【Fate】Fateの星 完結編【梶原一騎】 (262)
スレをムダに落としたもはや後には退けない作者です
全力で終わらせっぞ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457606462
せんぱい
わたしは
あなただけを
■したかった
最終章
天翔編
俺は今猛烈に感動している!
――星 飛雄馬――
前スレFateの星
Fateの星 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451701316/)
目の前に佇む少女は、見馴れた者であってそうではなかった。淡い色彩の髪は真っ白に染まり、体を包む禍々しい雰囲気の衣服のようなもの
そして
士郎「なんで、お前がそれを」
Gigaaaギギガギイイギイギギギ
嘗て自分が所持していたはずの、大魔術師養成ギプス
桜「先輩、怖い顔してどうしたんですか?」
士郎「桜、お前」
言葉が続かない
数日
たった数日見なかっただけで、こうまで変わった後輩。一体何がどうなって
大河「さ、桜ちゃん、なの?」
藤ねぇが信じられないと言った顔をしている
無理もない。俺ですら状況が飲み込めないのだ。
桜「こんばんはー♪ 藤村先生」
桜「そろそろ会いに行こうと思ってたんですよ」
桜「楽しいですよね、せんぱいの側にいれて」
桜「幸せですよね? せんぱいに選んでもらえて」
大河「桜ちゃん……?」
桜「本当、気に入らない」
ゾンッ
黒い影が、藤ねぇに襲いかk
士郎「藤ねぇ!」
間一髪の所を抱き抱えて横に跳ぶ
藤ねぇのいた場所は黒い何かに埋め尽くされていた
大河「し、士郎」
士郎「大丈夫か? 藤ねぇ」
桜「ふふ、やっぱりせんぱいは優しいですね」
桜「そんなにその人が大切ですか?」
士郎「桜! これは何の真似だ!?」
桜「何って、邪魔な人を消そうとしただけですよ?」
桜「その人さえいなくなれば、全部元通り」
桜「私とせんぱいだけの、優しい世界が待ってるんです」
違う
桜はこんな酷いことを言う子じゃなかった。
何が桜をここまで変えてしまったんだ
大河「桜ちゃん……? なに、どうしたのよぅ? こんなの全然桜ちゃんらしくないよ」
桜「私らしくない……?」
桜「――――クハッ! アハ、ハハハハハ!」
大河「桜ちゃん?」
桜「こんな、私の事を知った気でいるようなお馬鹿さんに、せんぱいを取られるなんて」
桜「ああ、せんぱいは別ですよ? 知られない用に必死でしたから」
桜「でも、もういいんです」
桜の周辺に影が集まり、無数の柱が立つ
桜「私が一番乗り。もうすぐ私の為の世界ができます」
桜「せんぱい……その世界で、二人でずっと愛し合いましょうね」
桜「でも、藤村先生しか見えないせんぱいなんて要りません」
桜「だから」
士郎「桜……?」
――――その体だけ貰います
気付いた時には、遅すぎた
ごぷりとした感触と共に、俺の足下が沼に嵌まったかの様に沈んだ
そのまま立ち上った影は俺の体をあっという間に包み込んだ
――――そして、俺は今までにない"呪い"に浸された
士郎「あ」
――――ヤメロ ムダ
ボンジン シネ
フカノウ テンサイ
シネ アツクルシイ
シネ ムダ
サイノウ ムダナドリョク ムリ
バカ シネ シネ
ヤメロ ムダ シネ
ムダ
ヤメロ シネ
死ね
無駄
諦めろ
諦めろ諦めろ
諦めろ諦めろ諦めろ
諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ
努力しても無駄全て無駄無理無意味不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能不可能
士郎「ああああああああああああああああ」
頭が割れる体が裂ける心が砕ける
脳が神経が内蔵が焼ける
痛い苦しい辛い助けて痛い痛い痛い
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
――――大丈夫
士郎「――――藤ねぇ」
光が、見えた気がした
――――ロウ! シロウ!
――――あ かしいなぁ?
はや にげ セ ちゃん!
おねが わたしは から
士郎だけ たす
士郎
ごめんね
士郎「藤ねぇ!」ガバッ
セイバー「士郎! 起きましたか!」
飛び起きた俺の目の前にいたのは、無二の相棒であるセイバー
いつの間にか家に運ばれたらしい。布団から体を出してセイバーに向き直る
身体中を嫌な汗が伝っているのがわかる
士郎「セイバー、藤ねぇが、桜が!」
セイバー「シロウ、落ち着いてください。今は自分の体を心配してください」
落ち着く?
心配しろ?
士郎「そんな場合じゃ……!」
「悪いけど、セイバーの言う通りにした方がいいわよ」
最早聞き慣れた、意思の強い声
士郎「遠坂」
凛「士郎、最悪の事態になったわ」
凛「藤村先生とイリヤスフィールが、桜に捕らわれたわ」
今日はここまで
これから終わりまで一気に行きたい
兄貴や我様の出番はあるよ
一応
泥に呑まれた俺を助けてくれたのはセイバーだった。
しかし、そのセイバーすら手こずる泥から逃げるチャンスを作ったのは
その身を囮にした、藤ねぇ
無知は罪とは、誰が言った言葉だろうか。
今の俺に相応しい言葉だと思う。
俺は、何も知らなかった。間桐の家のこと、遠坂と桜、桜が聖杯戦争に関わっていたこと
何一つ知らずに、日常のモノだと思い込んでいた。
その結果、桜は狂い、藤ねぇは拐われた
そして、俺は更なる苦しみを味わうことになる
士郎「桜を、殺す?」
凛「……そうよ」
士郎「本気で、言ってるのか」
凛「冗談でこんなこと言わないわよ」
士郎「遠坂!」
凛「これは私たちの家の問題よ。士郎には関係ない」
士郎「桜は、お前の妹なんだろ」
凛「……妹だからこそよ」
士郎「おまえ、バカだ。もっと頭がいいかと思ってた俺の勘違いだった」
凛「なによ? 分かってないのは、アンタの方よ!」
凛「桜は、あの子は完全に聖杯の支配下になったわ! これから自分を満たすために沢山の人を犠牲にする!」
凛「いや、恐らくもう犠牲は出てる。行方不明者が減ってないのは士郎も知ってるわね?」
凛「これ以上罪を重ねる位なら、いっそ」
士郎「お前の手で、か?」
凛「……」
士郎「それじゃお前が救われないだろ……」
凛「バカ、私のことなんて、それこそ気にすることはないわよ」
凛「私の事よりアンタは藤村先生の事を心配しなさい」
士郎「……わかってる。」
何故桜が藤ねぇを連れ去ったのか
多分、何も知らなかった俺に対する当て付けだろうか
桜を放って、藤ねぇと二人で幸せを享受した俺への当て付け
凛「どっちみち悩んでる時間は無いのよ。殺すにしろ止めるにしろ、桜と戦うことは避けられないわ」
凛「それに、アンタのきょうだいもほっとけないでしょ?」
士郎「……そうだ、イリヤ。何でイリヤが拐われたって知ってるんだ?」
凛「それについては提供者がいるわ」
――あの外道神父がね
言峰教会
言峰「ふむ、思ったほど驚いてないようだな」
士郎「アンタなら、黒幕だって言われても不思議じゃないさ」
凛「私は驚いたけどね? ランサーのマスター?」
言峰「正確には"元"だがな」
言峰「ランサーは間桐 桜によって取り込まれた。今ここにいるのはただの脱落者だ」
言峰(まさかアレまでもあっさり取り込むとは思わなかったがな)
セイバー「シロウ、私は反対です。こんな影で暗躍する輩に協力を求めるなど」
士郎「今は一人でも味方が欲しいんだ。分かってくれ、セイバー」
士郎「それで、何でイリヤの事を知ってるんだ?」
言峰「正確には私の監視対象が行動を起こした事が原因だ」
士郎「監視対象?」
言峰「間桐の現当主」
言峰「間桐 臓硯」
凛「間桐 臓硯。やっぱり一枚噛んでたって訳ね」
士郎「そいつが、イリヤを」
言峰「拐えと命じた。何せアレは聖杯その物だからな」
士郎「イリヤが聖杯だって?」
言峰「元々イリヤスフィールはその為に作り出された。聖杯を機能させる為の最後の鍵。それがあの少女だ」
士郎「そんな・・・」
言峰「気を病む必要はないぞ衛宮士郎。これはお前の父も通った道だ。父と同じ存在になれるなら願ってもないだろう?」
士郎「・・・」
凛「士郎、こいつの言葉を真に受けちゃダメよ」
セイバー「切嗣も苦渋の決断でした。しかし、後悔はあったと思います。私はあなたに彼と同じ道は歩んでほしくない」
士郎「・・・ああ」
崩れていく
俺が信じたもの
安息を求めたもの
正義の基盤が
言峰「間桐は以前より人を喰らって命を繋いでいた。今までは様子を見ていたが、今回はそうもいかなくてな」
凛「この際アンタが静観決め込んでた事はとやかく言わないわ」
凛「殴り込むんでしょ? 間桐に」
言峰「正確には奴に占拠された魔の領域」
言峰「アインツベルンの森だ」
士郎「また、あそこか」
凛「厄介ね、また正面からって訳にもいかないし」
???「あそこの結界なら私が解いたわ」
士郎「!?」
凛「あ、貴女、生きてたの?」
キャスター「残念だったわね。まだ生きてるわよ」
セイバー「シロウ! リン! 下がって!」
キャスター「物騒ね・・・」
キャスター「何も争うつもりは毛頭無いわよ」
士郎「キャスター、何しに来たんだ?」
キャスター「別に・・・。最後のお節介よ」
キャスター「受け取りなさい、ボウヤ」
カラン
そう言いキャスターは俺に向かって何かを投げ渡した
床にに転がったのは、ねじ曲がった奇妙な形の短剣
士郎「これは・・・?」
キャスター「よく見ておきなさい。必ず役に立つわ」
キャスター「私ができるのはここまで・・・」
凛「貴女、どういう風の吹き回し?」
キャスター「貴女たちの為じゃないわよ」
キャスター「この地は、私が数千年をかけて欲しかったものが手に入った、大切な場所」
キャスター「汚れた聖杯なんかに壊されてたまるものですか」
あの、朝焼けを
黄金の輝きを
壊させたりなど、させない
キャスター「これで思い残す事はもうないわ・・・」
士郎「キャスター!? お前、体が!」
キャスターの体がどんどん透けていく
明らかに魔力の不足によるものだった
キャスター「精々頑張りなさい、ボウヤたち。あの世であの人と見守ってるわ」
――宗一郎様、
――遅れてすみません。今私もそちらに
キャスターは、完全に消滅した
士郎「・・・キャスター」
後に残ったのは、なけなしの魔力で作られた短剣
士郎「俺たちに、任せるっていうのか」
短剣を握る
重い
こんなに小さいのに
キャスターの意志の強さが伝わってくる
凛「アインツベルンの結界が解かれたって事は」
セイバー「・・・仕掛けるなら、今しかありません」
言峰「ふむ・・・どうする? 衛宮士郎」
士郎「・・・どうするかだって?」
決まっている
士郎「行くぞ、アインツベルンへ」
戦いの地へ
今日はここまで
我様ファンの方々すいません
ちょっとここの桜は鯖に対して強くなりすぎてしまってます
だからきっちり消化できてます
最近仕事が忙しくて書く暇がねぇ!
亀更新になりますが何卒ご容赦を
アインツベルン城
大河「うぅ……」
大河「あ、あれ、ここは?」
大河「確か私は、桜ちゃんに」
「気がついたみたいね」
大河「だ、だれ?」
イリヤ「ようこそ、私の城へ」
イリヤ「ま、今は占領されちゃってるけどね」
大河(この子、片腕が)
--
大河「そう、イリヤちゃんも桜ちゃんに捕まっちゃったんだ」
イリヤ「あいつ、ちょっと強くなっただけでいい気になってるんだもの」
イリヤ「流石に死ぬかと思ったけど、間桐の当主がぎりぎりの所で待ったをかけてくれなきゃ、今頃死んでたわ」
大河「イリヤちゃんのお話、ほとんどわからないことばっかりだけど」
大河「士郎があなたときょうだいで、今までけんかしてたってのは分かったよ」
イリヤ「けんかって……」
大河「士郎は優しいよ? 本気でイリヤちゃんを憎むなんてしなかったでしょ?」
イリヤ「……」
――――君と、仲直りしに来た
イリヤ「そうね、士郎は優しいね」
イリヤ「優しすぎて、癪にさわったのかもね」
大河「今でも、士郎は許せない?」
イリヤ「当たり前よ。……でも」
イリヤ「私が本当に許せなかったのは、キリツグで、シロウはその替わり」
イリヤ「それしか考えなかったから、私、シロウのこと何も知らない……」
大河「それじゃ、これからたくさん知ってこうよ」
イリヤ「え……?」
大河「ここから出たら、士郎の家に行って、いっぱいお話しよ?」
大河「イリヤちゃんならすぐにシロウと仲直りできるよ」
イリヤ「・・・そんなにうまくいくかな」
大河「いくわよ、私が保証するよ」
イリヤ「なにそれ」
大河「士郎の事は私が一番よく知ってるからね」
――――何が、一番よく知ってるんですか?
桜「そうやって見せつけて、私に対する当て付けですか?」
大河「桜ちゃん……」
イリヤ「来たわね、性悪女」
桜「口の悪いお子さまですね」
桜「誰のお陰で生きてられると思ってるんですか?」
ビュルッ!
ドゴッ!
黒い塊が、イリヤの腹部に直撃する
イリヤ「かふっ!」
大河「イリヤちゃん!?」
桜「ふふ、もうあまり動けないのに、威勢だけはいいんですね?」
イリヤ「う、うぁ」
大河「桜ちゃん! あなた、こんな小さな子に何てことするのよ!?」
桜「生意気な子どもにお仕置きしただけですよ」
桜「ああ、それに今はあなたに用があって来たんです」
大河「私に……?」
桜「ちょっとついてきて貰えませんか…………ねっ!」
ズン!
