者達等々

カテゴリ程度の選択ならできるかもしれない。というものだ

さて……


1、今は保留
2、妖類
3、神類
4、過去勇者


↓2


天乃「そう……じゃぁ、今は保留にしておくわ」

死神は「ドウシテ?」と、言いたげな瞳を天乃に向ける

新しい力が手に入る。もっと強くなることができる

それなのになぜ先延ばしにするのかと、死神は疑問符を浮かべていた

天乃「だって、せっかくだもの。いろいろ考えてみたいじゃない?」

完全にランダム。見えないガチャポンならば今すぐ引くというのも吝かではない

けれど、ある程度決める余地があるのであれば

それなら、少しは時間をおいて考えたいのだ

どれがどんな力があるのかなんてわからないけれど……

なんて、本当のところはどうなのだろうか

死神がつい先ほど浮かべた悲しそうな瞳

自分では力不足だという嘆き

それに対する答えなのではないかと、天乃は考え、息をつく

――どうだっていいじゃない。答えは変わらないのだから

天乃「いつか頼むとは思うから。ちゃんと、用意だけはしておいてね?」

笑みを浮かべて伸ばした手

今度はしっかりと、熱くも冷たくもない小さな体に触れた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流無()
・   乃木若葉:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流有(若葉、悪五郎)

・       死神:交流有(精霊、満開と代償)
・       稲狐:交流有(悪五郎)
・      神樹:交流無()



5月11日目 終了時点

  乃木園子との絆 42(少し高い)
  犬吠埼風との絆 38(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 31(中々良い)
  結城友奈との絆 49(少し高い)
  東郷三森との絆 35(少し高い)
  三好夏凜との絆 23(中々良い)
  乃木若葉との絆 31(中々良い)
     沙織との絆 45(少し高い)
     九尾との絆 40(中々良い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 8(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 5月12日目 朝(病院) ※金曜日



01~10  神野
11~20 
21~30  沙織
31~40 
41~50 
51~60 大赦

61~70 
71~80 
81~90  若葉
91~00 

↓1のコンマ  


沙織「久遠さん、おはよう」

昨日来ることのなかった級友、伊集院沙織は

元気そうな声とは裏腹に、少し疲れた表情を見せた

頑張って笑顔を浮かべているのが、また一段と痛々しいと

天乃は思って、苦笑する

天乃「どうしたのよ。学校は?」

時間的に余裕があるのは分かっていたけれど

あえてそう聞くと、「時間はあるから平気だよ」と、沙織は笑う

沙織「それよりも、一応代替の端末持ってきたんだ」

天乃「あら。ありがと」

受け取った新品の端末には

基本的なアプリが入っているが、電話帳には沙織と大赦しか入っていない

沙織が言うには「自分の端末のデータを複製しようとしたが、勝手にやるのはなぁ」ということらしい

天乃としてはそこまで気にすることはないのだけれど

しかし、沙織の連絡先しかないのを見て

天乃「なんだか、端末管理されてる恋人みたいね」

なんとなく、冗談を口走ってみた


沙織「ん~……確かに。久遠さんは管理された方が良いかも」

自分から不倫だのなんだの

そういったことをしようとしてする人ではないと判ってはいるのだが

しかし、何というべきか

そう、見事なまでに―無意識に―口説いているのを耳にしている沙織としては

そうせざるを得ないのかもしれないと、やや納得していた

天乃「そう? どうして?」

沙織「あはは」

ほら。これだ。分かってない

そんなことを想いながら、沙織はふと息をつく

天乃と一緒にいられる時間は幸せだ。学校なんて行きたくない

そんな学生特有の怠惰な思考に飲まれぬようにと、

沙織は膝上の手を握る

沙織「久遠さん。一つ聞いて良いかな」

天乃「うん?」

沙織「あのね。まぁ、たぶん身に覚えはないと思うんだけど……犬吠埼さんとさ。何か、あった。かな?」


天乃「恋愛的な意味で?」

沙織「これは一応、真面目な方だよ」

わざとらしく話を引っ張ろうとした天乃にぴしゃりと言い放つ

その話題をもう少し続けたいところではあったけれど

残念ながら、真面目な話かつ優先順位の高いことがあるのだ

心休まらない自分の疲れ気味な心にごめんねと一言詫びた沙織は

天乃を見つめ「どうかな?」と、聞き直す

天乃「犬吠埼って、どっちの方?」

沙織「今回はお姉さん。風さんの方」

天乃「風と……ね」

昨日も一昨日も会っていない

その前日も会っていない。そう、確か4日間くらいは会っていないはず

会わなくなった理由は、日曜日、あの場所で休部の件を話して……

いや、風に押し付けてからだ


あの日は風以外にもみんながいて

友奈達とも話をしたけれど、休部を決めたのは風で

決める前に話したのは天乃だ

何かがあったというのなら、そこだろうか?

その休部の話をする以前から、風は思い悩んでいる様子だったけれど

それは、天乃とどう接していくか。という

天乃の「いつも通りでいて欲しい」という願いゆえの悩みだったはずだ

……本当にそうだろうか

何か、ほかにあった気もしなくもないと

天乃はあやふやに思う

その話の原因

味覚の件を話したからだろうか?



1、味覚のことを話したことかしら?
2、休部の件を一任したことかしら?
3、もっと別の……こと?


↓2


もっと……別のことだろうか?

天乃はそう考え、より深く記憶をたどっていく

短い期間ではあるものの、濃密なここ最近の出来事の中

思えばとても大きくて、けれどもあの場では些細なことだったこと

すぐに疑問を解消されてしまったこと

けれどもそれは今までで初めてだったこと

天乃「風がね……」

沙織「うん」

天乃「一度だけ、私を名前で呼んだのよ」

あの時は気を引けると思ったからだ。と、風は言った

実際、あれ以前も以降も

風は一度も名前で呼んでくれてはいない

いろんなことがあった中で

全員が共通したことを抜いたとすれば、残るのはそれで

沙織は少し驚いた顔をして「そうだったんだ」と、こぼす


疑問への答えになったのかはわからないが、

そっか。と言いつつ考え込む沙織を見る天乃は

それに近い答えは与えられたのかもしれないと、思い、眼を逸らす

勇者部もそうだが、個人個人で何かが起きている

友奈然り、風然り

一刻も早く戻りたいところではあるのだけれども

しかし、大赦がそれを許していない

来客は簡単に通してくれているが

その一方で、出るときは厳重なチェックがある。と、九尾が秘かに言っていた

要するに、監視体制はバッチリトいうことだ

もっとも、死神や九尾の力を持ってすれば、人間の監視や隠しカメラなど。無意味なのだが

天乃「ねぇ、沙織」

聞くのは少し怖いのか、ほんのりと汗ばんで感じる手を握りながら

しかし、目を合わせようとはせずに、天乃は口を開く

天乃「勇者部は。みんなは、平気なのかしら」

悪五郎を片付けたあと、九尾が向かってくれるという話だけれど

しかし、それまでにどれほど悪化してしまっているのかというのが

天乃は不安だったのだ


不安そうな天乃を見て

しかし沙織は呆れたようにため息をつく

その優しさを沙織は好いている。けれど、今この現状にまで至っておきながら

それでもなお、自分の今後よりもまず他人を気にしてしまうその姿勢は

正直に言えば、呆れるほかないからだ

沙織「久遠さん、それは間違ってると思うよ」

天乃「え?」

沙織「今一番心配されるべきは。ううん。されているのは久遠さんだって、分かってる?」

自分には人を導く力がないことは理解しているし

自分には誰かを諭すほどの頭の良さもないと承知の上だ

けれど、でも。だからとなぜあきらめられるのか

沙織は今だから言うべきなんだと、心を押す

沙織「どうして、何にも言わないの?」

天乃「何にもって、なんの――」

沙織「その目! その目……半分も見えてないんだよ? 不安なはずだよ。怖いはずだよ。なのになんで、何にも言わないのっ!」


今まで見えていたものが、見えなくなったのだから

半分見えなくて半分聞こえない。体の半分も動かない

そんな状態にまでなって、なお不安も何もないのだとしたら

それはもはや……と、

沙織は歯を食いしばって、天乃を見る

怒っているのか悲しんでいるのか

不器用に両立させている沙織の表情に

天乃はすこし圧倒されつつも、息をつく

天乃「まだ半分見えているし。それはもちろん、不便さはあるけれど。不安はないわ」

沙織「もう半分しか見えてないのに?」

天乃「まだ半分よ」

沙織「もう半分だよ……どうして。そんなに余裕が持てるの? あと半分がなくなったら何も見えなくなるんだよ?」

悲痛な声だ

自分のことではないにも関わらず

沙織はそれがまるで自分自身の不幸であるかのように語る

いや、沙織にとって天乃が傷ついていくことこそが

彼女自身が与えられる最大の不幸なのかもしれない

沙織「それなのに、そんな余裕持って……そんなの。次もまた満開を使うって言っているようなものだよっ!」

天乃「……必要な状況なら、間違いなく使うと思うわ」


間は在った。けれど、躊躇いはなかった

そのはっきりと明確にされた答えを受けて

沙織「……………」

沙織は大きく見開いた瞳から、涙を伝い落ちさせた

嗚咽を溢すでもなく、鼻を啜るでもなく

泣いていることに気づいていないかのような沙織は

行き場のない感情を押し付けられたかのように震える手を握り締める

閉じた瞼の縁から悲しみが零れる

噛み締めた唇から赤い雫が滴り落ちて、白いスカートを染めていく

沙織「なんで?」

天乃「さお――」

沙織「なんで大事にしてくれないの!?」

天乃「っ」

悲しみの有り余った怒号

始めて見る。怒り心頭を体現しているような姿

気圧された天乃が言葉を失うのと同時に、沙織は椅子を蹴とばすように立ち上がって、天乃を見下ろす

沙織「久遠さんの馬鹿ッ! もう知らないッ!」

傍らにあった自分の鞄を投げつけて、沙織はそのまま逃げるように病室を飛び出していく

追いかける術はない

だから天乃は、ドアを見つめてから目を伏せる

今の天乃には何も、出来ないからだ


九尾「……呆れたものじゃな」

こんこんっとドアを叩いて目をむかせた九尾は

人間の姿のまま、天乃を見つめて眉を顰める

何があったのかを見聞きしていた九尾としては

継続して怒鳴ってやるのも吝かではないが。と前置きをして

しかし時間がないからのう。と、息をつく

そのすぐそばで

腕を組み、天乃の価値を見定めるように目を細めていた精霊は

まだか。と、九尾に声をかけた

九尾「先約が待ちかねておる。主様、心の準備は良いかや?」

天乃「え? あ、ええ……そう。だったわね。ごめんなさい」

沙織のカバンを抱きしめながら、天乃は右目に精霊が映るように体を起こす

名前で想像していた通り、

性別で言えば男性型の精霊らしい。しかし意外にもその大きさはまるで子供だった

天乃「私は久遠天乃よ。貴方は……話せる?」

悪五郎「伊達に魔王と名乗ってはおらぬ。本来ならば姿もまたこんな小物ではない」

舐められると判断したのか、きつい口調で返してきた精霊だが

しかし姿ゆえに、少し背伸びしてみた子供にしか見えないのは、禁句だろう

悪五郎「俺からの挑戦はそこの女から聞いているはずだ。俺が勝った場合はお前達を俺の好きに扱わせてもらう」

天乃「……扱うって」

悪五郎「言葉通りだ。人間。家来として。物として。存分に使い倒してくれる」


九尾「ふむ……というわけで、昨日の発言も現実となるわけじゃ」

九尾は禁句を口にはしないが、失笑を禁じ得ない。と言った様子で

しかし笑わずに肩を竦めて見せる

完全に、小ばかにしているのだと天乃は見抜いて、困った表情を浮かべた

何か策があるのだろう

そして、それに悪五郎が気づいていないから

そのふてぶてしい態度がより滑稽に見えてしまっているに違いない

天乃「えっと。二人でルール確認は済んでいるのよね?」

悪五郎「当然だ」

天乃「じゃぁ、私が良ければ、もう始められるのね?」

悪五郎「諄いぞ人間。お前に女を見せてから始めると聞いていないのか?」

不服そうにいう精霊を一瞥して、九尾を見る

九尾はもうすでに整っているらしく、主様だけじゃぞ。と、呟く



1、ゲームスタート
2、ちなみに、勝ったら私にどんな命令するの?
3、何があっても、勝ちは勝ち。貴方の力を貸して貰うわよ


↓2


天乃「ちなみに、なんだけど」

悪五郎「なんだ? ルール変更は受け付けないぞ」

天乃「うん。それは平気」

九尾の施した作戦はルールの可能性が高い

それなら、下手に手出ししない方が良い

そう思っていた天乃は関係ないと切り捨てて、笑みを浮かべる

天乃「勝った場合、私にどんな命令するつもりなのかな……と」

九尾が言っていたことを鵜呑みにしたわけではないし

それが本当にできるのかどうかがまずは疑問なのだが

とにかく、手元の鞄

その持ち主とのことから一旦離れるために、問いかける

すると、悪五郎は天乃をまじまじと見つめ

にやりと笑う

悪五郎「お前は良い力を持っている。人間では珍しくな。ゆえに、俺の女にするのも考えている」

天乃「女って、もしかして」

悪五郎「そうだ。お前が考えている方で間違っていない。俺とお前の子なら。さぞかし出来の良い奴になるだろうからな」


悪五郎は天乃が引き目になっていることも構わずそう言うと

続けて「女になるなら丁寧に扱ってやる」と、勝つこと前提に告げる

今ここで誓うなら。というところだろう

けれど、九尾の咳払い一つにその返答は遮断され、

悪五郎と九尾は互いに目を向け睨む

天乃「ふふっ……そっか」

女になる=嫁になる

子供を作れば。ということなので

悪五郎的には子供が作れることは確定らしい

だからどうということでもないが

天乃は苦笑して、二人の険悪な空気を乱す

悪五郎「何がおかしい」

天乃「ううん。なんでもないの」

悪五郎「意味の解らない女だ」

天乃「そうかもしれないわね……でも、今はほら。やることをやりましょう」

悪五郎は笑顔を浮かべる天乃を前に

もう一度分からないやつだと呟くと、少し待て。と姿を消し

そして――ぐったりとした二人の女性をどこからともなく連れ出してきた


「うぅ……」

衰弱して見える女性二人は

恐らくは大赦での仕事着のまま、床で横になって

少し背の低いほうの女性が、もう一人を抱きしめている状態で

怪我はしていないものの、手当が必要そうな感じがする

天乃「何をしたの?」

悪五郎「多少遊ばせて貰った。いや、俺の力を試させて貰っただけだ」

外傷はないから安心しろ。体は綺麗だ

悪五郎のそんな言葉を無視して、九尾は二人の首筋に手を当てる

九尾が無関係な人たちの命を気にするとは思えないけれど……

そう考える天乃をよそに

脈を図るようにしたまま動かない九尾にしびれを切らしたのか

悪五郎は九尾の横に立ち、その肩を掴む

悪五郎「おいお前。邪魔だ女共を隠せないではないか」

しかし、九尾は動かない

二人の女性に触れたまま、けれど顔だけを悪五郎に向け。笑みを浮かべる

九尾「勝負はすでに始まり。そして終わっておるぞ。小僧」

悪五郎「なに?」

九尾「妾が言うたであろう?【生存証明が取れた時点でゲーム開始】と」

悪五郎「……! な、お、お前ッ!」

九尾「くふふっ、気づかなんだお主の負けじゃ小僧」


天乃「……………」

はっきり言おう。最低だ。と

しかしながら九尾が言ったように

妖の世界ではそういう騙し合いだったり

ふとした抜け穴を上手く作ることが勝負なのだろう

……そう納得しないと五郎くんが可哀想だし

天乃は呆然とする悪五郎を見つめ、

してやったりと満面の笑みを浮かべる九尾へと視線を移す

九尾「異論はあるかや?」

悪五郎「異論以外の何があるのか言ってみろ」

九尾「謝罪の句でも述べればよかろう。驕り高ぶったことについて、のう?」

悪五郎「く……っ!」

九尾は相変わらずの表情で

屈辱的な辱めを受けたと言わんばかりの表情の悪五郎は

天乃へと目を向ける

天乃「?」

悪五郎「首を傾げるな! お前もこんなのはないと思わないのか!?」



1、貴方達の決めたルールには口出ししないわ
2、そうね。ちょっとずるいんじゃない?
3、勝手に景品に入れられた私にそれを言う?
4、はいはい。よしよし


↓2


天乃「…………」

やったら怒るというのは想像に容易かった

けれども、子供が圧されているというのは、

同じく子供ではあれ年上に見える天乃としては見逃しがたく

しかし、ここで勝敗をなくしてしまうと

後々面倒なことになると判断した天乃は

そうっと手を伸ばして、悪五郎の頭を撫でる

天乃「はいはい。よしよし」

悪五郎「ぐ……き、貴様ぁ……」

馬鹿にするな。そう言おうとしたのか

悪五郎は天乃を睨むように見つめたのだが、

特に何も言うことなく、沈殿していくものを見送るように

悪五郎はうなだれて、沈黙する

天乃「妖怪の世界ってこういうものなんでしょう?」

悪五郎「……一概にそうとは言えん。が、俺が気にせず許可したのは事実だ」

天乃「なら」

悪五郎「そうだ。俺の負けだ……それは仕方がないと思っている。だが、女」

天乃「うん?」

悪五郎「別に、お前を俺の女にしても構わんのだろう?」

どうも妖怪というのは――基本的には癖の強い者達しかいなさそうだ。と

天乃は呆れたように苦笑した


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から



