【艦これ】提督「こんな夢を見た」【夢十夜】 (107)
【第一夜】
こんな夢を見た。
俺は腕組をして座っている。俺の前では、幼さを残した顔立ちの女が、布団に横たわっている。普段は二つ結いにしている髪をほどき、枕に敷いて、細く息を吐いている。
「もう死ぬぞ」
女が静かにそう言う。白い肌には微かに血の色が差し、唇も瑞々しく、とても死にそうには見えないが、女は静かに、だがはっきりと、死ぬと言った。
「そうか、もう死ぬか」
俺も、これは確かに死ぬな、と思ったので、女の顔を覗き込みながら聞いてみた。
「うむ、死ぬ」
女がぱっちりと目を開け、俺を見つめ返す。黒曜石のようなつやと深みのある真っ黒な目に、俺の姿が映し出されている。
その目を見て俺は、これでも死ぬのかな、と思い返し、女の耳元でまた聞いた。
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「死にはせんだろう。……大丈夫だろう?」
「死ぬのじゃから、仕方あるまい」
女は眠たそうに、まぶたを閉じかけたりまた開いたりしながら、やはり静かな声で答えた。俺は急に不安に駆られ、さらに聞いてみた。
「俺の顔が見えるか?」
「見えるもなにも、そこに写っておろう」
何を妙なことを聞くのかと、女は笑った。俺は黙って体勢を戻し、どうしても死ぬのか、と思った。
しばらくすると女が言った。
「死んだら、埋めてくれ。航空甲板で穴を掘ってな。それから、落ちてきた水偵の破片を墓標に置いてくれ」
「……そうしたら、墓の側で待っておれ。また会いに行く」
「……いつ、会いに来る?」
「そうさのう……。日が出るじゃろう。それから沈むじゃろう。また出るじゃろう。また沈むじゃろう。赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに……待っておれるか、お主?」
俺は黙って頷く。
「……百万年、待っておれ」
「百万年、我輩の墓の側に座って待っておれ。きっと会いに行く……」
女の目はぱっちりと見開かれているのに、その声は今にも眠りに落ちそうなゆったりとしたものであった。
「……待っている」
俺は答えた。すると、女の目に映る俺の姿が急にぼやけ、波打つかのように揺れたかと思うと、女のまぶたがふっと閉じられた。
その目尻から、未だ温かさを残した滴が頬へ垂れる。――もう死んでいた。
俺は庭へ下り、言われた通り航空甲板で穴を掘った。カタパルトは至極快調な様子であったが、カタパルトが好調であろうが不調であろうが、もはや意味のないことであった。
しばらくして穴が掘れたので、女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっとかけた。その間、カタパルトが意味もなく機械音を立てていた。
それから水偵の墜落したのを拾ってきて、盛り上がった土の上に載せた。水偵の破片は傷だらけで、長い間大空で戦ううちにこうなったのだろう、と思った。
そうして地面に座り、腕組をした。これから百万年の間こうして待つのだと考えながら、丸い墓石を眺めていた。
そのうちに、女の言った通り日が東から出た。そして女の言った通りに、やがて西へ沈んだ。一つ、と俺は数えた。
しばらくするとまた、日が昇った。そして黙ったままで沈んだ。二つ、とまた数えた。
こうして何度も何度も、繰り返し繰り返し、赤い日が昇って行くのを見、頭上を過ぎるのを見、沈んで行くのを見て、その回数を数えたが、百万年はまだ来ない。
いつの間にか、墓石には苔が生している。俺は、女に騙されたのではないかと思い始めた。
すると、石の下から俺の方へ向いて、青い茎がわっと伸びてきた。瞬く間に広がり、俺の周囲を埋め尽くすとようやく止まった。
俺の見つめる前で、ゆらゆらと揺れる茎の先端が一斉に開いていき、黄緑色の小さな花を百ほども咲かせた。
俺はしゃがみ込み、その花の一つに顔を近づけると、そっと接吻した。なぜか泣きそうになった。
「――提督よ」
俺ははっとして顔を上げた。
そこで目が覚めた。
「執務中に居眠りとは……お主、随分と暇そうじゃの?」
執務机に頬杖を突き、優しい眼差しで女が俺を見つめていた。百万年はもう来ていたのだと、この時初めて気が付いた。
「……百万年の昼寝、だな」
「何の話じゃ?」
「……何でもない」
【第一夜】 了
【第二夜】
こんな夢を見た。
執務室を出て廊下伝いに私室へ戻ると、卓上ランプがぼんやり灯っている。椅子に腰を下ろし、ランプの目盛を調節すると、室内がぱっと明るくなった。
俺が着任する前から壁にかけてある絵は、誰の筆かは知らぬ。広い海原の上に淡くもやがかかる中を、大きな鉄の船に乗ったヒゲの軍人が進む絵だ。反対の壁には夜戦主義の軸がかかっている。
広い鎮守府は閑散として人気がなく、俺が身じろぎする度に、ランプの光とそれに照らされた影が生き物のように蠢いた。
片肘をついて右の手で引き出しを探ってみると、思った所にちゃんとあった。あれば安心なので、引き出しを閉じて姿勢を正した。
『あんたは司令官なんだから。司令官として、やるべきことがあるでしょ』と女は言った。
『うだうだと五月蝿いわね……クズ司令官』と言った。
『はぁ!? 何よ、逆ギレ!? 悔しかったら、私を殴るぐらいの根性見せてみなさいな!』と言って、ぷいとそっぽを向いた。
壁際に据えてある置時計が次に鳴るまでには、何らかの解決法を見出してみせる。そうして、彼女の身柄と自分の身柄とを引き換えにするのだ。
解決法を見出せなければ、彼女の無事が保障されぬ。何としても思いつかねばならない。自分は提督である。
思いつかなければ――自決する。彼女一人に責任を負わせて、のうのうと生きる訳にはいかない。自分が責任を被って、綺麗に死んでしまおう。
そう考えた時、俺の手は思わず引き出しの奥へ潜った。そうして黒光りする拳銃を引っ張り出した。
ぐっとグリップを握って、スライドを引くと、弾薬が薬室に送り込まれた。その様子をじっと見つめていると、何かおどろおどろしいものが小さな弾薬に集まってくるように感じられて、不気味であった。
震える唇を噛み、手汗で若干ねばつく拳銃を机の上に置くと、目を閉じて思考に入った。
血が出そうなほど唇を噛む力を強め、鼻息は次第に荒くなるのに任せる。閉じた目にもさらに、目玉を潰そうというくらいぎゅっと力を込める。
まぶたの裏に軸の文字が浮かび、ランプの明かりが浮かび、壁の絵が浮かび……一番大きく女の顔が浮かんだ。いつものようなきつい声色まで聞こえるようだ。
どうあっても、彼女に害を及ばせてはならない。考えるのだ。ないか。何かないのか。
俺は拳を握り、自分の頭を思い切り殴った。そして奥歯を噛み締めた。全身から汗が噴き出し、あちこちの関節が痛むような錯覚が生じるが、何も思い浮かばない。
己の無能が情けなく、涙を流し、我が身を巨岩にぶつけて砕いてしまいたいと思いながらなお座る。ない。何も思いつかない。何もない……。
そのうちに頭が変になった。軸もランプも絵も、全て始めから存在しなかったのではないか。鎮守府も、女も、己すらも……。
突如、置時計がボーンと鳴った。はっとして拳銃に手を伸ばす。が、確かにそこにあるはずの拳銃がない。やはり全てが胡蝶の夢だというのか。
もう一度置時計がボーンと鳴った。かっと目を見開く。女が私の拳銃を手にして立っていた。
「こんなことされたって、嬉しくも何ともないのよね」
女の目ははっきりそうと解るほど潤んでいた。それを見た瞬間、先までの焦燥が嘘のようにすっと消えていった。
「こんなの……責任取るうちに入んないわよ、クズ!」
女の平手が俺の頬を張った。
そこで目が覚めた。
