穂乃果「僕らのLIVE 君とのLIFE」 (102)
このssはラブライブ!の二次創作です。
独自解釈、if展開、シリアスが含まれています。
原作の雰囲気を重視される方はご注意ください。
ほのツバです。
◆ ◆ ◆
ツバサ「お待たせ、穂乃果」
穂乃果「ううん、今来たところだよ、ツバサちゃん」
ツバサ「ふふ、ありがとう」
まだまだ寒い3月の公園のベンチに、私とツバサちゃんは腰を下ろす。
ツバサ「ひさしぶりね」
穂乃果「そうだね、ちゃんと話すのは最終予選以来だから3ヶ月ぶりかな?」
これが私!高坂穂乃果、高校2年生!
これは私たちμ'sとA-RISEがラブライブで競い合うまでのお話なんだ!
そう、それはちょうど6ヶ月前。
私たちがUTX学院でライバル宣言を受けた数日後のことだった――
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~秋葉原 駅前~
ツバサ「高坂さん、お待たせ」
穂乃果「あっ、ツバサさん!私も今来たところでっ!あの、その」
ツバサ「ふふふ、その言い方、デートの待ち合わせみたいよ?」
穂乃果「で、デート!?わ、私――」
ツバサ「冗談よ。高坂さん、今日は来てくれてありがとう」
穂乃果「はっ、はいっ!ツバサさん!いえ、綺羅さんのほうがいいですか?」
ツバサ「うーん……」
穂乃果「あ、あれ、もしかして名前間違えちゃいました?」
ツバサ「そうね、こうしましょう。今からお互い敬語は禁止♪」
穂乃果「えっ、ツバサさん――」
ツバサ「ツバサ、でいいわよ」
穂乃果「そ、そんなの無理です!」
ツバサ「いいの」
穂乃果「……そ、それじゃあ……つ、ツバサ、ちゃん?」
ツバサ「ええ、それでいいわ、穂乃果」
穂乃果「あ、あはははは……」
そしてこれが6ヶ月前の私!高坂穂乃果、高校2年生!
突然A-RISEの綺羅ツバサさんに呼び出されて緊張している私がいた。
穂乃果「でも一体、どうしたんです……どうしたの?」
ツバサ「ええ。ちょっと用事があってね……あら」
周りの人たちがツバサちゃんを見てザワついてるみたいだった。
うん、そうだよね。ここはA-RISEの本拠地、秋葉原の駅前だもん。
遠巻きにツバサちゃんを見ている人は沢山いるし、『あの人A-RISEの人じゃないの?』って声も聞こえてくる。
こちらを向いて、声をかけようか迷っている人もいた。
ツバサ「そろそろ場所を変えましょうか、こっちよ!」
穂乃果「う、うん……あっ」
数日前と同じように、ツバサちゃんが私の手を引いて駆け出した。
~カラオケボックス~
ツバサ「はい、穂乃果、烏龍茶」
穂乃果「あっ、ありがとうツバサちゃん」
ツバサ「それじゃあ乾杯♪」
穂乃果「か、かんぱーい」
ツバサ「そんなに緊張しなくていいのよ。何もしないから」
穂乃果「あ、あはは……その、なんで自分がA-RISEのツバサちゃんとふたりっきりで、カラオケの個室にいるんだろうって思って」
ツバサ「ふふ、そうね、今日来てもらったのは他でもないわ……とても重要な用事があったの」
穂乃果「重要な用事……」
ツバサ「ええ、それはね……」
穂乃果「……」
ツバサ「穂乃果と一緒に遊びたいと思ったの♪」
穂乃果「えっ?」
ツバサ「ふふふ」
穂乃果「えええええっ!?」
ツバサ「すごい声量ね」
くすくす笑いながらツバサちゃんがコップを置いた。
穂乃果「ど、どうして!?」
ツバサ「あら、友達になりたいと思うのに理由なんている?」
穂乃果「だ、だってぇ……」
ツバサ「そうね、私とあなたはライバル同士。不審に思うのは当たり前だけど」
穂乃果「あっ、そんなつもりじゃっ」
ツバサ「ううん、私が逆の立場だったらそう思うもの」
ツバサ「本当のことを言うとね、あなたに興味があるの。μ'sのリーダー高坂穂乃果さん」
穂乃果「え」
ツバサ「アイドル経験一年未満。歌やダンスの経験もほとんどなし。おまけにリーダーなのに作詞作曲振り付け衣装すべてを他のメンバーに頼っている」
穂乃果「ううっ!?」
自分でも何もしないリーダーかもって思ってるけど、人に言われると何倍もこたえるなぁ……
ツバサ「でも私は、そんなあなたを最大の脅威だと認識している」
穂乃果「……」
ツバサ「同じようなこと、ついこの前も言ったわね」
ツバサちゃんは私を真っ直ぐ見つめたまま、微笑んだ。
ツバサ「つまり、私はあなたが気になって気になって仕方がないの」
ツバサ「だから、あなたと一緒にいればなんでこんな気持ちになるのかわかるかもしれないと思って。それだけなの」
穂乃果「そ、そうなの……」
ツバサ「よければ、今日だけでも一緒に遊んでくれる?」
穂乃果「うん、いいです……いいよ。でも私なんてすぐに底が見えちゃうと思うよ」
ツバサ「ふふ、そうかしら」
そう言ってツバサちゃんが笑うと張り詰めていた空気がやわらかくなったような気がした。
ツバサ「じゃあそろそろ歌いましょうか。穂乃果の歌える曲をいれてもらえれば私が合わせるわ」
穂乃果「うーん……どうしようかなぁ……」
ツバサ「じゃあ最初はこの曲でいいかしら?」
テレビ画面に表示されたタイトルは、何年か前に流行っていたポップスだった。
穂乃果「うん!大丈夫、歌えるよ」
最初は緊張で全然声が出なかった私だったけど、何曲も歌っていくうちに普段の調子を取り戻していった。
どんな歌を歌ってもツバサちゃんは絶妙なコーラスやハモりをいれてくれた。
私が音を外してもフォローするようにキーを調節してくれる。
一緒に歌うのは本当に楽しいし嬉しかった。
一時間くらい歌ったころ、私はとある曲の番号を入力した。
ツバサ「あら、この曲……」
画面に映る曲のタイトルは、Private Wars。A-RISEの曲。
ツバサ「……歌えるの?」
うん、私はこの曲、歌詞を見なくても歌えるよ。何百回動画を再生したか覚えてないもん。
穂乃果「うん!」
ツバサ「そう、じゃあ一緒に歌いましょう」
本人と一緒に歌えるなんて夢みたいだった。
私は思いっきり声を出す。
……テンションが上がりすぎて、思いっきり音を外しちゃったけど。
◆
ツバサ「穂乃果、またね」
穂乃果「うん!今度は私から連絡するからね!」
ツバサ「ええ、待ってるわ」
私たちは笑いながら手を振って別れた。
途中まではどうなるかと思っていたけど、一緒に歌いはじめてからは楽しかったなぁ。アドレスも交換しちゃったし。
でもあまりお話もしないで歌ってばかりだったけど、ツバサちゃんは楽しかったのかな……?
でもでも、またねって言ってくれてたから大丈夫だよね……うう……それとも社交辞令かなぁ……
う~ん……気にしてもしょうがないよね!前向きに行こう!
