Fateの星 (920)

 ※注意※

 ・キャラ崩壊あり

 ・一部きわめて理不尽

 ・よいこはまねしないでね

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451701316

 ――その少年を見たのは、夕焼けに染まったグラウンドだった

 何度やっても失敗する棒高跳び

 まるでとりつかれたかのように繰り返すその少年の姿に、呆れ九割、そして憧れを一割ほど抱いた

 ただ、一つだけ奇妙な点を挙げるとすれば――

 
 ――ギ、ギギ、

 ――ギギギ、

 ――ギーギー。

 ――周囲に響き渡る、何かが軋む音。

 まるで錆び付いたバネが強引に引っ張られてるかのような、不自然な音

 ――衛宮 士郎という少年から発せられる、不自然な鉄の音

 思えば、あの時から、いやもっと以前から気付いていれば、直ぐ様あんな凶行をやめさせていたものを。

 今となっては遅すぎる後悔だが、それでもたまに思い出すのだ



 ――あの努力と根性の塊の、不死鳥のような男を


 

 死ぬときは たとえどぶの中でも 前のめりに死んでいたい

          ――梶原 一騎―― 

???「今日からそれを着けて生活しろ」

士郎「いや、あの、じいさん、これ何?」

???「大魔術使い養成ギプスだ」

士郎「いやそうじゃなくて」

???「士郎よ、お前がどのような道を選ぼうが文句は言わんつもりだった。しかし魔術師を目指すというならば話は別!」

???「回路の少ないお前では魔術師として大成することは至難……。ならばその少ない回路を鋼の如く強靭にするしかあるまい!」

士郎「いや、だからこのみょうちきりんな健康器具擬きが魔術と何の関係があるって言うのさ」

???「話は最後まで聞かんかこのたわけが!」バシーン!

士郎「ぐああっ!」

???「このギプスは装着した者の魔術回路に負担をかける作りになっとる。己がいつまでも魔術を手に余そうものならば容赦なくその特製バネがお前の体を締め上げる!」

???「士郎よ!! お前は僕が果たせなかった正義の味方の夢を継ぐと言ったな、ならば僕も容赦せん!!」

???「あの夜空に輝く正義の星を掴むためにこの切嗣、敢えて心を鬼にしよう!」

いつもはどこか儚げな養父が、このときばかりは鬼に見えた

俺、もしかしてとんでもない道を選んじまったんじゃ……!?



 それからはこの現代社会に似つかわしくない、地獄とも呼べるしごきが始まった。

切嗣「この馬鹿もん! 投影二百回終わらせなければ家にはあがらせんと言った筈だ!罰としてもう百回追加!失敗は数にいれん!」ピシャリ

切嗣「避けるな! 向かってこい! 起源弾の軌道を正確に予測しろ! 当たったら死ぬぞ!」バキュン バキュン

切嗣「何? 同級生に器材の修理を頼まれた? 投影も録にできん半端者にそんな時間があると思ったか!」

切嗣「何? 藤ねぇが泣きながらもうこんな事はやめてくれと頼みに来た? 女が立ち入る話ではない! すぐに追い返せ!」

切嗣「なんだこのまずいメシは! 今すぐ作り直せ!」ガッシャーン

 一部ものすごく納得の行かない仕打ちを受けてる気がするが、あの優しかったじいさんが、俺を一人前にするために全力で取り組んでくれている

 その事実が嬉しかったんだ

 でも、そんな地獄のような生活も長くは続かなかった

切嗣「どうやら僕ももうすぐ終わりの時が近づいてきたらしい……。ふっ、この幻の魔術師殺しと怖れられた衛宮 切嗣もあっけない幕切れよ」

士郎「とうちゃん……!」

切嗣「いいか、士郎よ、よく見るがいい」

もはやいつ倒れてもおかしくない養父が夜空に輝く満天の星々を指差す

切嗣「あの星座がお前の目指す正義の味方だ」
 
切嗣「かつては僕もあの輝かしい星座を掴もうと必死だったが、もはや手の届かぬ彼方に遠ざかってしまった……」

切嗣「士郎! お前は何がなんでもあの星座まで駆け登るのだ! 正義の味方という星座のど真ん中で一際でっかい明星となって光れ。輝け!」

知らない内に涙が出ていた。思い返せばイカれてるとしか思えない凶行の毎日だったが、そんな事などまるで些事に感じる感動があったのだ。

士郎「わかったぜ、とうちゃん! 俺、あの星を目指す! そして立派な正義の味方になってみせる!」

切嗣「士郎……!」ポロポロ

士郎「とうちゃん……!」ポロポロ






電柱の影 

大河「士郎……」グスリ




 衛宮切嗣は静かに息を引き取った

 この広い屋敷に今住んでいるのは俺一人。そして俺を心配して毎朝様子を見に来る藤ねぇだけ。

 だが、この遺された大魔術師養成ギプスには今でも偉大なる義父の魂が宿っている。

 その魂が俺に語りかける。負けるな士郎、挫けるな士郎と。
 
 このギプスに恥じぬ男になるべく、今日も俺は訓練に励む……。

 

 

 数年後

 衛宮邸

桜「先輩、おはようございます。今日もお手伝いに来ました」

士郎「ああ、おはよう桜。それじゃあ悪いけど少しの間頼むよ」ギギ

桜「いつもの訓練ですか? 余り無理はしないでくださいね」

士郎「大袈裟だな桜は。別に死ぬまでやるって訳じゃあないんだから」ハハ ギギギ

桜「そういって先輩はいつも無理するじゃないですか。 一昨日なんて藤村先生が顔を真っ青にして『士郎が死んじゃう』なんて取り乱してたんですからね」

士郎「ははは、藤ねぇも心配性だなぁ! ちょっとコンダラをしてただけじゃないか!」ギッギッギ

桜「ほんとうにちょっとだけですか? 藤村先生も最近悲しそうですし、もっと自分の体を大切にしてください!」

士郎「分かってる、無理はしないさ」ギギ

桜「もう! ……先輩、失礼ですが、例のごとくアレを着てるんですか?」

士郎「ああ。なんだ?桜も欲しいのか?」ギギ?

桜「い、いえ、私はちょっと」

桜「……先輩。いつも音がなってるから、みんなから穂群原のサイボーグとか呼ばれてるんですよ」

士郎「サイボーグみたいに疲れ知らずなら便利なんだけどな」ギギギ








 

 
 
 衛宮邸 中庭

 

士郎「お~も~い~ コーンダーラっ 試練の~み~ち~を~♪」ズルズル ギシギシ ギギギ

士郎「ゆっくが~ おと~この~ ド根性~♪」ズシン 

士郎「うーむ、これもだいぶ軽く感じてきたな」

士郎「このじいさん特製の魔術式コンダラは筋力だけじゃ絶対に動かせない」

士郎「俺の魔術的要素がこの数年間でだいぶこなれてきたってことか」

士郎「最初はまったく動かせなかったのが懐かしいな」

士郎「十センチ動かすまで何回もやらされたっけか」シミジミ

 

士郎(幼)『じ、じいさん、おれ、なんだってこんなことしなけりゃいけないの……?』ギシッギシッ ギギギ

切嗣「男の子はぐずぐず理屈をこねるなっ!」

切嗣「ただ、これだけは言っておく、このコンダラの重さはお前の夢の重さと思えっ!」

切嗣「理屈で考えるな! 考える前に行動しろ! それが頭でっかちの魔術師と我々の違いだ!」

大河『ねぇ、切嗣さん、士郎のことなんだけど、本当にこのままで大丈夫なの?』

切嗣『あいつなら大丈夫だ。僕は信じている』

大河『でも、あんなに小さいのに、録に遊ぶこともできずに毎日毎日特訓ばかりじゃない! いくらなんでもひどすぎるよ!』

切嗣『僕が手を出さずともいずれあいつは自ら矢面に立つ男になる! 自分の痛みより人の痛みを感じてしまうあいつは誰よりも優しい。だからこそ強くならねばならんのだ!』

大河『そんなの、勝手よ! 士郎は切嗣さんの人形じゃないのよ!』







士郎『じいさん、藤ねぇ……』


士郎「あの頃は危うくじいさん逮捕されそうになったっけ」

士郎「俺の親権をどうにかするために藤ねぇもだいぶ無茶したっていうし」

士郎「俺がじいさんと一緒にいたいって言ったから何も無かったけど」

そういったときの藤ねぇの顔は、今までみたことないくらい悲しい顔してた

士郎「じいさんが亡くなってから、藤ねぇはますます心配性に磨きがかかっちまったし」

シロウーッ オハヨーッ! ゴハンタベニキタヨーッ!

士郎「……基本はぶれてないけど」



衛宮邸

居間



大河「あー! おはよう士郎!」

士郎「おはよ、藤ねぇ。」ギギギ

大河「むー! またあの変なギプスつけてるの? いい加減やめなさーい!」

士郎「これはもう体の一部みたいなもんさ、眼鏡と同じだよ」

大河「そんな物騒な眼鏡なんて聞いたことなーい!」

桜「あの、藤村先生? 朝練があるので早めに食事を始めたいのですが」

大河「あー! そうだった忘れてた! 脳みそまで筋肉の頑固士郎なんてほっといて早くごはんにしよー桜ちゃん!」

士郎「ただメシ食っといてなんて言い種だよ……。」

大河「ねぇ、士郎」

急に声色の変わった藤ねぇ。不意打ちの対応に俺は思わずドキリとした

大河「危ないことやったら、お姉ちゃん許さないよ」

士郎「……できるだけ約束するよ」

じいさんが死んでから、少しだけ藤ねぇが変わった。

なんというか、今みたいにはしゃいでたかと思うと急に落ち着いたり、その逆だったり、

まるで本当の姉のような――

大河「よろしい♪」

いつも通りの快活な笑顔に戻る藤ねぇ。
何年たってもこの変わり身の早さには驚かされる

大河「それじゃ、ごはんにしよっか!」

士郎「おかわりは二杯までな」

大河「むー!士郎のケチーっ!」


穂村原学園

慎二「よぅ、衛宮。 相変わらず朝っぱらからギシギシうるさいやつだな」

ネェ、コノヒトッテ。 レイノ サイボーグ

士郎「慎二か、そっちから話しかけて来るって事は野暮用か?」ギギギ

慎二「感謝しろよ、退部して暇なお前に部室の掃除の仕事を持ってきてやったぜ」

士郎「また一年を甘やかせてんのかよ、そんな調子じゃ今年は予選も危ないんじゃないか?」ギギッ!

慎二「ふふん、あいにく順調に記録を伸ばしてるよ。衛宮に心配される筋合いはないさ」

士郎「ならいいけど、力仕事が余ってるならこっちに寄越せよ! どうせ暇なんだし」

慎二「ふ、ふん! 衛宮にしちゃあ殊勝な心がけじゃあないか。なら遠慮なく使ってやるから覚悟しとくんだな!」ゾロゾロ

ネェ、ヤッパアノヒトヤバイ シッ、コエオオキイ イガイトガッシリ


柳洞「おお、衛宮か、今朝はちゃんと油差したか?」

美綴「衛宮、お前からも慎二にガツンと言っておいて――」

桜「先輩、さっきお弁当渡すの忘れちゃってました」

穏やかでもない、喧騒とした心地よさを感じる毎日。

こんな生活を護る為に俺は日々の訓練を欠かさず行っている。

ただ、ほんの少しだけ――――

今の生活に不満がない訳じゃない

この体を、魂を、完全に燃やし尽くす、

炎のような熱さを、俺は求めていた

 その日の夜

 ビル 屋上

凛「どう? アーチャー、様子は」

アーチャー「……なるほど……。どうやら向こうもお気づきのようだ、すぐにでも襲いかかってくるだろうな」ギギ ギシ

凛「そう、ようやく始まるのね、戦いが」

凛「……ねぇ、アーチャー、前から聞きたいことあったんだけど」

アーチャー「なにかね? マスター」ギギ?

凛「貴方服のインナーに何か仕込んでるの? 凄く五月蝿いんんだけど」

アーチャー「ふっ、気にするなマスター。 これは生前の私の思い出の残り香のようなものだ。 害もなければ利もない」 ギシギシッ

凛「宝具でもなければ霊装でもない? 本当不思議ね貴方って……ってあんた! 記憶戻ったの?」

アーチャー「部分的に、ひとまずはだがな」

アーチャー「まあ、戦闘に支障はない。」

――――誰が相手だろうと、絶対に負けはしない

そうやって少し笑った褐色肌の旧兵

その笑みは始めてあった時からまったく馴れなかった





 数日前

 遠坂邸

凛「よーしっ! 手応えあり! 最強の駒を引いたっ」

自分の出せる最高の召喚だった。

呼び出したサーヴァントは自分に相応しい能力を持っているだろう

そう、期待を胸に秘めてサーヴァントが来たであろう場所に赴き、実際に見たのだ。
       







 




     破         滅

アーチャー「ふ、ふふふ……。 こんな壊れかけた者を呼ぶとは、なんと運のないマスターか」

凛「あ、貴方、一体」

アーチャー「生憎だが、召喚された時に不備があったようでな……。こう、聞こえたのだよ、"ピシッ"と、な」

アーチャー「と言うわけで記憶に幾つか抜けが生じている」

凛「ごめんなさい、貴方の言ってること全然わからない」

これが根暗アーチャーとの最初の出会いである。

 冬木市

 穂群原学園

ランサー「ふっ! なかなかやるじゃねぇか弓兵! いや、本当に弓兵か怪しいもんだ!」ザザッ

アーチャー「…………」ブォンッ ギシッ

無言で夫婦剣を振り上げ、敵である全身青タイツに襲いかかるアーチャー。

その表情は躍動も何も一切感じていない

ただ、虚ろな目を向け、作業のように事に当たっている

始めのうちは英霊同士の凄まじい一騎討ちに目を見張ったが、すぐにその違和感に気づいてからは全ての見方が変わった

凛「なんなのアイツ…… アレじゃまるで」







――ロボットみたい

ランサー「ちっ、無愛想なやつだな、もっと楽しまなくっちゃあ損だぜ? せっかくの聖杯戦争なんだからよ」

アーチャー「……ふっ」

ランサー「……貴様、何がおかしい」

アーチャー「いや、私も、お前のように何も考えずに戦えたら幸福じゃないかと考えていた所だ。」

そう言い放つアーチャーは右足を前に踏み出し、左手の中華刀を後方に振り上げ構えをとった










――調度、野球の投手が下手投げで投げる時のような、大振りな構え

――嫌な予感が、する

アーチャー「3号」

ボソリ、とアーチャーが呟いた

構えをとったその姿に私は

死神の姿を重ね合わせた

フワッ

まるで綿でも放ったような、芯のない投棄。

ランサー「なんだ? この腑抜けた攻撃は」

心底失望したかのように、青タイツはゆっくりと迫る中華刀に対し無造作に槍を振るう

その瞬間――――


 フワリ

ランサー「?!?!?」

子どもにでも打ち返せそうなアーチャーの投擲が、ランサーの豪打をすり抜けた

すり抜けた剣はそのままランサーの顔面に――

ランサー「う、おおおおおっ!」

間一髪の所で身を翻し避ける

そう、避けたつもりだった









アーチャー「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

 
 バゴンッ!

鈍い爆発音が辺りに響きわたる。

投擲した剣が爆発するなど、誰が予想できようか

爆発の直撃を食らったランサーが吹き飛ぶのを、アーチャーは冷めた目で見つめていた

アーチャー「つまらん、こんなモノで楽しむなど、よほど暇を持て余しているとみえる」

ランサー「言って……くれるじゃあねぇか」

槍を杖にしてランサーが立ち上がる。流石に英霊だけあって、あの至近距離からぎりぎりで身を護ったらしい。

しかしその息は荒く、頭部から流れる血が頬を伝う

ランサー「今のが取っておきか? 効いたぜ。だが、二度は通じんと思え」

アーチャー「バカか貴様」

ゆっくりと剣を構えるアーチャー

その左手には、爆発し砕け散ったはずの中華刀が

アーチャー「二度も同じ手は必要ない。お前は、ここで、私に倒されるのさ」

ランサーはここである事実に気づく

真剣勝負の場で圧倒的有利に立っているにも拘わらず、目の前の弓兵は殺気も、闘気も放っていない

それどころか、良く見れば生気すら消え失せた死人のような顔をしている

怒りも憎しみも悲しみもない、人形のような顔

ランサー「今理解したぜ。今回の聖杯戦争で一番ヤバいのは貴様だ」

アーチャー「褒めているのか? それは」

ランサー「ほざけ、死人が。墓場に追い返してくれる」





ランサーの持つ紅い槍に魔翌力が収束していく

アーチャーもまた、ランサーのただならぬ気配に身を構える

一触即発

ガンマンの早撃ちにも似た緊張感が漂うのを凛は感じ取った

ランサー「! ……ちっ、どうやらここまでだ」

突然ランサーが緊張を解く

その視線の先は学校の校舎に向けられて――

凛「! いけない! アーチャー!」

目撃者

秘匿

口封じ

様々な単語が脳裏を過った。

 校舎

 生徒会室


士郎「ちの~あ~せなが~せ なみ~だ~をふく~な♪」ギシギシ ガチャガチャ

士郎「ゆ~けゆ~け、ふ~んふ~んふふ~ん♪」ナンダッタッケ ガチャガチャ ガギ

士郎「うん?」 ガギ ガギ

士郎「ふん!」 バギャ!

士郎「これでよし。 よーし、そろそろ帰るか――――」

バゴンッ

士郎「なっ!?」ビクリ 

士郎「な、なんだ今の音? 校庭から?」


士郎「な、なんだあいつら」

校舎の窓から見える赤と青の二人の男が、それぞれ剣と槍を持って睨みあっている

明らかに日常とはかけ離れた光景だった

士郎「ま、まずい。 何か良くわからんがこれはまずい」

士郎の全感覚が逃げろと警鐘を鳴らす

ふいに、青タイツの男がこちらを見た気がした。

瞬間。士郎の脳裏にかつての記憶が甦る

あれはまだ修行中の頃

小学五年生の冬だった。毎朝10kmのランニングが日課だった。はく息もこおりつき耳も鼻ももげそうな、そんな二月の早朝だった。

道を走り続けていると、ゆくての道が三本にわかれた地点にさしかかった。その真ん中の道がいつものコースだ。

ところが、そこは工事中で、でっかい深い穴がほられ通行止めになっていた。そして、右の道は近道、左の道は遠回りだった・・・

近道の終点にじいさんがいた。ものも言わすに殴られとばされた。鼻血に染まりぶったおれても、なお蹴りまくられた。鬼に見えた・・そのとき鬼は叫んだっ

切嗣「士郎よ!!  きめられたコースが通行止めだったなんぞは言い訳にならん。なぜ、遠回りを選ばん!? つらい苦しい遠回りをえらんでこそ自ずと成長がある! これからの人生においても、行く手に障害があるときは、常に遠回りを選べ!」

切嗣「二度と近道を選んでみろっ そのとき限り、この衛宮切嗣の子ではないと思えっ」

殺される

あのときは本気でそう思った

そのときの感覚と、全く同じ



――――逃げろ



バシリと戸を開け、廊下に飛び出す。

月明かりがあるとはいえ、暗い廊下がやけに長く感じる

今なら間に合うと思い、駆け出そうとする

しかし



ランサー「ついてないな、ボウズ」



青い死神が 目の前にいた

ランサー「こういうのは性にあわんが」

ランサー「まあ、恨むなら自分の不運を恨むんだな」

ジリジリと迫る青い死神

逃げ道は塞がれた

逃げ場はもはやない



――本当にそうか?


道が塞がっている時は、敢えて遠回りを

遠回りを

遠回り


士郎「うおああああああっ!」

グワシャアッ

最近の学校に良くある、ワイヤー入りの強化ガラスでなかったのが不幸中の幸いだった

窓を突き破っての逃走なんて映画じみた真似を、まさか自分が行うとは夢にも思っていなかった

問題は――――

士郎「がふっ」ぐしゃ



三階から飛び出したという事だが

士郎「ぐ、ぐ」

士郎「死ぬ、流石に、死ぬかも」

士郎「でも」

指が、ギプスに触れる

士郎「じいさんの しごきにくらべりゃ」


バチンッ!



士郎「まだ ましかな」




義父の魂に包まれていた士郎の肉体が、今解き放たれた

士郎「ふぅう……」プシュゥウウウウ

全身の激痛のなかに感じる、確かな解放感

痛む体をむち打ち立ち上がる

ギプスを外した

これだけでなんとかなりそうな気分になる

ランサー「すげぇな、咄嗟にとはいえあんな選択、誰にでもできるもんじゃねぇ」

いつのまにか青い死神が近くにいた

ランサー「それに、なんだその機械は。拘束具か?」

ランサー「まぁどうでもいいか。 んじゃ、さよならだ」

迫る紅い槍










それがどうした



士郎「ふうんっ」バッ

両手を地面につき、腕に力を込める

イメージはバネ

全身をバネのようにする

そして溜めに溜めた力を、上空へ

ランサー「んなっ!?」

解放する!



ガキイィン!



ランサー「逆立ちだと!? バカか!?」

蹴りあげられた両足によって弾かれる槍

突然の奇行に驚く青い死神

今こそ逃走の好機

士郎「ぬぅあああああ!」

真っ暗な道を、走る

ただ走る

久しぶりにギプス抜きでのランニングは、命がけのものとなった

凛「今のは……衛宮くん?」

走り去る後ろ姿には見覚えがあった

妹の想い人。

改造人間(サイボーグ)・エミヤと学校でも有名な変た…… 変人の少年

それが何故こんな時間に

アーチャー「大方、用事でも残っていたのだろう。ほら、奴の忘れ物だ」

渡されたギプスには確かな重みがあった。
もう何年も改修を繰り返しただろうそれは所々に傷が目立つが、錆びひとつ無かった。
きっと大切に整備していたのだろう

凛「追うわよ、アーチャー」

アーチャー「奴を助けるのか?」

凛「当然よ、管理者として、一般人を保護するのは」

凛「なにより私が関わってる戦いに巻き込まれて死ぬなんて、目覚めが悪すぎるわ」

助けた後は記憶を操作させてもらう
彼には魔術師同士の争いに関わってほしく無かった
妹と同じく、表の世界を形成する人には変わらないから

凛「それにしても、妙な機械ね。一体何に……!?」

凛「何、これ」

これはただの機械ではない

強制的に魔術回路を押さえつける造りになっている

似たような物は私も知ってるがここまで極端なのは初めて見る

凛「衛宮くんが魔術師……」

凛「いや、でも、こんなものを着けるなんて、常軌を逸して……」

アーチャー「マスター、追わないのか」

凛「わ、分かってるわよ!」

助けるついでに、話を聞く必要ができたようだ


 衛宮邸

士郎「ぶはっ はっ」

家にたどり着いた安心感でおもわず息を漏らす

学校から家まで全速力のランニング

おそらく新記録だろう

士郎「一体なんだってんだちくしょう」

じいさんの形見も置いてきてしまった

情けない。一体何のために今まで鍛えていたというのか

逃げるだけで精一杯じゃないか

士郎「……!」

背筋の凍る感覚

アイツだ、もう追ってきやがった

士郎「ぶ、武器は、何でもいいから!」

手にしたのは、藤ねぇが学校から持ってきたポスター。
介護関係や看護師を中心とした内容が多い。
警察官、自衛隊、消防士などは無い。

大河『士郎はね! 危ない事よりこんな仕事に就いたほうがいいってお姉ちゃん思うの!』


妙に必死な姉の姿を思い出す


士郎「藤ねぇ、俺、今その危ない目にあってるよ」

丸まったポスターを手に取り、目を瞑って集中する。

強化の魔術は結局、じいさんが生きてるうちは一度も誉めてもらえなかった。

切嗣『なんだこの半端な強化は! ハエも殺せんぞ!』

切嗣『もっと集中しろ! 眼前に敵がいると思って行え! 敵は待っていてはくれんぞ!』チャキ

切嗣『十数えるうちに完成してみせい! でなければこれが火を吹く!』

大丈夫だ、あのときはできた。できても発砲するとは思わなかったが

あの青い男には全く通用しないだろうが、それでも生きるために、俺は戦う!




士郎「ぬうう……」

――――同調、開始

――――基本骨子、解明

――――構成材質、解明

――――構成材質、補強

――――全工程、完了

閉じた目をカッと開く。
成功したときに感じる、熱を帯びた感覚
瞳に炎が宿ったかのような灼熱感

士郎「来い……!」

勝負!!

ランサー「ようやく観念したか。ちょっと人間にしては足は速かったな」

士郎「……」

ランサー「ほぅ、いい目だ。まるで炎だ、まだ諦めちゃいねぇな。」

ランサー「惜しいぜ、お前。後数年もありゃいい戦士になれたかもな」

滝のような汗が止まらない

迫る恐怖を迎え撃つ闘志の糧にする

俺の体は、今まさに闘志という名の炎と化していた

ランサー「……」

ヒュンッ!

無言で槍を突き出すランサー。
心臓を狙った風のような一撃は
体を横にずらした士郎にあっさりとかわされる

ランサー「む」

避けられたランサーは数瞬の間思索する

先程の逆立ちのような予想外の行動に出ると思えば、このような冷静な対処もする。
どこまでも不思議な相手だった。

ランサー「なら、これはどうかな」

連続の突き
人間ではこの時点で目視不可能の連続攻撃
予想通りまともに避けることも出来ずに肩、脇腹、頬をえぐってゆく
しかし心臓、頭など、急所は悉くかわされていた

ランサー「やるな、小僧。最初から急所以外は諦めてる、か」

ランサー「でもそれじゃあ俺を倒す事には繋がらないぜ。守ってばっかじゃな」

士郎「……銃弾に比べりゃましだ」

ランサー「何?」

士郎「さっさと『突いて』来いよ」

士郎「蚊みたいなモノじゃ殺せないぜ」

ニヤリと、小僧が笑った





ランサー「……言ったな、小僧」

ランサーの手に力が込められる

ランサー「仕留める――――」

士郎に分かったのは、ランサーの放ったその一言だけだった
英霊の全身全霊の突きは、正確に士郎の腹を貫通し、背中まで達する

士郎「ごおふっ」

ランサー「突いてやったぞ、お望み通りにな」

完全に仕留めた

そう確信した

もはや用は無いと引き抜こうとするランサーだが、ある違和感を覚える

――槍が、抜けない

ランサー「て、てめぇは!」

紅い槍は、士郎の左手によって握られていた。
その鬼のような力に槍はピクリとも動かない
そしてその右手に持ったポスターで――――

士郎「フンッ」

ゴスッ



脳天に炸裂する無慈悲なる一撃は、ランサーの意識を数瞬刈り取るには充分過ぎた

士郎「ッラア!」

返すポスターを両手に握りしめ、アームストロング・オズマ真っ青のフルスイングを、ランサーの顔面にぶちかました

ガッキーン!

グワシャアッ!

まともに食らったランサーが障子を突き破りながら吹っ飛ぶ

士郎「は、はは……。 ホームラン」

士郎「ぐ、ぬうああああっ!」

ズルリと腹から槍を引き抜く

押さえられていた血液が周りに噴き出す

その光景を士郎は呆然と見ていた

士郎「う、ぐあ、あ」

死ぬ

間違いなく死ぬ

でも

士郎「ざまーみろ……くくっ」

肉を絶たせた対価が、あの間抜け面だ。

上等ではないか

ふらふらと歩いた先は、思い出の修行場

血と汗と涙が詰まった、古ぼけた土蔵

どうせ、死ぬなら

死ぬと解っているなら

あの思い出の場所で

士郎「前のめりに、死にたい」



土蔵にたどり着くなりぶっ倒れた

床のひんやりとした感触が、全身の熱と激痛を和らげる

士郎「じい、さん……」

脳裏にかつての父の姿が現れる

正義の味方

俺が目指し、憧れ、尊敬した

俺の全て

俺の父親

士郎「藤ねぇ……」

いつも俺を心配し、支えてくれた最愛の姉

明朗快活な姉が、時に悲しみの涙を流していたのを俺は知っていた。

いつか、いつの日か、楽をさせてあげたいと思っていた

それでも俺は、夢のために、藤ねぇの涙を無視し続けた

ただひとつの夢

正義の味方の星を掴むために




――俺が死んだら、藤ねぇはどうなる?




士郎「ぐ、ぐ、ぐ」

激痛に負けじと立ち上がろうとする

いや、立たなければならない

絶対に立つ!

俺は危うく忘れる所だった

何が死にたいだ、カッコつけるな半端者が

例え泥に塗れても、形振り構わず生きなければならない

俺にはそうする理由があった!

士郎「藤ねぇええええええええ!!!!!!」

生きる

生きて俺は明日を歩く!

そして、その時は起こった

閃光が辺りに煌めき、光が左拳に収束する

血の猛りと共に刻まれたそれは、魂の具現

令呪

不死鳥の如く立ち上がった士郎の周りを黄金の閃光が包み、土蔵の中を激しく照らす

ランサー「本気か」

いつのまにか後を追ってきたランサーが、驚愕と共にその光景を見つめる

ランサー「七人目の、サーヴァント」

光の中から白刃が煌めき、ランサーの膝頭と左肩を断つ

血をあげると共に不利を悟ったランサーは脱兎の如く土蔵を飛び出した。

光が収まると、そこには一人の少女が

青いドレスのような甲冑に身を包んだ、金色の髪の少女

その少女が感情の無い目を士郎に向けた

セイバー「――問おう、貴方が、私のマスターか」

意思の強そうな澄みきった声だった

何より目を引いたのがその瞳

何か強い意思を秘めた、燃え盛る炎の瞳

――綺麗だ

そんなことを思った

後に、炎の主従

熱血の友情と言われる名コンビの、初めての出会い

おまけ

死闘! 第四次聖杯戦争

セイバー「き、切嗣、これは一体」ギギギ ギシ

切嗣「大エクスカリバー養成ギプスだ」

セイバー「い、いえ、私が聞きたいのはそんなことでは」ギギギ

切嗣「話は最後まで聞かんかこのたわけが!」バシーン

セイバー「ぐああっ」

切嗣「セイバーよ、ランサーとの一騎討ちの末でのその負傷、名誉の戦傷と見て何も文句は言わん。しかし手負いのままこの戦いを勝ち抜くなど笑止。至難の極みよ」

切嗣「ならばその傷などものともしない強靭な体を作り上げるしかあるまい! 片手でのエクスカリバー、大エクスカリバーを編み出す! この大エクスカリバー養成ギプスがそれを可能とする!」

セイバー「だ、大エクスカリバー」

切嗣「まずは付近の散策も兼ねてのランニング50キロ! ついてこいセイバー!」

セイバー「ま、まて、待て切嗣!? マスター!? 外はもう真っ暗……」ギシィ

セイバー「くくっ 動かん!」ギギギ

この日より、セイバーの地獄とも呼べるしごきの日々が始まった

切嗣「片手での素振り二百本! 当然ギプスは外すな。 できなければメシは抜きだ!」

切嗣「しっかり避けんかぁ! この弾のひとつひとつを英雄王の宝具と思って避けろ! またメシを抜くぞ!」バキュン バキュン

切嗣「何? アイリが泣きながらもうこんな事はやめてくれと頼みにきた? 女の立ち入る話ではない! 追い返せ! それとメシ抜き!」

切嗣「何? イリヤから電話? セイバーに? …………仕方ない。少し休むとしよう」

切嗣「不味い! お前はもうメシを作るな!」ガッシャーン







まさに鬼だった

無愛想だが、家族想いのマスター。

そんな幻想は木っ端微塵に砕け散った

そんな地獄の日々を耐え抜いて手に入れた、大エクスカリバー。

変質者のストーカーを、消滅させてなお余りある威力をもつ必殺技を手に入れても、切嗣は変わらなかった


最終戦目前


セイバー「き、切嗣、これは何の冗談だ」サカダチ プルプル

切嗣「対英雄王の必勝法だ」

セイバー「これから最後の戦いが始まると言うのに血迷ったか!?」プルプル

切嗣「令呪を用いて命ずる。セイバー、逆立ちで後三時間待機」パァァ

セイバー「やめろおおおおおおおおおおおお!」

セイバー「」ユラリ

ギル「騎士王よ、全てを捨てて我のモノになれ。これ以上は茶番だ」

セイバー「」フラフラ

ギル「ふん? 精根尽き果てたか? 言っておくが我は腑抜けの貴様など全く」

セイバー「大エクスカリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

ギル「ちょ、まt」ボシュ

セイバー「切嗣ゥウウウウアアアアア!」

セイバー「ドコダァアアアアアアアア!」

切嗣「」フラフラ

セイバー「切嗣!」

セイバー「死ィイイイイイねェエエエエエ!」

切嗣「令呪を用いて命ずる」

切嗣「セイバー、聖杯を破壊しろ」

切嗣をこの手で始末すべく、気合いと共に斬りかかったと言うのに、

既に長時間の逆立ちで体はふらふら

途中何度も転げ、剣を杖にして目の前の鬼畜に迫る

後一歩、後一歩でこのど畜生を斬れる

そんな絶妙なタイミングで発せられた、無慈悲なる命令

セイバー「ちくしょおおおおおおあああああああ!」

私の全身全霊の大エクスカリバーは、正確に聖杯と冬木市の大半を吹っ飛ばした

結局、私が座に持ち帰ったのは

あの鬼との唯一のつながり

大エクスカリバー養成ギプスのみだった



おまけ 第四次聖杯戦争 


どうもみなさん いつも感想ありがとうございます

何故Fateに巨人の星? と思われてるでしょうが、理由は簡単

私が巨人の星が好きだからです

とにかくこの漫画は「努力が報われない」漫画です

持って生まれた才能に裏打ちされた努力がモノを言います

そして、才能無きものが勝利を手にするには、全てを捨てなければならない

そんな漫画です

自身の野球生命を潰してパーフェクトゲームを達成した飛雄馬

その最終回は破滅の一言でした

男の一念岩をも動かすと言いますでしょうか

そんな生き方に憧れを抱いて仕方ありません

ここから話は第二話になります

セイバー「サーヴァント、セイバー。召喚に従い参上した。マスター、指示を」

士郎「……」

セイバー「マスター?」

士郎「」

セイバー「ま、まさか」

――立ったまま気絶してる

よくみると目の前の少年は所々に傷を、特に腹部は大量の血に濡れていた

セイバー「マスター! 大丈夫ですか!? マスター!」

召喚に応じて早々にマスターに死なれては堪らない

セイバー「応急処置程度なら私にも――――って」

セイバー「傷が塞がってる?」

強力な治癒魔術?

