【艦これ】那智「皆に慕われる提督」 (145)
※艦隊これくしょんのSSです。
※荒らし、批判、レス上の喧嘩は控えてください。
※口調崩壊・性格崩壊はあるかもしれない。
※過去作の鎮守府とは別の話。
※誤字脱字・駄文・妙な改行あり。
特にスマホから見ている方には見にくいかもしれません。
※オリジナル設定&人名あり。
◇1つ前の話はこちら。
【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」2
【艦これ】提督「この平和な鎮守府の日常」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428670137/)
その他>>1がこれまでに書いた作品を知りたい方は、仰ってください。
以上の事を踏まえて、それでも大丈夫と言う人は下へどうぞ。
お手柔らかに見ていただければ嬉しいです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435667339
西の方の水平線に、太陽が傾いていく。その地平線に近づいていく太陽により、海沿いの建物や、小島の影を作っていく。
もうすぐ1日が終わると言うこの時間に、西方海域のリランカ島沖では、大きな砲撃の音と艦娘達の怒号が飛び交っていた。
長門「全主砲、斉射!てー!!」
世界に誇れるビッグセブン・長門の威勢の良い掛け声とともに、彼女の背中にある艤装の主砲が、火を噴く。長門の主砲の照準にはこの海域のボス、
戦艦タ級flagshipがいた。その女性のようで黄色いオーラを纏うタ級は、長門の46㎝三連装砲による砲撃をもろに喰らうが、撃沈とはいかなかった。
さらにタ級は、自分の装甲が破られた事が気に入らなかったのか、雄叫びを上げる。
戦艦タ級「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」
その自らの喉を切り裂くようなを聞いて長門は、にやりと口の端をわずかに吊り上げる。
長門「ほう。私の砲撃をまともに喰らっても、まだ雄叫びを上げる気力があるか」
赤城「流石は戦艦、しかもflagship。その装甲は伊達ではないですね」
隣に来た赤城が、長門の傍に来て話に乗る。
長門「艦載機の方は」
赤城「見ての通りです」
赤城はそう言いながら、タ級を指さす。見ると、タ級のはるか上空から、赤城の飛ばした艦載機が急降下爆撃を仕掛けていた。
赤城はタ級と対峙する前に先に艦載機を飛ばして、タ級の上空を旋回させ続けていたのだ。そして、タ級が弱ってきたところで止めを刺す。
赤城「それが、"あの提督"が立てた作戦です」
長門「やはり、"あの男"の作戦か。やはり、奴の頭は相当切れるな。
だが、タ級もただではやられず、自らの高角砲をやたらめったらに撃って、艦載機を落とそうと仕掛けてくる。その砲撃で艦載機が何機か堕ちたが、
全ての艦載機が堕ちる事は無く、残った艦載機が爆撃をタ級に仕掛ける。
ドドドドドドドドン!!と、連続した爆発の音がしばしの間あたりに響く。
爆発が収まり、やがて煙が晴れると、そこにはボロボロになったタ級が残っていた。
戦艦タ級「……………」
タ級は、雄たけびを上げる事もせず、ただ長門達を睨みつける。長門の後ろで待機していた川内は、少しばかり感嘆の声を上げる。
川内「すごいね。あれだけの爆撃を喰らってもまだ立っていられるなんて」
川内はそう言いながら、長門の顔を覗く。だが、長門の顔に困惑は無い。それは、俗に言うドヤ顔だった。
長門「だが、あれで終わりだ」
長門はタ級、のさらに向こう側を指さす。
川内「?」
川内は、タ級の発する煙のせいで長門が指差すものが見えないのか、目をよく凝らす。すると、煙の向こうに、1人の艦娘が佇んでいるのが見えた。
川内「あ、もしかして」
赤城「その通りよ。私の艦載機で敵を倒せたら万々歳だったけど、あの人がもしものためにって、自分からあそこに待機していたの」
その艦娘は腕を、すいと前に構える。合わせる照準は、もちろん戦艦タ級。この距離で外すはずがない。
タ級は、長門達の仕草に気づいて後ろを振り向いたが、もう遅かった。
ズドォォォン!と、心地よい砲撃の音が響き、戦艦タ級の背中に砲弾が直撃し、炸裂する。
戦艦タ級「…………………!」
タ級は、何か人には理解できないような言語を呟きながら、海の底へと沈んで行った。その様子を見て、タ級に止めを刺した艦娘はため息をつく。
那智「ふぅ…」
その艦娘、那智は、辺りを見回して他に敵影が無いかを確認する。やがて、敵影がいないのを確認して、長門達の下へ戻ってきた。
長門「見事だったぞ、那智。タ級に気づかれずに後ろに待機するとはな」
那智「いや、長門の砲撃や、赤城の艦載機による攻撃あってこそ、私が止めを刺す事ができたのだ。ありがとう」
那智は長門と赤城に笑いかける。那智の珍しい笑顔を見て、長門は顔をわずかに赤らめて顔を背ける。
長門「いや…その…。お前が笑いかけると、こっちが照れくさくてしょうがない」
赤城「確かに、ね。那智も最初に来た時に比べれば、少しは笑うようになったわね」
那智「おいおい、私はそこまで仏頂面だったか?」
那智達3人が和気藹々と話していると、川内がぶーと、頬を膨らませる。
川内「あのー…私達が他の敵艦を撃破できたから那智さん達が遠慮なくタ級を倒せたんですけど?」
那智「ああ、すまんな。川内達のおかげでもある、ありがとうな」
川内は那智に頭を撫でられて、川内は顔を真っ赤にする。そして、那智の手を振りほどく。那智は少し残念そうな顔をしたが、やがていつもの、
きりっとした表情に戻ると、大なり小なりの損傷を負った艦隊の皆を見回して切り出す。
那智「ふっ…さてと、では帰るか」
長門「ああ、そうだな」
那智の意見に長門も賛同して、那智達は帰路へと着く。
彼女たちの慕う提督のいる鎮守府へ。
那智にやられて海へ沈んだタ級は、日没と同時に着底した。
戦艦タ級(クソッ…またやられてしまったか…)
深海棲艦にも、感情と言うものはある。ただそれを言葉にできるのは、ごくわずかな艦種だけ。他の深海棲艦は言葉にする事はできない。
戦艦タ級(また…忌々しい…復讐してやりたい…)
そんな事を考えていると、タ級の傍に謎の光の粒子が突然現れた。
戦艦タ級(……………)
タ級はその様子をただ眺めている。やがて、光の粒子は人間の姿をかたどる。その人間の形になった粒子を見て、戦艦タ級は微笑む。
戦艦タ級「来てくれたのか…提督…」
普通の人間がこの場に居てこのタ級の言葉を聞けば、わけのわからない言語を言っているだけだと思っただろう。
しかし、この"提督"にだけはタ級がこう言っているのが分かるのだ。
深海棲艦にも、感情がある。
そして深海棲艦側にも、提督がいる。
今日はここまでにします。
できるだけ、皆様の期待に応えられるような作品にできるように作成していきます。
明日は、>>1の都合上投下する事ができません。次の投下は明後日の7月2日、午後9時以降を予定しております。
>>1の私事で投下できず、すみません。
感想等があればお気軽にどうぞ。
それではまた次の投下でお会いしましょう。
こんばんは。>>1です。
皆様の期待に応えられるように、頑張ります。
では、投下していきます。
陽もすっかり沈んだ頃に、那智達の艦隊は鎮守府に帰投した。
那智は、負傷した者を入渠ドックへ、そうでない者を補給所へ向かわせると、戦果を報告するために執務室へと向かう。この鎮守府では基本的に、
旗艦は帰投した後にまず口頭で戦闘に関する報告をし、その後でまた詳細を記入した報告書を提督へ提出する。
執務室の前に立つと、那智はコンコンコン、とノックをする。すると中から、
??「どうぞ」
男の声が聞こえた。その声は、那智にとってはもう聞き慣れたものだった。
那智「失礼する」
男の声を聞いた後で、那智はドアを開ける。執務室の中は、床に赤い絨毯、壁際に本棚、そしてドアの正面に執務机と、普通の配置だった。
そして、その執務机では男が何かの書類を読んでいた。男は、ドアが開く音に気づいて顔を上げる。そして那智の顔を見て、柔和な笑みを浮かべる。
提督「おかえり、那智」
その男が、この鎮守府の提督だった。年齢は20代前半、艶やかな金髪、端正な顔立ちと、まさにイケメンと言うやつだった。提督の笑みは、
そこらの女性なら堕ちてしまいそうなほど爽やかだったが、那智は動じなかった。
那智「第一艦隊がリランカ島沖より帰投した。作戦結果の報告をしたいのだが、構わないか?」
提督「ああ、それじゃあ頼むよ」
那智は、提督の笑顔に動じず淡々と戦果の報告をし始める。そして報告を終えると、提督は少し考え込むような仕草をして、やがて再び那智に向き直る。
提督「ご苦労様。那智はまだ、補給はしていなかったよね?だったら、補給をしてきてくれ。報告書は、明日の夕方まででいいから」
那智「いや、今日の夜には出すつもりだ」
提督「まったく…那智は真面目だね」
那智「当たり前だ。では、失礼するぞ」
那智はそう言って執務室を出ようとするが、そこで提督が那智を呼び止める。
提督「そう言えば那智、君の錬度って今いくつだ?」
那智「…今回の出撃で、99になった」
那智は、提督が何を気にしてそのような事を聞いてきたのかを察して、答えた。
提督「そうか…。わかった、それじゃあ報告書は頼むよ」
その提督の言葉を聞きながら、那智は部屋を出た。
那智が補給を済ますと、時間はもう夕食の時間が近かった。仕方ないので那智は、夕食を食べた後で報告書を書く事に決める。そんな事を考えていると、
那智のお腹が小さく鳴った。どうやら、リランカ島での戦闘で大分体力を消費したらしい。
食堂に来ると、この鎮守府にいる艦娘100人前後が既に食事を始めていた。どうやら那智は、補給と提督への報告で出遅れたらしい。食事を配膳する、
間宮の所まで行き食事をトレーに受け取ると、那智は空いている席に座る。那智が座った席の近くに居たのは、航空戦艦の扶桑と山城だった。
扶桑「あら、那智さん。こんばんは」
那智「ああ、こんばんは。隣に座ってもいいか?」
扶桑「ええ、どうぞ」
那智が扶桑の隣に座ると、扶桑の向かい側に座っていた山城が、ぷーと頬を膨らませる。どうやら、扶桑との時間を邪魔されてご立腹のようだ。
那智(まったく…。この山城ときたら…扶桑もこんな妹を持って大変だろうに…)
山城のいつも通りの態度に呆れながら扶桑の方を見ると、扶桑は焼き鮭の骨を箸で丁寧に取っている所だった。
そこで、魚の皿を持っている扶桑の左手を見て、那智は眉をピクンと動かす。
その扶桑の左手の薬指には、銀色に輝く指輪が嵌められていた。
ケッコンカッコカリ指輪、と言うやつである。それは、提督と艦娘が強い絆を結んだ証。
那智(扶桑も、提督とケッコンしたのか)
扶桑"も"。そう表現した理由は明快である。
味噌汁の茶碗を持つ山城の左手薬指にも、指輪が嵌められていた。
山城の後ろに座っている利根の左手薬指にも、指輪が嵌められていた。
扶桑のさらに隣に座っている吹雪の左手薬指にも、指輪が嵌められていた。
そう、この鎮守府のほぼ全員の艦娘は、提督とケッコンカッコカリをしているのだ。駆逐艦、潜水艦、戦艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、空母、その全員だ。
ただし、那智はまだだった。恐らく、今夜にでも提督とケッコンカッコカリするのだろう。だから先ほど執務室で提督が、錬度を聞いたのだ。
那智(まったく…ケッコンカッコカリなど、私達艦娘の能力上限を上げるためのモノでしかないと言うのに…)
ケッコンカッコカリとはどういうものかを、那智はそのように定めていた。その行為は、それ以上でもそれ以下でもない。そう考えていた。
だから那智は、他の艦娘のようにケッコンカッコカリについて浮かれる事は無い。
夕食を食べ終えた後で、那智は自室で報告書を書き始める。ちなみに同室で姉妹艦の姉である妙高は、夜間遠征に向けて準備をしている所である。
だから今、部屋には那智1人しかいなかった。
そして報告書を書き終えると、那智は報告書を持って執務室へと向かう。時間は既に21時過ぎだった。あまり提督を待たせるのも失礼だと結論付けて、
那智は執務室へと足を速める。その道すがらで、同じ重巡洋艦の古鷹と会った。何やら、顔がにやけている。
那智「古鷹か。こんな遅くにどうかしたのか?」
そう言いながら古鷹に近づくと、何か奇妙な匂いが古鷹から発せられていた。その匂いに、那智は若干顔をしかめる。一方古鷹は、顔を赤らめつつ、
身を少しよじらせながら答える。
古鷹「ええと…提督と…その…」
古鷹のその態度で、那智は古鷹が何をしたのかを察した。つまり、古鷹は先ほどまで提督と色事に及んでいたのだろう。この鎮守府では、よくある事だ。
那智「…はぁ…。分かった、もういい。聞いた私が愚かだった。それより、そろそろ消灯時間だから寮に戻っておけ」
那智はそう言いながら古鷹の傍を通り過ぎて執務室へと向かう。古鷹は、『は、はい…』と恥ずかしげに小さく返事をしながら寮へと戻って行った。
執務室に着くと、那智は再びノックを3回してから部屋へと入る。そこには、いつも通りの提督がやはり執務机に座っていた。
提督「やあ、那智」
那智「昼の戦闘の報告書が書けたから、提出に来たぞ」
そう言って、那智は提督に報告書を手渡す。
提督は報告書を受け取ると、ペラペラとめくり、内容を一通り読んだ後、頷いて那智に顔を向ける。
提督「うん、いつもの事ながら良く書けてるね。ご苦労様」
那智「では、私は失礼する」
提督が満足そうな表情を浮かべたので寮へ戻ろうとしたが、
提督「ちょっと、待ってくれるかな」
提督が呼び留める。その理由が分からないほど、那智は愚かではない。
那智「何だ」
提督の方を振り返ると、提督は真剣な表情をしていた。そして、机の引き出しから何かを取り出して椅子から立ち上がり、那智の前に立つ。
提督「那智」
那智「…………」
提督は真っ直ぐに那智の目を捉えて、さっき引き出しから取り出したもの―小さな箱を開けて、その中身を那智に見せる。
提督「これを、受け取ってくれないかな」
箱の中で輝く銀色の指輪を那智に見せて、提督はそう言った。これが、ケッコンカッコカリである。
那智は、ふぅと溜め息をついて、指輪を受け取る。
那智「…ああ、受け取るよ」
提督「…よかった」
那智は受け取った指輪を左手の薬指に嵌める。その瞬間、那智の体の中から何かが解放されたような気持ちになる。
那智(能力の上限が、解放されたせいか…)
提督「気分はどうだ?」
提督に聞かれる。どうやら表情に出ていたらしい。
那智「うむ、悪くない気分だ。自分がさらに強くなれたような気がする」
提督「そうか、それはよかったよ」
那智「ちなみに、何故私のケッコンカッコカリをする順番が一番最後なんだ?」
今日まで、那智以外の艦娘は全員提督とケッコンカッコカリをしていた。何故、自分が最後なのか?それが気になった。
提督「楽しみは最後に取って置く物だろ?」
提督のその爽やかな笑みと共に告げられた言葉に、那智はフッと息を吐く。
しかしそこで那智は、先ほどの古鷹の事を思い出す。
那智「それよりも貴様、また色事に及んだのか」
提督「………古鷹に迫られて、ね」
この鎮守府で提督がケッコンカッコカリしているのは、既に100人を超えている。提督はその中の実に6割以上と、肉体関係を持っていた。
那智がこの鎮守府に初めて着任してからこの事実に気づいた時、那智は怒り狂った。司令官のくせに、何を考えているのかと。しかしこの提督は、
その時那智にこう返していた。
提督『艦娘の皆は国のために戦う兵器だが、俺からすれば皆普通の女の子だ。その女の子が、深海棲艦との戦いで疲労を重ねて女の子である事を忘れる。
そうならなくするためなら、俺は何でもする覚悟だよ。皆が女の子であるという事を忘れてほしくないから』
この提督は、基本的に艦娘達の意要望を否定する事はほとんどなかった。軽巡洋艦・重巡洋艦・戦艦の娘達からは体を求められる事もあるらしい。最初、
那智はこの提督の言葉を馬鹿げていると一蹴した。しかし、鎮守府の皆がこの提督の事を真に慕っている様子を見て、徐々に提督の意志を受け入れ始めた。
那智「まったく…貴様と言う男は…」
提督「ははは…否定はできないな」
那智「言っておくが、私は簡単に体を許すような女ではないぞ」
提督「分かってる」
那智「…ふぅ。では、私はもう休むぞ」
提督「ああ、お休み」
那智は執務室を出て、寮へと向かう。足を進めながら、那智は左手薬指の指輪を見直す。そこで、歩を止める。
那智(マズイな……)
那智は、自分の顔を両手で覆う。
那智(どうしても顔がにやけてしまう…!)