五郎君「姉ちゃんと風呂に入るけど、子供だから問題ないよな」

若葉「お、大有りだ!!」

五郎君「いや、お前に用はない」

若葉「く……あ、天乃と入るのは私だ!」


では、少しだけ


√ 5月12日目 昼(病院) ※金曜日

1、死神
2、若葉
3、獺
4、稲荷
5、悪五郎
6、沙織に連絡
7、沙織の鞄をあさる
8、イベント判定

↓2

※九尾は学校


朝、沙織が投げつけていった沙織自身の鞄

天乃はそれを見て、ふと思う

普通は投げつけられたら多少の痛みを感じるはずなのに

この鞄はそんなに痛くはなかったな。と

もっとも、呆然としてしまっていたせいかもしれないが

そもそも、天乃という少女はいろいろな意味で鈍感なのかもしれない

天乃「………」

あれから数時間

沙織が渡してくれた端末には何の連絡もなく

誰かが取りに来る様子もない

だから、興味本位で見てみようと思った

もしかしたらこの中に端末を入れたままなのかもしれない

そんな建前をわざわざ用意して

天乃「置いて行った沙織が……ううん。これは私が悪いのよね」

そう分かってはいるけれど

やはり、天乃は今の在り方を変えようとは思えなかった


かぶせを開いて、中を見てみる

教科書は異様に少なくて、筆記用具もなく

要するに、置き勉をしているらしい

天乃「……課題すらやってなさそうだけど」

とは思った天乃だが

中のノートからチラリとプリントが存在を主張しているのを見つけ

安堵か呆れかため息をついて笑みを浮かべる

自分で勉強は苦手だと言いながら

この中身は一体どういうことなのか

課題は一応やってあるのかもしれないが

どう考えても予復習はやっていない

天乃「まったく……ん?」

英語の教科書に英語のノートに数学のノート

久遠天乃と書かれたノート古典と科学のノート

一つずつ出していく中で、

言いたいことは色々ある物もあったが

それ以上に気になるのが、大赦マークのみのノート

表にのみ大赦のマークが印字され、裏には伊集院沙織と名前が記入されている

それだけは大切に扱われていたのか

白い割には汚れ一つなく、新品のような状態だった


天乃「開けてもいいのかしら?」

あまり見てはいけないような気がする。そう思う天乃だが

しかし、好奇心も確かにあった

沙織が大赦とどのような理由でこんなノートを所持しているのか

数学だの古典だのと

用途の書かれていないそのノートは

まるで禁書のごとくミステリアスな雰囲気を持ち

だからこそ、開けてみたいと思わせる

天乃「…………」

ノートの一枚目、厚紙の部分を摘まむと

ドクンっと、心臓が跳ね上がる感じがした

禁忌を犯そうとしているかのような緊張感

開けない方が良いんじゃないかと、良心というべき心が囁く

さて――



1、見てみる
2、やめておく
3、そのノートだけ枕の下に隠しておく


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




『久遠さんはあたしの手を力一杯引く』

『倒れそうになって車いすに手をついたあたしは久遠さんの座高と同じ高さで』

『目が合って、唇が合わさる……それがキスだと気づいたのは、久遠さんが照れくさそうな笑みを浮かべてからだった』

天乃「ん……うん!?」


では、少しだけ


見てみよう。そう決断するのは少し遅かったけれど

何の妨げもなく、一ページ目を開いてみる

天乃「ん」

どきどきとした期待を裏切って

なんの変哲もないただのノートですよと言いたげに

表紙と一枚目の見開きには何も書かれていない

大赦見学ツアーの粗品、あるいはお土産

最初の緊張感も薄れて、そんな軽い物を考えながら

もう一枚を捲ると、【犬吠埼風】という文字がページの一番上

日付、曜日欄の横に書かれていた

天乃「……?」

犬吠埼風は。という、沙織らしくない書き出しから始まる文章は

普段の彼女と比べると、格段に丁寧な字で組み立てられており

それだけでも、これがある意味しっかりとした記録のようなものだと、天乃は感じた

犬吠埼風は両親を失っており、妹である犬吠埼樹と共に勇者部に所属し~

帰りによく勇者部で~

近しい人なら知っているような情報の羅列。しかしその中で一文、明らかに異様な言葉が並んでいた


【両親の死は樹海の汚染が原因だと伝わっており、また、汚染の直接的な原因は久遠天乃によるものだと伝わっている】


天乃「………………」

それは、そう。天乃の過去の過ちそのものだった


天乃「……勝手なこと」

沙織のノートを握りつぶすわけにはいかないと、

唇を噛み締めた天乃はもう一度、変わらない記録を見つめる

風の両親の死は久遠天乃のせいだ

そう言いたげな並びには悪意を感じるが

しかし、それは何も間違いではない

引き金はバーテックスだったかもしれないけれど

樹海を最大限に冒したのは天乃の満開だからだ

侵入してきた敵は多く、戦力はたったの3人

守るにはやるしかなかった。大を助けるには小を切り捨てるほかなかった

願わくば、自分の体の障害のみであれと願い。しかし結果は二人の死を招いた

天乃「っ……風」

何も言わなかった。何もしなかった

風はそんなことを知っているのに、私にはみんなと同じように接してくれていた

……そうだろうか? 違う点が一つだけある

下の名前で呼ぶことを願っても、風は頑なに拒否していた

それがもしも、それ以上仲良くなることを避けるためのものだとしたら

戦闘時のあの態度も……なんとなくだが分かってしまう


そこから下へと進んでいくと

風についての新しい記述が追加されていた

【久遠天乃への対処の可否】

【監察結果→再観察要求→結果(否)】

【犬吠埼風では不安定と判断。三好夏凜の早期派遣要検討】

なるほど、それで夏凜があんなに早く来たのか

そう考えてみても、一度落ちた空気の復帰の目途は立ちそうにない

風に知られていたことが問題なのではない

自分の口からそれを告げ、謝罪することができなかった事が

天乃に筆舌にし難い罪悪感を孕ませている

天乃「風は私の敵として……」

すぐに接触させようとしてきたのは大赦だったけれど

会うことを決めたのは自分の意志だった

しかしながら、監視役としてしっかりと役目を与えられていたのを見るに

それは規定事項のような気がして、心なしか嫌な気持ちになる

けれども、その監視役として危うくなったから夏凜が来たわけで……

どんな心境の変化があったのか、このページだけでは何もわからない


天乃「……この先」

この一ページは風の心の一ページだろう

それはもちろん、他人によってかみ砕かれたものではあるのだろうが

一般小説とて、あらすじを見てしまうと大体の内容は察せてしまう

あらすじ以上、本編未満で描かれているであろう風の内面を

当人の許可なく捲ってしまって良いのか、天乃は噛み締めた唇が切れそうなのを耐えて、目を瞑る

手が震える。呼吸は僅かに早い

心臓の音がいつもより強く、体に熱を感じる

天乃「風がどんな思いでいるのか……」

それは知るべきこと

分かっていなければいけないこと

付き合っていく中で、踏まえていなければならないこと

天乃「私は」


1、ページをめくる
2、ノートを閉じる


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




天乃「………ゴクッ」ペラ

『好きです。結婚してください』

天乃「にゃんっげほっけほっ!?」


では、初めていきます


ページを捲ると、そこには粗筋が書かれていた

思っていた通りの、かみ砕かれた犬吠埼風の歩み

ダイジェストで描かれたそれは、微かに物足りなさがある

だから、天乃が求めていた物を完璧に記してはいない

けれど、しかし。分かるべきことが、分かってしまう

久遠天乃との交友関係を指摘――犬吠埼風、否定

久遠天乃との戦闘を指示――犬吠埼風、拒否

久遠天乃との関係を狭めすぎないよう指示――犬吠埼風、回答無し

天乃「……なんで」

恨んでいるのなら、憎んでいるのなら

仲良くなりたくはないと、そう思っているのなら

たった一言言ってくれればそれで良いのに

なのになぜ、言わないのだろう

あんな奴は嫌いだと大赦に言えば良い

あからさまに突き放したりだってしたらいい

そうしたら、こんなにも疑われなくて済んだのに


犬吠埼風――『久遠天乃はアタシの敵ですか? それとも、大赦の敵ですか?』

犬吠埼風の上記の疑問により、監査役として不適切と判断

犬吠埼風――『久遠の体の異常。あれは何ですか? 満開による影響ではないんですか?』

回答、彼女の能力によるものであると考えられる

犬吠埼風――『久遠はそれを知ってて使ったのですか? 自分の体が駄目になると分かってて、使ったのですか?』

回答、彼女は非協力的な面があり、詳細は不明。現状では知る方法はなく、詮索は無意味と判断できます。役目から外れぬよう願います



天乃「………………」

体の異常については、すぐ隣の日付が割と新しいものであるために

味覚の件を話したからだと、容易に察しがつく

恐らく、風が思い悩んだのは、大赦からの回答が望んでいたように得られなかったからで

そして、休部にまで踏み切った理由はその下に書かれていることだろう


犬吠埼風――『久遠を縛り付ける理由がアタシには分からなくなりました。だから、鎖を。勇者部を。外します』

回答、三好夏凜および伊集院沙織が代行します。犬吠埼風、貴女は一時的にお役目から外れて下さい。後日、端末を回収します


それ以降の記録は取られていないのか

それとも、外してしまったから取る必要がないと免除されているのか

いずれにしても、犬吠埼風に関する記述はもう、ない

天乃「…………」

風は悩んで、その結果中立を選んだ。というわけではないと思う

風の内面はまるで記述されていないし

メールか電話での風の返答、疑問。その移り変わりから推測するしかないが

天乃はなんとなくだが、そう思った

風はきっと

天乃に両親の敵としての憎さがあって

しかしながら、苦しみながらもそれを良しとする生き方を見せる天乃が

本当に憎むべき相手なのかどうか悩ましいのだろう

天乃が誰よりも人のためになろうとしているのを見てきているから

自分を顧みず、他人だけを見ているのを知っているから

だから、そんな人が二人も死なせて平然としていられるわけがないのだと

ましてや、死なせた人の家族と傍にいて平気なわけがないと

風は思ってしまったのだろう

大赦の行わせた監視というお役目、それが紡いだ関係が

犬吠埼風という少女の怨恨を包み込んでしまったのだ


天乃「……悩ませ、ちゃったのね」

味覚のことを話したのは、友奈との約束が始まりだ

あの時の、たった一つの悪戯

おかゆを食べさせて。なんて言うものがなければ、誤魔化すことが出来ていたことだった

たった一つの選択が、ここまでの崩壊の根本的な原因になるなんて

正直、予想できなかったなぁ。と

天乃は窓の外を眺めながら、苦笑する。何も、面白くはないのに

天乃「ごめんなさい」

誰も聞いていない

誰も望んでいない

その謝罪の言葉を呟いて、何かが解決する事もないのに

しかし、天乃は俯いて、繰り返す

願わくば、守りたかったのだ

三ノ輪銀が守り抜いた世界を

彼女が生きていたかった世界を

彼女が命を賭して守ったモノが息づく世界を

自分はどうなってもいいから、死んでもいいから。守りたいと

その結果二人も【殺してしまった】事を、天乃は一時たりとも忘れたことはない

代わりに死ぬべきだったのだと責め、生き残ったことを悔いて

だからこそ、久遠天乃という少女は自分自身を決して顧みようとはしない

その命、その体はすでに自分のものではないと。考えを固めているからだ


では、安価はありませんでしたがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



望まれず、求められず、願われず
しかし彼女は勇者であり続けようとし
万物を救い、しかしながら己は決して救おうとはしない
そこに命はあるが、しかしすでに命はなかったからだ


