~ 魔王城 ~
魔王「我が栄えある二大幹部よ!」
武人「はっ!」
卑劣漢「ハハーッ!」
魔王「次なる任務を与える。武人はヤラーレ王国、卑劣漢はカーマセ王国を攻略してくるのだ!」
武人「はっ!」ババッ
卑劣漢「必ずや成し遂げてみせます……」ニヤ…
~ ヤラーレ王国 ~
騎士団長「ぐっ、我ら栄光あるヤラーレ騎士団が、正々堂々の合戦で圧倒されるとは……」
武人「吾輩とて、これ以上貴公の軍勢を傷つけることは本意ではない」
武人「ここは潔く、トップ同士の一騎打ちで決着をつけぬか?」
騎士団長「いいのか……? このまま戦っても、貴様らの勝利は揺るがぬというのに……」
武人「吾輩に二言はない」
武人「その消耗した体では全力を出せまい。勝負は明日としよう」
ズバァッ!
騎士団長「――ぐはぁっ!」ドサッ…
武人「魔族にも貴公ほど吾輩と戦える者はそう多くない……素晴らしい腕だったよ」
騎士団長「光栄、だ……」
武人「勝利した以上、この国は占領させてもらう。が、王や民の命を奪うことはせん」
騎士団長「あ、ありが、とう……」ガクッ
武人「――よし! すみやかに騎士団長を弔い、この国を占領せよ!」
武人「ただし、これ以上命を奪うな! 規律を破った者は処刑する!」
~ カーマセ王国 ~
卑劣漢兵A「この国の重要人物の家族をさらってまいりました」
卑劣漢「ご苦労だった……」ニヤ…
卑劣漢「お~い、聞こえているか! カーマセ王国の諸君!」
卑劣漢「ワタシはキミらの家族を人質に取っている!」
卑劣漢「彼らを殺されたくなくば、ただちに城門を開け、降伏したまえ!」
卑劣漢「今すぐ降伏すれば、人質やキミらに危害を加えることはしないと約束しよう!」
王「くそっ、なんという奴だ……!」
大臣「しかし、こうなった以上……降伏せざるをえません……」
大臣「危害は加えない、と申していますし……」
王「うむう……仕方あるまい……!」
王「さぁ、城門は開けた! 約束通り――」
卑劣漢「約束ぅ? なんの話かなぁ?」ホジホジ
王「な……なにっ!」
卑劣漢「あいにくワタシは忘れっぽくてねえ。魔族だからキミらの言葉もよく分からんし」
卑劣漢「部下どもよ! カーマセ王国のバカどもを、たっぷり可愛がってやれ!」
王「き、貴様ァッ!」
卑劣漢「うるさい!」ザシュッ
王「ぐあっ……!」ドサッ
卑劣漢「おっ、今の素晴らしい断末魔は忘れないでおこう! ハッハッハッハッハ……!」
~ 魔王城 ~
魔王「二人とも、ご苦労だった」
魔王「あの二王国をたやすく落とすとは、さすがは二大幹部というべきか」
武人「はっ!」
卑劣漢「ハハーッ!」
武人「しかし魔王様、一つ申し上げたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
魔王「申してみよ」
武人「ではお時間を頂戴いたします……卑劣漢よ!」
卑劣漢「ん~?」
武人「貴様、カーマセ王国に対して人質などという恥知らずな策を用いたばかりか」
武人「降伏した王を殺し、住民に対してひどい弾圧をかけていると聞いたぞ! どういうことだ!」
卑劣漢「ハァ? それのどこがいけないんだい?」
武人「我らは誇り高き魔王軍! 卑怯な手段で人間に勝っても意味がない!」
卑劣漢「オイオイ、笑わせてくれるねえ。ワタシは勝利という結果をもたらした」
卑劣漢「しかもキミよりも自軍に損害を出さずにな……」
卑劣漢「それ以上、いったいワタシになにを望むんだい?」
武人「吾輩のいってることが分からんのか!?」
卑劣漢「分からないねぇ……あ、もしかして嫉妬してるのかな?」