正直、那智も嬉しくて仕方が無かった。
提督『楽しみは最後に取って置く物だろう?』
その言葉がきっかけである。つまり提督は、那智とケッコンカッコカリをするという事が楽しみだったという事だ。
それが、嬉しくて仕方がないのだ。
那智(くそう…この顔を足柄に見られたら、なんて言われるだろうか…)
那智は誰にもこの顔を見られないように、片手で顔を隠しながら自分の部屋へと向かって行った。
その鎮守府は、地上には無い。深い海の底に、深海棲艦の鎮守府はある。
建物の形は地上の鎮守府とは全く違うが、内装はほぼ同じだった。
その深海棲艦の拠点の中にある廊下で、戦艦レ級と重巡ネ級は話をしていた。
戦艦レ級「そう言えば、聞いた?」
重巡ネ級「何を?」
戦艦レ級「地上部隊の報告で、どこかの鎮守府の提督が艦娘100人以上とケッコンカッコカリしたらしいよ?」
重巡ネ級「100人以上?」
戦艦レ級「そそ。まったくすごいよね~」
重巡ネ級「まったく…。馬鹿としか言いようのないがな」
艦娘との戦いでは敵意をむき出しにする彼女達だが、拠点に戻ってしまえば普通の女性のような感じだ。
戦艦レ級「しかし、ハーレム鎮守府か~。ウチの提督も羨ましがったりするのかな?」
重巡ネ級「…それは無いと思うが」
レ級とネ級がそんな風に話をしていると、廊下の向こうからコツ、コツと足音が聞こえてくる。レ級とネ級はその音に気づいて、足音の主に挨拶をする。
戦艦レ級「提督、ちーっす!」
重巡ネ級「こんにちは、提督」
レ級は軽い調子で敬礼をし、ネ級はぺこりとお辞儀をする。
その相手が、深海棲艦達を率いる提督だった。薄暗いせいで顔は良く見えないが、背格好は20代前半ぐらいだろうか。右目の辺りに、蒼い光が点っている。
深海提督「レ級にネ級か。どうかしたのか?」
戦艦レ級「いや、地上部隊の報告についてね、ちょっとね」
地上部隊。それは、地上世界で人の姿に近い深海棲艦が鎮守府の勢力を偵察する部隊である。地上部隊は人に近い形の深海棲艦が配属されており、
変装もするので怪しまれることはあまりなかった。
深海提督「地上部隊の報告?何か問題でもあったのか」
戦艦レ級「いや~、100人以上の艦娘とケッコンカッコカリした鎮守府があるって報告を受けましてね?まさにハーレム鎮守府ってやつじゃない?なら、
ウチの提督も男なんだから、羨ましがったりするのかなーなんて」
その言葉を聞いた深海提督の言葉はただ一言。
深海提督「くだらんな」
そう吐き捨てる。
戦艦レ級「ありゃ」
重巡ネ級「まあ、だろうな」
深海提督「じゃあ俺は執務室に戻る。何かあったら執務室に来い、いいな?」
戦艦レ級「あ、はーい」
レ級はそこで提督を送り出そうとするが、ネ級は深海提督を呼び止めた。
重巡ネ級「あの、提督。先ほど運び込まれたタ級先輩は…」
深海提督「ああ、アイツなら心配いらない。今は治癒処(地上の鎮守府で言う入渠ドック)で損傷を回復している。今はざっと60%ぐらいか」
重巡ネ級「よかった…」
深海提督「他に用は?」
重巡ネ級「あ、いや。呼び止めてすみません」
深海提督「うん。それじゃ」
深海提督は手を小さく振って、執務室へと向かって行った。その後で、戦艦レ級はつまらなさそうに溜め息を吐く。
戦艦レ級「ありゃりゃ、あの提督ってばハーレムとかそう言うのに憧れてると思ったけど。もしかしてもう枯れちゃったとか?」
重巡ネ級「そんなはずはないだろうが」
ネ級はそこで言葉を切り、だって、と言葉を続ける。
重巡ネ級「あの提督は、装甲空母姫さんとデキてるんだから」
今日はここまでにします。(実は筆者は赤疲労状態でした)
感想等があればお気軽にどうぞ。
それではまた明日。
深海棲艦達も魅力的でいいなぁと思います。仲間にしてあげたい。
こんばんは、>>1です。
それでは、投下していきます。
最初は、深海提督側の目線からスタートします。
深海の鎮守府は一日の終わりに、各地に展開している深海棲艦達から報告を受けて、それを統計する。その報告を統計するのは、数体の深海棲艦だ。
軽巡ツ級「―報告は以上です」
深海提督「そうか、ご苦労だった」
この日の統計係である軽巡ツ級が、執務室で深海提督に報告をしていた。
深海鎮守府の執務室の内装は、本棚に執務机、そしてソファーと、置かれているものは地上の鎮守府と大して変わらなかったが、本棚や執務机などは、
材質が少し地上の物とは違っていた。
軽巡ツ級「それと、先月の各地の鎮守府の戦力の状況です。どうぞ」
ツ級が手に持っていた報告書とは別の書類を深海提督に渡す(この深海鎮守府の中及び周辺は海水が入ってこない。だから紙なども濡れないのだ)。
深海提督はツ級から渡された書類を見る。その書類には、各地の鎮守府の戦力の状況がグラフで表されており、その鎮守府の提督の顔写真も(隠し撮りだが)
添付してあった。深海提督はその書類を一通り見た後で、その中から数枚を選んで抜き取り、ツ級に渡す。
深海提督「今回は、この鎮守府を潰す」
軽巡ツ級「了解しました」
この深海提督は、月末に地上各地の鎮守府の戦力の状況を統計して、その中でも脅威となる鎮守府を深海棲艦達に襲撃させ機能を停止させていた。ツ級は、
深海提督から渡された潰す予定の鎮守府の内容を確認して、ボソリと呟く。
軽巡ツ級「また…実力ナンバー2以下の鎮守府ですね」
深海提督「………」
そのツ級の何げない言葉に、提督はピクッと肩を震わせたがツ級は気づかない。
軽巡ツ級「どうして、ナンバー1の鎮守府を潰さずにナンバー2以下の鎮守府しか潰さないんですか?」
深海提督「…………まだ、その鎮守府を潰せるほどの戦力がウチには揃っていないからな」
軽巡ツ級「そうでしょうか…。私達が総力戦を仕掛ければ、その鎮守府も潰せるかと思いますが…」
深海提督「それでも、だ」
深海提督のわずかに強気な物言いに、軽巡ツ級は少したじろぐ。
軽巡ツ級「……分かりました、すみません」
深海提督「よし。分かればいいんだ。では、それらの鎮守府を潰す編成は、戦艦ル級が2隻、空母ヲ級、軽空母ヌ級、重巡リ級、軽巡ホ級が1隻ずつだ。
戦艦ル級が旗艦。その旗艦の錬度はflagship。それ以外の者はelite。状況によっては編成の変更も構わん」
軽巡ツ級「了解しました」
深海提督「戦艦タ級は使うな。まだ傷が完治していない。それと、状況による編成の変更は構わないが、空母を3隻以上入れるのはやめろ」
軽巡ツ級「はい」
ツ級は深海提督の言っていた事を言葉に出して反芻しながら、執務室を出た。それを見ると深海提督はふぅ、と深呼吸をして腕を上に伸ばす。すると、
ドアが3回ノックされた。
深海提督「入れ」
深海提督の返事に応えて執務室へ入ってきたのは、装甲空母姫だった。
装甲空母姫「ごきげんよう」
深海提督「空姫(そらひめ:装甲空母姫の略称)か。どうかしたのか?」
装甲空母姫「いいえ、別に?ただ、様子を見に来ただけよ」
深海提督「そうかい」
装甲空母姫は、机の上に載っていた各鎮守府の戦力がデータ化された書類を見る。
装甲空母姫「また、鎮守府を潰すの?」
深海提督「ああ。この深海鎮守府にの場所を突き止めて、ここを強襲するであろう艦隊をその鎮守府ごと潰す。それが、俺がここに来た時に最初に決めた、
方針の1つだ」
装甲空母姫「まあ、貴方の言う事に異論はないけれど。でも、このナンバー1の鎮守府を頑なにつぶさない理由は?」
装甲空母姫は、書類の一番上の紙をひらひらと揺らす。その書類に書かれている鎮守府は、何か月も連続でナンバー1の座に就いている鎮守府である。
だが、深海提督はその鎮守府を狙おうとした事はまだ一度も無かった。
深海提督は、装甲空母姫の言葉に顔を俯かせ、ボソリと言う。
深海提督「…………その理由は、お前も知っているはずだが」
装甲空母姫「それはさっき貴方がツ級に言った、『その鎮守府を潰せるほどの戦力が揃ってない』なんて言う上辺の理由じゃないわよね?」
深海提督「その通りだ。………と言うか、最初から知っていたんなら、俺をからかっていたという事か?」
装甲空母姫「そうね、貴方の反応が面白いんだもの」
装甲空母姫がニヤニヤと笑うのを見て、深海提督はチッ、と舌打ちをする。
装甲空母姫「まあ貴方の言葉を、この鎮守府の皆は疑わないだろうしね」
深海提督「だといいがな」
装甲空母姫「いいえ、疑わずに信じているわよ。だって…」
そこで装甲空母姫は言葉を切って、深海提督の耳元に唇を近づけて囁く。
装甲空母姫「この鎮守府の皆は、貴方の事を慕っているのだから」
数日後。地上の鎮守府で、那智は数枚の書類を片手に持って執務室のドアをノックしていた。すると中から、提督の返事が聞こえた。その返事を聞くと、
執務室へ入り、執務机の前までつかつかと歩く。
那智「新しい書類が海軍の方から来ている。確認を」
提督「ああ、ご苦労様」
那智に書類を渡されて、提督はそれを笑顔で受け取る。が、渡された書類を見て、提督の顔が苦虫を噛み潰したような表情に変わる。
那智「どうかしたのか?」
提督「…………また、他の鎮守府が奇襲を受けた」
提督がこの鎮守府に着任してから少し経った後の事だ。深海棲艦達が直接、鎮守府に襲撃を仕掛けてきたのである。これまでの深海棲艦の戦い方からは、
想像もつかないような出来事である。深海棲艦からの襲撃を受けて壊滅状態、または閉鎖された鎮守府はこれまでに20弱。それに襲われた鎮守府はほぼ、
かなり高い戦果を挙げていた鎮守府であった。
提督「今回潰されたのは……鹿児島の桜島第拾壱鎮守府、四国の室戸第陸鎮守府、伊勢・志摩の鳥羽第質鎮守府…それと新潟の糸魚川第拾壱鎮守府か…」
那智「糸魚川鎮守府は…」
提督「ああ、俺の友達が提督の鎮守府だよ…クソッ」
提督はそう言って机を叩く。どうやら渡された書類によると、その鎮守府は復興が不可能であり、提督も死亡してしまったらしい。
那智「他の鎮守府も…かなり戦果の高かった鎮守府だな」
提督「その鎮守府が根こそぎ潰されちまった…。また、深海棲艦の本拠地を潰せるかもしれない鎮守府が消えちまったんだ…」
那智「だが、ウチの鎮守府は今回潰された鎮守府よりもさらに上の戦果を挙げているはずだが…」
提督「その通りだ…。何で、この鎮守府だけ避けるように襲撃を受けない?それが妙で仕方がないんだ…。那智はどう思う?」
那智「え?ああ、そうだな…」
急に話を振られて那智は少し焦ったが、直ぐに冷静さを取り戻して考える。そして、自分なりの考えを述べる。
那智「恐らく……深海棲艦達もこの鎮守府を襲撃するまでの力を持ってはいないのであろうか…?他の鎮守府とこの鎮守府の戦果の差はそれなりにある。
その差を埋めるほどの力が、深海棲艦には無い…それが私の考えだ」
提督「なるほど……うん、確かに俺もそう思う」
那智「それより…糸魚川鎮守府の司令官の事は、その…残念だな…」
提督「ああ…本当に…ちくしょう」
提督は、目に浮かんだ涙を拭って、他の書類にも目を向ける。その提督の様子を見て、那智は唇を噛む。
那智(他の司令官が死んでも、その罪を悔やむ暇もない。この戦いは、それほどまでに激化しているのか…)
那智がそう思っている傍らで、提督が書類を見ていると、一枚の書類が目に留まった。
提督「ん?」
那智「どうかしたのか?」
那智も気になって、その書類を覗き込む。その書類には『招集命令』、そしてその書類の一文にはこう書かれていた。
『小田原第拾陸鎮守府提督とその秘書艦は、○月×日に海軍本部へ来るように』
小田原第拾陸鎮守府とは、この鎮守府の事である。そして、この書類上に他の鎮守府の名前も、他の鎮守府の提督が来ると言う事も、書かれてはいない。
つまり、この書類はこの鎮守府にだけ送られてきたものと言う事だ。
那智「司令官、これは…」
提督「分からない……」
その理由は、この書類には明記されていなかった。それゆえ、那智と提督は海軍本部へ行く日までの2日間、なぜあのような書類が来たのかもわからず、
過ごす事とになった。
そして、この書類が来た2日後から、深海棲艦との本当の戦いが幕を開ける事になる。
今日はここまでにします。
実在する地名を挙げてしまいましたが、あくまでフィクションです。実際の世界には存在しませんのでご了承ください。
それでは、また明日投下いたします。
このスレが終わった後の話は、日常編第三部、ヘタリア×艦これのクロスオーバー、木曾編~ヲ級編のリメイクのどれか一つを、
多数決で決めようと思います。
こんばんは。>>1です。
それでは、投下していきます。
海軍からの通達文が来た2日後、提督と那智は都心部にある海軍の本部に来ていた。
海軍本部の中は、何やら慌ただしい雰囲気が滲み出ている。提督がそれを疑問にして口に出すと那智が、
那智「恐らく、国内でもトップクラスの鎮守府がいくつも襲撃を受けて消滅しているのだから、国そのものや国の貿易路を守るのに必死なのだろう」
確かにこの国の資源、特に食糧の6割ほどは輸入だ。それも船による貿易が多い。その船が深海棲艦によって沈められてしまっている。だから、
海軍の鎮守府、ひいては艦娘がその船を護り深海棲艦を駆逐するのだが、船を護るのと深海棲艦を倒す事両方をこなせる、国内トップクラスの鎮守府は、
ほぼ壊滅状態。ランクが低い鎮守府は、船を護るか深海棲艦を倒すかのどちらかしかできない。やがてその鎮守府と艦隊が強くなっていっても、
また襲撃を受けてしまう。この繰り返しによって、この国の海軍の力はほぼ半減してしまっているのだ。
那智「どこの鎮守府を船団の護衛に回して、度の鎮守府を深海棲艦討伐に回すかを、頭を回して必死に思案しているから、慌ただしいのかもな」
提督は、那智の言葉に頷いた。
そして、そんな話をしながら、提督と那智は海軍総司令官の部屋の前に来た。ドアを2回ノックすると、中から『入れ』という厳しそうな声が聞こえる。
提督はおっかなびっくりドアノブを回して中に入る。中は豪勢な装飾と家具が置かれていたが、何より目を引いたのは、正面の執務机に座っている、
総司令官だった。
総司令官「貴様は?」
総司令官の、ドスが効いているともいえる問いかけに、提督と那智はビシッ!!と敬礼をして答える。
提督「はい!私が、小田原第拾陸鎮守府の提督であります!本日は、海軍本部より召集を受けてこちらに参りました!」
那智「同じく、小田原第拾陸鎮守府の提督秘書艦である那智です!」
2人の挨拶を見て、総司令官はふわりと笑う。
総司令官「そこまで硬くなる必要もない。そこに掛けてくれ」
総司令官は、傍にある応接用のソファーを指さす。提督と那智は揃って『失礼します!』と言ってから、ギクシャクと壊れたロボットのように座った。
そして総司令官は提督達の向かい側に座ると、先ほどまでの笑顔をキリッとした表情に戻す。
総司令官「単刀直入に言う。正直、このままでは我々人類は深海棲艦との戦いに敗北する」
総司令官のその言葉に、提督と那智はぽかんと口を開ける。総司令官が、そんな気弱な発言をするとは正直考えてもいなかった。
提督「えっ…どういう事ですか…!?」
総司令官「そのままの意味だ。ここ最近ではトップクラスの鎮守府がいくつも破壊されている。そして、まだ若い鎮守府が育っても、同じように壊される。
こんなことを繰り返していては、いつまでたっても深海棲艦と互角に対抗でき得る鎮守府など現れない。いずれ、この国のみならず、世界は、
深海棲艦によって毒され、死んでしまうだろう」
総司令官の言葉はもっともだ。提督は、その現実に顔を俯かせるが総司令官は『だが』と続ける。
総司令官「最後に希望もある」
提督「希望?」
提督が尋ねると、総司令官はうむ、と頷き提督の顔を指さす。
総司令官「希望とは、貴様たちの鎮守府だ」
提督は言っている意味が分からなかったが、那智はなるほど、と呟く。
那智「私達の鎮守府の戦績は、先月の全国戦績表よればトップだ。そのトップがまだ生きているとすれば、まだ深海棲艦に勝つ事ができるかもしれない、
と言うわけか」
総司令官「その通りだ」
総司令官は那智の言葉に満足そうに頷くと、傍らに置いてある書類を提督と那智の前に差し出す。
総司令官「この書類は、2カ月前に襲撃を受けた浜名湖第弐拾参鎮守府からの書類だ」
提督「浜名湖鎮守府は確か…」
那智「襲撃を受けたが、全ての機能が死んだわけではなかった」
総司令官「そうだ。そして、鎮守府が奇襲を受けた後、そこの鎮守府は無事だった艦娘に退却していく深海棲艦を尾行させた。そして―」
そこで総司令官はもう一つの書類を差し出す。その書類には、日本近海の海図が印刷されていて、赤ペンでメモがか書かれてる。
総司令官「そこにメモが書いてある場所が、恐らく深海棲艦の本拠地だ」
その言葉は、とても力強いものだった。そして何より、今までの絶望的な話を覆すような希望に満ちた言葉だった。
総司令官「ここまで言えば、分かるだろう。何故、貴様たちを今日ここへ呼んだのか」
提督「…………まさか」
総司令官「そう、そのまさか」
そこで言葉を切り、総司令官は次の言葉を告げる。
総司令官「貴様の鎮守府に、この深海棲艦の本拠地を叩き、深海棲艦を殲滅してもらいたい」
総司令官が頭を下げてまで、懇願をしてくる。その行為に、提督と那智はただならぬ何かを感じ取る。
提督「俺達の鎮守府で…ですか?」
総司令官「そうだ。貴様たちの鎮守府で、だ」
那智「…だが、私達の1回や2回程度の出撃で潰せるとは…」
総司令官「確かに、そう簡単には殲滅できないだろう。だから、特別に、貴様たちには手助けをしよう」
提督「援助?」
総司令官「この、深海棲艦の本拠地を潰す際に消費する資材は、全て海軍本部が立て替える。つまり、貴様たちの鎮守府の資材は減らないというわけだ」
提督「そんな……良いんですか?」
総司令官「今は四の五の言っている余裕はない。さらに、これまでは艦娘たちは出撃する時最大でも2つの艦隊を出撃させるのが限界だった。そこで、
今回に限り、4つの艦隊を同時に出撃させる事も許可しよう」
那智「4つの艦隊を1度に…!?」
総司令官のスケールの大きすぎる話に、那智は冷や汗をかく。と同時に、那智は楽しそうな表情も浮かべる」
提督「ですが、2つ以上の艦隊を動かす場合は鎮守府からの指令が受けにくくなると言うデメリットもあるはずでしたが…」
総司令官「だから、それの対策も施してある」
提督「えっ?」
今度は総司令官は足元に置いてあった大きめの箱を取り出す。そして、その箱のふたを開けると…
提督「これは…」
総司令官「海軍技術部の粋を集めて開発した、人間にも装備できる艤装だ」
艤装と言っても、あるのは腕に装着するタイプの主砲、海の上を浮上して移動できる靴。普通の艦娘が装備しているような煙突などは無かった。
主砲のサイズは、駆逐艦に装備できるのと同じぐらいだろうか?
提督「一体どうやって…」
総司令官「なぁに、各地の工廠にいる妖精に土下座をして頼み込んで、海軍の所有する資産をありったけ使った程度だ」
その軽めの発言に、提督と那智はぽかんと口を開ける。
総司令官「この艤装を提督、貴様に装備してもらいたい。そして、現場で直接指揮を執るのだ。そうすれば、2艦隊以上を同時運用すると指揮能力が落ちる、
というデメリットは解消される」
さて、と総司令官はそこで言葉を切ってさらに続ける。
総司令官「ここまで頼み込んでも、貴様は渋るかね?」
提督「…………」
提督は、少しの間考えて、やがて答える。
提督「やります」
那智「………ふっ」
提督の言葉に、那智はわずかに笑う。
提督「この海を平和にするのは、俺の夢ですから」
その言葉に、総司令官はニヤリと笑った。
鎮守府に戻ると、提督は那智に言う。
提督「皆を集めて、超大規模作戦が発令される事を伝えよう。それと、四重連合艦隊に参加させる艦娘を選ぶ」
那智「ああ。……貴様自身が出撃するなんて事を知ったら、皆はどう思うだろうな」
提督「さあな?」
その日の夜、提督と那智は、今回の深海棲艦本拠地殲滅作戦の事を皆に伝えた。反応は皆不安げな感じだったが、提督自身も同伴すると言う事を聞くと、
そこにいた皆は大歓声を上げて、私が自分がと出撃を希望する艦娘が何人も出てくるようになった。
その日の夜、提督は希望してきた艦娘達の錬度や能力を比較して、四重連合艦隊に組み込む艦娘を那智と共に選定した。
最終的に、四重連合艦隊に組み込まれた艦娘は、第一艦隊が那智、加賀、長門、陸奥、大和、赤城。第二艦隊が蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、天龍、龍田。
第三艦隊が川内、飛鷹、古鷹、時雨、夕立、鳳翔。第四艦隊が金剛、龍驤、比叡、高雄、摩耶、祥鳳と言う事になった。
那智「私が四重連合艦隊・旗艦か」
那智は提督が立てた編成案を見て、呟く。
提督「ああ、だってお前は、錬度の面でも、指揮能力の面でも信頼できるから」
提督の言葉に、那智は小さく笑う。
そして提督は、自分が同伴すると言った時の皆の反応がとても嬉しくて仕方が無かった。さっきまで不安がっていた皆の顔が、すぐに笑顔になったのが。
自分は、本当に皆に慕われているのだな、と心の中で思った。
一方、深海提督の方も、この動きに気が付いていた。
深海提督「それは本当か?」
戦艦ル級「はい。どうやら海軍は、この鎮守府を潰しにかかるつもりです」
深海提督「ここに帰投した誰かが尾行されていたのか…。まあ、それはいい」
戦艦ル級「どうします?」
深海提督「もちろん迎撃する。そして、この鎮守府を潰させるつもりは毛頭無い」
ル級の言葉に、深海提督は間髪入れずに答える。その答えを聞いて、ル級は目を輝かせる。それに気づいてか気づかずか、深海提督はル級に聞く。
深海提督「その、ここに来るであろう鎮守府のデータは?」
戦艦ル級「こちらに」
ル級は、その鎮守府のデータが記されている書類を差し出す。その書類を見て、深海提督の目が見開く。
深海提督「……………これは」
装甲空母姫「やっと、この時が来たのかしら?」
さっきまで黙っていた装甲空母姫が面白そうに尋ねる。
深海提督「…姫級と鬼級を全員会議室に呼べ。それと、戦艦レ級も」
戦艦ル級「了解しました」
ル級は一礼をして執務室を出ていった。それを見て深海提督は、静かに笑う。
深海提督「…機は熟した。あいつの希望を、潰す機は」
装甲空母姫は、深海提督のその言葉を聞いて、少し悲しげな表情で笑った。
今日はここまでにします。
感想等があればお気軽にどうぞ。
それではまた明日。
四重連合艦隊は絶対実装されないと思います。
感想どうぞとか言うくせに批判はNGなの笑える
2日後の正午に、四重連合艦隊は編成が若干変更されて出撃する事になった。提督は第4艦隊の輪形陣の中心で皆に囲まれて、総勢24人の艦娘と共に、
深海棲艦の本拠地へと航行していた。
高雄「提督、かなり航行がお上手ですね…」
高雄がそう言ったのは、近くを並走する提督の動きがとてもスムーズだったからだ。艦娘になったばかりの高雄でさえ、海で自由に航行できるまでに、
数週間を要したのに、この提督は昨日わずかに練習しただけですぐにコツを覚えた。
提督「まあ、昨日練習したし、元々運動神経はいいほうだしな」
龍驤「あ、その話聞いたで?海軍学校で柔道一位だったとか!」
高雄の反対側にいた龍驤が話を聞いて近寄ってくる。
提督「まあ、俺は元々運動神経が良い方じゃなかったんだけどな…」
高雄「?どういう事ですか?」
提督「実は俺、高校の頃は運動だけじゃなくて勉強もダメダメでさ…」
愛宕「あら、それは意外ねぇ~」
提督の後ろにいた愛宕がその言葉に、頬を手に当てて苦笑いをする。最前列にいた金剛も、最後方にいた祥鳳も、他の艦娘達も、周囲に注意を払いつつ、
提督の話に耳を傾けようとしていた。
提督「元々、俺はそんなにすごい奴じゃなくて、今みたいに。勉強も運動も、何をやってもダメでさ。でも、高校で1年の時にクラスメイトの奴から、
アドバイスを貰って、それから努力をして、クラスでトップになれたんだ」
比叡「意外ですねー。司令が昔はダメダメだったなんて。それで、そのクラスメイトの方は?」
提督「……死んだよ」
提督の寂しげな一言に、周辺の空気が凍り付く。
提督「どうやら、深海棲艦の襲撃を受けちまったらしい。近くに居た人がそう言ってた。それに、クラスメイトだけじゃない。俺の両親も、好きだった人も、
皆、深海棲艦に殺された」
全員「………………………………」
艦隊の最前部で提督の話を聞いていた那智は、心の中でだけ思う。
那智(まさか、提督が海を平和にしたいと心から願うのは、死んでしまった者達の無念を晴らすために、か?)
提督の傍で話を聞いていた龍驤は、場の雰囲気を和ませようと話を別に逸らす。
龍驤「と、ところで第二艦隊の皆は?見当たらへんけど…」
龍驤の言葉が雰囲気を和ませるものだとわかっていたが、提督は答えた。
提督「ああ、第二艦隊の皆は先に行かせたよ。先回りをさせたんだ」
龍驤「?」
龍驤はさらに問おうと思ったが、そこで長門の言葉が響く。
長門「敵影発見!距離、約10000!」
全員「!」
全員に緊張が走る。第4艦隊の金剛達は、提督を護ろうとするために互いの距離を縮める。さらに、長門の言葉が続く。
長門「敵数……12!艦種は、装甲空母鬼1、戦艦棲姫2、空母棲姫1、港湾棲姫1、空母水鬼1、戦艦レ級1、飛行場姫1、護衛要塞4!」
その言葉は、奇妙過ぎた。
金剛「What!?12!?」
川内「どういう事よ!?何であっちの艦隊が12隻もいるの!?」
川内の言葉を聞いて、那智は冷静に考えて答える。
那智「恐らく、奴らもも連合艦隊を組んできたのだろう。自分たちの拠点を護るために」
古鷹「そんな…深海棲艦がそんな戦い方を…?」
あり得ない話ではない。提督も、いずれはこのような事が起こると思っていた。
那智「無線封鎖解除!各艦隊空母は、艦載機を発艦せよ!」
那智の命令に、第一、第三、第四艦隊の空母達は艦載機を各々の方法で発艦させる。その傍らで、提督は無線で何かを話しこんでいた。
そして、様々な艦載機が敵艦隊に向かって飛んでゆく。だが、敵艦隊の護衛要塞、空母勢も最新鋭艦載機を飛ばしてきて迎撃をする。
数十秒の間、上空で多数の爆発と火花が発せられた。
煙が晴れた後は、加賀達の艦載機が敵艦隊に攻撃を加えようとしたが、その前に高射砲で撃ち落とされてしまった。
加賀「ちっ…!」
加賀が思わず舌打ちをしてさらに艦載機を放とうとするが、長門が止める。
長門「慌てるな、まだ航空戦は終わっていない」
赤城「?どういう意味ですか?」
加賀の後ろにいた赤城が尋ねるが、すぐにその答えは分かった。
敵艦隊の遥か後方上空から、多くの艦載機が飛んできていた。その艦載機は、大きくターンをして敵艦隊に攻撃を与えられる最適なポジションに着く。
加賀「まさか…」
那智「先に行かせた第二艦隊の艦載機達だ。第二艦隊には先に深海棲艦達の本拠地があるとされる座標を渡しておいて、敵の索敵範囲外で待機するよう、
指示していたのだ。そして、先の航空戦開始の際に提督は第二艦隊に連絡をして艦載機を飛ばすように、指示したのだ」
そう言って那智は後方の提督を振り返ると、提督はニヤリと笑っていた。それにつられて、那智も笑う。
一方、上空の艦載機は攻撃を行う準備が整っていた。敵艦隊の連中は、上空の艦載機には気づいていないようだ。それを好機と、艦載機の妖精達は、
攻撃を開始する。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!と怒濤の雷撃・爆撃が炸裂した。
提督達は、額に手をやって衝撃を受けないようにしたが、提督と何人かの艦娘が後ろに仰け反る。
那智「壮観だな…」
先頭にいた那智が感嘆の声を漏らす。
陸奥「本当ね。あんな大胆な航空戦、初めて見ちゃった」
大和「資材が、海軍持ちでよかったですね…。こんな事通常の出撃でやったら、資材がすっからかんになっちゃう…」
大和は、自分が出撃する度に鎮守府の資材をもりもり食べてしまう事があるからか、思うところがあるのだろう。
一方、第三艦隊の夕立は艦載機達の攻撃が終わった後の、敵艦隊の発する煙の幕を見て、咳き込みながら呟く。
夕立「でも、これだけの火力があれば、こほっ、奴らなんて、イチコロっぽい。こほっ」
時雨「そうだね…。悪くても、護衛要塞は潰せたと思うよ」
隣にいた時雨も夕立の意見に賛成する。
しかし、煙が晴れた後に広がっていた光景は残酷なものだった。
長門「な……っ!?」
加賀「まさか…一隻も沈められていないなんて…」
敵艦隊は、健在だった。多少のダメージは入ったのだろうが、大破は愚か小破にする事さえもできなかった。
提督「やっぱり、敵艦隊も最強の連中をそろえてきやがったか…」
祥鳳「あんなのに…勝てるのかしら…」
だが、それでも提督達の艦隊の攻撃は終わっていない。
突然、飛行場姫と戦艦棲姫が爆発を起こした。
飛行場姫「!!」小破
戦艦棲姫「ガッ!?」小破
何が起こったのかわからない、そんな表情をしたのは提督達の艦隊も同じだ。
比叡「えっ、何が起こったの!?」
提督「潜水艦の奴らさ」
提督がそう言うと、比叡の足元に、2人の潜水艦の艦娘が浮上する。イムヤこと伊168と、ゴーヤこと伊58だ。
ゴーヤ「どーもでち!」
ゴーヤが笑顔で手を上げて挨拶をする。
提督「飛鷹と鳳翔を下がらせて、代わりにイムヤとゴーヤを入れたんだ。比叡には伝えてなかったか。すまんな」
比叡「いえ…潜水艦を入れたんですか…でも…」
提督「敵の撃沈はできず、か」
前方にはダメージがほとんど入っていない深海棲艦達が並んでいる。その誰も彼もが、ニヤリと冷たい笑みを浮かべていた。大和や陸奥、龍驤たちは、
不安に満ちたような表情を浮かべる。
大和「あれほどまでとは…」
陸奥「特別海域のボスよりもかたくて、強い…」
龍驤「あんなのに…勝てるんか…?」
他の艦娘達も同じように迷いの表情が浮かぶ。だが、長門は臆さずに言う。
長門「何を迷っているか!今ここには我らが提督がいる!その提督が、今回は私達の事を見守ってくれる!これほどまでに嬉しい事が他にあるだろうか!
提督が傍に居れば、百人力だ!」
その言葉に、那智達は構える。どうやら、長門の言葉に感化されたらしい。
長門「行くぞ!!」
全員「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そして、長門達四重連合艦隊と、深海棲艦の連合艦隊が激突を起こした。
深海棲艦の連合艦隊との戦いは、夜まで続いた。
護衛要塞は、やはり他の艦に比べて装甲が薄いせいか、昼戦の内に全機を撃破する事ができた。他の艦は、1体を四重連合艦隊の半数で集中的に攻撃し、
順調に撃破する事ができた。雷撃戦でレ級の雷撃が大和に直撃して大破となったのが痛かったが、レ級の撃破には成功する。
その間、提督は自分も戦おうとしたが、金剛がつきっきりで提督の護衛をする事となった。おかげで、提督も金剛も無傷で何とかなった。
そして間もなく夜明けになると言う時間。
敵艦隊で残っているのは装甲空母鬼だけだった。だが、その装甲空母鬼も既に虫の息だった。
比叡「これで……はぁ…終わりです!!」
疲れ切った比叡が最後の力を振り絞って装甲空母鬼に一発お見舞いする。その一発で、装甲空母鬼は撃沈してしまった。
装甲空母鬼が沈んた後、海面には敵艦隊の残骸が浮いていた。
陸奥「終わったの…?」
服の一部が破れてしまった陸奥が、辺りを見回して呟く。それに応えて古鷹が電探で探索をする。
古鷹「敵影…見当たりません」
夕立「ふぅ~…終わったんだねぇ…」
夕立が古鷹の答えを聞くと、座り込む。だが、那智はある疑問を抱いていた。
那智(おかしい…。特別海域のボス級の奴らが連合艦隊を組んで出撃してきたというのに、1回の夜戦で全艦を撃沈させられるだと?手応えが無さすぎる)
那智の疑問には気づかず、提督は夕立の傍に来て言う。
提督「安心するのはまだ早いぞ。まだ、深海棲艦の本拠地を潰す仕事が残ってるんだから」
夕立「うわぁ…大変そうっぽい…」
時雨「ところで提督、どうやって深海棲艦の本拠地を潰すんだい?」
時雨の純粋な問いかけに、提督は少し残念そうに言う。
提督「いや…てっきり本拠地って島みたいなものだと思ったんだけど、まさか深海にあるのかな…。それじゃ…一回装備を整えて出直すしか…」
長門「まったく…。提督もうっかり者だな」
長門の言葉で、周囲の皆もつられて笑う。そして笑いのネタにされた提督は少し不満そうな表情をしたが、直ぐに次の言葉を言う。
提督「よし…じゃあ一回鎮守府に戻ろう。第二艦隊にも連絡して―」
と、言いかけたところで古鷹が声を上げる。
古鷹「て、敵影感知!方位、下方12時の方向、距離…急速浮上してきます!」
全員「!!」
全員が戦闘態勢を取ろうとしたところで、次なるアクションが起きる。
ドッパァァァァァァァァァァァン!!!と、前方の海面が大きく盛り上がり、水柱が出現したのだ。
長門「な、何だ!?」
突如現れた水柱によって、周囲一帯に雨のように海水が降り注ぐ。
そして水柱が発生していた所に、誰かが立っていた。
那智「…あれは…」
那智だけでなく、他の艦娘も目を凝らす。提督も目を凝らしてみた。
そこに立っていたのは、白い肌に、色の抜けた白い短髪、そして灰色のコートを着た男だった。年齢は、20代前半ほどで、背格好は提督と同じぐらいだ。
さらに、男の右目があるはずの所には、なぜか青い光を放つガラスがはめ込まれていた。
その男を見て、艦娘達は言葉を次々に告げる。
赤城「あれは…まさか…深海棲艦達の提督…?」
大和「やはり…深海棲艦にも提督がいたんですか…」
陸奥「ふーん…顔はそこそこいい方なのに、深海棲艦の提督なんて、残念ね」
だが、提督だけは別の言葉を口に出していた。
提督「瞬時…?」
それは、人の名前にも聞こえる単語だった。
龍驤「…提督はん、何やて?」
龍驤が聞くが、提督は聞いていない。
提督「お前、瞬時だろ…?」
そこで深海提督は、やっと言葉を発する。
深海提督「…そう言えば、かつては俺もそんな名前だったか」
深海提督は、思い出すかのようにそんな事を言った。わけのわからない那智は、提督に聞き返す。
那智「おい、司令官どういう事だ!?」
その疑問は、那智だけでない、全員が抱いていた疑問だろう。提督は、答える。
提督「昨日言っただろ、クラスメイトからアドバイスを貰ったって。そのクラスメイトが、アイツだよ。黒海瞬時(くろみしゅんじ)だ」
深海提督「やはり、お前だったのか」
その深海提督の言葉は、やはり提督の事を知っているような言い方だった。
深海提督「小田原第拾陸鎮守府の提督、明空大紀(あきそらたいき)」
提督の本名を、この深海提督は知っている。やはり、提督の言っていた言葉に変わりは無かったのだ。その事実に、艦娘達の心が揺らぐ。
提督「お前、何で深海棲艦の提督になんてなってるんだよ!?お前は深海棲艦に殺されたはずじゃ…!」
深海提督「何で、か。そうだな…強いて言うならば…」
少し深海棲艦は考えるように瞼を閉じる。そして、再び瞼を開いて言葉を告げる。
深海提督「この理不尽な世界を変えるため、だな」
その、意味の分からないようで、なぜか理解できてしまう言葉に、全員がぞわりと震える。
提督「何、言ってるんだよ…」
その中で提督は震える声で聞く。
提督「理不尽な世界を変えるって、何だよ!?」
深海提督「そのままの意味だ」
提督の言葉など届かない。そのように深海提督はすぐに答える。
提督「どうしちまったんだよ…前のお前は、そんな事を言うやつじゃなかっただろ!?」
深海提督「前の俺、か。お前は、本当に前の俺の事を理解していたのか?」
提督「え?」
禅問答のような深海提督の言葉に、提督はさらに困惑する。
提督「何が…あったんだよ…そこまで変わっちまうなんて…」
さっきと同じような質問に、深海提督はふぅ、と息を吐いて、さらに続ける。
深海提督「…いいだろう、話してやる。なぜ俺が今、こうして世界共通の敵・深海棲艦を率いる提督となっているのか」
その深海提督の過去は、とてつもなく救われないものだった…。
今日はここまでにします。
明日は>>1の都合上投下する事ができません。次の投下は明後日の7月7日、午後9時以降を予定しております。
次回は深海提督の過去の話を書いていきます。
それではまた次の機会で。
人名を使用してしまいましたが、どうでしょうかね…。
こんばんは、>>1です。
2日ぶりの投下となりますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
今日は、深海提督の過去の話を書いていきます。
では、投下します。
俺が中学三年の頃に、両親は死んだ。
誰かに殺された、というわけではない。最近海に出現した深海棲艦のせいでもない。父親が病気で死に、母親が後を追うように自殺したのだ。
その時俺は果てしなく悲しんだが、死のうとまでは考えていなかった。ただ、自分も生きなければ両親が浮かばれないと思ったから。
俺には趣味があったが、両親が死んだ後は趣味にのめりこむ事にうしろめたさを感じてしまい、俺は日常的に勉強をするようになった。だがその成果で、
希望の高校に入学する事は難くなかった。しかし、入学した時、喜びを分かち合えない、家族がいない事が悲しかった。
両親が死んでしまっている、という過去ゆえか、俺は高校のクラスでも浮いていた。だが、別に俺は気にしなかった。
だが、高校に入学してから一か月ほどたった時。
??「なあ、ちょっといいかな?」
休み時間、自分のクラスの机で勉強していた時に俺は声をかけられた。
黒海「?」
振り返ってみると、そいつはいやにキラキラしているような雰囲気を醸し出していた。名前は確か、明空大紀だったか。
黒海「何か用か?」
聞いてみると、明空は両手を合わせて頭を下げてきた。
明空「頼む、勉強を教えてくれないか?」
黒海「…………………」
突然何を言い出すんだこいつは。俺とこいつに接点は全くと言っていいほど無い。そんな俺に、なぜこいつが勉強を聞いてきたのか。
黒海「なんで?」
明空「だって、黒海は俺たちのクラスでも、いや学年でトップの成績じゃないか!次のテストが…と言うか授業の内容が全く分からなくて、
頼む!」
明空はさらに頭を下げてくる。ここまで頼まれて断ると、逆にこちらの気分が悪くなってしまう。仕方ないので、俺はこいつに教える事にした。
黒海「…どこがわからないんだ?」
俺がそう言うと、明空は顔を輝かせる。
明空「助かるよ!まずは―」
結局、テスト範囲というかこれまで授業でやった内容を全て俺が教える羽目になってしまった。
明空は、出来損ないと言う事が、勉強を教え始めてから数週間で分かった。
勉強のみならず、家庭科の授業での料理なども全くできない奴だった。そして、分からない事が出てくる度に俺に聞いてくる。しつこいと思うほどに、
頼み込んで来る。そう何度も頭を下げられて来ると、後味が悪くなってしまうので、俺は渋々教える事になってしまう。これまでの俺の中の明空の評は、
"愚か"だった。
しかし、俺が勉強などの事を教えて力をつけてくる事で、明空はクラスの中で目立つようになり、いつしか明空はクラスの中心人物となった。そして、
明空を通じて俺はクラスの連中とそれなりに話すようになった。いつしか、クラス内には友人とも呼べるものが何人か出来た。
だが、定期テストの成績が発表された日から、俺の過ごす日々はおかしくなっていく。
学期末定期テストの結果が掲示板に貼られて、学年に1位は俺だったが、2位はあの明空だったのだ。
クラスの誰も彼もが、明空に寄って行く。なにせ、あの頭の悪かった明空が学年2位にまで上り詰めたからだ。それについては問題ない。だが、
明空のクラスの連中への答えは、
明空「まあ、俺の実力だよ」
その一言に、俺の中に何とも言えない感情が湧き出てきた。だが、その時俺は大して気には留めなかった。
ちなみに、俺にも好きな人と言うものが入学してからの数か月でできた。そして、夏休み前に意を決して告白をしたら、返事は"NO"だった。
その後になってから、俺はなぜか苛められるようになった。その苛めてきたバカの言うには、学年1位で、顔もそこそこ良くて、すました顔が、
気に食わない、さらに俺が告白した奴はどうやらクラスでも競争率の高い奴で、出し抜けに手を出したのも気に食わなかったらしい。
後で分かった事だが、こいつらは明空と同じ中学の奴で、明空を苛めていたようだ。だが、明空がクラスの中心人物となった事で手を出しにくくなった。
それでクラス1位というムカつく立場で、それほど目立たない俺を苛める事で鬱憤を晴らす事にした、と言う事のようだ。
さらに、俺の友人は苛めの飛び火が来ないように、俺から距離を取るようになった。
入学してから半年が経った時、俺は入学した時と同じく孤独に戻っていた。
生きている事に、意味を見いだせない。
そう考えていたのは、俺が帰りに海沿いの道を歩いている時だった。
友人は離れていき、好きな人には振り向いてもらえず、理不尽な理由で苛めを受ける。俺は、生きてまでそんな日々を送る事がつまらなくなっていた。
黒海(もう、死んでもいいか…)
かなり真剣にそんな事を考えていると。
ウウウウウウウウ!と、サイレンが辺り一帯に鳴り響いた。
アナウンス『ただいま、近海に深海棲艦が出現いたしました。住人の皆様は、速やかに指定の避難所に避難してください』
街のスピーカーからそんなアナウンスが聞こえてくる。そして、近くの家に住んでいる住人が必死な表情で避難所の方へ逃げていく。
だが、俺はその場から動こうとしなかった。むしろ、海の方へと近づいていく。
住人「おい、そこの君!何してる!早く逃げないと、死んじまうぞ!」
誰かがそんな言葉を俺にかけてくる。しかし、俺はその言葉を無視した。
丁度今、俺は死のうかと考えていたところだった。なら、丁度良い。
住人はさらに俺に戻れと言ってきたが、俺の脚は止まらなかった。
そして、俺は海沿いの道のガードレールにまで来た。それと同時に、海面にずずず、と人型の何かが浮かび上がってくる。それが、深海棲艦だ。
俺はここまで深海棲艦を近くで見た事は無い。授業中の資料で見たことがある程度だった。だが、そんな事はどうでもよかった。冥土の土産に、
深海棲艦の姿を見ておくのもいいか、と考える。
いつしか、住人の俺を止める声も聞こえなくなっていた。自分の身が第一と考えて逃げたのだろう。
深海棲艦は、どうやら俺に気づいたらしい。俺の目を見て、こちらに向けて右腕の砲を構えてくる。
黒海「そうだ。俺を狙え」
俺は口に出してそんな言葉を言っていた。深海棲艦はそれに呼応するかのように、距離をゆっくりと詰めてくる。
黒海「俺を、ここで終わらせてくれ」
また、そんな言葉を無意識に口にする。
その時。
その深海棲艦がニヤリと笑ったように見えた。
そして、深海棲艦は少し砲を(俺から見て)右にずらしてから、砲撃をする。
ズッドォォォォォォォォォォォン!!!と、轟音が鳴り響き、俺の意識はそこで途切れた。
黒海が目を覚ますと、そこはどこかもわからない薄暗い場所だった。
自分が仰向けに寝ていると気付くと、黒海は体を起こす。だが、そこで体中に痛みが伴う。
黒海「ぐっ…!」
とにかく、体中が痛い。特に痛い顔の右部分に手をやると、包帯が巻かれていた。そして、自分の視界の右半分がつぶれている事に気づく。どうやら、
右目が潰れてしまったようだ。
さらに、体中に湿布や包帯が巻かれている事に気づく。誰かが手当てをしてくれたようだ。だが、そこで別の問題が生じる。
黒海(死ねなかったか…)
今こうして痛みを感じているという事は、生きているという事になる。さっきまで死のう死のうと考えていたのに、だ。生きている以上、またあの、
つまらない日々を過ごす事になるのだろう。
その事に辟易して黒海が溜め息をつくと、奥の方からカツン、カツンという足音が聞こえてきた。
黒海「誰だ…?」
聞いてみる。だが、答えは返ってこない。代わりに、その姿を現す。
それは…
黒海「……お前は…」
そいつは、長身の女だった。
白い肌に、白く長い髪、頭のてっぺんには赤いリボンのような物がついている。全身は体に張り付く白いスーツを着ているみたいだ。
その女は、黒海に話す。
装甲空母姫「装甲空母姫。深海棲艦の1人だ」
黒海「深海棲艦…だと…?」
装甲空母姫「ああ、そうだ」
黒海「……まさか、俺を助けてくれたのも?」
装甲空母姫「助けたのは私ではない。私は治療をしてやっただけだ」
意味が分からない。なぜ、深海棲艦が黒海を助ける?
それが分からなくて、黒海は直接聞く。
黒海「何で、助けた?」
装甲空母姫「?」
黒海「俺は…死のうと思っていた…。それに、お前達は人間が憎いんだろ…。それなのに、どうして人間の俺を助けたんだ?」
黒海の問いに、装甲空母姫は少し考える。
装甲空母姫「そうだな…。元々、お前をここまで連れてきたのは私の部下だ」
黒海「部下?」
確かに、黒海を砲撃した深海棲艦と、この装甲空母姫とやらは全く姿形が別だ。
装甲空母姫「そいつが言うには、お前の眼には闇が宿っていると」
黒海「……闇?」
そこで装甲空母姫は、黒海の頭に手を置く。そして目を瞑って、ぼそぼそと口に出す。
装甲空母姫「黒海瞬時、16歳。出身地は神奈川県三浦市。市立海浜高校1年B組所属。家族構成は父、母。両親は既に他界―」
黒海「なっ!?」
装甲空母姫の言葉を聞いて、提督は慌てて頭に置かれていた手を払う。
黒海「お前…どうして…!?」
装甲空母姫「…お前の脳の記憶を覗かせてもらった。なるほど、確かに闇を抱えているな」
そのあいまいな表現に、黒海はイラつく前に不安を覚える。
黒海「お前は…何を言っているんだ…?」
装甲空母姫「お前は、まっとうに生きているという自覚があるか?」
いきなり装甲空母姫はそんな事を聞いてきた。
黒海「俺の質問に答えろ!お前は―」
装甲空母姫「まずは、こちらの質問に答えろ。それから答えてやる」
装甲空母姫に凄まれて、黒海は仕方なく答える。
黒海「……まっとうに生きてきた方、だと思う」
装甲空母姫「そうか。それは立派な事だ。だが、お前の高校のクラスメイトには、明空大紀と言う男がいたな?」
まさか、あの数秒の間で脳内の記憶を網羅したのか。黒海はますます不安になったが、さらに答える。
黒海「……ああ」
装甲空母姫「その男は、お前が当初出会った時は無知で愚かな奴だったのだろう?」
黒海「……率直に言うと、そうだった」
装甲空母姫「だが、その男は今はクラスの中心で、誰からも慕われているのだろう?」
黒海「……誰からも、ってほどじゃないが、慕われている」
装甲空母姫「そして、今そいつは成績が学年2位になるほどまでに上り詰めている。しかしそれは、ほとんどお前がアイツに教えたのだろう?」
黒海「……ああ」
装甲空母姫「なら、おかしいとは思わないか?」
黒海「何がだ」
装甲空母姫は、黒海の反応を見て、手品のネタばらしをするかのように、面白そうに言う。
装甲空母姫「なぜ、元々まっとうに生きてきたお前は皆から慕われずこんな所で死にかけて、無知で愚かだった明空と言う男が皆から慕われている?」
その言葉に、黒海はハッとしたように顔を上げる。その反応が面白かったのか、装甲空母姫はさらに続ける。
装甲空母姫「お前を苛めていた連中は、元々明空を苛めていた。しかし、明空が成長し、クラスの中心人物となった事で手を出す事が難しくなり、
代わりに手を出しやすそうだったお前を苛める事にした。本来は明空が苛められるはずだったのに、どうしてお前が苛められている?」
黒海「……………」
装甲空母姫「実際、明空が成長したのはお前が奴に教え込んだからだろうが、それでもお前が苛められる理由にはならない。あまりにも理不尽だ。
お前が苛められるのは」
黒海「……………」
装甲空母姫「そして、お前の友人がお前から離れるようになったのも、苛められるようになってからだ。"明空"への悪意が代わりにお前に向けられて、
お前から友人が離れていった」
黒海「……………」
装甲空母姫「さらに言えば、明空の知識のほとんどはお前に教えられてきたものなのに、奴はまるで、元々自分の中に知識があるようにうそぶいていた。
お前も記憶があるだろう?」
そう、定期テストが終わった後で明空が学年2位となった事で皆から聞かれて、明空は、
明空『まあ、これも俺の実力だな』
明空『俺の実力あっての結果だよ』
その言葉には、他人から教えられたという後ろめたさも、謙遜も無い。ただ、驕っているように聞こえた。
装甲空母姫「お前が明空に教えたのなら、お前の方も皆から評価されるであろう。しかし、奴がそれを言わなかった事で、皆は本当に明空の実力だと、
信じ込んだ。そうして、奴はクラスの皆から信頼を得られるようになったのだ」
黒海「………………」
装甲空母姫「しかし、お前はどうだ。お前は明空に勉学に関して教えたというのに、誰からも評価されず、理不尽な理由で苛められて、友人も消えていく。
それに好きな人には振り返ってもらえない。まっとうに生きてきたお前には、割に合わない結果じゃないのか?」
黒海「………………」
黒海は、何も言えなかった。ただ、装甲空母姫の言っている事を飲み込んで、装甲空母姫がいている事が正しいか、間違っているかを考えていた。
黒海(確かに…そうかもしれない…)
だが、黒海の心は装甲空母姫の言っている事が正しいと、既に揺れ始めていた。そして、さらに装甲空母姫は追い打ちをかける。
装甲空母姫「見ろ」
装甲空母姫は壁に手を向ける。すると、地上の映像が壁に映し出された。場所は、黒海も通っていた学校の屋上だ。
よく見てみると、そこに映っているのは明空と、黒海を振った女生徒だ。
黒海「……これは…」
音声が聞こえてくる。その会話は…
女生徒『私と…付き合ってください…!』
黒海は目を見開く。装甲空母姫は、ちらと黒海の姿を見て、また映像に目を戻す。
今度は、明空が返事をするところだった。
明空『俺でいいなら、付き合ってもいいよ』
黒海の頭の中で、何かが切れる音がした。
黒海「…………………!!!」
黒海は、俯く。
映像では、明空と女生徒が抱き合って、口づけを交わしているところだった。そして、お互いに倒れこみ服を脱ぎ始める。そこで装甲空母姫は、
映像を切る。
装甲空母姫「これでも、お前は―」
黒海「………………………う」
装甲空母姫は言葉を切る。見ると、黒海が小刻みに震えていて、左目からは涙が流れている。そして、
黒海「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああ!!!!」
喉が切り裂かれるほどに、叫んだ。装甲空母姫はその叫びを、悲しげな表情で聞く。
黒海「アああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!うわあああああああああああああああああああああ!!!」
装甲空母姫「………」
いつの間にか、装甲空母姫の目からも涙が流れていた。
叫び終わると、黒海は再び俯いた。黒海が落ち着いたのを確認して、装甲空母姫は語り掛ける。
装甲空母姫「この世界は理不尽だ。誠実に生きていた者が、冤罪で牢に放り込まれる事も、謂れのない因縁をつけられて争い事に巻き込まれる事もある。
そして、お前のように、まっとうに生きて来たのに理不尽に周りから孤立して闇に堕ち、愚かな者の方が幸福に恵まれて光の道を歩んでいく。
この世には、そんな事が満ち溢れているんだ」
黒海「……ああ。俺は、それを今知ったよ」
黒海の皮肉を含んだ言葉に、装甲空母姫はフッ、と笑う。
装甲空母姫「お前は、さっき死のうと考えていたらしいな?」
黒海「……ああ」
装甲空母姫「なら、死ぬ前にせめて、この世界に一矢を報いてみないか?」
黒海「……どうやって」
装甲空母姫「…私達と共に、戦おう」
黒海「………………」
装甲空母姫「私達は深海棲艦で、その気になれば人類を滅ぼす事もできる。そうなれば、この理不尽に満ちた世界を浄化する事も可能だ。そして、
こんな理不尽な事が起きる事の無い世界を創る事も」
装甲空母姫の言葉はとてつもなくスケールの大きい話だが、黒海はそれでも真剣に聞いていた。そして、今はそれが可能だと言う事も何となく分かる。
黒海「………………」
装甲空母姫「お前には、私達の指揮官、提督となって私達と共に戦ってほしい」
黒海はしばしの間考えて、そして答える。
黒海「………そうだな」
装甲空母姫「………………」
黒海「…………俺が、この理不尽な世界を終わらせる。そして、"本当の世界"を創りあげる」
装甲空母姫はその言葉を聞いて、黒海の前に跪く。
装甲空母姫「なら、私達と共に戦ってくれるのね?」
黒海「ああ」
そして、装甲空母姫と黒海は互いに口元をニヤリと歪めて、言葉を交わす。
装甲空母姫「よろしくお願いするわ、"提督"」
深海提督「ああ、こちらこそ、よろしく頼むよ、装甲空母姫」
そして、フッ、と吹き出してしまう。
装甲空母姫「ならば、まずは私達の力を貴方に分けてあげなければね」
深海提督「どうやって」
黒海、いや深海提督は装甲空母姫に聞く。
装甲空母姫「それは…」
そう言いながら装甲空母姫は自らの来ていたスーツを破いて自らの肌を露わにする。
つまり、身体を交える事が、深海棲艦の力を得る事だった。
皮肉にも、明空が、告白してきた女生徒とした事と同じものだった。
黒海が深海提督となってから1年の間は、深海棲艦の力を完全に取り込む事はできず、深海棲艦を率いる事はできなかった。
だが、1年経ってから深海提督は深海の鎮守府に着任して、深海棲艦の指揮を執る事になる。
今日はここまでにします。
また明日、投下していきます。
それではまた明日。
こんばんは。>>1です。
誰が見ていとも知れませんが、投下していきます。
深海提督の話が終わった時、時刻は既に日の出を過ぎていた。
太陽の光が、深海提督達のいる海の上を照らしている。
深海提督「………これが、俺の理由だ」
