レッド「あっ、ピカチュウだ」(64)
―トキワのもり―
レッド「さてと、そろそろお昼だし、この辺でメシ休憩でもしよっか」
ピカチュウ「ピカッ!」
レッド「ははっ、元気だな。はい、ピカチュウはこーれ」コトンッ
ピカチュウ「ピカッ?」
レッド「極上の高級ポケモンフーズ。いつもがんばってくれてるからご褒美。
お前のために奮発して買ったんだぞ。
一口一口よーく味わいながら食べろよな」ナデナデ
ピカチュウ「ピ、ピカピ……」
レッド「なーに、心配いらないって。お金ならこの前四天王と戦ってたくさん稼いだし」
ピカチュウ「ピカ……?」
レッド「『ほんとに大丈夫なの?』って?
ポケモンのお前が気にすることじゃないぞっと。
ほらほら、早く食べないと俺が食べちゃうぞ」ポンポン
ピカチュウ「ピッカ!」ニコニコ
レッド「どうだ? おいしいか?」
ピカチュウ「ピカピ!」ガツガツガツ
レッド「ははっ、そんなに急いで食べなくたって誰もとりゃしないって」
ピカチュウ「ピカピカ♪」ガツガツガツ
レッド「しっかし、久々に足を運んだのはいいけど、相変わらず昼間でも薄暗い森だなー」
ピカチュウ「…」クンクン
ピカチュウ(すごくいいニオイ)クンクンクン
レッド「覚えてるか? 俺とお前が初めて出会ったのはここなんだぞ。
もうどれくらいになるかな」
ピカチュウ「ピ♪ ピ♪ ピ♪」ガツガツ
レッド「こら、無視すんな」
ピカチュウ「ピカピッ」ニコッ
ピカチュウ(いいなぁ、あのピカチュウ。あんなにおいしそうなエサを恵んでもらえて。
一口でいいから食べてみたいなぁ)ギュルルルルッ
レッド「んっ?」
ピカチュウ「!」
レッド「あーっ! ピカチュウだ!」
ピカチュウ「ピカ?」チラッ
レッド「見ろよピカチュウ。お前とおんなじピカチュウがいる!」
ピカチュウ「ピ、ピカ……」オドオド
レッド「見た感じ、どうやら戦意はなさそうだ。
おいでー。こわくないよ」
ピカチュウ(よ、呼んでる。どうしよう……)ギュルルルルッ
ピカチュウ「ピ?」
レッド「ははーん。ニオイにつられてやってきたわけか。
ええっと、確かもう1つ……あった!」
レッド「1個余ってるんだけど、よかったら食べる?」
ピカチュウ「! ピ、ピカ……」
レッド「いじめたりしないよ。ほら、こっちおいで。
お腹すいてるんだろ?」
ピカチュウ「ピカピカ!」ニコニコ
ピカチュウ「…」グウウゥゥ
レッド「ほぉら、いいニオイだろ?」
ピカチュウ(大丈夫……なのかな)
レッド「おいで、ピカチュウ」
ピカチュウ「ピカピ!」
ピカチュウ「…」
ピカチュウ「ピカ……」オズオズ
レッド「そうそう、怖がらなくても…………あれっ? おれのピカチュウとシッポの形がちがうぞ。
……ってことは!」ガサゴソガサゴソ
レッド「ポケモンずかんでチェック!」
ピカチュウ「……?」
レッド「やっぱりそうだ。あのピカチュウ、女の子だ。
女の子のピカチュウだ!」
ピカチュウ「ピカッ?」
レッド「あっ、もしかしてお前はとっくに気づいてたとか?」
ピカチュウ「ピカッ」コクッ
レッド「へぇーっ、メスのピカチュウか。やっぱピカチュウはオスでもメスでもかわいいなぁ」
ピカチュウ♀(なんですぐにわからなかったんだろ。
ニンゲンって変なの)
レッド「シッポ以外はおれのピカチュウと瓜二つじゃん。背丈も一緒だし。
まぁ同じピカチュウだから当たり前か」
ピカチュウ「ピカッ」ニコニコ
レッド「さっ、話は後にしてメシだメシ。
ほら、そんなとこに突っ立ってないでおいで。
これはキミの分だよ」
ピカチュウ♀「…」クンクン
ピカチュウ♀(足が勝手に動いちゃう……)トコトコトコ
レッド「ほいっ」コトンッ
ピカチュウ♀「…」クンクン
レッド「毒なんか盛ってませんってば」
ピカチュウ「ピカッ」ガツガツガツ
レッド「ほら、早くお食べ」
ピカチュウ♀「…」ギュルルルルッ
ピカチュウ♀「……ピカピ」ペロッ
ピカチュウ♀「!」
ピカチュウ♀(なにこれ……こんなの今まで食べたことない)ガツガツガツ
レッド「おいしい?」ナデナデ
ピカチュウ♀「チュウッ!」バチッ!
