友「男同士の!」男「約束な」 (61)
教室
「信じられないっす」
男「どうした?」
友「なんかさ、うん、何かアレなんだよ」
友「今日で卒業なんだって…実感湧かない、うん」
男「……」
友「クラスの皆と明日には、もうこの教室で絶対に集まらないとか」
男「ああ、そう思うことが出来ないと」
友「うん。お前は?」
男「全然、思いっ切り卒業感を味わってる。ごめんな」
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友「なんで謝るんだよぉ」
男「いや、何となく。一足先に卒業してる感を味わったから申し訳なく思えた」
友「律儀に謝るんじゃないよ、まぁでもお互いに無事卒業おめでとうだな」スッ
男「ん」スッ
パシン
男「ハッキリ言って俺はお前が受験合格できるのか最後まで疑ってた」
友「まーな、俺も超不安でしたー」
男「隣町だったか」
友「寮制な。何時でも遊びに来ていいぞ」ニッ
男「行けたら行く」
友「ばか、来るんじゃないっての! 色々と面倒らしいぞ、俺の行く学校は!」
男「知ってる。あんな学校よく合格できたモンだ」
友「ともあれ、こうやって直接会話できるのも…少なくとも三年間は無いってことよ」
男「そうだな」
友「…俺不安で死んじゃうかも」
男「そんなタマじゃないだろ」ガタリ
友「男は不安じゃない? 新しい学校、新しい生徒、新しい環境ってさ」
男「……」
友「あ、ほら。お前って元は転校生じゃん? そういうのってどうだったん?」
男「元も何も最初から最後まで転校生だったろ」
友「いーじゃん細かいことは、んで? 不安とかなかった?」
男「……」
男「少なくとも友。お前が感じる程度の不安なんて、高が知れてる」
友「へっ?」
男「もう帰るぞ。これ以上残っても時間の無駄だ、帰ってお人形作りしたい」スタスタ
友「おいおい、なんだよー色々と冷たくないそれぇー!」
男「冷たくない」がらり
友「んだよ~…」
男「…じゃあ最後に神社に行くか」
友「お? あの神社行くの?」
男「ん、最後に」コク
友「そんな悲しいこと言うなって、中学生最後に、って言いなさい」ニッ
~~
男「…何を願ったんだ?」
友「そりゃモチロン、順風満帆な学校生活あ~んどバラ色の人生!」
男「あぁ…そう…」
友「興味惹かれない願いでごめんね!」
男「俺は普通を願ったよ。普通に過ごして、普通に卒業する」
友「身体でけぇクセして相変わらず、望みがちっちゃいのな」
男「小さいほうが良い。扱いやすいし、可愛いのが多い」
友「面白いことを言うな…」フム
男「そういやクジがあったな、それも引いていこう」スタスタ
友「おー?」スタスタ
男「百円は?」
友「持ってません!」
男「ん、じゃあ俺が出す」チャリンチャリン
友「いつもすんませんなぁ~」
男「気にするな、友の分を出すのは嫌でも慣れた」ガラガラガラ
友「お、お前が最初の頃に、俺に払わせないと自殺してやるとか言うからだろ…」
男「そうだったっけ? お?」コロン コロン
友「十八番と、二十八番」
男「俺こっち、お前そっち」
友「いっせーのーで! で、開けような?」
男「凶だった…」ガサリ
友「オイ! え? 凶? ぶっはー! 幸先悪っるぅ~!」プークスクス
男「…お前は何だったんだよ」
友「そりゃ勿論男さん、持って生まれるべき運を」
男「さっさと開けろ」
友「へい…」ガサリ
男「……」
友「…俺も凶じゃん…」
男「ま、まあそんな事も…あるよな…」
友「あっていいの? これから高校生なるって時に凶であっていいの?」
男「今から尻上がりだと思えば…」
友「うわぁあぁあぁあ! やだやだやだ! やっぱ卒業やだこわい!」
男「ほ、ほら、これを見てみろ」ガサリ
友「うぇっ?」
男「クジの内容に、たまに『これを守れば大丈夫』と書いてることがある」チラリ
友「ふむふむ」
男「例えばお前の紙には──」
『友と分かつ時、色恋求めんとする者死して裁かれる也』
男「と、書かれてる」
友「よく分からないけど思いっ切り不吉なこと書いてるだろ、コレ」
男「わからんぞ。こう読める可能性もある、『友と別れる時、色恋求めた場合の時は相手は死ぬ』」
友「どっちが!? 好きになった方!? それともお前が死んじゃう系!?」
男「取り敢えず友の死は免れたな…」シュン
友「自分で言って落ち込むじゃないよ! ったく、よく分からんドツボはまるなよ…」チラ
友「ちょ、待て、あれ?? お前のも同じこと書いてないコレ?」
男「あ、本当だ」ガサ
『友と分かつ時、色恋求めんとする者死して裁かれる也』
友「マジかよ…」
男「どうやら俺ら、どっちか恋すると死んじゃうらしい」
友「こぇーよこの占い、なに、許されるの? こんな事書いちゃってて神様に許されるの?」
男「まあ、凶だし、面白み出すために神主さんが適当に書いたんだろうな」グシャッ
友「そういうモンなの…だぁー!? おまっ、なにやってんの!?」
男「潰しちゃダメだった?」キョトン
友「ダメだろダメダメ!」
男「すまん…こういったことは確かに罰当たりかも知れないな…」
友「ばっか違う、鼻紙ぐらいには使えるだろ! 勿体ない!」
男「あぁ…そう…」
友「ほらその紙、貸してみなさい! チーンするの、ほらチーン!」
男「お前、本当に金持ち学校で暮らしていけるのか…?」
友「何っ? お、お前まで急に嫌なこと言うなよ…! や、やめろ! 不安を煽るんじゃない!」
男「……」
男「やっぱり、この紙は大切に取っておこうと思う。友も、ほら財布に入れてくれ」
友「どしたよ急に?」
男「正直、俺も不安なんだ。新しい高校に馴染めるか、見知らぬクラスメイトとやっていけるか」
男「それに、」
友「それに?」
男「俺にはこの『趣味』がある…」
友「……」
友「それがなんなの?」キョトン
男「…だからな?」
友「別にいいじゃん、俺はその趣味好きだし」
友「──胸はって自慢しろって、お前は、凄いんだってさ」ニッ
男「そう、言うのは友ぐらいだろ…」
友「んじゃ見つけろ。新しい学校で、お前の趣味を一緒にすげぇーって言ってくれるやつをさ」バシバシ
男「……」ポリポリ
友「ま! その相手が仮に女の子だとして、好きになったらお前死んじゃうけどな!」
男「………………」
友「うむ、確かにそう言った意味では大切に持ってる必要があるな…この紙は…」ガサリ
男「う、うーん、そう言いたかったワケじゃないんだが…」
友「俺なんて、死んでもいいから恋しちゃいそうだわ、うん、そんな感じする」
男「馬鹿なことを言うんじゃない、冗談でも怒るぞ」
友「恋に熱い男だと思ってくれい。だがしかし、怒られるのは嫌だな」ヒョイ
男「あ、おい!」
友「にひひ」
友「──だからお前のと俺の、占いの紙を交換だ!」
男「は?」
友「こーなると、俺が恋した場合にお前が死んじゃうことになる」
友「そしてお前が恋すると俺が死ぬことになる、どうだ? 天才的だろ?」
男「…確かに天才的だな、ある意味で」
友「褒めろ褒めろ」
男「すると、なんだ。友は俺が死ぬと思えば、恋はしないと言うんだな?」
友「ああ、しない。だからお前は俺に死んでほしくなかったら、恋をするんじゃない」
男「随分と勝手なことを言う」
友「それが友さんだ。よし、男同士の約束をしよう」
男「待て待て、話を勝手に進めるなって」
友「おーっと? 現実主義者の男君、まさかの占い結果を信じるのかー!?」
男「お前は一体、何がしたいんだ結局…」
友「んー、だから約束だよ男」
男「…約束?」
友「俺らはずっと友達って奴だ」
男「…」
友「友と分かつ時、恋をすれば死んじゃう。これを守り続けられるなら、俺らはずっと友達」
男「あのな友。そんなのただの占いだ、何も本気で、」
友「俺は信じる」
男「……」
友「ゴメンな。俺はそんなたかが占いなんて奴を信じたい奴で、馬鹿な性格なんだよ」ニッ
男「…知ってる」
友「おう! 逆を言えば、こんな占い程度を信じていられれば!」
友「多分だけど新しい学校も怖くないと思える、どうだ、素晴らしい案だろう?」
男「……」
男「正直に言う、お前は馬鹿だ」
友「知ってる!」ニコニコ
男「そこまで思い詰めてるとは知らなかったし、こんな紙切れを卒業まで大事にとっておく神経が分からん」
友「とっとけ言ったのはお前だろー!」
男「ああ、だから俺も信じる」スッ
男「そうまで言い切るなら乗ってやらんでもない、恋はしない、だから友達だ」
友「破ったら死んじゃうんだぜ?」
男「どんと来い、それぐらい罰がないと盛り上がらん」
友「燃えるね」
男「悪く無いだろ?」
友「……」
男「……」
友「よし、じゃあ指きりげんまんだな!」
男「嘘だろ…この年で…?」
友「他に約束する方法あるか?」
男「無いな、うん」
じゃあ指きりげんまん、嘘ついたら、恋したら?
そうそう、恋したらー針千本を飲ますどころか殺しちゃうぜコレ、確かに。
──恋をしたら、相手をこーろす、ゆびきりげんまん!
~~~
先生「えー、それじゃあ次の人どうぞ」
男「はい」ガタリ
男「出席番号七番、男です。好きなモノは」
「うわ、でけぇな」
「何センチだろ?」
男「色々食べます。後、中学の頃は一度も部活は入ってません」
「なぁアイツ誘ってバスケ行こうぜ、先輩たち喜ぶって」
「にしてもありゃ百八十超えてるだろなぁ…」
男「以上です」ガタ
男(予想通りの反応だ、転校続きで自己紹介の機会に恵まれた俺に精神的隙はない)
男(無難に無難。第一印象で変に目立つなら、身長と体格だけでいい)ウム
先生「それじゃ次、後ろの人どうぞー?」
「うぃっす、あのせんせぇ、自己紹介の前にちょい良いっすかね」
先生「はい? どうぞ?」
「じっつはー前の超デケェやつがジャマで、全然前が見えないんっすよ」
先生「あ! えっと~そういうのは、皆の自己紹介が終わってからちゃんとしますので…」
「え~今やってくんないと、今の時間にウチだけ皆の顔覚えらんないですけど~」
男(『ウチ』…?)チラ
「お」
男「ああ、すまん。邪魔だったな」ガタ
「すげー邪魔っつか、目の前に山がある感じだわ」
男「なら席を変わろう。先生、今だけなら構わないですよね?」
先生「あ、うん。君が良いって言うのならぁ…」
「あんがと! 助かったぜ!」ガタ
男「別にいい」ストン
「慣れてるから?」
男「ん、それもあるな」
「ふーん、デケェ身体と一緒で性格もだだっ広いのな」じぃー
男「まあな」コク
先生「あの~自己紹介の方を~」
「おっと忘れてた。えー出席番号七番、名前は」
女「女っていいマース、以後ヨロシク!」
男(…えらくハキハキ喋るというか、初めて見るタイプの女子)
~~~
ザワザワ ガヤガヤ
男(さてhrは終わった。後は家に素直に帰るか、なんて選択肢が一番なんだが…)キョロ
男(完全に部活動勢にマークされてる。この手の奴らは、本当にいつも同じことをするなぁ)
男「ハァ、今回はなにを理由に断るか…」ガタリ
女「よぉー!」
男(ん? あぁ後ろの席だった娘…)
男「どうした?」
女「もう一度、お礼言っとくべきかと思ってさ。さっきはあんがとな!」ニッ
男「え? ああ、別に、何度も礼を言われるようなことしてないと思うんだが…」
女「……」ジッ
男(なんだ、急に黙って)
女「やっぱそうだよな、ウチもそう思ってるんだけど女友がうるさくって」タハー
男「…」チラ
女友「ばかー! ネタバレすんなあほー!」ヒソヒソ
男「自分に正直なんだな、君」
女「うむ。よく言われる、ウチもそう思う」コク
~~~
男「明日には席替えのくじ引くし、俺も気にしてないから」
女友「で、でもね? 女が、hr中に馬鹿でかい声で失礼なことを君に言ったかなって…」
女「バカってなんだよ、バカはヒドイだろぉ」
女友「女は黙ってて! 私が勝手に変に気を使っちゃったのなら、ごめんなさい」ペコリ
男「い、いや、本当に気にしてないんだ。そこまで謝られても困るというか」ペ、ペコ
女友「あ、本当にっ? ごめんね、何度も謝っちゃって…」ニコ
男「……っ」
男(なんだこのかわいい生物、小さい、コロコロ表情変わって実にいい娘だ)ほくほく
女「──女友にゃ彼氏居るぞ、中学の時からな」ボソボソ
男「っ!?」ビクン
女「間違っても惚れるなよ。あとで、後悔する」グッ
男「そのサムズアップなんだ…」
女友「お、女ってば! 余計なコトは言わないでいいから!」アタフタ
女「余計なことって何だよ。これは、あんたの為を思って言ってやってるのに」
女友「それが余計なお世話だって言ってるの!」
男(彼氏が居るのは本当っぽいな。いや、別に残念じゃないんだが、可愛いし居て普通だな)
男「その彼氏って、どんな奴なんだ。この学校に居るのか?」
女「ほら、さっそく口説かれてるぞ」
女友「えっ!?」ビクーン
男「ち、違う! 話題になればいいと思って言っただけであって…!」
女友「あ、そうなんだ…」テレ
女「なぜ照れる?」
女友「べ、別に良いでしょ! 変なことを女が言うからじゃない!」カァー
男(かわいい)
男「言いにくいことなら、無理に言わなくていいからな」
女友「そ、そお? じ、実はちょっと恥ずかしいというか…うん…ごめんね…」モジモジ
男「気にしないでくれ。単純に話題の振り方がヘタな俺が悪い、うん」
女「そうだな、こいつが悪い」
女友「男君は悪くないよね、ややこしくさせた女が全部悪いと思うんだけどっ」
女「そうなるの?」チラ
男「…俺に訊くなよ、自分で考えてくれ」
女「わかった。ん、ウチは悪くない!」
女友「もっと考えて! このた、短絡思考!」
男(ああ…馬鹿と言わないよう言葉を選んだんだな…健気な子だ…)
男「取り敢えず、俺は気にしてないということで」スッ
女友「あ、うん! ごめんね、初対面なのに騒いじゃって…」
男「別に良い。欲を言えば、これからも気軽に話しかけてくれたら、こっちも嬉しいから」
女友「ほんとっ? 優しいんだね、男君」ニコ
男「ん…ただ単に、女の子と仲良く出来るなら男としていいなと思うだけで…」ポリ
女「……」じぃー
男「あとこの図体だからな、普段は怖がられるんだ。それとそんな目で俺を見るんじゃない」
女「どんな目?」キョトン
男「…」
女「んっ?」ニッ
男「何でもない。じゃあな、また明日に」フリ
女友「あ、うん! ほら女も最後に謝って!」
女「何度も謝るほうがめんどくさいだろ…気にするなって言ってるんだから」
女友「そうだったとしても、最後ぐらいは真面目に謝ってもいいでしょ!」ぐいぐい
女「ウチは何時だって真面目だ、真面目に自分勝手に生きてる」コク
男「本当に自分に素直だな、お前」チラ
女「おっ?」ピクン
男「…なんだ」
女「にひひ」
女「なんでも無いって、気にすんな」フリ
男「?」
女「一応、謝っとく。デカ男と急に呼んでゴメン、これからそう呼んで良い?」
女友「女ぁーっ!」
男「……」
男「ハァ、好きに呼んでくれ」
女「りょーかーい」
男「じゃあな」
女「ん、またな」ニッ
男「…またな」
ガラリ ピシャッ
男(大雑把な性格だと思えば、別れの言葉を気にするのか)スタスタ
男(少し、だけ。似てるな、アイツに)
男「……」スッ
男(そういや同じ日が入学式だったが、友のやつ、上手くやってるだろうか)
□□□
友「うぼぉ~…デケェ門だねぇ…」ポケー
友(しかも豪勢な装飾だよ。これが校門だって言われて誰が信じるよ、俺は信じないな)ウムウム
友「そういや鉄って舐めると、血の味がするんだっけ」くんくん
「──酸化した鉄が血中のヘモグロビンと同じ、有機化合物であるからね」
友「ほっ?」クル
「つまり鉄分を含んでいるために、血は鉄の味がする」
友「なんと、こりゃまた博識な人が現れたもんだ。まったく驚いたぜ」
「いやいや、僕としては入学当日に校門を舐めようとしてる人がいるほうが驚きだよ」
友「確かに」
「うん」
友「突然だけど、思うに今の発言は少し語弊を生むんじゃないかな…?」
「うん?」
友「校門を、舐める…」
「ああ! 確かに! アッハッハッ! こりゃ失礼なことを言ってしまったね、すまない」
友「とんでもない、本当に校門を舐めようとしてたんだから」
「くっくっくっ、しばらく思い出し笑いしそうだ…」
友「えっと、初めまして。俺の名前は友っていいます」スッ
金髪「初めまして。僕は金髪、君も入学生なんだろう?」グッ
友「一応ね」
金髪「? どういう意味だい?」
友「…少し気が滅入ってる、まさかこんなに大きいとはってさ」ポリポリ
金髪「あぁ、校門が?」
友「そうそう。これだけ大きいなら、在校生のデカさはどんだけだよってね」
金髪「ぶふぅー! ちょ、やめてくれ、ノッたのは僕だけど、くっくっくっ」
友「いやぁ此方としてはウケてくれたみたいで、ありがたい。本音を言えば賭けだったから」
金髪「ジョークはゲスいのも寒いのも、受け入れてしまうタチでね」ニコ
友「ほほう、ウケなのにタチと…」
金髪「ぶほぉっ!」
友(笑い上戸だなこの人)
金髪「いやぁ、少し心配だったが、君みたいな同級生が居るなら安心するよ」ゴシゴシ
友「というと?」
金髪「見ての通り、この学園は気品溢れるお金持ちの学校だ」
友「うむ」コク
金髪「するとそれに見合った子供たちが集う。当たり前だろ?」
友「世の中の常識だと思う」
金髪「僕はそういった人間が苦手でね。言い換えれば嫌悪してると言っても良い」
友「ははぁ、何故そこまで?」
金髪「一種のレッテルを信じてる人間が嫌いなのさ」
金髪「金持ちだから、親が偉いから、親族が有名人だから、」
金髪「だからこの学校に入る、そう決められたかのように入学した人間に虫酸が走る」ニコ
友「なるほど、では、俺はそうじゃないと?」
金髪「違うね。君はある程度、無茶をしてここに入学を決めたはずだ、違うかい?」
友「ご想像に任せる」
金髪「ふふ、じゃあ勝手にそう思ってくよ。つまりは、君みたいなハードルを超えて来た人が僕は好きなんだ」
友「自暴自棄な輩が好きなんて、親に将来を不安がられてないか?」
金髪「言っただろう。僕はゲスいジョークも、寒いジョークも、大好きなんだって」
友「…もしかして俺の事自体を笑われてる?」
金髪「どう思う?」
友「正直な人は嫌いじゃない」
金髪「僕もだ」
友「くすくす」
金髪「ふふっ」
友「なんだか仲良くなれそうな気がしてきたぜ、同じクラスになれたら良いな」
金髪「なれない方が面白く無いかい? 僕は君とある程度の距離感で仲良くなったほうが楽しいと思うけど」
友「そうでもない。近くにいたほうが短時間で仲良くなれるし、親密度も上がるってもんだ」
金髪「なるほど」
友「そして直ぐに嫌いになれる」
金髪「くっく、ごもっともだ」クスクス
友「最後に一つ、あんた友達少ないだろ?」
金髪「そうともさ。それに比べ、君は多そうだね」
ガチャ キィ…
友「三年間よろしくな」
金髪「こちらこそ、こんな僕で良いのなら」ニコ
~~~
『成績優秀特待生、壇上へ』
友(んがっ? やべ寝てた!)ビクン
金髪「はい」ガタ
友(おろ? おお、すげぇなあの人、試験で一番だったのか)
「ほら聞いたかしら、あの噂…」
「ええ、あれでしょう? 学園長のお孫さんだという…」
友(既に有名人なのね。こりゃ大変だわ、うん)ポリ
金髪「この度は、我々入学生一同。この学園に───」
友(あー同じクラスになれたらな良いな、少しだけ似てるんだよな、アイツに)
友(変に斜に構えてて、物事を素直に見ない性格。くすくす、そっくりだぜ)
友(少しイタズラをしてやろう)コソコソ
金髪「──良き生徒の見本となるよう、」チラ
友(おーい)フリフリ
金髪「すばっ! 素晴らしい経験と、学びを──」プイッ
友(くっく、校門の下りを思い出したな。よしよし)ニヤニヤ
金髪「ご、ごほん!」
友(俺も色々と不安だったけど、なんとかやっていけそうな気がした)ウズッ
友(これでもかってぐらい楽しい学園生活を送ろう。うむ、実に楽しみだね)
友(…お前もがんばれよ、男)
『有難うございました。次に、』
友「ん?」チラ
友(もう話終わったのか、早いな)
スタスタスタ
金髪「……」チラッ
友「…?」
金髪「……」ピタ
金髪「──ちゅっ」バチコン☆
友「!?」
ざわざわ がやがや
友(投げキ、ッスとか。何時の時代の人ですかって、えらい様になってたけど)ニ、ニコ
金髪「クスクス」
「今、見た?」
「誰に向かってやられたのかしらっ?」
友「はぁ…いやはや…」
友(また不安になってきた、ははっ、いや楽しみだけどさ…うん…)ニッ
~~~
「皆様、お早う御座います」
友「おはようご…ザイ…マス…?」ピタリ
友(あれ!? みんな担任に挨拶返さないの!? 静かに礼を返すだけってオイ!)
「今日は無事に入学式も終わりましたので、各生徒の皆様は、配られたプリントの通り──」
友(これか、学園寮の地図。これだけ生徒が居て一人部屋だもんな、すげーよほんっと)
「それはで皆様、ご機嫌麗しゅう」
友「…」ペコリ
『ごきげんうるわしゅう』
友(これは言うんかい!!)
友(…にしても、やっぱり同じクラスじゃなかったか)キョロ
友(後でどのクラスか確認しに行こう、後どの部屋なのかとか)
~~~
友(なんでどのクラスにも居ないんだよ、探しても)
友(仕方なく一回自分の部屋を見に来たけど、この寮広すぎるだろ)
友「えっと、確かこの部屋だよな」
友「鍵は、あれ?」スルリ
友「……おじゃましまーす」ガチャ
「おや、君の部屋なのに一声かけるなんてどうしたんだい?」
友「……」
金髪「やあ」ニコニコ
友「うん? あれ? ここ、俺の部屋だよね?」
金髪「そうだよ」
友「なんで、居るわけ?」
金髪「勿論、僕の部屋でもあるからさ」
友「ホワイ!?」
金髪「これが学園長の孫としての特権だよ」クス
友「おまっ、七光キライ言ってたクセに…?」
金髪「自分には甘いんだ」
友「激甘過ぎないか…」
金髪「性格にはお爺ちゃんが、僕に甘すぎる。親族がドン引きするぐらいね」
友「……」
金髪「良いから入りなよ、今日からここが君の部屋なんだ」
友「いや、その」
金髪「遠慮はいらないさ、ほら」くいくい
友「待ってくれ。本気で言ってんの? 今日から? 相部屋って?」
金髪「なにか不満でも?」
友「そりゃあるよ! 男の子だもん! ある意味、一人部屋って所に惹かれてこの学校えらんだし!」
金髪「それは残念だったね…」
友「憐れむな憐れむな」
金髪「これもまた人生にとっての試練だよ。君ならきっと乗り越えてくれると思う、僕はそう信じてる」
友「躱せる壁は躱すに越したことないと思うんだけどなぁ!」
金髪「ふむ。君の一人部屋の欲は、予想以上に確固たるものらしい」フム
友「な、なんだよ」
金髪「いいことを教えよう。大事な話だ、知っておいて損はない」ガタリ
金髪「この学園は世俗的なモノから隔離された場所なんだ、知っていたかい?」スタスタ
友「ま、まあ…ある程度は…」
金髪「パンフレットにも書かれてるからね。大分オブラートに包んだ書かれ方だったけど」カチカチャ
友「それが?」
金髪「つまりは電話が無い」
友「へ?」
金髪「あと携帯も持ち込み禁止」
金髪「据え置き型の電話もあるが、各クラスの委員長と教師、学園長の許可をもらって使用ができる」
金髪「ちなみにpcもあるけれど、それは電話を借りるレベルじゃないぞ。軽く紙束が出来るぐらい許可書が必要になる」ニコ
カチャ カチャ コポコポ
金髪「外部との連絡、または近況報告をしたい場合。手軽に行えるのは手紙に絞られるだろうね」
金髪「しかし、それでも、内容は監察官に読み通しされる。そう、まるでこれは…」
友「…監獄じゃないか」
金髪「ずずず、当たり」
友「あり得る、のか? そんなこと今の御時世…」
金髪「信じられなくてもそのうち経験をする。一人暮らしをするのならね」ニコ
友「……。一人じゃなきゃそうはならないってか」
金髪「ある程度は自由にするよう図らうとも」
友「……」
金髪「信用してくれていい。僕は、きっと君には嘘をつかない」
友「…なんでそう言い切れる?」
金髪「友達になりたいから」
友「たったそれだけ?」
金髪「君はそうかも知れないが、僕にとっては重要な事だよ」
友「ここに、一緒に住むよう学園長に頼んだのも?」
金髪「勿論、君と仲良くなりたいから」
友「……」
金髪「疑ってるね。単純な人かと思ったが、案外慎重な性格なんだ」
友「一つ訊きたい」
金髪「どうぞ」
友「この学園はもっと沢山の制約つーか、いっぱいの規則があるんだろうと思う」
金髪「…」コク
友「その一つ一つを、あんたはどうにか優しいモンに変えることが出来るんだろう」
友「だから訊いておきたい。じゃあ何で最初に、外部の連絡等の規則を教えたんだ?」
金髪「ほほぉー」キラキラ
友「……」ピク
友「はぁ、やっぱ調べたのか。俺の家庭環境とか…」
金髪「流石に出会って間もない人を信じきることは出来ないさ、うん」ニコニコ
友「…」
金髪「君にとって重要な点は【外部との連絡のみ】だと思った。それが答えだよ」
友「そうか、なら滅茶苦茶合ってるよ、それ」
金髪「うん」ニコ
友「本当に出来るの? そういったこと、簡単に実家と連絡できるとかさ…」
金髪「嘘はつかない。やると言ったら、やる」
友「…ホントに?」
金髪「本当さ」
友「あぁ、ならさ、うん。良いよ…わかった…それでいい…」クッタリ
金髪「本当に! ありがとう! 大好きだよ、我が友よ!」キラキラ
友(いい笑顔だなあんた…)ホロリ
金髪「何やら脅してしまったようですまないね。ほら、君も紅茶を飲んで気分を和らげるんだ」コポコポ
友「俺、紅茶なんて飲んだこと無いぞ…」
金髪「美味しいよ」
友「…ん…」ズズ
金髪「どうだい」
友「…美味いとしか」
金髪「ふふーん、だろうだろう」
友「ひ、一つ言っておく。俺は連絡等でしかあんたを頼らん、他はどうにかしていくからなっ」
金髪「遠慮しなくていいのに」
友「嫌だ。俺が遠慮なく頼んでも苦にならない相手は、たった一人だけだから」
金髪「ほお?」
友「勘ぐるんじゃないっての。とにかく、そこだけは覚えといてくれよな」
金髪「了解しました」
友「…あと、おかわりくれ」スッ
金髪「どうぞどうぞ」
友「美味しいなコレ…」コクコク
金髪「だろう? ちなみにだけど、この紅茶の缶詰は【学園長の孫特権】で手に入れたものだよ」ニコニコ
友「……」ぴた
金髪「もう一杯、おかわりは?」ニコ
友「………遠慮する…」
金髪「遠慮しなくていいのに」クス
【男自宅】
男「電話?」
友妹「だよー、なんか慌てて切られちゃったけどね」
男「へぇ、もうあっちは入学式終わってたのか」
友妹「お金持ち学校だもん。そりゃ早いよ、当たり前だよ」ポリポリ
男「ふーん」パタン
友妹「ぽりぽり」
男「他には?」
友妹「なんも? 特に折り返しかけてくるーとか言ってなかったし」
男「そうか…」
友妹「にゃはは。こりゃ男つぁんもあれかね、とうとう振られちゃったかね」ゴロロー
男「どういう意味だよ」
友妹「中学校から知り合って三年間、奇跡的に一緒のクラスで過ごし続け、家族にデキてると疑われてはや四年!」
男「……」ポリポリ
友妹「流石に高校変わっちゃ、頑固な絆にヒビでも入っちゃうんだなぁってね」
男「よく分からんことを言うんじゃない、友はそういう奴じゃないだろ」
友妹「へーへーソデスネー」ポリポリ
男「あと、あんま菓子を食べてると太るぞ」スタスタ
友妹「にゃっ!」
男「…既に遅いか、[ピザ]猫」パタン
「にゃんだとぉおおこの無表情デカブツゥウウ」ガリガリ
男(晩飯作ろ…)スタスタ
~~~
友末「いただきます…」
友妹「いただきまーす!」パシン
男「頂きます」
友末「……」じぃー
男「もぐもぐ、ん、どうした? 嫌いなものあったか?」
友末「そんなことないです…いつもおいしいごはんありがとです…」もじもじ
男「うん?」モグモグ
友末「もぐもぐ」
男(え、それだけ?)
友妹「ほほー今日はカレーですかにゃ?」
男「おお、お代わりあるぞ」
友妹「そりゃ頂きますとも、はぐはぐ、おいひい」
男「今日はこれ以上、友妹の腹が目立たんようチキンカレーだ」
友妹「その情報は必要だったかなぁ!? んんッ!?」
男(段々突っ込みが似てきたな…)
「ただいまー」
男「ん。ちょっと出迎えてくる、食べてていいぞ」ガタ
友末「はいです」
友妹「姉ちゃんの分はわっちが食べちゃると言っててー」がっがっ
スタスタ
男「おかえり」
友姉「ただいま~、はぁ疲れちゃったよ。これおみやげね、皆で後で食べようっ」
男「なにこれ?」
友姉「あたしの職場で人気のどら焼き。ほら、こういう系好きでしょキミ?」ニコ
男「え? そんな言うほど好みじゃないんだが…」チラ
友姉「ふふふ」じぃー
男「すげぇ…ちっちゃなどら焼きがいっぱい入ってる…」
友姉「だから、好きでしょ?」
男「うんうん」コクコク
友姉「ね?」
男「とりあえずカレー作ってるから食べてくれ。友妹の奴がデブる前に」
友姉「おっけー、まぁたあの子は食べ過ぎてるのか」スタスタ
男「……」
ガサリ
男(かわいい、小さなどら焼きが沢山詰まってる、超かわいい)
~~~
ヒャッホー! ハッハー!
男「……」
友末「……」
友妹「にぁああ! 違っ、それはだめだめだめだめァッァッアアッ!!」ドゴーン
男「もうやめようか」カタン
友末「はいです」こく
友妹「にゃんでぇー!? なんでココで終われるんですか!? 妹ちゃんは一度も勝ってませんけどぉおお」
男「…だってお前弱すぎるだもん」
友末「はいです」こく
友妹「そんっなことありまセーンッ! 全ッ然ッそんなことこれっぽっちもないんですけどォー!」
男「どの口が言うんだ…」
友妹「ねっねっ? 末っ子ちゃん、もう一回お姉ちゃんとやりたいよねー?」
友末「えっと…」チラ
男「正直に言ってやれ」
友末「はいです」コックリ
友末「負けをみとめろ、この家畜」
友妹「末っ子ちゃん!?」
友末「はいです?」
友妹「そ、そないな言葉使い何時覚え…っ? えっ…?」
友末「それは…」
友妹「わかったよ…こりゃどう考えても男つぁんの影響だよねぇ!? 絶対絶対そうだにゃー!」ビッシィィイ
男「何でそうなるんだ…」
友妹「じゃなきゃ誰だっていうのさー!?」
男「訊いてみればいい、誰からその言葉を習ったか」
友末「いもうと姉さまの本棚にあった、本です」
友妹「……え、その本は……」
友末「はい。本棚のうしろ、にかくしてありました」
友妹「にゃああああ! だめぇええ! それよんじゃだめぇええ!」ゴロロー
男「自業自得すぎるだろ…後エロ本隠すならもっとちゃんと隠せ、末に悪影響だ」スタ
友末「えろほんって何です?」
男「……。そこで転がってる肉に訊いてみればいい」スタスタ
友末「はいです!」
友妹「い、いやだにゃ…そんな重大な役目背負いたくないにゃ…っ」
男(水につけてるお皿洗っちゃおう)グイッ
友姉「はぁ~、いい湯だった」
男「冷蔵庫にビールあるけど」カチャカチャ
友姉「今日は飲まないよー休肝日だからー」
男「ふーん」カチャカチャ
友姉「男君は?」
男「何が?」
友姉「飲まないのかなぁーって」ニコニコ
男「飲まない。飲める歳になったら付き合うから」
友姉「ちぇー…ほんっと真面目な子だよ、まったく」スタスタ
男「それだけが取り柄なんで」カチャカチャ
友姉「……」チラ
男「…何?」
友姉「ううん、何でもない。そうだ、電話かかって来た?」
男「友から? 夕方にかかって来たらしい、妹がそう言ってた」
友姉「そっか。出れなくて残念だったね、男君」
男「いや電話で会話ぐらい何時だって…」
友姉「ふふふ」
男「……」
友姉「無理しちゃってまぁ高校生のくせに」クスクス
男「無理なんてしていないぞ」
友姉「じゃあ気づいてないんだ。男君、今表情カッチカチだよ?」
男「……」
友姉「ともあれ、あの弟のことだから毎日のように電話してくるだろうけど」
友姉「【どっちの家】にしろさ、男君がまっさきに出ていいんだよ。お姉さんが許してあげるよ、うんうん」
男「……」
男「まぁ、その時になったら、お言葉に甘えさえてもらう」スッ
カチャカチャ
友姉「クスクス」スタスタ
男「………」
~~~
男「そして桃太郎は幸せに暮らしたましたとさ、めでたしめでたし」
友末「すー…すー…」
男「ん…」モゾリ
パチン
男(俺も寝るか…)
友妹「私は全く眠くにゃいのですが」
男「おまっ、…いつの間に部屋に入ったんだ」
友妹「ぬへへ」
男「自分の部屋で寝ろよ」
友妹「いいじゃんか別に。男つぁん寂しいっしょ?」
男「……」
友妹「だから妹ちゃんも一緒に寝てあげるのにゃ、どっ? 優しいっしょっ?」
男「はぁ…」ポリポリ
男「別に構わんが、寝てる時に抱きついてくるなよ」
友妹「だ、抱きつかないにゃっ!!」カァァ
男「くっそ熱いから、体温高すぎて死にかけるんだよ」
友妹「誰がデブ猫にゃーッ!!」
男「はいはい、おやすみ」モゾモゾ
友妹「何なんなのさぁ…まったく…っ」モゾモゾ
男「……」
男(今日はよく眠れてるか、友。俺はいつも通りだ、不気味なぐらい不思議と何も変わらん日常だった)
男(約束、忘れないからな。恋をしたら、お前を殺す)
男「…だけど、守られればずっとずっと友達だ…」
~~~
友「いやだ」
金髪「そう言われてもだね」
友「一緒に寝るぐらいなら、俺は床で寝る。毛布や掛け布団ぐらいスットクあるだろ」
金髪「幾ら清潔に保たれていると言っても、寝転がるには限度があるさ」
友「じゃあお前が床で寝ろッ!」
金髪「僕の話を聞いていたかい?」
友「何なんだよ、いやほんっとに! お前は本当に勝手なやつだよまったく!」
金髪「ふぅー、いやはやここまで拗れるとは思わなかった」
友「こっちだって一緒に寝るなんて言われるとは思わんかったわ!」
金髪「共同部屋だから2つのベッドは用意できない、そう言わなかったかな?」
友「…もう学園長に頼んで、違う部屋にしてもらえよ…」
金髪「うーん、それはちょっとなぁ」
友「いや、学園長お孫特権使っちゃえって。絶対に今後もこういった揉め事起こり続けるって…」
金髪「……」
友「なんだよ」
金髪「どちらかと言うとね、うん」クス
金髪「僕のお祖父様は『こういった揉め事』をやって欲しいと思ってるはずなんだ、きっとね」
友「…どういう意味だよ」
金髪「……」
金髪「少しだけ、面倒な話さ。聞いても何も面白く無い、そんな昔話だよ」
友「おいおい…」
金髪「ん?」
友「わざとやってんのか、それ絶対にわざとだろ」
金髪「何がかな?」ニコ
友「……」
金髪「気になってくれるなんて、本当にキミは優しいやつだ」
友「うるせぇよ馬鹿。なに、聞いてほしいわけ?」
金髪「本当に面白く無い話なんだ、聞かなくたって今後も滞り無く友人関係を歩めるよ」
友「お前が決めるんじゃない、それは俺が決めることだっての」
金髪「……」
友「…気になったら訊く、当たり前だろ」
金髪「ああ、そうだね。君の言うとおりさ、まったくその通り…」クック
金髪「僕はこの学園を卒業後、次の学園長候補に選ばれているんだ」
友「へ?」
金髪「わかるかい、この年で、いや三年後だから数えて、えっとー」
友「ま、待て待て。何言ってるんだよ、お前は」
金髪「事実を」ニコ
友「…マジで?」
金髪「他に居ないのさ。僕の一族はどうも子宝に恵まれない血筋らしくてね、僕と妹、二人しか居ない」
金髪「プラスして短命と来たもので、さぁ大変! 我が父も一昨年、脳溢血で亡くなられたよ」
友「……」
金髪「そして気になるところだろうがお祖父様は、なんと、未だ四十歳後半なんだよ?」
友「…若いな」
金髪「色々と気苦労が絶えないそうだ。つまりは、直ぐ様に次期後継者を選ばなければならない」
友「えっと、だからお前に甘い爺ちゃんってワケ?」
金髪「理解が早くて助かるね。無事に育った大切な候補、手放したくないのも頷けるだろう?」
友「まあ何となくは…」
金髪「その程度の認識で結構。そして、僕はあと三年で自由というものを失う」
金髪「それが僕の役目であり、生まれてきた意義であり、僕の存在のあり方なんだ」
友「……、変な言い方するなよ」
金髪「納得の上での発言さ」
友「……」
金髪「お祖父様もね、実は僕と同じような経験をされたようなんだ」
友「同じような?」
金髪「ああ。同じ年にこの学園へと入学し、三年後、学園長に就任したという」クス
友「へぇ…」
金髪「だからこそ、僕には甘い。経験してるからこそ、僕という立場に共感してくれている」スッ
金髪「この三年間で可能な限りできる経験を、思い出を、知識を」
金髪「つまりはそう、それが『求められている揉め事』ってワケさ」
友「うーん、なんだ、言っちゃえば友達作れってこと?」
金髪「……ぶっ」
金髪「あっはっは! そうだよ、そうなんだ友くん! 実にその通り!」クスクス
友「わ、笑いすぎだろっ」
金髪「いや、そんなにも恥ずかしげもなく断言されるとは思ってもなくてね…っ」
友「あーあーすいませんでしたねッ! 何も考えてねぇおばかさんで!」
金髪「違う違う、褒めてるんだよこれでも。やはり君のような人に目をつけて置いて正解だった、こんなにも…」
金髪「こんなにも素直に己の過去を語れるなんてさ」
友「…はぁ」
金髪「うん? どうかしたかい?」
友「いや…別に…少し思い出しただけ、色々と」
金髪「ほほぅ、それは中学校の友人かい?」
友「……。何処まで調べたんだよ、俺のことを」
金髪「ある程度さ。全てを知っては楽しくないからね」
友「アホか、その時点で怪し気プンプンだわ」
金髪「なら正直に答えよう。僕が知り得た情報は、君が中学に上がった直後までの記録だ」
友「記録って何ですかね…?」
金髪「この世には知らなくても良い裏と、知ったら後悔する裏があるんだよ?」
友「どっちも恐いんですけどぉ!?」
金髪「くっくっく、君みたいな人は世の裏なんて知らなくていい」
金髪「今はとにかく後の三年間は僕と過ごしてくれ。そうしたら悪いようにはしない、絶対にだ」
友「…それと一緒に寝ることは別だろ」
金髪「違うと思うかい?」
友「違うね」
金髪「それなら仕方ない。実はここに、来客用の簡易ベッドが備わっているんだ」ガチャ
友「……テメェ」
金髪「言っただろう? この部屋自体、僕の孫特権で得た部屋だって」
友「何でもありか」
金髪「なんでもアリさ」ニコ
友「…もう寝る」
金髪「明日は早いからね」クスクス
友「最後に一つ、今日の最後に一つ言ってやる」
金髪「なんだい?」
友「…ようおやすみ」クル
金髪「……」
金髪「君、関西出身なのかい?」
友「さーな」モゾリ
金髪「待て、そんな記録なんて乗ってなかったぞ…!?」
友「ふわぁぁ、なら、その記録も当てにならんなぁ…」
金髪「何ィー!? もっと聞き捨てならないことを聞いてしまったぞ僕はァー!!」
友(色々と疲れた。あぁ疲れたか、くっく、面白いことを言っちまったな)
友(男。お前は今日はゆっくり眠れてるか、いつも通り過ごせてるか、新しい友だちは作れたか)
友(…俺はお前を殺したくない、だからいつまでも友達だ)
友(おやすみ。男、また会える日まで)
※※※
『──どう思うかね』
『カミサマ、カミサマ、どういうシツモンですか?』
『我ながら酷な占いを出したものだと思ってるんだ、だからどうかと訊いてみた』
『カミサマ、カミサマ』
『うん?』
『ワタシタチは従うダケ、たったソレだけ、シツモンいみナシ』
『ほほぅ、我が作りし天使たちよ。なんとも釣れないことを言う』
『人は皆、自由を謳歌する。正しい選択も間違った選択も、運命という一縷の糸に途切れは出来まい』
『我は神。人は誰しも我を敬い、我を謳い、我を敬う』
『して汝らよ、この者達の運命は如何なるものか?』
『シツモンですか?』
『ああ、質問だ。問に答えよ』
『アア、ならばそれはマチガイでしょう』
『──彼らはカミサマに囚われない、ただイッコのウラナイで生きる。たったそれだけのウンメイです』
『つまりは彼らに我の力は、及ばないと』クスクス
『──実に愉快な答えだ、認めよう』
『彼の者達は我の、意味を、存在を、価値を、無きものとして捉えようじゃないか』
『ミテるのタノしい?』
『ぶっちゃけると、そうだな』コク
『如何なるものか。して如何なものか、我が作りし天使たちよ』
『この世に存在し価値を互いに認め合う【二人】の人間たちを』
『一人は新天地へと』 『一人は新たな人間関係へと』
『神は許そう。愛しき人間たちよ、選びとる答えは汝らを正しき道へと誘うことを』
『神は遊ぼう。憎き人間たちよ、本来得られなかった未来を得て物とすることを』
『ああ、汝らに、祝福があらんことを…』
『アランコトヲーッ!』
※※※
男「はぁッ! はぁッ…はぁッ……!?」ガバァ
男「っ…痛ッ……頭が、痛い…なんだ…っ」
ズキズキズキ
男(ぐぅぅ、酷い頭痛だ、風邪でも引いたのか、俺は…ッ)チラ
友妹「ぐぉぉ…ぐごぉぉ…」ギュウウウ
男(お ま え か)ダラダラダラ
男「熱っつ…汗がダラダラと…」グイッ
もぞり
男(ん、なんだ、額に何か違和感が……何だコレ?)
男「手編みの…羽が生えた、人形…天使…?」
男「……」
男「俺、こんなの何時作ったっけ」
~~~
友妹「だぁー! なんで起こさなかったにゃー!?」バタバタ
男「ちんたらシャワー浴びてるお前が悪い」
友妹「汗ダラダラで行けるわけ無いじゃん!」
男「飯は?」
友妹「いるにゃ!」
友姉「それじゃ行ってきまーす、いつもの時間に帰るから~」
男「いってらっしゃい。ほら、末も一緒に学校行ってきな」
友末「……」じぃー
男「どうした。学校遅れるぞ」
友末「それなんです?」
男「え? ああ、コレか。いつの間にか作ってたらしい」ヒョイ
友姉「天使お人形? かわいいー」
男「末、欲しいならやるけど」
友末「……」フルフル
友末「それは、おとこさんのやつです。すえ、いりません」
男「そりゃ俺が作ったんだから俺のだろうけど…」
友末「大切にもっててください」
男「え、俺が?」
友末「はいです」
友姉「あ、ヤバイヤバイ、バスに乗り遅れちゃう! ほら行くよ末ちゃん!」
友末「行ってきますです!」
男「あ、ああ、いってらっしゃい」フリフリ
男「……」スッ
友妹「どうしたにゃ、男つぁんも学校遅れるにゃ?」
男「おう」
男(大切に持っとけか。まぁ鞄につけるわけにも行かないよな、中に閉まっておくか)ゴソゴソ
友妹「もぐもぐ、んじゃ妹ちゃんも行ってくるー」ダダッ
男「あ、おい! 今日はちゃんと鍵持ったか?」
友妹「あったりまえだヨーン」
男「そういって何時も末に開けてもらってるだろ、本当に持ったんだろうな」
友妹「へーへー、これで良いですかにゃー?」チャラン
男「……。間違ってるぞ、それお前ん家の鍵だろ」
友妹「ふぇ? ホンマだにゃー!」
男「しっかりしてくれよ。それでも姉貴なのか、本当はお前が妹なんじゃないのか」ガチャ
友妹「な、なんだとぅー!? これでも大人の身体に成長してるよっ!!」
男「あぁ腹がな…」スタスタ
友妹「にゃにぃいいっ」
~~~
男(うっ、とうとう来たか。部活勧誘プリント…)
男(毎回飽きもせずよくやるな。今回はどうやって乗り越えるべきか)
男(一先ず、部活を誘いに来る奴らから逃走を図ろう…)
女「よおっ!」
男「だぁーッ!?」
女「わぁーッ! びっくりしたッ!」ビックーン
男「誰だッ!? な、なんだお前か…」
女「いきなり何だお前か、とは失礼なやつだな」
男「気配を消して呼びかけてくるほうが、よっぽど失礼だろ…」
男「それで何の用なんだ。今は少し忙しい」キョロキョロ
女「へー、いや全然、これっぽっちも大した用事じゃないんだけどさ」
男「…変に気になる言い方だな」チラ
女「うん。だってわざとだもん」ニッ
男(会話しづらいなコイツ)
女「いやね、別に気にしなくたって良いだって。特にウチが話しかけなくたって」
女「どーせ後になって会うことになるだろうし、だから今のうちに話しかけとくかって感じ?」
男「すまん、もう少し他人に伝える為の努力をしてくれ。意味不明過ぎる…」
女「ん」グイッ
男「なんだ? あっち…? 後ろに何があるって言うんだ…」クルッ
「居たか?」
「いや居ない。噂によると180センチを超えてるらしい、一目で分かるはずだ」
「探せ! 我がバレー部に絶対必要不可欠な要因だッ!」
「アホ言え万年地区大会止まりがッ! あの体躯はバスケ部こそ至極ッ!」
「黙ってろチャラ男共! いまさら部活に熱が入っても高が知れてるわッ!!」
男「……マジで?」クルッ!
女「おう! どうも毎年恒例らしいぜ、ああやって有望一年の取り合いつーの?」ニッ
男「そ、そこを退いてくれ。俺はそっち逃げるから、絶対に関わりたくないっ」
女「んっ」グイッ
男「な、なんだ?」チラ
「居たか女の奴は!」
「居ないよまた逃げられたっ! あーもう! すばっしこいなぁ!」
「その逃げ足こそ私達の陸上部に、絶対に必要なんだ!」
「はぁあああいっ? かけっこ部活入れるぐらいなら持久力勝負のテニス部入れるわッ!」
「なにがテニス部じゃゴラ、玉転がしやりたいんじゃったらオドレら新橋でもぶらついてこいやアホタレェ…!」
女「んふふ」
男「…なんだ、つまり、同じ立場に居るって訳か」
女「まな! どう? ウチ一人でも逃げれる自信あるけど、どーせなら一緒に逃げねぇ?」
男「そのメリットは」
女「小難しいこと考えなさんなって。まぁメンドくさくなったらどっちか囮にして逃げる、これならどうよ」
男「…了解した」キョロ
女「おっし」キョロ
男「逃げるか」
女「あいよー」
ダダッ
「居たぞでかいやつだ!」
「女見つけたッ!」
男「早速見つかってる!」
女「よーし、そんなら実力行使だぜ、デカ男は耐久度に自信はっ?」
男「どういう質問だそれはッ?」
女「良いから答えろって」ガラリ
男「た、多少は!」
女「ん~なら良い、別に問題ないな」ガタ
「捕まえろー!」
男「お、おい、何してるんだよ。このままじゃ捕まっちまう…!」
女「あんたこそ何してんのさ。ほれ行くぞ、こっちこっち」クイクイ
男「は…? 此方ってお前、窓の桟枠に足をかけてなにやってるんだ…?」
女「飛び降りるんだけど?」
男「二階だぞここ!」
女「へーきへーき」ぐいぐいっ
男「あっ、馬鹿やめろ! 絶対に落ちたら死ぬからッ! どぁーッ!?」グラリ
女「ほらぁ…傾いてきた、行くぞ行くぞ行くぞ…っ…きゃほぉー!!」
男「だぁあああッ!?」ひゅーん
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