― 家 ―
アナウンス『本日のあなたの朝食を指示いたします』
アナウンス『トースト一枚、コーヒーは一杯。砂糖は一袋お入れ下さい』
アナウンス『これで、あなたさまは最上級の健康を得られます』
男「……」モグモグ
男「……」サッサッ
男「……」ゴクゴク
男(くっそぉ、なんて味気ない食事なんだ……)
アナウンス『AM8:00になりました』
アナウンス『時速5kmにて、職場まで通勤下さいませ』
男「はいはい」ガタッ
アナウンス『不満に思ってはいけません。全てを指示に委ねるのです』
アナウンス『この指示に従ってさえいれば、あなたは最上級の幸福を得られるのですから』
男「うるせえっ!」
アナウンス『私の声は“女王様”の声です』
アナウンス『これに逆らうのであれば、あなたには最上級の重罰が――』
男「黙れっ!」
男「最上級、最上級って、極端なんだよ! 程々が一番だってなぜ分からねえ!?」
男「俺はやるぜ!」
男「この完全管理社会をぶっ壊す!」
― 町 ―
男「うおおおおおっ!」スタタタッ
憲兵「貴様! 速度違反だ! 女王様のお声に逆らうのか!」ガシッ
男「ぐっ!?」
市民A「あいつ終わったな……」
市民B「女王様の声に従えば、最上級の幸福を得られるってのに……」
市民C「バカな奴だ……」
男「みんなぁっ!!!」
男「生活のなにもかもを指図されて、本当に満足なのか!?」
男「これが人間の暮らしといえるのか!? こんなものが本当に幸せといえるのか!?」
男「最上級なんか求めず、程々でいいじゃないか!」
市民A「たしかにその通りだ……!」
市民B「俺たちは間違っていた……!」
市民C「ありがとう……!」
男「はやっ!」
憲兵「どうやら、ワシは……仕えるべき主人を間違えていたようだ……」
男「みんな心変わり早いな~!」
男(心変わりの早さも最上級になってたってことか……。おかげで助かったけど)
ザワザワ…… ガヤガヤ……
男「瞬く間に大量の仲間が集まった!」
男「今こそ女王のいる城に乗り込んで、革命を起こすぞ!」
男「程々こそが最良だと、女王に分からせるんだ!」
オーッ!!!
― 女王の城 ―
女王「神聖なる我が城に、土足を踏み入れるとはなにごとか」
男「うるさい! 俺たちはもう、あんたに従う奴隷じゃない!」
女王「私の声に従えば、お前たちは最上級の幸福と快楽を得られるのだ」
女王「それがなぜ分からぬ?」
男「なぜなら……俺たちは人間だからだ!」
女王「くっ……!」ガクッ
男「人間ってのは本来、自由で……え!?」
女王「私がなにもかも間違っていたというのか……!」
男「早いよぉ~、もうちょっと粘ってくれても」
女王「すまんな。他人から反抗されることに免疫がないのだ」
男「対女王理論武装カンペ、もういらないな」ポイッ
ワーワー! ワーワー!
「女王は死刑だ!」 「八つ裂きだ!」 「最上級の苦痛を与えろ!」
男「まあ、待て待て。みんな、待ってくれ」
男「俺のモットーは程々だ。死刑にするのはあまりにも可哀想だ」
男「というわけで、ここは俺が女王と結婚するというのはどうだろう?」
市民全員「オッケーです!!!」
男(最上級の扱いやすさだな、こいつら……)
男「さ、結婚しよう」
女王「はい……一生ついていきます」
男(さっすが最上級が大好きな女王だけあって、美しさも最上級だ。むふふ、やったぜ!)
こうして、男による“ほどほど統治”が始まった。
男の程々さと女王の厳格さがうまく融合し、
この国はまさにこれから最盛期を迎えることになる。
男(ふっふっふ、これでやっとあのアナウンスに従い続ける生活ともおさらばだ!)
男(今までやりたくてずっとできなかったことが、やっとできる! それは――)
男「コーヒーに砂糖をドバドバ入れまくること!」サッ
女王「あなた」
男「!」ギクッ
女王「お砂糖は、程々に」
男「……はい」
~おわり~
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