士郎「受験戦争」 (216)

士郎「爺さん、爺さん」

切嗣「ん、ああ何だい士郎?」

士郎「ボッーとしてるからさ、寝るならちゃんと布団で寝ろよ」

切嗣「ごめんごめん……士郎、僕は若い頃、目指していた夢があるんだ」

士郎「夢?」

切嗣「ああ。それはね、大学に入って充実したキャンパスライフを送る事だったんだ」

士郎「へえ」

切嗣「けど、それは叶わなかった。大学というのは、大学生というのは、何も勉強するだけの場所じゃない。キャンパスライフという名の青春を謳歌する場所でもあるんだ」

切嗣「でも、それは期間限定なんだ。キャンパスライフを謳歌出来るのは期間限定なんだ」

切嗣「キャンパスライフは年齢制限があるんだ。それは暗黙のルールにも似てるんだよ」

時々、走馬灯のように思い出す事がある。

切嗣「また…不合格……!?」プルプル

ウェイバー「ご、合格してる!?」

イスカンダル「ほれ見ろ。余が教えてやったんだ。お主なら合格して当然の事」

龍之介「やったぜ旦那ァ! 合格したぜ!」ウキウキイェイイェイ

青髭「やァりまァしたね龍之介!!」ウキウキイェイイェイ

バンザーイ! バンザーイ!

切嗣「あ…あ…」プルプル

周りの歓喜が苦痛に感じる。声だけじゃない。笑顔、嬉し泣き、喜びを表現してるかのような身体の震え、ガッツポーズ、眼に映るもの全てが苦痛に感じる。

そしてその他者の幸せが、僕に自分だけが取り残されたかのような孤独感を与える。

切嗣「うあ…うあ…」

僕は何時間、机と向き合ったのかな? 何時間、椅子に座りつづけたのかな?

僕はどこで勉強の仕方を間違えた? どこで参考書の選択を間違えた? どこで予備校の選択を間違えた?

●●年、■■年、▲▲年の各大学の傾向と対策の本を買って満足しただけで放置した?

何度幾つもの参考書や問題集を買ってはやらず、放置した?
買ったプラモデル(ミニ四駆やビーダマンも可)を作らず溜める。通称『溜めプラ』の受験版を何度してきた?

何度少しばかりの息抜きのつもりで一日中休んだ?

切嗣「ああ…ああ…」

僕は何度繰り返したのだろう?

何度予備校に通ったのだろう?

どれ程の金を受験に注ぎ込んだのだろう?

受験申請する時、受付の人に「あれ? この人また受けるの?」と、何度思わせたのだろう。

一年あれば充分。学校行きながらの勉強より簡単だ、と余裕ぶり、後半年、後三ヶ月、まだ一ヶ月あると言いながら結局大して勉強せずに試験を受けた?

何度同じ学校の同じ警備員を見た?

何度同じ学校の教室で同じ教員を見た。

何度同じ学校の似たような試験問題を見た?

何度リスニングのICレコーダーにメモリーカードとイヤホンを挿し、赤く光るまでボタンを押し続けた?

何度似たような試験問題に苦戦した?

何度自己採点するのが恐くてやらなかった? やる事もあったけどさ。

何度、電話での結果発表、直接大学に出、向い、て番、号を確、認し…て、膝を…腕を……床に………地面に………………

切嗣「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

切嗣「あぁあああ!! あぁあああ!!! うぇああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

切嗣「ふざけるな! ふざけるな!! バカヤロオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

膝がコンクリートに着いてた。両腕でコンクリートを叩いてた。涙と鼻水がコンクリートに落ちてた。……落ちた?

そうだ、僕は落ちた。大学に落ちた。また受験に失敗した。

切嗣「バカヤロオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

怒号ともいえる僕の叫びは、受験を生き抜いた者達の幸せに満ちた声を打ち消した。
彼らはさっきまであんなにはしゃいでいたのに、まるで固有結界に閉じ込められたかの様に驚き、空気をぶち壊した原因である僕を見た。

別に気にはならない。僕にはもうどうでもいいんだから。周りの事なんか知らない。

もう、疲れた。

切嗣「……腕が痛い」

六浪目の失敗で、僕は大学に入る事を完全に諦めた。

――

――

切嗣(思えば、僕は大学受験を舐めてたな)

切嗣(試験の休み時間にオナニーしたり、携帯をいじったり、試験への姿勢が酷すぎる)

切嗣(浪人中、鏡で自分の顔を見る度に、自分の目ってこんなに死んでたか? こんなに顔が老けてたか? と思ったな)

切嗣(推薦やAOもやらなかったなあ…)

士郎「爺さん!」

切嗣「ん?」

士郎「じゃあ俺が代わりになってやるよ」

士郎「俺が爺さんの代わりに大学生になってやるよ!」

切嗣「……それは頼もしいな」

数年後

凛「今日は私達専属の家庭教師が来るわ」

士郎「いよいよかあ」

桜「どんな人なんでしょう?」

慎二「まあ、僕は本当はいらないけど桜が必要としてるみたいだし、せっかくだから僕もね」

凛「家庭教師を雇って、もっと力を付けて、そしてこの『アゾットのペン』で受かってみせるわ!」シャキン!

ピンポーン

桜「! 来たかもしれません」

ガチャ

「「「失礼します」」」

士郎(この人達か)

セイバー「エミヤシロウの家庭教師のセイバーです」

アーチャー「遠坂凛の家庭教師のアーチャーだ」

ライダー「間桐家専属の家庭教師のライダーです」

桜「よろしくお願いします」

慎二「へー、美人だね。ほら座って座って」

士郎(この金髪の子が俺の家庭教師? 同い年に見えるけど)

セイバー「? 何か?」

士郎「いや、何でもない。はじめましてセイバー。俺の名前は衛宮士郎。士郎でいい」

セイバー「はい。よろしくお願いします。シロウ」

凛「よろしくね。アーチャー」

アーチャー「……ああ」ジッ

凛(! 士郎を見てる?)

セイバー「あの、シロウ」

士郎「何?」

セイバー「自己紹介したばかりで申し訳ないのですが、シロウの親戚に――」

アーチャー「死ねぇ! 衛宮士郎!!」

士郎「え?」

ガキィン!

アーチャー「チィ!」

セイバー「アーチャー、何を!?」ギリギリ

アーチャー「どけセイバー! 私はこの男を殺さなければならない!」

士郎「なっ……」

セイバー「させません!」ギリギリ

アーチャー「いつ殺るの? 今でしょ!」ギリギリ

桜「先輩!」

ライダー「駄目です、下がって」ガバッ!

ギリギリ、ガキィン!

セイバー「…」ジリジリ

アーチャー「…」ジリジリ

慎二「し、士郎大丈夫か?」

士郎「あ、ああ。な、何なんだよアンタ!?」

凛「アーチャー! どういう事?」

アーチャー「……」

凛「答えて!」

セイバー「剣を退けアーチャー!」

ライダー「質問に答えなければ二対一になりますが?」ジャキ

アーチャー「……不意打ちが失敗した時点でもう駄目か」スッ

アーチャー「良いだろう。教えてやる」

>>22
異例の全員合格もあるかも?

あと慎二は衛宮って呼ぶ

アーチャー「I am the bone of my stationery
――― 体は文房具で出来ている

Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で、心は硝子

I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗

Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく

Nor known to Life.
ただの一度も理解されない

Have withstood pain to create many papers.
彼の者は常に独り紙の丘で勝利に酔う

Yet, those hands will never hold anything.
故に、その生涯に意味はなく

So as I pray, UNLIMITED STATIONERY WORKS.
その体は、きっと文房具で出来ていた」

セイバー「これは、固有結界……!?」

アーチャー「私の宝具であり固有結界の無限のペン製(アンリミテッドステイショネリーワークス)だ」

>>26
しまった!次からは気をつける。

凛「なんて数の鉛筆、シャーペン、消しゴムなの!?」

ライダー「修正液、定規、ボールペン、ノートまで」

アーチャー「文房具だけではない」

慎二「み、見ろよあれ!」

桜「! 参考書や問題集が沢山……」

凜「古文、現代文、世界史、日本史、地理、公民、数学、化学、生物、物理、英語、センターその他諸々……文系、理系、受験に必要なのは全て揃ってるわ」

セイバー「河●塾、代●ミ、東●ハイスクール、その他諸々から出版されてる参考書…どれも似たり寄ったりのばかりだ。英単語、英熟語の本だけでも十冊以上もある!?」

アーチャー「宝具名こそ文房具だが、この空間には受験に必要な物なら殆ど揃っている」

士郎「模試や大学の傾向と対策まである…20XX年の模試? 未来の模試!?」

士郎「お前は一体!?」

アーチャー「……私は、未来のお前だ。衛宮士郎」

士郎「……は?」

アーチャー「その前に固有結界を解く。発動させながら長々と説明するのはさすがの私でも辛い」シュウウウン

慎二「あ、戻った」

凛「未来の士郎ですって?」

桜「言われてみれば先輩に少し似てるかも」

士郎「お前が未来の俺だって!?」

アーチャー「ああ」

士郎「そんな、まさか…」

アーチャー「嘘ではない。養父である衛宮切嗣との約束を忘れたか? 大学生になるという約束を?」

士郎「……!?」

セイバー「切嗣!?」

士郎「爺さんを知っているのか?」

セイバー「ええ、かつて私は」

アーチャー「話は後で良いだろうセイバー。先に私から話させてくれ」

セイバー「……分かりました」

アーチャー「士郎、これから話す事は未来でお前が体験する事だ」

アーチャー「何故私がお前を殺そうとしたか」

士郎(アーチャー)「よーし、受験まで二年近く、張り切って行くか」

凛「意気込みは良いけど学校の授業も怠らないように」

士郎「うっ」

桜「でも学校の授業はそのまま受験にも繋がるから学校の勉強さえちゃんとしていれば大丈夫だと思います」

凛「確かに一理あるわね。でも桜、学校の勉強だけじゃ大学には合格出来ないわ。それでどうにかなるなら皆一流の大学に入ってるわよ。だからと言ってしないのも駄目だけど」

凛「大学の傾向と対策も考えなきゃいけない。問題だってウチの学校以上難しさが出て当然」

士郎「だから今やってる問題以上に難しさのも簡単に解けなきゃいけないんだろ?」

凛「そうだけど士郎はまず基本をちゃんとしないと」

士郎「はい」

そして、受験までの二年弱、凛の厳しい指導と桜の支えと藤ねえの応援によって俺は、いや私は合格し……………………………なかった。

士郎「二人ともゴメン…」

凛「ううん。私の方こそ力になりきれなかったわ。ごめんなさい」

桜「謝らないで下さい先輩。先輩は十分頑張りました」

士郎「二人とも…」

凛「まあこれで終わりじゃないんだし、来年またやればいいじゃない」

桜「そうです先輩! また来年頑張りましょう!」

士郎「……そうだな。俺、また来年挑むよ。来年こそ志望校に合格だ!」

それが迷宮への入口だった。

士郎「凛は外国の大学に行っちゃったか。でも凛にばかり頼っていられない。俺自身の力でたどり着かないと」

桜「先輩、一緒に頑張りましょう」

士郎「ああ、よろしく桜」

士郎「そういえば桜は志望校はどうするんだ」

桜「せ、先輩と同じ大学にしようかと……///」

士郎「そうか」

浪人とはスタートが何よりも重要となる。そのスタートでつまずいたら巻き返す事は奇跡でも起きない限り不可能だと思った方がいい。
最も、そのスタートでつまずかなかったとしても、途中でだれてしまうと全てが台なしになってしまう可能性もあるがな。

~Fate/one more time~

一浪目「時間はたっぷりあるじゃないか」

士郎「浪人しちゃったとはいえ、今まで勉強した分は頭にあるし、最初の月くらいはゆっくりやるよ」

桜「最初からスローペースで大丈夫ですか先輩?」

士郎「大丈夫、って言っても桜は学校通いながらだもんな。俺だけゆっくりは駄目か」

士郎「俺も勉強教えるからさ。困った時は何か言ってくれ」

桜「ありがとう先輩。でも先輩、私に構ってくれるのは嬉しいんですけど、それだと予備校に通う事が出来ないんじゃあ…」

士郎「予備校には行かない」

桜「え?」

士郎「予備校は頼もしいけど金が掛かるのがキツイから。何より予備校は基礎からだ。さすがの俺も基礎は覚えてるから必要ないかな」

士郎「それだったら家でやった方がいい」

桜「い、一応、最初から応用をやるコースもありますけど、先輩がそう言うなら」

士郎「家の中なら誰にも迷惑かけないしな」

私は本当に油断していた。
桜に勉強を教える? 何を偉そうに。そもそも本当に人に勉強を教える事が出来る奴は受験に失敗したりしないのだ。

衛宮邸

士郎「早速去年の参考書と問題集を見直すか」

士郎「うーん、とは言ってもやった部分は覚えてるしな。持って帰った大学の問題を見てみよう」

士郎「……この分からなかった問題をこうすれば解けたのか。本当にしくじったなあ」

士郎「……一応やるにはやったけど、しっくり来ないな」

士郎「まだ一日目だし、去年は勉強で忙しくて見れなかったYoutubeでも見よ」カチッ

ん、士郎が凛を凛と呼ぶのか?遠坂じゃなかったか?
一人称がどうにも不安だのう

>>44
あー馬鹿だ!またやった。遠坂だったよ確かに。ごめん本当に気をつける。

…………………………

士郎「! もうこんな時間か」

オニイチャーン! ユウショクデキタヨー!

士郎「分かった。今行く」

…………………………

士郎「ふう、腹が一杯だ」

士郎「……勉強、どうしようかな」

士郎「そもそも遠坂のしごきでも合格出来なかったんだ。これはどこか根本的に間違ってるって事だよな?」

士郎「……よし」

士郎「自分に合う参考書と問題集を明日探しに行こう!」

勘違いとは、思い込みとは実は誰もが持ち合わせている魔法ではないかと私は考える。
それも自分自身にしか効かない最悪な魔法だ。

士郎「確かこの辺りに…」

確かに相性もある程度は関わる。だがそれはたいした問題ではない。

士郎「! あった」

凛の指導は決して間違ってなかった。私が馬鹿だったのだ。手順を間違えたのだ。

※地の文の語りはあくまでもアーチャーだから呼び方が凜でも大丈夫だよね?

どんなに刀を造るのが下手な刀鍛冶でも、刀の精製の仕方が分かっていれば、一応形にはなる。

どんなに難しいプラモデルでも、説明書をちゃんと読めばいつかは完成はする。例え出来が悪くてもだ。

だが手順を間違えれば意味がなくなる。

パソコンの外装を先に完成させて中身の頭脳を後にするか?
それでは中が空っぽだ。

スポーツをする時、準備体操を後にするか?

ドミノ倒しを作る時、ゴール地点から最初にドミノを並べるか? あるいは中盤あたりの部分から並べ始めるか? 普通はしない。

ズボンを履いた後にパンツを履くか? コートを着た後にシャツを着るか? 帽子→パンツ→マフラー→シャツ→靴→ズボンの順番で身につけるか?

風呂の時に最初に風呂に入り、その後に頭を洗うか? ……そういう人間もいるかもしれないな。

食事の時に『いただきます』と言うよりも先に飯を食うか?

セックスで挿れるのが先で前戯が後になる……場合もあるかもしれないな。

とにかく私は手順を間違えていたのだ。基礎と応用の学び方の順番がごっちゃになっていたのだ。

結局はやり方、順序、そしてやる気の問題なのだ。

士郎「古文は……難しいな。これじゃ駄目だ」

士郎「オッ、この本は分かりやすいぞ!」

士郎「この英単語集、俺が持ってるのよりも分かりやすいじゃないか!? これならすぐに覚えられるぞ」

士郎「『分かりやすい数学』、『分かりやすい化学』…難しそうな問題も入ってるけど解ける気がするぞ!」

士郎「物理の基礎編と応用編があるのか。うーん、せっかくだから両方買うか」

士郎「この現代文の問題集は俺に合いそうだ」

士郎「ついでにセンターも買っとこう。リスニングは必須だ!」

士郎「ちょっと重いな…世界史に生物、まだ他にも必要なのがあるけど明日にしよう」

ピッ、ピッ、8590エンニナリマス。カバーハオカケニナリマスカ?

アリガトウゴザイマシター

士郎「金が意外と…まあ予備校よりマシか」スタスタ

一週間後

桜「最近先輩の家に行ってなかったから久しぶりだなぁ」トコトコ

オジャマシマース

桜「先輩、失礼します」コンコン

『どうぞー』

桜「先輩、お久しぶりです」

士郎「久しぶり」

桜「! 先輩、机にあるその本…」

士郎「ああ、買ったんだ。参考書と問題集」

桜「え、でもそれなら去年のが家に」

士郎「それなんだけど、どうも去年のは俺には合わないらしい。だから新しいのを買ったんだ」

士郎「読んでみると分かりやすくてさ、これなら頭にどんどん内容が入ってスラスラ問題が解けそうな気がするんだ」

桜(気がする…)

士郎「志望校の為の教材は全部用意出来た。センター対策用の本もあるぞ」

桜(センターのまで…参考書もあるのに内容が被らないのかな?)

