千早「居ない筈の貴方」 (43)
Pと千早の二人の物語です。(千早視点)
少しだけ社長も出るみたいです
千早視点へ移動するにあたり、回想シーンから始まります。(むしろそれを入れたいが為に千早視点)
今回はその影響もあり、前作よりも少し長めになりますがお付き合い頂けたら嬉しいです。
一部目に当たる 千早「昔の貴方に、戻って」 の後に位置する二部目の物語となります。
でも、王道展開だけは譲れない!
また、この部分意味わからんぞ! 等と言う台詞等も何箇所かあるとは思いますが
それは三部目にて意味が明らかになりますので、今は生暖かい目で見て頂けると幸いです。
※途中まで病み千早の為、キャラ崩壊注意
※経験不足故、至らない点もあろうかと存じます
※回想も既に病んでいる状態で行っている と言う設定になっておりますので、ご注意ください。
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貴女が例え彼に捨てられたと思い込んでいても、貴女を想う彼の気持ちは裏切らない
彼を想う貴女の気持ちもまた、裏切らない
再び止まった時を動かせるのは「彼」だけ
想いが重なる時、夢へとまた一歩近づいていく。
まるでそれが最初から運命によって仕組まれていたかのように……
走れ。 本当に大切な人の元へ—— (三部作、第二部)
「私、貴方が居てくれないと……」
恋と。
「今、どこに居るの……?」
切なさと。
「何で……何で私を置いていったの……?」
憎しみ。
押し寄せる貴方——プロデューサーへの想い。
私も……変わってしまった。
以前の貴方のように。
貴方が話してくれた「時間が止まった頃」のように。
今から約四ヶ月前、私がデビューする前の事。
私とプロデューサーは、オーディションへ向けたレッスンに追われて躍起になっていた。
「俺は、絶対に千早をトップアイドルにする」
レッスンで多忙な中で言い放たれたプロデューサーの、この一言が全ての始まりだったのかもしれない——
この一言の後、プロデューサーは別人のように私に接するようになって。
笑顔と楽しさに溢れていたレッスンはまるで凍りついたように寂しく
そして、厳しい物になっていった。
私はそんな変わっていくプロデューサーが心配で堪らなくて。
その結果、レッスンに完全に打ち込む事ができずミスを連発するように。
そのミスをプロデューサーに厳しく指摘され、私もそれを直そうとできる限りの努力をしたつもりでも
プロデューサーの事が心配で堪らず、ミスは結局直らずそのままオーディションを受ける事に。
ミスが直らなかった以上、落選する事は覚悟していたのに
いざ実際に落選してみるととても悔しくて……
オーディションの後、プロデューサーに落選した事を知られるのが怖くて……
それでも、結果は伝えないといけない。
私は泣きそうになりながらも結果を伝えると、プロデューサーから話があると言われ不安に。
不安感はありましたが、いざ話を聞いてみると
私の体調を気遣ってくれていただけのようで少し安心。
別に体調が悪い訳では無かったので「違う」と返し
それで話は終わりかと思っていた。
でも……そんなに都合良く終わる筈が無かった。
プロデューサーは「レッスンの内容」についての話を切り出してきた。
私ははっとしてしまい、黙り込んでしまう。
そして、それを見逃さなかった彼は私に更に問い続ける。
でも私はプロデューサーが変わってしまった理由を聞きたくても聞けなかった。
そう——私は怖かった。
聞いてしまえばまた何か言われそうな気がして。
彼から更に笑顔が消えていってしまうような気がして。
私は強がってプロデューサーの質問を押し退け、レッスンの内容を変えないように言ってしまった。
それが……それこそが間違いだったのかもしれない。
私が強がった結果、事態は何も変わらなかった。変わらなかったように見えた。
ふとプロデューサーの方を見ていると、何かを考え込んでいるような
暗く、悲しげな顔をしていて……
それを見て不安になり、咄嗟に声を掛けたもののプロデューサーは
私をレッスンに集中させようと切り返してきた。
それでも一向に変わらないプロデューサーの顔色。
結局、その日は私もプロデューサーもレッスンに打ち込む事はできなかった。
そしてレッスン後、挨拶をする時に私は心配で堪らず
レッスン中何を考えていたのか訪ねてしまい、それに腹を立てたのか
プロデューサーは威圧をかけるように言葉を返してきた。
結局、私はそれに対して言葉を返す事はできなかった。
次の日も、朝一番で挨拶した時は気まずい空気のまま。
それでも、プロデューサーは私に気遣っているのか声を掛けてくれる。
……それでも素直になれなかった自分が、憎い。
そのまま気まずい雰囲気でのレッスン。
私は心配で仕方なくて、やはり打ち込む事ができなかった。
そして、とうとうプロデューサーは怒りを露わにして私を呼び出す。
ミスを減らせなかったのは私が悪い事。
でも、何故か納得できなかった。
そのままその日はプロデューサーに背を向け、逃げるようにして走り去ってしまった。
遠くへ、逃げるようにして……
何故私はミスをし続けるのか。
心配して声を掛けた所でプロデューサーは元に戻ってはくれない。
それどころか、八つ当たりのようにして私に強く当たる始末。
私の中の何かが狂うような感覚と共に、その日は自主練習を続け翌日に備えた。
しかし、私が頑張った所で変化は起きなかった。
それに対する憎悪と後悔の念が押し寄せて来て。
挨拶もせずにただ無口で立っているだけで精一杯で。
それを見たプロデューサーは相変わらず威圧を掛けてくる。
——もう、何でもいい。
何も変わらないなら、変わった物も悩んだ事も全て捨て去れば良かったんだ。
全てを捨て去った気分になってレッスンに挑んでみるとミスも全く無くなり
身体が軽いような感覚。でも、それと同時に抜け殻のようになった私の目からは
自然と、涙が溢れていた。
頭の中が真っ白で、何も考えられなくて。
心配だった事も、怖かった事も全てどうにでもよくなって。
全てを捨てて、ようやく終わったかと思った時——
貴方は私に必死になって声を掛け続けてくれた。
まるで、貴方の中で止まっていた時間が動き出したように。
私の耳には「戻って来い」と言う言葉が響き続ける。
何度も何度も貴方は私の名前を呼び、動かない私を呼び戻そうとする。
それでも私は動く事ができなかった。
少しずつ考える事ができるようになって来ても声を出す事ができなかった。
できる事なら、すぐにでも言葉を返したかったのに。
今ならプロデューサーが変わった理由を聞ける気がしたのに。
涙声の貴方は必死で名前を呼んでくれた。
それでも動く事ができなかった。
私の心は凍りついたように動いてくれない。
言葉を発してはくれない。
全てを捨てたかった。確かにそれを一時は望んだ。
でも、ようやくわかったんだ——
悩んでたのは私だけじゃないって事が。
貴方もずっと悩み続けていたという事が。
そして、プロデューサーはいきなり昔に戻ったように
私に笑顔を取り戻させようと必死に呼びかけてくれて。
最後には——
強く、抱きしめてくれて。
貴方の温もりで私の凍りついた心は再び動き出した。
貴方は悩み続けていた事を泣きながらも全て私に打ち明けてくれて
やっと——昔の貴方に戻ってくれた。
やっと、いつも通りの私達に戻れた。
その後は笑顔と楽しさに溢れた日々が戻ってきて、私もレッスンに打ち込む事ができた。
私はこの一連の出来事のお陰で自分の感情が素直に出せるようになり
元から自信のある歌に、更に磨きがかかった。
その結果として無事にオーディションにも受かり、再びプロデューサーと一緒に歩み始める事ができる
……そう思っていたのに。
……そう信じていたのに。
オーディションに受かり、デビューが決定し
……全ては順調に進んでいたように思えたのに。
時は進み、今から一ヶ月前の事。
プロデューサーが突然私の傍から姿を消した。
普段なら残す伝言すら残さずに、突然。
最初は風邪とか、何か忙しいのだろうと考え仕事に励み続けていた。
しかし、何日経っても
何週間経ってもプロデューサーは私の前には現れなかった。
それどころか、連絡すら無かった。
私は心配になって他の皆にもプロデューサーがどこに行ったのかを聞いたりもした。
それなのに何の伝言も残されてはいなかった。
唯一聞けたのは「都合上、遠い場所にいる」と言う事だけ。
プロデューサーの事が心配で
逆に言えばただ、それだけの事なのに私は仕事すら手につかない状態に陥っていた。
何故だろう。私が、そしてプロデューサーが望んだ方向へと向かっているのに
何故手がつかないんだろう……
そして、今。
私は日々そんな自問自答だけを続け、気がつけば塞ぎ込んでしまっていた。
プロデューサーが話してくれた「時間が止まった頃」のように
貴方が居なくなった事で私の中の時間も止まってしまったのかもしれない……。
何でだろう。何とも思っていない筈なのに。
ただのプロデューサーなのに。
それなのに……何でこんなに辛いの……?
優しくしてくれたから?
厳しく当たられたから?
……違う。
プロデューサーは……貴方は
私の事を「見ていてくれる」から……
私の事を「一番に考えてくれる」から……
それだから、私も貴方の事を一番に考えるようになったのかもしれない……。
気がつけば、私は事務所の応接室で一人膝を抱えて泣いていた。
みっともない。情けない。
しかし、そんな事を考えても涙は止まってはくれない。
「如月君」
「——!?」
気がつくと、私の傍に社長が立っていた。
「いつ言おうかと悩んでいたんだが……」
「え……?」
何の事……?
何を言おうとしてるの……?
「君の、プロデューサー君から手紙を預かっているんだ」
「!!」
手紙……?
私への伝言は何も無かった筈じゃ……?
「隠していてすまない。 私はとある人物に頼まれて、今まで渡すのを躊躇っていたんだ」
「今まで……私が辛い思いをしているのを知っていて隠していたんですか?」
憎しみが込みあげてくる。
「私が必死にプロデューサーを探しているのを見て面白がっていたんですか?」
あんなにも必死に探していたのに隠されていた……?
「如月君、落ち着いて聞いてくれ」
「何ですか……今更……」
私は相手が社長だとわかっているのに、憎しみを抑えきれずにいた。
「プロデューサー君が、如月君が成長していくのをできるだけ妨げないように考えて私に頼み込んで来たんだ」
「え……」
どういう……こと?
「彼は、君に無駄な気を遣わせたくないと願っていた。 それだから私は隠し続けていたんだ」
「…………」
そこまで考えてくれていた……?
「しかし、君のあまりにも辛そうにしている所を見てね。 さすがに私ももう潮時だろうと思ったのだよ」
「社長……ごめんなさい。 失礼な事を言ってしまって」
私は、本当に馬鹿ね……冷静に物事を見れていなかった。
「それは気にしなくて良い。 ほら、これを。 私はもう行くから、しっかりと目を通すといい」
「はい。 ありがとうございます」
社長から手紙を受け取る。
「それと——」
社長はまだ何か隠し事でもしているの……?
「彼には口封じされていたのだが、仕方ない。 ここがプロデューサー君の入院している病院だ」
社長は私に住所と部屋の番号が書かれた紙をそっと握らせてくれた。
「行きたまえ。 如月君の大切な人の元へ」
「……はい!」
それだけ言うと、社長は私に背を向けて行ってしまった。
恐怖感を抱きながらも、私は先に手紙を開いた。
「千早へ」
冒頭には短く私の名前だけ書かれていた。
「千早がこれを読んでいると言う事は、とても辛い思いをした後だと言う事になるな」
そう……私は貴方が居なくなってからの一ヶ月ずっと悩み続けてきた……
「まずは、それについて謝ろう。 すまない」
今更謝られたって……どんな顔をすればいいの……ふふ
悲しさと嬉しさが入り混じった不思議な気分。
「でも、わかって欲しい事がある」
たぶん、社長が言ってた事かな……?
「千早の事を考えた上での判断だったんだ」
うん……わかってる
「もし、俺の事を気にせずに夢へ進んで行ってくれるならそれでいいと考えていた」
貴方を気にせず前に進める筈が無い……
「それでも、千早がこの手紙を読んでいると言う事は俺の事を気にしてくれていた事になるな」
そう……ずっと気にかけていた。
傍には居ない筈の貴方の声が……聞こえたような気がしたから。
「本当に、すまなかった。 俺は少し体調を崩してしまったんだ」
謝る事なんてない……私も以前同じような事をしたから。
「だが、心配しなくていい。 少し長引いてしまうだろうが最終的には確実に完治する」
貴方が……行くべき道を指差しているような気がしたから。
「それと、千早——」
私は途中だとわかっていたけど、手紙を閉じた。
貴方に……会いに行く為に。
私は事務所を飛び出し、向かい風の吹く中、必死に走った。
社長がわざわざ私にくれたチャンスを逃したくはない。
私が探し続けていた——大切な人の声が聞こえたような気がしたから。
貴方が、私を探しているような気がしたから。
私の行くべき道を——指差しているような気がしたから。
私はまだ人としては未熟で、小さいかもしれない。
でも——貴方の中では誰よりも大きい存在である自信があるから。
時間と言う水を恐れ、尻込みしてた私の背中を押してくれて
泳げるようにしてくれたのは貴方だから……!
私は必死に走り続け、病院へと辿り着く。
「こ、この部屋は……この番号の部屋はどこですか……!」
受付で部屋番号を言い、場所を聞こうとする。
「だ、大丈夫ですか!? お、落ち着い——」
「教えてください! この部屋はどこですか!」
もう、立ち止まったりしない。
貴方が私の止まっていた時間を再び動かしてくれたから——
私を、素直にしてくれたから……
部屋の場所を聞き、私は部屋の前に辿りついた所で一息をつく。
さすがにこんな血相を変えた様子で行ったら驚かれるだろうし……
落ち着いて部屋のドアをノックして。
「どうぞ」
プロデューサーの声が聞こえたのを確認して。
私は、ドアを開いた。
「ち、千早——ど、どうしてここに!?」
私の顔を見て驚くプロデューサー。
「あんな手紙を残しておきながら……どういうつもりなんですか」
少し意地悪そうに問いかけてみた。
「あ、いや、あれはその……」
何故か顔赤くしながらあたふたしている……
「まぁ、いいですよ。 私の事を考えてくれていたのだから良しとしましょう」
「え、それじゃ……!?」
何故か期待に満ちているような目で私の顔をじっと見つめている。
「え? 何のことですか?」
「え 手紙読んだんだよな?」
あ、あれ……?
確かに読んだけどまさか途中で閉じたから重要な部分を見落として……?
病院に来る途中、握り締め続けてしわくちゃになった手紙を私が再び開こうとすると——
「ちょ、ちょ、ちょーっと待って!」
「え? 何ですか?」
この人は最後に何を書いていたの……?
「と、とりあえず千早。 手紙はしまって俺の近くにおいで」
「あ、はい……」
確かに、病室の入口でこんなやり取りをしていたら怒られてしまう。
個室だからまだ許されているものの……
とりあえず私はプロデューサーの傍に立った。
「千早、その手紙どこまで読んだ?」
「えーっと…… 「それと、千早」 って所までですね」
「ほっ……」
何故か安心したような息をついているのを見て、私はまた意地悪をしたくなった。
「なら、続き読みましょうか!」
「ま、待て待て待て」
プロデューサーが止めようとするのを無視して手紙を開くと——
「え? これ……」
「あっ……」
そこには、こんな一文が。
「俺の病気が完治したら……夢へと共に進み続ける為に、付き合って欲しい」
え?これって……告白……?
「ぷ、ぷぷぷろでゅーさー、これはいったいどどどういう……」
「読まれてしまったか……」
あせってことばがうまくしゃべれ……
「そこに書いてあるのは……本当の事だ」
「えっ!?」
まさか……!?
「読まれてしまったからには……病気が治ったら」
ほんとうに……!?
「俺と——」
「ま、ままままってください!」
こ、このままじゃまたおかしくなりそう……
ちょ、ちょっと心の整理を……
「え? あ、ああ……」
でも、いざ止めてみると呆気なかった。
何か……今更止めなければよかったと軽く後悔。
でも、これなら——!
「よ、よし……プ、プロデューサー」
「どうした? 千早」
返ってきたのは呆気ない普通の返事。
「その……」
「うん?」
覚悟を決めて……!
「びょ、病気が治ったら……私とお付き合いしてください!」
「な……ななな……何だって!?」
プロデューサーの驚いているけど嬉しそうな顔。
この顔が見たかったからプロデューサーの言葉を止めたのかもしれない。
「…………」
「…………」
共に、言葉が無くなって黙り込んでしまっていた。
「い、いきなり自分からどうしたんだ? 千早」
「え?」
「ね、熱でもあるんじゃ……」
「……最低」
真顔で返さざるを得なかった。
「……一つだけ、聞かせてくれ」
「なんですか?」
「どうして、俺を選んでくれたんだ……?」
「え、えーっと……ですね……」
自然と言葉と言葉の合間が空いてしまう。
「プロデューサーのお陰で素直になれて、ようやく気付けたんです」
「う、うん……?」
「本当に大切なのは、私を想い続けてくれた貴方だって。 私の大切な人はすぐ傍に居たんだって」
「千早……」
暫しの間続く無言の間。
「ちょっと緊張と混乱で具合が……」
「え、し、しっかりしてくださいよプロデューサー!」
具合が悪くなったらしいプロデューサーが、こちらの方を向き直して
「これからは——プロデューサーとアイドルと言う関係として」
「……はい」
「そして、パートナーとして」
「……はい」
「二人で夢を叶えよう。 俺は、今度こそ千早をトップアイドルにしてみせる」
「はい……!」
「もう、俺は間違わないから。 千早から色々な事を教えてもらったから」
「私も——プロデューサーから色々な事を教わりましたから」
——もう、迷わない。
互いに支えあって。
互いに笑い合って。
私達は夢へと歩み続ける——
三部作、第二部は以上で終了となります。
この後に続く三部目にて千早が途中に考えていた事等の意味が明らかになりますので
もしよろしければ、三部目までお付き合い頂けたらなと思います。
では、これにて失礼致します。
ありがとうございました。
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