僧侶「リア充呪われろ」(238)


宿屋「二部屋でよろしいのですね?」

勇者「ああ、宿代も節約しないとな」

女戦士「いつも通り2:2で分かれればいいよね~」

女魔法使い「あ、お風呂ってありますか?」

宿屋「一階の突き当たりの部屋が浴場となっております」

女魔法使い「ありがとうございます。それじゃあお部屋にいきましょうか」

宿屋「はい、ではこちらがそれぞれの部屋のカギとなります」

勇者「はいどーも。んじゃいきますか~。あー僧侶、男部屋のカギよろしく」

僧侶「…うん」



僧侶「……。」

.

―――【202号客室】―――


勇者「ふぅ…やっと一息つけたな。んじゃ俺はちょっと出てくるわ」

僧侶「……あぁ鍛錬、でしょ?――こっちも荷物整理やら済ませたらとっとと寝るよ」

勇者「そういうこと。魔物も強くなってきてるし、体はちゃんと鍛えておかなきゃってなー。

   んじゃ『いつも通り』カギはまかせた」

僧侶「……。」



…ッ アッ… …ョット、イキナリ… ンンッ…

僧侶「」

―――

四人は魔王を倒すために旅をしている。同じ国の出身で、幼い頃から魔王軍の脅威に晒されていた。

軍備に力を入れていた国のおかげで魔物を退ける事はできていた。だが、戦うたびに傷は深くなっていく。

友人を失った、家を破壊された、家族を殺された。そんな経験から、魔王を倒すべく討伐軍に志願しようと鍛錬を重ねていた。

そんなある日、勇者が『選ばれし者』として神託を授かる。

伝説とばかり思われていた『選ばれし者』。その出現に国は戸惑った。

魔王の軍勢との小競り合いが続いていたせいで国は疲弊しており、討伐軍を編成するだけの余力は残されていなかった。

一国の安寧と世界の平和。その選択に、国王はとても苦しんでいた。だから、四人で旅立つこと決めた。

最初は反対された。無理をしてでも討伐軍を編成してくれるとも言った。

けれども、四人にとっても故郷の国は大切なものだった。

最終的には国王が折れた。国で用意できた最良の装備と資金を受け取る。定期的に連絡と物資を送ってもらうことを

約束してもらい、旅にでた。

順調な旅だった。それぞれがそのために鍛錬を重ねてきたのもあったが、『選ばれし者』としての勇者の力は絶大だった。

戦士の膂力に魔法使いの魔力。両方を兼ね備えるばかりか、それ以上の力を発揮し、これまでいくつもの町や村を救ってきた。

.


僧侶「だから」

…ァンッ イイッ… イクッ! …アッアッ…!

僧侶「…だから、そんな姿を傍で見てきた二人が勇者に惹かれるのも」

ギシギシ アンアン

僧侶「…仕方の無い、事なんだ」

.

―――【翌朝】―――


僧侶「ふぁ…ぁ。朝か」

僧侶「勇者は、戻ってきてないか」

備え付けの水がめで顔を洗い、昨日風呂に入りそびれたのを思い出し、体も拭いた。

朝食のために一階に降りると、もう三人は食事を始めていた。

勇者「おう僧侶、また寝坊だったのか。悪いがもう食べ終わるところだぜ」

女戦士「おはよう~僧侶。ここのところ野営ばっかで布団で寝てなかったもんね~」

女魔法使い「おはよう、僧侶くん。えっと、昨日は良く眠れた?」

目線を合わさずに、俯いて言う。勇者と女戦士がニヤニヤしている。

僧侶「おはよう、みんな。昨日は疲れていたから、勇者が鍛錬にいった後はすぐに寝てしまったんだ」

  「魔法の修行もしなくちゃいけないんだけどね、眠気には勝てなかったよ、ははは」

できるだけ愛想良く、用意した台詞を並べる。

女魔法使い「そ、そうだよね。私も疲れててすぐ寝ちゃったんだ~」

ほっとしたような顔で、彼女は言う。

勇者「おいおい、鍛錬を重ねてるのは俺だけかよ!しっかりたのむぜ」

女戦士「うんうん。日ごろの修行がないと、いざってときに困るからね!」

僧侶「ははは」

勇者「うっし、ごちそうさん。それじゃ俺たちは町で買い物をしてくるからさ。

   荷物をまとめたらお前もこいよな」

女戦士「やったっ久々の買い物だねっ!楽しみ~!」

女魔法使い「先にいってるね。…あの、僧侶くんは何か欲しいものとかある?」

僧侶「それじゃ、聖水と薬草の補充を。あれば斑蜘蛛糸もお願いしたいかな」

勇者「んだよ、またみみっちい買い物だな。商人のほうが向いてるんじゃないの?お前」

女魔法使い「ちょ、ちょっと勇者!」

僧侶「ははは、そうかもね。それじゃ、買い物はお願いするね。」

女魔法使い「う、うん。気にしないでね、僧侶くん。勇者も悪気があるわけじゃないから」


僧侶「ははは」

勇者「それじゃーなー」

僧侶「うん、またあとで」



僧侶「……。」

その朝のパンは、やけに乾いてボソボソとしていた。

.

―――回―――

――なんだ、まーた泣くのかよ

  ほら、泣くなって。女戦士や女魔法使いに笑われるぞ

  今はまだ弱いのなんか当たり前だって!いつかおれにだって勝てるさ!

  …しょーがねーなぁ。んじゃヤクソクしようぜ、ヤクソク。

  いつか、オトナになったらさ、魔王を退治しにいこうぜ。一緒にさ。

  ぜったいに連れていってやるよ!魔王やっつければ、おまえを弱虫だなんて言う奴いなくなるよ。

  だからさ、ヤクソク。魔王を、一緒に――

―――想―――

.

―――【森林】―――


町を出て、次の町へと向かう。

隊列は先頭が勇者、隣に女戦士、そのやや後ろに女魔法使い、その後ろに自分。

女戦士「うーん、やっぱり新しい武器はワクワクするねっ」

勇者「俺は盾くらいしか買い換える部位がなかったからな。まっしばらくはこの剣で充分だろ」

女戦士は新調したらしい剣を片手に上機嫌だった。勇者と武器の見せ合いなどをしている。

勇者「女魔法使いは何買ったんだっけ?」

女魔法使い「あ、この髪飾りを買ったんだ。魔力が上がるらしくって…その、変かな?」

勇者「いやいや、似合ってるぜ!まぁ美人は何を装備しても似合うと思うがなー」

女魔法使い「そ、そんなことないって」

女戦士「むー、アタシにはそういうのないわけ?その刀身よりも君のほうがキレイさっ!とか」

勇者「刀身よりも凹凸が無い体だなーとか…いってえっ冗談だっての!」

勇者の顔面にビンタがはいる。女魔法使いが二人を見てくすくすと笑う。

そっぽを向いた女戦士に、勇者が耳元で何か囁くと、女戦士は耳まで真っ赤になった。

そんな光景を四人分の荷物を肩に食い込ませながら見ていた。

―――思―――

旅の初めは、前衛二人が攻撃、後衛二人が補助と回復と、それぞれの役割がはっきりとしていた。

しかし勇者が力をつけはじめると状況が変わった。勇者は剣での攻撃の傍ら、回復呪文も使いこなすようになった。

初めのうちは不慣れだった為か、魔力の効率がいいわけではなかった。勇者に呪文を教えることもあった。

それを勇者は難なく覚え、改良し、いつしか僧侶の自分を超えるほどの回復力を身につけた。

焦った。このパーティに居場所が無くなるのではないかと。みんなの負担になってしまうのではないかと。

夜も寝ないで魔法の研究をした。新しい町や城に着くたびに神父に教えを請い、新しい呪文を次々に覚えた。

だがどれだけ努力しようとも、勇者に追いつくことはできなかった。

そうしていつからか。せめて荷物にはなるまいと、皮肉にも荷物持ちをするように。

後ろめたさから始めたそれは、いつしか習慣になってしまっていた。

―――考―――


ぼんやりと三人のやり取りをながめていると、前方の茂みの中から魔物が飛び出してきた!

僧侶「―――っ!」

慌てて荷物を降ろし、戦闘準備を整える。杖を構え補助呪文を唱えようとすると――

勇者「…あー、びっくりした。唐突にでてくるのなお前ら」

女戦士「あーん、せっかく買った剣を試したかったのに~」

女魔法使い「見通しの悪い森の中だから、気をつけてすすまないといけないわね」

――両断されて地面に転がる魔物の姿があった。

勇者「ゴールドがちょっとだけか。シケてるな~」

勇者が軽く魔物の懐を漁ると、それきり魔物を一瞥もせず、三人は歩き始めた。

僧侶「…。」

荷物を背負いなおし、魔物に向けて十字を切る。尤も、我々の神が彼らにとって救いとなるのかはわからないが。

ため息を一つつくと、もう大分先を進んでいる三人に追いつけるよう早足で歩き始めた。

.

―――【洞窟入口】―――


勇者「それじゃ、ここもぱっぱと攻略といきますか」

女戦士「えいえいおー!」

着いた町で得た情報から、この洞窟に封印された強力な武器があるとききつけ、攻略する運びとなった。

僧侶「ほら、松明。全員に渡しておくから」

荷物の中から松明を取り出し手渡す。アイテムの管理も手馴れたものだった。

勇者がいつの間にか覚えた発火呪文で火を灯す。女戦士の松明にも分けてやっているようだった。

僧侶「はい、女魔法使いにも」

女魔法使い「ありがとう…あっ」

松明を渡す指先が軽く触れ合う。思わず手を離し、目をそらしてしまう。

女魔法使い「ご、ごめんねっ…ちょっと、びっくりしちゃって」

僧侶「あ、ううん、こっちこそごめん」

女魔法使いのほうを見ると、触れた指先をもう片方の手で撫でていた。頬に少し赤みをさし、大きな瞳は少し伏し目に。

つい、見惚れてしまう。

彼女がゆっくりと目線を上げ、目と目が合う。何か言わねばと口を開こうと――

勇者「おーい、はやくこいよ!置いて行くぞ!」

女魔法使い「あ、は、はいっ!今行きますっ!」

踵を返し、洞窟の中へと小走りで消えていってしまった。

触れ合った指先をながめる。彼女はずっと、憧れの人だった。

―――思―――

勇者とは同い年だ。女戦士がその一つ下で、女魔法使いが一つ上。

年長者だったからか、女魔法使いは年下の三人の面倒を良く見てくれていた。

親達も彼女に遊び盛りの子供を世話してもらえて助かったのだろう。お礼にと夕餉に招待されては、他三人もくっついていった。

そんな姉のような存在だった彼女だったが、いつしかそれだけではない、特別な感情を持つようになっていた。

勇者にいつも女戦士がくっついていたからか。ふたりで魔法の勉強をする機会が多かったからか。

理由がなんだったのかはもう思い出せないが、そのときは――勇者は女戦士を、自分は女魔法使いを守っていくんじゃないかと。

本当になんとなく、そうなってほしいと願っていた。

―――考―――

―――【洞窟深部】―――


勇者「大分深く潜ってきたなーっと、なんだこれ」

攻略を開始してから暫く経ったとき、それまでの朽ちかけていた坑道から真新しい石壁が現れた。扉が左右に二つ付いている。

女魔法使い「これは…魔力で保存されていたみたいね。何かしら仕掛けがあるのかも」

女戦士「あっほらここ!何か書いてあるよ!」

僧侶(…嫌な予感しかしない)

勇者「えーと何々…この先に進みたくば各々の道を進み試練を受けよ、かぁ」

女戦士「そんな…二手に分かれて進まないといけないの?」

女魔法使い「そうみたいね。ほら、片方だけ開けようとしても開かないわ。同時に進まないといけないみたい」

勇者「不安ではあるけど二手に分かれよう。武器を手に入れる為とはいえ、立ち止まる時間は少しでも惜しい」

僧侶「…そうだね」

勇者「じゃあここでどう分けるか。戦力が二つに分ける以上、どんな事態にも対応できるようにしておきたいと思う」

  「とりあえず男二人で分かれよう。どんな仕掛けがあるかわからないが、俺とお前なら不安は無い」

  「女戦士は武器を新調したばかりだし、レベルも低いことから俺と一緒に行動しよう」

  「女魔法使いはこちらのパーティでサポートをしてくれ。前衛二人じゃ魔法攻撃が心もとない」

  「この編成で行こうと思う。異論は無いな?」

女戦士「はーいっ!さんせーい!」

女魔法使い「あっ、あのね…」

僧侶「いいよ、それで」

遮るように言う。でも、と女魔法使いが言う前に勇者が立ち上がった。

勇者「よし、決まりだな」

女魔法使いは困った顔でこちらを見ていた。目が合ったので、軽く笑顔で返す。

僧侶(大丈夫、いつものことさ)

勇者「それじゃあ、進もうぜ」

女戦士「僧侶もがんばってねっ」

勇者はもう取っ手に手をかけていた。こちらも腰を上げ、扉の前に立つ。

重い取っ手に力を込め扉をひらく。開いた扉越しに心配そうな女魔法使いを見送って、中へと入る。

僧侶「いつものこと、か」

背後で扉が閉じる。誰に言うでもなく呟き、カビ臭い通路を歩き始めた。

―――

慎重に、仕掛けられた罠を解除しながら進む。建造物の封印は健在で、どうやら魔物の気配は無いようだ。

代わりに罠がこれでもかと張り巡らされてはいたが、『選ばれし者』を試す試練ならばそれほどの危険はないだろう。

僧侶「こう、かなっと」

うんざりしながら悪趣味なパズルを解くと、少し開けた場所に出た。と、そこにぼんやりと光る一角獣が佇んでいる。

僧侶「…幻獣、か。試練は君と戦って勝つこと、かな?」

幻獣「その通りだ人の子よ…よくぞここまで辿り着いた。この先の武具を欲するならば私と…」

仰々しく振り返りながらそこまで言って、ぴたりと動きが止まった。

幻獣「――え?ひとり?」

僧侶「あ、はい」

幻獣「え、入ってくるとき四人だったよね?普通2:2で分かれない?」

さっきまでの厳めしい声色とはうってかわり、明らかに狼狽している。

僧侶「そりゃまぁそうなんだろうけど」

こっちだって好きで一人で来ているんじゃない。

僧侶「まぁ、いつものことですから」

幻獣「い、いやそりゃ困るよ。こっちとしてもさ、二人相手の試練を準備してたんだしさ」

  「大体おかしいでしょ!君みたところ僧侶だよね!?バランス考えても前衛1後衛1で振り分けるって!!」

僧侶「そう思うんですけどねぇ。扉には入れてしまいましたし」

幻獣「ああもうどうすんのこれ。こんなアドリブなんて契約内容に含まれてないっつーの」

たてがみをふりながら呻きこんでしまった。ぶつぶつと何かを呟き、唐突にこちらを振り返る。

幻獣「…まぁいいでしょう。契約内容に記された事だけ履行しますよ。役割ですからね」

僧侶「あ、はい」

幻獣「ゴホン。では…――この先の武具を欲するならば、私と戦い、その力を示せ!」

弛緩していた空気が一気に張り詰め、幻獣のプレッシャーを感じる。杖を握る手が汗ばむ。

幻獣「この程度で怖気づいたのですか…?あちらの道にいる幻獣は、私ほど優しくはありませんよ…!」

僧侶「…。」

幻獣「フフフ・・・彼の炎の巨人イフリート。今頃貴方の仲間たちは、地獄の業火に焼かれ苦しんでいることでしょう!」

僧侶「まぁ、あっちには勇者がいるし問題ないとは思うけど…」

幻獣「――あちらの様子を見てもそう言ってられますかね?」

幻獣が頭を振り、角から光を発すると、部屋の壁にもやもやと何かが映り始めた…!

