善子「祈りも恋も」 (107)

善子「っ………………!!!」


無理やり意識が引き起こされたように目が覚めた。
時計を見れば、アラームより1時間も前に起きてしまったみたい。

霞む視界には、ただ暗い部屋の天井が広がっているだけで、思考も回らない。


脳裏に張り付いた夢の中の私が、延々と頭の中に居座っている。



しばらくの間二度寝を試みたけど、下着が張り付くほど汗をびっしょりとかいているのに気がついた。


善子「――はぁ……お風呂入っておこうかしら」

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よしりこです。多分シリアス。
よろしくお願いします。

―――シャワーを浴びながら、最近見る悪夢について考える。


実のところ、今日のようなことは今回が初めてではない。
むしろ今日で連続3日目の新記録よ。


何回目かどうかは数えていないけれど、多分、両手でも足りないくらい。

流石にこんな夢を見続けて、堪えてきてる。

……私が泣いている。たったそれだけの夢。


声を押し殺して、顔を手で覆って、その目からただ涙が溢れてくる。


その姿は、懺悔しているようにも、逃避しているようにも見えた。



それ以上のことは、自分でも分からない。

というのも、起きてから夢のことを思い出そうとしても、思い出せるのは泣いている自分だけなの。


不気味すぎて気持ちが悪いわ。


善子(堕天使に与えられた試練だとか、ふざけて言ってられなくなってきたわね……)

不幸体質のレベルなんて、とっくに超えてるもの。

いつになったら、どうしたら、この悪夢は止むんだろう。


どうしようもない不安に駆られ続けるのは、もううんざりよ……


一日中、咽び泣く自分が脳裏に張り付いて離れないなんて、あんまりよ……



身体がだるい。


学校、行きたくないなぁ…………





―――それでも、Aqoursの皆に迷惑はかけられないもの。
練習しなくちゃ。



善子「よし、今日も行くわよ」



善子「頑張るのよ、堕天使ヨハネっ!」

結局あの夢のせいで、最近Aqoursの練習にも身が入らなかった。

私にとって、それが一番避けたい事態だったのだけれど。



曜「ワン、ツー、スリー、フォー!ワン、ツー……」


曜「千歌ちゃん少し走り気味!善子ちゃん遅れてるよ!」


千歌「うんっ」タッタッ

善子「分かったわっ」 アトヨハネ!



ステップの練習も、私は本調子には程遠い。
それはみんなの目にも明らかみたいで……


果南「善子ちゃんどうしたの!全然振りにキレがないよ!」

善子「ご、ごめんなさい……」


ラブライブ本選が近いせいか、みんな練習に熱が入って、少し雰囲気がピリピリしてる気がする。

でも、それも全部、みんなの夢のためなんだ。


このままじゃだめ、頑張らなきゃ。


迷惑、かけっぱなしじゃないの………っ





善子「ふっ……はっ…………ぅわっ!!」

梨子「善子ちゃん!大丈夫?」



足がもつれて転んでしまった。みんなの視線が私に集まる。

ダイヤ「………3分休憩しましょう。これでは効率も良くないですわ」


千歌「っはあぁああ、今日もハードだねぇ」




休憩時間だというのに、果南や曜は振り付けの確認をしている。


ほかのメンバーも全く集中は切れていないみたい。




みんな、本気なんだ。


私も……頑張らなきゃ……。




善子「っ、はぁっ……はぁ…………」ガクッ


立ち上がろうとして、膝から崩れ落ちるように体勢を崩した。


何もない地面でつまずくなんて、今日もヨハネはアンラッキーね……





―――絶対、よく寝られなかったせい、分かってる。

それでも、悪夢程度で揺らいでいたら、みんなに迷惑をかけてしまう。

今が一番大事な時期なの。そうでしょう?