大河「ぐっ!?」
桜のボディブローが大河を襲い、鈍い痛みに思わずうずくまる
桜「くす、あれ、どうしたんですか? 先生」
ガシッ
大河「さ、桜、ちゃ やめ、て」
髪を掴み、無理やり起こす
桜の顔は歪んだ喜悦に満ちていた
桜「ふふ、ふ。 先輩が来るまでの暇潰しに、あなたで遊ぼうと思ってたんですよぉ?」
桜「ほら、早く来てくださいよ? これからとても痛くて、気持ちよくて、ぐちゃぐちゃになれるんですから」
ずる
ずる
髪を掴んだまま引き摺り、部屋を後にする
地下室
桜「こういうお城って、必ずこんな場所があるんですかね?」
桜「間桐の家といい、作った者の趣味を疑います」
大河「うぅ」
鎖で両手を繋がれ、壁に拘束される形になった大河
桜はその様子をなめるように眺めている
大河「桜ちゃん……もうやめてよぅ。こんなのぜんぜん」
桜「私らしくない、ですか?」
桜「そうやって、何も知らないで、無条件に愛されて」
桜「今まで私をバカにしてたんですね?」
大河「……」
桜「私だって、先輩に……」
大河「桜ちゃん、やっぱり士郎のこと」
桜「知ってて、先輩を奪ったんですよねぇ? ………許せない」
桜「先生には、私以上の苦しみを与えてやるんだから」
パチン
指をならすと、後ろの扉からぞろぞろと大勢の"何か"が入って来た。
大河「こ、この人たちは」
桜「間桐の親族の方々です。昔から、それはもう大変お世話になってまして」
桜「何度やめてとお願いしても、面白がって私に群がってくるんですよ?」
大河「そ、それって」
桜「頭の中もお猿さんなみだから、全部こそぎだして、泥を詰めて、人形になってもらいました」
桜「いま、この人たちの頭にあるのは、欲望を満たす事だけ」
大河「や、やめて。……嫌」
桜「先生、壊れちゃうかもしれないけど、せめて先輩が来るまでは頑張って下さいね?」
大河「やめて! 桜ちゃん!」
桜「さようなら、藤村先生。……楽しんで下さいね?」
大河「いやぁああああああああああああ!」
今日はここまで
また早く更新したいなあ
山道
ブロロロロ
士郎「おい、もっと飛ばせないのか?」
言峰「どうせ中古だ。我慢しろ」
凛「どうでもいいけど何で私が助手席なのよ」
士郎「こいつの隣に座るのは、なんかやだ」
セイバー「私もです」
凛「あんたたち……」
キャスターによって結界が破られた今、アインツベルン城に捕らわれている藤ねぇとイリヤを救うべく、言峰と奇妙な協力関係になった俺たちは森を突き進んでいた。
凛「もうすぐ着くはずだけど・・・気づかれてるわよね。セイバー、作戦通りにいくわよ」
セイバー「承知」
士郎「まさかあんたとペアになるなんてな」
言峰「せっかく貸してやった黒鍵を無駄にするなよ?」
今、俺の手の中には言峰から受け取った黒鍵がある。
この武器は普段は柄の部分だけだが、必要に応じて刀身が出る仕組みになってる。
埋葬機関という暗殺組織でこれの名手がいるらしいが、なるほど、投擲に慣れ始めた俺にはちょうどいい武器かも知れない。
凛「先ずは正面から私とセイバーが」
凛「士郎たちは・・・」
士郎「任せろ」バキボキ
獅子は我が子を千仭の谷へ突き落とすらしい。
じいさんによってマジで谷に突き落とされた俺には、たかが城壁の一つや二つどうということはない。
言峰「流石だな、衛宮 切嗣」
イリヤの部屋
イリヤ「う・・・ごほっ」
イリヤ「はぁ、はぁ……」
もう、体が録に動かない。気を抜けばそのまま意識を失ってしまいそうだ。
イリヤ「わかってたけど、辛いわね・・・」
お母様も、こんな風に少しずつ壊れていったのかな?
ホムンクルスの運命
短い寿命
十年をかけて鍛えた力と技
今までの人生が脳裏を駆け巡る
イリヤ「あーあ、このままじゃ間桐の一人勝ちね。アインツベルンは結局すべての時間をムダにしたってわけか」
まぁ、本当の所私は聖杯なんてあまり興味ない。
ただ、ホムンクルスの穴に残される大勢の同類達が気になる。
勝ちのこって、第三魔法を手に入れて、全ての道程をクリアしたら――――
イリヤ「このお城をみんなの家にしようと思ってたのに」
大きく改装して、遊園地みたいにしようと考えてた。
中央には大きな私の像が建ってて
イリヤ「なんて名前がいいかなぁ」
そこまで考えて、それが全部叶わぬ夢だと気付く
イリヤ「……何考えてるのかしら」
イリヤ「バカみたい。どうせ死ぬのに」
こんな叶いもしない夢
あの性悪女が聞いたらさぞ嫌な笑顔を浮かべるだろう。
……でも
イリヤ「シロウだったら」
――――あのお人好しが聞いたら、どんな顔をするだろうか
ドゴォオオオオオオオオオ
イリヤ「……はぁ」
噂をすれば、もう
イリヤ「やっぱり来るのね」
シロウ
アインツベルン城
大広間
凛「少し見ない間に随分雰囲気が変わったわねえ?」
凛「イメチェンにしては気品に欠けるわよ?」
凛「桜」
桜「あれ、姉さんですか」
桜「すっかり忘れてましたよ」
桜「あと、前から思ってましたけど、その髪形、似合ってないですよ?」クスクス
凛「無駄だと思うけど、手を着いて泣いて謝るなら今なら赦してあげるわよ?」
桜「謝る? 私が何に対して謝るんですか? 私は何も悪くないんですよ」
桜「悪いのは、私に優しくないこの世界の全て」
桜「私はただ変わろうとしてるだけ。より強く、誰にも傷つけられない存在になろうとしてるんです」
ズズズズズ
黒い影が桜の周りに現れる
あれが、士郎を殺しかけ、イリヤを打ち負かした呪いの塊
桜「もう、姉さんなんて眼中にないんですよ……」
桜「おとなしく食べられてくれませんか?」
凛「お断りよ」
桜「なら、苦しんで死んでください♪」
オオオオオオオオ!
凛(あまり長くは持ちそうにない)
凛(セイバー、早くしなさいよね!)
アインツベルン城
外周
言峰「さて、囮が機能しているうちに我々も侵入するとするか」
士郎「あれだけ派手にやればいけるさ」
士郎「ふんっ!」
ババッ!
スルスルスル
言峰「壁を駆け登るか。やるな」
士郎「急ぐぞ!」
言峰(やはり、あの男の意思を受け継ぐだけはある)
言峰「見極めさせてもらうぞ」
士郎「ここら辺でいいか」
士郎「ガムテープ……っと」ペタペタ
士郎「ふんっ!」
ゴシャ!
士郎「よーし、侵入成功」
「まるで空き巣ね」
士郎「うおっ!?」
イリヤ「また会ったね、シロウ」
士郎「イリヤ! 無事だったか……!?」
先日死闘を繰り広げた白い少女
そのあるはずの細腕の片方が、無い
士郎「イリヤ、腕が」
イリヤ「ああこれ? ちょっとしくじっちゃった」
士郎「しくじったって……」
イリヤ「そんなことより、あなた何しに来たの?」
士郎「何って、イリヤと藤ねぇを助けに来たんだ」
イリヤ「ふじ……ああ、あの女の人ね」
イリヤ「私はいいから、その人を助けたら? 多分地下にいると思うよ」
士郎「いや、イリヤも一緒に来い」
イリヤ「シロウ、バカ? こんな死に損ないの足手まといを連れて逃げ切れると思ってるの?」
士郎「俺だけじゃ無理だったさ。でも、今は一人じゃない。色んな人が助けてくれるから、ここまで来れたんだ」
イリヤ「……」
士郎「行こう、イリヤ。俺たちはまだ解りあえるよ」
???「残念だが、逃がすわけにはいかん」
士郎「誰だ!」
振り向くとそこには、黒い影のような装束と、不気味などくろの仮面をした男がいた。
イリヤ「早いわね、アサシン」
士郎「アサシン、こいつが」
真アサシン「ご老人の命により、その命」
真アサシン「――――貰い受ける」
今日はここまで
HFルート早く劇場で見たい
間桐邸
地下通路
セイバー「上が騒がしくなってきた・・・。どうやら始まったようですね」
セイバー「・・・」
数分前
セイバー「・・・ここも違う。タイガはどこにつかまって――――」
チョイチョイ
セイバー「うん?」
リズ「こっち」
セイバー「あなたは・・・!」
--
セラ「これが地下室の鍵です」
セイバー「感謝します。しかし、なぜ私に?」
セラ「敵とはいえ、貴女方がイリヤ様を救いに来たのは紛れもない事実」
リズ「礼には礼をもって返すのがスジ」
セイバー「あなたたち二人はどうするのです?」
セラ「私たちはここで待ち続けます。イリヤ様がいつでも帰ってこられるように屋敷を管理するのが私たちの務め」
リズ「イリヤ、強いから」
セイバー「・・・信じているのですね。あの子はいい従者を持った」
--
身分など関係なく、誰もが手を差し出し、協力する。
かつて自分が王の座にいた時ですら、このようなことは滅多になかった。
セイバー(これもまたシロウの頑張りの結果なのかもしれない)
セイバー「・・・! 灯りが」
セイバー「あの扉か!」
セイバー「・・・‼」
ぼんやりと蝋燭の炎が部屋を照らす。湿った壁に反射した光が、ぬらぬらとしたソレをはっきりと映し出す。
瞳から光を失ったナニカの群れが、床に力なく転がる誰かに群がる。
女であることを捨てた自分は一瞬で理解した。目の前の者どもが行っている行為を
その醜悪で、吐き気を催す最低の行いを
セイバー「貴様ら・・・!」
湿った空気を薙ぐ音が聞こえ、ナニカの群れを吹き飛ばす。
そしてその中央に、未熟な主の姉が
衣服を破かれ、白濁に濡れた無惨な姿で倒れていた。
セイバー「タイガ」
大河「」
まるで死んでしまったかのようにピクリとも動かない。
虚ろな目は暗い天井を見つめ、その空の表情からは何も読み取れない。
セイバー「こんな・・・。惨いことを・・・!」
そう言いつつもセイバーの動きは迅速だった。
すぐさま大河を抱え、扉から駆け出る。
従者たちからイリヤスフィールの居場所は聞いている。あとは一刻も早くシロウたちと合流しなければならない。
セイバー「やはり持ってきて正解でしたね」つトランシーバー
聖杯戦争とはいえ、何もアナログな魔術が全てではない。
こういった機械の取り扱いは切嗣から教わっていた。
問題は、上で囮を買って出たあの少女が使えるかどうかだが
――――はぁ? 馬鹿にしないでよね! こんなおもちゃの一つや二つすぐに使って・・・
――――ねぇ、セイバー。これスイッチどこ?
――――は? ここをひねるの? 周波数? チャンネル?
・・・激しく不安になってきた
士郎「アサシン・・・。こいつが間桐のサーヴァント」
イリヤ「シロウ、早く逃げたほうがいいわよ。能力は低くてもあなたが勝てる相手じゃない」
真アサシン「逃げられては困るのだ。この戦争も大詰めだというのに」
黒い髑髏が低い声で囁く
確かに、イリヤを連れて戦える相手じゃない。
しかし今日は戦いに来たわけではない。
あくまで――――!
士郎「イリヤ、掴まれ!」
逃げに徹する!
ババッ
真アサシン「むっ!」
窓から脱出する士郎とイリヤ。これにはさすがのアサシンも驚愕する。
どうみても普通の少年が為す行動ではない。やはりマスターの一人。油断はできない
すぐさま後を追おうとするが――――
言峰「残念だが、こちらが相手になろう」
真アサシン「・・・新手か」
大広間
黒い影が凛の体を掠める。そのまま壁にぶちまけられた影は酸をかけられた紙のようにぼろぼろと崩れ落ちる。
桜「くす、姉さん? 避けてばかりじゃ私には勝てませんよ?」
凛「ちっ・・・!」
宝石を何個か使用するも、すべてあの影に飲み込まれる。
誰が見ても明白な、力の差があった。
桜「ああ、あの姉さんが、私相手に苦戦するなんて・・・。どうですか? 私、こんなにも強くなったんですよ?」
凛「――――ええ、そうね。あんたは強い。おそらく私を遥かに上回る」
自らを下に置く発言
しかし、その顔にはなお崩れない余裕と優雅さ
片手を腰に当て、明らかに見下す視線を送る、遠坂 凛
桜「・・・なんですか、それ」
桜「これから私に殺される人の顔じゃないですよ?」
凛「あら、新しいおもちゃを手に入れて粋がるお子様相手になんでムキにならなきゃいけないのかしら?」
凛「悪いけど、眼中に無いのはこっちの方なのよ」
桜「何を・・・!?」
そこまで言って違和感に気づく。
いくら優秀とは言え、凛一人で自分を相手にするのはあまりにも不利。
それを承知でここまで来たのなら――――
臓硯「この戯けが、まだ気づかぬのか」
凛「・・・!」
桜「お爺様・・・」
臓硯「衛宮の小倅とその従者はとっくに侵入を果たしたぞ? 全く、余裕に見えてその内心では姉への対抗心でいっぱいか」
桜「お爺様・・・。申し訳ありません。すぐに追っ手を」
臓硯「そうするがよい、すでにアサシンを向かわせたが、あの小僧め、いつの間に代行者と手を組んだか」
凛(士郎、うまくいったかしら)
ピーピー
凛「!」
臓硯「む?」
『リン、タイガを発見しました。』
凛(セイバー・・・)
ザザッ
『遠坂! 聞こえたか!? こっちもイリヤを救出した!』
『すぐにここから逃げるぞ!』
臓硯「・・・」
桜「・・・」
凛「・・・」
凛「じゃ、そういうことで♪」
宝石を床に叩き付ける。その瞬間目も眩む閃光が広間を覆い尽くし、一瞬だが桜の視界を奪った。
閃光が収まり、視力が戻るころにはすでに凛の姿は消えていた。
桜「くっ・・・! あの人、最初から戦う気なんて全く・・・!」
桜「どいつもこいつも・・・! 私を馬鹿にして・・・!!」
臓硯「いい加減にせぬか、桜」
臓硯「いくら力を手に入れても、そう頭に血を登らせていてはいつまでたっても姉には敵わないぞ」
臓硯「この際遠坂の小娘は放っておけ。今は聖杯を取り戻す事だけを考えろ」
臓硯「幸いにも猟犬におあつらえ向きの者を飼っているだろう?」
桜「・・・わかり・・・ました・・・」
桜(だめ・・・こんなんじゃ、いつまでたっても変わらない・・・!)
桜(もっと・・・。もっと強く・・・)
ぎぎぎぎぎぎぎぎぎっぎががっがっがっぎぎggっぎいggggggg
ggggggッガッガアアガアガッガアガガギギギギギgg
ガガggッギギッギギイギギイギイイイギイガガイガイイイギギイg
ッガアガガガガガガgッガgっぎぎぎぎぎぎいぎいぎいgggggg
桜「――――ぅあっ! ああああああ」
ズズズズズズズズズズ
走る
ひたすら走る
今までにないスピードで森を駆け抜ける
イリヤを抱えているというのに、なんてスピードだ。
一体どうなっちまったんだ? 俺の体は
イリヤ「速いわねー。百メートル五秒ペースじゃないの? これ」
士郎「そんなにか・・・?」
おかしい。
いくら連日の特訓を続けてるとは言え、こんなに速く走れるものだろうか
そういえば、左手がじくじく痛む
士郎「・・・」
イリヤを抱える左手を見る
聖骸布に覆われた左手
アーチャーの残した左手
士郎「まさか、これが」
その時、背後に寒気を感じた
士郎「――――!」
イリヤ「シロウ、気づいた?」
どうやらイリヤも気づいたらしい。だが、俺はこの寒気を以前にも感じた事がある。
そう、なぜなら――――
士郎「俺が、初めて、死を覚悟した相手」
減速し、立ち止まる
この相手に速さで勝つことは不可能だと知っている。
ならば、少しでも体力を温存しなければならない。
士郎「・・・久しぶりだな」
士郎「ランサー」
ランサーオルタ「・・・」
今日はここまで
次回、因縁の相手との激突(野球感)・・・!?
