秋の扇風機「なんや、どしたん?」
春の扇風機「最近な、俺という存在に疑問を持つようになったんや」
秋の扇風機「マジか。一体、何があったん?」
春の扇風機「俺、ここにいる意味あるんか?」
秋の扇風機「は?」
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秋の扇風機「なんやの、急に。どしたん?」
春の扇風機「だってな。よう考えてみ。俺って何なん? 俺が存在している意味って何?」
秋の扇風機「いや、そないな事、俺に言われても知らへんけど……」
春の扇風機「俺は何の為に生まれて、何でこうして生きてるん?」
秋の扇風機「ますますわからん」
春の扇風機「例えば、お前にとって、俺って何? 俺という存在は一体どんな風に見えてるん?」
秋の扇風機「……せ、扇風機や」
春の扇風機「ちゃうやん! そういうのちゃうねん! 何でわからへんの!」
春の扇風機「この前の事や。うちの家のアホ娘おるやろ」
秋の扇風機「ああ、うん。おるな。あいつ、文化祭の時に調子のって免許ないまま原付にも乗って、そんでスッ転んでそのまま田んぼに突っ込んで損害賠償請求されとったで」
春の扇風機「そのあいつが、大学行くとか言い出しとったやん。アホのくせに」
秋の扇風機「ああ、せやな。アホのくせに言うとったな」
春の扇風機「で、コネだか裏口だか奇跡だか知らんが、この前あいつ大学に受かったんだわ。アホのくせに」
秋の扇風機「アホのくせに受かったんか。アホのくせに」
春の扇風機「で、あいつの受かった大学いうんが、千葉やねん」
秋の扇風機「千葉かいな。ここからだとずいぶん遠いな」
春の扇風機「せやろ? だから向こうで一人暮らしするーとか言うてな、この前アホ面下げて押し入れ開けよったん」
秋の扇風機「ほんで?」
春の扇風機「オカンが言うねん。その扇風機は持ってったら? 言うてな」
秋の扇風機「ホンマか。ほなら引っ越しか?」
春の扇風機「それがちゃうねん」ハァ
秋の扇風機「どないしたん、急にテンション下げて」
春の扇風機「あのアホ娘、扇風機なんていらへん、クーラーじゃなきゃ嫌だ、とかぬかしよったんよ」
秋の扇風機「マジかいな……。現代っ子が……」
春の扇風機「オカンはな、きちんとフォローしてくれたんやで。電気代安うなるから言うてな」
秋の扇風機「流石やな、オカン。ようわかってはる」ウンウン
春の扇風機「なのに、あのアホ。扇風機とか全然涼しくないやん、とか抜かしよるんやで。あん時はホンマにマジ切れしそうになったわ」
秋の扇風機「せやな。そこはキレてもええ。俺が許す」
春の扇風機「でまあ、あれや。細かい事ははしょるけど、結局、俺はまた押し入れの中や。しかも、その時、押し入れがなんぼかスペース空いたとかで更に奥にしまいこまれたんや」
秋の扇風機「ごっつきっついな、それ……」
春の扇風機「で、俺は考えたんよ。俺もう、これから先ずっと押し入れの中で生活するんやないかってな。不安になったんや」
秋の扇風機「そんな事ないやろ。あれや、春でも暑い時はあるし……」
春の扇風機「あったとしても、俺が出される前にクーラーが使われるんちゃうか? 出すのは初夏になってからちゃうんか? これまでだって数えるほどしかお日様見とらへんのやで」
秋の扇風機「き、希望は持とうや……」
春の扇風機「そもそも俺という存在は何やねんと。秋のお前と違て、しまおうかもう少し出しとこうかで悩む事もあらへん。冬と夏の繋ぎにもなっとらへんのやで? なら、俺という存在はいてもいなくてもおんなじやないかと思うやろ? ちゃうか?」
秋の扇風機「お、落ち着けや。な?」
春の扇風機「冬はもうええやん。あれはもうはなから希望があらへんからな。無駄な事を考えず、既に世捨て人の様になっとるでな」
秋の扇風機「まあ、せやな……。もう俗世の事に興味があらへんでな、あいつは。ずっと押し入れの奥にいて、仙人っぽい風格まで出とるからな」
春の扇風機「それに比べて、俺はと言えば……。中途半端な希望があるからすっぱり諦める事もできへん」
秋の扇風機「あー……まあ……」
春の扇風機「あれやでー。許嫁がおる女に惚れてまった心境と同じやで。諦めた方がええっちゅうのはわかってる。下手な希望なんか捨てるべきやいうのはわかってんねん。でも、それでも捨てきれへんやろ? そういうもんやろ? これを未練がましいとか言うやつは、人の心を持っとらへんで。理屈ちゃうやんか。しゃあないやんか」
秋の扇風機「…………」
春の扇風機「俺かてお日様みたいねん。外に出て、動いて、あー涼しいなあ、とか言われたいねん。なのにそれができへんのやで。しかも、俺のせいちゃうやん。気温のせいやんか。季節のせいやんか。自分じゃどうしようもできへんのやで。こんなんないやろ? なあ? なあ?」グスッ
秋の扇風機「……なんか、すまんかった。ホンマ……。無責任な事を言うて……」
春の扇風機「もう俺……何の為に生きてるんか、わっからへんねん……」グスッ
秋の扇風機「さよか……」
春の扇風機「お前かてこの気持ち少しはわかってくれるやろ? せやろ?」
秋の扇風機「まあ、ぶっちゃけな……。最近はもう使われへん事が多いからな……。真夏が過ぎたら完全にクーラーにシフトされててな……。置いてあるだけ、いう状態も結構あんねんて……」
春の扇風機「せやったんか……。ほなら、お前も辛い思いをしてきたんやな……」
秋の扇風機「まあな……。結構、空気扱いやからな……」
春の扇風機「」ハァ……
秋の扇風機「」ハァ……
夏の扇風機「んー? なんや、どしたん、お前ら? ため息なんかついて」
春の扇風機「うっわ……。空気読めや、お前……」
秋の扇風機「このタイミングで話しかけてくるとかないわー……。ホンマないわー……」
夏の扇風機「何やねん、それ。話しかけただけで、何でいきなりそないな事言われなアカンのよ?」
春の扇風機「あんなあ。俺らは今、人生について悩んでんねん」
秋の扇風機「そうや。お前なんか悩みあらへんやろが。俺らの深刻な悩み話したかて、お前、絶対わからへんやろ」
夏の扇風機「んな事ねーよ。悩みぐらい俺にもあるぞ」
春の扇風機「何やねん。どうせ贅沢な悩みなんやろ」
秋の扇風機「せやせや。何やねん。言ってみろっちゅうの」
夏の扇風機「俺しか働いてなくて辛い」
春の扇風機「」
秋の扇風機「」
冬の扇風機「働いたら負けと思ってる」ニヤリ
おしまい
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