レッド「いって! ごめんごめん。ジャマするつもりはなかったんだ。
もうさわったりしないから気にせずお食べ」
ピカチュウ♀「…」ガツガツガツ
ピカチュウ「ピカッ、ピカッチュ」(これ、すっごくおいしいよね!)
ピカチュウ♀「…」ガツガツガツ
ピカチュウ「ピカピッ」(あっ、頭にゴミついてるよ)
ピカチュウ♀「ヂュウ!」(さわらないで!)バシッ
ピカチュウ「ピ、ピカ」(ご、ごめん)
レッド「俺もポケモン語が理解できればなに話してるのかわかるのになぁ」
―しばらくして―
ピカチュウ♀(すごくおいしかった。とろけちゃうくらい……)
レッド「お腹いっぱいになった?」
ピカチュウ♀「……ピカッ」
レッド「おいしかっただろ?」
ピカチュウ♀「…」コクッ
ピカチュウ♀(このポケモンは……毎日毎日こんなに豪華なエサをもらっているの?)チラッ
ピカチュウ「?」
ピカチュウ♀(ニンゲンのポケモンのくせに、お腹一杯食べちゃって……)ジリジリ
ピカチュウ「ピ、ピカ?」(な、なに?)
ピカチュウ♀「……ピカピ」(……ずるい)バチッ
ピカチュウ「ピカッ!?」(わっ!?)
レッド「ははっ、ピカチュウったら嫌われてやんのー。同族嫌悪ってやつ?」
ピカチュウ「ピ、ピカー……」
ピカチュウ♀(でもちょっぴりうらやましい……)
レッド「さてと、そろそろ出発しよう」
ピカチュウ「ピカピッ」
ピカチュウ♀「…」
レッド「じゃあ元気でね、ピカ――おっと、さわると怒るんだっけ。
元気でね、ピカチュウ」
ピカチュウ♀「……ピカ」ペコッ
ピカチュウ「ピカピ、ピカッチュ!」(バイバイ。元気でね!)トコトコトコ
ピカチュウ♀「…」
ピカチュウ♀(あのニンゲンのポケモンになれば……)ゴクッ
ピカチュウ♀(あのニンゲンについていけば、たらふくエサをもらえる)
ピカチュウ♀(あのピカチュウは気にいらないけど、またあのごちそうを食べれることに比べたら……)
ピカチュウ♀「…」
ピカチュウ♀(行こう)タッタッタッ
―トキワのもり・でぐち―
レッド「今のところチャンピオンより強い相手はいなさそうだし、しばらくはのんびりして過ごそっか」
ピカチュウ「ピカピッ」コクッ
ピカチュウ「! ピカピー! ピカピー!」グイグイッ
レッド「うわわっ! こら、危ないだろ。急に引っぱるな。
どうした?」
ピカチュウ「ピカッ! ピカチュウ!」
レッド「あっ」
ピカチュウ♀「…」トコトコトコ
レッド「ひょっとして、さっきのピカチュウ? ついてきちゃったの?」
ピカチュウ♀(ニンゲンの眼を見なくちゃ……)
ピカチュウ「ピカッ……?」
レッド「ここを抜けたら道路に出るけど……」
ピカチュウ♀「…」ジッ
レッド「もしかしたらもしかして、一緒に行きたいの?」
ピカチュウ♀「ピカッ」コクッ
レッド「なるほど。キミ、おれのピカチュウに恋しちゃったんだ」