いつの間にそんな真似を

セイバー「これほど強力な治癒を行使するとは。見た目によらずやりますね」

ともかくこんな場所では風邪を引いてしまう

マスターを担ぎ上げ、土蔵を後にするセイバー

セイバー「今度こそ、今度こそ聖杯をこの手に。そして」

セイバー「私を縛るこの呪縛から解放してみせる」ギギ

暖かい

そんな事を考えつつ俺は目を覚ました

いつのまにか布団で寝ていた

夢だったのだろうか

槍を刺され、死を覚悟して

それでも諦めずに立ち上がって

閃光の中から現れた少女に目を奪われて――――

「――――ッ! !!」

誰かの声が聞こえる

一人じゃない、複数の声が、言い争ってる?

玄関の方から、時々、女の子の声も――――

士郎「マジかよ!」

寝てる場合じゃない!

セイバー「マスターが気絶している時を狙うとは姑息な」ギギギ

アーチャー「やれやれ、聞く耳持たんな」ギギギ

迂闊だった

まさか衛宮士郎の家の中にサーヴァントが、しかも最優のセイバーがいるなんて

セイバー「それにしても、貴公もなかなかやる。どうやら本気を出す必要があるとみた」スッ

アーチャー「奇遇だな、私もそのつもりだった所だ」スッ

ただ、二人ともどこかおかしかった

だって、あんな

セ ア「「解    放」」


バチン!



変態染みたモノを着てるなんて

セイバー「ふうぅ……」プシュウウウウウウ

アーチャー「ぬふぅ……」プシュウウウウウウ

何故、歴史に名を連ねる筈の英霊が、

あの衛宮士郎と同じモノを着てるのか

アレか

私が知らないだけで、最近はアレが流行っているのか

私が遅れてるだけなのか

アーチャー「こうなった以上は手加減出来んぞ」コォォォォ

セイバー「それはこちらとて同じ」コォォォォ

二人を中心に恐るべき闘気がみなぎる

セイバーが不可視の剣を片手に構え

アーチャーがその左手に持つ中華剣を後方に構える

一触即発の空気が高登り、思わず固唾を飲んだ

沈黙を打ち破ったのは、少年の声だった

士郎「まて、やめろ! 二人とも!」

セイバー「マスター、何のつもりですか」

なおもアーチャーを睨み構えを解かないセイバー

士郎「マスター? 一体何の話だ!? とにかく家で暴れるな!」

目の前の紅い男、そして青ドレスの少女 

コイツらが先程死闘を演じた青タイツの同類だと一目見て分かった

普通じゃない おっそろしく強い

凛「アーチャー、武器を納めて霊体に戻って。 これ以上ややこしくなるのはゴメンよ」

どこかで聞いた声がする

この優雅な声は

士郎「と、遠坂」

凛「はじめまして、かしら? 衛宮くん」

明らかにこの場に不釣り合いな存在がいた

凛「じゃ、じゃあ、貴方、何も知らないの? 五大元素も、パスも?」

凛「し、素人に、セイバーを取られるなんて」

優雅華麗な遠坂 凛

その正体はものの数分で馬脚を現した

学校では猫を被ってたのだろう

管理者、聖杯戦争、サーヴァント

知らない単語が次々と出てくるが、大体の状況は把握した

この町で大変な事が起こっているということ

凛「とにかく、貴方この戦いから降りなさい。これ以上首を突っ込まれても命を粗末にするだけよ」

セイバー「凛、それは困る。シロウがたとえ素人でも私がフォローすればなんとか戦える!」

凛「貴方、衛宮くんを[ピーーー]つもり? この戦いはそんなに甘いモノじゃない」

セイバー「それは」

士郎「待て、二人とも落ち着け」

士郎「とにかく、俺はどうすべきなのか教えてくれ。遠坂」

凛「……これから貴方を、この戦いの監督者の所に連れていくわ」

凛「どうするかはそいつの話を聞いてからにしなさい」

凛「ああ、それと忘れ物よ」

士郎「遠坂、これは」

ランサーとの戦いで外してしまったギプス

もう諦めていたのに

士郎「ありがとう、遠坂。これ、親父の形見なんだ」

凛「そう、お父さんの形見なの……」

凛「……一応聞いとくけど、貴方、もしかしてずっとこれを着けて生活してたの?」

士郎「ん? ああ、もう何年もな」

その言葉に私は戦慄した

魔術回路は魔術師にとっての内臓、神経に値する

こんな常軌を逸した代物を着けて生活するなど、胃の中に包丁を入れて生活しているようなものだ

それを何ともなく、平然と、何年もやってのけたこいつは一体

凛「……貴方のお父さんって何者?」

士郎「うん? そうだなぁ」

士郎「ただの頑固親父だよ」

 新都

 歩道


セイバー「シロウ、何故か貴方には妙な親近感を感じます」ギギギ

士郎「セイバーもギプスを着けてるのか? すごいな! 英霊ってのも納得だ!」ギシギシ

アーチャー「先程は柄にもなく本気を出してしまったが、ああいう感情剥き出しの戦いもたまには悪くないな」ギギ

凛「アーチャー、貴方何勝手に出てきてるのよ」

おかしい、私は何故こんな理解不能のギプスを着けた変人どもと一緒に歩いているのか

士郎の「大魔術師養成ギプス」

セイバーの「大エクスカリバー養成ギプス」

ネーミングもアレだがその内容も極めてアレだった

どれも尋常の魔術師ならば危な過ぎて誰もやらない、いや、考えもしない訓練方法

こんな修行を思いついた者の正気を疑う

因みに、アーチャーのギプスは名前が分からなかった

記憶に混濁があって思い出せないらしい

ただ、その危険と裏腹の見返りは凄まじいものだった

試しに士郎の魔術回路を計測してみたら、その異常さに目を疑った

確かに数は少ない

これでは録な魔術も使えないだろう

問題はその強度としなやかさ

まるで鋼やダイヤのようで、それでいて鞭のような柔軟さを併せ持っていた

この魔術回路は魔術を「行使する」ためのものではない

魔術を「行使するのに耐える」ものだ

こんな人間がこの世に存在するのか

凛「世界は広いわね……」

 

 言峰教会

セイバー「シロウ、私はここで待っています。貴方を守るならここまでで充分でしょう」

士郎「ああ、ありがとな、セイバー」

凛「衛宮くん、こっちへ」


 教会内

士郎「教会が異端の魔術を使うなんてなあ」

凛「それだけクセも強いってわけよ」

凛「……あんたも充分異端だけどね」ボソリ

言峰「到着早々に随分な言い回しだな? 凛」

士郎「あんたが……」

言峰「ようこそ、七人目のマスターよ。私がここの神父、言峰 綺礼だ」

濁った目をしていた

今までにあったこともない、泥のような目

戦争の"ルール"を一通り聞いた

願いを叶える聖杯を巡って

七人七騎の殺し合い。

馬鹿げてると思った

第一、聖杯なんてモノ自体が胡散臭い

素人の俺にだって分かる

何かを成すためには何らかの犠牲が伴うんだってことを

無条件で願いが叶うなんて、等価交換の原則に反してるじゃないか

そんなモノが最後に要求するのは、どうせ録な事じゃないんだ

でも、だからと言って俺は逃げるつもりはなかった

この下らない戦争で誰かが傷つくなんて、堪えられそうになかったからだ

士郎「分かった。俺、聖杯戦争に参加する」

言峰「ほう? 意外と冷静だな。もっと熱くなるかと思ったが」

士郎「あんたは随分楽しそうだな」

言峰「……」

士郎「俺は、とてもそんな顔はできねえよ」

凛「え、衛宮くん?」

士郎「帰ろう、遠坂。これ以上ここには居たくない」

凛「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

バタン

言峰「……」

言峰「く、くくく……」

言峰「鬼の子、か。存外に勘が鋭い」

言峰「今回も素晴らしくなりそうだな」

不気味に笑う言峰

その瞳は燃え盛っていた

衛宮 士郎とは正反対の、暗く、真っ黒な炎が

凛「衛宮くん! ちょっと! 何怒ってるの?」

士郎「……」

凛「綺礼がいけ好かないのは分かるけど、こんなことでいちいち怒ってたらキリがないわよ!」

士郎「なぁ、遠坂」

凛「な、なによ」

士郎「あいつと遠坂って、兄弟子の関係なんだろ?」

士郎「もう何年も顔会わせてるわけだ」

凛「そうよ、それがどうかしたの?」

士郎「……遠坂って、ホントにいいやつだな」

士郎「俺じゃあ多分無理だ」

凛「はあ?」

士郎「それだけ。忘れてくれて構わない」

士郎にはある確信があった

あの神父は、人の不幸を肴に酒を飲む外道だと

そう感じたのは父、衛宮切嗣のしごきによって培った類い稀な危機察知能力の賜物である

士郎(アイツ……『衛宮』って聞いた途端に目の色が変わった)

まるで新しい玩具を見つけた子どものように

 
 冬木大橋付近

凛「私たちはもう少しこの近辺を探るわ。悪いけどここからは一人で帰って」

セイバー「他のマスター探しですね」

凛「そういうこと。新都まで来て手ぶらで帰るつもりはないもの」

士郎「……遠坂は、そこまでして叶えたい願いがあるのか?」

凛「ないわよ、そんなもの」

即答である。

あんまりな返答に士郎は顔を曇らせる

士郎「じゃあ、何で殺し合いなんかするんだ」

凛「私が魔術師で、遠坂 凛だからよ」

士郎「……そっか」

殺し合い、戦い、命を削る

魔術師はその渦中に理性の光を求める

そんな考えは到底理解できないし、したくもない。

ただ、確固たる意思を持って断言した目の前の少女に士郎は少なからずの尊敬と憧れを抱いた

――――じゃあ、じいさんは何のために戦っていたのかな

あの頑固親父にも、何かの為に戦っていた時期があったのだろうか

家族や、恋人や、

――――大切な、何かの為に








「こんばんは、おにいちゃん」

――――虚をつかれた

士郎「!??」

振り向いた先にいたのは、透き通る白い肌と髪を月光に照らした、幼い少女

そしてその側に控える、大山のごとき巨漢

――――全く気づかなかった

自分も

セイバーも

遠坂やアーチャーも

???「あら、まるで気づかなかったのが信じられないみたいな顔をしてるじゃない」

???「そういうのを自惚れが過ぎるって言うのよ?」

???「ねぇ? おにいちゃん。ううん」

???「衛宮 士郎」

目の前の少女は、何が可笑しいのかニコニコしている

しかし、士郎の全感覚が最大級の警鐘を鳴らす

自分に対する、激しい怒りと憎悪

殺意――――

凛「アレは……力だけなら、セイバーより上ね」

凛「アーチャー、不本意かも知れないけど、セイバーと共闘できるかしら」

アーチャー「了解した。セイバー、前衛を頼む」

セイバー「分かった。シロウ、貴方はさがって」

戦力外通告を受けた士郎だったが、それを気にすることはなかった

そんなことより、目の前の少女が問題だった

あの巨漢の強さは誰にも一目瞭然だろう

だが、それ以上にあの少女は得体が知れない

妙だ、何かとてつもなく嫌な感じがする

???「悪いけど、他の連中には興味ないの」

???「バーサーカー、貴方はまだ出なくていいわ」

そう言った少女が士郎を見据える

???「衛宮士郎、貴方は私が…………」









「この、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン自らが始末する」




凛「アイツ、正気? サーヴァントを置いて自ら前へ出てくるなんて」

凛が呆れるのも無理はない

本来戦うべきサーヴァントを差し置いてマスターが戦うなど、この聖杯戦争のセオリーを完全に無視した行いだからだ

だが、少なくとも士郎は、あの少女がただの愚か者でないことを見抜いた

士郎「…………皆、たのみがある」

士郎「俺に行かせてくれないか」

アーチャー「……」

セイバー「し、シロウ!?」

突然の要求に驚愕する面々

無理もない。幼いとはいえ、あのアインツベルン相手に正面から挑もうというのだ

いくら戦闘に不向きな家系とはいえ、素人が一流の魔術師相手に勝てる訳がない

凛「貴方ね! わざわざ敵の誘いに乗るなんて馬鹿のすることよ!」

士郎「あの子は何かヤバい。あのバーサーカーって奴よりも」

士郎「まず、俺が出て確かめる。それくらい俺にもできるさ」

凛「な、何を言ってるのよあんたは」

セイバー「シロウ、いくら何でも無謀です。貴方ではとても」

アーチャー「好きにさせたらどうだ?」

皆が反対する中、赤い弓兵だけが士郎を後押しした

セイバー「アーチャー! 余計なことは言わないでください!」

アーチャー「君ほどの戦士が、彼女の言葉が嘘か真かもわからないのか?」

アーチャー「少なくとも騙し討ちするならもっと上手くやるさ」

アーチャー「それに、向こうももう待ちくたびれてるようだ」

セイバー「だから、シロウでは勝算がないと――――」

アーチャー「自らのマスターの力量も計れないのか」

セイバー「……なんだと」

アーチャー「言っておくが、その小僧はかなり『やる』ぞ」

士郎「セイバー、悪いな。勝手なまねして」

士郎「でも、これだけは約束する」









俺は、絶対に死なない

イリヤ「やっと出てきたね」

士郎「早く始めようか」

イリヤ「うん……けど、その前に『ソレ』をはずして」

少女が言う『ソレ』とは
まさかギプスを知っているのか

士郎「……これを、知っているのか」ギ、ギギ、ギギギ

イリヤ「もちろんよ、だって、シロウはキリツグの子でしょう?」

イリヤ「キリツグの残したモノ、全部壊さなきゃ気がすまないもの」

士郎「君は……親父を知って……」

士郎「分かった、これは外そう」

士郎「だけど、もし俺が勝ったら、知ってる事を教えてくれ」スッ

士郎「解     放」

バチン!

士郎「ふぅう……」プシュウウウウウ

イリヤ「いいわよ、それくらい」

イリヤ「でも、多分ムリだと思うなあ」

イリヤ「だって」

ヒュンッ!

イリヤ「私、シロウより強いもの」

士郎「!!!!?」

イリヤスフィールと名乗った少女が突如目の前から姿を掻き消したかと思った瞬間

士郎の後頭部に強烈な衝撃が走った

士郎「ご、あっ」

イリヤ「あれ、もう終わり?」

士郎(み、見えなかった! じいさんのしごきで鍛えられた俺の動体視力を持ってしても、あの子の動きが!)

士郎「ぐ、っくぐ」

前のめりに倒れそうになる体を必死に踏ん張る

一撃で倒されたとあっては父に顔向け出来ない

イリヤ「あ、やっぱりまだ平気か」

イリヤ「じゃあ、これはどう?」

ドムッ ガゴッ ボスッ ズドンッ

士郎「! !? !!!」

あの小さな体の何処にこんなパワーがあるのか

猛烈なボディブローを起点とした、肘打ち、膝蹴り、ハンマー打ち。

――――メシ、食わなくて良かった










凛「なに、あれ」

イリヤ「ふんっ」

フィニッシュの回し蹴りが士郎の腰に炸裂する

きりもみ回転しながら吹っ飛んだ士郎はごみ捨て場に盛大に衝突した

イリヤ「…………っとまあ、こんな感じでどうかしら」

セイバー「アーチャー」

アーチャー「なんだセイバー」

セイバー「シロウはかなり『やる』のでは?」

アーチャー「彼女が弱いとは一言も言ってないが」

瞬間

ごみ捨て場が爆発した

凛「!?」

バキィッ

イリヤ「あっ……」

猛スピードで飛び出した士郎が高速回転しながらのキックをイリヤの後頭部にぶち当てたのだ

士郎の十八番 スクリュースピンスライディングである

直撃を受けたイリヤもまた、きりもみ回転しながら近くの植え込みに盛大に突っ込んだ

士郎「ハーッ、ハーッ」ガクガク

凛「え、衛宮、くん? 大丈夫?」

士郎「お」

凛「?」

士郎「おっそろしい子だ。ランサーよりパワーがあるんじゃないか」

凛「」

イリヤ「スゴいわね、シロウ。今の攻撃を喰らって生きてるなんて、貴方も充分化け物よ」

士郎「くっ……」

いつのまにか目の前に立っているイリヤ

渾身のす

渾身のスクリュー・スピン・スライディングを喰らってというのにピンピンしている

イリヤ「でもねえ、キリツグの所でぬくぬく育ってきた貴方じゃ、私には永遠に勝てない……」

イリヤ「あの地獄を生き抜いた私にはね」

士郎「じ、地獄だって?」

イリヤ「教えてあげるわ」

イリヤ「アインツベルン家に隠された、恐るべき秘密を」

イリヤ「教えてあげるわ……」

イリヤ「全部話す前にあなたが生きてればいいけどね!」

ギュオオッ

士郎「ぐううっ」

ドゴォッ

凛「あ、あれは八極拳の裡門頂肘!」

イリヤ「どうだっ! 衛宮士郎! 私はお前を、正確には衛宮切嗣を抹[ピーーー]るために今まで生きてきたんだっ!」バキィッ

イリヤ「私はアインツベルンの切り札。ただソレだけの為にこの体を弄くり回された!」ゴスッ

イリヤ「普通に生きたくても生きられない! 普通の子どものように遊びたくても遊べない! この世界に私の居場所なんてなかった!」ドスッ ドスッ

イリヤ「だけどね、あったのよ。わたしみたいな化け物に相応しい居場所が」

イリヤ「そう、度重なる失敗から業を煮やしたアインツベルン当主が、今度こそ聖杯を手にいれるべく、わたしそのものを正真正銘の化け物にするため――――」






「戦闘ホムンクルス養成機関、通称『ホムンクルスの穴』に私を入門させたのよ!」

アーチャー「ホ、ホムンクルスの穴」

凛「……知ってるの?」

アーチャー「アインツベルンの闇とも言える暗黒機関だ」




――――ホムンクルスの穴!

それは スイス アルプス山脈に本部を構える、アインツベルンに仕える戦闘ホムンクルスを養成する特殊機関

年間数万人のホムンクルスがそこに送り込まれ、この世の地獄とも呼べるしごきを受けると言われる

その苛烈さは空前絶後

最初の五年間で3分の2が死に絶え、残りの五年間を耐え抜けるものは僅か数十人……

猛虎道場と呼ばれる武道場では体操服姿で本物の若虎と死合いをさせられる

旧式スクール水着でコールタールのプールを24時間泳ぎ続ける

さらにはネッシー、イエティ、チュパカブラ等現代を生きる幻想種とのデスマッチ

空手、柔道などポピュラーな格闘技から骨法、カラリパヤットなどのマニアックな格闘術を骨の髄まで叩き込まれる

衛宮切嗣でさえその苛烈さを見習ったほどと言われる西洋の梁山泊

イリヤ「私は耐えた! ただひたすら耐えた! 全てはお前ら親子をこの世から消し去る為に!」

イリヤ「そのためには友だちさえ見捨てなければならなかった…………」








そう、あれは断崖絶壁のアルプスでの一週間耐久ロッククライミングの日……




ヒュオオオオオオオッ


96号「ひゃ、168号、私はもうダメだ。君だけでも生きてくれ」ガクガク

168号(イリヤ)「しっかりして! 96号!」

96号「時々、夢を見るんだ」ガクガク

96号「168号に優しいおとうさんとおかあさんがいて、優しくてカッコいいおにいちゃんがいて」ガクガク

96号「みんなで、幸せに、笑いあってて」ガクガク

96号「わたしはそれをみて、168号をからかうんだ」ガクガク

96号「ふたりで、いっしょに、がっこうなんかいって」ガクガク

イリヤ「分かった! 分かったから気をしっかりして!」

96号「な、あ。168号」ガクガク

96号「わたし、しぬまえに、なまえがほしい」ガクガク

96号「ばんごう、なんか、いやだ」ガクガク

イリヤ「名前、名前ね!? 分かったわ!」

イリヤ「そうだ! 黙ってたけど、実は私にも本当のなまえがあるの!」

イリヤ「イリヤ! イリヤっていうの!」

イリヤ「素敵でしょ! あなたにもこんな名前を」

ズルッ

イリヤ「えっ」

96号「う、あ」

96号「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

イリヤ「ク」

イリヤ「クローーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

セイバー「なんと惨い……」

イリヤ「セイバー、貴方にだけは同情されたくないわ」キッ

イリヤ「役立たずの無能王。あんたとキリツグが聖杯を手にしていれば、私は」

イリヤ「私は」

イリヤ「……まあ、いいか、そんなこと」

イリヤ「キリツグが死んだって聞いた時は本当に腸が煮えくり返ったけど」

イリヤ「おにいちゃんがキリツグの代わりにサンドバッグになってくれるもの」

士郎「」グッタリ

イリヤ「いつまで寝てるの?」ガスッ

強烈な蹴りが士郎の脇腹に襲いかかる

士郎「がはっ」

イリヤ「私の代わりに、この十年間幸せに暮らしてきたんでしょ?」ドゴッ

イリヤ「わた、しのかわりに」ブルブル

イリヤ「おまえがあああああああああああああ!!!!!」

イリヤの拳が、脚が、俺の体を破壊していく

既に目の前はグラグラ

時々真っ赤になったり真っ白になったりする

それでも、こんな仕打ちを受けても、俺はこの子を憎むことはできなかった

当たり前だ、こんな凄絶な人生、俺だったらとっくにくたばってる

憎む事なんて不可能だ

地獄

地獄を生き抜いた。そうあの子は言った

俺があの子から幸せを奪い、衛宮 切嗣に愛された

つまり、あの子は親父の、本当の娘なのだろう

親父の、本当の娘

あの親父の

でも、だとしたら

本当に衛宮 切嗣は、あの子を捨てたのか?

親父は、じいさんは、あんな子を見捨てるような薄情ものだったか?

違う

違う!

絶対に違う!!!

衛宮切嗣は、そんな非道は絶対にしない!

そうだ、あの頃、じいさんは

時々、家を留守にして、一週間ほど何処かに出掛けて

そして帰ってくるたびに、大量の酒を煽って酔い潰れてたんだ

そうだ、思い出した

酒を飲むとき、じいさんは

あの、鬼は、

あの、頑固親父は













――――泣いていたんだ

セイバー「シロウ」

凛「嘘……」

アーチャー「……」









士郎「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ






イリヤ「な、何で」

イリヤ「何で、まだ、立ち上がれるの?」



士郎「イリヤ」

イリヤ「……!」

士郎「君は、確かに、地獄を生き抜いたのかもしれない」

士郎「だけど、俺にはどうしても凄いと思えないんだ」

イリヤ「なにが!?」

イリヤ「わたし以上に悲惨な目に遭うニンゲンが何処にいるっていうのよ!」

士郎「それだよ」

士郎「君の、その、不幸をひけらかすその姿勢だ」

イリヤ「」ブンッ

士郎「ごふっ」ゴシャアッ

イリヤ「次バカな事を言ってみなさい」

イリヤ「本当に、殺すから」

士郎「ぐっ、あ、ハァ、ハァ」

士郎「……そうだ、俺が殴られるのはいいんだ」

士郎「君には、その資格がある」

士郎「でも、どうしても許せないことがある」

士郎「それは」

士郎「切嗣だ」

士郎「衛宮切嗣が外道に見られていることだ」

士郎「断言する。親父は、衛宮切嗣は君を捨てるような薄情ものなんかじゃない!」

イリヤ「嘘! 嘘よ!」

イリヤ「だったら、何で迎えに来てくれなかったの!?」

イリヤ「待ってたのに!」

イリヤ「ホムンクルスの穴で、あの地獄で、ずっとずっとずっと!」

士郎「親父はぁ!」

イリヤ「」ビクッ

士郎「君を、助けようと、してた」

士郎「俺は、そう信じている」







士郎「世界中の人間が信じなくても、俺は、信じている」

じりじりと、士郎はイリヤに歩を進める

イリヤは思わず後ずさる

その瞳には炎が宿り

ズタボロの筈の顔は、生気に満ち溢れていた

士郎「最初は君の境遇に気圧されはしたが」

士郎「なんてことはない。俺は、既に知っていたんだ」

士郎「君を助けられなかった無念」

士郎「後悔、絶望、慟哭」

士郎「それら全てを噛み締めて、死の果てまで持っていった男の姿を」

士郎「地獄を希望に変えて、俺を育て上げた偉大な父の姿を」

士郎「俺は、知っていたんだぁああああああああああああああああああ!!!!!」

イリヤ「あ、あ」 ガーン ガーン ガーン

わからない

こいつが理解できない

言ってることは無茶苦茶

衛宮切嗣に対する盲信としか思えない

なのに、なぜ

こんなにも心に響くのだろうか






士郎「そうさ、イリヤ…………。親父は、人前じゃ絶対に弱味を見せない男だったんだ」

士郎「自分に死期が迫ってるのを知っても、顔色一つ変えずに俺をしごきあげたんだ」

士郎「だったら俺も……こんな所で倒れてちゃ……」

士郎「死んだ親父に顔向けが出来ないんだよおおおおおおおおおお!!!!!」

イリヤ「く、くるな! 来ないで!」

イリヤ「いやだ! こんなの違う!」

イリヤ「こんなの聞いてない! 助けて! だれか!」

イリヤ「バーサーカァアアアアアアアアアアアア!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■!」

今までずっと待機していたイリヤのサーヴァント

主の慟哭に応え、士郎を粉砕しようとする

その形容しがたい威容をもつ得物が、士郎を直撃しようとしたその瞬間














セイバー「シロウ、あなたの魂の叫び、しかと聞き届けました」

黄金の聖剣を引き抜いた、騎士王の手によって阻まれた

今日はここまで

巨人の星以外も混ざっててすいません

しかし、基本梶原一騎原作は大体好き

タイガーマスクは、巨人の星が「報われぬ努力」なら

この作品は「非情なる運命」だと思います

大切なものの為に、血と肉を捧げ尽くした伊達直人

その最期は交通事故によるあっけない死

打ちきりでもないのに、なぜ

そう思ってなりません

士郎「せい、ばー」

セイバー「シロウ、ズタボロですね、顔も、体も」

セイバー「今まで貴方のような格好の悪い人間は見たことがない」

セイバー「ですが」

セイバー「人に笑われ、格好悪い方が、実は男らしい事もある」

セイバー「今の貴方のように」

セイバー「私は今……猛烈に感動している」

セイバーの魂に火が点いた

愚直な迄に己が父を信じる自らのマスターに、騎士道に通じた何かを感じたのだ

セイバー「一騎討ちの勝負に、水を射したとは思わん」

セイバー「先にサーヴァントを使役したのはそちらだからな」

イリヤ「くっ……」

アーチャー「セイバー、お前も一人でやる気か」

セイバー「当然です。主が男を見せたと言うのに、従者がそれに応えなくて何が騎士か」



セイバー「何が友か」スッ

バチン!





今宵、獅子の王が鎖から解き放たれた

セイバー「ふうぅ……」プシュゥウウウウ

凛「セイバーがギプスを……」

アーチャー「マスター、私の後ろへ」

アーチャー「巻き込まれるぞ」

バーサーカー「■■■■■■■■!!!!!!」

ただならぬ気配を発し始めたセイバーに何かを感じたのか、狂戦士は雄叫びと共に襲いかかる

セイバー「風王結界(インビジブル・エア)など、貴方の前では無意味ですね」

セイバー「ならば」

ブオンッ

不可視の剣が、その威容を現した

凛「セイバー、一体何を」

黄金の聖剣、そして大エクスカリバー養成ギプス

これらのキーワードから彼女がイングランドの大英雄、アーサー王であることは間違いないだろう

アーサー王の持つ聖剣 エクスカリバー

絶対の切れ味を持つその刃を、魔術により不可視にする。

その隙の無さを敢えて捨てる意味とは、果たして

セイバー「シロウ、貴方の闘志を見せてもらった礼がわりです」

士郎「え?」

セイバー「これが大エクスカリバー養成ギプスの成果です」

ビュオッ

セイバーが剣を振った

いや、おそらく振ったのだろう

アーチャー「恐るべし、セイバー」

凛「……もう、何でもアリね」

剣が 消えた

後に残ったのは、額を三寸断ち切られたバーサーカー

誰が見ても絶命しているのが分かる

イリヤ「……なるほどね」

イリヤ「見えないスイング」

セイバー「その通りです」

セイバー「前回の聖杯戦争にて、大エクスカリバーを編み出した際に会得した、神速の一の太刀」




――私のスイングは、人間では見切れない

イリヤ「セイバー、あなたもキリツグのしごきに耐えたのね」

イリヤ「だったらこれくらい出来て当然、か」

セイバー「イリヤスフィール、降参して下さい」

セイバー「サーヴァントは倒した。貴方に勝利の目は無くなった」

イリヤ「寝惚けるのはいい加減にして」

イリヤ「誰が、誰を倒したですって?」

バーサーカー「ぐ…」ギラリ

セイバー「ム!?」

額を割られた筈のバーサーカー

立ったまま絶命したかと思われたその巨人の瞳に光が戻る

イリヤ「ギリシャの大英雄、ヘラクレス」

イリヤ「神からの十二の試練という名のしごきに耐え抜いた、努力と根性の化身」

イリヤ「そうやすやすと倒せるとは思わないで」

イリヤはヘラクレスと自分の境遇を重ねていた

自分と同じく、親の愛を録に知らず、辛く苦しい試練を耐え抜いた者同士

その偉大な背中にイリヤは絶大な信頼を寄せていた。

イリヤ「今日は本気でシロウを潰すつもりだったけど」

イリヤ「……少し、気が変わったわ」

シロウを見つめるイリヤ

その瞳は、何処か儚げな何かを秘めていた

イリヤ「またね、シロウ」

イリヤ「わたし以外の人に殺されるなんて、許さないから」

イリヤとバーサーカーの姿が闇に消える

互いに手の内を見せた痛み分け





激動の聖杯戦争初日が、ようやく終わりを迎えた

 
 衛宮邸

 居間

凛「士郎、貴方よく死ななかったわね。あそこまでズタボロにされたのに」

士郎「親父のしごきに比べりゃ大抵のケガは平気さ」

凛「呆れた……。どうも魔術師にしてはフィジカル偏重ね、貴方も、あのアインツベルンも」

士郎「あの子は……、あんなに小さいのに、俺を超えるパワーとスピードを持っていた」

士郎「でも、最後に取り乱したり、助けを求めたり、どうにもちぐはぐなんだ」

凛「猛烈なしごきに耐え抜く精神力はあっても、心は幼いまま、ね」

アーチャー「付け入るとしたらそこだな」

士郎「アーチャー」

士郎「その、ありがとな。アーチャーだけが、俺が一人で戦う事を許してくれた」

アーチャー「勘違いするな、小僧」

アーチャー「あのままイリヤスフィールに殺されるのも良しと考えただけだ」

セイバー「アーチャー、貴方はどちらの味方なのですか」

アーチャー「少なくとも敵ではないさ」

アーチャー「イリヤスフィール達を倒すまでの、一時的な同盟」

アーチャー「そうだろう、マスター」

凛「ええ。士郎、貴方たちと同盟を組んで、あのイリヤスフィールたちに対抗する」

凛「それが一番の得策よ」

士郎「俺もそれがいいと思う」

士郎「ただ、あの子は……」

衛宮切嗣の本当の娘

俺の、きょうだい

士郎「あの子とは、できれば仲直りしたい」

セイバー「シロウ、貴方の意思に文句を言うつもりはありませんが」

セイバー「それをやり遂げる覚悟はあるのですか」

セイバーが静かに尋ねる。賛成も反対もしない

俺の覚悟を確かめようとしている

士郎「やるさ。きょうだい同士の喧嘩だ。自分でなんとかけりをつける」

――――俺の、命に代えても、必ず

凛「きょうだい、か。あのアインツベルンと貴方がねえ」

凛「それに貴方のおとうさん、切嗣っていったかしら。前回の聖杯戦争に参加してたとはね」

士郎「それには俺も驚いてる。まさか親父がセイバーのマスターだったなんてな」

セイバー「それは、その、すみません。余り思い出したくないのですが」

士郎「へ? なんでさ」

セイバー「自分でもなぜああまで取り乱したか……。今考えても正気じゃ……」ブツブツ

凛「ま、まあ。それはともかく、イリヤスフィールの父親ということは間違いなく衛宮切嗣はアインツベルン陣営の人間だった」

凛「それが、なぜこの十年間イリヤスフィールと離ればなれだったのか」

凛「私も少し興味が出てきたわ。前回の聖杯戦争はどこか根が深い気がする」

凛(お父様の事も何か新しいことが分かるかもしれない)

凛「さーて、そうと決まれば明日から行動開始ね……。衛宮くん、部屋、空いてるわよね」

士郎「あ、空いてるけど……まさか、遠坂」

凛「そうよ、折角だから泊まらせて頂くわ」

凛「安心しなさい、朝早く出てくから」

凛「アーチャー、寝る前に周辺の警戒お願いね」

アーチャー「了解した」

セイバー「シロウ、貴方も休んだ方がいい。今日一日で二回も死にかけるなんて異常です」

士郎「正確には三回な……。三階から落っこちただけに」

セイバー「?」

士郎「悪い、忘れてくれ」

 
 士郎の部屋

士郎「セイバーは寝なくても平気なんだな」

セイバー「サーヴァントとはわかりやすく言えば幽霊ですから」

セイバー「お腹は減りますが」

士郎「はは、変なの」

士郎「……なぁ、セイバー。親父のことなんだけどさ」

士郎「昔の親父って、どういう人だったんだ?」

士郎「ああ、別に、言いたくなければ言わなくてもいいんだ」

セイバー「…………切嗣は、一言で言えば」

セイバー「鬼」

セイバー「これほど似合う言葉はありません」

セイバー「私も、何度殺されかけたことか」

士郎「は、はは、やっぱそうか」

セイバー「ですが」

セイバー「家族と話す時は、驚くほど柔かい顔をしていた」

士郎「…………」

セイバー「本質はきっと優しい人間なのでしょう」

セイバー「だからこそ、私にはわからない……!」

セイバー「なぜ、あと一歩で聖杯を手に入れることができたのに!」

士郎「……親父は、聖杯を掴まなかったのか」

セイバー「私に破壊を命じました」

士郎「……そうか」

士郎(聖杯を破壊……何か……理由が……?)