卑劣漢「ワタシがキミよりお手軽に、同等の手柄を立ててしまったから……」ニヤ…
武人「貴様ッ!」ガシッ
卑劣漢「ひいっ! や、やめ、ろ……!」
魔王「よさぬか!」
武人「!」パッ
武人「……失礼いたしました」
卑劣漢「ぐっ……」ゲホッゲホッ
卑劣漢「く、くそっ……この馬鹿力め!」ゲホッ…
武人「貴様には誇りというものがないのか!? 恥というものがないのか!?」
卑劣漢「誇り? 恥? そんなチンケなもん、いくら持っててもなんのたしにもならんよ」
卑劣漢「ワタシはオマエになにをいわれようと、ワタシのやり方でやらせてもらう」
武人「おのれ……!」
武人「たとえ魔王様が貴様を認めようと……吾輩は絶対に貴様を認めん!」
卑劣漢「フンッ、そのセリフそっくりお返ししてやるよ!」
魔王(う~む……この二人はまさに水と油、だな……)
魔王(武人と卑劣漢……共に優秀ではあるが、どうも極端すぎる)
魔王(戦いにおいては、武人のように敵を真っ向から打ち砕く勇猛さも必要だし)
魔王(卑劣漢のように汚い手段をためらいなく実行する狡猾さも必要だ)
魔王(能力的には申し分ない二人だが、ここらで一皮むけて欲しいというのも本音ではある)
魔王(――と、なると荒療治しかあるまいか)
数日後――
魔王「我が栄えある二大幹部よ!」
武人「はっ!」
卑劣漢「ハハーッ!」
魔王「次なる任務だ。武人はファイボーク連邦、卑劣漢はマッケ王国を攻略してくるのだ」
武人「はっ!」ババッ
卑劣漢「必ずや成し遂げてみせます……」ニヤ…
魔王「ただし条件をつける!」
武人&卑劣漢「条件……!?」
魔王「武人は卑怯に戦い、卑劣漢は正々堂々と戦うことを命ずる! ――以上だ」
武人「な……!? どういうことですか!? 魔王様!」
卑劣漢「そうですよ、なんでそんな面倒なことを……!」
魔王「これは命令だ。お前たちは黙って従えばよいことだ」
武人「しかし、吾輩には卑怯な手段などとても――」
卑劣漢「ワタシが正々堂々? 冗談ですよね?」
魔王「口答えは許さぬッ!!!」
武人&卑劣漢「!」ビクッ
魔王「出陣しろ」
武人「……はっ!」
卑劣漢「ハハーッ!」
魔王「…………」
魔王(これは……賭けだ)
魔王(下手すると、あの二人はとんでもない大打撃をこうむるかもしれん)
魔王(だが……うまくいけば、互いに自分が忌み嫌っていた戦術の利点を理解し)
魔王(“正々堂々の武”と“手段を選ばぬ卑怯”を兼ね備えた怪物を二匹誕生させることができる!)
魔王(はたして、どうなることやら……)
~ ファイボーク連邦 ~
武人兵A「毒の矢? 病を持った動物を城に放り込む? 捕虜とした人間を盾にする!?」
武人兵B「なぜ、あなたがそんな作戦を!? 信じられません!」
武人「魔王様は、今回吾輩に“卑怯に戦え”と命じられた……」
武人「不本意だが、魔王様の命令には逆らえぬ」
武人「今回は敵と真っ向勝負をせず、小細工を用いて戦う!」ギリッ…
~ マッケ王国 ~
卑劣漢兵A「マッケ軍が現れました!」
卑劣漢兵B「へへへ……今回はどんな戦法で奴らを苦しめますか?」
卑劣漢「今回は……奴らと直接ぶつかる。そういう命令なのでな」
卑劣漢兵A&B「なんですって!?」
卑劣漢「まったく下らんことだがな……が、いくらワタシでも魔王様には逆らえん」
卑劣漢「敵と真っ向から激突するなど愚の骨頂だが……全軍、突撃しろ!」
~ ファイボーク連邦 ~
ワァァ…… ワァァ……
武人兵A「我が軍の勝利です! 武人様!」
武人兵B「圧勝です! あなたにとっては、あまり嬉しくない勝利でしょうが……」
武人(え、もう終わったの……?)
武人(いくらなんでも早すぎだろう……こんなスムーズに勝ててしまうなんて……)
武人(吾輩が今までやってきたことはいったい……)
武人(もしかして、吾輩は今までとてつもなく無駄な時間を……)
~ マッケ王国 ~
ワァァ…… ワァァ……
卑劣漢兵A「ハァ、ハァ……なんとか、勝てました、ね……」
卑劣漢兵B「だいぶお怪我をされていますが、大丈夫ですか? 卑劣漢様!」
卑劣漢(ワタシが正々堂々と戦った……? このワタシが……?)
卑劣漢(痛いし、血が出たし、犠牲も多いし、まさに骨折り損といった感じだ……)
卑劣漢(なのになんだ!? この心の奥底から湧き上がるこの感情は!?)
卑劣漢(自分の力で戦うって……楽しい……!)ゾクゾクッ
……
……
……
~ 魔王城 ~
魔王「我が栄えある二大幹部よ!」
武人「うははは……ようやく次の任務ですか」
卑劣漢「手強い敵をお願いしますよ」
魔王「武人はヨーワ共和国、卑劣漢はザッコ王国を攻略してくるのだ!」
武人「ヨーワ共和国程度、吾輩が一日で滅ぼしてみせましょう!」ババッ
卑劣漢「ザッコ軍は勇猛果敢と聞きます。実に楽しみですね」ニヤ…
~ ヨーワ共和国 ~
武人「うっはっはっは、バカな奴らだ!」
武人「吾輩が正々堂々戦うと信じて、地面に伏せておいた罠に引っかかりおって!」
武人「見ろ! あの敵のマヌケヅラを! 笑いすぎて腹が痛くなってきた!」
武人「これでめでたくこの国の兵士どもは全滅した!」
武人「残る女や子供はたっぷり遊んでから殺せ殺せ殺せぇぇぇっ! 一匹も逃すんじゃないぞ!」
武人「ついでにこの国の村や町全部に猛毒を仕込んだ矢で、黒い雨を降らせてやれ!」
武人「うっはっはっはっはっはっは!」
武人「吾輩はこの国の連中がみじめにくたばるざまを、ワインでも飲みながら眺めるとしよう!」
~ ザッコ王国 ~
卑劣漢兵A「す、すげえ……ザッコ軍の精鋭を……たった一人で全滅……」
卑劣漢兵B「しかも、全員息があるみたいだぜ……」
軍団長「な、なぜ……殺さなかった……」
卑劣漢「ワタシが求めるのは魔王様の命に従うことと、愉快な戦いのみだからねえ」
卑劣漢「命を奪うことにさほど興味はないのだよ」
卑劣漢「キミらのおかげで、ワタシはまた一つレベルアップできたようだ、礼をいう」
卑劣漢「さぁ、部下たち! 無血かつスマートにザッコ王国を制圧するのだ!」
軍団長(完敗だ……!)
~ 魔王城 ~
魔王「二人とも……ご苦労」
武人「ヨーワにはもはや人間は一人もおりませぬっ! 最高に楽しかったですぅっ!」
卑劣漢「ザッコ王国を無血開城させてまいりました……」
魔王「う、うむ……。褒美として、しばらくは休息を取るがいい」
魔王「いつか現れるやもしれぬ“勇者”に対抗するためにも、各々力を蓄えておけ!」
武人「もちろんです! もしも勇者が現れたら、吾輩の華麗なる策略で仕留めてみせましょう!」
卑劣漢「勇者ですか……ぜひ育ちきったところで手合わせ願いたいものですね」
魔王(まさか、一度いつもの自分とは正反対の戦術を体験しただけで、こうも変わるとは)
魔王(いや、むしろ……どちらもようやく“本来の適性”にたどり着いたというべきか)
魔王(期待していたものとはちがうが、怪物が二匹生まれたのは間違いないようだ……)
武人「広範囲にわたって毒を撒き散らす新兵器を開発してやるぅ! うはははははっ!」
卑劣漢「ワタシの武はまだ未完成……! より高みを目指さねば……!」
~おわり~
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