深海提督が、太陽を背にして話す。話が終わった後、提督の全身からは嫌な汗が噴き出していた。この黒海瞬時が深海提督になった理由の一端は自分、
と言う事実に直面したからである。
提督「…………………………………………………」
提督は、何も言えなかった。
周りにいた那智達は、提督の方をちらりと見る。
比叡「深海提督が生まれたのは、司令のせい…?」
比叡が、呟く。それを聞いた金剛が比叡に向かって怒鳴る。
金剛「何を言ってるんですか!そんな、バカな事…!」
だが、金剛も自信が無い故か、途中から声の大きさが小さくなってしまう。
深海提督「貴様は、俺の"人間"として生きていく理由を奪って行った。俺が苛められるように仕向け、俺が愛する者はお前に振り向いた。そして、
俺を絶望の淵にまで追いつめさせた」
那智「……………」
那智は、深海提督の話を聞き、顎に手をやって考える。
提督「………違う…」
ようやく、提督は口を開いた。
深海提督「……………」
提督「俺は、お前の生きていく理由を奪ったなんてつもりはない!お前が苛められるようにしたなんてつもりはないし、俺に告白してきた子も、
俺はただ幸せにしたかっただけで…」
深海提督「……本当に、幸せにしたかったのか?」
提督「…………え」
深海提督「お前は、告白を受けた日にそのまま行為に走った。それは違う意味でとらえれば、お前はただ自分の欲望を解消させたいがために、
その女の告白を受けた、と解釈する事もできる」
提督「…………………………………………………」
艦娘達は、一斉に提督の方を振り返る。そして、提督は何も言い返せない。
深海提督「………本当に、違うと思うのならばここで言い返せるのだろうが、ここでお前が言い返さないと言う事は、図星だと言う事だな?」
提督「…………………………………………………」
深海提督「さらに言えば、お前が自分の鎮守府の艦娘全員とケッコンした理由も、同じように艦娘を自分の欲望のはけ口とするため、ではないのか?」
提督「…………………………………………………」
提督は、身体がふらふらと揺れる感覚を得た。それは海の上に立っていて、波に煽られているから、という理由ではないと気付く。
深海提督「…お前は、鎮守府の皆から慕われて、他の鎮守府の提督や海軍の総司令官からも一目置かれている存在だった。その正体は、そんなものか?」
提督「…………………………………………………」
深海提督「それと、那智だったか。お前も、コイツの能力に違和感を感じた事は無かったか?」
那智「…………それは…」
無い、と言えば嘘になる。
提督は、大規模作戦前で戦略を考える時や、上層部から作戦指令を受けた際に、提督はまず最初に那智に『どう思う?』と聞いてくる。そして、
那智が自分の考えを述べると、提督は『俺もそう思っていた』と返してきていた。その言葉を聞いた当初那智は、自分の考えがこの提督と一緒で、
素直に嬉しいと思ったが、今思うとその言葉は、提督は何も考えずただ自分の考えにだけ縋っていた、と考える事ができる。できてしまう。
それは、他に秘書艦を務めていた事がある艦娘も同じことを考えていたようで、那智とその艦娘の目が合う。
深海提督「思い当たる節があるか」
那智「…………………」
那智は、何も答えられない。
その様子を見て、深海提督はさらに続ける。
深海提督「……お前達が慕い信じる提督の正体は、その程度の人間だ。他人から何かを教えられなければ何もする事ができず、自分から行動しようとはせず、
最終的には他の者に縋り付く。自己中心的な人間だったのだ」
その言葉に、そこにいた艦娘達の全員が顔をはっと上げる。そこで、そこまで俯いていた提督は、唇を開く。
提督「……………………もう、いい」
深海提督「……………」
提督「今は……お前を倒すのが先だ!」
深海提督「ここでお前が俺の話を折って俺を倒す事に決めたのは、これ以上話を続けてもお前の地位が危うくなるだけだと判断して、まずは皆の共通の敵、
この深海提督を倒す事で一致団結し、自分の信頼を取り戻そうとしたのか?まったく、こういう事にだけは頭が回るな」
提督「黙れ!」
提督は深海提督の言葉を無視して無線のスイッチを入れる。
提督「第2艦隊の蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴!今すぐ艦載機を発艦しろ!」
蒼龍『了解、直ちに発艦―』
そこで、無線が切れた。
提督「おい、どうした!おい!」
提督が再び無線のスイッチを入れて聞くが、ノイズしか聞こえてこない。
提督「お前、何かしたのか!?」
提督の問いかけに、深海提督はにやりと笑う。
深海提督「俺が何もしていないと思うのか?やはり愚かだな」
提督からの連絡を聞いて、第2艦隊の蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴は艦載機を飛ばすために、弓に矢を番えて準備を始める。ちなみに天龍と龍田は、
先に第1艦隊の方に合流しに行った。準備ができたところで、旗艦の蒼龍は皆に聞いた。
蒼龍「飛龍、翔鶴さん、瑞鶴さん、行くよ!」
しかし、返事が来ない。それが奇妙に思って後ろを振り向くと、周りには誰もいなかった。飛龍も、翔鶴も、瑞鶴も。誰一人としていなかった。
蒼龍「え…皆…?」
つぶやいた瞬間。
蒼龍の足首にぬるりとした感覚が走る。
蒼龍「キャッ!?」
その気色悪い感覚に、悲鳴を上げて下を見ると、誰かが蒼龍の足をつかんでいる。
その足をつかんでいる手の主は、蒼龍を海の中へと引きずり込む。
蒼龍は、海の中でもがきながら、自分を海へ引きずり込んだ者の正体を確かめようと辺りを見回す。
そうしようとしたところで、眼前に潜水ソ級の顔が映り込んだ。
蒼龍「!?」
潜水ソ級「……………」
蒼龍の顔が驚きの表情に変わり、潜水ソ級は口が裂けるほどに笑う。
蒼龍(どうして…!?電探に反応は無かったはずなのに…!まさか…私の直下から垂直に水面まで浮上したというの…!?)
そう気づいて蒼龍が辺りを見てみると、同じ艦隊の飛龍、翔鶴、瑞鶴が漂っていた。皆、同じように奇襲を受けてしまったのだろう。飛行甲板や服が、
焦げたり破れたりしていた。
蒼龍(くそ…っ!)
蒼龍の目の前で、潜水ソ級が魚雷を構える。蒼龍は潜水ソ級を振りほどこうとしたが、潜水ソ級は足を蒼龍の体に絡めてきているし、水の中のせいで、
自由に動く事ができない。
そして、潜水ソ級が構えた躊躇なく魚雷を握りつぶそうとする。
蒼龍(ここで爆発させる気!?)
そして、その魚雷が歪み、炸裂した。
提督達のいる場所から、深海提督の後方で爆発が起きた様子は誰の目からも見る事ができた。
その爆発を見て、提督が歯軋りをする。
提督「お前…まさか蒼龍達を…!」
深海提督「お前が空母連中を艦隊から離れた場所に待機させて、俺もしくは俺達の本拠地を安全な場所から狙い撃とうととしている事は分かっていた。
分かっているのなら、その対策をしておくのは基本だろう?」
深海提督の余裕に満ちた言葉に、提督の額に汗がにじむ。そして、一歩後ろに下がって艦娘達に命令を下す。
提督「全員、戦闘態勢に―」
深海提督「今お前は、一歩下がってから艦娘に命令を下した。それは、まず俺と距離を取りできるだけ自分の安全を確保してから、艦娘達を戦わせる。
つまり、お前は艦娘達の事は死んでも構わないと思って―」
深海提督がさらに言葉を続けようとしたその時。
天龍「ごちゃごちゃうっせーぞォ!!」
その割り込むような声の主は、深海提督の後ろ。いや、正確には深海提督の後ろの上方からだ。天龍が、大きくジャンプをして自分の獲物である刀を、
振りかざしていた。
深海提督は、その声に反応して後ろに振り向き、右腕を顔の前に水平に構える。
ガッキィィィィィィィン!!!という甲高い音が鳴り響く。
よく見ると、深海提督の腕は天龍の刀では切れていない。
天龍(俺の不意打ちに気づいた上に…ガードするだと…?コイツの腕…ただの人肉じゃない…?)
天龍「ヘッ…良い腕だな…」
ギチギチ、と天龍の刀と深海提督の腕がお互いに力で押し合っている。
すると、深海提督のは空いていた左手の手のひらを天龍の腹に向ける。
天龍「突き飛ばす気か?そこまで俺は脆弱じゃねぇぞ」
深海提督「それだけだと思うな」
深海提督が言葉を返すと、その左手の手のひらからズズズ、と言う音と共に砲が突き出される。
天龍「な…に…?」
このまま撃ってくる。天龍は直感でそう感じた。だが。
天龍(落ち着け。こいつの手のひらの砲は約3インチ。これなら直撃しても艦娘の力を使って、艤装を少し破損させる事で何とかなる。そしたら今度は、
こっちのパンチをお見舞いしてやる)
天龍がそこまで考えた瞬間、深海提督の手のひらの砲が火を噴いた。
天龍「ヘッ…この程度の砲撃が、天龍様にかなうとでも―」
だが。
天龍「………あ?」
突然、腹に熱い感覚が走る。天龍がおかしく思って腹の方を見ると、制服の腹の部分に血が滲み出ている。
天龍「血…?何で…」
天龍は最後まで言葉を言えず、その場にしゃがみ込む。そして何とか意識を保とうとしたが、ついには倒れこんでしまった。
天龍が動かなくなるのを見て、深海提督は天龍の手から落ちて海面に漂っている刀を拾おうとする。
深海提督「いい獲物だな」
だが、さらに別の怒号が聞こえてきた。
龍田「よっくも、天龍ちゃんをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
その声の主、龍田は持っていた薙刀を深海提督に向かって投擲する。
だが、それを見ても深海提督は動じずに拾った刀を縦に構えて、飛んできた薙刀を弾き返す。
それでも、龍田は跳ね返された薙刀を空中で受け取って、深海提督の脳天に突き立てようとする。
しかし、深海提督は後ろへ少し下がる事でその攻撃をかわす。攻撃が外れた龍田は半ばしゃがみ込む形で深海提督の前に着地する。そして、
深海提督の影が自分に近づいている事に気づいて龍田が顔を上げた時には、もう遅かった。
提督が肘鉄を龍田の首に叩きこむ。その一撃で、龍田の意識は飛んだ。
気を失った龍田は、天龍に覆い被さるように倒れこむ。
深海提督「…やはり、機動力のある軽巡洋艦は潜水艦で捉えられなかったか」
提督「お前……」
深海提督「この程度の奇襲が、俺に通用すると思うな」
その時、深海提督がピクンと顔を震えさせる。そして、右目のレンズ…正確にはレンズにウィンドウが表示される。
『前下方約36°に艦娘の反応あり。艦種:潜水艦。艦名:伊58。装備:61㎝四連装(酸素)魚雷、甲標的。対象は、61㎝四連装(酸素)魚雷を発射。
約2秒で炸裂』
そのウィンドウの内容を即座に読み取ると、深海提督はピョン、とジャンプをした。すると、深海提督の真下を魚雷が通り抜けていき、後方で爆発した。
深海提督「潜水艦で奇襲を仕掛けてきたか。俺の作戦から学んだのか?」
提督「………………………」
提督は、何も答えない。提督は、ゴーヤをそのまま深海提督の真下に行かせて、海へ引きずり込もうと考えていた。
しかし。
深海提督「そこか」
深海提督はゴーヤのいる位置を右目のレンズで探索し、そのゴーヤの未来位置に向けて、龍田の薙刀を投げ込む。
深海提督が海面に着地すると、薙刀を投げ込んだ辺りの海面に、ゴーヤが浮かび上がってきた。だが、ゴーヤは海面に顔をつけたまま、動かない。
さらに、脇腹からは血が滲み出ていた。
那智「…艦娘が…血を出してる…だと?」
長門「貴様…さっきの天龍の時と言いゴーヤと言い、何をした!?」
艦娘は、艤装を装備している限り、自らの体に受けた傷は己の艤装へのダメージとして転換され、それでもダメージを吸収しきれない場合には、
自らの服が破れる。つまり、艦娘が戦場で出血する事はほとんど無い。
だが、天龍とゴーヤは深海提督の攻撃を受けて、血を流している。本来ならば、あり得ない事だった。
深海提督「俺は今、この俺を中心として半径500メートル以内の艦娘の、ダメージを艤装・服に変換する能力を無効にさせた」
提督「何だと…?」
深海提督「さらに俺の右目のレンズは、艦娘の位置や装備を解析する電探のような物。単純な攻撃で俺に敵うと思うな」
ちなみに、深海提督の右目のレンズを開発したのは、深海の鎮守府にいる工作艦のような者である。深海提督はその者を、工作ヱ級と名付けていた。
深海提督「さてと…次はお前らだ」
そう言いながら深海提督は天龍の刀を担ぎ、那智達の方へ向かう。
長門「……全砲門、斉射!!」
長門はたまらず、自らの砲門を開いて深海提督を消し炭にする砲弾を放つ。だが、深海提督はまるでそれが分かっていたかのように、四肢を海面に付け、
攻撃をかわす。そして、低い体制のまま長門に向かって突っ込み、わずかに隙のできた長門の腹部を刀で真一文字に斬る。切口から血がぷしゅっと、
噴き出す。
長門「ぐ…っ!?」
陸奥「長門姉!」
後ろに控えていた陸奥は、後ろに倒れこんだ長門を支えたが、深海提督は裏拳を陸奥の頬に叩きこむ。
陸奥「が…っ!?」
陸奥もその一撃で意識を持っていかれ、長門と共に海面に倒れこむ。
さらに深海提督はこちらに向けて矢を放とうとしていた加賀に、手のひらの砲を向けて、撃つ。弾丸が、加賀の胸の中心部に命中し、後ろに仰け反る。
そして、弓道着の白い部分が赤く染まる。それを見た赤城は慟哭を上げて、深海提督に向けて矢を放つ。だが、深海提督は持っていた刀で矢を落とし、
加賀を撃ったのと同じ砲で赤城を狙撃する。今度は、赤城の肩に命中したが、赤城は激痛のショックで気を失ってしまった。
同じ第1艦隊の古鷹は、深海提督の後ろから砲撃しようとしたが、そうする前に深海提督は振り返って古鷹を狙撃する。古鷹は、弾丸が当たる直前で、
何とか避けようとしたが、弾丸が肩をかすめる。
古鷹「この程度の傷なら…!」
だが、深海提督は既に古鷹の足元に迫っていた。
古鷹「速…ッ!?」
そう言う暇もなく、深海提督は古鷹の脚に刀を突き立てる。
金切り声が、数秒の間響く。
金切り声が収まると、古鷹は倒れこんだ。
深海提督はそれを見て、次は那智の方を向く。
深海提督「次はお前を―」
その直前で、アクションが起こった。第3艦隊の鳳翔と、第4艦隊の祥鳳が、同時にこちらへ矢を放ってきたのだ。周りにいた艦娘を伏せさせて、
深海提督へ直接矢を放ったのだ。
だが、深海提督はその飛んできた矢の箆(の:矢の棒の部分)を、右手と左手でと掴む。
鳳翔&祥鳳「なっ…!?」
鳳翔と祥鳳がその手際に驚きの声を上げるが、深海提督は掴んだ矢の向きを変えて、
深海提督「返してやる」
と、鳳翔と祥鳳に投げ返す。その突然の行動に2人は追いつけず、鳳翔は右胸に、祥鳳は左肩に矢を受けてしまう。そして2人とも、味わった事が無い、