「こんな時間に居眠りなんて……相当お暇なようね、クズ司令官?」
険のある鋭い目で、女が俺を睨んでいた。窓の外には、敵も味方も滅多に訪れない辺境の、長閑<ノドカ>な風景が広がっている。
俺は、生き急ぐような振る舞いをしていたかつての自分を思い出し、つい笑みを漏らした。
「何笑ってんのよ。……ちょっと! 何で頭撫でるのよ!」
俺は益々笑みを深め、女の頭を撫でる手つきを荒くした。女はその手を払いのけようとはしなかった。
「……あー、もう! 本っ当にクズなんだから!」
【第二夜】 了
【第三夜】
こんな夢を見た。
女を背負っている。艤装は着けていないが、我が鎮守府の艦娘である。ただ不思議なことに、いつもかけている眼鏡をかけていない。
「眼鏡はどうしたのだ」
「なに、随分前からだ」
俺が問うてみると答えが返ってきた。やはり聞き知った女の声に相違ないが、声色はどこか疲れたようであった。眠たそうにも感じられた。
左右は島影である。カモメの影が時折海面に映る。人間である俺と、艤装を着けていない女とが、海上を歩いていることは不思議には思わなかった。
「海峡にかかったな」
「なぜ解る」
「カモメが鳴くからな」
女がそう言うとはたして、カモメが二声ほど鳴いた。
俺は何だか急に恐ろしくなった。このままにしていればどうなるかわからぬ、という不安が湧き上がる。
どこか女を下ろす所はないかと辺りを見渡すと、向こうの方に水底の一際深くなっている所がありそうだった。
「……ふふっ」
「……何を笑う」
女はそれには答えず、こう聞き返してきた。
「提督よ、重いか」
「軽くはないな」
「そうか。じき軽くなるぞ」
俺は黙って海溝を目指して歩いて行ったが、大小の島々で入り組んで思うように進まない。しばらくすると二股になった。
「左がいいだろう」
女がそう言ったが、俺は躊躇った。何となれば、左へ行けば来た方角へ戻るのではないかと思えたからである。
「そう遠慮するな」
女がまた言うので、俺は仕方なく左へ歩き出した。内心では、眼鏡がないのになぜあれこれ解るのかと考えていた。
「ふむ、眼鏡がないとどうにも不自由だな」
「俺が背負っているのだからいいだろう」
「それはありがたいが、どうも人に馬鹿にされるようでな。提督にまで馬鹿にされるものだからな」
俺は益々恐ろしくなって、早くどこかへ下ろしてしまおうと歩き回った。
「もう少しだ。――ちょうど、こんな晴れた日だったな」
「……何が」
「何が? おいおい、知っているだろう」
そう言われると、知っているような気がしたが、やはりはっきりとは解らない。ただ、確かにこんな晴れた日だったような気はした。そして、もう少し行けば更に何か解る気もした。俺はそれを解らねばならないという使命感が急に湧き、足を速めた。
雲がだんだんと減って行き、海面が明るく照らされる。なぜか気が逸る。無我夢中で歩く。
「ここだ、ここだ。ちょうどこの真下だ」
疲れたようだった女の声音が、急に明るくなった。俺は足を止めた。
「提督よ、この真下だったな」
「ああ、そうだ」
思わず頷いた。
「平成二十七年未〈ヒツジ〉年だったろう」
女の言う通りに思われた。
「貴様たちが私を見つけてくれたのは、終戦からちょうど七十年後だったな」
それを聞いた瞬間、巨大な船体が傷つき、砕け、水底でひっそりと眠る姿が頭の中に流れ込んできた。
ずっとここにいたんだなと思った瞬間、背中の女が急に空気のように軽くなった。
そこで目が覚めた。
「昼間から眠りこけて……疲れが溜まっているのではないか、提督よ?」
本を読む手を止め、女がこちらを見つめていた。いつもと同じく、眼鏡をかけている。
「……? なぜ泣いている?」
「いや……」
俺は涙を拭い呟いた。
「……おかえりなさい」
【第三夜】 了
【第四夜】
こんな夢を見た。
コンクリの埠頭の中ほどにムシロのようなものが敷いてある。その一隅で、四角い膳を前に女が一人で酒を飲んでいる。節操なくちゃんぽん飲みをしているらしく、色とりどりの瓶が並んでいる。
女は酒の加減でなかなか赤くなっている。肌はつやつやとして皺がなく、黙っていれば目を見張るような美女と言っていい。ただあちこちトゲトゲと逆立った髪が、少々奇抜な印象を与えている。
そこへ、工廠の裏から猫をぶら下げた少女がやってきた。
「艦娘さんは何年戦いましたか」
少女は猫を弄びながら聞いた。女はくいと盃を空け、澄まして答えた。
「さてねぇ。忘れっちまったよ」
少女は猫を頭の上に乗せ、女の横に立ってじっとその顔を見ていた。女は何杯も盃を空け、ふぅと熱っぽい息を吐いた。少女がまた聞いた。
「艦娘さんはどこの生まれですか」
「さぁねぇ。工廠の隅っこかなぁ」
「艦娘さんはどこへ行きますか」
少女が続けて聞くと、女はまた何杯か盃を空けてからもう一度ふぅと息を吐いた。
「あっちの方かなぁ」
「まっすぐですか」
重ねて少女が問うと、女の吐いた息が風に逆らって海へと流れて行った。女は黙って立ち上がると、沖合いへ向けて歩き出した。俺もそれを追いかけた。女は一升瓶と巻物を手に持ち、大きなひらひらとした布を肩にかけていた。
かなり沖に出ると、女は笑いながら突然服を脱ぎ出した。そうして下着だけになると、肩にかけていた布をばさりと被った。俺はその様をじっと眺めていた。女の背中は布よりも真っ白く綺麗であった。
「今に、可憐なお嬢様になるからねぇ。まぁ~見てなって」
女が巻物を手に取り何事か呟くと、どこからか艦載機が現れ、女の周囲をぐるぐると回り出した。俺は女をじっと見つめ続けた。白い薄布の向こうに、血の通った肌の色がぼんやりと窺われた。
「見てなよ。いいかい……いいかい……」
女は一升瓶を呷りながら、艦載機の描く輪の中心に蹲った。その肩が小刻みに震えていた。嬉しくて笑っているようにも、恐ろしくて泣いているようにも見えた。
やがて艦載機の動きが遅くなり、一機がぽちゃりと海面に落ちると、雪崩を打って次々と水に落ちて行った。女は手元にあった巻物を放り投げた。
「こうしておくとさ、お嬢様になれるんだよ。見せてやる……あんたにも、見せてやるって……」
それきり女は動きを止め、ぶつぶつと呟き続る。俺は決して目を逸らさず、女を見つめることをやめない。
しばらくして、おや、と思った。女の身体が少し沈んだように見えた。より注意して見ていると、やはり少しずつ女の身体は水面下へ落ちているようだった。
尻と足先だけだったのがやがて臍〈ヘソ〉まで、胸元と膝まで、そして首回りまで沈んでも、女は身じろぎ一つしない。
「深くなる……深くなる……そうして本当になる……」
女はただ呟いている。女の言うように、その姿が可憐なお嬢様に変わる気配は見えない。女の頭が完全に沈もうとしている。
俺は無言で女に近づき、その身体を引き上げた。水で濡れた薄布が女の素肌に貼り付く。
「……ダメなんだよ。……もう戻れないんだよぉ」
女が暗い口調で呟く。なぜダメなのかと俺は聞いた。
「嫌だ……こんな格好、嫌なんだよ……あんたの隣にいるのに、相応しくないよ……」
俺は俯く女の顎に手を添え、くいと持ち上げると、その唇を奪った。
女は、とうとう可憐なお嬢様にはならなかった。しかし頭から被った白布が、まるで花嫁のヴェールのようであった。
そこで目が覚めた。
「なんだい、こんな時にうたた寝するなんてさぁ~。二日酔いかい?」
俺にしな垂れかかりながら、女が俺を見つめていた。その頭には、まるでではなく本物のヴェールがかかっていた。
「今日は特別な日だよ。……せいぜいパーッといこうぜ、パーッとな」
俺は頷き、立ち上がると、女と腕を組んで歩き出した。大きな扉を開き、赤い絨毯の上を進むと、たくさんの拍手と祝福の声が俺たちを包んだ。