セイバー「私は今度こそ聖杯を手にする! そのためなら如何なる犠牲も払う!」

セイバー「シロウ、貴方にもどうか私の願いを分かってほしい」

セイバー「貴方とは良き友として……」

セイバー「シロウ?」

士郎「」スヤァ

セイバー「……無理もない、今日は過酷な一日だった」

セイバー「今はゆっくり休んでください」


 翌朝


士郎「……ん」ムクリ

士郎「夢じゃ、ないよな」

士郎「……とりあえず、メシ食って、修行か」



 土蔵



士郎「遠坂は、帰ったみたいだな」ギギギ ミシリ

士郎「朝飯くらい食べてきゃいいのに」ギシギシッ ミシ

士郎「フンッ」バキャ!

士郎「これにかぎる」ゼッコウチョウ

セイバー「シロウ、おはようございます」

士郎「おう、セイバー。悪いな、昨日は先に寝ちまって」

士郎「お詫びに朝飯多めに作ったから、食べてこいよ」

セイバー「本当ですか。それは楽しみだ」

セイバー「……ところで、先程から何を?」

士郎「日課だ」

セイバー「……なるほど、では後程私も付き合います」

士郎「ああ、それと」

士郎「もうすぐ知り合いが来るから、セイバーを紹介したいんだ」

セイバー「知り合いですか」

士郎「まあ、家族みたいなもんさ」

士郎「セイバーの事を黙っておくわけにもいかないし」

士郎「親父の海外の弟子とでも言っとけば通じると思う」

セイバー「わかりました。私はそれで構いません」

士郎「…………あー、それと一つだけ聞いてくれ」










――――藤ねぇだけは、怒らせるな

オッハヨー! シロー! ゴハンタベニキタヨー!

フ,フジムラセンセイ コエガオオキイデスヨ

士郎「……きた」

士郎「いいな!? 出来るだけ自然な感じで接してくれ!」

士郎「フツーの女の子って感じで!」

セイバー「わ、わかりました」

この時、セイバーは藤村大河という存在の恐ろしさを知らなかった

幼い頃から切嗣親子の常軌を逸した特訓を見続けてきた大河

特訓の度に死にかける士郎に対する憐れみを含んだ感情は、いつしか増大し

恐るべき怪物へと変貌した

大河「士郎、珍しいじゃない! 桜ちゃんが来る前に朝ごはん作ってる、なん、て」

桜「あ、あの、先輩? そちらの方は?」

士郎「ま、まあ、飯を食べながら話を聞いてくれないか」

大河「士郎」

士郎「へあぁっ!?」

藤ねぇの声色が変わった

普段の活発な声が、まるでカームに突っ込んだみたいに静かになる

大河「どういうことか、はなしてくれない?」

大河「ふうーん、切嗣さんのお弟子さんねぇ……」

士郎「ああ、親父が死んだのをつい最近知ってイギリスから挨拶に来たんだ」

セイバー「切嗣には随分と世話になりました。彼が亡くなったと聞いて居ても立ってもいられなくなり、こちらに飛んできたと言うわけです」

大河「士郎」

士郎「な、何さ」

大河「ウソつくのはよくないよ」

士郎「」

大河「切嗣さんが亡くなった時に、誓ったの」

大河「士郎だけは、絶対に危険な目に会わせないって」

大河「普段の訓練にはしょーがなく目を瞑ってるけどねぇ」

大河「セイバーさん、だったっけ」

大河「あなたからはどうも危ない感じがするんだよねぇ」

桜「」ガタガタ

桜が顔を真っ青にして震えてる

そういえば、桜が初めて家に来たときも、藤ねぇはこんな感じだったな……

――――あれ? 間桐さん? 何で士郎の家に来てるの?

――――ふうーん、怪我した士郎の手伝いにねぇ

――――ちょっと、こっちにきてくれるかな

桜「あ……あ…………」ガタガタ

セイバー「大河、誤解されてるようだが、私は士郎を守る為にやって来たのです」

セイバー「決して危害を加える為に来たわけではない」

違う、セイバー、そうじゃない

そういうフツーじゃないキーワードは使っちゃいけない!

大河「……ま、いいか」

大河「士郎が信じた人なら、信用できるだろうし」

大河「だけどね、セイバーちゃん」

大河「士郎を危ない目に会わせたら」







――――許さないから

セイバー「……!」ゾワ

この絡み付くような感じは、どこかで

そうだ、あの人と同じ

あのモルガンと、あの異父姉と同じ

絡み付くような、生暖かい感覚

アヴァロンに連れていく優しさと、私を幻惑した時の残忍さ

この者にはそれと同じ質を感じる

まさに、姉という名の怪物

大河「それよりお姉ちゃんもうお腹すいちゃったよぅ」

大河「士郎~♪ 早くご飯にしよ♪」

士郎の体に大河が大河が後ろからしなだれかかる

あすなろ抱きと言う体勢である

一見姉弟の微笑ましいスキンシップに見える筈のそれが

『絶対に渡さない』という思いの表れにしか見えなかった


 通学路

士郎「あ、朝から緊張したなあ」

桜「藤村先生のあの声と顔、ひさしぶりに見ました……」

士郎「そういえば俺も昔を思い出したよ」

士郎「あの頃は桜も髪が短くて、どこか陰があったよな」

士郎「それが今じゃこんなに明るくなっちゃって」

士郎「食欲もあがったよな。練習中にこっそりおにぎり食べてんだろ?」

桜「せ、先輩! 知ってたんですか!?」

士郎「米、一合多く炊いてただろ?」

桜「うう……先輩の意地悪」

桜「……でも、私はなにも変わってないんです」ボソリ










先輩

私は先輩に

嘘をついてるんです

士郎「さてと、そろそろ教室に入って……!?」




―――――甘ったるい、不快感




士郎「ぐ……」

桜「先輩?」

士郎「だ、大丈夫だ」

学校の中を、不快感が包んでいる

まさか

魔術師

学校に……!?

士郎「……行こうか、桜」

桜「は、はい」

怪訝に思う桜を他所に、俺は危機の到来を予感した

戦いは、もう始まっている


士郎「み、美綴が行方不明って、どう言うことだよ」

一成「昨日の晩からだそうだ。どうにも最近は物騒だと思っていたが、ついにわが校からも行方不明者が出てしまったか」

士郎「そんな」

一成「衛宮、お前も気をつけろよ。人助け大いに結構だがお前自身が傷ついてしまったら元も子もない」

士郎「わかってるさ……。それより、美綴がいなくなる前に学校で誰か話してた人とかいないか?」

一成「弓道部全般は当然として、比較的仲が良い氷室、そして」

一成「遠坂 凛」

士郎「遠坂、か」

一成「あの女を疑ってるのか?」

士郎「いや……、遠坂は白だ」

少しの間だが、共闘した少女だからこそ分かる

あの高潔な性格の人間がそんな真似をするとは思えない

一成「そういえば……、最近、あいつとの折り合いが悪かったな」

士郎「あいつ?」

一成「間桐 慎二だ」

士郎「慎二が……」

士郎「そういえば、あいつ今日は学校に来てないな……」

結局、夕方までなにも手がかりは掴めなかった

遠坂にも相談しようとしたが、何故か無視された

この校舎を包む異様な雰囲気

早くなんとかしなければ大変な――



凛「衛宮くん」




士郎「……遠坂?」

ふと、見上げた階段の上に、不機嫌そうな顔をした遠坂凛がいた

凛「私はね、貴方にあきれ果ててるの」

凛「昨日あれだけ死にかけたのに、今日はサーヴァントも連れずにこんな時間までほっつき歩いて」

凛「……やっぱり強制的にご退場願って頂くわ」

遠坂の腕の回路が光る

指先に集束するあの、光は

士郎「正気か……!」

――ドギュン!

凛「くっ……この! 動くな! 当たらないじゃない!」

ドギュン!

士郎「無茶言うな」スッ

遠坂の放つ魔弾を上体を反らして避ける

大丈夫だ、最初は驚いたがなんとか避けれる

実弾と違って視認できるし、なにより遅い

伊達に本物の銃弾を撃たれて来た訳じゃない

士郎「遠坂、もっと落ち着け。興奮しすぎて指先が震えてるぞ」

凛「」カチン

凛「よ・け・い・な! お世話だぁあああ!」

ドガガガガガガガガガ!

士郎「いいっ!?」

まるでマシンガンのように暴れ撃ってきた

幾らなんでもあれはキツい

切嗣『逃げるなぁ! 向かってこぉおい!』

ふと、昔のじいさんの怒鳴り声が聞こえた

じいさん、流石にマシンガンは無理だよ

いつの間にか入り込んだ教室で、どうやってこの状況から脱しようかと考えてる最中にも

遠坂の猛攻は止まらない

士郎「と、とにかくこれで!」

机を盾にしてしのぐしかない

士郎「構成材質……ええい面倒!」

士郎「フンッ」

バキャ!

士郎「これにかぎる」ゼッコウチョウ

凛「観念した? 衛宮くん」

凛「そんな机でガンドを防ぎきれるかしら」

士郎「さーて、どうかな」

凛「……何よ、その自信は」

凛「ハッタリならもっと上手にやりなさいっ」

ドガガガガガガガガガ!

ガンドの嵐が机を襲う

始めはなんとか耐えていた強化机だったが、やがて耐えきれず、破砕音をあげ爆散した

凛「やりすぎたかしら」

凛「まあ、これであの馬鹿も少しは反省して――――」

衛宮 士郎が、いない

凛「っち!」

背後に気配を感じ、すぐさま振り返り指を構える

そこには強化した鉄パイプを振り上げた衛宮 士郎の姿が

士郎「やっぱり、陰行は苦手だ。全然通用しない」

凛「……素人にしては上出来よ」

一触即発

互いに緊張感が走る

緊張を破ったのは、甲高い叫び声だった

凛「何!?」

士郎「遠坂、こっちだ!」

凛「あ、ちょっと!」







「」グッタリ

士郎「これは」

凛「生命力を抜き取られてるわね」

士郎「大丈夫なのか?」

凛「このままじゃ危ない……。待ってて、なんとかするから」

士郎「犯人は……向こうのドアから……」

士郎「……」

何かが、光った

士郎「……!!」

ドンッ

ザシュッ

凛「衛宮くん!?」

士郎「くっ……」

咄嗟に庇ったはいいが、腕に深く食い込む痛みに思わず苦悶の声が出る

凛「まさか、サーヴァント」

士郎「そのまさかだ!」

士郎「フンッ!!」

ギシィッ

鎖を右手で掴み、相手を引きずり出そうとするが

まるでびくともしない

それどころかジリジリと引き摺られる。このままでは――――

士郎「遠坂!」

士郎「両肩だ! スイッチがある!」

凛「え、え?」

士郎「早く!」

凛「わ、分かった!」

バチン!

――――緊急解除スイッチ

非常時の際、上半身の服ごとギプスを脱ぎ捨てる

つまり





パァン!!






士郎(上半身裸)「ふぅう……」プシュゥウウウウ

――――鋼

まさにその言葉こそ相応しい、鋼鉄の肉体

普段男の体と言うものを見慣れていない凛でさえ、その異様に息を飲んだ

――――魔術師の体じゃない

――――魔術師殺し

ふと、そんな単語が頭を過った

士郎「ムゥンッ」

ズルッ

左腕の杭を引き抜き、両手で鎖を持ち、

士郎「ずあっ!!!」

全力を持って引きずりぶん投げた

ドアから飛び出たのは、紫の長髪を持つ妖艶な美女

士郎「だぁああっ!」

そのまま背負うように鎖を振り回し、窓に向けて紫髪のサーヴァントを窓に向けて投げ飛ばす

グワシャァアッ

ガラスを突き破ったサーヴァントは、そのまま校舎近くの森林地帯に落下した
















凛「なに、あれ」

士郎「遠坂っ!」

凛「ひゃいっ!?」

士郎「俺はアイツを追いかける! 遠坂はその子の治療に専念してくれ」

上半身裸の変態が何か言ってる

そいつはそのまま割れた窓に身を乗りだし

凛「ってアンタ!? 何する気よ!?」

士郎「大丈夫だ!」

士郎「ここは二階だ! 三階じゃない!」

違う、そういう意味じゃ

士郎「トゥアッ!!!」ババッ

今、理解した

何故アイツがサイボーグ・エミヤと呼ばれているのか

衛宮士郎は正しく怒っていた

自分や凛が襲われるのは分かる

魔術師である以上身の危険に晒されるのは覚悟の上だからだ

しかし桜や美綴等、学校の生徒は違う

表の世界を生きる人たちは断じて危険に晒されていいわけがない

あのサーヴァントや、そのマスターが何を考えてるのかは知らないが、こんな凶行を犯す者を野放しにして平気でいられるほど、士郎は冷静ではなかった

士郎「見つけたぞ……!」

「…………」

窓を突き破ったせいか、美しい肌のあちこちにガラス片が刺さり、深紅の血が雫となって落ちる

セイバーやランサーといった英雄らしさよりも、どこか人離れした超然とした雰囲気を放っている

士郎(正面から来ちまったが、果たして俺の力がアイツに通用するのか?)

士郎(隙を見てセイバーを呼べるようにしなきゃ)

ジャラッ

鎖がうねり、士郎に襲いかかる

士郎「っ!」ヒュン

ダッキングに似た動きで距離を詰め、下から勢いをつけた掌底をその整った細顎に叩き込む

「ぐ……」

士郎(手応えあり!)




「……あなたは、本当に人間ですか?」

「マスターの言っていた通り、一筋縄ではいかない相手のようですね」

「それにしても……」

(なんて、みごとな体……。オリンポスの神々に比肩するほどの調和がある)

「どうやら、様子見はここまでです」

「またお会いしましょう。脳筋さん」

そう言い捨てたサーヴァントは高く跳躍し、この場を後にした

凛「衛宮くん、無事だったのね」

士郎「遠坂、悪い、逃げられちまった」

凛「ホント、貴方ってどこまでも規格外ね」

凛「サーヴァント抜きで戦ったなんて、セイバーが知ったら大目玉よ」

士郎「ゴメン。でも、我慢ならなかったんだ」

士郎「あの子が倒れてて、サーヴァントが現れて、目の前が真っ赤になっちまった」

士郎「今は反省している……。少し、自惚れが過ぎたみたいだ」

凛「……」

凛(前から気にはなってた。こいつは、自分が傷つくことを全く恐れない)

凛(誰かが傷つくことに、強迫観念に近い焦りを感じてる)

凛(何がこいつをそこまで)

凛(……それにしてもスゴい体)

まだ少年らしさの抜けきらない顔に似合わぬ、鍛えぬかれた体

凛(引き締まってて、嫌味が無い……)

何故かボウッとして自分をみる遠坂

気のせいか少し顔が赤い気がする

士郎「遠坂? 大丈夫か」

凛「! な、何でもない!」

凛「ホラ、さっさと服を着なさい! 風邪引くわよ!」

凛「様子見と言ってた以上、今日はもうアイツも襲って来ないだろうし、さっさと帰るわよ」

士郎「そうするよ。遠坂、また明日な」

凛「アンタね! 一応同盟組んでるとは言え私は敵よ!」

凛「……まぁ、いいわ。どうせ長く顔を会わせる事になるんだから」

士郎「ん? なんのことだ?」

凛「私、貴方の家に厄介になるから」

聞き捨てなら無い言葉が聞こえた

士郎「……はい?」

凛「昨日の空き部屋でいいから」

凛「それじゃあね、し、ろ、う」

士郎と呼ばれた

そういえば昨日も何回か呼ばれたような気が

いや、そんなことより

士郎「藤ねぇに、なんて言えばいいんだ……」


 衛宮邸
 
 道場

セイバー「シロウ、私の言いたい事はわかりますね」つ竹刀

士郎「……はい」正座

セイバー「貴方は強い、少なくとも人間の中では」

セイバー「しかし、過ぎた慢心は時として己を滅ぼす」

セイバー「それを知ってながら打ってでるとは、戦士としては余りにも傲慢」

セイバー「その傲慢、私が叩き直します」

士郎「ご指導ご鞭撻お願いします」土下座

このあと、滅茶苦茶しごかれた


 翌朝

凛「なにもいきなり厄介になるわけ無いわよ」

凛「今日の晩に、ここに来るわ」

凛「と言うわけで、今日から衛宮くんと一緒に登校することになったから」

桜「え……あ、え?」

士郎(桜……すまん)

 
 穂村原学園

桜「先輩っ、今朝の話は、一体どういうことですか」

士郎「桜……これには深い事情があってだな」

桜「私にも……言えない事情ですか」

士郎「……ああ、そうだ」

士郎(桜、わかってくれ、お前まで巻き込む訳には――――)

一成「衛宮ァアアアアアアア! 遠坂と一緒に登校していたとは本当かぁああああああ!」

士郎「ああもう面倒くせぇ!」

その日は、遠坂と学校中に設置された結界の破壊を行った

サーヴァントの仕掛けたモノだけあって、完全な破壊は不可能だが、発動を遅らせることは可能らしい

俺の勘がいいのか、かなりの数を壊すことができた

そしてもうひとつ、美綴が見つかった

貧血と中毒症状でぶっ倒れてたらしいが、明らかにサーヴァントの仕業だったと遠坂は言ってた

学校の結界、弓道部、美綴

今日も来ない間桐 慎二

俺の中で、歯車が噛み合い始めた気がした


 間桐邸

士郎「それで……今まで学校に来なかったって訳か」

慎二「僕は慎重だからね、お前たちみたいに大胆には動けないのさ」

慎二「ただ、今言った情報は本当だぜ、柳洞寺のマスターとサーヴァント。そっちが潰してくれたら有り難いんだけどな」

士郎「……」

士郎(学校の結界を破壊した直後に協力の申し出、か)

士郎(タイミングが良すぎる……。まさか、慎二が)

慎二「……なぁ、衛宮」

思索にふけっていた士郎に声をかける慎二

その声はいつもの軽薄な感じは無く、どこか真剣だった

慎二「お前は、努力する凡才が天才に勝てると思うか?」

士郎「……なんだよ、いきなり」

慎二「僕は、魔術が使えない」

慎二「一個もだ」

慎二「だけど、勝つつもりさ、遠坂にも」

慎二「そして、お前にも」

慎二「馬鹿がつくくらいの努力家のお前だ、僕の話をどう思う」

士郎「……」

士郎「俺は、見返りがあると分かって修行してるつもりはない」

士郎「もしかしたら、夢が叶えられないかも知れない」

士郎「それでも、俺は、やめるつもりはない」

慎二「お前ならそう言うと思ったよ」

士郎「じゃあな、慎二。明日は学校来いよ」

バタン

慎二「……」

慎二「そうさ、僕は負けない……」

慎二「特に、お前にだけにはな……!」

凛「慎二が貴方にコナを吹っ掛けてくるなんてね」

士郎「どう思う?」

凛「嘘と真実を織り混ぜて話してるわね。ホント、小賢しいんだから」

士郎「……俺は、余りそうとは思いたくない」

士郎「あのとき、セイバーを連れずに行動してた。殺そうと思えばいつでも殺せたんだ」

凛(本気で言ってるのかしらこの筋肉馬鹿は)

凛「あなたね、いくら友達でも、そこまで信用できる人間じゃあ無いわよ、アイツは」

士郎「俺だって怪しいと思うさ」

士郎「それでも、俺は」

凛「あなたが出来ないなら、私がやるわ」

凛「一般人を巻き込んだアイツを、私は許さない」

凛「それにね、本当に友達のことを考えてるなら」

凛「ぶん殴ってでも更正させるのが、本当の友情ってモノよ」

士郎「……はは、遠坂の口から、そんな男前な言葉が出てくるなんてな」

凛「ふん、これくらいどっしり構えてなきゃ遠坂家の当主は名乗れないわ」

士郎は凛の心根の強さに感動を覚えた

衛宮 士郎は確かに強いかも知れない

しかし、友が敵になる可能性が彼の心を苛む

いくら心身を鍛えたとは言え、彼もまた子ども。青春を謳歌しておかしくない年頃なのだ

士郎(慎二が目の前に立ちはだかったら、果たして俺は戦えるのか?)

士郎(俺には遠坂のような確固たる意志が、無いのかもしれない)

凛「それより、荷物置くの手伝ってくれるかしら。今日からお世話になるんだからちゃっちゃと済ませたいのよね」

士郎「……ホントにウチで生活する気か」

凛「感謝しなさい、学校中の男子が泣いて悔しがるわよ」

ピンポーン

呼び鈴? こんな時間にだれ、が

士郎「まさか」

大河「シーローウー! ご飯食べに来たよー!」

大河「…………」

桜「…………」ガタガタ

凛「…………」

セイバー「…………」

士郎(き、気まずい)

大河「士郎」

士郎「ファアッ!?」

大河「遠坂さんの言い分は分かったよ。お姉ちゃん、信じてあげる」

士郎「え」

大河「遠坂さん、中華が得意なんだっけ? 先生楽しみだなぁ♪」

凛「は、はぁ」

妙に聞き分けがいいな

もっと、何か含む言葉を言うかと思ったけど

本当に聞き分けてくれたのか?

凛「それより、間桐さん、貴方は何故ここにいるのかしら」

凛「もう、来なくても大丈夫って言ったと思うのですが」

桜「遠坂さんの言うことを、何で私が聞かなければならないんですか?」キッパリ

凛「………」

桜「………」

士郎「セ、セイバー、なんとかならないか」ボソッ

セイバー「お腹が空きました」しれっ

士郎(つ、つかえねえ……)

凛「ああ、それなら早速、台所を借りますね」

桜「……私も手伝います」

士郎(グッジョブ、セイバー)d

大河「美味しいの期待してるよぅ♪」







 台所

凛「へぇ、けっこう揃ってるじゃない。これなら本気を出せそうね」

桜「遠坂さん」

凛「あ、間桐さんは材料切って頂戴。中華は初めてかしら」

桜「……姉さん、何を考えてるんですか」

凛「あなたには関係ないわ」

桜「今度も、私の居場所を取るんですか」

凛「暗いわよ、あなた」

桜「姉さんほど陰湿じゃありません」

ダンッ

スリッパを履いた桜の足が凛の足の甲を踏み抜く

凛「…………!」

桜「…………」

互いの瞳が交差する













――――据わっていた

凛「痛いんだけど」

桜「気のせいじゃ無いですか?」

桜「それとも厚かましすぎて痛覚がマヒしてるんじゃ無いですか?」クスクス

凛「…………」

凛、無言で桜のふくらはぎに手をやり

ギュイッ

思いきりつねった

桜「~~~~!」

痛みに悶えるが、何とか声を出さずにすんだ

凛「間桐さん、足、邪魔なんだけど」

桜「姉さんこそ、手が邪魔です」

士郎(か、顔を出しずれぇ……)ガタガタ

凛「あの子……まさかあんなに自己主張が激しいなんてね」

士郎「どう考えても遠坂のせいだろ……」

士郎「それにしても、藤ねぇがあんなにあっさり引き下がるなんてな」

士郎「セイバー、お前の時とは随分違うじゃないか」

セイバー「……」

士郎「セイバー?」

セイバー「いえ、何でもありません」

大河『え、セイバーちゃんの時と遠坂さんの時と態度が違う?』

大河『やだなぁ、そんなの当たり前じゃない』

大河『セイバーちゃんと違って、遠坂さんはお子様なの』

大河『桜ちゃんも同じ。取るに足らないよぅ、あんなの』









セイバー(大河……貴方は)


 土蔵

凛「これが士郎の工房、か」

凛「なんだか殺風景ねぇ。がらくたばかりじゃない」

凛「………ん?」

魔翌力の残り香を感じる

これは

凛「投影魔術? でも、これは」

士郎「遠坂」

凛「わっ!」

凛「な、何よ。いたのなら何か言いなさいよ」

士郎「遠坂、それには余り触れるな」

凛「え」

士郎「それは親父から禁術扱いされたモノだ」

凛「禁術……。そう、そう言うこと」

凛「貴方、やっぱり最初からおかしいのね」

凛「ある種の天才……いえ、突然変異」

凛「そのギプスも、初めからこの投影擬きを行使するのに耐えるためのモノ」

凛「……決めたわ。明日、学校を休むわ」

士郎「調べるのか?」

凛「知り合いが封印指定なんて冗談じゃ無いわよ」

明日は一応、結界には気をつけて

そう言って遠坂は寝室に戻った

俺は、積まれたがらくたに目をやり、昔を思い出した

切嗣『士郎よ、いつか、時が来ればその投影を使う日が来るだろう』

切嗣『だが、それはそんな甘いモノじゃない! 努々使い方を誤るな』


 深夜

 柳洞寺

セイバー(士郎、黙って行く私を許してください)

セイバー(しかし、私も目的がある)

セイバー(それを邪魔する者は――――)

セイバー「斬る」






アサシン「ふ……」

アサシン「穏やかではないな、このような時に」

セイバー「退かなければ、斬ります」

アサシン「我が主からは誰も通すなと言われている」

アサシン「通りたければ……」チャキ

スラリ

アサシン「力ずくで」コォオオオオオオオ

セイバー「……」コォオオオオオオオ

セイバー(先程から肚に力がはいらない)

セイバー(おそらくはキャスターの結界の作用……ならば)

セイバー(小細工は不用!!)

セイバーの上段からの太刀がアサシンの脳天を断つべく襲いかかる

しかし、まるで柳のように軽やかなアサシンの動きになんなくかわされる

アサシン「戯れはよせ、セイバー」

アサシン「本気を隠したまま勝てるほどこの身は甘くないぞ」

セイバー「……やはり、隠し通せませんか」スッ

セイバー「解    放」

バチン!

セイバー「ふうぅ……」プシュゥウウウウウ

アサシン「……なるほど、これは骨が折れそうだ」

セイバー「フン!」

ビュオッ

アサシン「……」

先程よりも更に速い剣筋を髪一重で見切り、セイバーの首を跳ねんと長剣を構える


――しかし、完全に振り切り、延びきった筈の刀身が、恐るべき速さで「戻ってきた」


アサシン「ほぅ……」

――――ギャリリリリ!


剣同士が空中で交差し、金属の擦れる音が周囲に木霊する

アサシン「愚直なまでの直線軌道。だがそれ故に分かっていても避けられん、か」

セイバー「見事です。恐らく剣の腕前事態は貴方の方が上」

セイバー「だが、技術を上回る速度が私にはある!」グワッ

ビュオッ

見えないスイング

アサシン「……!」

ザンッ

セイバー(浅い……)

アサシン「消える一の太刀か、いいな、実に愉快だ」

袈裟懸けに浅く傷を負ったアサシンが如何にも愉快といった風に笑う

アサシン「その神速の太刀と我が秘剣、どちらが速いか試したくなった」チャキ

スゥウウウウウウウ

アサシンの周囲の空気がみるみるうちに引き締まり、温度を下げる

セイバー(来る、とてつもない技が)

アサシン「翔ぶ燕を、斬る」

アサシン「逃げられんぞ、セイバー」

ズ、ズズ

「秘剣」







「――――燕返し!」




    キュ キュ キュ

       ザn



ビュオオオオオオ!


アサシン「!?」

回避不能の三連斬

それを向かえ撃ったのは、髪一重の瞬間を疾風の如く駆け抜けた、一の太刀

セイバー「燕は斬れても」

セイバー「龍は殺せん」

アサシン「見事」ブシュッ

アサシン「しかし、意地は通させてもらった」スッ

自らの胴を片手で抑え

セイバーに指を向けるアサシン

セイバーの体には避けきれなかった斬撃の痕が血を滲ませている

アサシン「初めてだぞ、我が秘剣に逃げずに真正面から向かって来た者は」

セイバー「……髪一重、です」

セイバー「この勝負、預けます」

アサシン「何故だ? 今なら容易く斬れるぞ」

セイバー「貴方を倒せても、続くキャスターまでは息がつづかないでしょう」

セイバー「ならばここは引く」

アサシン「……行け、どうせここを離れられん。追いはせん」

セイバー「次は斬る」

アサシン(もう斬られたが…)

アサシン「楽しみにしてるぞ」


 帰り道

セイバー「……」

セイバー「髪一重、か」

セイバー「ぐぅっ」フラ

セイバー「ま、まだまだ、修行が、足りませんね」

セイバー「しかし、あの秘剣。攻略の糸口は掴めた」








――次こそは、必ず


 翌朝

セイバー「」ガツガツ

士郎「」モグモグ

大河「」モシャモシャ

凛「よく食べるわねー」




セ士大「「「おかわり!」」」





桜「先輩は、昔からよく食べるんですよ」

桜「とても美味しそうに食べるから、ついつい張り切って作っちゃうんです」

凛「セイバーもスゴい食欲ね」

セイバー「食べれば治りますから」

凛「?」

今更だけどメール欄にsagaを入れると魔力の間に余計な文字が入りませんよ



 通学路


桜「なんだか、二人で登校するのもひさしぶりな気がしますね」

士郎「……」

桜「先輩?」

士郎「ん、ああ、そうだな……」

桜「……」

ーー


凛『いい? 万が一結界が発動したら、その時はすぐにセイバーを呼ぶのよ』

凛『アーチャーを監視に飛ばせてあるから、非常時には彼とも協力すること』

士郎『ああ、分かった』

>>286
ありがとう
しかしたまに忘れちゃうんですよね……

士郎(遠坂に投影の事がバレた時は覚悟を決めたけど)

士郎(まさか、安全のために調べたいなんて言い出すなんてな)

士郎(いいやつだよ、ホントに)

桜「……」

桜「先輩、実は黙ってたんですけど」

士郎「ん?」

桜「実は、家の用事があって明日から暫く先輩の家に行けません」

士郎「用事が? そっか、ならしょうがないな」

士郎「桜のメシ、楽しみにしてたんだけどな」

桜「本当にすみません……」

桜(――――先輩、本当は違うんです)






本当は、私


 昼休み

慎二は学校には来ていなかった

ここまで特には何も起こっていない

暇なときに起点が無いか探して見たが、特に何もなかった


  屋上

士郎「んー」ノビー

士郎「収穫なし、か」

士郎「しっかしのどかだ、戦争中とは思えん」

士郎「……何で、戦ってんだろ、皆」

青空を見ていると、時々自分が、魔術師が何故修行し、何の為に戦ってるのかわからなくなる

空しさを感じるほどに澄みきった青空

星空は好きだが、雲一つない青空は同じくらい好きだった

士郎「さーて、帰るか」

屋上を跡にして教室へ戻ろうとする

――――その時、違和感が

休み中なのに、妙に静かだ

次に感じたのは、視界が焼けるような痛みだった

士郎「あづっ、あ」

士郎「何、な、にが」

士郎「あ、ああ」

透き通るほど青かった空が

真っ赤に燃えていた

――――結界

ついに発動してしまった

士郎「くそ……」

吐き気がする

胸焼けがする

頭が痛い

士郎「……!」

校庭で遊んでいた生徒が、人形のように倒れ伏している

ピクリとも動かない

士郎「く……」

落ち着け、遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた筈だ

まずはセイバーを呼んで、アーチャーと協力して――――

「衛宮、やっぱりお前は動けるんだな」

聞きなれた声がした

士郎「しん、じ」

慎二「驚いたかい? 僕の趣向は」

士郎「やっぱり、この結界は」

慎二「だいぶ気づいてたんだろ? それでも確信できなかったのは、お前の甘ささ」

士郎「何で、こんなこと」

慎二「あくまで保険さ。遠坂の手足を封じるためのな。流石に真正面から敵うとは思っちゃいないよ」

慎二「それより、いいのか? 早く結界を止めないとみーんなスープになっちまうぜ」

士郎「慎二っ、やめろ、今すぐ結界を止めろ!」

慎二「衛宮、そうじゃないだろ。人にモノを頼むときは土下座くらいするのが筋ってもんだ」

慎二「藤村といいお前といい、ホントに礼儀知らずの甘ちゃんだよな」





士郎「……今、何て言った」

慎二「ああ、藤村か?」

慎二「アイツもなかなかしぶとくてさ、周りがバタバタ倒れてく中、暫く動いてたんだよ」

慎二「蚊の鳴くような声で『士郎、士郎はどこ』って言っててさ、ホント気持ち悪かったぜ」

慎二「動ける僕を見るなり助けを求めちゃってさ、くく、『士郎を、皆を助けて』だって」

慎二「あんまり煩いから蹴りを一発入れたら動かなくなったけど、真っ先に死んだんじゃないの?」
















――――ブチン

――――――グシャッ

士郎「……」

慎二「ぶ、ごおふっ!」



――――ッッダァアアアアアン!





