男「明るい奴隷との日々」 (43)
コンコン ガチャ
奴隷「入りますよー、ご主人様。ってありゃ、変な匂い?」スンスン
男「ノックするなら返事を返すまで待ちなさい」
奴隷「はいはーい。で、また何かの研究ですか?」
男「これは研究じゃない、ただの模倣。レシピありきの……そう、料理みたいなものだよ」
奴隷「ほえー……なんかよくわかんないけど、凄くない事だけは分かりました!」
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男「ああ、凄くないんだ」
奴隷「で、そのモーホーでご主人様は何を作ってるんですか?」
男「心臓の薬」
奴隷「…………うわ、めっちゃ返しにくい」
男「心の声が漏れてるよ」
奴隷「あらまあ失礼しました、ウフフ」
男「……まったく、君は強いね」
奴隷「私、内面含め365度隠すところなんて無い完璧美少女ですから!」
男「うん」
奴隷「で、その薬で何するんですか?賞でも取るんですか?お金ですか?ウハウハですか?」
男「君、思ってもいない事をとりあえず言う癖を止めなさい」
奴隷「……あー、街に心臓を悪くした方が出たんですか?」
男「いんや、ただの非常用さ」
奴隷「なーんだ、心配しちゃったじゃないですかー」
男「まあ、とは言ってもこいつには汎用性があってね」
奴隷「ん?他にどんなことに使えるんです?」
男「眠気覚ましから低体温症、食欲不振や勃起不全の改善」
奴隷「勃起!?」
男「色んな事に使える。だから作れるようになっておくと便利」
奴隷「勃起不全……媚薬……コーヒーに、少量、バレないように甘くして……」
男「さて、だから僕は忙しいの。掃除なら邪魔にならない範囲でやっておくれ」
奴隷「完成したら一つください!」
男「やだよ。また君、僕に一服盛るつもりだろう」
奴隷「イエース」
男「嫌なんだよそういうの。男なら外で適当に引っ掛けてきてくれ」
奴隷「ねえねえご主人様ぁ」
男「……?」
奴隷「これなーんだ?」
男「チョーカー」
奴隷「首輪でしょーが!どう見ても!!」
男「だって君、好きでつけてるじゃない。そういうのを首輪とか言うの?」
奴隷「うがー!」
男「君、本当は頭いいのにすぐ馬鹿のフリをするよね」
奴隷「うへへーい、どうせ馬鹿ですよー」
男「僕、そんなに君に対して警戒してるように見える?」
奴隷「見えます」
男「見えるかあ、参ったな」
奴隷「ご主人様はもっと……研究だけじゃなく、私に愛欲のまま溺れるべきです!」
男「それはちょっとご免だなあ」
奴隷「どうしてですか!?」
男「どうしても言わなきゃ駄目?」
奴隷「どうしても!」
男「僕と君が奴隷と主人の立場だから」
奴隷「…………!!」
パタパタパタ……ガチャン
男「…………」
* * * * * * * * *
<回想>
男「で、どうして僕のところに?」
商人「だって旦那、まだ独り身でしたよねえ。
あっ、もし要らないなら要らないで、また売っぱらっちまったらいいんですよ」
奴隷「…………」
男「君」
奴隷「……」
商人「おい、旦那がお呼びだ」
奴隷「……」
商人「返事くらいしろ!!」
奴隷「ひっ……!?」
男「ああ、商人さん。その辺で……」
商人「はあ」
男「で、君」
奴隷「……っ……ぁ」
男「君は、どうしたい?」
チュンチュン
男「ああ……もう朝か……」
男(完成した途端、眠気が襲ってきてこの様だ。みっともない)
男(あれ、毛布がかけられてる……。ありがたい)
<台所>
奴隷「おはようございますご主人様ー!」
男「おはよう」
奴隷「朝はパンとご飯、スクラングルエッグと卵焼き、みそ汁とスープどっちがいいですか?」
男「パンと卵焼きとみそ汁」
奴隷「アイアイサー、ってか相変わらずの和洋折衷ですねえ」
男「君が選択の余地を与えてくれているお陰だよ」
奴隷「ふふっ、私の人生で最初に選択の余地を与えてくれたのはご主人様でしたけどねー♪」
男「記憶にないね」
奴隷「まったー、照れちゃって、このこのー」
男「それより、いつだったかな、君がそんなふうに……って、あれ?」
奴隷「!?」
男「……みそ汁に心臓の薬、入れた?」
奴隷「うっ……」
男「誤摩化しても無駄だよ。
自分で作ったものなんだから、分からないわけが無いだろう」
奴隷「ごめんなさい……」
男「まあ、幸い僕には無害と言うか、飲むつもりだったからいいけど」
奴隷「な、なぜに!?と、とうとうご主人様も獣の本能の赴くままに!?きゃー♪」
男「……君も知っているだろう?僕は酷い低血圧なんだ。
毎朝、仏頂面なのを治せと言ったのは君じゃないか」
奴隷「……うー」
男「君、子供じゃないんだから、人の背中をぽかぽか叩くの止めなさい」
今日はここまで。
男「薬、効いてきたかな。どう?少しは目が開いてきただろう」
奴隷「私を写してくれない目玉に興味ありませーん」
男「おいおい、そう拗ねないでくれない?
……そうだ、今日は久々に街に行こうと思うんだけど、一緒に来るかい?」
奴隷「街!!」
男「うん」
奴隷「今の聞き間違いじゃないですよね?」
男「……うん」
奴隷「苦節14日……私の努力がやっと報われました。
自宅兼医院での仕事ばかりで一歩も外に出なかったご主人様が、
ついに外へ……私とのデートへ……うへへ」
男「何を大げさな。外に出る必要がなかっただけだよ」
奴隷「そりゃそうでしょうね。客は向こうから来るし、買い出しは私担当ですし、
数少ない友達との交流は文通ばかりですもんねえ……」
男「まあ、僕が引きこもりかどうかは置いといて、クレープでも食べに行こう」
奴隷「クレープ!マジですか!?」
男「マジだよ、嘘をつく理由なんてない。僕も甘いものは好きだからね」
奴隷「いやっほーい、じゃあ、着替えてきますねー」
男「ああ、いってらっしゃい」
男「…………ふう」
男(薬の効果……絶大だなっ……隠すのが大変だった)
<市場>
奴隷「うまい、マジ旨い、ほっぺた蕩けます〜」
男「ああ、そりゃ良かった」
奴隷「んー」
男「何だい?」
奴隷「ほっぺについたクリームをとってください」
男「はいハンカチ」
奴隷「……どうも」
奴隷「ねえねえー、ご主人様のも一口下さいな」
男「いいよ、というか丸ごとあげる。僕は少し一人でしたい用事があってね。先帰ってて」
奴隷「えー」
男「なにかお土産買ってくるから」
奴隷「じゃあ仕方がありませんねえ……ふふ……こっそり、茂み……押し倒し、既成事実……」
男「付いてきたら二度と甘いものを与えないよ?」
奴隷「……あい」
<路地裏>
商人「お久しぶりです、旦那」
男「お久しぶりです。しかし商人さんが薬を商うなんて珍しいですね」
商人「ふふ、その界隈でどうしても必要になりまして。
ああ、この甘い花の匂い。そう、これですよ」
男「それは良かった。でも、こいつは本当によく効きます。
くれぐれも取り扱いには注意してください」
商人「ほお、では、もうお試しになったと?あの奴隷で?」
男「さあ、どうでしょうね」
商人「ま、ご購入された商品をどう扱おうと旦那の自由なのですが……、
あまり過保護なのもどうかと思いますね」
男「……」
商人「第一、元々外科医だった旦那が内科に手を出したのも、あの奴隷が原因でしょう?
私は心配なのですよ。旦那のように有能な方が、あの奴隷に入れ込み過ぎて駄目になってしまわれないかと」
男「人は駄目にならないために何かに入れ込むのだと思います」
商人「……はあ、旦那がそこまで言うのなら、私からはもう何も言えませんね」
奴隷「………………」
* * * * * * * * *
<回想>
男「君、自由意志で食べないのはいいけど、散らかすのは止めてくれないか」
奴隷「…………」
男「食べ物だって元は生きてたんだ。その芽を摘んで僕らは生きてるんだよ。それを無駄にしちゃいけない」
奴隷「……あなたは、私を折檻しないの?」
男「しないさ、する権利はあるんだろうけど、気が乗らない」
奴隷「……変な人」
男「よく言われる」
奴隷「……人って皆、私を攻撃するように出来てるんだと思ってた」
男「それは誤解ではないけど、君だって知らず知らずのうちに人を攻撃してるんだよ」
奴隷「そんなこと、してない」
男「してるさ。現に僕は今、君と良好な関係を築こうと悪戦苦闘してるが、それが上手くいかなくて困ってる」
奴隷「嘘吐き」
男「嘘じゃないさ」
男「じゃあここでひとつ約束だ。僕は決して君を見捨てない。
僕はそれをこれから長い時間をかけて証明してみせようと思う」
奴隷「そんなの——できっこない」
男「できるさ、これでも僕は嘘が下手な事で有名なんだ」
奴隷「やっぱり変なの……」
<家>
奴隷「お帰りなさいませー、ご主人様」
男「うん、ただいま。」
奴隷「ご主人様、お土産は!?」
男「はい、これ」
奴隷「わー、新しいお茶の葉ですねー?丁度切らしてたんです。嬉しいー!」
男「そこまで喜んでくれると、僕も選んだ甲斐があった」
奴隷「しかもこれ私が好きな銘柄じゃないですかー!もーご主人様ってば完璧過ぎ!」
男「……でもその妙に高過ぎるテンションを見るに、路地裏、付いてきたね?君」
奴隷「…………はい」
男「仕方の無い子だ……。まあ、別にいいか。聞かれて困るような事は初めから無いし」
奴隷「ご主人様、正直に言ってください。私……ご主人様のお荷物ですか?」
男「お荷物だと思ってる人のために、普通、治療薬の研究とか始めないよね」
奴隷「じゃ、じゃあ、私はご主人様にとって」
男「大切な家族だよ」
奴隷「うー……私としてはそれ以上を希望したいのですけれど」
男「そうだな、あと数年経って、君が大人になったら考えてあげるよ」
奴隷「今だけしか味わえないロリボディにもそれなりの魅力があると思いますけど?」
男「残念、僕はおっぱい星人なんだ」
奴隷「なんと!?そうだったんですか!だから私の必死なアプローチにも……
てか、胸と言えばあのよく怪我してくる黒髪の女の人、おっぱいでかい!」
男「君、患者の事をそんな目で見ちゃ駄目だよ」
奴隷「ううう、私だってあと数年経てばあ……」
男「それはそうと、君、結局付いてきたんだから、これから一週間は甘いもの禁止ね」
奴隷「そんなご無体な!!」
<翌日・待合室>
ガチャ
奴隷「いらっしゃいま……じゃなかった、おはようございまーす」
女「ふふっ、おはようございます」
奴隷「げ、黒髪の人……」
女「げ?」
奴隷「な、何でもありません!今日はどうされました?」
<診療室>
男「次の方、どうぞ」
女「どうも、男くん」
男「ああ、君か」
女「あらまあ、患者に向かって『ああ、君か』はないでしょう?」
男「はいはい、悪かったよ。で、今日はどうしたんだい?」
女「いつもの傷薬が欲しくて。それと、男くんとお喋りにね」
男「お喋りはほどほどに。患部を見せて」
女「えー……はい」
男「……また、殴られたか」
女「心配しなくていいのよ。私の立場を考えれば当然の事だもの」
男「……とりあえず消毒だけはしておく。ガーゼは、駄目なんだったな」
女「ええ、また男くんに会いに行った事がバレれば事だもの」
男「そうか……でもあまり無理はしないで。いざとなれば逃げるという手もある」
女「お金も、逃げる足も無いのに?」
男「いざとなればどちらも僕が用意しよう。そういう事を含めて僕は医者の仕事だと思っている」
女「相変わらず優しいのね」
男「君は恩人だから。当然のことだよ」
女「ふふ、よその奴隷の事を恩人だなんて。変な人」
男「変な人でいい。とにかく、無理はするな」
女「男くんこそ最近無理してるんじゃなくて?目の隈酷いわよ?」
男「これは生まれつきだよ」
女「いえ、前会ったときより確実に酷くなってる。
……いくらあの子のためとはいえ、無理はしないでね?」
男「放っておいてくれ。僕は自分に出来る事は全部やってから死にたいんだ」
女「いえ、放っておかない。この街で医者と呼べるのはあなた一人なのよ。
もっと自分に課せられた責任を強く感じなさい」
男「言われなくても分かってる」
女「それじゃあ、お説教はここまでにして、今日はこれで帰るわね」
男「……」
女「何か言いたそうね?」
男「いや、何でも無い。冷静になった。僕に出来る事はここまでだ」
女「よろしい。それでこそ男くんよ。あの子を大切にね」
ガチャ バタン
男「…………」
<小一時間後>
男(ふう、ようやく午前の診療も終わって一息か……)
ガチャ
奴隷「ご主人様〜?」
男「なんだい?」
奴隷「あの、非常に言いにくいんですが……」
男「何?」
奴隷「…………」
奴隷「ご主人様の事を考えるとおまたが疼くんですぅ」
男「本題に入りなさい」
奴隷「いつも思ってましたが、さっきの綺麗な人とはどんな関係なんですか?やけに親しげでしたけど……」
男「なに、ただの昔なじみさ」
奴隷「ふーん…………ま、とりあえずは信じます。
だから!お願いですから、私がボインボインなグラマラスバデーになるまで待っていてくださいね!?」
男「はいはい、わかったよ。それと……丁度よかった。上着を脱ぎなさい」
奴隷「嘘!?」
男「嘘じゃない。ただの定期検診だ。いつもやってるだろう」
奴隷「ちぇー」
男「体重は……よし、ようやく標準に近づきつつあるな。身長は、まだまだだけど」
奴隷「3サイズは!?計らないんですか?」
男「下着でも買うのかい?まだ上は要らないだろう?」
奴隷「そういう問題じゃなくってー」
男「よし、あばら骨もようやく見えなくなってきたか。甘いものの成果かな」
奴隷「流石ご主人様、デリカシーの欠片も無いですね」
男「聴診器当てるよ」
奴隷「ひゃん!?……ああ、私、ご主人様におっぱい触られてる……」
男「いかがわしい事言わない。……ん?最近咳は?」
奴隷「出てません!」
男「少し心配だが、まあいいか……、それでは引き続き薬を飲み忘れないように。いいね?」
奴隷「はい!それではー」
男「と、ちょっと待った!」
奴隷「何です?」
男「君、よく見れば扁桃腺が腫れてる。おでこ出しなさい」
奴隷「……えー」
男「……はあ、熱があるならどうして先に言わなかったんだい」
奴隷「ご主人様とのおふざけの時間を減らしたくなくて。これぐらい自力で治せると……」
男「馬鹿か君は。おふざけなんて……そんなのいつだって出来るだろう」
奴隷「あ、今のちょっとキュンときました」
男「症状の一種だ。早く部屋に戻って安静にしてなさい。後でお粥でも持って行く」
奴隷「いやっほー、看病イベントだー!……ごほっごほっ!!」
男「……もういい、僕が運んで行く」
奴隷「お姫様だっこきたあああ……ごほっ、うおえっ!」
男「阿呆か君は……」
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