こっそり更新
かつて深紅の色が印象的だった魔槍は禍々しい赤黒に変色しており、神々しさは見受けられない。
そんな変わり果てた宝具が獲物の血を啜らんと士郎に襲い掛かった。
イリヤ「シロウ!! 放して!」
士郎「――――ッ大丈夫だ!!」
イリヤを抱えたまま身を翻す。
空中で一回転しながら後方に下がった俺は、槍の使い手である。ランサーを見やった。
ランサー「………」
士郎「あれがランサー?」
前見た時とは随分と変わった。
生気の無い金色の瞳、青みがかった黒色の鎧。
なにより以前に感じた苛烈な闘志と殺気が無い。
イリヤ「聖杯に汚染されてるわ。今のアレはあの性悪女の飼い犬よ」
士郎「そんな・・・」
殺されかけたとはいえ、ランサーとは間違いなく英霊に相応しい空気を纏っていたはずだった。
それがこうも変わり果ててしまうとは。
士郎(聖杯って何なんだ・・・? ただの願望器じゃないのか・・・?)
最初から胡散臭いとは思っていたが、いよいよ怪しくなってきた。
切嗣がなぜ聖杯を破壊したか。その理由がはっきりしてきた気がする。
イリヤ「どうでもいいけど放してくれるかしら?」
士郎「イリヤ!?」
俺の腕に抱えられていたイリヤが身を捩って手から離れる。
士郎「イリヤ! 危険だ!」
イリヤ「あいつの狙いは私。シロウはさっさと逃げれば?」
士郎「だからそんな事でき――――」
――――目の前に、赤黒い槍
イリヤじゃなく、俺――――
士郎「ッうぉおおおおお!?」
とっさに黒鍵を展開し、間一髪の所で槍をいなした。
ビリビリと衝撃が手に伝わる。余りの急な攻撃に冷や汗が出る。
イリヤ「・・・どういうこと? なんでシロウを狙うの?」
片手を顎にやり、首をかしげるイリヤ。
そんなの俺が聞きたい。
だけど聞く間もなく再び槍を構えたランサーが――――
「――――シロウッ!!」
横合いから聞こえた明瞭な声とともに、セイバーが見えない剣を振りかぶった。
頭部をたたき割ろうとしたセイバーの一撃は、ランサーの無造作に放った槍の一撃で弾かれた。
それでも数瞬の間が空き、俺はセイバーとともにランサーとの間合いを開く。
士郎「セイバー! 済まない!」
セイバー「礼を言うのは早いですよ。今はランサーをなんとかしないと」
士郎「ああ。・・・それで、藤ねぇは?」
セイバー「……タイガは、無事です。今はリンが保護しています」
士郎「そうか・・・!」
良かった、藤ねぇが無事で。
それなら尚更ここにいる理由は無い。
士郎「セイバー! 頼めるか!?」
セイバー「任せて下さい。シロウはイリヤスフィールを連れてここから――――」
ブォン!
セイバー「何!?」
士郎「こいつ、また!」
またしてもランサーはイリヤやセイバーを無視して俺に襲い掛かってきた。
黒鍵を両手で構えて必死に迎え撃つ。
アーチャーの左手の影響か、俺の身体能力は視力にまで及んだのか、マシンガンのようなランサーの連続攻撃をなんとか見切る事が出来た。
――――不意に、ランサーの金色の目が俺と合う
いや、ランサーは俺の目だけじゃなく
俺の、左手――――
士郎「――――まさか」
こいつ、もしかして――――
士郎「・・・セイバー、イリヤを連れて先に逃げろ」
セイバー「シロウ・・・!?」
今、解った。
こいつは、ランサーは桜の走狗に成り下がっても
その魂の奥底にある、矜持は――――
士郎「こいつは俺と、アーチャーと決着を着けたがっている」
セイバー「な・・・!?」
騎士の矜持は、そのままにある
ズキリ
左手が痛み出す。
士郎(アーチャー、お前にもわかるのか・・・?)
奴が俺たちと決着を、雌雄を決そうとしていることを。
――――ならば・・・・!
士郎「投影、開始」
黒鍵をしまい、黒白の中華剣を投影する。
セイバー「シロウ・・・! いくらなんでも無茶です!」
士郎「あいつが俺だけを狙うなら都合がいい。セイバー達はその間に逃げ切ってくれ」
セイバー「ですが・・・!」
イリヤ「シロウ、あなたってほんとバカね? 一人であれに勝てるわけないわよ」
士郎「あんなになってまで俺と戦おうとしてくれたんだ。それに応えなくっちゃな」
それに
士郎「今の俺は一人じゃないさ」
イリヤ「……!!」
苦笑した少年の面影に、かつて戦った白髪の戦士の影が見えた。
イリヤ「・・・行こう? セイバー」
セイバー「イリヤスフィール・・・?」
イリヤ「こうなったシロウは梃子でも動かないわよ。まったく、誰に似たのかしら?」
セイバー「・・・」
きっと、あの頑固者に似たに違いない。
ふう
ならば、イリヤスフィールの言う通り、彼はどんな言葉にも首を縦には振らないだろう。
セイバー「・・・シロウ、あなたの我儘には振り回されっぱなしです」
士郎「ああ、悪いなセイバー」
セイバー「この借りは後程返して貰いますよ? ・・・主においしい食事で」
士郎「任せろ、とびきり旨いの作ってやる」
セイバー「・・・約束ですよ!」
そう言ってセイバーはイリヤを抱えて森の奥深くに消えた。
――――これでいい。あとは
士郎「待たせちまったな」
こいつとの、決着を
ランサー「・・・構わねえさ、待ちに待った戦場だ」
表情を変えずに言い放つ。
しかし、その声色には隠し切れない喜悦があった。
ランサー「体は走狗になり果てても、あの小娘如きにこの誇り、足蹴にされてたまるか」
士郎「・・・やっぱり英雄だな、お前」
ランサー「クー・フーリン、それが我が真名だ」
槍を構えて俺に対峙する。
こちらも負けじと双剣を構える。
ランサー「もう誰にも邪魔はさせねえ・・・」
ランサー「行くぞ小僧! 弓兵!」
――――勝負!!
突出したランサーの槍を避け、左の黒剣――――莫耶を振るう。
上段からの一振りは身を捩ったランサーにあっさり避けられ、代わりに強烈な蹴脚を浴びせられる。
士郎「ガハッーーーー!」
ランサー「懐に入ればなんとかなると思ったか? 甘ぇよ」
再び槍が迫る
今度は――――間に合わない
士郎「グッ!?」
わき腹を抉られた。
灼熱感とともに激痛が全身を駆け巡る。
ランサー「ほら、どうした? さっさと立たねえと死んじまうぜ?」
槍を握る拳に力を込め、さらに押し込む。ズブズブと肉が裂け、引きちぎれる音が耳をつんざく。
士郎「ぐぅ・・・あああ!」
滅茶苦茶に振り回した干将がランサーの眼前を虚しく空振る。
ランサー「前みたいにはいかないぜ」
士郎「ぐ・・・!」
ランサー「なんだおい、必死だな――――」
――――左の黒剣が、無い
ランサー「――――!」
背後から迫る回転音――――!
ランサー「小賢しい!」
すぐさま士郎から槍を引き抜き、後ろから襲い来る回転音の正体
莫耶を打ち払う。
――――それに気を取られた瞬間
士郎「だああああああ!!」
猛然と迫った士郎が頭部を叩き割らんとランサーに迫り――――
ガギッ!
士郎「――――くっ!」
ランサー「おお、危ねえ危ねえ」
槍を横に構えたランサーに、紙一重で受け止められた。
ランサー「惜しかったな? 俺じゃなかったら今頃脳天を・・・」
ググッ
ランサー「お、お?」
眼前の干将が、沈む
メキメキメキ
士郎「ぐ・・・おおお!!」
残った左手も使い、両手でしっかりと干将を握りしめ、槍ごとランサーを叩き割らんとする。
全身の筋肉を総動員し、ただひたすらに剣を押し込む。
――――そして、じわじわとだが、ゆっくりと槍が押され始めた。
ランサー「おいおい・・・マジかよっ!」
士郎「この、まま、沈めぇ・・・!」
ギリギリと剣と槍が音を立て、決死の鍔迫り合いが続く。
士郎の額には今にも切れそうな青筋が浮かび上がり、食い縛った口からは血が溢れ始めていた。
ランサー「なん、つうバカ力だ・・・!」
仮にも怪力のスキルを持つライダーに競り勝った男である。
単純な力押しは長年のギプス生活で鍛えられている士郎に分があった。
ランサー「――――だがな!」
ギャルン!
士郎「!?」
槍を回され、バランスを崩した士郎は前につんのめる。
そして、その隙を逃すランサーではない。
ランサー「もらった!」
顔面に槍を突き出す。
――――回避不能
ザグッ!
――――しかし、今の士郎もまた、普通ではない
士郎「・・・ッ!」
ギギギ……!!
ランサー「おおっ!?」
顔面を突き破ろうとした一撃は、“歯”によって受け止められ――――
士郎「――――!!」
すぐさま黒鍵を両手に展開し、左右に切り払う――――!
ザシュッ!
ランサー「が・・・!」
――――僅かに浅い!
ランサー「ぐ・・・なめるな!」
横に振るわれた槍が士郎の胴を薙ぐ
士郎「ぐ!! ううっ!」
痛みに耐えて距離を取る。
服が裂け、ボタボタと赤い血が流れる。
――――だけど、生きてる。
戦える
士郎「まだまだ・・・!」
ランサー「ハッ! 面白い奴だ! 暫く見ない間にこれ程成長するとはな!」
ランサーの賛辞を無視して再び双剣を出す。
右足を振り上げる。
ズシャアッと砂を巻き上げ、左の黒剣をランサーに向かって投擲する。
ランサー「あいつの真似事か? だがそんなもので――――」
――――ヒュイイン
ランサー「! 消え――――」
ガッ!!
右肩に突き刺さる、黒剣
ランサー「ぐ、おぉ・・・?」
士郎(これで、決まれ――――!)
――――バゴン!!
小規模の爆発がランサーの右肩を吹き飛ばす。
右腕は今だ繋がってはいるが、傷口から覗く炭化した肉が痛々しい。
ランサー「ぐ、う・・・! ぬかったぜ! 貴様も武器を爆発できるとはな!」
士郎「・・・さあな」
一撃で決めるつもりだったが、威力が足りなかった。
――――だが、今の俺なら上出来だ・・・!
このままの勢いでもう一度投影を・・・
士郎「投影・・・!?」
――――背中に鉄串をいれられ、かき回されたかのような激痛
士郎「が、がぁあああああああ!?」
地獄のような激痛、灼熱感
士郎「ぐ、ぐうう・・・!」
失敗・・・!?
いや、違う、手応えははあったはずだ。
一体何が?
視界がぼやける。
皹が入ったかのように砕ける。
そうこうしている間にもランサーが・・・!
ランサー「いつつ・・・ったくどうした! 元気が無いみたいだな!」
士郎「くっ!」
仕方なく黒鍵を展開し、槍を打ち払う。
しかし――――
士郎「・・・限界か!」
宝具に対してはあまりに脆弱
中の部分から砕け散る。
ランサー「武器が砕けたな、さっきみたいに剣を召喚しないのか?」
士郎「くそっ!」
出来ればとっくにやってる! だがやろうとするたびに激痛が体を襲う。
士郎「投影・・・! ぐ、ぐあ」
・・・だめだ! 何でだ!?
――――まさか、これが俺の限界なのか・・・?
士郎「はあ、はあ・・・・」
残る一本の黒鍵を強化し、ランサーに対峙する。
しかし相変わらず視界はぼやけ、足元がフラフラする。
ランサー「なら、こっちからいくぜ。――――そらっ!」
ランサーの連撃が来る
――――見えない
士郎「く、う!」
体を屈め、急所だけはなんとしても守り抜く。
時に腕や足を抉る槍が猛威を振るい、ついに――――
ランサー「亀のように縮こまってんじゃ、ねえっ!」
ガギッ!!
士郎「――――!」
ガードが崩された。
がら空きになった胴体目掛けて槍が突き出される。
狙いは間違いなく心臓。
――――死
ガシッ
士郎「・・・え?」
それは、自分でも全く気が付かない、意識の間を通ったような行動だった。
聖骸布に包まれた左手が、まるで意思があるかのように槍を掴み取った。
士郎「――――アーチャー?」
――――ズキリ
左手が痛み出す。
――――ズキリ、ズキリ
まるで呼びかけるかのように痛む。
――――「使え」と。
士郎「・・・」
震える右手が聖骸布に触れる。
今の俺がこれを解いたらどうなるかわからない。
最悪、死ぬかもしれない。
だけど――――
アーチャー『これで救われる・・・』
あいつの言った言葉が本当なら・・・!
士郎「俺はあいつを信じる!」
――――解放!!
バキリ!
――――瞬間、世界が崩壊した
士郎「う、おおおおおおおおおおおお!!」
ナニカが駆け巡る。
白い
赤い
黒い
様々なものが体中を駆け巡る。
それは暴風のようで、濁流のようにも感じた。
士郎(これは・・・あいつ自身、あいつそのもの・・・?)
アーチャーと呼ばれたあいつが集積した、膨大なまでの経験。
脳髄が焼き切れる
瞳が潰れる
体中がバラバラになる
それでも、何かが目の前に居るのがわかる。
士郎「あ・・・ああ」
奔流の彼方にある何かに手を伸ばす。
掴もうと必死に伸ばす。
それでも届かない。
ああ、意識が飲み込まれる。
もう何も考えられない。
何も――――
吹けば飛ぶような意識の
その、先に
――――あいつは、立っていた。
――――まるで当然とばかりに。
士郎「あ・・・」
蔑むように、見下すように。
それでもなお、俺が辿りつくのを待つかのように
その赤い背中を見せ、悠然と立っていた。
――――ついて来れるか?
試すかのように言葉を投げかけられた。
士郎「……!!」
答えなど、言うまでもなかった。
俺は、あの赤い背中に手を伸ばし
――――一気に駆け抜けた。
ランサー「おまえ、その手は・・・」
浅黒い左手を現した士郎
その瞳には先程の狼狽はない。
ランサー「・・・つくづく驚かされるぜ」
ランサー「まさか、俺との戦闘中で一皮剥けるとはな・・・!」
士郎「・・・」
思考は冴え、自身の戦闘能力は把握した。
創造理念
基本骨子
構成材質
制作技術
憑依経験
蓄積年月の再現による物質投影
――――ああ、そうか、そういうことだったのか。
『俺たち』に受け継がれた技術は、血と汗と涙の果てにあった。
乏しい才能を不屈の根性と炎の努力で打ち破った、背番号16番
あいつがいつ彼と知り合ったのか、それはどうだっていい。
親父がいつ彼と知り合ったのか、それはわからない。
だけど、『俺たち』は彼と同じだった。
だから出会った。
それは必然だったのだろう。
目を背けたいまでに残酷な運命に立ち向かった、不屈の男たち。
俺も、彼らのように――――
――――不死鳥のように、羽ばたこう
ランサー「・・・どうやら、次で終いのようだな」
ただならぬ雰囲気に思わず固唾をのむ
迂闊に触れればタダでは済まない。
代償に命を持っていかれる。
ランサー「・・・いいな! そうだ! 俺はこれを待っていたんだ!」
ランサー「賢しい策略も小細工もない! 純粋な戦闘をずっと待っていた!」
――――感謝するぞ小僧、そして弓兵!!
