新田美波「あなたと私の終末論」 (14)
・デレステで美波と小梅ちゃん引けたので
・書き溜めあります
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「終末論?」
「ええ、Pさんはどう考えますか」
新田美波の突然の問いに、モバPはうーん、と低くうなる。
「今週末は美波のミニライブだろ、そのあとは近隣の百貨店で流行調査と言う名のショッピングで、夜は打ち合わせと称した食事……」
「もう、わかっててそういってごまかすの、良くないところだって思いますよ」
美波は目に不満の色を宿す。色気のあるたれ目がチャームポイントの美波だが、そこにこういう色が加わると、なお魅力が増すように思える。
美波のもう、というあきれた声は破壊力抜群で、モバPは高垣楓と姫川友紀の3人で、誰が最初に美波にもう! と言わせるか選手権をやったことさえある。
「いきなり終末論なんて言われたって、そもそも終末論って何なのか良くわからないしなあ」
モバPの言葉に、美波は確かにそうですけど、と唇ととがらせる。
「先日、女子寮に遊びに言ったんです。そこで話題になって」
へえ、とモバPは相槌を打ったあと、言った。
「としたら、話題提供者は小梅かな」
「その通り」
二人は向き合ってふふふと笑う。
「その時の話、聞かせてもらおうかな。そうしたら何か考えがまとまるかも」
「はい、わかりました」
にっこりほほ笑んでから、美波はその日のことを話し始めた。
「ミナミ! 今日はこれ、見ましょう!」
目をキラキラさせながらアナスタシアが言う。その日はレッスン終了後に、寮で映画を見る約束をしていた。
美波はアナスタシアのこの子犬のような目、表情が何よりも好きで、思わずほほが緩む。
「これ……アルマゲドン。有名な作品だね」
美波がいうと、はい、とうれしそうにアナスタシアは笑う
「ロシアのコスモノート、あー、宇宙飛行士? が活躍するって聞きました。
それに、宇宙の話です。アーニャ、星、宇宙好きです。きっとおもしろい」
そうだね、と美波が相槌を打つ。ダー、とまたアナスタシアは笑みを深める。やっぱり好きだ、と美波は改めて思う。
「……え、映画、見るの……?」
細い声が聞こえて、美波とアナスタシアはそろって振り返った。
そこには同じ事務所で、女子寮住まいの白坂小梅が立っていた。
「うん、あ、もしかして小梅ちゃん、ここのテレビで見たいものがあった?」
2人は今、女子寮のフリースペースにおり、そこでは普段、アイドルたちが各々好きな時間を過ごしている。
他のアイドルが出たライブや番組の録画を見たり、借りてきた映画をみんなで見たり、そんなスペースだ。
ただテレビは1台のみで、周りに気を使いながら使用する必要がある。
美波の問いかけに、ううん、と小梅はかぶりを振った。小さくか弱い声は、守ってあげたい、と思わせるものがある。
「あ、あの……一緒に、見て……いい?」
「ダー! もちろんです」
「わぁ……あ、ありがとう」
不安げな小梅の表情がパァッと明るくなる。
思わず膝の上にのせて、抱きしめたくなる衝動に駆られた美波だが、アナスタシアが二人の間をポンポンと叩いて小梅を誘導したことで、我に返った。
ちょこん、と間に座った小梅がまたかわいらしく、アナスタシアと美波は顔を見合わせる。
そして、ギュッと間を詰める。わっ、と小梅が驚いたような、照れたような表情を見せる。これがまたかわいらしい。
地上に帰ってきて、抱き合う勇者たちを見て、ようやく美波は笑顔を取り戻していた。
とはいっても、泣き笑いのような表情だ。
美波は海洋学者の父親が大好きだ。
最後、地球のために宇宙に一人残った父、ハリーを自分の父親と重ねてしまい、終盤はずっと涙を止められずにいた。
それはアナスタシアも同じだったようで、鼻をすする音が隣から聞こえていた。
そんな二人を気遣ってか、珍しく小梅は袖から手を出して、二人の手を握っていた。
「……すごく、良かったね」
涙をふきながら美波が言うと、アナスタシアも同じように涙をふきながら、ダー、と答えた。
「ミナミ、ごめんなさい。ちょっとパパに電話してきます」
「うん、気持ちわかるよ。いってらっしゃい」
スパシーバ、と答え、アナスタシアは携帯を手にフリースペースを後にした。
「小梅ちゃんはどうだった?」
「う、うん……いつもは、ホラーばっかりだけど、こ、こういう映画もいいなって、思ったよ」
にっこりとほほ笑みながら、か細い声で小梅は言った。
「み……美波さん、アーニャちゃんが戻ってくるまで、お、お話しよ?」
ええ、もちろん、と美波が答えると、ほっとしたように息をもらしながら小梅はまたにっこりとほほ笑んだ。
「美波さんは、この映画みたいに、明日が最後の日ってなったら、ど、どうする?」
うかがうように小梅が訪ねる。
「うーん、考えてもみなかったな」
唇に指を当てながら美波はうなる。考え事をするとき、人差し指を唇に触れさせるのは、美波のくせの1つだ。
「しゅ、終末論、って言うのかな。この世の終わりにどうするか……どう裁かれるか……」
小梅の目は真剣そのもので、その目を見て、いい加減に答えるわけにはいかないな、と美波は思った。
「わ、私は、ゾンビになってみんなびっくりさせたいな、とも思ったんだけど……みんな滅んじゃったら無理だもんね」
悩んでる美波を見て、小梅が言った。助け船のようで、助けになってないような……そんな様子が愛おしい、と美波は思う。
目を閉じ、改めてうーん、と美波は小さくうなった。
「よし」
パッと目を開け、美波は小梅の目をじっと見つめる。
「大切なお友達と手を取り合って、大丈夫、明日は来るってお互いに励ましあおうかな」
うふふ、と美波は笑った。
「そのときに、一緒に手を取り合うために、今いる大切な友達を大事にしたいな。さっきは手を握ってくれてありがとう、小梅ちゃん」
美波の言葉に、小梅はかぁっと顔を赤くする。この愛おしい小さな友達を大切にしようと、美波は改めて思った。
「ミナミ、コウメ、おまたせしましたっ」
ちょうどきりの良いところで、スッキリした表情でアナスタシアが戻ってくる。
「あー、二人は、なに話してましたか」
アナスタシアの言葉に美波と小梅は顔を見合わせ、うふふ、と笑う
「ナイショ、かな」
「むー、ミナミ、ひみつ、よくないです。アーニャも、混ぜてください」
アナスタシアは唇を尖らせる。その表情がまたかわいらしく、美波と小梅はまた一緒になって笑う。
今度は小梅がポン、とソファーを叩き、一緒にお話しよ、と促した。
「なるほど、そんなことがあったのか」
ふんふん、とうなずきながら聞いていたモバPは言った。
「アルマゲドンは名作だよな。俺も何度も見たよ。初公開の時はまだ子どもだったけどな」
「私もあの後、パパに電話したんです。そしたら、美波も良さがわかる年になったんだな、って感心してました」
少し誇らしげに美波が言った。
「それで……えーっと、終末論かぁ」
想像もつかないな、とモバPは考え込む。
考えるときは、きちんと考える。冗談をいう時は冗談をいう。メリハリのある人だ、と美波は思う。
プロデューサーという多忙で、いつも何か重要な案件を抱えているにも関わらず、こういったちょっとした話題にも真剣になってくれる。
アルマゲドンを思い出しながら、この人をパパに紹介したら、どんな反応をするかな、なんて美波は考えていた。
そして、何を考えているんだ、と赤面する。
「あれ、顔赤いけど大丈夫か」
「ふえっ? あ、だ、大丈夫です」
指摘され、素っ頓狂な声が出る。それがさらに美波の顔を赤くさせる。
「ちょっと考えてみたよ」
少し茶目っ気のある顔をしてモバPは言った。
「俺と美波の終末論」
「えっ、あの、それはどういう」
いきなり変なことを言われたものだから、美波は耳まで真っ赤になっていた。
「プロデューサーとアイドルの終末論、つまり、引退だ」
モバPの言葉に、美波はなんだあ、と正直がっかりした。
そして、何を私はがっかりしているのだろう、と改めて赤面する。
と、同時に、さっきのいたずらっ子みたいなモバPの表情を思い出し、からかわれていることに気づく
「もう!」
美波の言葉に、待ってましたとばかりにちょっと意地の悪い笑顔をモバPは見せた。
「ごめんごめん。みんなのお姉さんの美波も、大人にはかなわないな」
「小さい子たちは大人と違って意地悪しませんから」
ぷくっとほほを膨らめて美波は言った。
あざとく見えてしまいそうな表情も、美波ほどかわいらしい女性がすると、まったくそのようには見えない。
「で、聞かせてもらえますか。その終末論」
わざと不機嫌な声で美波が言う。真面目に言わないと許しませんよ、と声色が言っている。
「アイドルを引退するとき、どう思われるアイドルだったら幸せかなって思ってな」
美波の声にこたえるように、モバPは真剣な顔をして語り始めた。
「アイドルの引退っていろいろあるだろ。年齢、結婚、まあ良くはないが、不祥事。
中には引退を宣言しないまま消えていく人もいるし、タレントや女優に転身する人もいるよな」
モバPの言葉に、美波はうんとうなずいた。
「まあ、一番は消えていくのが多いかな。ツライ話だけど」
確かに、引退を宣言する芸能人は少ないかもしれないな、と美波は思う。
「まず、そんな終わり方はいやだなって思う。不祥事なんてもってのほか」
はい、と美波はうなずく
「引退って、ある種、最後の審判みたいなもんだよな」
「神様ではなく、多分、ファンの皆さんが審判されるんでしょうね」
「その通り。最後、引退をするとき、ファンにどう思われて去りたいか、それを考えるのが、俺らの終末論かな」
なるほど、と美波はつぶやき、考え込む。ファンにどう思われたいか……
「終わりって考えるから難しいんだと思う。こんな風に思われたいって、ある意味理想だろ?
なら、終わりじゃなくて、アイドルとしての目標を考えればいい」
「それなら、考えやすいかも」
うなずきながら美波は言った。
「俺の仕事は、美波の目標を達成させるために全力で協力すること。
それで、悔いなく最後までやりきらせることかな。これからも、二人三脚だ」
美波の目を見て、力強くモバPは言った。
やっぱりこの人がプロデューサーで良かった、そう美波は思いながら、よろしくお願いします、とぺこりと頭を下げた。
「うん、こちらこそ、よろしくな」
満足げに、そしてちょっとドヤ顔をしてモバPはこたえた。
むっとしたわけではないが、なんとなく意地悪をしたくなった美波は、立ち上がり、モバPの耳元でできるだけ意味深長に呟く。
「美波のこと、幸せにしてくださいね」
囁いた耳元が真っ赤になるのを確認して、美波は心の中でガッツポーズをした。
この人は人をからかうくせに、からかわれるのには弱いみたい。
アイドルとプロデューサー、どんな終末を私たちは迎えるんだろう。そして、その先はあるんだろうか、と美波は思う。
でも、まずは今週末、ライブにショッピングに食事、それを楽しもう、そう思いながら美波は部屋を後にした。
終わり
引けた(SRとは言っていない)
短めですが、ありがとうございました。
終末もだけど月末がこわい。
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