渾身の右ストレートが慎二の顔面に直撃した

衛宮 士郎が生まれて初めて抱いた

「殺意ある拳」だった

不思議と、自分でも驚くほど冷静だった

ただ、目の前の敵を倒す

それのみに集中したとき、人は何処までも冷酷に、非情に徹する事が出来る

俺はそれを自分の身で思い知った









士郎「慎二」

士郎「マジでぶっ殺すぞ、テメェ」

慎二「――――く、くくくくく」

士郎「……!」

ギプスを着けてるとは言え、全力の右ストレートを食らって気絶していない

壁にめり込んだまま、慎二は不気味に笑う

きりもみ回転し、壁に勢いよく叩きつけられた慎二

壁は大きく陥没し、周囲に破片が散らばっている

慎二「やっとだ、衛宮ァ……」

慎二「やっとお前は、本気で僕を正面から見る気になった……」

ゴソリ

懐から取り出したのは、令呪の証である本

士郎「……」

慎二「ずっとだ……ずっとこの時を待ってたんだァ……!」

慎二「いくぞ衛宮ァアアアアアアア!」

慎二の令呪が光り、リノリウムの廊下に衝撃波が走る

触れれば肉を容易く切り裂くそれが士郎目掛けて突進する

士郎「……」

しかし、避けない

それが何だと言わんがばかりに歩きながら慎二に迫る

ザシュッ

ザンッ

肉が裂かれ、血が舞う

しかし

士郎「……藤ねぇの痛みはこんなモノじゃない」






――――ブオンッ

バキャァアアッッ!

慎二「ホゲェアッッ!」

グワシャァアッ!

ヒューーーーーーー グシャ

またしても右ストレートが顔面に直撃し、今度は窓を突き破って校庭に落下した

肉が潰れる音が聞こえた

俺は一瞬眼を瞑り、かつて親友だった男に黙祷を捧げた

だが




「衛ェエェエエエ宮ァアアアアアアア!!」

士郎「な、に」

思わず校庭に目を向ける

そこには顔どころか身体中をズタボロにしながらも、しっかり大地に立つ慎二の姿があった

慎二「素晴らしいよ衛宮ァ! 本気で、本気で僕を殺そうとしたんだな!」

慎二「だが、まだ殺されてやらないぞ! 着てるんだろ? アレを!!」

慎二「外せ!! ギプスを!!」

慎二「でなければ僕は殺せないぞ!」

あまりの勢いに思わず後ずさった

違う

目の前のあの男は、軽々しくハッタリを抜かす男じゃない




――――アレは死を覚悟した男の目




士郎「…………」スッ

気を抜けば、逆に喰われる

ならばこちらも、全力でやる!



士郎「解    放」




バチン!

士郎「ふぅう……」プシュゥウウウウウ

慎二「ひひ、ひ、ついに、本気を出したな」

士郎「トゥアッ!」ババッ




ダァアアアアアン!




窓から飛び出し、校庭の地面を踏む

慎二と相対し、互いの瞳が交差する

一陣の風が俺達の間を駆け抜けた

士郎「慎二、最後にもう一度言う」

士郎「結界を止めろ」

慎二「ひ、ひひへひゃはははははははは!」











慎二「断る」













バゴンッ!

三度目の正直

手加減抜き

全身全霊のストレート

慎二「~~~~~~!!?」

もはや言葉すらでない

息もできない

慎二「」ガクガク

終わった

完全に終わった

そう思い背を向ける

だが、

またしても















慎二「き、き、き、効いたぜ衛宮ァ……」

慎二「これがお前の全力かァ……!」

士郎「な、何故……!?」

本気の本気だった

立ち上がれる筈がない

何故……!?

慎二「ふ、ふ」

慎二「不思議か? 衛宮ァ……!」

慎二「お前の全力が、何故僕ごときを倒せないのか……」

慎二「僕だって、何もしてない訳じゃないんだぜぇ……!」

慎二「いいか、衛宮」

慎二「僕は、天才だったんだ」

慎二「どんなことでもスマートに、そつなく、何の苦労もなく簡単にこなせる天才だったんだ」

慎二「そんな僕が、唯一挫折したのが魔術だっ!」

慎二「生まれて初めて、本気で取り組もうとしたモノに、落第の焼き印を押されたんだ!」

慎二「そんな失意の中で出会ったのが」

慎二「お前だよ、衛宮」

慎二「始めはただ無意味な努力を続けるバカかと思ったが」

慎二「そのバカはただのバカじゃない」

慎二「目標の為に命を懸けてしまう本物のバカだった」

慎二「惨めだったよ……たった一回け躓いただけで諦めた自分と、お前の差が」

慎二「そして猛烈に感動したのさ」

慎二「すぐに失望に変わったけどな!」

俺は呆然として慎二の話を聞いていた

こんなに、自分の心情を話す慎二は初めて見た

いや、そもそも俺は、慎二の何を知っていたのか?

俺は、アイツのうわべしか見ていなかったんじゃないか?

慎二「魔術師ってのはなぁ、どんなにヘボでも、僕から見りゃ全員天才なんだよ!」

慎二「努力と根性の化身、衛宮 士郎!!」

慎二「そんなお前ですら、その天才の一人だと知った時の僕の気持ちが」

慎二「お前に解るかァアアアアアアア!」

慎二「倒す、だからこそ僕はお前を倒す!」

慎二「間桐の家も遠坂も聖杯戦争も関係無い!」

慎二「間桐 慎二としての存在を確立するため、天才のお前を超える!」

慎二「だからこんなこれ見よがしの努力も行える!」ババッ

士郎「――――! 慎二、その手は!!」

それは、血にまみれた両手

皮はずるむけ、マメは潰れ、真っ赤に染まった痛々しい両手

慎二「柄じゃないと思うだろう!」

慎二「だけどなぁ! 努力ってのは影でやるモノだぜ!」

慎二「これが僕の努力だ衛宮ァアアアアアアア!」

バリッ

何かが破れる音がした

そしてそのあとに聞こえる、この聞きなれた音は

まさか














――――ギ、ギギ、ギギギギギ

慎二「爺ぃに無理を言って施してもらった、消音の魔術を解いた」

慎二「お前はこの音をよ~~~~~く知ってるんじゃないか?」

そうだ

俺は知っている

この音を

この強靭なバネの音を




慎二「見るがいい!」ババッ







慎二「この『衛宮士郎打倒ギプス』を着け、地獄の特訓を続けた僕に敗北の文字はない!」ゴゴゴゴゴゴゴ






衛宮士郎は、常に誰かを追う立場だった

尊敬する父を

確固たる意思を持つ遠坂を

英雄としての生きざまを持つセイバーを

しかし、魔術師としてヘボな自分を天才と呼び、追いかけ続けていた男が、目の前にいる

正真正銘の凡人、間桐 慎二

地獄を克服した男

それは、士郎が正しく「追われる側」に回った瞬間だった

慎二「解   放」

バゴンッ!

ギプスが破砕音と共に砕け散る

慎二(上半身裸)「むふぅ……」プシュゥウウウウウ

慎二「もうこんなモノを着ける必要はない」コォオオオオオ

慎二「」ユラリ

慎二「ぬはァあ!」

ギュオッ

士郎「な、何て跳躍力だ!」

慎二「受けてみろ衛宮ァアアアアアアア!」





慎二「スクリュースピンスライディング!!!」

ギュオオオオオ!






士郎「ぐ、ぐあああああっ!」

士郎の持つ数少ない必殺技

それを容易く真似された

いや、あの技はそうそう誰にも出来るモノじゃない

しかし、そうだとしたら――――

慎二「何ぼさっとしてるんだ!」

ガキィッ

士郎「ご、おっ」

慎二のアッパーカットが士郎の顎を容赦なく打ち抜く

イリヤスフィールに殺されかけた時とは違う

まだまだ未熟だが、恐ろしくキレがいい

士郎「ぶ、は」

士郎「ッラァアアアアア!」

歪む視界を振り切り、左の鉄拳を慎二に叩きk

グシャアッッ!

慎二「舐めるなよ、衛宮」

士郎「ご、は」





クロスカウンター









つ、つ

強い!

なんて強さだ!

慎二がこれほど強いなんて

だが、それでも解せない事がある

これほどの強さを持ちながら、何故……

士郎「ぐ、ああああ!」

ズドン!

慎二「ごふっ」

形振り構わぬボディブローがヒットする

士郎「しん、じ……お前の強さと執念、確かに受け取った」

士郎「だが、それほどのパワーがありながら、何故俺だけを狙わない!」

士郎「藤ねぇを、学校全部を巻き込まずに、俺と全力で戦えばいいじゃないか!」

慎二「……」

慎二「衛宮、お前やっぱりわかってないよ」

慎二「僕は本気のお前と戦い、勝ちたかったんだよ」

慎二「こうでもしなきゃお前は本気を出さないだろうが!!!」

慎二「ライダー!」

いつのまにか側に控えていたサーヴァントに声をかける

ライダー「こちらに」

慎二「衛宮が少しでもやる気を殺いだら、学校の人間を殺せ!!」

ライダー「……わかりました」

士郎「し、慎二!?」

慎二「もう後には退けないんだよ!」

慎二「衛宮ァアアアアアアア!」

士郎「慎二ィイイイイイイイ!」

ライダー「……バカな子達」

ライダーは冷めた目で、しかし、目を離さず見ていた

再び血みどろの死闘を始める、脳筋たち

最初にマスターである慎二に出会った時は、なんて卑屈な人間なんだと軽蔑したが、

その軽薄な顔と態度の裏に隠された、おぞましいまでの執念と根性

あの姿勢を見てしまっては、逆に本当のマスターのほうが卑屈に見えてしまうではないか

ライダー「……こんなことを言うのは恥ずかしいですが」

ライダー「シンジ、勝ってください」






「いいや、勝つのはシロウです」

セイバー「私のマスターが、あのシロウが負ける筈がない」ドンッ

 セイバー

 参  上

ライダー「あ、あなたは」

ライダー「何故、令呪も使ってないのに」

セイバー「男たちの熱き血潮に、心が、魂が反応したまでのこと」

セイバー「百万の言葉にまさる、魂の語り合いを」

セイバー「まさか邪魔するわけではあるまいな?」

ライダー「……ふ、それは此方の台詞です」

ライダー「私たちも始めましょうか」

セイバー「それでいい」

セイバー「それでこそ聖杯戦争だ」








女たちの戦いも、始まる

慎二「しぶとい奴だよ! お前はっ!」

士郎「慎二ィイイイイイイイ!」




――――男は 誰もみな

   無口な兵士
    
   笑って 死ねる人生

   それさえ あればいい





士郎「ああああッ!」

バキィッ!

慎二「ぶ、ぬァアアアアアアア!」




 ――――ああ まぶたを開くな

    ああ美しいひとよ

    無理に むける

    この 背中を

    見られたくはないから

――――なぁ、衛宮

僕は、ホントはな

魔術とか努力とか抜きで

お前のことを

尊敬してたんだぜ





  ――――生まれて 初めてつらい

     こんなにも 別れが





ライダー「あなたと私では、実力の差は歴然ですね」

ライダー「しかし、宝具の撃ち合いなら私に利があります」

ザシュッ

セイバー「!」

自ら杭を己の首に打ち込むライダー

鮮血が溢れ、地に落ちた血液はやがて魔方陣を作り上げ――――



ペガサス「……」ゴゴゴゴゴゴゴ




セイバー「それが、あなたの切り札」

ライダー「見たところ、あなたはあの少年からほとんど魔力が供給されてない」

ライダー「魔力を大量に消費する宝具。使えるものなら使ってみなさい」

パシッ

ペガサス「ヒヒィーーーーーーン!」

ペガサスの目に殺気が芽生え、急速に魔力が集中する







セイバー「自惚れるな、ライダー」

セイバー「私の力は、宝具などではない」

セイバーが両手で剣を構える

まるで超一流スラッガーのごときオーラを放つ異様な構え





セイバー「こい」





――――勝負!!

士郎「はーーーーっ、はーーーーっ」ゼェゼェ

慎二「う、ぐぐ」

既に互いに満身創痍

血を流し

汗を流し

それでも最後に勝つのは一人

決着の時は、今まさに着こうとしていた

だが

士郎(慎二の、カウンター。アレをなんとかしなきゃ、こっちがやられる)

慎二「……」

士郎(俺は、勝てるのか。慎二に)

慎二「」ユラリ






ああ

まるで炎だ

慎二が炎に見える

士郎「う、おお」

炎が、なんだ

俺にも、負けられない理由がある

藤ねぇ



大切な人たち

じいさんの想いが

俺を炎に変える


――――本当に友達のことを考えてるなら

   ぶん殴ってでも更正させるのが、本当の友情ってモノよ


遠坂の言葉が頭に浮かぶ

慎二

俺の友達

今、お前の目を――――









士郎「俺が覚ます!!」

士郎「うおあああああああ!!!」

士郎の左のストレート

慎二の右のカウンターが迫り――――

ここだ!

左で右のカウンターをかわす

本命は右の

全身全霊の一撃!!





士郎「慎二!!!」









――――勝った!!!

その時、視界から慎二の姿が消えた

士郎「あ――――」







衝     撃







暗転

慎二の放った最後の左アッパーカットは正確に士郎の顎を打ち抜いた



 トリプル・クロス




――ドサッ

校庭の大地に沈む士郎














慎二「おわった……なにもかも………………」

今日はここまで……

寝る…… 限界……

セイバー「……!」

ライダー(シンジ……あなたは)

ライダー「……行きます」

ライダー「――――騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!」

セイバー「……」

セイバーを粉砕すべく、恐るべき速度で迫るペガサス

しかし、セイバーは動かない

バッターボックスにたたずむ異様は英雄に非ず

 


――――引き付けろ、限界まで





奴が勝利を確信した、その一瞬を!









――――打つ!







セイバー「大風王鉄槌(だいストライク・エア)!!!」







――――その異様は、まさに大ホーマー





――――ガッキィイイイイイイイン!





逆転三塁サヨナラホームラン






冬木の空に、獅子の咆哮が駆け巡る






ライダー(シンジ……、サクラ……)



――――あなたたちに会えて、良かった

アーチャー「起きろ、小僧」

士郎「う……」

顔に鈍い痛みを感じながら、俺は目を覚ました

目の前の慎二に対して、渾身の一撃を放ったのは覚えている

それからどうなった――――?

アーチャー「最後の最後でしくじったな、情けない奴だ」

士郎「アーチャー……」

士郎「そうか、おれは」







――――負けたのか

士郎「アーチャー、俺と慎二の戦いを、見ていたのか」

アーチャー「邪魔していい雰囲気ではなかったからな」

士郎「……ありがとう。本当なら、一対一なんて無視しても良かったんだ」

士郎「俺の我が儘に付き合わせちまって、本当にすまない」

アーチャー「……」

士郎「なぜだか分からないけど、アーチャーは俺が無茶するのを――――」

アーチャー「衛宮 士郎」

突然アーチャーが俺の言葉を遮った

その口調は何処までも暗く、感情を感じさせない不気味さがあった

アーチャー「お前の未来は、破滅だ」

士郎「え……」

アーチャー「お前は、何も成し遂げられない」

アーチャー「何も掴めない」

アーチャー「それでも、動く事を止めない」

アーチャー「まるでロボットのように」

アーチャー「そうだ、お前の未来は、ロボット」

アーチャー「血の通わぬ機械だ」

士郎「アーチャー、何を」

アーチャー「決まりきった未来など、変える気すら起きん」

アーチャー「私は、お前を見続け、その滑稽さを嘲笑う」

アーチャー「せいぜい踊れ、正義ロボット」

士郎「お前は、お前は……」




――――一体何だ








アーチャー「私もロボットだ。お前と同じな」

士郎「ロボット……」

ロボット

機械

頭に染み付くその単語

士郎「俺が、ロボット?」

士郎「う……!」

視界が霞む

頭が痛む

意識が、また――――






――――お前の未来は、破滅だ









アーチャーの言葉が、もう一度聞こえた

――――


もう一度目が覚めたときは、布団の中だった

セイバー「気がつきましたか、シロウ」

士郎「セイバー……」

セイバー「ライダーは倒しました。結界は解かれ、皆無事です」

士郎「そうか……。良かった」

士郎「藤ねぇは?」

セイバー「内臓に負担が掛かっているようで、暫くは病院で暮らすそうです」

セイバー「それ以外に外傷はありません」

士郎「……そう、か」

やっぱり、慎二は

藤ねぇを傷つけてなかった

セイバー「シロウ、負けたのですね」

セイバー「でも、悔いはないのでしょう?」

セイバー「今のあなたはとても満足といった顔をしている」

士郎「セイバー……そうさ、その通りだ」

士郎「俺は、初めてアイツの声を聞いたんだ」

士郎「戦いなんて物騒なやり方だったけど」

士郎「百万語のベタついた友情ごっこに勝る、魂と魂の語り合いをやれたんだ」

士郎「俺は、慎二と本当の友達になれたんだ……」

士郎「しんじ……そうだ、慎二は」

俺の親友に

あの偉大な男に

もう一度会いたい

もう一度あって、今度は、話をしたい

慎二、俺は、お前に会えて――――





凛「士郎、話があるわ」

士郎「遠坂……」

士郎「何だよ、話って……」

凛「……」

士郎「遠坂?」

凛「死んだわ」

士郎「え」

凛「慎二が、死んだわ」

原因は、三発目に士郎が放った全力の右ストレート

顔面に直撃したそれが、陥没したと同時に脳座礁を起こし

さらに脳内出血を伴い、二度と目を覚まさなかった

あのとき、既に手遅れの状態で戦い続けていた

慎二が

あの偉大な男が

間桐 慎二が死んだ

凛「士郎、あなたが気を病む必要は無いわ」

凛「慎二も、全て覚悟の上で、皆を巻き込んで貴方と戦った」

凛「彼は……満足だったはず、よ」

士郎「――――」

凛「士郎?」











士郎「う、あ」







士郎「うわぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! 」









泣いた



じいさんが死んだ時よりも泣いた






男が涙を見せるなと言われても泣いた










俺は、狂ったように泣きつづけた






   男が友達の為に涙を流すことは、決して恥ずかしいことではない


              ――松本 零士――


これにて第一章は終わりです

慎二の元ネタはご存知の通り力石 徹です

本当は花形と力石を足して生存させようかと思ってましたが、散々迷った挙げ句死んで華を咲かせることにしました

次の章からは挫折編、パーティー編、修羅場編、ラストといった風に考えてます

昭和漫画が好きな方はもう少しお付き合いお願いします

なんだかレスが増えててビビる

そんなにパーティーが好きか貴様ら(死んだ魚の目)

勿論クリスマスは終わってるのでまた違ったモノになります

セイバーは伴 宙太とオズマを足した感じにしてます

前回の戦争で死にモノ狂いの結果手に入れたのがギプス一つだけ

悲しい

あしたのジョーはなんと言うか、もう自分の中では殿堂入りしてしまってます

別格です

破滅と呼ぶには余りにも前向きな男たち

たかが8回戦に命を賭けた力石

たかがエキシビションマッチにボクサー生命を捧げたカーロス

そして負けたとは言え、満足に完全燃焼を遂げたジョー

「燃やし尽くす青春」を駆け抜けた彼らを、破滅の一言で締め括るのはどうにも恐れ多い気がしてなりません

慎二の遺体は、間桐の当主が持ち帰ってしまったらしい

俺は、友の死に目にすら会えなかった

ただ、最後のダブルクロスを放とうとした時に見た慎二の顔は

爽やかな笑みを浮かべていたんだ――――






               



                ――挫折編――
















              愛は死よりも強し

              ――愛と誠より――

アサシン「……」

ピシリ

パキ

バキ

アサシン「セイバー、決着は叶わぬようだ」

バキバキッ!

???「慎二め……だらしがない」

???「儂の手を煩わせるとは、何処までも使えぬな孫よ」



バキバキッ!



???「所詮は出来損ないか」


 新都

凛「魔力が集中しているのはここね」

学校の死闘から数日

凛は最近起こっている昏睡事件を調べていた

アーチャー「随分とあからさまな真似をするな」

凛「ええ、完ッ全に嘗められてるわ。私の管轄でこんな真似をするなんて」

凛「……近い」

アーチャー「……」スッ




ガチャッ ガチャ

骸骨の戦士

こんなものを使役できるのは限られる

凛「キャスターの仕業ね」

ドギュン!

ガゴッ!

凛「アーチャー、全滅させるわよ」

アーチャー「了解した」

バキィッ!







――

アーチャー「これで最後か」

凛「起点は……あった。これね」

パキン

凛「こんなのが後いくつあるのかしらね」

アーチャー「衛宮 士郎たちも協力させたらどうだ」

凛「これはあくまで管理者である私の問題。士郎の手は必要無いわ」

凛「それに」

凛「今のアイツは、とても使い物にならないわ」


 衛宮邸

士郎「セイバー、終わったら食器を流しに持ってきてくれ」ガチャガチャ

セイバー「わかりました」

セイバー「……」

士郎「学校も暫くは休みだってさ」

士郎「まぁ、俺たちにはその方が都合がいいのかもな……」

セイバー「シロウ」

士郎「ん、なんだセイバー」

セイバー「ギプスは、着けてないのですね」






士郎「…………」

士郎「……たまには、外す時もあるさ」

セイバー「特訓が日常の一部と化している貴方の台詞とは思えない」

士郎「……」

セイバー「シロウ、厳しい事を言いますが、今の貴方では自分の命すら守ることは難しい」

セイバー「この先命を落とすような事になれば、きっと彼も――――」

士郎「セイバー、わかってる」

士郎「わかってる、わかってるけど」

士郎「俺は、こんなことの為に、今まで修行してきた訳じゃなかったんだ」

士郎「少し、頭を冷やしたいんだ」

士郎「頼む」

セイバー「……私たちに、余り時間はありませんよ」








士郎「……ありがとう」

慎二が死んだという事実は意外とあっさり受け入れられた

聖杯戦争という現象が感覚を麻痺させてるのかもしれない

ただ、俺は分からなくなってしまった

正義の味方として、学校の皆を救うために慎二と戦った事は間違いじゃないのはわかる

ただ、そのために慎二を殺してしまった事実が、俺に今までの生き方に疑問を抱かせる程の深い傷を与えた







――俺は、友達を殺す為に強くなったのか?

このまま戦い続けても、いつかまた同じ事を犯しそうな気がしてならない

強くなっても

大切な人を壊すような強さなんて

俺はいらない

いらなかった

慎二

すまない

俺は、お前が目指すに値しない人間だ……


 柳洞寺

「…………」

???『お前が思っているほど、あやつは誠実でもなければ、ましてや人の情など持ち合わせてはおらんぞ』

???『ただの戯れ……憐れな野良犬に傘を差し出しただけのこと』

???『それを愛だの、情だの宣うとは、何処までも滑稽な女じゃのう』






――――お前を愛してくれる者など、いない



「……所詮は老人の戯言」

「何を迷う必要があるの?」

「それに、私には、もうあの方しか――――」













葛木「キャスター、暫く学校は休みだ」

キャスター「あ……」

葛木「それでも後始末に追われるが」

葛木「私もお前に付き合う時間が少し出来そうだ」

キャスター「そ、それは……!?」

心臓が高鳴る

頬が紅潮する

まるで少女のようではないか

葛木「聖杯戦争。少し本腰を入れてかかろうと思う」

キャスター「……」

分かっていた

このマスターがそんな浮いた話を持ってくる可能性など、極めて低いことは

それでも、期待してしまった




――――いつか、二人で、何処かへ


――――できれば海へ行きたい。夕焼けの綺麗な海へ


――――黄金色に輝く海へ

凛「アーチャー、その情報、間違い無いわね?」

アーチャー「ああ、キャスターが潜伏している柳洞寺の山門にアサシンはいない」

アーチャー「倒されたか、それとも逃げたか」

アーチャー「後者はあり得んがな」

凛「……」

凛(アインツベルンという強力な敵がいたからこそ、迂闊にキャスター陣営に手を出せなかった)

凛(アサシンとキャスターとの連戦で消耗した所を狙われたらおしまいだから)

凛(だけど今なら……魔力を集めてるとは言え、アーチャーとセイバーの二人がかりなら)

凛「……士郎に連絡ね」

凛「今夜、キャスターを倒す」

アーチャー「あの小僧は使い物にならんのでは?」

凛「使い物にならないなら使い物にするまでよ」

凛「戦争中よ? 甘えは許さないわ。蹴っ飛ばしてでも目をさます」

凛「それにね、短い付き合いだけど、アイツは理屈で行動しない」

凛「自分の直感を信じて行動している……。キャスターの諸行を知ったらすぐにでも飛び出すわよ」

凛「ホント、単細胞なんだから」

アーチャー「……」

凛「アーチャー、アイツの事嫌いでしょ」

アーチャー「何故そう思う」

凛「見ればわかるわよ」

遠坂の提案通り、今夜、柳洞寺に攻め込む事になった

キャスターは町中の人たちから魔力を吸い上げてる。これ以上は見過ごせない

ただ……そう分かってはいても、俺は漠然としていた

かつてのような熱さが、体の芯から燃えるような熱さが沸かない

何かぽっかりと穴が空いて、そこから冷たい風が通っているみたいだった

セイバー「シロウ、今夜の戦いは……」

士郎「……大丈夫だ、戦える」

セイバーがいつになく心配といった声で話しかける

確かに今の俺は頼りなく見えるだろう

――だが、やるしかないんだ

今は、目の前の敵、キャスターに集中しろ

例えどんなに迷っていても、時間は過ぎていくばかり

前に歩き続けなければならないんだ






――――お前は、ロボットだ














暗い声が、また聞こえた気がした

――――始めにその男を見たとき、燃え上がるような何かを感じた

それからはもう夢中だった

ただ一緒にいるだけで幸福だった

今思えばなんと愚かだったのだろう

全てが仕組まれた、偽りの感情でしかなかったのに

その感情の暴走の果てに弟を、アプシュルトスを殺した

腹を痛めて産んだ子を殺した

父を捨て

国を捨て

そして、捨てられた

まるでゴミのように



あの男の筋肉質な腕に抱かれている時、嬌声をあげていたかと思うと今でも吐き気がする




男、そうだ、男は皆野蛮な獣

女という生き物をまるで道具のようにしか考えない最低の存在

例外など存在しない





例外など――――

葛木「キャスター」

キャスター「……!」

主に声をかけられ、意識が覚醒する

いつのまにか惚けていた

もう忘却の彼方に追いやったはずの記憶

忌まわしい悪夢

何故、いまさら――――

葛木「お前の言う通り、今夜が決戦の時になる」

葛木「陣地の形成は、任せる」

キャスター「……宗一郎様も、お気をつけて」

葛木 宗一郎

今までに会った事の無い不思議な男

寡黙にして冷静、まるで彫刻のように表情を変えない。

女に微塵の興味も示さない

自分の男に対する価値観を根底から否定したような男

遠い神話の時代の男たちはどれもどうしようもない放蕩家揃いで、誠実とはかけ離れていた気がする

あの生真面目と言われるオデュッセウスですら、妻ペネロペを持ちながらキルケの誘惑に乗ったのだ

だから、葛木 宗一郎という存在は非常に新鮮で、魅力的に見えるのだろう

――――お前が思っているほど、あやつは誠実でもなければ、ましてや人の情など持ち合わせてはおらんぞ

ふと、あの言葉が頭をよぎる

アサシンを始末したあの男の言葉

考えないようにしていた事を、無理矢理こじ開けられた気がした



――――あのマスターは、自分の事をどう考えているのだろうか




一度考えてしまったら、もう止まらない

疑惑が、疑心が心を満たす

自分が裏切りの魔女だと言うことを再認識させられる












――――宗一郎様、私は

――――貴方を信じても、いいのですか

キャスター「……宗一郎様」

キャスター「今さらですが、もう一度お聞きしたいのです」

キャスター「何故、私を助けたのです?」

キャスター「聖杯を求めぬ貴方が、何故?」

葛木「……」

葛木「何故、どうしてと、疑問が多すぎる」

葛木「世の中は辻褄の合うことばかりではない、と私は考えている」

葛木「ただ、お前に関して言える事は」

葛木「あるべき所にあるはずのモノを、還す必要がある」

葛木「お前を見てそう感じた」












――――今はお前の事だけが、私の目的であり、願いだ

凛「行くわよ、士郎」

士郎「ああ」



――




キャスター「マスター」

葛木「……時間か」





不器用な言葉だったが、妙に府に落ちた

優しさではない、何か心にズシンと響くこれは

まるで、厳しくも偉大な父のような安心感があった

キャスター(どのみち勝たなければ何も始まらない)

キャスター(今は宗一郎様をしんじるのみ)







キャスターは自分の悪い癖に最後まで気づかない

信じようと自分に言い聞かせるその姿は、人を心の何処かで信じられない証であることを

柳洞寺の中は魔力で充ち溢れていた

これ程の量を集めるのにどれだけ多くの人を苦しめたか

俺は拳を握りしめた



――ガチャガチャ

――ガチャン ガチャリ

遠くから妙な音が聞こえる

恐らく遠坂たちが戦った――――



竜牙兵たち『』ゴゴゴゴゴゴゴゴ








キャスター「ようこそ、私の工房へ」

キャスター「歓迎するわ……」

キャスター「盛大にね」

凛(マスターがいない……)

凛(キャスターを前に出して穴熊決め込んでる? いや……)

サーヴァント二体、それも対魔力の高いセイバーを有する自陣に対する前線のキャスター

明らかにおかしい

――――罠?

ヒュオッ

風を薙ぐ音が、一瞬聞こえた

セイバー「ぐ、あ」

セイバー「が……」

ミシリ

うめくセイバーの目の前に現れた、何処かで見た顔

その者の抜き手が、セイバーの胴にめり込む

士郎「セイバー!?」

葛木「まず一人」

だめ押しの一撃を叩き込もうと、そいつは腕を振り上げ――――

セイバー「――――ああああッ!」

ブオンッ

葛木「む」

セイバーの必死の抵抗をかわし、距離を取る男

つい最近まで学校に顔を出していたその者の名は

凛「葛木……!」


士郎「う、嘘だろ」

士郎「何で、あんたが、キャスターのマスターなんだ」

士郎「葛木……! どう言うことだ!」

葛木「衛宮か、聖杯戦争など薄暗いモノとは無縁そうなお前がいるとはな」

葛木「だが、参加してる以上、容赦はしない」

ブンッ

葛木の姿が消える

不意討ちとは言え、セイバーを殺しかけたその動きは――――

士郎(な、なんだコイツの動きは)

まるで掴めない

読めない

流水や雲の動きのように柔軟で

それでいてこの速さ……!

凛「アーチャー!」

バキッ

間一髪、心臓をえぐり出さんばかりの一撃をアーチャーによって救われる

アーチャー「ボサっとするな、小僧」

士郎「す、すまない、アーチャー」

アーチャーが隣に立つ

奇妙な組合せだった

何処か不機嫌そうなアーチャーが俺を睨みながらおれに吐きすてる

凛「セイバーのダメージは大きいわ」

凛「回復するまで、なんとか二人で協力して」

協力?

俺が?