『本当に楽しそうに歌うのね』
Private Warsを歌い終わったとき、ツバサちゃんがぽつりとつぶやいていた言葉が、何故か心に残っていた。
ラブライブ最終予選まで、あと3ヶ月。
◆ ◆ ◆
~ネットカフェ~
ツバサ「2時間、カップルシートで」
穂乃果「か、か、カップルぅ!?」
ツバサ「穂乃果、声が大きいわ」
穂乃果「でっ、でもっ……」
ツバサ「ふふ、いいの。じゃあ行くわよ」
いたずらっぽく笑いながらツバサちゃんが歩き始める。
穂乃果「ま、待って!」
◆
穂乃果「こっ、ここがっ、カップルの!シート!」
ツバサ「そんなに興奮しないの」
穂乃果「だっ、だって!」
ツバサ「カップルじゃなくても利用する人、結構いるわよ?英玲奈やあんじゅとも来たことあるし」
穂乃果「あっ、そうなんだぁ」
その空間には2人掛けの大きなソファとテレビとパソコンがあった。
ソファのすぐ横にはタオルケットが置いてあって、仮眠もとれるようになってるみたいだった。
ツバサ「意外に綺麗な所でしょ?」
穂乃果「うん、ネットカフェってもっとごちゃごちゃしてたりするのかなって思ってた」
ツバサ「女性客が多いところだから、気を配ってるみたいなの」
穂乃果「そうなんだ」
ツバサ「飲み物取ってくるわ。穂乃果は何がいい?」
穂乃果「わっ、私が行くよ!ツバサちゃんは待ってて!」
ツバサ「じゃあ一緒に行きましょうか。ついでにDVDも借りたいから」
穂乃果「うんっ」
穂乃果「わあっ、すごい!ドリンクバーが広いっ!広いよツバサちゃん!」
ツバサ「あまり大きな声出さないの、穂乃果」
穂乃果「えへへ……ごめんね、穂乃果、ファミレスのドリンクバーしか見たことなくって……」
穂乃果「あっ!飲み物だけじゃなくってソフトクリームの機械もある!すごい!」
ツバサ「あれは別料金よ」
穂乃果「そ、そう?でもでも、メロンソーダにアイスのっけるくらいなら……」
ツバサ「だーめ。それに私と遊んで体重が増えた、なんて言わせないわよ?」
穂乃果「ううっ……アイス……アイスぅ……」
ツバサ「はい、お茶。私はミネラルウォーターにしたわ。一旦戻って、DVDはそれからにしましょうか」
穂乃果「あ、あああ……アイスが……」
穂乃果「うわーっ、レンタル屋さんみたい」
ツバサ「ここ、アイドルのライブ映像が充実しているのよ。なにか参考になるものがあるかもしれないわ」
穂乃果「ふーん……ほんとだっ!アイドルだけで棚が4つもっ!?」
ツバサ「どうしようかしら……穂乃果はどれが見たい?」
穂乃果「お任せしますっ!」
ツバサ「じゃあこれとこれで……」
穂乃果「あとアイスも……」
ツバサ「ええ、それはだめよ?」
穂乃果「あうう……」
ツバサ「それじゃあDVDを見ましょうか」
穂乃果「うん」
ツバサ「ちょっと詰めてくれる?ソファ」
穂乃果「あっ、うん」
ツバサちゃんが私の隣りに座る。ふわっとツバサちゃんの匂いがした。
……いい匂い。
ツバサ「どうしたの?」
穂乃果「うっ、ううんっ!どういうアイドルのがあるの?」
ツバサ「そうね、これは特にダンスに力をいれているユニットね、こっちのは――」
◆
穂乃果「あっ、すごいね今の」
ツバサ「穂乃果、今まで全部同じ感想よ?」
穂乃果「うぅ……私こういうの見てもすごいなあって思うけど、なにがすごいのか説明できなくって……」
ツバサ「うーん、私もどちらかというと感覚で動いてしまうタイプだから……矢澤にこさんみたいにうまく説明出来たらいいんだけど」
穂乃果「えっ、にこちゃん?なんでにこちゃん?」
ツバサ「そういえば言ってなかったわね。矢澤にこさんの分析力は凄まじいものがあるの」
穂乃果「えっ、で、でもこの前はツバサちゃん、にこちゃんのこと小悪魔って……」
ツバサ「そうね……なんだか照れてしまったの。A-RISEのこと、私たちよりよく知ってる人だから」
穂乃果「にこちゃんが!?」
ツバサ「A-RISEを結成した当時からよく花束を贈ってくれていたのだけど、それと一緒にファンレターが入っていて」
ツバサ「私たちを褒めながら、物凄く細部まで分析してた。私たちが意識していなかった問題点までね」
ツバサ「矢澤にこさんのおかげでA-RISEは成長出来た部分もあるの、それくらい知識と観察力があるのよ彼女は」
穂乃果「そ、そうなんだ……にこちゃんが……」
◆
穂乃果「ねえ、今のダンスすごかったね」
ツバサ「……」
穂乃果「ツバサちゃん……?」
ツバサ「……すぅ……すぅ……」
穂乃果「寝ちゃってる……」
ツバサ「んー……」
ツバサちゃんが私の肩に寄りかかっていた。
そういえば練習終わってすぐ来た、って言ってたっけ。
私は肩に止まっているツバサちゃんを起こさないように、そばに置いてあった毛布をツバサちゃんにかけた。
つい最近まで動画や写真でしか見たことがなかったツバサちゃん。
そのツバサちゃんが私の隣りで眠ってる……
まつ毛長いなぁ。
私はDVDの再生が終わってもずっと、ツバサちゃんの寝顔を見続けていた。
◆
ツバサ「本当にごめんなさい!」
穂乃果「ううん、いいよ。練習明けだったんでしょ?」
ツバサ「それは穂乃果も同じでしょう?こんなつもりじゃなかったのに……」
謝り続けるツバサちゃん。私は楽しかったから何も問題ないんだけどな。
穂乃果「それよりツバサちゃんの寝顔、可愛かったよ!」
ツバサ「うっ!?そ、それは忘れてちょうだい」
穂乃果「え~?なんで~?」
ツバサ「なんでも!」
穂乃果「ふふん、でももう待ち受けにしちゃったもんね!」
ツバサ「なっ!?さ、削除して!」
穂乃果「やっだよ~♪」
ツバサ「もうっ、穂乃果!」
穂乃果「あはははは!」
ツバサ「ああ、もう……ふふ、あははは!」
ラブライブ最終予選まで、あと2ヶ月。
今日はここまでです。
読んでくれた方ありがとうございます。
◆ ◆ ◆
~秋葉原 駅前~
穂乃果「お待たせ、ツバサちゃん!」
ツバサ「ええ穂乃――」
穂乃果「……ん?どうしたの?」
ツバサ「いいえ、なんでもないわ。私も今来たところよ」
穂乃果「今日はどこへ行こうか?」
ツバサ「うーん……やっぱりカラオケかしら」
穂乃果「うん、あんまり人目がないところのほうがいいよね」
ツバサ「そうね……この前のような失敗を繰り返したくはないわね……」
穂乃果「うん……」
この前の。
それはツバサちゃんと喫茶店に入ろうとしたときだった。
サインや握手を求めるA-RISEファンの人たちが大勢集まってきて、収集がつかなくなっちゃったときだ。
結局話しかけてくれるファンの人たちを無視することもできず、お店の中はツバサちゃんの握手会みたいになってしまっていた。
ツバサ「それじゃあ、カラオケボックスまで競走よ!」
穂乃果「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってよツバサちゃんっ!フライングっ!フライングだよっ!」
◆
ツバサ「私の勝ちね。今日は私から歌わせてもらうわね、穂乃果」
穂乃果「はぁっ、はぁっ、言ってくれれば、それくらい、歌わせてあげるよぉ」
ツバサちゃんについてわかったことがある。
私が言うのもなんだけど、ツバサちゃんは意外と子供っぽいところがある。
ツバサ「機種はいつものでいい?」
穂乃果「うん、いいよ」
ツバサ「穂乃果見てみて。こっちの部屋はお座敷になってるみたいよ」
穂乃果「ツバサちゃん、勝手に開けちゃだめだよ」
ツバサ「大丈夫よ、誰もいないの確認してから開けてるから」
……やっぱりツバサちゃんは子供っぽい。
それは私が憧れていたツバサちゃんのイメージとはかけ離れていたけど、そんなツバサちゃんのことも私は好きだ。
ツバサ「どうしたの?」
穂乃果「う、ううんっ!今行くっ!」
◆
穂乃果「あーっ!楽しかった!」
ツバサ「ふふ、そうね……あら?穂乃果、少し喉が枯れていない?」
う、言われてみれば少し喉がイガラっぽい。カラオケで思いっきり歌いすぎたかも。
穂乃果「げふ、げふ、大丈夫っ!これくらいすぐ治るよっ!」
ツバサ「だめよ、放っておいたら。はい、のど飴。お医者さんから貰ったものだからあまりおいしくないけど、よく効くわ」
穂乃果「うう……ありがとう、ツバサちゃん……うっ!?こ、この飴……」
ツバサ「ふふ、おいしくないでしょ」
穂乃果「う、うん、ほんとだ……」
ツバサ「ふふふ」
ツバサちゃんが笑っていた。いたずらが成功した子供みたいに。
それはクールなイメージの強い、A-RISEのセンターと同一人物にはまったく見えなかった。
ツバサ「ねえ穂乃果」
穂乃果「うっ、ちょっと苦いし……なあに?」
ツバサ「会ったときから言おうか迷っていたんだけど、口の周りに砂糖が付いてるわ」
穂乃果「えええええっ!?すぐに言ってよぉ!」
ツバサ「ふふふ」
穂乃果「うわ、ほんとだっ!学校でパン食べて、まさかその時から……!?」
ツバサ「はい、ティッシュ」
穂乃果「あ、ありがとう……じゃなくてっ!すぐ言ってよぉ、ツバサちゃぁん……」
ツバサ「なんだか可愛くて、つい」
穂乃果「ついじゃないからっ!」
◆
ツバサ「あら、児童公園ね……」
穂乃果「こんなところにあったんだね。知らなかった」
ツバサ「あのブランコ、オレンジ色で可愛いわね」
穂乃果「ん?うん、そうだね」
ツバサ「ねえ穂乃果、乗ってかない?」
穂乃果「ツバサちゃん、車じゃないんだから――ああっ」
私がそう言ったときには、ツバサちゃんは既にブランコに向かって駆け出していた。
穂乃果「うわーっ、懐かしいなあ」
ツバサ「これ、どこまで高くいけるのかしら」
穂乃果「あっ、それ穂乃果も子供のころやったことあるよ!」
ツバサ「ニュートラルの状態を0度として、何度くらいまでいった?」
穂乃果「うーん……真横が90度だよね……じゃあ60度くらいかな?」
ツバサ「じゃあその記録を破ってみせるわ!」
ツバサちゃんがブランコをこぎはじめる。私も隣りのブランコに座る。
何年ぶりかのブランコは私が大きくなったからか、ずいぶんと小さく感じた。
穂乃果「うわぁ、懐かしいなぁ」
ツバサ「私も久しぶりに乗ったわ」
穂乃果「うん、ツバサちゃんは――って!」
ツバサ「見て見て穂乃果!私、飛んでるわ!」
ツバサちゃんのブランコがうなりをあげて、すごい高さまで届いていた。真横までいってるかもしれない。
っていうかブランコってそこまでいくんだ!?
ツバサ「ふふふ、私の勝ちね、穂乃果」
揺れ幅が大きいからツバサちゃんの声が後ろから前から聞こえてくる。
穂乃果「むっ、それは5歳で公園の遊具をマスターした穂乃果への挑戦だね!?」
ツバサ「どうかしらね?悔しかったらここまで来てごらんなさい」
穂乃果「うん、負けないよ!」
そう。穂乃果は公園の遊具は遊びつくしてしまい、木登りをしたりしていたような子供だったんだ。
何回か前へ後ろへとこいで、子供の頃の勘を取り戻す。
うん、いける。
足を伸ばして、たたんで、勢いをつけて、体重をのせて、高く、もっと高く。
ぐんぐん私のブランコは速度を上げていって、ツバサちゃんと同じくらいの高さまで届いた。
穂乃果「追いついた!……っていうかあぶなっ!これ、危ないよツバサちゃん!」
角度90度のブランコの世界は想像以上の速さと高さだった。
ツバサ「穂乃果!これどっちの勝ちかしら!?」
穂乃果「わかんないよ!どっちでもいいよ!」
ぐるぐる景色が回転してるみたいで、どっちが下かわからなくなってくる。
手を放したら大変。
だけど。
ツバサ「ふふっ、あははっ!」
穂乃果「あははははっ!」
なんでか笑いが止まらなくなった私達は、ずっとブランコをこぎ続けていた。
……そのあと2人揃って目を回していたけど。
ラブライブ最終予選まで、あと1ヶ月。
今日はここまで!
読んでくれた方ありがとうございます。
◆ ◆ ◆
~UTX学院前~
ツバサ「よく来てくれたわ、穂乃果」
穂乃果「うん、こんばんはツバサちゃん。お泊まりにきたよ」
ツバサ「ええ。早速だけどこれを着てちょうだい」
穂乃果「これは……ジャージ?」
ツバサ「そう、UTX指定のジャージよ。これを着ていれば私の部屋のあるUTX女子寮に入れるわ」
穂乃果「ちょっ、ええっ!?なりすまさなきゃいけないの!?ちゃんと受付通して……」
ツバサ「大丈夫、大丈夫。はい、ジャージ」
穂乃果「つ、ツバサちゃぁん」
ツバサ「芸能科のある学校だし、正規の手続きで他校の生徒を泊めるのなんてほぼ無理なのよ。大丈夫、みんなこうやってるんだから」
穂乃果「そ、そうなんだ……」
ツバサ「そう。それに堂々としていれば絶対バレないわ」
穂乃果「そうかなぁ」
ツバサ「ええ、それじゃ行くわよ!」
穂乃果「ま、待って!」
◆
ツバサ「ね?大丈夫だったでしょう?」
穂乃果「うん、でも緊張したよー……」
ツバサ「このエレベーターに乗ってしまえばすぐよ」
穂乃果「う、うん」
すごいな、エレベーターがあるんだ。っていうか綺麗なエレベーターだなぁ。
絨毯みたいなカーペットが敷いてあるし。お金かかってるなあ……
すぐにツバサちゃんの部屋がある階に着いた。
「綺羅さん、こんばんは」
「ラブライブがんばってね、綺羅さん!」
ツバサ「こんばんは、ありがとう!」
ツバサちゃんが通ると生徒の人達はみんな挨拶をする。
やっぱりすごい人気なんだなあ。
私を気にする人なんて一人もいないし、ツバサちゃんの言うとおり、堂々としていれば平気なものなんだなぁ。
そのうち私も、すれ違う人に会釈したり軽くあいさつをするようになった。
ツバサ「こっちよ。大丈夫、あと少しだから」
穂乃果「うん!あっ、こんばんは~♪」
また誰かとすれ違いそうになったから、私は元気に挨拶をした。
あんじゅ「あら……?μ'sの高坂さん、よね?」
英玲奈「なんでこんなところにいるんだ?」
穂乃果「あっ、あっ、あのっ」
A-RISEの二人だった。
ツバサ「あら、あんじゅに英玲奈じゃない」
英玲奈「……ツバサ。スクールアイドル狩りでもしてるのか?」
ツバサ「違うわよ、私が招待したの」
穂乃果「あの、お久しぶりです、高坂穂乃果です。今日はツバサちゃんの部屋にお泊りにきました!」
あんじゅ「久しぶりね、高坂さん」
英玲奈「元気そうだな」
ツバサ「というわけだから」
あんじゅ「待ちなさいツバサ、先生が呼んでいたわよ」
ツバサ「あら、そうなの?」
英玲奈「この時期に進路決まってないの、ツバサくらいだからな」
穂乃果「えっ」
ツバサ「なるほどね」
穂乃果「だ、大丈夫なの?ツバサちゃん」
ツバサ「大丈夫よ」
あんじゅ「大丈夫じゃないから呼び出されてるのよ」
ツバサ「あんじゅは私には辛辣ね。もっとゆるふわ接して欲しいのだけど」
あんじゅ「何を言ってるのかしら、このちびっこは……ごめんなさいねぇ、大変でしょう?この子の面倒見るの」
穂乃果「えっ、あのっ、そのっ」
ツバサ「失礼ね、まるで私が子供っぽいみたいじゃない」
英玲奈「いや、どうみてもそうだろ」
ツバサ「英玲奈まで」
そう言い合う3人からは言葉とは裏腹に険悪な空気は全く感じられなくて、
お互いを強く信頼しているってことが伝わってきた。
あんじゅ「ツバサ。早く出頭してきなさい」
ツバサ「そうね、ごめんなさい穂乃果。少し待っていてくれる?あんじゅ――」
あんじゅ「仕方ないわね、話が終わるまで私の部屋で待っていてもらうから」
ツバサ「ええ。ありがとう、あんじゅ、英玲奈」
ツバサちゃんは小走りに駆けていった。
あんじゅ「高坂穂乃果さん」
穂乃果「えっ、は、はいっ」
優木あんじゅさんが私に優しい口調で言った。
あんじゅ「ちょっと顔貸してくれる?」
◆
数分後、私は優木あんじゅさんと統堂英玲奈さんのお部屋のイスに座り、縮こまっていた。
向かいの席には優木さんが腕組みをして、その隣りでは統堂さんが私と優木さんを見比べている。
あんじゅ「さて、高坂穂乃果さん、あなたに質問があるの」
穂乃果「はいっ、わたっ、私に答えられることなら、なんでも聞いてくださいっ!」
英玲奈「……あんじゅ、あまり年下の人間をおどかすのは感心しないぞ」
あんじゅ「あら、おどかしてなんていないわよ。ツバサが来るまでちょっとお話するだけ」
英玲奈「……ふう……ほどほどにな」
あんじゅ「高坂穂乃果さん。あまり時間もないし率直に聞くわ」
穂乃果「は、はいっ」
あんじゅ「ツバサのことどう思う?あの子、A-RISEの時と普段の時、全然違うでしょう?」
穂乃果「うーん……そうですね……」
穂乃果「えっと、その、最初は戸惑ったんですけど、素のツバサちゃんもA-RISEのツバサちゃんと同じくらい素敵だと思ってます」
あんじゅ「そう……なら、次の質問」
穂乃果「はいっ」
あんじゅ「ねえ高坂さん。こう考えたことはない?ツバサがあなたに近づいたのはμ'sの活動をスパイするためだって」
英玲奈「あんじゅ」
あんじゅ「それかあなたの体調を崩してラブライブに参加させないようにするのが目的だったら?あなたはどうする?」
穂乃果「う~~ん……」
あんじゅ「どうしたの?答えを聞かせてもらえる?」
穂乃果「うーん……ごめんなさい、ツバサちゃんがそういうことするって想像つかなくって……」
あんじゅ「……信じるの?知り合って間もない人を」
穂乃果「信じるっていうか……そんなことしないって知ってるっていうか……」
あんじゅ「……」
穂乃果「でももしツバサちゃんがそういう人だったら……」
あんじゅ「……」
穂乃果「えへへ、それは穂乃果の人を見る目がなかったんだなって」
あんじゅ「……高坂さん」
穂乃果「は、はいっ!?」
あんじゅ「ごめんなさい。短時間であなたを見極めたかったからとはいえ、とても失礼な態度だったわ」
優木さんが深々と頭を下げる。
穂乃果「いっ、いえっ、とんでもないです!」
あんじゅ「私が言ったことは全面的に取り消させてくれる?」
穂乃果「はい!」
あんじゅ「最近のあの子、なんて言うか……すごく柔らかくなったの。きっとあなたのおかげね」
英玲奈「そうだな」
あんじゅ「ツバサのこと、お願いね」
穂乃果「はい!」
英玲奈「よろしくな」
穂乃果「はいっ!」
そのとき、ドアをノックする音とツバサさんの声。
ツバサ「穂乃果、お待たせ……あら、どうしたの?3人で握手なんてして」
あんじゅ「さあ~?」
穂乃果「あ、あはははは……」
あんじゅ「高坂さん」
穂乃果「はい?」
あんじゅ「ラブライブでは、お互いベストを尽くしましょう」
穂乃果「はいっ!」
◆
ツバサ「いじめられなかった?」
穂乃果「ううんっ、ツバサちゃんのことよろしくって」
ツバサ「保護者じゃないんだから……まったくあんじゅと英玲奈は」
そう言いながらツバサちゃんはどこか嬉しそう。
ツバサ「はい、到着!」
なんだかうらやましいな、なんて思っていたらツバサちゃんの部屋に着いたみたいだった。
穂乃果「おじゃましま~す」
ツバサ「どうぞ、楽にしてちょうだい」
穂乃果「うん……うわあ、すごい!」
ツバサちゃんの部屋は、まるで広いトレーニングルームみたいだった。
ランニングマシーン、大きな鏡、テレビ。床にはダンベルやフィットネス用品。
本棚にはアイドルの本に音楽とダンスの教本がびっしり。マンガが一冊もない!?