ランサー「貴様になら我が宝具、出し惜しみする理由もない!」
ランサーを中心に莫大な魔力が集中する。
集中した魔力は更に赤黒い魔槍に集まり、必殺の投擲の予兆の奔流が迸る。
士郎「・・・」
来る。
奴の宝具、必殺の一撃が。
対抗する俺の持ち手は二つ、一つは左手から送られる情報より、“無限の剣製”から宝具を引き出す。
もう一つはアーチャーが結晶させた“魔球”。それの最終段階、そして全ての元となった送球法。
複製できる宝具は俺が、今まで見たものとアーチャーが記録したもののみ、ランサーに対抗するのに最も適したものを検索し、投影する。
だが、注意せよ
投影とは諸刃の剣
一度でも行使すればそれは自らの――――
士郎「――――今更だろ」
――――破滅、来るなら来やがれ――――!
士郎「投影、開始」
全魔力を左手に叩き込む
使えるのは奴に抗う術
ケルトの英雄、光の御子クー・フーリンの魔槍。
それに打ち勝つ術を顕現する――――!
士郎「今こそ俺はあいつのように・・・! いや!」
士郎「エミヤシロウを超える!!」
まだ見ぬ柄を掴み、それは世界に複製された!
ランサー「――――それが、お前の切り札か」
大アイアスの至宝
ロー・アイアス
熾天覆う七つの手袋!!!
――――複製されたのは、四枚の花弁を持つ鮮やかなグローブ
士郎「これがイリアスの伝説の盾・・・!」
ランサー「いや、どう見ても野球のグローブだろ」
見た目はともかく、それに込められた力は本物。
ランサーは油断なく士郎を睨む。
ランサー「最初から変な奴だと思ってたがなるほど、規格外なのはあの弓兵譲りか」
士郎「・・・来い、お前の全てを受けきってやる」
ランサー「いい目だ! 今こそお前は俺と並んだ!」
ランサーの目に殺気が
全身から闘気が漲る。
いよいよ来る。
奴の必殺の一撃――――!
ランサー「この一撃、手向けとして受け取るがいい!」
ゲイ・ボルク
突き穿つ死翔の槍!!!
――――それは、最早槍ではなく、一筋の光明だった。
士郎「勝負だ! ランサァアアアアアアアア!!」
――――展開された四枚の花弁が心臓を抉る魔槍の一撃を受け止める。
すぐに、一枚目の花弁が砕かれた。
士郎「ぐ、ううおおおおおおおおお!!!」
体が、魔術回路が悲鳴を上げる
だが構うものか!
足を踏ん張り、歯を食いしばり、ただひたすら耐えろ!!
上半身の服が左袖から破れ散る。
露わになった鋼鉄の肉体に血管が浮かび、全精力を投入して眼前の魔槍を迎え撃つ!
――――二枚目、まだだ、まだ
赤い牙が迫る!
――――三枚目、耐えろ、耐えるんだ
俺の心臓目掛けて襲い掛かる!
ランサー「楽しかったぜ小僧!! あの世で誇りな!」
――――四枚目、ついに――――
士郎「掴みとれ! 勝利を!」
四枚の花弁全てを破壊した魔槍が、ついに士郎の心臓に達そうとした瞬間――――
ランサー「――――バカな」
士郎「ぐ、うううおおお・・・!」
グローブ状のロー・アイアスが、その本来の役割
キャッチを果たした。
ランサー「俺の、宝具を、掴んだ・・・?」
士郎「グローブってのはこう使うんだ・・・!」
士郎「これで――――アウトだ!!」
防がれた呪いを、当人に返す!
魔槍を右手に持ち替え、三塁からホームへ――――!
士郎「魔 槍 球 ! ! !」
――――かつて、幻の名三塁手と謳われた伝説の野球の鬼
全ての魔球の祖となった危険球
それの士郎版がランサーに放たれ――――!
ランサー「馬鹿か! テメエの宝具で死ぬ奴があるか!」
ランサー「こんなもん軽く取って――――」
――――魔槍が、不自然にホップした
ランサー「な、あ――――!」
ザシュッ!!
士郎「――――ゲームセットだ、ランサー」
右拳をグローブに叩き付ける。
ランサー「・・・ああ、みたいだな。ごふっ!!」
心臓というホームに突き刺さった魔槍が物語っていた。
士郎の勝利を
今日はここまで
なかなか更新できなくてごめんなさい
仕事で熊本行くかもしれねえ・・・。
ちょっとだけ更新
ランサー「くそ、負けたぜ小僧……」
胸に槍を突き立てられたまま大の字に倒れ呟く。
しかし、その声には何処かやりきったような達成感と穏やかさがあった。
士郎「……紙一重、さ」
士郎「お前の右手が万全だったら間違いなくやられてた」
ランサー「ハッ! 布石を積んだのはお前だぜ?・・・誇れよ、俺に勝ったのは紛れもないお前の実力だ」
士郎「ランサー・・・」
ランサー「おいおいなんて面してんだ、勝ったってのに辛気臭ぇ。もっと胸張れよ」
ランサー「にしても・・・あーあ、まさか昔と同じ殺られかたで死ぬなんてな。やっぱ呪われてんのかねぇ?」
ランサー「お前も女と詩人には注意しろよ?」
どこまでも軽い調子だった。
とてもこれから死ぬ男には見えない。
士郎「・・・やっぱ凄いやつだよ、ランサーは」
ランサー「へ、今更気づいたか? っておい?」
いぶかしむランサーを無視し、肩を貸して立たせる。
ランサー「何を・・・ってああ、そういうことか・・・」
近くにあった巨石にランサーを寄りかからせる。
ランサー「わかってるじゃねえか、そうだよな、俺は何時だって・・・」
――――死ぬときは立ったままでって、誓ってたもんな
士郎「俺はもう行く。・・・お前と戦えて良かったよ」
ランサー「ありがとよ、坊主」
士郎「士郎」
ランサー「ん?」
士郎「衛宮 士郎、それが俺の名前だ」
ランサー「・・・そうか」
こんなガキが、と思っていたが、いつの時代もガキの成長は恐ろしくも頼もしい
かつてのコンラのように、次々と次代の者が自分を越えて飛び立って行くのだろう。
――――呼ばれて来て正解だったぜ
ランサー「シロウ」
士郎「ああ」
――――負けんじゃねえぞ
士郎「・・・ああ、負けないよ」
ランサーの最後の言葉を聞いた俺はそのまま後ろを向き、森の奥へ駆け出した。
振り返る事はしない。
あの偉大な英雄の死は本人だけの物だ。
俺はランサー、クー・フーリンから勝利と誇りを貰った。
アーチャーの左手のように
キャスターの短剣のように
慎二の熱き魂のように
戦いの中で受け継いだ数々の物が俺の中で渦巻く。
士郎(俺はもう、止まらない。ただ前に向かって進むだけだ)
それが、バトンを渡してくれた人達に対する最大の礼だと思うから。
そして、胸に去来する奇妙な感覚。
――――砂時計の砂が、落ち始めたような感覚
――――繋ぎ止めていた縄が、千切れ始めたような感覚
それは、近い将来俺に訪れる未来を予感していたのかもしれない
ちょっとだけ更新終わり
実はつい最近まで伝説のクーフーリンの最期を知らなかったりする。
日本のヤマトタケルみたいに複数の英雄の伝説を一人の人物にまとめたのかね?
かっこよすぎるだろ兄貴・・・
死ぬときまでかっこよすぎるだろ・・・
まどろみの中で、私は過去を幻視する
『ほら、あなた、泣いているもの』
違う、私は悲しくて泣いているのではない
これは後悔
どうせ死ぬなら自分の手に掛けたかったという後悔
私に、人並みの哀しみなど、存在しない――――
言峰「――――時間をかけすぎたな、行くとするか」
桜「どこへ行くんですか?」
言峰「……間桐 桜か、何の用だ?」
桜「邪魔物は一人もゆるさない……」
言峰「大きく出たな? 今まで何も行動しなかったお前が」
桜「それは私が弱かったからです」
桜「もう、私は誰にも負けません……だって、この先輩が私の側にいてくれるから」
言峰「そのギプスがお前の心の拠り所か?」
言峰「衛宮 士郎だと? おろかな、自分でも気づいているのにまだ目を背ける気か?」
桜「……」
言峰「いくらその機械を奴に見立てても、現実は容赦をしないものだ。奴はお前ではなく、あの教師を選んだ、それが全てだ」
桜「……黙りなさい」
言峰「正気と狂気の狭間にいると見せかけて、お前は最初から"正常"だ。その嫉妬も憎悪も憤怒も全てお前の正気から産み出されたものだ、何ら気にすることはない」
桜「黙れと言ったんです」
ボギュ!
言峰「――――ご、ふっ!」
桜「よくしゃべりますね、神父さん。でも、おしゃべりはおしまいです」
言峰「が、ああ」
桜「あの金色を食べた時に感じました。あなたはまともに生きてる訳じゃないって」
桜「こうやって、ほら、聖杯の主導権を握ってる私が念じるだけで、あなたの黒い心臓を潰す事だってできるんですよ?」
言峰「く……」
桜「さようなら神父さん、今度生まれ変わる時はまともに生きられるといいですね」
言峰「……」
残念だ、此度の戦いは想定外に面白くなると確信していたのに、結末に辿り着けずに果てるとはな。
それにしても、あの黒いギプスは素晴らしい。まるでこの世の憎しみ全てを肯定しているかのようだ。
――――そうだな、出来れば私も、アレを着けて――――
桜「――――うぅっ! あ、あ!」
桜「そん、な……ランサーが、先輩に……?」
言峰「……」
――――どうやら、『神』は私に生きろと仰っているらしい
桜「だ、め……! 入って……こないで」
私が死んでしまう
私が聖杯に飲み込まれる
それだけは、まだ
桜「まだ、何も残してない……!」
私の苦しみを世界にぶちまけるまで
桜「消えてたまるもんですか……!」
桜「……」
桜「逃げましたか……まあいいでしょう、放っておいても問題はありません」
――――せんぱい
――――もうすぐ何もかも終わります
――――せんぱいは、きてくれますか?
アインツベルンの森
入り口
セイバー「シロウ……!」
衛宮邸にイリヤスフィールを保護した。遠坂 凛も付いている。後顧の憂いはない。
今は一刻も早くマスターの元に馳せ参じなくては――――!
セイバー(パスは繋がっている! まだ、シロウは生きている!)
思えば、あの少年は聖杯戦争を通じて目まぐるしい成長を遂げた。
しかし、その早すぎる成長に一抹の不安を覚える。
――――まるで、燃料が尽きんばかりに燃え盛る炎
後などない、生命を燃やして輝く赤い炎
セイバー(時々思っていました。私には、貴方が死に躊躇することなく突き進んでいるように見えた)
嫌な予感がする
ランサーに討たれる事ではない
それ以上にあの少年が進む道が計り知れないことに不安を禁じ得ない。
セイバー「シロウ」
一度は体を重ねた者同士
ただのマスターとサーヴァントという関係ではない、大切な存在
死なせたくない
死なせたくは――――
士郎「――――どうした……? セイバー、そんなに必死な顔をして……」
セイバー「……シ、ロウ?」
己のマスターはいつの間にか、目の前に佇んでいた。
だが――――
セイバー「シロウ、なのですか?」
士郎「……ん? 何言ってるんだ……?」
少し
わずかほんの一時間ほど離れていた
それなのに
セイバー(これは……シロウなのか……? まるで、違う)
何故、こうも静寂を纏っているのか
――――あの、全身を覆う赤い炎が見えない
これではまるで
士郎「どうした? セイバー」
セイバー「……あ」
一瞬、彼の姿がモノクロに映った
士郎「……帰るぞ、藤ねぇが心配だしな……」
セイバー「……はい」
――――死神
――――破滅
――――不穏な言葉が脳裏を過った
セイバー(シロウ……貴方は何を見たのですか?)
一旦離れます
衛宮邸
イリヤ「おかえり、シロウ。生きてたんだね」
士郎「ああ・・・」
凛「とりあえず治療するわよ、中に入って」
士郎「いや、俺より藤ねぇはどうなんだ?」
凛「・・・今は寝てるわ、心配するほどじゃない」
士郎「そう、か。よかった・・・」
グラ
士郎「」
バタリ
凛「士郎!?」
セイバー「シロウ!!」
凛「――――っ!」
凛(これは・・・)
凛「セイバー、悪いけど布団敷いてくれるかしら」
セイバー「はい、今すぐ」
凛「・・・」
イリヤ「ねぇ、リン、これって」
凛「ええ、まさかここまで酷いなんてね」
士郎「――――っつ!!」
凛「気が付いたようね、シロウ」
士郎「遠坂・・・」
凛「起きたばっかりで悪いけど質問するわね、貴方、どんな無茶をしたの?」
士郎「・・・それは」
凛「養成ギプスで鍛えに鍛えた体と、魔術回路。普通の行使ならならびくともしないほどに強靭なそれが」
凛「まさか見る影もなくボロボロになるなんて・・・」
凛「これ以上戦えば、貴方」
士郎「いい、遠坂、自分でもわかってるよ。もうこの体は壊れかけてるってことくらい」
士郎「でもな、才能の無い俺が何かを成すためには、自分の体を削るしかなかった・・・」
士郎「こうなることは薄々わかってたんだ」
イリヤ「なら、もうやめれば?」
士郎「イリヤ・・・」
イリヤ「あの女の人は取り返したんだし、もういい加減この町から逃げればいいじゃない」
イリヤ「・・・そうよ、大切な人と一緒にいられるならそれでいいじゃない。シロウはもう逃げたって誰も文句言わないわよ」
士郎「・・・イリヤ、そんなことはできないよ」
イリヤ「なんでよ、なんで、見ず知らずの人間や町のために目の前の幸せを無視するの?」
イリヤ「言っておくけど、あの性悪女はもう手遅れよ、聖杯と同調していずれはこの町全てを飲み込み、呪いをばら撒くわ」
士郎「・・・それだ、その、聖杯がなんで呪いをばら撒くんだ。ただの願望器じゃないのか?」
凛「・・・」
セイバー「シロウ?」
イリヤ「セイバー、あなたってほんと鈍いわね。リンは薄々気づいてるみたいだけど」
イリヤ「いいわ、この際だから教えてあげる。聖杯の正体とこの茶番の真相を」
――――それは、とある拝火教を教義に持つ集落で生まれた。
世界の平和を心から願うその部族は、自分たち人間の善性を絶対のものとするために、一人の人間を生贄にした。
生贄に選ばれたのはどこにでもいる平凡な青年だった。
人々はその青年をこの世界の悪性の象徴として奉り、呪い、殺した。
そうすることで人々は世界全ての悪を殺せたと本気で思ったのだ。
人々に笑顔が戻る。全てあの青年のおかげだと。そういう意味では青年は人々の魂を救済した。
形は歪でも、人を救った英雄が誕生し、語り継がれた。
それが「この世全ての悪」
「悪」の烙印を押された普通の人間
イリヤ「それが、前々回の聖杯戦争の際、アインツベルンが召喚してしまい、聖杯に取り込まれることで全てが狂ったわけ」
凛「あ、悪であるという願いを、聖杯が叶えたってわけ?」
士郎「聖杯が汚染されてるってのはそういうことか。それじゃ、親父が聖杯を破壊した理由は――――」
イリヤ「ねじ曲がった聖杯が、まともに願いを叶えると思う? ・・・根底に悪が付与された聖杯は、願いそのものを歪んで受け止める」
セイバー「それでは、私の願いも・・・」
イリヤ「大勢が死ぬか不幸になるかという条件付きで果たされるわ。まぁ私には知ったことじゃないんだけどね」
セイバー「そんな・・・」
士郎「・・・イリヤ、それを知ってて聖杯を手に入れようとしたのか?」
イリヤ「そうよ? だって、私に与えられた使命は聖杯を手に入れることだけだもの」
イリヤ「私にはそれが全て。ああ、あとは切嗣への復讐ね」
士郎「親父は聖杯が汚染されてるのを知ってて」
イリヤ「そうね、立派よね。だけど、その行動が私とお母さまを引き裂いた」
イリヤ「結局、切嗣にとって私たちは“他人以下”の存在だったのよ・・・」
イリヤ「話はこれで終わり。あとは好きにすれば?」
士郎「・・・」
セイバー「・・・」
凛「・・・」
士郎「――――セイバー、俺は聖杯を破壊する。・・・破壊しなきゃならない」
セイバー「・・・解りました。私も覚悟を決めます」
士郎「ごめん。こんなことになっちまって」
セイバー「いえ、いいのです。切嗣が行ったことの意味が、漸く理解できたのですから」
セイバー「そうですね・・・そもそも、願いを人ならざる者に預けること自体が誤りだったのかもしれません」
セイバー「私は最後まであなたと共に戦います」
士郎「ありがとう、セイバー」
凛「・・・」
士郎「遠坂、桜は・・・」
凛「言っとくけど、私はあの子を許すつもりはないわよ」
士郎「・・・ダメか?」
凛「――――っ! 当然よ!! あの子が何をやったか解ってて言ってるの!?」
士郎「あいつも汚染された聖杯の影響を受けてるんだ。正気じゃないのは解った」
凛「だからって、まだあの子を救おうっての!?」
士郎「・・・俺だけじゃ、無理だ」
士郎「でも、みんながいれば・・・できるかもしれない」
士郎「お願いだ、遠坂。お前の力が必要なんだ。・・・頼む」
膝を着き、頭を下げる。
その姿は焦燥と哀愁が漂い、何より――――
凛「・・・!!」
薄ら寒い「死」を感じさせた。
凛「――――ちょっと付いてきなさい」
士郎「遠坂?」
凛「見せたいものがあるわ。・・・後悔してももうしらないわよ」
--
士郎「これは・・・」
凛「どう? できそう?」
士郎「構造だけなら・・・だけど、完全にはとても」
凛「運用するのは私よ。貴方は構造だけを完璧に近づけてくれればいいの」
士郎「・・・協力してくれるのか」
凛「それは貴方の頑張り次第よ。私は許したわけじゃないんだから」
士郎「・・・ありがとう、遠坂」
凛「いいわよ、別に。・・・それより士郎」
凛「さっきも言ったけど、貴方の魔術回路はボロボロ・・・“これ”が切っ掛けで、後戻りできなくなるかも知れない」
凛「くれぐれも慎重に行ってね。・・・死なれたら目覚め悪いし」
士郎「・・・その時がきたら、俺はどうなる?」
凛「“ピシッ”という音がして、二度と魔術が使えなく・・・ううん、下手したら・・・」
士郎「・・・解った」
夜
士郎「・・・う・・・! うう・・・!」
痛い
体が痛い
奥から何かが・・・そう、刃物が、剣が肉を引き裂き「生えてくる」みたいだ
遠坂が見せた「アレ」の投影は思いの外上手くいった。
想像していたものと多少違ったので遠坂は顔を顰めたが、行使するのに問題はないらしい。
だけど・・・俺の体は確実に一歩「破滅」に近づいた
士郎「何回・・・あと何回だ・・・?」
――――あと何回戦える?