もう一度アーチャーを見る

滅茶苦茶苛立ってる

……マジか

凛(予想外だった。まさかマスターが前線に立つなんて)

凛(……あの筋肉バカは例外として)

凛(不意討ちとは言えセイバーを倒すなんて)

凛(キャスターの強化、侮れない)

凛「……Ein KOrper ist ein KOrper―――!」

宝石を使用し、アーティファクトたちに攻撃する

一つ一つの動きは鈍く、強さもそれほどではないが、何しろ数が多い

長引けば不利になるのは明らかだった

凛「トパーズ一個でも安いもんよ……!」

ただ、あいつらを見てると

士 アチャ「ヌゥオオオオオオアアアアアア!」

バッゴーン

マジメにやってる自分が、何だかアホに見える

「「D・S・S・S(ダブル・スクリュースピンスライディング)!!!!」」

二重旋風が、葛木を抹殺せんばかりに襲いかかる

本来ならば健全なスポーツである野球で使われるこの技も、鍛えぬいた肉体を持つ者が二人合わさったとき、天を割り地を裂く殺人技と化す

葛木「…………」

対する葛木はなんと動揺すらしない

それどころか

葛木「衛宮、技に隙があるぞ」

葛木「フンッ」

ギュオオォオッ

士郎「! バ、バカな!?」

凛「葛木も飛んだーーーーーーー!?」







葛木「スクリュースピンスライディング!」

まさかのスクリュースピンスライディング同士の激突

葛木の放った必殺の一撃は、士郎の側に集中し……

士郎「グアアァアアアア!」

アーチャー「むぅう!」

ドギャアアアアア

凛「し、士郎たちが競り負けた!?」

スクリュースピンスライディング同士の激突とは、言うなればコマ同士の激突

ならば当然後から繰り出した方が有利になるのは明白

誰がなんと言おうと明白である

葛木「その上覇気のない者の方が威力が減衰する」

葛木「衛宮、迷いのある技では私は倒せん」

キャスター(素敵……)

凛「い、いくらキャスターの強化を受けてるとは言え、あんなトンデモ技を一発で真似するなんて……!」

凛(葛木 宗一郎、アイツは一体……!?)

アーチャー「やはり、空元気だったか」

アーチャー「衛宮 士郎、お前は下がってろ」

アーチャー「邪魔だ」

士郎「くっ」

悔しいがアーチャーの言う通りだった

魂の籠っていない技など、いくら放ってもたかが知れる

腑抜けた今の自分では巨岩を粉砕するのが精一杯だろう

キャスター「余所見してていいのかしら?」

スゥ

凛「!」

いつの間に背後に、いや! これは!

キャスター「Αερο」

凛「ぐ、うう!」

キャスター「あら、やるじゃない」

暗殺術の歩法!?

何でキャスターがこんな高等体術を!?

葛木「重心がブレてたのでな」

葛木「是正するついでに、手解きをした」

キャスター「おかげで背筋がピンとなりました」

コイツら予想以上にトンデモない……!

と言うか、何? 何でほとんどのマスターが揃いも揃ってフィジカルに偏ってんのよ

魔術合戦じゃなくて殴りあいの死闘になりがちなのは気のせいだろうか

セイバー「な……ならば、私とシロウ、そしてアーチャーの三人の力を合わせるのみ」フラフラ

凛「セイバー! もう大丈夫なの?」

セイバー「あれしきで殺られるほど柔ではありません」

セイバー「シロウ、足りない力は、足して補うまで」

セイバー「それが従者として、友としての役目ッ」クワ

士郎「セ、セイバー、まさか」

アーチャー「やる気か、あれを」











あれ? 私の知らない所で話が進んでる?







   



   「「「T・S・S・S(トリプル・スクリュースピンスライディング)!!!!!!」」」










凛「結局またそれかァーーーーーーーーーーー!!!!」

三重の暴風が完成した

もはや竜巻

トルネードである

キャスター「マスター、やりましょう」

葛木「ああ」






    「「M・S・S・S(マリッジ・スクリュースピンスライディング)!!!!」」












凛「お前らもやるんかァーーーーーーーーーーー!!!!」

空中で互いの必殺技が交差し、爆音と共に風が暴れ狂う

竜牙兵さえも巻き込んで辺りを粉砕する殺人技の中、凛は必死に巻き込まれないように逃げ続けた



     
ドワォオオオオオ!




ついに両者の間で爆発が起こる

士郎「ぐぁああっ!」

セイバー「し、シロウ」

弾き出されたのはやはり精彩の欠ける衛宮士郎

お気にのユニクロシャツが無残にも右肩から破れている

セイバー「何故……数の上では、こちらが有利のはず」

キャスター「所詮一夜漬けの結束ではその程度よ」

勝ち誇った声でキャスターが挑発する

キャスター「私とマスターの結束力があなたたちを上回った」

キャスター「ただそれだけのことよ」

セイバー「バカな……アーチャーはともかく、シロウと私の結束力がお前たちに劣ると?」

キャスター「お子さまねぇ、青い友情よりも優る結束がこの世にはあるのよ」

セイバー「何を……!」

キャスター「まぁ、教えてあげないけどね」

キャスター「お嬢、ちゃん!!」


ズガガガガガガガ!

キャスターの繰り出す魔弾が士郎に襲いかかる

セイバー「しまった!」

ザッ

葛木「邪魔はさせんぞ」

救出に向かうセイバーの前に立ち塞がる葛木

自分をKOするほどの体術の持ち主

さらに敵陣の効果で宝具は全力を発揮できない

まさに絶対絶命の――――











アーチャー「世話のかかる奴等だ」

ガギギギィイイイン!

両手に現れた双剣を振るい、魔弾を弾く

士郎「あ……」

アーチャー「力も及ばぬ、宝具も、魔力も」

アーチャー「ならば小手先で勝つしかあるまい」

アーチャー「……」スゥウウウウウウ

アーチャーが右手に持った剣を振り上げる










――――それは、投擲のポーズ











アーチャー「小僧、ありがたく思え」

士郎「あ、アーチャー?」

アーチャー「お前をより強くしてやる」





――――ロボットとしてな










アーチャー「1号」






            


            それは、破滅への切っ掛け












  ガッ


葛木「ぐ、む」

キャスター「マ、マスター!」

葛木の右腕には、いつのまにかアーチャーの剣が突き刺さっていた

一体いつ投げたのか

アーチャー「クランの猛犬の魔槍」

アーチャー「アレを見よう見まねで再現しようと苦心した結果が、これだ」

アーチャー「本来は心臓を狙ったのだが、よくぞ避けた」

キャスター「宗一郎様! 今治療を――――」







アーチャー「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」



  バゴンッ!



アーチャーの剣が爆発した

葛木の腕が肩から消失する

士郎はその一連の光景を呆然と見ていた

あの技は、あの投擲は







何処かで、見た気がする

凛「ナイスよ、アーチャー」ユラリ

士郎「遠坂! 無事だったん――――!?」

凛「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

凛の様子がおかしい

いつもの優雅さは何処かに吹っ飛び、まるで野獣のような殺気を放っている

ヒュオッ

遠坂の姿が、消えた




キャスター「かはっ」

メリッ

凛「嘗めないでよ、おばさん」



   崩    拳





ズンッ!

中国拳法の基本中の基本

中段突き

魔術により強化された鉄拳がキャスターの腹部を容赦なく襲う

  ッッダァアアアアアアン!

そのまま壁に勢いよく叩きつけられ、キャスターの意識を数瞬奪う











凛「あー、スッキリした」

アーチャー「フッ、ようやくらしくなってきたな」

アーチャー「形振り構わない、優雅さを捨てた遠坂凛とはまさに屈強の戦士」

アーチャー「ヘタに近づけば火傷ではすまんぞ」

アーチャーの視線の先には山と積まれた竜牙兵の残骸が

凛が全て叩き壊したらしい

凛「アーチャー」

凛「私たちの力、あいつらに見せつけるわよ」

アーチャー「了解した」

キャスター「く……この小娘……!?」

フォン

凛「遅いわよ」


    鉄 山 靠


ガカッ!




キャスター「ぐくっ」

バランスを崩す当て身をもろに受け、キャスターの体勢がぶれる


凛「寝てなさい」



ゴッ





遠坂式



    猛 虎 硬 爬 山









士郎「なんだ、あれ」ガタガタ

近代八極拳の最強の達人



『神槍』 李 書文



彼が生涯好んで使ったとされる掌と肘による連続攻撃



それを遠坂凛独自の研究の元に産み出された殺人技


アーチャー「人呼んで『マジカル八極拳』」

凛「変な名前をつけるなッ!」

凛「ホントなら、こんな肉弾戦って好みじゃないのよね」

凛「私にも魔術師としての誇りがあるから」

凛「でもね、貴方たちを見てなんか吹っ切れたわ」




――――戦争に形振り構ってる場合じゃないわよね





葛木「それがお前の強さか」

士郎「葛木……」

右腕を失い、爆発を受け満身創痍の葛木が立ち上がる

失った腕からは血が流れ落ちる

士郎「葛木、もう勝負は着いた。遠坂とアーチャーの勝ちだ」

士郎「降参してくれ、これ以上戦ったって無意味だ」

葛木「意味ならある」

葛木「少なくとも、衛宮mk、お前よりはな」

ミスった

mkってのは無しで

士郎「な、何を言ってるんだ?」

葛木「一度拳を交えれば、その者がどのような人間かは大体分かる」

葛木「衛宮、お前は今の私よりも空虚で、中身がない」

チラリと、葛木が一瞬アーチャーの方に目を向ける

何処か納得がいったという風な顔をしている

士郎「俺が空っぽ?」

士郎「俺が……」

葛木「キャスター、お前は逃げろ」

キャスター「マス、ター……!?」

凛の必殺技を受け、地に伏したキャスターに向けいい放つ

表情は全く変わらないが、キャスターからは何処か柔らかく見えた

葛木「元々私はお前のマスターでも何でもない」

葛木「今は逃げ、別の地で再起を図れ」

キャスター「できませんッ!」

キャスター「できない……そんなこと、私は……。宗一郎様……」

葛木「もう、私にはお前の願いを一緒に叶えてやれん」

葛木「だがな――――」

ギュオオォオ!

凛「何!?」

アーチャー「まだやる気か」

葛木を中心に恐るべき闘気がみなぎる

今までの冷徹さが嘘のような、燃え上がる闘志







葛木「お前を逃がす時間ぐらいは、稼げる」

キャスター「嫌です! 私はまだ戦えます!」

キャスター「どうか、どうか私も一緒に!」

こんな台詞を、似たような台詞を、遥か昔に言った気がする

あの時は罵倒と共に打ち捨てられた

心に深く切り入った絶望と言う名の亀裂

二度と治らないと感じた痛み

あれから、人という人を信じられなくなった



今は――――





葛木「メディア、私は死なない」





今は――――









葛木「私を信じろ」














今は、信じられる














キャスター「……いつか、話したあの場所で」

葛木「……」

キャスター「御武運を、宗一郎様」

キャスターの姿が、煙のように消えた

凛「葛木……」

葛木「おかしいか、遠坂」

葛木「だが、私が一番不思議に思っている」

士郎「何で、お前はそこまで」

葛木「何故……か」

何故なのか?

あの徹底的に冷酷で、人の生死に無頓着だった自分が

人を助ける、庇うような真似をしている

そして、今まさに死のうとしている

あえて言えば、これは組織に道具として育てられた自分が、任務達成の際に自害をしなかった時と同じ

人間らしい心

反骨心のかけらが残っていたからかもしれない

そして、彼女の存在が

葛木「……何故かな」

葛木「なんにせよ、私が私でなくなってしまったらしい……」

葛木「色々な事があったからな……」

葛木「あれから、色々な事が……」






――――おはようございます、宗一郎様

――――少し、台所を借りました

――――お口に合えばいいのですが

――――いってらっしゃいませ、宗一郎様







少し前なら、何も感じずに死ねただろうが、今は違う


今はまだ、死ねない










そうだろう、メディア

倒れそうな体に無理矢理力を入れる

すでに魔術による強化は解けた

万が一にも勝利はあり得ないだろう

アーチャー「来るぞ」

凛「………」

士郎「葛木……」

セイバー「シロウ、彼を侮るな」

セイバー「今の彼は、つい最近の貴方と同じだ」

葛木が炎に見える

静かに燃え上がる、青い炎

士郎「慎二」










何故か、亡き友の姿が重なった


 深山町

 海浜公園

もうすぐ夜が明ける

砂浜に座りながらキャスターはぼんやりと自身のマスターの安否を気にかけていた

波打つ時の音が、空しく響き渡る

キャスター「宗一郎、様」

どうして、こんなことになってしまったのか

昔の自分なら、マスターを見限って逃走するなど何も感じず行えたはずだ




――――何かが変わった

――――自分の心中で、何かが








――――行くところが無ければ、ここに居てもいい

――――その戦い、参加しようと思う

――――今は、お前の事が、私の願いだ

――――旨いな、この味噌汁





その原因になったあの人は

キャスター「――――!」


砂を踏む音



誰かが、近付いてくる

キャスター「あ……」

朝日がいよいよ登り、近付いてくる者の姿を露にする

その正体は







葛木「……」







キャスター「――――!!」

ダッ!

声もなく駆けた

その顔に涙を浮かべ

それでも哀しみのない、少女のような笑顔だった

キャスター「宗一郎様ッ!」




その胸に飛び込む

温かく、大きい

まるで父のような安心感があった



キャスター「宗一郎様……よく御無事で……」

葛木「元気だとも……」

葛木「顔色は、悪くないだろう?」

黄金の朝日が葛木の顔を照らす

その顔は今まで見たこともない生気に満ちていた

キャスター「はい……」

キャスター「朝日で……黄金色に輝いていますわ!」



二人の瞳が、交差する

そう言えば、今まで互いに顔を合わせたことなど、殆ど無かった

何も言わず、瞳を閉じ、その花のような唇を差し出す

葛木もまたそれに応じるように瞳を閉じて――――













二人の唇が、重ね合った

ほんの少しの時間が、まるで永遠に感じられた

キャスター、いや、コルキスの魔女と呼ばれたメディアは、今までにない、偽り無き本当の幸福に身を浸していた

葛木「いちど……こうしたかった……」

メディア「いちど? これからは永久に離れないのに!」

メディア「私、夢のように幸福……」

メディア「幸福よ!」

膝を付く葛木を精一杯抱き締める

もう、二度と離れない

永遠の幸福を噛み締めるかのように

葛木の瞳が、ゆっくりと閉じた

母に抱かれたこどものように、穏やかで、安らかな顔だった






朝日が、抱き合う二人を照らす






















         ――――これから、始まるのよ……

         ――――ようやく、私と彼の未来が……

         ――――す、素晴らしい明日が!

今日はここまで

Fateで一番好きなキャラクターが葛木先生

機械のようで、任務に反抗した反骨心がいい味だしてる

すまん……なんだか言葉が足らなかった

先生の結末が気になる方は『愛と誠』(全十六巻、梶原一騎原作)読んでね

小学校の頃にこれ読んでかなり凹んだから

セイバー「逃げられましたね……」

アーチャー「奴の執念のもたらした結果だ」

アーチャー「だが、あの深手ではもう」

士郎「……」

凛「士郎? どうしたのよ」

凛「なんだか怖い顔してるわよ」

士郎「! あ、いや、少しな」

士郎「……」

葛木 宗一郎

キャスターを使役し、町の人たちを苦しめた事は決して許されない

しかし、完全な悪人かと思えば、とてもそうは見えなかった

キャスターを守り、逃がそうとしたアイツは

誰よりも人間らしい輝きを放っていた気がする

そう、自分よりも

『お前は、今の私よりも空虚で、中身がない』

『意味ならある』

『少なくとも、衛宮、お前よりはな』

アーチャーに続き、葛木にまで自分を否定された

だが、それでも腹を立てないのは、薄々自分でも気づいているからじゃないのか?

















――――自分が、ただ正義を行うだけのロボットだということに








              パーティー編











          



            何がクリスマスじゃあい!!

               ――伴 宙太――


           





柳洞寺の決戦から数日が経った

結局、葛木とキャスターの行方はわからない

突然の失踪に焦る一成の声を電話越しに聞くたびに胸が傷んだ

当面の目的であるアインツベルンの決戦に備え、遠坂は一時家に戻った

調べものがあるらしい

そして、俺達は――――




 隣町



セイバー「あの、シロウ。私はこういう場所には来たことがなくてですね」

セイバー「う、浮いてませんか?」

士郎「大丈夫! 全然浮いてない!」ガツガツ

士郎「溶け込んでるから!」ムシャムシャ

士郎「ん、なんだセイバー? 食べないのか? ケーキ」

セイバー「ダメです! これは私のです!」モシャモシャ

士セ「「おかわり!」」

息抜きをかねての、隣町探索

俗に言うデートである

士郎「たまにはケーキもいいな」シーハー

セイバー「私は毎日でも構いません」シーハー

山と積まれた皿

お客『なんだあの二人組……』ドンビキ


 ラーメン○郎 冬木店


士郎「セイバー、前から思ってたけど箸使うの上手いな」ズルズル

セイバー「聖杯からの情報による賜物です」ズズズ

士セ「「おかわり!」」

士郎「ふー、食った食った」シーハー

セイバー「現代の食べ物屋は面白いですね」シーハー

山と積まれたどんぶり

店主(なんだこの二人組)ドンビキ










セイバー「シロウ、次は何処へ?」つクレープ

士郎「雑貨屋」つクレープ








士郎「冬はやっぱりこれだな」タイヤキガツガツ

セイバー「……」アタマト シッポ ナヤム


 バッティングセンター

セイバー「ふんッ」

ブオオンッ

ガッキィイイイイン!

ス,スゲェ

160キロヲカンタンニ

ナニモンダアノジョウチャン

士郎「あれも聖杯からの情報かな?」

士郎「……」

デート、か。

そう言えば、女の子とデートなんて初めてだな

毎日毎日修行、訓練、特訓で、友達と遊ぶことも少なかったし

藤ねぇの薦めで弓道部に入ってなかったら、ずっと一人だったろうな

桜とも知り合えたし、生徒会にも顔出すようになって……

 





           ロボットに友達はいらない







――――違う、俺は機械なんかじゃない

セイバー「さあ、次はシロウの番です」

士郎「あ、ああ」

シュバッッ

ブォンッ

スカッ

士郎「あれ」

セイバー「さすがに160キロは速すぎましたかね」

士郎「……」







120キロ

スカッ

士郎「くっ!」

セイバー「し、シロウ?」

おかしい

いくらなんでも、一発も当たらないなんて

まさか……



士郎「スランプかよ……」


 公園

ベンチに座りながら、サンドイッチを食べる

しかし、自分で作っておきながら、なんだか味がわからなかった

セイバー「……」モシャモシャ

士郎「……」モシャモシャ

セイバー「シロウ、家に帰りましょう」

士郎「……」

セイバー「道場で訓練するべきです」

セイバー「やはり、ここ最近の貴方は精彩に欠ける」

訓練

修行

特訓

頭を駆け巡る単語

まるで、お前にはそれしかないとでも言いたいのか

違う、違うはずだ

もっとこう、人間らしいというか

普通の学生らしい生活を送ってもいいはずなんだ

いいじゃないか今日一日だけでも

俺だって、人間なんだから

セイバー「シロウ?」

士郎「……決めた」









士郎「セイバー、今夜はは皆でパーッとやろう」










セイバー「シロウ!?」

士郎「遠坂も呼んでさ、ああ、せっかくだから桜や一成も呼ぼうか」

セイバー「シロウ、正気ですか!?」

士郎「藤ねぇは……入院中だったか」

士郎「今日は鍋でもつついてゆっくりと――――」

セイバー「シロウッッ!」

士郎「なんだよ、セイバー」

セイバー「士郎、聖杯戦争は夜に行われるのですよ」

セイバー「日中だからこそ息抜きができたのです。夜に皆を家に集めるなど危険です!」

士郎「心配性だな、セイバーは」

セイバー「心配するのも当然です!」

セイバー「やはり、ここ最近の貴方はおかしい!」

セイバー「最初に会った時の燃えるような闘志が、全く感じられない」

 例のBGM

セイバー「いいですか、士郎。友を手にかけてしまった貴方の気持ちはよくわかります」

セイバー「その傷を癒すには時間がかかる事も……」

セイバー「安穏を求めたいのはわかりますが、今は戦争中です」

セイバー「どうか、それを自覚してください」

士郎「……」

セイバー「今の貴方は、どこか焦って、道を踏み外しているような気がます」

士郎「黙れ、セイバー」

セイバー「……いいえ、黙りません」

セイバー「戦場に立ったときの、相手を焼きつくさんばかりの闘志は、一体何処に行ったのですか!」

士郎「黙れ、セイバー……!」

セイバー「正義の味方を目指し、サイボーグ・エミヤと称された、あの衛宮士郎は何処に行ったのですか!」




サイボーグ

機械

ロボット








士郎「黙れセイバー!!」








セイバーと俺の目が空中で火花を散らす

初めてセイバー対し、苛立ちと怒りを覚えた

だが、俺は認める訳にはいかなかった

自分が、機械

ロボットであることを

セイバー「く……」ワナワナ






          セイバー「何が鍋パーティーだ!!!」

セイバー「ちくしょおおおおおおおおお!!」

セイバーが駆け出す

その顔にはうっすらと涙が見えた

士郎「……そろそろ、帰ろう」

士郎「準備しなくちゃな」


 その日の晩

アーチャー「マスター、今夜は衛宮士郎からパーティーの誘いがあったんじゃないか」

アーチャー「いいのか? 行かなくても」

凛「いつアインツベルンと戦ってもおかしくないのに、そんなことする暇あるわけないでしょ」

凛「アイツ、とうとう頭がおかしくなったのかしら」

アーチャー「ふ、かもしれんな」

アーチャー「衛宮士郎などやめとけやめとけ」

凛「……あんた、今スゴくいい顔してるわよ」


 間桐邸

桜「先輩、お誘いは嬉しいんですが……」つ電話

桜「その、兄さんのことで」

桜「はい……ごめんなさい。せっかく誘ってくえたのに」

桜「では……先輩、おやすみなさい」

ガチャン

桜「先輩……どうしちゃったんですか」


 柳洞寺

一成「衛宮、急にどうしたんだ」つ電話

一成「学校の件で休みとは言え、少し浮かれているんじゃないか?」

一成「それに、今は家も葛木先生の件で忙しいんだ」

一成「パーティーは一件落着してからでも遅くはないだろう」

一成「それじゃぁな、体に気をつけろよ」

ガチャン


 午後八時

 衛宮邸

士郎「……」パーティー帽

士郎「……」

結局

結局、誰一人

士郎「来なかったって訳か……!」ブルブル

アーチャー?『フフフ、そう、誰も来ない』

アーチャー?『何故だかわかるか?』

アーチャー?『それは皆お前の事を柄にもない奴と見たからさ』

士郎「!」

アーチャー?『あれだけ張り切ってパーティーの準備をしても、誰も来ない』

アーチャー?『お前の事をロボットと理解してるからさ』

アーチャー?『なんならどうだ? ロボット同士で、私とやらんか?』

士郎「う、うるさい! 黙れ!」

アーチャー?『ロボットと同士のパーティーに乾杯だ!』

士郎「うるさいぃいいいい!」

誰もが皆、俺をロボットとして見てるのか?

違う

違う!

違う!!

俺は人間だ!!!

ロボットなんかじゃない!!!!

お前と一緒になんかするな!!!!!

士郎「ちくしょおおおおおおおおお!!」

ガッ!

怒りと悔しさのあまり、鍋に手をかけ俺は――――

 



        



         ピンポーン










  




      大河「士郎ーッ!」


      大河「ごはん食べに来たよーッ!」






士郎「!!!?」

士郎「ふじ、ねぇ?」

大河「あれ、どしたの士郎?」

大河「こんなに多いんじゃ一人で食べきれないよ?」

士郎「ふ、藤ねぇは入院中じゃ」

大河「病院のごはんじゃ満足できるわけないでしょ」

大河「だって」










       ――――士郎のごはん、お姉ちゃん大好きだもの









士郎「藤ねぇええええええええええ!!」

ガバッ

大河「きゃあっ!」

大河「ど、どーしたのよぅ急に」

大河「って士郎?」

士郎「うっ……うっ……」

大河「泣いてるの? 士郎」

士郎「だってっ、俺、ずっと一人なんだと思って!」

士郎「皆俺の事を、機械か何かみたいに思ってるんじゃないかって!」

大河「……」

大河「バカねぇ、士郎」

大河「士郎は、こんなにあったかいじゃない」

大河「お姉ちゃんは知ってるよ?」

大河「士郎が機械なんかじゃないってね」

士郎「藤ねぇ……」

大河「私は、士郎の味方だよ」

藤ねぇと俺の目が合った

もう、記憶にない母の姿

それを彷彿させる、優しさがあった

大河「士郎、泣きたかったらいつでも泣きなさい」

大河「お姉ちゃんがいつだって――――」

バッ

大河「――――っん」

藤ねぇの言葉を遮るように、その唇を奪った

いとおしい

なんていとおしいんだろう

こんな素敵な人が近くにいたのに、俺は

俺はバカだ――――

士郎「藤ねぇ」

大河「なぁに、士郎?」

士郎「俺、藤ねぇを抱きたい」

大河「…………」








大河「おいで、士郎」












衛宮邸に二つの影が浮かんでいる

やがて影はゆっくりと重なり、

大きな一つの影になる

そのまま影は倒れこみ、

炎のように、激しく、うねり始めた


 物陰







               桜「せん、ぱい」









以上


これは餞別だ つ壁


士郎君はね、モテるんだよ?

僕たちとは違うのよ?

数分前

 衛宮邸

桜「やっぱり、来ちゃいました……」

桜「お爺様も最近は家を空けてるし……大丈夫ですよね?」

桜「先輩、やっぱり兄さんの件のショックで……」

桜「こ、ここは後輩として、先輩を元気づけるのが一番!」

桜「それに、もしかしたら……」

士郎(イケメン度30%増し)『ありがとう、桜。やっぱりお前がいないとダメだよ』

桜「キャー! キャー!」

桜「よ、よーし、桜、がんばります」

桜「ってあれ?」

桜「鍵が開いてる?」

桜「先輩のギプス……」

桜「いつも大事に持ってたのに、何で玄関に放って」





――っ あ ろう!

――  ねぇ!






桜「……?」



――――ふ、藤ねぇ! 俺、また……!

――――士郎……! もっと、もっと抱きしめてぇ!










桜「」

目の前の二人から目が離せない

間桐 桜にとっての日常の象徴である二人

衛宮 士郎 

藤村 大河

端から見ればまるで姉弟のような二人が今

炎のように激しく絡み合っている

大河の無駄のない肢体

それに覆い被さる士郎の鋼のような肉体

圧倒的だった

性交に関して良くない思いを持つ自分の目から見ても、徹底的に純粋な光景に見えた

桜(嘘……)

士郎が打ち付ける大河の臀部から伝わる赤色の血が鮮明に映る

桜(先生……はじめてなんだ)

私のはじめては














うらやましい

うらやましい

うらやましい

衛宮士郎に愛されるあの人がうらやましい

あの逞しい腕に抱かれるあの人がうらやましい













――――憎い

桜「――――っ」

今 私は 何を

桜「~~~!」

耐えきれず、その場を後に逃げるように駆け出した

惨めだった

一瞬でも嫉妬に駆られた自分が

その手には想い人のギプスが握られていた

――――桜、おはよう。いつもメシ作ってくれて悪いな!

――――おはよー 桜ちゃん! もう先生おなかすいちゃったよぅ



壊れて行く


自分を取り巻く日常が



――――また腕をあげたんじゃないか?

――――すっごーい! 桜ちゃんどんどん本格的になってきたわねぇ!



大切な毎日が


幸せな毎日が







もう、戻れない




私はお邪魔虫















桜「うっ、うああ」


桜「あああああ」

家に着くなりベッドに倒れるようにとびこんだ

うつ伏せの状態で咽び泣き、枕を濡らす

自分を選んでくれないのは、仕方ないと思っていた

自分は汚れているから

先輩に相応しくないから

だから、姉やセイバーを選ぶならまだ理解できた

だけど、こんなのあんまりではないか

何故、よりによって、藤村大河なのか

これからどんな顔をしてあの二人に会えばいいのか

桜「先輩……」

もう、あの家には行けない

手にしたギプスは重く、冷たかった

しかし、確かにあの衛宮士郎のぬくもりを感じた

桜「先輩……」

自分の側に、彼がいる気がする

無意識のうちに、左手がその豊かな胸に

右手が秘所に伸びる

桜「先輩、先輩」

ギプスを抱き締めながら、自分を慰める

愚かな行為

ただの自己満足

それでも、やめられない

衛宮士郎に愛される藤村大河の姿を自分にすり替える









――――もっと

――――もっと抱き締めて

――――私を愛して

桜「っあ、あ」

達しても満足感が得られない

当然だ、今ごろ当人たちはこれの何倍もの幸福を感じているのだから

足りない

足りない

足りない

もっと

もっと

もっとほしい

ギプスの留め金に手が延び、バネを緩める

そして、それを纏い

バチン!

完全に身につけた

桜「あああああ」

ギ、ギギ、ギギギギ

苦しい

全身が張り裂けそうだ

なのに気持ちいい

先輩の腕に抱かれていると錯覚する

桜「せん、ぱい」

桜「すき、ぃ……」

今までの行為の中で最大の快楽が桜を襲う

既に頬は上気し、胸の先端は隆起し、下腹部はびしょ濡れだった

桜「あ……あ……!」

やがて大きな波が来る

今までで一番大きな波が

桜「あ」





そして








ついに






 


                ピシッ















               

――――破滅の、音







桜「あ」











桜「あああああ」







本来、魔術回路に大きな負担をかける大魔術師養正ギプス



天性の才能を持つ桜の体には、余りにも――――








桜「ああああああああああああ!」







泥が、溢れた

以上

桜ちゃんは藤ねぇの次に好きです


 明朝

セイバー「くくっ……シロウの分からず屋め……」フラフラ

セイバー「私はあくまでシロウの為を思って言ったのに」フラフラ

ぐ~きゅるるるる~

セイバー「お、お腹が空いて力がでない」フラフラ



――――今夜は鍋でもつついて――――




セイバー「……はっ」

セイバー「わ、私は! なんて事を!」

――――今一瞬、鍋パに出てりゃ良かったと

セイバー「な、何が鍋パーティーだ!」きゅるるるる

セイバー「それもこれも士郎が腑抜けてたから!」ぐ~ぎゅるる

セイバー「……」きゅるる

セイバー「……余りがあるかもしれない」キリ

セイバー「朝食はおじやですね!」


 衛宮邸

士郎「…………」ムクリ

士郎「…………」チラリ

大河「くー、くー」スヤァ

士郎「……本当に、やっちゃったんだな」




――――昨晩、藤ねぇを抱いた






士郎「ふぅ」

士郎「……俺は、何を焦ってたんだろう」

士郎「自分の近くの大切な人も見えてなかったのに」

――――慎二を手にかけてから、自分の生き方に疑念を抱いていた

――――自分の存在意義が戦う事だけなのかと

士郎(でも、違った。俺の事を誰よりも見ていて、愛してくれる人が、近くにいたんだ)

俺の青春は青春と呼ぶには余りにも暗いモノだと思っていたが、大きな勘違いだったらしい

士郎「俺の青春は藤ねぇだったんだ」


――――もう、迷う事はない

これ以上の幸福はない!


士郎「青春なんかもういらん!」

士郎「青春よ、終われ!」

セイバー「終わるのはまだ早いです!」バン

士郎「ファアアアッ!?」

セイバー「私を差し置いてごちそうなど、断じて許しません!」

士郎「セ、セイバー!?」

セイバー「昨日一食抜いただけでもう死にそうです」

セイバー「シロウ! 早く朝食の用意を」

士郎「セイバー! どこから入って来たんだ!?」

セイバー「鍵が開いてましたよ」

セイバー「無用心にも程があります」

士郎「あー、そいや閉め忘れてたっけか」

セイバー「……」ジッ

士郎「ん? なんだセイバー」

セイバー「いえ、何も」

士郎「?」

セイバー(男子三日逢わざれば刮目して見よといいますが)

セイバー(いい顔になりましたね、士郎)


――――どうやら吹っ切れたようです

大河「ん~、おはよー。セイバーちゃん」

セイバー「おはようございます、タイガ……!?」

士郎「あ……!」

大河「ん?」


セイバーの目に映るのは服を乱して着た大河

ほぼ半裸の状態で女の子座りをしている

セイバー「シロウ」

士郎「はい!?」

セイバー「昨晩、ナニをしていたのですか?」


士郎「あの、それは、その」

セイバー「私が空腹で苦しんでる時に貴方は……」

大河「セイバーちゃん」

大河「あまり士郎をいじめちゃダメだよぅ?」

セイバー「タイガ……」

セイバー「……わかりました」

セイバー「シロウ、話は道場でまた」

士郎「あ、ああ」

何かを察したのか、セイバーはその場を後にした

士郎「藤ねぇ……」

大河「おはよう♪ 士郎♪」

士郎「藤ねぇ、その、昨日は」

大河「んっ」

士郎「――――っん」

続きを言わせない勢いで唇を塞がれた

そのまま舌を絡まれ、淫らな音が響き渡る

大河「――――っはぁ!」

士郎「っ藤ねぇ……」

唾液による銀色の橋が二人を繋ぐ

否が応でも理解した

もう姉弟じゃない

男と女なんだと









大河「士郎、ごはんにしよっか♪」

士郎「…………」









士郎「うん」






俺は、この人を愛している

士郎「」ガツガツ

セイバー「」モシャモシャ

大河「」ムシャムシャ

衛宮家の食卓にしては珍しく静かである

しかし、その本質は大食いが三人集まった結果の沈黙

食事は美味しければ美味しいほど静かになるのだ

大河「おかわり!」

士郎「はい、藤ねぇ」

馴れた手つきでごはんをよそる

その自然な動作は熟年の主夫を連想させた

士郎「セイバー、メシが終わったらでいい」

士郎「ちょっと相手してくれないか?」

大河「む、士郎? また危ない訓練やるんじゃないでしょうね」

士郎「大丈夫さ、今回は少し違うんだ」

士郎「ちょっと、キャッチボールするだけだよ」

セイバー「?」


 中庭

セイバー「士郎、これは一体どういった訓練なのですか?」

士郎「その前に、セイバー、昨日は悪かったな」

士郎「いや、昨日だけじゃない」

士郎「ここ最近はずっと心配ばかりかけちまった」

士郎「例えどんな心境でも、一つの目標に進むならやるだけの事はやらなきゃいけなかったんだ」

セイバー「士郎……!」

士郎「俺とお前は一心同体、一つの目標に突き進む同士だ」

士郎「もう甘えは言わない。公と私は分ける。そしてこの戦争を勝ち抜く!」

士郎「今一度俺と一緒に戦ってくれるかセイバー!」

セイバー「シロウ! その言葉を聞きたかった!」

セイバー「それでこそ私が見込んだ男だ!」

士郎「セイバー……!」

セイバー「士郎……!」

結束を新たに闘志を燃やす

不死鳥は、再び甦った

士郎「ならば、今は黙ってこのボールを受けてくれないか!」

士郎「今、俺の中で何かが変わろうとしている!」

士郎「これはそのための訓練だ!」

セイバー「よし、来なさい士郎!」

セイバーがバットを構える

イメージするのは先日のキャスター戦でのアーチャー

葛木の右腕を破壊した、あの不自然な軌道の投擲!

