風「樹が死んだ」 (143)
結城友奈は勇者であるのSSです。
ほのぼのです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436622515
~~~
何もない広大な土地が見えていた。
地面はツルツルに均されている。
そこに等間隔に細い線が並んでいた。
私はその線の一本一歩を指でなぞった。
線は僅かに凹んでいた。
広大な土地は、よく見ると四国の周りに広がる海になった。
私は今海沿いの大赦の施設の広場にいる。
仮面の男たちが列を作っていた。
ある「大切なもの」が丁重に運ばれていく。
その「大切なもの」は彫り細工の凝った木製の箱に入っている。
それは仮面によって私から遠ざけられようとしていた。
私の手の届かない場所へと連れ去られていった。
私にはどうすることもできなかった。
みんなが泣いていた。
みんなが――
「……先輩……」
「……先輩!……風先輩!……」
友奈「風先輩!!!」
風「あっ……」
はっと我に返った。
友奈「風先輩、大丈夫ですか?」
東郷「先輩、顔色が良くないですよ」
海はフローリングの床だった。
ここは私の家だ。
風「……ああ……二人とも来てたのね」
風「ごめん……ちょっとぼーっとしてた。あはは……」
東郷「……」
友奈「あの、お腹すいてませんか?」
風「……いや、今あんまりお腹すいてなくて……」
友奈「ダメですよ!しっかり食べないと!元気出ませんよ」
風「うん、ありがとう。でもね、今日はもう食事済ませちゃったの」
風「だから、本当に大丈夫だから……」
友奈「……」
東郷「嘘……ですよね……」
風「いや……本当だって。あんたたちが来る前に食べたから」
東郷「私たち、お昼からずっとここにいるんですよ」
風「え……」
東郷「それから6時間、先輩はずっと壁に向かってただ何をすることもなく座り込んでいました」
風「……」
友奈「私と東郷さんでお夕飯作ったんですよ!」
友奈「あっ、台所は勝手に使っちゃいました」
友奈「でも、きっとみんなで食べれば少しは元気になりますよ!」
風「……いい、いらない」
友奈「……で、でも、何か食べないとっ……」
風「何も食べたくないの」
風「悪いけど帰ってくれる?」
友奈「風先輩……」
友奈「それじゃあ、もう少しここで待ってますから――」
東郷「友奈ちゃん」
東郷「もう……ね?」
友奈「あ……」
友奈「うん、分かった東郷さん」
友奈「風先輩!私たちみんな部室で待ってますから」
友奈「部室に来なかったら明日もまた来ます」
東郷「テーブルにお食事用意してありますから、食べられそうになったら暖めて食べてください」
友奈「少しでも食べてくださいね」
東郷「それじゃあ、私たちはこれで……」
友奈「さようなら風先輩、また明日」
風「……」
~~~
私はメンバーが負傷で試合に出られなくなったバレーボール部の穴を埋めるため、一泊して大会に出場しに行った。
試合は私たち讃州中学が優勝を果たし、次なる大会への進出を決定した。
バレー部員「すごく助かったわ、犬吠埼さん。お陰で優勝しちゃった!」
風「いや、私のしたことなんて大したことないって。みんなの力よ」
バレー部員「そんなことないって!犬吠埼さんがいなかったら絶対勝ててなかったよ」
風「そう?お役に立てたのなら良かったわ」
バレー部員「また今度ピンチになったら助けを借りてもいい?」
風「ええもちろん。私たち勇者部は困ってる人を助けるのが仕事だから」
バレー部員「それじゃあ頼んだよ!」
風「うんいつでも!」
バレー部員「じゃあね、犬吠埼さん!」
風「じゃあね!」
風「ふぅ……」
風「一泊しただけなのに、なんだか久しぶりの学校ね」
風「みんな今頃部室に集まってるかしら」
勇者部部室
ガラガラッ
風「みんなー!部長が帰ってきたわよー!」
友奈「あっ、風先輩……」
東郷「……」
夏凜「……」
園子「……」
風「何?どうしたのみんな、いつもの元気がないじゃない」
風「あ、もしかして部長の私がいなくて寂しかったのかな?」
夏凜「風っ……」グスッ
風「ちょっ!ちょっと、夏凜泣くことないじゃない!そんなに寂しかったの!?」
園子「フーミン先輩……」
風「なんなのよ、みんな……」
風「あれ、そういえば樹はどうしたの?」
友奈「あのっ!風先輩、落ち着いて聞いてください!」
風「え……本当になんなの……?」
風「樹は……?樹に何か……」
東郷「樹ちゃんは……その……」
夏凜「樹は……××××」
そこから先のことはあまりよく覚えていない。
海沿いの大赦の施設の広場で「それ」が執り行われた。
仮面の男たちが「大切なもの」を送り出すために整列していた。
私は「大切なもの」が入れられた箱に駆け寄った。
友奈「風先輩待って!」
夏凜「風っ!」
風「放して!放しなさい!」
夏凜「あんた何する気よ!?」
風「見せて!樹の顔を見せて!」
夏凜「ダメよ!あんたは見ちゃダメ!」
風「なんでよ!!!!」
風「私は樹の姉なのよ!家族なんだから!」
風「その棺を開けなさい!」
東郷「風先輩落ち着いて!」
園子「フーミン、見ないであげて!お願いだから!」
風「放しなさい!放せえええええええええええ!!!」
私はひどく取り乱して、みんなの前で暴れたらしい。
私自身自分で何をやっていたのか思い出せない。
中を見たかった。
それを確認したかった。
そうしなければ到底納得なんてできないと思った。
でも……本当はどうしたって受け入れることなんてできないんだ。
夏凜「風」
風「……」
海は再びフローリングの床に変わっていた。
園子「フーミン先輩、来たよ。大丈夫?」
風「……」
夏凜「返事くらいしたらどうなの?」
風「何か用?さっき、友奈と東郷が来たわ」
園子「さっきって……」
夏凜「あの二人が来たのは昨日よ、風」
風「そうなんだ」
夏凜「あんた、昨日東郷が作ったごはん全然食べてないじゃない」
園子「だめだよフーミン先輩、食べないと元気なくなっちゃうよ?」
風「何も食べたくない」
夏凜「風っ……あんた、そのまま何も食べずに死ぬ気じゃないでしょうね?」
園子「だ、だめだよフーミンそんなの!」
風「それもいいかもね」
バチンッ
園子「あっ、あっ、にぼっしー!」アワワワ
夏凜「はぁ、はぁ、あんたねぇ……!」グッ
風「……」ジンジン
夏凜「……ったく」
夏凜「お弁当持ってきたから。友奈と東郷が作ったのよ。今度はちゃんと食べなさいよね」
夏凜「あーあー、部屋の中埃だらけじゃない」
夏凜「園子、掃除するわよ。折角のお弁当が埃まみれになっちゃう」
園子「う、うん」
風「……」
夏凜「私はこっちの部屋をやるから、園子はそっちの部屋をお願い」
園子「分かった」
ガラッ
園子(こっちの部屋はいっつんの部屋かな?)