士郎「死ねない・・・まだ・・・死ねない」
俺は、まだ、死ねない
大河「士郎、どこかいたいの・・・?」
士郎「あ・・・」
ぼんやりと中庭を見ながら、俺たちは縁側に座っていた。
奇しくもその場所は切嗣と最後に語り合った場所。
俺が親父の夢を受け継ぐ約束をした思い出の場所。
大河「ねえ士郎」
士郎「ん」
大河「――――もう、やめようよ」
士郎「・・・」
大河「士郎はもう、いっぱいがんばったよ。誰かのために、そんなに傷だらけになって・・・。もう、じゅうぶんだと思わない?」
藤ねぇの優しい声が俺の耳に入る。安らぎに満ちた声は気を抜くとそのまま委ねてしまいそうで――――
大河「・・・ね、二人で逃げよ? ね、士郎が傷つかなくてもいいような、優しい場所があるはずよ? 私、士郎が幸せになれるならなんだってしてあげる。士郎の望むことならなんでもしてあげる。だから、・・・だから――――」
士郎「藤ねぇ、今の俺の望みは、桜を・・・この町を救うことだよ」
大河「・・・」
士郎「・・・藤ねぇの言う通り、逃げるのも悪くないって思ったけど・・・」
士郎「今目を背けたら、一生後悔する。そんな後ろめたい気持ちで藤ねぇを幸せにできるとは思えない」
大河「――――っ! わたしのことなんかどうだっていいよぅ! 士郎が、士郎さえ幸せになってくれれば、それで、それだけでいいよ! それだけで・・・いいのに・・・」
今まで耐えていたものが決壊したかのように、大粒の涙をながしながら士郎にすがりつく。
自分には、止めることが出来ない。たとえ死ぬことになってもこの少年は歩みを止めない。
――――それが、悲しい
士郎「藤ねぇ、俺、今ならじいさんの気持ちがわかるんだ」
士郎「今ならわかる・・・じいさんが目指したものが、守りたかったものが」
士郎「もう少し・・・もう少しで手に届く・・・そんな気がするんだ」
大河「切嗣さんが目指したもの・・・?」
士郎「笑っちゃうよな、こんな時まで俺は、心の中でじいさんを、夢を追いかけてる・・・」
士郎「ただの独りよがりの我儘だって、わかってても俺は・・・」
士郎「ぶすぶすと、未練がましく燻りたくないと思っている。たとえ一瞬でもいい、一瞬でも激しく燃え盛って・・・」
そして、その後には・・・燃えカスすら残らない
己の両手を見つめ、遠い目をする少年。
いや、その陰のある顔は既に少年のものではない。
青春の果てにある何かを見つけた。求道者の目――――
大河「――――そっか、そうだよね、士郎は切嗣さんの子だもんね」
大河「いつか・・・こんな日が来るんじゃないかって思ってた。士郎がどこか遠くへ行っちゃう日が・・・」
大河「・・・ずるいよ、お姉ちゃんをおいて、一人で大きくなっちゃって、ほんと・・・」
士郎「藤ねぇ?」
大河「うん、お姉ちゃん、士郎のわがまま聞いたげる。士郎はなにも気にしなくていいよ」
大河「だけど、これだけは約束して。――――死なないで」
大河「死なないで、士郎。お願いだから・・・死なないで・・・」
士郎「・・・ああ、約束するよ。・・・ありがとう、藤ねぇ」
大河の体を優しく抱き寄せる。
震えていた。本当は大声で泣きたくて仕方がないのだろう。
右手で背中をさすり、子どもをあやすように、こわれものをあつかうように、優しく抱き続ける。
かつて自分にしてくれたように
大河「約束だから・・・やく・・・そく・・・」
大河「・・・」
士郎「藤ねぇ。・・・寝ちまったか」
俺は幸せ者だ。
そして、最低の大馬鹿だ。
目の前の幸福を足蹴にしてまで、俺は
イリヤ「――――なんで、よ」
士郎「イリヤ?」
イリヤ「あんた馬鹿よ、ううん、大馬鹿よ! キリツグと同じ大馬鹿よ!!」
まるで信じられない、理解できないといった顔をして、物凄い剣幕で俺に詰め寄る。
イリヤ「なんで、こんなにシロウの事を想ってくれてる人を置いていけるの!? この町やあの性悪女にそこまでの価値があるの!?」
士郎「・・・俺は」
イリヤ「うるさい! あんたはやっぱりキリツグの子よ! ええ、私が保証してあげるわ! 家族よりも関係のない他人を優先するあいつの子どもよ!!」
イリヤ「なんで・・・! なんで家族を捨てられるの!? わからない・・・! 私にはわからない・・・! 私は、私がシロウの立場だったら、お母さまを、クロを、見捨てるなんて・・・!」
士郎「イリヤ、君の言ってることは正しいよ」
イリヤ「――――え」
士郎「俺が我儘を突き通してるだけなんだってことは承知している。・・・たぶん親父もそうだった」
士郎「だけど、これだけはわかってほしい。・・・この世界に、関係のない他人なんて存在しない」
士郎「一見つながりがないような相手でも、どこかで、誰もが影響を与えあってる・・・それを忘れたら生きていけない」
士郎「俺は馬鹿だったから・・・痛い目にあって漸くわかってきた所だけど・・・」
士郎「イリヤにはできるだけわかってほしいんだ」
イリヤ「シロウは、幸せになりたくないの? いっつも他人を優先して、辛くないの?」
士郎「・・・俺は、幸せだったよ。・・・ああ、充分、幸せだったさ・・・」
――――だから、もういらない
――――だから、俺の幸せを、他の人に――――
イリヤ「・・・ばか、もうしらない。勝手に死んじゃえ」
俯いたまま、イリヤは帰って行った。
残されたのは、俺と藤ねぇ。
何をするでもなく、俺はぼんやりと虚空を眺めた。
凛「――――お邪魔だったかしら?」
士郎「遠坂」
凛「桜から伝言があったわ。柳洞寺の大空洞で待ってるそうよ」
士郎「・・・そうか」
凛「明日、すべて終わらせる。この何百年にも亘って続いた茶番劇をね」
士郎「ああ、頼りにしてるよ」
凛「・・・ねぇ、士郎」
士郎「ん」
凛「私、あなたに会えて良かったって思ってる」
士郎「どうしたんだ急に」
凛「私もね、一人でなんでもやろうって癖があるから・・・目の前にあんたっていう鏡があったから、自分を見つめなおせた」
士郎「・・・はは、反面教師ってか」
凛「絶対、絶対生き残りなさい。・・・そしたらどこか遊びに行くわよ」
士郎「藤ねぇも一緒だけどいいか?」
凛「――――うん、いいわよ」
みんな、誰もが一人で生きてるわけじゃない
誰もが支えあって、時に戦って・・・
じいさん・・・あんたもそうだったんだろ・・・?
今日はここまで
もうすぐ最終回だ!!
「馬鹿」の定義というものがある。
一般的に知られる「馬鹿」とは、知能の働きが鈍い事、まじめに取り扱う値打ちの無い事を指す。
しかし、それら一般的な「馬鹿」とは違う意味を持つもう一つの「馬鹿」が存在する。
それは――――「目的」や「夢」のために、本気で命を懸けてしまう者達の事である。
そういう意味では、衛宮士郎という存在は正しく「馬鹿」と呼べる存在なのだろう。
そして最初にそれを真正面から理解したのは、かつて鎬を削った間桐慎二であったのは、同じく夢を追いかけていた者同士の共感――――
「男の魂の共感」が為せる業なのだろう
男とは、時として周囲の意見を跳ね除け我が道を進まなければならない時がある。
愛する者も、友も、家族も置き去りにしてまで果たさなければならない時がある。
それは自分すら捧げて
ただ一つ、空に輝く「夢」の星座を掴むために
大聖杯
桜「……」
臓硯「桜よ、負担を掛けるようじゃが、アサシンと契約を結べ、ランサーを失った今、新しい護衛が必要じゃろう」
桜「……」
臓硯「何をしておる? 桜、わしの言うことが聞けぬのか」
桜「……」
桜に反応はない。ただ虚空を光の無い目で見つめている。
臓硯の言葉には侮蔑と苛立ちがあった。本来ならイリヤスフィールを使い、聖杯を手に入れる筈だったのだ。
筋書きの思わぬ修正には骨が折れる。その原因である目の前の不甲斐ない少女の不手際に怒りを覚えるばかりであった。
臓硯「もう一度言うぞ、桜、わしの言うことが聞けぬのか」
アサシン「待たれよ魔術師殿、この女、すでに精神が壊れてしまったのではないか?」
臓硯「――――ぬ?」
間桐臓硯から苛立ちが消える。成程、アサシンの言う通り、今まで意識が聖杯に飲み込まれなかっただけでも上出来だったのだ。
ランサーを取り込んだことでいよいよ限界が訪れたのかもしれない。
――――しかし、それはそれで次の策を用いるだけの事
臓硯「ふむ、もうしばらくは持つかと思っておったが、幕引きはあっけなかったのう」
アサシン「では、予定通りその娘を?」
臓硯「人聞きの悪いことを言うな。あくまで仕方なく、じゃ」
制御するものがいない聖杯は全てを飲み込んでしまう。
建前ではそう述べつつもその顔は暗い笑みを浮かべていた。
老人の声は桜から発せられていた。その本体は心臓に潜む――――
ギチリと音が鳴り、少女の首を挿げ替えようと蟲が蠢く。
間桐臓硯とは蟲の形をした疑似精神体。その魂はとうの昔に腐りきり、何人もの命を啜って生き延びてきた。
臓硯「贅沢は言わぬ。その空洞の体、わしが代わりに引き継いで――――」
桜「――――その必要はありません。お爺さま」
臓硯「……ふむ、まだ意識があったか。ならば桜よ、そのままアサシンと契約を」
桜「ですから言ったでしょう、お爺さま。その必要はありません、と」
暗い影が、背後のアサシンを飲み込んだ
アサシン「ぐ、ぎぃいいいいああああああ!」
臓硯「何、なんのつもりだ? 桜」
桜「……なぁんだ。どんな顔をしているかと思ったら、あなた、顔が無いんですね」
アサシン「ぐ……小娘……! 貴様……!」
桜「さようなら、山の主。あなたは誰でもない一人の暗殺者。ただ一人の本物などにはなれないわ」
アサシン「ギ――――ギャァアアアアアア!」
臓硯「ク……貴様正気か!? 何をするのだ馬鹿者め!」
桜「彼はもうお爺さまを守る必要はなくなりました。……だから、暇を与えたんです」
突然の少女の凶行に臓硯は焦燥を隠せない。
今まで従順だった飼い犬にいきなり手を噛まれた。
それも腕に深々と突き刺さる牙のように凶悪で、獰猛な狂気が――――
そのまま少女は自らの体に指を埋め、心霊手術のように一匹の蟲を引きずり出した。
臓硯「――――ッ!!」
肉体の奥深く、神経にまで絡んだそれを、涼し気に摘み上げた。
本来なら激痛により狂い死んでも可笑しくはない。
桜「なんだ、思ってたより簡単なんですね。私、お爺様はもっと大きいかと思ってました」
臓硯「さ、桜。――――よもや」
桜「あの神父さんがお爺様を消してくれなかったら、本当に食べられていました。――――感謝しないといけませんね」
臓硯「さ、桜。待て、早まるな。お前を食らうのは最後の手段だ。わしはお前が聖杯を手に入れるならそれでよいのだ! 手に入れた暁にはお前に全てを委ねても――――」
桜「それなら尚更ですね。もう、門は私一人で開けられます。お爺様の手を借りる必要はありません」
臓硯「桜! わしはお前のことをおもってやってきたのだぞ!? それをこんな、恩を仇で返そうなど……!」
桜「……ええ、感謝してますよお爺様。だから、最後の機会を与えてあげます」
ぱくり
臓硯「な・・・!?」
ぐちゃ
ぶち
ぶち
臓硯「ぎ――――!? ぎゃ……! が!?」
桜「ほら、お爺様、また体の中に戻してあげましたよ? 食べないんですか?」
桜「今までたくさんの人を食べてきたんですよね? だったら、私を食べることくらいかんたんでしょう?」
臓硯「小娘・・・! 調子に乗り」
ぐちゃ
臓硯「ぎぃいいいいいい!」
桜「歯で磨り潰されるのはどんな気持ちですか? 痛いですか? 苦しいですか?」
ぐちゃ
ぐちゃ
桜「食べるのは得意でも、食べられるのは苦手なんですね。――――私とはまったく逆です」
命が磨り潰される
今まで思うがままに生きてきたと思っていた捕食者が、ついに蜘蛛の巣に絡め取られた。
桜「でも、お爺様。私、お爺様は食べませんよ? だって」
――――お爺様、美味しくありませんから
べっ
どろどろのペースト状になったそれを吐き出す。
信じられないことにまだそれは生きていた。
ぴくぴくと生を主張するおぞましい触手がそれを物語っている。
桜「お爺様、とてもまずいです。今まで食べてきたものの中で一番まずい」
桜「ワインは熟成しすぎると却ってまずくなるらしいですが……お爺様はそれ以上に腐ったワインです」
桜「飲み物として、食べ物として機能しないものをなんて言うかしってますか? ――――ゴミというんです」
ぐちゃ
優しく、優しく、包むように足を乗せ、――――蟲を踏み抜いた。
桜「――――ああ、まずい。不快です。……口直しをしなければいけませんね」
桜「先輩、早くこないかなぁ・・・それに、姉さんとセイバーさん。とっても美味しそう」
桜「――――ふ、」
桜「ふふ――――ふふ、あはははははは――――」
糸の切れた人形のように、いつまでも笑い続けた。
柳洞寺 地下入口
士郎「これは……血の跡?」
凛「士郎、早く行くわよ」
士郎「ああ」
大聖杯があるという地下空洞。まさかそんな場所に聖杯があるなんて思いもよらなかった。
親父が破壊したというのは、イリヤの母親のアイリスフィールによってもたらされた小聖杯――――。
つまり、親父は自分の妻を壊したことになる。
……親父がどんな気持ちだったかは想像できる。
鬼の様でいて、その実隠れて涙を流す繊細さを俺は知っていた。
きっと、苦悩の末に選んだ答えだったのだろう。
凛「……どうやらお出ましみたいね」
セイバー「貴様は……!」
ギルガメッシュオルタ「……」
士郎「あれも、サーヴァントなのか?」
漆黒の鎧を身に纏った端正な――――
いや、ぞっとするほど美しい顔立ちの男が、感情の見えない金色の瞳でこちらを見据えていた。
セイバー「――――バカな、あれ程の存在を自由に使役するなど・・・!」
士郎「知っているのか? セイバー?」
凛「・・・想像以上に成長したみたいね。桜・・・」
ギル「・・・」
ブ、―――――ン
男の背後から、波紋のような模様が浮かび、次いで空間を裂くように次々と何かが出てきた。
セイバー「……! 二人とも私の背後に!」
――――王の財宝
必殺の宝具を、無尽蔵の弾丸の如く発射する。
その使い捨てとも言える扱いは宝具に対する畏敬の念は欠片も無い。
セイバー「大風王鉄槌!!」
咄嗟に風王結界を解き、風圧で宝具の弾丸を弾き飛ばす。
凛「なによあれ・・・。どの武器も一つの伝説を持つものばっかじゃない」
士郎「セイバー、あいつは」
セイバー「奴は前回の聖杯戦争でアーチャーのクラスに収まっていた者です」
セイバー「あの時、切嗣に強制的に使わされた大エクスカリバーによって木っ端微塵に爆裂死したはず」
凛「なんで生きてんのよ」
ギル「……」
金色の瞳はセイバーを見据えている。どこか恨みのこもった視線なのは気のせいだろうか?