ピカチュウ♀「ピカピッ!」(ありえない!)ブンブンブンブン
ピカチュウ「ピカッチュ……」(そ、そこまで否定しなくても……)
レッド「ははっ、さっきの極上ポケモンフーズの食感が忘れられないんだ」
ピカチュウ♀「……チュウ」
レッド「あーっ、照れてる」
ピカチュウ♀「ピカァ……」
レッド「まぁいいか。こいつも仲間ができたら楽しいだろうし。
それに、同じピカチュウのキミならいい話し相手になってくれそうだし」
ピカチュウ♀「!」
ピカチュウ「ピカ!」
レッド「でもどうせならちゃんとバトルしてからゲットしたいんだ。
だからメスピカチュウ、おれのピカチュウと戦ってくれる?」
ピカチュウ♀「ピカッ!」
レッド「おっ、やる気満々だ。ピカチュウ、いけるか?」
ピカチュウ「ピカチュウ!」コクッ
レッド「よし。じゃあいっちょバトルしますか」
レッド「ピカチュウ、相手は野生のポケモンだ。しかも女の子だ。
念のために言っとくけど手加減しろよ」ヒソヒソ
ピカチュウ「ピカッ」
レッド「でんきだまはおれが預かっとく」
ピカチュウ♀「ピカーーー!」ドカッ!
ピカチュウ「ピッ……!」ヨロッ
レッド「えっ、いきなりでんこうせっか? まだ構えてもないのに気が早いなぁ」
ピカチュウ♀「ピカッ! ピカッ! ピッカァ!」バシッ、バシッ
ピカチュウ「ピカピ!」
レッド「今度はたたきつけるか。しかも会心の一撃。
それにしても、やけに攻撃的なピカチュウだな。
まるでおれのピカチュウに憎しみでも抱いてるみたいな……」
ピカチュウ♀「ピカピー!」バチバチバチ
ピカチュウ「ピッ……!」
レッド「今度は10まんボルトか。いい技を持ってるね。
……って、冷静に解説してる場合じゃなかった」
レッド「ピカチュウ! えーと、えーと」
ピカチュウ♀「ピカァ! ピカチュウ!」(ムカつく!)ポカポカポカ
ピカチュウ「ピ、ピカピー! ピカピー!」(痛い痛い! ぶたないでよぉ……)
レッド「ピカチュウ、ボルテッカー!はマズイよな……。
なら……アイアンテール!」
ピカチュウ「ピ、ピッカァ!」ブワッ
ピカチュウ♀「!」
レッド「あっ、バカ! 手加減しろって!」
ピカチュウ「ピッ!?」
時すでに遅し。
ピカチュウのアイアンテールがピカチュウ♀の顔面に直撃した。
ピカチュウ♀「ピカーーーーー!」ドサッ
レッド「あっ、と、とりあえず捕獲しよう。いけ、モンスターボール!」
うぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃ、ポンッ
レッド「やった! メスのピカチュウゲット!」
ピカチュウ「ピ、ピカッ」ニコッ
レッド「ゲットするの久々だなー。
では早速。出ておいで」ポンッ
ピカチュウ♀「…」キョロキョロ
ピカチュウ「ピカピ……」(あの、大丈夫?)
