男「記憶喪失の捨て娘を拾った」 (162)
男「...何かいる」
捨て娘「...」
男(ここは人が滅多に出入りしない裏山だ)
男(俺はここに良く来るが誰とも会った事はない)
男(はずなのだが汚れた衣服で明らかに普通じゃない雰囲気の娘がいる)
男「...おいお前」
捨て娘「...?」
男「いやお前だって。ここに俺以外お前しかいないだろ」
捨て娘「...どうしたの?」
男「どうしたのじゃないだろ。何でこんな所に居るんだよ。しかもそんな汚れた服着て」
捨て娘「どうして?...ん、分からない」
男「はあ?どういう事だよ...お前誰だ?名前は?」
捨て娘「私...私の名前...名前...」
捨て娘「思い出せない」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453145566
男(色々聞いてみたが...つまりなんだ)
男「記憶喪失...か」
男(こんな山奥に汚れた記憶喪失の娘が一人で居るなんて普通じゃないよな...)
男(迷子...って訳でもなさそうだし、ここでサヨナラして死なれでもしたら流石の俺も気分が悪いってもんだ)
男「んー...あれだ、お前」
捨て娘「?」
男「とりあえず一緒に来るか?」
捨て娘「良く分からないけど...いいの?」
男「ああ。訳ありみたいだしな。こんな所に居てもおかしくなるだろ」
捨て娘「ん...ありがとう。何も思い出せなくて不安だったの」
男「まあ普通そうだろうな...んじゃ長居は無用だ。帰るぞ」
~男の家~
男「まずお前の話を聞いてみて、恐らくだがお前の現状を伝えよう」
捨て娘「ん...」
男「多分お前は記憶喪失ってやつだ。記憶がすっぽりと無くなるやつ、分かるか?」
捨て娘「うん...何も思い出せないから間違い無いと思う」
男「お前はどこから来たか...についてだが、これに関しては全く分からない」
男「何らかの理由があって記憶喪失になったお前はあそこに居た。これくらいだ」
捨て娘「...」
捨て娘「私...どうなるの?」
男「どうなるの...か」
男(こんな面倒くさそうな事、普段の俺なら絶対に首を突っ込まないだろう)
男(警察にでも出せば俺の仕事は終わり。後は勝手に解決してくれるはずだ)
男(だが...こいつの目を見て、俺は...)
男「俺に任せろ」
男(どうにかしなきゃ、って思った)
申し遅れましたがスレ立ては初です
オリジナルのつもりですが似た内容のものが既にあったらごめんなさい
時間をかけてゆっくり完成させていくつもりなので、もしよろしければ見てくださると嬉しいです
捨て娘「...おいしい」
男「おう、そうか。昨日の残りものだけどな」
男「腹減ってそうだったし、まずは食っとけ」
捨て娘「ありがとう。でも料理出来るの?」
男「料理出来ちゃ悪いか?」
捨て娘「ううん...何か家事とか出来なそうな見た目してるから」
男「あ?お前仮にも恩人にそういう事言うのかよ...俺はこう見えても一人暮らし歴が長いんだよ」
男「悔しい事に家事出来なそうな見た目ってのは否定できないけどな」
捨て娘「...ふふふ」
男「ん、お前笑えるんだな」
男「お前が笑ってるの初めて見たぞ」
捨て娘「ん...」
男「でも笑えるってのは良い事だ。笑ってればいつか何とかなるもんだ」
捨て娘「...うん」
男「正直な話、お前の状態を見て普通じゃないって事だけは分かる」
男「もしかしたらお前の過去ってのは、お前にとって辛いものかもしれない」
男「それでもお前、以前の事思い出したいか?」
捨て娘「...うん。それでも私は前の私を知りたい」
捨て娘「どんな所で、何をしてたか、どうしてこうなったのか知りたい」
男「そうか、分かった。それだけ言えれば十分だ」
男「俺も出来る限りの範囲で手助けをする」
捨て娘「...ありがとう」
捨て娘「見ず知らずの人にそこまでしてくれるなんて、あなた優しいのね」
男「優しい...か」
男「だってお前は...」ボソッ
捨て娘「ん?良く聞こえなかった」
男「...何でもねーよ。俺は優しいんだ」
男(お前は、どこか俺に似ているから)
男「そうだ、名前」
捨て娘「名前?」
男「そうだ。いつまでもお前じゃ少しあれだろ」
男「だから思い出すまでお前に名前が欲しいなって思って」
捨て娘「名前...」
男「何か良いのあるか?」
捨て娘「分からない...」
男「まあ普通そうだよな...そうだな」
男「じゃあお前の名前は今日から『娘』だ。良いか?」
捨て娘「...」
男「ん?不満か?他のがいいか?」
捨て娘「ううん。それがいい。ありがとう」
娘「娘...ふふふ...娘」
男「良く分からん奴だな...まあ良いなら今度からそう呼ぶよ」
娘「うん、ありがとう」
男「俺の事は男で良い」
娘「うん、わかった」
初めてレス頂けてとても嬉しいです...
男(娘が風呂に入ってる間に少し記憶喪失について調べてみるか...)
カタカタカタカタ
男「過度な苦痛によって自己防衛的に過去の記憶を一時的に忘れている可能性がある...か」
男(あんな所に迷子で行くはずが無いし、それなら記憶喪失もするはずがない)
男「捨てられた...んだよな...今時こんな事あるもんなんだな」
ガラッ
娘「さっぱりした...」
男「お、上がったか。どうだった?」
娘「とっても良かった。前の私もお風呂好きだったのかな」
男「良かったならそうなのかもな」
娘「前の事、思い出せるかな」
男「...」
男「ああ、きっと思い出せる。諦めるなよ」
娘「今の私にはこれしかないもの。簡単には諦めない」
男「良い心掛けだ」
男「あ、シャンプーの使い方とかは覚えてたのか?」
娘「うん、前に何があったかだけ忘れてるだけで日常的な事は覚えてるみたい」
男「なら良かったな。生活には困らなそうだ」
男(過度の苦痛の原因となる周辺の記憶だけ抜け落ちてるのか)
実は序盤は書き溜め、ストーリー等は既に決めてたりするので後は書いていきます
設定に難ありだったりするかもしれませんがそれでも良ければ見てくれると嬉しいです
男「今日はこの布団で寝ろ。あんま良いやつじゃないけど我慢してくれ」
娘「男はどこで寝るの?」
男「ん、俺は適当にその辺の床で寝るから気にするな」
娘「良いよ私がそっちで寝るから男が布団使って
男「どこに客人を床に寝かせる家主が居るんだよ。良いから今日は甘えて布団使ってくれ」
娘「...一緒に寝る?」
男「お前急に凄い事言うな...」
娘「ふふ、冗談よ」
男「はいはい分かったから早く寝ろ」
娘「うん、おやすみなさい」
男「おう」
~翌日~
男「色々考えたが今日は買い物に行くぞ」
娘「買い物?」
男「ああ、買い物だ。服とか無いと困るだろ」
娘「でも私お金が...」
男「そんな事は分かる。流石に出してやるから行くぞ」
娘「そこまでは悪いよ...お世話なってばっかりだし」
男「手助けするって言っただろ。自分の発言には責任を持つタイプなんだよ」
男「いや、言い方が悪いな...」
男「俺がしたいからそうする。お前は俺に悪いと思ってるなら俺の為にお世話になってくれ」
娘「...ふふ、やっぱり男は変わってるね」
男「今日は悪いが俺のトレーナーとかで我慢してくれ」
娘「うん、ありがとう。いつかちゃんと全部お礼はするから」
男「分かった分かった、いつかな」
~店~
娘「わあ...すごいいっぱいある...」
男「適当に好きなの選べよ」
娘「ねえねえ男、どれが良いと思う?」
男「ん?さあどうだろうな」
娘「...興味なさそう」
男「興味無いっていうか...良く分からないんだよ女物の服とか...」
娘「...」
娘「男!」
男「んお、なんだよ、だから俺に聞かれても分からな...」
娘「これとこれどっちが私に似合うと思う?」
男「...そうだな、こっちかな」
娘「うん、じゃあこっちにするね」
男「俺に判断を委ねて良いのか...」
娘「良いの良いの、じゃあお願いします」
男「ふう色々買ったな」
娘「うん、疲れた」
男「晩飯はどうする?外食で済ますか?」
娘「うーん...」
娘「いや、家で食べたい」
男「ほう意外だな。外食してみたいとか言うと思ったが」
娘「昨日の、おいしかったから」
男「外食すればあんなんよりもっとうまいものあるぞ...」
娘「いいの、家で食べよう。だめ?」
男「いやお前が良いならそれで良いけどよ。安く済むし」
男「あ、でももう残ってないな。材料買って帰るか」
娘「うん、分かった」
男「色んなものがもう売り切れてたから今日はオムライスにする」
娘「...作るの見てて良い?」
男「ああ、そんぐらい自由にしろ。自信はあんま無いけどな」
調理中...
娘「ねえ、今度これ私が作ってみてもいいかな」
男「ん?ああ、やってみるか?」
娘「うん、その時は色々レクチャーお願い」
男「おう。よし出来たし食うか」
外に出るので続きはまた夜ぐらいにゆっくり書きます
娘「うん、やっぱりおいしい」
男「それは良かった」
娘「何か、こうやって家でご飯食べるの凄く楽しい」
男「そうか?何もないし良い料理って訳でもないが」
娘「ううん、そういう所は関係ないの」
男「ふーん、でもそう思ってもらえるなら悪い気はしないな」
娘「ふふ...やっぱりご飯は家にして良かった」
男「まあたまにはって事で今度行きたくなったら外食いくか」
娘「その時はお願いね」
~数日後~
男(娘と暮らしてから数日が経つ...が)
男(一人暮らしの俺じゃ娘に自由な事をさせるにも限界がある)
男(記憶を取り戻すには脳に様々な刺激が必要らしいから色んな所に連れて行ってやりたいが)
男(生活の事も考えると俺には少し厳しい)
男(これじゃ娘の為にも良くない)
男(正直、娘との生活は楽しい。前までの一人暮らしとは違う)
男(だがそれは俺の自己満足で終わってしまう)
男(辛い...がここは娘の事を思うなら決断の時...だよな)
prrr....
男「ああ、叔父さんか?大事な話があるんだけど時間貰えるかな?」
男「娘」
娘「なに?今日のご飯の事?」
男「お前本当にご飯好きだな...いや、そうじゃない。大事な話だ」
娘「...?どうしたの?」
男「単刀直入に言う。お前は今度から俺の親戚の叔父さんの所で暮らすんだ」
娘「え...」
男「俺じゃ娘の記憶の為に色んな体験をさせてやれない」
男「だからもっと娘が望む事が出来る家に行くんだ」
男「俺の力が足りないせいなんだ、すまない。お前の為に悩んでした決断だ」
娘「!」ズキッ
娘(うっ...頭が痛む...何だろうこれ...)
娘(...でもそうだよね。何も知らないやつの為にここまでしてくれた方が凄いよね)
娘(やっぱり私は男の枷になっちゃってたのかな...)
娘(男にこれ以上迷惑はかけたくない...辛いけど...)
娘「...うん、わかったよ」
~後日~
男「じゃあ、という訳でお願いします」
叔父「ああ、娘さんの事は任せなさい」
娘「...」
男「いいか娘、叔父さんにはちゃんと説明したから、したい事は叔父さんに相談するんだぞ」
娘「...うん」
娘「叔父さん...よろしくお願いします」
叔父「そんなかしこまらんで良いよ。気軽に生活しなさい」
男「娘最近あんま元気ないみたいなんで、色んな所に連れて行ってやってください」ヒソッ
叔父「大丈夫、分かってるよ。男も一人暮らし頑張って」
男「ああ、ありがとう」
男「じゃあ俺はこれで」
娘「...」
男「...娘!」
娘「...どうしたの?」
男「また来るからな」
娘「!」
娘「うん、またね男」
~数日後~
男「腹減ったな。飯にするか」
男「おーい娘、今日の晩飯は何に...」
男「...またやっちまった、娘は居ないのに」
男「...」
男「明日、会いに行ってみるか」
~翌日~
男「叔父さーん、こんちはー」
叔父「おお男、よく来たね」
男「娘いる?」
叔父「ああ勿論。上がりなさい」
男「お邪魔します」
娘「!」
男「よう娘、元気にしてたか?」
娘「...遅い」
男「え?」
娘「遅い!また来るって言ってたのに!」
男「いやだからまた来た訳で...」
娘「次の日来ると思ってたのに!」
男「おおこれはご乱心だ。悪いな」
娘「...ばか」
男「でも病気とかはしてないみたいで良かったよ。一回叔父さんに挨拶してくるな」
娘「うん」
男「娘はどうだった?」
叔父「遊べそうな所とか色々連れていってはみたんだけどね、どうもあまり楽しくなさそうなんだ」
男「楽しくなさそう?」
叔父「ああ、笑ってはくれるんだけども上の空というか」
男「前は近所のスーパーに買い物行くだけであんなに楽しそうだったのに」
叔父「ははは、それはそういう事か」
叔父「どうする?連れて帰るかね?」
男「え...それじゃ叔父さんに預けた意味が...」
叔父「そうか。一緒にご飯でも食べていくかい?」
男「ああ、そうしたいのは山々なんだが、近所のスーパーがもう閉じるんだ」
男「だから今日はこの辺で行くことにするよ」
叔父「そうかい。もう一度娘に挨拶していくんだよ」
男「勿論」
男「娘ー、俺は帰るぞー」
娘「...」
男「何だ、寂しいのか?」
娘「...少し」
男「っと...何だいつもみたいに冗談で返すと思ったのに、調子狂うな...」
娘「だって...」
男「大丈夫だ。またすぐ来るからな。元気にしてろよ」
男「じゃあな...っと」
娘「...」ガシッ
男「おいおいどうした服なんか掴んで。そんなに帰ってほしくな...」
娘「もう...行っちゃうの...?」
娘「もう少しくらい...」
男「!」
男(ああそうか...)
男(今の娘には俺しか居ないんだな――)
男(何も覚えてない、本当に不安な状態で知ってる人間は俺だけ)
男(なのに急にまた知らない人間の所に送られて、娘は...)
男「...娘、一緒に晩御飯食べるか?」
娘「えっ?まだ居れるの?」
男「いや、もう帰るさ」
娘「帰るんじゃん...」
男「叔父さーん、ホントに勝手で申し訳無いんだけどさ」
男「娘、連れて帰っても良いかな?」
娘「!」
叔父「ははは、やっぱり連れて行くかい。うん、それが良いよ」
男「ありがとう叔父さん」
娘「えっ、えっ...」
男「って事だけど...娘、良いか?」
娘「良いの?私また男の邪魔になっちゃうんじゃ...」
男「アホか。自分から連れてきて邪魔な訳ないだろ。」
男「あーなんだ...娘、悪かった」
娘「え...」
男「記憶無くして、俺しか知ってるやつ居ないのに急に叔父さんに預けられたら不安で仕方無かったよな」
男「勿論叔父さんには感謝してる。けど少し俺の気遣いも足りなかった」
男「後、あれだ...お前との生活も楽しかったしよ...」
娘「男...」
男「だからよ、一緒に来てくれないか?」
娘「...ふふふ」
男「なんだよ」
娘「ふふ、なんだかプロポーズみたいなんだけど?」
男「つっ...バカ、ちげーよ」
娘「ふつつかものですが、どうか宜しくお願いします」
男「...ぷっ」
娘「何か面白いね」
男「ああ全くだ」
男「じゃあ帰るぞ、娘」
娘「うん!」
男「じゃあ叔父さん、色々お世話になったよ」
娘「お世話になりました」
叔父「ははは、少し寂しくなるね。また来なさい」
娘「うん、ありがとう」
男「次は皆で出かけようか」
叔父「そうだね。じゃあ気を付けて帰りなさい」
男「うむ。失礼します」
娘「今夜の晩御飯は何?あなた?」
男「ぶっ...お前からかうのやめろや...」
娘「ふふ、冗談冗談」
男「...最近の事なのに懐かしいなこれも」
娘「そうだね」
男「じゃあ、晩飯は何が良いか?」
娘「そうだな...」
娘「オムライスかな」
娘「今日は私が作ってみたいな」
男「お、そうか。作り方教えるからやってみるか」
娘「うん、頑張る」
男「次にそれを混ぜて...」
娘「こんくらいかな...」
男「んで焼いて被せる...」
娘「ん...うんしょ、こんな感じ?」
男「娘本当に料理初めてか?めっちゃ上手いじゃんか...」
娘「そう?本当に初めてかは分からないけど...でも上手く出来てるなら良かった」
男「前は料理とかもやってたのかもな」
娘「身体が覚えてるっていう事かな」
男「そうだな」
娘「また一つ前の事知れたみたいで嬉しいかも」
男「こうやって色々な事やってればいつか思う出すかもな」
娘「うん。じゃあ食べよっか」
娘「どう?おいしく出来てるかな...」
男「ん、おお、うまいな。俺よりうまいんじゃないか?」
娘「そんな...レクチャーのお陰かな」
娘「でも嬉しいな」
男「これはまたお願いする事になりそうだ」
娘「やっぱりこの家で男とご飯食べるのが一番落ち着くな」
男「おう、そうか。これからはいくらでも食えるぞ」
娘「うん、晩御飯担当になろうかな」
男「俺は叔父さんみたいに色んな事させてやれないかもしれないけどよ」
男「一緒暮らして少しずつ思い出して...それでも良いよな?」
娘「勿論。それが一番いいな」
男「じゃあ改めて」
男・娘「これからもよろしくお願いします」
区切りも良いので今日はこの辺で
スローペースでごめんなさい
続きはまた夜にのんびり書きます
思いの外この二日間忙しく続きを書くことが出来ませんでした
まだ見てくれてる人は居るか分かりませんが今日の夜からまたゆっくりと再会していきます
?「...しろ...!」
男「っつ...」
男「はぁ...」
男「夢か...」
娘「男ー!起きろ朝だぞー」
男「...ああ。っぐ」
娘「...?男?どうしたの?」
男「久しぶりだから多分なんだが...」
男「風邪を引いた」
娘「え...」
男「ああ、気にすんな。大したことじゃ...」
男「ぐっ...」フラッ
娘「男!」
男「結構、あれだな...」
娘「今日は寝てて。私が家の事はやるから」