屈してはいけないわ、ヨハネ……

梨子「ちょっと、よっちゃん大丈夫!?」


善子「だっ、大丈夫よ……気にしないで」


花丸「全然大丈夫じゃないずら!!」


ルビィ「よしこちゃん、休んだほうがいいよぉ」


曜「顔色もかなり悪いし、保健室のベッドを借りた方がいいかも。連れていくよ!」


みんなが駆け寄ってくる。
これも、一度目なんかじゃない。



善子「ダメよ、本選が近いんだから、まだ」


ダイヤ「だからこそですわ!!身体を壊してラブライブに出られなくなったら本末転倒でしょう!」


善子「……っ!わ、分かったわよ」



曜「じゃあ善子ちゃん、おぶってくよ。保健室まで、ヨーソロー!」


善子「流石にそれはいいわ………」


ダイヤの剣幕に圧されて、やっぱり心配だとついてくる曜と渋々保健室へと向かう。

梨子「――よっちゃん!!」

善子「っ……?なに?」



背中越しに声をかけられた。
声色から不安が漏れてる。


梨子「……ううん、なんでもない。今はゆっくり休んで?」


善子「ええ、ごめんなさい」






梨子は何か言いかけて、飲みこんだ。


また、みんなに迷惑かけちゃったなぁ……

今回はここまで。

再開します。



保健室に着くとすぐ眠ってしまったらしい。
ドアを開けたあとの記憶がなかった。



気づくと、時間的にはまだ練習中のはずのリリーがベッドの横にいた。


梨子「あ、目が覚めたのね。ほんとに心配したんだから!」


善子「……ごめんなさい」



リリーは本当に心配そうに私を見つめて、しばらくしてやっと少し安心したようにため息をついた。




善子「練習は、どうしたの?」


梨子「ダイヤさんが、今日はもう終わりだって。最近かなりハードだったから、明日もオフにするみたい」


梨子「多分、自分が練習詰めすぎてるせいだって、責任感じちゃったんじゃないかな」



梨子「まったくよ、調子が悪いときはちゃんと言わなきゃダメ。いい?」


善子「はい」


梨子「よろしい」 ニコッ



頷いて、リリーはいつもの、本当に優しい微笑みでゆるしてくれた。


目を細めて、ちょっとだけ困り顔の眉で、どんな私も受け入れてくれる、そんな気さえする。




思えばこの笑顔に、私はいつも救われてきた。






そう、いつだって。



……だから、無意識にも私は、彼女に助けを求めてしまったのかもしれない。



梨子「――ねぇ、よっちゃん。何か心配事があるんじゃない?」


梨子「ずっと、様子が変だったから」


梨子「私もだし、Aqoursのみんなも。どうしたのって、何度も聞いてくれたんじゃない?」


善子「それはっ………」




梨子「何か、言えない理由があるの?」


善子「…………」



梨子「―――私ね、ほんとに不安なの。」



……泣きそうな顔、しないでよ。




梨子「話しかけても、上の空なんだもん。何処かにいっちゃうんじゃないかって、そんな気までして」




私は、あなたにそんな顔をさせるために……?




梨子「ねえよっちゃん」



梨子「私に、話してみて。それにみんな、迷惑なんて思わないよ?」



梨子「私は……ううん。私達は、いつでもあなたの味方なのよ?」



梨子「お願い……っ、よっちゃん」









善子「…………あのね」

私はね……? リリー。



本当はもっと、言うべきことがあるの。


いえ、正確には、ある“ 気がする ”の。






私の心の、ずっとずっと奥に押し込んでしまったもの。


私が、目を背け続けてきたもの。







―――――あなたに、隠し事をしているの。

>>20

まったくよ→まったく


ミスです。すみません、気をつけます。

今回はここまで。

文面的に違和感のあるところがあるかもしれません
が、一部は私の不出来で、残りは伏線です。

おつ

↑私です。すみません!反応なくて不安で……
IPアドレスって回線によるんですね……
無知と不躾をお詫びします。良ければ応援お願いします。

再開します。今日は多めの更新。
視点の切り替わりがあります。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




梨子「――泣いている、夢………」


善子「ええ」



思っていたより、話は深刻みたい。


というより、そんなことってあるんだ。




よっちゃんは怯えているように、保健室のベッドの上で膝を抱えている。



話の途中で、

『ふふ、ついに鍛錬を積んできた黒魔術の効果が出てきたのかしら』

なんて言っていたけれど……




やっぱり、不安そうな表情は隠せていなかった。



みんなを心配させないように、よっちゃんはこうして、ずっと無理してきたんだ。





梨子(よっちゃん…………)