ピカチュウ♀「…」ギロリ
レッド「すっかりご立腹だなこりゃ。
愛らしい顔にキズをつけた罪は重いぞぉ」
ピカチュウ「ピ、ピカピー。ピカッチュ」(ご、ごめんね。ほんとにごめん)
ピカチュウ♀「…」プイッ
レッド「あー、完全に嫌われたぁ。まっ、これからさ。元気出せよ」ポンポン
ピカチュウ「ピカァ……」
レッド「せっかくだからみんなで歩こっか。
最近は“連れ歩き”ってやつが流行ってるみたいだし」スタスタスタ
ピカチュウ「…」トコトコトコ
ピカチュウ♀「ピカピ」(ちょっと)
ピカチュウ「ピカ?」(あっ、な、なに?)ビクビク
ピカチュウ♀「ピカ、ピカチュピ」(2度とわたしにさわらないでよ)
ピカチュウ「…」トコトコトコ
―ニビシティ・ポケモンセンター―
レッド「とうちゃーく。ポケモンと一緒に歩くのも悪くないね」
レッド「さぁお前たち、ボールに戻った戻った」
レッド「お願いします」
ジョーイ「ではお預かりします」
ポンポンポロリン
ジョーイ「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ」
レッド「どうも」
ジョーイ「またのご利用をお待ちしています」
レッド「ピカチュウズ」ポンッ、ポンッ
ピカチュウ♀「…」キョロキョロ
レッド「買い物行ってくるからお前たちはここで待ってて。
すぐ戻るから」
ピカチュウ「ピ!?」
ピカチュウ♀「ピカッ」
レッド「んじゃっ」ダッダッダッ
ピカチュウ「ピカピーー!」
ピカチュウ♀「ピカ、ピカッチュ」
(なに叫んでるの?
わたしと2匹になるのがそんなにいやなわけ?)
ピカチュウ「ピカピィ、ピカッ…」(いや、そうじゃなくて、その……)
ピカチュウ♀「ピッ、ピカァ」(はっきりしてよ。オスのくせに)
ピカチュウ「……ピカッ」(……ごめん)
ピカチュウ♀(それにしてもここ……ニンゲンがいっぱいいる)キョロキョロ
ピカチュウ「…」チラチラッ
ピカチュウ♀「ピカッ」(ジロジロ見ないでくれる?)
ピカチュウ「ピ、ピカピィ」(あっ、ご、ごめんね)
ピカチュウ♀「…」トコトコトコ
ピカチュウ「ピカッ……?」(どこ行くの?)
ピカチュウ♀「ピカピ」(関係ないでしょ)
ピカチュウ「ピカッ、ピカピカ」(でも一緒にいないとレッドが心配するよ)
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカッチュ」(だからなに?)
ピカチュウ「ピ、ピカピィ、ピカピカァ」(なにって……あとで怒られるのはぼくなんだよ)
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカチュウ」(だから、あなたが叱られようが怒鳴られようが、わたしには関係ないことでしょ)ダッダッダッ
ピカチュウ「ピカッ!」(あっ、待ってよ!)ダッダッダッ
ピカチュウ♀「ピカッチュ」(ついてこないでよ)トコトコトコ
ピカチュウ「ピカッ、ピカピィ」(だってキミになにかあったら、脳みそがとろけるほど説教されるんだもん……)トコトコトコ
ピカチュウ♀「……ピカッ」(……好きにしたら)トコトコトコ
ピカチュウ「ピカピ?」(ところでどこへ向かってるの?)
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカッチュ」(別に。ここニンゲンが多いし、じっとしてるのがいやなだけ)
ピカチュウ「…」トコトコトコ
ピカチュウ「……ピカピ」(……ねぇ)
ピカチュウ♀「ピカチュ」(あまり近寄らないで)
ピカチュウ「ピカピィ、ピカ、ピカピカ」(バトルの時のこと、まだ怒ってる?)
ピカチュウ♀「…」トコトコトコ
ピカチュウ「ピカ……?」(ぼくのこと……そんなにきらい?)
ピカチュウ♀「…」チラッ
ピカチュウ「…」
ピカチュウ♀「ピッカ、ピカピカ」(……あなたのことは気にいらないと思ってるけど、きらいではないよ)
ピカチュウ「ピ……?」(えっ?)
