男「3日…いや、1日でもいいから幸せに暮らしたかったなぁ」(23)

町中がカラフルなデザインで溢れた、ファンタジックな光景が目に入った。

男「朝食が美味しい」

いつもこの時間になると、うさぎの配達屋さんが手紙やらを届けにくる。

ノックの音がする。

俺はドアを開けた。

うさぎさん「お手紙でーす !」ニコニコ

この町の人達は、愛想笑いを知らないんだ。

男「いつもありがとう」

手紙の束を受け取った。

男「これを頼むよ」

俺は配達屋さんに同じく手紙の束を渡した。

うさぎさん「承りましたー!」

配達屋さんが他の家に向かってから、俺はドアを閉めて手紙を確認した。

離れた場所に住む親や友達、それにいつか会った文通相手からの手紙だった。

返事を待たないあたり、彼女らしい。

その事に小さく笑いつつ、俺は手紙に目を通した。

忘れない内に返事を書き上げ、机の上にまとめておく。

次は洗濯などの家事をこなす。

終わったらその間に思いついた物語のネタをメモする。

執筆の仕事にひらめきは欠かせない。

今日は文を書かない事にして、町を歩く事にした。

一歩外にでると、それだけで楽しくなってくる。

俺の書く小説もたいがいだけど、この町はファンタジーの世界からそのまま引っ張ってきたみたいだ。

公園に行ってみる事にした。

公園ではいつも何かしらの屋台があった。

男「これをくださいな」

仕込みをする手元から視線を上にあげた屋台の少女が、俺を見てじとりと睨む。

屋台の少女「お仕事はどうしたの?」

男「今日は息抜きしようと思って」

屋台の少女「毎日じゃん。……サボりすぎー…」

スナックを受け取り代金を渡しつつ、俺は頭を掻いた。

男「手厳しいなぁ」

屋台の少女に一通り怒られた後は、適当に公園でくつろぐ。

男(あの変なオブジェとか、誰が作ったんだろう)

おやつがなくなってしまった。

散歩する事にする。

湖畔を歩いていると、釣り人を見つけた。

男「何か釣れますか?」

彼女はゆっくりこちらを向く。

釣り人「いいや…」

釣竿を引いた後、

釣り人「暇な物書きとかかな」

少しの間釣り人の隣で獲物がかかるのを待ったが、何も釣れなかった。

公園を出て、商店通りに行った。

果物屋のおやじが大きな声で客引きをしている。

おやじ「おう男! 今日も何か食ってくか?」

じゃありんごをと、買う。

店先に座って、幾つか追加で買った果物を食べる。

おやじの客引きに協力したところで、また通りに戻った。

商店通りをうろついた後、住宅街の方へ行くと、いつもの場所にいつもの奴がいた。

男「またか?」

友「男っ! ちょうど良かった、協力してくれ!」

男「今度はこの家なのか?」

友は必死に木を登ろうとしているところだった。

可愛い子を見つけてはプロポーズする、そんな男だ、この友というやつは。

1人で木を登れない友に、肩を貸してやる。

友は枝をつたい、窓に石をぶつける。

後はでてきた女の子を口説く、そんな流れだ。

放っておいて、目的地に向かう事にする。

男「……」

毎日訪ねるわけじゃないし、せっかくだから友を真似てみる事にする。

適当な庭の木を登って、石を彼女の部屋がある二階の窓に投げる。

一泊おいて、金髪の女の子が顔をだした。

金髪娘「男!」

男「やぁジュリエット」

首を傾げた彼女に付け足した。

男「劇を見たことはないかい?」

バルコニーに飛び移って、彼女の手をとってみる。

男「今日は怖い父君は留守?」

金髪娘「ええ、追い出しておきましたから」

男「そっか、じゃあ君を外に連れだしても大丈夫かな」

金髪娘「…構いませんよ」

互いに十代後半の年齢になってから疎遠になってしまった幼なじみと、久しぶりに遊ぶ約束をした日だった。

外に彼女を抱えてくりだし、ちょっと町を離れて草原まで行ってみる。

金髪娘「それで、どうします? …また、花畑にでも行くのですか?」

男「いや、この前とてもいい場所を見つけたんだ、今日はそこに行こう」

彼女の手を引いて向かったのは、妖精の集まる森の奥の広場だった。

自分たちと同じサイズの妖精から、手のひらに乗るほど小さい妖精まで、多種多様な妖精が…そこでは楽しく暮らしている。

妖精が俺と幼なじみの手を引き、ダンスしたり果実酒を飲んだりして楽しんだ。

日も落ちはじめた頃、彼女の怖い父君が家に帰る前に彼女を家に戻す。

金髪娘「今日はとても楽しかったわ」

男「今度また行こう。妖精達も歓迎してくれるし」

彼女は頷くと、無言で俺の瞳を覗き込む。

しばらくした後、つないでいた手を離すと、その時間は終わった。

親しい彼女と離れた後は、やる事がなくなってしまった。

夕暮れ時だが、家に戻り、仮装を始める。

今日はマントに仮面に黒いスーツ、これで行こう。毎日これを来ている気がするが。

暇なので、ちょっと文を書いてみる。

後は家事をしながら夜を待った。

夜になった。

もう一つの時間が始まる。

町の人達は、それぞれ正体を仮装で隠して姿を現す。

夜の闇には魔法の装飾が灯り、家々には多色の光がついた。

町中が魔法と月に照らされて、住人が楽しむ時間が始まった。

?「あー! まーた同じ格好してる!」

前から話しかけてきたのはうさぎさんだ。

魔法に衣装で姿を変えていても、彼女のように耳や尻尾が見えていたら、大体の正体は分かる。

男「君だって似たようなものでしょ」

うさぎさんは耳を手で隠す。

男「意味ないよそれ…」

うさぎさん「こういう時は不便ですね…」

男「便利な時って?」

なんとなく尋ねる、

うさぎさん「それは…」

男「まぁいいよ、お腹がすいたな、パイが食べたいよ」

うさぎさん「また夕食抜かしましたね?」

うさぎさんと町の中央広場まで一緒に行って、別れる。

俺は広場の中央にある長いテーブルから、ミートパイや豚の丸焼きなんかを食べていた。

?「食べ過ぎですわよ」

横を向くと仮装した少女がいた。

男「なんでみんなは食べないんだろ?」

少女「少しつまむために置いてある物だからですわ」

男「もったいないな~」

少女「そんな事より、そろそろお祭りが始まりますよ」

男「んぐ……そうだな。今日はパイ投げだっけ?」

少女「ええ、負けませんわよ?」

べしゃっ

少女の顔にミルクレープパイをぶつける。

男「勝った」

少女「……」プルプル

町人達をパイで埋めた後、俺は少女のパイと仮装を魔法で除き、ほうきを取り出して言った。

男「夜の散歩でもどう?」

金髪娘「二人乗りは禁止ですわよ」

男「抱き上げれば禁止されてる乗り方じゃないさ」

空に浮かぶ二つの月が山の後ろに落ちるまで、空の散歩は続いた。

―――

山中

男「現実は寒いなぁ」カチカチ

男「……」

男「……」

おわり。

眠いです、ごめんなさいでした。深夜

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