穂乃果「で、でもどこで寝てるの?」
ツバサ「ふふふ、私は2人用の部屋を1人で使わせてもらっているのよ」
穂乃果「ええっ、すごい!」
ツバサ「A-RISEのセンターの数少ない特権ね。あっちが勉強部屋。こっちが寝室よ」
穂乃果「へぇ~……」
ツバサ「荷物はどこでも置いていいわ」
穂乃果「うん、ジャージも脱がなきゃだね」
ツバサ「私はお茶の用意をしてくるわ」
穂乃果「うんっ!」
◆
穂乃果「ねえツバサちゃん。大丈夫なの?その、進路って」
ツバサ「ええ、大丈夫よ」
穂乃果「でもでも、一人だけ決まってないって……」
ツバサ「そうね。今のところあんじゅはモデル、英玲奈は歌手、私は未定ね」
穂乃果「な、なんで?」
ツバサ「やりたいことはあるんだけど、自分だけでは決められないのよ」
穂乃果「う、う~ん?」
ツバサ「ふふ、とにかく大丈夫よ。心配してくれてありがとう、穂乃果」
穂乃果「う、うん……」
ツバサ「穂乃果、ご飯は食べた?」
穂乃果「うん、食べてきちゃった」
ツバサ「良かったわ、私も食べてしまったから。それなら、お風呂にしましょう」
穂乃果「うん」
ツバサ「……一緒に入る?」
穂乃果「うっ、うっ、ううんっ!お先にどうぞ!」
ツバサちゃんがくすくす笑いながらお風呂場に向かっていった。
◆
今、私とツバサちゃんはお風呂からあがって、小さな音で音楽をかけながらおしゃべりをしていた。
……二人で座れる場所がなかったから、ツバサちゃんのベッドに座りながら。
ツバサ「ねえ穂乃果。前から聞きたかったんだけど」
穂乃果「ん?なあに?」
お風呂上りのツバサちゃん、なんだかつやつやしてるなぁ、なんてことを考えていた私にツバサちゃんが問いかけた。
ツバサ「なんでスクールアイドルをやろうって思ったの?」
穂乃果「学校が廃校になっちゃうって聞いて、人を集めたいって思って」
ツバサ「ええ。でもなんでスクールアイドルだったの?アイドル経験のある子、いないでしょ?」
穂乃果「そ、それは、そのう……えっと……」
ツバサ「あら、なあに?教えてくれないの?」
ツバサちゃんがいたずらっぽく笑いながら私の顔を覗き込む。
穂乃果「う、うぅ~ん、そのぉ……」
ツバサ「どうしたのよ、ふふ」
穂乃果「あのね、ツバサちゃんたちを見たから」
ツバサ「えっ……」
穂乃果「妹の雪穂が持ってたUTXのパンフにね、A-RISEが載っててね」
ツバサ「……」
穂乃果「それでUTX学院まで見に行って、そこでA-RISEの映像を見てすっごい!って思って。だから」
ツバサ「そ、そうだったの……」
穂乃果「ツバサちゃんたちがいなかったら、μ'sはなかったかもしれないんだぁ」
ツバサ「そ、そう……そうなの……」
穂乃果「ねえツバサちゃん」
ツバサ「なに?」
穂乃果「どうしてツバサちゃんは、穂乃果と友達になろうって思ったの?」
ツバサ「前にも言わなかった?」
穂乃果「う~ん……今でも信じられないっていうか、なんていうか……」
ツバサ「信じられない?」
穂乃果「あっ、ううん!ツバサちゃんのことがじゃなくって、この状況がっていうか……」
ツバサ「そう……実はね、穂乃果。私、穂乃果のファンなの」
穂乃果「えっ……?」
ツバサ「順番に話すわね。まず私があなたを初めて知ったのはネットの動画だった」
ツバサ「3人で歌いながら踊ってる動画だったわ」
穂乃果「あっ、それ一番最初にアップした動画だよ」
ツバサ「ええ、それを見て興味が湧いたの」
穂乃果「えへへ……ちょっと恥ずかしいなぁ」
ツバサ「正直、最初は……ずいぶん荒削りだと思ったわ」
穂乃果「うっ!」
ツバサ「歌は音程が合ってないし、ダンスはよく見るとズレてるし……」
穂乃果「ううっ!」
ツバサ「でも3人ともすごく楽しそうで、一生懸命で……特に穂乃果、あなたから目が離せなかったの」
穂乃果「……」
ツバサ「それからずっと動画がアップされるたびにチェックしてたわ。穂乃果がセンターのときも他の人がセンターのときも」
ツバサ「でもどの曲でも、気づいたら穂乃果のことを目で追ってた自分がいたの」
穂乃果「ツバサちゃん……」
ツバサ「この子すごい、こんなに楽しそうに歌って、踊って、笑う子がいるんだ、って」
ツバサ「……私はμ'sの高坂穂乃果のファンなのよ。尊敬してると言ってもいいわ」
穂乃果「そ、そんな……おおげさだよ、ツバサちゃ――」
ツバサ「いいえ、穂乃果」
ツバサちゃんが私を真っ直ぐ見ていた。
ツバサ「……私はずっと、完璧でなければいけないと思っていたの」
ツバサ「歌、ダンス、トーク、日常の立ち振る舞い、全て。完璧を目指すべきだって」
ツバサ「完璧にやり遂げたうえで笑顔を浮かべて『自分は完璧だなんて思っていません』って示すくらいに完璧じゃなければいけないって」
ツバサ「前回のラブライブでは正直なことを言うと、私達の相手になるグループはいなかったから、やっぱりそうなんだ、ってね」
ツバサ「でもね」
ツバサ「あなたがいたから」
ツバサ「あなたを近くで感じたから」
ツバサ「完璧でないことの素敵さに気づいたの」
ツバサ「あなたのおかげよ」
穂乃果「ツバサちゃん……?」
ツバサ「初めてカラオケに行ったとき、あなたの楽しそうに歌う姿を見て、私もそんな風に笑ってたことがあったことを思い出したのよ」
ツバサ「4歳くらいかしら。初めてダンスをしたとき、それを見て親が笑って褒めてくれたの」
ツバサ「それがすごく嬉しくて、毎日ダンスばっかりしてたのよ。そのときの気持ちを思い出したの」
ツバサ「上手く聞こえる歌唱法とか、キレのあるように見えるステップとか、ウケのいいトークの仕方とか、一番良い笑顔の角度とか、そんなこと考えてなかった」
ツバサ「ただ夢中で踊っていただけだったなぁって」
ツバサ「だからね、穂乃果。私はあなたに出会えて、触れ合えて、本当に良かったと思っているの」
ツバサ「そうじゃなければもしかしたら、私はあなた達に負けた後、『どうして負けたのか理解出来ない』、なんてことになってたかもしれないわ」
ツバサ「……ふぅ、完全に脱線して変な自分語りなんてしちゃったわね。とにかく私があなたの友達になりたかった理由は……」
ツバサ「あなたのファンで、あなたに興味があったからよ、穂乃果」
ツバサ「そして……今ではあなたのこと、尊敬しているわ」
私は嬉しさで胸が一杯になってしまって、何も言えなくなってしまった。
憧れていたツバサちゃんが、私のことそんな風に思っていたなんて。
穂乃果「ツバサちゃんっ!」
ぎゅっとツバサちゃんに抱きつく。
ツバサ「どうしたの、穂乃果」
ツバサちゃんは私の頭を撫でてくれた。
穂乃果「だって、嬉しいんだもん」
ツバサ「ふふ。甘えん坊ね、穂乃果は」
穂乃果「うんっ!」
ツバサ「そ、そんなに自信満々に……」
穂乃果「えへへへ……」
ツバサ「ほ、ほら、もう、ね?」
穂乃果「えー、なんで?」
ツバサ「なんでも!」
穂乃果「ねえねえツバサちゃん」
ツバサ「なに?」
穂乃果「ツバサちゃん、大好き」
ツバサ「あ……わ、私も、よ……穂乃果」
穂乃果「本当!?あのね、ずっとしたかったことがあるんだ」
ツバサ「ほ、穂乃果?なに、かしら?」
穂乃果「ツバサちゃん……」
ツバサ「まっ、待って!ほの……あっ」
私はツバサちゃんに抱きついた。
穂乃果「えへへ、ずっとこうしたかったんだ」
ツバサ「えっ、その、ハグを?」
穂乃果「そうだけど?」
ツバサ「なっ、そっ、そうよね!ええ!そうよね!」
穂乃果「どうしたのツバサちゃん」
ツバサ「なっ、なんでもないわ!……もう、穂乃果っ」
穂乃果「な、なに?どうしたの……って、あははははっ」
穂乃果「あはは、ツバサちゃん、くすぐっちゃだめだよぉ」
ツバサ「だめよ。お返しなんだから」
穂乃果「あっはははははっ」
穂乃果「んん……眠くなっちゃった」
ツバサ「いいわよ、このまま寝ちゃっても」
穂乃果「うん……おやすみ、ツバサちゃん……」
頭を撫でてくれるツバサちゃん。
ツバサ「……純粋ね、穂乃果は」
私はツバサちゃんに抱きついたまま眠ってしまった。