途端に嫌な汗が背中を落ちる。もしあちらが先に攻略を終わらせていたなら――

僧侶「あ、やめてくださいマジで。見たくないっす」

幻獣「仲間の苦しむ姿から目を逸らすなッ!!さぁこの映像を見て覚g『…ぁんっ…ぅあっ…ああーっ(パンパンパンパンパン

幻獣「」

僧侶「」

洞窟の壁一面に、勇者と女魔法使いの痴態が映し出された。

―――


『だめっ……そんな…んぁっ…僧侶くんが、来ちゃうっ…あっ』

『大丈夫だって…あいつにここがそんなに早く攻略できるとは思えねーし』パンパンパン

『ぅあっあっ…そんな、こと、ないッ…あうぅっ!あんっ!』

『それなら尚更早く終わらせないとさ。女戦士も後に控えてるんだし。…急がないと見られちゃうかもよ』パンパンパンパン

『ゃだっ…あっ…ぁんっあっあっあっ』

『お、急に締まったね。やっぱり見てもらいたいんじゃない?僧侶にさ…』パンパンパンパン

『~~~~~っ!んぁっ…あーっ!あぁーっ!』ビクンビクン

『変態だね女魔法使いは。僧侶がこんな姿を見たらどう思うかな?チンポを突っ込まれてヒィヒィよがってる姿をさ』パンパンパン

僧侶「」

『~~ッ…いじわるっ…しない、でっ…ぁんっ』

『っとそろそろ俺も…ほらイけ!膣内に思いっきり射精すからな!』パンパンパンパンパンパンパンッ!!

『…うぁっ…ぁあーっ!あーーーっ!』ビュルルル!ビクンビクン

幻獣「」

『ふぅーっ…でたでた。んじゃ女戦士、おいで。』ヌポッ

『やっとアタシの番だね…ふふっ待ちきれなかったんだからぁ…』ツプ…

アッ ソンナイキナリッ ウゥッ シマル アッ アンッ パンパンパンパン

僧侶「…もういいでしょ」

幻獣「あ、はい」

壁面から光が消えさり洞窟内に静寂が戻る。幻獣は気まずそうに蹄で地面をひっかいていた。

幻獣「……えーと、なんていうかその」

幻獣「ま、まぁ人間にはよくあることだっていうしさ!優秀なオスが沢山の子を…って君が優秀じゃないとかそうじゃなくて」

幻獣「えっと、その、あの

   …ごめん」

僧侶「……いつものこと、ですから」

『いつものこと』に、なってしまった。ずっと憧れていて、守ろうと思っていた人は、自分以外の――

――…一番の親友だと思っていた男に、抱かれている。

勇者が、ただ自分の欲望の捌け口にしているわけではないだろう。そんな奴じゃないってことは痛いほどわかってる。

女魔法使いの方から、勇者にすり寄ったのかもしれない。

先の見えない旅道中、いつも姉のような振る舞いをしてきた彼女には寄る辺が必要だったのかもしれない。

どちらにせよ、気が付いたときにはそんな関係になってしまっていた。

僧侶「…続きを」

幻獣「えっ」

僧侶「試練の、続きを」

幻獣「あっはいはいはい試練ですよねーそれじゃいきますねー」

幻獣はバツが悪そうに蹄を二度三度打ち鳴らし、頭をふってこちらに向き直ると――

――嘶き、猛った。額の一角に帯電し、幻獣の纏う空気が膨張する。

幻獣「…手加減をしたい気持ちもありますが、失礼でしょうから」

守護呪文を唱えながら、それとなく頷き、応える。

向こうの幻獣がどうだったかはもうわからないが、こっちのは確かに優しいらしかった。

―――


僧侶「――ぜっ…はぁっ…はぁっ…」

幻獣「…よくぞ成し遂げた人の子よ。そなたらになら、武具を手にする資格は充分にあると言えよう」

僧侶「…そりゃ、どうも…」

幻獣「世界の命運をそなたらに託そう。遥か幻獣界から、見守っておるぞ・・・」

倒れた一角獣の体が、光の粒へと変わっていく。

幻獣「…それと、個人的な話ではありますが」

僧侶「?」

幻獣「元気だしてくださいね?」

僧侶「…。」

励ましなのか同情なのかわからない言葉を残して、幻獣は還った。

とりあえずは息を整え、雷撃で爛れた傷の治療をすることにした。

僧侶「いってぇー…失礼でもなんでもいいから手加減してくれよ」

一人愚痴る。

荷物の分配を忘れたことに気づいたときは血の気がひいたが、おかげでアイテムをふんだんに使うことができた。

…意図せず勇者側の無事もわかったこともあるが。

僧侶「あー薬草も聖水ももう打ち止めか。補充しとかないとな」

映像の事はあまり考えないようにした。知っていたこととはいえ、目の前に突きつけられるのは少々キツい。

僧侶「よしっ、とりあえずこれで動けるな。まだ先にボスとかいるかもしれないけど、合流すればなんとかなるっしょー」

空元気をだしてみた。暗い洞窟に響いた自分の声が、空しかった。

.

―――【合流地点】―――


僧侶(そろそろかな。)

合流地点の扉についたところで、扉の向こうに荒い息遣いを聞いてしまった。

耳をふさぎながらの荷物整理が終わったところで、扉の向こうが静かになったことに気づいた。

取っ手を掴み、必要以上に重そうに、ゆっくりと開ける。

…少し開けても慌てる様子が無いことから、このまま開けきってよさそうだ。

勇者「おう、遅いぞ僧侶。待ちくたびれちまったぜ」

僧侶「ごめん、てこずっちゃってさ。そっちもみんな無事みたいで何よりだよ」

勇者「あんまり遅いもんだからヒヤヒヤしたぜ。女魔法使いなんかずっと心配してたんだからな」

女魔法使い「ちょ、ちょっと勇者!」

何も知らなければ心配してくれた事を喜んでいただろう。

僧侶「ははは」

女魔法使い「もうっ…僧侶くんも来たんだし、先に進みましょうっ」

勇者「はいはいーっと。女戦士、行くぞ」

女戦士「んにゃぁ…らめぇ、たてないぃ~…。勇者だっこしてぇ…」

ろれつが回っていない。魔物がいないことがわかってるとはいえ腰抜かすまでヤるかね普通。

女魔法使い「こっこれはねっ!えっと試練の幻獣が麻痺攻撃してきて!治療したけどちょーっと残っちゃったみたいで!」

勇者「しょうがねーなぁ、ほれ。おぶされ」

僧侶「ははは」

勇者が女戦士を背負い、隣に女魔法使いがついて歩く。ぼそぼそと二人でなにやら話しているらしかった。

女魔法使いも麻痺をくらったのか、足どりがおぼつかなかった。



その日の宿で齧ったパンは、なんだか味が薄かった。

.

―――【荒廃した村】―――


あれからいくつかの城、町、村を周った。情報を得ながらの手探りの旅だが、魔王軍の拠点の数、出没する魔物の強さから、

魔王の棲み処に近づいている事を感じていた。

――そんな最中訪れたとある村は、酷く荒廃していた。

踏み荒らされた畑、焼け落ちた建物。壊されたバリケードをくぐって村へ入ると、埋葬すらできずに並べられたままの遺骸。

女戦士「酷い…こんなのってないよ…!」

故郷の国が嫌でも思い出される。

村の中心部にある教会に生き残った村人達が立て篭もっていた。

話を聞いて回ると、つい最近になって近くに魔王軍の拠点が作られたらしく、その攻撃に晒されるようになったらしい。

勇者「行くぞ。いますぐにでも連中の息の根をとめてやるッ!」

勇者が今にも走り出さん勢いで言う。自分とて、こんな村の状況を見て看過できるはずがない。

だが、ここまでの山越えで体力を消耗していたし、物資にも乏しかった。

僧侶「ちょい待ち、勇者。今は皆疲労が溜まっているし、一旦ここで休ませてもらってから――」

言った後で後悔しても遅いが、次の言葉の前に胸倉を掴まれた。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

勇者「いつ魔物が攻めてくるかもしれないんだぞ!?そんな悠長な真似はできない!」

僧侶「ぐっ…気持ちはわかる。わかるけど状況を見てよ。こんな状態じゃ下手したらこっちも…」

勇者「…気持ちがわかるってのか!お前なんかに!!ふざけるな、俺たちがいままでなんのために――」

僧侶「勇者。」

精一杯勇者の目を見据える。勇者は完全に頭に血が上ってしまっている。慎重に、言葉を選びながら問いかける。

僧侶「気持ちならわかる。わかるさ。…何年この四人で過ごしてきたと思ってるんだ。

   平和な村がこんな目に遭わされて何も思わないはずがない。魔物を憎む心だって同様だ」

勇者は黙って聞いている。まだ肩で息をしてはいるが、少しは落ち着いてくれたようだ。

僧侶「普段の勇者なら例え一人でも攻略できると思う。だけど、消耗しているのは勇者、君だって同じだ。

   もしすぐに魔物が攻めてくるとしても、村に滞在するなら防衛だってできる。

   明日までに準備を整えよう。体調、装備を整えた上で、なるべく迅速に攻略するんだ。」

勇者「…。」

掴んでいた手が離される。無言のまま睨みあうこと数秒。

勇者「明日の"早朝"だ。それ以上は待てねぇぞ。

   …少し外で風にあたってくる」

吐き捨てると、教会の外へと出る。少し間を開けて女戦士が後を追う。

ゆっくりと、聞こえないよう息を吐く。

女魔法使い「思いとどまってくれたね」

僧侶「うん…気持ちは、本当に痛いほどわかるんだけどね」

お前なんかに、か。いつ言われてもおかしくないとは思っていたけど、実際に言われるのは心が痛む。

女魔法使い「…勇者のこと、嫌いにならないであげてね」

寂しそうに笑って、女魔法使いも勇者の後を小走りで追っていった。

僧侶「…。」

…彼女の方こそ何もわかっていない。勇者のことを嫌いになるわけなんかない。

勇者の正義感から来る激昂は慣れたものだし、その姿勢は好意的に受け取っている。

でも、だからこそ、だ。

.

―――回―――

――…なんでお前が泣くんだよ。

  お前の家族はみんな無事だったんだろ?いいじゃんか。

  …平気なわけないさ。でも、父さんも母さんも、おれを守るために戦って死んだ。

  だから、泣いたりなんかしない。

  お前も、女戦士も、女魔法使いだって傍にいてくれるんだから。

  だから、決めた。おれは、魔王を絶対に倒すって――

―――想―――

―――【魔物の拠点】―――


拠点の制圧は順調に進んでいた。

義憤に燃える勇者の力は凄まじいものだったし、女戦士も女魔法使いも気力に満ち溢れていた。

ついていくのがやっとな状態ではあったが、勇者が魔物を蹴散す様に安堵を覚えていた。

昨日の様子から戦力に影響がでるのではと心配だったが、杞憂だったらしい。

女戦士「―――っ勇者!後ろ!」

死角から繰り出された槍が勇者の肩をかすめる。

勇者「…!」

振り返りざまに槍ごと魔物を両断。続けて、女魔法使いの呪文が辺り一帯を薙ぎ払う。

――安心したと思ったらこれか!回復呪文をかけようと走り寄る。

僧侶「勇者!今回復を――」

勇者「必要ねぇよ」

待たずに、自分で肩の傷を治療していた。

勇者「中心部は目の前だ。うかうかしてたら村の方に手が伸びるかもしれねえ。急ぐぞ」

…あーそうだった。拗ねるんだわこいつ。

今はとやかく言ってもしょうがない。拠点を潰して、村でささやかな宴でも開けば、機嫌も直るだろう。



勇者「この下、か」

拠点の中心には、石造りの禍々しい祭壇と、地下へと続く階段があった。

それらしい魔物が見つかっていないことや、魔物の士気が下がっていない様子から、この中にボスが潜んでいると考えられる。

女魔法使い「…罠の可能性もあるわね」

女戦士「かのうせい、じゃなくて100%だと思うよ~」

軽い調子で女戦士が続ける。珍しく同意見だ。そして――

勇者「それでも、行くさ。でなきゃあの村は破滅する」

――勇者がこう言うであろうことも、わかっていた。勇者に軽く睨まれて、肩をすくめてみせる。

僧侶「止めやしないさ。行こう、勇者」

頷くこともせずに階段を降りていってしまったが、もう言わなくてもわかっていることなんだろう。

―――【拠点地下】―――


一方的な虐殺だった。

狭い通路のせいで、魔物は数で押せなくなっていた。挟撃される形ではあったが、勇者が相手ではまるで意味を成さなかった。

むせ返るような血の臭いが、あたりに漂う。

破れかぶれの突撃か? 魔物の血に毒素でも含まれているのだろうか?

万一の事を考え、聖水で通路を清めながら進む。と、あれだけいた魔物の攻撃がぴたりと止んだ。

勇者「…何かの布石か?」

女戦士「みんな、倒しちゃったんじゃない?」

女魔法使い「いまのところ、魔力による罠の気配はないわ」

僧侶「…後ろも――」

言いかけて、固まる。今まで進んできた通路が、周りの壁と変わらない石壁で塗りつぶされていた。

僧侶「なっ――!?」

勇者「どうし――なんだよ、これ」

女戦士「えっ?!なになにこれ、さっきまで通路だったよね?!」

女魔法使い「そんなっ…魔力は全く感じなかったのに」

動揺。ついさっきまで後ろから襲い掛かる魔物の相手をしていた。目を離したのはほんの一瞬。なのに。

勇者「みんな、下がってくれ……うらあッ!!」

言われるままに壁から離れる。勇者は剣を構え、渾身の一撃を放つ。壁には深い裂け目が刻まれた。

が。

勇者「!」

すぐに元の通りに塞がってしまった。女戦士も加わって連続で斬りつけても、女魔法使いの呪文でも、結果は同じだった。

床や天井、通路の壁面も同様。回復呪文で傷を治すように、傷の周囲からじりじりと再生してしまう。

勇者「なんだかわからんが、えらく厄介な仕掛けみたいだな」

女魔法使い「そうね…こんなタイプは経験もないし、魔力を感じないのにこんなに強力な封印なんて…」

似たような罠は経験していた。器械仕掛け、魔物の擬態、幻覚呪文等。どれも『選ばれし者』の力の前には無意味だった。

例外的に幻獣等による強力な魔力での封印はあったが、その場合は事前に女魔法使いが察知できていた。

…頭を抱えたくなる。ただでさえ狭い通路なのに、退路を塞がれたとあっては。

女戦士「ねぇ、悩んでもしょうがないんだし…前に進んでみない?」

おずおずと、女戦士が提案する。

勇者「…そうだな。ボスを倒せば通れるようになるか、ただの石壁にもどるかもしれん。

   この先に更に罠があるかもしれんが、進むほかに手立ては無いしな」

できれば退路を確保しておきたかったが仕方が無い。

こうして足止めをくらっている間にも、村が危険に晒されているかもしれない。

女魔法使いも同意し、先に進むことにした。耳鳴りがするほど静かな行軍だった。

―――


一時間ほど進んでみたが、一向に景色が変わることはなかった。

それどころか、この通路はどこまで進んでも直線で、地上ならば山を一つ越えるほどの距離を歩いていることになる。

勇者「くそっ!どうなってんだこれ!」

勇者が苛立つのも仕方が無い。女戦士に普段の快活さは見当たらず、ただ無言で歩いている。

女魔法使いとは罠について考察を重ねていたが、どれもピンとこず、いつの間にか黙ってしまっていた。

勇者「おい、僧侶!後ろは見ているだろうな!術をかけた魔物が付かず離れずでついてきているかもしれん」

振り返り、目を凝らしてみる。松明の明かりの先には黒しか見えていない。

言われずとも、先ほどからかなり小まめに後方は確認している。進んできた通路の空間がひろがってる――

はず、なのだが。違和感。

僧侶「…。」

無言で踵を返し、歩き出す。まさか、気のせいであってくれ。

十数歩進んだところで、足を止める。驚いて追いかけてきた足音も、ピタリと止んだ。

勇者「うそだろ、おい」

女魔法使い「そんな…っ」

女戦士「なんで、また」

壁が、あるはずの黒を塗りつぶしていた。

.

―――回―――

――よう、また来てるんだな。

  お前もあきもせずよく来るよなー。退屈でしょうがないよ、教会なんて。

  …え?おれ?

  べつに、神父になりたいなんて思わないけどさ。

  ほら、戦士が回復呪文を使えたら…サイキョーじゃね?