桜(そもそも姉さんがいた頃に…)

凛『いい? 士郎。センター対策はもちろん大事だけどセンターに偏りがちの勉強は駄目よ。それだと逆に難しい問題が解けなくなる可能性が出てくるから』

凛『一般入試も受けるとなると、そこら辺の融通は効かせないといけないわ』

桜「(……先輩には悪いけど言わないと)あの」

士郎「どうした?」キラキラ

桜「い、いえ(駄目! あんな純粋な目をした先輩に言える筈がない!)」

士郎「そうだ桜、俺さ、古い参考書とかはもういらないからもし桜が必要だったら持って帰ってもいいよ。もしかしたら桜に合うのがあるかもしれないし」

桜「あ、ありがとうございます先輩。でも多分大丈夫です」

士郎「そっか。必要になったらいつでも言ってくれよ」

桜「はい…(こんなにたくさん、全部できるのかな? でも先輩が今からやれば大丈夫だよね)」

オジャマシマシター

士郎「さて、まず何から始めようか」

士郎「こうもいっぱいあると迷うな。うーん」

士郎「よし、まずは苦手だった英語からだ」

士郎「英語は単語や文法が駄目だったからなぁ。まずは参考書からだ」

ペラ、ペラ

士郎「……」ペラ、ペラ

士郎「へー」ペラ、ペラ

士郎「ふーん」ペラ、ペラ

士郎「……やってけばそのうち頭に入りそうだ」

士郎「次はこの英単語集だ」

士郎「……絵が描いてあって勉強への抵抗感があまりないのが良い」

士郎「次は漢文。こいつも試験の時中々解けなかったんだよな」

士郎「『受験はこの本一冊で十分!』、頼りがいがありそうだ」

ペラ、ペラ

士郎「……ちょっと難しそうだけど読んでればそのうち理解出来そうだ」

ペラ、ペラ

士郎「一通り目を通したけど、何から始めるか」

士郎「いや、まだ時間はたっぷりあるし、今日はもうゆっくりしよう」

士郎「漫画でも読むか」

そんな事を繰り返して三週間が経った。

士郎「ちょっと油断したな」

士郎「よし、まずは予定表を書いてやる気を起こすか」

カキカキ

士郎「……出来た」

士郎「朝の八時から四時間、休憩は昼のご飯を含めた一時間、その後五時間勉強、そして夕食を含めた一時間の休憩。さらにその後二~四時間の勉強、休日は一日だけ」

士郎「学校に通ってる時は授業と受験勉強同時だったからなぁ。でも今は受験だけに専念出来る」

士郎「遠坂のしごき以上に厳しいけど、これなら志望校どころかハー●ードにも合格出来そうだ!」

予定表を作って満足し――

士郎「今はもう昼だからこのスケジュールは明日からやろう。パソコンでもやるか」

明日の予定を一週間延ばしてしまった。

士郎「一ヶ月何も勉強しなかった…」

桜「先輩……」

大河「士郎…」

士郎「俺、慢心してるのかも。もう五月だし」

桜「大丈夫ですよ! まだ一月しか経ってません。巻き返すには十分過ぎる程時間があります!」

大河「全く士郎ったらー、ほらっ、気合い注入!」バシッ!

士郎「ウッ!そ、そうだな。まだ大丈夫だよな。うん、行ける!(ちょっと背中痛い)」

士郎「桜も励ましてくれたし、藤ねえからも気合いを注入してもらったし、始めるか!」

士郎「今日は、英語、現代文、数学だ」

三時間後

士郎「よし、ここまで」

オニイチャーン! ユウショクヨウイデキテルヨ-

士郎「分かった。今行く」

夕食後

士郎「休憩時間もそろそろ過ぎるし、数学やるか」

ペラ、ペラ、カリカリ

士郎「……何だろう、ブランクというか何というか、去年やって覚えた筈の公式を忘れてしまってる。四月から始めなかったからかな?」

士郎「しかも今日は夕食を食べ過ぎたせいか頭がボッーとするな」

士郎「今日はもうやめようかな」

結局、夕食後の勉強は一時間も持たなかった。
が、その後私は漫画を読んだ。
勉強で働かない頭は読書()で冴えた。

翌日

士郎「しまった! 昨日の英語と現代文の復習忘れてた!」

士郎「遠坂がいた頃はあれだけ注意してたのに…駄目だ、たるみすぎだ俺」

士郎「こんなんじゃ駄目だ! もっと気合いを入れないと!」

それから私は、一週間は真面目に勉強した。いや、続いたの方が正しい。

チュンチュン、チチチ

士郎「ん、もう朝か」

士郎「怠いな。時間は……八時半!? やっべ!!」

タタタッ!

リズ「オッー、起きたか」

士郎「ごめん。起きれなかった!」

リズ「イリヤはもう学校」

セラ「イリヤさんがあなたの事を起こしに行ったみたいですけど、全然起きなかったみたいですよ。覚えてません?」

士郎「……そういえばそんな記憶もあったような無いような」

セラ「私も起こそうかと思ったんですけど、昨日は夜遅くまで勉強してたみたいですし今日くらいは寝かせてあげようと思いまして」

士郎「そうだったんだ…」

セラ「シロウの分の朝食はもう用意してありますから」

士郎「ありがとう…」

勉強を続けるには最低でも三つ条件がある。

士郎「ハァ、ちょっと無理したのかな」

士郎「とにかく、遅れた分を早く取り戻さないと」

カリカリ

士郎「駄目だ、寝坊したせい頭が働かない」

一つ、無理なスケジュールを作らない。

士郎「スケジュール通りにならないなぁ。身体も怠い。変えた方がいいのか?」

ぶっ続けなど、そんなもの続くわけがない。身体が壊れる。

士郎「次の教科は、えっーと」

一つ、参考書や問題集は買い過ぎない。特に問題集。

士郎「まだ問題集一冊も制覇してないな。問題集は一冊だけじゃ不安だからあらゆるパターンを想定して各教科のを数冊買ったけど…」

一度に同じ教科の問題集を何冊も買ったらそのうち放置してしまう。基本的に一冊だ。また買うのなら一度その問題集を全部終わらせて物足りなくなったら買え。

そして最後の条件、一つ――

士郎「少し横になるか。そうすれば調子も元に戻る筈」

予備校に行かない人間は、非常に強い意思を持ってない限り…

士郎「あー、楽だ」ゴロゴロ

家で勉強するな。

士郎「ベッドの中は良いよな~」

士郎は布団…

家(自分の部屋)というものは、漫画、ゲーム、携帯、パソコン、自慰などといった誘惑の塊であり、何よりそこは人にとって安息の地であるのだ。
どんな戦士も普通は、心も身体も休める場所でわざわざ鍛練などしない。するならそれに見合った場所で行う。

勉強も例外ではない。行うなら家ではなく図書館かそれに準する場所で行うべきだ。

しかしそれでも困難を極める事がある。行くまでの、はじめの一歩が中々手ごわい。

『図書館? うーん、わざわざ行かなくても家で出来るし、もうちょっとやる気だせば平気だって』と言ったり思ったりを繰り返して結局行くのに三日くらい掛かる。

さらに、図書館などは予備校と違い強制ではない。故にいつか行くのが面倒になり、行かなくなる場合も多い。
まあ、行く意思の強さは家でやるよりも強さを必要としないだけマシだが。

私は図書館に行かなかった。気がつかなかった。気がつけなかった。学生の頃、図書館(図書室)は学生にとって身近過ぎたから。
最低な言い訳になるが、凛のしごきが優秀であるが故に自宅学習の恐ろしさを知らなかったから、受験勉強の時は大体凛がいてくれたから、図書館の抑止力に気がつかなかった。

本当に、私は愚かだった。

>>67
家はプリズマイリヤの方なんだけどあっちでも士郎は布団だった? そうだったらすみません。

浪人生にとって家とは堕落、怠惰の固有結界。
一度それに閉じ込められるとそこから脱出するのは困難を極める。

そしてそれに嵌まった者は決まってこの台詞を口にする。

士郎「今日はもう駄目だな。よし!」

士郎「明 日 か ら 頑 張 る か」

それを何度も繰り返し、浪人一回目の最初の模試は悲惨だった。

追記、去年の知識などもう消えていた。

士郎「うわっ…俺の偏差値低すぎ……!?」

士郎「まずい、まずいぞ。このままじゃまた落ちる」

士郎「勉強しよう。今日は図書館でだ」

トボトボ

士郎「全部席埋まってた」

士郎「図書館って集中は出来るけど席が埋まってる時があるのが欠点なんだよなー。あと図書館が休みなのを忘れて行っちゃう時もあるし」

士郎「他の図書館も空いてなかったし、家でやるか」

だがこういう時、埋まってたという期待を外された事によりテンションが下がり、家では長続きはしない場合がある。

私は決まって長続きしなかった。

翌日

士郎「今日は図書館空いてればいいな」

桜「あ、先輩」

士郎「桜?」

桜「お出かけですか?」

士郎「ああ。図書館に行こうと思って」

桜「そうなんですか。あの、勉強の調子はどうですか?」

士郎「あ、ああ大丈夫だ。問題ない」

桜「良かったぁ」

士郎「ところで桜、隣にいるその眼鏡のお姉さんは一体?」

桜「あ、この人は私の家庭教師のライダーです」

ライダー「どうも…」ペコリ

士郎「家庭教師?」

桜「実は私、この前の模試の結果があまり良くなくて、みっともないんですけど、中の下に近い中の中だったんです。それで家庭教師を雇う事にしたんです」

士郎「へえ…(俺なんて去年あれだけやったのに下の中だよ)」

桜「それで今、ライダーと一緒に今日の夕食の買い物に行く途中なんです」

士郎「学校と受験で忙しいのに桜は偉いなあ。 でも何で家庭教師も一緒なんだ?」

ライダー「私は住み込みの家庭教師ですから」

桜「でもわざわざ手伝わなくてもいいのに。契約にないんだから」

ライダー「桜、これは私がそうしたいだけですから気にしないで下さい」ハアハア

士郎(息遣いが荒くないか?)