男「そういうわけにも...」
男「ぐ...すまん今日はそうさせてもらう...」
娘「家の事は任せて。早く良くなって男」
男「ああ、すまん」
娘「熱があるね...はい薬」
男「ああ、さんきゅ」
娘「飲んだら寝ててね」
男「おう、そうする」
娘「寝れたみたい...」
娘「...ふふ、寝顔なんて見る事無いけど可愛いじゃない」
男「うう...」
娘「うなされはじめた...悪い夢でも見てるのかな...」
男「やめろ...親父...」
娘「親父...?」
娘「そういえばご両親はどうしてるんだろ...一人暮らしっては言ってるけど...」
娘「今度、聞いてみようかな」
~数日後~
男「良い朝だ...」
娘「昨日まで苦しんでたのに治った途端調子が良い...」
男「おう、娘のお陰だ。ありがとな」
娘「...ま、まあそれくらい当然だよ」
娘「でも元気になって良かった」
男「久しぶりに健康な朝飯といくか」
娘「うん、そうしよう」
男「やっぱり朝の目玉焼きはうまいな」
娘「そうだね、何で目玉焼きは朝が美味しいんだろう」
男「確かに...飯って朝昼晩で似合うやつが大体決まってるよな」
娘「日本人の習慣みたいな?」
男「分からん、けどそうなのかな」
娘「そういえば男」
男「ん、なんだ」
娘「男のご両親って何してるの?」
男「...」ピクッ
男「...ん、ああ。そうだな...」
男「...今は凄い遠くに居るんだ」
娘「ん、そうなんだ。今度会ってみたいな」
男「...それは難しいかもな」
娘「ん、そんなに遠いの?」
男「そんなに俺だけじゃ不満か?」
娘「そ、そういう事じゃなくて!」
男「あーあ悲しいなあ、娘からそんな風に思われてたのかあ」
娘「またそうやってからかう!」
男「はは、すまんすまん」
男「...」
男「今日はちょっと用事があるから夜まで好きにしててくれ」
娘「うん、わかった。晩御飯は?」
男「家で食うよ」
娘「分かった、簡単なのだけ準備しておくね。」
男「お、ありがとな。他は一緒に作るか」
娘「うん、そうしよう。じゃあいってらっしゃい」
男「おう、じゃあな」
娘「夜まで自由とは言ったものの...」
娘「何をしよう...買い物とかは男が居ないとつまんないし」
娘「そもそも少しくれてるとは言ってもお金使うの申し訳ないし...」
娘「うーん...あ、そうだ」
娘「久しぶりに叔父さんに挨拶にいこうかな」
娘「叔父さん、こんにちはー」
叔父「おお、娘さんじゃないか。いらっしゃい」
娘「今日は男が出掛けるらしいから、叔父さんの所に遊びに来たの」
叔父「そうかそうか。私の事覚えててもらってるようで嬉しいよ」
娘「覚えてるなんて当たり前じゃない。むしろ最近来てなくてごめんね」
叔父「ほほ、それほど男との生活が楽しいって事だろうね」
娘「楽しいけど、叔父さんの所で暮らすのも楽しかったから」
叔父「ありがとう。前より元気になってて安心したよ」
娘「そうかな。あ、そうだ叔父さん」
叔父「ん、どうしたんだい」
娘「男のご両親、遠くに居るって聞いたけど何してるの?会ってみたい」
叔父「...」
叔父「ふむ、そうだな...」
叔父「男からしたら余計な事を言う事になるかもしれないけどね」
叔父「男はね」
叔父「数年前に両親を亡くしてるんだよ───」
生活の合間に完成させようとしていた話でしたが、急遽2週間程忙しくなり放置してました
自己満足ですが必ず完結させるつもりです
長い期間の放置申し訳ありませんでした
娘「え...」
叔父「だから、どうしても娘さんに両親を会わせる事は出来ないんだよ」
娘「...何があったの?」
叔父「何故そんなに気になるんだい?」
娘(何故...?何でだろう...何でこんなに気になるんだろう)
娘(でもきっとそれは...)
娘「...男の事...だからかな」
娘「男は事情も知らない私の事を助けてくれて、こんなに楽しい生活をくれたの」
娘「私の苦しみを一緒に背負ってくれて、一緒に解決しようとしてくれてる」
娘「だから、私はもっと男の事を知りたい」
娘「知って、男にも何か苦しみが何かあるなら一緒に背負いたい」
娘「...沢山喋っちゃったけど、多分これが私が気になる理由かな」
叔父「...ほほ、うん、そうだな」
叔父「娘さんには私から話しておこうかな」
叔父「男の父親は昔からすぐ手が出る男で...所謂DVってやつかな」
叔父「何かあるたびに酒、そして暴力の繰り返しだったんだ」
叔父「でも男の母親が男の支えとなって一緒に耐えていたんだ」
叔父「それでも男は母親と一緒の時は笑顔を良く見せたよ」
叔父「でも男が幼い時...母親は重い病気を患ってしまってね...もう先は長くないと言われていたんだ」
叔父「恐らく原因は父親からのストレスが大きかったんだろうね」
叔父「男も直感的にそれは理解してたはずだ」
叔父「けれど普段は苦しそうにしながらも、母親は男と一緒に笑っていたよ」
叔父「二人で一緒だったから父親からの暴力も耐える事が出来ていたんだろうね」
叔父「でも、ある日不幸は起きた」
叔父「ついに母親の病気が悪化した」
叔父「医者も手を尽くしてくれたんだけどね、男の前で母親は息を引き取ったんだ」
叔父「しかし、父親は母親の最期にも立ち会わなかった」
叔父「その頃からかな、男の目から魂が抜けたような事になったのは」
叔父「心のどこかで父親が『まだ父親である』という事を信じていたんだろうね」
叔父「だが、それも裏切られてしまった」
叔父「...あれから、男は大人を嫌うようになった」
叔父「家の事も全部自分でやるようになった。父親がやってくれないってのもあっただろうがね」
叔父「家の事だけじゃない。病気になった時や散髪の時とかも大人の手を借りずにやっていた」
叔父「私も手伝おうとしたんだがね。ハハハ、冷たくあしらわられてしまったよ」
叔父「とにかく大人の手を借りたくなかったんだろうね」
叔父「初めて娘さんと会った時もどこかそっけない男だったと思うけどね」
叔父「母親が生きているまでは本当に優しくて元気な子だったんだよ」
叔父「そうして過ごす日々...しかしある日悲劇が起きた」
叔父「いつも通り父親は男に酒から来る感情をぶつけていた」
叔父「男は辛いながらも耐えて家の事をこなしていた」
叔父「しかし、父親の一言が男の怒りを爆発させてしまったんだ」
叔父「『お前、いつも鬱陶しいんだよ。あのクソ女と一緒だな』...ってね」
叔父「母親の事を馬鹿にされた男は、その瞬間何も考えられなくなって」
叔父「頭の中が真っ白になって、近くにあった包丁を持って」
叔父「───父親を刺したんだ」
叔父「その後、男から私に電話が来てね。男から電話なんて珍しいなって思ったら」
叔父「『親父が動かなくなった』って一言だけ言ってすぐ電話が切れたんだ」
叔父「様子がおかしい事を察知した私はすぐに家に駆け付けた」
叔父「そこには、父親の血で赤くなった男が玄関で座っていた」
叔父「その事情をすぐに男に聞いた。男は表情一つ変えずにさっきあった事を淡々を話し始めた」
叔父「まるで人形みたいに、本当に表情一つ変えずにね」
叔父「しかし、話し終わる頃に、やはり表情も変えずにただ一つ、ただ一筋だけ男は」
叔父「涙を流した」
叔父「その後は事がスムーズに進んだよ」
叔父「私が事情を話したら、普段の親父の暴力や、殺害時の男の状況から男は罪には問われなかった」
叔父「男も入院して、精神科の先生と会話を長い期間してやっと落ち着いた」
叔父「一段落ついた所で、男のこれからの事を考えた時」
叔父「やはり一人では大変だろうという事で私の家に来るかと聞いた」
叔父「そしたら男は少し考えた後に、その提案を断った」
叔父「男は、家の事なら自分で出来るから一人で暮らしてみると言ったんだ」
叔父「私はそれならと思いこれからの男の家の手配などをした」
叔父「男は何度も私に頭を下げて感謝してくれていたけどね」
叔父「私がもっと早くに男の話を良く聞いてやれていればこんな事にはならなかったかもしれない」
叔父「思い出すと、そう後悔してしまうんだ」
叔父「後は想像の通りさ。娘さんを連れてきた所まで話が繋がるよ」
娘「...」
娘「なんで...」
叔父「ん?」
娘「それなのに、何で私の事は助けてくれたの?自分の事でさえ大変だったはずなのに」
叔父「ん...それはね、男から娘さんの事を聞いたときに私も感じたけれどね」
叔父「娘さんは、男と良く似ているんだ」
娘「え?」
叔父「何というかね、雰囲気というのかな」
叔父「私が初めて娘さんと会ったときは既にそうでは無かったけれど」
叔父「きっと娘さんが初めて男と会った時の目は」
叔父「母親が死んだ後の男に似ていたんだろうね」
叔父「きっと、そう思うよ」
「感情をぶつけていた」という表現は、普段の行いから察する事が出来るように暴力を振っていたという表現でした
創作は初めてなので分かりづらい表現でしたら申し訳ないです
~その後、男宅~
男「娘ー、今日の晩御飯は...」
娘「...」
娘(あんな事聞いちゃったけど...)
娘(やっぱり...ちゃんと男と一回話した方が...)
娘(男はこんなに私の為に頑張ってくれてるんだし...でもやっぱり...)
男「おい娘!聞いてるのかー?」
娘「...へ?あ、う、うん!な、何の事だっけ?」
男「やっぱ聞いてねえじゃねえか...だから晩御飯は...」
娘「...あの、男!叔父さんから聞いたんだけど...」
男「ん?何だ?」
娘「っ...!やっぱり、何でもない。晩御飯はチャーハンがいいな」
男「変なやつだな...分かった、材料はあるしすぐ出来るから待ってろ」
娘(やっぱり言い出せない...)
娘(私だけが男の秘密をこっそり知ってるなんて男を騙してるみたいで)
娘(何度も話そうとしてるけれど...)
娘「はぁ...」
娘(やっぱ、話が話だけに言えない...)
男「...」
男(最近娘元気ないな...そうだ)
男「娘!一緒散歩でも行かないか?」
娘「いい天気だね」
男「ああ、そうだな。家の中に居るのが勿体無いくらいだ」
娘「でも、どうして急に...どこか行きたい所があるなら先にそっち行っても良いよ?」
男「特に目的も無くただぶらぶら歩く...それが散歩ってものだよワトソン君」
娘「ぷっ...なにそれ」
男「ハハ、お、公園か。一回休憩にするか」
娘「うん、そうだね」
娘「ねえ見て男、こんなに長い蟻の行列見たことある?」
男「お、確かに凄い長さだな。この先に何かあるのか?」
娘「待ってて...あ、飴が落ちてる。子供が落としていったのかな」
男「なるほどこんな良い餌があればこんな行列も作るわけだ」
娘「あ、こっちに2匹だけはぐれてる蟻がいるよ」
男「本当だ、こいつらも散歩してるのかもな」
娘「クスクス、私たちみたいだね」
男「...」
男「娘が元気そうで良かったよ」
娘「な、何急に」
男「ほら、娘最近どこか歯切れが悪いというか...元気無かったから」
男「こうやって楽しく散歩出来て良かったって思った」
娘「う、うん!ごめんね。ありがとう」
男「あー、ここ何時間でもいれるなー」
娘「そうだね、日を浴びながらベンチでゆっくりするのも良いね」
男「ここは人間をダメにする空間だなー」
娘「あ、ほらほら子供が走ってる」
男「俺は知ってるぞ。この後すぐあの子供は転んで泣き出す」
娘「えー...そんな事...ってあらら」
男「ほらな、こういう事は決まってるんだよ。世界の決まり事だ」
娘「ふふ、かわいいね。お母さんが慰めてお父さんは笑いながら見てるんだね」
男「ああ、そこまでが決まりだ。他は無いんだ」
男「他は無い...」
男「家族...か」ボソッ
娘「!」
娘「...あのね、男」
娘「私、叔父さんに聞いちゃったの。男のお母さんと、お父さんの事...」
男「...」
男「そうか...」
娘「男が今までどんなに苦しい思いをしてきたか聞いた」
娘「男が今までどんなに寂しい思いをしてきたか聞いた」
娘「思い出したくない事も沢山あると思う」
娘「それなのに私の事を助けてくれて、こんなにも楽しく一緒に暮らしてくれて」
娘「だから私も男と一緒に居るだけじゃダメなんだって」
娘「男から支えてもらってる分、私も男の事支えれるようになりたい」
娘「男におんぶにだっこじゃ私...」
娘「あれ...涙が...何でだろう...」
娘「ごめんね急に...変だな、止まらない...」
娘「ううっ...」
男「...ありがとよ、娘」
娘「ぐすっ...私いつも男の足引っ張ってばっかりで...」
男「俺の母さんと父さんについてはいつか話さなきゃいけないと思ってた」
男「別に娘に隠すような事でも無いしな」
男「いや、むしろ娘には隠すべき事では無かった」
男「叔父さんに口止めをしている訳でもないしな、いつか知る日が来るとも思ってた」
男「だから、お前に話さなかったのは俺が悪い。すまなかった」
男「後よ、娘はさっき俺におんぶにだっこだとか言ってたけどよ」
男「全然そんな事は無いんだ」
男「娘を最初に家に連れてきたのは確かにかわいそうという同情もある」
男「しかし娘は俺に似てた気がしたんだ」
男「何が...って言われたら言い返せないけどさ、第六感だよそれそれ」
男「俺みたいな奴は少ない方が良い、俺みたいなやつを救えるなら救いたい」
男「最初はそんな感情だ」
男「言ってしまえば俺の自己満足だ。俺が出来なかった事を押し付けただけだ」
男「俺の過去を理由にして相手に俺の満足をぶつけてただけだ」
男「その理由に相手なんて存在しない、本当に俺の事情だけだ。ひどいだろ?」
男「でもよ、それは最初だけだった」
男「俺自身も、娘という人間を見て変わってきた」
男「娘と暮らしているうちに、俺自身ももっと娘と過ごしたいと思ってきた」
男「あんな自分勝手だけじゃない」
男「俺が助けたい。そうじゃなくて、娘と一緒にこの生活を楽しみたい。そう変わった」
男「助ける対象が娘だけじゃなく、俺自身を含むようになった」
男「娘が来た事によって、無色の死んだような俺の生活に色が付いたんだ」
男「分かるか?娘は俺の足を引っ張っちゃいない。おんぶにだっこじゃない」
男「むしろ、俺は娘に救われてるんだ。お前のおかげで俺は生きてるって実感できるんだ」
男「娘は、俺のかけがえのない『家族』なんだよ」
男「だから、もう泣くな」
男「これ以上家族を泣かせてたら、空から俺を見てる人が俺を叱りに来る」
娘「...うん、うん分かった」
男「ほら、笑ってみろよ。折角の良い天気が勿体ないぞ」
娘「うん、そうだよね。笑顔が一番だね」
男「おう、その調子だ。やっぱり娘は笑ってないとな」
娘「へへ...でもこれからはちゃんと私の事も頼ってよね」
男「ああ、勿論だ」
娘「叔父さんこんにちはー」
叔父「お、娘さん。こんにちは。ん、今日は男も一緒だね」
男「ああ、叔父さん久しぶりに二人で遊びに来たよ」
叔父「ホホ、いらっしゃい。ゆっくりしていきなさい」
叔父「っと...その様子だと二人とも良く話が出来たようだね」
男「ハハ、叔父さんには全部お見透しって訳か」
叔父「勝手に話したのはすまなかったよ」」
男「ああ、良いんだ。おかげで全部話せた訳だし。ありがとう」
叔父「君達ならちゃんと話せると思ってたよ。二人とも真面目だからね」
男「本当に全部お見透しなんだな...」
叔父「そんな事ないさ。今お茶を出すからゆっくりしてなさい」
娘「叔父さんって何か...本当に凄いね」
男「ああ、あの人は何でも知ってるし何でも出来るって感じだ」
男「それを鼻にかけるわけでもない...あの落ち着きは修羅場をいくつもくぐり抜けてきたからだったりしてな」
娘「わあ...叔父さんってお仕事とか何してるの?」
男「それが...全然分からないんだよな。何もしてない訳じゃないはずだけど」
娘「え...」
男「逆に何でも出来すぎるというか。本当に裏の仕事まで手にかけてるんじゃないか...」
娘「裏の仕事...」
男「俺が一人暮らしする時だって、色んな手配を数時間でこなしてくれたよ。」
娘「この辺りの裏のボスみたいなのだったりして」
男「ハハハ、まさかな」
~数時間後~
男「よし、叔父さん、そろそろ帰る事にするよ」
叔父「そうかい。気を付けて帰るんだよ」
娘「叔父さん、またね」
叔父「娘さんも、気を付けてね」
叔父「...」
叔父「そうだ男、ちょっと待ってなさい」
男「...?ああ、わかった」
娘「何だろうね」
男「さあ...」
叔父「待たせてすまない。ほら、これを持っていきなさい」
男「何だこれ...タロットカード?ではないよな...」
娘「なんだかオシャレなカードだね」
叔父「これはね、お守りみたいな物だよ。幸せになるためのね」
男「ふーん...何か叔父さんにしては珍しいな。ありがとう、貰っておくよ」
叔父「ああ、呼び止めてすまないね、気を付けて帰りなさい」
娘「じゃあね叔父さん」
叔父「...」
叔父「そろそろ...かな」
男「そういえば時に娘よ」
娘「ん、どうしたの?」
男「出会った時から何か思い出したか?」
娘「あー...私が言うのもおかしいかもしれないけど」
娘「すっかり忘れてた....」
男「俺もだ...そろそろ娘の記憶についても真剣に考えないとな」
娘「う、うん...でも...」
男「ん?どうした」
娘「全部思い出した時...私はどうなるんだろう」
男「ん、良いじゃないか。その為に頑張るって最初決めただろ」
娘「そ、そうなんだけど...」
娘「私って男から記憶を取り戻す手伝いをしてもらってる訳で...」
娘「思い出しちゃったら、もう男と一緒にいる理由が無くなっちゃうっていうか...」
娘「その...それは嫌だなって...」
男「...ぷっ」
男「あはは、そんな事気にしてたのか」
娘「な、なによ!私だって離れるのが、その...寂しいなーなんて...」
男「バカか。一緒に居る理由が無くなるなんてあるかよ」
男「一番強い繋がりがある。ほら、なんせ俺達って『家族』だろ?」
娘「あ...」
男「娘が思い出した時、どんな決断をしようが良いさ」
男「俺に遠慮する事も無い。なんせ...」
娘「家族...だもんね!」
男「そういうこった」
男「それに、思い出した後の事考えるなんて贅沢だな。まずは思い出せよ」
男「思い出した後に自分の思うがままの選択肢を選べば良い。それに間違いはねえよ」
娘「ふふふ...うん、そうだね」
娘「そうだ、男。ふと気になったんだけど」
男「何だ?」
娘「私と男が初めて会った時の男の事聞いていい?」
男「ん...ああ、良いぞ」
娘「私と男が会った所って、裏山の奥深く...だと思うんだけど」
男「ああ、そうだな」
娘「私が言えたものじゃないのかもしれないけどさ、あそこって普通誰も行かない...よね」
男「...多分な。俺も娘以外は誰一人として見たことない」
娘「何で男があんな所に居たのかなー...なんて...嫌じゃなかったら聞きたいなって」
男「んー...何ていうかな。あそこには俺の親父とお袋が眠ってるんだ」
娘「え...それって...」
男「ああ、勘違いしないでくれよ。あそこに死体を埋めたとかそんなんじゃないさ」
男「俺はあの日...一人で生きていくと決めた日からはあの家を捨てる決意をしたんだ」
男「だから、俺はあそこに写真や昔買ってもらったプレゼント...あの家での思い出になりそうなものを全て埋めた」
男「これからの俺の生活に、親という要素を一切含ませない...自分へのけじめみたいなもんさ」
男「お袋の事は大好きだった。親父の事は...正直良い親だとは思えない」
男「むしろ嫌いさ。憎いくらいだ。でもな」
男「好きでも嫌いでも、一応俺の親だからよ」
男「捨てはしたが、忘れてはいけない。そう思ってあそこにはたまに行ってたんだ」
男「んで...それの為にあそこに行ったらたまたま娘を見つけたってわけ」
娘「...何だか...男って強いんだね。強くて...優しい」
男「ハハ、そうか?初めて言われたぞ。だからって惚れるなよ?」
娘「も、もう!からかわないでよ!」
娘「でも...その気持ちは大事だと思うよ。ずっと大事にしてね」
男「ん...そうだな。今度一緒に挨拶に行くか?」
娘「うん、そうする」
男「よし娘、思い出すためには何かきっかけが必要だ」
娘「うん、多分そうだよね」
男「そこでだ、今日はきっかけを探しにいくぞ」
娘「うんうんなるほど...え?」
男「今の俺たちには何がきっかけになるのかすら分からない」
男「そこでだ!プロジェクト行き当たりばったりを発動する」
娘「な、なにそれ...」
男「分からないものは考えても意味がない。だからもう色々な所に行きまくるんだ」
男「色々な所に行って色々な事をしまくる」
男「そうすれば以前娘と馴染み深かった所に行けるかもしれない」
男「つまりきっかけが見つかるかもしれない。それで何か思い出せればいいなと」
娘「なるほど...プロジェクト行き当たりばったり...」
男「そういう事だ。じゃあ出掛けるぞ」
娘「えっ、も、もう?待ってよー...」
~遊園地~
男「うおおおおおお!!」
娘「うわああ!おちるー!」
~動物園~
娘「男!見て見て!象だよ大きい!」
男「ペンギン...お前は良いやつだな...」
娘「...男?」
~映画館~
娘「ああジェニー...グスッ...ウルウル」
男「...zzz」
~ボーリング~
男「よっしゃ!ストライク!」
娘「むむむ...また...」
娘「あー楽しかった!遊び疲れたよー」
男「ああそうだな。そろそろ遅くなるし帰るか」
男「...ん?」
男「記憶の方は全く進展は無し...か...」
娘「め、面目ないです...」
男「ああ、別に良いんだ」
男「思い出せって言われてすぐ思い出せるようなら苦労はしてないしな」
娘「でも...うん」
娘「今日は楽しかったよ」
男「...ああ。また行こうな」
娘「うん!」
男「今日は...どうしようか」
男「何か行くあてもないな...」
娘「どこか行きたい所とかない?」
男「んーそうだな...出来れば記憶について何かしてやりたいが」
男「何かこう...決定的なものが欲しいよなー」
prrrrr...
娘「ん、電話だ」
男「もしもし」
叔父「やあ男かい?」
男「ああ叔父さん。どうしたんだ?」
叔父「良いお菓子を貰ったんだ。食べに来ないかい?」
男「...だってよ娘。どうする?」
娘「行く!」
男「悪いな叔父さんお邪魔しちゃって」
娘「叔父さんこの前ぶり!」
叔父「良く来たね。はい、どうぞ。これだよ」
娘「あ!これ八ツ橋でしょ!凄い!本物だ!」
男「おお...どうしてこんな物がここに」
叔父「ホホ、友人があっちに仕事に行っててね。お土産で貰ったんだ」
娘「食べていいの?」
叔父「遠慮しないで君らで食べて良いからね」
娘「やったー!いただきます!」
男「いただきます」
娘「んー!おいしいー!」
男「おお凄い凄いどんどん無くなっていくぞ。食い意地が張って...いででででで!」
娘「ムスッ...ぱくぱくもぐもぐ」
男「....」
叔父「ハハハ、まだあるからそんなに焦らなくても良いんだよ」
娘「...ぱくぱく」
男「俺あんま食ってないのに...」
娘「ふー食べた食べた!ごちそうさまでした!」
男「あ、あの量が全部なくなった....」
叔父「沢山食べるのは良い事だよ。また頼んでおくね」
娘「うん!叔父さんありがとう!」
男「飯食った後なのに...」
娘「甘いものは別腹っていうの!知らない?」
男「ぞ、存じております...」
男「...っし」
男「そろそろ帰るか」
叔父「お、そうするかい」
男「ごめんな叔父さん。お菓子だけじゃなくて晩飯までご馳走なっちゃって」
叔父「いいんだよ。私も楽しかったしね」
男「娘は食ってばっかりで...っていででで!だから痛えって!」
娘「ありがとう。ごちそうさま叔父さん」ニコニコ
男「うん...」
叔父「ん、またいつでも来なさいね」
叔父「...」
叔父「そうだ男、ちょっとこっちへ」
男「ん、何だ?」
叔父「とある噂を耳にしただけなんだがね」
叔父「昔幼い娘が家から居なくなってしまった家族がいるらしくてね」
叔父「その子が今も生きていれば丁度娘さんくらいの歳らしいんだよ」
男「!」
叔父「その家族の事を知ってる人が経営してる店の地図を書いてあげるよ」
男「叔父さん...あんた本当に何者...」
叔父「ハハ、私はただの男の叔父さんだよ」
叔父「そこの店は毎日やってるわけじゃないんだけどね」
叔父「明日の夜中...日付が変わる頃に開くんだ」
叔父「後は君次第、だよ」
男「...」
叔父「ああそうだ、この前渡したカードがあるだろう」
叔父「あれはそこの店に入るために必要なものだから忘れずに持っていきなさい」
男「...この前来た時から近いうちに教えるつもりだったって訳か」
叔父「今の君達ならきっと上手くやれると思ったからね」
叔父「期待しているよ」
~次の日夜中~
男「娘は寝た...そろそろか」
男「行こう」
男「えっとここの道を曲がって...」
男「何だここ...完全に路地裏じゃねえか...光も全然ないし気をつけて行かないと何か出そうだ」
男「は?地下かよ...おいおい叔父さん本当に大丈夫か」
男「...ここ...で合ってるよな」
男「...黙ってても何もならない。入るか...娘、待ってろよ」
カランカラン
?「...いらっしゃい」
男(落ち着いた雰囲気の店だな...とりあえずカウンターに座るか)
?「見ない顔だね。お初かい」
男「あ、ああ。あんたが店主か」
店主「そうだが。何を注文で...って訳でもなさそうだね」
男「今日は聞きたい事があってここに来たんだ」
店主「...」
店主「すまんねお客さん。うちは情報は信頼出来る客にしか渡さないんだ。情報が欲しいなら他所へ行ってくれ」
男「んぐ...」
男(おいおい叔父さんどうなってんだよ店間違えたか?)
男(結局このカードも使わなかっ...ん?カード...)
男「あの...このカード...」
店主「!」
店主「...あんた、あの人の知り合いかい...なるほどね...」
男「あの人...?叔父さんってそんなに有名な人なのか?」
店主「叔父?ハハハ、なるほどね。あんたあの人の...」
店主「良いだろう。こっちへ来な。」
男「店の奥に何かあるのか?」
店主「この店は表向きさ。俺の本当の職は情報屋なんだ。それも珍しい情報のね」
店主「だから信用出来る客の前以外ではここの店の店主さ」
店主「まあ、表向きと言っても世間から見たら少し怪しい店かもしれないけどね」
男(叔父さん...本当にあんた何なんだ...)
店主「で?何を聞きたいんだい?」
男「あ、ああ。それについてなんだが」
男「昔、家から娘が居なくなった家族...心当たりはあるか?」
店主「ふむ...思い付くものは山ほどあるが...あの人の身内となると...」
店主「恐らく、この前話したやつだろうな。ああ、心当たりはある」
男「その家族について...詳しく知りたい」
店主「そうだな...その家族も一応私の客に含まれるんでな」
店主「情報屋としては客の素性を詳しく話す訳にはいかない...分かるか?」
男「...ああ。見たところ、叔父さんとその家族について最近話したようだしな」
男「もし素性を詳しく話せるなら、きっと叔父さんなら聞き出してるはずだ」
店主「あんたとあの人の間には、その家族について共通する何かがあるって事か...ふむふむ面白い」
店主「それについてあんたから聞こうってつもりは無いよ。それに、聞いても教えてくれないだろう」
男「...そうだな。この問題に関してはもう少し慎重に考えたい」
店主「...分かった。私も興味がある。出来る範囲で協力しよう」
男「!...本当か?」
店主「今更嘘を言ってどうする。ただし、一つ頼みがある」
男「何だ?」
店主「全て解決したらで良い。その件についていつか詳しく教えてくれ」
男「...解決した後、気が向いたらな」
店主「ハハハ、分かった。交渉成立だな」
店主「その家族についてだが...さっきも言った通り今ここで話す訳にはいかない」
店主「だから、知りたい事があるなら本人に直接聞きなって事だ」
店主「俺があんたとその家族の仲介をしよう」
男「...なるほど」
店主「...と言ってもあの家族の事だ。恐らく連絡だけでなく、会う事も可能だろうな」
店主「どうする?会う事を希望するか?」
男「...」
男「ああ、それで頼む」
店主「よし分かった。その家族と話がついたらあんたに連絡しよう」
店主「すぐ連絡の付く所を教えてくれ」
男「ああちょっと待ってくれ...よし、ここに頼む」
店主「分かった。なるべく近いうちに連絡しよう」
男「助かる。じゃあ用件はこれだけだ。俺は帰るとするよ」
店主「分かった、あんたの叔父さんによろしく伝えておいてくれ」
男「ああ、それじゃあまた連絡を待ってる」
店主「...あんた!」
男「ん?」
店主「あんたのこれからの幸運を私も祈ってるよ」
男「フッ...ああ、ありがとう」
~次の日~
男「...とはまとまったものの」
男(本当にこれで良かったのか)
男(娘は今...親に会いたいと言うだろうか)
男(...何て話そう)
男「うむむ....」
娘「...」
娘「どうしたの男?朝から考え込んじゃって」
男「ん?あ、ああ。な、何でもない。悪いな」
娘「何か悩みとかあるなら話してね。私たち、家族でしょ?ふふっ」
男「...そうだな。俺が朝から考えてるのは娘、お前の事なんだ」
娘「なッ...えっ、私?」
男「ああ、娘の記憶について大きな進展があるかもしれない」
娘「あ、ああ...なるほど...何があったの?」
男「娘の家族と会える...かもしれない」
娘「...え?」
男「この間とある情報を手に入れてな。娘ぐらいの子が家から居なくなった家族の事を知った」
男「その家族と会えるかもしれないんだ」
娘「...」
男「勿論、違う可能性はある。それに...」
男「娘が嫌なら、俺一人で会いに行くつもりだ。...どうする?」
娘「...私も行く」
男「ん、早いな。これは大事な事だ。もっと考えてからでも...」
娘「いいの。男が私の為にそこまで準備してくれたチャンスだもの...私も行くよ」
娘「それに、私自身の事だもの。男に任せっぱなしには出来ない」
男「...そうか、分かった」
男「いつになるか分からないが...早ければ今夜になるかもしれない。心の準備だけはしててくれ」
娘「...うん」
~その日の夜~
prrrr...
男「電話だ...もしかして...」
男「...もしもし」
店主「ああ、あんたか。例の件についてだが」
男「!」
男「ど、どうだったんだ」
店主「会える事になったよ。話したらすぐに会いたいと向こうも言ってきた」
男「ゴクッ...分かった。場所と時間は?」
店主「日付が変わる頃にうちの店...でどうだい。今日は貸し切りにしとくよ」
男「ああ、それで頼む。わざわざありがとう」
店主「気にするな。是非この件について後で聞けるのを楽しみにしてるよ」
男「気が向いたら、な」
娘「今の電話...」
男「ああ、会える事になった。今夜...大丈夫か?」
娘「...うん」
男「...緊張してるのか?」
娘「緊張...というか、不安...なのかな」
娘「私の家族かもしれない人...以前の私はどうだったのかとか、やっぱり不安はあるよ」
娘「どうして全部忘れちゃったのか...それも思い出せるのかな...」
男「...」
男「大丈夫だよ。記憶が良いものでも辛いものでも、これはきっと娘にとって大事な事だ」
男「それに、俺も一緒に行くんだ。根拠は無いけど、大丈夫だ」
娘「...ふふ」
男「な、なんだよ」
娘「何か今の男っぽくないなって」
男「べ、別に良いだろたまにはよ」
娘「ふふ、何か不安とか無くなっちゃった」
男「そうか、それなら良かったって事にしておこう」
娘「そうだね、ありがとう」
~夜中~
男「...ここだ」
娘「何か凄い暗い所にあるんだね...地下って...」
男「あまり世間には知られてない店らしいからな。行くぞ」
娘「うん」
カランカラン
店主「良く来たね」
男「ああ、その家族は?」
店主「まだ来てないよ。今日は母親が来るらしい」
男「そうか」
店主「もう来る頃だと思うから待っててくれ」
店主「じゃあ私は引っ込んでるとするよ。覗きは趣味じゃないから気にしないでくれ」
男「...いいのか?」
店主「ああ、なんせあんたは後で全部教えてくれそうだ」
男「...どうだかね」
店主「君達の幸運を祈っているよ」
娘「...落ち着いた人だったね」
男「ああ、あの人のお陰でこの場があるんだ。感謝しなきゃな」
娘「そうだね」
男「10分経った...か」
男(こっちまで緊張してきた...)
男(でも娘の方が緊張はしてるはずだ。しっかりしないとな...)
娘「...良い人だと良いな」
男「...ああ、きっと良い人だ」
カランカラン
男・娘「!」
?「あの...こんばんは」
男「...こんばんは。あなたは...」
娘母「はい、私が連絡頂いた者です。娘母と申します」
娘「...っ!うぐ...ぐ...」
男「俺は男といいます。こっちが...って、娘?」
娘「い...痛い...頭が、痛い...っ...!」
男「お、おい!娘!大丈夫か!しっかりしろ!」
娘母「そ、その子...もしかして女...なの...?」
娘「お、女...っ!頭がっ...割れる...!」
娘母「女!分かる?私よ、お母さんよ!」
娘「.........」
娘「...ああ...」
娘「思い...出した───」
男「!」
娘「ありがとう男、もう大丈夫...頭は痛くないよ」
男「よ、良かった...俺の事も分かるんだな」
娘「うん...自分でも落ち着いてるのが分かるよ。思い...出したの」
娘母「お、女...大丈夫?私が分かるの?」
娘「分かるよ。お母さん...なんだね」
娘母「!よ、良かった...」
男「...娘の事はまだ心配ではありますが、少し落ち着いて話してみましょう。良いですか」
娘母「は、はい。よろしくお願いします」
男「娘について色々聞きたい事はありますが...まずは俺から今の娘についてお話しします」
男「...という訳で娘と俺は一緒に暮らしています」
娘母「そんな事が...でも、女の世話を見てくれたのは本当に感謝します」
男「...女、というのはつまり...」
娘「私の名前...だよ。本当の名前」
男「...だよな
男「でも、俺は娘の事は娘って感じがするし...呼び方、娘のままで良いか?」
娘「うん、私もそっちの方が嬉しいかな」
男「...」
男「...後、俺から娘母さんに聞きたい事があります」
娘母「は、はい。何でしょう」
男「どうして娘はあんな所に居たんですか?」
娘母「あんな所...と言いますと...」
男「裏山です。最初に俺と娘が出会った場所です」
男「あんな場所に記憶を無くした娘が一人なんて普通じゃないでしょう」
男「...何か事情があると思いますが」
娘母「そ、それについては...」
娘母「私も詳しくは分からないんです」
男「...は?どういう事ですか?」
娘「..これに関しては、何でお母さんが詳しく分からないかを話す所からだね」
男「...どういう事だ?」
娘「私から話そうか...」
娘母「...いや、私から話します」
娘母「私達...女と私と夫は幸せに暮らしていました」
娘母「ですが、私達にはお金が無さすぎました」
娘母「借金に借金を重ね、遂には借金すらも許されない程にまで追い込まれました」
娘母「そこで...私達は手を出してしまいました...闇金に」
娘母「今思い出すとあれが全ての間違いだったと思います」
娘母「もう少し考えて夫と相談して...そうすれば何か違ったのかもしれません」
娘母「いえ...少し無駄話でした。続けます」
娘母「闇金に手を出しましたが、当然返す宛てはありませんでした」
娘母「もう明日食べるものも無い、取り立ても厳しくなってきました」
娘母「そんな生きるのすら絶望的になってきた頃、闇金の人がある提案をしてきました」
娘母「”その娘を寄こしたら借金をチャラにしてやる”...と」
娘母「私と夫は当然猛反対しました。女を売るくらいなら死を選ぶ、そう考えていました」
娘母「しかし向こうは、寄こした娘は裕福な家で預かる。生活に不自由はさせない。そう言ってきました」
娘母「不自由はさせないどころか、一般の家庭よりも贅沢が出来る。そんな提案をしてきたのです」
娘母「私達は考えに考えた挙句、その提案を呑みました」
男「...」
娘母「仕方無かったんです!明日死ぬかもしれない、そんな瀬戸際でこんな提案されたら...」
娘母「このまま死ぬより、女が今より良い暮らし出来るならそれが幸せだと...!」
娘母「...その後は借金の取り立てが来ないどころか、多少の生活費を貰いました」
娘母「私達はそのお金で何とか立て直し、生活を続ける事に成功しました」
娘母「...しかし私達に残ったのは、何か大きな罪悪感、心にぽっかり空いた穴」
娘母「今でも後悔しています。もっと何か、何かあったはずだと...」
男「.....」
娘「...この事情は私も初めて知った事だよ」
娘「小さい頃だったからね。お父さんとお母さんと離されたのは分かったけど、詳しくは知らなかったんだ」
娘母「だから...女を手放した後の事情は分からないんです。女が何故裏山に居たのかも...」
娘「こういう事だね。この後は私しか知らないかな」
男「...るな」
娘母「え?」
男「ふざけるな!あんた...娘を何だと思ってるんだ!」
男「仕方が無かった?娘が良い暮らし出来るならそれが幸せ?」
男「違う!あんたは娘を言い訳に使ったんだ!」
男「極限状態を理由にして...娘の身を気にするフリをして自分を正当化した!」
娘「お、男...?」
男「何が幸せだ。あんたは子供の幸せが何か分かってない。子供にとって親とは何なのか...」
男「幸せに暮らしてたんだろ?娘もあんた達と一緒に暮らすのが幸せだったんだろ?」
男「じゃあ何で手放したんだよ...一番やっちゃいけない事だろ...」
男「子供には...親しか居ないんだよ...」
娘「男...」
男「...すみません。少しカッとして我を忘れてしまいました...ごめんなさい」
娘母「...いえ、間違いなく男さんの言う通りです」
娘母「私達は取返しの付かない間違いをしてしまったのですから...」
娘「...大丈夫だから、いい?この後の話...多分するべきだよね?」
男「...ああ、頼む」
娘母「うん...ごめんね」
娘「じゃあ、ここからはお母さん達と別れた後の私の話」
娘「私はその後、凄い豪邸みたいな家に引き取られたの」
娘「間違いなく裕福な家だったから、その提案に嘘は無かったって事だね」
娘「そこの家では私はお手伝いさんみたいな役割があったみたい」
娘「掃除だったり庭の手入れだったり食事の準備だったり...そういうね」
娘「確かに食事とかは豪華だったよ。見たことない料理ばかりいつも食べてた」
娘「その家のお手伝いさんは他にも沢山いたの。当たり前だけど皆年上だった」
娘「その中の一人が私の教育係として就いてくれた」
娘「家の事なんて何もやった事がなかった私は、当然最初は何も出来なかった」
娘「教育係の人からもいつもいつも怒られてた」
娘「でも、少しやってるとすぐ色んな事が出来るようになって...」
娘「仕事にも慣れてきて手際も良くなってきたの」
娘「それを見た家の主人も私の事を褒めてくれるようになって」
娘「お母さん達と離れたのは寂しかったけど、いつか会えるって信じて頑張ろうって思ってた」
娘「けどね、その頃から私に対してのいじめが始まった」
娘「どんどん仕事をこなせるようになって主人から気に入られてきたのがつまんなかったみたいでね」
娘「教育係の人を中心に他のお手伝いの人から嫌がらせを受けるようになったの」
娘「服をボロボロにされたり、私の分のご飯だけ無かったり...」
娘「数えきれない程色々ないじめを受けたの。日に日にエスカレートするしね」
娘「本当に辛かった。ただでさえここでは独りなのに、独りで頑張ってきたのに、こんな仕打ちがあるなんて」
娘「頭がおかしくなりそうだった。逃げ出したかった」
娘「いつお母さん達と会えるんだろうって、いつ迎えに来てくれるんだろうって」
娘「毎日毎日思いながら、裏で泣きながら仕事して...」
娘「後は良く覚えてないの...何かあった気がするけどもう...」
娘「どこかに車で運ばれる感覚だけあった。頭がずーーーっとボーっとしてた」
娘「多分、その後は気が付いたら男と会ってた...んだと思う」
娘母「ひどい...」
男「ああ、ひどすぎる話だ」
男「多分...その時にショックで全部忘れちまったんだろうな...」
男「んで使い物にならなくなったから裏山に捨てた...クソッ」
娘「でも男と会った後は楽しい事だらけだったよ。男は色んな事を教えてくれたからね」
娘母「...その事をここの店主に聞いて女の存在を知ったんです」
娘母「情報が女に酷似している子が捨てられたらしい...と」
娘母「それからはあの時の罪滅ぼしがしたくて、女を探し回りました」
娘母「ここの他の情報屋を当たったりして...少しでも女に関する情報を集めました」
娘母「そして今日...こうして会える事が出来たという訳です」
男「...事情は分かりました。娘の記憶についても、過去についても」
男「娘はとても苦しい思いをしてきたようで、信じられないような話ばかりで混乱はしました」
男「さっきは見苦しい真似もしたのは申し訳ないと思います」
娘母「...すみません」
娘「男...」
男「けど、こうやって会えたのは間違いなく良い事だ」
男「だから...うん」
男「今日でさよならだ、娘」
娘「...えっ?」
男「娘、今日からは娘母さんに付いて行くんだ」
娘「え、え...」
男「何もおかしい事じゃない。それが普通なんだ。娘は当たり前に戻れるんだ」
男「子供は親の場所に居るべきだ。その親が見つかって記憶も戻ったんだ...当たり前だろ」
娘「で、でも...私...」
男「俺の事は気にしなくて良い。何も一生会えなくなる訳じゃないんだ」
男「だから...もう戻るんだ」
娘「...」
男「俺の親の事分かるだろ?だからこそ、娘には親と一緒に暮らして欲しい」
男「俺からの...お願いだ」
男「という訳で娘母さん、後は娘の事はよろしくお願いします」
男「よろしくお願いしますってのも少し変ですね、元の場所に戻るだけなのに、ハハ」
娘母「...良いんですか?」
男「ええ、良いんですこれで」
男「な?娘お別れだぞ。せめてお別れの挨拶くらいはしてくれよな」
娘「─ッ!」
娘「...男、本当にありがとう。私は男の事を絶対に忘れない。感謝してもしきれない」
男「馬鹿野郎、良いんだよ」
娘「男には本当に色んな事を教えて貰った。本当に楽しかったよ」
男「ああ、俺も楽しかったぞ」
娘「...何か、言葉が出てこないや...えへへ」
男「俺も何も言えねえな、後は娘母さんにちゃんとついていくんだぞ」
娘「...うん」
男「それじゃあ娘、娘母さん。そろそろ...」
娘母「本当にありがとうございました。男さんも、身体には気を付けて幸せに過ごしてください」
男「はい、ありがとうございます」
娘「...男、こっち来て」
男「?...なんだ?」
娘「本当にありがとう...大好きだよ...」チュッ
男「...娘」
男「...俺も大好きだったぞ」
娘「えへへ...嬉しいな」
娘「うん、それじゃあ...」
男「ああ、じゃあな娘」
男「...」
男「娘!」
娘「...」
男「また、な」
娘「...うん。また、ね」
男「...行っちまった...か...」
男「...これで良かったんだよな...?母さん...」
店主「...出て行ったようだが...終わったのか?」
男「ああ、全部な」
店主「泣いてるのか?」
男「...ふん」
店主「早速だが、君らについて私に教えてくれないかい?」
男「...ああ、良いだろう。俺も今は喋れそうだ」
男「これは、人生に色も何もないただの一人の男と、とある少女の話なんだがな...」
店主「...なるほどね」
店主「ありがとう、とても興味深い話が聞けたよ」
男「満足か?まあ、俺もあんたには感謝してるよ」
店主「俺は何もしてないさ。やったのは、全部あんただ」
男「...そうだ、一つ聞きたい事があったんだ」
店主「何だ?良い話を聞かせて貰ったんだ。出来る限り答えよう」
男「叔父さんって...何者なんだ?」
店主「ハハ、その事か」
店主「この町は一昔前は落ちぶれた奴らが集まるゴミ溜まりみたいな所だったんだ、知ってたか?」
男「いや...」
店主「しかし今は何一つ他と変わりない町にまでなっている...どうしてだと思う?」
男「いやそんなの分かる訳...え?まさか...」
店主「この事情を知ってるこの辺の奴は誰一人あの人には頭が上がらないって訳さ」
男(叔父さん...あんた...)
男「なるほどな、聞きたい事も聞けたし俺はこの辺で帰るとするよ」
店主「そうか、もう夜も遅いし気を付けて帰りな」
男(うー、流石に夜は冷えるな...)
男「...叔父さんの所に報告しに行くか」
男「ういーっす...叔父さん起きてるかー?」
叔父「ああ男か、こんな夜中にどうしたんだい...って」
叔父「...全部終わったみたいだね」
男「ああ、全部な」
叔父「そうか。今日はもう疲れたろうから泊まっていきなさい」
男「ん、そうするよありがとう」
男「あ、後叔父さん」
叔父「ん?」
男「叔父さんって本当はこの辺の...」
男「いや、やっぱり良いや。今日はもう寝るよ、おやすみ」
叔父「ああ、おやすみ」
~後日~
男「娘ー、今日の晩飯は...」
男「ってまたやっちまった...」
男「前に叔父さんの所に娘を預けた時みたいだな、ハハ」
男「もう、叔父さんの所にも娘は居ないけどな」
男「...」
男「ああ、何なんだ」
男「...これで良いんだ、俺」
ピンポーン
男「ん、珍しいな客なんて...はい、何でしょう」ガチャッ
娘「...来ちゃった」
男「...え?は?む、娘!?お、俺は疲れて夢でも見てるのか...?」
娘「もう!夢じゃないから!ほら!ちゃんと居るでしょ!」
男「え?どういう事だよ!娘母さんはどうした...」
娘「ちゃんと許可は貰ってきたよ!」
娘「”ちょっとだけ長い間”お母さん達と同じくらい大事な人の所に泊まりに行ってきます!って」
男「え...良いのかそれ...」
娘「大丈夫、お父さんとお母さんはちゃんと分かってくれたみたいだから」
男「おま...それでもな...」
娘「それに...さ」
娘「男が昔の事私に話してくれた時」
娘「私もこれからは男の為にならなきゃって思ったの、まだ出来てないからね」
男「だからって言ってもな...」
娘「...む」
娘「...あーあー、何か急に何も思い出せなくなっちゃったなー!」
娘「帰り方が分からない!誰か泊めてくれる優しい人は居ないかなー?」
男「...本当に良いのか?」
娘「私が来たくて来たんだもん。勿論、男も了承してくれるなら、だけどね」
男「...馬鹿野郎」
娘「へへ....」
男「お帰り、娘」
娘「ただいま、男」
男「これから晩飯なんだよ、何が食いたい?」
娘「んー、そうだな...あれかな」
男「...ああ、あれか」
娘・男「オムライス」
男「叔父さーん、居るかー?」
叔父「おお、男か。久しぶりだね。どうしたんだい急に」
男「今日はある報告と人の紹介をしたくて来たんだ」
叔父「ん?何だいそれは...」
娘「やっ!こんにちは叔父さん」
叔父「!?」
叔父「...これは」
男「一緒に暮らす口実...って訳でもないんだけどさ」
男「記憶喪失の捨て娘を拾った」
~おわり~
初ss無事に完結しました!
忙しさ等もあり投稿ペースがかなり遅くなった事は本当に申し訳ありません
投稿する度にレスを頂けて本当に嬉しく、励みになっていました
初創作、という事で設定等無理な所があったかもしれません
もし、ここどうなってるの?等の疑問がありましたら是非教えてくださると嬉しいです
楽しかったので、またいつか次のssを書けたら良いなと思ってます
最後になりますが、ここまで読んでくれた方々、本当にありがとうございました!
警察関係のレス良くいただきましたが、居なくなった事情が事情だけに
警察には届けにくいという事で警察は絡めないようにしてました
あ、男の話か
大人の力を借りずに生きてきたって部分から、自分で何とかしようとした
っていう設定のつもりで書いていましたが、確かに少し無理があったかもしれません
次以降はしっかりと設定を練ってから書くことにします
歳に関しては限定すると想像に関しても色々と制限がかかるので設定しませんでしたが
男より一回り小さいくらい
居なくなってから拾われるまでも5~10年程をイメージしてました
あ間違えた
親元から居なくなってから5~10年です
ずっと働いてたみたいな感じでお願いします
このSSまとめへのコメント
続き期待しています!
良作の予感!+(0゚・ω・) + wktk!!