  あっ!笑っただろ!いまにみてろよ、すっごい呪文覚えてやるんだからな――

―――想―――


女戦士のすすり泣く声が暗闇に響く。

勇者がなだめてはいるが、その顔にも不安と焦燥の色が見て取れる。

女魔法使い「…壁を調べてみましょう、僧侶くん。この状況をなんとかしないと」

頷いて応える。元より頭脳労働は後衛の務めだ。とりあえず、思いついた方法を試していく。

①、壁を睨んだまま後ろ歩きをする。
  結果、持っている松明の光が壁に届かなくなった時点で、壁の位置は前進していた。

②、松明を壁の付近に設置し、壁が明かりで見えている状態で①。
  結果、かなりの距離を進めたが、松明の燃料が切れた瞬間、壁は前進。燃料の切れた松明は消滅。

③、②で充分な距離をとった状態で、壁が見えているうちに全員が通路の先を向く。
  結果、①と同等の距離まで壁は前進し、付近に設置した松明は消滅。

僧侶(…四人まとまって行動していたのは正解だった。松明のように消滅していたらと思うとゾッとしない。

   壁が動く条件は…『通路の暗さで壁が見えなくなると見えないままギリギリの位置まで前進してくる』ってとこか。

   壁を見る人数を変えてみても、一人でも壁を見れていれば壁は動かない)

僧侶(壁が"見えている"状態なら先に進めるみたいだけど…

   ②で進んだ距離も拠点の外に出るほどだし、松明を全部消費してまで試すのは怖いな)

女魔法使い「…これも、試さなければならないわね」

取り出したのは、斑蜘蛛糸。洞窟から脱出する為のアイテムだが、もしこれが使えないとなれば――

――意識的に避けていた。心のどこかで、攻略を諦めさえすれば体勢を立て直すことができると思っていた。

結果。糸はどこにも反応することがなく、ただ垂れ下がるのみ。

続けて、女魔法使いが唱えた脱出呪文も無効。

女魔法使い「――これじゃ魔物のボスを倒すどころか、ここから出られないかもしれない」

顔が青ざめている。無理もない。出られなければ即ち――

女戦士「やだっ!!しにたくないっ!!」

ごく小声で呟いただけだったが、女戦士にも聞こえてしまったようだ。勇者もなんと声をかけていいのかわからない様子だ。

女戦士「しにたくないっ…しにたくないよぉ…」

嗚咽だけが静寂に響く。女魔法使いも爪を噛みながら必死に思考しているようだが、顔は浮かない。

僧侶「…。」

まだ、試していない方法がある。女魔法使いも、勇者も気付いていないはずがない。

成功の保障なんてないし、事態が悪化するだけかもしれないけれど、これは自分から言い出さないと絶対に実行できない。

――やるしか、ないんだよなぁ。



僧侶「この旅の、目的はさ」

ほの暗い通路で、全員の目がこちらを見る。

僧侶「魔王を倒すことじゃない?

   でもそれってさ、きっと勇者の力じゃないと達成できない」

勇者「…何を」

僧侶「逆に言えば、勇者さえ生きていれば魔王はかならず倒せる」

  「他の三人はそれを全力でサポートする役割。立ち回り」

  「それが、その身を犠牲にすることでも「――僧侶っ!!」

勇者が大声で遮る。女魔法使いと女戦士は、ただこちらを見ている。

…その厚かましさが羨ましい。

僧侶「④、一人を壁の前に置き、壁をずっと見続ける。他三人は前進する。」

―――

壁は、人に"見えている"間はそこにある。では、そこに誰かが居座り続けたらどうなるか?

僧侶「説明を始める前に、試しておきたいことがあるんだ。

   勇者、奥の通路に向けて火矢を一本撃ってみて」

壁、天井、床はいくら調べたところで壊せない事くらいしかわからなかった。残すは目の前の暗闇について。

言われるままに勇者が火矢をつがえる。狭い通路とはいえ、勇者の腕前があれば相当先まで見通せるはずだが――

勇者「――今の、明らかに10mも飛ばずに消えたよな」

少しだけ頭の中を整理する。少し間をあけたところで、話し始めた。

僧侶「②の方法で前進することはできたけど、今まで進んできた距離を考えるとこの方法で脱出できるかはかなり怪しい。

   今火矢で試したことでわかるように、通路の空間それ自体にも仕掛けがあるみたいだ。」

  「進んだという認識が狂わされているのか、空間を歪められているのか。

   何にせよどんな仕組みでこの罠が作用しているか考えても情報不足で埒が明かない。」

  「…だから、この罠がそもそも何の為にあるのか考えてみたんだ」

  「当然仕掛けたのは魔物。目的は『選ばれし者』の足止め、あわよくば消滅。もしくは"戦力を削ること"」

いい感じに心が黒くなれるな

女戦士「あわよくばって、普通一気に倒しちゃうんじゃない?」

僧侶「実際に罠にはかかったけど、まだ生きているでしょ?」

  「想像でしかないけれど『選ばれし者』を間接的方法で消滅させるだけの力は魔王軍には無いんじゃないかな。

   勇者が今まで無事でいられたことくらいしか証明にならないけど」

僧侶「なら、この罠は目的は?――嫌な言い方だけど、足止めをしてまであの村を滅ぼす事に意味は無い」

勇者「"戦力を削ること"が目的ってことか」

僧侶「魔物の拠点ができた時期が丁度あの村を訪れる時期と重なっているしね。

   どこかで魔物に尾行されていたのかもしれない。」

  「で、もう一つ。この罠、実はかなり無理をして作られているんじゃないかな」

女魔法使い「…制約や制限があるってこと?」

僧侶「うん。魔法の話になるんだけど、普段は魔力を代償に火炎や冷気を召還しているわけじゃない?

   幻獣は魔力の代償と、動ける範囲、役割を縛ることで強力な存在となっている」

僧侶「で。繰り返しになるけど『選ばれし者』を魔力の代償だけで消滅させるのは不可能だ。

   そこで『強力な封印を施す代わりに、ある条件を満たすと脱出できる』という制約を課す。」

僧侶「『条件を満たすと脱出できる』の部分は言い換えれば『条件を満たさない限り脱出できない』。

   壁、床、天井がやたら頑丈なのはそのせいだ。『選ばれし者』の勇者ですら封印できている」

  「予想される条件は『ある人物が壁を認識している状態』で『壁を認識せずに前進する』。

   進む距離は火矢が見えなくなったあたりまでが妥当かな」

  「この条件だけだと②で脱出できているはずだ。

   それができなかったのは、脱出の条件を満たす者とそうでない者が互いを"認識"したままだったからじゃないかな。

   現れた壁が動く条件に、人の"認識"が関わってると予想されるしね」

  「そうして現れる『壁を認識している間は先に進むことができる』という状況。恐らくこれは、ヒントに近いもの」

  「一見脱出不能な致命的な罠。そこでヒントをちらつかせ、わざと条件を満たさせる…」

一旦言葉を切る。揺らめく松明の明かりの中、それぞれが思考を巡らせているのが見て取れた。

勇者「…条件を満たせば脱出できそうなのはわかった。だが、この場に残った一人はどうなる?」

僧侶「今言った条件が全て正しいなら、三人が脱出に成功した時点で、封印も解除される」

女戦士「――だったらっ「でも」

言葉を遮って続ける。

僧侶「今回の不安要素は、用いられた術式と、その代償の大きさなんだ」

―――

教会には病魔に蝕まれた患者がやってくる。大抵は毒や麻痺が原因だったが、中には装備品によって『呪われた』者も居た。

昏睡する者。正気を保てない者。常軌を逸した力で暴れまわる者。

解呪の法は唯一つ。解呪の代償をひたすら『呪い』に喰わせること。

聖水で済めばかなり良い方だ。酷い事例だと、捧げた供物に飽き足らず、解呪にあたっていた神父の腕を食いちぎってやっと収まった、という話もある。

僧侶「『呪いとは魔法とは異なる術式だ。魔法が魔力を代償に行使するものなら、呪いは代償に血と魂を欲する』

   『人の子の間では決して伝承されることはない。なぜなら、術者本人が代償となるケースが大半を占めているからだ』

   『他人を代償に呪いを行使しようと試みた者もいたが、呼び起こした呪いにその身を喰らわれ、毛の一本すら残ることはなかった』」

僧侶「教会で学んだのはこの程度。呪いはその性質から人間は完全には行使できないと言われているんだけど」

勇者「魔物、いや魔王ならその可能性があるってことか」

僧侶「『呪い』の行使の条件が、血と魂の服従だとしたら。ここに来るまでに倒した魔物、その全てが魔王の文字通りの同胞だとしたら。

   ―――その血と魂を代償にしていたとしたなら。罠に、魔力で気づけなかったのにも納得が行く」

女戦士「…残った人が、どうなるのかの説明になってないよ」

消え入りそうな声で女戦士が言う。

僧侶「…骨董品のような装備が"呪われている"ことがあるように、『呪い』は術者が消滅しようがそこに刻まれたままだ。

   この場合は条件が永遠に満たせぬまま、呪いがこの地の維持で磨り消えるのをただ待つことに」

女魔法使い「そんなのっ!…そんなの、嫌だよ…」

僧侶「……。」

勇者「僧侶ッ…本当に他に方法は無いのかよっ!」

ああ、本当に。

僧侶「いまのところ。今立てた仮説によほどの穴が無ければ」

本当にさ、結局のところ。

勇者「――…四人でっ…四人で魔王を倒すんじゃなかったのかよっ!!」

―――思―――

――眩暈がする。体温が下がる。瞳孔が開く。吐き気がする衝動に駆られる刈られたい。どの口が

言うのか。今すぐにでも臓腑の底から糞のような罵詈雑言を吐きかけたい。ぐっと堪えた。口を真

一文字に閉じた。少しでも開くと、勝手に言葉が飛び出る気がした。「わたしが、残るよ」「ダメ

だよっ!…ま だ、みんなで考えよう?絶対方法が何かあるって!」「――そうだっ俺たちがコン

ナところデ、バラバラ『耳鳴りがする。サッキよりも酷い吐き気だ。咽喉まで汚物が込み上げる。嗚
呼ぁなんでそんなになんで昨日までの####をカガ身に映してサシあげたい手が震える。サッキから
なんで一言もイっていないのに一字一句間違えずに提案したのに結局のところ。####は##を何もイ
っていないのにそうだよな####は何でもワカる/ワカッてしまう結局のところ。###は今も####のま
ま####したのは誰だったのか何で##じゃなく何で何で何で###何か我/そうだよね。そうなるんだ。
そうなんだ よ 。そ う な ん だ ろ う ソ ウ だ ろ う が『そういえよ。そうなんだろ』

   結 局 の と こ ろ 。最 終 的 に は 。詰 ま る と こ ろ 。積 ま る と こ ろ 。

世界で最も敬愛するシン友達は、イ ツ モ ド オ リ ニ 、其の腫れ物を切り捨て病を治しました。

―――垢―――

僧侶「…落ち着いてよ、みんな」

吐き出すべきじゃない。嘔吐したところで、吐瀉物以上に価値が無い。

僧侶「人の話はちゃんと聞いてほしいな。あくまで"不安要素"だ」

深呼吸を一つ、二つ。いつも通り、だ。

僧侶「まず一点。代償がとても大きいとは言ったけど、その代償がどこで用いられたのか明確ではないこと」

  「『選ばれし者』条件付きとはいえ封印する。この時点で代償の大部分を消耗している可能性だってある」

  「持ち込んだ回復アイテムをフルで使い切れば、すぐにでも封印はとけるかもしれない」

僧侶「二点目。呪いの術式に関してはちょっとした知識がある。教会にお世話になっていたころに、

   神父さんの目を盗んで禁書棚を覗き見たことがあってね、ははは」

真っ赤な嘘である。あの堅物神父が神学生の目に付く場所に保管するはずがない。

僧侶「そんなわけでこの場にいる誰よりも呪いに関する知識量は多いはずだ」

  「それに――」

自分からそんなこと一言も言った覚えはないが。

  「みんなの戦力になれないからって残るんじゃない。戦力を二つに分けるんだよ、勇者。

   ここから三人が外に出れたとしたらまず拠点のボスを倒さなきゃならない。拠点に攻め込んでから

   かなりの時間が経っているから村のほうも心配だ。かといって、ここの封印も強力なものだ。

   まず男二人で分かれよう。どんな魔物だろうが、勇者、君なら任せられる。

   次に女戦士。精神的にも疲弊してしまっていることだから、勇者に面倒をみてもらいなさい。

   そして女魔法使い。二人だけじゃ心配だ。その魔力で、二人のサポートに回ってもらいたい。

   最後に――

勇者「僧侶、お前は全力で解呪にあたってくれ。――そうだろう?」

僧侶「そうだよ、そのとおりだよ勇者。ははは」

―――


準備にそれほど時間はかからなかった。

解呪に備え多量のアイテムが欲しいところではあった。

が、仮説が間違っていたときや更なる罠が仕掛けられていた場合に備え、持ってきた物資を四分割する。

封印の外に出る三人が戦闘準備を整えたところで、声をかける。

僧侶「それじゃ、確認するよ」

自分は壁を見続けてこの場に居座る。残りの三人は、全員がこちらを見ないようにして前進する。

壁を見続けるのはおよそ五時間。これは、この封印の中に更に条件付けがされていた場合への保険。

封印から脱出できたら、まずは拠点の制圧。然る後、村へ向かい安全を確保する。

こちらは五時間が経過した時点から解呪を開始。今ある食料の量から見て、一週間もてばいいほうだろう。

僧侶「そういうわけで、あの村で一週間だけ待ってほしい。それ以上戻ってこなかったら――

   ――三人だけで、旅を続けてほしい」

  「この旅の目的は魔王を倒すことだ。一刻も早く世界に平和が訪れて欲しい。それは四人とも同じはずだ。

   …勇者、繰り返しになるけど、君なら任せられる」

勇者「…言われなくたって、必ず魔王を倒してみせるさ。

   だけど僧侶、その時はお前も一緒だ。一週間で戻って来い」

女戦士「アタシも待ってるからねっ!ぜったい、戻ってきてよ!」

女魔法使い「僧侶くんのこと、信じてるから…だから…待ってるから」

頷き、笑顔を作ってみせる。

僧侶「ははは」

短時間だが、女魔法使いに自分の呪いに関する知識を話しておいた。

聡明な彼女なら、自分以上に理解し、魔物の用いる呪いに対抗することもできるようになるだろう。

やれるだけのことはやった。後は、それが正しい方法であることを祈ろう。

―――


僧侶「あーそうだ。勇者、これ持ってて」

結び目をつけた糸の片端を勇者に持たせる。

僧侶「条件になってる認識がどの程度の範囲なのかわからないけど、この程度なら大丈夫じゃないかなって。

   こっちは後ろを振り返るわけにはいかないから脱出が成功できたか否かの確認にね。

   もし10mを越えても脱出できないようなら、糸は捨てちゃっていいから」

勇者「男同士が糸で結ばれるとかおぞましいな」

女戦士「んー、もう既に似たようなもんなんじゃない?」

からかうように言う。脱出の糸口が見えたことで元気を取り戻せたようだ。

僧侶「それじゃ、後よろしくね」

言って、壁に向き直り座る。おう、とだけ勇者がこたえ、足音が響く。

1、2、3、4歩。糸はまだ繋がっている。5、6、7、8歩。

9、10、11、12歩。もしや方法を間違えたのではと不安になる。

13歩。女魔法使いが何か言ったようだったが、聞き取れなかった。

僧侶「…。」

それきり、足音は無くなった。糸をたぐりよせると結び目よりも手前で綺麗に切れていた。

大きく息を吐く。成功かどうかもわからないが、次に進めたのは確かだ。

目の前の壁を睨みつける。三人の無事でも祈りながら、時間を潰すとしよう。

.

―――回―――

――なぁ知ってる?お城の神官が、すげえ神託を授かったんだって。

  なんでも、神様が魔王を倒すための力を誰かに授けてくれるんだって。

  噂なんかじゃねえよ。酒場の情報屋からちゃんと買った情報だっつの!

