サラリーマン「お前は一人じゃない!!」 (47)

男「……見つけたぞ」

女「……ふふん」

不敵に笑うその女は、腰から慣れた手つきで剣を抜き放つ。それで一体何人を斬ったのか、犠牲になった者の叫びが耳の奥に届いた気がした。

男「はぁ……ッ」

重く気を吐き自分も刀を抜く。鋭く迷いのない鋒をその女に向けて……集中する。

女「私に勝てるとでも思ってるの?」

男「やってみなくちゃわからない……いや、やらなければ」

女「そう。それじゃあまずは小手調べといきましょうか」

そう言って指をパチンと鳴らす。すると夜の闇に紛れていたのか、複数の人影がじわりと滲み出る様に現れる。

その顔に表情は無く、ただ各々獲物を構えるのみだった。

女「いけ」

そう号令するが刹那、一瞬で間合いを詰めて襲いかかる影!!

男「……」

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正面から一撃!!それを右にそれ受け流すと横からさらに一撃、刀で受け止めれば視界の端からまた一撃!!

男「くっ……」

ゴリッという鈍い音。身体の捻りを利用した蹴りでそいつの手首を弾き飛ばす!!獲物は宙を舞いなんとか凌ぎ切ったが……

影「……」

無言の影達はさらなる追い打ちを掛ける。怒涛の連続攻撃、攻撃する暇を与えないつもりか。

女「ははは!!踊れ、踊り狂え!!君の剣舞は中々に美しい。そのまま私に魅せてくれ!!」

男「舐めやがって……!!」

相手が多人数とはいえ必ず空きがある筈だ。そのチャンスを執拗に伺う。

シュッ!!ビュオッ!!耳元で空を斬る音が常に自分の身を脅かす。一撃でも貰えば恐らく勝ち目は無い。

一筋の汗が額を伝った瞬間、見えた。

男「ッ!」

正面の影の腹部を蹴り付け後方に飛ぶ。反転、スピードを生かしたまま懐に飛び込む!!

男「少し大人しくしてろ」

逆袈裟斬りに刀を振るう、一閃。影は無惨に二つに割れた。

身体から血は流れない。黒い霧の様な物が漏れ出したかと思うと身体の色が薄れていく。

男「ふっ……!!」

小さく息の塊を吐き出しさらに一撃を加える。影の一体が消失した瞬間から戦況は一変した。

一瞬の出来事なのかもしれない。だが体感では時間がゆったりと流れる。

一度流れが崩れてしまえばどうという事はない。先程まで苦戦していたのが嘘であるかの如く次々と影を屠っていく。

女「……」

チラリと女の顔が見えた。苛立ちまじり、だがどこか楽しげな表情をしている。

自分を囲っていた影はあっという間に姿を消した。刀に纏わり付いた黒を軽く振るって払う。

女「面白い……本当に面白い……!!」

女「いいよ。私が相手をしてあげる」

ニィっと笑みを浮かべると、一歩一歩迫ってくる。先程の影とは比べ物にならない殺気を放っていた。

いや、むしろ影は殺気すら放っていなかった。ただ人形の様に踊っていただけだ。それがまた余興だったのだと感じさせた。

男「……」

コツコツとコンクリートを叩く音と、靴が地面を撫でる音だけが響く、静寂。気の迷いが命を攫う、そう直感する。

女「いい、その表情。本当にいい。さ、私と一緒に踊りましょう?」

ふっと、視界から女が消える。

男「!?」

女「こっち」

ふぅっと耳に息を吹きかけられた瞬間、首元で刃が光っていた。

男「チッ」

反射で肘で女の獲物の柄を打つと刀を振るい一歩引く。その動きをバネにして首元を狩る!!!

キィンッ!!!

女「遅いなぁ……でも、これからだもんね?」

刹那の一撃だったはず、だが剣で受け止められてしまう。火花を散らし鍔迫り合いになる。

男「あまり舐めてかかると痛い目見るぞ」

ぐっと押し込む。だが女もその細い身体つきからは想像も出来ない様な力で押し返してくる。

まるで壁を相手にしている様だった。全く相手を押し切れないどころか、女は涼しい顔で剣を構えているだけに見える。

ジワリと手に汗を握る。膠着状態がしばらく続いた。

男「……」

女「楽しいね。楽しい。このままずっと続けばいいのに」

そんな物はお断りだ。心の中でつぶやくと刀を傾けて力を受け流す。

連撃。袈裟、逆袈、十文字、突き。目にも止まらぬ速さで繰り出すが全て受け止められる。

男「はぁぁ……ッ」

新撰組一番隊隊長、沖田総司の突きは三段放っても速すぎ一撃にしか見えなかったという。今の自分はそれに匹敵する速さで突きを放っていた。

滅多突き。そう呼ぶのが相応しいだろう。だがぶれてはいない。正確に相手の急所を射抜く。

だがそれも全て受け止められる。もしかしたら自分は今人でない何かと戦っているのかもしれない。そう思った。

女「もしかして、それで終わりかな?」

あざ笑う様に問いかけてくる。

男「馬鹿言うな、これからが本番だ」

胸が高鳴る。強さも度を越えれば恐怖から楽しみに変わるのだろうか。

一旦距離を置き、一息つく。気がつけば自分の口角が自然と上に上がっていたのだった。


男「ハッ!?」ガバッ

男「……」

男「んな事ある訳ないよなぁ……」

男「うーん……」チラッ

【8:41】

男「あっ……ち、遅刻だ!!!」ガタンッ

男「痛った!!あぁ……朝からなんなんだ……」ドタバタ

夢オチでした\(^o^)/

サラリーマン版11eyes的なノリで書いていくと思うのでどうぞよろしくお願いします

男「おーすおはよ」

女「また遅刻?」

男「あ、ラスボス」

女「誰がラスボスだ!!」

男「いや今日の夢でさー、お前がめちゃくちゃ強くて、人間辞めちゃったんじゃないかってくらいの。それと戦ってたんだよねー」

女「えっ……」

男「……あれ、ドン引き……?」

女「ち、違う違う!」

上司「無駄口はいいから早く仕事しろよー」

男「はーい。んじゃあ早速やりますか……」スッ

男「……」カタカタ

同期「なぁ?」

男「んー……?」カタカタ

同期「昨日貸したエロゲ、どうだった?」

男「良かったよ……お前の趣味がモロバレだったけどな」

同期「犬耳いいだろ!!あぁ……本当にいいな……なぁなぁ、誰が良かった?」

男「ちょっとしかやってねーけど……犬娘かな……?」

同期「だよな!でもサクラルートもいいんだよなぁ……」

上司「なんの話してんだぁ…お前ら?」

男「別にぃ……?」

同期「え、えっと……次のプレゼンの考察を……」

上司「そうか。お前は次のプレゼンでエロゲを紹介するんだな。よーくわかった」

同期「うげ……」

男「ぶふ、頑張れよー」ニヤニヤ

上司「今回の取引先へのプレゼンはかなり重要案件だからなー。もし失敗したら……」

同期「失敗したら……?」

上司「私がタコ殴りにした後でクビか減給だ」

同期「ヒッ……か、勘弁して下さいよー!」

男「そっかー。エロゲで新商品の紹介すんのかー。凄いなお前はー」

上司「お前もだ、男ォ」

男「なんでだよ!?」ガタッ

上司「お前ら二人に任された案件だろ!連帯責任だアホ!!」スタスタ

男「……」

同期「……あぁじゃなきゃいい女なのにな」ボソッ

上司「あんだって!!?」

同期「な、なんでもないですよ!!」

男「……上手く纏まらないな」

同期「そこは後でもいいんじゃね?最後に回した方が纏まるだろ」

男「そうするかぁ……ん、メシの時間だな」

同期「よっしゃあ!!今日は彼女が弁当作ってくれたんだよなぁ……」ニマニマ

男「俺は……適当に駅前で食ってくるわ」

同期「おう!行ってこいよ!」

上司「そういえば今日は私も弁当を持参してるんだ」

男「あ、じゃあ今日は一緒にメシ行けねーっすね」

上司「明日行こう。最近いい店を見つけたからな」

男「うぃっす。そんじゃ行ってくる」ガタッ

上司「それじゃあ同期くん?どこまで資料作成が進んでるか、見ながら一緒に食べようか?」ニコッ

同期「え!?あ……いや俺中庭で食ってくるんでー!!」ダッ

上司「逃げんじゃねーーー!!」

女「あ、男ー!私も行くよー」

男「お、いいぞ。駅前の定食屋でいいか」

女「あそこ好きだねー」

男「500円であのボリュームにご飯と味噌汁はお代わり無料だからな。辞められねーわ」スタスタ

女「安いのは助かるよね。なに食べよっかな……」スタスタ


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ガララッ

店員「らっしゃっせー!」

男「適当に座るか」

女「そこ空いてるよ」

男「お、そんじゃそこにするか」


男「……」

女「……」

店員「お水です。ご注文は……?」

男「とんかつ定食、ご飯は大盛りでね」

女「私焼き魚定食」

店員「かしこまりましたー」

男「仕事はどう?」

女「進んでるよ、男は?」

男「結構難しくてさー、どうしたもんかなと」

女「そっか……ところでさ」

男「ん?」

女「今朝の夢って……どうだった?」

男「……どうだったって言われても……」

女「男がそんな話するなんて珍しいじゃない」

男「そうかぁ……?まぁ……なんだろ。手に汗握る戦いだった」

今日はここまでです

女「なにそれ」クスクス

男「さぁ……ただ夢の中の俺は中々強かったなー」

女「現実じゃあ弱いもんねー」

男「そこらでたむろしてるクソガキくらいなら殴り倒せるけどな」

女「あー…格闘技やってたんだっけ?」

男「運動不足になるのが嫌だったからボクシングとか空手とかいろいろやってたな。スポーツジムにも行ってたけど……」

男「今は無理だな」

女「年が来たからとか言わないでよね」

男「だってもうおっさんだぞ……無理無理」

女「まだ32でしょー?まだまだ頑張れるって!」

男「いやぁ……きっついだろ……」

店員「お待たせしましたー」

男「お、来た来た」

女「食べよっか」

男「いただきます!」

女「いただきまーす」

男「はふっ…んむむ」ガツガツ

女「それだけがっつけるんだからまだ若いよ」パクッ

男「もぐもぐ……んぐっ。男なんだからこんなもんだろ」

女「そっかなー?」

男「それよりお前は俺より一回りも若いんだからもう少し食った方がいいんじゃないか?」

女「エコロジックなの」

男「エコね……」

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男「ごっそーさん」

女「ご馳走さまでした」

店員「ありがとうございましたー」

ガララッ

男「さて……まだ時間あるな」

女「どうするの?」

男「公園寄っていいか?それともここで別れる?」

女「いや、ついてくよ」

男「おし。そんじゃ行くか」


ガタンッ

男「ほい、微糖ね」

女「ありがと」

男「さてと……」スタスタ

スッ

男「ん……」カチッ

シュボッ

男「……」カチン

男「……はぁー……」

女「Peaceって……なんかおじさん臭い。ジッポも」

男「おじさんなんだからいいんだよ……この香りが美味いんだ。ジッポは……かっこいいだろ?」

女「そうかなぁ……」

男「そうなの……すぅー……はぁ……」

女「タバコ、身体に悪いよ」

男「好きな物我慢して長生きするんだったら好きな事して早死にした方がマシ」

女「そんなものなの?」

男「そんなもんなの」

男「……」

女「……」

男「……はぁ。よし、戻るか」スッ

女「ポイ捨てしたりしないのは褒めてあげる」

男「人の迷惑になるような事はしない。歩きタバコとか禁煙のとこで喫煙したり、ポイ捨てするやつがいるから喫煙者は肩身が狭くなるんだ……」

女「まぁ……ルールを守ってる人からしたらいい迷惑だよね」

男「お国やら県やらが作ったルールを守って吸ってればとやかく言われる筋合いはないしな」

男「たまーに居るんだよな……守って吸ってるのに迷惑だの文句付けてくるやつ。それはお前の自分勝手な意見であって言う筋合いも言われる筋合いも無いってんだよ」

女「やだやだ。苦労はしたくないから私は吸わないよ」

男「まぁ……吸っても大していい事無いしな」

男「雑談もいいけどちょっと時間がやばいな。早くいくぞ」

女「うん」

スタスタ

男「……」

女「……」

男「……ん?」

女「どうしたの?」

男「いや……ここ空き地じゃなかったっけ。こんな店あったっけ?」

女「さぁ……あったんじゃない?造りも古そうだし」

男「……おもちゃの馬に……オルゴールか。玩具屋なのか?」

女「でもその飾ってあるのも古く見えるし骨董品屋さんじゃない?」

男「……ま、いいか。とにかく戻ろう」


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男「すっかり遅くなったな……まぁ残業代出てるしいいけどさ」スタスタ

男「……」

男「……早く帰ってメシでも食って……なにしようかなぁ……」

男「……」ピタッ


男「昼間の店……」

男「……やっぱり。空き地だった気がする」

男「でも……店はあるしなぁ……」

男「……なんだこの違和感」

男「気になる……」

男「……」

男「今日は遅いし明日……入ってみるか」

男「ただいま」ガチャ

男「誰もいないけどな」

男「さて……メシメシ……」

男「……しまった。買い出し行ってなかったからなにもない」

男「……カップラーメンで済ますかぁ……」


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男「ふぃー……さっぱり。さて、風呂も入ったし……寝よ。明日も仕事だしな」

男「布団も敷いてあるし……」モゾモゾ

男「おやすみ……」

男「……」

そこには誰も居なかった。見た目は普通の住宅街だ。家々から灯りも見える。だが……

物音一つしないのはおかしい。近くには道路もある。なのにどうしてか、車が一台も走っていないのだ。

不気味な程に静かである。それに加えて風でさえ吹いていない。冷たい空気の中にどこか生暖かい、気持ち悪さを感じた。

自分はここを少し歩いてみる事にした。コツコツと革靴がコンクリートを叩く音と、自分の息遣いだけが耳に届く。

それにここは自分の知っている場所ではない。全く見知らぬ場所。どうしてここにいるのか、どういう経緯でここまで来たのか。何故かそれを考える事はなかった。

どこまでも、どこまでもでも続く住宅街。いつまで経っても広い道路に出る事もない。

現実ではありえないだろう。きっと自分は異界に迷い込んでしまったのだ。

いつまでも、いつまでも。なにも変わらない。動く物は未だに見つけられない。僅かな音すら聞こえない……気が狂ってしまいそうだ。

その時、やっと新しい刺激が自分の脳へ届いた!

ズルリ、というなにかを引きずる様な音。それは自分のすぐ後ろから聞こえた。そしてすぐ、グニュリ、というなにか柔らかく湿った音。

背筋に寒気を感じた。とても気味が悪い。なにか……見てはいけない気がする。

だが自分は振り返らずには居られなかった。変化の無い周囲に初めて起きた変化である。気になって仕方がなかったのだ。

ゆっくりと、身体と一緒に顔を後ろに向ける。するとそこにあったものは……

今日はここまでです

男「ハッ!?」ガバッ

男「……」

男「……気味の悪い夢だった」

男「昨日といい今日といい……」

男「時間は……」

【7:04】

男「……今日は早めにいくか」

男「……」スタスタ

男「今日の昼はどうしよっかなぁ……」


「あっ」ガラガラガッシャン


男「ん……」

男(女の子が並んでた自転車でドミノやっちゃったみたいだな……)

男「……ふぅ」タッ

男「大丈夫?」

女の子「え、えぇ……申し訳ない」

男「手伝うよ」グッ

女の子「そ、そんな。私が招いた事なのに」

男「なんでか困った人がいるとつい首突っ込んじゃうんだよ、俺」

女の子「そうなのですか……」

男(キリッとした顔つきで……すごい綺麗な子だな……)

男「あ、タイヤに持ち手が引っかかってる……」ガシガシ

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女の子「ありがとうございました」

男「気にしないで。んじゃ」


男「……」

男「あんな事しても無駄なのになぁ……なんでお節介しちゃうんだろうな……」

男「面倒事にも首突っ込むし」

男「……自己満足なんだろうな」

男「ま、自分も満足出来て相手も喜んでくれてるなら悪い事はないな」

男「うぃっす」

女「おはよ」

同僚「今日は早いなー」

男「まぁなー……」

上司「お、殊勝だな。出勤時間より早く来るなんて」

男「俺が殊勝だったら周りはどうなっちまうんだ」

上司「ん?なんでお前は自分を他の人間と同じ土俵で比べてるんだ?」

男「俺絶対馬鹿にされてるよな!?」

上司「ご冗談。こんなにも早く来てくれた男くんを?馬鹿にするだなんてぇ」ニヤニヤ

男「早く着いた分ちょっと一服してきますわー」

ガシッ

上司「働け」

男「……はい」

こんなかんじで

男「……」カタカタ

男「ふぅ……」ポリポリ

上司「どれ、どのくらい出来たのか見てやろう」

男「あぁ……こことここがまだ……」

上司「それなら……で……した方がいいんじゃないか?」

男「そういうのもアリか……」カタカタ

上司「案外順調そうでなにより。その調子でやれよ」

男「へいへいどーも」

男(俺より年下なのに随分頭も切れるし臨機応変な対応もしっかりこなせる。上司としては申し分ないよな……)

男(なんでこの部署やたら仕事出来る若手が多いんだろ……自信無くしそうだ)

男「ん……ちょっとコーヒーでも買ってくる」ガタ

同僚「俺の分も頼むわー」

男「自分で行け」

カチンッシュボッ...

男「……」カチッ

男「……はぁ」

男「……」

男「……」

男「あー……かったるい……」

ガチャ

上司「なにがかったるいって?」

男「げ……」

上司「なんだその嫌な物でも見たような目は……」

男「べ、別にぃ?」スゥー

男「……ふー……」

上司「別に5本も6本も長々と吸わなければ咎めやしないさ。ところで今日の昼なんだが」

男「いい店……だっけ?」

上司「近場でイタリアンが安く食べられる店を見つけてな。一人で行くのもなんだから一緒に行こうと」

男「いいっすよ。いい店は知っておいて損はないし」

上司「てっきりそういう小綺麗な所だと断られると思ってた」

男「別にそういうのに抵抗があったりはしないっすよ」

男「駅前のバーとかもよく行くし」

上司「それは意外だ」

男「……ふー……」

男「よし、仕事に戻りますか」


男「……」カタカタ

同僚「……」カタカタ

女「……」カタカタ

上司「えぇ。で、先月の会議の件なんですが……」

同僚「お、昼だ昼」

女「うーん!」ノビー

男「……はぁ」

同僚「今日は珍しく食い入るくらいに仕事してたな」

男「資料印刷までは終わらせたいからな」

上司「うん。わかりました、はい。失礼します」カチャ

上司「それではお昼にしようか」

男「それじゃあ俺は上司と行くから」

女「私はまた食堂かなー」

友「俺は弁当だ」

上司「では行こうか」

男「うい」

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男「今日は早めに上がれたな」スタスタ

男「晩飯はなににしようかなー……」

男「……」

男「忘れる所だった。昨日の店、行ってみないとな」


男「……」

男「……やっぱり、ここにはなにもなかった気がする」

男「……」スッ

ガチャ

そこはまるで、時間に置き去りにされた様な場所だった。

今では見ない様な玩具や飾り、店内は全て木で出来ていたがどこも色褪せている。

よくわからない懐かしさがこみ上げてくるが同時にさみしさまで伝わってくる。

男「……」

男「……」

男「ここは……」

男「……」

なんとなく、長居すると自分まで時間に取り残されそうな気がした。一通り店内を見て回ると自分は再び入ってきた重い扉に手を掛ける。

ガチャ

ゾクッ……

男「……あ」

男「な、なんだよ…………これ」

扉を開けたその先は、知らない世界だった。

いや、自分は知っている。この場所を。

……そう、これは今朝夢に見たあの場所だった。

何故知らない世界だと思ったのかもそこから来ている。

ひんやりとしているがどことなく生暖かい気持ちの悪い空気。灯りが所々灯っているがやはり人影は無い。

男「……ちょ、ちょっと待てよ。なんだよこれ。一体何が……」

混乱しつつも状況を飲み込もうと思考を巡らせ周囲を見渡す。そして……見つけた。

男「……」

天頂に輝く、血の様に赤い月を。

地の文ってやっぱり難しいですね。練習も兼ねて時折挟むのでどうぞ生暖かい目で見てあげて下さい

男「お……落ち着け。とりあえず落ち着かない事には……」

若干震える手でタバコを取り出して咥える。火をつける時のジッポの音が心地よく聞こえた。

煙を重い空気と一緒に肺に入れるとニコチンが頭に行き渡る様な気がした。ふーっと吐き出した煙はまるで家の中で吸っているかのように吹かれる事なく霧散する。

男「……」

男「よし……落ち着いた……」

男(状況を整理しないと……)

男(まず俺は古臭いおもちゃ屋に入った。店を軽く見渡して外に出るとここに出た)

男(ここは今朝夢に見た場所とよく似ている)

男(もしここが本当に夢に見た場所なら……人っ子一人居ない、風も吹かない音もならない)

男(夢の最後でなにか変化があった気がするけど……わからない)

男(ここで上げられるのが……)

男(本当に別世界に飛んだ)

男(俺の頭がイかれた)

男(……誰かのイタズラや意図があるとは思えない)

男(冷静に考えると……後者が妥当だな)

男「……そうか。とうとうイかれちまったか……ふー」

男「もしかしたらまだ夢を見てるのかも……」ガンッ

男「痛って!!……」

男「大抵夢を見てる間って痛みとか感じるもんだよな……」

男「……もしかして」

自分はその場で振り返る……が、目当てのものは見当たらなかった。

男(おもちゃ屋がなくなってる……)

男(もう一度入って出れば戻れるんじゃないかなんて思ったけど……そうもいかないよな)

男「まぁ……俺の頭がイかれてないと信じて……」

男「あの夢の最後の……アレがなにか分かればなんとかなる……かもしれない」

男「歩いてみないことにはどうにもならないな」


男(……予想通り。延々と同じような住宅街が続いてる)

男(人も……見当たらないな)

男「……」

男(それにあの赤い月……とりあえず異常だって事はわかるけど……)

男(気持ち悪いな。本当に頭の真上にあるんだ……)

男(……まさか落ちて来たりしてな)

男「……」


男「……」


男「……」


男「……」

男(どれくらい時間が経った……?)

男(同じ景色ばかり続いて歩いてるのに進んでない様な気になる)

男「疲れたな……」スッ

カチッシュボ...カチン

男「……ふー」

男「……」

ズルッ

男「……!」

あの音だ。なにかを引きずるような音。

とても気持ちの良い音ではないがそれは確かに自分が待ち続けた音だった。

男「……後ろ?」クルッ

そこにあったのは、赤黒い肉の塊だった。

血管が浮き出て、ぬるりと光沢を放つ。

男「……」ジリッ

思わず後ずさりした。どう見ても怪しく…気味が悪い。

だが、その瞬間だった。その肉塊が……動いた!

のらりと立ち上がったそれは人の様な形をしていた。自分と同じくらいの大きさはあるだろうか。瞼は閉じきり口を大きく開けて体液の様なものを垂らしている……

全身の皮を剥かれた人間。それが第一印象だった。

男(……ば、化け物……)

化け物「ーーーーーッ!!」

化け物は声にならない叫びをあげると俺に向かって歩みだした!

男「……お、おいおい冗談じゃないぞ!」ダッ

よくある展開

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