「なぁ……」
立ち止まり、見つめ合った。
「……キスしておくれよ」
【第四夜】 了
【第五夜】
こんな夢を見た。
割と最近のことで、二年前の夏頃と思われるが、戦の最中に深海棲艦の打撃部隊が鎮守府を強襲したために、俺は生け捕りとなって、敵艦隊の姫の前に引き据えられた。
深海棲艦は皆図体がでかかった。そうして、瞳のない発光する目で俺を見据えていた。口の中やら、背中やらに鉄〈クロガネ〉の砲を生やしていた。
敵の姫は、背中から伸びた大顎を右の手でさすって、やはり背中から伸びた丸太のようなもう一対の腕を威圧的に揺らして、どこからか持ってきたドラム缶の上に腰をかけていた。
その顔を見ると、額の角と、血のように赤い目を別にすると、透き通るような白い肌の美しい女であった。
なぜ生かされているかは解らぬが、ともかく俺は捕虜なので、あちこちひびの入ったコンクリの地面に直接胡坐〈アグラ〉をかいていた。姫は、探照灯で照らされた俺の顔を見て、死ヌカ生キルカと聞いた。
俺は、まさか深海棲艦がこんなことを聞いてくるとは思わなかったので、しばらく無言でいたが、やがて死ぬと答えた。
そうすると、所在なげにぶらぶらしていた姫の背の腕が持ち上がり、今にも俺に振り下ろされようとした。俺は手の平を姫に向けて、待てと合図した。
朴念仁の俺でも恋心はあった。俺は死ぬ前に一目、想う女に会いたいと言った。姫は夜ガ明ケルマデナラ待ツと言った。女ガ来タナラセメテ一緒ニ殺シテヤロウとも言った。
姫は腰をかけたまま、優雅に構えて探照灯に照らされている。俺は胡坐をかいたまま、地面の上で女を待っている。だんだんと夜が更ける。
時々この世のものとも思えぬ鳴き声が響く。姫はちかちかと光る赤い目で俺を眺めている。口元がにやりと歪み、はっきりと嘲りの色が見て取れた。
この時女は、ただ一人で鎮守府へと急いでいた。風に流れる青みがかった白い髪を撫でつけ、長時間の酷使に悲鳴を上げる主機を叩き、ひたすらに急いでいた。
既に砲も魚雷も数発を残すのみで、頼みにできるのは手にした槍のみであった。それでも女はまっすぐに一目散に鎮守府へ疾〈ハシ〉る。女の髪は流星のように闇の中に尾を引いた。
やがて真っ暗な中に、ぽっと明かりが見えた。大きいのも小さいのも、いくつもの火がゆらゆら揺れている。女は槍を握る手にぐっと力を込め、上段に構えた。女に気づいた姫が甲高い笑い声を上げる。
「海の底に――消えろっ!」
女が叫んで、手にした槍を放り投げた。一直線に飛んだ槍は過たず姫の眉間を貫いた。緑とも赤ともつかぬ気色の悪い血液が、俺の頭から降りかかった。
「邪魔よっ! 私の前を遮る、愚か者めぇっ!!」
わずかに残った砲を撃ち、水上と同じ速さで地をも駆け、姫の亡骸から槍を引き抜き、斬り、叩き、突く――。残った深海棲艦も、女の鬼神の如き奮闘によって追い払われていった。
女が私の前に立つ。もうじき夜が明けようとしていた。姫の亡骸は未だにびくびくと痙攣している。夜の駆逐艦に勝てる者はいない。ましてやそれが、我が鎮守府最古参の駆逐艦娘ともなれば。
「あんた……何勝手に死のうとしてんのよ! この私を置いていこうなんて……そんなの、許さないんだから!」
「……っ、な、何よ! 別にそんな意味じゃぁ……」
女の頬には涙の痕と、この先も消えそうにない生傷があった。俺は立ち上がり、女を抱きしめた。この傷痕の残っている限り、女は俺の嫁である。
そこで目が覚めた。
「ほら、いい加減起きなさい。それで艦隊指揮が務まるの?」
腰に手を当て、ふんと鼻息を吐きながら、女が俺を見下ろしていた。女の頬には一筋の傷痕が走っている。
「何なの、その顔は。……まさか、まだ気にしてるんじゃないでしょうね」
女は俺の傍らに座り、左手で俺の頬を撫でた。その手には、銀の指輪が光っていた。
「イイ駆逐艦ってのはね……勲章代わりの傷の一つや二つ、持ってるものよ」
【第五夜】 了
【第六夜】
こんな夢を見た。
女が夜の埠頭でスケッチをしているというので、気分転換がてら見に行ってみると、ひっそりと静まり返った闇の中で一心不乱に筆を走らせていた。
夜のこととてよく解らぬが、沖合には大きな艦〈フネ〉が二隻浮かんでいるようだった。そっくり似通った姿をしているので、おそらくは姉妹艦であろう。平たく一面に張られた甲板の上に、艦橋だけがぴょんと飛び出ている。
あれは確かに戦中の航空母艦と見えるが、自分と女は紛れもなく現代に生きているはずであった。不思議といえば不思議である。
「立派なもんでしょ」
こちらに背を向けたまま女が言った。
「駆逐艦なんて拵〈コシラ〉えるよりもさ、何倍も骨が折れるんだろうね~」
そのまま黙っているのもどうかと思ったので、俺の方からも話しかけてみた。
「大きい……な。やはり航空戦力ってのは重要だよな」
ところが女はこちらの声には反応せず、忙しなく筆を動かして振り向きもしない。時々探照灯を動かしつつ、スケッチを進めていく。その様子がやけに真剣なので、特に深い意味もなく言葉を発した己を阿呆のように感じた。
海面は風で波立っていたが、艦は遠目にはでんと構えて揺られているようには見えず、頼もしい存在に思えた。俺は、どうして今時分まで艦が形を留めているのか、不思議なこともあるものだと考えていた。
女の方ではそんなことは一切気にならないと見えて、一生懸命に線を走らせている。
「……世界に己と艦しかいないといった風だな。俺のことは眼中になしか。そこまでいけば、却って天晴れではあるが」
俺は何となく面白くないと思って、意地の悪い口調で言ってみた。それでもなお女は俺の存在を露とも気に留めず、長い線や短い線をいくつも重ね、紙の上に艦を浮かび上がらせていった。
俺は少し手を変えることにして「見事な筆遣いだな」と言ってみた。女の耳がぴくりと動いたように見えた。
「よくまあ、そうも無造作に線を引いて、思うような絵を描けるものだ。妙技と評して間違いあるまい」
と感心した口調で言ってみた。これは一応正直な気持ちであった。女は手を止めて俺の言葉を聞いていた。
「……んまぁ別に? 描いてるって言うより、初めから紙の上に乗ってるものをなぞっていくだけって言うか?」
再び忙しなく手を動かしながら、女が妙に早口で言った。それを聞いて俺は、絵とはそういうものか、であるならば俺にもできるかもしれない、と思った。
そこで目が覚めた。
女がスケッチブックを手に、いつものお調子者の表情を潜め、細めた目で俺を見つめていた。
「ん……。何、起きたんだ?」
筆を握る手を止めずに女は言った。
「気持ちよさそうに寝ちゃってさ、疲れてんじゃないの~? ……あ、もうちょっとじっとしててね~」
女は夢で見たのと同じ真剣な表情でこちらを見ていた。俺はしばらく女の顔を見つめ返した後、夢うつつのまま、手近にあった紙を手に取った。
そうしていつも使っているペンで、思いきりよく線を引いてみた。ぐにゃぐにゃとミミズののたうったようなのが増えていくが、不幸にして、その紙には何も乗っていなかった。
「ぶははっ、何それ! 面白いもんみっけー!」
身を乗り出してきた女が、それを見てげらげらと笑った。俺は少しむっとして、その紙を丸めて捨ててしまおうとした。
が、俺が紙を丸めるより早く、女の手がひらりと紙を取り上げた。女はその紙をじっと見ていたが、やがてぽつりと言った。
「……これ、貰ってもいっかな?」
俺は、物好きな奴だと思いながら頷いた。すると女はにかっと笑い、何が楽しいのか、それを飽きることなくためつすがめつしていた。
「……へへ、捗るわぁ~」
【第六夜】 了
【第七夜】
こんな夢を見た。
何でも大きな艦に乗っている。この艦が毎日毎夜、艦尾から黒い煙を吐き、波を切って進んで行く。