士郎(あれを見た瞬間、何故か腑に落ちた)

士郎(出来ないというイメージが全く沸いてこなかった)

集中、兎に角集中しろ

針の穴を通す集中力は、修行で鍛えられている

後はそれを実現するのみ!

士郎「名付けて大魔術ボール1号!」

運命の一球 投げる!





















凛「何やってんのあのバカたちは」

衛宮士郎の尋常ではない筋力から繰り出される投擲

それにプラスされる絶妙なコントロールと集中力

更にギプスで鍛えられた鋼のような魔術回路

四つの要素が混じりあい、奇跡を起こす

ッカーン!

セイバー「……!」

凛「嘘……」










アーチャー「……」

ニヤリ

士郎「で、できた……!?」

自分でも驚くほどあっさり出来た

左腕から繰り出されたボールは正しくセイバーのバットの先端に直撃したのだ

精巧なコントロール等という話ではない

明らかにおかしい

実現不可能な投擲

凛「まぐれ当たりにしては不自然ね……」

士郎「遠坂、来てたのか?」

凛「一応同盟組んでるよしみ、現状報告よ」

士郎「何かわかったのか?」

凛「深山町にある閉ざされた森」

凛「通称アインツベルンの森」

凛「仕掛けるなら今がチャンスよ」

バーサーカーを擁する最強のマスター

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

圧倒的身体能力と魔力を併せ持つ奇跡の存在

そして、士郎のきょうだい

衛宮 切嗣の実の娘

士郎「いよいよか……」

セイバー「シロウ、貴方にとっては因縁の相手ですね」

凛「最近の貴方はどうもへんだったけど」

凛「どうやら立ち直ったみたいね」

士郎「ああ、俺はもう平気だ」

士郎「悪いな、遠坂にまで心配かけちまった」

凛「分かればいいのよ」

凛「それにしても、何? 朝っぱらから野球?」

凛「セイバーまでノリノリじゃない」

セイバー「リン、これは遊びではなくあくまで訓練です」

セイバー「あなたも見たでしょう。あの恐るべき変化球を」

凛「確かに、前回柳洞寺でアーチャーが見せた変な投擲に似てたけど

凛「士郎、貴方なんだってアーチャーのまねなんか――――」










大河「士郎」







大河「あんた、どこでそれを覚えたの?」

士郎「ふ、藤ねぇ?」

いつのまにか藤ねぇが俺たちの訓練を見ていた

もうとっくに帰ったモノだと思ってたのに

その顔は見たこともないくらいに真っ青になっていた

まるで、信じられないものでも見たかのように

大河「言いなさい! どこでそれを覚えたのよ!」

セイバー「タイガ、落ち着いて下さい。これは決して危険な特訓では」

大河「あんたは黙ってて」

セイバー「……!」

静かに、そして恐るべき迫力で言い放たれた

セイバーを見つめるその顔は能面のように無機質で、しかし確かな意思が感じられた




――――邪魔をするな




大河「帰って」

士郎「え」

大河「セイバーちゃんも、遠坂さんも、今すぐこの家から出てって」

士郎「ふ、藤ねぇ!? 何言ってんだいきなり!」

大河「いいから出てってよ!」

凛「……」

普段の底抜けの明るさが微塵も感じられない、悲痛な叫びだった

一体、何が彼女をそこまで駆り立てるのか

セイバー「……わかりました」

士郎「セイバー!?」

セイバー「今のタイガには、どんな言葉も通じないでしょう」

セイバー「ですが、これだけは分かってもらいたい」

セイバー「私は、シロウを守るためにこの家に来たという事を」

凛「私もお邪魔したわね」

凛「士郎、さっき言ったことはよく頭に覚えておいてね」










それだけを言い残し、二人は衛宮邸を後にした

士郎「……」

大河「……」

すっかり静まり返った衛宮邸に、気まずい空気が流れる

士郎「なぁ、藤ねぇ」

大河「……」

士郎「どうしちまったんだよ、急に――――――」






ガバッ









士郎「あ……」



いきなり抱きつかれた



その体は、怯えたこどものように震えていた



士郎「んぐ……」



そして縋るように、その唇同士が重なり合った

大河「ん……んぅ」

水音がやけに鮮明に聞こえる

体がどんどん熱くなる

士郎(……っ)

俺って奴は

昨日あれだけしたのに、もう

士郎「っは、はぁ、はぁ」

士郎「藤ねぇ、まだ、朝だよ」

ダメだ

いくらなんでも自堕落過ぎる

そう頭で理解していても、体が動かない

まるで甘い痺れに全身が麻痺してしまったみたいだ

大河「士郎……」

口づけを終えた大河が迫る

普段の子供っぽさは微塵もない

底無しの色気

情愛の炎を帯びた瞳





――――飲み込まれる










士郎「うぁ……」

いつの間にか、大河の右手が士郎の股座に触れていた

撫でるように、そしていとおしむように

厚い胸板にしなだれかかり、その体を士郎に預ける

そのまま耳元でこれまた扇情的に囁いた







大河「ねぇ」

大河「…………しよ?」













抗う理由なんか、無かった

凛「見事に二人とも追い出されたわねー」

セイバー「……」

凛「ねぇ、セイバーは気付いた?」

セイバー「何がです?」

凛「藤村先生の、士郎を見る目」

セイバー「……」

凛「教師と生徒、か。まさか身近な人間でやられるとはね」

セイバー「あの二人は、どうなると思いますか」

凛「士郎はともかく、先生のあの様子じゃもうメロメロね」

セイバー「…………」

違う

タイガから感じたモノは、そんな優しいモノではない

姉弟の愛 恋人の愛

親子の愛 

それらが全て混じりあったかのような、濁ったモノを感じる

タイガはシロウを無償で愛し、そして愛されるだろう

まるで今までの時間を取り戻すかのように

凛「ほんとはね」

凛「少し……羨ましいかなって、思ってた」

セイバー「羨ましい?」

凛「意外? だけどね、生きてる内は、一回ぐらいはそういう恋愛もしてみたいって思うモノよ」










――――身も心も燃やし尽くすような、熱い恋愛をね

大河「士郎! 士郎……! あぁっ!」

士郎「うぅっ……あ……!」

畳に敷いた布団の中で、お互い生まれたままの姿になった二人の男女が愛し合っている

決壊したダムのように激しく、止まらない

理性が吹き飛んだ獣のように互いを貪る

大河「もっと……! もっと乱暴にして!」

大河「私を士郎だけのモノにしてぇ!」

士郎「ううぁ……!」

大河「あぁあああ……!」

大河の哀願に答えるように力強く激しく犯す

もう何度達しただろうか、わからない

抱けば抱くほど、犯せば犯すほど大河は燃え上がり、士郎に凄まじい快楽を与える

その凄まじさに士郎は圧倒されっぱなしだった

しかし、生命力に満ち溢れた若者に底など無い

ただ目の前の女を犯す獣になり、士郎は大河を求め続けた

士郎「……っ! ……っ!」

大河「あ……!」

もう何度目かすら分からない昂りを大河の中に放出する

大河のよく鍛えられたしなやかな両足が士郎の腰に巻きつく

両腕が背に回され、立った爪が皮膚に食い込む

士郎も負けじと大河を精一杯抱きしめる

そのまま一つになってしまうのではないだろうか

互いに口づけを交わしたまま二人は多幸感に身を任せた










――――私、士郎の赤ちゃんが欲しい










--
--



士郎「なぁ、藤ねぇ」

大河「うん?」

士郎「俺、藤ねぇとこんな関係になるなんて、夢にも思ってなかったんだ」

大河「それは私もおなじだよ」

大河「士郎はいつまでも可愛い弟で、私は後ろで士郎を見守ってるお姉ちゃん」

大河「いつか、士郎がちゃんと独り立ちするまでそうするつもりだったけど」

大河「当の士郎から告白されちゃ、お姉ちゃん我慢できないよ」

大河「それ位嬉しかった」

大河「桜ちゃんや遠坂さんでもない、私を選んでくれたことが」

士郎「ごめんな、藤ねぇ」

士郎「今まで散々心配かけまくってきた俺を受け入れてくれて」

士郎「今はちょっとゴタゴタしてて時間が作れないけど」

そこまで言って言葉に詰まる

言うべきか、言わざるべきか

士郎「・・・よし」

顔を真っ赤にして、決心を固めた

士郎「もし、一息ついたら、俺と――――」

大河「ストップ」

士郎「むぐ」

掌が士郎の口を押さえる

大河「そういう大事なセリフは、全部終わってから言いなさい!」

士郎「ご、ごめん」

大河「……ホントはね、士郎がなにか危ない事に巻き込まれてるって、薄々気づいてたの」

士郎「藤ねぇ・・・」

大河「切嗣さんの子だもの、いつかはって、分かってたけど」

大河「士郎が、死んじゃうんじゃないかって考えたら、もう止まらなくて」

大河「セイバーちゃんや遠坂さんにも酷い事言っちゃった」

士郎「そうだ・・・忘れてたけど、藤ねぇはなんであんなに取り乱したんだ?」

士郎「あの大魔術ボール1号を見たときの藤ねぇ、普通じゃなかった」

大河「……」

大河「士郎には、ずっと黙ってるつもりだったけど、ばれちゃったか」

大河「士郎、あの技はね」















大河「昔、切嗣さんに見せてもらったのよ」



















士郎「……え?」

士郎「じいさんが? あの技を?」

大河「切嗣さんが亡くなる少し前に、中庭でボールを投げてるのを偶然見かけたの」








どれもみんなおかしな雰囲気を放つ、三種のボールを








士郎「三種の、ボール」

大河「私に気づいた切嗣さんはひどく慌ててた」

大河「今思うと、私が近づいてるのに気がつかなかった時点で、体はもうぼろぼろだったのかもしれない」

大河「だから無念そうに言ってた」

大河「士郎にこれを授けられないのが悔しいって」





――――じいさんが、俺に授けたかった?

――――この技を?





大河「イヤな予感がしたの」

大河「あの技を全て士郎が覚えたとき、何か悪いことが起きるんじゃないかって」

大河「だから今朝セイバーちゃんとの特訓を覗いたときは、背筋が凍ったわよ」




藤ねぇの言葉を聴きつつ、俺はある疑問を抱いた

なぜ、アーチャーが、この技を知っていたのか

じいさんが伝えようとしていた、三種のうちの一つを

大河「切嗣さんと最後の口げんかをしたのもあの日」

大河「けっきょく、喧嘩別れしたまま切嗣さんは亡くなった」

大河「その時、心の底から後悔したの。なんで仲直りできなかったのかって」

大河「知ってた? 私の初恋の人って切嗣さんだったんだよ」

大河「不器用で世渡りの下手なひとだったけど、士郎に対する想いは本物だった」

大河「そんな所に惹かれてたのかもね」

士郎「……」

大河「だからね、士郎」

大河「士郎は、死なないでね?」

大河「どんなに無茶をしても、お姉ちゃんできるだけがまんする」

大河「だから、命だけは粗末にしないで」

士郎「・・・わかった」

士郎「約束するよ、藤ねぇ」

大河「破ったら怒るわよ?」

士郎「ああ」

士郎「藤ねぇも、セイバーたちと仲直りしてくれよ」

大河「えー、どうしよっかなあ」

大河「あんな若くて可愛い子達がいたら、士郎浮気しちゃうんじゃなあい?」

士郎「す、するわけないだろ」

士郎「俺はもう藤ねぇひとすじ――――」







チュッ









士郎「・・・ん」

大河「ありがとね、士郎」


















――――大好き







                 もう青春なんかいらん 終われ!!


                    ――星 飛雄馬――




以上でパーティー編は終了

正直難産だった・・・

恋愛ってむずかしい

特に巨人の星の恋愛は命懸けで非常に重い

でも士郎くんは一応エロゲ主人公というわけで、童貞だけは無事卒業できました

残念だったな(ゲス顔

梶原主人公だとこうは行かないのだ

女よりも自分の道

行くが男のド根性

そんなわけでやっと中盤も終わり、あとは一気に終わりまで行きたいのだが

修羅場編・・・どうしよっかなぁ

よるのまちはいろんなひとがあるいてます

しごとがえりのおとうさん

がっこうがえりにあそぶがくせいたち

つめたいかぜにあたりながら、みんなからだをかがめてます

そのなかでもめをひくのは、なかよくてをつなぐおとこのひと、おんなのひと

とてもしあわせそうです

とてもあたたかそうです

とても――――
















――――気に入りません



















――――死んでください

「随分と派手に喰い散らかしたのぅ」

「それもまた若さのなせる業か?」

「カッカッカ」



――――だって、何もしてなくてもおなかがすくんですよ


――――だったら、できるだけおいしそうなのを食べたいじゃないですか


――――先輩だって、そう言ってます


「衛宮の小倅? 何処に居るんじゃ?」


――――あれ、お爺様には見えませんか?


――――先輩は、ほら、ずっと私を抱き締めてくれてるじゃないですか


――――ほら、今も





ぎぎがガガガギギギがぎごぎ

ギギギゴギギぎガガががぎぎぎ

giがggiっがぎぎぎぎぎっががっっガガがgi

――――ああ、待っててください


――――もうすぐ、二人であの人たちも食べましょうね


――――姉さんと、セイバーさん。美味しそうだなぁ


――――え?



――――あの人はダメです



――――あの人は食べません



――――なぜだかわからないけど、すごくいやな気分になるんです



――――あの人だけは、滅茶苦茶にしてやります



――――身体中を汚して、壊して、苦しめて



――――犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して














――――ばらばらにして、捨ててやります










                修羅場編


















       
       金が名誉が女が追っかけてくるような男になれ。

              ――大山倍達――








結局、藤ねぇとセイバーたちは、藤ねぇが先に謝る形で仲直りした

いつもの笑顔の藤ねぇに戻って二人とも安心してた

ただ、家にいるときに限っては、藤ねぇは俺に必用以上に接近する事が多くなった

今もセイバーと遠坂が目の前にいるってのに――――

大河「はーい、士郎。あ~ん♪」つお箸おかず

士郎「ふ、藤ねぇ、さすがに恥ずかしいって……」

セイバー「……」

凛(うわぁ)

二人の引いた視線が痛い

大河「未来のお嫁さんに対して冷たーい!」

大河「昨日も一昨日もあんなにいっぱいあいしあっt」

士郎「わーっ! わーっ!」

凛「不潔」

セイバー「節操なし」

なんつー言いがかりを!

これでも真剣なんだぞ俺は!

士郎「それにしてもなんか久々にワイワイやってる気がする」

士郎「藤ねぇと桜と俺の三人でメシ食べてた時が懐かしいな」

凛「……桜、か」

士郎「ん? どうした遠坂」

凛「なんでもないわ」

大河「桜ちゃん最近来ないからねぇ」

大河「私も桜ちゃんのごはんが食べたいなぁ」

そうだ、早く聖杯戦争を終わらせて、桜を家に呼ぼう

俺と藤ねぇの関係を喋ったら、きっと驚くだろうな

その為にも

士郎(イリヤ……全力で君を倒す)








決戦の日は、目前


 アインツベルンの森

 アインツベルン城

リズ「イリヤ、ヘラクレスの最終調整はおわった」

イリヤ「ごくろうさま」

セラ「イリヤ様、そろそろ来る頃でしょうね」

イリヤ「向こうも全力で来るのはわかってた」

イリヤ「だったらこっちもそれなり用意をするまでよ」

イリヤ「ねぇ? バーサーカー」

イリヤ「ううん」

イリヤ「超ヘラクレス」





バーサーカー?「グルル……」






ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

リズ「イリヤ、ムチャをする」

イリヤ「キリツグにできることを、私が出来ない訳ないじゃない」

イリヤ「アインツベルンの総力を使って探し当てた、古代ウルクの秘宝」

イリヤ「シュメールの擬似霊装」











        天のギプス
     (ギプス・オブ・エルキドゥ)  










イリヤ「私自らが与える最後の試練よ」

イリヤ「乗り越えなさい、バーサーカー」






――――あなたならできるわ

















バーサーカー「■■■■■■■■■■!!!」









ギャリギャリギャリギャリ

ギャリギャリギャリギャリ


 衛宮邸


士郎「ない ない! ない!!」

セイバー「ど、どうしたのですか」

士郎「ギプスが! 親父の形見のギプスがない!」

セイバー「なんと」

士郎「ああ~、もうダメだぁ」ヘナ

士郎「あれがないと俺はダメなんだぁ」ヘナヘナ

凛「うわー……」

士郎「……セイバー!」

セイバー「なんでしょうか」

士郎「この際だからもうお前のギプスを貸s」

セイバー「」つ中日ドラゴンズバット ブオン!

ゴシャァ

ギェアアアアア












アーチャー「阿呆が」

士郎「確かに玄関に置いてあったはずなんだ……」ボロッ

士郎「なんで、何処にいって」

凛「えーい! いつまでもぐじぐじ言わない!」

凛「今日は決戦の日よ!」

セイバー「シロウ、無くしてショックなのはわかりますが、戦闘中はしっかりしてください」

対アインツベルンに望む遠坂の作戦はこうだ

サーヴァント二体でバーサーカーを足止めし、本命のイリヤを倒す

なんともシンプルだが、これしかないのが現状だ

不意討ちこそ理想だったのだが、アーチャーの偵察の結果、アインツベルンの森自体に強力な結界が張られていた

回り込もうにも結界のせいで正面からしか突破出来ない

今まではなんとか倒してきたが、今回ばかりは命を落とすかもしれない

凛「士郎、イリヤスフィールは……」

士郎「わかってるさ」

あの子は俺に大きな憎しみを抱いている

俺自らがあの子と向き合わなきゃならないんだ

士郎「その為の切り札は、用意した」

大魔術ボール1号

一発逆転のカギ

この技でイリヤを止める!


 アインツベルンの森

凛「それじゃ、作戦通り行くわよ」

士郎「ああ」

士郎「セイバー!」

セイバー「いつでも行けます」

凛「アーチャー!」

アーチャー「了解した」





セ ア「「解 放!!」」




バチン!

















士郎「いいなぁ……」

イリヤ「……!」

リゼ「イリヤ、敵、来たみたい」

イリヤ「いい度胸じゃない。望むところよ」

イリヤ「リゼ」

リゼ「ん」

イリヤ「お客人を出迎えなさい」

イリヤ「モーレツにね」

リゼ「わかった」

セラ「イリヤ様、御召し物の用意ができました」

イリヤ「ええ、着替えさせて」

イリヤ「……もう少し何とかならなかったのかしら、これ」

イリヤ「なんかお子様っぽい」

セラ「ホムンクルスの穴の特製です」

セラ「イリヤ様の全力の動きに耐えられる服はこれしかありません」

イリヤ「わかってるわよ……」







      『カレイドルビー』
      ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ






凛「もうすぐアインツベルン城よ」

凛「城全体がそのまま術式になってると思ってかかりなさい」

――――ィン

士郎「いざとなったらセイバーに強引に壊してもらおう」

士郎「遠坂も気を付けて――――」

セイバー「シロウ!」

ィィィイイイン!

士郎「!」

バッ



ドゴォアアアアア!



回転する何かが俺のいた所に衝突し、爆音をあげる

これは


士郎「斧?」



リズ「ちっ。はずした」

声のした方向には、真っ白なメイド服に身を包んだ少女が

凛「ホムンクルス……!」

士郎「あれが?」

リズ「ようこそ、アインツベルンへ」

リズ「私はリズ」

リズ「こんばんは」

士郎「あ、どうも」

リズ「死ね」

士郎「!?」

ギュオオオオオッ

また斧!?

>>672
ごちうさ最可愛は帰れwww
いくら隣の県だからって戦場を嗅ぎ付けてくんなよ

>>677
なんつーか、うん

ごめんまちがえた

超重量の斧をまるで毬のようにポンポン投げてくる

いや、どこから出してるんだ!?

セイバー「皆は下がって」

嵐のような攻撃に臆せず前に出るセイバー

一体何を





セイバー「ノックアウト打法 × ∞ !!」






ズガガガガガガガ!




リズ「!」

凛「!?」

す、スゴい! あの攻撃を次々に打ち返した!

それだけじゃない!

リズ「む、む」

ドォン ズオワ!

的確に相手を狙い打ってる!

リズ「やっぱり、サーヴァント相手じゃ、きつい」


リズ「撤退」

凛「あ! 逃げる!」

アーチャー「追いかけるか?」

セイバー「迂闊に追うのは危険です。罠があるかもしれません」

――そんな姑息な手を使うと思う?

士郎「!」

四方から声が聞こえる

魔術を使った伝声方法?

――リズを退けたのは褒めてあげる

――まあこれで死なれても困るんだけどね、おにいちゃん

士郎「イリヤ! どこだ!」

――慌てる必用はないわ

――そのまままっすぐいらっしゃい














――――最高のステージを用意してあるわ


 アインツベルン城正面

セイバー「こ、これは」

アーチャー「……」

豪奢な城の目の前に不自然な建造物がある

一段高くなった所に正方形に敷かれた白色のマット

その四隅に立つ黒色のポール

そして全体を逃げ場なく覆う鎖のロープ


その威容はまさに――――





士郎「四角い、ジャングル」
















凛「なんだかイヤなよかんがしてきた」

リズ「あかーコーナー」

凛「な、なに!?」

突如城の方から先程のホムンクルスの声が

なんだか妙にノッているきがする

リズ「ホムンクルスの穴しょぞくー」

リズ「嵐のリベンジャー」







リズ「プリズマ~ イリヤ~!」











セイバー「シロウ! あれを!」




そして、その声と共に城の頂上に立つ影が


月明かりを逆光に立つその姿は――――!



「ハァアッ!」


ババッ


 入場曲

~行け! タイガーマスク~

常人なら死亡確定の高さから飛び降りた影は、そのまま隅の鎖のロープに着地する!

アーチャー「なんと言うバランス感覚だ」

セイバー「あのままの体勢を保ちながら着地するとは」

士郎「やっぱり君だったか」





士郎「イリヤ!」









イリヤ「久しぶりね、おにいちゃん」
















凛「なに、あれ」

イリヤ「今日は時間無制限のデスマッチ」つマイク

イリヤ「そのつもりで来たんでしょう?」

マイクを片手に指を指しながら挑発す
そっちがその気なら!


セラ「マイクをどうぞ」

士郎「あ、すいません」


士郎「……いや、正確には違う……」つマイク

士郎「君を倒し、仲直りするために来た!」









凛「ねぇ、何であの二人普通に会話してんの?」

アーチャー「何かおかしい所でもあるのか」

セイバー「べつに普通じゃないですか」

凛「…………」

イリヤ「わざわざ殺されに来るなんて律儀ねぇ」

イリヤ「仲直り? 寝言は寝て言いなさい」

イリヤ「あなたたち一人たりとも逃がさないわ」

イリヤ「皆殺しよ」


パチン!


凄惨な笑みと共に指をならす

ガゴン!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

城の正門が開き、中から何かがやって来る!


イリヤ「紹介するわ」

イリヤ「今夜の私のパートナー」






――――英雄山脈 ヘラクレス・ザ・ジャイアント!!









バーサーカー「■■■■■■■■■■!!」














凛「ねえ、まさかとは思うけどタッグマッチなんてするつもりじゃないわよね」

イリヤ「あれ? わかった?」

凛「あーやっぱりそうかーってバカじゃないのアンタ!」

凛「そんなものに乗る訳ないじゃない!」

イリヤ「リンはイヤなの?」

凛「当たり前でしょ!?」

イリヤ「そー言うと思った」カチッ

パカッ

凛「へ?」

アーチャー「む」

イリヤ「お邪魔虫はボッシュートで」






凛「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ………」ヒュー







士郎「遠坂ぁああああああああ!!」

アーチャー「……」

イリヤ「行かなくていいの?」

アーチャー「……ふっ」

ババッ

ヒュー






イリヤ「これで邪魔物はいなくなったね」

イリヤ「私とバーサーカーのタッグ」

イリヤ「そっちはシロウとセイバーのタッグ」

イリヤ「どちらかが死ぬまで遊びましょう?」

士郎「セイバー!」

セイバー「望むところです!」

ババッ

セイバーの声と共にリングへあがる

眼前のイリヤを睨む瞳に炎が宿る

久しぶりだ、こんなに熱くなるのは

士郎「行くぞ、イリヤ!」

イリヤ「殺してやるわ、おにいちゃん」









メーンイベント


時間無制限デスマッチ


 マジカル・バーサーカーズ

      VS

 ファイアー・フレンドシップス






ファイッ

ッカーン!

今日はここまで

まあ、なんだ

好きなんですよ

プロレススーパースター列伝

セラ「さぁ世紀の決戦の火蓋が切って落とされました! 聖杯戦争も今夜の戦いで最高に盛り上がる事でしょう」

セラ「実況は私、セラ。解説は」

リズ「リーゼリットがお送りします」

セラ「おっといきなり衛宮士郎イリヤ様に飛びかかった! 端から見れば小児性愛の変態にしか見えません!」

リズ「みぐるしい」

セラ「しかしイリヤ様避けた ああっと! これは!」

セラ「衛宮士郎そのまま連続ラッシュだー! 速すぎて拳が見えない!」

セラ「イリヤ様は悉くかわしてってなんと!?」

リズ「だいたん」






――――いきなり大技だーーーーッ!


手数による制圧を試みたが、やはり強い。

あっさりとかわされた

それどころか

士郎「ムグゥ!?」

突如目の前が真っ暗、いや、真っ白な何かが

これは

まさか

フニ







イリヤ「このまま死ねたら幸せなんじゃない?」










セラ「フランケンシュタイナーだぁあああ!」

リズ「これは死ねたらほんもう」

両頬にイリヤの白い太股が万力の如く挟みこんでくる

真正面は言わずもがなってそれより息が!

セイバー「シロウー! 何をやってるんですかー!」

イリヤ「このまま捻れば、天国へ行けるよ?」

天国?

そりゃ結構

だがな――――











士郎「ふうんぬ!」

イリヤ「あ、こら しゃべるな」

セラ「首だけの力で一人スープレックス!?」

リズ「強いレスラーは、くびがつよい」

ッダァアアアアアン!

士郎「グウウッ!」

何とか脱出できた

いきなり首の骨を狙うなんて、恐ろしい子だ

何とか体勢を立て直して――

士郎「あ、あれ」

イリヤが、いない

セイバー「シロウ! 上、上です」

上?








イリヤ「ウルトライリヤードロップ!!」





バキャァアアアアアッッ!!

タイガーマスク時代の三沢光晴も使った背面を用いた当て技

士郎の後頭部にクリーンヒットし、その脳髄を揺らす

士郎「ぐあ、が」

セイバー「シロウーッ!」

セラ「これはきつい!」

リズ「直撃」

きついなんてものじゃない

これ以上は、まずい!

イリヤ「まだ終わらないよ」

イリヤ「ふん!」


バキッ



士郎「ごあっ!」

イリヤの強烈な前蹴りが俺を空中高くあげる


バッ


イリヤ「とっておきだよ」







イリヤ「アルプス・イリヤー・ブリーカー!!」









ガギッ!


士郎「が、あ」

空中からの加速度を利用し、アルゼンチン式背骨折りで止めをさす

雪を頂いた厳しく美しいアルプスの如き必殺技

士郎「があああ……!」

背骨が

背骨が折れ

セイバー「助太刀のドロップキーック!!」

バキッ

イリヤ「うあっ!」

セイバー「乱入、反則はカウント5まで大丈夫です!」

セイバー「シロウ! タッチを!」

士郎「う、ぐうう」

再びリングの外へ出たセイバーの手をつかもうと伸ばす

しかし

バーサーカー「グルル……!」

セラ「ここでジャイアントのとうじょうだぁああ!」

リズ「これはまずい」

バーサーカー「■■■!!」アッポ

メッシャアア!

セイバー「へプッ!」

メシゴキャッ

バーサーカーの巨体から繰り出された片足蹴りがセイバーの細身に直撃する

セラ「十六文キックか!?」

リズ「いや、これは」




   英霊エグゾセミサイル!!




故 ジャイアント馬場氏が生み出した正面蹴り
十六文キックを更に巨体のレスラーであるアンドレ・ザ・ジャイアントが繰り出した際、実況の古舘伊知郎が形容したビッグブーツキック

イリヤ「バーサーカー! こっち!」

バーサーカー「■■■」

ブンッ

ブンッ!

ブンッ!!

ブンッ!!!

イリヤの声に答えるかのように、セイバーの両足を掴んでぶんまわす



ジャイアントスイングからの――――



バーサーカー「■■■!!」

ビョオオッ!

セイバー「」シロメ


ブオン!!


旋風と化したセイバーを、イリヤに向け投げ飛ばす!


イリヤ「これで沈みなさい!」

イリヤ「必殺!」


ガシイッ

グオオッ!






    

    イリヤ「イリヤーV!!!」









ゴッシャアアアア!!

セラ「決ィまったぁああああああ!!」

リズ「イリヤの必殺技」

相手の突進とリングロープを利用したスープレックス

その威力は、かつて暴走し突進してきたバーサーカーをも黙らせた

ホムンクルスの穴の数多の戦闘ホムンクルスを葬った殺人技

士郎「セ、セイバー」








セイバー




撃沈

イリヤ「さーて、次はシロウの番だよ」

イリヤ「徹底的にいたぶってやるんだから」

白い悪魔がこちらに近づく

どうやら自分の手で始末しなければ気が済まないらしい


士郎「クッソォオオオ!」

ババッ

士郎「スクリュースピンスライディング!」

ギュオオオオオッ!

イリヤ「ムダだよ」

ギュオオオオオッ!

士郎「な……!?」










イリヤ「スクリュースピンスライディング!」

賢明な読者諸君ならお分かり頂けるであろうが、スクリュースピンスライディング同士の激突とは、言わばコマとコマのぶつかり合い

すなわち後から出した方のコマのほうが有利なのである

誰がなんと言おうと有利なのである

バシュゴオオ!

士郎「ぐ、ぐあああああああ!」

当然、弾き出されるのは衛宮士郎




イリヤ「その技は前食らったからね」

イリヤ「一度見た技は私には通用しないよ」

士郎「が、あがが」

ま、まずい

このままじゃ本当に殺される

こうなったら……!

士郎「魔術を使わざるをえない……!」










――――じいさん、俺に力を貸してくれ!

士郎「はぁああああ……!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

イリヤ「む……!」

士郎の周囲を恐るべき闘志が包む

今までにない感覚に思わずイリヤも動きを止める

士郎「投影、開始(トレース・オン)!」

ようやく聖杯戦争においてまともに魔術を行使した士郎

それは亡き父である切嗣が禁術として戒めた奥の手




創造の理念を鑑定し

基本となる骨子を想定し

構成された材質を複製し

製作に及ぶ技術を模倣し

成長に至る経験に共感し

蓄積された年月を再現する




士郎(生半可な刀剣じゃダメだ! イリヤに、バーサーカーに届きうる剣を!)

士郎「そう、アイツが使ったような――――!」






脳裏に浮かんだのは、赤い騎士の使った夫婦剣

士郎「で、出来たぁっ!」

黒い中華剣

アーチャーの使用したモノの片割れが、士郎の左手に握られていた






セラ「衛宮士郎 ここで凶器使用だ~!」

リズ「実はヒールだった」

イリヤ「へぇ、シロウってかわった魔術を使うのね」

イリヤ「でも、そんななまくら出しても意味ないんじゃないの?」

士郎「やってみなきゃわからないさ」

イリヤ「やっても無理よ」

イリヤ「いい加減わかりなさい!」

士郎「できるさ……!」

そう、あの頃の自分と今の自分は違う!