怖かったよね。


そんな夢を見続けて、たった独りで耐えていたなんて。




――――私に、出来ることは。





梨子「…………それなら、」


善子「なに?」






梨子「今日はうちでお泊まりにしよっか!!」


善子「ふぇ?い、いいの……?」



戸惑った表情で私を見つめる。



梨子「いいに決まってるでしょっ。今のよっちゃん、放っておけないもん」





善子「……ありがとう、リリー」



梨子「ううん。私に出来ることは、これぐらいしかないから」






善子「―――ほんとはね、夜が来る度に不安だったの」




梨子「うん、よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」






そう言って頭を撫でてあげると、よっちゃんは安心したように笑った。







お泊まりの用意をするために、よっちゃんは一度家に帰った。


私はよっちゃんを迎える準備をしつつ、今日の話を思い出して考える。



……ただ泣いている夢、か。


梨子(ほんとに黒魔術の効果、なわけないし)



―――やっぱり、なにか嫌なことがあって、そのせいなのかな。



お風呂を沸かして、お布団を敷いて、お母さんと夕ご飯を作っていると、インターフォンが鳴った。



善子「お、おじゃまします」ペコリ



梨子「はいっ、どうぞあがって?」ガチャッ



こういうのには慣れていないのか、キョロキョロと頭のお団子を揺らしながら、私の部屋までの階段を登っていく。



善子「なんだかいい匂いがするわね」



梨子「今日はシチューなの。もうすぐできるから、荷物置いたらリビングに行こうね」



善子「悪いわね、夕ご飯までいただいちゃって」



梨子「変なところで気を使わないのっ」



善子「はーい」




梨子「お母さん、善子ちゃんが来たよ」



梨子母「あら!こんばんは~。善子さんね。いらっしゃいっ」


善子「ど、どうも。こんばんは。おじゃまします」ペコ




リビングに入ると、お母さんが明るく迎え入れた。


よっちゃんはだいぶ緊張してたみたいだけど、ひとまず落ち着いたみたい。



梨子「それじゃあ、夕ご飯にしよっか」


善子「ええ。このシチュー、とっても美味しそうね!」




梨子母「ふふっ。今日はね、善子ちゃんが来るからって、梨子が張り切って作ったのよ」


善子「えっ、……そうなの?」


梨子「ちょっとお母さん!いつもみたいに手伝っただけでしょ!?」カァ///



梨子母「なによ~、恥ずかしがることないじゃない。何度も何度も味見して、よっぽど気合が入ってたのね~っ」


梨子「うぅぅううう」////





善子「そうだったのね……ありがと、リリー」


梨子「う、うん。どういたしましてっ」



梨子母「あら、梨子ったらそんな風に呼んでもらってるの?可愛いじゃない」


梨子「もう!からかわないでよっ」//


善子「っ!!」///



今度はよっちゃんも一緒に赤くなって、なおのことシチューが白く見えました。



お母さんったら、からかい過ぎなんだから。



―――よっちゃんが美味しそうにシチューを食べてくれてる、よかったぁ。



あなたの幸せそうな顔をみるだけで、私も幸せなんだよ。


スプーンがお皿を撫でる音が、まるで福音みたい。





………………でもね。





あのね、よっちゃん。



私ね。









梨子(ほんとは全部知ってるんだ。って言ったら)



――――――どうする?

>>40
使わない→遣わない
変換ミスです

続きます。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


談笑をしながら夕ご飯を食べていると、すぐに時間は過ぎていった。


少しずつ、気持ちが楽になってきたような気がする。



善子(リリーの作ってくれたシチュー、ほんとに美味しかったなぁ……)


照れていたけど、リリーはやっぱり優しい。


お風呂も先に入らせてもらっちゃったしね。



リリーの部屋で彼女がお風呂から上がるのを待ちながら、物思いに耽った。




リリーや美味しかった夕ご飯のことを考えると、胸があったかくなる。




―――あったかい、はずなのに。




このざわめきは何だろう。


リリーの家に来てから、ずっと感じていた。



彼女の優しさを、温もりを感じるほど、胸が痛くなった。



今だってそう。



チクチクと、拍動の度に胸が針に刺されるように痛む。




何か、大事なことを忘れてしまっている。
そんな気がする。


梨子「――よっちゃーん、お待たせ」



善子「っええ」ビクッ



ぼーっとしていたせいで、リリーが部屋に入ってきただけなのにかなりびっくりしてしまったわ……



梨子「どうしたの?よっちゃん」


善子「ううん、少し考え事してただけ。リリーのシチュー美味しかったなぁって」




梨子「そ、それならいいんだけど……」///





……ちょろい。将来が心配になってくる。



梨子「……そういえばよっちゃん、結構長風呂だったけど」


善子「そうだったかしら?」



梨子「もしかして、一緒に入りたくて待ってたの?」



善子「違うわよっ!」





いきなりなんてこと言うのこの子!?