園子(パジャマが脱ぎ散らかしてある)
園子「いっつん、結構だらしないね~」
園子「パジャマは脱いだらちゃんと畳んでおかないと」
風「……」スッ
園子「?」
園子「フーミン先輩?」
ドンッ
園子「きゃあああああ!」
夏凜「!」
夏凜「園子、どうしたの!?」ダッ
風「樹のものに触るなあああああああ!」
園子「あ……あ……ごめんなさいフーミン先輩……」ガクガク
風「樹の匂いが消えるでしょ!樹の温もりがなくなっちゃうでしょ!!!」
園子「あわ……ごめんなさいごめんなさい!」
夏凜「風、あんた……!」
風「どうしてくれんのよ!?もう取り返しがつかないのよ!」
園子「ごめんなさいごめんなさいっ……」
夏凜「いい加減にしなさいよ風!」
夏凜「いくらなんでも今のは園子にひどいんじゃない!?」
風「……」
園子「違うのにぼっしー!今のは私が悪いから」
園子「私は大丈夫だから」
夏凜「……」
風「……」
風「……ごめん、乃木」
園子「ううん!いいんだよ。私の方こそごめんね、フーミン先輩」
風「……もう、帰ってくれないかしら」
園子「あ……」
夏凜「あっそ。じゃあ帰るわ」
園子「に、にぼっしー!」
風「……」
夏凜「風、いつまでそんなでいるのか知らないけど」
夏凜「樹が大好きな風はそんなんじゃないわよ」
園子「あっ、ちょっとにぼっしー待って!」ダッ
園子「フーミン先輩、お弁当ここに置いておくからね?ちゃんと食べないとダメだよ」
園子「それじゃあバイバイ、また来るから」
ガチャ、バタン
風「……」
一転して家の中は静まり返った。
部屋の時計だけがコツコツと音を立てていた。
時間だけがひたすら過ぎていくのが感じられた。
樹の残り香が薄まっていく。
夏凜の言うとおりだ。
いつまでもこうしていてはいけない。
樹のために動き出さないといけないんだ。
また明日
いっつんは正しくはイッつん表記であることを訂正します。
~~~
勇者部部室
友奈「それで……風先輩の様子はどうだった?」
夏凜「ありゃ相当キテるわよ。思った以上に重いダメージを食らってるみたい」
友奈「そうなんだ……まだ立ち直れそうにないんだね……」
夏凜「むしろちょっと凶暴化しているわ」
東郷「というと?」
夏凜「昨日は園子に手を上げたし」
友奈「え……!」
東郷「そんなっ……!」
園子「ち、違うの!あれは私が無神経なことをしちゃったからで……」
夏凜「とにかく、今の風にうかつな手出しは危ないってことよ」
東郷「そう……」
夏凜「今日も風のところに行くの?」
友奈「うん。東郷さんとお弁当も作ってきたし」
東郷「今日こそは何か食べてもらわないと、いよいよ体の方が心配になってくるわ」
夏凜「そうね。頼んだわよ、二人とも」
園子「グッドラックだよ……わっしー、ゆーゆ」
~~~
犬吠埼家
ピンポーン
友奈「今日も反応ないね」
東郷「そうね……」
友奈「もしかして中で倒れてるなんてこと……!」
東郷「友奈ちゃん落ち着いて。入ってみましょう」
ガチャ……
友奈「……お邪魔しま~す」
友奈「結城友奈、東郷美森、参上しました……」
友奈「風先輩……?」
バタンッ
東郷「電気が点いてないわね……もしかして外出してるんじゃ……」
友奈「っ……!東郷さん!」
東郷「何?友奈ちゃん」
友奈「ほら、昨日夏凜ちゃんに渡しておいたお弁当だよ!」
東郷「全部食べてある……!」
友奈「ね!」
友奈「良かった~、少しは元気が戻ってきたんだよ、きっと!」
東郷「……そうだと、いいわね」
東郷「!」
東郷「これはっ……!」
友奈「えっ……何これ……」
友奈「床に模様が書いてあるよ東郷さん」
友奈「それに真ん中に盛ってあるのは……粘土か何か……?」
東郷「ねえ、友奈ちゃん、あの粘土の塊、何かに似ていると思わない?」
友奈「何かって……」
東郷「……樹ちゃん……」
友奈「ちょ!ちょっと東郷さん!怖いこと言わないでよ!」
東郷「ごめんなさい。怖がらせるつもりはなかったの」
東郷「でも、なんだか少し悪い予感がするわ……」
友奈「東郷さん、風先輩の部屋から光が!」
東郷「物音がするわ。風先輩は部屋にいるみたいね」
友奈「行くよ」
東郷「友奈ちゃん」
東郷「その、昨日のこともあるから、念のために十分気をつけて」
友奈「うん、ありがとう」
友奈「でも大丈夫だよ。相手は風先輩だもん」
友奈「勇者部五箇条だよ、東郷さん」
東郷「……うん、分かったわ」
ガラッ
友奈「こんにちは風先輩!」
東郷「お邪魔してます」
風「……」カタカタ、カチッ、カチッ
友奈「風先輩、元気になったみたいですね!」
東郷「私たちのお弁当も食べてくれたんですよね?安心しました。」
風「……」カチッ、カチッ、カタカタ
友奈「……風……先輩……?」
東郷「先輩、パソコンで何か調べ物ですか?」
東郷「それに、向こうの部屋に書いてあった模様と、それと粘土の塊は……」
風「ああ、それは失敗作だから気にしないで」
友奈「失敗作……?」
友奈「風先輩、さっきからパソコンで何をやっているんですか?」チラッ
検索:錬金術 人間 生き返らせる方法
友奈「生き……返らせる……!?」
東郷「……」
東郷「やはり、床に描いてある模様は魔方陣か練成陣の類だったんですね」
友奈「れん、せい……?何のことなの?」
風「東郷!」ガシッ
東郷「ひゃっ」
風「東郷!あんたなら何か知ってるんでしょ!」
風「錬金術のこと!人を生き返らせる方法!」
友奈「風先輩落ち着いて!」
風「どうしても必要なのよ!樹を蘇らせる方法が!」
風「どんなことでもいいわ!どんな方法だって構わない!どんな代償だって払うわ!」
東郷「その……ごめんなさい先輩、錬金術は西洋のものだから、私も詳しくはないの」
風「それでも!何か知ってることがあるんでしょ!ヒントだけでも教えてちょうだい!」
東郷「……ごめんなさい」
風「あ……」
風「……そう」ガックリ
友奈「風先輩……樹ちゃんを作ろうとして……」
風「ええ、そうよ……」
友奈「命を作ろうとするなんて、そんなの……!」
風「ダメだって、言うの……?」
友奈「だってそんなの、やっぱり良くないと思います!」
風「だったら東郷を殺してやろうか!今、この場でっ!」
東郷「!」
友奈「え……」
風「あんたも失ったら分かるわよ!」
風「何としてでも取り戻したいって!」
友奈「でも……でも!そんなの絶対間違ってます!」
風「……あんたたちには分からないでしょうね」
風「私は、少しでも可能性のあることなら、どんなリスクを背負ってでもやるつもりよ」
友奈「私はそうやって傷ついていく風先輩は見たくないです……」
風「私の傷なんて、死んでいった樹の苦しみに比べれば――」
友奈「風先輩、あんまり自分で自分を苦しめないでください」
友奈「そんなことしなくたって……ほら、もしかしたら奇跡が起こってひょっこり生き返るかもしれないじゃないですか!」
友奈「だから……」
風「ふ ざ け な い で よ !」
友奈「ヒッ……」
風「こっちは真剣なのよ!」
友奈「あっ、ご、ごめんなさい……」
風「悪いけど、私忙しいから、帰ってくれる?」
友奈「本当に……ごめんなさい……」
友奈「私、そんなつもりじゃ……」
風「……」カタカタ
東郷「友奈ちゃん、今日はもう……」
友奈「あ、う……」
~~~
帰り道
友奈「はぁ……」
友奈「私、風先輩に無神経なこと言っちゃった……」
東郷「友奈ちゃん、そんなに落ち込まないで」
東郷「風先輩も今はつらいときだから強く当たってしまっているだけよ」
友奈「そうかなぁ……」
東郷「今はひたすら耐えるしかしかないわ」
友奈「……うん、そうだよね。今は私たちが風先輩を支えないといけないんだよね」
友奈「私が落ち込んでなんていられないんだ」
友奈「ねぇ、東郷さん」
東郷「何、友奈ちゃん?」
友奈「その、錬金術……っていうやつで、樹ちゃんを作り出すことって、本当にできるのかな?」
東郷「ああ、そのこと……」
友奈「もしそんなことができたとしたら……」
東郷「たぶん、それは無理……だと思うわ」
友奈「そうなの?」
東郷「錬金術の中に人体を練成する技術も含まれているのは確かにその通りよ」
友奈「そ、それじゃあ……!」
東郷「でも人間を作り出したなんていう話は伝承や創作の中でだけで、実際にできたという記録はないと思うわ」
友奈「ないと……思う……?」
東郷「さっきも言ったけど、錬金術は西洋のものだからあまり詳しくはないの」
東郷「でも無から人間を作り出すなんてこと、私には不可能のように思うわ」
東郷「神樹様の力を持ってしても無理なんだもの」
友奈「そう……なのかな……」
~~~
勇者部部室
夏凜「そう……風のやつ、ついにそんなことを始めたのね」
東郷「結局徒労に終わるだけとは思うけど……」
園子「でも、そうやって行動を起こし始めたってことは、少なくともいいこと、なんじゃないかな?」
友奈「うん。きっといい方向に向かってるんだと思う」
夏凜「とりあえずこのまま餓死する可能性はなくなったみたいでほっとしたわ」
園子「今日は私とにぼっしーでフーミン先輩のおうち行ってみる?」
夏凜「そうね――それじゃあ」
ガラガラッ
先生「ちょっと失礼するぞー」
友奈「あ、先生」
先生「ミシンを借りに来た」
東郷「それでしたら……」ガタッ
先生「ああ、いいよいいよ。勝手に持っていくから」
先生「えーっと確かここに……あったあった」ゴソゴソ
先生「あとは……っと」キョロキョロ
先生「あれぇ、ないなぁ……」
友奈「先生、ミシンの他にも何か探してるんですか?」
先生「う~ん、ここにあったと思ってたんだがなぁ」
先生「まあいいか。ああ、気にしなくていいから。ミシン借りてくぞ」
バタンッ
東郷「何か探していたようだけど……?」
園子「なんだろうね~。ちょっと気になるかも……」
夏凜「今は余計なことを考えてる暇はないわ。風のことを考えないと」
ガラガラッ
風「みんなー!犬吠埼風、推参ー!」
「「「「!!!!」」」」
夏凜「風!?」
友奈「風先輩!?」
園子「フーミン先輩……なんで……」
風「なんでって何よ?私が勇者部に来ちゃ悪いってーの?」
友奈「そ、そんなことないですよ!風先輩が来てくれて嬉しいです!」
東郷「今日は授業はお休みしていたみたいですけど……」
夏凜(ちょ、ちょっと東郷!)
夏凜(こっち来なさい!他のこんなも!)コソコソ
友奈(えっ、なになに?)
園子(どうしたの~?)
夏凜(いい?折角風が立ち直ったんだから、地雷は絶対に踏んじゃダメよ!?)
友奈(地雷……)ゴクリ
園子(地雷ってなに~)
東郷(樹ちゃんを思い出させるような発言は謹んで、普段通りに振る舞うってことね)
夏凜(そうよ!いい?みんな分かった?)
友奈(うん、分かったよ!)
園子(了解~)
訂正
夏凜(こっち来なさい!他のこんなも!)
↓
夏凜(こっち来なさい!他のみんなも!)
風「な~に~、部長を差し置いて何コソコソ相談してるの?」
夏凜「な、な、なんでもないわよ!こっちの話!」
友奈「はい、風先輩とは全っ然関係ない話です!」
風「ふ~ん、まっ、いいや」
風「東郷、勇者部に新しい依頼は来てるの?」
東郷「はい、それが結構依頼が溜まっていて」
風「なんだと~、あたしがちょっとバレー部の助っ人に行ってたからって、みんな怠けすぎよ~」
友奈「いや~、やっぱり風先輩がいないと私たち何にもできなくて~、エヘヘ」
風「全く、手のかかる後輩たちなんだからっ」フンッ
夏凜(風の中ではバレー部の助っ人から帰ってきた直後ってことになってるのかしら?)
風「片っ端から依頼を片付けていくわよ!まず最初の依頼!」
東郷「最初は一年生の女子からのメールです。告白したいけど、どうすれば良いのか分からないからアドバイスが欲しいそうです」
風「おっ!これは女子力の権威である私の出番かしらね!」
友奈「さすが風先輩!頼りになる~」
園子「さすがだよフーミン先輩、ひゅ~ひゅ~」
夏凜「ちょっと待って!」
夏凜(はい、みんな集合!)コソコソ
友奈(えっ?何?)
園子(どうしたの~)
夏凜(この依頼、風に行かせちゃダメよ)
友奈(え?どうして?)
東郷(このまま依頼をこなしていって勇者部の仕事に没頭してもらうのが良いと思うけど……)
夏凜(依頼主は一年生の女子よ、相談を受けに一年生の教室に行ったら樹のことを思い出しちゃうかもしれないじゃない!)
友奈(ああ~、なるほど……)
東郷(少し考えすぎじゃないかしら?)
園子(そんなこと言ったら、学校の中は樹ちゃんの思い出がたくさんだよ~)
夏凜(とにかく、危険因子はできるだけ排除よ!)
風「だから~、さっきから何をコソコソやってるのよ?」
夏凜「な、なんでもないって!」
風「それじゃあ、早速私がその依頼主の所に行ってサクッと解決してくるわね!」
友奈「ちょっと、待ってください!風先輩は行っちゃダメです!」
風「え?なんでよ?」
友奈「え……えーっと……」アセアセ
東郷「風先輩は我が勇者部のいわば司令塔。ここでドンと構えてみんなに指示を」
風「何言ってんの!ここは先輩として、みんなに行動のお手本を示さなくちゃ!」
園子「まあまあ、ここはもっと適任が~」
風「え~、私よりも女子力の高い適任がいるっていうの?」
友奈「えーっと、えーっと」
夏凜「私が行くわ!」
東郷「夏凜ちゃん!?」
風「えー……夏凜がこの案件を解決できるっていうの~?」
夏凜「バカにしないでよ!私にだって恋愛の一つや二つ、パパッと解決できるっつーの!」ドン
夏凜「それじゃあ私一人で行ってくるから!」
園子(にぼっしー、できるだけ早くね!)
園子(時間がかかったらフーミン先輩が心配して偵察に行こうって言い出すと思うから)
夏凜(ええ、分かってるわ。私に任せなさい!)
夏凜「夏凜出陣!」ガラッ
風「ああ、行っちゃった。夏凜のやつ本当に大丈夫かしら?」
~~~
夏凜「見つけたぁ!」ドタドタドタ
女子「あ、あなたは勇者部の!」
夏凜「ぜぇ……はぁ……」ガシッ
女子「ひゃっ!」
夏凜「その!告白したいっていう相手はどこ!?」
女子「えっ///えっと……同じクラスの男の子なんですけど……」
夏凜「どいつよ!」
女子「あの……一番前の席の……///」
夏凜「あいつね!」
女子「は、はい///」テレテレ
夏凜「じゃあ連れてくるわ!」
女子「……へ?」
女子「ちょ、ちょっと!?」
夏凜「はい、連れてきたわ!」
男子「え?一体何?」
女子「ひゃあああ!///」
夏凜「この子があんたのこと好きなんだって」
女子「ちょっとおおおおお」
男子「えっ?///」
夏凜「あんたたちお似合いよ。今から恋人同士になりなさい」
女子「ちょちょちょ!ちょっと何言ってるんですかあ!?///」
男子「……いや……その、急にそんなこと……言われても……」
夏凜「はぁあああん!?」グイッ
男子「ヒィっ……」
夏凜「はっきりしなさいよ!男でしょ!この子の何がいけないっていうの?」
女子「はわわわわわわ」ガクガク
男子「いや、俺……他に気になってる人……いるし///」
女子「なっ……!」ガーン
夏凜「気になってるって何?別に付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
男子「そ、そうですけど……」
夏凜「だったらそんなこと知ったこっちゃないわよ!この子で手を打ちなさい」
女子「手を打つって……!」ガガーン
男子「そんなこと言われてもぉ!」
夏凜「こっちは一刻を争ってるのよ!付き合うの?付き合わないの?」
風「ちょっと夏凜!」
夏凜「なっ!風!?」
風「あんたねぇ、そんなんじゃ上手くいくこともいかなくなるでしょうが!」
夏凜「あんたこそなんでここに来てんのよ!?」
風「夏凜が心配だったから、付いてきたんでしょうが!」
風「そしたら案の定。全くあんたの女子力じゃ手に負えない案件だったみたいね」
夏凜「ぐぬぬ」
~~~
園子「ごめんにぼっしー」
友奈「止めたんだけど止め切れなくて」
東郷「それで依頼の方は?」
夏凜「風が上手くまとめて、友達としてから交際することになったわ」
風「どんなもんよ!」
友奈「それは良かったです!一件落着ですね」
夏凜(みんな集合)
園子(また~)
東郷(一年生と接触した風先輩の様子はどうだったの?)
夏凜(至って普通だったわ)
友奈(う~ん、やっぱり考えすぎだったんじゃないかな~)
夏凜(そうかもしれないわね)
夏凜(でも油断しちゃダメよ。危ない橋は極力渡らない。いいわね?)
風「この調子でガンガンいくわよ!」
風「東郷!次の依頼は?」
東郷「はい、近くの商店街の清掃の依頼が来ています」
夏凜(商店街の清掃、これなら学内の一年生との遭遇の危険性は低いわね)
夏凜(ナイスよ、東郷!)グッ
東郷(おまかせあれ)グッ
風「それじゃあ張り切って行くわよ!」
友奈「おおー!」
風先輩が元気になったところでまた明日
~~~
商店街
夏凜(ふぅ~、清掃はこのまま無事に終わりそうね)
幼女「ううぇええええん!」
夏凜(なっ!)
夏凜(みんな!3時の方向に泣いてる女の子発見!)
園子(はっ!)
友奈(え!)
東郷(まさか……あれは……!)
幼女「おねぇちゃあああああん!どこおおおおお!」
夏凜「!」
夏凜(あれは姉と二人で買い物に来てはぐれてしまったパターンの小さい女の子!)
夏凜(あんなのを風と遭遇させたら、間違いなく樹のことを思い出してしまうわ!)
夏凜(幸いにも風はちょうどここから離れたところで清掃してるし、今のうちに私たちでなんとかしないと!)
夏凜(みんないい?)
友奈(うん!)
東郷(了解!)