凄まじい音が耳に響くものの、どこへ行くのかはまるで解らない。太陽が海の底から昇ったかと思うと、頂点にかかり、そしてまた海に沈んでいく。その繰り返しである。
ある時俺は、通りがかった女を捕まえて聞いてみた。
「この艦は東へ向かっているのか?」
女は無表情に聞き返した。
「……どうして?」
「昇ってくる日を目指しているようだからだ」
俺は答えた。女は俺をじっと見つめて「心配いらないわ」と答えになっていない答えを残して立ち去ってしまった。
艦には大勢の乗員がいるはずだが、俺が見かけたのは自身と先の女だけであった。艦はずっと黒い煙を吐いて進んで行く。相変わらずどこへ行くのかは解らない。ただ果てしなく続く海原の中を、泡〈アブク〉をたてながら進んでいる。
俺はずっと艦に乗っているうちに次第に心細くなり、こんな艦に乗り続けるなら、いっそ海に身を投げてしまおうかという変な気が湧いてきた。
ある日、広い甲板の上で雲を眺めていたら、件の女がやって来て俺と同じように雲を眺め出した。
女があまりに真剣に雲を見ているので、俺の方は逆につまらない気持ちが大きくなり、いい機会だ、ここで身を投げてしまおうという思いがひょっと出て来た。そこで甲板の端の方へ寄って行って、艦のたてる泡を意味もなく数えていた。
そろそろ、と思って身を乗り出そうとしたら、背中の方から歌声が聞こえてきたので肩越しに振り向いてみると、例の女が天を見上げながら歌を口ずさんでいた。
小さな声ではあったが、どこか力強さが感じられた。俺は寝転がり、目を瞑って女の歌声を聞いていた。
ぱちと目を開けると、黒々とした雲が艦を取り囲み、強い風が俺の髪を揺らしていた。じきに雨粒も落ちてきそうであった。後ろを見ると、女も既に何処かへ立ち去っていた。
俺が立ち上がると、それを待っていたかのように無数の水滴が身体を打った。手の届く距離さえ見えぬほど暗く、激しい嵐となった。俺は雨を避けるため身体の向きを変えようとして――間抜けにも足を滑らせた。
甲板の端に立っていたために、俺の身体はたちまちに海へ向いて落ちていった。足の裏に触れるものがなくなった瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのような恐怖が押し寄せ、己の間抜けを心の底から呪ったが、どうにもならなかった。
俺は黒くうねる海の中へ落ちた。どうにか浮かび上がってみると、艦は煙を吐きながら遠ざかっていく。俺はこれも間抜けの死に様と諦め、目を閉じた。
次に目を開けた時、嵐は収まって青空が顔を出していた。俺の身体はぷかりと浮かんでいる。間抜けにはより間抜けな死に方が望まれるらしかった。
どれくらい経ったか解らぬが、俺は近づく人影の有るのに気づいた。海の上だが、確かに人間ほどの大きさである。
もっと近づいてから目を凝らしてみると、それは艦の上で会った女であった。ただ違うのは、その背に弓と矢筒と何か板のようなものを背負っている。
女は俺の側近くで止まった。
「今度は……見つけました」
女が手を差し伸べる。俺はその手を握り返した。
そこで目が覚めた。
同じく目を覚ましたばかりと見える女と、目が合った。
「……珍しいな、君が居眠りなんて」
「……あなたこそ」
女の目は、眠気が理由にしては過ぎるほど潤んでいた。
「……何か、悲しい夢でも見ていたのか」
「悲しい? ……いえ」
女は一度目を閉じた。再び開いた時、その目には晴れやかな色が浮かんでいた。
「長い間、気になっていたものが……ずっと奥歯につかえていたものが、取れた気分です」
「奥歯にか。……そこは普通、胸のつかえと言わないか?」
俺がそう言うと、女は頬を赤くしながら俺をきっと睨んだので、俺は慌てて降参を示す両手を挙げた。
女はしばらく睨むのをやめなかったが、やがて照れ隠しのように一つ咳払いをすると俺に聞いた。
「あなたは、どんな夢を?」
「ん……そうだな」
俺は一寸〈チョット〉考えてから聞き返した。
「……君の夢に、俺は出てきたか?」
その問いに女はきょとんと小首を傾げたが、すぐにこくりと頷いた。
「……ええ」
「じゃあ多分、君と同じ夢だ」
「……そう」
【第七夜】 了
【第八夜】
こんな夢を見た。
工廠の扉を開けると、溶接マスクを被って作業をしていた女が振り返って、お疲れ様ですと言った。
中の方へ進んで見回すと、四角い部屋である。四つドックが並んでいて、そのうちの二つには錠がかけてある。
俺は空いているうちの一方の前に立った。すると女が資材の詰まったドラム缶を運んできて俺の横へ並べた。
俺はそんな女の動きにまるで気づいていない風を装いながら、左を向いて格子窓の外を見た。窓からは、中庭を通りがかる艦娘たちの顔がよく見えた。
潜水艦娘が晴嵐を伴って歩く。潜水艦娘はいつの間にやらパナマ帽を買って被っている。随分嬉しそうな顔をしているが、どこで手に入れたのだろうか。
日頃から運河運河と言ってはいたが、まさか勝手に遠出したのではなかろうな。いや、そういえばパナマ帽の発祥はパナマではないと聞くが、実のところどうなのだろう。
「提督」と女が呼びかける。俺はうんと返事した。潜水艦娘は通り過ぎて行った。
次に給糧艦娘が通った。いつもの割烹着を着ていなかったので一瞬誰か解らず、たいそう膨らんだシャツの前部分の方に気を取られてしまった。
こほんと女が咳払いをしたので、俺は一旦ドックに向き直ったが、すぐにまた窓の方を向いた。給糧艦娘は通り過ぎていた。
少しすると軽巡洋艦娘〈カンタイノアイドル〉が窓から覗いた。中にいる俺と女には気づかぬ様子で、窓に映った自分を見ながら口角を持ち上げるなどして、笑顔の練習をしているようであった。
にいっととびきりの笑顔を見せたところで俺と女に気づき、顔を赤くしつつもアイドルらしく手を振って去って行った。
「提督」と女がもう一度言った。俺はまたドックに向き直った。しばらく押し黙った後で、今度は上手くいくかなと尋ねたが、女は何も言わずに傍らのドラム缶をぽんと叩いた。俺はまだじっと突っ立っていた。
唐突に「提督、工廠の表にお店が開いていたのを見ましたか」と女が言った。俺は見てないと答えた。「そうですか」と言って女もまた黙った。
次第に女が、手の平でなく手の甲でドラム缶を叩きだした。こん、こんと高い音が工廠に響いた。俺はそれでも動こうとしなかった。
やがて業を煮やしたのか女は、一つのドラム缶から金と銀の釘を一本ずつと、歯車一つを一揃えにして俺の手に握らせた。俺は握らされたそれをそのままドックへ投げ入れた。
また女が釘と歯車を一揃えにして、俺の手に乗せた。俺はまたドックへ放った。そうしてドラム缶に入った釘と歯車が尽きるまでそれを続けた。いつまでも続くかと思われたが、数えていたらちょうど百で終わった。
俺は苦しいやら泣きたいやら自分でも解らぬ表情を浮かべながら、釘と歯車で埋まったドックを見つめていた。すると女がすぐ側で「じゃ、始めましょうか」と言った。そうして他のドラム缶に入っていた、油やら鉄くずやらをどばどばとドックに注いだ。
女が俺を見つめて促すので、俺はしぶしぶ進み出て壁に据えられた大きなボタンをぐいと押した。六桁のカウンターがぱたぱたと動き「042000」と示した。
「……残念でしたね」と女が言った。俺はがっかりしながら工廠を後にした。外に出てふと横を見ると、駆逐艦娘がゴザの上に何やら小さなものを並べて座っていた。
駆逐艦娘は俺の視線に気づくとにかっと笑った。笑うと真っ白い前歯が目立った。俺はしゃがみ込んで、雑然と並んでいるものの中から目に留まった四葉のクローバーを手に取った。