◆
ツバサ「穂乃果、朝よ」
穂乃果「んうぅ……雪穂ぉ、あと5分……」
ツバサ「穂乃果」
穂乃果「ゆぅきぃほぉ……あと10分……」
ツバサ「ふむ……困ったわね……それなら……」
ツバサ「穂乃果、すぐ本番始まるわよ!」
穂乃果「ええええええええ!?ま、待って!私まだ……」
ツバサ「おはよう、穂乃果」
穂乃果「準備できて……あれ?なんでツバサちゃんが……」
ツバサ「ふふふ、効果抜群ね」
穂乃果「……お、おはよぅツバサちゃん……」
ツバサ「今日はμ'sの練習があるって言ってなかった?」
穂乃果「あっ、そ、そうだっ!遅刻しちゃ――」
ツバサ「大丈夫、そう思って余裕のある時間に起こしたから」
穂乃果「え、えへへ……ありがとう……」
ツバサ「ねえ穂乃果」
穂乃果「なに?」
ツバサ「私、穂乃果のこと考えると、力がどんどん湧いてくるのよ。空だって飛べそうなの」
穂乃果「なぁにそれ、ツバサちゃん」
ツバサ「最終予選、見ててね。出来るだけ近くで」
穂乃果「……うん!」
私の手を握りながら真っ直ぐ見つめてくるツバサちゃん。
ずっと見上げていたツバサちゃんと、対等になれたんだと思った。
ツバサ「穂乃果」
穂乃果「なあに、ツバサちゃん」
ツバサ「ラブライブで待ってるわ」
穂乃果「……うんっ!」
ラブライブ最終予選まで、あと2週間。
今日はここまでです。
読んでくれた方、ありがとうございます。
◆ ◆ ◆
~最終予選 当日~
大雪になるかも、と天気予報は言っていたけど、ラッキーなことに逸れてくれたみたいだった。
東京地区ってすごい数の学校があるんだなぁ、なんて思いながら眺めていたら、あっという間に時間は過ぎて。
次はA-RISEの番だ。
私は控え室を出て舞台の袖で待つ。約束どおり、出来るだけ近くでA-RISEを見るために。
あ、ツバサちゃんたちが出てきた。
舞台に立ったツバサちゃんが私に向けて。
みててね とツバサちゃんの唇が動いた。
そしてステージが始まる。
ツバサちゃんが動いた瞬間に会場の空気が変わった。
穂乃果「すごい……」
にこ「うぉぉぉぉぉぉぉっ」
にこちゃんが小声で叫びながらステージ袖に飛び込んできた。
にこ「穂乃果っ!?何がどうなってるの!?なんなの今日のツバサはっ!?」
穂乃果「にこちゃん……」
にこ「すっっっごい動きじゃない!もう客席行きたいくらい!」
穂乃果「ツバサちゃんが、飛んでる」
にこ「はあ?あんた何言って――いや……ううん……そうね、その通りね」
にこ「ツバサに引っ張られて、英玲奈もあんじゅも今までで最高のパフォーマンスをしてるわ」
花陽「どっ、どっ、どっ、どうなってるんですかっ!?今日のA-RISE!?」
花陽ちゃんもにこちゃんと同じく、小声で叫びながら走ってきた。
にこ「花陽もわかったのね、さすがね」
花陽「それはもう、こんなの初めて見るから!みんなは控え室でモニター見て驚いてます!」
花陽ちゃんが瞳をキラキラ輝かせながら両手を握りしめていた。
穂乃果「すごいね……」
さっきからそれしか言ってないわよ、ってツバサちゃんに言われちゃいそう。
だってすごいんだもん。それしか言えないくらいすごいんだもん。
どうしてだろう。ツバサちゃんを見ずにはいられない。
にこ「オーラね」
穂乃果「オーラ……」
にこ「前にセンター決めるときにも言ったでしょ?一流のアイドルはオーラが出ている、って」
にこ「自分で言っといてなんだけど、正直そこまで信じてなかったわ……今までは。実際見たことなかったし」
花陽「全身がキラキラしています」
にこ「そうね……汗の滴も演技してるみたい。マイクもほんの少しハウリングするときがあるけど、それも演出の一環なんじゃないかってくらいね」
すごい。やっぱり私にはその一言だけしか浮かばない。
ツバサちゃんの声が、動きが、指先が、瞳が。輝きを放っているみたい。
どうしても見入ってしまう。
それはなんだか魔法のようで、何も言えなくなってしまう。
にこ「やばいわもう……頭が吹き飛びそうね!」
穂乃果「本当、すごいね……」
にこ「そうね、見れて良かったと思うわ。この後これと競わなきゃいけないんだとしても」
曲が終わった。
今まで聞いたことないくらい大きな歓声と拍手。
パフォーマンスが終わり、笑顔でお客さんに手を振るツバサちゃんからも、私は目が離せずにいた。
長い長い拍手が終わり、それに応えていたA-RISEの3人が戻ってくる。
A-RISEの3人とすれ違う。私は真っ直ぐにツバサちゃんを見れなかった。
恥ずかしい。ツバサちゃんと対等だと思っていたなんて。
こんなに大きな差があるのに。
ふらっ、とその場に崩れ落ちてしまう。
にこ「ほ、穂乃果!?」
花陽「穂乃果ちゃんっ!?」
穂乃果「あ、あはは……すごいねA-RISEは……」
にこ「ちっ、こんなときに弱気を発動するんじゃないわよっ……!花陽!穂乃果を控え室に運ぶから海未とことり、呼んで来て!」
花陽「はっ、はいっ!」
にこ「立ちなさい、穂乃果!」
穂乃果「うっ……ううっ……」
ツバサ「穂乃果……?」
振り返るといつのまにか、控え室に戻ったはずのA-RISEの3人がいた。
穂乃果「っ!なんでもないっ!なんでもないからっ!」
ツバサ「……そう、わかったわ」
見られた。ツバサちゃんに穂乃果の情けないところを見られた。
そう思っただけで目の前が真っ暗になって、わめくことしかできなかった。
立ち去るツバサちゃん。よかった。ツバサちゃんにこれ以上こんな穂乃果を見られたくない。
にこ「冗談じゃないわよ穂乃果!あんたがいないと始まらないのよ!」
にこちゃんが私の肩を両手でつかむ。
穂乃果「……」
にこ「今まで何のために練習してきたのよ!?」
穂乃果「わた、し……」
にこ「……ああ、もう!いい、穂乃果。一度しか言わないからよく聞きなさい!」
にこ「μ'sの中で一番アイドルの才能あるの……あんたなのよ!自信持ちなさいよ!」
穂乃果「そんなわけないよ……私は……」
にこ「そりゃ真姫のほうが歌は上手いわよ、絵里のほうがダンス上手いわよ。でもアイドルってそういうことじゃないのよ」
にこ「みんなを惹きつけて笑顔にさせるのがアイドルなのよ、穂乃果!……あんたが一番でしょうが!」
穂乃果「うぅ……」
海未「穂乃果!?」
ことり「穂乃果ちゃんっ!」
駆けつけてきた海未ちゃんとことりちゃんに持ち上げられるように、私は控え室に運ばれた。
◆ ◆ ◆
絵里「穂乃果……」
希「穂乃果ちゃん……」
にこ「穂乃果、あと5分で本番よ……」
穂乃果「だい、じょうぶ……ちょっとびっくりしただけ……えへへ……」
あのA-RISEの後だなんて。
怖い。逃げたい。
何思い違いしてたんだろう。私がツバサちゃんと対等なはずがないのに。
私は指をピースサインにしてみんなの中心に出した、けど。
私の身体は震えてしまっていた。ぶるぶると二本の指が宙を漂っている。
穂乃果「あ、あれっ……」
海未「穂乃果……」
穂乃果「ご、ごめん、すぐ、おさまるから――」
早く震えを止めないと。すぐ本番なのに。
そのとき、海未ちゃんとことりちゃんが私の手を握った。
海未「大丈夫です。今日はみんなの手を重ねましょう」
ことり「うん、大丈夫だよ、穂乃果ちゃん」
海未ちゃんとことりちゃんの暖かい手が私の手を包む。
それでも震えは止まらなくて、私は泣きそうになってしまった。
希「ウチが支えるよ、穂乃果ちゃん」
絵里「一人じゃないのよ、穂乃果」
希ちゃんが、絵里ちゃんが、手を重ねる。
手の震えは止まらないけど、みんなが手を握ってくれたから揺れは収まってきていた。
凛「にゃっ」
花陽「ほら、真姫ちゃんも」
真姫「……別にいいけど」
凛ちゃんが、花陽ちゃんが、真姫ちゃんが。
にこ「ったく、しょうがないわねぇ、やっぱりにこにーがいないとだめみたいね」
がしっ、とにこちゃんが手を力強くつかむ。
にこ「穂乃果、練習通りにやるだけよ。それだけじゃないの」
穂乃果「うん……」
にこ「あんたはいつもみたく可能性でも感じてればいいのよ」