園子(らじゃ~)
幼女「おねぇちゃああああん!」
夏凜「ほ~ら、どうしたのお嬢ちゃ~ん?」
幼女「うぇえええええん!」
夏凜「ほらほら、このお姉ちゃんが一緒に遊んであげるからね~」アセアセ
幼女「うわぁああああん!」
友奈「はいはい!こっちのお姉ちゃんと遊ぶのはどうかな~」
幼女「いやああああああ!お姉ちゃんじゃないいいいいいい!」
友奈「あわわわわわわわ」
東郷「ほ~ら、国防仮面だよ~、仮面からばぁ~」
幼女「うぇええええええええん!」
園子「面白い顔~べろべろばぁ~」
幼女「おねえちゃあああああああん!」
友奈「ひぇ~泣き止んでくれないよ~」アワアワ
園子「渾身の変顔が~」
東郷「お姉ちゃんを見つけてあげないとどうしようもなさそうね……」
夏凜「でもまずは泣き止ませないと……!」
幼女「うわぁああああああん!」
風「よしよし」ナデナデ
幼女「ふぇ?」
夏凜「風!?」
風「お姉ちゃんがいなくなっちゃったの?」
幼女「…………うん」コクッ
風「それじゃあ私と一緒にお姉ちゃん探そうか!」
風「きっとお姉ちゃんも今頃あなたのこと探してると思うな」
幼女「……うん」コクッコクッ
風「それじゃあ行こっか」ギュッ
幼女「……」
友奈「すごい、泣き止んじゃった……」
園子「お姉ちゃんだね~」
姉「あっ、こんなところにいた!」
幼女「あ、……お姉ちゃぁあああああん!」ダーッ
風「おっと」
姉「もうっ!私から離れちゃダメって言ったでしょ!」
幼女「うぇええええ……おねえちゃぁん……」
姉「あの、もしかしてうちの妹がご迷惑を……」
風「ん?私?全然そんなことないって!」
風「それよりも、妹のことはしっかり見てないと。ね?」
姉「はい!以後気をつけます!」ペコリ
風「お姉ちゃんは妹を守るものなんだからね」
~~~
友奈「いや~、さすが風先輩!頼りになるなぁ!」
園子「尊敬しちゃうよ~」
風「あらそう?もっと褒めてもいいのよ~?」フン
園子「よっ、日本一~!」
東郷(ねぇ、夏凜ちゃん)ヒソヒソ
夏凜(何よ?)ヒソヒソ
東郷(さっきの姉妹を見ても風先輩の様子は全く変わらない様子)
東郷(私たちの心配は取り越し苦労だったのかしら?)
夏凜(そうかもね……別段無理してるって様子でもないし……)
夏凜(風が立ち直ったのなら、それでよし)
夏凜(それがあいつなりの向き合い方なのよ)
夏凜(私たちはいつも通りに風を受け入れるだけよ)
東郷(そう……だね……)
風「さて、清掃活動も終わったことだし、今夜はうちでパーティでもやらない?」
園子「パーティ?」
風「私が助っ人した女子バレー部の大会進出を祝して!ってことで」
友奈「わぁ!いいですね!みんなでパーティしましょう!」
風「東郷と夏凜は?」
東郷「はい、是非!」
夏凜「まあ、そんなにやりたいって言うなら行ってやらないこともないわね」
風「それじゃあ決まり!」
~~~
犬吠埼家
ガチャ
風「さあ、狭いところだけどみんな入って入って」
友奈「お邪魔しまーす!」
東郷(昨日来たときは魔方陣と人体練成の材料で散らかっていたけど……)
園子「わぁ~フーミン先輩の家すごい綺麗~」
東郷(ゴミ一つない綺麗な部屋……!)
風「はいお菓子もいっぱい買ってきたし、今夜はオールナイトよ!」
夏凜「ちょっと声大きい!近所迷惑でしょうが!」
風「ん?どうしたの東郷、人の家の中ジロジロ見て」
東郷「いえ、なんでもありません」
友奈「それよりも私お腹すいちゃいました!」
風「もう友奈ったら食いしん坊さんなんだから」
夏凜「それをあんたが言うの……」
園子「勇者部でパーティなんて私嬉しいよ~」
風「ああそうね~。みんなでこうしてパーティするのも久しぶりだし」
風「……」
風「と言っても、本当は6人でやりたかったわね……」
友奈「あ……」
東郷「……」
夏凜「……」
園子「……」
風「まあ……仕方のないことよね……」
夏凜「風……あんた、樹のこと……忘れたわけじゃなかったのね」
風「当たり前じゃない。私の大切な妹ですもの」
友奈「風先輩……」
東郷「……」グスン
園子「ふぇえ……フーミン先輩……」ウルウル
夏凜「そっか……そうよね。その上で向き合えるなら、やっぱりあんたは樹の大好きな風のままよ」
風「何言ってんのよ大げさな」
友奈「だって……だって、樹ちゃんは……」
風「あっ、そうだ。折角みんな来たんだから、樹のお見舞いしていってくれる?」
友奈「」
東郷「」
夏凜「」
園子「」
友奈「……お見舞い……?」
風「ええ、そうよ」
夏凜「風……あんた、いったい何を言って……」
風「だからぁ、今樹風邪で学校休んでるじゃない?」
園子「風邪……」
風「みんなの顔見たら少しは元気になるんじゃないかしら」
東郷「風先輩……」
風「みんなこっち来て」
ガラッ
園子「そこ……イッつんの部屋……」
風「さあ、みんな入っていいわよ」
東郷「……」
友奈「はい……お邪魔します」
夏凜(部屋の中……暗い……)
風「さあ、樹!みんながお見舞いに来てくれたわよ!」
友奈(樹ちゃんのベッド……)
東郷(布団の中が盛り上がってるわ……)
風「樹、起きなさーい!もう!いつまで寝てんの?」ユサユサ
夏凜(今っ!布団の中、動いた……?)
園子(誰か……いるの?ベッドの中に……)ドクドク
風「ほらっ、いくらなんでも寝すぎよ~樹」
友奈「……樹……ちゃん……いるの?」
東郷(まさか……そんなことあり得ない!)
東郷(旧世紀はおろか、神樹様にも成しえない業)
東郷(それはもう人が触れてはならない禁忌っ!)
東郷「友奈ちゃん……!」ギュッ
夏凜「風……そこにいるのって……」
園子「にぼっしー!」ムギュッ
風「樹、布団剥がすわよ!」
ガバッ
園子「ん!」
友奈「あっ……!」
夏凜「!」
東郷「あ……」
園子「……」チラッ
風「ほら~、樹みんなに挨拶くらいしなさいよね」ユサユサ
友奈「……」
東郷「……」
夏凜「……」
園子「……」
友奈「あ、風先輩!樹ちゃん今はちょっと元気ないみたいですから!」
東郷「……そ、そうね!今は無理して起こさない方が」
風「もう、しょうがないな~」
風「みんな、ごめんね。折角来てくれたのに」
友奈「いいえ!そんなことありません」
友奈「さあ、私たちはリビングに戻りましょう!」
友奈「樹ちゃんにはゆっくり休んで早く風邪を治してもらわないと!」
夏凜「……」
園子「……」
友奈「夏凜ちゃんと園ちゃんも!お菓子いっぱいあるし!」
ゾロゾロ……
友奈「……」
友奈「あ!私ちょっと外の空気吸ってきますね!」
東郷「友奈ちゃん?」
友奈「夏凜ちゃん、私のお菓子ちゃんと取っておいてね!」ダッ
東郷「あ……」
東郷「あの、私もちょっと行ってきます」
~~~
ガチャ
東郷「友奈ちゃん、大丈夫?」
友奈「うぇええ……ぐずっ……」
東郷「……友奈ちゃん!」
友奈「あっ……東郷さん」ズルズル
東郷「友奈ちゃん大丈夫!?」
友奈「東郷さん……東郷さん……!」
東郷「落ち着いて友奈ちゃん。私がついてるわ」
友奈「うぅ……うぇ……私、私……」
東郷「うん」
友奈「風先輩の……えぐっ……あんなところ、見たくなかった……」
友奈「だって……だって……えっぐ」
友奈「マネキンに……樹ちゃんの服を着せて……あんな……」
友奈「あんなのって……!」
東郷「ああ、友奈ちゃん!」ぎゅっ
友奈「私、風先輩にひどい事しちゃった……!」
友奈「もし……もしも……」
友奈「東郷さんが……し……し……」
友奈「死んじゃったら」
友奈「って、考えて……」
東郷「友奈ちゃん!もしかして昨日風先輩に言われたことをずっと気にしていたの?」
友奈「もしそうなったら、私、きっと平気じゃいられないっ……」
友奈「今の風先輩みたいに、きっとなっちゃう……ううん、もっと酷いかも……」
友奈「こんなことも分かってあげられなかったなんてっ……!」
友奈「私、後輩失格だ……」
東郷「そんなことないわ」
友奈「私が『あの時』止めていればっ……こんなことには」
東郷「友奈ちゃん、あなたのせいじゃないわ!」
東郷「これは私たちみんなで決めたことですもの」
友奈「でも……ぐすっ」
ガチャ
風「友奈ー、東郷ー、大丈夫かー?」
風「ん!?友奈!どうしたの!」
友奈「あ、風先輩、これは……」
東郷「友奈ちゃん、少し気持ち悪くなってしまったみたいです」
風「大変!ちょっと待ってて!今ビニール袋持ってくるから」
ガチャ、バタン