「それは幸運のお守りですっ。今ならお値段、鋼材一かけらです!」
俺は、女が言っていた店とはこれのことかと思い当った。ポケットを探ると、都合よく鋼材の破片が入っていたのでそれを渡した。
「はいっ、ありがとうございます! きっと、幸運の女神がキスをくれますよ!」
俺は微笑んで駆逐艦娘の頭を撫でると、クローバーを胸ポケットに挿した。
そこで目が覚めた。
「提督? もう、そんな所で寝てたら危ないですよ?」
工作道具を片手に、女が俺を見つめていた。
「随分うなされてましたけど、大丈夫ですか?」
無意識に、胸ポケットに手をやる。すっかりしおれたクローバーの茎が指に触れた。
「……運頼みはもう御免だ」
「はあ、何のことだか解りませんが……あ、それで、今日の装備改修ですが」
女は片手を頭の後ろにやり、ぺろりと舌を出した。
「すみません、改修……失敗しました☆」
「…………」
【第八夜】 了
【第九夜】
こんな夢を見た。
世の中のざわつきが抑えられなくなってきた。とうとう戦争が終わりそうに見える。焼け野原になった町で、夜昼となく、人々が飛行機に追い立てられ、逃げ惑う景色が見られる。
警備府には、女とその娘がいる。姉たちはどこかへ行った。
姉たちがどこかへ行ったのは、半月の夜であった。磨きこまれた艤装を着けて、白い鉢巻を巻いて、暗い海の先へと向かって行った。その時女の持っていた弓が月の光を反射して、地上でもう一つの月のように淡く輝いた。
姉たちはそれきり帰ってこなかった。娘が生まれるよりも前のことである。娘は姉たちの顔も知らない。女は毎日、娘に「あの娘たちは」と聞いている。
娘はどうとも答えられない。ただそのうちに「あっちの方」と答えるようになった。女が「いつ帰るの」と聞いても、やはり「あっちの方」と答えて俯いていた。
そんな時女は細い腕で娘を抱きしめ「今に帰ります」といつも繰り返した。娘もいつしか「うん、今に……今に」と答えるようになった。
夜になって世間が静まり返ると、女は帯を締め直し、手入れだけは行き届いている弓を背にかけて、そっと警備府を出て行く。娘は布団でうとうとしかけた頃に女が出て行く音を聞き、これもまたそっと女を追いかけるのだった。
警備府から大通りへ出て右手へ。長い通りを真っ直ぐ真っ直ぐ南へ下ると、左手にこんもりした土山が二つ見える。それを過ぎると鳥居が見えてくる。鳥居を潜<クグ>って参道を進み、小ぶりだがいかにも由緒のありそうなお社に参る。
女はお社の前に立つと、まず懐から菓子やら折鶴やら、姉たちの好きであったものを、心を込めて手ずから作ったものを供える。そうしてしゃがみ、柏手を打つと、一心不乱に姉たちの無事を祈るのである。
女が思うには、ここに祀られているのは武の神であるから、こうして強く祈っておれば、戦場へ行った姉たちが無事に帰らぬことのあろうはずがない、というのである。
娘は遠くからついて来て、ずっと女の背を見ているのだが、女が身じろぎ一つせずひたすらに祈る段になると、その側へ近寄ってくる。そうして止めようのない涙を流すのである。
娘が泣くと、女は振り返って娘の手をさするのだが、娘はどうしても泣き止まない。女は片手で娘の手をさすり、もう片手で己の胸元をぎゅっと握って、容易に立とうとはしない。
一通り姉たちの無事を祈ると、女はようやく立ち上がり、自分の羽織を泣いている娘にかけてやる。そうして娘の頭から背中から何から、夜風で冷えた身体を撫でてやるのである。
「……もう少しだけ、待っていて下さいね」
しかし女はそう言うと、泣き続ける娘をそのままに、参道を何度も行き来して御百度を踏む。
娘が唇を噛んで泣き声を堪えている日はまだ楽だが、堪えきれず大声を出し始めると女は気が気でない。困ったように眉根を寄せ、息を切らすほど急いで百度を済ますことになる。
こういう風に、女が散々気を揉み、一晩として欠かすことなく無事を祈っていた姉たちは、とうの昔に大海の真ん中で沈んでいたのである。
そこで目が覚めた。
隣を見ると、女が安らかな表情ですやと寝息をたてていた。女が寝物語に聞かせてくれた話が、あのような悲しい夢を見せたのであろうか。
そのままじっと女の寝顔を見つめていると、やがて女のまつげがぴくりと跳ね、そろそろとまぶたが開いた。
「……提督? ……もしかして、眠れなくしてしまいましたか?」
俺はかぶりを振った。それでも女は怪訝そうにしていたが、布団の下で女の手を握ってやるとほっと微笑んだ。
そのまましばらく、女と見つめ合っていた。きゅっと握り返された手の平から、心地良い温かさが感じられた。
不意に、障子の外で声がした。
『――さん、提督、まだ起きてる……?』
末の娘の声であった。
「どうかしましたか?」
『その……あの、ね。ちょっと……怖い夢、見ちゃって』
『えっと……一緒に寝ても、いい?』
女が障子の影に向けていた視線を俺に戻す。俺は頷いた。
「もちろん、構いませんよ」
『……ありがと』
女と俺との間に娘を挟み、川の字になった。甘えるように女に擦り寄っていた娘は、すぐにくぅと眠りに落ちた。
「……私は、果報者です」
女が呟いた。娘が眠りにつくまで、優しく頭を撫でてやっていた手を俺の方へと伸ばす。
「こうして、今ここに私がいて、この娘がいて、あの娘たちがいて……そして」
女の指が俺の頬に触れた。
「あなたが、いるんですから」
【第九夜】 了
【第十夜】
こんな夢を見た。
俺の、人生のうちで最上〈サイジョウ〉の楽しみといえば、美しい女子たちの姿を眺めることである。昼となく夜となく、執務室から外を眺め、通りがかる艦娘たちを見てはにまにまと悦に入っている。
あまり艦娘に出くわさぬ日には、間宮へ行って菓子を見る。菓子にもいろいろある。羊羹や最中は、いかにも和風といった感じの優しい甘さが好ましい。細く底の深い器に盛られたパフェというのも、見た目に綺麗で面白い。
俺はずらっと並んだ見本を眺めては、綺麗だ、美味そうだと勝手気儘に評している。ただ金を出して買ったことはない。上層部からタダ券が送られてきた時だけ、自分への褒美に思う存分甘味を食う。
ある日の夕方、久方ぶりのタダ菓子を堪能していると、女がやってきて俺の向かいに座った。妹から借りたのか、浴衣なぞ着て、しおらしい様子で座っている。
俺は、こいつこんな表情もできるのかと感心して、何か用かと聞いた。女は俺の食っているみたらしを指して、一つ頂戴と言うので、気前よくくれてやった。女はそれを頬張ると、にっと笑った。
俺は元来口下手な男であるから、それきり何とも言わず黙っていた。言葉がないのを誤魔化すため、一本残った串を手に取った。それを口に入れようとすると、女が言った。
「ちょっと、一緒に出かけない?」
どこへと聞くと、月を見にと言う。食ってからではだめかと聞くと、すぐに出なきゃと言う。俺は仕方ないなと呟いて、女の後ろについて歩き出した。
女の背を見ながら、随分長いこと歩いていた。気づくと、日はすっかり落ちて空は暗くなっており、そして大きな水溜りの中を歩いていた。いや、水溜りと思ったものはよく見ると海であった。
まだしばらく歩き続けていると、急に島の丸い影が見えてきた。そうすると女が振り向いて言った。
「さ……それじゃあ、夜戦しよっか!」
そらまた言い出した、と俺は思った。こんな所で夜戦しようものなら、夜が明けるまで延々と続くに決まっている。
「月を見に来たのではなかったか」
その月は、先ほどから頭上で半円状に輝いていた。
「私が月を見たいと言ったら、夜戦したいという意味に決まってるじゃん」
「何とひどい訳〈ヤク〉だ」
俺は憤慨した。
「でもさ……夜戦しなきゃ、小鬼に噛まれちゃうけど、いいの?」