身を切り裂くような痛みに意識が飛んでしまう。
深海提督「やはり、空母を先に潰しておくか」
そう言うと、深海提督は那智から目を逸らして第3艦隊の方へ向かおうとする。
その時、大破していた大和が深海提督に飛びついて動きを止めようするが、深海提督は大和の右腕を掴み、身体を捻る。
バキボキグキッ!!と言う音共に、大和の右腕の骨が砕かれた。
そして大和もまた、激痛のショックで倒れこんでしまう。
大和の反応が無くなったのを見て、深海提督は今度こそ、第3艦隊の方へと向かった。
それから数十分の間は、ただ砲撃の音と、骨を砕く音、肉を切り裂く音が辺りに響き続けた。
その音はほとんど、深海提督の攻撃によって発せられた音で、艦娘達は成す術もなく、普段味わう事の無い痛みによって意識が失われて海面に倒れる。
その様子を見て那智は、こんな時でも冷静に考える。
那智(恐らく…深海提督の過去の話で動揺し、正常な判断がしにくくなっているのだ。だから皆、攻撃が直線的になっている。そして、出撃では本来、
味わう事の無い骨折や肉を切られるなどの傷のせいで、一撃で意識が失われてしまうのか)
この、艦娘が蹂躙されている姿を見て、提督は何もする事ができなかった。
声をかける事も、手に装備していた機銃で砲撃をする事も、できなかった。
何も、できなかった。
今日はここまでにします。
また明日、投下していきます。
それではまた明日。
改造レベルを10見間違えるという、>>1バカの極み。
こんにちは。>>1です。
突然ですが、>>1の個人PCが故障してしまい、修理に出す羽目になってしまいました。
というわけで、しばらくの間は投下できなくなります。
こちらの都合で投下ができなくなってしまい、申し訳ありません。
こんばんは。>>1です。
未だに個人PCは修理中ですが、これは別のPCからの投下です。
少しだけですが、投下していきます。
深海提督「後は貴様だけか?」
深海提督が那智に向けてそう言ったのは、日も大分昇ってきたところである。
そして、深海提督の足元には、何十人もの艦娘たちが倒れていた。体から血を流している者もいれば、腕が奇妙な方向へ曲がっている者もいる。しかし、
この中に死んでしまっている者はいなかった。ただ、激痛のショックで気絶していたり、動けないだけなのだ。
そして、今この場に立っているのは、提督と深海提督、そして那智だけだった。
提督「………………………………」
提督はただ茫然と、この場の惨状を目の当たりにしている。
那智「……急所は外しているな。いつでも急所をやれるチャンスはあったというのに」
那智は、倒れている艦娘の様態を見て口に出す。
深海提督「なぜ、"わざと"急所を外したと思う?」
提督「………………………………」
提督は、答えられない。
深海提督「こいつらに、お前の愚かさを知ってもらうためだ。こいつらが蹂躙されていながらも、お前は俺に砲撃を一発かます事もできたであろうに、
それをしなかった。お前は、艦娘たちを助けなかった非情な男だ。それを、こいつらに知ったまま生きてもらい、お前に失望させる」
提督「………………………………」
深海提督「…それをするためには、那智にも倒れてもらわねばならん」
そう言いながら深海提督は天龍のものだった剣を構えたが、見ると刀身が艦娘たちの血で染まっている。それを見て深海提督は、剣をそのあたりに捨て、
掌から砲身をズズズ、と出す。
那智は身構えるが、そこで横やりが入った。
提督「待て」
提督だった。那智と深海提督から離れた場所から、自らの腕に装着されている機銃を構える。
深海提督「何だ、今更」
提督「那智は、やらせん」
深海提督「さっきの俺の言葉を聞いたからか?やはり、お前は人の意見を聞いてからしか動けない男だ」
提督「そうじゃない」
深海提督「?」
深海提督は小首を傾げる。そして提督は、告げる。
提督「那智は、俺にとって最も大切な人だ。だから、お前にはやらせない」
那智は、はっとしたように提督の方を向き、深海提督はつまらなそうな表情を浮かべる。
深海提督「…貴様、それはつまり、那智以外のここに倒れている奴は、お前にとって別段大切ではないと?」
提督「…………………」
深海提督「やはり、お前は愚かな男だ。まさか、艦娘たちから慕われていたお前の正体がただ女を侍らせたいだけの男だという事が発覚したここで、
那智が最も大切な人だと告げるか。この言葉を、今気絶している奴らが聞いたら、お前の事をどう思うだろうな?」
提督「瞬時…いや、深海提督…」
深海提督「何だ」
提督「もう、やめにしないか…」
提督は、そんな事を言ってきた。
提督「俺は、お前の人間として生きる理由を奪ったつもりなんてない…。告白してきた子の事も、お前をいじめたやつの事も…。けど、それでも、
お前がここまで堕ちた原因が、俺のせいでもあるって言うんなら、俺は素直に謝る。だから、もうやめよう」
この提督の言葉を聞いて、那智はやってしまった…という顔をする。
提督「俺は、告白してきた子の事を本当に、幸せにしてやりたかった…。そして、俺をいじめていた奴がお前をいじめるようになった事も、許せないと、
思った。けど、俺は……」
深海提督「自分が傷つくのを恐れて助けなかったと?」
深海提督が提督の言葉の続きを先読みして尋ねる。そして提督はうなずいた。
提督「本当は、俺もお前を助けたかった…」
深海提督「その程度の言葉で、俺を改心させられるとでも思っているのか」
深海提督は、吐き捨てる。そして、それに、と続ける。
深海提督「今の俺にとって、お前の弁明はただ自分を正当化するための言い訳にしか聞こえない」
提督は、また全身から汗が噴き出す感覚を得る。しかし、以外にも那智が助け船を出す。
那智「深海提督、この際はっきり言う」
深海提督「?」
那智「お前の抱いている感情は、ただの私怨だ」
その那智の言葉は、決定的なものだった。
深海提督「…………………………」
那智「結局のところ、貴様は自分にふりかかる理不尽さを誰かのせいにしたかっただけだ。女生徒がお前に振り返らずこの男に振り返ったのも、それは、
お前に女生徒を振り向かせる魅力がなかっただけの事。その女生徒が結局提督に振り向いたのを見て、お前はただ提督が憎かっただけだ。さらに、
お前がいじめられるようになったのも、お前はいじめた奴ではなく元々いじめられていた提督を恨んだ。それはつまり、だ」
深海提督「…………………………」
那智「ただお前は、お前の言う理不尽な世界が憎かったのではなく、この提督が憎かっただけだ。そしてその憎しみを、深海棲艦に利用されているだけだ」
深海提督「そうかもしれない」
深海提督は、あっさり認める。そのあっさりさに、提督と那智は拍子抜けする。
深海提督「確かにお前の言うとおり、俺の中に渦巻く感情なんてただの私怨なのかもしれない。それは俺も気づいている。そして、それを深海棲艦たちが、
利用しているという事も」
だが、と提督は言葉を切ってまた続ける。
深海提督「深海棲艦は俺の恨みを理解してくれた上で、利用している。その、理解してくれただけで俺はもう十分なんだ」
那智&提督「……………………」
深海提督「そして、俺に深海棲艦の力を与えてくれた装甲空母姫は、本当に俺の加古を理解してくれた。だから、俺の感情がただの私怨だとしても、俺は、
俺を利用しながらも協力してくれる深海棲艦と共に行く」
那智と提督は、この深海提督が深海棲艦に染まってしまっていると感じた。
深海提督「それに、たとえ新しい世界は創れないとしても、俺に私怨を抱かせた提督だけは許さない。そのためにはまず、お前たち艦娘がこの提督に、
失望してもらわなくてはな」
そう言って、再び深海提督は那智に砲の照準を合わせる。
深海提督の言葉を聞いて、那智はふっ、と息を吐く。
那智「お前も大概自己中心的だな」
深海提督「自覚はある。それと、俺はこの提督のように、自分から動く事の出来ないような腑抜けではないからな」
そして深海提督は那智の顔を見据える。
今日はここまでにします。
やはり、普段使っているPCではないと思うようにかけませんでした…。
次の投下は、おそらく明日になるかもしれません。
それではまた。
すぐ書くというわけではありませんが、次の1人の艦娘が主役のSSは、おそらく扶桑編になりそうです。
乙ー
唐突の加古に草ww空姫いんのに浮気ですね
こんばんは。>>1です。
>>117
ご指摘ありがとうございます。これはホントに駄目な誤字でした…。
深海提督「本当に俺の加古を~」→「本当に俺の過去を~」で脳内変換お願いします。
それでは、投下していきます。
深海提督は、那智に照準を合わせる。狙う場所は、胸の中心か、右胸のあたりである。そこを狙えば、那智の意識は落ちる。
そう考えたところで、深海提督は自らの砲を撃った。
だが、その直前で。
提督「那智っ!」
提督が、那智に向って飛びついた。それによって、弾丸が那智から外れてしまった。
深海提督「ふん」
だが、深海提督は冷静に、もう片方の手のひらからも砲身を突き出し、提督と那智に向けて撃つ。しかし、咄嗟に撃ったせいか、狙いは少しずれてしまい、
提督の背中をかすめるだけだった。
その瞬間、提督は背中に鋭い痛みを感じる。
提督「ぐっ…!」
那智「司令官…!」
那智が心配そうに提督に声をかけるが、提督は少し笑っただけだ。
その様子を見て、深海提督は舌打ちをし、下にあったあるものを手に取る。
それは、足元に倒れていた鳳翔の矢筒に入れてあった何本もの矢だった。手に取った矢を、深海提督は那智と提督に投げつける。そのうちの何本かは、
確実に那智に向けて放たれていた。
しかし、提督は那智をかばうように体勢を変える。そして、那智にあたるはずだった矢が提督の腕や肩に刺さった。
深海提督「何…?」
提督「ぐ…く…」
提督は、痛みに顔を歪めて肩や腕に刺さった矢を抜き取る。そして、那智に矢が刺さっていない事を確認して、安堵の息をついた。
その様子を見て、深海提督は聞く。
深海提督「自己中心的なお前が、他の者をかばうとはな」
提督「当り前だろう…」
そう言いながら、提督は立ち上がる。
提督「那智は…俺が本当に大切にしたい人だ…。好きな女を…守らないわけないだろ…」
那智は、提督を見上げて赤面する。
だが、深海提督は邪悪に唇をゆがめる。
深海提督「100人もの艦娘を侍らせて、先の戦闘で誰も助けなかったお前が、『好きな女を守る』だと?笑わせるな」
提督「………………」
深海提督「今の俺からすれば、お前の言っている事は偽り以外の何物でもない」
そう言いながら、今度は提督に向けて砲を向ける。そして、それを躊躇なく放った。
だが。
那智「司令官!」
今度は、那智が提督の足に飛びついて、提督を守る。やはり、弾は逸れてしまった。
その助け合う様子を見て、深海提督が疑問の表情を浮かべる。
深海提督「助け合う、だと?」
それは、さっき深海提督が語った提督の素性を聞いた後では、ありえないような事だった。
深海提督「那智、貴様も今日知っただろう。この男がどれだけ腑抜けなのかを。そして、お前もこの提督の欲望を満たすためだけに存在しているだけだ、
という事を知って、それでもお前はこの男を守るのか?」
深海提督の問いに、那智はふっ、と不敵な笑みを浮かべる。
那智「当り前だろうが」
なぜなら、と那智は続ける。
那智「自分の事を好いていてくれる男の事を守るのが、いい女ってやつだろう?」
提督は、那智の方を見る。そして、深海提督は眼を見開く。
深海提督「………お前、まさか………好きなのか?」
那智「…ふん」
その問いに、那智は答えず、不敵な笑みを浮かべるだけだ。
深海提督「ふっ」
その表情を見て、深海提督は吹き出し、大いに笑った。
深海提督「はははははははははははははははははははは!ふははははははははははははははははははははははははははっ!!」
笑い終えると、深海提督は言葉を続ける。
深海提督「その腑抜けなろくでなしの事を、好きだと?お前はどうやら、頭の中が少しばかり狂っているらしいな」
那智「何とでも言うがいい」
那智は強く返す。その言葉が、深海提督の言葉を切らせる。
那智「それでも私は、こいつの事を好いているのだ。自分が好きになった男は、たとえどのような男であろうとも、好きになってしまうのだ。言うだろ、
"恋は盲目"だと」
その、楽しそうに語る那智の言葉を聞き、深海提督は、
深海提督「ふぅー…」
と、息を吐くだけだった。
深海提督「お前は、たとえどのような屑であろうと、好きになった男を愛すると?」
那智「確かに、度を越せば私でもキレる。だがな」
那智は、提督の方を向いて、続ける。
那智「この男は、艦娘の事を癒したいと思って体を重ねていたと言っていたが、私は少なくともそれは本当の事だと思っている。自分の欲望を晴らすために、
とお前は言っていたが、それも本当の事なのだろう。だが、事実艦娘たちは癒されていた。つまり、提督は―」
那智は続けようとしたが、深海提督は割り込む。
深海提督「その提督の、艦娘たちを癒したいというのは本当だと?」
那智「……ああ」
提督「…………………」
当の提督は、何も話さない。ただ、自分の腕の機銃の照準を深海提督に合わせるだけだった。
深海提督「お前、馬鹿だろう」
那智「自覚はしている」
そう言った直後、深海提督は那智に向けて発砲をする。だが、那智は身をかがめて避ける。そして。
那智「提督!撃て!」
提督「よし!」
提督は、機銃で発砲する。しかし、深海提督は少し後ろに下がって、提督の弾を避けた。
深海提督「その程度の攻撃が、俺に通るとでも―」
提督「思っちゃいないさ」
提督のすんなりした答えに、深海提督は少し疑問に思う。
提督「だから、こっちに賭けた」
深海提督「?」
そこで、深海提督は改めて前を見据える。するとその先には、腕の主砲を構えた那智の姿が。
深海提督「しまっ―」
那智「はぁっ!!」
ドォォン!!という音と共に、那智の主砲が火を吹く。そして、その主砲から放たれた弾は、深海提督の右胸に命中した。
深海提督「ぐっ…!?」
右胸に空いた穴からは、赤い血液が流れ出ている。
深海提督(しかし、この程度の傷は特に支障は―)
そう考えたところで、気づく。
提督が、いない。那智の近くにいるはずだったが、いなくなっていた。
深海提督「あいつ…どこに…?」
その答えはすぐに分かった。
ざくっ、という音と共に、深海提督の胸に剣が突き刺された。
深海提督「!?」
後ろを振り返ると、提督が真後ろに立っていた。そして、自分を刺した剣は、さっき自分が捨てた天龍の剣だと気づく。
深海提督(那智の砲撃による煙に紛れて、天龍の剣を拾った上、俺の後ろに回り込むだと…?)