風「ほら、友奈。これに思いっきり吐き出しちゃいなさい」
友奈「うぇ……ごめんなさい、風先輩……」
風「背中さすってあげるね。よーしよーし」サスサス
風「狭い部屋に大勢集まったから酸欠になっちゃったのね」
風「ごめんね、気づいてあげられなくて」
友奈「ごめんなさい……ごめんなさいっ……」
風「もうっ、友奈らしくないわよ」
風「これくらいお安い御用よ。私はあんたたちの先輩なんだから」
友奈「本当にごめんなさいっ……」
東郷「風先輩、あとは私が」
風「うん、頼んだわよ東郷。私は部屋の中の換気しておくから」
東郷「はい、すぐに戻ります」
バタン
東郷「……」
東郷「友奈ちゃん」
友奈「ごめん、東郷さん。なんだか最近弱音ばっかり吐いてるね……」
東郷「友奈ちゃんの弱音ならいつだって聞くわ」
友奈「えへっ、ありがとう、東郷さん」
東郷「今は耐えて頑張りましょう。風先輩のためにも、樹ちゃんのためにも」
友奈「うん、そうだね」
友奈「あっ……」
東郷「立てないの?はい、手を貸して」
友奈「あははっ……私東郷さんに頼ってばっかり」
東郷「いつでも頼ってね」
東郷「私も友奈ちゃんのことを頼りにしてるから」
友奈「えへへっ……うん」
今日はここまで(書き溜めの残りがやばい)
~~~
翌朝
夏凜「さあ、みんな集まったわね!」
友奈「はい!結城友奈、参上であります!」
東郷「おはよう、夏凜ちゃん」
園子「ふわぁ~」
東郷「そのっち……」
園子「あっ!いけないいけない」
東郷「もう、そんな大口を開けて。はしたないわよ」
園子「うう~、わっしーに怒られた~」
園子「昨日のショッキングな出来事のせいでなかなか眠れなかったんだよ……」
友奈「うん……実は私も……」
東郷「そうね……私も昨日はあのことばかりが頭をよぎったわ」
夏凜「まぁ……それも仕方ないわね。私も同じだもの」
夏凜「でも!この苦境もいつかは終わるときがくるわ!」
夏凜「明けない夜はない!」
夏凜「そのために勇者部一同頑張るのよ!」
友奈「そうだね夏凜ちゃん!」
園子「ファイト~!」
東郷「それで今日はどうするの?」
夏凜「今日はこの公園の清掃活動よ」
夏凜「外で体を動かして、風に充実した一日を送ってもらうわ」
夏凜「悲しみも忘れちゃうくらいにね!」
友奈「うん!いよぉーっし頑張るぞ!」
「お~い、みんなー!」
友奈「あっ、風先輩だ!おーい!」
夏凜「よし、来たわね」
園子「臨戦態勢だよ!」
東郷「……ねぇ……あれって……」
風「いや~、ごめーん、待たせちゃった?」ガラガラ
友奈「!」
東郷「!」
夏凜「!」
園子「!」
風「もっと早く来るつもりだったんだけどね~」
風「樹がなかなか起きなくて~」ガチャガチャ
マネキン「」
友奈「……」
東郷「……」
夏凜「……」
園子「……」
風「ほらっ、樹も謝りなさい!」
マネキン「」
風「……」
風「まあ、樹もこう言ってることだし、許してあげてよ」
東郷「あ……は、はい……」
園子「うん……」
夏凜「……」
友奈「は、はい!も、もちろんです!」
友奈「樹ちゃんも、気にしなくていいよ!」
夏凜「……はっ!そ、そうよ樹!私たち全然待ってないわ!」
マネキン「」
風「いや~、良かったわね、樹。優しい先輩ばっかりで」
夏凜「あ……も、もちろんよ……」
夏凜(全員集合ー!!!)
友奈(夏凜ちゃん、どうしよう……)
園子(まさかイッつんを連れてくるなんて……!)
東郷(しかもちゃんと制服まで着せて……)
夏凜(とにかくいつも通りよ!動じてはダメ!)
園子(もう動揺でいっぱいだよ~)
東郷(こんなところを他の人に見られたりしたら……)
子供「ねーお母さーん!あの人ー!」
母「こらっ、見ちゃダメでしょ!」
夏凜「なっ!」
夏凜「風!あっち行くわよ!ここから離れるの!」グイッ
風「あっちて、今日はここの清掃活動するんでしょ?」
夏凜「いや、だから、あっちから始めるのよ!」
友奈「ほらっ、風先輩、あっちにゴミがたくさん落ちていますから!」
風「え~、そうかしら?」
園子「そりゃもうゴミだらけで大変なんだよ~」
東郷「さあさあ、こちらへ!」グイグイ
風「あっそう~?」
マネキン「」
風「もう、どこがゴミだらけなのよ?綺麗なもんじゃない」
風「それよりも向こうの人通りが多いところに、ゴミが散らかってそうだわ」トコトコ
友奈「あっ!」
夏凜「そっちに行っちゃダメよ!」
主婦1「あらまぁ、アレ見て」ヒソヒソ
主婦2「あらまぁあらまぁ」ヒソヒソ
風「この辺りなら清掃のし甲斐もありそうね!」
夏凜「ちょっと風!」
風「何よ?あんたらも清掃の準備をしなさい」
友奈「ここは後にしてまずはあっちからやりましょう!」
風「何言ってんのよ。ここが汚れてるんだから、ここから始めるのがいいでしょ」
東郷「で、でもあっちの方がゴミがたくさん……」
風「いや、だからここが一番汚れてるでしょうが!」
園子「えーっと、えーっと……」
マネキン「」
主婦1「あら、やーねー」ヒソヒソ
主婦2「ねぇ」ヒソヒソ
友奈「あわわわわわわわ」
子供「ねーねー!あの人マネキンに服着せてるー!」
母「こらっ!」
東郷「ああっ……」
夏凜「ぐっ……」
夏凜(どうすればいいのっ……このままじゃ……)
夏凜(どうすれば!……どうすれば!……)
樹「……」
樹「……お姉ちゃん……?」
夏凜「!」
夏凜「……い、樹……!」
樹「なんでお姉ちゃん、マネキンに私の服を着せてるの……?」
夏凜「い、樹……樹ぃーーー!!!」ダキッ
樹「ひゃあっ!か、夏凜さん!?」
友奈「樹ちゃぁあああああん!」
東郷「樹ちゃん!」
園子「イッつぅうううん!」
樹「はわわわわっ!」
樹「みなさん一体どうしたんですか!?」
夏凜「樹!よく帰ってきてくれたわ!」
友奈「良かったよぉおお!」
東郷「待ってたわ、樹ちゃん!」
園子「ウェルカムバックだよ~」
樹「え?は、はい、確かに長らく留守にはしていましたが……」
夏凜「風!ほらっ、樹が帰ってきたわよ!ねぇ風!」
風「……」
風「うそだ」
夏凜「え?」
風「……嘘だ……」
風「こんなの嘘だっ!!」
友奈「風先輩!?」
夏凜「何言ってるのよ!嘘じゃない!樹が帰ってきたのよ!」
風「嘘だっ!!」
風「これは夢だ……」
風「あの日から毎日毎日私を苦しめてきた」
風「毎日毎日毎日……」
風「樹が本当は生きてたって……帰ってきたって夢……」
風「もういやだ!!!!」
風「私に希望を持たせないで!」
風「……」ダッ
夏凜「風!どこ行くのよ!」
友奈「風先輩!」
樹「お姉ちゃん!」
園子「はわ~、大変だよ~!」
樹「お姉ちゃん、一体どうしちゃったんですか?」
東郷「樹ちゃん、話せば長くなるわ」
夏凜「それよりも今はあいつを追いかけないと!」
夏凜「行くわよ、友奈!」ダッ
友奈「うん!」ダッ
夏凜「風のやつっ!どこ行ったのよ!」
友奈「あっ!夏凜ちゃんあそこ!橋の上!」
夏凜「あんなところに!」
夏凜「まさか……!飛び降りる気!?」
友奈「そんな!」
夏凜「友奈急ぐわよ!」
風「もうこんな夢はうんざり……」
風「夢の中で死ねば、この夢からも覚めるはず……」
夏凜「風ーーーーーっ!!!」
友奈「風先輩!」
風「放して!これは夢なのよ!夢から覚めないといけないの!」
夏凜「落ち着きなさいよこのバカ!」
友奈「これは夢じゃありません!樹ちゃんが本当に帰ってきたんです!」
風「そんなわけないじゃない!だって」
風「樹は死んだの!死んだのよ!」
夏凜「それが死んでなかったのよ!」
風「そんなの信じない!もう信じるもんか!」
風「もう傷つくのはいや!私を死なせて!放して!」
友奈「放しません!今度は絶対放しません!」
風「放してっ!」
樹「お姉ちゃん!」
バチンッ
風「」
友奈「樹ちゃん!?」
樹「痛かった?」
風「……樹……?」
樹「い た か っ た ?」
風「う、うん……」ジンジン
ぎゅっ
樹「これは夢じゃないし、私もちゃんと生きてるよ」
風「……」
樹「私がいない間に何があったのか知らないけど」
樹「お姉ちゃんにすごく心配かけちゃったみたいだね」
風「い、樹……」
樹「ごめんね」
風「樹ぃ……」ポロポロ
樹「ただいま、お姉ちゃん」
風「樹ぃぃいいいいいい!!」ギュウッ
樹「よしよし」
風「いいのよ……!樹さえ帰って来てくれれば、それだけでいいの……」
園子「良かったよ~」
東郷「ええ」
友奈「うんうん」
夏凜「ったく、一時はどうなるかと思ったわ……」
風「樹~」ギュッ
樹「あの……どうしてこうなったのか、教えてくれますか?」
夏凜「ああ……それなんだけど……」
また明後日(書くスピードが追いつかない)
~~~
風「それじゃあ私はバレー部の助っ人として行って来るわ」
友奈「頑張ってきてください!」
夏凜「やるからには完全勝利よ、風!」
風「任せなさいって!」
風「夏凜こそ、私がいない間の勇者部のことは任せたわよ」
夏凜「なっ、わ、私が!?」
夏凜「ふんっ、しょうがないわね!」
夏凜「やってやるわよ!」
風「うん、よろしく」
園子「フーミン先輩がんば~」
東郷「くれぐれも道中にはお気をつけて」
樹「お姉ちゃん、頑張ってきてね」
風「樹も今夜一人で大丈夫?」
樹「も、もう!子供じゃないんだから大丈夫だよ!///」
風「本当に~?」
風「夜中にお姉ちゃ~んって呼んで泣いたりとか」
樹「し、しないよっ!」
風「ニヒヒっ」
風「じゃあみんな、行ってきます!」
バス「プップー」ブロロー
園子「行っちゃったね~」
友奈「いいな~、私も助っ人に行けば授業休めたのに~」
東郷「もう、友奈ちゃんたら」
夏凜「うるさいのが一時的にいなくなって勇者部も平和になりそうね」
園子「そんなこと言っちゃって~、本当はにぼっしー寂しいんでしょ?」
夏凜「なっ///そ、そんなわけないじゃない!」
東郷「うふふ」
友奈「あはは!」
樹「……」
~~~
夏凜「え?どうしたの樹?」
樹「あの……折り入って夏凜さんに頼みたいことがあるんです」
夏凜「わ、私に!?」
夏凜「な、何!私にできることならなんでも言いなさい!」グッ
樹「はい、それが……」
夏凜「ふむふむ、なるほどね」
樹「……ということなんです」
夏凜「分かったわ!私に任せなさい!」
~~~
勇者部部室
東郷「アイドルオーディション?」
樹「はい、プロダクションの藤原さんの勧めでして」
友奈「すごいよ樹ちゃん!アイドルになるんだ!」
園子「応援するよ~イッつん」
樹「いえいえ!まだアイドルになると決まったわけじゃ!」
東郷「それで、私たちに協力して欲しいことって何かしら?」
友奈「私、樹ちゃんのためなら何でもやっちゃうよ!」
園子「私もばっりばっり頑張るよ~
樹「今回のオーディションはテレビ番組形式になっていて、四国中を巡って歌を披露するんです」
樹「なので全てのオーディションを終えるまでに最大で5日間くらいは帰って来れないんです」
友奈「それは大変だ~」
東郷「もしかして風先輩のこと?」
樹「はい……学校にはもう話してあるので大丈夫なんですけど、お姉ちゃんの方が……」
樹「きっとオーディションのことを知ったら、付いて来ちゃうと思うんです」
園子「そうだね~、フーミン先輩はイッつんのこと溺愛してるからね~」
友奈「確かに。でもそんなに風先輩に付いて来られるのが嫌なの?」
樹「嫌ってわけじゃないんですけど、私歌のことに関しては自分の力だけでやりたいと思ってて」
樹「きっとお姉ちゃんは私のことを応援してくれるんだと思うんですけど、それじゃあ意味ないんです」
友奈「樹ちゃん……!」
東郷「立派だわ!」
園子「うぅ……大きくなったねぇ、イッつん……」グスン
夏凜「というわけよ」
夏凜「幸いにも樹がオーディションに出発するのは明日の朝、ちょうど風はまだ帰ってきていないわ」
友奈「私たちはどうすればいいの?」
夏凜「帰ってきた風が樹を追いかけないように足止めするわ」
東郷「なるほど。でも難しそうね」
園子「うん……木に縛り付けても破ってイッつんの元に駆けつけるだろうね」
友奈「う~ん、でもオーディションの場所が分からなければ駆けつけようもないんじゃないかな?」
夏凜「いいえ、それじゃあダメよ」
夏凜「オーディションと知れば、風はあらゆる手段で情報を集めて樹の場所を突き止めるわ」
東郷「それじゃあオーディションがあること自体を秘密に?」
園子「でもそれだと、イッつんが急にいなくなったことの説明がつかないよ~」
夏凜「ふっふっふっ」
友奈「夏凜ちゃんもしかしていいアイディアがあるの?」
夏凜「もちろんよ!可愛い後輩のために秘策を考えてあるわ!」
夏凜「樹!あんたは安心してオーディションに行きなさい!」
夏凜「ここは勇者部三好夏凜がなんとかしてみせるわ!」
~~~
樹「それじゃあ、皆さん、後はよろしくお願いします」ペコリ
友奈「うん!樹ちゃんこそ頑張ってきてね!」
東郷「応援してるわ」
園子「イッつんがんば~」
夏凜「気合よ、樹!」
樹「はい!行ってきます!」
夏凜「……」
夏凜「さて、行ったわね」
友奈「それでどうするの夏凜ちゃん?」
東郷「放課後には風先輩がバレーボールの試合から帰ってくるわね」
夏凜「私の秘策はずばり!」
夏凜「樹を死んだことにするのよ!」
友奈「ええええ!?」
東郷「それは、さすがにやりすぎでは……?」
園子「私もあんまりよくないと思うな~……」
夏凜「何言ってんのよ!これくらいしないと風のやつを止められないのよ!」
夏凜「樹がいる限り、風は絶対に樹のところに向かおうとするわ」
夏凜「でも樹がこの世からいなくなったら、それは絶対無理でしょ?」
園子「う~ん……」
東郷「まぁ、確かに……」
夏凜「それとも他に名案があるわけ?」
友奈「うう、ないけど……でもなぁ……」
夏凜「これも樹の夢の実現のためでしょ!」
夏凜「私は一人でもやるつもりよ!」
夏凜「協力してくれるの?くれないの?」
友奈「……」
東郷「……」
園子「……」
~~~
勇者部部室
ガラガラッ
風「みんなー!部長が帰ってきたわよー!」
友奈「あっ、風先輩……」
東郷「……」
夏凜「……」
園子「……」
風「何?どうしたのみんな、いつもの元気がないじゃない」
風「あ、もしかして部長の私がいなくて寂しかったのかな?」
夏凜「風っ……」グスッ
風「ちょっ!ちょっと、夏凜泣くことないじゃない!そんなに寂しかったの!?」
園子「フーミン先輩……」
風「なんなのよ、みんな……」
風「あれ、そういえば樹はどうしたの?」
友奈「あのっ!風先輩、落ち着いて聞いてください!」
風「え……本当になんなの……?」
風「樹は……?樹に何か……」
東郷「樹ちゃんは……その……」
夏凜「樹は……死んだわ」
~~~
大赦の施設
友奈「うわ~すごいことになってるよ~」
東郷「あの……この大赦総動員のお葬式は一体……?」
園子「にぼっしーに頼まれたから、私が大赦にお願いして用意してもらったんだよ~……」
夏凜「ここまですれば完璧っ!」
夏凜「風も絶対信じるはずよ!」
友奈「それで、風先輩は?」
東郷「あそこよ」
風「……」
園子「ショックで呆然と……って感じだね……」
東郷「それはそうよ。たった一人の家族が死んでしまったら」
友奈「なんだかかわいそう……」
夏凜「何言ってるの?これもほんの一時のことよ」
夏凜「みんないい?しっかり演技するのよ?」
風「……」ダッ
友奈「あっ、風先輩がっ!」
夏凜「なっ!あいつどこに行く気よ!?」
東郷「イッつんの棺の方よ!」
園子「はわわ~!あの中は石ころが入ってるだけだから、中身を見られたらアウトだよ~!」
夏凜「なんですって!みんな、風を止めるわよ!」
ダッ
友奈「風先輩待って!」
夏凜「風っ!」
風「放して!放しなさい!」
夏凜「あんた何する気よ!?」
風「見せて!樹の顔を見せて!」
夏凜「ダメよ!あんたは見ちゃダメ!」
風「なんでよ!!!!」
風「私は樹の姉なのよ!家族なんだから!」
風「その棺を開けなさい!」
東郷「風先輩落ち着いて!」
園子「フーミン、見ないであげて!お願いだから!」
風「放しなさい!放せえええええええええええ!!!」
スルッ
友奈「ああっ、風先輩!」
夏凜「風だめぇ!」
風「樹っ……!樹っ……!」パカッ
東郷「ああっ!」
園子「み、見られちゃった~!」
風「……」
風「樹……ぐずっ……樹……」
夏凜「……!?」
風「こんなになっちゃって……樹ぃ……」
風「うわああああああああああああん!」
夏凜「えっ!?」
友奈「ば、バレてない……?」
園子「あれぇ、確かに中身は石ころだけのはずなんだけど……」
東郷「あまりのショックに正常な判断ができないのね……」
風「うわああああああああ!樹ぃいいいいいいい!!!」
園子「フーミン……」
東郷「やっぱり……いくらなんでもこれは可哀想すぎるのでは……」
友奈「やっぱりこんなことやめようよ!こんなの見ていられないよ!」
友奈「ねぇ夏凜ちゃん!」