穂乃果「ふふ……なにそれ、意味わかんないよにこちゃん」
真姫「ちょっと穂乃果、それ私のセリフなんだけど」
穂乃果「あはははは!」
他のみんなも笑っていた。
海未「穂乃果、いけますか?」
穂乃果「うん……うん!みんな、ありがとうっ!」
気が付いたら身体の震えは止まっていた。
穂乃果「μ's、ミュージック……」
μ's「スタート!!!」
◆
いつもそうだけど、ライブの最中のことは何も覚えていない。
あっという間に私たちの曲が終わり、他の学校のパフォーマンスが終わり、結果発表の時間。
参加したスクールアイドル全員がステージに上がり、結果を今か今かと待っている。
にこ「遅いわね」
小声でにこちゃん。そう、私たちがステージに上がってから、既に30分が経過していた。
花陽「前回の本戦でさえ、審査時間はこの半分以下の時間でした……」
にこ「なんだってのよもう……」
司会者「皆様、大変長らくお待たせしました!ではさっそく、ラブライブ東京地区最終予選、優勝は――――――」
暗転した会場に響く、ドラムロールの音。
うぅ……どきどきする。この結果待ちの時間にはこれからもずっと慣れないんだろうな。
そしてついに、司会者の人が優勝校の名前を読み上げる。
司会者「UTX学院の、A-RISE!!本戦出場権獲得です!」
ぱっ、とツバサちゃんたちにスポットライトが当たる。
会場から大歓声が起こった。
穂乃果「っ……」
司会者「準優勝、音ノ木坂学院、μ's!!3位は――」
負けた。私たちμ'sは、今日が最後のライブ。
会場が明るくなったけれど、私の心は暗いままだ。
司会の人がなにを言ってるのかもほとんど聞き取れない。
司会者「そして5位、Midnight Cats!」
司会者「さて、ここでひとつ重大なお知らせがあります」
司会者「ラブライブ本戦への出場枠は1地区に対し1枠、というルールですが――」
司会者「ですが今回、あまりに1位と2位の差が少なく、さらにエントリー数が他の地区の倍以上である
東京地区の本戦出場枠が他の地区と同じ1枠だけ、というのは不公平なのではないかという意見もあり――」
司会者「異例ではありますが!A-RISE、μ'sの両方を、本戦出場としたいと思います!」
司会者「賛成の方は拍手をお願いします!」
割れんばかりの拍手が会場から沸き起こった。
にこ「本戦に、行ける……?」
凛「やったにゃあああああ!!」
何が起こったんだろう……
私はその場にただ、ぼんやりと立ち尽くしていた。
ラブライブ本戦まで、あと3ヶ月。
今日はここまでです。
読んでくれた方、書き込んでくれた方ありがとうございます。
◆ ◆ ◆
~部室~
絵里「さて、最終予選明けの一回目の練習だけど……」
絵里「これからはハードなトレーニングはなくしていって、調整をメインに切り替えるわ。意見がある人は言ってちょうだい」
絵里「……ないみたいね。では、ミーティングはこれで終わり!……穂乃果。みんなに言いたいことがあるんだって?」
穂乃果「あっ、うん」
私は席を立って、みんなに向かって思いきり頭を下げる。
穂乃果「みんな、最終予選のときは心配かけて、本当にごめんっ!もうあんなふうにならないからっ!」
ことり「穂乃果ちゃん……」
海未「心配しましたよ、穂乃果」
穂乃果「えへへ……お騒がせしました」
海未「まったくです」
ことり「まあまあ、海未ちゃん」
海未「ことり、あまり穂乃果を甘やかしては――」
希「まあ、そのくらいでええやん?」
海未「……わかりました」
穂乃果「ごめんね海未ちゃん」
海未「別に怒ってはいません」
絵里「……では今日は解散にします。全員、体調管理は徹底するように!」
◆
にこ「そんで?何よ話って」
穂乃果「あのね、にこちゃんの思ってることが聞きたいなって」
ミーティングが終わった後の部室には私とにこちゃんの2人だけ。
私はどうしてもにこちゃんに聞きたいことがあった。ツバサちゃんが一目置くほどの分析力を持つにこちゃんに。
にこ「はぁ~?なによ穂乃果ー。そんなににこにーに興味津々ってわけぇ?まっ、無理もないわね、なんたってにこは――」
おどけるにこちゃん。それはどこか誤魔化そうとしているみたいだった。
穂乃果「うん、聞きたい」
にこ「……どうしたのよ穂乃果」
穂乃果「……ねえにこちゃん。私たち、優勝できるかな?」
にこ「……」
穂乃果「にこちゃん?」
にこ「穂乃果、あんた急にどうしたのよ」
穂乃果「え?」
にこ「勝ち負けにこだわるなんて、あんたらしくないじゃないの」
穂乃果「あはは、そ、そうかなぁ……」
にこ「そうよ。そうねぇ、まぁ頑張ればいいとこまでいけるでしょ」
穂乃果「……」
にこ「それじゃ。悪いけど忙しいから」
穂乃果「にこちゃん」
にこ「……なによ、穂乃果」
穂乃果「お願い、本当のこと教えて」
にこ「本当にどうしたのよ?変よあんた」
穂乃果「勝てないと思うから……」
にこ「……」
私がぼそっと呟くと、にこちゃんはためいきをついて目を閉じた。
にこ「……そんなに聞きたいの?正直あんたには言わないほうがいいと思ってるんだけど」
穂乃果「……大丈夫!もうへたったりしないよっ!」
にこ「ま、あんたが弱っても支える人がいっぱいいるか……」
穂乃果「ねえにこちゃん。私たち優勝できるかな?」
にこ「ムリよ」
穂乃果「なんで?」
にこ「このまま本戦に行ったら最終予選と同じ結果になるだけだからよ。優勝はA-RISE。それで終わり」
穂乃果「……」
にこ「間近で見たからわかるでしょ、穂乃果。完全に私たちの負けよ、最終予選は」
穂乃果「……うん」
にこ「おそらく大会側は、A-RISEの圧勝で終わった第1回ラブライブを繰り返さないように、対抗馬になりうるμ'sを残したってところね」
にこ「始まったばかりの大会だし色々手探りなんでしょ、こんな時期に開催するくらいなんだもの」
穂乃果「すごい、にこちゃん、そんなこと私考えたことなかったよ」
にこ「すごかないわよ」
にこ「本当にすごかったら、勝ってるわよ」
穂乃果「……」
にこ「……」
穂乃果「……」
にこ「正直、私は勝てると思ってた」
穂乃果「えっ」
にこ「A-RISEは確かに最高のユニットよ。でもなんていうかね、完璧すぎるのよ」
にこ「歌もダンスもトークもすべてが非常に高いクオリティでまとまっていて、笑顔も完璧。さらに驕らず弛まず。それがA-RISE」
穂乃果「……どうしてそれに勝てるの?」
にこ「それはラブライブが、『一般のお客さんの投票数だけで競う』形式だから」
穂乃果「ん……?」
にこ「いい?かなり乱暴なたとえになるけど、ラブライブは『文化祭のバンド演奏』なの」
穂乃果「う、うん?」
にこ「文化祭で、プロ並みの技術でものすごく複雑で長いプログレロックを完璧に演奏して、ウケるかしら?」
穂乃果「う、う~ん……難しい、かも」
にこ「もちろん今のたとえは思いっきり極論よ?実際のA-RISEはダンサブルな曲が得意だし、高尚な雰囲気なんてないし」
にこ「そういう複雑な曲をわかる人も感動する人もいる……でもラブライブで投票権を持ってるのは普通の人たちよ?」
にこ「文化祭では……これも極論だけど、ヘタで荒削りだけど妙に味がある、一緒につい歌っちゃうようなバンドの方がウケるんじゃない?」
にこ「……私達μ'sは完璧とはほど遠いわ。もちろん可能な限りの努力はしている。それでもA-RISEと単純に比べると、どうかしら」
穂乃果「……」
にこ「でもμ'sには他のユニットにはない、大きな武器がある」
にこ「それは『親しみやすさ』。アイドルに必要不可欠なもの。練習したから身につくものでもないわ」
にこ「完璧なA-RISEに唯一付け入る隙があるなら、その完璧さ自体。高嶺の花より足元の、じゃないけど」
にこ「A-RISEの『完璧さ』より私達の『親しみやすさ』のほうが一般のお客さんの支持を得られる。だから私は、勝てると思ってた」
にこ「でも、A-RISEは……正確には綺羅ツバサはそんなあれこれ全部をねじ伏せる『オーラ』を身につけてきた」
にこ「だから、勝てない」