梨子「えぇ……そんなに強く言われたらちょっと傷つくなぁ」



善子「えっ、ちょっと、あの、恥ずかしかっただけだってば。だから………」







梨子「―――っもう、冗談だってば」クスクス


善子「なんなのよぉもう!」



仕返しのつもりかしら。


ちょっと心配して損したわ。

それに、リリーって意外と大胆なのね。



梨子「それより、まだ寝るまで時間あるよ。なにする?」



善子「そうねぇ……ゲームくらいなら持ってきたわよ。マ〇オとか」



梨子「うん。それじゃあ、ゲームにしよっか!私すごく久しぶりだけど」



そういってリリーは携帯ゲーム機を引き出しから取り出した。



善子「だいぶ昔のやつだけどいい?」


梨子「いいよ。私もそれやってたし、懐かしいなぁ」


善子「へぇ、梨子もゲームやるのね」


梨子「まあねー」



2人でベッドに並んで寄りかかってゲームを始める。


――対戦するモードにしたけど、ほとんど一方的にやられてしまっている。




善子「もう、リリー上手すぎ!」ポチ


梨子「よっちゃんが下手すぎるのよ」ポチポチ




リリーめ、さてはこのゲーム極めたな……



リリーは楽しそうに画面を見つめて、一生懸命に綺麗な指を動かしていた。


負けっぱなしじゃいられないわ。


リリーがうとうとしてる今がチャンス!




善子「……よしっ!やっと勝てた!」フフン



梨子「ああっ!……うーんまあ、仕方ないか」


善子「ふふん、堕天使は最後に勝つのよ」


梨子「はいはい、よく出来ました」



善子「うんっ。……あ、もうそろそろ寝る時間よね」


梨子「そうね、眠くなってきたし、寝よっか」


梨子「それじゃあ、私はこの布団で寝るから、よっちゃんは私のベッド使っていいよ」



善子「なんかいろいろ悪いわね。お世話になってばかり」



梨子「そういうものでしょ?」



善子「そうなの?」



梨子「そうなのっ」


リリーが電気を消して、部屋は真っ暗になった。




梨子「それじゃあ、おやすみ。よっちゃん。」




善子「ええ、おやすみなさい、リリー。」




……目を閉じると、私の世界は一面真っ黒になる。



やっぱり怖いな。


またあの夢をみるんじゃないかって思うと、体が震えてくる。


私が、泣き崩れているだけの、それだけの夢。





……情けないわよヨハネ。

しゃんとしなさい、しゃんと。



善子「……、はぁ…………っ……」






梨子「よっちゃん」




善子「っどうしたの?リリー」



梨子「―――大丈夫だよ。大丈夫」



善子「……ええ、ありがと。リリー」



リリーは、そっと私の手を握ってくれた。


それだけで体の震えはすぐにやんじゃったみたい。


やっぱりすごいのね、リリーは。









私の意識は、静かに遠のいていった――――――

今回はここまで
呼称ミス多くて申し訳ないです。気にしないで読んでくださると助かります。

今回は穏やかパートも混ぜましたが、次回から佳境です。是非最後までよろしくお願いします。

今日は更新ありません。
反応ありがとうございます!応援でも批評でも、私が書いたものを読んでくれている人がいるのが分かるだけで本当に嬉しいです。
なんとか2期放送開始までには完結させます。よろしくお願いします。

更新します!今回で完結の予定です。
昨日は1日、物語の根幹を吟味してました。書き溜めはほとんどありませんが、全力で書ききります。
よろしくお願いします。





「―――――――――――ん」




「――――――ちゃん」





「―――よっちゃん」







頭がぼーっとする。



誰かが、私を呼んでいるのが聞こえた。




視界は真っ暗で、声だけが水の中を彷徨うみたいに響いている。




「…………リリー?」





「おはよう、よっちゃん」





「リリー。私、何も見えないわ」




「ううん、よっちゃん、ちゃんと見えてるよ」




どういうことだろう。




不思議に思っていると感覚が徐々に戻ってきた。





足が地面についている感じ。私は、立っているのかな。




「やっぱり、何も見えないわよ」




「よっちゃん、目を開けて?」




リリーがそう言うと、一瞬で視界が開けた。
けど……


ここは………………音楽室?




真っ暗で、リリーがピアノの椅子に座っている以外はほとんど分からない。




なんだか、根拠はないけど、嫌な予感がする。



私の、不幸だけは的確に射抜く直感が、そう告げていた。




善子「訳が分からないわ、なんで私は音楽室にいるの?」




善子「それとも、また夢を見ているの?あの悪夢じゃ、ないみたいだけど」





梨子「うん。よっちゃんはね、ずっと夢を見ていたんだよ」





善子「ずっと?それじゃあなんで、私は音楽室にいるの?」




梨子「よっちゃんが、ここに来たいと願ったからだよ。ここは、“貴女の夢の中”だから。」




会話になっているようで、なっていない。



善子「私は、リリーのお家でお泊まりをしていて、部屋で寝ていたわ」



梨子「そうね、でもここは夢の中だもの。」



善子「なんでもありってこと?」



梨子「あなたがそう思うならね」





さっきから、リリーの言っていることの意味がいまいちわからない。



それに、彼女のいつもの穏やかな表情は、そこには無かった。



何かを決意したような、そんな固い表情。




善子「ここが夢なら、もうすぐ私は夢から醒めるの?」



梨子「―――きっとね」




リリーは少し言葉に詰まったあと、頷いた。





梨子「よっちゃん、少し私とお話しよっか」




善子「急に改まって、なに?話くらいなら、いくらでも付き合うけど」


というか、



善子「これが私の夢の中なら、あなたは誰なの?」


善子「私の中のリリーってこと?」




梨子「ううん、多分私は私だよ」


ますます分からない。



梨子「だって私は、今こうしていろんなことを考えて、感じているもの」



善子「私から見たら、そんなこと分からないわ」




梨子「そうかもね。でも、そうなの」




善子「ふーん。それで、話って何?」





得体の知れない焦りが、私の言葉尻を尖らせた。



話を聞きたいと思うけれど、同時に心のどこかが、聞いてはいけないと叫んでいる。




梨子「どうしてよっちゃんは、あんな悪夢を見ていたんだと思う?」



善子「分からないわ。貴女は知っているの?」



梨子「知ってるよ。よっちゃんは知りたい?」



善子「わたしはっ………………」





知ってはいけない。でも、知らなければならない。



自分でも不思議なほど、意識とは関係ないところで思考が駆け巡る。



善子「私は、きっと知らなきゃいけない」




梨子「うん。よっちゃんなら、そう言うと思ってたよ」



リリーはそう言って、今度は儚げな笑みを浮かべている。




梨子「……それじゃあ、これを話したら、お別れになっちゃうね」



善子「――――――は?」



善子「ち、ちょっと待って、なんでそんなこと言うのよ」



善子「なんで?あの夢の話をするだけなんでしょ!?」



善子「なんでそうなるのよ!」




言ってることは支離滅裂なのに、頭に入ってきてしまう。


リリーは淡々と続けた。



梨子「それはきっと、お話を聞いたら分かるよ」



善子「だって今、貴方がお別れって言っ」




梨子「やっぱりよっちゃんは、とっても優しい子なんだよ」



善子「やめて」




梨子「あの夢はね」




善子「やめなさいッ!!!」




梨子「……」




梨子「ひどいなぁ、よっちゃんが知りたいって言ったんだよ?」




善子「そっちこそ、どうしちゃったの?全然いつものリリーじゃない。」




梨子「……そうだね。私らしくない」




梨子「ごめん、あんな言い方しちゃって」




善子「……」




善子「でも、今リリーが言ってること、嘘だなんて思いにくい」


リリーの嘘にしては上手すぎるもの。



善子「きっと、覚悟が必要なのは私の方」





私がしていた隠し事。



リリーにも、自分にも秘密にしていたこと。




そう思っていたけれど、きっとそれを、リリーは始めから知っていたんだ。



善子「こっちこそごめん。話してくれる?リリー」



梨子「……やっぱり、よっちゃんだね」ニコッ



そう言って、リリーはやっと、いつもの笑顔で笑ってくれた。





梨子「あのね、よっちゃん」



善子「…………」ゴクリ




静寂が訪れ、そしてそれは、私にとって永遠にも思えた。



リリーは一つ息を吐いて立ち上がった。

ゆっくりと私の元へ歩いてくる。




私はそれを、何も言わず見つめるしかなかった。


そして、リリーは私の目の前に立った。




梨子「……やっぱり、お話はおしまい」



善子「ええ、そうね」








梨子「――――今までありがとう、ばいばい」



梨子「愛してるよ、よっちゃんっ」スッ









――――――リリーは私に、顔を近づけて……






唇が触れ合う。



とっても、優しいキスね。








……………………そして、私は。