  おれが選ばれちゃったりしないかなー。力を授かれたらいいよなー。

  …今のまんまじゃきっと足りないって。だいじなものを守るにはさ。

  もしおれが選ばれたら、みんなのことは絶対に守ってみせるよ――

―――想―――

―――【壁の前】―――


八本目の蝋燭は、もう燃え尽きる寸前。大雑把な計測だが、大体これで五時間だろう。

完全に消える前にカンテラに火を移し、明かりを確保する。

できるだけ燃料は節約しておきたかったが、やっておきたいことを済ませてしまおう。

まずは、ずっと気になっていた後ろを振り返る。

――相変わらずの黒一色が、そこにはあった。三人の姿が見えないことに安堵し、自分の置かれた状況に落ち込む。

僧侶「まぁ、時間はあるんだし、気楽にやりますかね」

呟き、随分と軽くなった荷物を担ぐ。

まずは、この場が一人になったことで、封印に変化が現れないか調べよう。



僧侶「…変化無しかぁ」

②、③を再び試してみたが、変化はみられなかった。

みみっちく蝋燭を折って使ったことは影響してないと思う。

僧侶「ま、そりゃそうか。誰か一人残すような仕掛けにしないとな」

そう、戦力を削るためには――

僧侶「……んん?」

戦力が削れたことになるのだろうか。…決して自虐ではない。

あの村に着くタイミングは魔王軍に知られていた。こちらを魔物に調査されたのだろう。

――ならば、こちらの戦力だって理解しているはずだ。

規格外の勇者はともかく、女戦士の剣の腕も凄腕と呼べるものだし、女魔法使いの魔力は今では底が知れない。

対して、自分にはそのどちらも無い。

魔力は元々適正が低いせいか雀の涙。なんとか工夫してやりくりしてはいるが、溢れるような魔力の前には霞む。

鍛えてはいるが、腕っ節もそこまで強いわけじゃない。精々そこらの一般兵に毛が生えた程度だろう。

僧侶「ハァー…」

自虐じゃないつもりなのに、現状をおさらいするだけで泣けてくる。

でも、だからこそ。

僧侶「なんで条件に、性別を加えなかったんだ…?」

このパーティにとって二人はかなりの戦力。そちらを欠く方が痛手であることは確実だ。

士気を下げる目的だとしても、今頃は美談めいた仲間の犠牲に酔っていることだろう。無駄に熱血してるに違いない。

僧侶「性別を条件指定するのに、そんなにコストがかかるのか?」

一般に制約は縛るほど強大な力を行使できるようになる。が、今回の制約に用いられた"条件"は逆に縛るほどに力は弱まるはずだ。

例えば脱出の条件を『全員が死亡しないと脱出できない』とすると、実質消滅させることになり、それ同等のコストが必要になる。

性別指定の場合はどうだろうか。『残る人物は女でなくてはならない』

…この場合、自分と勇者の二人だけだったとしたらそもそも罠にかかることすらないと思われる。

しかし、パーティの構成は男2:女2。全員を巻き込めば、罠は発動するだろう。

一応、『残る人物=封印され続ける人物』を指定することにはなるから、相応に力は弱まるとは思うが…

僧侶「『選ばれし者』を対象外にするから用いなかったのか?いやでも、その割りにはヒントめいた条件も残している」

そもそも、本当に二人を狙いたいのなら別の罠を作るか…いやしかし二人はいつも勇者と行動しているし…

夥しい数の同胞の命を散らしてまで、魔王は一体何を――

僧侶「――あ"ーダメだわからん。疲れた寝る!おやすみ!」

ここにくるまでの戦闘と、無い頭を酷使したことで疲れてしまっていた。

魔王には何か別の目的があるのかもしれないが、ここを出られなくては知ったところで意味が無い。

外套を被り、床に転がる。カンテラの火を消すと目をあけていても黒しか映らなくなった。

何はともあれ体と頭を少し休めよう。起きたら、また続きを考えよう――

.

―――回―――

  魔物の出現を報せる鐘が響く。どよめく人々。両親に手をひかれて避難場所である教会の地下へと降りる。

  地下には既に大勢の人々が避難していた。その中に勇者と女魔法使いの姿を見つけ、ほっとする。

  …不意に、大砲の振動が地下室に響く。本格的な戦闘が始まるまで、もう幾許も無いだろう。

  と。

  女戦士の姿が何処にもない。三人で手分けしてみても、両親にせがんで探してもらっても、居ない。

  彼女は前回の襲撃で両親を亡くしていた。他に身寄りの無い彼女を親達は引き取ろうとしたが、彼女は断った。

  自分の家はここだと言い張り、一人で生きていけると泣き喚き、自分を人質に脅迫までした。

  仕方なく、親達や三人が手伝いに行くこと条件に、彼女はその家で一人で暮らしていた。

  嫌な汗が背中を落ちる。何らかの原因で、警鐘を聞き逃してしまったのか。

  絶対に外にでるなと言いつけられていた。でも、じっと待つこともできなかった。

  勇者と二人で監視の目を盗んで抜け出し、誰も居ない街中へと飛び出して行った――

―――想―――


目を覚まし、手探りでカンテラに火を灯す。映し出された光景は、相変わらず変化がなかった。

硬い床の所為で背中が痛む。今は朝だろうか。ここでは時刻を知る術が全く無いことに、今更ながら気付かされる。

僧侶「まぁ、どの道一週間持つかってとこだし…大体把握できればいいか」

極々質素な食事を摂る。拠点と村が近いこともあり、食料は最低限しか用意してこなかった。

水ですら水筒に入っている分しかない。道中聖水を撒いてきてしまったのを、今更ながらに後悔した。

…後悔してもしょうがない。手元にある材料でなんとかするしかない。

僧侶「さて、早速始めますか」

.

条件を満たせなくなった以上、脱出できる方法は一つだけだ。

『呪い』の内に残る代償に見合う分だけ、解呪の代償を支払い続ける。

今回は物資に乏しいこともあり、素直に自分の魔力を代償として用いることにした。

床や壁に傷がつけられないので、止血用の布にペンで紋を刻む。座って作業ができるように床に敷いた。

刻んだ紋の中心に指をおいたところで、カンテラの火を消す。

ぼそぼそと詠唱を済ませると、指先から仄かに光が漏れ出し、暗闇に解呪の紋だけが浮かび上がる。

精神を集中させる。なるべく魔力の無駄が無いように、慎重に――

――祈るように。魔力を、ただ注ぎ続けた。

.

―――回―――

  勇者の両親は共に国を守る兵士だった。昔は名の知れた冒険者だったらしく、それぞれが隊を率いる身である。

  豪胆な性格で、勇者の家に遊びにいくたび髪がぐしゃぐしゃになるまで撫でられる。

  国を守る為に前線で戦うその姿は、幼い頃からの憧れだった。

  そんな二人が防衛に尽力していることもあってか、まだ街中に魔物の姿は無かった。

  息を切らせながら女戦士の家まで辿り着き、持っていた合鍵で中へと入る。

  呼びかけても返事が無いので、手分けして女戦士を探し始めた。

  静まり返った室内に城壁の外から雄叫びが響く。

  この家にいるとしか考えていなかった。探しながら焦りが募る。ここに居ないとなると、今から探しに行く時間は…

  不意に、二階から物音がした。勇者と顔を見合わせ、階段へと向かう。

  …入るときに呼びかけても返事がなかった。魔物か、盗賊か。

  いつもは軋む階段を、音をたてないよう慎重に上る。顔だけ覗かせて見たが、誰も居ない。

  ほっと息をつくと、タンスからごとり、と音がした。再び心臓が早鐘を打つ。

  勇者が目配せをし、タンスの扉に手をかける。手近にあった花瓶を武器として構え、扉を開けると――

  ――両手で耳を塞ぎ、震えながら縮こまる女戦士の姿があった。

―――想―――


僧侶「――ッはぁっ…はぁっ…」

指先から光が消え、少し遅れて布からも光が消える。全身に脂汗を滲ませながら、荒い息をする。

やっとの思いでカンテラに火を灯すと、壁に体重を預ける。

僧侶「はぁ…はぁ……ふぅ…――とりあえずは、ここまでか」

できるかぎりの工夫は施したが、やはり魔力の絶対量が少ない。身体的疲労とはまた違った倦怠感が全身を包む。

息が整ったところで鞄から魔力に効果がある薬草を取り出し、もしゃもしゃと噛む。

ついでに同じく魔力を回復させる香も焚いておいた。

僧侶「………苦いし臭ぇ」

贅沢も言っていられない状況ではあるが、苦いものは苦いし臭いものは臭い。

空腹感を紛らわすために必要以上に噛んでいるせいかもしれない。

魔力回復のために体を休ませながら、それとなく昨日中断した魔王の目的についての考察の続きをしていた。

.

―――回―――

  酷く怯えた様子の女戦士だったが、勇者の顔を見て取ると、抱きつき、大粒の涙を零し始めた。

  しゃくりあげながら、ぽつぽつとこうなってしまった経緯を話す。

  家の大事な物をかき集めていたら逃げおくれてしまったこと。

  怖くて耳を塞いでいたせいで呼びかける声が聞こえなかったこと。

  振動で誰かが入ってきたことには気付いたが、まさか自分たちだとは思わなかったこと。

  そして、心配かけてごめん、来てくれてありがとうと言うと、やっとはにかむような笑顔をみせた。

  勇者と軽口を叩き、三人で笑う。女戦士の無事がわかって一安心といったところだった。

  ――ずずん、と響いた重い音で、自分達の置かれた状況を思い出す。女戦士を連れて家を出て、教会への道を急いだ。

―――想―――


枯れるまで魔力を注ぎ込んでは休む。そうするうちに限界を迎え倒れこみ、泥のように眠る。

目を覚ましてはまた繰り返し、くりかえし。ただひたすらに、解呪を続けている。

が。一向に封印に変化はなかった。

解呪の一連の作業で予想以上に消耗している。食料はとうに尽きた。水は、もはや僅かな聖水を残すのみ。

飢えと渇きで指先が震える。なんとか集中しようとするが、魔力の枯渇までの時間が段々と早まってくる。

今は五日目であろうか。昏倒までの間隔が早まったことからもはや何の根拠も無い。

――残された時間は少ない。

僧侶「…。」

この先、更に消耗すれば精神の集中もままならなくなるだろう。自分の全力が出せるのは今が最後かもしれない。

きっと、ここが分水嶺だ。

虎の子の聖水、残った薬品の類、故郷の国から肌身離さず持ってきた教典。

そして、霊獣の洞窟で授かった杖。

持っていた全てを、解呪の代償に捧げることにした。



新しい布に聖水と魔力を伴って紋を印す。小瓶や薬草、教典やらを並べると立ち上がり、杖を紋の中心にあてがう。

僧侶「…いままで一緒に戦ってくれてありがとう。この先は、自分の力でなんとかするよ」

枯れた声で呟くと、返事をするように微かに杖が震えた。

深呼吸。握りなおし、目を見開く。体に残った魔力を練り上げると、指先の震えが止まった。

解呪の紋が今までよりも明るく輝き、光の粒があたりに飛び散る。

僧侶「『寄る辺を無くした血汐よ 現世を彷徨う魂魄よ』

   『そなたらをこの地に縛る鎖を解き 輪廻の輪へと還そう』

   『この祈りが 安らかな眠りへの導とならんことを』」

唱えると、解呪の紋は一層光を増す。捧げた供物が紋をくぐり消えてゆく。

小瓶、薬草、教典が光の中へ消えていったところで、封印に変化は無かった。

杖を握る手に力を込めなおす。

杖の先端が眩く輝き、その美しい身体を沈め始める。渦巻く魔力を全力で押さえつけ、せめて無駄が無いように。

――依然、周囲に変化は現れない。すがるような気持ちで続ける。杖はもはや半分ほどしか残っていない。

僧侶「――…頼む!…どうか、どうかこれで…」

終わってくれ。

その願いも、杖の先と、解呪の紋が放つ光と共に、闇に消えた――

.


全身から血の気が引く。両足から力が抜け、冷たい床に倒れこむ。

――まだ、足りないのか。

体温が奪われる。しかし身体は少しも震えず、ただ横たわる。

――これだけやっても、まだ届かないのか。

魔力の枯渇からくる喪失感。

――これでもまだ、『選ばれし者』の力は――

絶望の中で、意識が闇の中に堕ちていく。

.

―――回―――

  目立たぬよう裏路地を抜け教会を目指す。

  自分達の力で女戦士を助け出せた。そう誇らしげに思っていた。

  辿り着いた教会前の広場。喜びを分かち合おうと、二人の方へ向き直ったその刹那。

  轟音を上げて、城壁の一部が崩れ去った。

  唖然とする。あの辺りは勇者の両親が防衛を担っていたはず――

  間をおいて、勇者がそちらへ走り出そうとする。慌てて手を掴んだ。

  両親を助けに行きたいのだと言う。手を振り払おうともがき、暴れる。


  心配する気持ちはわかる。女戦士の救出に成功したことで気が大きくなっていたのかもしれない。

  しかし、どんなに強がっても自分達はまだ子供だ。さらに丸腰とあっては、結果は見えきっている。

  諭すも、聞かない。城壁が崩れた以上魔物がここにくるのは時間の問題だ。焦りがつのる。

  全力で教会へ連れていこうとするが、抵抗されてはうまくいかない。女戦士が泣き出してしまう。

  そちらに気をとられた瞬間。余っていた拳で勇者に殴りつけられた。

  思わぬ不意打ちに尻餅をつき、手を離してしまう。駆け出す勇者。また手を掴もうと起き上がると――

  眼前に、黒い魔物が舞い降りた。

―――想―――



――あれから、どれだけの時間が過ぎただろうか。

喉が渇く。

体温が上がらず凍える。

頭は靄がかかったように明瞭としない。

指先から流れる魔力は細り、途切れ途切れに。

それでも、解呪は続けていた。

止める事などできなかった。

諦めたくなかった。

死にたくなかった。

もういちど、彼女に会いたかった。

幾度と無く此岸と彼岸を行き来し、それでも続けた。

続けることそれ自体が、望みであるように。

奮い立たせていたのは、どんな感情だったのだろう――

.

―――回―――

  明滅する視界。全身への痺れ。

  少し遅れて、胸に焼けるような痛み。

  現れた魔物に、その爪で、唯一度だけ、薙がれただけで、

  それだけで、小さな身体は死に瀕していた。

  女戦士の金切り声。勇者の怒号。どちらも意に介すことなく魔物が近づいてくる。

  心臓が暴れ血がとめどなく流れる。逃げようとしても、身体が竦んで動けない。

  痩せて見える体躯に、長大な爪。蝙蝠のような翼には矢が何本も刺さっていた。

  来るな。嫌だ。痛い。死にたくない。

  黄色く濁った眼球。生臭い息が顔にかかる。時間がやけに遅く流れる。

  嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだ――

  ゆっくりと、牙の生え揃った口を開け――

  ――誰か、助けて。

―――想―――




意識は覚めたはずなのに、身体が動かない。



―――回―――

  魔物が、視界から消え去る。同時にやわらかな光が体を包み、痛みが消える。

  よく知ってる声。暖かい大きな手。いつだって安心できる、その顔。

―――想―――




こんなところで、終わってしまうのか。



―――回―――

  勇者に肩を借り、教会へと走る。

  周囲に夥しい数の魔物が舞い降りる。

―――送―――




なんで。どうして。



―――階―――

  彼らが とても強いのを知っていた

  こんな魔物 いくら束になってもかないっこない 

―――層―――




嫌だ。どうして。なんで。嫌だ。なんでだどうしてなんだどうしてなんでなんでなんで――



―――悔―――

  教会の結界に足を踏み入れた瞬間

  朦朧とする意識で振り返り 見たのは

  烏のように群がる魔物 知らない声で叫ばれる名前

  その塊の中から飛び出た 誰かの白い腕

―――葬―――



僧侶「――なんで、こんな目に遭わなきゃいけないんだ」



―――




―――【?】―――


生ぬるい液体に浸る四肢

首だけ回し 口に含む

生臭い鉄の味 構わず飲み込んだ

途端 ふつふつと 感情が涌きあがるのを感じた

――なんで、こんな目に遭っているのか。

喉の渇きが収まらない

――なんで、こんな事になってしまったのか。

手で掬い口に運ぶが足りない

――なんで、報われることが無いのか。

何故だか 体が動く

――なんで、こんなにも苦しいのか。

這いずり 啜る

――なんで、自分は。

獣のように ただひたすら喉を潤す

――なんで、




――なんで、選ばれたのが勇者なんだ――


.

いいよいいよー
ダークサイドに堕ちるの凄くいいよー

液体がどくん、と脈動し、急激に水位が上がる。

我に返り立ち上がるが、それでも水位は上がり続けている。

液体から出ている部分を見えない何かが這いずる。

もう腰まで沈んでいた。

何かが身体を締め上げ、水底へ引きずり込もうとしている。

必死にもがくが濡れた服と衰弱した体が邪魔をする。

胸から肩、首へと液体はかさを増していく。

口が塞がる寸前に大きく息を吸い、止める。ついに全身が沈む。

這いずり回る何かが速度を上げる。

目、耳、鼻、口。身体に空いたあらゆる穴から何かが中へ入ってくる。

自分の内側を侵される不快感と窒息の恐怖。

息を詰めたままもがく。いつの間にか液体は熱いほどになっている。

…もう息がもたない。気が遠くなる。

残った力を振り絞り、あるはずの水面へ手を伸ばし――

――掻くこともできないまま、意識が閉じた。

―――死―――

眩暈がした。体温が下がった。握った拳が、意思に反して震えた。

勇者に、罵詈雑言を浴びせかけたかった。

昨日まで自分が何をしてきたのか、知らせてやりたかった。

今になって態度を変えるのを、なじってやりたかった。

一言も自分が残るだなんて言わなかったのに。

間違えないように気をつけたのに。

結局、いつもの通りになってしまった。

でも、一生、言うつもりなんか、なかったんだ…――

―――香―――

―――【拠点地下・最奥】―――


瞼の裏からちりちりと痛む光。硬く冷たい地面。響く風の音。

ゆっくりと目を開けると、少し開けた地下室に、天井に開いた大穴。射し込む光。

…どうやらまだ生きているらしかった。

自分の状況を確認する。両手、やけに重いが動く。両脚、痺れてはいるが動く。

全身を覆う倦怠感も、飢餓感も――喉の渇きも、そのままだった。

上体を起こす。着ていた服は埃にまみれていたが、他に目立った汚れは無い。

穴の真下あたりに魔物の亡骸があった。恐らく拠点のボスだろう。ここからでも微かに腐臭がする。

後ろを振り返ると、暗い通路の遠く向こうに、小さく地下に降りた階段が見える。

僧侶(…封印の外に、出られたのか)

呟こうとしたが、かすれてうまく声がでなかった。

解呪が成功したのだろうか。別の条件があったのだろうか。…あの光景は、幻覚だったのか。

考えたいことは山ほどあるが――

僧侶(――みんなは、無事だろうか)

何より先に、それを確かめたかった。

―――


重い身体を引き摺るように歩みを進める。

さっきまで眩いばかりに思えていた空は、どんよりとした曇天だった。

瓦礫の山と化した拠点を抜ける。幸いにも付近に魔物の気配は無かった。

あの地下室の大穴は恐らく勇者が開けたものだろう。封印が健在だった間は階段が使えなかったはずだ。

ボスの遺体には刀傷と魔法による傷両方が見受けられたが、それが誰のものかまでは判別できなかった。

気持ちばかりが急かされるが、足取りは遅々としてなかなか進まない。

みんな無事に村へと戻れたのか。あの後に罠はなかったのだろうか。

勇者に、ちょっとした小言を言ってやりたい。自分の扱いが、少しはマシになるかもしれない。

女戦士はまた泣いているかもしれない。昔からいつも泣いてばかりだった。

女魔法使いには――ただ、会いたかった。

辛くも封印から抜け出した自分の姿を。心配そうな顔で待っているであろう彼女の姿を。

互いに見せあうだけで、それだけで。充分だと思えた。

魔物の進攻で造られた道沿いに林へ入る。そんなに距離はないはずだが、やけに遠く感じる。

だが、喉の渇きも、飢えも身体の衰弱も、どれも気にはならなかった。

あそこへ帰れば、またみんなに会える。

指先が震える。吐く物も無いのに吐き気がする。時々視界がぼやける。

構わない。最悪、あそこで死ぬんだと思っていた。どんな状態でも生きていることに変わりは無い。

僧侶(下手をしたら一週間を過ぎてるかもな。そしたら急いで追いついて、後ろから小突いてやったりしてさ)

遠くに村の入り口が見える。はやる気持ちを抑え、できるだけ早足に――

がさり、と物音がした。

僧侶(――魔物か!?)

油断していた。村が見えたことで気が緩んでいたのかもしれない。

この身体で逃げ切れるのか。何体いるのだろう。そもそもこちらは気付かれているのか。

様々な思いを巡らせ、音のした方へ向きなおる。




そこには、想像した魔物の姿はなく。村人の姿でもなく。待ち人の姿でもなく。


       白 い シ タ イ が 、 ゆ ら ゆ ら と 。


―――


絡み合う肉体。

猥らな水音。

囁くように交わされる言葉。

半裸の男女が抱き合っている。うす暗い林に、なめらかな白が映える。

肌同士を打ち合わせる音。

荒い息づかい。

恍惚の表情。

自分が、見たことのない表情。

抽挿に合わせて大きくなる嬌声。どちらともなく、顔を近づけて―――




膝を着いたのは自分の意思か否か。込み上げる吐き気を両手で必死に押さえる。

ぐるぐると世界が回る。目は開いているはずなのに何も見えず、耳穴が拾い集める音もただ通り過ぎる。

全身を舐めるように『何か』が這い回る。染み入るように内側に入ってくる。

吐瀉物を飲み込み、僅かな身じろぎもせず、震える身体を押さえつけ、苦しくなる呼吸さえ止め、

代わりに。『何か』が入った分だけ。

両目から流れる体液だけは、止めることができなかった。

知っていたことだ。これが初めてじゃない。振り向かせるだけの力が、奪い取るだけの力が無かったからだ。

『選ばれなかった』のは偶然だ。勇者には資格があった。悔やんだところで結果は変わらない。

ならば何故、苦しむのか。

泣かないと決めていたはずなのに。またいつもの日常に戻れると思ったのに。

会いたかったはずなのに。笑いたかったはずなのに。こんなつもりじゃなかったのに。

なら、これは。

湧き上がる感情は、何だ。

―――


気がついたときには、どこかの室内にいるようだった。

ぼんやりと目をあけるが、それ以上は何もする気が起きない。

しばらくそのままでいると扉の開く音がした。こちらに気がつくと慌てた様子で誰かを呼びに行く。

ばたばたと、いくつかの足音が近づいてきた。

『――僧侶っ!気がついたんだな!』

『よかったぁ~…もう丸二日も眠ってたんだよ』

『心配したんだからね、僧侶くん…戻ってこれたんだね』

良く知っている声。何故だか、遠く聞こえる。

あの後のことを一気にまくしたてられた。

拠点のボスを倒したこと。村人総出で感謝されたこと。村に滞在する傍ら、復興を手伝っていたこと。

丁度一週間で、自分が見つかったこと。――街道に倒れているのを、村人が見つけたらしい。

『…? どうした僧侶。まだどこか痛むのか』

流石にこちらの様子にも気付いたようだ。残りの二人も心配そうに覗き込む。

僧侶「……いや、まだ少し…気分が優れないんだ。…悪いんだけど、一人にしてもらえるかな」

『…確かにひでぇ声だな。お前の体調が治るまでこの村に滞在するつもりだから、ゆっくり休めよ』

『早く元気になるんだよ~。それじゃ、また晩御飯のときにね~』

『何かあったらすぐに言ってね。村の方にもお願いしてあるから』

三人が部屋をでていく。何か言いたかった気もするが、忘れてしまった。

何かを考える気にもなれなかった。布団に横たわったまま、ただ天井を眺めていた。



その晩。女魔法使いが焼いてくれたというパンは、砂の味がした。

.

―――【魔王城の目前】―――

.

―――思―――

あれからは、いつも通りに、旅は進んできた。

変わったのは夜眠れなくなったことくらいか。

寝ようとしても寝付けない。やっと眠れたかと思うと、血だまりに沈む悪夢に魘される。

加えて毎晩のように響く隣室からの騒音にも耐えかね、酒場で朝まで安酒を呷る事が多くなった。

――いくら酒に溺れようとも、目を閉じればあの光景が蘇る。日毎に酷くなる一方だ。

少しずつ体が蝕まれていく。

そんな自分の様子を初めのうちこそ咎められもしたが、無視を決め込んでいるうちにそれも無くなった。

それでも旅にさしたる影響はでなかった。勇者は規格外の力を更に伸ばし、女戦士、女魔法使いも腕に磨きをかけている。

早く、この旅が終わって欲しい。

それだけを願うようになっていた。

―――考―――


険しく切り立った山嶺に囲まれた窪地。その中心に、城は築かれていた。

記録によると、かつては周辺一帯を統治する巨大な国の本拠であったらしい。

進んだ技術と強大な軍事力を持ちながら、一夜にして滅んだとされる曰くめいた伝説付き。

厳しい自然の城壁と、その周囲に配置された魔物の拠点。ここにいる、と言わんばかりの環境だ。

勇者「いよいよ、だな」

勇者が呟く。

女戦士「うー、ちょっと緊張してきた」

言葉とは裏腹に、その顔は気力で満ちていた。

女魔法使い「ついにここまで来たのね…長かったわ」

じっと城の方を見つめながら言う。

勇者「できるかぎりの準備はしてきたんだ。後は、全力を尽くして――」

  「魔王を、必ず倒す」

僧侶「…。」

決意を固めなおす三人を尻目に、どこか空々しい気分で城を見つめる。

伝説とされる装備を数々手にしてきた。貴重なアイテムも大量に揃えた。各地の幻獣や霊獣、妖精の加護も授かった。

正直、負ける気がしなかった。ただ一刻も早く終わってほしかった。

勇者「…行くか」

三人が歩き出す。やや間をおいて、その後ろについていく。

忌々しいほどの快晴。魔物の本拠地に似つかわしくない空の下、この旅の終着点に向けて歩き出す。

―――


城門の前に辿り着く。遠目に見るよりも遥かに大きく、所々朽ちてはいるが立派な佇まいである。

意外なことに魔物とは一体も遭遇しなかった。

女魔法使い「…あれだけ山の外側には魔物がいたのに」

勇者「ここまで来る奴なんかそうそういないだろうからな。まぁそれを抜きにしてもだ」

女戦士「待ち伏せ、だね。中で沢山待ち構えているんじゃないの~」

頷く。もしかしたらここに魔王が居ないのかもしれないが、勇者が「奴の息吹を感じる」とか言い張るので信じておく。

女魔法使い「周囲をもっと調べてみる?大きな城だし、もしかしたら抜け道とかあるかも」

勇者「いいって面倒臭い。どこを通っても、どうせ魔物は配置されているだろうしさ」

それにも同意だ。

勇者「どれだけ魔物がいようと、罠が張り巡らされようと、俺たちなら問題にならないさ」

女魔法使い「それは、そうなんだけど」

ちら、とこちらを見てくる。恐らく前のような『呪い』による罠を心配しているのだろう。

僧侶「…『呪い』なら、今は精霊達の加護もあるし、対抗策がないわけじゃない」

――最悪、前回のような封印があってもまた自分が残ればいい話だ。

勇者「そういうことだ。心配性なんだよ、女魔法使いは」

女魔法使い「う、うん。そうだよね、ごめんね」

…この頃の女魔法使いはずっとこんな調子だった。

昔のような年長者の余裕はなく、勇者に嫌われることを極端に恐れているようにも見える。

できるだけ平静を装って助け舟を出しておく。

僧侶「万全を期す、って意味では間違いじゃないさ。

   詳しく調べるまではしなくても、一周してみるくらいはいいんじゃないかな」

勇者「…僧侶はお優しいこったな。んじゃ、ぐるっと回ってみるか」

勇者が歩き出すと、女戦士が隣についた。

女魔法使いが何か言いたげにこちらを見るが、結局何も言わないまま小走りで行ってしまった。

―――


数週間前。砂漠の町。

夜、宿の部屋から抜け出してきたのはいいが、その日は丁度酒場が定休日だったらしく。

仕方なく、宿の裏手に生えていた樹の下で夜を明かすことにした。

昼間にはじりじりと焼くように熱かった砂も、今ではひんやりとしていて心地がいい。

何を見るでもなく、何を考えるでもなく、ただ眠らないように朝を待っていた。

…不意に、誰かが近づいてくる気配に気付く。

女魔法使い「あー、僧侶くぅん…こんなところにいたんだぁ」

よたよたとした足取りで女魔法使いがやってきた。寒さのためか外套をすっぽりと被っている。

僧侶「…どうしたの、こんな時間に」

女魔法使い「部屋にいないんだから探しちゃったよー。えへへ」

隣に座り込む。酷く酔っているようだった。――普段真面目な女魔法使いにしては珍しい。

女魔法使い「あのねぇ…勇者が酷いこというのぉ…」

     「お前は『ついで』だってさぁ…女戦士ちゃんの、おまけなんだってぇ」

     「もう、ほんとに嫌になっちゃう…最近ずっと冷たくて、そっけなくて」

     「嫌いなお酒を毎回飲ませるし、ぜんぜん相手にしてくれなくって…」

正直、聞きたくもない。

心待ちにしていたはずの女魔法使いとの会話が、苦痛でしかない。

女魔法使い「でねぇ…どうしたらこっちみるんだーって怒ったらねぇ…」

女魔法使いが立ち上がり、外套をめくりあげる。

下は、一糸纏わぬ姿だった。

豊満で形のいい胸。白く透通るような柔肌。想像でしか見たことがなかった秘部には――



秘部には。空いた酒瓶が挿し込まれていた。


吐き気が、込み上げる。冷えていたはずの身体の芯が、どす黒い炎で燃え上がる。

女魔法使い「勇者がねぇ…相手してほしかったら僧侶でも慰めてこいって…」

耳鳴りでうまく聞こえない。いつのまにか痛いほどに拳が握られている。

女魔法使い「手か口でちゃんとできたら、ビンを抜いてくれるんだって」

食いしばった歯から血の味がする。頭に上った血で、視界がブレる。

女魔法使い「…お願い…僧侶くん。捨てられたくないの…」

なのに。

女魔法使いが泣いているのに。勇者を殴ってやりたいのに。

燃え上がっていたはずの感情が、みるみると熱を失い、消えていく。




僧侶「…風邪、ひくよ。砂漠でも夜は冷えるし」

妙に落ち着いてしまったまま、外套を羽織らせる。

僧侶「酷く酔ってるみたいだし、今日はもう寝た方がいい。

   …明日になれば、勇者の機嫌だって治るよ」

ぐすぐすと泣いている女魔法使いの手を引き、宿屋へと連れ戻す。

少し水を飲ませ誰も居ない男部屋のベッドに寝かせる。

むずがるように泣いていたが、しばらくすると眠ってしまったようだった。

相変わらず隣の部屋からは騒音が響いている。そっと布団をかけると部屋を出た。

樹の下に腰掛ける。

ため息すらでなかった。いつものように、朝がくるのを待ち始めた。

自分の中で『何か』がずるり、と蠢いた気がした。

―――

―――【魔王城内部】―――


城の周囲を探索してみたが何も見当たらず、正面の城門から城の内部へと進入する。

予想されていた待ち伏せは無かった。

周囲を見て回った際に気付いたことでもあるが、城内は異様に静まり返っている。

魔物はおろか、ネズミの一匹すら。おおよそ生き物の気配が感じられない。

『呪い』を含めたあらゆる罠にも警戒したが、ここに人が居たころに作られたであろう装置しかない。

尤も、その装置も年代を考えると相当に先進的なのだが。

だが、城内に入ったことで判る、禍々しい気配。勇者が感じていた息吹とはこれのことだろう。

パーティに緊張の糸が張り詰める。曲がりくねった回廊を、無言のままゆっくりと進んでいった。

―――


装飾の施された両扉。やたらに高い天井を無数の太い柱が支える。

大きな天窓からは外の光が射し込む、荘厳な雰囲気。

位置的にも恐らく最奥にある部屋。

勇者「……もっと、化け物らしい姿をしていると思ったんだがな」

あっけなく、終点に着いた。玉座には、本を片手に気だるそうに佇む初老の男。

見た目こそ人間のようだが、その体からは並々ならぬ気配を発している。

魔王「…城についてから随分と時間がかかったな。寄り道でもしていたのかね」

勇者と女戦士が剣を構え、女魔法使いと自分で守護呪文を唱える。

勇者「一人でお留守番して寂しかったのか?安心しな、すぐに寂しくなくなるぜ。

   ――地獄でお仲間に会えるんだからなぁッ!」

一足飛びに勇者が詰め寄り、宝剣を振り下ろす。

鈍い金属音が響き、剣が触れるよりも手前で障壁に阻まれる。

女戦士「もういっぱぁつ!」

続けざまに女戦士が斬撃を繰り出す。が、同様に刃は届かない。

女魔法使い「障壁ね…二人とも下がって!」

二人が後ろに跳ぶ。ほぼ同時に女魔法使いが放った火球が着弾し、爆ぜる。

吹き飛んだ本のページが宙に舞う。…魔王に傷こそ無いが、障壁は剥がれたはず。

勇者「うらぁッッ!!」

再び打ち下ろす。障壁に阻まれることなく、魔王の体に剣が入った――

ように、見えたが。

もともと乱暴者で短気な感じはあったけど
こうまで屑dqnになるとはなぁ勇者

勇者「!!」

障壁とは違った金属音。いつの間にか魔王も剣を抜いており、勇者の剣を受け止めている。

魔王「…ふむ」

何かを確かめるように頷くと、鈍く光る剣から凄まじい連続攻撃を繰り出す。

虚を付かれたせいか、久々に勇者が防戦にまわる。攻撃を受け流しながらじりじりと下がる。

女戦士「――もらった!」

背後から女戦士が斬りかかる。こちらも気付かぬ間に死角に回りこんでいたようだ。

が、魔王が振り返ることなく、女戦士が何かに吹き飛ばされる。

女戦士「きゃあっ!?」

勇者「女戦士!!――ぐおっ!?」

続けて大振りに剣を薙ぐと、剣で受けたはずの勇者をそのまま壁までふっ飛ばす。

魔王を見ると――外套の下から巨大、かつ異形の腕が生え、蠢いていた。

魔王「どうした…?化け物らしい姿を想像していたんじゃないのか?」

女魔法使い「…くらいなさい!!」

次の瞬間、女魔法使いが詠唱を完成させ、先ほどよりも大きな火球が魔王を包む。

荒れ狂う火炎の中から魔力の渦が巻き起こったと思うと、巨大な氷柱が投擲される。

女魔法使い「――っ!」

僧侶「危ない!!」

ギリギリのところで弾いて逸らす。精霊の加護があるとはいえ、弾くだけでも手が痺れる。

炎が収まると、まさしく魔物の王らしい、禍々しい姿が現れる。

魔王「まさか、これっぽっちではないだろう。

   貴様らは我を殺すためにここまで来たのだろう」

ボコボコと皮膚の表面が泡立ち、魔王のシルエットが膨れ上がる。

細かった腕や脚は丸太のように膨れ上がり、体全体がどす黒い鱗で覆われて行く。


魔王「さあ足掻け。驕るがいい。怒るがいい。我を憎み、我を畏れよ。

   ――そして呪うがいい。この世に、生を受けたことをな」

―――


魔王を討つ為の『選ばれし者』の力が強大ならば、魔王の力もまた絶大だった。

桁違いの膂力。目にも留まらぬ俊敏さ。無限かと錯覚するような魔力。

さながら外骨格のような皮膚は、女戦士の剣技も、女魔法使いの呪文もまるで通さない。

勇者を柱になんとか持ちこたえてはいたが、魔王に消耗している様子は見られない。

――勇者が一方的に蹂躙される度、心の内に黒い感情が育つ。

魔王「所詮、こんなものか」

飽きれたような声で呟く。

勇者「…舐めるなぁあああああ!!」

激昂し、勇者が突貫する。渾身の力で振りぬいた剣が、魔王の剣を砕く――が。

魔王「ぬるいわ!!」

その隙を突いて巨大な腕が勇者を捕らえる。

女戦士「――っ、勇者ぁ!」

助けに入ろうとした女戦士に向けて、勇者を投げつける。受け止めることも叶わず床に倒れこむ二人。

女魔法使い「二人ともっ!」

攻撃された二人に気をとられた瞬間、魔王の全身から魔力が迸る。

防御すべく守護呪文を唱えるよりも早く、衝撃波が叩きつけられた。

余りの威力に壁まで吹き飛ばされる。全身が押しつぶされるような痛みを訴え、呼吸すらままならない。

やっと収まると、精霊の加護を司っていた指輪が小さな音をたてて崩れた。

魔王「神とやらに与えられた力で英雄気取りか?

   …"創られた"天敵などでは、我は滅びぬ」

勇者「……ッ……畜生…」

魔王がゆっくりと手をかざすと、各々の足元から無数の黒い手が這い出し、拘束する。

女戦士「…ぅ、ぁ」

女魔法使い「……くっ」

指先まで締め付けられ、全く身動きができない。


魔王「……さて」

その時。

邂逅を果たしてから、初めて見せる感情らしい感情。

魔王「こちらの撒いた種は、どう育ったのかね」

僧侶「…。」

ぐりん、とこちらを見て、口角を釣り上げる。魔王の双眸に自分の姿が映る。


魔王「――"飲んだ"だろう?僧侶よ」

.

途端。『何か』が身体の内で暴れまわる。

突然湧き上がった吐き気に、思わず嘔吐してしまう。

押さえつけようとしても効かない。酷い頭痛。著しい不快感。

様々な感情が勝手に涌き上がり、『何か』と共に荒らしまわり――

臨界を迎えると、身体の表面から黒い瘴気が溢れ出す。

勇者「…僧侶に何しやがった!!」

勇者が魔王を睨んだまま叫ぶ。威勢はいいが、拘束を振りほどくだけの力も無いようだ。

魔王「ほう、『何か』とね。我はきっかけを与えたに過ぎないのだがね。

   『何か』したのは、貴様らのほうが余程身に覚えがあるのではないか…?」

体中に巻きついた手がじりじりと這いずる。魔王が何やら唱えると、

女戦士「いやぁっ…何これっ…!」

体の内側に、覗き見られるような不快感。自分の意思とは関係なく記憶が浮かんでは消える。

荒れ狂う『何か』。気色の悪い猫撫で声で、魔王が語りかける。

魔王「なぁ僧侶。可愛いお前は今までこの男に何をされたんだ?」

.



無数の目玉が頭の中を蠢く。勇者が小声でやめろ、と呻いた。


魔王「どんな危険な道だろうと躊躇なく独りで放り込まれ」


――みんなのことは絶対に守ってみせるよ――


魔王「"与えられた"力を誇示され自分の居場所から追いやられ」


――神父になりたいなんて思わないけどさ――


魔王「長年好いてきた女を遊び半分に篭絡され粗末に扱われ」


――お前も、女戦士も、女魔法使いだって傍にいてくれるんだから――


勇者「……やめ、ろ」


――だからさ、ヤクソク。魔王を、一緒に――


魔王「この世で最も敬愛し、信頼していた親友に「やめろぉぉおぉおおおおおおお!!!」



―― 魔 王 を 倒 す 旅 に 、 一 緒 に 行 こ う ぜ 、" 勇 者 " ――


魔王「…交わした約束を、決意を。我が物顔で振りかざされるのは。

   嘲られ蔑まれ貶められ何食わぬ顔で付き纏われ心の底で笑われていたのは。

   僧 侶 、お 前 は ど ん な 気 持 ち だ っ た の か ね ? 」

女戦士「そんなことっ…してない…」

女戦士が震える声を絞り出す。勇者は頭を垂れたまま、微動だにしない。

魔王「そうか。それならば――」

魔王が醜悪な笑みを浮かべる。

魔王「――戦力配分を名目に!!志していた戦士から聖職者へと転職させ!!

   甲斐甲斐しく荷物持ちを始めたのをいいことに!!まるで従者のような扱いをし!!

   資金不足と嘯き!!碌な装備も買い与えず!!

   暇さえあれば見せ付けるかのように情を交わし貪り合い!!

   ――それら全てを疑問にすら感じず、"いつもどおり"に押し込めたのも。

   ……全て、唯の"偶然"だというわけだ…」




頭の中から視線が消える。同時に、自分だけが拘束から解かれた。

三人は何も言わない。瘴気を垂れ流しにしたまま、ふらつく足で立つ。

魔王「哀れな哀れな僧侶よ。さぞかし苦しかっただろうな。さぞかし悔しかっただろうな。

   ――可愛そうなお前に、我が全てをくれてやろうではないか」

静かに、滑らかに魔王が語りかける。

魔王「案ずることは何も無い。"お前"が失われるわけではない。

   何代も、こうして『魔王』は継がれてきたのだ」

我が子をあやす様に。

魔王「永遠に死ぬことも無い。心に葛藤すら生まれない。望めば、全てが手に入る力だ」

手を差し伸べるように。

魔王「その内に秘めた『呪い』をそいつらにくれてやれ。それだけで全てが済む」

女戦士は小声で何ごとか呟いている。

魔王「そこの女が惜しいのならば生かしておけばいい。言い寄られただけで体を許すような女だ。少々躾けてやればいい」

女魔法使いは、ただ俯いている。

魔王「お前がいくら心を寄せても、その連中はお前を一切鑑みてこなかった」

  「孤独なお前には、もはや人の子の間に残してきたものなどあるまい」

  「 そ の 男 さ え 居 な け れ ば 、両 親 を 喪 う こ と も な か っ た だ ろ う ? 」

勇者がビクリ、と肩を震わせる。

魔王「我を受け入れろ、僧侶。"共に"などとは言わぬ。

   お前が、お前こそが、世界を滅ぼすのだ」




僧侶「…。」

先ほどよりは湧き上がる瘴気も落ち着き、静かに立ち昇っている

相変わらず『何か』は暴れまわっていたが大分"慣れて"きていた。

僧侶「…聞きたいことがある。『魔王』は一体何のために存在するんだ?

   今までの口ぶりからすると、お前も元は人間だったようだけど」

魔王「『魔王』の存在意義はこの世の全てを破壊し尽す事。それだけだ」

魔王「…"私"自身の記憶は、今ではもう漠としたモノでしかない。

   今のこの身体が、本当に人間だったのかどうかも、もはや思い出せぬ。

   ただ今は、我が内に渦巻く激しい怨嗟の声が、この世を滅ぼせと囁きかける。

   それだけが、我を、私を、俺を、今でも突き動かしている」

僧侶「…そう。じゃもう一つ。それだけ強烈な力があれば別に代替わりする必要ないんじゃないの?

   死ぬこともないなら一人で世界を滅ぼせばいいじゃないか」

魔王「人は、食事をせねば生きては行けぬだろう?それと同じことだ。

   お前は今まで愚痴の一つも溢さず、大事に大事にその『呪い』を育ててきただろう?

   それこそが『魔王』には必要なものなのだ。"私"の人格など価値は無い。

   …お前ほどの素質があれば、お前の代で『魔王』も世界も終わりを迎えられるだろう」


僧侶「…あっ、そう」

魔王から目線を切り、勇者のほうに向き直る。

迷うまでもない。

僧侶「勇者」

勇者が、ゆっくりと顔を上げる。

僧侶「勇者。君は――お前は。結局、今の今まで弱虫のままだったんだな。

   …正直、悪びれずに俺の扱いが当然だと思っていてくれた方が、救いになったかもね。

   どっかに後ろ暗い気持ちがあったから、今そんなに辛い思いをしてるんだろう」

僧侶「悔しかったさ。苦しかったさ。妬んだし、羨んだ。

   何度も何度も考えた。なんでお前が選ばれて、なんで俺が選ばれなかったんだって。


   なるべく、考えないようにはしてたけどさ」

勇者「…僧侶。俺は――」

僧侶「でもね」

勇者が口を開こうとしたのを遮る。

僧侶「でも、そんなことはどうだっていいんだよ。

   勇者が俺をどう思っていようが、女魔法使いが誰を好きになろうがさ」

  「みんなにどんな扱いをされようが構わなかった。

   行き着く町々で従者扱いされようが気にしないさ。

   危険な場所に一人で放り込まれたってよかったんだ」

  「どんなに苦しくても辛くても悲しくても、旅はやめなかった、その理由」

  「この旅の、俺たちの――

   俺の、目標。生きる意味。それは『魔王』、お前を倒すことだ」

僧侶「鑑みてこなかった?違う。その必要が無かったんだ。

   何年この四人で過ごしてきたと思ってるんだ。みんなの気持ちなんか言わなくたってわかるさ。

   ――まぁ、多少予想外な部分もあったけどさ」

僧侶「残してきたものがない?そんなわけない。両親が居なくたって故郷の国はそこにある。

   大地は俺の両親を育み、天は俺が生まれることを許してくれた。

   それだけで、充分だと思える。世界を『呪う』理由なんて、俺には見当たらない」

僧侶「俺が、『呪う』とすれば。

   知ったような口ぶりで言う必要もないことをべらべら穿り返し

   何故そうしているのかもわからず八つ当たりのように破滅を振りまき

   愛してやまない世界の平和と安寧を乱すクソヤロウ。お前だけだ」

僧侶「自分が誰だかもわからなくなったボケ老人になんか、なりたくないね」




言い終えると、魔王を睨みつける。

魔王は再び表情を無くすと、ため息をひとつうち、

魔王「…下らん茶番だ。もう充分だ」

片腕を挙げると、その手のひらに凄まじい魔力が集中し、黒い球体が浮かび上がる。

僧侶「人選ミスだったようだね。もっと境遇から"呪われた"奴を探せばよかったんじゃない?」

魔王「…次はそうさせてもらおう。

   消し炭から、その『呪い』の残滓だけでも回収させてもらう」

もはや『選ばれし者』に関心も向けず、ただ作業的に、俺たちを消し去ろうとしている。

――暴れまわる『呪い』を飲み込むほど、激しい感情が体中に滾る。

球体は依然巨大化している。あれを食らえば、勇者とてひとたまりもないだろう。

――『選ばれし者』をまるで問題にしない力。圧倒的な暴力。

魔王「――消えるがいい」

――魔王。お前は、本当に。

魔王の手のひらから、死が放たれる。

経験したことのある時間の流れ。吹きすさぶ魔力が眼前に迫る。

――魔王。魔王よ。お前は。貴様は。てめぇは。おのれは。本当に全く心の底から狂おしいほど――




僧侶「 嫉 ま し い な 、お ま え 」



―――


魔力の塊が、ばくん、と音をたてて消え去る。

続けてこちらを縛ったのと同様に、這い出た『呪い』が魔王を締め上げる。

身体から噴出す瘴気が、その色を濃くする。

僧侶「全くもって嫉ましい。その力が。その態度が。その存在が。

   『選ばれし者』を屠れるその両腕が。剣を通さぬその皮膚が。溢れ出るような魔力が。   

   無抵抗に等しい人々を、殴り、蹴り、爪で裂き、剣で砕き、轢き殺し絞め殺し焼き殺し

   いじめてなぶっていたぶって地平に臓物をバラまき、呪い殺すことのできる暴力が。

   魔王、お前はその力を存分に振るってきたんだろう?好きなだけ振るってきたんだろう?
   実に実に羨ましィイイイよなぁああああああ魔王さんよォオオォオオオオオオオオ俺が散々独り
   で暗い道を進み罠に魔物に孤独に傷つき悶え苦しんでるのに弱い者虐めができていいよなァ虫け
   らにも等しい相手をぶちぶち潰すのは気持ちイイよなぁ。え?どうなんだ?どうだったよ」

吐き気がする。眩暈がする。手が震える。

だが沸騰するほど体温は上がり続け臓腑に溜め込んだ怨念が燃えさかる。


  「なぁ魔王。そんなお前はなんで俺に呪いを植えつけた?取るに足らない糞袋に?

   呪いの術式に必要な物はなんだ?血と魂。それだけじゃ足りない。

   呪う意思が無くてはならないだろう。怨み辛み妬み憎しみ相手を呪う、相手の全てを否定する殺意が。

   お前が欲しいのはそれだったんだろうが。血と魂なんざそこらの魔物でも人間でも殺せば手に入るものな」

  「なぁ魔王。お前の『呪い』と俺の『呪い』。どっちが強いと思う?

   一体何人殺して何人分の呪いを溜め込んだんだろうな。異常だよその力は。だが足りてない。

   世界を滅ぼすのが目的というのなら何故全て殺さない。理由はお前が呆けたからだ。自らの殺意を失った。

   当然だ。何度も赤の他人と融合し曖昧な状態で世界を呪うことなんてできるわけがない」

  「所詮借り物だ。血も魂も意思すら自分の物でない紛い物だ。その殺意で、俺が殺せるのか」

  「 試 し て み よ う じ ゃ な い か 。 な ぁ 、 魔 王 」

  「まずはその見下す眼が邪魔だ。なんだ綺麗な球形じゃないか嫉ましいな。そのよく廻る舌も

   邪魔だな取り去ろう。次は爪だ。何人の腹を裂いてきた?羨ましいことだ。面白いな抜いて

   も抜いても生えてくるんだな憎たらしい。それじゃあ次は両腕だ。凄まじい腕力だが関節を

   逆に廻してもその力は出せるのか?雑巾みたいに捻ったらどうだ?硬くてなかなか廻らんな

   その鱗が邪魔だ全て剥がしてやろう魔王でも皮膚の下はピンク色なんだな。これで捻れる。

   関節も増やしといてやろう。血の色も赤なんだな勉強になったよ。次は足だ。捻るだけでは

   芸が無いな。骨を取り出してやろう。はははなんだか滑稽だな。呻く声が煩いなその喉も切

   り取ろう。腹の中はどうなってるかな。なんだお前も中身は糞袋なんだな親近感が涌いてき

   たよ。総て糞なら掻き回しても問題あるまい。素晴らしい再生速度だなもう鱗が生えてきた

   のかもう一回剥がしてやろう何度でも何度でも何度でも。痛いか?苦しいか?そうだったら

   嬉しいことこの上ない。腕はどこまで廻るかな。首はどこまで廻るかな。足はなんだか見苦

   しいから取り払おう。また生えてきたな?何度でも毟ってやる。どうだ痛いか?辛いか?苦

   しいか?助かりたいか?安らぎが欲しいか?消えたいか?殺されたいか?死にたいか?死に

   たいよな?死にたいと言え。死を願え消滅を想え自分を呪え。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね
   ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
   死死死死ししししししねねねねねねね未来永劫。肉片一片すら髪の毛一本すら記憶からも。」

僧侶「死ね。唯死ね。赦すのはそれだけだ、魔王」

眼に見えぬ顎が一斉に魔王の身体を貪り喰らう。溢した血の一滴も床ごと抉り呑み込んでいく。

残った肉片に群がり、互いを喰らい合い、ただひたすらに貪欲に。魔王の全てを奪っていく。

遂には最後の一匹となり、自分自身を噛み砕き咀嚼すると、ごくり、と飲み込み顎が失せる。



――玉座の間に、静寂が戻った。

―――


ゆっくりと、大きく息を吐く。

全身から漏れ出ていた瘴気も今ではすっかり収まった。四人の息づかいだけが広間に聞こえる。

僧侶「やっと、終わったなぁ」

へんじがない。

心配になって見回すと、それぞれ戦いで傷ついてはいるが命に別状はなさそうだ。

僧侶「ほら、魔王を倒せたんだからさ、お城に報告に行こう!

   皆大喜びするぞー。国中あげての宴になるだろうしさ。よーしパパ七面鳥丸ごと食っちゃうぞ~なんて…」

へんじがない。きまずい。

僧侶「はぁ…。とりあえず帰るよ。転移の羽使うけどいいよね?」

返事がないのでさっさと準備をしてしまう。四人を囲うように円を描き、ちゃっちゃと詠唱を済ませる。

僧侶「はーい皆さん忘れ物はないですねー。飛びますよー」

貴重なアイテムだったが問題ないだろう。もう多分、使う機会なんかないし。

掲げた羽が消えると、周囲の景色がぼやけた。

―――【故郷の国・王城】―――


着いた場所は城の広間だった。警備に就いていた兵士がどよめいている。

よく知った顔ばかりだったが、現れ方が唐突すぎたのだろう。遠巻きにひそひそと話している。

どう説明したものかと悩んでいると、謁見の間に通じる階段からばたばたと国王が降りてきた。

国王「おお!勇者!よくぞ戻ってくれた!たった今再び神官が神託を授かってな、

   ――遂に、魔王が滅せられたと!」

勇者は殴られたほうが良いだろう
魔法使いへの扱いに対して
僧侶はバハラグのedのビュウみたいになるのがいいな

一瞬の静寂を挟んで、周囲のどよめきが歓声に変わる。

長きに渡る魔物との戦いが終わった。

勝ち取った平和と勝利に、誰もが顔をほころばせ、抱き合い、喜んでいる。

国王「勇者よ、良くぞ成し遂げた。成し遂げてくれた。

   …兵の一人もつけられずに旅に出してしまったことを、今でも深く恥じている。

   一国の主としてではなく、まずはこの国を愛する一人の人間として、礼を言わせてくれ。

   ありがとう。本当に…ありがとう…!」

兵士たちも兜を脱ぎ、一斉に頭を下げる。

勇者は、相変わらず"へんじがない"状態だ。

…あんまり黙らせたままだと不審がられそうなので、国王の前に割ってはいる。

僧侶「――あー、王様。ちょっといいですかね」

国王「む、どうしたのかね。なんでも申すがよいぞ」

僧侶「はぁ。実は我々も魔王との戦いを終えた直後に、転移の秘術でここまで帰ってきた次第でございまして。

   その戦いと長きに渡る旅の疲れから、今日のところは少々休ませて戴きたいのですが」

国王「むぅ…それもそうじゃな。魔王との戦いはさぞ熾烈を極めたことだろう。

   あい判った。今日は疲れた体をゆっくりと休ませるがいい。詳しい話は明日にしよう。

   ――おい、この英雄達のためにとっておきの部屋を用意せよ!くれぐれも不備の無いようにな!」

僧侶「や、疲れているんでお世話とかはいいですよ。部屋だけ貸してもらえれば――」

言い終わる前にどこからともなくメイドの大群があらわれる。

なす術もなく、歓声に沸く広間から各々の客室へと押し流されていく。

部屋に入ってからも、やれ喉は渇いていないか、やれ腹は減っていないかと代わる代わるメイドが出たり入ったりしていた。

今はいいから明日の朝まで放っておいてほしいと言って、よほどの事でない限り部屋に来ないでと念を押し、やっと落ち着く。

その夜は、夜中になっても騒がしいままだった。窓の外、城下町にも明かりが絶えることはなかった。

それでも、本当に久しぶりに。

ぐっすりと朝まで寝ることができた。

.

―――【翌朝・謁見の間】―――


翌朝。わざわざ部屋まで起こしにきてくれた大臣に急かされ、謁見の間に集まる。

広間に入ると、衛兵だけではなく大臣や街の有力者まで集まり、騒々しかった。

もう既に三人は集まっていた。おはようと挨拶をすると、目はあわせないまま返事だけは返してもらえた。

国王「さて、集まってくれたようじゃな」

国王が口を開くと、広間が水を打ったように静まり返る。

玉座の方へ向き直り、跪く。

国王「勇者、そして女戦士、女魔法使い、僧侶よ。

   国のため、ひいては世界のため、たった四人でよく頑張ってくれた。

   今一度、平和をもたらしてくれたことに、礼を言いたい。

   本当に、ありがとう」

盛大な拍手が巻き起こる。相変わらず三人は微妙な表情だが、昨日よりは落ち着いているようだ。

国王「あー、それでじゃな。褒賞を与える前に、少しだけ聞きたいことがあるんじゃ。

   …我々を長年苦しめてきた『魔王』が、一体なんだったのか。

   そして、その最期を。他ならぬお前たちの口から、聞いてみたいのじゃ」

再び静まり返る。勇者が口を開こうとするが、言いよどんでしまう。

女戦士、女魔法使いも、何かいいたげにしながら、勇者と自分を見比べている。

――この旅の、終わりか。

しっかりと、けじめをつけるべきなんだろう。



僧侶「王様」

視線が一斉に集まるのを感じた。

僧侶「僭越ながら、魔王についての調査は私が勇者より仰せつかっていました。

   魔王と、その最期を。私の口から報告させていただけないでしょうか」

国王「おお、そうであったか。では、僧侶に話してもらおう――良いかな、勇者」

覚悟を決めたような顔で、勇者が頷いた。

それからしばらく、魔王について解った事を報告する。

元は人間だったこと。ある滅びた国の住人らしいこと。多数の人間の呪いをその身に宿していたこと。

数々の人間と邪な方法で融合し、我を忘れこの世の全てを呪う存在となっていたこと。

この旅の調査で知りえたことを、全て話した。

国王「――そのようなことが…。魔物を統べる王が、元は人間だったとはな…」

神妙な顔つきで、国王が物思いにふける。

今まで人間とは全く異質の存在と考えていただけに、思うところがあるのだろう。

国王「ふむ、よく調べてくれた。感謝する。

   ――して、その最期はどのようなものだったのかね?」

勇者は、俯き口を閉ざしたままだ。少しだけ震えているように見えた。

深呼吸を一つ、二つ。大丈夫だ。

僧侶「……魔王との戦いは熾烈を極めました。数多の呪いを取り込んだことによる強大な力。

   常軌を逸した膂力。底知れぬ魔力。

   …『選ばれし者』の力を以ってしても、歯が立ちませんでした」

どよめく広間。用意した台詞を、一字一句。間違えないように。

僧侶「…しかし勇者は、決して諦めませんでした」


勇者の目が、こちらを見る。

僧侶「魔王に我々三人が打ちのめされ、一人で魔王と戦うことになっても」

勇者「…。」

僧侶「幾度となく魔王の絶望的な力に膝を付き、傷つこうとも」

勇者「……おい」

僧侶「不屈の闘志で立ち上がり、遂にはその剣で魔王を――」

言い終わる前に、立ち上がった勇者に胸倉を掴まれた。

なんだか前にも似たようなことがあったな、と思い出す。

勇者「…何のつもりだお前ッ…!そんなことッ、そんなことしてッ…俺が喜ぶとでも思って…」

僧侶「勇者」

静かな声で、しかしはっきりと。…これもなんだか、覚えがある。

しかし今度は、声を更にひそめて、勇者にだけ聞こえる音量で囁く。

僧侶「勇者。お前が、俺に少しでも悪いと思うなら。贖罪したいと思うのならば。

   お前はこのまま、この国の英雄となれ」

  「民に慕われ、国に敬われろ。その力で、未来永劫、この国を守るんだ。

   事実は胸に秘めたまま、英雄として生き抜き、死んでいけ」

勇者の目を、しっかりと見据える。

ここで僧侶には殴られる前に殴ってほしい


  「それが――



   ――俺からお前に吐き捨てる、最初で最期の『呪い』だ」

  「受けきってみせろ、勇者。お前ならできることは、もう知っている」

勇者が目を見開き、掴んでいた手から力が抜ける。

その手を丁寧に離してやると、国王に向き直り快活な調子で続ける。

僧侶「…失礼しました。実に厳しい戦いでして、僅差で勝利を収めたことを勇者は恥ずかしく思っているようです。

   しかし、今またその戦いの全てを話す許可を戴けましたので、続きをお話させていただきます」

勇者が緩慢な動作で姿勢を直すのを横目に見て、それ以降は三人の表情を見ることはなかった。

――憧れ続けた英雄譚を。その華麗な戦いぶりを。英雄の、まさしく理想像を。

朗々と、時々抑揚をつけながら。国を相手に、騙りきった。

.

―――【僧侶の自宅】―――


僧侶「よし、こんなとこだな」

片付け、物が無くなった部屋で一人呟く。

僧侶「思ったよりも楽に片付いたな。まぁ一人暮らしならこんなものか」

あれから一週間。まるで祭りのような喧騒に包まれていた街も日常へと戻り始め、早朝のこの時間はとても静かだ。

魔物の動向を探る調査隊の報告によると、国の周囲に魔物の姿は依然見受けられたものの、

従前の好戦的な様子は見られず、他の野生動物と同じような生態になっているらしい。

自分はというと、集合住宅の一室で旅の支度をしているところだ。

借りてすぐ旅にでることになったので、結局この部屋で過ごす時間は殆ど無かった。

―――回―――

国王「感動したッ!!素晴らしいッ!!

   勇者、そなたの名前は永久にこの国に刻まれ、その活躍はいつまでも語り継がれるだろう!!」

やたらにウケてしまった。国王は感動の涙と鼻水をたれながしている。

御付の人に鼻紙をもらい、まだ赤い目で話を続ける。

国王「…勇者よ。そなたには英雄として、これからもこの国を護るために力を貸してもらいたい。

   これからの世代を支える兵士にも、力を分けてもらいたいのじゃ」

つまりは兵士の指南役ということだろう。勇者の性格からして、結局は前線にでることになりそうだが。

勇者が頷いて答える。どうやら国王の方も勇者が感極まっていると勘違いしたらしく、うんうんと頷いていた。

国王「続いて女戦士。そなたの剣技もまた素晴らしいものだ。よって、剣術指南役に任命したい。

   女魔法使いも同様に、その見事な魔術で魔術指南役として、力を貸して欲しい。

   僧侶…は……ううむ」

頭を抱えてしまった。無理もない。女戦士にも女魔法使いにも実力が及ばない人材を、どう扱えばいいのか困るところだろう。

僧侶「王様。お願いがあるのですが、申し上げても?」

国王「お、おうそうじゃな。うむ、本人の意見を聞くことも大事じゃろうて」

ほっとしたような様子で言う。分不相応な身分を欲しがるのではと、大臣が訝しげにこちらを見ていた。

僧侶「実は、私は旅に出ようと思っています。

   今回の旅で、実に多くの人々と、様々な文化に触れてきました。

   その度に世界の広さを実感し、またより知ってみたいと思ってきたのです。

   魔王を倒した今。この世界を、今一度自分の目で見て周りたいのでございます」 

我ながらよく舌が回る。

僧侶「付け加えるならば。勇者、女戦士、女魔法使いがこの国を護るならば、何も心配することはありません。

   元より私は三人にくっついていった、言うなれば"ちゃっかり英雄"でございますので」

どっと笑いが巻き起こる。こちらもそこそこウケがよかったようだ。

国王「わっはははは…なるほど、なるほど。良くわかった。よろしい、旅に出ることを認めよう。

   出来る限りの援助を、約束しようぞ」

僧侶「ありがとうございます」

国王「…さて、堅苦しい話はここまでにしよう!

   今日はめでたい日じゃ!上も下もなく、一緒に喜び合おうではないか!

   皆、宴の準備じゃ!!」


一斉に歓声に包まれる。誰しもが笑顔で、これから訪れるであろう平和を喜んでいた。

長い戦いで傷ついた人々が、今ようやく心から笑うことができる。

そんな様子を、素直に嬉しく思った。

―――想―――


祝勝会は盛大に催され、帰ってきた翌日も城の客室にお世話になることになった。

宴の最中には勇者の両親にも会った。相変わらず豪快に笑い、もう背丈は同じくらいなのに頭を撫でられた。

わしわしと撫でられながら、しきりに勇者と共に旅をしたことを感謝された。

幼い頃の自分にひっぱられていた姿の印象が強いのだろう。僧侶になら任せられる、と思ったそうだ。

気弱な性格だった勇者を旅にだすことを、ずっと心配していたらしい。

苦笑いを浮かべながら、勇者はもう立派な大人になったとだけ伝えると、大きな手からそそくさと逃げ出した。

思わず、思い出し笑いを浮かべる。

…ニヤニヤが収まったところで、もう一度がらんとした部屋を見渡した。

両親が亡くなった時点で大部分は処分してしまっていたので、元から物は少なかった。

積み上げられていた本は大体読み終えていたので、街の図書館へ押し付けておいた。

食器も一人分だったので昔からの友人に譲った。彼は最近新しい家族が増えたらしかった。

唯一、部屋に残った両親の形見を手のひらにのせ、眺める。

一つずつ身に着けていた、銀の指輪。

神に仕える身だったので、それ以外に財産らしいものはなかった。

その繋がりのおかげで、街の教会に孤独の身を預かってもらえたのだが。

両親も世話になったという神父はやたら厳しかったが、自分一人の身を守れるくらいには鍛えられた。

僧侶「…あの封印の中に、持ち込まなくてよかったな」

旅にでるときに散々迷ったのだが、結局置いてきて正解だった。

少しくすんだ指輪を、指にはめる。



僧侶「さて、と」

まとめた荷物を背負う。

鞄から手紙を取り出し、目立つ場所に置いた。

一通は国王に向けて、こっそりと旅に出たことを詫びる文章。

残りは三人に向けて。他の人に見られてもいいように、あたりさわりの無い事を書いておいた。

――勇者のことは、心配ないだろう。

あいつは本当に、悪い奴ではない。

幼い頃こそ周囲から弱虫と呼ばれていたが、ここぞというときの芯の強さはそのときから持ち合わせていた。

そう遠くないうちに、自分でも納得できる"英雄"になれるだろう。

"選ばれなかった"俺が悩んだのと同様に、"選ばれてしまった"勇者にも、相応の悩みや苦しみがあったのだと思う。

女戦士は、きっとそんな勇者を支えていける。お互いに必要とし、支えあって生きていくに違いない。

唯一の気がかりは――

トントン、と。ドアをノックする音。

噂をすればなんとやら。気がかりが、空っぽになった部屋を訪ねてきた。

―――


僧侶「…開いてるよ、どうぞ」

しばらく待ってみたが、入ってくる様子がない。

僧侶「…?」

荷物を背負ったまま、ドアへと近づく。

  『あっ…ごめん、ドア越しにお話しても、いいかな?

   ちょっと、その。怖くって…』

なるほど。まぁ仕方がないか。ドア脇の壁にもたれかかる。

僧侶「ん。わかった」

  『…うん。ごめんね』

僧侶「…。」

  『……。』

僧侶「……。」

  『…今日、もう出発しちゃうんだって聞いてね』

どうやら友人伝いでバレたらしい。

僧侶「うん。もう荷物もまとまったし、出るところだった」

  『…あのね。その、ええと…。

   こんなこと言っても迷惑かもしれないけれど、私、本当は…』

そこで、言葉が切られる。

僧侶「…いくら思い出を否定したところで、俺は喜ばないよ」

  「勇者と愛し合った時間が全て嘘だったと?違うでしょ。

   あいつの態度が段々変わっていったみたいだけど、心が通じ合ったと思う時間もあったはずだ」

  「大体、そんなこと言い出すならなんで初めから――」

ガチャン、と音をたてて部屋の水がめが割れた。

ハッと我に返り、口から漏れ出している黒い瘴気を押し戻す。

僧侶「…ごめん、言いすぎた。それこそ言ってもしょうがないことだった」

  『…うっ、ううん。私が、悪いの…ごめんね』

声が震えている。

いかん、最後だっていうのにまた泣かせてしまった。

  『…何か、割れた音がしたけど大丈夫?』

僧侶「あーうん、空になった水がめが割れちゃったんだ。

   部屋の備品だから管理人が怒るかもしれないね。はは」

  『…。』

静寂。きっと、ドアの向こうでは声をころして涙を流しているんだろう。


僧侶「…。」

  『……。』

僧侶「……。」

  『…私が、旅について行きたいって言ったら、怒る?』

僧侶「…怒りはしないけど、連れてはいけないよ」

  『…。』

僧侶「…。」

  『…。』

あー。できるなら言わずに済ませておきたかったけど、言うしかないか。

――多分、今日ここに来てくれた時点で、もう選択肢は決まっていたんだろう。


僧侶「…旅に、出ようと思った理由なんだけどさ」

  『…。』

僧侶「もちろん、皆の前で話したことも嘘じゃないんだけど。

   実はまだ、あのときの『呪い』が体の中で燻っているんだ」

  『…!』

僧侶「今割れた水がめもそのせい。普段は抑え込んでいられるんだけど、

   ちょっとした感情の昂りで、所構わず破滅を振りまいてしまう」

  「最初は自害しようかと思ったんだけど、どの程度『呪い』が残ってるのかわからないし、

   多かれ少なかれ死んだ場所は呪われてしまうだろうから」

  「だから、この『呪い』を消し去る方法を探しに行く旅に、出ようと思うんだ」

  『…。』

僧侶「…それと、どうしてもこの国にいると…色々思い出す事が多いからね。

   せっかく平和になった故郷の国を、呪いたくないんだ」

  「同じ理由で、女魔法使いも連れていけない。ってわけ」

  『…。』

僧侶「…わかって、もらえたかな」

>>魔王「そこの女が惜しいのならば生かしておけばいい。言い寄られただけで体を許すような女だ。少々躾けてやればいい」

魔王さんの言ってた通りっすね
ビッチというよりメンタル弱すぎ魔法使い


  『…。』

僧侶「…。」

  『……』

  『…わっ、わだし、どうじだら、いいのがなぁ』

僧侶「…。」

  『僧侶くんの気持ちを…知りながらっ、助げもしないで、ただ見ているだげで』

  『魔王に、こ、殺されそうになったときも、助けてもらっだのに、怖くなっちゃっで、何も言えなくで』

  『ぞのぜいでっ…僧侶くんが大変な目にあってるのに、何も出来なくて、気付きもしないで』

  『僧侶くんのために、何かしてあげたいのに。…隣にも、いれないなんて』

僧侶「…。」

  『…ごめんね。嫌いな人に、こんなこと言われても、しょうがないよね…』

荷物を背負い直し、ドアの前に立つ。

僧侶「…それだけ言ってもらえれば、もう充分だよ」

  『でもっ…!』

僧侶「聞いて。女魔法使い」

深呼吸。

僧侶「あくまで結果論だけど、おかげで『選ばれし者』でも倒せなかった魔王を、消し去ることができた。

   どんな途中経過があったって、魔王が倒せて、平和を勝ち取れたんだから、俺は満足だよ」
  
  「それにね。…あーその、女魔法使いはちょっと勘違いしてるっていうか」

もう一回深呼吸。心臓がドキドキする。

  「もし、女魔法使いのことを好きじゃなかったら。俺はこんなに苦しんだりしなかったさ」

  「女魔法使いだったからこそ、っていうか…えーもう、なんていうか」

  「…女魔法使いのことは、今でも好きなまま、だよ」



は、恥ずかしい。もうバレバレの恋心だったのかもしれないが、直接言うのは初めてだ。

…ドア越しで、本当によかった。


僧侶「…でも、女魔法使いがそれじゃ納得できないっていうならさ。

   一つだけ、お願いしてもいいかな?」

  「この旅が、いつまで続くのかはわからない。

   魔物が大人しくなったとはいえ、途中で帰れなくなってしまうかもしれない。

   でも、女魔法使いが待っていてくれるなら。

   きっと、どんな状況でも頑張って、絶対に帰ってくるから」

ゆっくりと、ドアを開ける。

驚いたような顔。少し赤い、潤んだ瞳。

僧侶「そしたら、そのときはさ」

指から銀の指輪を一つ外し、女魔法使いに手渡す。

僧侶「そのときは、また一緒に生きていってくれないかな?

   …これは『呪い』なんかじゃなくって、『ヤクソク』にしたいな」

大きな瞳に、窓から射し込む朝日に煌く雫。でも。


女魔法使い「――うんっ!絶対に、いつまでも待ってるから!」

大好きな人が、大好きな笑顔で、そう言ってくれた。



僧侶「うし、そろそろ人目も増えてくるし、行かないと」

女魔法使い「うん…気をつけてね。

      もしこっちで協力できることがあったら、なんでも伝えてね」

僧侶「うん。女魔法使いも元気でね。

   それじゃ、勇者と女戦士のこともよろしく」

言って、歩き始める。

集合住宅の煤けた扉に手をかけたところで、今度こそ、はっきりと聞こえた。

女魔法使い「…待ってるから」

振り返るのが辛かったので、手を挙げて応える。

扉が、ゆっくりと背後で閉まった。

街の空気はひんやりとしていて、妙に朝日が眩しかった。

.

―――【街の入り口】―――


人気の少ない通りを抜けて、街の入り口まで歩く。

途中何人かに怪訝な顔で見られたが、咎められることはなかった。

街を囲む防壁をくぐりぬけようとすると、声をかけられる。

  『おおう、これはこれは英雄の僧侶殿。こんな時間に、どちらへ行かれるのですかな』

僧侶「…僧侶殿って、気持ち悪い呼び方しないでよおっちゃん。

   昔はいくらやめてって言ってもボウズって呼んでたくせに」

番兵「がっはっはっは。まぁそう言うな。

   魔王を倒して世界に平和をもたらした英雄、ってのは事実なんだから、胸はれや」

相変わらず調子がいい。物心ついたときから街の番兵をやっていて、小さい頃からよくちょっかいを出されていた。

番兵「んで、こんな時間にそんな荷物でどこ行こうってんだい、僧侶よ」

僧侶「どうもこうも、またながーい旅に出るだけだよ。

   ちゃっかり英雄はこっそり退散、ってね」

番兵「…ん、まぁ旅に出たいってのなら止めやしないがさ」

昔よりも肌の面積が多くなった頭をがりがりと掻きながら言う。

番兵「ちゃっかり英雄だろうがうっかり英雄だろうがなんでもいいが、あんまり自分を卑下するなよ。

   お前自身、あまり感じてないかもしれないが、お前の存在はあいつらの為になってるんだからさ」

僧侶「…だと、よかったんだけどね」

番兵「それにな。世界を滅ぼさんとする化け物に正面から戦いを挑んで、こうして無事に生きて帰ってこれたんだ。

   それだけでも、大したもんだよ。他の奴にできることじゃねえ。

   国を守ることしかできなかった俺たちにかわって、魔王をブン殴ってきてくれたんだ。

   今まで傷ついて死んでいったやつらだって、きっと報われた」

番兵「だから、そんなしょげた顔するんじゃねえ。世界を救ってやったんだって、堂々とすればいいんだよ」

…真正面から褒められるのは久しぶりだったので、なんだかすごく照れくさい。

けれども確実に、さっきよりも心が軽くなった。

案外、こういうことで『呪い』は消えていくのかもしれない。

僧侶「…うーん、さすが伊達に長生きしてないねおっちゃん。良い事言ってくれるじゃん」

番兵「だろう?だからもう少し敬え。んで王様に言ってもうちょいここの給料上げさせてくれ」

僧侶「あっはは、そういうのは勇者に言ってよ」

ごく自然に笑えた。

僧侶「うん、じゃあこっちからもちゃんとお礼をいっとかなきゃね」

姿勢を正し、深く頭を下げる。

僧侶「この国を、俺たちの故郷を、今まで護ってくれてありがとう。

   守ることしかできなかったなんて、とんでもない。

   おっちゃんみたいな人達がいてくれたから、俺たちは安心して旅にでることができた。

   おっちゃんみたいな人達が頑張ってくれたから、俺たちはまた帰ってくることができた。

   本当に、ありがとう」

番兵「…どういたしまして、ともいわねぇよ。当然のことをしたまでだ」

顔を見合わせると、お互いにニヤっとした。がっちりと、痛いほどに握手を交わす。

番兵「それじゃあ、いってこい。達者で暮らせよクソボウズ。

   この国のことなら俺らや勇者にまかせとけ」

僧侶「そりゃー心強いや。せいぜい酒呑み過ぎないようにして、しぶとく生きてくれよ」

軽口を叩き合ったところで、街の外へと歩き出した。




少し歩き、畑に差し掛かったあたりで、後ろから叫ぶ声がする。

  『――寂しくなったらー!!いつでも帰ってこいよーー!!』

振り返り、両手を振りながら叫び返す。

僧侶「――イヤだっていってもー!!帰ってきてやるから安心しなーー!!」

もう遠くて表情は見えないが、きっと向こうも笑顔だったに違いない。

昇った太陽に照らされる麦畑。雲ひとつ無い晴れ空は、なかなかの冒険日和だった。

思っていたよりも早く、この国に帰ってこれる気がした。



僧侶「まぁ、時間はあるんだし、気楽にやりますかね」

いやー僧侶凄いな
へべれけになって酒びん突っ込んだ姿を見たのにまだ好きで入れるのか
ここは普通に別れるだけでよかったと思うけどな

まあこの魔法使いなら僧侶が帰ってきたら他の男とくっついて子供も作ってそうだけど
でもこの僧侶は「まあしょうがないか」ですませそう

以上です。拙い文章ですが読んでいただいてありがとうございました。

メモ帳にずっと書いてたんですが、投稿するとズレるんですね・・・
名前欄とかのことも考えてなかったので次回投稿するときはもっと読みやすいようにします

感想などもらえたら嬉しいです。こんな時間まで見ていただいてありがとうございました。

>>188
その場合は定番の僧侶が魔王になるendってことで・・・

面白かった

勇者:dqn
僧侶:お人好しすぎ
魔法使い:メンヘラ
戦士:空気
番兵:ヒロイン

個人的には僧侶と魔法使いは指輪とか渡さずあれで最後の別れにして欲しかったな
んで魔法使いはシスターかなにかになって一生独身とか
それぐらいしないと魔法使いに都合が良いというかなんというか

あと勇者はもうちっと痛い目みてよかったんじゃね?
僧侶にマウントで殴られまくるとかさ
戦士は空気過ぎてまあどうでもいいや


最後まで前向きに生きてる僧侶がかっこ良かった
諦めてるか変に悟ってるだけかもしれんけど

>>189
乙、面白かった。
寝取られとか苦手だけど読まずにはいられない性質なのでキツかったけどな!
ちなみに、勇者視点の話とか書いたりしますか?

途中勇者とか色々イライラしたけど面白かった
僧侶以外もっと痛い目みてほしかったけど

また違うやつも読みたいしこれからも頑張ってくれ

どっちかつーと僧侶は俗世を捨て仙人みたいになってまあ一人身で人生を謳歌して
バハラグのビュウみたいな

他の3人は心にもやもやを抱えたまんま幸せにも不幸にならずに生きていく
みたいなendが理想

>>191
投稿してくれてる間もずっとレスしてくれてありがとうございます
最後にそれぞれがそれなりに報われる感じにしたので怒られるんじゃないかとドキドキしてましたw

勇者は根はいい人だけど調子乗ってるってイメージだったので
罰を与えずひたすら罪の意識をおっかぶせる感じにしました。
でも確かに魔王に腕一本ちぎらせるくらいはしてもよかったかもしれないですw

良かったよー
最後の綺麗さは個人的に凄い好きだった
告白の部分とか
変化球ばっかの冨樫がたまに王道展開やった時のカタルシスみたいな

ただ勇者の鼻の骨はへし折りたい

お前ら勇者フルボッコだなwwwww

>>191
勇者:dqn(元が弱虫、僧侶両親の犠牲+分不相応な力を持ってしまったのが不幸の始まり)
僧侶:お人好しすぎ(魔王3人への鬱憤のとばっちりで惨殺ワロタwwwwwwwあとヘタレ)
魔法使い:メンヘラ(折れるの早過ぎwwwwせめて僧侶に行けよバカwwww股ぐら酒ビンとか笑っちまうわwwww)
戦士:空気(こいつもメンタル弱い、つーかこのパーティ全員メンタル弱いwwww両親が死んだのはこいつにダメージ有り)
番兵:ヒロイン(申し訳ないがホモはng)

>>196
あーそれもあるけど
勇者が後悔・反省してるって感じがしないのもイライラする所かも
最後の態度もただ悪事が親にばれた時のバツの悪いガキみたいな感じと言うか
まあこの辺は僧侶もずっと泣き虫呼ばわりしてたからアレだけど
魔法使いですら僧侶に謝ったんだから
勇者も僧侶と魔法使い(酒びんの件)について焼き土下座くらいしてほしい

あと戦士が空気だったけど
勇者視点を描くなら勇者をめぐる魔法使いと戦士の確執とか書くと
戦士のキャラも立つかも

>>192 多分賢者に転職できますね
>>193 自分も嫌いなのに何故か見ちゃいます スイカに塩的な何かですかね
この話はここで終わりってことで、続きとかは考えてないです
>>194 ありがとうございます。これからも頑張ります!
>>195 バハムートラグーンはよく名前は耳にするんですがプレイしたことがありません
今度中古屋にいったら探してみます
>>197 同じくへし折りたいです

>>198 魔王には完全に八つ当たりですねw
>>199 確かに女戦士はもっと頑張らせるべきでしたね
イメージはヤンデレキャラだったんですが何も描けず結局空気でした

>>200
まあプレイするもプレイ動画見るも
一回ぐらいはシナリオ見といても損はないと思う
色んな意味で
正直ヨヨと悪女度でタメ張れるのはエロゲーの下級生2のたまきん位だと思う
スクウェアのrpgのヒロインなのに・・・

フヒヒヒヒ、作者さんはスピンオフを書く予定が無いそうなので、勇者を擁護するネタを探して良いっすかね?wwww
俺も胸糞悪い事この上ないが、ほら『可愛そうな勇者くん』だとダメージが軽減するじゃん?
寝盗られとか寝盗られとかで受けた、メンタル弱い俺のガラスのハートがブレイクしたダメージがwwww

>>202 見たいような怖いようなですね・・・

ではそろそろ失礼します。
思ってたより沢山の感想が貰えて嬉しかったです。
これからも頑張ってかいてみたいと思います。
みなさん良い平日をお過ごしください。

>>204 よくわからないけど面白そうなのでお願いします。
あとダメージはごめんなさい。自分もntrは苦手です。

今度こそ失礼します。
みなさん良い平日をお過ごしください。

そういえば勇者たちって僧侶が封印されて後、拠点の魔物を倒したのに
僧侶の安否を確認せずに森の中でセクロスしてたんだよな
いくら僧侶が「そのまま先に進んでくれ」って言ってたから
この仕打ちはねぇな
やっぱこの勇者は良い奴とは思えない

やっぱ勇者には許しを請いながらの土下座シーンと殴られるシーンが欲しいな

あと読みなおすとやっぱり魔法使いは駄目だ
メンタルがメンヘラビッチだ
酒びんから最後のエンディングとかさ
「本命に捨てられたからキープ君に鞍替えしよう、泣き落としと「本当はあなたの事」とか言えばいいだろ」
って感じがしてきた
ネット上で欲見る「浮気がばれて必死に言い訳する女」に似てる所もあるし

やっぱ僧侶の心をいやせるのは番兵のおっちゃんくらいしかいないだろ(notホモ的な意味で

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