穂乃果「本当に、勝てないのかな」
にこ「勝てないわ」
穂乃果「でもっ」
にこ「今のA-RISEに勝つのは、プロのアイドルユニットでも難しいわ」
穂乃果「……」
にこ「でも、このままでも別にいいんじゃない?」
にこ「だってもうμ'sの目的って果たしてるじゃない。当初の目的の廃校は阻止。しかも結成1年未満でラブライブ本戦出場。誇るべき記録よ」
にこ「正直このままでも、本戦でいいところまではいけると思うしね。いいんじゃないの?このまま3月までゆったり調整だけしてても」
穂乃果「にこちゃんはそれでいいの?」
にこ「いいに決まってるじゃないのよ……あんた達2年生と1年生には言わないようにしてるけど、絵里と希は受験も平行しているのよ?」
穂乃果「うん……」
にこ「今でも大変な2人にこれ以上何を要求するつもりなのよ」
穂乃果「うん……何も要求なんてできないよ……でもね、にこちゃん、これは私が勝手に思ってるだけなんだけど……」
穂乃果「私は、勝ちたいよ」
にこ「……」
穂乃果「私、多分今まで本気で勝ちたいって思ったことなかった。スクールアイドルは廃校を阻止するために始めたし、それは達成できたし」
穂乃果「だからラブライブも全力で挑むけど、正直ね、絶対勝ちたいとは思ってなかった」
にこ「……」
穂乃果「でも、今は違うんだ。最終予選で私、全力だったけど、ほんとのほんとに100%出せたかっていうと、きっと違うんだ」
穂乃果「みんなに助けてもらえたからステージに立てたけど、私の全部をぶつけられなかったと思う」
穂乃果「だから今度は全部出さなきゃいけないんだ。待ってる人がいるから。きっと前回のラブライブからずっと私たちのこと、待ってる人がいるから」
にこ「……綺羅ツバサ?」
穂乃果「なっ、なんでっ」
にこ「ふっ、みんな知ってるわよ、あんたがツバサと何回か会ってたのは」
穂乃果「……ごめん、私自分のことばっかりだよね」
にこ「そうね」
穂乃果「ううっ!」
にこ「ふん、自分勝手な欲望、それでいいじゃないの。μ'sのみんなは、そんな勝手に輝いてるあんたについてきたんでしょ?」
穂乃果「にこちゃん……」
にこ「最後までそれで押し通りなさいよ、穂乃果」
穂乃果「うん……!」
にこ「しっかしまあ……あのツバサと普通にライバル関係なのね、あんたって」
穂乃果「ツバサちゃんが言ってたんだ。にこちゃんは凄いって。にこちゃんのおかげでA-RISEは成長出来たって」
にこ「ふ……ふふん……ま、まあ、妥当な、極めて妥当な評価、ね」
あ、にこちゃん嬉しそう。必死にニヤニヤ笑いをかみ殺しているみたい。
穂乃果「ねえ、にこちゃん。にこちゃんの思ってること、聞かせてくれる?」
にこ「……正直、複雑なのよ。確かに優勝したい。でもそれと同じくらい、満足している自分がいる」
穂乃果「……」
にこ「1年前の私だったら絶対勝ちたい!!って言ってたと思う。でも……」
にこ「このメンバーでスクールアイドルをやれたことが既に奇跡だから、満足してる自分がいるのよ」
穂乃果「にこちゃん……」
にこ「ふん……あんたたちのせいよ」
言葉とは裏腹に、にこちゃんはやわらかく微笑んでいた。
そっか、にこちゃんは2年間、アイドルをやりたくてもやれなかったんだ。
どんな気持ちだったんだろう。私には想像も出来ない。
にこ「でもまぁ、負けに行くってのは納得いかないわね」
海未「では、勝ちに行きましょう」
穂乃果「え」
部室のドアがいつのまにか開いていて。
海未「話は聞かせてもらいました。水臭いですよ、穂乃果、にこ」
穂乃果「海未ちゃん……」
ことり「そうだよ、穂乃果ちゃん」
穂乃果「ことりちゃん……それにみんなも……」
海未ちゃんだけじゃなかった。そこにはμ'sのメンバー全員が立っていた。
にこ「あんたら……帰ったんじゃないの?」
真姫「穂乃果が妙に挙動不審だったから残って様子を見てたのよ」
穂乃果「ええっ!?ひどいよ真姫ちゃんっ!」
凛「すっごいきょろきょろしながらにこちゃん呼び止めてたよ?」
穂乃果「ううっ……」
海未「私たちのキャッチフレーズはなんですか?穂乃果」
穂乃果「……だって……私の勝手な気持ちで……」
海未「『みんなで叶える物語』です。そこには当然、穂乃果の夢も含まれています。それに……」
穂乃果「それに?」
海未「穂乃果が自分勝手なのは、今に始まったことではありません。幼馴染の私が保証します」
穂乃果「う、海未ちゃぁん……」
ことり「そうだね、私も保証するっ!」
穂乃果「ことりちゃんっ!?」
真姫「まったくね」
穂乃果「真姫ちゃんまでっ!?」
にこ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
にこ「1、2年生はともかく……絵里、希!あんたたちは今それどころじゃ――」
絵里「私と希は推薦入試で大学に合格したの」
にこ「はあ……?」
希「結果出たのがついさっきだったんや」
にこ「……」
穂乃果「おっ、おめでとうっ!絵里ちゃん!希ちゃん!」
絵里「ありがとう、穂乃果」
希「ふふふ、受験戦争終了や」
にこ「そんな都合のいいことがあるわけ――」
絵里「はい」
絵里ちゃんと希ちゃんはバッグから大きな封筒を差し出した。
その封筒から書類を取り出す。そこには合格通知書、と書かれていた。
にこ「……」
絵里「これでわかった?にこ。私たちは本気よ」
にこ「バカじゃないの……?あんたたち全員、バカじゃないの……」
海未「ええ。それではラブライブ優勝を目標に再設定しましょう」
にこ「具体的にどうするのよ?A-RISE相手に」
絵里「……μ'sのセットリストの中で一番自信のある曲を再構築してみたらどうかしら」
にこ「再構築?」
絵里「ええ。歌とダンスの基本はそのままで、新しい要素を加える。今の技術でリメイクすると言ってもいいわ」
海未「ですが発表したことのある曲は使えないルールでは……?」
絵里「予選では、ね。本戦ではそのルールはなくなったみたいよ」
絵里「参加校が増えすぎたから、プロの曲を使ってる人たちを振るいにかけるのが目的だったようね」
にこ「なるほどね……で、どの曲にするの?」
絵里「この曲よ」
にこ「……懐かしいわね」
真姫「間奏を少し変えてもいい?」
絵里「ええ、ダンスに影響が少ない範囲でなら」
真姫「それなら大丈夫よ」
ことり「衣装も小物を付け加えたりしたいなぁ」
絵里「ええ、どんどんやってちょうだい」
凛「凛はバク宙したいなー」
絵里「そ、それは……慎重な検討が必要かもしれないわね」
凛「よーっし、やるにゃーーっ!ほら、真姫ちゃんも手出して!」
真姫「な、なんでよ……」
花陽「ふふふ」
にこ「……うまく士気を高められたわね」
絵里「……あと2ヶ月。この時期に猛特訓するわけにもいかないしね。故障なんてしたら元も子もないもの」
にこ「そうね……」
絵里「でも、全員の意識が優勝に向いた。これは大きいわ、きっと」
にこ「そう、ね……」
そううなずくにこちゃんの顔は嬉しさと寂しさがごちゃまぜになったみたいで。
気持ちを新たにしても私たちの優勝はとても厳しいものなんだと思い知らされた。
そして時間はあっという間に流れ……
ラブライブ本戦の日がやってきた。
今日はここまでです。
読んでくれた方、書き込んでくれた方ありがとうございます。
次回で終わる予定です。
◆ ◆ ◆
~ラブライブ 本戦 当日~
私は本戦会場のトイレの中にいた。
怖い。
なんでだろう。なんでこんなに怖いんだろう。
失敗したら。
成功しても負けちゃったら。
ううん、結果が怖いんじゃない。
……笑われるのが怖い。
自分が笑われるのはいいけど、私のせいでμ'sのみんなが笑われるのがどうしても怖かった。
情けないなぁ。
なんでだろう。あんなに練習したのに。
一人で考える。
誰かに言えば元気づけたりしてくれるかもしれない。
でもなんでか、これは一人で考えなきゃいけないことなんだって気がしていた。
うーん……そもそもなんで私は、スクールアイドルをしてるんだっけ?