セイバー「……ふ、どうやら私をご指名のようですね?」
セイバー「いいでしょう。・・・今度こそチリ一つ残さず消滅させてあげます」
セイバー「解 放」
ばぎゃん!!
セイバー「ふぅう……」プシュゥウウウウウウウ
セイバーが大エクスカリバー養成ギプスを外した。
いや、衝撃でギプスは壊れ弾け飛んだ。
セイバー「私の鍛錬はピークに達した。……もうギプスをつける必要はない」
全てを終わらせるため、不退転の決意を持って戦いに臨む!
セイバー「ここは私に任せて、二人はサクラの元に向かって下さい」
士郎「頼めるか? セイバー」
セイバー「もちろんです。……逆に、居てもらっては不便ですから」
――――全力で戦ったら、巻き込みかねない
凛「頼んだわよセイバー! 負けんじゃないわよ!」
士郎「セイバー! ・・・勝ってくれ! そして死ぬな!」
令呪が光り、セイバーに力が漲る。
空洞の奥に走り去る二人を見送り、セイバーはかつて戦った英雄王に対峙する。
セイバー「――――はじめましょうか。英雄王」
ギル「……」
不意に、英雄王は自身の鎧に手を掛けた。
その瞬間――――!
――――パァン!!
漆黒の鎧がはじけ飛び、肉体が露わになる。
しかし半裸の肉体を包んでいたモノは――――!!
セイバー「――――な!!」
ギル「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
原点において頂点
――――大リーグボール養成ギプス
セイバー「……どうやら、早く終わらせるという訳にはいかないみたいですね」
ギル「……解放」
バチン!!
ギプスを外した英雄王の顔に慢心は、無い
--
――――視界が広がる。
俺は一瞬、そこが地下であることを忘れてしまった。
果ての無い天蓋と、黒い太陽。
広大な空間は洞窟などではなく、荒涼とした大地そのものだ。
遥か遠方には壁の如き一枚岩が
それこそが、この戦いの始まりにして終着点
――――大聖杯
遠坂の文献に曰く、
最中にいたる中心
円冠回廊、心臓世界テンノサカズキ。
胎動する黒い太陽から漏れ出る膨大な魔力がその異名に恥じぬ異界を創りあげている。
凛「あれが、この世全ての悪」
成程、その名は伊達ではないらしい。
士郎「あ、あんなモノが地上に出たら――――!」
凛「さっさと壊すわよ。……にしても、間桐臓硯とアサシンがいないわね。どこかに潜んでいるのかしら」
「――――嬉しいわ姉さん、それに先輩。逃げずに来てくれたんですね」
――――頭上を見上げる。高い崖の頂上に、間桐 桜は狂喜の笑顔と共に二人を歓迎した。
ここまで
桜さんはギプスによるパワーアップで我様を完璧に消化しました。
ネイキッドギルにギプスは絶対似合う
更新します
桜「どうしたんですか先輩、顔色が悪いですよ?」
士郎「桜……」
目の前の少女は本当にあの間桐 桜なのか
先日会った時とは文字通り桁が違う
こんな存在を止められるのか?
凛「随分調子に乗ってるみたいね? 強い強い保護者同伴のセリフとは思えないわ」
桜「保護者? ……ああ、お爺様の事ですか?」
桜「心配しなくても、私は一人ですよ」
だって、お爺様は私が噛み殺しましたから
凛「…………!」
士郎「それって……つまり」
――――間桐 臓硯が死んだ?
桜「不思議ですね、もう自由なのに、全然嬉しくないんです」
桜「足りないんですよ……」
先輩や姉さんの存在が頭から離れない
ほしくて
こわしたくて
どうにかしたくて
桜「おかげでこんなに強くなれましたよ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
桜の周りにドス黒い影が吹き出し、形作り、巨人の姿を現す。
触れただけで摩り潰されそうなまでの圧倒的威圧感。
凛「……ふーん? ようやく自由になったってのにまだ暴れ足りないんだ」
凛「ガキねあんた」
桜「煩い口は黙らせましょうか」
ギュオッ!
巨人の手が延びる
士郎「遠坂」
凛「わかってる」
――――最初から飛ばしてくわよ
カッキィイイイイイイイイン!!
桜「!?」
桜「なんですか、それ」
あり得ない事が起こっている
聖杯とリンクし、無尽蔵の魔力を手にいれた己の影が、虹色の光と共に彼方へと吹っ飛ばされたのだ。
凛「まあ、上出来って所かしら?」
士郎「当たり前だ、命を削って作ったんだぞ」
宝石翁の遺産
――宝石バットゼルレッチ――
桜「なにそれ」
凛「あのね、これ見た時一番ショックだったの私なのよ?」
凛「遠坂家の命題が果たされたと思ったらこれなんだもの」
ぷらぷらと宝石製のバットを玩びながら若干疲れた目で言う
本来なら短剣のそれが何がどうなってバットなのか
士郎「カッコいいじゃないか」
凛「うっさい!」
桜「そんな玩具で、私の、影を」プルプル
桜「バカにしてるんですか!?」
凛「此方は大真面目よ」
迫り来る巨人に対し、片足を上げた状態でバットを構える。
それは、嘗てこの日本で本塁打の王と呼ばれた者の必殺の構え
――一本足打法――
カッキィイイイイイイイイン!!
またしても吹っ飛ばされる巨人
桜「そんな、なんで」
凛「ああ、やっぱりあんた素人よね」
凛「全然なっちゃいない。力ばっかり大きくて、軽い」
桜「は……?」
凛「桜、あんた私を……ううん」
魔術師を舐めんな
桜「軽い、私、が?」
桜「こんな、こんなに苦しい思いをしてまで手にいれた私の力が、軽い?」
士郎「……お前じゃ遠坂には勝てない」
士郎「遠坂だけじゃない、俺にも、……慎二にも及ばない……」
桜「にい、さんにも?」
あの義兄に
間桐 慎二に
才能無き魔術師にすら自分は劣る?
士郎「お前は全然強くなっちゃいない……子どもがナイフや拳銃を手にいれたのと同じだ」
士郎「俺から見れば、桜の力は隙だらけだ」
例えば、ランサーを始めとする誇り高き英雄たち
遠坂 凛、葛木 宗一郎、間桐 慎二など一本芯の通った強豪
そしてイリヤスフィールのような執念を糧に生きてきた戦士
それら聖杯戦争を通して戦い抜いてきた数々の強敵に比べれば、間桐 桜の力とは見掛けばかり大きいだけの、文字通りただの力である。
そう、生と死の限界を見極め、勝利して尚成長を続ける士郎や凛にとって、力だけ大きい桜など今さら相手になるはずもない。
桜「……なんですかそれ」
桜「私の力が、苦しみが! そんなものに及ばないって言うんですか!?」
士郎「……お前の苦しみに気づいてやれなかったのは俺たちの落ち度だ。……すまないと思ってる」
士郎「だが、今はそれとこれとは別だ。正気じゃないお前といくら話し合っても時間の無駄だ」
――――お前の偽りの拠り所を砕いて、正気に戻した後で話し合おう
桜「……うるさい」
桜「うるさい! 先輩なんかが私に勝てるわけないんです!」
士郎に向かって夥しい数の影の巨人が迫る
伸びる腕が士郎の居た場所を凪ぎ払う
塵も残さず呑み込んだと思われたが、尚もその場所に士郎は立っていた。
桜「そんな、かわされた……? 紙一重で」
士郎「言った筈だ…………隙だらけなんだよ」
桜「あああああああああああ!!?」
これまでで一番大きい影を放つ
英雄王すら呆気なく葬ったそれを冷めた目で見る士郎は、おもむろに影の一部分に指を指す。
士郎「遠坂」
凛「ええ、あそこね」
そして振り払われる宝石バットが、力の隙を的確に突き、消し飛ばした
桜「嘘」
桜「嘘です、こんな……こんな」
凛「おとなしくとっちめられなさい」
士郎「桜、今ならまだ間に合う。ギプスを、アンリマユを捨てるんだ」
桜「い、嫌です! これは私だけの先輩なんです! 私を抱き締めてくれる……たった一人の」
桜「そうよ! 先輩さえいてくれれば私はそれでよかったのに!」
桜「なんで、なんで藤村先生なんですか!? なんで私じゃダメなんですか!? なんで、どうして」
士郎「桜……」
桜「あんな人に先輩を奪われた私の気持ちが……! うぅ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
凛「ちょ、ちょっと!? これって」
桜「嫌い、みんな嫌い! 全部壊れてしまえばいい!」
桜「うぁああああああああああ」
ベキバガギガギイギヒギギギギギイイギギg
GIIGIGIGIIGIGIGIGIIGIGIGIGIIGIG
士郎「アンリマユが……!」
桜「もっと……! もっと抱き締めて!」
全てを壊す力を
ズブッ
ズブブブブブ
士郎「なんだこれは……!」
凛「沈む……いや、アンリマユに呑み込まれて行く!」
桜「……ああ、そういうことですか」
避けれるものなら避けてくださいよ、先輩
士郎「……全部沈ませる気か!」
士郎「遠坂! 今すぐここらを吹っ飛ばして」
させませんよ
ビュルッ!
凛「うあっ!」
士郎「しまった!」
遠坂が影の触手に囚われた
桜「先輩、動かないでくださいね? 間違ってくびりころしちゃうかもしれませんから」
士郎「くっ……!」
凛「士郎! 私はいいから桜を」
桜「姉さんは黙っててください」
どすっ
凛「がふっ!」
容赦のない一撃が凛の腹部を襲う
士郎「遠坂!? やめろ桜!」
桜「……ああ、いいですよ。凄くいいです」
桜「これが正しい道筋なんですよ」
桜「ふ、ふふ」
桜「あははっ! あはははははははは!」
凛「さ、桜、あんたいい加減に」
桜「ああ、姉さんが何もできずに私に囚われてるなんて」
桜「ずっと、ずぅっとこうしてやりたいって思ってました」
サワッ
凛「! こ、この! どこさわってんのよ!」
桜「あれ、こんなので赤くなっちゃって、わかってましたけどやっぱり処女なんですね」
桜「心配しなくても、どうせ今から散らされるんですから安心してください」
凛「な……!?」
士郎「桜っ お前!?」
桜「だから動かないでって言ったじゃないですか」
ビュルッ!
士郎「ぐ……この……!」
影の触手は俺も縛り上げる。
とんでもないことになった
桜は、もしかしなくても遠坂を
ジュル
ジュルジュル
凛「うぅ……あ、あ!?」
桜「私がされて来たこと……姉さんにも味わわせてあげます」
凛「こ、この変態! さっさと放しなさい!!?」
桜「そうやって何時まで強気でいられますか?」
メキ
メキメキ
グチャ
凛「な、何よそれぇ……」
桜「間桐の蟲の形に影を変えたんです」
桜「私はこれに十年以上もの間犯されてきました」
桜「今度は姉さんの番。先輩の見てる前でめちゃくちゃに犯してあげます」
グチャ
グチャ
凛「う、あ! さ、触るなっ! あ、やめ! 這って……!?」
士郎「桜! やめろ! こんなことは無意味だ!」
桜「無意味じゃありませんよ……先輩は先輩で、姉さんが犯されてる横で私に犯されるんです」
桜「何も救えない、手が届く距離にいながら届かない。そんな無力感と絶望をたっぷり味わってから」
桜「……ぐちゃぐちゃに蕩かしてあげますね♪ 先輩♪」
しゅる
しゅる
士郎「うっ……!? やめ……! 桜……!」
桜「あれぇ? なんで目を背けるんですか? 初めてでも無いくせに」
士郎「くっ……!」
桜「藤村先生と散々愛し合ったんですよねぇ?」
凛「……! さ、桜! あんたその辺にしときなさい!」
桜「ほんとに忌々しい女……先輩をたぶらかして、沢山貪って……」
――――上書きをするのに結構時間がかかりましたよ
士郎「…………」
士郎「………………………何?」
桜「あれ? もしかして知らなかったんですか? 姉さんから聞いてなかったんですか?」クスクス
士郎「さく、ら? 上書きって」
凛「士郎! 聞いちゃダメ!」
凛「桜ぁ! あんたそれ以上余計なこと言うんじゃ」
桜「うるさい」
ギュルッ!
凛「む、ぐ! ……!」
桜「藤村先生を拐ったあの後、ちょっと遊んであげたんですよ」
士郎「何、何を言って」
桜「汚らわしい間桐の種馬さんたちに、いーっぱい相手をしてもらったんです♪」
士郎「―――――――――」
こいつは今、何て言った
桜「傑作でしたよぉ♪ やめて、許して桜ちゃんって、いっぱい泣いていっぱい叫んで」
桜「ぐっちゃぐちゃになって、それでも最後の方は自分から腰を振ってるように見えましたね?」
桜「やっぱり、性根が淫売なんじゃないですか? 藤村先生」
――――士郎が一人な訳ないじゃない
――――お姉ちゃんが守ってあげるからね
――――私、士郎の赤ちゃんが
――――大好き
ブチン
今日はここまで
もう少しで終わりなので最後までどうぞよろしく
嘗て間桐慎二は衛宮士郎を本気で怒らせた。
その結果が全力の死闘の末の完全燃焼、血で血を洗い、魂と魂がぶつかり合った男の闘い
もし、覚悟なき者が男の信念を踏みにじる行為をすればそれは――――
ブチブチと脳内で血管がキレる音が確かに聴こえた。
魔術に関わり、闘いの渦中に飛び込む自分だけなら何も文句は言わなかったし、ここまで怒る事はなかっただろう。
それがこの道を選んだオレの覚悟だったから
だが、桜、お前はオレの最も大切なモノを踏みにじったんだよ。
その意味がどういうことか
――――解ってるのか?
士郎「ぐぅううううううぉおおおおおおおおおおお!!!」
思った通りだ
衛宮士郎は今完全にキレた
あの温厚な士郎が、桜に対してどこか甘さが抜けきってなかったあの士郎が文字どおり爆発したのだ。
凛「桜、アンタ完全にミスったわよ」
例えるなら、妹は不死鳥の巣に土足で入り込んだ挙げ句、卵を割って帰る途中虎の尾をふんずけて更に龍の逆鱗をひっぺがしたのだ。
もう、どうなるかわからない
アイツは何時だって規格外だった
おそらく今回も
凛「……鬼が降りたわ」
間桐 桜に父親の思い出は殆ど無いに等しい。
物心付く前に間桐に預けられた桜に家族の概念は無い。
あるのは己に降りかかる不幸に対する怒りと憎しみ
それが父に対する思い。憎悪だけの感情。
その桜が、アンリマユに侵された桜ですら目の前の士郎に初めて「恐怖」を……
いや、「畏怖」を抱いた
雷雲のごとき怒気を孕んだ頑固親父
古きよき時代の象徴とでも言うべきか、子どものワガママをげんこ一発で黙らせる絶対的存在。
今の士郎からはそんな「父」の気炎が立ち上っていた
士郎「桜」
ブチ
ブチブチ
黒い触手が千切れる
桜「あ、あ?」
士郎「歯ぁ食い縛れ」
スパァアアアアアアアアアアアアアン!!!
桜「へぶっ!?」
ビンタ
悪さをした「子ども」を躾る
前時代の体罰
桜「へ、あ、アレ? 先輩が、わたしを、ぶった?」
口の中に鉄の味が広がる
ごり、という音とともに舌が何かに触れる
歯が、折れたのだ
士郎「気 を 付 け ! !」
桜「ひ!?」
声を聞いただけで硬直する
知らない、こんなの知らない
目の前の人間は本当に衛宮士郎なのか?
だって、これではまるで
お父、さん
知るはずの無い単語が、何故か浮かんだ
士郎「は~~~~……」
握りしめたげんこに息吹を吹き掛ける
これはまさか
士郎「こ の 大 馬 鹿 者 ! !」
ガツン!!
桜「~~~~!!?」
目の前を火花が散った
鉄拳による修正が脳天に雷の如く降り注いだのだ。
凛「痛そう」
今日日脳にダメージが云々と言う世の中では滅びゆく定めの一撃である。
頭を抑えてうずくまる
痛い
痛すぎる
間桐の拷問などまるで比にならない
何より
桜(なに、これ。まるで心を直接殴られたような)
そう、いたぶることが目的の拷問ではけして辿り着けない境地
相手を思いやるが故の、愛と哀しみの鉄拳
肉体ではない、文字通り魂を打ち鳴らすのだ。
心優しくも不器用な者が、家族を想うが故にあえて心を鬼にし、真心を持って接する。
――――人はそれを「父性の愛」と呼ぶ
桜「――――いまさら! いまさらそんなもの!」
桜「私に家族なんかいらない! いなくても私は強いんです!」
がむしゃらに触手を伸ばす
しかし、士郎にはかすりもしない。
士郎「桜、子どもの戯れ言に付き合ってやれるほど、俺は気が長くない」
だから
士郎「頭 冷 や し て 出 直 し て こ い ! 」
破戒すべき全ての符!!
ル ー ル ブ レ イ カ ー ! !
ちょっと休憩
星 一徹 降臨
セイバー「ふん!」
王の財宝より打ち出される宝剣を見えないスイングで迎え撃つ
しかし……
ひゅいぃん
セイバー「!!?」
消える魔剣
元々は砂煙を利用した蜃気楼の魔球だが、これは本当に消える。
すぐさま跳び退いて避ける。間一髪刃がかすり、僅かに血が滲んだ。
ギル「……」
セイバー「なるほど、文字通り手加減抜きと言う訳ですか」
面白い、ならばこちらも打者の意地とプライドに賭けて打ち返してみせる。
ギル「……」
その時、英雄王の雰囲気がモノクロに色褪せた
セイバー「……来る!」
大リーグボール3号
バットを避ける魔球
その原理は親指と中指の力のみで押し出し、バックスピンを起こした球はホームに届く頃には完全に球速がゼロに近くなり、僅かな風圧でさえも影響され煽られる……らしい。
これはあくまでも表の世界の科学で無理矢理説明したモノである。
真実は無意識の内に指先に集中した魔力が球その物の運動ベクトルを狂わせているのだ。
しかし、無理矢理ねじ曲げた運動ベクトルは力の放出場所を求め暴走し、結果腕の屈筋と伸筋を傷付ける。まさに破滅の魔球。
この魔球を打ち返す事は不可能に近い。
通常のコンディションであれば
セイバー「十年前、切嗣によって強制された逆立ち、あの時の極限までの脱力状態」
ゼロに対してはこちらもゼロで迎え撃つ
王の財宝より放たれた無数の超スロー攻撃を超脱力スイングで叩き返す!
王の財宝から撃ち出された宝具が真っ直ぐセイバーを狙う。
1号、2号は既に何回か攻略しているが、複合された場合完全無比の変化球になるのが大リーグボール。
嘗て巨人の星が魔球を複合させなかったのはそれを小細工と断じたから。
一球で勝てぬ勝利に意味などない。
悲しいまでの男の意地だった。
セイバー「だが、これは戦争! 討つために複合させるのは当然」
セイバー「だからこそ私は正面から迎え撃たねばならんのだ!」
襲いかかる魔球の嵐の中心に、本命の一球、滅びの魔剣を見極める。
――――ふわぁあああああああああああ
必中と消滅の魔球を皮一枚、紙一重の間隔で避け、その聖剣をゆっくりと、壊れ物を扱うかのように振るう。
そして
――――ガツン!
聖剣の真芯にミートする音が鳴り響く
ギル「……」
打たれるはずのない魔球が打たれた
嘗てのセイバーが体得できなかった境地、「消」の領域に遂に踏み込んだのだ。
今、セイバーを纏う雰囲気が完全にモノクロに変わった。
ギル「……やりおる、ならば完全な動の極致で消滅させるまでよ」
乖離剣エア
ギル「十年前の続きをしようか、セイバー」
セイバー「……」
セイバーの瞳から炎が消え去った。
否、その根底にあるマグマのような闘志は、まさに噴火寸前の活火山の如き静寂と熱を秘めている。
十年前、いや、遥か過去の自分は常に何かに急かされるように駆け抜けてきた。
余裕など欠片も存在せず、ただただ願いのために奔走し、潰えた。
そんな自分が今までの生き方とは全くの逆、静寂の極致に辿り着くなど考えられただろうか?
セイバー「切嗣、貴方の教えが十年の時を経て漸く身を結びました」
――――天上の星座から見ていてください。これが、私の、私たち師弟が作り上げた……
ギル「天 地 乖 離 す 開 闢 の 星 ! !」
引き付ける、限界まで
心はどこまでも静かに
しかし確かな闘志を胸に
叩きつけろ、その刹那に
大 エ ク ス カ リ バ ー ! !
全身の骨と肉を総動員した結果、引き裂かれるような激痛が全身を襲う
伸びきった手足とその延長線上の聖剣がバラバラになりそうな程のスイング
ギリギリまで己に引き付け、聖剣に触れた瞬間に爆発させる、静から動へのフルスロットル。
切嗣『鉄バットで破砕機を打ち返せい! これをホームランできるまでメシは抜きだと思え!』
セイバー『いっそ殺せぇええええええええ!!』
--
士郎「桜、……気絶したか」
凛「貴方、その短剣は……」
士郎「出来るかどうかは微妙だったけど、何とか投影できたよ」
凛「ほんと……あんたってどこまでもムチャを……」
ドサッ
士郎「遠坂!?」
凛もまた倒れてしまった。
やはり呪いに浸されたのは効いたのだろう。
しかし、これでは……
士郎「俺じゃゼルリッチを運用できない……」
もし、セイバーが来ない場合は自分が聖杯を破壊しなければならない。だが、今にも爆発寸前の呪いを溜め込んだ聖杯を破壊すれば、余波から二人を守れるかどうかわからない。
何より
士郎「……ぐっううぅあああああ」
まただ、今度は全身が貫かれたような痛みが
見れば左腕から剣が生えているようにさえ感じる。
セイバー「士郎、終わったのですね……」
士郎「セイバー……そうか、勝ったんだな……」
振り向けば満身創痍のセイバーが剣を杖にして立っていた。
おそらく大エクスカリバーを使ったのだろう、息も荒く、痛みを我慢している風に見える。
――――セイバーでも、聖杯を破壊することは……
士郎「……仕方、ないよな」
セイバー「士郎?」
ごめんな、セイバー
――――令呪をもって命じる
セイバー、二人を抱えてこの場から撤退しろ
セイバー「何……、シロウ! 何を!?」
士郎「お前も遠坂もこれ以上は無理だ。……だったら俺がやるしかない……」
セイバー「シロウ! 私はまだやれます! 貴方こそこれ以上無理をしたら……!」
士郎「重ねて命じる、撤退しろ」
セイバー「シロウ! 何故……何故です! 一緒に、一緒に戦おうと、誓ったはずではないですか!?」
士郎「ここから遠坂と桜を託せるのはお前しかいないんだよ」
俺は聖杯の幕を下ろす。じいさんが嘗てそうしたように
セイバー「シロウ! あなたたち親子は、二度も私をおいてけぼりにするのですか!?」
セイバー「私は、私はまだ! 何も言ってない! まだ一言もあなたに」
士郎「セイバー」
さよなら、そしてありがとう
藤ねぇを頼む
シロウ!
やめろ!
やめて……
うぁああああああああああああああ!!!
士郎「これで、結局一人か……」
……いや、まだだ
まだ、もう一人いる
士郎「ででこいよ。――――言峰」
――――く、
くくく
言峰「気づいていたか? ならば何故セイバーを使わない?」
士郎「このタイミングなら、お前が出てくると思っていた。……お前だけは、俺が止める」
士郎「それに、お前は……過去のツケを払わなきゃならない」
言峰「私は、ただ己の為したいことをしてきただけだ」
人が嫌悪を抱くことに愉悦を感じる欠陥人間、聖杯戦争もそんな私の渇きを癒す催しに過ぎない。
言峰「そして私は、これからも己の意識に忠実であり続ける。これを使って、より長く愉悦を感じる」
士郎「それは……」
アンリマユ・ギプス
いや
大魔術師養成ギプス
言峰「漸く手に入れた。衛宮切嗣の遺品にして、今回の聖杯戦争最大のイレギュラー。悪意を増幅させる擬似願望器」
言峰「私にとっては聖杯などよりも余程価値がある。これを身に付け、呪いの生誕を心から祝福しようではないか?」
士郎「させない、それは俺の……親父の、俺たち親子の魂なんだ」
士郎「返してもらうぞ、言峰」
言峰「力づくでやってみろ、小僧」
士郎「投影、開始――――!」
ずきりと、脳の血管が切れた。
またひとつ、少しずつ破滅に近づいた
後どれ程無茶ができるだろうか?
いや、関係ない
俺はもう、止まらないと決めた
この体と命が、燃え尽きるまで
ただ走り続ける
ただ、ひたすらに
--
言峰「素晴らしい。この苦悶の締め付けさえも心地よい」
ぎぎぎぎいぎいいいいggggggいいいいいいいい
私は知りたかった。"努力"する喜びというものを
何をやっても一定の結果を得てしまう私にとって、努力とはただ辞書に記載されている一単語に過ぎない。
そんな空虚な私の前に現れた、衛宮切嗣、士郎親子
血の汗と涙を流し、そうまでしてこの親子は何を望む
何故そこまで出来る
羨望と嫉妬、そして憧憬の入り交じった複雑な感情を抱いた。
その親子を繋ぐギプスを纏い、私は対峙する。
常軌を逸した努力の果てに境地に辿り着いた求道者に私は問う。
お前は何を望み、ここまで来たのかと
数えられない程の特訓の果てに、勝利を望んだ
だが、俺にとって勝利とはあくまである事実の証明の道具に過ぎない
――――ただ一人、俺が最も尊敬した男
衛宮切嗣の教えが間違っていなかった
それだけを証明したかったのかもしれない
士郎「言峰ぇええええええええええ!!」
夫婦剣の斬撃は、軽く身を捻った言峰によってあっさりと避けられた。
そっと拳を添えられる
その瞬間、腹部に尋常ではない衝撃が走る
士郎「が…………!」
言峰「凛に八極拳を仕込んだのは私だ」
腹の中がごちゃ混ぜになったかのような感覚
手放した夫婦剣は言峰の続く連打に砕かれる。
――――また、一歩
士郎「投影……ぐ! うぅうううおおおおおおおお!!」
痛みを咆哮で捩じ伏せる
脳の警告を無視し、アーチャーの左手を思い切り地面に叩きつける。
――――左腕から無数の剣が飛び出た
言峰「何……」
士郎「言峰ぇええええええええ!!」
ただがむしゃらに左腕だったものを言峰に叩きつけた。
言峰「ごふっ……!」
血を吐くその顔は未だに笑顔
まだだ、まだ、足りない
砕ける剣
――――また、一歩
言峰「まだだ、全てを吐き出せ衛宮士郎」
まだ、殺されてやらんぞ
――――まだ倒されてやらないぞ!