女が聞いた。俺は小鬼が大嫌いだった。けれど夜戦も嫌だったので、腕組をしてううんと唸っていた。
とそこへ、小鬼が一匹けたけた笑いながら来た。仕方ないので、俺は持っていたみたらしの串で小鬼の鼻面を突いた。小鬼はギィィと鳴きながら海に落ちて行った。
俺がほっと息を吐いていると、また一匹の小鬼が口をがっと開いて噛み付きに来た。俺はまた串を突き出した。小鬼はギィと鳴いてまた海に落ちた。ところがすぐにまた一匹現れた。
ふと気づいて向こうを見ると、遠く水平線の果てから、幾万匹か数え切れぬ小鬼が、わらわらと俺目掛けて、笑い声を上げながらやって来る。
俺は身体の芯から震え上がったが、どうしようもないのでひたすら、近づいてくる小鬼の鼻面を、順々に串の先端で突いていった。
不思議なことに、鼻面に串先が触れさえすれば小鬼はころりと海に落ちて行く。覗き込んでも底の見えない深い海に、腹を向けた小鬼が連なって落ちて行く。
もはやどれだけ多くの小鬼を落としたのかも解らない。ただ空よりも真っ黒い海中を見ていると、抑えようのない恐怖が湧いてきた。
しかし小鬼が続々と来る。黒い躰に生えた白い手足をばたばたさせながら、海面を覆い尽くす勢いで際限なく増えていく。
俺は必死の思いで、小鬼の鼻をたっぷり七時間は突き続けた。しかしとうとう精根尽きて、手が葛餅のように弱ったところを、小鬼に噛み付かれてしまった。俺はばたりと倒れ伏した。
意識が朦朧とする中で視線を上げると、爛々と瞳を輝かせて笑みを浮かべる女の姿が見えた。美しい、と俺は思った。
女は浴衣にたすきがけをして子鬼をちぎっては投げしていてが、やはり動きにくかったと見えて、そのうちにたすきと帯をほどいてしまった。
女がたすきを首に巻く。いや、たすきと思っていたそれは長いマフラーであった。そして浴衣を脱ぎ捨てる。暗闇でも鮮やかに目に残る、緋色の制服。艤装が展開し、女が歓喜の叫びを発した。
そこで目が覚めた。
「あ、提督、起きた?」
椅子に逆座りして俺の様子を見ていた女が、それに気づいて立ち上がった。そして俺の額に自分の額をこつんと当てる。
「……熱は下がったみたいね。食欲はある?」
「……みたらし団子。一本でいい」
「はは、もう大丈夫そうだね」
俺が掠れた声で答えると、女は微笑んだ。女が水の入ったコップを差し出してくれたので、上体を起こして受け取る。
窓の外に目をやると、赤い日が沈もうとしていた。時刻は既に夕方であった。
「……なあ」
「ん?」
手甲を外し、甲斐甲斐しい様子でタライに浸した布を絞っていた女が振り返った。
「今夜……月、見に行くか」
【第十夜】 了
読んで頂きありがとうございました
本編はこれで終了ですが……解説編みたいなものって需要ありますか?
あまり深く考えずに書いてるので、小ネタの羅列程度ですが……
そんなに喋りたいなら聞いてやるよ、って方がいましたら明日以降投下します
↓ 過去作
【艦これ】長波「うちの提督は何かほっとけない」
【艦これ】長波「うちの提督は何かほっとけない」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「舞風の踊る姿を見たことがない」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「梅雨以来祥鳳の肩を見ていない」 - SSまとめ速報
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【艦これ】川内「夜戦だけが好きなわけじゃない」
【艦これ】川内「夜戦だけが好きなわけじゃない」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「中破した浴衣浦風を襲ってしまった……」
【艦これ】提督「中破した浴衣浦風を襲ってしまった……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441806831/)
【艦これ】瑞鶴「提督さんと目を合わせられない」
【艦これ】瑞鶴「提督さんと目を合わせられない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438431035/)
【艦これ】比叡「司令のことを考えると眠れない」
【艦これ】比叡「司令のことを考えると眠れない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436704396/)
【艦これ】提督「那智が好意に気づいてくれない」
【艦これ】提督「那智が好意に気づいてくれない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434803956/)
【第一夜】解説
俺…提督
女…利根
原作第一夜のキーワード「百年」と利根の轟沈台詞の「百万年」が結びついたのが執筆のきっかけ。当然ながら第一夜を最初に書き、故に話の展開は完全に原作通り。
当初は「女」が筑摩、「自分」が利根という配役でしたが、全夜を提督視点で統一(ただし各夜の提督はそれぞれ別人)することにしたため現在の形に。
>幼さを残した顔立ち
>眠たそうに、まぶたを閉じかけたり~
原作の「女」は一貫して静かな、老成した雰囲気を出していますが、利根は大人びつつも幼さの残る印象があるので細部を改変。
>カタパルトは至極快調な~
>その間、カタパルトが~
利根の台詞「バカな! カタパルトが不調だと?」より。利根の特徴と虚無感を出すための記述。
>青い茎がわっと~
この時生えてきた植物は、原作では白い百合ですが、本作では万年草。
「万年」草が「百」本で「百万年」という駄のつく洒落。
同じく「万年」が名前につく万年青〈オモト〉は花言葉がイメージに合わなかったので没に。
万年草の花言葉は「静寂」「落ち着き」「私を想って」「記憶」など。
誕生花としては11月22日などが該当しますが……「利根」の進水日は11月21日。惜しい。
>そこで目が覚めた
第二夜以降をハッピー(っぽい)エンドで終わらせたくなったので、全夜に目覚めてからのパートを追加。
第一夜ぐらいの短さの方がすっきりまとまるのでしょうが、後半はついつい長くしてしまいました。
【第二夜】解説
俺…提督
女…霞
配役は当初、曙を考えていましたが、和尚の台詞「御前は~人間の屑じゃ」より、提督をクズ呼ばわりする霞ちゃんに決定。
原作では「自分」が自害すると推測される終わり方ですが、その通りにすると霞ちゃんの心が壊れてしまいそうなのでラストを改変。それに伴い「俺」が自決を考えるほど思い詰めている理由も変更。詳細は後述。
>壁にかけてある絵は~
当初はネタ重視で「しばふの筆である」と書きました。その後、霞ちゃんの御姿をお描きになられた「コニシの筆」と変更。でも実際にコニシさんがこういう絵を描いてるわけじゃないし……ということで結局は「誰の筆かは知らぬ」に。キャンバスアートを意識してbobニキ案もありました。
>広い海原の上に~
礼号作戦において「霞」に将旗を掲げた木村昌福提督をイメージ。もやがかかっているので北の海かもしれません。
>女が私の拳銃を手に
ここの「私」は「俺」の間違いです。
>こんなことされたって、嬉しくも~
所属していた駆逐隊の司令が、損害の責任をとって自決を図ったことがある霞ちゃんにとっては、トラウマを刺激される行為以外の何物でもないでしょう。
提督はなぜここまで思い詰めていたのか(8割方後付)
第二夜における「夢」は単なる夢ではなく、過去に経験した出来事を夢として回想しています。つまり提督が自決を図ったのも夢でありかつ現実。では、なぜそうも思い詰めたのか?
この(夢の中の出来事の)直前、中部海域を目標とした大規模作戦が発令され、霞ちゃんは駆逐隊の旗艦として本土周辺海域の警備任務に就きます。
しかし作戦中、有力な敵艦隊の攻撃を受けた民間船舶と友軍を救援するため、霞ちゃんは独断で隊を移動させます。
その結果本土の警戒線に穴が生じ、深海棲艦の主力級打撃部隊がそこから本土近海へ侵入。幸いにも被害は最小限で食い止められましたが、上層部は責任の全てを霞ちゃんに求め、駆逐艦「霞」の解体を決定します(ここでの解体は死と同義)。
霞ちゃんは、自分が見込みありと認めた提督に責任が及ばないのであれば構わない、として粛々と解体を受け入れます。
が、提督からすれば、部下の責任は自分の責任、まして長い付き合いの秘書艦を失うなど考えられない、ということで、自分が責任を負うことで解体だけは回避しようとします。
ところが霞ちゃんはそれを拒否。厳しい言葉で提督を突き放します。
しかし、何と言われようと霞ちゃんを守りたい一心の提督は、明日までに落し所を見つけようともがきます(この時点では個人的な情報筋から解体の決定を聞いたのみで、正式な命令が届くのが明日)。
ですが、提督にできる唯一の手段、提督が責任を取ることを霞ちゃんが拒否している以上、提督に打てる手はありません。
霞ちゃんに有無を言わせず責任を被る手段は、自ら死を選ぶことのみ――想いが行き過ぎてしまった提督はついに拳銃に手を伸ばしますが、そこは付き合いの長い霞ちゃん。提督の自決を阻止し、仕方なく二人揃って責任を取るということで折れます。
そうして二人とも辺境へと左遷。今は、戦いから離れた穏やかな日々を送っています。
その後、辺境のこの地を「大和」とその護衛水雷戦隊が訪れたことから、再び二人の運命が動き出す……というところまで妄想しました。
【第三夜】解説
俺…提督
女…武蔵
昨年3月、ポール・アレン氏が、正確な沈没位置が不明だった「武蔵」の船体を発見したことをモチーフに。
>眼鏡をかけていない
原作では、背負っているのは盲目の子ども。さすがに盲目は重苦し過ぎるので、眼帯艦・眼鏡艦の中から選択することにし、配役は武蔵に。
>左右は島影である
>大小の島々で入り組んで~
フィリピンはシブヤン海周辺のイメージ。
>向こうの方に水底の一際深く~
だいぶ遠いですが、マリアナ海溝。
>じき軽くなるぞ
>背中の女が急に空気のように軽くなった
原作では重くなります。本作では、ホラー要素を消し、儚い雰囲気を出すため逆に。
>左へ行けば来た方角へ~
ネタにして申し訳ないが、栗田ターンをイメージ。
>ちょうど、こんな晴れた日だったな
>雲がだんだんと減って行き~
武蔵発見時の実際の天気は解らなかった(そもそも海底では天気とか関係ないよね)ので、心象風景の隠喩として描写。
>平成二十七年未年
>貴様たちが私を~
冒頭に書いたように、アレン氏がシブヤン海で武蔵を発見。日本でも艦これ提督や戦争経験者を中心に話題に。
>本を読む手を止め
カドフェスのしずま氏描き下ろしブックカバーを意識。
>おかえりなさい
武蔵発見時の運営の粋な計らいへのオマージュ。自分で言うのもアレですが、このラストは気に入っている。
【第四夜】解説
俺…提督
女…隼鷹
少女…エラー娘
原作の記述「爺さんが一人で酒を飲んでいる」より、隼鷹、千歳、那智の三択に。そこから、人を食ったような言動が似合いそうな隼鷹を選択。
貨客船として生まれつつも空母に改装され、終戦まで生き延びるも復員任務に従事することはできなかった「隼鷹」という艦そのものをモチーフに。
>節操なくちゃんぽん飲みを~
説明不用。
>猫をぶら下げた少女
原作では「神さん」。北上や陸奥あたりでもよかったが、艦これにおける絶対神といえば……ねぇ?