学校が廃校になっちゃうから。A-RISEに影響されたから。うん、そうなんだけど。
……楽しいから。
あっ、そうか。私は自分がやりたい事、楽しい事をやっていただけだ。
歌って踊ってみんなに楽しんでもらうことが大好きだからやってただけだ。
我ながら自分勝手だなあ……
でもなんだか自分の正体がわかって、安心したかも。
……やっぱり怖いなぁ。
怖れは消えてない。
消えてないけど、そんなことがどうでもよくなるくらいに大きい思いがある。
――ステージに立ちたい。
立って、証明したい。私に出来ることを。
それに、みんなが見てるんだもん。いいところ見せたいよね。
一番に見せたい人もいるしね。
そう思ったとき、急に身体が軽くなって、まわりがぱっと明るくなったような気がした。
『ねえ穂乃果』
大好きな人の声が頭の中をリフレインする。
『私、穂乃果のこと考えると、力がどんどん湧いてくるのよ。空だって飛べそうなの』
うん。
私もだよ、ツバサちゃん。
にこ「穂乃果!そろそろ……穂乃果?」
穂乃果「ごめんにこちゃん、すぐ行くね」
にこ「……穂乃果なの?」
にこちゃんは私を見て驚いているみたいだった。
穂乃果「どうしたの?」
にこ「……そう、あんたもなのね……」
穂乃果「にこちゃん?」
にこ「なんでもないわよっ、ほらほら、リハのときみたいにステップ忘れるんじゃないわよっ!」
穂乃果「うん、大丈夫だよ」
にこ「……そう、そうよね」
にこ「……この2ヶ月、無駄じゃなかったわ」
にこ「今の私たちなら、今のあんたを最大限に生かせる。思いっきりやんなさい、穂乃果!」
穂乃果「うん!」
にこ「よっし、みんな!連れてきたわよっ!」
にこちゃんが微笑みながら私をみんなの前に押し出した。
海未「大丈夫ですか?穂乃果……」
穂乃果「うん、ごめんね。海未ちゃんには心配かけてばっかりだったね」
穂乃果「でもね、これからは大丈夫だから」
海未「これから、と言ってもこれがラストライブなのですが……」
穂乃果「あ、あはははは……」
にこ「さあ!泣いても笑ってもこれが最後よ!」
穂乃果「うんっ!みんな――」
私の自慢の仲間たち。
だから、みんなに見て欲しい。私たちを。
海未ちゃんの歌詞を。
ことりちゃんの衣装を。
絵里ちゃんの振り付けを。
希ちゃんの暖かさを。
にこちゃんの情熱を。
真姫ちゃんの曲を。
凛ちゃんの元気を。
花陽ちゃんの勇気を。
私の、笑顔を。
穂乃果「――最っ高の時間にしよう!!μ's!ミュージック……」
μ's「スタート!!!」
ステージに飛び出す。超満員のお客さんたちが一斉に拍手をしてくれる。
全員がスタート位置につき、照明が暗転し、客席が静まり返る。
穂乃果「みんな、ありがとうございます!聴いてください!」
私たちのラストライブが始まる。
穂乃果「『僕らのLIVE 君とのLIFE』!!」
今までライブの最中は意識が飛んじゃっていたのに、今日は全く違った。
ものすごく時間がゆっくり流れているような、不思議な感覚だった。
歌が自然に口から出てきている。身体が自然に動いている。
お客さんの熱気の流れを感じる。どう歌ってどう動けばいいのかがわかる。
みんなが輝くための動きが。
視界全部がキラキラしてる。
まるで夢の中の景色みたい。
声を出す。世界中に聞こえるくらいに。
手を伸ばす。会場の一番後ろの人の肩に触れるくらいに。
ジャンプする。跳んでる間に地球が一周するくらいに。
ねえ見てツバサちゃん。穂乃果も飛んでるよ。
ゆっくりと流れていくキラキラした時間のなかで。
ツバサちゃんと一緒にブランコをこいだ時を思い出してた。
◆ ◆ ◆
ツバサ「お待たせ、穂乃果」
穂乃果「ううん、今来たところだよ、ツバサちゃん」
ツバサ「ふふ、ありがとう」
まだまだ寒い3月の公園のベンチに、私とツバサちゃんは腰を下ろす。
ツバサ「ひさしぶりね」
穂乃果「そうだね、ちゃんと話すのは最終予選以来だから3ヶ月ぶりかな?」
――そしてこれが私!今の高坂穂乃果、高校2年生。
ツバサ「ラブライブ優勝おめでとう、穂乃果」
穂乃果「ううん、全部みんなのおかげだよ。でもありがとう」
ツバサ「本戦のあなたたち、素晴らしかったわ」
穂乃果「それはツバサちゃんたちもだよ!」
ツバサ「ええ、結果は準優勝だったけど、私たち3人は最高のグループだって自信があるわ」
穂乃果「うん、穂乃果だって!」
お互いくすくす笑い合う。
ツバサ「大丈夫?」
穂乃果「えっ?なにが?」
ツバサ「最終予選の時の」
穂乃果「あっ!えへへ、恥ずかしいところをお見せして……」
ツバサ「恥ずかしくはないわ」
穂乃果「……うん、大丈夫だよ!」
ツバサ「そう、ならいいの」
そのまま2人とも何も話さないまま、ゆっくりと時間だけが流れていく
おかしいな。全然会えなかったから、話したいことがいっぱいあったのに。
ツバサちゃんの顔を見たら全部飛んでっちゃった。
ツバサ「ねえ、穂乃果」
穂乃果「なあに?ツバサちゃん」
ツバサ「私と一緒に、アイドルやらない?スクールアイドルじゃなくて、本物のアイドル」
穂乃果「……ツバサちゃん……?」
ツバサ「本当はラブライブに優勝して言いたかったけど、ね」
穂乃果「ツバサちゃんが進路決めてない理由ってもしかして……」
ツバサ「ええ。あなたと一緒にアイドルがしたかったの」
『やりたいことはあるんだけど、自分だけでは決められないのよ』
UTXにお泊りに行ったとき、自分の卒業後についてツバサちゃんが言ってたのはこういうことだったんだ。
穂乃果「もっと早く言ってよ……」
ツバサ「あなたたちと正々堂々、戦いたかったのよ」
きっと、私のパフォーマンスに影響が出てしまうから、言わなかったんだ。
そのせいで、卒業まで間もない今でも、ツバサちゃんは進路が決まっていない。
ツバサちゃんはいつものように私を真っすぐ見ていた。
穂乃果「ツバサちゃんの、ばか」
ツバサ「……そうね、自分でもそう思うわ」
穂乃果「アイドルかぁ……」
ツバサ「ええ」
私はやっぱり自分勝手だ。
ツバサちゃんと2人でアイドルをやるなんて。
楽しいに決まってるよ、それ。そんな面白そうなこと絶対断れない。
穂乃果「うん、やりたい!」
ツバサ「穂乃果……」
穂乃果「穂乃果でよければだけど、一緒にやろうよ!ツバサちゃん!」
ツバサ「……ありがとう、穂乃果」
穂乃果「えへへ」
ツバサ「やるからには1番のアイドルを目指しましょう!」
穂乃果「うんっ!」
ツバサ「だ、抱きつかなくてもいいのよ!?」
穂乃果「えー、なんで?」
ツバサ「なんでも!」
穂乃果「ちぇー」
これからも同じ景色を見たい。ツバサちゃんと一緒に。
きっと最高に楽しいと思うから。
私はツバサちゃんの手を握る。ツバサちゃんはその手を握り返してくれて。
私たちはそのまま、夕日が沈んでいくのをずっと眺めていた。
これで私たちμ'sとA-RISEがラブライブで競い合うまでのお話はおしまい。
ここから先は、未来のお話。
私とツバサちゃんがトップアイドルになるまでの、長い長いお話。
それは――
ツバサ「ねえ、穂乃果」
穂乃果「なあに、ツバサちゃん」
ツバサ「言おうか迷っていたんだけど、口の周りに砂糖が付いてるわ」
穂乃果「えええええっ!?すぐに言ってよぉ!」
おしまい
読んでくれた方、書き込んでくれた方、本当にありがとうございました。
失礼しました!
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