深海提督「………ごふっ」
深海提督は口から血を吐きだし、前に倒れた。そして、剣を突き立てられたまま、海の底へと沈んでしまった。
そして、そのまま浮かび上がってくる事はなかった。
深海提督が沈んでいくのを確認した後、提督はかがみこむ。
提督「ぐっ…」
那智「司令官…大丈夫か?」
那智は、提督の下に来る。
提督「ああ…何とかな…」
そして提督は、無線機を取り出す。
提督「…鎮守府の皆を呼んで、ここにいる皆を、鎮守府に曳航させよう…」
那智「ああ」
今だけ、提督は那智と話す事ができた。
しかし、鎮守府に戻っても、それが続くかどうかはわからない。
今日はここまでにします。
実は、別の人に『PCを変われ』と言われて焦ってしまい、最後の方が駆け足になってしまいました。申し訳ございません。
おそらく、明日には那智編は終わると思います。
しかし、明日投下できるかどうかは分かりませんので、ご了承ください。
それではまた次の投下で。
>>1氏、当面の間2-5へ行かないと決意する。
こんばんは。>>1です。
それでは、ラストスパート、投下していきます。
ついに…PCが復活…!
深海棲艦の鎮守府にある、四角い風呂がいくつも並んでいる入渠ドックのような場所。そこは‶治癒処‶と呼ばれている。
その中にある、明るい緑色の液体に満たされた一つの風呂に深海提督は浸かっていた。
深海提督「……………………………」
深海提督は、浸かりながら先ほどまでの戦いの事を思い出していた。最後に深海提督は、那智の砲撃と提督の不意打ちによって深手を負ってしまった。
今は、その傷を癒しているのだ。
装甲空母姫「提督」
どこからともなく現れたのは、装甲空母姫だった。しょんぼりとした表情を浮かべている。
深海提督「………空姫か…」
装甲空母姫「ひどいケガね…」
深海提督「…ああ、直すのには相当な時間がかかるだろう」
装甲空母姫「……貴方ほどの人が、そんな傷を負うなんてね」
深海提督「………………………………」
正直なところ、深海提督には提督の不意打ちが読めていた。右目の電探で、感知する事はできていた。しかし、それでも深海提督は避けられなかった。
なぜ、深海提督は避けなかったのか、その理由がわからない。
装甲空母姫「……実は私達は、貴方の戦いを見ていたのよ」
深海提督「…そうか…」
装甲空母姫「みんな、貴方の闘う姿が見てみたい、って言っていたから…」
深海提督「皆、好奇心旺盛なんだな…」
深海提督がそんな冗談を言うと、装甲空母姫は少し悲しげな表情を浮かべる。
装甲空母姫「…私達が、貴方の事を利用していたって事、気づいていたの…?」
深海提督「……ああ」
けど、と深海提督は続ける。
深海提督「お前たちが俺の過去を理解してくれて、協力してくれたのは、本当に嬉しいんだ。ありがとう…」
装甲空母姫は、目を見開く。
深海提督「どうやら…俺は当分の間目を覚まさないだろう……」
装甲空母姫「………………」
装甲空母姫はただ頷く。
深海提督「おそらく…この鎮守府はいずれ地上の奴らに襲われるだろう…。その前に、ここを移動せねばなるまい…。俺が目覚めるまでの間は、お前が…
指揮を執ってくれ…」
装甲空母姫「……………ああ」
装甲空母姫が返事をしたのを聞いて、深海提督は少しだけ笑い、目を閉じた。目を閉じだ後からは、定期的な寝息が聞こえてくる。
装甲空母姫「この男は………」
実は装甲空母姫は、この深海提督―黒海瞬時が使い物にならなくなったら、適当に処理する予定だった。しかし、さっきのような言葉をかけられた後で、
そんな外道な事ができるはずがない。そこまでの情を装甲空母姫は持っていた。
装甲空母姫「……………戦艦棲姫」
戦艦棲姫「はい?」
装甲空母姫は、そばにた戦艦棲姫を呼び、告げる。
装甲空母姫「この鎮守府を捨てて、新たに拠点を作る。そのための準備を始める。姫級と鬼級を全員会議室に呼び出すのだ」
戦艦棲姫「了解しました」
装甲空母姫「それと、この提督を始末するのは、やめる」
戦艦棲姫「……ですよね」
戦艦棲姫は、少しだけ微笑みながら答えた。
しかし、深海提督が目覚める事は、もう無かった。
深海提督との戦いが終わった数日後、提督と那智は、海軍の本部に来ていた。
提督「本当に、申し訳ございません」
総司令官の部屋に通された提督が頭を下げて開口一番に言ったのはそれだった。隣にいた那智も、一緒に頭を下げる。
総司令官「…………………」
提督「総司令官殿の協力があったにも関わらず、深海棲艦の拠点を潰す事ができず…」
総司令官は、怒鳴ったりはせず、やさしい口調で言う。
総司令官「頭を上げろ」
提督と那智は黙って命令に従う。
提督「…………………」
総司令官「…やはり、貴様一人だけには荷が重かったか…」
提督「……資源も無駄に使用してしまい…本当に申し訳ございません!」
提督はもう一度頭を下げる。
総司令官「いや…正直な、例えこの国トップの鎮守府最強の艦隊でも倒せるかどうか、悩ましいところだったのだ」
総司令官は言外に、期待はしていなかった、と言っている。
提督「ご期待に添えられることもできず…」
総司令官「まあ、そう落ち込む事もない。むしろ、深海棲艦のトップと思しき者を倒す事ができたのだろう?」
総司令官は、手に持っている報告書を見ながら尋ねる。
提督「倒した…という確証は持てませんが…確実に急所を剣で貫きました」
総司令官「なるほどな…」
提督の言葉を吟味して、総司令官はよし、と言った。
総司令官「敵の本拠地を潰せなかったのは惜しかったが、よく深海棲艦のトップを倒してくれたな。感謝する。その栄誉をたたえて、勲章を与えよう。
それと、貴様の鎮守府にはしばしの間休暇を与える」
提督「……ありがとうございます!」
提督と那智は、ともに頭を下げる。
総司令官「艦娘たちと、今回の戦いの事を肴に酒を酌み交わすのもいいぞ?」
提督「…………はい」
総司令官のその言葉に、提督はうつむきながら答える。
鎮守府の艦娘たちの、提督に対する態度は、提督や那智の懸念したとおりになった。
皆、提督と接触する事をあからさまに避けている。話しかけると、まず最初に疑惑の目を向けてくる。
元々、提督がどういう人間だったのかを知っているのは、あの時出撃した艦娘だけのはずだったが、トップクラスの艦娘が皆一様に提督に対する態度を、
変えてしまったせいで、ほかの艦娘たちも同様の態度になってしまうのだ。
提督は、艦娘たちの疑惑の目線と、噂話を受けながら、日々を過ごしていった。
そして、深海提督との戦いから数週間後、那智は提督の私室を訪れていた。
那智「司令官、失礼するぞ」
ノックを何度もするが、返事は返ってこない。
奇妙に思った那智がドアを開けて入ると、提督がベッドに座っていた。
提督「………………………」
提督は顔を上げない。そもそも、那智が入ってきた事に気づいていないようだ。
那智「司令官?」
那智は、提督の耳元で呼ぶ。すると、提督は顔を那智に向ける。
総司令官「敵の本拠地を潰せなかったのは惜しかったが、よく深海棲艦のトップを倒してくれたな。感謝する。その栄誉をたたえて、勲章を与えよう。
それと、貴様の鎮守府にはしばしの間休暇を与える」
提督「……ありがとうございます!」
提督と那智は、ともに頭を下げる。
総司令官「艦娘たちと、今回の戦いの事を肴に酒を酌み交わすのもいいぞ?」
提督「…………はい」
総司令官のその言葉に、提督はうつむきながら答える。
鎮守府の艦娘たちの、提督に対する態度は、提督や那智の懸念したとおりになった。
皆、提督と接触する事をあからさまに避けている。話しかけると、まず最初に疑惑の目を向けてくる。
元々、提督がどういう人間だったのかを知っているのは、あの時出撃した艦娘だけのはずだったが、トップクラスの艦娘が皆一様に提督に対する態度を、
変えてしまったせいで、ほかの艦娘たちも同様の態度になってしまうのだ。
提督は、艦娘たちの疑惑の目線と、噂話を受けながら、日々を過ごしていった。
そして、深海提督との戦いから数週間後、那智は提督の私室を訪れていた。
那智「司令官、失礼するぞ」
ノックを何度もするが、返事は返ってこない。
奇妙に思った那智がドアを開けて入ると、提督がベッドに座っていた。
提督「………………………」
提督は顔を上げない。そもそも、那智が入ってきた事に気づいていないようだ。
那智「司令官?」
那智は、提督の耳元で呼ぶ。すると、提督は顔を那智に向ける。
その提督の顔は、やつれていた。目の下には隈もできている。端正な顔が、台無しだった。
提督「那智……」
那智「…司令官……」
提督「俺は……本当にそういう人間なのか…?」
どういう、と那智は聞こうとしたが、それが深海提督が言っていた提督の正体の事だと気づく。
提督「俺は………」
那智「まったく貴様は……」
那智は、提督の気弱な発言にイラつき、言葉の勢いが少し荒くなる。
提督「?」
那智「貴様、奴の言っている事がすべて正しいとでも思っているのか!」
提督「………だが…俺は…」
たまりかねて、那智は提督の襟首をつかんで立ち上がる。
那智「あんな奴の言ったことを全部真に受けて、お前は自分の生き様を否定するのか!」
提督「…………………………」
那智は、提督の襟首を離す。
提督「だが…皆はもう俺のことを………」
那智「信じてない、とでもいう気か」
提督は顔をそらす。図星だ。
那智「それは違うぞ」
提督「?」
那智の心強い言葉に、提督は向き直る。そして、那智は告げる。
那智「私が、貴様の事を信じている」
提督「!!」
那智「もし、皆の信頼を失って、貴様が絶望をするというのなら…」
そこで切り、那智は手を差し伸べる。
那智「私とともに、希望を取り戻そう。皆からの信頼を失ってしまったのなら、また得られるようになればいい」
提督は、那智の手を見つめる。
那智「………私が、惚れた男の事を簡単に見捨てると思うか」
提督「…お前、まさかあの時の告白って…あいつを動揺させるためのブラフじゃ…」
那智「違う、私の本心だ」
那智は、笑いながら続ける。
那智「貴様の、誰かのために役に立ちたいという想いは本物に見えた。だから、そこに私は惚れたのだ」
提督「………………………」
那智「もし、また貴様が人から慕われたい、‶本当の意味で‶慕われたいと願うのなら、私も協力するよ」
提督は、那智の言葉を頭の中で反芻する。
そして。
提督「俺は……もう一度、皆と一緒にに過ごしたい…」
涙を流しながら、告げる本心。
那智「…よし。じゃあ、私とともに立ち上がろうではないか」
那智の言葉に、提督は強くうなずく。
そして、那智の手をやさしく取り、立ち上がった。
今度は、‶本当に‶皆から慕われる提督となるために。
【END】
以上で、那智編は完結です。いかがでしたか?
感想をいただけると嬉しいです。
それでは、次の作品を多数決で決めようと思いますので、よろしければどうぞ。
多数決で決定すれば、明日の夜に新スレを立てる予定です。
それでは。
仕事で時間を奪われるってのが、一番腹が立つ。
↓5までで多数決。次の作品はどれ?(結果が同数の場合、範囲を1拡張。それでも決まらない場合は、さらに範囲を1拡張)
①日常編第三部(前作の続き)
②艦これ×ヘタリアのクロスオーバー
③木曾編リメイク
こんばんは。>>1です。
多数決の結果、4:1:0で、日常編第三部という事になりました。
というわけで、新スレを立てましたので、こちらをどうぞ。
【艦これ】提督「平和な鎮守府の日常」 陸奥「その3」
【艦これ】提督「平和な鎮守府の日常」 陸奥「その3」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436962792/)
こちらの方も応援していただけると嬉しいです。
それでは新スレでお会いしましょう。
このSSまとめへのコメント
つまらんチラ裏にポエムでも書いとれ
高校生か中学生だろこれ書いてるの
痛すぎんよ~