夏凜「……」
夏凜「だめよ」
友奈「でもっ!」
夏凜「だめだって!」
友奈「……」
夏凜「これには樹の夢がかかってるのよ……!」
夏凜「大丈夫っ……!風のことは私たちでフォローすれば、なんとかなる!」
風「い゛つ゛き゛ぃぃいい!……い゛つ゛き゛ぃいいいいいいいい!!!」
友奈「……」
夏凜「やるのよ……!やるしかないの!」
こうして、私たちは樹ちゃんが死んだという嘘をつくことになりました。
~~~
樹「そ……そんなことになっていたんですか……」
風「それじゃあ……全部嘘だったんだ……あのお葬式も、何もかも……」
友奈「ごめんなさい、風先輩!」
東郷「こうでもしないと樹ちゃんを追いかけてしまうと思って……」
園子「イッつんは自分の力だけでオーディションを受けたかったんだよ」
風「樹、そうだったの……」
樹「ごめんね、お姉ちゃん。まさかこんなことになるとは思わなくって」
夏凜「まっ!でも本当に良かったわ!樹も無事に帰ってきたし!」
友奈「私も肩の荷が一気に下りたよ~」
夏凜「これで一件落着ね!」
風「……何が一件落着よ……」ゴゴゴゴゴ
友奈「あっ……」
東郷「で、ですよねぇ……」
風「私が……私が今までどんな気持ちだったか……」ゴゴゴゴ
園子「はわわわわわわわわ」
「「「「申し訳ありませんでしたぁ!!!!」」」」ゲザァ
夏凜「この通りよ風!」
東郷「どうかご慈悲を!」
友奈「なんでも言うこと聞きますから!」
園子「命だけは~!」
樹「あわわっ!み、みなさん!?」
風「……」
樹「お姉ちゃんお願い!許してあげて!全部私のせいだからっ」
風「いいえ。今回のことはさすがにタダでとはいかないわね」
風「あんたたち4人にはお仕置きしないとね」
園子「ひぇ~」ガクガク
風「罰として海!行くわよ!」
夏凜「う、海!?」
また明後日。
~~~
砂浜
風「あ~いい天気ねぇ」
樹「そ、そうだね……」
風「こうして樹と2人っきりでビーチチェアに寝そべってると幸せって感じがするわぁ」
樹「……」
風「どう樹、ここのビーチ今日はぜーんぶ私たちだけのものよ!」
樹「うん……すごいね……」
風「いや~、本当に気分いいわ~」
風「あ~でも、ちょ~っと暑いかなぁ……」
風「……」
風「あー!なんだか、あついなあ!」
園子「は、は~い!」アセアセ
園子「パラソルお持ちいたしました~」
風「お~、気が利くじゃないの~」
樹「すいません!園子さんすいません!」ペコペコ
園子「いいんだよ~えへへ」ニコニコ
風「いいのよ樹。こいつは召使いなんだから謝る必要なんてないの」
樹「いやいや、そんなっ……!」
園子「今日は犬吠埼姉妹に仕える召使いだよ~」
園子「ちなみにこの砂浜は大赦に頼んで一日貸し切りにしてもらったんだよ~」
風「あー、でもなんだかまだ暑いなー!」
園子「葉うちわでお扇ぎしましょう」パタパタ
風「ちゃんと樹にも風が当たるように扇いでちょうだい」
園子「は~い」パタパタ
樹「申し訳ありません!申し訳ありません!」ペコペコ
風「あ~気持ちいいわ~」
風「今度は甘いものが食べたくなってきたわね~」
東郷「はい、ただいま!」
東郷「特製のぼた餅でございます。お召し上がりください」
風「うむ。苦しゅうないぞ」パクッ
東郷「はい、樹ちゃんもどうぞ」
樹「はわわわわわ。すいません東郷先輩!」
風「うーん」モグモグ
風「悪くないけど、ビーチで優雅に食べるにはちょっと雰囲気が合わないわねぇ」
風「やりなおし!」
樹「ええ!?」
東郷「申し訳ありませんでした。ただちに」
樹「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!全部食べきっておいてそれはないよ~!」
東郷「いいえ、これも私の不手際です。すぐに別のものをご用意します」
樹「わ、わ、私は東郷先輩のぼた餅好きですっ!」
東郷「うふふっ、ありがとう樹ちゃん」
風「あー、なんだか体がこってきたわねぇ」
友奈「はいはーい!マッサージ師でーす!」
友奈「お体揉み解しましょう!」
風「あ、私の前に樹をお願いね」
風「喉にいいマッサージよ!」
友奈「承知いたしました!」
友奈「はい、樹ちゃん仰向けになって!」
樹「はうぅ……友奈さんまで本当にすいません……」
友奈「いいのいいの!」モミモミ
樹「ふわぁっ……やっぱり友奈さんのマッサージ気持ちいいです……」
風「私の大事な妹なんだから、よ~く揉んどいてよ」
友奈「はい、任せてください!」
風「今度は喉が渇いてきたわね~」
風「あー、何か飲みたいなー!」
風「……」
風「喉が渇いたー!何か飲みたいー!」
風「……」
風「喉が渇きすぎて死ぬー!」
夏凜「何度も何度もうるさいわね!」
夏凜「ほら!ドリンク持ってきてあげたわよ!」
風「遅いぞ、召使い!」
夏凜「なんですってぇ!」
夏凜「たくっ、なんで私がこんなことを……!」
風「あ~、召使いに持ってこさせたジュースはウマイわ~」ズズー
夏凜「こいつっ……!」
風「今夜はおいしいものが食べたいな~」
風「鯛でしょ~、ヒラメでしょ~、あとサザエとウニと~!」
夏凜「……なんで私にそれを言うのよ?」
風「乃木、にぼっしーちゃんに例のものを」
園子「はいどうぞ~」
夏凜「何これ……モリ?」
風「それで取ってきて。今夜のおかず」
夏凜「はあああああああああ???」
夏凜「誰が、そんなことするもんですか!」
風「ふーん……」
風「あー、辛かったな~、苦しかったな~」
風「樹が死んだって嘘つかれて悲しかったな~」チラッ
夏凜「ぐっ……」
夏凜「分かったわよ!取って来ればいいんでしょ!」
夏凜「鯛とヒラメとサザエとウニ!取って来てやるわよ!!」
風「あとマグロもお願いね」
夏凜「くっ、こ、こいつ……」
風「はいはい、さっさと行った!」
夏凜「ああ、もうっ!」
夏凜「三好夏凜!行くわよ!」
夏凜「うおおおおおおおおおおお!!」
風「行ってらっしゃ~い」
樹「ああ……夏凜さんがモリを手に海に飛び込んでいった……」
園子(にぼっしー、頑張って!)
たぶん明日おわる
~~~
旅館
夏凜「ああ~……疲れた~……」グデー
友奈「お疲れ様夏凜ちゃん、マッサージしてあげるね!」
夏凜「お、お願い友奈……全身が筋肉痛になりそうだわ……」
風「はぁ……ここから眺める夕日は最高ね……」
風「それも最愛の妹と一緒にいるおかげかしら」
樹「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!なんで私ひざの上に座らされてるの?///」
風「このくらい姉妹なんだから当たり前よ!」
樹「は、恥ずかしいからやだ~!」
風「ほらほら暴れないの♪もう、恥ずかしがりやさんなんだからぁ」
樹「もう!私子供じゃないんだよ!」
風「子供じゃないねぇ」
ペロペロ
樹「ひゃあっ!///」
樹「ちょちょちょっと!」
樹「なんで私の首舐めるの!」
風「いやぁ~、大人になった樹の味を確かめたくなって」
樹「もうっ!なんでそうなるの!」
園子「大人になった樹の味、とってもおいしかったわよ」
園子「もう///お姉ちゃんたら、そんなこと言ったって許さないからね///」
園子「もう舐めちゃダメ?」
園子「だめっ!……人が見てるところじゃ……だめ///」
園子「樹、私、もう我慢、できない……」
園子「お姉ちゃん……///」
樹「そ、園子さん!勝手にセリフ足さないでください!」
園子「えへへ~」
風「いや~でも樹の首筋はいつも通り美味だったわよ」
樹「お姉ちゃん何言ってるの!」
園子「いつも舐めてるんだね~」
風「そりゃもちろん!」
樹「な、舐めてないでしょ!///」
夏凜「風のやつ、シスコン悪化してるわね……」
友奈「風先輩も樹ちゃんが帰ってきて嬉しいんだよ」モミモミ
友奈「それにしても夏凜ちゃん凄かったね~」
友奈「モリ一本であんなにたくさん魚を捕まえるなんて」
夏凜「そんなの私の手にかかればチョチョイのチョイよ……」ウトウト
友奈「さっすが、夏凜ちゃん!」
夏凜「……」
友奈「あれ?夏凜ちゃん?」
夏凜「すぅ……」
園子「にぼっしー気持ちよくて寝ちゃったね」
友奈「相当疲れてたんだね」
園子「そういえば、わっしーは?」
友奈「東郷さんは夕食の準備をしてるところだよ」
園子「それじゃあ私たちも手伝いに行こっか」
友奈「そうだね」
夏凜「ぐー……」
~~~
東郷「お夕飯の準備が整いましたよ」
ジャジャーン!