では、少しだけ

√ 5月12日目 夕(病院) ※金曜日

1、九尾
2、死神
3、若葉
4、獺
5、稲荷
6、悪五郎
7、イベント判定

↓2


九尾「ふむ……どうかしたのかや? 主様」

気力の感じられない声色で察してはいたが

実際目にしてみると、天乃の弱り切った表情は思っていたよりも酷い

やつれているわけではないが、元気がない

瞳に感じる光も薄暗く、つい先ほど目の前で恋人の不倫を目撃したみたいだ。などと

九尾は率直な感想を述べようとして、疑問を提示する

今どきの、そう。神世紀の若者には

そんなどろどろとしそうな物語は理解されないからだ

天乃「まぁ、ちょっと。でも、何でもないから」

九尾「何でもないとは思えぬが……」

しかし九尾はため息をつくと、天乃から眼を逸らして

普段は置かれていない鞄を見つめる

普段と違う点を天乃以外で上げるとするならその鞄だ

大赦の連中が妙な動きをしていた可能性もあるが

それならそれで報告はしてくるだろうからと、察しがついた九尾は椅子に腰かけ、天乃を見る

九尾「勇者部の近況、言わぬほうが良いかや?」

天乃「……どうして?」

びくりと体が揺れたのを、九尾は見逃さない

九尾「小娘共の件で何やら思うことがあるのじゃろう? ならば、余計なことは聞かぬ方が良かろう」


本当に、九尾は優秀だと天乃は心の中で賞賛する

笑おうとしてみたが、上手く笑える気もせず、ただ「そうね」とだけ呟く

けれどもすぐに「でも、知らないといけないの」と、声を絞り出す

一言一言が気怠い

きっと、知りたくない気持ちもどこかにあって

その抵抗力が言葉を阻害しているのかもしれない

思考能力は平常通りなようで

ただ、重力だけが余計にかかっているような感覚を覚えながら

天乃は九尾に目を向け、促す

九尾「まず一人。と言っても、この一人で複数人片付くのじゃが……」

九尾がそう言って出したのは、夏凜の名前だった

聞くところによると、夏凜を教官として

友奈と樹は戦闘訓練を行っているらしい

友奈曰く、「久遠先輩だけに背負わせたくない。散々背負わせちゃったから……だから」とのことで

樹曰く、「手を引っ張るほどなんて贅沢は言えないけど、でも。せめて足だけは引っ張らない自分になりたい」とのこと

九尾「悩み、苦しみ、責め、悔いて。しかしそれでも歩もうとしておるようじゃ」

天乃「……樹まで、そんなことを」

九尾「あやつは柔軟性があるだけのこと。折れやすく見えるが、しかしその実。折れようのない強さを持っておるからな」


九尾は少し嬉しそうにくすくすと笑って見せるが

天乃は相変わらず、浮かない表情のままだ

大切で大好きな後輩たちが

自分のために頑張ってくれているのは、喜ぶべきことなはずなのに

けれど、天乃にとってそれは【叶うならば止めて欲しいこと】だった

自分に対して向けるべきものではないと

自分にはそんな価値はないのだと

背負う必要のない物を、背負おうとなんてしないで欲しいと

天乃はより沈鬱な表情に切り替えていき、息をつくと

天乃「……確かに、鎖だわ」

それも、棘だらけの傷つく鎖だ。と

風が勇者部を鎖と表現していたことを思い出して、呟く

その鎖が外れたところで、食い込んだ棘は抜けないまま

身を抉っていく。その苦痛に顔を顰め、天乃は九尾へと目を向ける

天乃「東郷たちは?」


樹たちのことも知りたかったし

優先順位をつけるつもりなどないのだが

しかし、一方的なものになってしまっているが、

旧知の仲である東郷のことや、自分を恨んでいるであろう風のことは

どうしても、気になってしまう

その思いに答えるように、九尾は眉を顰め、頷く

そのしぐさはもはや【吉報ではない】と物語っていた

九尾「まず東郷美森じゃが、主様の精霊の数を知りたがっておる」

天乃「というと?」

九尾「主様の障害と精霊の数。自分の障害と精霊の数が気になったのじゃろうな」

それはつまり、満開による後遺症に気が付こうとしているということだ

散々頑張ってきてしまったことが知られるというのは

今の天乃にとってはありがたいことではないし

ましてや、東郷がせっかく外れることのできた世界にもう一度踏み込むことになるのは

絶対的に避けたいことだった

天乃「まさか、教えてないわよね?」

九尾「そう、口元の緩い妾ではない。案ずるな」


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




九尾「風は……」

天乃「風は?」

九尾「天乃ロスでうどんが食べられなくなった」

天乃「そ、そんな馬鹿なことが……っ!」


では、初めて行きます


天乃「でも、東郷は気づき始めているんでしょう?」

九尾「うむ……時間の問題やもしれぬな」

東郷は多少奇怪な一面もあるにはあるが、

真面目な時には勘が鋭く、頭も悪くない

だから、きっと気づくだろうと言う九尾を前にして

天乃は表情を変えず、「何とかしたいわ」と、呟く

真実を話して宥めるのが得策だとは思うが

しかし、今の天乃がとりそうな行動と言えば

記憶を消させる、混濁させる。そんな危なげなものだろうかと、九尾は警戒する

けれど、意に反して天乃はぼうっと手元を見つめて、くすりと笑った

天乃「運命というものを、信じてしまいそうになるわね」

九尾「……もういい」

危険だと、思った

察しは付いたものの、過程が空白の天乃に起きた何かを考える余白を塗りつぶす不安に

九尾は思わずそう言って天乃の肩を掴む

九尾「もういい、休め」

天乃「……まだ、風の事を聞いてないわ」

九尾「急を要することではない。己の身を案じよ。主様」

天乃「駄目よ。それは……駄目。教えて、九尾」


肩を掴んだ手を掴むそれは、じっとりと汗ばんでいて

見つめてくる瞳は弱弱しく、しかし無駄な強さを感じる

意思に心がついていけていないのだ

いつか限界が来ることは分かっていた。天乃ではなくとも

人間にそんな器用なまねごとを永続的に続けることなど不可能で

ブレーキを掛けられたゴムが磨り減っていくように、

心が擦り傷だらけになっていくと理解していた

九尾「主様……」

天乃「教えて、九尾」

頼ることのできる人間がいないわけじゃない

天乃自身が頼ることを拒絶してしまっている

本来くっつきたいはずの磁石が、SNの壁によって不和をもたらされてしまうように

罪悪感が、それをさせまいとしている

九尾「犬吠埼風は端末を没収されたが、変わった様子はない。多少明るさは損なわれたが、それは勇者部全員変わらぬことじゃ」

天乃「……何か言ってなかった?」

九尾「特に語ってはおらぬ。あやつも何か考え事があるようじゃったからのう。邪魔は出来ぬ」


九尾「良いから休め。もうよかろう」

そういって体を押さえつけようとしてくる九尾の力に

抵抗しきれなかった天乃は枕に頭を落とし、

頭を動かして、九尾を見る

その表情にはめったに見れない不安と悲しさが感じられた

天乃「どうしたのよ。貴女がそんな顔するなんて」

九尾「沙織にも言われたであろう。案ずるべきは己自身じゃと」

天乃「ふふっ……そう。だけど」

声で笑う。顔は笑わない、笑えない

そのはく離したことを示す姿を、九尾はやはり悲しげに見つめる

何があったのか。問えば答えてくれるだろうか?

いや、きっと状況は悪化するだけでしかない

天乃「でも、私はそうは思わない。私は私よりも大事にすべき人たちがいるから」

九尾「……愚か者」

その侮蔑の句を受けて、しかし天乃はただ【笑う】のだ。笑えていない顔で、笑っている

九尾「妾では、力不足。なのじゃろうな」

一定水準以上の絆はある。けれどもそれでは意味がない

伊集院沙織ですら駄目だったこの深く抉りこんだ楔には、何の影響も与えられない

√ 5月12日目 夜(病院) ※金曜日

1、死神
2、若葉
3、獺
4、稲荷
5、悪五郎
6、イベント判定

↓2


稲荷「……………」

雲に遮られた月明りが時折入り込んでくる部屋で

人工ではなく、霊的な……もっと言ってしまえば神聖な光を放つ稲荷は

天乃の傍でただ静かに佇む

夜に慣れた瞳でも、その明るさは温かく優しくて

九尾のように言葉を発することがないお供は、今の天乃には丁度良く

だからこそ、呼んだのだ

天乃「見ていたんでしょう?」

稲荷「……」

いつものように紙を見せず頷いた稲荷神は、

天乃を数秒眺めると、一枚の紙を提示する

――世は常に天秤にかけられている。一を救えば一を救えぬのが道理。主は強欲ではないか

要約すればそう書かれているそれは稲荷の手から奪われて、縦半分、横半分

折りたたまれて、ただの紙へと堕ちていく

天乃「知ってるわ。知ってる……だからこそ、私は生きていたくなかった」

始めは三ノ輪銀という大親友と引き換えに

次は犬吠埼姉妹の両親と引き換えに

こうして、生き延びてきてしまっている。それが天乃は嫌なのだ。許せないのだ

天乃「私が生き残るために。次は誰が死ななければいけないの? どうして、私なの?」

それは、

なぜ役目を与えられたのが自分なのかという疑問ではなく

なぜ、生きているのが自分なのかという、後悔からきている言葉だった


天乃「私は生きたいなんて思ってない。生かしてほしいなんて願ってないのに」

なのに、生き残ってしまった

三ノ輪銀を失ったとき、自分が死ねばよかったのだと激しく後悔して

自分自身を厳しく攻め続けた

出てくるバーテックスを撃退ではなく破壊してもなお

自分が生き残った意味は見出せなかったし、やはり意味がないと思った

銀が残したまだ幼い弟が発した「ねーね」という不慣れな呼び声が、頭から離れなかった

そして、

瀬戸大橋での決戦にて相打ち覚悟で使った力のせいで

自分ではなく、風と樹の両親が死んだと聞いた時

本当に自分は無価値だと、無力だと、無意味だと、絶望した

大親友と引き換えにして生き残っておきながら、また自分以外の人を犠牲にしてしまったからだ

天乃「なんで、どうして。嫌……生きたくない……殺したくない……」

自分が生きるために、誰かが死んでいく

それを避けるために手に入れた力である稲荷にその思いをぶつけて、天乃は俯く

人を憎むということに苦しんでいる風を知ってしまったから

風と同じような人を増やしたくないと思うから

だから天乃は「死にたい」と、願う


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


安価の挿入口が見当たりませんでした


では、初めて行きます


誰もが、久遠天乃を最強であると評するが

しかしながら、天乃とて、齢14の少女に過ぎない

倍近く、倍以上、数倍

その歳を重ねた大人でさえ経験し得ないことを経験し

一家の大黒柱すら身を引きそうな重荷を背負ったこともあるとはいえ

やはり、天乃はただの中学三年生なのだ

天乃「どうして……私が死ぬことが許されないのに。何の罪もない人が死ななければいけないのよ」

稲荷は天乃を見つめる

稲荷神というのに、狐の面に素顔を隠し

けれども橙色の瞳だけは、黒々とした闇のような面の割れ目から色を見せてくる

稲荷「……………」

沈黙。俯いた天乃と見下ろす稲荷は互いに目を合わせられず

稲荷が自身の纏う振袖に似た着物の袖から、一枚の紙を取り出して差し出してきたのを

横目で見ていた天乃は受け取って、開く

――主は、この世の安寧には不可欠。ゆえに、望まれてはいない

天乃「だから、風達の両親を殺したっていうの? 死なせたっていうの?」


キッとにらみつけるような天乃の目を

稲荷は寡黙に受け容れて、見つめ返す

その怒りは理解できる。その嘆きも理解できる

だから

稲荷は慈愛に満ちた瞳で、ただ、天乃を見る

両親が亡くなったのは、結果だ

天乃がそうした結果両親が亡くなっただけで

むしろ、そうしたおかげで二人だけで済んだ可能性だってなくはないのだ

その程度なら天乃でも考えられることなのに

天乃はその可能性を考えていない。考える気がない

そう考えられるほど、天乃は自分に優しく出来なくなってしまっている

――犬吠埼風が苦悩している理由を知るべきではないか

稲荷から向けられたその一文を目にした天乃は顔を上げると

稲荷と目を合わせて、無意識に奥歯を噛み締める

稲荷も、九尾も、沙織も

みんながみんな天乃の今の在り方を否定したいのだと、分かったからだ



1、もういい……もういいから、消えて
2、貴女も、私が間違っていると言いたいのね
3、私なんかよりも、銀が生きているべきだった。その考えは変わらないわ
4、質問には答えてくれないのね



↓2


天乃「貴女も、私が間違っていると言いたいのね」

賛同してもらえるなどとは思っていなかったが

しかし、ここまでかかわった三人全員が、拒絶の意を示していて

沙織に限っては、泣いて、怒鳴って、カバンまでも投げつけてきて……

天乃は落胆したような声で言うと

やはり笑顔とは言えない笑みを浮かべて、苦笑する

天乃「みんな、そう……自分勝手」

稲荷「……………」

九尾ならば、「お前が言えたことではない」というようなことを言ったかもしれないが

稲荷は黙って耳を傾ける。目を向ける

天乃「私がどんな気持ちで、どんな思いで生きてるのか……解ってくれない」

理解されようと努力したことはないし

それも無理はない。だが、「自分を大切にしてほしい」とか「生きて欲しい」とか

そう言ってくる相手を大切に思うから。大事に思うから

彼女たちこそ、生きていてほしいから。だから

そういうのは、正直に言ってしまえば耳障りで、わずらわしさしか感じない

天乃はとても優しく、しかしとても不器用な、たった14歳の女の子だった


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば昼頃から
纏めは明日




誰が彼女を救うのか

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流無()
・   乃木若葉:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(風について)

・      九尾:交流有(勇者部について)

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流有(間違い)
・      神樹:交流無()



5月12日目 終了時点

  乃木園子との絆 42(少し高い)
  犬吠埼風との絆 38(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 31(中々良い)
  結城友奈との絆 49(少し高い)
  東郷三森との絆 35(少し高い)
  三好夏凜との絆 23(中々良い)
  乃木若葉との絆 31(中々良い)
     沙織との絆 45(少し高い)
     九尾との絆 40(中々良い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 8(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 5月13日目 朝(病院) ※土曜日


01~10 
11~20 
21~30  沙織
31~40 
41~50  大赦
51~60 
61~70 夏凜

71~80 
81~90 
91~00 悪五郎


↓1のコンマ  


√ 5月13日目 朝(病院) ※土曜日

1、若葉
2、悪五郎
3、イベント判定

↓2


※九尾、死神、稲荷は一時排除

01~10  夏凜
11~20  九尾
21~30  沙織
31~40  悪五郎
41~50  大赦
51~60  愛してると書いて妹と読む人
61~70 夏凜

71~80  若葉
81~90  死神
91~00 悪五郎


↓1のコンマ  


朝、目を覚ますとすでに稲荷の姿はなかった

起きるまでいてくれとは言わなかったし

そもそも、あんな敵意をむき出しにしたのだ。居る方がおかしい

天乃「………………」

沙織の鞄は昨日から変わらず傍の棚の上に置かれたままだが、

横の時計に目を向けると、本来なら沙織が来ている時間はとっくに過ぎている

学校に行く気がないわけではないことは明白だけれど

もしも来たのなら、鞄を忘れるなんて小学生みたいね。と、茶々を入れようかと思って

しかし、天乃はすこしも笑わず、息をつく

どうしてそんなことが言えるのか。そもそも、どんな顔をして会えば良いのかさえ分からないというのに

そんな悩みを打つように扉がたたかれ

沙織が来たのかと目を見開いた天乃を裏切るように「はいるわよ」と、

聞き馴染んだ声と、胸元ではなく、頭の方の赤いリボンが目に入った


夏凜「ほんとにいんのね……ったく、何やってんだか」

ずかずかと入り込んできた夏凜は

天乃の心配をする様子もなく、呆れ切ったように言い捨てて、頭をかく

どうして、なんで

知らないはずの夏凜がここにいることを知っているのか

会いたくない相手に来られた天乃が驚きを隠せずにいると

夏凜は近くの鞄を手に取って「これか」と、呟く

夏凜「……私しか知らないわよ。あんたがここにいるのは」

天乃「え?」

夏凜「あんたが入院してるなんて言ったら、押しかけるに決まってるしね」

鞄が沙織のものだと確認したのか

夏凜は自分の鞄と一緒に肩にかけ、天乃へと目を向ける

その目には、少しの怒りが見えた

夏凜「それにそうなったら、どうせあんたは。ええ、大丈夫よ。問題ないわ。とか言うんだろうし」

天乃「………………」

似てない物まねを披露して見せた夏凜を一瞥し、目を伏せると

夏凜は少し間をおいてからため息をつき、「ここは少しくらい笑うもんじゃないの?」と、ぼやいた


夏凜「沙織があんたに会いたくない。でも、鞄置いてきちゃったから。とか言ってきたのよ」

天乃「……何があったのかとか、聞いたの?」

夏凜「聞いてないし、興味ないわよ。あんたが頑張ってることなんて、興味持つまでもなく分かるんだから」

天乃「そっか」

なんで入院しているのか。夏凜はそれを聞こうとはしない

入ってきたときに見えた天乃の左目が充血とは明らかに違う形で赤くなっていることにも

夏凜は気づいてしまっているが、やはり。何も聞こうとは思わなかった

執拗に聞けば答えてくれるのだろうが、しかし

それを聞いたところで事態の好転などありえないことを、夏凜はすでに聞いているからだ

夏凜「いつになく、元気ないわね。あんた」

天乃「実はいつも無理してたの。なんて言ったら信じてくれる?」

夏凜「むしろ、そうだと思ってたんだけど」

冗談めかした問いに、夏凜は呆れ交じりに答えると

頬杖をつきながら、天乃をじっと見つめる

冗談が飛んでこない

ああいえばこういう的なシュミレーションが泡と化したことに

夏凜は心なしか残念そうな息をついて、しかし、何も言わない


天乃「…………」

沙織が鞄を置いてきたことを聞いたのなら

今まさに肩にかけているそれで、十分目的は達したはずだ

なのに、夏凜は見つめてくるだけで何も言わないし

帰ろうとするそぶりも見せない

学校に遅刻するわよ。と、定番の帰れコールをすべきだろうかと

天乃は横目で夏凜をみようとしたが、半分しか。見えなかった

天乃「ねぇ、夏凜」

夏凜「ん?」

声をかけるべきか迷ったが

ただ居座られるのは居心地が悪くて天乃は声をかける

夏凜には【待っていた様子】はなく、

また押し黙ると「なんなのよ」と、困惑した様子で、聞いてきた



1、学校に遅刻するわよ
2、貴女も、私に生きていて欲しい人?
3、知ってる? 私が風と樹の両親を殺したこと
4、沙織と喧嘩したの
5、満開を使ったの……今度は左目が見えなくなったわ


↓2


このまま黙って時間が過ぎることも考えたが、

それではきっと済まないだろうと考えを巡らせた末に選んだ選択

ここに来るまで、多くの失敗を重ねてきた天乃だったが

しかし、その選択には迷いはなかった

犠牲になるのは本望だから

誰が何と言おうと、誰にも先は逝かせない

固く決意したそれと共に、天乃ははっきりとした瞳を向ける

天乃「この左目ね。満開を使ったからなの……見えなくなったわ」

さらりと、言う

自分の事でありながら他人事であるかのように

なにも困っていない、なにも悲しんでいない

だから、平然とそれがただの消耗品であることを示すように言う

夏凜「やっぱり……その目はそういうことか」

夏凜の瞳が驚きに見開かれることはなく

灯されていた怒りに、ゆっくりと悲しみが混ざっていく


夏凜の声は瞳と同じく怒りを感じさせるものだったが

けれど、それはとても穏やかだった

静かな怒りだからではなく、怒りに勝る別の感情があるとでも言いたげな表情が

天乃の瞳をくぎ付けにし、心を揺さぶる

怒るのは分かる。勝手にやるなと言うのは分かる

しかし、その瞳から漂わせてくる悲しさが、天乃は嫌だった

どうしてそんなことをしたのか

なんでそんな平然としていられるのか

それらを問いたがっている瞳

それはそう、昨日泣き出した彼女と同じ目だ

けれども、夏凜は泣かずに瞳を閉じた

夏凜「……やっちゃったことに、とやかく言っても仕方がないし、面倒くさいから言わない」

しかし、だ

夏凜「それが当たり前だからと、嘆くことすらしてなさそうなあんたが……私は信じられない」

天乃「どうして?」

夏凜「あんたは生きてる人間であって、道具じゃないからよ。天乃が犠牲になることが当たり前で良いわけがないッ」


語尾が跳ね上がったことに遅れて気づいた夏凜は

ハッとしたように目を見開いて、一瞬だが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる

固く握られた拳をほどいた夏凜は、目線を下げて、首を振った

夏凜「……たぶん、沙織はあんたのそんな態度が嫌で逃げたんじゃないの?」

天乃「………………」

見ても聞いてもいないのなら

それは驚くべきことに、寸分違わず間違っていない

目の前の夏凜は沙織と似てはいるが

しかし、沙織以上に強さの感じる瞳を揺らがせる

夏凜「………………」

天乃「……夏凜も、カバンを投げつけて行くの?」

夏凜「いや、そんな気はない……まさに惘然自失って感じよ」

鞄を置いてきてしまった理由

その時の沙織の考えと心。それらの片鱗でもわかった気がした夏凜は

それを分かってしまうほどには入れ込んでいる自分にも、呆れる

夏凜「自分が犠牲になって当たり前。犠牲になるのは自分じゃなきゃ嫌。あんたからはそんな感じがする」


1、ええ、間違ってないわ
2、貴女も、私には生きていて欲しい人?
3、みんな自分勝手だわ。私の気も知らないで
4、当たり前じゃない。誰かの死と引き換えに生きている人間なんて、さっさと死ぬべきだわ
5、みんなが犠牲になる理由はないわ。でも、私にはあるの



↓2


天乃「貴女も、私に生きていて欲しい人?」

死神も、九尾も、稲荷も

そして、分かってくれているはずの沙織までもがそうだった

けれど、勇者の中で一番付き合いの短い夏凜なら

さっきは否定的だったけれども

思いに気づいた後の改めての問いかけになら

みんなとは違う答えをくれるかもしれないと

心のどこかで期待していた

夏凜「そりゃ、知ってる相手には生きていて欲しいに決まってると思うんだけど」

けれど、夏凜の答えはとても当たり前なもので

沙織のように激情に駆られている様子もなく

九尾達のように呆れていたりする様子もない

夏凜「私じゃないけど」

夏凜はそう前置きをすると

なぜか困ったように髪をかいて、息をつく

呆れではなく、意を決したようなため息だった

夏凜「……普通がそうなら。あんたを特別に思ってるやつは、絶対に生きていて欲しいって思うんじゃないの?」


天乃「やっぱり、そうなのね」

自分のことではないけれど。とはぐらかしたのがいけなかったのだろうか?

いや、きっとそんなことは関係ない

天乃はまるで、ぶつけてきた思いになど気づいていないとでもいうかのように

どこか悲し気に、言ったのだから

流石の夏凜も怒鳴りつけそうになったが

しかし、そんなことは無意味だと、すでに沙織が証明していて

夏凜は歯を食いしばって怒りを飲み込むと

夏凜「都合の悪いことは聞こえないふりすんのね」

と、隠しきれていない感情を含みながら、呟く

壊れているのだ

自分が犠牲にならなければいけない

そんな恐ろしい強迫観念にとらわれている時点で、それは明白だった

けれど、気持ちを伝えれば分かって貰えるんじゃないかと

やはり、沙織の失敗があったとしても期待してしまっていたらしい

夏凜「誰に聞いたって答えなんか変わるわけがない。あんたのことをそこら辺の道具だなんて思ってるやつなんか、いるわけがない」

天乃「……かもしれないわね」

夏凜「だったらッ」

天乃「でも、だからこそ。そんな人たちが犠牲になるわけにはいかないの。その人たちを殺してまで、生きていたくはないの」


頑なだ

自分勝手というには、強すぎる意思だと夏凜は思った

その今にも泣きだしそうな顔は誰に向けているのか

その苦しそうな顔は誰に向けているのか

その辛そうな声は誰に向けられているのか

夏凜は問いかけたい自分を制するようにつばを飲み込んで、眼を逸らす

そんな顔してんじゃないわよ……なんであんたが泣きそうな顔してんのよ

叫びたい、怒鳴りたい、何でもいい、身近にあるものを投げつけたい

それで――一瞬でもいいから気を引きたい

ああ、沙織の抱いていた物はこれなのか。と

夏凜は改めて気づき、自分とは大差ある彼女がどれだけ辛かったのかを考えようとして、歯ぎしりする

天乃とて、みんなの気持ちを無下にしたくない気持ちがあるのだ

しかしながら、そのみんなの気持ちを汲んだがゆえに

その誰かが傷つくだけでなく失われることを恐れて、避けたがっているのだと夏凜は思った

――それが分かって何になる。だからどうした、三好夏凜

絶対に死なないと、傷つかないと約束ができるのか? 否、出来はしない

天乃よりも弱いくせに、なぜ、そんなことを信じてもらえるのか

夏凜は考えに考え、強く強くこぶしを握り、唇を噛み切って、しかし痛みを忘れて、呻く

無理だ。今の自分にはどうしようもない、どうしてあげることもできない

ただの独りよがりなら、自己満足なら蹴散らしてあげられるのに

相手の思いが強ければ強いほど、より一層苦しんでいる天乃を見つめることすら、今の夏凜にはできなかった


√ 5月13日目 昼(病院) ※土曜日

1、若葉
2、悪五郎
3、イベント判定

↓2


※九尾、死神、稲荷は一時排除


若葉「……悪いが、私も皆と同意見だ」

若葉は呼ばれるや否や、申し訳なさそうにそう切り出した

精霊ゆえ、緊急時に守ることが出来るようにと待機状態だった若葉達にはすべて筒抜けで

だから、問われることを予期した若葉はあえて、先手を打つ

天乃がここ最近辛い思いをしていて

苦しんで、悩んでいることも承知している

しかしだからと言って、同調してあげられないのが、若葉には歯痒かった

若葉「天乃がみなを良く思っていることも、みなが天乃を良く思っていることも、分かっているんだろう?」

だから、死んでほしくない。居なくなって欲しくない

この際、自分たちが天乃の死によって消滅することはどうでも良く

関係なしに、若葉は想う

若葉「大切な人に死なれたくない。双方思いは同じゃないか。なのにどうして、自分だけが犠牲になればいいだなんて言うんだ」

天乃「私は――」

若葉「価値がない。誰かの死と引き換えに生きている。だったらそれこそ、価値を見出すまで生きろ」

天乃「………………」

若葉「亡くなった者達を想うのなら。彼らが価値ある人間だというのなら、無価値に死ぬな。無意味に死ぬな。それは死者への冒涜だ」


若葉は自分が見ていることしかできなかった沙織たちとの会話

その間に考えて考えて、考え抜いた言葉を矢継ぎ早に言い放って、天乃を追い込む

何かを言われる前に、でも、だけど、それでも。と

自分の意思を持ち出してしまう前に、若葉はぶつける

若葉「罪悪感を抱くなとは言わない。だが、今抱く自身の痛みを、みんなに味わわせるのは止めた方が良い」

天乃「そんなことにはさせない。私が死んだら九尾に手を加えてくれるよう頼むつもりだから」

手を加えて貰う。その言葉がなにに繋がっているのか

すぐに気づいた若葉は落ち着いた状態から一転して目を見開く

若葉「天乃、それは許されることじゃないっ」

天乃「……でも、必要なことだわ」

若葉「必要ないはずだ……天乃もみんなも生き残る。無事に、全員で。それなら必要ないじゃないか!」

九尾に手を加えて貰おうとしているのは記憶だ

九尾はまだ承諾も何もしていないが、最後の願いとでも言われたら、聞かざるを得ないかもしれない

そんなことが通れば後顧の憂いは無くなる

嘆きのバトンは落下して終了だ

しかし、そんなことは……許されていいはずがない



1、どうせ駄目というのならその話は良いわ。それよりも、園子って、貴女に似てると思わない?
2、私は犠牲になってこそ、価値があるの
3、それができるのなら苦労はしないわ。簡単に言わないで
4、そのために誰かが死ぬの……勇者部が生き残っても。無関係な誰かがきっと死んでしまうッ


↓2


若葉の言い分が分からないわけじゃない

みんなの言っていることだって、みんなの気持ちだって

けれど、それでも……【それでも】なのだ

天乃「そのために誰かが死ぬの……勇者部が生き残っても。無関係な誰かがきっと死んでしまうッ」

それが嫌だ

それが怖い

それが辛い

だから、そんなことにならない為に

誰かが言った、大を守るために切り捨てられる小であろうとしているのだ

それも十分理解している。だから、若葉は「ふざけるな」と、声を張り上げた

若葉「天乃が死んだら、残るのは怒りと悲しみだけだ!」

天乃「っ」

若葉「やがて犠牲にさせた自分たちの弱さ、そうせざるを得なくしたバーテックスへの憎しみでみんな壊れる!」

絶対にとは言えない

けれど少なくとも、自分はそうなるかもしれないと思うから

若葉は言う

若葉「九尾が協力する保証はない。いや、きっと、あの様子なら死んで悔いろと手を貸さない可能性は十二分にある」

それもまた保証はないが、可能性がないと畳みかけるしかないから

若葉は不確かなことを勝手に決めつける


若葉「だから、もう少し考えてくれ……頼むッ」

大切な主人ではなく、大切な友人

従えるべき自分を友と呼んでくれた守るべき人

だから、若葉は頭を下げた

死んでほしくない

自分が消えないためにではなく

散々な人生を歩んできていると知ったのもあるが

ただ純粋に、愛しい友人として幸せに生きていて欲しいと思ったから

天乃「……若葉は自分たちに関係ない人なら死んでいいと思ってるの?」

若葉「思っていない」

天乃「だったら――」

若葉「だが、天乃が死んだことで。未来で大勢死ぬことだってある。可能性をそれ以上引き出すなら、私も容赦はしない」

若葉のそれはもっともで

それを言われては永遠に平行線にしかならない

そう悟った天乃はため息をついて、首を振る

天乃「分かった。分かったわ……延々と話す気はないし。一旦は考えることにするわ」

若葉「……頼む」

今は考えてもらうだけで良い。固く決めた決意に割り込むことはできないが

僅かでも緩んでいるのなら、ほんの一ミリだけでも変化させるための隙が生まれるはずだから。と

若葉は天乃を見つめつづけた

√ 5月13日目 夕(病院) ※土曜日

1、九尾
2、死神
3、若葉
4、沙織(電話)
5、稲荷
6、悪五郎
7、イベント判定

↓2

01~10  大赦
11~20  九尾
21~30  沙織
31~40  悪五郎
41~50  大赦
51~60  死神
61~70  沙織
71~80  九尾
81~90  死神
91~00 悪五郎


↓1のコンマ  


天乃「何よそれ、ふざけてるの?」

夕方、訪ねてきた大赦職員からの言葉に

天乃は思わず、唸ってしまった

【勇者たちの精神状態が不安定な為、可及的速やかに合流して下さい】

彼らはそう求めてきたのだ

自分たちで隔離しておきながら

何かが起凝りそうだとみると、こうしてすり寄ってくる

「我々としても、軽率であったことは認めます。申し開きの言葉もありません」

天乃「………」

謝罪だと頭を低くする職員を横目に、

天乃は九尾から聞いていた話を思い返す

何もないと言ってはいたが、

風は何か思い悩んでいると言っていたし、夏凜に限っては今朝突き放してしまったのだ

何かが変わるのは必然で、その点で誰かを責めるというのは、酷な話かもしれない


1、少し考える時間を頂戴、。せめて、今日一日
2、分かった。みんなの為なら、仕方がないわ
3、この貸しは高くつくわよ
4、自分たちの間違いが分かった?



↓2


天乃「分かった。みんなの為なら仕方がないわ」

天乃がそういうと、

大赦の職員はほっと息をつき、胸をなでおろす

天乃が優しい人間であることは知っていたが

同時に厳しい性格でもあると聞いていた彼らにとっては

その答えを聞くまでは、心中穏やかではなかったらしい

天乃「ふふっ」

そんな彼らの安堵を見つめていた天乃の笑い声に彼らが目を向けると

天乃は笑いながらも「失礼」と呟いて

天乃「顔に出やすいのなら、大赦の仮面をつけることをお勧めするわ」

そう言って、やはり笑顔を見せる

含みのないその笑顔は子供らしく

しかし、経験し得ないことを経験している何かがあって

だから、職員は「そうかもしれません」と、答える

自分の子ではないが、まだ自分の半分程度の少女たちに運命の手綱を握らせている

握っていてもらわなければいけない。その申し訳なさを強く実感してしまったからだ


では、今回は早めですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



可及的速やかに移動するので
このまま夕方時間で接触。ただし、勇者部の誰に当たるかは判定


では、はじめていきます


01~10  風
11~20 
21~30  友奈
31~40 
41~50  樹
51~60 沙織

61~70 東郷

71~80 
81~90  夏凜
91~00 

↓1のコンマ  


本来ならまだ部活をやっている時間に学校に来ては見たが

休部しているからか、勇者部の誰一人として学校にはおらず

沙織もまた、すでに下校した後だった

「さおりん、最近HR終わった瞬間に帰ってるからくーちゃんの所に押しかけ女房してるのかと思ってた」

「あー、来てくれなくなったから夫自ら出向いたんじゃない?」

「喧嘩でもした? 夫婦喧嘩って変に尾を引くらしいからね……気を付けないと」

残っていたクラスメイトに沙織のことを聞いたのだが

そこから勝手に話し出したクラスメイトをよそに、天乃は目を伏せる

申し訳ないが、彼女たちの言うような関係ではない

むしろ、そんな日常の一コマ的な喧嘩だったらどれほど楽なことか。と

余計に自分と周りの日常の格差を感じてしまう

天乃「私と沙織はそんな関係じゃないから」

「まさか、愛人方面?」

天乃「その恋愛で固定するの止めて。違うから。そうじゃないから」

「まーくーちゃんってば、勇者部の子達も巻き込んでるしねぇ」

「はいはーい。何でもないことにしておくよー」

おちょくっているような女子生徒の笑顔に、天乃は深々とため息をつく

本気にしてないことは分かるし、自分が節操のない女だと思われたところで

そこまで気にするつもりもないが、聞いていて、心地の良い物でもない


天乃「とにかく、今日も沙織はすぐに帰ったのね?」

「うん。結構浮かない表情だったなー。昨日なんか鞄も忘れてたし」

「そういえばね、勇者部の。何だっけ、ミリンちゃん?」

「夏凜ちゃんじゃない? それ、九尾先生が呼んで怒られたやつだったような……」

そうだったそうだった

そう笑いながら、眼鏡をかけている女の子は「何度か会いに来てたよ」と続ける

九尾が見てないところで何やっているのかも少し気になったが

そこは聞いても、恐らく知りたいことは知ることが出来ないだろう

「鞄も夏凜ちゃんが届けてたよね」

「あーそうそう。それで私てっきり、あの子が愛人かーって」

天乃「その話は引っ張らなくていいから」

「いや、ほんと。なんか互いに怒ってる様子で、悲しんでる様子で。ドラマとかのそれっぽいなーと」

「ん。けど、私はあれ夫婦喧嘩とか愛人発覚後には思えなかったよ」

「えー?」

「互いに顔を合わせて、やっぱり駄目だった。みたいな落胆を感じたんだよね。勘だけど」


あー確かに。と、眼鏡の子が笑う

眼鏡をかけているからと、別に真面目でもインテリでもないようで

どちらかと言えば、セミロングのもう一人の方が話はしやすいかもしれない。と

天乃はなんとなく仕分け、「それで」と、続きを促す

「どうしたのって一応聞いたんだけど。別に。大丈夫。その二点張りでね」

沙織と彼女は特別親しくもないが

クラスメイトであり、席が近しいということもあって、関わろうとしてくれたようだ

と言っても、沙織がそれに縋ることはなかったようで……

もっとも、勇者だのなんだのと、本来ならおとぎ話のような話をするわけにもいかないし

仕方がないかもしれない

「それはそうと、久遠さんその眼帯どうしたの? 物貰い?」

天乃「え、あ、これは……」

「確か大赦のお役目で欠席してたんだよね? 怪我しちゃった?」




1、偉大なる闇の力を封じ込めるために必要なの。この魔眼は、一般人にはきつすぎる
2、ただの病気みたいなものよ。そのせいで目の色も変わっちゃって……治ればよかったんだけど駄目だったの。お役目も嘘よ
3、まぁ、その……色々とあって


↓2


天乃「まぁ、その……色々とあって」

何があったのか詳しく話すのはご法度だ

かといって、風みたいな曰く中二病のようなレッテルを張られるのは御免被りたいし

しかしながら、下手な嘘をつくわけにはいかないと考えた天乃は

自分の左目を覆う眼帯に手を宛がいながら、困ったように苦笑する

「色々……かぁ。詳しく聞きたいけど、詳しく聞くのは止めておく」

「大変だね、何か手伝えることあったら何でも言ってよ? いつも久遠さんには助けられてるし。たまにはさ、頼ってよ」

セミロングの女の子は天乃の背後に回って、車いすを押す

「出来る事なんて多分、ほとんどないんだろうけどね。みんな、少しで良いから力になりたいなーって、思ってるんだから」

今こうしていることだって

天乃は一人で車いすを動かせるのだから

実質、必要のない手伝いだ

けれども、クラスメイトは持ち手を握り、足に力を込めて

並んだ机の合間を縫って、出口に向かう

天乃「……どうしてか、聞いても良い?」

「それは、みんながくーちゃんの事好きだからだよ」

「そういうこと」

くるりと回って答えた眼鏡の子に続いて、背後の子の声が届く

それはクラスメイトだけでなく、勇者部もなのだろうか?

その考えるまでもないことを想い、天乃はゆっくりと目を瞑る

好き嫌いはともかくとして、みんながどう思っているのかはもう……すでに聞いていた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から