すべてを思いだした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




夏の終わりのある日、リリーは、私を庇って死んだ。




二人で一緒にバスを待っている途中、運転手が発作を起こして歩道に突っ込んだのだ。



本当に、いっそ死んでしまいたいと思うほどの不幸体質。




でも、死んだのは一人、リリーだけだった。





私たちはバス停で、話すのに夢中になっていた。


私より先にバスの異常に気づいたリリーは、すぐ目の前に迫るそれを見て


もう二人で避けることは出来ないと察したのかもしれない。




私を突き飛ばして、間抜けな私が気づいたときには、リリーは道路の随分離れたところで倒れていた。



駆け寄った時には、全てが遅かった





なけなしの意識で救急車と警察を呼び、

呆然と立ち尽くす。





リリーのお母さんが通報を聞いてすぐに駆けつけた。

耳を裂いたのは、悲痛な叫びだった。





無力な私は、目の前の出来事がどうか夢であるようにと祈ったけれど、



時間は無常にも、私達を置き去りにしていった。



――――みんな泣いていた。



Aqoursはバラバラになった。


本選を目指していた輝きは、とうの昔のことのように感じた。



私は学校に行かなくなった。




お母さんは、何も言わず私の頭を撫でた。




私には、泣くことなんて出来なかった。




そんな権利、私にはきっとないと思ったから。









全部、私のせいだから。





この世界はきっと、



一瞬の儚い白昼夢なんだ。



私がそれを自覚した瞬間に、

つまり、ただの空想だと気づいたときに




シャボン玉が割れるようにあっけなく消える




それだけの、夢。




本選を目指してみんなで頑張るのも。


リリーのお母さんと仲良くなるのも。


リリーと一緒に遊んで、楽しく喋るのも。




私のわがままな望みの虚像。


後悔からの逃避、苦し紛れの懺悔だった。




そして、ただ声を押し殺して泣いていた


あの時夢で見ていると思っていた私こそが、


夢なんかじゃない、




心の一番奥の、本物の私だったんだ。




そして、リリーは私を信じていた。




私が、現実を受け止められること、


この夢を、終わりにできることを。




彼女は、それで本当に、もう二度と戻れなくなるというのに。




リリーはあのとき、どんな気持ちで笑っていたのかな。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





目の前に、もうリリーはいなかった。



どこを探しても、音楽室だと思っていたそれは、ただ闇が広がるばかり。





善子「ねぇっ……リリー」



善子「返事、しなさいよっ…………」グスッ





善子「消えないでよ!まだ私は」




善子「一番伝えたいこと、あなたに伝えられてないのにっ!!」ダッ




闇の中を、ただがむしゃらに走る。




頭では分かっている、もう彼女はいないんだと。


それでも、体はいつの間にか動いていた。


彼女の名前を叫びながら、私は必死に走った。



でもその声は、届くことなんてない。




「リリーーっ!!!―――うぐっ」ドゴッ



……走り続けていると、壁にぶち当たった。



どうやら不幸なのは徹底されてるみたい。




私は考える。

善子(どうして、あなたに出会えたのかな)




きっとあなたと繋がってるって、信じていたから?


それが嘘じゃないって、そう信じていたかったけれど。



結局、幻は幻なのね。






あの日に戻りたいって、たった一つの願いも叶わないなら…………




善子(自らの手で、終わりにしよう)




そこにあったのは、黒い扉


きっとその向こうにあるのは、本物の運命






………………行かなくちゃ。



彼女の為に。




……扉に手をかける。



一度だけ振り向いて、声の限り叫んだ。




善子「私も、リリーのこと!」




善子「――――大好きよっ!!!!」





扉を開けたとき、彼女の声が聞こえた気がした。


おわりです!
最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!

今回初めてSSを書いてみて、想像以上に大変なんだと知りましたが、同時にとても楽しかったです。

絶対また書きます。そのときは、是非また読んでいただければ嬉しいです!

あと、敢えて答えを出さなかったところがいくつかあるので、よかったら自分なりの答えを考えてみてくださいね。

お気づきかと思いますが、タイトルやストーリーは、
「Daydream Warrior」をもとに考えました。

以上あとがきです。
ありがとうございました!

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