桜「私、最近先輩に会ってないからちょっと心配だったんですけど大丈夫みたいで安心しました」

桜「私、先輩に追い付くように頑張りますから!」

士郎「(いや、追い付くどころかもう抜いてるから…)ああ、頑張れよ!」

サヨウナラ-

士郎「何やってんだよ俺…何後輩に見栄を張ってるんだよ…しかも桜に…」

士郎「本気でやばい!」

士郎「でも、住み込みの家庭教師かあ」

士郎「……予備校よりはマシかな」

そして私は家庭教師を雇った。

セイバー「私の名前はセイバー。シロウ、今日からよろしくお願いします」

セイバー「これは…一回目の模試が終わってこの結果では少しばかり骨が折れますね」

セイバー「ですが安心して下さいシロウ。この私が必ずやシロウを志望校へ合格させてみせます」

凛程ではないにしろ、セイバーの教え方は良かった。

家の中でも程よい緊張感があり、だらける事は少なくなった。
お陰で勉強も進んだ。

教え方では凜の方が上な筈なのに、何故かセイバーとやってる方が伸びてる気がした。
相性の問題だろうか? その時点で基本と応用の順番を正しくやっていたからだろうか?
いずれにせよ、勉強は進んだ。

時々イリヤが妙にセイバーに対して警戒心を発していて、『お兄ちゃんがセイバーとあんな事こんな事いっぱいあるのよ~な展開になっちゃう~~~~!!』などとよく分からない事を言ってたが私もセイバーも気にしなかった。

ただ、彼女を雇った事によって、私が買った参考書や問題集の中にやる必要性のないモノも出てきた。私は無駄買いしたなと思った。諭吉を何人手放したか分からない。

だがそんなモノはもはや微々たる問題に過ぎなかった。

彼女がいれば私は本当に合格出来そうな気がした。

だが、私は彼女を雇った事を後悔する事になる。

セイバー「おかわり!」

セラ「ま、またですか。これで五杯目ですよ」

セイバー「育ち盛りですから!」モグモグ

士郎「育ち盛りってセイバーはもう成人し」

セイバー「細かい事は気にしちゃ駄目です!」モグモグ

イリヤ「どうしてそんなに食べても太らないの?」

セイバー「育ち盛りですから!」モグモグ

リズ「胸には行ってないけど」

セイバー「こ、細かい事は気にしちゃ駄目です!」モグモグ

セイバー「みそ汁もおかわり!」ズズッ

家庭教師を雇う時、意外と契約料金は高い。だが彼女の場合は親切なお値段たった。

だが食費が問題だった。セイバーの胃袋はブラックホールだった。この世全ての悪を丸呑み出来そうな胃袋だった。

食費が…かさんだ。

カチャ、カチャ、カチャチャチャチャ!

リズ「セラー、私のアイスは?」

セラ「そんなのありません! 今計算中ですから」カチャチャ

セラ「うう、セイバーさんが来てから我が家の家計は火の車。食費が七倍にまで跳ね上がってる」

セイバー『お寿司、特盛です』

セイバー『マルゲリータ! クアトロチーズ! ファミリースペシャル! 激辛焼肉ピザ! コーンと海老の盛り合わせ! どれもサイズは一番大きいのを!』

セイバー『今日はチャーハンが食べたいです!』

セイバー『ハンバーグ! ステーキ! カレーライス! オムライス! ラーメン! 苺のミルフィーユ! チョコレートケーキ!』

セラ「頭が痛い…電卓を叩く指が痛い…」

士郎「セイバーがあそこまで大食漢だったなんて、これなら普通に予備校に行った方がマシだ」

ガチャ

セイバー「シロウ、勉強の時間です」

士郎「なあセイバー、食事を抑える事は出来ないか?」

セイバー「!? な、何故ですシロウ? 私はどこか問題があるとでも?」

士郎「食費が凄いんだよ! お前が来てから食費だけが異常なまでに掛かって家がやばいんだよ!」

セイバー「うっ、ですがあれでもまだ抑えているんです」

士郎「あれで!?」

セイバー「はい…」

士郎「嘘だろ……そうだ! 確か冬木には早食いや大食いで賞金が手に入る店があったぞ! それなら」

セイバー「実は、私もエミヤ家に負担をかけないようにそのような店にも行きました」

士郎「オオッ!」

セイバー「それでお金を手に入れて負担を軽くしようと思いました」

士郎「うんうん」

セイバー「ですが、何度か行ってるうちに入店を拒まれるようになりました」

士郎「え…」

セイバー「私はブラックリストに入っているのです」

士郎「そんな…そうだ! バイキングならどうだ? あそこなら金は手に入らないけど食べ放題だぞ? 食費も家で食べるより負担は」

セイバー「食べました。ですが食べ過ぎて店の人からは嫌悪の目で見られてます」

士郎「え…?」

セイバー「まだブラックリストには入ってませんがいずれは。全く、何が食べ放題だ。品切れになる事くらい想定すべきだ。矛盾している」

士郎「嘘…だろ…?」

セイバー「ですがシロウ、私もこれからは食費に関しては出来る限り抑えるよう努力はします。家庭教師の誇りにかけて」

士郎「ああ…」

士郎(やばい、やば過ぎる。家庭教師を変えるか? でもセイバーが一番やりやすいんだよな。もし違う人に変えて反りが合わなかったら…でも家計が)

セイバー「シロウ?」

士郎「いや、何でもない。勉強しよう」

夕食

士郎「セイバー、今日はおかわりは一回だけにしてくれ」

セイバー「一回!? シロウは私を飢え死にさせたいのですか?」

士郎「……二回まで。セラがピリピリしてるんだ」

セイバー「うぅ、分かりました。今日に限っては我慢します」

イタダキマース

カチャ、チャキ、カチャ

セラ「……」モグモグ

リズ『モグモグ』

士郎・イリヤ(空気が重い)

セイバー「おかわり!」モグモグ

セラ『キッ!』

セイバー『ビクッ』

セラ「……はい」スッ

セイバー「あ、ありがとうございます」

イリヤ「そ、そうだお兄ちゃん! 今日ね、テストで百点取ったの!」

士郎「す、凄いじゃないかイリヤ!百点なんかそう取れるもんじゃないぞ」

イリヤ「エヘヘ」

セイバー「素晴らしいじゃないですか。イリヤスフィール、その調子で自分を高めるんですよ。もし良ければ私が直々に」

ベキッ!

士郎・イリヤ『ビクッ』

リズ「セラ、箸が折れてる」

セラ「分かってます」

セラ「カケイ、マタショクヒガ」

セイバー「け、契約とは関係ありませんよ。あくまでも私が個人的に」

イリヤ「い、いいよ、大丈夫だから」

セラ「……」モグモグ

士郎・イリヤ(さっきより重い……)

モグモグ、カチャ、チャキ

士郎(何か良い話題は……)

セラ「シロウさん」

士郎「はい!」

セラ「今後の事でお話があるのですが」

士郎「はい…」

ピンポーン

リズ「誰か来た」モグモグ

セラ「誰かしら? はい、今出ます」

アイリ「たっだいまー!」

イリヤ「ママ!?」

士郎「アイリさん!?」

アイリ「ふっふーん♪ 驚いた? 久しぶりイリヤー。士郎もー」

セラ「奥様、帰るならちゃんと連絡して下さい。びっくりしました」

アイリ「ごめんなさい。サプライズでね」

アイリ「イリヤ、今日は切嗣も一緒なのよ」

イリヤ「切嗣も!?」

セイバー「切…嗣……?」

アイリ「! あなた、セイバー?」

セイバー「まさか、アイリスフィール?」

切嗣「ただいまー」

イリヤ「わーい、切嗣ー!」

切嗣「ただいまイリヤ。士郎も元気だったか?」

士郎「う、うん」

切嗣「! お前は…」

セイバー「切嗣……」

切嗣「……チッ」

士郎「え、二人とも知り合い?」

セイバー「ええ、頑固な生徒でしたよ」

切嗣「士郎、ちょっとこっちへ来い」

士郎「な、何?」

切嗣「どうしてあの融通が利かないダメ騎士家庭教師がいるんだ?」ヒソヒソ

士郎「それは、俺の家庭教師な訳で」

切嗣「士郎、あの女だけはやめろ。あいつの教え方じゃ大学には合格出来ない」ヒソヒソ

士郎「え?」

セイバー「そうですか。エミヤという苗字からまさかとは思ってましたけど、まさか、あなたのご子息だったとは思いませんでしたよ切嗣」

切嗣『プイッ』

セイバー「相変わらず私とは話をしないのですね」

切嗣「イリヤ、僕はこれから士郎達と大事な話があるから部屋に行っててくれないかな?」

イリヤ「え、でも」

リズ「イリヤ、行こ」

イリヤ「う、うん」トコトコ

切嗣「……士郎、セイバーは駄目だ。今すぐ辞めさせるか家庭教師を変えろ」

セイバー「シロウはあなたとは違います! 私と三回しか話をしなかった人間とは違います」

切嗣「士郎、この女は自分の下らない誇りだかで満足してるような女だ。そんな奴に合格させる力などない」

セイバー「あなたは、私の教えに耳を傾けようとはしなかった! 出した問題をただやって終わらせ、間違えてる理由や、問題の解き方もまともに聞かなかった!」

セイバー「あなたは生徒としてはあまりにもふざけた態度だった。そんな男が大学に合格出来る筈などない。だがシロウは違う。シロウはちゃんと私の言うことを素直に聞いてくれてる。ちゃんと勉強してくれてる。上達している」

セイバー「あなたが私と合わないからと言ってシロウを私から引き離す理由にはならない!」

切嗣「士郎、いつか絶対にどこかでつまずくぞ。後悔する前に辞めさせろ」

セイバー「戯れ事を!」

士郎「爺さん、俺はセイバーと爺さんの因縁は知らないけど、セイバーは俺には相性が良い先生なんだ」

セイバー「シロウ…」

切嗣「士郎、考え直すんだ」

アイリ「切嗣、これは士郎の問題だし私達がそこまで水を差すような事じゃないと思うわ」

切嗣「アイリまで…」

士郎「ただ…」

セラ「士郎さんだけの問題じゃありません。我が家の問題にまで発展してます」

アイリ「え?」

セラ「セイバーさんが来てから食費が七倍にまで膨れ上がりました」

セイバー「うっ…」

アイリ「セイバー、あなたそんなに腹ぺこキャラだったかしら?」

セイバー「いや、それは…」

切嗣「…ハア、このままじゃ家はいつか一文無しだ」

セイバー「け、契約料金は一般の家庭教師より安い」

切嗣「なあセラ、いくら料金が安くても、食費で家計を圧迫してたら意味がないと思わないかい?」

セラ「確かに」

セイバー「う…」

切嗣「確かにそのくらいの体格なら先入観で食べる量は大体想像出来てしまう。だが実際は見た目にそぐわない大食いか」

切嗣「これじゃあ食費がかさむ筈だ。一般家庭の七倍の食費? 庶民には無理だ」

切嗣「これは新手の詐欺だと僕は思うよ」

セイバー「さ、詐欺だと?」

士郎「それは言い過ぎじゃ」

切嗣「仮に本人に自覚がなくとも、これは酷いとは思わないかいセラ?」

セラ「確かにこんなに掛かるとは思いませんでした」

セイバー「うっ」

切嗣「イリヤが学校に行けなくなったら僕はどうすればいいんだろう? 借金地獄で借金取りに終われる毎日だ。イリヤが幸せになれないのは嫌だなあ」

セイバー「……あの、シロウ」

士郎「……」

反論や抵抗もしようと思ったが、今後の家計を考えるとやはり食費が掛かるのが痛く、私はセイバーを雇うのをやめた。
私自身、雇った事を少し後悔してたからか、あまり抵抗感はなかった。

それから数日後、彼女がいなくても頑張ろうと決心はしたものの、やはりそこは家の中。程よい緊張感が無くなったせいもあり、また怠けるようになった。

また家庭教師を雇おうかと思ったが、セイバーの食費のおかげでしばらく節約状態が続きそんな金の余裕はなかった。
加えて、またセイバーのようにやらかすのではないのかという不安も少しあり、雇う気になれなかった。

代わりに藤ねえが教えてくれる時もあったが、学校の事が忙しくて中々機会がなかった。
それでも藤ねえは「士郎の為なら時間作るから!」とも言ってくれたが、藤ねえが可哀相なのと自分の力で何とかしようという無策から遠慮してしまった。

気を引き締めようと、私はまた図書館に通った。そして休みの日はまたしばらく家の中で怠けて勉強はあまりせず、やった筈の内容をまた忘れて、また復習してまた忘れてまた図書館に通って休んで怠けて忘れて復習して……の繰り返しをして二回目と三回目の模試も悲惨だった。

桜や藤ねえにはあまり会わなくなった。いや、会えなかった。心配かけなくなかったからだ。

イリヤ達にも表向きは普通の顔をした。これも同じく心配させたくなかったからだ。

ジレンマ、無限ループ、ドラマや漫画の世界くらいにしかないと思ってたが、実際に体験すると本当に恐ろしいものだ。

あれだけあった時間は、ビデオの早送りのように過ぎ去って行った。
あれだけあった余裕は、風船が萎んでいくように焦りへと変わっていった。

時間は私の想像以上のスピードで私の意思を無視し、さらに時間は加速し、たいした実力も備わってないままの私をセンター試験の日へとたどり着かせた。

桜「いよいよですね先輩」

士郎「ああ…」

桜「先輩とは別の教室になりますけど、お昼は一緒に食べましょうね」

士郎「そうだな…」

桜「先輩、顔色があまり良くないけど大丈夫ですか?」

士郎「大丈夫。外が冷えてるせいだからかな」

桜「今日は雪は降ってませんけど寒いですしね」

桜(先輩大丈夫かな? 最近先輩には会ってなかったし、会っても何だか元気がなかったし、もしかして本当はあまり実力が…)

桜「あ、入口が見えましたよ」

士郎「ハハ、一年ぶりだなー」

士郎「よーし、頑張るぞー」

一浪目の冬は雪は降ってなかった。ただ寒かった。寒かったのだ。

一年ぶりの教室。前回は真ん中辺りの席だったが今回は窓際だ。

士郎「…なんとかなるさ」

教員がやってきた。試験についての注意事項を説明をしていた。

ICレコーダーが配られた。私の方に回ってきた。私は残りのICレコーダーを後ろに回した。問題用紙が配られた。レコーダーの操作の説明をされた。
順番通りにやった。イヤホンを耳に、ボタンを押す時間を待った。

何もかもが一年前と同じだ。まさにデジャブ。
いや、一年前と違うところが一つだけあった。

去年より実力が落ちた事だ。

試験は続いた。桜と昼飯を食べた。試験が終わった。桜と一緒に帰った。結果発表がやって来た。

センターは不合格だった。そして一般入試も不合格だった。

私は落ちた。また落ちた。

桜は、合格した。

士郎「……」

桜「あの、先輩」

士郎「いや、大丈夫。今回は自業自得だったし」

士郎「それよりも桜、合格おめでとう」

桜「ありがとうございます…先輩……」

士郎「もう俺は桜の先輩じゃないよ。お前の後輩だ」

桜「先輩…」

士郎「さて、次はヘマしないように気をつけなくちゃな」

桜「先輩! 私、先輩よりも先輩になっても、先輩が後輩になっても」

桜「私の中では先輩はいつまでも先輩ですから!」

桜「私待ってます! 先輩が大学生になるの待ってますから!」

士郎「……ありがとう」

彼女の言葉はとても励みになった。同時にその気遣いが胸をえぐった。

夜、私はベッドの中で少しだけ泣いた。自分が情けなくて情けなくて泣いた。

私は失った。多くのものを失った。共に志しを同じくする仲間を、教師を、期待を、信頼を、金を。そして、時間を。

士郎「……眠れないな」

私は独りになった。独りになったのだ。もう誰もいない。誰もいないのだ。

二浪目は、ここから先は独りだけの戦場だ。

二浪目「そうだ、予備校に通おう」

私は去年の過ちをまた犯さないように改善策を考えた。

家の中では怠けてしまう。図書館も確実ではない。ならばどうすれば勉強を維持させる事が出来る?

また家庭教師を雇うか? だがそれは過ちになるかもしれない。

士郎「予備校にしてみようかな?」

予備校、あそこなら家庭教師、図書館以上に気を引き締める事が出来る。

士郎「でも金がなあ」

金が掛かる。諭吉十人を手放す事なんて当たり前だ。

だが躊躇っている場合ではない。もしここで予備校に行かなかったらまた同じ過ちを繰り返しかねない。

幸い我が家の家計も安定するようになったし、さすがにセイバーの食費より酷い事はない。

士郎「よし、予備校に行くか」

二浪目、私は予備校に行くようになった。

金銭面で不安が残りそうだったが我が家の家計担当(セラ)は意外にもあっさりとOKしてくれた。
暴食家庭教師よりもマシだったからなのか、それとも元々家庭教師を雇う金があるくらいだから予備校も問題なかったからなのか、とにかく金の問題に関しては大丈夫なようだった。

士郎「予備校初日、今年こそ合格するぞ!」

ちなみにどこの予備校にしたのかはあえて伏せておく事にする。

予備校からは専用の教科書が多く配られた。今年の受験はこれをメインに勉強する。
去年買った参考書や問題集は余裕があれば使う事にした。

予備校には一浪目の人間は当然ながら、二浪、三浪の人間もいた。三十~四十代の大人も意外と多かった。彼らの年齢を推測する場合、共通点がある。

三十~四十代の人間は見た目ですぐ分かる場合が多い。これに関しては共通点以前の話か。

だが三浪以降になると、独特のオーラが漂っている。
まず見た目をあまり気にしてない。どこか歳を重ねた感じが顔に出ている。
三十~四十代の人達は一から勉強をやり直すのが殆どなのでどこかすっきりとした顔をしているのに対し、彼らは生気を吸い取られたかのような顔をしていて、目も若干死んでいた。

彼らの姿はまるで終わりの見えない戦いをいつまでも続けさせられている戦士の様に、成仏出来ず現世をさ迷う魂の様に、過去を変える方法を今も探し続けている孤独の観測者の様に、世界の契約から永遠に解放されない英霊の様に…

士郎(ああならないように気をつけよう)

だがこれはあくまでも私の独断と偏見である。例外も当然だが存在する。寧ろ私が観察した対象の方が例外であり、三浪だろうが四狼だろうが見た目が普通な人は普通なのかもしれない。

浪人生の中には友達を作る人間もいた。浪人、卒業以前からの友人だったり、予備校で意気投合して友達になったりなどだ。

私は作らなかった。別にコミュ障だったからではない。作ろうと思えば作れた。現に学生時代は普通に友人はいたからな。
だが一浪目ならまだしも、二浪目になってた事もあり、友人を作ってる暇などないと思ったからだ。
それに志望校が同じならまだしも、皆(みな)目指す場所は違い受験の知識共有はしにくい。何より一年限りの友人は少し切ないものがあった。

ならば私は孤独で良い。大学受験は元々一人で行うものなのだから…………………すみません少し見栄を張りました。二浪目もあって友達を作るのに抵抗感がありました。
だって俺もう成人なんだぜ? 一歳差だけど未成年と二十歳、壁が大きすぎる。

孤独なんてカッコつけてすみませんでした。俺はプチボッチでした……オホン、友達云々はこのくらいにしておこう。

キーンコーンカーンコーン

士郎「今日の予備校は終わり。学校に近い感覚だから集中力が違うな」

士郎「予備校の先生達、個性的な人が多かったな。テレビでもインパクトがあったけど、アレはテレビ用で実際は普通の人かと思ったけど、殆どテレビと変わらないや」

士郎「中にはその日の授業範囲が早く終わっちゃったらうんちくを語ったり自分が若い頃やんちゃしてた話をする先生もいたな」

士郎「この調子で、今年は合格するぞ!」

この台詞、私は去年も口にしていたな。これが最後になってくれたらどれだけ良かった事か。

何故一浪目に予備校に行かなかったのだろう。今になってもそう思う。
私は手遅れだった。予備校に行くのが遅かった。

怠け癖が、家での怠け癖が完全に染み付いていたのだった。欲望に負けやすくなっていたのだ。

私は落ちた。二浪目も落ちた。

三浪目「過去を振り返ってみる」

士郎「……」

オニイチャーン、オヒルゴハンデキタヨー

士郎「………………」

オニイチャーン!

士郎「………………………………………………………………」

イリヤ「お兄ちゃん! ご飯出来たよ!」

士郎「……いらない」

イリヤ「え、でも」

士郎「大丈夫だから。イリヤは食べてな」

イリヤ「うん…」ガチャ、タタタッ…

士郎「……何してるんだよ、俺」グスン

士郎「……オナニーするか」ガサゴソ

シコシコ、ピュッピュッ、ゴシゴシ、ポイ!

士郎「ふう」

士郎「三浪目か」

士郎「予備校に行ったのにな。無駄金だ」

士郎「去年は何をしてたんだろう」

士郎「思い出そう、去年を、去年の過ちを」

予備校では怠けなかった。だが終わってからは怠け者になる。

士郎「帰りに本屋かコンビニによるか」

本屋、うろつく。コンビニ、立ち読み。

士郎「三十分はいたな」

士郎「今日はブック●フに寄るか」

立ち読み、一時間。エロ漫画、勇気がいる。読めない。

士郎「ただいまー」

夕食、食べる。宿題、予習、復習は予備校と寄り道の疲れでやる気が出ない。

士郎「まあ、やらなくても特に問題ないか」

パソコンやって寝る。

別の日、予備校の帰りに一成と会う。一浪目の時も何度か会った。

一浪目の時はまだ大丈夫だったが、二浪目からは少しばかり空気が変になる。

「頑張れよ!」彼はそう言うしかなかった。「おう!」私はそう答えるしかなかった。

夜、家でネットサーフィンとオナニーをした。復習はあまりしなかった。

また別の日、桜に会った。

大学生オーラが漂っており、色気が学生時代と比べると飛躍的に上がっていた。また、浪人中は気がつかなかったが胸が以前より大きくなっていた。

予備校に通ってると言ったら桜は安堵の表情を浮かべた。よっぽど宅浪は危険だったんだなと私はその時思った。

「頑張って下さいね。私、応援してます」と言い、桜はニコニコと軽くお辞儀をしながら私と別れた。

夜、私は美人になった桜をオカズにした。
俺はいつから彼女をそんな目で見るようになったんだ、と罪悪感とも背徳感とも言い難い思いに苦しみながらもオカズにして出した。

予備校の復習はしなかった。

またさらに別の日、予備校が夜遅くまで掛かり、帰りにベロベロに酔った藤ねえに会った。

酒臭い藤ねえに絡まれ、帰りは藤ねえを背負って帰った。

大河「浪人がなんだ! 二浪がなんだ! そんなもん長い人生のちょっとした寄り道よ!」

私を励ましてくれてるんだろうが酒が臭くて心にあまり響かなかった。

大河「私なんて婚期の浪人生よ! 士郎結婚してー!」

口が臭くてドキッとする台詞にはならなかった。

「し~ろ~う、心細くなったらいつでも私を頼りなさい。ヒック」

優しい言葉も酒臭いのと背負うのに集中してるのでそれどころではなかった。帰りは疲れたよ。

家に戻ってからは予習、復習を真面目にやった。オナニーはする気になれなかった。口の臭さが鼻に残っていて萎えていた。

真面目にやる日もあったがやはり一年のブランクかつ怠け癖と誘惑により、予備校の宿題は溜まる一方であり、
宅浪と違い予備校は勉強内容が勝手に進むのでたいして前の内容を理解してないまま次の課題をやる事が多くなった。

士郎「まずいな。今日はここをやらなくちゃ」カキカキ

士郎「……」カキカキ

士郎「ちょっとパソコンいじるか」

士郎「……」カキカキ

士郎「ちょっと携帯いじるか」

士郎「……」カキカキ

士郎「ちょっと漫画読むか」

士郎「……」カキカキ

士郎「ちょっとチンコ弄るか」

目の前の欲望に勝てなくなっていた。

休日

士郎「勉強しなきゃいけないけどエロ画像とエロ動画の収集で忙しいな」カチカチ

士郎「後ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

一日が経った。

士郎「録り溜めたアニメ観ないと。忙しいな」

士郎「でも勉強は絶対にしないと」

一日が経った。そして気がつけば深夜アニメをよく観るようになってた。
一般向けでも通用しそうな深夜アニメはイリヤを誘って一緒に観た。
理由はアレだ。大の大人がプリキュアの映画を一人じゃ観れないから子供も一緒に連れて行ってごまかすのと同じだ。さすがに紳士アニメはDVDプレーヤーで我慢した。

私は隠れアニメオタクになっていた。

士郎「SSまとめサイトは」カチカチ

士郎「うわっ、これ長編か。勉強する時間あるかな?」

士郎「ま、大丈夫だよな。へぇ、面白いな」

一日が経った。

士郎「乙!」

士郎「アカン」

士郎「ソースは?」

士郎「>>1は低脳」

士郎「またネトウヨか」

士郎「安価」

士郎「今日は2ちゃんねるで何しようかな?」カチカチ

2ちゃんねるに入り浸り、勉強が疎かになる。

休みが多い日はさらに悪化した。禁欲しようともしたが長くて一週間が限界だった。

士郎「漫画をヨミヨミ、アニメをカンショー、2ちゃんでカチカチ、ネットサーフィン、エロ回収、チンチンシコシコ、また明日」

士郎「ご飯食べて腹一杯。やる気が出ない。おやすみなさい」

士郎「アニメ・漫画のブログ、SSのまとめブログ、2ちゃんのまとめブログ、見てはコメントしまくり」

士郎「課題やらなきゃ。前の課題はもういい。次の課題を先にやろう」

士郎「宿題溜まるけど、まあいいか」

士郎「今日も授業は勝手に進む」

これを繰り返し、私は二浪目もたいした実力もないまま落ちた。

士郎「馬鹿だ…俺」

士郎「顔、洗うか」スタスタ

ジャー! バシャバシャ! キュッキュッ!

士郎「ふう、髭が大分生えたな。剃らなきゃ…あれ?」

士郎「俺の顔って――」

こんなに老けてたっけ……?

二年の歳月は長いようで短い。そして短いようで長いのだ。

たった二年、たった二年で人は変わってしまう。
二年で身長が一気に伸びるように、二年でイリヤのような小学生が中学生になるように、二年で桜が、少女が大人の女性に近づくように、二年間で私は老け込んだ。

老け込んだといってもオッサン顔になったわけではない。無精髭も生えてるがそれはたいした理由にはならない。

上手く表現出来ないが、漂うんだよ独特のオーラが。どこか疲れ切った感じが、そしてそれが顔にも出ていて恐らく老化に繋がっているのだ。

士郎「腹も出てるな。プニプニしてる」

5キロ増えていた。

私はなっていた。かつて予備校に入り、そこで見た三浪以上と思わしき人間のように。

独特のオーラが漂っていて、まず見た目をあまり気にしてない。どこか歳を重ねた感じが顔に出ている。
彼らは生気を吸い取られたかのような顔をしていて、目も若干死んでいた。

彼らの姿はまるで終わりの見えない戦いをいつまでも続けさせられている戦士の様に、成仏出来ず現世をさ迷う魂の様に、過去を変える方法を今も探し続けている孤独の観測者の様に、世界の契約から永遠に解放されない英霊の様に…

私はなっていた。彼らのようになっていた。

鏡に映る自分の顔は亡者や廃人のようだった。

士郎「ハハハ…」

浪人した人間なら誰もが経験した事があるだろう、鏡に映る老け込んだ己を。

「俺、老けたな」と。

だがどれだけ浪人していようとも亡者や廃人のように疲れ果てず老け込まない人間だっているはずなのだ。

そうであって欲しい。これは私の思い込みであって欲しい。
私が見てきた対象がたまたまそんな人間だっただけなのだ。そうであるはずなのだ。いや、そうに決まってるさ。

そう…だよな……?

私は予備校に行くのをやめた。無意味で無駄に金が掛かるからだ。

代わりにまた新しい参考書や問題集を買うようになった。今度こそ自分に合うものを探す為に。ただ真面目にやらなかっただけなのに、それを合わないなどと勘違い、いや被害妄想に陥って…

勉強は去年よりやるようになり、禁欲は以前よりマシになったが、アニメを観る癖が治らず、作業のようにアニメを毎日観た。故に中々勉強は進まない。

三浪目からは、時々桜が家にやってくるようになった。三浪もしたから心配したのだろう。

彼女から勉強を教えてもらう事もあった。桜は嫌な顔を一つもせず、私の家に来て勉強を教えてくれた。変わり果てた私を、だらし無い身体になった私を懸命に。

だが私もプライドがなかった訳ではない。後輩に勉強を教えてもらうのは精神的にキツイ。自業自得とはいえキツイ。

さすがに目が醒め、一年間は一浪、二浪目よりも真面目に取り組んだ。

結果、模試の結果は二年間よりマシにはなった。

そして三度目のセンター試験…

士郎「今年は雪がすごいなぁ」ザッザッザッ

士郎「今年こそは絶対に合格しないと」

ガタンゴトン、ガタンゴトン

士郎「……」

受験生達『ワイワイキャッキャッ』

士郎(新しい受験生、か)

ザッザッザッザッ

士郎(雪が深いし、頬が冷えるし、ジャンパーも雪まみれだ)ザッザッ

士郎「あっ、試験会場が見える」

士郎「三度目のセンター試験だ」

士郎「これを最後にしよう」

会場となっている大学の中は外と違い温かかった。これも三度目、いや、最初の受験を含めて四度目だった。

私はこれを四回も繰り返したんだ…『一年ぶり』という懐かしさを三回味わい、そして今回で会場の温もりと静けさを四回味わう。学校の中の壁には相変わらず様々な大学関連の広告が貼られている。就職関連もあったな。

トイレは……そうだ思い出した。確か俺は、ではなく私はあそこで用を足し手を洗ったのだったな。今回で四度目のトイレになるのか。やはり一年も空くと場所をついつい忘れてしまう。

トイレの場所は『また』覚え直した。学校の中はまだ人は少ないな。さて、階段を昇ろう。四度目の階段を…

いつになったらアーチャーの過去話は終わるんだ?

昼休み、私は当然だが一人で食事をする。

士郎「テストはまあまあだったかな」

ワイワイガヤガヤ、キャッキャッ

『ねーねー、さっきの●●どうだったー?』

『私あそこ間違えたかもー』

『▲▲のあの問題難しくかったよな? あれマジわかんなかったよ』

『日本史ミッドウェー海戦が分かった? あんなの勉強してねーし!』

『お前どのくらい出来た? よっしゃ勝ったー俺の勝ち』

『うっせーしwww』

士郎「そうか、あそこの受験生は皆同じ学校の人間か」

士郎「俺も三年前はあそこで…」

>>144
まだ続きます。すみません…

一浪目は桜と一緒だったから気付かなかった。二浪目は一人だったが気にはならなかった。

三浪目は…気がついた。自分と彼らの違いが、若さが、活力が違う。華やかさが違う。目が死んでない。

私だけは、彼らとは別の空間にいるような気がした。

士郎(あれ?)

士郎(俺は一体)

士郎(何の為に)

士郎(大学を受けるんだ?)

ふと、あの男の言葉が脳裏によぎった。

切嗣『士郎、僕は若い頃、目指していた夢があるんだ』

切嗣『大学に入って充実したキャンパスライフを送る事だったんだ』

切嗣『けど、それは叶わなかった。大学というのは、大学生というのは、何も勉強するだけの場所じゃない。キャンパスライフという名の青春を謳歌する場所でもあるんだ』

士郎(そうだ思い出した。俺は爺さんの夢を代わりに叶える為に、キャンパスライフを謳歌する為に大学を受けようと思ったんだ)

士郎(ん? キャンパスライフ?)

切嗣『でも、それは期間限定なんだ。キャンパスライフを謳歌出来るのは期間限定なんだ』

切嗣『キャンパスライフは年齢制限があるんだ。それは暗黙のルールにも似てるんだよ』

士郎(俺は今、いくつだ?)

三浪してやっと気がついた。いや、自覚していなかった。浪人によるリスクを。事の重大さを。

浪人生になった瞬間、一年時間が遅れる。それは、年上の同級生になる事。

シミュレーションしてみよう。

『俺、一浪しました』

『へー、そうなんだ。よろしくー』

『俺、二浪しました』

『そ、そうなんだ』

『俺、三浪しました』

『あっ…』

浪人する度に、気まずくなる。これが四浪や五浪になれば…

一浪目はまだ許せる。一浪する人間は意外と多いからそこまで支障はきたさない。
二浪目は少しまずい。ちょっとばかし浮く。
三浪目以降はどうだ? 年齢差で気まずい。話題が合わない。コミュ力があってもその差を埋める事はたやすい事ではない。

例えるならば小学生と中学生の差。コロコロコミックを愛読してる者とヤングジャンプを愛読してる者が分かり合う事は無きに等しい。

小学生「デンジャラスじーさんおもしれー」

中学生(え? 何それ? 学級王ヤマザキしか知らないんだけど)

小学生「おい見ろよ、このシーンHだぜ」

中学生(こんなもの、ヤンジャンじゃあラッキースケベにも入らないしセックスだって当たり前だぞ。To loveるの方がよっぽど抜ける)

現役で入った人間と浪人生にはこのくらいのギャップがある。

私が高校生の頃、友人は普通にいた。

だが今はどうだ? 私はコミュ力は人並み外れてた訳ではない。それに衰えてるかもしれない。
浪人という足枷が友を作りづらくしてるかもしれない。

周りが気を使うかもしれない。疲れさせるかもしれない。
私も、年下の上級生を先輩と呼ぶのはキツイ。

想像してしまう。同級生がタメ口ではなく敬語で、呼び捨てではなく『さん』付けで距離を置く事を。

士郎「俺、大学に入っていいのかな?」

士郎「……それでも入るんだ。大学に入るんだ」

センターの結果は駄目だった。だが今までで一番良い出来だったと私は思った。

士郎「一般入試までの残り時間、死ぬ気でやればきっと合格出来る筈だ」

私は死ぬ気でやったよ。本当に死ぬ気でやった。

その結果、体調を崩し、寝込んで試験を受ける事は叶わなかった。

士郎「畜生……」

四浪目に突入する。

四浪(士郎)目『さようなら、浪人生の俺』

私は運悪く四浪したが、怠ける事なく本当に、真面目に勉強した。

その結果、模試の結果も良好。
実力も確実に付いていった。

そして五回目のセンター試験……

士郎「今度こそ、今度こそ大丈夫だ」スタスタ

ブロロロ…

士郎「え?」

キキッー!!

私は車に轢かれて死んだ。

士郎(俺、死ぬのか…)

士郎(でも、いいか。受けられないのはちょっと悔しいけど後悔はしてない。ちょっと矛盾した言い方だな)

士郎(頑張った。頑張ったよな俺。もうゴールしてもいいよな?)

士郎(ああ、見える。光が…)

だが私は死の直前、朦朧とした意識の中で世界の意志を見た。

士郎(世界…世界……これが世界の……契約………世界と契約……………)

士郎(契約……するよ………………………)

私は世界と契約した。そして衛宮士郎は死に、エミヤとして生きる事になった。

そして私は家庭教師になった。

士郎「え? 何でいきなり家庭教師に?」

アーチャー「そこは気にするな」

とにかく、私は家庭教師になり浪人生に勉強を教えた。

アーチャー「であり、こうなる」

六郎「そう、ですか」

アーチャー「六郎よ、君はやれば出来るんだ。だから私が教えた通りにやりなさい」

六郎「はい……」

アーチャー(目が死んでいるな。あの時の俺と同じだ)

ある日の事だ。

アーチャー「さて、今日は六郎に教える日だったな」

アラヤ「エミヤボーイ!」

アーチャー「! はい。何でしょうか」

アラヤ「六郎クンの成績はどうデスかー?」

アーチャー「成績はイマイチよくありませんね。このままだとまた落ちる可能性があります」

アラヤ「ナラーバ! 六郎クンは切り捨てるのデース!」

アーチャー「は?」

アラヤ「聞こえませんデシタかー!? デキナイ生徒は切り捨てゴメンデース!!」

アーチャー「な、何をおっしゃるのですか先生!? 何も悪い事をした訳でもないのに切り捨てるだなんて」

アラヤ「ノンノンノン。 あんなデキソコナイがいると、我々の評判ががた落ちシマース!! 金づるを失うのは痛いデスガー、それ以上に評判が落ちるのはもっと痛いデース!!」