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカチュウ。ピカピカ」
(あのニンゲンに『バトルしてほしい』って言われたからわたしはそれに従っただけだし。
そしてわたしはあなたと戦って負けた。
ただそれだけのこと)
ピカチュウ「……ピカッチュ」(……痛かった?)
ピカチュウ♀「……ピカッ」(そりゃね。頭ぶつけたし)
ピカチュウ「ピカチュ……」(ごめんね……)
ピカチュウ♀「ピカッチュ、ピカピカ」
(わたしもちょっとやりすぎたし、痛いのはお互い様だから気にしなくていいよ。
わたし、別に怒ってないし)
ピカチュウ「ピカピィ」(あ、ありがとう)
ピカチュウ♀「ピカッチュ、ピカピカ、ピカピー」
(だからって勘違いしないでよね。
わたしはエサ目的であのニンゲンに近づいたんだから。
おいしそうにがっついてたあなたにすごくムカついてるんだから。
そこのところ理解してよね)
ピカチュウ「…」
ピカチュウ♀「ピカピー、ピカッチュ」
(わかったらこれ以上馴れ馴れしくするのはやめてくれる?)
ピカチュウ「ピカッ。ピカピカ」(うん。わかったよ、ごめんね……)
ピカチュウ♀「ピカピィ」(いちいち謝るのはやめて。気持ち悪い)
ピカチュウ「…」
レッド「戻ったよ」
ピカチュウ♀「ピカッ」
ピカチュウ「ピカッ……」
レッド「どうした? そんなにしょぼくれて」ナデナデ
ピカチュウ「ピカッ……」チラッ
ピカチュウ♀「…」プイッ
レッド「またケンカ? 飽きずによくやるなぁ」
レッド「ピカチュウ、異性は初めてだから緊張してるだけだろ?」ヒソヒソ
ピカチュウ「…」チラチラッ
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカピィ」(どこ見てんの。えっち)
ピカチュウ「ピカー」(そんなつもりじゃ……)
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカチュウ」(あっち行ってよ)
ピカチュウ「…」
レッド「まぁまぁメスピカチュウ、これあげるから機嫌なおして」
ピカチュウ♀「ピッ?」
レッド「人間もポケモンもおいしく飲めるミックスオレだ。
甘くてひんやりしてて心が癒されるぞ」
ピカチュウ♀「…」クンクン
レッド「信用ないなぁおれ。毒なんか入れてないって」
ピカチュウ♀(いいニオイ……)クンクン
レッド「あっ、お前にはやらないぞ。か弱い女の子をはたいたバツ」
ピカチュウ「ピ、ピカ!?」
レッド「うそだようそ。本気にすんなって。ほいっ」
ピカチュウ「ピカ」(ほっ……)
ピカチュウ♀「…」クンクン
ピカチュウ♀(どんな味がするのかな)ペロッ
ピカチュウ♀「!」
ピカチュウ♀(すごく甘くておいしい)ゴクゴクッ
レッド「おいしいだろ? 1本350円もするんだぜ」
ピカチュウ♀(甘味が口いっぱいに広がって、旨味が舌に染みこんで……)ゴクッ、ゴクッ
ピカチュウ「…」
レッド「んっ? ピカチュウ、どうした? 飲まないのか?」
ピカチュウ♀(水なんかとは全然比べものにならないくらいおいしい)ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ
レッド「おーっ、一気に飲みほしたな。よっぽど好みの味だったのかな?」
ピカチュウ♀「ピカッ」グイッ
レッド「えっ、おかわり?」
ピカチュウ♀「チャアァ」コクッコクッ
レッド「ごめん。あいにく2本しかないんだ。
あとでおつきみやまで買ってあげるよ」
ピカチュウ♀「チュウ……」
レッド「あっ、サイコソーダなら確かまだあったぞ」ガサゴソ
レッド「はい。これもおいしいよ」
ピカチュウ♀「…」クンクン
ピカチュウ♀「ピカッ!」(こんなのいや!)バシッ
レッド「えー、ダメなの? ちぇっ、贅沢だなぁ」
ピカチュウ「ピカピ」(あ、あの……)
ピカチュウ「ピカピー、ピカッチュ」(ぼくのこれ、飲んでいいよ)スッ
ピカチュウ♀「ピカッ……?」(えっ?)