>笑いながら突然服を脱ぎ出した
家具「大人の節分セット」より。隼鷹の服が脱ぎ散らかしてある。
>可憐なお嬢様になるからねぇ
鷹姉妹は本来なら日本郵船の箱入り娘。飛鷹はドレスの方が、隼鷹さんは和服の方が似合うような気がします。
>やがて艦載機の動きが~巻物を放り投げた
「軍艦」であることをやめ、「客船」に戻りたいという思いの表れ。
>今日は特別な日だよ
正直、このラストはハッピーにし過ぎたかもしれない。だがそれがいい。
【第五夜】解説
俺…提督
女…叢雲
姫…戦艦棲姫
原作に登場する「天探女」を上手く取り込みたかったので、あまのじゃく→反対のことを言う→素直じゃない→ツンデレ、という思考を辿り叢雲を選択。
後付設定ですが、第五夜と第二夜はリンクしています(後述)。
>割と最近のことで、二年前の夏頃
>深海棲艦の打撃部隊が~
2014年夏イベント「AL/MI作戦」のこと。最終マップ「本土南西諸島近海」はお札制限+ダブルダイソン。今となっては可愛いもんですね。
>姫は~死ヌカ生キルカと聞いた
>夜ガ明ケルマデナラ待ツと言った
>はっきりと嘲りの色が見て取れた
鎮守府を一つ壊滅させて、やや調子に乗っている。
>一直線に飛んだ槍は~
>残った深海棲艦も~
>女の頬には一筋の傷痕が走っている
ここの叢雲さんはきっとレベル250くらいある。「頬に傷のある叢雲」でも一本書けそう。
第二夜と第五夜のリンクについて(完全後付)
第二夜同様、第五夜の「夢」も過去の回想。第五夜提督の鎮守府が急襲された原因というのが、霞ちゃんの独断行動です。時系列にすると次の通り。
作戦発動。第五夜提督艦隊、前線へ。第二夜提督艦隊、近海警備に。
↓
前線部隊快進撃。本土近海において、重巡を中心とした艦隊に輸送船舶が襲われる。
↓
霞、船舶救援のため待機位置から離れる。その間隙を縫い、戦艦棲姫率いる打撃部隊が本土沿岸部に侵入。
↓
第五夜提督鎮守府、壊滅。叢雲、単独で帰還し敵打撃部隊を撃退。
↓
作戦終了。上層部で本土襲撃に関する会議。第五夜提督の弁護も空しく、上層部は霞の解体を決定。
↓
第五夜提督、上層部の通達前に第二夜提督に上層部の決定をリーク。第二夜提督自決を図るも、霞が阻止。
↓
第二夜提督、本土襲撃の責任を取ることを申し出、霞と共に辺境へ左遷。
ちなみに、第二夜提督と第五夜提督は同期で親友。おそらく共通点はツンデレ好き、M属性の二点。そしてきっとあと二人、曙が好きな友人と満潮が好きな友人もいる。この二話だけやたらと妄想が広がって困る。
とりあえずここまで。残りは明日中に書きます。
【第六夜】解説
俺…提督
女…秋雲
運慶→彫刻→芸術→絵画という連想で秋雲を題材に。原作での見物人の男との会話は秋雲本人との会話に変更し、かつ多目にカット。
>沖合には大きな艦〈フネ〉が二隻浮かんで~
鶴姉妹です。秋雲の図鑑台詞「翔鶴瑞鶴も描き残したかったな」より。
>その紙には何も乗っていなかった
絵が描けないというので文章を書くのに走った人は多いはず。かくいう私もそのクチです。
>女はにかっと笑い、何が楽しいのか~
秋雲はなぜ喜んだのか?
秋雲の図鑑台詞、ケッコン台詞、轟沈台詞などから、秋雲にとって「絵を描く」という行為は、単なる趣味に止まらない特別な意味を持つものと推測されます。
ここでは特に轟沈台詞を意識し、たとえヘタクソでも「自分の姿」を誰かが「書き残して」くれたことを喜んでいるわけです。
【第七夜】解説
俺…提督
女…加賀
真珠湾攻撃の直前、「加賀」の下士官一名が荒天で行方不明になった史実をモチーフに。この話も会話相手は加賀のみに絞り、だいぶカット。
>艦尾から黒い煙を吐き
「焼き鳥製造機」との不名誉な呼び名を冠された艦尾排煙方式。
>この艦は東へ向かっているのか
11月26日に単冠湾を発した日本機動部隊は、ハワイを目指し一路東へ向かいます。原作では西行き。
>背中の方から歌声が~
デデン!
加賀岬はぜひ8センチCD版で入手したいですね。
>黒々とした雲が~
>今度は……見つけました
>長い間、気になっていたものが
冒頭に書いた史実を意識。
>奥歯につかえていたものが
加賀といえば赤城と並ぶ大飯ぐr
【第八夜】解説
俺…提督
女…明石
潜水艦娘…しおい
給糧艦娘…間宮
軽巡洋艦娘…那珂
駆逐艦娘…雪風
第八夜と第十夜は、誰をメインにするか悩みました。執筆順でいうと第九夜の方が先。
いろいろ考えた末に、大型艦建造を題材に。題材が題材なので、他と比べてコミカルな雰囲気に。原作の後半部分はほぼカット。
>四つドックが並んでいて、そのうちの二つには錠がかけてある
ここの提督は建造ドック解放はしていないようです。
>潜水艦娘が晴嵐を~
原作では、パナマ帽を被り、女を連れた庄太郎。パナマ帽→パナマ運河→しおいという連想。
パナマ帽の発祥は、中米パナマではなく南米エクアドルらしいです。
>次に給糧艦娘が~
原作では豆腐屋。食品繋がりで間宮さんに。頬の膨らみをシャツの膨らみに変更。休日フィギュアの間宮さんは巨と奇の中間レベルでデカい。
>少しすると軽巡洋艦娘が~
原作では芸者。艦これでゲイシャガールといえば那珂ちゃん。
>金と銀の釘を一本ずつと~
開発資材。100投入して狙うは大和型か大鳳か。
>042000
04:20:00。扶桑型。
>駆逐艦娘がゴザの上に~
原作では金魚屋。扶桑型との対比で雪風に。四葉のクローバーは単純に解りやすい幸運のアイテムとして。
>……運頼みはもう御免だ
第八夜の夢も過去の回想。どうにか大型艦は揃えられたようです。
>女は片手を頭の後ろにやり、ぺろりと舌を出した
てへぺろ☆
【第九夜】解説
俺…提督
女…鳳翔
娘…葛城
姉たち…葛城を除く正規空母たち
原作では「若い母と三つになる子供」。帰らぬ者の帰りを待つという話の内容から、鳳翔さんに。
子供を葛城にした理由は「最初と最後の空母」の組み合わせから。
>姉たちがどこかへ行ったのは~
>とうの昔に大海の真ん中で
ミッドウェーを特に意識。半月としたのはそのため。
>手入れだけは行き届いている弓
訓練飛行は行いつつも、実戦には出られなかった史実を意識。
>~由緒のありそうなお社に参る
「お社」は大阪の大鳥大社をイメージ。「鳳翔」から記念品が奉納された記録がありますが、艦内神社かどうかは不明。
鎮守府でなく「警備府」としたのは舞台が大阪なため。実際には、「鳳翔」と「葛城」は終戦直前のこの時期呉にいます。
大阪警備府は現在の大阪税関辺りにあり、大鳥大社はその南方に位置。道筋は現在の通りをもとにしており、「こんもりした土山」は古墳のこと。
>菓子やら折鶴やら
菓子は一航戦を、折鶴は五航戦をイメージ。
>ここに祀られているのは武の神である
大鳥大社の祭神の一柱は日本武尊。かの有名な草薙剣の所有者であり、日本最古の男の娘。
>隣を見ると、女が安らかな表情ですやと寝息を~
提督爆発しろ。
【第十夜】解説
俺…提督
女…川内
配役に悩み、書いたのは一番最後。俺=提督を「庄太郎」の立ち位置に移動させ、全体をアレンジ。
ヒロインは最終話という点を意識し、夢→夜→夜戦という連想で川内に。
できれば過去作でメインにした娘は避けたかったのですが……川内って、書いてて動かしやすいんですよね。
>上層部からタダ券
任務・イベント報酬。
>妹から借りたのか、浴衣なぞ着て
神通さんの秋限定グラを意識。神通さんの浴衣は薄紅色でしたが、川内サンは橙色とか柿色とか、オレンジ系統が似合うような気がします。
>こいつこんな表情もできるのか
川内サンは黙ってれば美少女だというのが提督たちの統一見解。
>急に島の丸い影が見えてきた
コロンバンガラ……もとい、コロネハイカラ島をイメージ。
>その月は、先ほどから頭上で半円状に輝いていた
一応、史実のコロンバンガラ島沖海戦(輸送作戦)時の月齢を意識していますが、ちょろっとググっただけなので間違ってるかもしれません。
>俺は小鬼が大嫌いだった。けれど夜戦も嫌だった
これは俺の本心だ。
>幾万匹か数え切れぬ小鬼
まさに悪夢。上述の島と併せ、2015年秋イベントをイメージ。
>女が歓喜の叫びを発した
「待ちに待った、夜戦だー!!」
>今夜……月、見に行くか
きっと今夜は「月が綺麗ですね」。
この辺で終わります。蛇足にまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
読んでくれた皆様と艦娘たちに、どうか良い夢を。
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