士郎「ああああああああああ!!」
脳裏に浮かんだのは友の決意の叫び
――――誰だったか、顔が、名前が、思い出せない。
砕けた破片を投げつける
禁断のアンダースロー
言峰「知っているぞ、その投擲は」
言峰「まともに相手をすると思って」
――――壊れた幻想!
バゴンッ!
言峰「何!?」
目眩まし?
本命は……
士郎「言峰ぇええええええええ!!」
――――技とは手段に過ぎない
技を活かすのは使い手
この左手と技を授けた者の顔が、名前が
思い出せない
言峰「これが、必死と言うものか? 羨ましい限りだ! ついぞ私はそんな感情を持てなかった」
言峰「だが、それも届かなければ無意味だぞ? 次はなんだ、何を見せてくれ――――」
言い切る前に、深紅の魔槍が右肩を吹き飛ばした
言峰「――――! やる、な」
最期まで誇りを抱き続けた青い戦士の顔が、名前が、思い出せない
――――また、一歩
言峰「ふ、ふふ、まさか、こんな短期間で追い抜かれるとはな」
言峰「私にはそうあれる敵がいなかった。友とも呼べる敵が……」
男を成長させるものは、なまじの味方との平和よりも、優れた敵との激闘の嵐である
言峰綺礼に友は、敵と呼べるものはいなかった。それは何よりも不幸であると言えるだろう。
――――何故かな? どうやら私が私でなくなってしまったらしい……
己を見つめ直すきっかけを与えた、悪と呼ぶには芯の通った強さを持った男の顔が、名前が、思い出せない
士郎は、今までの全てを燃やしている
力も心も、思い出すらも火にくべて
――――士郎よ、最期に、お前に教える技がある
己が最も尊敬していた、父の名前が、顔が
――――消えて行く
士郎「投影、かい、し」
手に浮かぶのは、不定形の球体
衛宮切嗣が最期に息子に託した己の技
起源弾
言峰「それも、使えるのか。やはりあの男の子だ」
だが、銃弾と呼ぶにはあまりに大きく、歪で
言峰「それでは"起源球"だな」
士郎「…………」
もはや士郎に言峰の言葉は届いていない
あるのは、ただ純粋なまでの闘志のみ
右足を踏み出し
左手を大きく後ろに構える
その手に握るのは歪な白球
命を削った最後の一球が
――――今、投げられた
"ピシッ"
今日はここまでです
今回の男を成長させるテーマは「柔道讃歌」から頂きました
梶原漫画史上最強のマザコン主人公のとおり、母と子と、師匠の三角関係という単なる熱血モノとは言えない複雑な人間関係が魅力です
次回で最終回です
思い込んだら
試練の道を
行くが男の
ど 根 性
俺は、勝つ
例え全てを失ったとしても
もう二度と引き返せないと知っていても
俺は
俺は
俺は!
士郎「俺は、勝つ!!!」
そして最後の一球を投げた時、俺の体は、心は、砕け散った
何故か避ける事を躊躇した
それどころか、この一球を完膚なきまでに打ちのめしたいという欲望が沸き上がる。
不思議な感覚だった。人の不幸や悪意とは違う、何か惹き付ける魔球
衛宮親子の魂を打ち返した時、自分は求めていた物が手にはいるのでは……そんな冗談のような戯言をこの時は本気で信じたのだ
言峰「打つさ、打ってやろうじゃないか」
私ならば出来る。いや、この場では私にしか出来ない
十年の因縁を持つ私と衛宮、この二人の間に入ることは許されない。
それに……
野球とは、一人では出来ないのだから
吹けば飛びそうな程に頼りない起源球
その緩やかな動きに合わせ、ゆっくりと振るう。
手には泥のバット、呪いの結晶
ギプスによって鍛えられた純粋な悪意
対する純粋な闘志が迫る
ゆっくりと
ゆっくりと
――――そして、両者はぶつかり合った
大リーグボール3号は打たれた
起源球はまっすぐ士郎へ向かう
打者を殺す悪意の打法「ノックアウト打法」
士郎は避けられない、動けない。
倒れ伏したまま、命を奪うボールが迫り――――
士郎「」
――ビシリ――
しかし、彼の肉体は死ぬことを許さなかった。
言峰「動いた、バカな、奴はもう」
――――その体と心が砕け散ったはず
なのに、何故まだ
ぐんっ!!
今まで酷使し、打ちのめし続けた肉体は怒りを抱いていた
「ここまでやっておいて負けるとは何事か」と
例え全てを失ったとしても、積み重ねた特訓の証が敗北を許さない。
意識が吹き飛んだ状態にもかかわらず、両手を地面に叩きつけ、その両足を――――
天空へと突き上げる
ガキィイイイイイイイイイイン!!
――――秘技、ノックアウト打法返し
信じられないモノを見た
完全に打ちのめした筈の白球が、私の、心臓に突き刺さっていた。
――――なぜ、負けたのだろう?
足りぬモノを埋める為に、衛宮切嗣のギプスまで着て鍛えた私の悪意が、なぜ
今度こそ倒れた衛宮士郎を見る
露になった上半身は無数の傷跡があり、鋼のごとき筋肉は息を飲むほど洗練されている。
その顔は前のめりにたおれた結果、泥と土埃にまみれているにも関わらず、完全を作り上げた勝利者の顔をしていた。
――――ああ、そうか。そういうことか
私はギプスを着けて悪意を永遠に増幅させようとした。
しかし、ギプスとはあくまで特訓の為の道具
その先の勝利を手に入れるための……
いつかは脱ぎ捨てなければならない
いつまでも着ていては意味がない
そんな事もわからずに、私は執着し続け……
言峰「ならば、始めから私の敗北は決まっていたというわけか」
見事だ、衛宮士郎、そして我が唯一の敵、衛宮切嗣
この勝負、私、の 負 け
破滅の音が聞こえた時、俺は自身の魔術回路が完全に絶たれた事を理解した。
■■は倒した、最早顔も名前も思い出せないが見なくても解る。あいつは背中から倒れ、息絶えた。何処までも俺とは真逆の生き方をした男だ。
――――だが、まだだ。まだ、聖杯が残っている
士郎「う……あ」
聖杯を壊す
聖杯を閉じる
この戦争の幕を
決着を
士郎「あ……あ」
体と心は砕け散った
だが、俺にはまだ残っている物がある
そう、俺にはまだ「命」が……
「魂」が残っている
ダメだよ、シロウ
――――声が聞こえた
鈴のように清らかで、幼い声が
「わたしは、シロウを認めない……」
「シロウの生き方も、キリツグの生き方も」
「わたしは、あなたたち親子には絶対負けない。だから、聖杯は私の手で終わらせる」
誰の声だ
わからない
思い出せない
だけど、ダメだ
そんなことダメだ
絶対にダメだ!
「それに、お姉ちゃんは弟を守るものなんでしょう?」
「あなたとタイガの関係をみてたら、もしかしたら私たちもって……少しだけ思った」
「あなたと私は殺し合う関係だったけど、キリツグに振り回された仲だから……」
イリヤ「だからシロウ、あなたももう休んで」
士郎「ち……がう」
イリヤ「え?」
休まなければならないのは、幸せにならなければならないのは、目の前の少女だ
士郎「それ、に。姉貴が弟を守るんじゃ、ないよ」
――――弟が、姉を守るんだ
それが「男」だから
士郎「きみは、しあ、わせに、ならなきゃ、だめだ」
イリヤ「シロウ! あなたまだそんなこと」
士郎「俺は、じゅうぶんしあわせだったよ。もう何もおもいだせないけど、わかるんだ」
きっと、命に刻まれてるから
士郎「だから、きみも、刻むんだ、命に」
イリヤ「イヤよ! いっつもワガママばっかり言って! あんたたち親子はどれだけ私たちを振り回せば気がすむの!?」
士郎「ごめん、イリヤ」
イリヤ
そうだ、この子はイリヤ
俺の、姉さん
どすっ
イリヤ「うっ!? ――――シロウ……なん、で」
意識を刈り取り、そっと寝かせる。
――――きっと、この日の為に、俺は鍛えていたのかもしれない。
■ー■ャー、この子の命は守れたよ……
聖杯を目前にし、いよいよ最後の仕上げにかかる
これが、本当の、最後
士郎「――――ぐ、あ」
一歩も動けない。あと少し、ほんの少しなのに
士郎「動け、動けよ、おれの、体」
皆には明日がある
明日の朝普通に起きて、学校や会社に行って、いつもと同じ毎日を過ごして
そんな普通の平和を、みんな信じてるんだ
士郎「壊させるもんか……しあわせを……」
■坂の
さく■の
――――藤ねぇのしあわせを
士郎「おれが守る」
――――絶対に
引き出しは本当に空っぽか?
俺の命はつきるのか?
違う
まだ、何かがある
まだ、魂の奥底に、眠る何かが
イメージしろ
俺を形成するモノの全てを想像しろ
ギプス
召喚
魔球
■■■―
聖剣
「黄金の鞘」
士郎「……あった」
そして、心からそれを引きずり出す
黄金に彩られた
衛宮士郎だけのギプス
アヴァロン
全て遠き理想のギプス
士郎は再び立ち上がった
灰の中から甦る不死鳥のように
その顔は生気に満ち、最早恐れるものなど何もない
士郎「……おれは、あいつの鞘だったらしい」
借りるぞ、お前の魂
士郎「投影、開始」
エクスカリバー
約束された勝利のバット
聖杯よ、アンリマユよ、お前もかわいそうなやつなのかもな
おれのように、土壇場で立ち上がる力をくれる大切な人がいれば、あるいは……
でも、悪いがこの世界にお前たちは必要ない
せめて、この地下の遥か上……
天上の星座から、世界を見ていてくれ
士郎「大気圏まで……」
――――吹っ飛びやがれぇええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!!
ガッキィイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!
光が、空洞を満たした
以上
終わらなかった……
次回、エピローグ
エピローグ
Fateの星
結局、私たちが意識を取り戻した頃には、崩壊した聖杯と、気絶したイリヤスフィール。そして必死にあのバカの姿を探すセイバーがいるのみだった
あのバカ……衛宮士郎は見つからなかった。
何度も何度も空洞内を探索したが、結局"行方不明"として片付けられた。
――――藤村先生は泣いていた
正気に戻った桜も、イリヤスフィールも、セイバーも泣いていた。
私は、自分の無力を呪った……
数ヶ月後
セイバー「リン、行ってしまうのですね」
凛「今回の聖杯戦争で自分がいかに未熟か思い知らされたからね」
凛「時計塔で一から鍛え直すわ! もう二度と肝心な時に寝てないようにね」
セイバー「貴女なら素晴らしい魔術師になれると、信じています」
凛「……それよりセイバー、貴女いまだに体調に変化とか無いの? もうあの日から随分経つけど」
セイバー「それが、私にもさっぱりで……聖杯とのリンクは切れたはずなのですが……」
セイバー「……陳腐な言い方をすれば、やはり」
凛「奇跡、か」
セイバーは未だに現界している。
その理由は悔しいがわからない。
ただ、やはりあいつが……
士郎が何らかの影響を与えたのだろうか
凛「ま、たまにはこういう奇跡があってもいいかもね」
セイバー「私は、タイガを守ります。それがシロウとの約束ですから」
凛「そう言えば、先生って、いや、藤村さんってやっぱり……」
セイバー「ええ、喜ばしい事です」
アインツベルンの森
セラ「イリヤ様、本家からの伝言です」
イリヤ「続けて」
リズ「聖杯戦争に負けたどころか、帰還も拒否するとは何事か、我々はけして許さない」
イリヤ「ふん、上等じゃない。ホムンクルスの穴が私を抹殺するってわけ?」
イリヤ「本家にはこう伝えときなさい、『バカめ』とね」
リズ「イリヤ、ムチャする」
イリヤ「命を使い損ねたんだもの、このくらい平気よ。それより、お城の改築は?」
セラ「現在五割程進行してます」
イリヤ「そ、楽しみね! 孤児たちの夢の城! 名前は――――」
風雲イリヤ城ってのはどうかしら?
おじょうさま、さすがにそれは……
桜「……」
桜「先輩、結局、一人で行っちゃいましたね」
桜「ごめんなさい、私が弱かったせいで、皆に迷惑をかけて」
桜「先輩に怒られた時、ホントに怖かった。だけど、それ以上に嬉しかった」
――――私は、先輩の中にお父さんの影を見ていたみたいです
桜「今までを償うため、セイバーさんと一緒に藤村先生……いえ、藤村さんを支えます。だから」
――――早く、帰ってきてください。先輩
衛宮士郎の喪失は様々な人間の心に傷を与えた。
だが、時は巡り続ける。いずれ痛みは緩和され、皆それぞれの明日を歩み始める。
少年が残したものは確かに受け継がれる
不死鳥の羽根は、次の世代へ――――
数年後
「ねえ、お母さん、お父さんってどこにいるの?」
「んー? お父さん? ……そうねえ、お父さんはね、ホラ、あそこ」
「あれって、お星さま?」
「うん、お父さんは、あの一際大きいお星さまになったの あそこからいつでも私たちを見ていてくれるんだよ」
「さっきね、変な機械みつけたよ、なんだかすごく懐かしくって」
「うん、やっぱりお父さんの子だね」
――――いつか、あなたにも話してあげる
私が愛した人の話を
ここは、どこだろう
きれいだ、まるで、星の海を漂ってるみたいだ
夢なら、もっと、ここにいたいな……
――――士郎
士郎よ
声が聞こえる
懐かしい声が聞こえる
士郎、よくぞ聖杯の幕を下ろした。お前は今まさに僕を乗り越え、正義の星にたどり着いたのだ
――――じいさん、いや
お父さん
士郎よ、
おまえは命がけのこの戦いに勝ち抜き、完全にこの僕を乗り越えた。
これがその記念のボールだ。
これで僕たち親子の勝負は……全て終わった。
――――お父さん
そう呼ばれるのも何年ぶりか・・・。
許せ士郎。僕はお前に世間並みの親らしい事も何ひとつしてやらなかった。
せめて、せめてその罪滅ぼしだ。 今日は僕が僕の背でおまえを運んでやる。
昔、あの火の海のなかでおまえをこの背でおぶった様にな。
――――ありがとう……ありがとう、お父さん
一組の親子が星の階段を登って行く
苦難に満ちた人生を駆け抜け、遂に夢にたどり着いた男たち
彼らは何処へ行くのだろうか
――――これは終わりではない、正義の星を掴んだ今、あたらしい人生において新たな夢の星を見つけるのだ
――――血の汗流せ
涙を拭くな
行け、行け、士郎
どんと行け
新たな人生の星を目指して!
――星 一徹――
半年間に渡り御好評を頂きました「Fateの星」は今回で終了させて頂きます。
長い間御覧頂きまして有難う御座いました。
このssを書く切っ掛けとなったのはご存知クリスマス動画です。
もともとシリアスな笑いとしての完成度が高い巨人の星ですが、それは言われてみればの話であり、本編はそんな突っ込みを許さない怒濤の展開でした。
小学生の頃に梶原作品に触れ、男としての生き方の骨子を形成されたと言ってもいい私は今でも愛読してます。
皆さんもこれを機に梶原作品を読んではどうでしょうか。ちなみに私のおすすめは「愛と誠」です。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
今までありがとうございました!
html依頼出しました
残りは雑談とかどうぞ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません