博士「君は眠っている時の自分という物を考えた事はあるかね?」 (12)

寝る前に少しだけ。
かなり短めです。

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男「さあ、寝ているんじゃないんですか?」

博士「人は誰しも眠っている間の記憶は無い物だ。それについては世の脳化学者や何かがとっくに解明している」

男「睡眠のプロセスとかは確かに解明されていますね。それがどうかしたんですか?博士」

博士「うむ。だからこそ考えてしまうのだよ。それは本物なのか、とね」

男「というのは?」

博士「それは・・・いや、やめて置こう」

博士「しかしだ、私がそのように思うのは何も寝ている間のことだけでは無い。例えば君は今この研究室の中にいるが、そこのドアの向こう側では、一体何が起きているんだろうね」

男「そっちは倉庫ですから、備品などが置いてあると思いますが」

博士「勿論それはそうだ。しかし、本当に備品は置いてあるのか、それは開けて見るまでわからないことだ。そうではないかね?」

男「そんなこと言ったって……ほらやっぱり備品が置いてあるだけじゃないですか」

博士「ふむ……ならば他の質問だ。君、海外旅行の経験は?」

男「ありませんね」

博士「では、この日本から太平洋を超えた先には何がある?」

男「アメリカやカナダがあると思いますが」

博士「正解だ。が、ここでもう一つ質問だ。本当にそれらは存在するのか?」

男「え、今博士が正解だって言ったじゃないですか。」

博士「うむ。確かに言った。しかし、それは私や君の保持する知識上の物でしか無い筈だ。なにせ、私も君も行った事があるわけでは無いのだからね」

男「でも実際に海外に訪れた人は沢山いますし…あ、もしかして『それは僕では無い他人の経験でしかないのだから、本当の事かどうかはわからない』なんて言うつもりですか?」

博士「その通りだよ」

男「そんな事言い出したらきりがありませんよ」

博士「要するにだ、他人からの情報なんて心底宛にならないと言う事だよ」

男「博士って、実は人間不信なんてことあります?」

博士「失礼だな、そんな事あるわけないじゃないか」

男「だって、さっきからそんなような事ばかり言ってますし」

博士「まあ、確かにそう受け止められても仕方ないな。だか、最後にもう一度だけ問おうじゃないか」

博士「君の認識しているこの世界は本物なのか?そこのドアの先には何があるんだ?海の向こうは?君の認識している物事は真実なのか? 今一度考えてみてくれたまえよ」

博士「では、今日はこの位にしておこうか。ここの鍵はかけておいてくれ」

ーーガチャン


男「博士、今日は一段とわけのわからない事を言ってたなぁ。もう慣れたけど」

男「さて、僕も帰ろうかな。  あれ…帰るって、何処へ…? ……ははっ、博士が変な話しするからど忘れしちゃったじゃないか、まあその内思い出すだろ」

そして、僕は帰りの身支度をし、出入り口に手をかけた。
ふと、先ほどの博士の言った言葉が脳裏をよぎる。


(君の認識しているーーーー今一度考えてみてくれたまえよ)

男「……」

出入り口から手を離し、僕は黙ったまま振り返る。
視線の先にあるのは、ついさっき博士に促されて開けたばかりの倉庫の扉。

何事もない、いつも道理の光景のはずが、何かが僕の目をそこへ釘付けにした。

備品がおいてあるだけ。

そうわかっていながらも、僕の足は勝手に扉へと動き出す。

一歩一歩、しかし着実に。

目の前には扉。

何処からとも無く、正体のわからない不安が襲いかかる。

ゆっくりとドアノブに手を伸ばす。

生唾を飲み、一呼吸置いてから、勢いよく扉を開けた。



男の目に写ったものは…















おわり

皆さんも扉を開ける祭に変な不安を感じることってありませんか?

ではお休みなさい。

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