アラヤ「だからエミヤボーイ、彼を切り捨てなサーイ!」

アーチャー「……申し訳ありませんが先生、それは出来ません。私は彼の可能性を信じたいのです」

アラヤ「YOUに拒否権はアリマセーン!! 世界と契約したYOUは、その時点でミー達のおもちゃデース!!」

アーチャー「何だと!? か、体が勝手に!?」

アラヤ「さあエミヤボーイ、六郎クンを切り捨てなサーイ!」

アーチャー「や、やめろ!」

アラヤ「KILL HIM !! レッツゴー!!」

アーチャー「うわあああああああああああああ!!!!!!!!!」

私は請け負った生徒を切り捨てた。

それから私は、出来の悪い生徒を担当する度に切り捨てた。私の意思とは関係無しに、私の手で生徒を切り捨てた。
少しでも受かる可能性がない人間はゴミのように切り捨てられた。

アーチャー「もうやめてくれ。俺はこれ以上切り捨てたくない! 未来を潰したくない!」

私が切り捨てた人間には共通点があった。
独特のオーラが漂っていて、まず見た目をあまり気にしてない。どこか歳を重ねた感じが顔に出ている。
彼らは生気を吸い取られたかのような顔をしていて、目も若干死んでいた。

アーチャー「それでも! 可能性はあるんだ! なのに…」

アーチャー「こんな事なら、世界と契約するんじゃなかった…」

アーチャー「大学なんか…目指さなければよかった……」

もう一体何人の人間を切り捨てたか覚えるのも面倒になったある日。

アーチャー「次の生徒は誰だ……!?」

アーチャー「遠坂凛!? 何であいつが」

アーチャー「そうか、この凛は過去の凛か」

アーチャー「……過去の俺もいるのか」

アーチャー「……殺そう。衛宮士郎を」

アーチャー「過去の衛宮士郎を殺して今の俺をなかった事にしよう」

――

アーチャー「そして今に至る」

凛「そんな事が…」

桜「先輩…」

アーチャー「殺すのには失敗したが、まだ諦めた訳ではない」

セイバー「アーチャー!」ジャキン
アーチャー「おっと、勘違いするなセイバー。私はもう殺す気はない」

セイバー「何?」

アーチャー「よく考えてみれば殺す必要などなかったな。衛宮士郎」

士郎「な、何だよ」

アーチャー「大学を受けるのをやめろ」

士郎「何だって!?」

アーチャー「話は聞いただろう。このまま行けばお前はいつか私になる。だが大学を受けなければ私にならずに済む。私は消える事が出来る」

セイバー「それが教師の言う言葉か!」

アーチャー「教師である前に私は衛宮士郎本人だ。私は過ちを犯したくない。だから衛宮士郎、いや、過去の俺よ」

アーチャー「大学は諦めろ」

士郎「諦めたくない」

アーチャー「何?」

士郎「諦めたくない!」

アーチャー「貴様、話を聞いてなかったのか? お前はいつか私になるんだぞ。操り人形になるんだ!」

士郎「じゃあ今は何だ? お前の過去に、高校生の俺にセイバーやライダーがいたか? 凛はお前を雇ったか?」

士郎「無かっただろ! お前が生きてた衛宮士郎の時間と俺が生きてる衛宮士郎の時間は違う!」

士郎「俺にはお前と違う可能性がある! 違う未来が待っている! 大学生になれる未来だってあるんだ!」

アーチャー「ッ…平行世界だろうが結末は同じだ! 貴様はいつか私になるんだ!」
士郎「分からないだろ!」

慎二「あれ? でもさ、未来の模試があるなら、未来で受験する大学の本試験の問題を暗記すれば一発じゃないか?」
アーチャー「残念だが本試験のはない。それに未来の模試で対策しても、本試験の問題があっても因果によって問題が変化し結末は変わらないだろう」

アーチャー「とにかく浪人する気か!?後悔するぞ!」

士郎「浪人はしない! 一発で決める!」

アーチャー「何?」

士郎「現役で受かってみせる。お前のようにはならない。絶対に現役で受かってみせる!!」

アーチャー「貴様…」

士郎「もし受からなかったら大学はやめるよ。煮るなり焼くなりお前の好きなようにしろ」

セイバー「シロウ!」

桜「先輩!」

アーチャー「……良いだろう。お前の可能性に賭けよう」

士郎「ああ、俺を信じてくれ」

凛「全く、聞いててこっちも疲れたわ」

士郎「ハハ、ごめん」

凛「でも士郎が落ちたのは未来の私にも責任があるみたいだし」

凛「だったら、次こそは未来の私以上に士郎に勉強を叩きこんであげるわ! せっかく私が教えてあげたのに落ちてもらっちゃったら私もたまったもんじゃないし」

士郎「遠坂…」

凛「覚悟しなさいよ。私の教え方は」

アーチャー「生半可なものではないからな」

凛「ちょっと、台詞取らないでよ!」

士郎「恐ッ……でも頼りにしてるよ」

桜「わ、私も先輩の事応援しますから」

ライダー「私は桜にたくさん勉強を教えてあげます」

セイバー「私もシロウの家庭教師として尽力を尽くします。切嗣と同じ過ちは犯させはしません!」

士郎「でも食費は抑えてくれよ」

慎二「いやー、ちょっと涙が出ちゃったよ僕」

慎二「まあ衛宮、未来は無限の可能性で満ち溢れているんだ。何とかなるさ」ポンポン

士郎「あ、ああ」

慎二「ところで未来の衛宮」

アーチャー「ん?」

慎二「お前の話の中に僕が全然出てきてないけど、僕はどうしてるんだ?」

慎二「ま、僕の事だから一流の大学に入ってリア充生活を満喫してるんだろうけど」

アーチャー「いや、慎二は大学受験に失敗してそのまま引きこもりになったぞ。私が最後の受験をする時もまだ引きこもりだったな。桜すらお前の事を見放したんだから」

慎二「え…」

ENDそしてオマケに続く

イリヤ「このお話は、Fateのキャラクターを使って、浪人したらよくあるパターンをSSにしたものです。皆は読んでてどのくらい当てはまったのかな?」

大河「いやー、受験生、浪人生ってのは大変だね。こんなに苦しむものなの?」

イリヤ「うん、切嗣なんて受験本番の休み時間に漫画やゲーム、インターネットもしたり、しかもトイレで携帯のエッチな待受でオナニーしてたんだよ!」

大河「あっ、さすがに引く」

イリヤ「浪人して当たり前だよ」

大河「と、とにかく受験生、浪人生にとって大事なものをまとめるわよ!」

・家のみでの勉強は我慢強い人以外は基本禁止。

・予備校にいかない人は図書館を中心にして勉強しよう。図書館が開いてない時は仕方がないけど、その時は出来るだけ強い意志を持って家でやろう。

・娯楽は受験が終わるまで可能な限り我慢する事。家は娯楽がいっぱい。ついついそっちに目がいっちゃう。どうしても息抜きがしたい場合はその日の勉強が完全に終わってから。

・ムラムラして我慢出来なくなったら、これもその日の勉強が完全に終わってから抜こう。勉強途中に抜くと頭が回らないから。

・娯楽禁止だけど、たまの休日くらいは大丈夫。ただしやり過ぎには注意。

・参考書や問題集の買い過ぎに注意。無駄に同じ問題をやって次に進む事が出来ないぞ!

・予備校に通う場合は自分に合ったコースを選んでね。下手にハードルを上げて授業についてこれなかったら無意味だよ。

・予備校、宅浪の人は復習をちゃんとしよう。その日の問題をやるだけやって意外と復習してない人が多く、やったはずなのに忘れるパターンが生まれちゃう。だから復習はその日にしよう!
予備校に通ってる人は予習も忘れずに。

・時々は新しい問題をやらずに過去の問題を見直そう。
人間の脳みそは一度やっただけじゃ全部は覚えません。その日やった勉強は明日には半分近く忘れてる場合が多い。でもだからってその日にやった事をその日に復習しないのは駄目。余計に忘れちゃうから。
昨日覚えた事を今日覚え直せば一週間くらいは覚えてて、一週間後にまた覚え直したら三週間から一ヶ月くらいは記憶が維持出来るよ。
だから以前学習した日に合わせてまた覚え直す日を作ろう!
復習は何回も必要だよ!

・受験当日、体調は崩さないで。一年が無駄になるから。

・試験の休み時間にオナニーはしない事。

大河「こんな感じかしら」

イリヤ「そうだね」

イリヤ「これから受験する人、また受験する人、仮にも受験生なんだからちゃんと心得てね!」

大河「センターはもう終わったけど一般入試がまだある。一般入試も受ける人は油断は禁物よ!」

イリヤ「皆、受験頑張ってね!」

おしまい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月18日 (金) 20:04:59   ID: DzcR72GU

これは稀に見る良SSだな

2 :  SS好きの774さん   2014年11月07日 (金) 03:56:27   ID: SltCnotT

クッ…古傷が疼くぜ(2浪大学ぼっち)

3 :  SS好きの774さん   2014年12月03日 (水) 20:06:47   ID: 11bgPxpy

今年10浪目のおいらには関係なかった

4 :  SS好きの774さん   2015年01月13日 (火) 18:05:03   ID: mVHsSaku

センター4日前じゃ遅いよ

5 :  SS好きの774さん   2016年02月08日 (月) 01:02:25   ID: gypctjwG

自分の事をFateキャラに演じさせんなよwww

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