東郷「夏凜ちゃんが取ってくれた海の幸を使って、お刺身の盛り合わせと、お鍋と――」
東郷「サザエは金網でつぼ焼きにして醤油でいただいてください」
風「おおーっ!」
樹「す……すごい、豪華!」
夏凜「これ、あんたたちが作ったの!?」
友奈「うん、そうだよー!」
友奈「って、言いたい所だけど……えへへ」
園子「ほとんど旅館の人にやってもらいました~」
東郷「夏凜ちゃんの取ってきた食材が良かったのでとても美味しいと思います」
東郷「風先輩、樹ちゃん、それではどうぞお召し上がりください」
風「……」
夏凜「……どうしたのよ、食べないの?」
風「うん……」
風「みんな、今日はありがとう」
樹「お姉ちゃん……?」
風「今回のことは確かに私も怒っちゃったけど」
風「元々私が妹離れできてないせいで、みんなに変な気を使わせちゃったところもあるのよね」
風「みんなにも悪気がなかったことも分かってる」
風「私もみんなに色々当たったりもしちゃったし」
風「そのことは私も謝るわ。本当にごめん……」
風「私は、勇者部のみんなのこと好きだから」
風「これからもずっと一緒にいたいと思ってるし」
風「私も妹離れできるようにもっと頑張る」
風「だから、これはみんなで……食べたい……かな」
樹「お姉ちゃん!」
夏凜「風……」
友奈「風先輩っ……!」ウルウル
友奈「私、そう言ってもらえてとっても嬉しいです!」
東郷「先輩……感動しました……!」
園子「私も嬉しいよ!」
友奈「私、一生風先輩に付いて行きます!」
東郷「東郷美森、風先輩に忠義を誓います!」
園子「じゃあ私も~」
園子「一生勇者部!だね!」
夏凜「まぁ……あんたらだけじゃ心配だから、私も付き合ってやるわよ」
夏凜「だから私も仲間に入れなさいよね」
風「みんな……!」
風「私ってこんなに素敵な後輩に囲まれて幸せ者ね……」
風「なんだか夢みたい……」
夏凜「何言ってんのよ。夢なわけないでしょ」
樹「お姉ちゃん……もしかして泣いてるの……?」
風「ち、ちがっ!///」
風「これは潮風に当たってちょっと目が乾いたのよ!」
友奈「あははっ!」
園子「……」グゥ~
園子「ハッ!」
東郷「ちょっと、そのっち!」
園子「ふぇ~、お腹すいたんだよ~」
友奈「ああ、実は私も……」グゥー
風「そうね!それじゃあみんなで食べましょうか!」
東郷「風先輩にそう言ってもらえると思って、実は全員分のご飯とお味噌汁を用意しました」
夏凜「おおっ!さすが東郷、気が利くじゃない」
樹「私、ご飯よそりますね!」
東郷「お願いね、樹ちゃん」
友奈「それじゃあ私お味噌汁配る!」
園子「私はみんなにジュースを注いであげるよ~」
ガヤガヤ
風「それじゃあみんな、グラスを持ったわね」
風「勇者部6人、これからも末永い幸福を願って――」
「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」
~~~
その夜
樹「ちょっとお姉ちゃん!」
樹「ちゃんと自分の布団で寝てー!」
風「お願い樹!一緒に寝てぇええ!」
樹「嫌だよ子供みたいだもんっ!」
風「この数日で不足した樹分を補充しないと死んじゃうのよ~」
樹「放してぇ~!」
風「お願いだから!今夜だけ抱かせて~!」
園子「あら~」
夏凜「あんた妹離れするって言ってたじゃないの!」
風「本当今日だけ!明日から頑張るから!」
夏凜「何よそのダメ人間丸出しな言い訳!」
東郷「あらあら……」
友奈「えへへっ」
友奈「東郷さ~ん」ダキッ
東郷「あっ、もう友奈ちゃん」
友奈「私は東郷さんと一緒に寝る~」
友奈「東郷さんの体ふかふか~」スリスリ
東郷「ああんっ!も、もう、みんなが見てるわよ///」
友奈「えへへ~、もうガッシリ捕まえたから逃げられないよ!」
東郷「友奈ちゃんたら、しょうがないわね」
園子「はわ~」ポワポワ
園子「勇者部いいよ~ブリリアントだよ~」
夏凜「ったく、あんたらもちゃんと自分の布団に入りなさい!」
園子「ジェラシーを感じてるにぼっしーもいいよ~」
夏凜「なっ!ジェラシーなんて、感じてないわよ!」
園子「うふふ~」
園子「今夜はよ~く聞き耳立ててないとだね~」
園子「夜の勇者部の営みを頭に記録しないと」
夏凜「営みって……」
夏凜「ほら、いつまで騒いでんの!旅館の人に迷惑でしょ」
夏凜「電気消すわよ!」
「「「「「はーーーい」」」」」
園子「ぐーっ」
夏凜「って、寝るのはやっ!」
~~~
別の日
東郷「樹ちゃんが受けたというオーディションが番組として今日からネット配信になりました」
友奈「と、言うわけで、みんなで早速見よー!」
風「よっ、待ってましたー!」
園子「楽しみだよ~」
樹「えへへ、なんだかちょっと恥ずかしいです……」
夏凜「何言ってんのよ。これくらいで恥ずかしがってたらアイドルなんてできないでしょ」
樹「いや、まあ……」
東郷「それではサイトにアクセスします」
風「早く早く~」
園子「フーミン先輩落ち着いて~」
夏凜(あれっ?そういえばオーディションの結果がどうなったとか聞いてないわよね?)
夏凜(まぁでも、もし受かってたら流石に言うわよね……)
東郷「始まりました」
友奈「おおーっ!」
園子「女の子がたくさんだ~」
夏凜「ていうかこれ全員オーディションを受けに来た子たちなの?メチャクチャ多いんだけど……」
東郷「100人くらいはいそうですね」
友奈「すごい!」
風「樹は!?樹はどこよ!?」
友奈「これだけ多いとなかなか映らないよー」
東郷「あっ、今映りました」
風「樹!?樹ぃー!樹ぃー!」ガタッ
友奈「あっ」
園子「もうカメラ切り替わっちゃったね」
風「ちょっと!カメラどこ撮ってんのよ!」
風「樹を映しなさい!樹を!」グラグラ
東郷「ああ!風先輩パソコンが壊れます!」
友奈「風先輩落ち着いて!」
夏凜「ちょっと何やってんのよ!そんなことしても樹は映らないわよ!」
……1時間後
友奈「え……こ、これって……」
東郷「そうね……」
園子「うん……」
夏凜「樹……あんた、1位でオーディションに合格してんじゃないの!!」
樹「あはは……と言っても上位者でアイドルグループを結成するので1位にはあんまり意味はないんですけど」
夏凜「いやいや!それでもすごいっての!」
風「樹ぃいいいいいい!」ダキッ
樹「きゃあっ!」
風「よくやったわ樹!」
樹「えへへ……///」
風「ついに……ついに樹の魅力と才能に世間が気づき始めたのね!」
樹「そ、そんなぁ」
友奈「本当にすごいよ、樹ちゃん!」
夏凜「そうよ……!あの大勢の中で1位なんて!」
樹「あ、ありがとうございます」
風「こうしちゃいられないわっ!」カッ
東郷「そうですね。早速勇者部のホームページにニュースとして掲載しましょう」
風「それだけじゃ足りないわ!」
東郷「というと?」
風「ファンクラブの公式サイトを立ち上げるのよ!会員No.1はもちろん私!」
友奈「はい!私ナンバー2!」
園子「私ナンバースリ~」
東郷「そうですね!早速取り掛かって一時間以内に仕上げます」ビシッ
樹「ええ!?ふぁ、ファンクラブ!?」
風「頼んだわよ東郷」
風「夏凜!あんたはチラシを用意して、このことを宣伝しまくるのよ!」
風「チラシ1000枚!いえ、1万枚よ!」
夏凜「ガッテン承知!」
樹「夏凜さんまで!?」
風「友奈!とりあえず学校の中をひとっ走りして宣伝してきなさい!」
友奈「了解です!」
友奈「おーい、みんな~~~!!」ダッシュ
樹「ああっ!友奈さんやめてぇ!」
風「後は校内放送の乗っ取りね」
風「よっしゃ、乃木!私と放送室を強襲しにいくわよ!」
園子「ラジャー!」
樹「ひぃぃ、そこまでしなくて大丈夫だから~!」
……みんなー!!
樹「えっ?まさかこれって友奈さんの声!?」
東郷「響き渡る声がここまで届いてくるわね」
友奈「讃州中学一年、犬吠埼樹、アイドル始めました~~~!!!」
風「ナイスよ!友奈!」
樹「ひぇええええ!もうやめてぇええええええええ!」
今日も世界は平和だった。
おしまい
結城友奈は勇者である初回限定版BD第6巻が好評発売中!
特典のPCゲームIIみなとそふと版「結城友奈は勇者であるS」では最終回後の勇者部のほのぼのとした活躍を楽しめます!
終わり~
ほのぼのゆゆゆSS増えろ~
依頼出しておきます。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません