よっちゃんと別れた帰り路、私は別れた振りをして少し後から追いかけます。
見つからないように、気付かれないように。
これが私桜内梨子の最近の趣味です。
善子「~♪」
鼻歌を歌って、なんだか今日のよっちゃんはご機嫌みたい。
何かいい事があったのかな?
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善子「今日はリリーがいっぱい構ってくれた♪」
きゅん♡
私の胸が思わず高鳴ります。あの子はなんて可愛いんでしょうか!
最初はリリーリリーってまるで犬みたいに懐いてくるあの子を面倒くさいだなんて思ったこともあるけど――
段々とそれが当たり前になって、今ではよっちゃんがいないなんて考えられないくらい、ウフフ♡
善子「あっ!」
よっちゃんが何かを見つけたみたい。
少し目線をあげて何かを見つめてる。
善子「今日こそあなたをヨハネのリトルデーモンにしてあげる!」
そう、不敵な笑みを浮かべながらじりじりと塀の方ににじり寄ります。
よっちゃんの目線の先――塀の上を見てみると、あ♡
そこにはかわいい猫ちゃんがいました。
真っ黒で、どこかよっちゃんに似た雰囲気のとてもかわいい猫ちゃんです。
善子「さあ、今日こそ逃がさないわよ」
じりじりと、緊張した空気がよっちゃんと猫ちゃんを包みます。
私も思わず雰囲気に飲まれて、固唾を呑んで見守ることにしました。
善子「えいっ!」
よっちゃんが猫ちゃんを捕まえようとすると、猫ちゃんはよっちゃんの手の間をすり抜けて、ものすごい早さで逃げていきます。
善子「また逃げられた……」
猫ちゃんに逃げられてしゅんとするよっちゃんは、いつも元気なあの子とはまるで対照的で――
きゅん、って。また胸が高鳴ります。
よっちゃんを隠れて追いかけるとこういう普段あまり見れないかわいいよっちゃんを発見できるんです♡
善子「あっ」
しばらく歩いて、またよっちゃんは何かを見つけたみたい。
よっちゃんの目線はなんというか子供みたいで、色々なところに興味をもつんです。
だからよっちゃんを追いかけてると意外な発見があってとっても楽しいの。
善子「こんなところにクレープ屋さんがあったんだ」
見るとおいしそうなクレープ屋さんでした。
よっちゃんは堕天使だとかアクマだとか以前に女の子なんです。
だからクレープにも目がありません。
善子「食べたいなぁ……」
食べるかどうかを悩んでるみたい。
あれ?
いつもなら私を引きずってても食べるって言ってきかないのに、なんで悩むの?
善子「どうせ食べるならリリーと一緒がいいなぁ」
善子「1人で食べるより2人で食べた方がおいしいもん♡」
きゅん♡
私の胸は三度高鳴りました。
今度それとなくクレープが食べたいって言ってみようかな、それともよっちゃんが話を切り出してくるのを待つ?
どっちであっても楽しみです♡
善子「大好きよっもう隠さない~♪」
結局クレープは買わずに、だけどご機嫌そうに恋になりたいAQUALIUMを口ずさみながら歩くよっちゃん。
気持ちよさそうに歩いてるけど、なんだか嫌な予感がするなあ……。
善子「ひゃんっ!」
やっぱり――もしかしたらとは思ったけど。
歌に夢中になってて目を瞑っちゃってたのか、電柱にぶつかっちゃった。
そんなに勢いよくはぶつからなかったからよかったけど、それでも十分痛そう。
頭を抑えてうずくまっちゃってます。
善子「うぅ……」
唸りながら電柱をにらみつけてる。
善子「ぼーっと突っ立ってないでヨハネが来たら避けなさいよね!」
うん、よっちゃん、それは流石に無理かな……。
突然電柱が動いて避けたら大問題だよね。
善子「このっ!」
よっちゃんは足を大きく振りかぶって思いっきり電柱を蹴っ飛ばす――はずでした。
よっちゃんの足は電柱には当たらずに強く空を切ります。
善子「あぁっ!」
よっちゃんの足からローファーが飛んでいくのが見えました。
さらに、空を切ったことでバランスを崩して――
善子「ひゃんっ!」
大きく尻餅をついてしまいました。
電柱にぶつかって、靴が飛んで行って、そのうえ転ぶ――
よっちゃんの不運は本物みたい。
「……善子さん?」
そんな声が聞こえてきて、思わず私も身構えてしまいました。
そこには浦の星女学院の生徒会長、黒澤ダイヤさんがものすごく怖い顔で立っていました。
鞠莉さん曰く硬度10、とっても堅いお方です。
左手にはさっき飛んで行ったはずのよっちゃんのローファーが握られていて……。
善子「あぁ、ダイヤちゃん。拾ってくれたのね、ありがとう」
よっちゃんが受け取ろうとすると、ダイヤちゃんはローファーをすっと上にあげます。
善子「?」
よっちゃんは何度も受け取ろうとするけど、ダイヤさんはそれを許してくれません。
なんだかお預けをくらった犬みたいでかわいいな、なんて♡
言ってる場合じゃないですよね……。
ダイヤ「善子さん、何か気付きませんか?」
善子「? ヨハネの靴がほしくなった?」
ダイヤ「そんなわけないでしょう!?」
よっちゃんのトンデモ解答にダイヤさんもこらえ切れず大声で怒鳴ります。
ダイヤさんの怖い顔と、手に持ったローファー、そこから導き出される答えは――
善子「あっ! ヨハネと遊びたいのね!」
ブチッと、何かが切れる音が私のところまで聞こえた気がします。
ダイヤさんの表情はまさに鬼と言うべき表情になっていて、当事者じゃない私も思わず萎縮しちゃうくらい。
当のよっちゃんはというと――
善子「?」
きょとんとしてました。かわいいけど空気読もうね、よっちゃん。
ダイヤ「あなたの飛ばしたローファーがわたくしに当たったんですのよおおおおおおおおお」
ダイヤ「謝罪もなしに、おちょくるとはどういう了見ですか!?」
ダイヤ「流石に同じ状況でしたらルビィでも察して謝りますわよ!!」
まくしたてるダイヤさんに対して、よっちゃんはというと――
善子「ローファーが当たったの? ダイヤちゃんに?」
ようやく事態を飲み込めた様子です。
これで謝罪をするのかな、なんて思ったけど、よっちゃんは私の予想の斜め上をいきました。
善子「これであなたもヨハネのカンパニー、リトルデーモンってわけね」
満面の笑みでそう言い放ったあの子に対して、ダイヤさんはもちろん笑って許してくれるはずもなく。
持っているローファーを大きく振りかぶって――
スパァンと、小気味いい音とともに殴りました。
あのダイヤさんに手を上げさせるなんて、流石よっちゃんという感じです。
ダイヤ「お話になりませんわ」
そう言い捨ててすたすたと早足でその場を立ち去るダイヤさん。
その力強い歩みから怒りが収まらないのが見て取れました。
ルビィちゃんにしわ寄せがいかないといいけど……。
善子「……ぐすっ」
相当痛かったのか、よっちゃんはその場で泣き始めてしまいました。
どうしよう、完全に自業自得だけど、行ってあげた方がいいかな?
善子「うわああああああん! リリー!」
梨子「!?」
大声で泣きながら私の名前を呼ぶよっちゃん。
なんでそこで私の名前を呼ぶの!?
まるで小さい子がお母さんを呼ぶみたいに――
そんなよっちゃんの様子に私はいてもたってもいられなくなってしまいます。
梨子「よっちゃん」
後ろから私が声をかけると、よっちゃんはこっちに振り返ります。
善子「リリー……?」
うるうると、涙を浮かべて私を見つめる目に、よっちゃんには悪いけど――
きゅん、と胸が高鳴りました。
善子「うええええええん、猫が! 電柱が! ダイヤちゃんが!」
ぎゅって抱き付いて私の胸で泣くこの自称アクマに、『自業自得だよ』なんて言えるはずもなく。
抱きしめ返して落ち着くまで頭を撫でてあげることしかできませんでした。
続きは20時頃書きます。
善子「ぐす……」
梨子「落ち着いた?」
よっちゃんは私の問いかけに小さく頷く。
私より小さいこの子がいつもより小さく見える。
まるで青菜に塩をかけたみたいにしょげてるなあ。
いつもこうだったら楽なのに、って思って思い直す。
よっちゃんはいつもの元気なよっちゃんがかわいいよね。
たまにはしゅんとしてるよっちゃんもかわいいけど♡
善子「……リリーは呼んだら来てくれるのね」
ぎくっ。
もしかして隠れてついてきてたのがばれちゃうかも、なんて。
善子「リリー、ヨハネの召喚に応じてくれたの?」
よっちゃんはきらきらとした目で私を見つめる。
あぁ、そういえばよっちゃんはこういう子だった……。
梨子「ううん、たまたま通りかかって」
善子「そっかぁ……」
私が言葉に露骨にしょぼんとした顔をする。
けどすぐに何かを思いついたように手を叩く。
善子「そうだ! さっきね、おいしそうなクレープ屋さんを見つけたの!」
あぁ、そういえば。さっき見つけてたもんね。
私と一緒に行きたいって言ってくれてたのを思い出して心が温かくなるのを感じます。
善子「ねえリリー! 一緒に行きましょう!」
梨子「ちょ、ちょっとよっちゃん!」
答えは聞かずに私の手を引いて楽しそうに走り出すよっちゃん。
今泣いたカラス、もといアクマがもう笑ってる、ウフフ♡
いつも街中で会うとこういう風に半ば強引にどこかに付き合わされるんだよね。
でもそんなよっちゃんに振り回されるのも楽しくなってきちゃったかな、なんて。
カラオケがあまり好きじゃなかった私だけど、よっちゃんに付き合ってるうちに大好きになっちゃったし。
よっちゃんの歌を聴くのはもちろん、自分で歌うのも楽しいって思えるようになったんです。
梨子「そういえば、さっき泣いてる時なんで私の名前を呼んでたの?」
クレープ屋さんに向かっている途中、上機嫌に繋いだ手をぶんぶんと振って歩くよっちゃんにふと疑問に思ったことを聞いてみます。
他の誰でもなくしっかりとリリーって、この子だけが使う私に対しての呼び方で私を呼んでいたから。
善子「うーん? なんとなく! 浮かんだから!」
その答えは単純明快で、ある意味この子らしいものでした。
でも、泣いてる時に真っ先に浮かんだのが私だなんて、よっちゃんは私にすごく懐いてくれてるんだね。
懐くっていう表現は本当に犬みたいでちょっとどうかなって思うけど、クスクス。
善子「あっ、ほら! このクレープ屋さん!」
そこはさっき見たクレープ屋さん。
きっと私1人では見つけられなかったであろう、素敵なクレープ屋さんです。
梨子「素敵なお店だね」
善子「でしょ? ヨハネが見つけたのよ」
誇らしげにAqoursの中では比較的慎ましやかな胸を張ります。
……まあ、私とあまり変わらないんだけど。
その様子はまるで投げたボールを取ってきて飼い主に褒められたい犬のように見えて――
なでなで、と思わずよっちゃんの頭をなでてしまいました。
善子「な、なな、なによ!?」
急になでられてびっくりしたのかよっちゃんはびくっと小さく身体を揺らしてから私の手を払います。
それはそうよね、よっちゃんは犬じゃないもの。
善子「ほら、さっさとクレープ買いましょう」
そそくさとお店に向かうよっちゃん。
うーん、さっきので気分悪くなっちゃったのかな?