天乃「ふふふ……これは偉大なる闇の力を封じ込めるために必要なの」

「え?」

天乃「見る者を侵し、映した者を虜にする。この魔眼は一般人には危険すぎる」

「…………」

天乃「悪いことは言わないわ。聞かなかったことにしてあげるから、眼を逸らしなさい。我が神の力に誘われる前に」

「……きりっとしつつ冗談言うくーちゃん可愛い。超可愛い。抱きしめたい。抱きしめるっ」ギュッ


では、少しだけ進めていきます


「こうやってくーちゃんと下校できるのが、勇者部が休部したからっていうのは何か複雑だよね」

「だね。喜ぶべきか悲しむべきか……嫉妬すべきか」

天乃「っ」

少し悲し気に繋いだセミロングの女の子は

声色を急に含みを感じるものに切り替え、天乃の耳元でささやく

思わずびくっとしてしまった天乃が振り返ると同時に

ごめんごめん。と、女の子は笑う

「嫌な意味じゃないよ? たださ、普段は久遠さんを勇者部に取られちゃってるんだなぁって、思うわけですよ」

「せっかくクラスメイトなのに、遊びに誘おうにも部活だのなんだのって連れてかれちゃってね」

ねー? っと言い合う二人の間、座り込む天乃は流れに置いて行かれ

一人困ったように眉を顰めて、息をつく

天乃「言ってくれれば時間を作れるなら作ったのに」

「そうやって気遣ってくれるとこ好きだよ」

天乃「っ」

「褒められると照れるところも好き」

天乃「な、なんなのよ……急に」

二人の存在、二人の心、二人の言葉

挟まれる受け手の天乃はこればかりはと、困惑する

けれど、二人は顔を見合わせて、笑う


「普段は言えないしね、ここぞとばかりにポイントを稼ごうかなと」

天乃「なんのポイントよ」

「好感度?」

自分でも分かっていないらしい

眼鏡をかけている方が、疑問符を浮かべたまま答えると

それもあるけどね、と、天乃の背後から言葉がつながる

「久遠さんさ、なんていうか普段の笑顔が嘘っぽいんだよね。褒め殺しにされてる時の笑顔と比べると全然違うんだ」

だから、久しぶりにその笑顔が見たくてさ。と、セミロングの女の子は天乃の前に回り込んで

にこっと、笑みを浮かべる

「私達はくーちゃんと3年間同じクラスで、だから。一年生の時の笑顔と、その最後の方からの笑顔が違うの、分かるんだよ」

眼鏡の子は話しながら端末をいじると、

ほら、これを見てよ。と、一枚の写真を表示させて差し出す

天乃「……こんなの、いつ撮ったのよ」

一年生のころの写真

それも、だいぶ初期の方のもので、そこに写っている桃色の髪の少女は

とても柔らかく、とても豊かで、とても明るく……間違いなく、【笑顔】と呼べるものを浮かべている


「こういうくーちゃんが好き。嘘っぽく、気遣ってる笑顔じゃないくーちゃんが好き」

天乃の質問には答えることなく、

自分の端末、そこに収められた思いを抱くように

眼鏡の子は胸の前で合わせた手を抱くと、、目を瞑る

そんな彼女を見たもうひとりは、困ったように笑っていて

「だから、つまり……そう。みんながそうしてるように、久遠さんも助けてって言ってくれると嬉しい」

何ができるかわからない

何をしたらいいのかわからない

本当に必要なのかわからない

だから何にもしてあげられない

そんな、勇者にはなれない臆病者達が抱く【何かをしてあげたいという思い】を活性化させる為に

天乃「そんな、急にそんなことを……言われても」

気持ちはうれしいが、何とも言えないのだ

これは勇者とバーテックス、大赦

関りのない人間は知るべきではないことだ。知れば日常を崩壊させてしまうから

だから、言うべきではないことなのに

「二年前も、障害付きで帰ってきて、今回も、そんな眼帯なんかつけて帰ってきて……」

セミロングの女の子は、ぎゅっと唇を噛み締めると、まっすぐ天乃を見る

「そんな危ないお役目に行かせる大赦に抗議することだって、厭わないよ」


天乃「そんなこと……」

そのお役目の内容は絶対に知らされていないだろうが

とても大切なお役目であることは、絶対に伝わっているはずだ

にも拘らず、彼女は言う

その傍らにいる少女でさえ、その言葉には同意している

道徳教育が強く行われている世界で

大赦という存在がどれほど大きなものであるかを知っているはずの二人は

確固たる意志を感じる瞳を向けてくる

なぜ、これほどまでに。と、天乃は疑問を抱く

自分を好きだと言ってくれた、その思いだけではないはずだ

それだけでここまで言うのだあとしたら、それはもはや

記憶の片隅に置き去りにした、忌々しい能力のせいである可能性だってある



1、どうして、そこまでするの?
2、大事なお役目って聞いてるでしょう?
3、バカなの? そんな心配しなくていいから。大丈夫よ
4、私に笑って欲しいのなら。お願いだから、おかしなことはしないで。普通に生きて、日常を生きて
5、有難う。でも、気持ちだけで十分よ


↓2


大赦が一般人にどうのこうの言われたからと、

今回のような作戦はともかくとして、

戦いから距離を置かせてくれるなんてことは、まずないとは思う

以前はそんなような話があった様な気がするけれど

あれから戦況は大きく変わっているのだから、きっとできない

それに、大赦がその抗議してきた人たちに対して

何らかの圧力をかけるようなことはしないとは思うけれど……

でも、何かがある可能性も否めない。だから

天乃「私に笑って欲しいのなら。お願いだから、おかしなことはしないで」

「くーちゃん……」

天乃「普通に生きて、日常を生きて。お願い」

「……なんだか、それだと久遠さんにかかわると日常から外れるみたいな言い方だよね」

セミロングの女の子は悲しそうに呟くと

しかし、そこからの追及をしようとはせずに、俯きがちにため息をつく

「言いたいこと、聞きたいこと。たくさんあるけど……嫌な顔させたくないからやめておく」

「でも――」

何かを言いたそうな眼鏡の子の眼前に腕を出して制すると

もう一人の子は、首を横に振る

「久遠さんがこう言ってるんだから、私たちが余計なことを言うべきじゃないよ」


「久遠さんにとって、そのお役目は絶対に外せないことなんだよね?」

天乃「……ええ」

「だったら、その非日常に行くななんて、言わない」

大赦からの命令なのか何なのかわからないが、

とにもかくにも、そのお役目とかいう危険な事柄への参加

それ自体をとがめることはできない、と、少女は思い

しかしながら、それを認めようと

自分と、自分以外のみんなの想いをそれだけで渡しそびれる事

それだけは、絶対に嫌で

だから、セミロングの少女はやはり、天乃をまっすぐ見つめる

ブラウンの瞳が、橙色の瞳を捉える

「でも私達といるときは、絶対に久遠さんも日常で生きててよ。余計なこと考えないで、気遣わないで。同年代の女の子として」

天乃「考えるなっていうのは、ちょっと難しい」

悩ましいことばかりだから、そこに確約をすることはできない

自分は人殺しだから、そんな資格はない

けれども、その願いを無下には出来なくて

天乃「出来る限り善処するわ」

天乃はそんな玉虫色の答えを返して、笑う


では、ここまでとさせていただきます
明日は恐らく投下はお休みとなります





「ということで、私達と恋人ごっこしない?」

天乃「えっ?」

「日常と言えば恋愛! 恋愛と言えば男の子! でも男子に好き勝手させたくない」

天乃「えっと」

「だから私達と恋人ごっこ。オーケー?」

「ノー以外の何を言えばいいのよ」


では、初めて行きます
3分後、開幕安価予定


クラスメイトから、お泊りのお誘いが来ています


1、受ける
2、受けない


↓2


※受けても受けなくても夜行動


√ 5月13日目 夜(自宅) ※土曜日


学校からの帰り、クラスメイトの二人には

せっかくだから、今日、泊まりに来ない? と、誘われた天乃だったが

勇者としての活動もあって、断ってしまった

天乃「バーテックスが来たら、私消えちゃうしね」

死神の力を借りれば、任意の場所に戻れることは戻れるが

しかし、その時にまた大けがをしてしまっていたり、

この前のように友奈やそれ以外の誰かを連れていく可能性もある

だから、仕方がなかったのだ

残念そうではあれ、強引には誘わずまた今度機会があったら

そう言ってくれた二人を思い出して、天乃はすこし寂し気に息をつく

勇者がなければ、バーテックスがいなければ

きっと、受けていた誘い

受けてみたかった誘い

けれども、人殺しであるという負い目が

仕方がないという建前に絡みつく

結局、本音も建前も。天乃を日常に返そうとはしていないのだ


とはいえ、ここ数日みんなと話して

多少は、考え方も変えるべきではないかという思いもある

沙織は言わずもがな、強く思ってくれている

一番親しくないはずの夏凜でさえ、あれだけ思ってくれていて

クラスメイトの女子生徒二人もまた、あんな風に思ってくれている

好かれることは決してない

そういう考え方は、ひと月ほど前のある一件ですでに改めてはいるけれど……

いや、だからこそそれらを素直に受け止めるべきではという気持ちがあって、今の自分に疑問を抱かせる

天乃「…………」

しかし、やはり自身が人殺しであるということだけは拭う気に慣れなかった

その罪、その悪事、その失敗、その喪失

忘れる気にはなれない

風が今何を思い、自分に何を望んでいるのか

それさえ聞ければと思ってしまう自分の逃避的な思考回路が

天乃は気に食わなくて、歯噛みする

自分が行動しなかった結果が、第三者による風への報告だったのだから


√ 5月13日目 夜(自宅) ※土曜日


1、九尾
2、死神
3、若葉
4、悪五郎
5、稲荷
6、イベント判定
7、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
↓2

※7は電話


1、風
2、友奈
3、東郷
4、夏凜
5、樹
6、沙織


↓2


何も解決しなかったし

それどころか悪化の一途を辿ってしまったけれど

直近で話していないのは樹か東郷の二人だけ

天乃は自身の端末の電話帳をスクロールして

二人の名前を行き来させ、東郷のところで指を止める

九尾の報告によれば

樹に関しては友奈と同じく修行に励んでいるとの報告があったし

樹は最年少ではあるけれど、その実、心根の強い子であることは天乃も分かっていて

だから、東郷を優先する

天乃「……過去に関しても、気づき始めているし。ね」

話をするべきなのだ

後回しにして、何か行動を起こしてしまう前に

偽るか、真実を語るか

それはいずれにせよ、行動は起こさねばならない

そう思ったからこその電話

そのコール音は、たった1回で切れて――つながった


東郷『久遠先輩、ですか?』

天乃「ええ、貴女の端末にも私が表示されているはずだけど……」

ごく当たり前で、なんの誤りようもないことを告げる

しかし、東郷の方は困惑気味に「そうですが」と口ごもって

東郷「先日は男の子みたいな方が出たので」

と、明らかに新入精霊をさしている言葉が飛び出す

聞いた話によれば、端末の扱い方を良く分かっていなかったのが

すぐに電源は切れてしまって

繋がらなくなってしまったのだがそれがより不安を煽る形になったのだろう

しかし、出来る事は何もなかった。

その無力さに打ちひしがれていたというところかな? と、

出たばかりの不安そうな声から推測する

そして、電話した理由が精霊の件であるということも

天乃「心配なら、テレビ電話にするけど?」

東郷「いえ、大丈夫です……私の方が。その、あまり見られたくはありませんので」

一応は確認が取れてうれしいはずだが

相変わらずの落ち込んだ声色で、東郷は提案を拒絶する

きっと不安ばかりで、相当なことになってしまっているのだろう


東郷「みんな、とても心配していたんですよ?」

天乃「…………」

東郷「伊集院先輩から一報は伺いましたが、しかし、それだけで……」

電話もメールも一切不可

伝わって来るのは、同じ勇者であるにも関わらず、

神樹様の大切なお役目を全うしているということだけで、

何をどうしているのか全く教えてはもらえない

東郷「なんだか、自分が勇者などではなく。ただの一般人であるかのような錯覚まで、覚えました」

友奈や樹、夏凜が頑張っているのを見て

ただ、それだけが自分や友奈達が一般人ではないことを教えてくれる。そんな時間

しかしながら、不運にも与えられたその絶好の思考時間で

東郷は自分と天乃の不可解な共通点を見つけてしまった

数字こそ違うが、しかし、精霊の数と損なわれた身体機能が一致しているという、恐ろしいことに

東郷「久遠先輩。お教えていただけませんか?」

天乃「……なにを?」

東郷「私と久遠先輩のこの体の障害。それは同じ理由。それも、勇者関係なのかどうか」


1、違うわ
2、ええ。同じ理由よ


↓2


※2は、満開による障害、鷲尾時代などについても話します


では、ここまでとさせていただきます
あすもできれば通常時間から





九尾「……ふむ。良いのか?」

九尾「不安定な状態でさらに衝撃を与えて、平気なのかや?」


言うほど衝撃受けるか?

>>1が動かす久遠さんなら平気だけど安価で動く久遠さんならダメなんじゃない?

>>981
大事な事を忘れてる(過去の記憶)+満開によるダメージの発覚+自分と天乃の満開数の差(頼りきっていた)=かなり背負わせていた
って感じじゃね?衝撃大きいと思われ

でも天乃にその情報(記憶の埋め込み能力)

ミスった
天乃にその情報が伝わってないから安価の選択肢に出てこないと思うぞ


では、少しだけ。の予定ではありましたが
残り少ないので、続きは次スレで行います

こちらは埋めでお願いします


次スレ↓

【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【四輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【四輪目】 - SSまとめ速報
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