ピカチュウ「ピカチュウ、ピカピカ」(まだ口つけてないから大丈夫。これ、キミにあげる)
レッド「おぉっ?」
ピカチュウ♀「……ピッ?」(……どういう風の吹き回し?)
ピカチュウ「ピカピカ、ピカッチュ」(いや、キミがすごくおいしそうに飲んでたからあげようかなって)
ピカチュウ♀「ピカピ、ピカピカ」(いいよ別に。それはあなたのでしょ)
ピカチュウ「ピカピィ、ピカッチュ」(遠慮しないで。またほしくなる気持ちはよくわかるし)
ピカチュウ♀「ピカピ?」(でも、あなただって飲みたいんじゃないの?)
ピカチュウ「ピカチュウ、ピカピカ」(ぼくはサイコソーダを飲むから)
ピカチュウ♀「…」
ピカチュウ♀「ピカピカ……?」(本当にいいの?)
ピカチュウ「ピカッチュ」(うん。はいっ)スッ
ピカチュウ♀「……ピカピ」(……ありがと)
レッド「お前は優しいな。見直したぞ」ナデナデ
ピカチュウ「ピカッ」ニコニコ
ピカチュウ♀(おいしい)ゴクッ、ゴクッ
レッド「ほいっ、サイコソーダ。ゆっくり飲むんだぞ」
ピカチュウ「ピカピ」
ピカチュウ♀「…」ゴクッ、ゴクッ
ピカチュウ「! ピカァ……」(す、すっぱいや……)
ピカチュウ♀「ピカチュピ?」(それ、おいしいの?)
ピカチュウ「ピカピー、ピカピカ」(うーん、あんまり……かな?)
ピカチュウ♀(……このピカチュウにもちょっとだけいいところがあるみたい)ゴクッ、ゴクッ
レッド「それ飲んだら出発しよっか」
ピカチュウ「ピカッ」
レッド「そろそろ行こっか。あっ、そうだ」
ピカチュウ♀「?」
レッド「考えてみたらメスピカチュウもアレ、活用できるんだよな。
ピカチュウ」
ピカチュウ「ピッ?」
レッド「せっかくだし、しばらくでんきだまを貸してあげたらどうだ?
メスピカチュウならきっとうまく使いこなせるだろうしさ」
ピカチュウ「ピカッ」コクッ
ピカチュウ「ピカピ、ピカッチュ」(じゃあ、これ。使い古しで悪いけど……)スッ
ピカチュウ♀「ピカピカ?」(なにこれ? ボール?)
ピカチュウ「ピカピー、ピカピカ、ピカッチュ」
(これは『でんきだま』といってね、攻撃力を高めてくれるぼくたち専用のどうぐだよ)
ピカチュウ♀「ピカピ……?」(わたしたち専用?)
ピカチュウ「ピカピ、ピカピカ」(ぼくたちピカチュウが持ってると攻撃力が2倍になるんだって)
ピカチュウ♀「ピカピカ?」(持ってるだけで威力があがるの?)
ピカチュウ「ピカッ」(うん)
ピカチュウ♀「ピカピィ、ピカ?」(ライチュウには効果が出ないの?)
ピカチュウ「ピカッチュ、ピカピカ」(そうみたい。だからレッドはぼくを進化させないまま育ててるんだと思う)
ピカチュウ♀「ピカピカ、ピカチュウ」(そうなんだ、すごい。こんな物があったなんて……)
レッド「行こうよ」
ピカチュウ「ピカッ」コクッ
レッド「メスピカチュウ、それはすごく貴重な物だから紛失だけはしないように頼むよ」
ピカチュウ「ピカッチュ」(大事に使ってね)
ピカチュウ♀「ピカッ。ピカピ」(うん。あっ、ちょっと)
ピカチュウ「?」
ピカチュウ♀「ピカピカ、ピッカ」
(さっきはありがと。あと、『2度とさわらないで』って言ったの……取り消すよ)
ピカチュウ「ピッ?」(えっ?)
ピカチュウ♀「ピカピカ、ピカチュウ」
(勘違いしないでよ。取り消すだけだからね。
あなたに心を許したわけじゃないんだからね)
ピカチュウ「ピカッ、ピカピィ」(う、うん。ありがとう)トコトコトコ
レッド「なに話してるのかわからないけどちょっとは仲直りできたみたいだな、ピ・カ・チュ・ウ」ニヤニヤ
ピカチュウ「ピ、ピカピ」
―おつきみやま・いりぐち―
レッド「ここはトキワのもりよりも更に薄暗いとこだから注意深く歩くように」
ピカチュウ「ピカッ」
ピカチュウ♀「…」ギュッ
ピカチュウ「!」
ピカチュウ♀「ピカピ……」(……こういう場所、苦手)
ピカチュウ「ピ、ピカチュピ、ピカー」(い、痛いよ。そんなにしがみつかないでよ)
ピカチュウ♀「…」ギュッ
レッド「へぇ、あれだけさわられるのを嫌ってたメスピカチュウが自分からねぇ」
レッド「じゃあ行こうか」スタスタスタ
ピカチュウ♀「ピカ、ピカチュウ」(ゆっくり歩いてよ)
ピカチュウ「ピカチュピ、ピカピカ」
(わかったからそんなに強くつかまないでってば……)トコトコトコ
レッド「懐かしいなぁ。あの時はピカチュウしかいなかったから通り抜けるのに随分苦労したんだっけ」
ピカチュウ♀「ピカピ?」(このニンゲン、他にポケモン持ってないの?)
ピカチュウ「ピカチュピ、ピカピカ」
(いっぱいいるけど今は変な機械にあずけてるよ)
ピカチュウ♀(やだなぁここ。空気が冷たいし不気味だし……)
バササササッ
ピカチュウ♀「ピカピ!」(きゃっ!)ギュウウッ
ピカチュウ「ピカァー!」(いたたたたっ!)
レッド「ただのズバットだよ」クスクス
ピカチュウ♀「ピカー、ピカチュウ」(ねぇ、こんなところ早く出ようよ……)
ピカチュウ「ピ、ピカピ」(ぼ、ぼくに言われても……)
レッド「あっ! 後ろにゴースの大群が!」
ピカチュウ♀「ピカアァッ!」(やだぁもう!)ギュウウゥッ
ピカチュウ「ピガアァッ!」(いーたーいーーーー!)ジタバタ
レッド「ははっ、気の強いメスピカチュウでもオバケ方面は苦手なのか。
意外な弱点みっけ」クスクス
ピカチュウ♀「……ピカアァ」(……ムカつく、このニンゲン)バチバチバチバチ
ピカチュウ「ピ、ピカ!」(あっ、ちょっ……)
ピカチュウ♀「ピカッヂューーーーーウ!」(許せない!)バリバリバリバリ
レッド「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
ピカチュウ「ピカ、ピカァ」(ダ、ダメだよ。でんきだまの効果で威力が倍増してるんだから……)
ピカチュウ♀「ピカッ! ピカチュウ!」(あなただってからかわれたら腹がたつでしょ!?)
ピカチュウ「ピカッチュ、ピカピ」(気持ちはわかるけど、レッドは一応キミのトレーナーなんだし、攻撃するのはダメだよ)
ピカチュウ♀「ピカッ、ピカピカ」(……『わたしの飼い主になって』なんてお願いした覚えないもん)プイッ
ピカチュウ「ピカァッ……」(ご、ごめん。責めてるわけじゃないんだよ。怒らないで)
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