善子「……その、なでるのはいいけど一言断って。じゃないとびっくりしちゃうから」
私の方を向かずに、少し伏し目がちにそういうよっちゃんにまた――
きゅん、と胸が高鳴りました。
この子はどうしてこう一つ一つの言動が魅力的なんでしょう♡
善子「どれにしようかしら……。うーん……」
メニューとにらめっこするよっちゃん。
なんだか意外。よっちゃんのことだから即決でいちごチョコとかを選ぶと思ったのに。
善子「いちごスペシャルか、いちごチョコか、チョコスペシャルか……」
あー、なるほど。それぞれの単体にするか、2つが合わさったのにするかで悩んでたんだ。
多分あの悩み具合からすると、それぞれを別々に食べたいんだろうな。
梨子「じゃあ、よっちゃんがいちごスペシャル頼んで、私がチョコスペシャル頼んで分けっこする?」
私がそう提案してみると、よっちゃんは首が取れちゃうんじゃないかっていうくらい勢いよく私の方を振り向きます。
そしてキラキラした目で私を見つめます。
善子「いいの? 本当に?」
こんな期待した目をされて断れるはずもありません。
……元から断るつもりもなかったんだけど。
梨子「うん、いいよ。私も色々な味が食べてみたいし」
善子「リリー大好き!」
そう抱き付いてくるよっちゃん。
まったく、現金な子だな、クスクス。
善子「はい、リリー!」
梨子「ありがとう」
よっちゃんが私の分のクレープも受け取って渡してくれます。
甘い香りが私の鼻腔をくすぐって、それだけでも幸せな気分♡
善子「それじゃあいただきます!」
よっちゃんはいただきますって言い終わるのが早いか、クレープにかぶりつきます。
あぁ、もう! そんなに豪快にいったら――
善子「おいしい! ね、リリーも早く食べてみて!」
ほら、やっぱり。
私に満面の笑みで微笑むアクマの鼻の頭にはクリームついちゃっていました。
梨子「よっちゃん、こっち向いて」
善子「? 食べないの?」
怪訝そうによっちゃんは私の顔を覗き込みます。
鼻の頭にクリームをつけたままだからすごく間抜けな顔になってるけど。
梨子「ぱく」
もったいないからよっちゃんの鼻についたクリームを食べてみました。
あっ、この生クリームおいしい♡
善子「なっ……! 鼻食べられた!」
梨子「え? クスクス」
鼻が食べられただなんて反応は全然予想してなくて。
思わずくすっときちゃった。
善子「もう! ヨハネの鼻食べてないでクレープ食べなさいよ!」
そんなことを言うよっちゃんが面白くてついからかいたくなっちゃって――
かぷっ。
もう一回鼻を食べてみることにしました♡
善子「もう! ヨハネの鼻はおいしくないわよ!」
えーおいしかったけどなー、なんて♡
そろそろからかうのやめないと不機嫌になっちゃうかな。
この子、結構気分屋なところがあるから。
梨子「生クリームついてたから、ごめんね」
善子「そうならそうと早く言ってよ!」
まあ2回目はただ鼻を食べただけだけど。
そんなことを言ったらまた怒るだろうから絶対に言わない。
今度はクレープの方を一口。
ん、おいしい♡
善子「やっと食べたわね。じゃあ交換! はい、リリー!」
梨子「ありがとう。よっちゃんも」
お互いの差し出すクレープをお互いに食べます。
あっ。これってもしかして――
ううん、もしかしなくても間接キス、だよね♡
善子「んっ、リリーちょっとこっちきて」
ちょいちょいとクレープを持っていない方の手で手招きするよっちゃん。
なんだろう? とりあえず近寄ってみるけど。
善子「ちゅっ」
梨子「なっ……!?」
突然ほっぺにキスされちゃいました。
間接キスしたんだからこのくらいはどうとも思わないっていうこと……?
突然攻めの姿勢を見せるよっちゃんに頭が真っ白になってしまいます。
善子「ほっぺにクリームついてたわ。さっきの仕返し♡」
あぁ……。なるほど。
他意はなかったわけね。
本当に、とんだ小悪魔です。
でもまあ、よっちゃんの唇の感触がほっぺで味わえただけいいかな、なんて♡
善子「ねっ、リリー。この後どこ行く?」
梨子「え? どこか行くの?」
善子「だって折角会えたんだし! 行かなきゃ損よ!」
また、半ば強引に私の手を引くよっちゃん。
はあ、家に今日は遅くなるって連絡しないと。
よっちゃんって、ほんと強引なんだから……。
でも、それをちょっと楽しみにしている私は、すっかりこのアクマの虜になっちゃったみたいです♡
おわり
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