何よりできると思う自信が、魂が奇跡を呼ぶんだ!

士郎「イリヤ! 行使したこれは親父が使った技だ!」

イリヤ「!?」

士郎「親父の、衛宮切嗣の魂を受けとれ! イリヤ!」



ズサァッ




大魔術ボール(凶器)1号!!



ギュオオオオオッ!

士郎の投げた剣がイリヤ目掛けて襲いかかる

イリヤ「!」

(この剣、軌道が読めな――――)


ガカッ!



イリヤ「あっ……!」






気がついた時には、イリヤの白い細腕に剣が突き刺さっていた







士郎「イリヤ……済まない……!」

イリヤは少しの間、腕に突き刺さった剣を茫然と見ていた

イリヤ「……くくっ」

士郎「……?」

突然笑いだす少女に困惑の表情を見せる

腕を怪我したのに何故?

イリヤ「そっか、これがキリツグの技か」

ガシ

ズルリ

士郎「う……!」

空いた左手で何ともないかの如く剣を引き抜く

まるで楽しそうに、そしていたぶるような笑顔を士郎に向けた

――ペロリ







イリヤ「決めた」

イリヤ「ばらばらにしてあげる」

バキリ

イリヤの手の内で中華剣がくだけ散る

ついに本気を出し、士郎を言葉通りばらばらにするつもりだろう

士郎「望むところだ……!」






――――投影、開始




バチッ


士郎「ぐ、う」

流石に連続の行使はつらい

背中に熱い鉄串を入れたような痛みが走る

それでも何とか再び剣を投影し、イリヤに相対する

士郎「こい……!」


勝負!!


 
        Fixierung,EileSalve――――!


瞬間、聞き慣れた怒声が響き渡った


イリヤ「!」

士郎「へ!?」


ズワオォオオオ!




 


 「こぉおおおおおむぅううううううすぅううううううめぇええええ!!!!!」










凛「もう、絶対に許さないわよおおおおおおああああああ!!!」










あかいあくま、降臨







セラ「乱入だー!」


リズ「冬木の悪魔」




セラリズ「「トーサカ・ジェット・リン!!」」






凛「誰がインドの狂虎だー!」



今日はここまで

終わりは見えてるんだけど道のりが長い!

終わる気がしない!

凛「Funf、,Drei、,Vier……!
 Der Riese、 und brennt、 das ein Ende――――!」

宝石魔術の嵐がイリヤに襲いかかる

キャスター戦でも使わなかった切り札中の切り札

イリヤ「ちっ……!」

バオッ!

ズゴアッ!

移動範囲の限られたリング上では行動が限定される

次々と場が破壊される

たまらずリング外へ飛び出るが――――!


凛「逃がすか小娘ぇぁあああああ!」


まるで黒豹のごときしなやかな動きで一気に距離を詰める

凛「stark────Gros zwei!」

ミシリ
バキ
バキ

筋肉の鳴る嫌な音が聞こえる

魔術刻印を露にし、全身を強化する

凛「崩  拳!」

メシゴキャッ

イリヤ「かふっ」

大地を震脚で踏みしめ、渾身の一撃をイリヤに叩き込む

余りの衝撃に思わず息を吐き出すイリヤ

凛「まだまだぁ!」


遠坂式八極拳


――――絶招



崩拳!

バゴォッ!

鉄山靠!!

バキャァアアッ!



凛「とぉどめえええええええ!!」





――――白虎双掌打!!!




ズンッ!!!

瞬間、凛とイリヤを中心に気炎が爆発する!





――――崩 撃 雲 身 双 虎掌 ! ! ! !

凛「弾けろっ! neun! 」

ドッギャァアアアアアン!!

イリヤ「うぐぁああああああああ!!」


絶招

中国拳法における奥義を意味する

だめ押しの宝石魔術が炸裂し、きりもみ回転しながら猛スピードで吹き飛んだ










士郎「なに、あれ」ガタガタ

凛「うらー! とっとと立てイリヤスフィール!」

凛「立たないなら遠慮なく行くわよぉおおおおあああああ!!」

              
Fixierung,EileSalve――――!


ドガガッガッガガガガガガ!!!

嵐のようなガンドが倒れ伏すイリヤに襲いかかる

しかし

バーサーカー「■■■!!」

主を守らんと、巨人が身を挺して立ちはだかる!










アーチャー「私を忘れてはいないかな?」





――――赤 原 猟 犬 ! !








バオッ!

音をぶっち切った証拠である衝撃音が木霊し、バーサーカーの頭部を吹き飛ばす

アーチャーの本来の戦法である超遠距離からのサポートである

ズガガガガガッガッガガガガガ!!!

遮るものがなくなり、一斉射撃がイリヤに直撃する

士郎「イ、イリヤ……」








凛「あースッキリした」キラキラ


――――驚いたわよ、リン

凛「!!?」

――――まさか、あなたにこんな底力があったなんてね


士郎「ま、まさか」






イリヤ「でも、チョーーーッとだけ届かなかったみたいね」



イリヤの周りには、半透明の鳥のようなモノが浮いていた

恐らくあれでガンドを防いだのだろう


イリヤ「私に魔術を使わせるなんて大したモノよ」

イリヤ「これは褒美よ」

ズオッ

イリヤの顔に魔術刻印が浮かぶ

凛「ヤバイ……!」











イリヤ「狂いなさい、バーサーカー」

その時、天が、地が、揺れた



バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」



士郎「遠坂ッ! 逃げ―――――!」


イリヤ「殺っちゃえバーサーカー!!」


バーサーカー「■■■■■■■■!!!」


ダブルラリアート!!






メシゴキャッバキバキ






凛「タイプッ!」

士郎「ムンッ!」






フライングボディプレス!!!


メシャップチ


士郎「キノコッ!」

凛「こうべっ!」

強い

強すぎる

バーサーカーの巨体から繰り出される殺人技の数々が俺たちを破壊していく

こんなの

まともに、敵うわけ

凛「ぐ、ああああああああああ!」

ミシミシミシ

士郎「と、遠坂ァ!!」

遠坂がバーサーカーの腕に捕まった

あのままじゃ磨り潰されちまう!

士郎「くっそ、だったら……!」

感覚を研ぎ澄まし、もう一度あれを造る――――!


――――投影、開始!



士郎「う、おおおおおおおおお!!」


今度は両手に完全な夫婦剣が現れる

士郎「デカブツめ! 遠坂を放――――」

バーサーカー「」ブンッ

バゴシャッ

士郎「ボリショイ!!」

だ、ダメだ、片手間であしらわれちまう

イリヤ「リンは頑張ったからね」

イリヤ「お礼にじっくり絞め殺してやりなさい」

凛「あ、ああああ……!!」

ギリギリギリギリ

不味い

遠坂の顔色が土気色を帯びてきた

だけど、もう俺にはどうすることも――――





――――諦めるのか?




士郎「……!」

脳裏にアーチャーの声が聞こえた気がする




――――どんな者にも弱所は存在する

――――足りない頭を使ってよーく考えろ

――――少なくとも、今の貴様なら思い付く筈だ





弱所?



あの圧倒的なバーサーカーに?





そんな事言われても、急に分かるわけ




凛「ああああああああああ!!」




士郎「……!!」


違う

そんな弱気を言ってる場合じゃない

この場で遠坂を救える手を持ってるのは、俺だけなんだ

考えろ、バーサーカーの隙を

一瞬だけでいい

アイツから遠坂を救いだす隙を!

――――いいか、士郎よ、自分より大きい者を倒す時は――――

士郎「!!!」



投影、開始!!!



イリヤ「またその剣?」

イリヤ「いい加減ワンパターンじゃ――――」




士郎「うぉおおおおおおおおおお!!」



ブォン!






イリヤ「!?」


士郎が夫婦剣を予想外の方向へ投げた

いや、正確にはバーサーカーの足下へ――――


士郎(頼む、成功しろ!!)


――――創造の反対が破壊なら――――


――――あいつにできて、俺に出来ない筈がない!!!――――








バゴンッ!!






      アーチャー「………………」


         ――――ニヤリ







バーサーカーの足下に投げられた夫婦剣が

爆発した

バーサーカー「グオ……」

よろっ


イリヤ「あっ……!」







士郎「今だぁああああああああああ! ! !」








ガシイッ!

士郎「ぬぅあああああああああああ!!!」

ぐ、ぐぐぐぐ……!


イリヤ「う、うそ」


イリヤ「バーサーカーが、浮いた……!?」


衛宮士郎、人生最大のバカ力

今まで鍛えぬいた筋力を総動員し、目前の英雄山脈を持ち上げる!




そして――――!










      




      士郎「必 殺!!」


     士郎「衛宮バスター!!!」










――ズドォオオオオオオオオオオン! ! !




渾身の垂直落下式ブレーンバスター!!




更に――――!





士郎「ああああああああああ! ! !」





    



    士郎「衛宮落とし! ! !」











ズドォオオオオオオオオオオン!!!




アルゼンチンバックブリーカー 首極め 足極め!!!



どちらも絶命必至の大技!

更にバーサーカーの巨体による体重が技の威力を底上げする!!!



バーサーカー「■■■■■■■!!??」


当のバーサーカーも余りの衝撃に困惑している

当然である

彼は生前、誰かに持ち上げられたことなど無かったのだから

士郎「ぶ、ぶは、は」

やった

やったぞ、俺は

ここ最近の成長には自分でも驚かされるが

まさかサーヴァントを持ち上げるなんてな

これも、日頃の訓練のお陰か――――

凛「う……」

遠坂

良かった

バーサーカーから抜け出せたか

だったらあとは……!

ガシイッ

士郎「逃げるのみ……!」

遠坂を背負い、全力で逃走する!

イリヤ「逃げる!? つまらない真似を!」

イリヤ「バーサーカー! 逃がさないで!」

イリヤ「ひねり潰しなさい!」

バーサーカー「■■■■■!!!」





――――いえ、ひねり潰されるのは貴方の方です






イリヤ「え……」









セイバー「シロウ、リン。よくぞ持ちこたえました」

セイバー「今度は私の番です!!」


セイバーが両手に輝く剣を構える

星々の光を集めたその剣は――――!!











      約束された勝利の剣

     ――エクスカリバー!!――






セイバーが必殺の宝具を開放する!

流星のごとき衝撃はバーサーカーを飲み込み、辺りを光で満たした








士郎「これが、セイバーの必殺技」

――――なんて綺麗なんだろう

セイバー「う……」

セイバー(魔力が足りない。やはりシロウではパスも録に通ってないためか)

セイバー(これでは大エクスカリバーは……)






「■■■■■■■■■■!!!」






セイバー「な……!?」




士郎「う、嘘だろ!?」

幾ら全力でないとは言え、エクスカリバーを喰らって無事でいられる筈がない

なのに

イリヤ「流石に、今のは焦ったわ」

イリヤ「でもね、私のバーサーカーはエクスカリバー対策はバッチリなのよ」

イリヤ「天のギプスの試練を乗り越えたヘラクレスは、自らの限界を超越した!」

イリヤ「エクスカリバーではバーサーカーを殺しきることは出来ないわ!」


――――十二の試練改
  (ゴッドハンド・プラス)

神の試練というある種の限界を越えた、ヘラクレスの新たなる伝説への対価

神を律するギプスさえ破壊したその強靭な肉体と魂は、己の精神力によって最後の一瞬まで消えない命の炎となる

――――最早、十二の命などという話ではない


イリヤ「それに、一度受けた技はもうバーサーカーには通用しないよ」

イリヤ「あなたたちの勝利の目は、消えてなくなった!」

これが、バーサーカー

これが、最強のサーヴァント

まさに圧倒的

イリヤの言う通り、俺たちが勝てる可能性はもう

ドサ

士郎「セイバー!?」

セイバー「う、あ……」

急に倒れたセイバー

俺の目からも分かるほどに衰弱している

まさか

士郎「魔力の枯渇」

イリヤ「みたいね。まぁ、シロウみたいなヘッポコマスターじゃしょうがないかもね」

イリヤ「少々拍子抜けだけど、けっこう楽しめたわ」

イリヤ「バイバイ、シロウ」

いつの間にか目の前にいたイリヤが拳を振るう

避けきれない。首を叩き折るつもりか

こんな、こんな所で、終わるなんて

セイバー、遠坂

――――すまない






アーチャー「ま、半人前にしてはよく頑張ったと言った所か」

ガッ

イリヤ「!!」


士郎「あ……!」


イリヤの放った拳は、目の前に現れた弓兵によって阻まれた

アーチャー「マスターとセイバーを連れて逃げろ」

アーチャー「お前には、まだ使い道がある」

凛「……もう、そうするしかないみたいね」

士郎「遠坂! 気を失ってたんじゃ」

凛「死んだふりってのも、なかなか面白かったわよ」

気を失うふりをしながら、軽い治癒と宝石のチャージを行っていたらしい

その手には輝く宝石が握られていた

凛「アーチャー、殿を頼むわよ」

凛「出来る限り時間を稼いで」

アーチャー「了解した。マスター」

士郎「と、遠坂!?」

凛「士郎、貴方は黙ってて」

凛「貴方はセイバーに集中してなさい」

凛とアーチャーの目が合う

とうとう慣れなかった、灰色の視線

アーチャー「どうした?」

凛「なんでもない」

それでも、少しの間だったが、二人の仲は悪いものではなく、戦闘の際の息も合っていた

遠坂凛にとって、間違いなく当たりのサーヴァントだっただろう

凛「アーチャー、負けんじゃないわよ」

――――貴方は、この私のサーヴァントなんだから

礼呪を使用し、二人の間に誓いを

アーチャー「……ああ、分かってるさ」

イリヤ「何? まだ諦めないつもり?」

イリヤ「それならこっちも徹底的に殺るまでよ!」

イリヤ「バーサーカー!! こいつを殺しなさい!!」

イリヤの命令と共に、バーサーカーが殺到する

大きく跳躍し距離をとったアーチャーは残る三人を気にしつつ話し続ける

アーチャー「衛宮士郎」

アーチャー「私からの最後のレクチャーだ」

士郎「アーチャー?」




――我が骨子は捻れ狂う

――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

手に現れるのは捻れた剣

アーチャー「お前の未来は、破滅だ」

アーチャー「そして私が願い、果たせなかった夢だ」



――――2号

ズサァッ

大きく右足を上げ、砂埃がアーチャーの周囲を眩ます

アーチャー「お前は、手を放すな」

アーチャー「一度掴んだ手は、最後まで責任を持って掴み続けろ」


――――そうすれば、お前はたどり着く

――――あの満天の星空の星座に




ビュン!!

イリヤ「そんな攻撃!」

イリヤ「バーサーカー! 打ち落としなさい!」

バーサーカー「■■■!!」

アーチャーの投げた剣を叩き落とすべく、斧剣を手にし振りかぶるバーサーカー

誰もが砕け散る螺旋剣を想像した

しかしその時!




――ヒュイィン



バーサーカー「!?!?!?」


イリヤ「え、あ!?」







剣が、掻き消えた

――――ザクッ!

バーサーカー「――――――」

アーチャー「私から言うことはこれだけだ」

バゴンッ!

アーチャー「後は自分で見つけるんだな」



消えた剣は、バーサーカーの頭に突き刺さっていた

そしてやはりその剣も爆発し、バーサーカーの命を一つ奪う

士郎「アーチャー……」

お前は

お前は、一体

凛「士郎! 行くわよ!」

遠坂が手を引っ張る

確かに今を除いて逃げるチャンスはない

だけど

アーチャー「お互い、生きていたらまた会おう」

アーチャー「その時は、ロボット同士でパーティーだ」

今日はここまで

なんだか書いてて楽しかった

やはりバーサーカー戦は面白い

今から40年以上も前

マウンドの魔術師と言われた一人の男が球界を去った

彼が産み出した数々の球種はそれまでの常識を打ち破る全く新しいモノだった

それらの球種を当時の科学で解明した結果、一応の科学的説明は可能とされた

しかし

それでも、それを人間が投げる事が可能なのか

それは現在でもスポーツ科学の悩みの種となっている












だが、表の技術である科学で投げられずとも

裏の技術。正真正銘の魔術であったなら、どうであろうか















――――そう、なんて事はない


――――マウンドの魔術師は、正真正銘の魔術師だったのだ







アーチャー「少なくとも、本人たちに自覚は無かった」

アーチャー「天然の魔術師。そうしたのは呆れ果てるほどの努力」

アーチャー「そして絶望に打ち勝つド根性が、奇跡を産み出した」

アーチャー「人間の可能性とは、不可能の壁に立ち向かう魂そのものだったのだ」

アーチャー「……父が目を着けるのも、当然といえる」

アーチャー「筋肉に絡んだ魔術回路に多大な負荷を与えるこれ等の投球は、通常の回路と筋力を持つ魔術師ではまず行使することは出来ない」

アーチャー「このギプスは、全てはその為のモノ」










――――衛宮の家は、受け継いだのだ






――――不死鳥の魔球を、あの輝く星の一族の力を

だが、これを身に付ける代償は

余りにも大きかった

たった一つの勝利の為に

全てを投げ捨てる覚悟が必要だった

私が全てを修める頃には




「勝利」




それ以外の言葉に意味など無かった

破滅

そう、破滅だ

これを投げる者は、身も心も破滅しなければならないのだ

しかし、心は破滅しても

今尚無様にあがき続ける自分に













真の破滅は、訪れなかった



















イリヤ「アーチャー一体だけでバーサーカーを止められると思うの?」

イリヤ「とんだ愚か者ね。身の程を知りなさい」

アーチャー「……そうやって罵られるのも、随分と久しい」

イリヤ「?」

アーチャー「私は、手を放してしまった」

アーチャー「数多ある世界で、私だけが」


――――今の奴なら、もう大丈夫だろう


――――この世界での俺の役目は、終わった


アーチャー「後は最後の仕上げだ」

アーチャー「精々足掻くとしよう」










――――I am the bone of my sword


Steel is my body, and fire is my blood


アーチャーが詠みあげた詠唱は、夜の空を赤く照らす

炎が走り、風景が書き換えられる

本来の筋書きならば、荒野を埋め尽くす剣の丘が現れただろう

しかし、この世界のアーチャー

いや、エミヤシロウだった者の心象は







――――Unlimited Blade Works
    無限の剣製

――――Special Edition
   我が魂の死に場所






マウンドの魔術師が最後に踏んだ




中日球場

イリヤ「これは……」

固有結界

でも、こんなモノは

アーチャー「このマウンドを踏む者にとって、打たれるという事は敗北に等しい」

アーチャー「そして、敗北は死を意味する」

それだけの価値があった

あの頃の球場には

アーチャー「私がたどり着いた境地には、人の営みは欠かせぬモノだった」

アーチャー「我が身が滅びる少し前に気付いたのだ。遅すぎたがな」

アーチャー「そして、心象に変化が生まれ、このように成った」

アーチャー「ずっと、一人で戦っていたと、勘違いをしていた」

アーチャー「その思い上がりのせいで、破滅する事を許されなかった」

――――私の役目は、全ての自分を、破滅に導く事

完全な破滅こそが、衛宮士郎にとっての救いなのだ



イリヤ「さっきから何を……!」

アーチャー「もう、この世界の時計は動き出した」

アーチャー「君は救われる。いや、君だけじゃない」

アーチャー「桜も、藤ねぇも。かつて俺が捨て去った全ての人たちが」





衛宮士郎という生け贄によって救われる







アーチャー「いくぞ、バーサーカー」

アーチャー「プレイボール(戦闘開始)だ」


1号

2号

3号


贋作の宝剣達が、様々な軌道でバーサーカーに襲いかかる

バーサーカーは打ち返せない

掠りもしない

次々と削られる命

しかし、ただで倒れるバーサーカーではない

時にアーチャーに迫り、斧剣を持ってアーチャーの肉体を削る

最早どちらが勝つか誰にもわからない


 廃墟

凛「来るときにアーチャーが見つけてあったの」

凛「ここならちょうどいいでしょ」

ベッドにセイバーを寝かせて、これからの対策を練る

もう、あまり時間がない

凛「あのバーサーカーに対抗する手段はたった一つ」

凛「エクスカリバーの上位互換」



――――大エクスカリバー!



士郎「大エクスカリバー……」

衛宮切嗣とセイバーが十年前に造り上げた、最大最強の技

しかし


士郎「俺の魔力じゃ、セイバーが放つ事は」

凛「まず不可能よ」

凛「でも、完全に無理って訳でもないわ」

士郎「本当か!?」

士郎「遠坂、教えてくれ! 俺に出来ることならなんでもする!」

凛「……」

士郎「遠坂?」

凛「士郎、あんた今、なんでもするって言ったわね?」

士郎「へ?」

遠坂の顔が赤い

なんだろう、なんだかイヤな予感が

凛「……しなさい」

士郎「え、な、何?」

凛「士郎、セイバーとエッチしなさい」

……

………………

………………………………







士郎「はい?」

遠坂が言うには、血液や精液には純粋な魔力が多く含まれてるらしい

輸血の器具がない以上、どう考えてもこれしかないらしいって

待て

ちょっと待て

俺、浮気はしないって言ったばかりで

藤ねぇ一筋って言って、まだ三日も経ってない

凛「そんなどーでもいいプライド捨てなさい!」

士郎「遠坂! 幾らなんでもそりゃあ無いぞ!」

士郎「セイバーもなんか言って――――」

セイバー「シロウ………」

セイバー「あなたにだったら、私は構いません……」

何故頬を染める!

一瞬ドキッとしたぞ!

凛「私も手伝うから、ちゃちゃっと済ませるわよ!」






なんだろう

今を生き残っても














藤ねぇに殺される

士郎「その、セイバー。失礼な事聞くけど」

士郎「経験って、あるか?」

セイバー「私は出す方ならあります」

出す!?

出すって何を!?

セイバー「受け入れるのは、あなたがはじめてです……」

セイバー「こんな形で、あなたと閨を共にするとは、思いもしませんでした」

セイバー「あなたとは、ずっと、良き友であり続けると思っていたのでしたが」

セイバー「何故だかよからぬ事をしているような、背徳の空気が……」

益々顔を紅潮させるセイバー

目がとろんとなってる

かわいい







――――ごめん、藤ねぇ







俺、セイバーを抱くよ

士郎「じゃあ、セイバー、始めるぞ」

セイバー「シロウ、で、できれば、やさしくおねがいします」


 5分後

士郎「せ、セイバー!! また……!」

セイバー「ひぃいいいいああああっ!」

セイバー「こんな……! こんなの……! 凄すぎ……!」



 10分後

セイバー「あーーーっ! あーーーっ!」

セイバー「ひゅご、ひゅごいぃいい!」

士郎「うっ うっ」

セイバー「も、もっとぉ! もっとしてくださいぃい!」


 20分後

セイバー「ひゃうぅうううう!」

ビクビクッ

セイバー「か、からだがぁ!」

セイバー「まりょくが、あふれてっ!」

セイバー「ああああああああああ!」







セイバーの体は、驚くほど生気に満ちていたが

藤ねぇに散々鍛えられた俺にはちょうど良かった

というより藤ねぇがやばすぎるのだ

ある意味俺は不幸なのかもしれない

藤ねぇの体じゃなきゃ、満足出来ないようにされちまったらしい

士郎「ふぅ」キラキラ

セイバー「」グッチョリ

30分後

そこには良い顔をした筋肉質の少年と、それに寄り添い白目で気絶してる金髪の美少女の姿が

凛(全く付け入る隙が無かった)

凛(っていうか、何? 何でコイツこんなに慣れてるの?)

ツー

凛(は、鼻血が……!)

例えるなら、清純な女子中学生に無修正のAVを見せたようなえげつなさ

特にセイバーが気を失ってからも犯しまくる士郎にはある種の恐怖すら抱いた

士郎「遠坂」

凛「ひ」

思わず情けない声が出る

目の前の少年が、なんだか急激に大きく見える




――――一瞬、自分が犯される姿を想像した

士郎「遠坂、セイバーに魔力は戻ったか?」

凛「あ、あああ! そう、そうね! うん! ダイジョブ!」

凛「早くセイバーを起こしなさい! アーチャーを助けに行くわよ!」カオマッカ

凛の礼呪はまだ消えていなかった

きっとまだアーチャーは一人でがんばっているんだ

きっとこれが、最後のチャンス

逃すわけにはいかない!

士郎「よし、アーチャーの所に行こう」

士郎「セイバー! 起きろ!」ユサユサ

セイバー「あひゅ、も、もっとぉ……」

セイバー「もっとおかして……」

凛「いつまで寝惚けてんだぁあああああああ!」ギャース

アーチャー「はぁ、はぁ」

バーサーカー「■■■■■■!!」

ブォン!

アーチャー「ぐっ!」

迫り来る斧剣をなんとかギリギリで避ける

既に長時間の戦闘により身体中が切り裂かれ、時に叩きつけられ、文字どおり満身創痍

通用する宝剣もほとんど残ってない

イリヤ「バーサーカー! 何時まで遊んでるの!」

イリヤ「早くそんな奴潰しなさい!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■!!」

ついに痺れを切らしたイリヤがバーサーカーをしかりつける

一つ一つの言葉がまるで令呪のように働き、バーサーカーの動きをより激しくする

ヒュルルル

イリヤ「! また!」

いつの間にかゆっくりと迫る剣

バーサーカーの豪腕でも掠りすらしないその投擲は、屈辱だが避けるしか無かった

しかし

バゴンッ!

イリヤ「くっ!」

避けた先で急に爆発に襲われる

見えない剣の爆発がバーサーカーの身体を揺らす

ズガン!

バーサーカーの握った斧剣の柄の先端部分に剣が突き刺さり、またもや爆発する

思わず斧剣を手放すバーサーカー

士郎よりも遥かに洗練された、神の制球秘術

3種の魔球を完璧に使いこなし、バーサーカーを翻弄する


しかし、一度仕留めた技ではバーサーカーは止まらない

一つ、また一つと決定打が潰されて行く

アーチャー「ごふっ……!」

とうとう腹部に強烈な一撃を貰う

血を吐き出し、空中を舞い、壁に激突する

イリヤ「とうとう仕留めた」

イリヤ「ほんと、しぶといんだから」

私たちに勝てるわけ――――







アーチャー「ぐ、ううぅう……!」









イリヤ「え……」







赤の弓兵は倒れてなどいなかった

口から、全身から血を吹き出し

それでも倒れない

折れない

イリヤ「なに、なによ」

イリヤ「何で死なないのよ!」

アーチャー「……」

うつむいたアーチャーは何も言わない

白髪は血によって染まり、垂れ下がっている

荒れた呼吸が段々と落ち着きを取り戻す





――――不意に、顔を上げた








アーチャー「――――――――」













イリヤ「ひぃっ!」











まるで幽鬼のような、生気の抜けた顔








しかしそれでも失われない


瞳に宿る、ゆらゆらと燃え盛る炎

違う

違う

コイツは英雄なんかじゃない

英雄はこんな泥臭いまでのおぞましさは持ち得ない

どんなに反英霊と呼ばれても、ここまでの空気は

人間だ

自分が相手にしてるのは

どこまでもおぞましく、諦めることを知らない人間だ

そう、かつての修行中の自分や













――――あの赤毛の少年のような――――















イリヤ「…………シロウ?」

アーチャー「……!」



一瞬、驚愕の顔をあげる

しかし、すぐに何処か悲しげな顔に戻り、イリヤたちに向かって歩を進める

イリヤ「私は、何を」

ほんの一瞬、あのアーチャーと衛宮士郎の姿が重なった

聖杯戦争の初日の夜

切嗣を信じると叫んだ時の、あの少年に

どんなにズタボロにされようとも立ち上がった、あの衛宮士郎に

イリヤ「……殺しなさい、バーサーカー」

イリヤ「今度こそ、本当に」

令呪が光り、バーサーカーを更に強大にする

負けられない

衛宮士郎

アイツにだけには

目の前のアーチャーが衛宮士郎と同じ空気を纏うと言うならば







――それすらも、無慈悲に叩き潰すのみ



「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

これまでに無い烈昂の雄叫びと共に、アーチャーに進撃する

アーチャーは逃げない

退こうともしない

自分を粉砕するバーサーカーの一撃を

最後の瞬間まで、睨みつけていた











「「「スクリュースピンスライディング!!!」」」








そして、その諦めぬ魂が、ついに実を結ぶ

ちょっと投稿

朝からすいません

昼からまた再開します

始めに目に飛び込んだのは、今にも叩き潰されそうなアーチャーの姿

言うなれば九回裏二死満塁の際にピッチャーゴロを打ってしまったような状況

走っても跳んでも絶対に間に合わない

――ならば、無理にでも間に合わせるのみ!

士郎「行くぞセイバー! 遠坂!」

セイバー「はい!」

凛「ええいこーなりゃヤケよ!」

士セ凛「「「トゥアア!!」」」

ババッ






スクリュースピンスライディング――――















――――三位一体、別ルートver!!

この時、三人の心が一つになった!

ただ、アーチャーを救う。それだけの純粋な思いが、スクリュースピンスライディングの威力を増大させる!

ギュォオオオオオオ!!

魂のテンペストとなった超回転がバーサーカーの後頭部に炸裂した!

バーサーカー「■■■!?」

イリヤ「また性懲りもなく!」







士郎「ギリギリセーフだったみたいだな」

セイバー「当然です。私たちにアウトは有り得ない」

凛「め、目が回った……」フラフラ

アーチャー「どうやら……私の我慢勝ちだったようだな」

ドサッ

凛「アーチャー!」

セイバー「大丈夫です。気を失っただけです」

士郎「アーチャー、ありがとう。よくがんばってくれた」

士郎「今度は俺達の番だ!」

イリヤ「何かと思えば、尻尾を巻いて逃げた負け犬がよく吠えるわね」

イリヤ「わかってるわよ。大エクスカリバーでしょ?」

イリヤ「私がそれを撃たせる隙を与えると思う?」

確かに、大エクスカリバーを撃つ際には溜めの時間が必須

だが、隙が出来るならば補えば良いだけの話!

士郎「技を借りるぞ! セイバー! そして……」






――――アーチャー!!









投 影 開 始 ! !










士郎「ぬぅあああああああああ!!!」

バチバチバチバチ!!

イメージするのは、自分が持つ最大最強の存在

セイバーを抱いた時に伝わってきた、記憶の中の一振り

打ち直す前に存在した、セイバーの、アルトリアの運命を決めた黄金の――――

セイバー「まさか、シロウはあれを!?」

即ち




       


       カリバーン
     勝利すべき黄金の棍棒!!!












セイバー「違ぁあああああああああう!!?」
       

これがアーサー王伝説の真実!!

セイバー「いや、待て!」

蒼と金に彩られた聖なるバット!!

セイバー「だから違う!!」

凛「どうやら記憶の中のセイバーと今のセイバーのイメージがごっちゃになったみたいね」シロメ

士郎「そしてぇええええええ!!」

パァン!!!

気合いと共に上半身の服が弾け飛ぶ!

士郎「これが、アーチャーと俺の魂の技!」






――――大魔術ボール(バット)2号!!






士郎「そう、この聖なるバットはかつて470人のサクソン人の軍勢を一振りでサヨナラホームランにしたぁ!!」

士郎「バットならばそれが出来る! 納得出来る!」

セイバー「シロウ!? ちょっと落ち着いて」

凛「諦めなさい、セイバー」

凛「むしろこのままのほうが都合が良いわ。本人もノってるし」

凛「ほら、チャージする」

セイバー「む、ぐ、ううぅうぅぅぅぅ」

ズサァッ!!

天高く脚を上げ、砂ぼこりが宙を舞う!

士郎「これが二大サーヴァントの魂の合体攻撃だぁあああああああああ!!」








凶 器 投 擲









士郎「スローイング・カリバァアアアアアアアアアアアアン!!!」









キュヴォォオオオオオオオオオオ!!

士郎の豪速球(?)が光に変わり、奔流がバーサーカーを飲み込んだ!

と言うか消える魔球も何も最初から極太ビームに変わってるのであまり合体の意味がない!

しかし、細かい事は良いのだ! とにかく魂が繋がっていれば即ち合体攻撃なのだ!

イリヤ「嘗めるな衛宮士郎!」

イリヤ「バーサーカーが、私のバーサーカーが、そんな急造の粗悪品に負けるものか!」

イリヤ「伝説を嘗めるなぁああああああ!!」

イリヤの令呪がまた一つ光り、バーサーカーが光の奔流から飛び出す!

バーサーカー「■■■■■■■■■!!!」

士郎「……!」




ザシュッ






凛「士郎!」

士郎「っぐうぅうう!」


間一髪、致命傷を避ける


しかし、士郎の投擲を支え続けた左手は


バーサーカーの一撃により、叩き斬られた


だが、この一瞬が、両陣営の明暗を分けた!











士郎「今だ、セイバァアアアアアアアアアアアア!!!」














セイバー「士郎! よくやったぁあああああああああああ!!!」








     



     大エクスカリバー
    伝説を超えた勝利の剣!!!













この日、日本の人工衛星は冬木市の上空で奇妙な光を観測した

天を超え、宇宙の彼方へ飛び出す、彗星のような謎の光

後に観測員はこう語る












――――まるで夢のように綺麗だった










今日はここまで

もうすぐ終わる……かも

次スレにいくかもしれない

大エクスカリバーの奔流がバーサーカーを飲み込んだ

そのまま光は天空を切り裂き、彼方へと消えた

かつてその体が星座になった時と同じように、天へ昇る。

それは士郎達の完全勝利を意味した

士郎「うぐ……」

失った左手が今になって激痛を覚える

バーサーカーとイリヤ相手に左手だけの犠牲で済むなら安いモノだと思うが、それでも長年使い続けた手を失う事は少しショックだった

セイバー「シロウ、早く手当てをしましょう」

セイバー「出血が過ぎれば命に関わります」

士郎「ああ……、ありがとう、セイバー」

凛「バーサーカーは完全に消滅したわ」

凛「終わったのね、この戦いが」








イリヤ「まだよ……! まだ終わってないわ!」



ブォン!

士郎「うわ……!」

ドゴンッ!

イリヤの拳が士郎の居た場所を砕く

後少し避けるのが遅ければ命に関わっただろう

セイバー「イリヤスフィール! まだやるつもりですか!」

イリヤ「そうよ! まだ私は戦える!」

イリヤ「もう聖杯戦争もアインツベルンも関係ない!」

イリヤ「コイツは! シロウだけは殺す!」

イリヤ「それすらできなきゃ、私はなんのために……!」

士郎「イリヤ……」

イリヤ「そんな目で私を見るな!」

イリヤ「私は負けない! あんたにも! 運命にも!」

――――私の人生は、無意味なんかじゃない!



イリヤの体が弾け、士郎に向かい全速で突き進む

これまでの速さを上回る突撃

ただ士郎を殺す

それだけに全てを賭けた、死を覚悟した突撃

避けるのが間に合わない

体がもう限界をとっくに超えている

死――――







ズグッ

士郎「あ……?」

セイバー「……!」








凛「何で、何でよ……!?」

士郎は死ななかった

しかし





アーチャー「ご、ふっ」










士郎の代わりに、その一撃を受ける、アーチャーの姿

イリヤ「そんな、こんなことって」

アーチャーの体を貫いたイリヤが呆然とした声を発する

他人のサーヴァントが、違うマスターの身を庇う

誰もが唖然としていた

ただ一人、士郎を除いて

士郎「あ、アーチャー! お前!?」

アーチャー「……」

アーチャーは何も答えない

ただ、いつもの死んだような顔で目の前のイリヤを見つめる

炎が消え去った、鉄の瞳

イリヤ「うあ」

イリヤ「あ、ああ」

イリヤ「あああああああああ!」

絶叫と共に、その場を逃げ出した

取り返しのつかない事をした

そんな顔をしていた








--
--





士郎「アーチャー! しっかりしろ! アーチャー!」

セイバー「シロウ、もう彼は……」

士郎「うるさい! しっかりしろアーチャー!」

必死になってアーチャーに呼び掛ける

その場に控える凛は顔をうつむかせ、アーチャーに話しかける

凛「こんな、こんな終わりかたで、アンタは満足なの」

アーチャー「……」

凛「何か言いなさいよ……」

アーチャー「……」

凛「アンタには叶えたい願いとか、無かったの?」

アーチャー「…………」














アーチャー「私の願いは、衛宮士郎の、完全な破滅だ」




凛「え……?」







士郎「お、俺の、破滅?」

アーチャー「中途半端に、燻る事なく、完全なる燃焼を」

アーチャー「私はできなかった。だからこうして今も燻り続けている」

アーチャー「そう、私にはできなかったから、違う私に遣らせようとした」

アーチャー「私はお前。極端な道のり、最悪の選択を選び、歩み続けた者の末路」

アーチャー「燃え残りのガラクタ。それが私だ」

士郎「俺が、お前」

何となくだが、アーチャーの言ってる事が理解出来る

何度も壊れては蘇る宝剣

魔球

自分とアーチャーを繋ぐ共通性

凛「未来の、士郎」

アーチャー「結末を知る私が揺さぶりをかけねば、お前は止まらなかった」

アーチャー「あのまま、何の迷いもなく突き進めば、お前は必ず道を誤った」

アーチャー「迷いなき努力など、ただの独り善がりでしかないからな……」

迷い、苦しむ事で人は成長し、何度でも蘇り、より強くなる

苦悩という炎に投げ込まれなければ、不死鳥は空に羽ばたく事はできないのだ

ザシュッ

凛「あ、アンタ!」

セイバー「アーチャー!?」

気づけば、アーチャー、いや、エミヤシロウだった者は、己の左手を叩き切っていた

吹き出す血染めの左手を士郎に差し出す














エミヤ「持っていけ、小僧」

エミヤ「いつか必ず役に立つ」

















士郎「……」

震える右手が、血染めの左手を掴む

重い

なんて重さだ

ゴツゴツとしたそれは、ただ重いだけじゃない

目の前の人間の全てが詰まった重さ




――――託された魂






これが、アーチャーの

エミヤシロウの左手





















知らず、涙が流れた

エミヤ「……何故、泣く」

エミヤ「それでも男か」

何故だって? 

そんなの当たり前だ








士郎「男が仲間のために泣いて、何が悪い」









強く、ハッキリと言いはなった

エミヤ「なかま……」

懐かしい響き

かつて捨て去り、そして後悔した

かけがえのない人達

人の価値は、最期に泣いてくれる人が居るかどうかで決まるなら

エミヤ「ふ、ふふふ……」

ならば、このどうしようもない人生にも、少しは意味があったと言えるのではないか

凛「何笑ってるのよ……! バカ……!」

同じくその瞳から雫を溢す、己のマスター

エミヤ「君も、泣くことがあるんだな」

凛「当たり前よ! バカシロウ!」

凛「私だってね! あなたの事」

凛「ただのサーヴァントじゃなくって、本当の仲間だって……!」

エミヤ「いい、ムリするな遠坂」

エミヤ「俺は、お前のサーヴァントになれて本当に良かった」

エミヤ「だけど、もう終わりのようだ」

力なく崩れ去る

凛、あわててその体に駆け寄る

凛「シロウ」

エミヤ「もういい、もういいんだ」

エミヤ「この世界の俺は、もう大丈夫だ」

エミヤ「ようやく、少しだけ、眠れる」

エミヤシロウの頭を膝に乗せ、その最期を看取る

髪を下ろしたその姿は、確かに成長した士郎の姿だった

士郎「…………」


俺は、瞬きすら忘れてその光景を見ていた

一人の男の最期

目をそらすなど、あってはならなかった


エミヤ「…………」






――――そうだ、答えなんて、とっくに出てたのに

――――気づかないふりをしたまま、走り続けて

――――本当に、バカだな、俺は








エミヤシロウの体は消滅した

灰すら残らず、消えて無くなった

凛「……」

士郎「遠坂」

凛「さっさと始めるわよ」

士郎「え」

凛「その左手、無駄にはできないわ」



――――アイツの魂、アンタに繋げる

一旦休憩

また少し経ったら始めます

走った

走って、逃げ続けた

もう何がなんだかわからない

頭の中はぐちゃぐちゃで

涙で目の前が霞む

イリヤ「あうっ」

木の根に躓き、その体を泥に晒す

惨めだった

十年の歳月を費やして、勝つことすら出来ずに、無様に這いつくばる自分が

イリヤ「私は、……私は!」

一体、何の為に生まれたの?

イリヤ「おしえてよ……。だれでもいいから」

何の為に苦しんだの?

イリヤ「おかあさま……」

何で私を産んだの?

イリヤ「キリツグ……」

何で私を捨てたの?

イリヤ「何で」


――――何で、私ばかりこんな目に会うの?











「それはあなたが聖杯(バケモノ)だからですよぉ?」









イリヤ「……っ!」

ビュルン!

黒色の影が、イリヤを襲う

間一髪で避け、距離を置く

動揺してるとは言え戦闘の勘は冴えていた

「あれ? 逃げられちゃいました」

「まぁいいか」






桜「ご飯は活きが良ければ良いほどおいしいから」








ぎぎgギギガッガガッッッッガガガガガ

がっがががggぎgigigigagaガガギギ

ゴギガッギギガゴッガガガガガgigagi

イリヤ「あなたは!」

解る

自分と似た空気

聖杯の気配

桜「あなたばっかり、美味しそうなのを溜め込んで、ズルいじゃないですか」

桜「どうせ、もう脱落したんだし、私が食べてもいいでしょう?」

寒気がするほど嫌な笑顔を浮かべる

恐らく本人の自我も聖杯に呑まれているのだろう

イリヤ「……お断りよ! たかが聖杯に意識を呑まれるような小物に、誰が!」

桜「元気はいいみたいですけど」

桜「体はさっきより鈍くなってますよ?」

イリヤ「何が……!」

くらっ

イリヤ「!?」

体が、だるい

思うように動かない

桜「立て続けに二体もサーヴァントを取り込んじゃって」

桜「だいぶまいってますね」クスクス

イリヤ「……上等よ!」

イリヤ「アンタなんか!」

イリヤ「このくらいが丁度いいハンデよ!」

桜「ほんとに活きがいいですねぇ」

桜「でも、あなたじゃ私たちには勝てません」

桜「私には、先輩が側にいるんですから」

イリヤ「?」

この女はさっきから何を言ってるんだ

「私たち」等と、どう見ても一人しか


ガガギギgigagigaギギガゴ

ギギガッガガッッッッガガガガガ


いや、さっきからたまに聞こえるこの嫌な音は何だろう

何か、とてつもなく嫌な感じが


桜「紹介します」

桜「私だけを抱き締めてくれる」

桜「私だけを愛してくれる」

桜「私だけの先輩です」

泥に呑まれ、変容した物体

悪意を鍛えるモノ




     




     アンリマユ・ギプス
    この世全ての悪ギプス








イリヤ「それは、シロウの」

間違いなく衛宮士郎のギプス

しかし、あの色とおぞましい感覚は一体

桜「私と先輩は、とても腹ペコなんです」

桜「あなたを食べれば、だいぶましになると思いますから」

桜「おとなしく、食べられてくださいね」

ビュオッ

影が迫る

今度は複数

イリヤ「ちっ! 嘗めないで!」

身を捻って避ける

捕まればアウト

あの影は生易しい魔術ではない

恐らく極大の呪いを塗り込められた醜悪なモノ

触れれば即汚染される

桜「よく避けますねぇ」

桜「でも、もうわかりました」

ゾンッ

イリヤ「あ……!?」

着地地点にも、影が

桜「ここら一帯はもう私が埋め尽くしてるんですよ?」

桜「逃げられるわけないじゃないですか」

ゾブリ

桜「あれ」

イリヤ「――――うぅうッ!」

空中で強引に体勢を変え、何とか避けきる

――しかし、肩口からゴッソリと腕が無くなっていた

桜「へぇー」

桜「まだそんな動きができるんですね」

桜「でも、もう限界ですね」

イリヤ「調子に、乗らないで」



イリヤ「アンタなんかねぇ!」






イリヤ「片腕一本で充分なのよ!!」










いつの間にか、暗雲が夜空を覆い、うすら寒い風が吹き始めた

まるでこれからの運命を、呑み込むかのように

その頃



凛「何とか、繋がったわ」

士郎「これが、俺の新しい手」

元が同じ人間の為、思いの外巧く接合できた

しかし、それでも士郎の体には耐えられない為、左手には包帯のように聖骸布が巻き付けられている

凛「たぶん、無茶をすればアーチャーの技も幾つかできると思う」

凛「でも今は絶対に使わないこと! 最悪死ぬかも知れないからね!」

士郎「わかった。気をつける」

凛「絶対に無理すんじゃないわよ……」

凛「こうなったら、あなたには意地でも生き抜いてもらうんだから」

凛「アーチャーのようには、させない」

セイバー「彼は、恐らく幾つも枝分かれした未来から召喚されたのでしょう」

セイバー「シロウ、もしかしたら貴方も」

士郎「俺は、アイツのようにはならないさ」

士郎「……いや、正確にはなれない」

士郎「あんなスゴい奴には、とてもなれない」



だけど




士郎「俺は、アイツの分まで、がんばってみるよ」





士郎「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」

士郎「もう深夜になっちまった」

セイバー「イリヤスフィールには、逃げられてしまいましたね」

士郎「イリヤなら、大丈夫さ」

士郎「あの子は、俺を殺すまで何度でもやって来る」

士郎「分かるんだ、あの子の強さを」

凛「ま、あのやんちゃは殺しても死なないだろうし、心配するだけ無駄ね」

凛「……あー、それから、今日はあなたたち二人で帰りなさい」

セイバー「どうかしましたか? リン」

凛「うん、ちょっと家に用事がね」

士郎「?」

遠坂がいつになく焦ってる気がする

気のせいだろうか

冷や汗をかいてるような

凛「ま、後は当人たちで話合いなさい」

凛「じゃあね、士郎、セイバー」

凛「生きてれば、また明日」

士セ「「???」」


 衛宮邸


結果から言うと、俺達は玄関前で立ち往生していた

なぜなら家に近付くにつれ、事の重大さが認識できたからだ



――――家に、明かりが就いてる










逃げやがったな、遠坂








セイバー「シロウ、先に入ってください」

士郎「いや、ここはセイバーに譲るよ」

セイバー「ここはあなたの家でしょう」グイ

士郎「セイバー、遠慮すんなって」グイグイ

不毛な言い争いを始めてもう5分は経過する

入りたくない

入ったらヤバイ









――――士郎














脳裏にやけにねっとりとした表情の姉の姿が思い浮かんだ

士郎「セイバー、サーヴァントってのはマスターを守るモノなんだろ?」

士郎「今こそその時だと思うんだが」

セイバー「シロウ! それはあまりに都合が良すぎます」

セイバー「頼まなくても前線を突っ走るあなたこそ先陣を斬るべきだ」

士郎「セイバー、令呪を以て」

セイバー「なに令呪を使おうとしてるんですかあなたはッ!」

大河「ねぇ、夜中にあまりうるさくしない方がいいと思うよぅ?」

士郎「そうだぞセイバー? 大声なんかだしてさ」

セイバー「シロウがあまりに非常識だからですッ!」

セイバー「………」

士郎「………」


ファサ

後ろから、首に腕を回すように抱きつかれた











    大河「おかえり♪ 士郎」













士郎「ふ、藤、藤ねぇ」

大河「こんな時間までナニしてたのかな♪」

大河「セイバーちゃんと二人きりで」



大河「二 人 っ き り で」




士郎「プ、プロレス! 知り合いとプロレスの研究やっててさ!」

士郎「いやぁ~ほんとにスゴかったよ!」

士郎「セイバーも夢中でさ!」

士郎「なぁセイバー!?」

セイバー「へ!?」

セイバー「そ、そうです! プロレスです!」

セイバー「丁度寝技の研究をやってまして!」

大河「へー? プロレス? 寝技?」

士郎「そう! プロレス!」

大河「お姉ちゃんもプロレスできるよ♪」

士郎「え?」

ムギュ

士郎の額に大河の右腕が抱きつくように回される

大河「はい、ぎゅっと♪」


ギリギリギリ



士郎「ぎぃえぁああああああああああ!!?」


――ヘッドロック


数あるサブミッションの中で最も地味で、最も凶悪な技

鍛えようのない頭蓋骨を締め付けるその技は、必殺というよりもむしろ拷問のような激痛を長時間相手に与える

そのままズルズルと衛宮邸に引きずり込む

大河「セイバーちゃん」

セイバー「ひゃい!」

大河「明日の朝ごはんはセイバーちゃんが作ってね♪」

大河「それでちょっとだけ許したげる♪」

セイバー「あの、タイガ、私は炊事に関しては切嗣にダメ出しされる程度で」

大河「セイバーちゃん」





――――できる、できないじゃないの


――――や れ よ









セイバー「わかりましたぁあああ!!?」




寝室に辿り着くなり蒲団に押し倒された

仰向けの状態から藤ねぇが覆い被さってくる

士郎「藤ねぇ、ちょっと、おちつ」ゼェゼェ

大河「私も士郎とプロレスしたいなぁ?」

ギリギリギリ

士郎「ぎぃやあああああああああああ!!?」


容赦のないギロチンチョークスリーパーが士郎に襲いかかる


大河「士郎、セイバーちゃんとプロレスやったわね?」

士郎「そ、それは」ゼェゼェ

大河「セイバーちゃんのいいにおいがするもの」

大河「それと」

大河「えっちなにおいも」

士郎「」

大河「士郎、例え話するけどね」

大河「もし、お姉ちゃんが士郎以外の男の人に犯されたら士郎はどう思う?」

士郎「それは」

大河「許せないよね」

大河「今、そんな気分」

チュグ

士郎「むぐっ!?」

歯がぶつかるんじゃないかという勢いで口と口が合わさる

大河「ん、んん……」

チュグ

グチュ

苦しい

窒息するかも

でも

セイバーとしたときに得られなかった満足感がそこにあった

だんだん、芯からみなぎってくる

欲しい

藤ねぇが欲しい

大河「ぷはっ」

ようやく解き放たれる

お互い既に爆発しそうな情欲の炎にくるまれている

大河「ねぇ、士郎」

大河「これから上書きするよ?」


――――誰にも渡さないから





翌朝

士郎「……」

大河「……」

セイバー「うっ、うう」ナミダメ

エプロンを着たセイバーが包丁を持ちながら涙目でこちらを見ている

食卓の上はまさに悲惨の一言だった

真っ黒に炭化した魚のようなモノ

無造作に踏み切り散らされたサラダのようなモノ

ダマが所々に浮いた味噌汁

ぐちゃぐちゃの粥のような白米

ガリ

狙ったように芯が残ってた

何故だ

大河「士郎、良かったわねぇ」

大河「セイバーちゃんの手料理よ」

藤ねぇ、まさかこれを俺一人で食べろってか

大河「私は自分ちで食べるから」

大河「こんなのいらない♪」

虎じゃねぇ、鬼だ

悪魔だ

外道の極みだ!

士郎「……」

ジャリ、ジャリ

真っ黒な魚を咀嚼する

苦い

じいさんがダメ出ししたのも頷ける

こんなの命に対する冒涜――――

セイバー「し、シロウ、どうですか?」

セイバーがエプロンの端を掴みながら上目で尋ねてくる

それはちょっと反則なんじゃないか

士郎「……旨い、よ」

セイバー「ほ、本当ですか!?」

セイバー「良かった、おかわりはまだ沢山ありますからね!」

助けて、誰か

凛「それで、結局全部食べたの?」

士郎「まさか戦闘以外で死にかけるとは思わなかったよ」

凛「ま、これもモテる男の宿命だと思って諦めなさい」

士郎「遠坂に言われると腑に落ちねぇ……」

凛「それよりもここからが正念場よ」

凛「ライダー、アーチャー、バーサーカーの脱落」

凛「それに恐らくはアサシンも脱落。後は行方不明のキャスター」

凛「ランサーは未だに動向がわからないけど、そろそろ仕掛けてきてもおかしくない」

士郎「いよいよ終わりが近い、か」

凛「今夜は見回りするとして、日中はどうしようかしら」

凛「本当ならその左手の様子を見たかったんだけど」

聖骸布の巻かれた左手首は、少しずらしただけでも恐ろしい痛みを伴う

馴染むにはまだ少しかかりそうだった

凛「デートなら仕方ないわねぇ? 士郎くん?」

士郎「か、からかうなよ……」

藤ねぇとのデート

学校がライダーの件で休校とは言え、後ろめたいモノがない訳じゃない

でも、いつまた死ぬかわからない自分は、一日の平穏を大切にしたかった

平穏が壊れる前に、藤ねぇとの思い出をたくさん作りたい

愛する人との思い出を


 新都

大河「士郎とデートなんて久しぶりねぇ!」

大河「今日はいーっぱい遊ぶわよ!」

士郎「藤ねぇ、一応休校中なんだから自重しろよ?」

大河「むぅ! 固いこと言わないの!」

士郎「まぁ、付き合ってるのにデートの一つもしないなんて甲斐性が無さすぎるしな」

士郎「俺も今日は羽を伸ばすよ」

大河「よろしい! それじゃあそうと決まればまーずーはー…………」





士 大 「「腹ごしらえから行くか」」





士郎「……なんだか、人が少ない気がする」

大河「昏睡事件や殺人事件とかたくさんあったからね」

大河「最近もまだ行方不明者が出てるみたいだし」

大河「夜中は怖がって誰も出歩かないそうよ」

士郎「行方不明者……?」

一連の犯人であるライダー、キャスターは打倒した

ランサーがそんな卑劣な真似をするとは思えない

なのに、まだ行方不明者が出ている?

大河「……昨日もね」

大河「士郎の家に電話しても、誰も出ないから、心配して来ちゃったのよ」

士郎「藤ねぇ……」

士郎「ありがとう。でも、藤ねぇこそ夜出歩くのは危ないよ」

士郎「俺のことは大丈夫だからさ、藤ねぇも自分の心配をしろよな」

大河「うん」

まばらな新都をぶらりと歩く

もうすぐ終わる聖杯戦争

だが、この活気のない町を見ていると、どうしても実感が湧かない

何か、嫌な予感がする






――――そう言えば、ここ最近、桜と会ってない










 ???

たまに、昔の夢を見ます

一番最初に暗い穴に落とされたとき

気持ちの悪い蟲にはじめてを奪われたとき

おじいさまの知り合いの大勢の男の人に犯されたとき

兄さんに弱虫と罵られたとき

夕焼けの校庭で、先輩の姿を見たとき

先輩の家に行ったとき

先輩から合鍵を渡されたとき

先輩から料理を教わったとき

先輩

先輩

せんぱい

えみや、しろう

――――せんぱいとせんせいが、あいしあってるとき

グシャ






この夢は、いりませんね






今のせんぱいは好きですけど、やっぱり体がないとかわいそうですよね






せんせいは、せんぱいの目の前で、めちゃくちゃに犯してやりましょうか?

せんせいのくせに、せんぱいをたぶらかすわるいひと

わるいひとは、おしおきしなきゃ

そうですよね? せんぱい


 遠坂邸

凛「どういうことよ、これ」

凛「行方不明者、意識不明者の数が全然減ってない」

凛「それどころか、日を追う毎に増えてる」

ランサーは典型的な騎士タイプ。魂喰らいを行うとは考えずらい

マスター単独での行使としても範囲が広く、何よりもここまであからさまにやるのはおかしい。

なにか、猛烈に嫌な予感がする

行方不明になっているキャスターがまたやらかしているのだろうか

凛「あとはイリヤスフィールがやってる可能性もあるけど」

そうではない

そうではないのだ

うまく言葉に出来ないが、気持ちの悪い違和感

毒々しい何かを感じる

凛「こういうときの勘って、よく当たるのよね……」

凛「大丈夫かしら、士郎」


 深山町

日ももう暮れ始め、赤い夕陽が街を照らす

大河「あー! 遊んだ 遊んだ!」

士郎「殆ど食べ歩きだったけどな!」

大河「むぅ、士郎だっていっぱい食べたじゃない!」

士郎「藤ねぇの食欲にはかなわないよ」

士郎「んじゃ、そろそろ帰るか?」

大河「あ、待って」

大河「最後に、ちょっと行きたい所があるんだけど、いい?」

士郎「行きたい所?」

穂群原学園

 教室

士郎「なんか久し振りだなあ」

士郎「慎二の時以来、か」

士郎「……」

慎二

俺に勝利した男

そして、今はもういない親友

士郎「時が来たら、桜にも話すべきだろうな」

俺が、慎二を殺したという事実を


大河「あ、いたいた! 士郎、待たせたわね」

藤ねぇが駆けながらこっちに来る

士郎「藤ねぇ、用件はもう終わったのか?」

大河「うん、ちょっと資料の確認にね」

大河「私だって一応先生だもん。休んでる分は働かなきゃね」

士郎「うわ、藤ねぇが真面目なこと言ってる」

大河「そうやってまたお姉ちゃんをからかうな~!」

ガシッ

士郎「うわ! ちょっと藤ねぇ! 危な――――
―!」

バタン

軽く埃をあげて、リノリウムのゆかに倒れこむ

大河「あ……」

士郎「ふ、藤ねぇ」

ちょうど、俺が藤ねぇを押し倒してる形になる
小ぶりだが形のいい胸を右手が掴む

士郎「ご、ごめん。藤ねぇ」

士郎「すぐに退くからさ――――」


ガシリ


士郎「あ……?」

後頭部を掴まれる感覚

大河「……」

迫る顔



夕焼けに照らされた、二つの影が一つになる
何分か後、ようやく影が離れる
お互いの口を結ぶ銀色の橋が、夕陽に照らされてキラキラと輝く

士郎「藤ねぇ……」

大河「ねぇ、士郎」

――――する?

士郎「……」




うん

四つんばいになった半裸の藤ねぇの姿は俺には刺激が強すぎた

誰もいない教室で、教師の藤ねぇと

そんなシチュエーションが俺をどうしようもなく興奮させ、狂わせる

まるで強姦魔のように後ろから襲い掛かる

それでも、藤ねぇは嫌がるどころか、歓喜の嬌声をあげる

たった一回だけの交合いが、永遠のように永く感じる

やがて、お互い頂点に達する

ずっと

ずっと、この幸福が、続けばいいのに








--






大河「遅くなっちゃったね」

士郎「いいさ、たまには」

日が落ち、薄暗くなった道を歩く

お互いに手を繋ぐ

誰もいない暗い道だからできる、恋人同士の行為

大河「士郎はさ」

大河「学校を卒業したら、どうするの?」

士郎「どうって、それは」

じいさんのような、正義の味方に

でも、具体的に、何になるのか?

魔術の道、裏の世界に入るのか?

藤ねぇを、置いて?

大河「時々思うの、士郎が将来何になるのか」

大河「でも、ぜんぜん想像できないの」



だからこう考えちゃう

士郎が、どこか遠くへ行っちゃうんじゃないかって




大河「私は、もう少し先生をやりたいけど」

大河「ほんとはね、士郎のお嫁さんにって思ってる」

士郎「俺と、結婚?」

大河「だめ?」

上目遣いで首をかしげる

少し、涙がにじんでいる

俺は、藤ねぇを置いて、夢を追いかけるのか?

じいさんなら、何て言ってくれるだろうか

夢か、大切な人か

どっちを選んだら良いか




――――キリツグ




ふと、脳裏に今にも泣き出しそうな、イリヤの顔が浮かんだ

士郎「俺は……」



「あれ、いけないんだぁ」


士郎「!!?」

やけにじっとりとした声が後ろから浴びせられる

「もうお日様も沈んだのに、なにをしてるんですか?」





桜「先輩」





士郎「桜」



俺は、正義の味方という言葉に酔っていたのかもしれない

容赦なく襲いかかる現実

非常な現実



藤ねぇ

理想

現在

未来

過去

何かを切り捨て、何かを得る

そんな決断を、俺は迫られる




切嗣『士郎よ、青春とは聞こえは良いがそんなに甘いものじゃない!』

切嗣『青春とは果てしなき戦いあるのみ!』

栄光の後にも!

敗北の後にも!

人の生きる限りなんらの差別なく戦いあるのみ!




戦い

俺の、真の戦いは、ようやく幕を上げたばかりだった




  


   




    幸福は肉体の健康によろしい だが精神力を発達させるのは心の悲しみである
    
               ――プルースト――









修羅場編は以上で終了

いよいよ最終章

天翔編

藤ねぇルートは五秒で終わる?

知らんよ、そんなことは

ぶっちゃけ見切り発車で始めたこのSSも気づけばこんなになって

これからも最後まで容赦のない感想をお願いします

うっし! 小ネタのイメージが固まった!!


おまけ2

地獄! 切嗣道場!!



おっす! オレ 衛宮 士郎!!

正義の味方を目指す高校二年生だ!

・・・正確には、「だった」が正しい

そう、オレこと衛宮 士郎は「死んだ」

それはもう盛大に死んだ

何故こんなことになってしまったのか

理由は簡単

オレがセイバーどころか、遠坂にまで手をだしてしまったせいで

藤ねぇの目から光が消えた

迫る無言の藤ねぇ

その両手に握る包丁

「私といっしょに天国へ逝こ?」

そんな台詞が聞こえた頃には、オレの心臓に刃が突き刺さっていた

・・・まぁ、自業自得というやつだ

そして、オレは天国らしき所に辿り着いたのだが




オンボロ長屋




士郎「……」





古き良き昭和のかほりがする、木造建築

はて、オレはタイムスリップでもしたのだろうか?





「よく来たな、士郎」





――――聞き覚えのある、懐かしい声

「お前が来ることはある程度予想はしていた」

「もっとも、こんな理由で来るとは思ってもみなかったがな」

士郎「あ、ああ!?」





切嗣「久しぶりだな」




――――じいさん






ずっと、会いたかった

不可能だと分かってても、そう願った

オレがこの世で最もあこがれた人物が

今、目の前に――――!




士郎「じい、さん」

切嗣「士郎よ」

士郎「じいさーーーーーーーーーん!!」

目に涙を浮かべて駆け寄るそんなオレを迎えるかのように、じいさんはその大きな右手を振りかぶり――――





――――振りかぶり?

切嗣「このたわけがぁあああああああああああ!!!」

スパァアアアアアアアン!

士郎「はぶぅお!?」

鬼の平手打ちがオレの頬を勢い良く張り倒した

あー、これも懐かしい

よく張り倒されたっけか

火花を散らしながら目を開けるとそこには、

最大級の怒りの形相をしたじいさんの姿

あ、やばい。オレ、死んだ

もう死んでるけど


切嗣「志に殉じて死ぬならばともかく、痴情の縺れで命を散らすとは・・・」

切嗣「しばらく見ん間に随分と腑抜けたようだな? 馬鹿息子よ」

士郎「じ、じいさn」

切嗣「言い訳は無用!!」

切嗣「どうやら久しぶりにしごきが必要と見える」

切嗣「その腑抜けた根性、叩き直してやる!」

切嗣「弟子甲号!!」

舞弥「はい」

いつの間にかじいさんの側に見慣れぬ黒髪の女性が現れた

なぜか体操服にブルマという小学生みたいな格好をしている

切嗣「アレを準備せい。この馬鹿息子の性根を叩き直すには丁度良い」

舞弥「了解」

なんだろう、猛烈に嫌な予感がしてきた

士郎「じ、じいさん、これは・・・?」

ギリギリギリギリギリ!!

切嗣「根性叩き直しギプス!!」

切嗣「気をしっかりもたんと全身が潰れるぞ!!」

そう、全身くまなく装着された、キ●ガイ染みた特製ギプス

油断するとほら・・・なんだろう・・・!!

別次元のオレがバーサーカーにやられた、「行儀の良い潰され方」・・・!!!

あれになりかねん、というかもうなる!!

切嗣「そして、これがホムンクルスの穴のしごきを参考に作り上げた・・・!」



きゅいいいいいいいいいいいいいいいん!!!




切嗣「回転鋸つきルームランナー!!」




士郎「」

切嗣「さあ、走れ」

殺す気かじいさん!?

もう死んでるけど

士郎「無理無理無理!? さすがにこんなモノつけて走るなんて・・・!」

切嗣「さっさとはじめんかぁああああ!!」つ竹刀

ばしぃいいいいいん!

士郎「わかりましたあああああああ!?」

きゅいいいいいいいいいいいいいん!!!

士郎「うぉおおおおおおおおおお!!!」

少しでもスピードを緩めたら、バラバラだ!?

士郎「ふぉおおおおおおおおおお!!!」

切嗣「ほう、少しは成長したみたいだな」

そうだ!! オレだってあの頃のオレとは違う!

じいさんにみせてやる!このオレの真のちかr

切嗣「弟子甲号、スピードを上げろ」

舞弥「了解」




士郎「」

三十分後

士郎「し、しぬ、ぜったいに、しぬ」フラフラ

切嗣「まだまだいけるな」

士郎「も、ほんと、むり」

切嗣「聞こえないな」

士郎「だれか、たす、たす」

士郎「ふじ、ねぇ」

切嗣「ん、なんだ士郎。弟子ゼロ号に会いたいのか?」

士郎「へ?」

切嗣「そんなに会いたければ呼んでやろう!」

切嗣「来い! 弟子ゼロ号!!」







大河「……」

士郎「ふ、藤ねぇ・・・!?」

じいさんに呼ばれて現れたのは、ジャージにブルマ姿の藤ねぇ

だけど、これは

士郎「若い・・・!」

そう、若いのだ

まるで初めて会った時のような若さ

自分と同い年位の、ポニーテールの美少女

士郎「で、でも、なんで」

大河「士郎、お姉ちゃん、きれい?」

・・・ん?

大河「私もみんなみたいに若かったら、士郎も浮気なんかしないよね?」

これは

この藤ねぇは、まさか

大河「士郎、今度は誰にもじゃまされないね?」レイプ目

藤ねぇえええええええええええ!?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月07日 (木) 19:24:32   ID: 7BTOLtWD

一徹より酷いとか笑える
士郎を主役にするSSって必ず切嗣をカスにするよね、所詮は士郎のおまけが切嗣だから仕方ないけどさ

↑何ほざいてんだこのキチガイ?

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