提督「待ち人想ひて」 綾波「時の流れにわが身をたゆたう」 (13)

==========

「あ、司令官!」

「……よぉ」

「お久しぶりですね! 今日は……どうされたんですか?」

「ん、ちょっとな……別に用事って物は無いんだけど」

「そうですか……あ! お茶を入れてきますね! すみません気がつかなくって」

「あぁ、頼むよ。それに、謝る事は無いさ……久しぶりなんだからな」


 執務室から出て行く綾波の背中を見送って、俺は懐かしい気持ちになりながら馴染みの椅子に腰を下ろす。
 
 殺風景な部屋の隅には未だ手付かずのままのダンボールが置いてあり。

 その上に積もった埃が、時間の経過を感じさせた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455530918


 
「結局、部屋の模様替えもやろうやろうとそのまんまだったな……」


 執務用の机の上には、山積みになった書類の束。俺は被っていた帽子を机の隅に置くと、それらを一枚一枚確認していく。

 
「遠征の報告書……木曾のやつ、意外とこういうのマメなんだよな」

「おっと、天龍のやつ小破しっぱなしじゃないか。吹雪も損傷があるし……一緒に入渠させてっと」

「艦隊が二つしか編成されてない……なんだっけ? 一回組み直すために解散させたんだったかな……」


 そうやって書類にペンを走らせ、確認用の判子を押していると、帰ってきたという実感が徐々にわいてくる。

 
 しばらくの間そうして雑務をこなしていると、綾波がお茶を持って戻って来た。

 
「お待たせしました。司令官!」

「あぁ、ありがとうな」


 俺は彼女にお礼を言うと、書類から顔を上げて椅子に深く座りなおす。


「いやぁ……それにしても変わらないもんだな。何もかもあの頃のままだ」

「司令官がいつ帰ってきても良いように、手入れだけはちゃんとしてありますから!」


 そう言って、綾波が胸を張る。初めて会った時と比べたら、彼女も随分と頼もしくなった。
 

 
 そんな事を考えながら、彼女の入れてくれたお茶を口に含み、その変わらぬ味に人知れず頷く。

 
「皆はどうしてる? どうも世間じゃ、新しい艦娘も増えたって聞くけど」

「ここは……以前と変わりありませんよ。皆、相変わらずです」

「そっか……伊勢と最上も元気にやってるか? あいつらにはお世話になったからなぁ」

「二人とも元気です。後で顔を見せてあげたら、とっても喜ぶと思いますよ!」


「ははは、そうしてみる。……そういえば、ここに来る途中で龍驤に会ってさ」

「龍驤ちゃんですか?」

「今までどこほっつき歩いてたんだ! って怒鳴られた後、早く改二にしてくれって噛み付かれちゃったよ」

「それは……司令官が悪いですね」


 苦笑する俺に、綾波が真面目な顔で続ける。

 
「資源が無いからって演習さぼってた罰です! 皆早く強くなって、司令官のお役に立とうと頑張ってたんですから」

「悪い悪い……結局、ウチで改二になったのは綾波だけだなぁ」

「……それなんですけど」


 急に、綾波が俺から目線をそらして静かになる。

 
「ん、どうかしたか?」

「なんで……その、綾波だけ皆より早く、改二にしてくださったんですか?」

「あー……それかぁ」

「だ、だってウチには他に霧島さんとか……蒼龍さんとか……いるじゃないですか」

「……秘密だ」


 そう言って、再び書類に目を通し始める俺に、綾波が抗議の視線を投げつける。

 
「本当は敷波と一緒に改二にしたかったんだけどなぁ……実装されてないんだよなぁ……」

「は、話を逸らしたって綾波は誤魔化されませんよ!?」

「おぉ!? 俺の知らない間に北上のやつ、改二に出来るじゃないか! やったな綾波、改二仲間が増えるぞ!」

「だから綾波の話をっ……もう! 司令官ってば~!」


――それから数時間。遠征や演習の予定を立て終えると、俺はぬるくなってしまったお茶を飲み干し、一息をつく。


「さてと……それじゃ、そろそろかな」

「……楽しい時間って、何でこんなにあっという間なんでしょうか」


 俺は椅子から立ち上がると、机の上に置いていた帽子を手に取り、頭にかぶる。

 そして、名残惜しそうに呟く綾波の頭に、ぽんと手を置いた。

 
「ふぇっ! し、司令官!?」

「なぁ綾波……最後にアレ、やってくれないか?」


 俺がそう言って壁に掛けられた時計に目をやると、

言いたい事を察してくれたのか、綾波が姿勢を正し、まっすぐに俺を見つめる。

 久しぶりに聞く、彼女の時報報告。そして……。

 
「――司令官、いつもお疲れ様です。お仕事 綾波応援していますね……」

 
 その時の彼女は、笑っていたのか、泣いていたのか……俺は、近いうちにまた来ると声をかけ、何ヶ月ぶりかの執務室を後にした。


 了 
==========

 これで、このお話はおしまいです。数ヶ月ぶりに起動すると、バレンタインが終わったというのに
チョコ持って待ってた綾波に泣いた。プロデュースばっかやっててごめんよ。
 
 それでは、お読みいただきありがとうございました。では。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom