男娼「身請けしてくんない?」 少女「そんなお金ないですね」 (653)

男娼「まあ僕は顔も体も綺麗で、高い値がついてるけど」

男娼「でもさ、こんな色っぽい青年と人生を過ごせるんだよ?安いもんじゃない?」

少女「はあ」

男娼「今お金がないんなら、一生懸命働けばいいじゃないか!」

少女「はい」

男娼「だからさ、僕を身請けして…」

少女「身請けどころか男の人を買うことすらできない貧乏なんですよ」

男娼「…ねえ、おねがーい」

少女「はあ…」

男娼「考えてみるだけでも価値はあると思うよ?ねっ、ねっ」

少女「わかりましたかんがえてみます」

男娼「棒だなー…。まあ、いいや。そろそろ夜の準備するね。ばいばい」

少女「はあ。さようなら」ペコ

男娼「また明日もお願いね~」

バタン

少女「…よ、っと」

少女(長話しちゃったなあ…)

店主「お、少女ちゃん今日も薬届けてくれてありがとね」

少女「仕事ですので」

店主「ところでいっつも男娼と何話してるの?随分親しげだけど」

少女「いや、親しくないですね」

店主「そう?でもあいつがあんなに楽しそうに話すのって、君くらいしか」

少女「全然、仲良くないですね」

店主「…そ、そう?」

少女「あの、彼に言っておいて欲しいんですけど」

店主「ああ」

少女「私はあなたの所にだけ薬を届けてるのではなく、区域ノルマがあるので」

少女「いつまでもしょうもない話で引き止めるのはやめてください、と」

少女「…できればやんわりと、伝えてください」

店主「分かった。すまんね、いつも」

少女「いえ」

少女「彼はごひいきですし、いいんです」

店主「あ、そうそう。二階座敷の奴が風邪っぽくてさ」

少女「ええ」

店主「できれば明日、咳止めを持ってきてくれないかな」

少女「…診察もしますよ。気管の病気、今流行ってますし」

店主「おお、助かる。じゃあよろしくね」

少女「はい。毎度ありがとうございました」ペコリ

店主「さよならー」ヒラヒラ

カツ

少女「…ふぅ」

少女(…もう、夕方か)

少女(楼に明かりがつき始めた。こればっかりは、綺麗なんだよな)

少女(この楼が神聖なものにさえ見える気がする)

少女(やっぱり、ここを最後の配達にしてよかった)

少女(あの男娼、いっつもいっつも長話してくるもの)

「なあ、今日はどうする?」

「そうだなあ…この前の女郎はあんまり良くなかったし、鞍替えするかな」

「今日こそあのお方にお目通りするの。お小遣いいっぱい持ってきちゃった」

「ええ、ずるいわよぉ」

少女「…」

少女(…色街に行く人は)

少女(理解できないな)

少女(性欲のためにお金をどぶに捨てるなんて、私には到底できない)

少女(だって生きていくのにいっぱいいっぱいだもの)

ガチャ

少女「…ただいま」

弟「あ、ねーちゃん!おかえりー」

少女「おっ、熱は下がったみたいね。良い子にしてた?」

弟「うん!ちゃんと寝てたよ」

少女「そう。じゃあ、ご褒美あげなきゃねー」ガサ

弟「!」

少女「はい、棒付き飴。溶けないうちに食べなさい」

弟「やった!やったー!」

少女「暴れないの!熱出るわよ」

弟「おねえちゃん、ありがとう!」クスクス

少女「…ん」

少女(生きていくのに、いっぱいいっぱいだもの)

少女(私は、この子を守らないといけないし)

少女(…男娼はいいなあ。どれくらいお金がもらえるのかな)

弟「ごちそうさまでしたっ」

少女「弟、薬を飲みなさいね」

弟「…う」

少女「今日は鼻水が出てないから、粉薬はいらないわね。はい、これ二錠と液薬飲んで」

弟「はあい…」

少女「文句あるんならさっさと病気よくしなさいよー」

弟「わかってるよお」グビ

弟「…うえ」

少女(…あー、明日薬補充しに行かなきゃなあ。切れそうだったし)

弟「はい、飲めたよ。あーん」

少女「おりこうさんでした」ポン

弟「ねえ、おねえちゃん」

少女「んー?」

弟「今日、ちょっと遅かったね?」

少女「…んー」

少女「今日は膝の悪いおばあさんの診察に手間取っちゃって」

弟「そうなんだー。ああ、あの町外れのおばあさんだね」

少女「ん、そう」

少女(まあ、嘘だけど)

弟「…僕も外に出たいなー」

少女「まあ、発疹が出なくなったらね」

弟「んー」

少女(…稼がなきゃなあ。いい加減、本腰入れて治療したいし)

少女(もっと大きな病院で、こいつの手術ができたら。すぐにだって…)

弟「おねえちゃん?」

少女「…あ、なんでもない。それより今日はもう寝なさい」

弟「はーい」

少女(…おかねほしいなーーー)ワシャ

弟「…すぅ、すぅ」

少女「…」ワシャ

少女(やばいなー。あんまり薬の売り上げ良くないぞ)

少女(皆ケチって適当なので済まそうとすっからなあー。くそー)

少女(診察代もケチるしさあー…。ふざけんなよな。ひよっこ薬師だからって舐めんなよ)

少女「…ん」

少女(あれ、明日の販売リスト。こんなに高い薬、誰が)ピラ

少女「…げ」

  男娼

少女「まーたあいつか」

少女(肌のきめを整える薬、一箱…。こんなん男が飲むもんじゃねーっつの。どこぞの夫人か)

少女(…ま。利益回収できるし、いいんだけど)パタン

少女「~っ」ノビ

少女(…つかれるわ。…もっといっぱい、稼がなきゃいけないのに)

男娼「…」

店主「おーい男娼」

男娼「はぁ」チラ

店主「はぁじゃないわ、お客だぞ」

男娼「…はぁあ…」

店主「おうこら、お前お客の前でそのため息つくんじゃねーぞ」

男娼「分かってますってば」ノソ

男娼「…あ」

店主「ん?」

男娼「今日僕が買った薬、捨てといてくださいね」

店主「ああ。いいけど」

男娼「ぅーい、めんどくせぇー」ノソノソ

店主(…あいつ、なんで必要のない薬いっつも買ってるんだ?)

少女「…」カツカツ

「やっぱハズレだったじゃねーか」

「そうかー?いや俺は結構よかったけどなあ」

少女(朝帰りとは良いご身分だこと)

少女(こちとら疲れた体引きずって配達なのにさあ)

店主「おっ、少女ちゃん。今日は早いね」

少女「はい。あの、男娼さんを」

店主「はいはい。おーい、男娼ー」

「…あーい?」

店主「薬師さんが来てくれたぞー」

「今行くー」

店主「すまんな、あいつ朝まで客の相手しててな」

少女(うえ…。あんま聞きたくない情報)

店主「いつもの座敷で待っててくれ。すぐ行かせるから」

少女「はぁい」

ガラ

男娼「おは」

少女「お早うございます。昨日処方したお薬の効き目はいかがでしたか」

男娼「いきなり色気のない挨拶しないでよぉ」

少女「(なんだコイツ)…はあ。すみません」

男娼「聞いてよ、昨日のお客さ、とんだ好色ババアでさー」

男娼「もう腰痛いのなんのって。今日座敷あがりたくないんだよねぇ」

少女「では、これが今日のお薬です」コト

男娼「え、聞いてるー?」

少女「腰痛があるんですよね。聞いてますよ」カチャ

男娼「…む」

少女「では、こちらを朝夕と一錠づつお飲みください。切れるころにまたご注文を」

男娼「はいはーい」

少女「では、これで」

男娼「えー。待ってよお、もう少し話そうよ」

少女「すみません、今日は予約が立て込んでてですね」

男娼「ちょっとくらいいいじゃーん。ほら、お菓子いる?美味しいよ」

少女「いりません。では」

男娼「待ってって」ガシ

少女(……あああ…)

男娼「僕さ、腰が痛いんだよね。追加で診察とかできない?」

少女「できますけど、予約外ですので」

男娼「いくらでも払うよ。やってやって」ゴロン

少女(…だ、っる)イラ

少女(…と、いけないいけない。客を選べる立場じゃないわね)

少女「…じゃあ、失礼します」ポス

男娼「全部脱いだほうがいいかな?」

少女「腰のとこだけ服をあげてください」

男娼「ちぇ」スル

少女「失礼します」スッ

男娼「…」

少女(…男のくせに、細い腰だな)

少女(白くて、女の子よりはがっしりしてるけど…)

少女「えっと、どこが痛いですか」

男娼「わかんない」

少女「…。ここですか?」

男娼「んー、違うかな」

少女「…では、ここの横側ですか」

男娼「違う気がするー」

少女「…」

男娼「どしたの?触ってよ」

少女(クソが)

男娼「…」クス

少女(正直言うと、触りたくない)

男娼「あー、もう少し右かも」

少女(彼をけなす訳ではないけれど、彼の体は)

男娼「下、だよ」

少女(誰の物かわかんない手垢だらけなんだろう)

男娼「…もっと下かなあ」

少女(媚びたような声も、顔つきも、身のこなしも、なんか不潔に感じるし)

男娼「…」

少女(…いや、別に。差別してるわけじゃないけど、けど)

男娼「やだ、きわどい所触るんだね」クス

少女「は、あ?」

男娼「そういうことがしたいんなら、夜に来てくれれば大歓迎なのにさ」

少女「…」バッ

少女「あ、あなたが下のほうだと言うから触ったまでです。別に変な意味はありません。微塵も」

男娼「…ふふ」

少女「…触診したところ、これといって異常ありませんし」

少女「一時的な疲労だと思われます。えっと、必要なら湿布を処方しますけど」

男娼「んー、じゃあお願いする」ゴソ

少女「…えーと」

男娼「一番高いやつにしてよ」

少女「はあ」

男娼「…」

少女「では、お会計です」

男娼「ん。ありがとね」

少女(…あっさり引くのな)

男娼「あ、そういえばさぁ」

少女「はあ」

男娼「身請けの話、考えてくれた?」

少女「さようなら」

バタン


男娼「…」クス

少女「はい、口を開けてください」

新人男娼「…あ」

少女「奥がはれてますけど、まあ大丈夫です」

少女「この薬を3日も飲めば大丈夫になりますよ」

新人「そっすか。ありがとうございます」

少女「お大事に」ペコ

新人「はい」

少女(…やりやすいもんだ、他の男娼は)

少女(けど、まあ)

少女(ここの空気は、嫌いだ。甘ったるいのに、濁ってる気がして)

少女(男娼の顔も、覇気がないのに変な色があるし)

店主「じゃあね、少女ちゃん」

少女「さようなら」

少女(…できれば一生、訪れたくない場所だ)

少女「…」ノビ

少女(外の空気、うまー)プハー

「おーい」

少女「…」ビク

「おーい、くすりうりさーん」

少女「…」チラ

男娼「あ、こっち見た」

少女「…(げっ…)」

男娼「今日は、ありがとうねー。楽しかったよー」ヒラヒラ

「…おい、あれは●●楼の」

「まあ、あの女の子…」

「俺見たぜ、一番上の座敷から出てきたんだ」

男娼「また、よろしく、ねえー」クスクス

少女「…」

少女(あんっの…野郎っ…)ギリリ

少女(わ、私があの男を買った客みたいな目で見られてるじゃない!くっ…)

男娼「…」ニヤニヤ

少女(絶対、ぜったい分かっててやってる…!)

男娼「また来てねぇ」ヒラ

少女「…」ダッ

少女「…っ」

少女「くそっ…」ダダダ

老婆「今日はやけに荒っぽいのね」

少女「へ!?」

老婆「ふふ、嫌なことでもあったのかしら?」

少女「や、い、いや。どうして。そんな」

老婆「だって触診の手がちょっと怒ってるみたいなんだもの」クス

少女「す、すみません…」

老婆「…ふふ」

少女「う…」

老婆「大方、男の子にからかわれたってところかねえ」

少女「…ご、ご名答」

老婆「うふふ。歳とると勘が鋭くなるわね」

少女「…」

老婆「恋人かしら」

少女「いえ、最低な客です」

老婆「あらあら。ふふ」

少女(…おえ。吐き気がするくらい嫌だ。あんなの)

少女(顔さえよけりゃ、何しても良いっておもってるような奴だし)

老婆「あんまり、頑張り過ぎないようにね」

少女「…え」

老婆「あなたのこと心配よ。17歳なのに、こんな大変な仕事して。弟も養って」

老婆「…普通なら、学校行ったり遊んだりしてる年頃なのにね」

少女「あはは、私無理なんかしてないですよ。毎日、充実してます」

老婆「そう」

少女「ありがとうございましたー」

バタン

少女(…たしかに最近ちょい疲れてる、かな)

少女(でも、本当、弟は今が大事な時期だし…。お金もっと入れなきゃ)

少女「…ってか、暗っ」

少女(ちょっと設定件数多かったかな。早く帰らなきゃ)タタ

少女(…しゃーない。近道だし、色街通っていこ)


ザワザワ

少女(…日が暮れてから通るのもまた、勇気いるよな)

「ねえねえお兄さん、こっちおいでよぉ」

少女(…呼び込みに引っかかるのはやだなあ。走るか)タタ

女「…あの、彼を」

少女(お)

店主「分かりました。おい、男娼」

男娼「…はーい」ノソ

少女(うっわ、一日の終わりにめちゃくちゃ嫌な物を見てしまっ)

男娼「…」チラ

少女(た……)

男娼「…」クス

男娼「では、行きましょうか」

女「は、はいっ…」

トントン

少女「…な、んだあれ」

少女(なんだあの含み笑いは。…うう、嫌だ)

少女(やな感じだな、まじで)ムス

弟「おかえりなさいっ」ギュ

少女「う、お」

弟「お、遅いよ!なにやってたのっ」

少女「ごめん、今日はちょっと仕事多かったの」

弟「心配したんだよ。もう…」

少女「ごめんよー…。今ご飯作るね」

弟「ん…」

少女「今日はね、ごひいきの老婆さんからカブいただいたんだ。好きでしょ」トントン

弟「…」

弟「ねえ、おねえちゃん」

少女「なあに」

弟「僕ね、ちょっとくらいならお仕事手伝えるんだよ」

少女「…」

弟「例えば、おねえちゃんの薬の箱持ってあげたり、診察のお手伝いしたり、とか」

少女「あのね、弟」

弟「ぼ、僕。咳だって収まってきたし、体も大分良くなってるんだよ?手伝いたい」

少女「…はあ」

少女「それは安定期だからなの。小康状態保ってるだけ」トン

少女「…ここで無理すると、もっとひどいことになるよ」

弟「けど、おねえちゃんだって疲れてるし」

少女「…私が?疲れてる?あはは、そう見えるー?」

弟「見えるよ」

少女「…む。若いのよ、こっちは。こんなの全然平気だし」

弟「僕、おねえちゃんについて行きたい」

少女「駄目よ」

弟「無理はしないし、足手まといにもならないもん。助けになるから」

少女「…」

少女「るせぇ、がきっ」ムニュ

弟「ひ、ら!?おれえちゃん、いらいっ!」

少女「馬鹿にすんなよ。私一人であんたを食わせるくらい、どーってことないのっ」ムニニニ

弟「む、やめれよお…!」

少女「あんたは家でゆっくり養生すんの!もっと元気になってから、手伝ってくれればいいわ」

弟「元気に、なってから?」

少女「そ。あんたの病気が治ったら、嫌っていうほど働いてもらうわよ」

弟「…」

少女「それまで、休むの。いい?」

弟「う、ん」

少女「私は大丈夫だから。あんたが少しでも良くなるのが、一番の薬だから」ナデ

弟「…」

少女「さ、食べよう。お皿出してー」

弟「…ねえちゃん」

少女「ん?」

弟「おねえちゃん、ありがと。大好き」ギュ

少女「うん。私も、こんな優しい弟がいてくれて嬉しい」ギュ

弟「でも、無理はしないでね」

少女「あったりまえでしょ」

少女(…負けないわ)

少女(この子がいるから。何をされたって、私は負けない)

少女(あの男娼に何をされたって)

少女(お金さえ払ってくれればそれで耐えられるんだから)

弟「…すぅ」

少女「…」ナデ

少女「…あんたは私が、守るから」

少女「…ふふ」

少女(明日も仕事、がんばろ)パン

少女「…」

「ね、ちゃん。ー…ちゃん」

少女「…ん、ぅ」

弟「ねえちゃん!おきてっ」

少女「うわ!?」ガバ

弟「もう朝だよっ。どうして机で寝てるの」

少女「う、うわああ!マジか!やばいっ」バタバタ

弟「ちゃんとベッドで寝なきゃ…」

少女「うるっさいわねー!ね、眠かったのよ!そこどいて!準備するから」バタバタ

弟「…」

少女「ああ、朝ごはんは台所にあるからっ。じゃあ、私行って来る!」

弟「え、でも」

少女「今日は朝一で仕事入ってるのよ!ばいばい!」

バタン

弟「…」

弟「…あ、れ?」


少女(ああああ何やってんの馬鹿馬鹿馬鹿)ダダダ

少女(もう、寝坊とかありえない!体も痛いし…。くそ、何で寝オチなんか)

少女「はぁ、はあっ」

少女「…すみませんっ。遅れてしまって…」

夫人「まあ、いいですけど…。主人の薬は?」

少女「あ、はい。えっと、あれは…」ゴソゴソ

少女「…」

夫人「どうかして?」

少女「…す、すみません。少し待ってください」

夫人「…」

少女(やば、忘れてきた、か…?)

夫人「あのね、料金は注文した時に渡したわよね?」

少女「は、い」

夫人「今日ないと困るんですけど…。早くなさって」

少女「…っ」

少女「あのっ…」


……

少女「…」

少女(しにたい)ジャリ

少女(結局夫人は激怒で、お金はチャラだわ顧客一人失うわ…)

少女(私、世界一の馬鹿だ。もういやだ)フラ

少女(…ふらふらするし)

少女「…」ヨロ

「…大丈夫?」

少女「…へ」

男娼「顔、真っ青だけど」

少女「…大丈夫、です」

男娼「…」

少女「あの、今日の薬…」

男娼「来て」グイ

少女「!?」

もしかして引きこもり対策センターの方?

少女「なっ、なっ」

男娼「しー。見つかったらヤバい」

少女「なっ、なにやってるんですかっ。離してくださいっ」

男娼「腕つかんでるだけじゃない。ウブなんだなあ、君」

少女「…」

男娼「まあそう睨まない。こっちの部屋入って」ドン

少女「う、わ…」

男娼「ん。侵入成功」

少女「ち、ちょっと!」

男娼「ここで待ってて。くれぐれも逃げたり、大声だそうとしたりしないで」

少女「はあ?あの、だから」

バタン

少女「…」

少女(…なんなのよ!?)

少女(ってかここ、客とる個室じゃん!何考えてんのあいつ)

少女(か、帰りたい。凄い帰りたい)ソワソワ

ガチャ

少女「!」ビクッ

男娼「くす。びっくりしなくてもいいじゃん、僕だよ」

少女「あ、あのっ。私…」

男娼「はい、これ」ズイ

少女「…なん」

男娼「君、朝も昼も食べてないでしょ?馬鹿じゃないの」

少女「い、いりません」

男娼「は?飢えで今にも死にそうって顔してるけど?」

少女(…たしかに、貧血っぽいのはこのせいか)

少女(けど、こいつに恩売られるのは無理。裏がある、確実に)

男娼「別にお金とらないし。食べて」

少女「…」

男娼「くーえ」

少女「でも、その」

男娼「…ああもう」ガシ

少女「む、っ!?」

男娼「はい、あーん」

少女「~~っ」バッ

男娼「痛。なにすんのさ」

少女「い、いきなりっ。人の顔を掴まないでくださいっ」

男娼「君がなかなか食べないから。食べさせてあげようと思って」

少女「…っ」

男娼「もう一回しようかな」

少女「い、いただきます。ありがとうございますっ」

男娼「…ふふ」

少女(…もうやだよお。帰りたいよ)モグ

男娼「…」ジッ

少女(めっちゃ見られてるし…)

男娼「ねえ」

少女「は、はい」

男娼「美味しい?」ニコ

少女「…」

少女「は、はい」

>>37
いいや、違うよー

男娼「ここってさ、座敷遊びもできるから料理も美味しいんだよね」

少女「そうなん、ですか」

男娼「君知らないだろうけど、結構格式高い男娼楼なんだよ、ここ」

少女「はあ」モグ

少女(…何が違うのか、よく分からんけど)

男娼「食事するだけでこんくらいする」スッ

少女「んむっ!?」

男娼「あ、これはヒラの男娼の場合ね。僕くらいの売れっ子だとこんくらい」スッ

少女「……」ガタガタ

男娼「一晩過ごすのはもっとエグい値段だよー」

少女「け、結構です。言わなくて」

男娼「…あはは」

少女「…ごちそうさまでした」コト

男娼「君って本当、面白い食べ方するよねえ」

少女「は、あ?」

男娼「ああ、生きてる~って感じの食べ方するよね。なんか、子どもみたい」クスクス

少女「…」イラ

男娼「あ、可愛いってことだよ?」

少女「…はあ(背中がかゆい)」

少女「あ、その。お代」

男娼「いらない」

少女「でも」

男娼「だってさあ、これめっちゃ高いよ?持ち合わせないでしょ」

少女「…ぐ」

男娼「その代り、一個お願い聞いて」

少女(…はいだと思ったもう嫌な予感しかない)

少女「…何でしょう」

男娼「ここにいて」

少女「はあ?」

男娼「言い忘れたけど、ここ僕の個室なんだよね。僕、夕方まで暇だしここにいて」

少女「……」

男娼「何て顔してるの、君」

少女「…ぃ、や」

男娼「やらしいこと考えたでしょう?」

少女「…っ」ギリ

男娼「あはは、冗談冗談。でも、本当そういう意味じゃないんだ」

男娼「僕毎晩ヤってるんだよ?昼間でしたくないもん」

少女(最…低。品がない)

男娼「単純に、僕の話し相手になってほしいんだよね」

少女「はなし、あいて?」

男娼「そ。僕、売れっ子で顔も良いし、嫉妬買われてるみたいで」

男娼「この楼でまともに喋れる人間いないんだよね」

少女(性格のせいじゃないかしら?)

男娼「だから君、僕と歳も近いし、話し相手になってよ」

少女「…まあ、それなら。もう配達もありませんし」

男娼「そっか」

少女「はい」

男娼「…」

少女「…」

男娼「…」

少女「…」

男娼「何やってんの、何か話しなよ」

少女「え」

男娼「僕から話振るのめんどいし。何か言って」

少女「……」

少女「と、いいますと…?」

男娼「何か僕に質問とか、ないの?」

少女「(ねーよ)え、と」

少女「あ、その。お名前は?」

男娼「男娼。ってか、知ってるじゃん」

少女「…そうでした」

男娼「そういえば、君の名前知らないや。何て言うの?」

少女「…少女、です」

男娼「ふーん。しょうじょ」

男娼「…なんか地味な名前だね」

少女「…」ビキ

男娼「はい、次」

少女「…おいくつですか」

男娼「18。君は?」

少女「17です」

男娼「おお、一個違いなんだね。でも君、もっと子どもかと思ってたよ。小さいし」

少女「…」ビキィ

男娼「次ー」

少女「…え、と」

男娼「…」

少女(やばい、こいつに興味がなさすぎて聞きたいことがない)

男娼「ちょっと、残念だな」

少女「は?」

男娼「君、少しは僕に興味もってくれてると思ってたのに」

少女「…はあ?」

男娼「だってそうでしょ。僕、容姿も良いし、気さくでしょう?」

男娼「薬だって店で一番多く買うし。君の目にもうすこし留まってると思ったんだけど」

少女「…」

男娼「違うの?」

少女(なん、か)

少女(急に、空気が変わった気が)

男娼「ねえ、どうなの」ズイ

少女「や、大切なお客様です…。けど、特別なその、感情はないです」

男娼「ふうん」

男娼「つまり」

男娼「ただの金づるってこと?」

少女「ちっ違いますよ!」

男娼「…ふうん」

少女「だからですね、お客様に対して好きとか嫌いとか、別個な感情はないんですよ(大嘘だけど)」

少女「…皆さん全員、大事なんです。はい」

男娼「…」

男娼「あっそう」

少女(なんでちょっと不機嫌そうなんだよ。面倒くさ)

男娼「…」

男娼「…君、何処に住んでるの?」

少女「町外れです」

男娼「家族は?」

少女「弟と二人暮しです」

男娼「へえ。…親は?」

少女「…ええと、大分前に亡くなりました」

男娼「…」

少女「すみません、重い話で」

男娼「ううん。僕もそうだし」

少女「そうなん、ですか」

ショタ幽霊のひと?

男娼「僕の両親、借金あったみたいでさあ」

男娼「死んだらそれが分かって、僕がカタにされちゃったんだよねえ」

少女(…重い。こっちのほうが断然、重い。てか何笑ってんだ)

男娼「まあ野たれ死ぬよりマシだよね。やっぱ顔がいいと得だね」ケラケラ

少女「あ、はあ…」

男娼「結構稼げるんだよねえ。男娼って。他の仕事するのが馬鹿らしくなるくらい」

少女「…」

男娼「何、その顔。怒ってる?」

少女「いえ」

男娼「君、顔に出やすい人だね。面白い」

少女「怒って…ません」

男娼「そう?僕にはそう見えないけど」

少女「…」

男娼「…あ」

男娼「そういえば、身請けの返事を聞いてなかった」

少女「ま、また!?」

男娼「…」

少女「あ、う。またその話ですか」

男娼「うん。どう?僕の残りの人生、買ってよ。身請けして」ニコニコ

少女「…(だめだ、頭おかしいこいつ)」

>>50
なんで…分かるの!?

少女「重ね重ね申しますが、私にはそこまでの財力はありません」

男娼「大丈夫、一括じゃないもん」

少女「無理です」

男娼「そんなぁ。愛があれば、なんとでもなるよ」

少女「あ、い?」

男娼「うん」

少女「何を言ってるのか、さっぱりです」

男娼「僕のこと好きになればいいじゃない。で、身請けを」

少女「あの」

男娼「ん?」

少女「……あなたのお客さんに、頼めばいいじゃないですか」

男娼「…僕の?」クス

少女「私あなたと何の関係もないですし。身請けする義理ないですから」

少女「あなたを気に入ってる女性に買ってもらってください」

男娼「…」

少女(…あ)

男娼「君、わかってないなぁ」クスクス

少女「…」

男娼「もう、今日は帰っていいよ」スッ

少女「ご、ごめんなさい」

男娼「何で謝るの?」

少女「私、あの。不快なことを」

男娼「ふかい?…何が?」

少女「だ、って」

男娼「…?良くわかんないや。いいよ、もう帰って」

少女「気分を悪くされたんですか?…私」

男娼「帰って、いいよ」

少女「…」

少女「はい…」

男娼「ん」

少女「…」

バタン

少女(おわ、ったああ)

少女(はい終わった。でかい顧客もうひとり失ったー)

少女(昨日決めたばかりなのに。なんでこんなに馬鹿なんだ私)ヨロ

店主「お、少女ちゃん。ごくろうさ…」

少女「今までありがとうございました…」

店主「え」

少女「さようなら…」フラァ

店主「…な、なんだ?」

新人「あの子、どうしちゃったんすかね」

店主「わ、分からん。お前、何かしたか?」

新人「自分すか?何にもしてないっすよ」

店主「…死にそうだったな」

新人「…確かに」




少女「…あはは…」フラフラ

忙しくてあげる暇なかった
本当すみません またぼちぼち書いていきます

ガチャ

少女「…ただいま」

弟「お、おねえちゃん!お帰りっ」ダッ

弟「何でこんなに遅いの!?心配したんだよっ」

少女「…」

弟「それに、おねえちゃん…。この薬、忘れて」

少女「ごめんね、弟」

弟「…え」

少女「私、だめな姉ちゃんだ」

弟「…おねえちゃん?」

少女「…」

弟「泣いてるの?」

少女「…」

弟「何かあったの?」ナデナデ

少女「…っ」

弟「僕になにか、できることがあったら…」

少女「…ふふ」

少女「なんでもなーい!ごめん、今すぐご飯作るねっ」バッ

弟「…」

……


中年女「…ぐあ…」ゴロン

男娼「…」ムク

男娼「ふぁーあ…」

男娼「…」ボリボリ

中年女「…ふふ。男娼ー…」ムニャ

男娼「…」

ガラ

新人「あっ」

男娼「おっ」

新人「あの、お客さんは…?置いて出ていいんですか」

男娼「寝てるから別にいいんじゃない?」

新人「はあ…」

男娼「いびきうるさいし、こっちは休めたもんじゃないよね」

新人「…あの」

男娼「はい?」

新人「今日、何かあったんですか。その…薬売りの女の子と」

男娼「…」

男娼「何か、って?」

新人「いえ、あの子今日死にそうな顔で店から出てきたから…」

男娼「へえ」

新人「何か、あなたとあったのかなあ、なんて」

男娼「…」

男娼「気になるの?」

新人「へ?」

男娼「あの子のこと」

新人「…や、いや。そういうわけ、では」

男娼「じゃあ別に知らなくていいでしょ」

新人「…」

男娼「あのねえ、君」

男娼「君は体を売る職をしてるのに、どうしてそう、色恋を捨て去れないのかなあ」

新人「い、いやだから俺は…」

男娼「人を好きになんかならない方がいいよ。不幸になるだけなんだよ」

男娼「…自分も、相手も」

少女「…」カリ

少女(顧客二人失ったのはデカすぎるな)

少女(…明日は、足を伸ばして顧客開拓にでも行こうかな)

少女「…」ガリガリ

少女(…頭痛い)

少女「…はぁ」

少女(…男娼って)

少女(もうかるのかなー…)

弟「…」

少女「はぁあ…」ボフ

弟「……」

少女「んじゃ、今日も留守番よろしくね」

弟「…おねえちゃん、顔色悪いよ?」

少女「そうかな?」

弟「疲れてるんなら、休んだ方がいいよ…」

少女「…」

少女「弟、私疲れてなんかないよ。大丈夫!」

弟「…」ギュ

少女「だから、いい子で待ってるんだよ。そろそろ街に検診にも行けるし…」

少女「あ、そうだ!街で何かお土産も買おう!で、美味しいものも食べよう!」

弟「…でも」

少女「お姉ちゃんがんばるから!弟、ちゃんと何して遊ぶか決めとくんだよ!」

弟「おねえちゃん、待っ…」

バタン

弟「…」


少女「…はぁー」

少女(実は交通賃が足りなかったりするのだ)

少女(けど定期健診だからサボれないし。うん、今日も稼がなきゃ)

少女(私が頑張らないと。弟を守ってやらなきゃ)

少女「…」クラ

少女「…」

少女「気合入れろ、気合」ボソ

弟「…」

弟「おねえちゃん、大丈夫かな…」

弟「…」

弟(僕、手伝えるのに)

弟(これじゃ、おねえちゃんのほうが体壊しちゃう)

弟(…僕が、足をひっぱるから)

弟「…」

カタ

弟(おねえちゃんが保存してた、傷薬…)

弟(これ、町で売れるよね?…僕でもできるよね)

弟「…」ギュ

弟(おねえちゃんを、助けなきゃ!)

ガタッ

男娼「…あー」ゴロン

店主「おいお前、暇なら店先の掃除でも手伝わんか」

男娼「やだ」

店主「…」

男娼「そんなことしたら手が荒れちゃうじゃん。新米か見習いの子どもにでもさせなよ」

男娼「それに今日、僕お休みでしょ?何で働かなきゃいけないのさ」ゴロ

店主「ぐぬぬ…」

男娼「はぁーあ」

男娼(…あ、あの子に今日来てって言うの忘れてた。つまんないの)

男娼「…」ムク

店主「どこか行くのか?」

男娼「散歩」

店主「おい待て。行くんなら、小間使いと一緒に行け」

男娼「逃げやしないさ。僕がそんなことする気力があると思うの?」

店主「…」

男娼「昼には帰ってくる。じゃ」

男娼(外に出たの、久しぶりだなあ)

男娼「…ごめんくださーい」

商人「あいよー」

男娼「ひさしぶり」ヒラヒラ

商人「お、男娼さんじゃないですか。長い間お目にかけませんで」

男娼「最近客の入りがよすぎて、疲れてんだよね」

商人「ははあ、そりゃ羨ましい」

男娼「どこが。…あ、はいこれ」

商人「おっ。査定ですか?」

男娼「うん。早くしてね、さっさと帰って寝たいから」

商人「はいはい。…おお、今回も良いものを」

男娼「そうなの?」

商人「こっちのキセルは象牙ですね。こっちのは、東国の宝石…」

商人「いやはや、あなたには頭が下がります。買取商にここまで状態の良い品を卸してくださるとは」

男娼「早くしてってば」ゴロ

商人「はいはいただいま」カチャ

商人「しかし」

商人「こんなに女客が男娼に貢ぐなんて、聞いたことがありませんよ」

男娼「ふーん」

商人「普通、逆でしょう?」

男娼「馬鹿らしいな。何で僕が客に贈り物してまで媚びなきゃいけないの」

商人「はは、流石。色街屈指の男娼が言うことは違う」

男娼「…」

商人「しかし、一つくらい使ってもいいのでは?勿体無いですよ」

男娼「だって、汚いから」

商人「は?」

男娼「なんでもない」

商人「そうですか?…あ、額が出ましたよ。これでどうです」

男娼「ふざけてるのかな?」

商人「ぐ…」

男娼「ここに丸、一個付け足しなよ」

商人「せ、殺生なっ!」

男娼「じゃあいいや。他のところに持ち込む」

商人「ごめんなさい嘘です」

男娼「どうすんの?」

商人「…」パチパチ

商人「じゃ、じゃあこれで」

男娼「…ん。まあ、いいや」

商人「ありがとうございます。では、お納めください」

男娼「はーい」ノソ

商人「しかし、これだけ実入りがいいと…」チャリ

商人「借金なんてもうとうに返し終わってるのではないですか?」

男娼「黙秘」

商人「…身請けなんか、お誘いがあるんでは?」

男娼「…うるさいなぁ」

商人「へへ、すみません」

男娼「…まあ、考えてる所ならあるさ」ムク

商人「へ?」

男娼「ばいばい。今度はもっと値段交渉勉強しときなよ」ヒラヒラ

商人「…は、はあ」

男娼「…あの狸」ジャラ

男娼「言わなきゃ正規の値段にしないんだからなあ。性根腐ってるな」

「…ほら、あの方。あそこの楼の…」

「まあ…本当。綺麗な顔ね」

「は、話しかけてもいいのかしら」

「嫌だわ。私、緊張しちゃう…」

男娼「…」

男娼(帰ろ)スタスタスタ

「くすりは、いりませんかー?」

男娼「…ん」

「けほっ、薬は…。いりませんか?」

男娼(なんだ、あのガキ)

男娼(薬売りの真似事かな。それにしても、薬が必要なのは自分の方に見えるけど)

「…ごほっ、ごほっ。…っ」

男娼「…(やだなあ、移る病気だろうか)」

「…ひゅー、っ…ごほっ…!!」

男娼「…」

男娼「ねえ、ちょっと…」

……


男娼「ただいまー」

店主「おお、遅かったな…って」

男娼「布団と湯と手ぬぐい、あと熱さまし用意してね」スタスタ

店主「いや待て待て待て」

男娼「なにさ?」

店主「その、お前がおぶってる子どもは何だ?」

男娼「僕の子ども」

店主「ははっ、笑えない冗談だな。客を孕ませたなんて家の楼の名が…」

男娼「冗談だって。こいつ、色街の道でいきなりぶっ倒れたんだよ」

店主「は?…うわ、本当だ。すごい顔色」

男娼「熱がすごいからとりあえず引っ張ってきたんだ。あそこで気絶なんかして、日が落ちてごらんよ」

男娼「…あー、気持ち悪い。きっと人買いに攫われてたよ」

店主「はあ…」

男娼「使ってない座敷あったでしょ?そこ使うね」スタスタ

店主「ああ、まあ。いいけど」

男娼「早く言ったもの持ってきなよ、グズ」

店主「てめっ…」

弟「…」

弟「…ぅ」

弟「…!」バッ

弟「…あ、う…」ズキ

男娼「あー、何やってんの。起きるんじゃない」

弟「ここ、どこ。僕っ…」

男娼「あんた、色街の真ん中で気絶してたんだよ。考えらんないね」

弟「いろまち?」

男娼「…あれ。いくら子どもでも知らないはずないでしょ」

弟「…」

男娼「…ま、いいや。とにかく寝てなよ。まだ熱あるし」

弟「でも、僕」

男娼「あーもう、じゃあ体だけ起こしてろ。煩いガキだなあ」

弟「…」ムク

男娼「ったく、何で僕がこんなこと」ブツブツ

弟「あの、ここは」

男娼「…まあ、どこでもいいじゃん」

弟「あなたは…?」

男娼「通りすがりの色男だよ。てかさあ、まず看病してくれてありがとう、だろ」

弟「あ、ありがとうございます」ペコ

男娼「ん。まあ暇だからいいよ。…で」

男娼「あんたさあ、あそこで何やってたの?」

弟「…薬、売ってました」

男娼「場所悪過ぎない?こんなところで薬買う奴なんかいるかね。精力剤ならともかく」

弟「せいりょくざい?」

男娼「…」

男娼「質問に答えてくんないかな?」

弟「え、っと。僕、おねえちゃんのお手伝いしようと思って。それで」

男娼「へえぇ。ひどい姉貴もいるもんだなあ。こんないかがわしい町で弟に商売させるなんて」

弟「…ち、違うんです。僕が悪いんです…」

男娼「…」

男娼(しっかし、細いし白い子どもだな。まるで全然外に出てないみたいだ)

弟「僕が、おねえちゃんの言うこと聞かないで無理ばっかりするから…」

男娼「!」

弟「…っ。ひくっ、…っ…」

男娼「何、泣いてるの」

弟「だ、って…。ぐすっ」

男娼「あー。こらこら、泣くな。男が簡単に涙するんじゃない」

弟「ううっ…おねえちゃぁん…」ポロポロ

男娼「うわぁ、もう…」ガリガリ

弟「僕っ、くすりもっ、売れなかったしっ…。発作まで、おこしちゃってっ…」ヒック

男娼「…」

弟「…おねえちゃんが、僕のせいで、またっ…」

男娼「いくら」

弟「…へ…?」

男娼「薬全部でいくらなの?」

弟「…」

男娼「買う。から、早く。計算もできないの?」

弟「で、でも」

男娼「早くしろっ」

弟「は、はいっ」

弟「本当に、いいんですか?」

男娼「いいんだよ。探せばどっか傷くらいあるだろ」

男娼「はいこれ、落とすなよ」ヂャリ

弟「う、はい」ズシ

男娼「…もうここで商売しちゃいけないよ」

弟「どうしてですか?」

男娼「あんた、見たところ先天性の病気だろ。家で休んでる間は平気でも、いきなり外なんか出たら」

男娼「…そりゃ、そうなるよね」

弟「…」

男娼「…君、何て名前なの」

弟「…お、弟です」

男娼「家は?」

弟「あっちの、町のはずれのほうです」

男娼「ふふん。なるほどねぇ」クス

弟「?」

男娼「やっぱり、君がそうなのか。はは、なんだか似てる」

弟「あ、あの?」

男娼「ま、ゆっくりしていきなよ。夕ご飯もご馳走するからさ」

弟「でも、家に…」

男娼「今から帰ったって、道で倒れて死ぬだけだよ。いいから、いなよ」

弟「…ありがとう、ございます」

ガチャ

少女「たっだいまー。弟、今日はお仕事上手くいったん…」

少女「…」

少女「弟?」

少女「お、弟?何処にいるの?おーい」

少女(いつもならお迎えしてくれるのに。部屋かな)ギィ

少女「…いない?」

少女(いたずらのつもり?にしても、…)

少女「…え」

少女(あいつの鞄と靴が、無い…)

少女「…」


バンッ

少女「…お、弟っ…!?」ダッ

少女「はぁ、はぁ」タタタ

少女(ど、何処に行ったの?あの子っ)

少女(前に行ったことあるお店かな?それとも、公園…?)

少女(あの体で遠くに行かれたりなんかしたら…っ)

少女「はぁ、はあっ」

少女(どうしよう、どうしよう、どうしようっ…)

少女「…」

少女(色町にまで来たのに、どうして何処にもいないの?)

少女(弟…)

「何やってんの、君」

少女「…え」

男娼「泣いてるの?みっともないなあ」

少女「…っ」

男娼「もう夜だよ。色町に来たってことは…ああ!」

男娼「ようやく君も決心がついたんだね。いや、我慢できなくなったってことかな?」ニコニコ

少女「気持ち悪いこと言わないでよっ!」

男娼「…何。何怒ってるのさ」

少女「今…忙しいのよ!私に話しかけないでっ、どっか行きなさいよっ!」

男娼「…忙しいって」

男娼「もしかしてこれ探してた?」クル

弟「…すぅ、すぅ」

少女「…」

男娼「色々あって僕が預かってたのだけれど」

少女「…」ヘナ

男娼「うわ。大丈夫なの」

少女「よか、った…」

男娼「…」

少女「し、死ぬかと思った。心配で、私っ…」ポロ

男娼「あー、と。ちょっと、ここで泣かないで」

少女「おとうとぉっ…よかったぁあ…」ポロポロ

男娼「…姉弟そろってこんなんだからなぁ」

少女「…っ。うわぁああ…」

……


少女「…」スン

男娼「まだ鼻水出てるけど」

少女「嘘ですよね」

男娼「ちぇ。可愛くない女」

少女「…で」

男娼「うん?」

少女「どうして弟と、あなたが」

男娼「こいつ、あんたを助けようと思って薬売りの真似事してたんだよ」

少女「…」

男娼「それで、発作で倒れたのを僕が拾った」

少女「…ありがとうございました」ペコ

男娼「この子恐ろしいほど馬鹿なんだね。でも、それ以外は君にそっくりだ。見た瞬間分かったもの」

少女「…」

男娼「君、この子のために働いてるんだ」

少女「そう、ですね」

男娼「…ふーん」

少女「その、弟を。連れて帰ります。ご迷惑かけました」

男娼「…」

男娼「やだ」

少女「は?」

男娼「やだ」

少女「あの、ふざけてるんなら」

男娼「本気なんだけど?」

少女「…」

男娼「この子さあ、色町に売りなよ」

少女「…は?」

男娼「まあまあ綺麗だし、ウブなかんじが受けると思うよ。なんなら僕の楼に入れよう」

男娼「僕が色々教え込んであげるから。きっと売れっ子にな」

少女「…っ」

パシン

男娼「…」

少女「…」

弟「…ん、」パチ

男娼「はは。…顔はやめてよ。商売道具だ」

少女「…うるさい」

男娼「何怒ってるの?」ニヤ

少女「もう一回殴られたくなかったら、弟を返して」

男娼「だから嫌だって。僕が仲介するから、売って」

少女「…っ」

弟「おねえちゃん…?」

少女「!」ピタ

弟「おねえちゃん。…あれ、ここ、どこ?」

少女「…」

男娼「あ、起きたの」

弟「あっ、男娼さん…。ごめんなさい、僕」

男娼「いいよ。熱も大分下がったみたいだし」

少女「触らないでっ」

男娼「…」

少女「弟、おいで」

弟「う、うん」

少女「…」ギュ

弟「む。おねえちゃん、痛い、よ…」

少女「…帰ろう」

弟「うん…」

少女「おぶってあげる。行こう」グイ

弟「あ、おねえちゃん。この人ね、僕を…」

少女「…あんた」

男娼「なあに?」

少女「今度、私の弟に汚い手で触ってみなさい」

少女「…殺すから」

男娼「…」

男娼「ふふ、怖ぁい」クスッ

少女「行くよ」

弟「お、おねえちゃ…」

男娼「…」クル

少女「…」スタスタ

弟「おねえちゃん、どうしたのっ」

少女「…馬鹿!!」

弟「!」

少女「だから言ったのよ!外に出ちゃ駄目だって!私が、どれほど…」

弟「…っ」

少女「心配したと、思ってるのよっ…」ギュ

弟「ごめんなさい、僕。…ごめんなさい…」

少女「もう二度としないで。お願い。私、あんたがいないと…」

弟「うん、もうしない。…絶対、一人で外に出ない」

少女「…約束だよ」

弟「うん…」

少女「…あと、もうあの男に近づいちゃ駄目だから」

弟「男娼さんに?どうして?いい人なのに」

少女「いい人?あいつが?」

弟「だって、僕を」

少女「やめて。もう、聞きたくない。…あいつは、最低なの。弟をきっと傷つける」

少女「お姉ちゃんが守るから。あんなクズからは、絶対」

弟「…」

少女「さ、帰ろう」

>>109
男娼「お金もらえるんなら何でもいいかなあ」

だそうです

男娼「ただいまー」

店主「おう、…て、何だその顔」

男娼「ちょっとね」

店主「お前…明日に響かないようにしとけよ」

男娼「わかってるよ」

店主「あの坊やはどうしたんだ?」

男娼「ああ、あのお荷物?」

店主「お荷物?」

男娼「…そ。あの子のお荷物、…あいつなら、帰ったよ」

店主「…そうか」

男娼「…はぁ、羨ましい」ボソ

店主「何か言ったか?」

男娼「別に。寝る」

店主「お、おう…」

店主(…なんか目がヤバかったような)

弟「…すぅ、すぅ…」

少女「…んー」ノビ

少女(つかれたー…)

少女(ったく、とんでもないことしてくれるわね)

少女(…無事だったから、いいけど。いや。或る意味無事じゃないわ)

少女(男娼…。何なのよ、あいつ)

少女(あんなクズに、うちの弟を…。ああ、ムカつく)

少女「…」ナデ

弟「…ん」モゾ

少女(…あれ?)

少女(何、このお金。…そういえば、薬売ってたって)

少女(全部売れたの?あはは、ありえない。それにこれ、いくらなんでも多すぎ…)

少女「…」

少女「あいつが?」

少女(いや、ありえない、よね)

少女「…」

少女(本当に、何なの…)

……


少女「じゃ、いってきまーす」

弟「いってらっしゃい」

少女「いい、外に出るんじゃないわよ?今日は絶対安静」

弟「う、はぁい…」

少女「明後日は検診だものね。それまでに良くしておこう」

弟「おねえちゃん」

少女「ん?」

弟「…頑張ってね」ニコ

少女「…おう!」

バタン

少女(あー、かわええ)

少女(この笑顔で何日だって頑張れる気がする)

店主「はあ、休みぃ!?」

男娼「うん」

店主「馬鹿も休み休み言えよな。お客待たせてどうする」

男娼「でも、頬が腫れてるんだもの」

店主「昨日の傷か?」

男娼「そんなとこ」

店主「おい、その湿布はがしてよく見せてみろ」

男娼「…」

店主「おら」グイ

男娼「…や。痛いっ…!!」

ザワ

「ちょっと店主さん、なにやってるんですか!?」

「男娼さまの頬をつねるなんて!嫌がっているでしょう!?」

ギャーギャー

店主「な、いや。違…」

男娼「…酷い経営者だ。こんなに痛いのに、休みもくれないなんて…」

「かわいそうよ!!」

「泣かないで、男娼さまぁ!!」

男娼「…」ニコ

店主「…休め」

男娼「ありがとうございます」

男娼「…」カラ

新人「どこに行くんですか?」

男娼「君に話す利点、ある?」

新人「…」

男娼「夕方には帰る」

新人「…」


男娼「…」

「いらっしゃいませ」

男娼「…切花の束を、3つ」

「はい…。あの、種類は?」

男娼「どうでもいい。任せるよ」

「かしこまりました」

男娼「…」

「お会計、…になります」

男娼「はい」チャラ

「ありがとうございました」

男娼「…」

「…ああ、死んでら」

「こっちの女もか?」

「見りゃ分かるだろ。心中、かねえ」

「子どもを残して夫婦ふたりだけでぽっくり、か?」

「こいつ、どうするか」

…おじさん

「なんだ」

…お母さん、どうして返事しないの? お父さん、動かないの?

「…いいか、坊主。よく聞け」

「おい、やめとけ」

「けどよ」

…死んでるの?

「…」

…へえ

「坊主?」

人って、こうやって死ぬんだ

「…笑って、んのか」

「…な、なんだ。気味悪いぞ」

ふふ。…あはは

「おい、親が死んでるんだぞ?分かってんのか?」

「…嬉しいか」

「はあ?」

…うん。嬉しいよ。うれしい、はは

「お前知らないのか、こいつ、よく裸足で外でて泣いてたろ」

「血だらけになってることもあったしよ…」

「まじか…」

「つまり、そういうこった。…しかしな、坊主」

ふふ、あはは

「お前の父ちゃんな、俺らの所からお金借りてたんだよ。分かるか?おかね」

…くすくす

「それを返さなきゃなんねーんだ。だから」

「言ったってわかんねーよ。連れていこうぜ」

「ああ、まあ、そうだな」

…あはは…

「可哀相になあ、虐待までされて借金のカタかよ」

「けどまあ、綺麗な顔してるし高く売れるだろ。残りは働いて返してくれりゃいいさ」

……


少女「ありがとうございましたっ」

老婆「すっかり遅くなっちゃったわね。気をつけて帰るんだよ」

少女「はい、大丈夫です。それじゃあ、次の診察までお大事に」

少女(…臨時収入、臨時収入)ニマー

少女(診察が結構入るようになったもんなぁ。えへへ、いい調子かも)

少女「…」

少女(遅いし、ここ通るか)

少女「…」タタタ

少女「…」チラ

少女(…今日は店に出てないんだ)

少女(せいせいするわ。何か変な病気にでもかかって死ねばいいのに、あいつ)

少女(…)タタ


少女「ただいまー」

少女「…ん」

少女「弟、ただいまー」

少女「……」ゾワ

少女「お、弟っ!?」バッ

弟「…」

少女「な、なんだ。いるんなら返事しなさいよ」

弟「…」

少女「おとう、と?寝てるの?」

弟「ね、ちゃ」

少女「…弟?」

弟「…ごほっ」

ビチャ

少女「…え」

少女(なに、これ。赤いの…)

少女「お…とう、と」

弟「…がはっ…」

少女「…っ!」バッ

少女(体中に赤い斑点…!まさか、こんな大きい発作が…!何年も来てなかったのに!)

弟「ごほっ、ぐ、ううっ…!」

少女「弟、大丈夫!体に力入れないで。いいよ、咳我慢しないで!」

少女(ど、どうしよう。どうしよう…!とりあえず、発作時の薬っ…)

少女「弟、これ!飲んでっ」

弟「…っ。ぐ…」

少女「吐き出しちゃだめ!飲みなさい!」

弟「がはっ…!」

ビチャ

少女「……!」

弟「おねえ、ちゃ…。くる、し…」

少女「大丈夫…!大丈夫だからっ」ギュ

少女(薬じゃだめだ…!病院、行かなきゃ…)バッ

少女「弟、すぐ治してあげるからっ」

バタン!

少女「はぁ、はっ」タタタ

弟「…」

少女(…冷たい)

少女(お願い、死なないで。お願い。一人にしないで)

少女「はあ、はあっ…!」

……


医師「かなり、まずいですね」

少女「…」

医師「吐血と斑点は、かなりの重症であるしるしです。入院しましょう」

少女「弟は…」

医師「今は一時的に薬で良くなってはいます。けれど、ここまでとは」

医師「…最近激しく体力を消耗することはありましたか?」

少女「…、はい」

医師「うーん…」ガリ

医師「そろそろ、根本的な治療が必要ですね。彼も成長期ですし…」

少女「それって、ここでですか」

医師「いいえ。街の大きな病院でないと駄目でしょうね。紹介状を書きます」

少女「…」

医師「つかぬことを聞きますが、お金の工面はできますか?」

少女「…大丈夫、です」

医師「そうですか。では、とりあえずここに一週間入院。その後に、街に移しましょう」

少女「…お願いします」

少女「…」

少女(お金、どうしよう)

少女(…もう、やだ)

少女(どうしてこんなに、辛い思いばっかり)

少女(…神様…)

少女「…はは」フラ

少女「…」

少女(色町の明かり…。綺麗、だな)

少女「…そっか」

少女(そうだよ)

少女「…私、はは。…馬鹿だなぁ」

少女(…最初から、こうすればよかったんだ)

少女「…」フラ

……

男娼「はい、詰み」パチン

店主「…げ」

男娼「よっわいね、ほんと」

店主「うーん…。もう一回。もう一回だ」ジャラ

男娼「はあ?もうやだよ。疲れた」

店主「そんなこと言うなって!なあー!」

男娼「…はぁ…」

ジャリ

男娼「…ん」

男娼(あれ、あの女)

「…」フラ

男娼(…何やってんだ、あいつ。こんな夜中に)

店主「よっしゃ、今度は何賭ける?俺は…」

男娼「ごめん、散歩してくる」

店主「は?」

男娼「…」ダッ

店主「おいちょ、男娼!?」

男娼「はぁ、はぁ」

男娼(やばい、見失った)

男娼(気のせい、だったのか?いや。絶対違う)

男娼(…なんで、こんな所に)

男娼(勘が当たってるなら、きっとあいつは…)

男娼(街道での個人の身売りは禁止、だもんな。だとしたら裏道か)ダッ

男娼「はぁ、はあ」タタ

……

ポツ

少女(…あ)

ポツ ポツ

少女(雨だ)

サアア…

少女「…」

「おにいさん、遊んでいかない?」

「いいじゃないの、ねぇ~」

少女(…吐き気、する)

「…おい」

少女「…は」

男「あんた、いくらだ」

少女「…」ス

男「それくらいでいいのか?」

少女「…」コクン

男「分かった。買おう」グイ

少女(…待ってて、弟。姉ちゃんが、あんたを助けるから)

「…いやいや、それちょっと安すぎじゃない?」

少女「…え」

男娼「安いでしょー。それじゃ鉄砲女郎と変わんないじゃん」

男「なんだ?おめぇ」

男娼「通りすがりの色男ですが」

男「はぁ?」

男娼「ちょっとおじさん、これ正規の値段から随分と外れてるでしょ」

男娼「むらむらすんのは分かるけどさあ、ちゃんと相応のお金は用意して色町においでよ。遊びのやり方、もっかい勉強してきな」

少女「…」

男「な、てめっ…」

男娼「僕、3倍出すけど」

男「はぁあ!?」

男娼「その値段の3倍であんたを買う。あっち行って、ほら」

男「ああ!?てめえさっきからデカい口…」

男娼「あんたは別の女で済ませなよ。ケチ助平」

「…なにー?喧嘩ー?」

「あはは、女郎巡ってんのか?」

クスクス

男「…ちっ」

男「…はん、いいぜ。そんな汚い女くれてやる」

男娼「…」ギロ

男「…っ」ジリ

男娼「行くよ、ほら」

少女「…」

男娼「あーあー。恰好わるいのー」クスクス

男娼「いるんだよねえ、ああいう遊び分かってない無粋な変態がさあ」

少女「…」

男娼「…君、びしょ濡れだね」

少女「…」

男娼「服もヨレてるし、髪もぼさぼさだし。よく買われたもんだ」

少女「…邪魔、しないでよ」

男娼「邪魔?」

少女「折角、お客がついたのに。…邪魔しないで」

男娼「は?何言ってんの?客は僕に変更になったんですけど?」

男娼「ほら、お金。僕が君を買った。分かる?」スッ

少女「…っ」ギッ

少女「馬鹿にしないでよ!何であんたに…っ」

男娼「…はっ」

男娼「小娘が大した覚悟もないのに、身売りしてどうすんの?」

少女「覚悟なら、ある!」

男娼「じゃあ客選べる身分でもないだろ。偉そうな口叩くな、素人が」

少女「…っ」

男娼「もう、濡れちゃうから早く行こう。めんどい」グイ

店主「はい、では良い夜を」

女「ねえ店主さん、男娼は今日入ってないのぉ?」

店主「悪いね、あいつ今日は風邪でして…」

男娼「ただいまー」

店主「」ブホ

女「あっ、男娼っ…!…て、え」

男娼「やっぱ今日働く。お客さんついた」

少女「やめろ、離せ!変態!死ねぇええ!!」

店主「…」パチクリ

男娼「暴れるなって。もう諦めなよー」

少女「やだ!帰る!やだああ!」

店主「お、おい。お前」

男娼「はいこれお金。彼女が今日はお客さんだから。じゃ、そういうことで」ヒョイ

少女「やあああああ!店主、さん!助けっ…!」

店主「楽しい夜を~」ヒラヒラ

少女「……!!」



店主「…あの子案外羽振りいいんだな」ホクホク

女「い、嫌がってるように見えたけど?」

店主「そういう…そういう性癖なんじゃない?」ホクホク

女「…」

男娼「はい、入って」ググググ

少女「やだ。絶対、やだ!」ググググ

男娼「分かってないなあ、君。僕は君を買ったんだよ。高額で、しかもここの座敷代まで払って」ググググ

少女「あんただけは嫌!ぜっっったい!!」ググググ

男娼「だーかーら、客を選べない隠した娼婦が大きい口叩くな。おらっ」ブン

少女「や、うわっ…!」ドサ

バタン

少女「……っ」

男娼「はあ、疲れた」

少女「…死ねっ…」

男娼「とりあえずお風呂入ろう。君を担いで来て汗かいたし。君は君でびしょぬれだし」

少女「嫌」

男娼「拒否権ないよ。契約成立したもん」

男娼「ほらほら、洗ってあげるから怖い顔しないの」

少女「触らないでよっ!」バシ

男娼「えーどうして。僕がここまで積極的にしてやってるのに」

少女「…っ」ジリ

男娼「…はぁ。そんなに僕が嫌いなの?傷つくんだけど」

少女「…」ジリ

男娼「分かった。お風呂は君一人で使っていいよ。僕は体拭くだけで良い」

少女「…い、嫌」

男娼「どろどろで座敷汚されるのも嫌なの!はよ行け!」

少女「…っ」

男娼「何もしない。絶対。神に誓って」

少女「…」カチャ

男娼「ごゆっくり」

バタン

男娼「…はぁ」

少女(…くそ)

少女(何でこんなことに)

少女(あいつだけは、本当に無理。知り合いだし、性格最悪だし)

少女(知らない人だったら、きっと割り切れてたのに…)

ザバ

少女(…)

少女(選ぶ権利なんかないか)

少女(…モノみたいだな、娼婦って)

少女(…)

少女(あいつも?)

少女「……」

少女(…あ)

少女(…手、震えてる)

少女(ああ、そっか)

少女(あの男の人に声、かけられたとき)

少女(…本当は、めちゃくちゃ怖かったんだ)

少女「…」

男娼「早かったね」

少女「な、なんで上、着てないんですか」

男娼「君が風呂場を占領してたせいなんですけど」ゴシ

少女「…すみません」

男娼「あはは。なんか、落ち着いたみたいだね」

少女「…」

男娼「よいしょ」パサ

男娼「はぁ、すっきりした」

少女「…」

男娼「何つったってんの?こっち来なよ」

少女「…は、あ」

男娼「座って」

少女「…」スト

男娼「…それ、似合ってるね」

少女「は?」

男娼「その夜着。店のなんだけど、大きさもあってるし。似合ってる」

少女「…」

男娼「なにその顔」

少女「なんでもないです(よくこんなサラっと恥ずかしいこと言えるよなー…)」

バンバンバンバンバンバンバン
バン     バンバンバン
バン (∩`・ω・) バンバン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
   \/___/ ̄ ̄


  バン   はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/

    ; '  ;
     \,( ⌒;;)
     (;;(:;⌒)/
    (;.(⌒ ,;))'
 (´・ω((:,( ,;;),
 ( ⊃ ⊃/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/ ̄ ̄

       /\
      / /|
     ∴\/ /
     ゜∵|/
  (ノ・ω・)ノ

  /  /
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ポチポチポチポチポチポチポチ
ポチ     ポチポチポチ
ポチ (∩`・ω・) ポチポチ
 _/_ミつ/ ̄/
    /_/ ̄ ̄ ̄ ̄

少女(…結構広い部屋なんだな。改めてみると)

少女(…ベッドでか)

少女(…)

男娼「どこ見てるの?」

少女「!い、いえ」

男娼「…んで」

少女「はい」

男娼「あんな所でなにしてたの?」

少女「…」

男娼「いや、意地の悪い質問だね。やってたことは大体想像つくよ、けど」

少女「…あなたに話すことではない、です」

男娼「…」

男娼「弟のこと?」

少女「…」ギュ

男娼「ははあ、図星だね」ニマ

少女「あなたには…関係ありません」

男娼「あるさ」

少女「ど、どうして」

男娼「だって君は僕の身請け人だもの。関係大有りだよ」

少女「あのですね、私はあなたを身請けするつもりは」

男娼「弟がどうかしたの?何かあった?」

少女「…き、聞いてます?」

男娼「その話はまあ置いとこうよ。あのガキどうしちゃったの。発作?」

少女「…」

男娼「まあ、君が僕のことを快く思っていないのは知っているけれど」

男娼「一人で抱え込むよりは、誰でもいいから話す方がいい。幾分楽になる」

男娼「僕ね、君のことがどうしようもなく気になるんだよ」

少女「…ど、どうしてです」

男娼「んー」

男娼「よく分からない。けど、気になる」

少女「はあ…」

男娼「話してくれないかな?」

少女(…掴めない男の人だ。この間までは死ねば良いって思ってたのに)

少女(なんか、友人と喋ってるみたいな感覚にすら陥るんだから)

少女「…」

少女「弟が」

少女「今日家に帰ったら、吐血していました」

男娼「…」

少女「病院に駆け込むと、一命は取り留めたけど、大きな発作だったと言われて」

少女「今までの小康期はそろそろ終わるから、手術が必要だと…言われました」ギュ

男娼「そんなに悪いの、あの子」

少女「遺伝病で…。手術をしないと成人まで生きられないです」

男娼「その手術のお金、どうなのさ」

少女「想定していた額より遥かに高額でした。…貯金なんて、半分にも満たなくて」

男娼「ふうん」

少女「だから、…薬売りなんかより効率的な方法で、お金を稼ごうと思いました」

男娼「へえ」

少女「…以上です」

男娼「なかなか可哀相なお話だったよ。君、絵に描いたような不幸な人生を送ってるんだね」

少女「…」ギッ

男娼「睨まないでよ。ああ、怖い」

男娼「僕も今まで座敷で色んな人間見てきたけどさあ」

男娼「君の生い立ちって、まんま男娼のそれと似ているよね。あはは、僕ら似ているよ」

少女「…」ギュ

男娼「怒っているの?だってそうじゃないか」

男娼「そんな大変なお荷物、捨ててしまえばいいのに。僕みたいに汚い仕事に落ちたいの?」

少女「お荷物なんかじゃありませんっ」

少女「…あなたには分からないでしょうね。弟は、私にとって…」

男娼「…」ボリ

少女「…何なんですか、あなた。人をそんなに馬鹿にしたいの」

少女「さっきから…助けてみたり、慰めてみたり、…けなしてみたり」

男娼「さあ。どうしてだろう」

少女「…お金、いりません」

少女「帰ります」

男娼「待ってよ」

少女「嫌です」スタスタ

男娼「僕に啖呵切ったってどうしようもないじゃないか。お金は。どうするの」

少女「これは私の問題です。あなたには関係ないし、もう関わらないでください」

男娼「連れないことを言うなあ。僕、考えがあるんだけど」

少女「結構です」ガラ

男娼「…」

ガッ

少女「!」ビク

男娼「行かないで」

少女「…い、嫌」

男娼「……」グイ

少女「う、わっ」グラッ

ドサ

少女「い、痛っ…!なにすんのよっ」

男娼「行かないで、って言ってるじゃないか」ギシ

少女「…っ」

少女「ど、退いてよ」

男娼「嫌」ギシ

少女「ひ、人を呼ぶわよ」

男娼「ここは郭だよ?声なんか聞こえないし、聞こえても誰も助けないさ」

少女「やめて。…お願い、離れて」

男娼「なに、怖いの?」

少女「……」ゾワ

男娼「君、たかが男に跨られただけじゃない。…娼婦はもっとすごいことをするんだよ?分かってるの?」

少女「…っ」ブン

男娼「よい、しょ」ドサ

少女「ひ、きゃ……っ!?」

男娼「こうやってさ、何処の誰かも知らない男に」

男娼「…こんな風に、されるんだよ?」サワ

少女「……っ!」

男娼「あれ、泣いてる」クス

少女「嫌。…やめて…」

男娼「あはは、君、可愛いなあ」

少女(…声が、でない)

少女(思いっきり叫びたいのに、暴れたいのに、動けない)

少女(…嫌だ。誰か…)

男娼「…ふっ」

少女「!」ビク

男娼「ねえねえ、耳くすぐったい?…それともふーってされて、きもちいい?」クスクス

少女「…」

男娼「君、すっごく温かいね。…それに、やわらかい」ギュ

少女「…ひっ」

男娼「良い匂い。…綺麗な匂いがする。汚れてない、綺麗な」

少女「や、だ。おねが…」

男娼「お客がみーんな、君みたいな人だったらいいのに」スリ

男娼「そしたら僕、汚れないでいられるだろうね。…ね、そう思わない?」

少女(…何、言って)

男娼「…羨ましい」

少女「…え」

男娼「うらやま、しい…」ギシ

少女「…!」

少女「な、何」

男娼「…」モゾ

少女「……い、や。嫌っ…」

男娼「なんて」

男娼「ねー」パッ

少女「…え?」

男娼「あはは、びっくりした?君、予想以上にウブだったんだね」

少女「…」

男娼「まさかキスもしたことない?その歳で?あはは、子どもみたいだ」

少女「…」

男娼「悪かったよ。ちょっとからかいたくなっただけー」

少女「あ、…」

男娼「何。続きしてほしいの?」

少女「そんなわけないでしょ!」バン

男娼「おお、復活した」

少女(なんっっだこいつ!!ふざけんな!)カァ

男娼「まあまあ怒らないで。君が話を聞かないでどこか行こうとするのがいけない」

少女「…っ」

男娼「話ってはね、こういうこと」ガサ

少女(…なにこれ。箱?)

男娼「僕さあ、お金の管理とかめんどうで全部こうやってベッド下につっこんでんだよね」パカ

少女「!?」

男娼「幾ら位あるかなあ…」

少女(なな、何だこの大量の紙幣は…。こんなの、見たことない)クラ

男娼「…ん。結構ある」ポフ

少女「…」ポカーン

男娼「はい」

少女「は?」

男娼「これ」ズイ

少女「…」

少女「え、何?」

男娼「鈍いなあ君。あげる、って言ってるの。これで手術させなよ」

少女「…」

少女「ええええええええええ!?」

男娼「良い反応だ。あはは」クスクス

少女「だ、駄目です。絶対、こんな大金!受け取れません!」

男娼「じゃあどうすんの?死ぬよ、弟くん」

少女「…っ」

男娼「それに誰がタダでなんて言った?君には代わりにしてもらうことがあるよ」

少女「え…」

男娼「君はどうも他人に恩を売られることが嫌いなようだからね。条件付きなら、悩まないでいいだろ」

少女「で、も」

男娼「言っておくけど、娼婦で稼ごうなんて甘い考え捨てた方がいい。君の体が壊れる」

少女「…」

男娼「分かってる?君にはこれしかないの。…僕に頼るしかないんだよ」

男娼「…僕しか、いないの」ニコ

少女「…」ギュ

少女「…わ、私」

男娼「うん?」

少女「何を…したら。そのお金、くれるんですか…」ギュウ

男娼「…」クス

男娼「逆に、何ならしてくれるのかな?」

少女「それ、は」

男娼「君は僕に何をしてくれるの?」

少女「…」

少女(弟が、助かるなら)

少女「何でもします。…私にできること、全部」

男娼「…へえ」

男娼「そう。君、弟思いなんだね。本当に」

少女「…」

男娼「君はお金で今まで散々見下してた男娼に買収されちゃったわけだ」

男娼「あはは、なんだかちょっとぞくぞくするね。気分がいいかも」

少女「…」

男娼「ねえ、悔しい?お金で自分の未来が買われるのって、どんな気持ち?」

少女「…っ」

少女「…私は、弟のためなら、なんでもできます。悔しくなんかありません」

男娼「…」

少女「だから…。どうぞ、好きなように言ってくれて構いません。私は、何とも思いませんから」

男娼「君、綺麗だね」

少女「…は?」

男娼「なんでもない」

男娼「んじゃ、契約成立ってことね。はいどうぞ」ポイ

少女「う、わっ」ズシ

男娼「君に貸した額は大きい。その分、君は僕の言うことを聞いてくれるんだね?」

少女「は、はい」

男娼「…分かった。じゃあこれからは毎日楼に来て。いい?」

少女「分かり、ました」

男娼「ふふ。いい子」

男娼「じゃ、早く弟のところに行ってあげなよ。心配でしょ?」

少女「…」コク

男娼「ばいばい。また明日」ヒラヒラ

少女「…あ、あの」

男娼「ん?」

少女「本当に、ありがとうございます。あなたは私と弟の恩人です」ペコ

男娼「…」

少女「…さようなら」

バタン

男娼「…はあ」

男娼「変な子」ボフ

男娼「…」ポリポリ

男娼(さて、どう扱ってやろうかな)

男娼「…ふふ」

医者「…は?転院?」

少女「はい。今すぐ。首都の病院に移送してください」

医者「それは可能ですが、お金かかりますよ」

少女「…これで」

医者「…」パチパチ

少女「お願いします。弟を助けてください」

医者「わ、分かりました。…ええと、手術も行っていいんですね?」

少女「はい。必要な治療、全部してください」

医者「はい。では今日当たりに移送しますが…付き添いますか?」

少女「…いえ。私は、ここに残ります」

医者「そうですか。準備をしてきますので、良ければ弟さんとお話してきてください」

少女「はい。ありがとうございます」ペコ

バタン

少女「…ふー」

少女(やっちまったかな。…いや、でも。弟の命が助かるんなら全然気にならないや)

少女(弟。…頑張ってね。きっとすぐよくなる)

弟「…」

少女「よっ」

弟「あ、ねえちゃん…」

少女(…顔色、悪いな。辛そう)

弟「僕…ごめんなさい。また、具合悪くなっちゃって」

少女「気にしないの。生きてたんだから、セーフよ」

弟「…僕、どうなってるの?」

少女「…大きい発作が起こったの。ちょっと危ないみたい」

弟「…」

少女「でも、大丈夫。私がなんとかするから。あんた、今日から首都の病院に入院ね」

弟「え、で、でも」

少女「手術も受けてもらうわ。これが終わったら、嘘みたいに良くなるんですって」

弟「でも…」

少女「お金なら何も心配しなくていいの!えへへ、がっぽり稼ぐ方法見つけちゃったから」

弟「ほん、と?」

少女「うん。…ただ、首都には私は行けない。あんた一人なの。そこが心配」

弟「僕、大丈夫。平気だよ」

少女「本当?寂しくない?」

弟「うん。男だもん」

少女「…」クス

少女「じゃあ、暫くばいばいだ。お互い頑張ろうね、弟。…いつだって応援してる」

弟「僕も。おねえちゃん、ありがとう」

バタン

少女「…」

少女「大きくなったもんだ」

少女(…本当は、付き添いたいけど)

少女(…いや。贅沢なんか言わない。きっと成功するもん)

看護婦「あ、少女さん、ですよね」

少女「はい?」

看護婦「連絡が入っています。…今すぐ来て、と。差出人は…」

少女「…」

少女「分かりました。ありがとうございます」

看護婦「え?あ、はい…」

少女「…」

少女(負けるもんか)

少女(絶対)

少女「…」

男娼「はい、詰み」パチ

店主「がぁああ…」

少女「あ、の」

男娼「…早かったね。ようこそ」

少女「…」

店主「お?少女ちゃん、今日は呼んでなかった気が…」

男娼「彼女、僕が買ったのさ」ジャラ

男娼「これから毎日僕の召抱えになってくれるんだって」

店主「は?」

男娼「ね、少女?」

少女「…はい」

店主「おいおい、どういうことだ」

男娼「まあ君に話すことじゃないさ。失礼するよ」

店主「…?」

男娼「おいで」

少女「…はい」

店主「…何なんだ、おい?」

バタン

少女「…」

男娼「弟、どうなった?」

少女「今日の昼に、首都の病院に移されることになりました」

男娼「へえ。良かったじゃないか。もう安心だね」

少女「はい」

男娼「…」

ムニ

少女「ひ、たっ!?」

男娼「君さっきから辛気臭い顔をしてるなあ。こっちまでげんなりしちゃうよ」グイ

少女「ごめん、なさっ。やめれくらはい!」

男娼「いつもどおりの顔してくんない?あの取り澄ました顔。僕、君のそういうのが好みだ」

少女「…こ、こうですか」

男娼「うん。そうそう」ニコ

少女「…で、私は何をすれば」

男娼「うーん、そうだなー」

男娼「…なんだろ」

少女(…え、考え込んでる?)

男娼「あはは、勢いで言っちゃったから具体的に何をさせるか考えてなかった。どうしよう」

少女「え」

男娼「とにかく君を手に入れたかったわけだからなー。うーん」

少女「…」

男娼「あ、じゃあまず着替えてもらおうかな。そのほうが僕の召抱えってかんじがするし」

少女「はあ」

男娼「…これ、かな」ピタ

少女「…」

男娼「うーん、色がイマイチ。こっちか」ピタ

少女「あの」

男娼「うん?」

少女「私、どうしてこんな高級な服屋さんにいるんでしょうか」

男娼「だから、君の服を選びに来たんじゃない。…あー、これも駄目だ」

少女「悪いです。…こんなの」

男娼「何言ってるの?これ僕が好きでやってることだから。口答えしないで」

男娼「…うん、これがいい」

少女(なんだこの生地は…。つやつやしてる)

男娼「試着室で着て出てきなね。僕もう会計しとくから」スタスタ

少女「は、はい…」

……


少女「…」

男娼「君、白が似合うね。やっぱり」

少女(…どこかのお嬢様が着る服だろうか。値段聞きたくもない)

男娼「えーと、次はー…」

男娼「そうだ、ご飯。お腹空いたし」グイ

少女「え、ちょ」

少女「……」ゲソ

男娼「結構美味しかったねー。僕、普段はあんな下品に脂のった肉は食べないけど」

少女「は、あ」

男娼「君、お肉嫌いだった?」

少女「いえ。大好きですけど」

男娼「それなら良かった。もう食べなくていい?」

少女「だ、大丈夫ですっ。十分ですっ」

男娼「そう。じゃあ、次はー…」

少女「あの」

男娼「なに」

少女「これ、何か違う気がします」

男娼「何が」

少女「私、あなたに色々奢らせてるみたいじゃないですか?私はあなたの召抱えなんですよね」

男娼「うん、そうだね」

少女「だったらこう、何か命令とかするんじゃないですか」

男娼「命令?僕はただ、言うことを聞けって言っただけだけど」

少女「…」

男娼「君は逆らわずそれを聞けばいいんだって」

少女(何かおかしい)

男娼「…ね、君何か欲しいものはあるの?」

少女(絶対おかしい)

男娼「ねえってば。あ、この髪飾り可愛い。買おう」

少女(こいつは頭がおかしい)

男娼「君手入れすれば美人じゃないか。あはは、人形みたいだよ」

少女(…)

男娼「ねえ、さっきから何をぼうっとしてるの?」

少女「い、いえ」

男娼「…ふうん。まさか、弟のこと考えてた?」

少女「え」

男娼「やめてよね、それ。今、僕の抱えなんでしょ、君は」

男娼「だったら余計なこと考えないで。僕に集中してくれない?」

少女「…はい…(違うんだけど)」

男娼「分かったんならいいよ」ニコ

男娼「あー、楽しかったー」ノビ

少女「…」

男娼「ね、こういうの何ていうか知ってる?」

少女「はい?」

男娼「想い合ってる男女が一緒に行動するんだよ。でーと、って言うんだよ」

少女「デート…って」

男娼「そうでしょ?」ニコ

少女(…確実に違う。けど、否定したらなんか怖い)

少女「そうですね。デートですね」

男娼「ふふ。まあ、一日中ってわけにはいかないけど。仕事あるし」ギュ

少女「!」

男娼「デートでは、手を握るものでしょ?これで帰ろう」

少女「…」

男娼「ちゃんと握って」

少女「わ、分かりました」キュ

少女(…夕方だ)

男娼「…」

少女(夕日の中にお風呂上りの遊女、早くに来る客、それから…)

少女(…なんか、この風景も悪くない、気がする)

男娼「ねえ」

少女「はい」

男娼「君はこの景色、どう思う」

少女「色町の、ですか…。他の町と変わりなく、良いものだと思いますけど」

男娼「そう」

少女「男娼さんは…どう思いますか」

男娼「汚い」

少女「…」

男娼「ヘドが出そう。ここは檻だ。人も景色も汚いよ。…勿論僕も」ギュ

少女「…どうして」

男娼「ん」

少女「笑いながら、そんなことが言えるんですか」

男娼「あは、笑ってた?やっぱり?」

少女「この町、嫌いですか」

男娼「僕はここに売られたんだよ?好きになれると思う?」

少女「い、いいえ」

男娼「…君を初めて見たときも、夕方だった気がするな」

少女「そう、でしたっけ」

男娼「うん。薬の訪問販売に来たんだ。ちっちゃいのに大きな薬箱抱えてさ」

男娼「二階から見てても笑えたね。なんか滑稽で」

少女「う…」

男娼「でもなんか、君だけが綺麗に見えたんだよね」ボソ

少女「…ど、どういうことですか」

男娼「わかんない。けど、僕を買う客でも、身を売る奴らとも、確実に違う空気を持ってた」

少女「…」

男娼「この子は懸命に生きてるんだなー、って思った」

少女「そう、ですか」

男娼「その時、この子に身請けしてもらおうって考え始めたんだ」

少女「…そこだけは、謎なんですけど」

男娼「僕も。良くわかんない」

少女「はあ…」

男娼「…あ、もう着いちゃった」

少女「あ、本当だ」

少女「あの、私は」

男娼「ねえねえ店主ー」

店主「あ、お前何処行ってたんだよ!もう店準備始めるぞ!」

男娼「無粋なこと聞くなよ。ね、二階に一つ使ってなかった部屋あったよね?そこ借りていい?」

店主「ああ?好きにしろよ。だから早く準備しろっ。今日こそ働いてもらうぞ」

男娼「はいはーい」

少女「…」

男娼「二階にさ、空き部屋があるんだ。白い扉の部屋。そこで寝泊りして」

少女「え、は?」

男娼「家から通うのも面倒でしょ。そうしなよ」

少女「いえ、でも」

男娼「え?拒否しちゃう?」

少女「…」ブンブン

男娼「じゃあ僕仕事の準備するから。じゃあね」ヒラヒラ

少女「…」

少女(マジか…)

ちょい落ちます

少女(…私がいてもいいんだろうか、そもそも)

「おーい、俺の白粉どこだよ」

「帯誰か貸せよー」

少女(…へえ。男娼ってこんな風なんだ、普段)

少女(普通の男の人とそんなに変わんないのね)

少女「…」ウズウズ

少女(外に出るな、とは言われてないもんね)カチャ

少女「…」

見習い「あっ、そこどいてくださいね」トテ

少女「あ、ごめんっ」

少女(…あんな小さい子まで働いてるの?何か、凹む…)

少女(…うわ。なんだ、きらきらしてる。…いい男ばっかり)

あれ?ひょっとして和風な世界観?

>>182和洋折衷ってかんじ?そこらへんは良く考えてないよ。想像にお任せします

少女「…」

店長「おいおめーら、早く準備しろっ。客入るぞ」

少女「…」キョロキョロ

「…ちょっと、そこの子」

少女「は、はいっ」ビク

青年「あなた見ない顔ね。…何なの?厨房の子?」

少女「い、いえ。私、は」

青年「そもそも店主、女の子を雇う主義じゃなかったけれど」ジロジロ

少女(な、なんだこの人。女の人、みたいな恰好してるけど。…男、だよね)

青年「まあいいわ。暇ならちょっとこっち手伝ってくれないかしら」

少女「え、えっと」

青年「早く。忙しいのよ、こっちは」グイ

少女「え、え、え」

青年「うちの坊やがねー、私の今日の衣装に水こぼしやがったのよー」

青年「私身支度しなきゃいけないし、あなた乾かしておいてくれない?」

少女(えええええ)

青年「はい、これ」ドサドサ

少女「…」

青年「はい、早く早く。私お茶引きになっちゃうわ」

少女(おちゃびき?なんだそりゃ)

少女(あーあ、皺もついちゃってる。大変だ)

青年「ふんふーん」

少女(…男の人でもお化粧するんだ。しなくても十分恰好いいのに)

少女(あいつもするのかな。なんか笑える)

青年「何にやにやしてんの?終わったのっ」

少女「は、はい只今っ」

……


青年「あら、綺麗になるもんね。卸したてみたいだわ」

少女「ど、どうも」

青年「ありがと。これお駄賃にあげるわ」ポン

少女「…あ、ありがとうございます。(あ、飴…)」

青年「あなたまさか新参の男娼見習い?服が女っぽいけど、私と同じ路線?」

少女「はっ!?」

少女「わ、私女ですけど」

青年「あらそう。ごめんなさいね、間違えちゃった」ケラケラ

少女(…か、髪が短めだから間違えたんだよな。そうだろうな)ドキドキ

青年「まあ、ここでのお仕事は大変だろうけど頑張ってね」

少女「は、はあ」ペコ

青年「あ、私青年って言うの。ここの楼の一番の売れっ子なのよー」

少女「え、あなたが」

青年「そ。じゃあね」

バタン

少女「…あ、あれが一番?」

少女(いや、確かに背も高くてスタイル良くて色っぽいけど。…女っぽくないか?)

少女(…あいつ、青年さんに負けてるのかぁ…)ニヤ

少女「…くす」

少女(そうね。なんだか可愛げのない性格だし、とっつきにくいもの)クスクス

青年「ふんふーん」トタトタ

店主「青年、遅い」

青年「まあ、いいじゃないの~。間に合ってるんだし。よいしょ」

男娼「…」

青年「あらぁ、男娼ちゃん今晩は。今日も一番に来てるのね」

男娼「どうも」

青年「今日は寒いわね、お互いお茶引きにならないよう頑張りましょうねー」

男娼「…」ペコ

青年「…ところで」

青年「店主さん、さっき女の子が廊下うろうろしてたけど、何?雇ったの?」

店主「いんやぁ。ありゃ、あいつのだよ」

男娼「…」

青年「は?…どうゆうこと」

男娼「…確かに。僕のです」

青年「情婦、ってこと?あなたそういう柄だったかしら」

男娼「…彼女は」

店主「いらっしゃいませー!ほら、無駄話やめろ」

男娼「…」

少女「…」

少女(暇)

少女(店が開店したのか、人の声が多くなったけど)

少女(…お、音とか漏れないだろうな。気が気じゃないぞ)

ガチャ

少女「!?」ビク

見習い「…」ソォ

少女(…え、さっきの男の子だ)

見習い「あ、あのっ」

少女「は、はい?」

見習い「あなたが、少女さん、ですか?」

少女「う、うん」

見習い「…男娼さんから、あなたのお部屋にこれを届けるよう、言われました」ズイ

少女「あ、ありがとう(ご飯、か。そういえば食べてないな)」

見習い「…」ジー

少女「えと」

少女「そうだ。これ、あげる」

見習い「…あめ。…い、いいんですか?」

少女「うん。(青年さん、なんかごめん)どうぞ」ニコ

見習い「…」

見習い「…」カァ

少女「えっと、外どうなってるの?」

見習い「あ、もう店が開いてます。お客さんも座敷に入り始めました」

少女「そ、う」

少女「じゃあ外には出れないね。私今、暇してるんだ」

見習い「…ぼ、僕もです」モジ

少女「一緒にいてもらっていいかな?ちょっと居心地悪くて不安なんだ」

見習い「!」パァア

少女「私、少女。君は?」

見習い「み、見習いですっ」

少女(…かわいいなー。背格好は弟と同じくらいか)

見習い「…」ジー

少女「…ど、どうしたの」

見習い「少女さんは…何者なんですか?」

少女「何者も何も…えーっと」

少女(確かにこの店の人たちからしたら、不思議な立ち位置だね)

見習い「…男娼さんの、恋人って本当ですか?」

少女「こっ…いや、違う。違うから」

見習い「え、じゃあどうしてこんな所に囲われてるんですか?」

少女「囲われてる、って…。これには色々事情があるのよ」

見習い「…じじょう?」

少女「話せば長くなるんだけど…」

見習い「へぇー…。いいお姉さんですね」

少女「いや、情けない限りだと思う」

見習い「僕たちの店も、お客さん以外の人の出入りが少なくて」

見習い「昼にたまに来るあなたが、結構話題だったんです」

少女「え、そうなの?」

見習い「はい。だから男娼さんがこの部屋に入れちゃったときも、結構騒ぎになっちゃって」

少女「…なんか、恥ずかしい、けど」

見習い「けど、何だか男娼さんらしくないや」

少女「何が?」

見習い「あの人、あんまり人に固執しないんです。割り切ってるみたいで」

見習い「こうまでしてあなたを傍に置いておきたかったのかな、って」

少女「…それが疑問なんだ」

少女「何で私もあんなにあの人が絡んでくるのかがわかんないのよ」

見習い「さあ…」

少女「…男娼って」

少女「どんな人?」

見習い「え、っと…。お客さんは凄く多くて、憧れの先輩です」

見習い「けど、何だか…。あんまり周りの人と仲良くしないですね」

少女「…分かる」

見習い「たまに、すごく怖い雰囲気出してる時があるんです」

見習い「そういうときは、あんまり近づきたくないかな、なんて」

少女「そうなんだ」

見習い「け、けど。あの人本当に、仕事はものすごく上手なんですよ」

少女「…」

少女「あなたは、ここに何年いるの?」

見習い「僕ですか。2年ちょっとです。まだ全然ひよっこで」

少女(…この子も、男娼になるんだ。こんなあどけない子が)

少女(何があったんだろう、この店の人たちは。…誰にも、守られてこなかったのかな)

見習い「少女、さん?」

少女(…私、何か失礼なこと考えてたのかな、彼らに)

見習い「…あのぉ」

少女「なんでもない。…ね、札遊びしない?私、持ってるから」

見習い「…はい!」

青年「あらぁ、お姉さま~。また来てくださったの。嬉しい」

男娼「…」

新人「今日男娼さん、不調っすね」ボソ

店主「今日はなんかぴりぴりしてるもんなー…」

「…あの、彼を」

店主「はい、かしこまりました」

新人「げ、言ってる傍からかよ」

店主「男娼!お連れしなさい」

男娼「かしこまりました」スッ

店主「…お前、気合入れろよ」ボソ

男娼「分かってるよ」

店主「…」

新人「ああ、早くお客さんつかないかな…」

少女「…」

見習い「すぅ、すぅ…」

少女「…ん」ムク

少女「ふぁ…」

少女(あ、…。何時の間に寝てたんだろ)

見習い「…」スゥ

少女「よいしょ、と」パサ

少女(…やっぱ可愛い)ポンポン

少女「…」

少女(…静か、になった気がする)

少女(…もう真夜中だもんね。えーっと、そういうコトはもう終わって寝てるのかな)

少女(…お皿、片付けにいこうかな)カチャ

キィ

少女(音、立てないようにしなきゃ)ソロ

少女(…店先も誰もいない。やっぱ、皆寝て…)

ギシ

少女「…」ビク

「…あっ」

少女「……」

「ん、っ…!」

少女「………」

少女(ひ、冷や汗が、出る)ドキドキドキドキ

「ああっ…!」

ギシ ギシ

少女(そ、外でなきゃ良かった!盗み聞きしたみたいじゃん!か、帰ろう!)クル

少女「…あ」

少女(音がする方、男娼の部屋だ)

少女「…」

「は、あっ…。男娼っ…」

ギシ

少女(…なに、やってんの)

少女(なんで、部屋に帰らないのよ)

少女(なんで…男娼の部屋の方に行くの、私は)

少女「…」ソッ

「…なに。もうお終いなの?」

「もう、やっ…」

「もっとしてって言ったのは、そっちのほうじゃない」

少女「……」

少女「…」

少女「…」

少女(あの人は)

少女(どういう気持ちで)

少女(毎晩毎晩…)

「…っ、ぁああっ…!」

少女「!」ビクッ

少女(な、何やってんだ、私は。馬鹿みたい…)クル

少女(そう、皿。皿返しに来たんだった)タタ

……


少女(やっぱ、厨房にも誰もいないのね)カチャ

少女「…はぁあ…」

少女「ここで寝泊りとか…無理だろ…神経減るわ…」グタ

少女「もうこの空気感に慣れないもん…。無駄に緊張するし…」

少女「…あー」ワシャ

少女「寝よ、もう。…はあ」ヨロ

少女(…明日どういう顔して男娼に会えばいいのかな)

少女「…」ソロ

少女(…あ、れ)

少女(…私の部屋の扉、開いてる?)

少女(…ちゃんと閉めたと思ったんだけどなー)キィ

少女「…え。暗…」

ガッ

少女「!!」

「どこ行ってたの」

少女「なっ、なにっ…!」

「どこに行ってたの、って。聞いてるんだけど」

ドサ

少女「だ、誰!?やめて、離して!」

「…どこに、行ってた」

少女(…っ、カーテン、開け…!)シャッ

男娼「…」

少女「だ、男娼、さん…」

男娼「うん」

少女「び、びっくりしたぁ…。な、何やってるんですか。離してください」バッ

男娼「何処行ってたのさ」

少女「お、お皿を返しに行ってたんです。それより、あなたこそどうしてここに」

男娼「…」

少女「あれ。見習い君は?」

男娼「部屋に返したよ」

少女「そう、ですか。…で、何かご用ですか」

男娼「仕事終わったから。君に会いに来ようと思って」

少女「…お客さんのところいなくていいんですか」

男娼「いいよ、別に。寝てるし」

少女「はあ…」

男娼「こっち来て」

少女「…」

男娼「抱いて」

少女「…」

男娼「目で抗議するの、やめてくんない?」

少女「あ、のですね。お仕事で疲れてるだろうし、寝たほうが」

男娼「抱いて」

少女「…」

男娼「…あ、そっちの意味じゃなくて。抱きしめて、ってこと」

少女「ああ、そっちですか…」

少女「って、えーと」

男娼「早くして」

少女「…は、は…い」

少女「…こう、ですか」キュ

男娼「ううん」

少女「…」

男娼「君、弟を抱きしめることくらいするでしょ。あんな風にしてよ」

少女「ど、どうして急に」

男娼「ちゃんと頭に腕を回して。ぎゅう、ってしてよ」

少女「…」

男娼「早く…」

少女「…」ギュ

男娼「…はぁ…」

少女(何この状況…。や、やだ)

男娼「…もっと、ぎゅってしてよ…」

少女「は、はい」ギュ

男娼「…君、あったかい」

少女「…」

男娼「…」

少女「男娼、さん?」

男娼「…このまま、抱きしめててよ。…寝てたって構わないからさ。僕のこと、離さないで」

少女「…」

男娼「…」

少女(…子どもみたいな顔、するんだな)

男娼「…少女ぉ」

少女「はい」

男娼「……離れないで」

少女「…はい」

……


少女「…」

少女「…ん」ゴロ

少女(朝、か)

少女(…って、何だ。あれから記憶がない。まさかあの状況で爆睡したの!?)バッ

少女「…」

少女「な、何もない、よね」

少女「…男娼、何時の間に帰ったんだろう」キィ

男娼「あ」

少女「え」

男娼「今起こしに行こうと思ってた。君、寝すぎだよ」

少女「す、すみません」

男娼「全く。しかも身支度もしないまま外に出てるし。それでも女?」

少女「…」

男娼「朝ごはんだから。下に下りてきて。ちゃんと着替えてよ」

少女「はい」

男娼「じゃ」スタスタ

少女(…昨日のことには触れない、のね)

男娼「…」ピタ

男娼「君さ、男の前で無防備に寝ないほうがいいよ」

男娼「…何かあったら、どうするのさ」ニヤ

少女「…」

男娼「危機感なさすぎなんじゃない?びっくりしたよ」

少女「ご、ごめんなさい」

男娼「いきなり目を閉じたと思ったら寝息たてるんだもん。何か萎えた」

少女「なっ…」

男娼「あと」

男娼「…見習いと一緒に寝ないで」

少女「え」

男娼「寝ないで」

少女「は、はい」

男娼「じゃ」スタスタ

少女「…」

少女(何、なんだ。朝から)ムカ

少女(……昨日の、一体)

少女「…」

少女「ま、いいか」

落ちます!
多分今日はここまでです。
更新遅くなるかもしれませんが、消えた訳じゃないので根気良く待ってくれれば嬉しいです

少女(…朝ごはん、下でって)

少女(私男娼と混じってご飯食べるの?いいの?)

キィ

少女「…」ヒョコ

見習い「あ、少女さん」

少女「おはよう、見習いくん」

見習い「朝ごはんもうすぐですよっ。こっち、どうぞ」

少女「あ、うん…(男娼は…どこだろ)」

少女「皆こうやって集まって朝ごはん食べるの?」

見習い「ええ。朝はたいていこうですよ」

少女「へえ…。なんか、圧巻」

少女(一生にこれ以上の美男の群れを見ることはないだろうな)パチパチ

見習い「あ、すみません。こっちは僕のお師匠に空けてるんで、こっちに座ってください」

少女「え、お師匠?」

見習い「はい。僕、まだ店にあげられない新参小僧なんで。…色々教えてくれる先輩につくんですよ」

少女「へえ」

見習い「普段はお師匠のお世話したり、お稽古を受けてるんです」

少女「ふうん…。そういう手順なのね」

見習い「あ、お師匠だ!」

青年「ふぁあ…ねっむ…」ボリボリ

少女「あ」

見習い「お師匠、こっちです」

青年「…」

少女「ど、どうも。おはようございます」

青年「やっぱりあなた、男娼だったの?」

少女「ち、違いますよっ。昨日言ったじゃないですかっ」

青年「うふふ、冗談よぉー。何、もう見習いと仲良くなったの?」

見習い「仲良く、なんて…そんな」

少女「はい。色々教えてくれました」

青年「あらそお。まあ、良くしてやって頂戴ね」

見習い「…」モジ

少女「…あの」

青年「なあに?」

少女「男娼さんはどこにいますか?姿が見えないですけど」

青年「ああ、あいつ」

見習い「男娼さんは朝には降りてこないんですよ」

少女「そうなの?」

青年「ええ。野郎の群れでは食欲がそがれるんですって」

少女「…そ、そう」

青年「まあ、こんな待遇が許されるのは売れっ子だからねえ。ここの稼ぎ頭だもの」

少女(…それ、あなたじゃないの?)

少女「いただきます」

青年「いただきまーす」

見習い「いただきますっ」

ザワザワ

少女「…」ムグ

青年「まずい、でしょ」

少女「へ!?い、いえ。そんなことは」

見習い「分かります。僕も最初来た時、びっくりしましたもん」

少女「…ちょっと、うん。なんかしょっぱい、かな」

青年「そおよねえー!味も濃かったり薄かったり散々なのよ」

少女「厨房には、誰が」

青年「まあ下っ端の男娼がかわりがわりでやってるわね。お客に出す料理は基本仕出しなの」ズズ

青年「…うげ。辛い」

少女「そうなんですか…。なんか、大変なんですね」

少女(…夜に仕事するだけじゃないのね)

少女「…ごちそうさまでした」カタ

青年「ばいばい、少女ちゃん。またね~」ヒラヒラ

青年「ほら、早く食べなさい!さっさと稽古はじめるよ!」バシ

見習い「ひゃ、はい!」

少女(男娼…のところ、行くか)カタ

少女「男娼さーん」コンコン

「…どうぞー」

少女「失礼します」カチャ

男娼「ん」

少女「…って、え」

少女「なに、やってるんですか」

男娼「何って、掃除」

少女「…」

少女「そんな大規模な…年末じゃないんですから」

男娼「大規模?そうでもないよ。除菌薬までかけて2時間くらいで終わるしさ」ガサガサ

少女「…ま、まめなんですね」

男娼「そう?」

少女「…手伝いましょうか?」

男娼「んー…。じゃあ、お願いしようかなあ。布団干しておいてくれる?」

少女「はい」

少女「…」

少女(昨日、使った布団、か)

少女(…ここで、…その、仕事したのね)

少女「…よい、しょ」ボフ

男娼「…」ゴシゴシ

少女「…」ポン

少女「あの、男娼さん…」

男娼「…」ゴシゴシ

少女「…」

少女(…ベッドを、執拗に拭いてる…?)

男娼「……」ゴシ

少女「あの、次は何すればいいですか」

男娼「ん。ああ、ごめん。…埃はたいてくれる?」ゴシ

少女「わかりました(潔癖症なのかな)」

少女「…あ」

男娼「どうかした?」

少女「いえ。…この花瓶の花、綺麗だなと思って」

男娼「…ああ」

少女「でもこれ、ちょっとお水が少ないですね。入れましょうか」

男娼「別に、いいよ。どうでも」ゴシ

少女「でも折角綺麗なお花ですし。新鮮にしておきましょう」

男娼「…そうだね」ゴシ

少女「このお花…見ない種類ですね。何処の物ですか?」

男娼「花、好きなの?」

少女「まあ、結構」

男娼「…花屋で、買った」ゴシ

少女「へえー…。最近はこんな色のもあるんですね」

男娼「墓参りの献花のついでに、買ったんだ」

少女「…そうなんですか」

男娼「本当は2束だけ買おうと思ったんだけど。…なんか、1束余計に買っちゃったんだ」

少女「どうしてですか?」

男娼「…」ゴシゴシ

少女(…無口だな、珍しく)

少女「…」キュ

男娼「ありがと。捗ったよ」

少女「いえいえ」

男娼「…着替えるから、ちょっと出てもらっていい?見たいんならそれでいいけど」

少女「失礼します」

バタン

少女「…ふー」ノビ

新人「あ、少女さん」

少女「は、はい」

新人「近くの病院から、文が届いてますよ。どうぞ」

少女「ありがとうございます…」

少女(あ、弟の…ことね)

少女(…よかった。移送は無事出来たのね。手術は再来週、か。そっか)

少女(…退院の日位は、休みをくれるかな)

少女(頼んでみる価値はある、かも…)

男娼「何にやにやしてんのさ」ヒョイ

少女「うわああああああ!?」ビクッ

男娼「気味悪いなあ。何、これは。恋文かなにか?」

少女「い、いきなり取らないでください!返してください!」

男娼「…ああ。病院からのか」

少女「そ、そうですよ。もう、びっくりした…」

男娼「…」

少女「あの、返してください」

男娼「ん」ポン

少女「どうも」

男娼「…君」

少女「はい?」

男娼「呆れるほど弟思いだよね。…気色が悪いくらいだよ」

少女「な…」

男娼「さーて、今日は何しようかなー」ニヤ

少女「……」ムカ

男娼「あ、言っておくけど」

少女「なんですか」

男娼「…僕、君を手放すつもりはないよ。外にだって一人で出て欲しくないんだもの」

少女「…」

男娼「おいで。今日もやってもらうこと、あるから」

少女「は、はあ…」

少女「…」

男娼「ふんふーん」

少女「気になったんですけど」

男娼「なあに?」

少女「ここで働いてる人たちって…昼間は何をしてるんですか?」

男娼「んー、まあ暇だしごろごろしてるのが基本だよ」

少女(羨ましい限りだ)

男娼「けどまあ入りたての新参や見習いは、稽古をするけど。座敷遊びとか、あと…」

男娼「色仕掛けの、お稽古とか」クス

少女「…」

男娼「色仕掛けの…」

少女「二回言わなくていいです。聞こえています」

男娼「君、ほんっとに乾いてるなあ。何だか自信なくしちゃうよ」

少女「…余計なお世話です」ムス

少女「…男娼さんは」

男娼「んー?」

少女「弟子、とかとらないんですか」

男娼「いらない。面倒くさいし」

少女「は、はあ」

男娼「まあたしかに、弟子になりたいって新参は多いけどー」

男娼「弟子なんてお金かかるし邪魔だし、必要ないよね。うん」

少女「でも他の男娼さんにはほとんどいるみたいですけど」

男娼「やだよお。何で僕がわざわざ野郎を侍らせなきゃいけないのさあ」

男娼「…きもちわるい」ボソ

少女「え?」

男娼「やっぱり横にいてきもちいいのは、君みたいな可愛い女の子だよね」

少女「…」

男娼「あれ、赤くなってる」

少女「なってません」

男娼「なってるよ。苺みたい」ツン

少女「や、やめてくださいっ」

男娼「あはは。君からかうと面白いや。お客さんよりずっとウブだし」ケラケラ

少女「~っ…」

男娼「さて、と」

少女(…店先まで出てきた。何するのかな)

男娼「店主ー」

店主「あ?なんだ?今日も打つか」

男娼「やだよ。君恐ろしく弱いもの。外出するね」

店主「またかよ!お前最近多いぞ」

男娼「でーと、だもの。いいじゃない、ケチ」

店主「でーと?」パチパチ

少女「…(ち、違うぞ)」

店主「ああ、…おい、夕方には帰って来いよ」

男娼「はあい。行こう」

少女「は、はい」

……


少女「はぁ」ゲソ

少女(また大量の買い物と豪遊…。こいつ、借金とかどうなってんの)

男娼「ああ、気持ちよかったー。買い物ってきもちいいねえ」

少女「…こんなに買ってもらって、良かったんですか」

男娼「だって君の買い物楽しいから」

少女「はあ」

男娼「自分の買い物なんてほとんどしたことなかったんだけどねえ。やっぱ、女の子はいい」

少女「はあ…」

男娼「…と、もう日が落ち始めてる。僕、そろそろ準備しなきゃ」

少女「…」

男娼「何、その顔」

少女「え?…変な顔してましたか」

男娼「うん。なんか、寂しそうな顔してた」

少女「気のせいだと…思いますけど」

男娼「そうかな。僕、女の人以上に女の気持ちは分かるよ」

男娼「君…今、僕に仕事してほしくないって思ったでしょう」

少女「いえ、…いえいえ」ブンブン

男娼「本当ー?」ズイ

少女「は、はい。だって、私なんかがあなたの仕事に口出しなんて…」

男娼「…」

少女「できませんし…」

男娼「ふうん」

少女(え、そっぽ向いちゃう?)

いつも書き溜めてんの?

男娼「ただいまー」

店主「てめえ、遅い!早く準備しろ!」

男娼「はいはい、うるさいなー」トントン

少女「あ、あの。私も何かお手伝い…」

男娼「あ、じゃあ部屋で着物準備しといて。ちょっと寄る所あるから」

少女「分かりました」タタタ

カチャ

少女(えーと、着物、着物)

少女(クロゼットの中かな。よいしょ)ギィ

少女(…おう。いっぱいあるけど、どれなのかな)

少女「…」フワ

少女(すごいいい生地。…それに、いいにおいする)

少女(…えーと、どうしよう。…)ゴソ

少女「…ん」

少女(なに、これ。……箱?宝石箱かな。綺麗)

少女「…」

少女「…」キョロキョロ

少女「…」パカ

>>231
あらすじだけ書いてほとんど即興です。誤字多くてごめんね

少女「う、わー」

少女「綺麗…。すごい…」

少女(見たことない装飾品ばっかり。…あ、こっちは煙管?すごーい)

少女「…」

少女(私もお金あったら、こういうの着けてみたいなあ、なんて)

少女(…このピアスとか、可愛い。男でも女でも着けられそう)

少女(…当てるだけ、なら。いいかな)ピト

少女(鏡、は)チラ

少女「…」

少女「ふふ。…あはは」

少女(私になんか、似合わないよねー。こんなきらきらしたぜいたく品)クス

「…何してんの」

少女「!」ビクッ

「何、触ってんの」

少女「あ、男娼、…さん」

少女「ご、ごめんなさい。私…あんまり綺麗だったから」

男娼「…きれい?」

少女「は、はい。違うんです、盗もうとかじゃなくて、ただ触ってみたくて…」

男娼「それ、置いてよ。…今すぐ」

少女「…」コト

男娼「何で…何でこんな」

少女「男娼さん、本当に。…ただ、着けてみたかったんです。勝手に開けてごめんなさい…」

男娼「…」

少女「あ、の。男娼さん…?」

男娼「違う!!」

少女「…っ」ビク

男娼「そうじゃない!そういうことが言いたいんじゃない!」

男娼「何で触った!!何で、こんなものっ」バッ

少女「きゃ…っ!」

男娼「これ、これ…!汚いじゃないか…!何で君が、触っちゃ駄目だ。駄目っ…」ギリ

少女「い、たいっ…!男娼さん、離し…」

男娼「君の手が、君の…。汚れちゃう…!こんな物、触るなよっ!!」

ガシャッ

少女「ひ、っ…」

男娼「…っ」グイ

少女「な、にっ…」

男娼「…」ペロ

少女「…!」

男娼「…ぁ、っ…」チュ

少女「な、何やってるんですかっ!やめて!」

男娼「だって君が!君が、こんな汚い物触るから…!消毒しないと」

少女「嫌、だ…!こんなの!やめてってば!」

男娼「君の手、綺麗じゃないと、…駄目なんだ…。綺麗じゃないと…」

少女「…っ」ゾワ

男娼「あむ、…ちゅっ…」

「男娼ー!まだかよー!店開くぞー」

男娼「…!」

少女「はぁ、はあ…」

男娼「…」スル

少女「…っ」

男娼「ごめん…。ごめん、嫌だった?」

少女「…」

男娼「手…。これで、拭いて」ファサ

少女「…」

男娼「ごめん、少女…。僕」

少女(…さっきの顔じゃない。…いつもの男娼さんだ)

男娼「…ごめん」

少女「何で、こんなこと…」

男娼「…それ」

男娼「客から貰ったものなんだ」

少女「そう、ですか」

男娼「君に…触って欲しくなかった。こんな、汚い…もの」

少女「…」

男娼「…処分しておくから。もう、勝手に触らないで。お願い」

少女「ごめん、なさい」

男娼「君は悪くないさ」チャリ

「男娼-!」

男娼「今行くー!」

男娼「…じゃあ。君は昨日の部屋で待っていてくれればいいから」クル

バタン

少女「…」

少女(…指、熱い)

少女(男娼に、舐められたところが…熱い)ギュ

今日はここまでです。
生暖かい目で見守ってね

あ、あと絵描いてくれてありがとうございました!
少女のイメージはショートカットで活発なかんじ
男娼はひょろくて中性的な優男ってかんじですかね

千と千尋の世界観、いいですね
湯屋も風俗店だったって解釈ありますし…。

少女「…」

キィ

見習い「あの、少女さん…?」

少女「…ん」

見習い「ああ、起きてたんですか。…あの、どうかしたんですか。ご飯も食べないで」

少女「なんでもない…。ちょっと、食欲湧かないの」

見習い「えっ!病気、ですか?」

少女「ううん」

少女(…そうじゃない)

見習い「顔色も悪いですよ。大丈夫ですか?」ペタ

少女「…」

少女「あの、さ」

見習い「はい?」

少女「男娼、って」

見習い「はい」

少女「…」

少女「ううん、なんでもない。…札遊び、する?」

見習い「え、…はい」

少女(…こんなこと言っても、どうにもならないしな。…忘れよう)

男娼「…」ムク

女客「…ん。男娼ぉ」

男娼「…」

キィ

男娼「…あ」

男娼(…電気、ついてる)

カチャ

少女「う、わ」

男娼「…まだ起きてたの、君」

少女「あ、はい。まあ。…お疲れ様です」

男娼「見習いは?」

少女「部屋に返しました。もう遅いので」

男娼「ふうん」ギッ

少女「…」

男娼「よいしょ」

男娼「…昨日の、またやってくれる?」

少女「はい?」

男娼「抱っこ。してくんない?」

少女「…」

男娼「お願い」

少女「はあ、まあ。…いいですけど」ギュ

少女「…」

男娼「あー…疲れた。もう面倒くさいよお…」クタ

少女「なんか」

男娼「うん?」

少女「いつもどおり、ですね」

男娼「どういうこと」

少女「だから、夕方のことです。…怒ってるのかと、思ってました」

男娼「怒る?」

少女「はい。…違いますか」

男娼「君にはそう見えた?」

少女「いいえ」

男娼「うん。怒ってた訳じゃない。そうじゃないんだ」

男娼「…まあ、気にしなくていいよ。…怒鳴ったりして悪かったね」

少女「い、いえ」

男娼「それに、指も…。噛んだつもりはないけど、怪我してない?」

少女「してないです」

男娼「そう。なら、まだ気が休まる」ギュ

少女「…どうして、あんなことを」

男娼「…」

少女「男娼さん?」

男娼「…すぅ、すぅ…」

少女「…」ナデ

男娼「ん…」

少女(…理由を、聞きたかった)

少女(だってあの時、…今まで見たことないくらい、悲しい顔してたもの)

僕、これから何処へ行くの

「ああ?…まあ、着いてからのお楽しみだ」

もうあの家には、戻らないの?

「そうだ」

そう

「…お前、どうして泣かないんだ」



「まあいい。変な子どもだ」

ここ、何処なの

「…色町だ。いろまち。分かるか?」

ううん

「そうか。お前まだ、6歳だもんな」

うん

「まあ、…住めば都、ってもんよ」

僕ここに住むの?

「ああ。そうだ。…ほら、見えるか?あの店で、今日から働くんだ…」

…そう、なの

「立派にやれよ、坊主」

……


少女「はあ、お休み、ですか」

男娼「そ。まあ少し早いけど、今日は暇をあげる」

少女「あ、ありがとうございます」

男娼「まあ実際、僕昼に用事があるからなんだけどねえ」

少女「そうなんですか」

男娼「夕方に帰ってくるのなら、外出してもよし。ただし行き先を僕にちゃんと言ってね」

少女「…」

少女「じゃあ、病院に行ってもいいですか」

男娼「首都の?」

少女「いや、私の足じゃ無理ですよ…。町のほうのです」

男娼「ふうん。まあ、いいけど。変な寄り道しないでよね」

少女「分かってますよ」

男娼「…あ、そうだ」

男娼「少女、手を出して」

少女「はい?」スッ

男娼「どうぞ」チャリ

少女「何ですか、この袋」

男娼「んー、お小遣い?」

少女「えっ、と。いただけません」

男娼「馬鹿。お昼とか足代どうすんのさ。いいから貰っておきなよ」

少女「…でも」

男娼「あー、もうっ。僕君のそういう、遠慮しがちなところが嫌いだよ!好意は黙って受け取ってよね」

少女「は、はい」

男娼「お菓子なり髪留めなり、好きに使ってよ。じゃ、僕準備してくる」

少女「行ってらっしゃい、男娼さん」ペコ

男娼「…」

男娼「う、ん」

男娼「君もね。…気をつけて」

少女(さて)

少女(昨日の怪事件から半日が経った訳なんですが)

少女(薄々予想はしてたものの、やっぱスルーなのね)

少女(…まあ、いいけども。…考えるだけ無駄なのかもね)

店主「お、いってらっしゃーい」

少女「いってきます」

少女(…なんか、ここに違和感なく馴染み始めてる自分が怖いわね。まだ2,3日だってのに)

=町病院

医者「勿論。容態は安定してますし、歩き回る元気もあるようですよ」

少女「そうですか。よかった」

医者「そうそう、彼から手紙も預かっていますので、どうぞ」

少女「手紙…ですか。ありがとうございます」

少女「…」クス

医者「手術も彼なら乗り越えられるでしょう。安心してください」

少女「ありがとうございます、先生」

少女「手紙、だって」

少女「…ふふ。らしくないわね」

少女(何、書いてあるのかなー)

少女「…」ピタ

少女(やめた。楼に帰ってから、ゆっくり。ゆっくり見ようっと)

少女「…ふんふーん」

……


青年「あら、おかえんなさぁい」

少女「あ、青年さん。こんにちは」

青年「男娼…とは一緒じゃないのねえ。当たり前か」

少女「彼、用事があるって言ってたので」

青年「用事、ってか仕事よねえーこの場合」

少女「…?」

青年「あの子、今日は昼から固定客のお屋敷に招かれたのよお」

少女「…そう、ですか」

青年「そう。もうかれこれ5年ほどの付き合いのお客なんですって」

少女「ふ、ふーん」

青年「…妬いてるのかしら」

少女「あのですねえ、どうして私が彼のことを」

青年「あははっ、冗談よ冗談っ。…本気で否定するなんて、可愛いわねー」

少女「そ、その可愛いとか言うのやめてくださいっ。むず痒いんですよっ」

青年「でも私、女性に媚びうるのが仕事なんですもの。やめらんないわ」ケタケタ

少女「…。失礼します」ハァ

青年「あら、ちょっとお待ちよ」クイ

少女「わ、と。何ですか」

青年「私もちょっと手持ち無沙汰だったとこなの。ちょっと付き合ってくれない?」

少女「…は、はい…」

青年「んふ、美味しい?」

少女「はい。とっても」モグモグ

青年「そうよねえー。ここのお寿司、今まで食べた中でいっちばん美味しいと思う」

少女「…幸せ、です」ゴクン

青年「良い食べっぷりだこと。面白いわね、少女ちゃんって」

少女(…それ、男娼にも似たこと言われたな。そんなにおかしいかな?)

少女「…」

少女(男娼、か)

青年「あともう一貫いこうかしらー。でも夜キツくなるのもなー…」

少女「あの、青年さん」

青年「なあに?追加?」

少女「…いえ。ちょっと、お聞きしたいことが。というか、その」

少女「相談、があるんですが」

青年「相談?」

少女「…て、おかしいですよね。…すみません、馴れ馴れしく」

青年「ちょっと、やだ。何なのよ」クス

少女「忘れてください…。なんでもないです」

少女(…青年さんに話したところで、何も変わらないし。第一そんな間柄じゃないよね)

青年「ちょっと、気になるじゃないの」

少女「えーっと、何か食べます?給仕呼びましょうか」

青年「おいこら、言いなさいってば」ペシ

少女「う。で、でも」

青年「言いたいことがあるなら言えばいいじゃないのー。こっちは暇なのよ。何でも聞けるわ」

少女「…」

青年「何、遠慮しないで。私達もう友達じゃない」

少女「…あはは」

少女「青年さん、って。いい人ですよね」

青年「…何よ。からかってるの?」

少女「いえ。乗って欲しいです、相談に」

青年「いいわよ。どんと来なさい」ドン

少女「……って、ことが。あったんですけど」

青年「何それ、やらしい」

少女「…やめてください。真剣な話なんです」

青年「大体最初からおかしいと思ってたのよねえー」ズイ

青年「あいつ、やっぱあんたのコト狙ってんのよ。だって目がマジだもの」

少女「ね、狙ってる?」

青年「絶対そうよ!あんたが薬売りとして来ていたときも、様子が変だったし!」

少女「まさか、そんな」

青年「あんた恐ろしいくらい危機感ないわね…。男知らないんでしょう」

少女「い、今それ関係ないです」

青年「…お金で囲ってるあたり、本気度は疑いようもないけど」

青年「…本当、柄じゃないわね…」

少女「で、その…。夕方の件は、一体何なんでしょうか」

青年「汚い、とか汚れる、とか行ってたんでしょう?…まあ、そのまんまよ」

少女「…?」

青年「多分あいつ、私達が思ってる以上にあんたを潔白なものだと思ってるんだわ」トン

少女「潔白?私が?」

青年「そ。実は私、結構あいつとは付き合い長いんだけど」

少女「え、そうなんですか!…友人ってこと、ですか」

青年「…」

少女(え、微妙な顔)

青年「まあ、うーん。同僚よね。…まあ、第三者目線的に、よ」

青年「あの子、結構情緒不安定なのよね。だからカッとなって行動しちゃったんだとは思うけど」

青年「…あんたに非はないわよ。それに、あいつも別に怒っちゃいない」

少女「…本当ですかね」

青年「そうよお。案外朝もケロっとしてたでしょ?そういうやつなの」

少女「成る程…確かに」

青年「あんたがあいつの中で驚くほど重要なものになってるんでしょうよ」

青年「だから自分の汚い…まあ、客から行為と引き換えにもらった貢ぎもの…を、触って欲しくなかった」

少女「…私が、重要。ですか」

青年「だってどう考えてもそうでしょ。いい加減認めなさいよ」

少女「…」

青年「でも、どうなのかしらね。それが性欲からなのか、単純に友愛なのかは分からないわ」

少女「…はあ…」

青年「まあ一ついえることがあるわね」

少女「何でしょうか」

青年「あんた、逃げるのなら早めにしたほうがいいわ」

少女「…」

青年「気づいてる?後をじわじわ無くされて行ってる感覚」

青年「あいつは、欲がない子だった。…それって、一度執着しちゃったら他人の非にならない、ってことでもあるじゃない」

少女「しゅう、ちゃく。ですか」

青年「そう。…きっと近いうちに、あいつはあんたを完全に手に入れようとするでしょうね」

青年「どんな手段を取るのか、想像もつかないわ。…けど、必ず」

少女「…」

青年「だからあんたは、今のうちに逃げ道を作っておいたほうがいい」

少女「どうしたら…」

青年「んー…。妥当な道は、お金を返すことなんだけどねえ」

少女「…う。…気が遠くなりそう」

青年「銭がないって辛いわね」

少女(…逃げ道、か)

少女(そりゃ、…いつもどおりの日常に戻れたら、それに越したことはないけど)

少女(…彼は、どう思うだろう)

青年「…ってことで。はあ、疲れた」

少女「ありがとうございます。参考になりました」

青年「いいのよ。…でもあんた、もうちょっと気をつけなさいよねー」

少女「わ、分かってます」

青年「何かあったら私でも店長でも見習いでも、誰でもいいから声かけなさいね」

青年「あいつも男娼って職業上、あんまりカゲキな手段には出れないだろうけど。用心しなさい」

少女「はい…」

青年「んじゃ、帰るか。そろそろ夕方だものね」

少女「ごちそうさまでした」ペコ

青年「いいってことよ」

……

青年「たっだいまー」

少女「ただいま…」

青年「…って、おっと」

男娼「だからさあ、嫌な物は嫌だと言っているじゃない」

店長「はあ?お前何時から仕事を選べる身分になったんだ?」

青年「…戦争勃発中ね。退散しましょ」

少女「え、で、でも」

男娼「冷静に考えてよ。そんなことしたら夜の仕事が回らないじゃない」

店長「だから、夜は入らなくて良いって言ってんだろうが。お前はお得意さんの相手を昼、それか夜やりゃいんだよ」

男娼「…っ」

店長「いいか、相手はでかい名家の令嬢だぞ?実入りはバツグンだ。夜働くより効率がいい」

店長「なによりお前をいたく気に入ってる。何が不満なんだよ?なあ」

少女「…」ジ

>>272店長、じゃなくて店主な。ごめん

男娼「…僕、嫌だよ」

店主「お前最近調子に乗ってないか?嫌だ、じゃねえ。拒否権があんのか?お前に」

男娼「…」

店主「お前は売れっ子だから少しの我儘も許してやってたが…限界があるんだぞ」

男娼「…僕」

男娼「あの女は嫌だ。もう触りたくない」

店主「…お前」ガタ

青年「あ、やば」

少女「…!」

店主「最近仕事にも身が入ってないだろうが!甘ったれた物言いはいい加減よせ!」

男娼「…うるさい。他の男娼をあてがってよ。僕はもう、降り」

店主「男娼ぉっ!」ブン

少女「…っ!」ダッ

青年「あ、ちょ、ちょっとお!?」

少女「や、やめてくださいっ!」ガバッ

男娼「!…少女…。何、何時の間に」

店主「お、…いや少女ちゃん。これはその」

少女「暴力は、駄目です。…話し合いしてください。お願いします」

男娼「もう、邪魔しないでよね。今この悪徳経営者と話をつけようとしてたんだから」

店主「なっ」

男娼「ほら、どっか行った。また後で呼ぶから」

少女「…」

店主「…ははあ」

男娼「何さ」

店主「お前、この子か」

男娼「はあ?」

店主「ふざけるのも大概にしろ。お前、自分の立場を良く考えたのか」

男娼「…何、が」

店主「お前の職業は何だ」

少女「…店主さん」

男娼「男娼、だけど」

店主「何をして金を稼ぐ」

少女「店主さんっ」

男娼「女と寝る」

少女「…っ」

店主「そうだ。お前はこの楼で管理された男娼で、しかも売れっ子だ」

店主「そんなお前が人並みに…」

少女「…」

店主「分かるだろうが。お前のやってることは、自分の首を絞める行為だろ」

男娼「…言ってる意味がよくわかんない」

店主「ああ、そうか。じゃあはっきり言ってやろうか」

男娼「やめろ。…少女の前で言うな」

店主「仕事の障害になるものは、捨てろ」

少女「…!」

男娼「…っ、てめえっ…!」ガッ

少女「や、やめて!」

青年「こらこら!二人ともいい加減にして!」

店主「…っ。待てよ。落ち着けって」

男娼「…」ギリ

店主「俺が言ったのはあくまで障害を捨てろ、ってことだ。少女ちゃんなんて言ってない」

店主「…お前が仕事をまっとうすれば、障害なんてない。そうだろ?」

男娼「…」

少女「…男、娼」

男娼「…」

店主「違うか、男娼」

男娼「…ううん。違わないね」スッ

店主「…だろ」

少女「…」

男娼「はぁ…。悪かったよ。熱くなった」

男娼「仕事はするさ。…だから少女をとりあげないで」

店主「ああ」

男娼「…あの人からの呼び出しも全部通してくれていいから」

男娼「行くよ、少女」グイ

少女「あ、…ちょっと」

青年「…」

店主「…」

店主「はぁ…」

青年「…ったく、どいつもこいつも」

バタン

男娼「…」

少女「あ、あの」

男娼「ね、今日何やったの?ちゃんと遊んだ?」クル

少女「さっきの話」

男娼「君、ちゃんとお小遣いは有効活用できたの?」

少女「男娼さん…」

男娼「君の話が聞きたい。話してよ。ねえ」

少女「…私はあなたの話が聞きたいです」

男娼「…」

男娼「あんな揉め事よくあることだよ。何気にしてんの」

少女「でも、私」

男娼「…」

少女「あなたの、邪魔に」

男娼「違う」グイ

少女「わ、…」

男娼「違うから。それは、絶対」

男娼「…僕、頑張る。だから傍にいて。お願い、いてくれるだけでいいから…」

少女「…どうして、あなたは」

少女(…あんな)

少女(自分の仕事を聞かれたときも)

男娼「君といると楽しいしさあ」

少女(仕事を受け入れた時も)

男娼「第一、借金ある身のくせに。勝手に離れたら承知しないよ」

少女(…傷ついた顔、してたのに)

男娼「分かった?」

少女(それなのに、なんで)

少女(…一瞬で諦めたような顔に、なるの)

少女(どうして、自分のことは諦めるのに、私の事は…)

男娼「…少女?」

少女「…」

少女「私が」

男娼「ん?」

少女「あなたにできることって、…何ですか」キュ

男娼「…」

男娼「一緒にいてくれること」

少女「…」

少女(本当に、それだけなの)

少女(逃げ道)

少女(って、何だろう)

少女(私がこの人を置いて逃げたら)

少女(…彼はどうなってしまうだろう)

男娼「…」ゴロ

少女「…」

男娼「手、握ってよ」

少女「はい」

男娼「…夜に仕事がないって、いいな」

少女「…」

男娼「僕、…こうやってるほうが、ずっと呼吸が楽だ」

少女「そう、ですか」

男娼「…君」

男娼「僕のこと…」

少女「…」

男娼「ううん。…やっぱいい」ギュ

少女(逃げ道が必要なのは)

少女(…この人、なんじゃないだろうか)ギュ

今日はここまでです。
なんかダラけた感がありますがー
明日は多分、物語の核心部分に入れるかな?ってかんじです。
辛抱強く読んでね

……


少女「え、もうですか」

青年「そうよぉ。早朝に召抱えが迎えに来て、行っちゃったのよ」

少女「そう、なんですか」

青年「寂しいの?」

少女「いえ、…そういうわけでは」ポリ

見習い「男娼さん、最近忙しいようですね」

少女「…うん」

青年「あの固定客もなかなか大胆な手に出るようになったわねー」

青年「男娼を楼から呼び出すなんて、一体幾らかかるのかしら」

少女「…」

見習い「あの、少女さん?」

青年「…」

青年「見習い、さっさと接客の稽古するわよ」グイ

見習い「えー…」

少女「…」ペコ

青年「じゃあね少女。お昼になったらまた一緒にご飯食べましょ」

少女「はい」

少女「…むー」

少女(…暇だ)

少女「…」ポリ

少女(時間があると、色々考えちゃって嫌だな)

少女(…青年さんも稽古だし。薬売りのときは毎日忙しくって暇なんかなかったのにな)

少女「…」ブラブラ

ガシャン!

少女「!」ビク

「あああああーー!?」

少女(な、なんだこの音。厨房から?)

少女「…」タタタ

少年男娼「…うあ。やっちゃった…」

少女「…」

少年「…あ」

少女「ど、どうも」ペコ

少年「あぁー!薬売りの女の子だー!」

少女「!」ビクッ

少年「なんで君ずっとここにいるの!?もしかして売られちゃった!?」

少女「ち、違います。まあ色々あって…男娼さんの小間使いをしてます」

少年「お金で囲われたって本当なの?どうしてどうして?」

少女「…」

少年「あ」

少女「えーっと」

少年「ごめんねー!俺うるさかったよねー!聞かれたくないこともあるよね!」

少女(なんだ、この子…)

少年「それよか俺、仕事あるんだった!うだうだしてたら怒られちゃう!」

少女「…その割れた皿、どうしたんですか」

少年「ああ、落としちゃったんだよねー」

少女「あ、駄目。手で拾っちゃ駄目ですよ」タタ

少年「え!いいよ、俺がやるからさあ!」

少女「いえ、手伝いますよ(見てて危なっかしいし)」

少年「ありがとね!君、すっごく片付け上手なんだね」

少女(逆にどうやったら厨房がここまで汚くなるのかな)

少年「俺、少年!君は、少女だったよね?」

少女「はい。…あの、ここで何を?」

少年「ああ、俺飯炊きの仕事任せられてるんだー」

少女「…?あ、まさか朝ごはんもあなたが?」

少年「うん!俺お客もなかなかつかない下っ端だから、雑用任されてんの!」

少女(…大変だなあ)

少年「そろそろお昼を作らないといけないから、急いで準備してたんだー」ガシャガシャ

少女(お、おい…。雑だよ、器具をそんなに引っ掻き回して…)

少年「えーっと、ああー!」ガシャーン

少女「…」ウズウズ

少年「あっ、やべっ!」ビシャ

少女「…あのっ」

少女「いいですか、じゃが芋はちゃんと芽をとって、水にさらしてから使うんです」

少女「それに、この野菜の皮!厚く剥き過ぎです。勿体無いじゃないですか」

少年「う、うんうん」

少女「お肉は最後に切らないと駄目です!まな板をいちいち洗わないようにしなきゃ」

少年「へえ…」

少女「それから、お味噌汁はちゃんと出汁を入れなきゃ味しませんよ!ほら、その昆布とって!」

少年「う、うん」

少女「……」テキパキテキパキ

少年「すげー…」

少女「慣れっこなので」

少年「何かごめんねえー!全部ほとんど君にさせちゃった!」

少女「いいんです。口出しした以上はやり遂げたいので」

少年「でも俺、君の言ったことちゃんと覚えたよ!こうでしょ!」

ガシャーン

少年「ありゃ」

少女「…」

少年「あはは、君みたいに上手くできるには時間かかるみたい」ケラケラ

少女「…あの」

少年「んー?」

少女「私、暇なときは手伝いますよ」

少年「えっ…」

少女「本当、ここでやること何もないんです。だから、一緒に分担して料理しませんか?」

少年「いいのぉ!?でも、君、男娼さんの…」

少女「男娼さんに呼ばれたときは、無理ですけど。それ以外なら全然大丈夫なんで」

少女(それに、すっごくウズウズするし)

少年「いいのぉ!?本当に!?」ガシ

少女「う、うん」

少年「ありがとー!すっごくすっごく助かる!」ブンブン

少女「あ、あはは」

少年「俺嬉しいよ!こんな優しい人初めて見たー!」

少女(えええ…?)

青年「…うお、うまっ!?何これ!?」

少年「ずげーだろ!少女が手伝ってくれたんだぜ!」

青年「手伝ったってか、これほとんどあんた手出ししてないでしょ」

少年「どうしてバレたのー?」ケラケラ

少女「少年さんはまず、包丁の持ち方からはじめないとだめですね」

見習い「あはは、確かにそうかも」

少年「皆ちょっと、ひどくない?」

青年「ひどいのはてめーの料理の味だろが!ほとんどの男娼が、外に食べに行ってんのよ」

少年「ええ!昼に人が少ないと思ったら…」

少女「た、確かにあの味じゃ…」

少年「まあ、これからは少女先生が指導してくれるから大丈夫だよー!」

青年「ほんっと。これでご飯に異物が入ってないか確かめずに済むわ」

少年「先輩ー!あんまりだー!」

少女「…」クス

少女(なんか、楽しいなー)

少年「少女、本当ありがとねー!」ニコニコ

少女「…」

少女「…う、うん」カァ

=屋敷

男娼「…」

召使「…お嬢様がお出でになります」

男娼「ん」

カララ

男娼「…」ペコ

男娼「お嬢…。本日もお招きいただき光栄です」ニコ

令嬢「…ちょっと遅かったわね。待ったわよ」

男娼「申し訳ありません。でも僕、あなたに会いたい一心でできるだけ急いだんですよ」

令嬢「…」クス

令嬢「召使、もういいわ。下がりなさい」

召使「はい」

男娼「…」

令嬢「さ、今日は何処に行く?私、そろそろ新しい着物が欲しいの」

令嬢「男娼も似たような柄のものを買いましょうよ。…ね?」ギュ

男娼「…はい、お嬢」ニコ

令嬢「…似合ってるわよ、男娼。本当、お前は綺麗ね」

男娼「そうですか?お嬢には叶いませんよ」

令嬢「まあ。…ふふ、言うようになったわね」

令嬢「あ、そういえば前に私があげたキセル、使ってくれてる?」

男娼「…ええ、勿論」

令嬢「そう、嬉しいわ。他の女からもらった物で吸っちゃ、嫌よ」

男娼「はい。お嬢のものしか、使っていませんよ」

令嬢「うふふ。…男娼」ギュ

男娼「…」

令嬢「最近ね、お父様が意地悪を言うの。夜に色町に行くな、って」

令嬢「男娼に夜会えないのはたまらなく寂しいわ。…楼の外じゃ、愛し合うこともできないし」

男娼「僕も、寂しいです」

令嬢「…男娼が他の女と寝てる、って思うと。…私」

男娼「…お嬢。でも、それは」

令嬢「分かってるわよ。仕事だものね」

令嬢「でも、お前は私の呼び出しに応えてくれるし」

男娼「お嬢が大切ですから」

令嬢「…嬉しい」ギュ

令嬢「ね、男娼。こっちを向いて」

男娼「…はい」

令嬢「…ん」

男娼「…」

令嬢「お前の唇、好きよ」クス

令嬢「お前は?私の、好き?」

男娼「はい。たまらなく」

令嬢「うふふ。…男娼、好き」

男娼「僕もです、お嬢」

令嬢「…でも、最近嫌な噂を聞いたわ」

男娼「噂、ですか」

令嬢「そう。お前がどこぞの娘を楼に囲ってる、って」

男娼「…」

令嬢「本当なの?」

男娼「事実です」

令嬢「…!どうしてっ」ギュ

男娼「落ち着いてください。別に深い意味はないですよ、小間使いとして雇ってるんです」

令嬢「じゃあ何で女である必要があるのかしら?」

男娼「逆に男である必要もないでしょう」

令嬢「…どういうこと」

男娼「だって、ただの雑用係ですから。男でも女でもどうでもいいです」

令嬢「まあ。冷たいのね」

男娼「…彼女、安かったですし」

令嬢「まあ」クスクス

令嬢「そうだったの。疑ってごめんなさいね。私、てっきりあなたが浮気したのかって」

男娼「そんなこと、絶対にないですよ」

令嬢「そうよね。私の事、一番に好きでいてくれるものね」

男娼「ええ」

令嬢「…男娼。早く一緒になりたいわ。あなたを不名誉な仕事から解放してあげたい」

男娼「…」

令嬢「でも、身請けも色々と面倒なのね」

令嬢「お父様もいまいち反応がよくないし…。値段交渉も行き詰ってるの」

男娼「お嬢、無理はなさらず」

令嬢「無理?そんなの、ないわよ!だってあなたを助けてあげられるんだもの」

男娼「…助ける、ですか」

令嬢「ええ!身請けができたら、すぐにだってあなたと結婚して、家を継がせてあげるわ」

男娼「…」

令嬢「待ち遠しいだろうけど、辛抱してね。愛してるわ、男娼」チュ

男娼「…ええ。僕も」

男娼「愛して、います」


召使「さようなら…。お気をつけて」ペコ

男娼「…んー」

男娼「…はぁ…」ボリボリ

男娼「あ、ごめん待って」

召使「はあ」

男娼「桶に水汲んで持ってきてくれない?あと、手ぬぐいも」

召使「はい」

男娼「…」ボリボリ

男娼(…少女、なにしてるかな)

召使「お待たせしました。どうぞ」

男娼「ありがと」チャプ

男娼「…」ゴシ

男娼「……」

ゴシゴシ

召使「…」ジ

召使「男娼様」

男娼「なに?」ゴシゴシ

召使「どうしてお嬢様に会った後、そうやって体を洗うのですか」

男娼「…」

男娼「いえない。君、告げ口するだろ」ニヤ

召使「…」

男娼「よし、と」フキ

男娼「じゃ、また。ばいばい」

少女「ふんふーん…」

店主「悪いねぇ、店先の掃除なんか、他の奴にやらせるのに」

少女「いえ。皆さんそろそろお仕事の準備しはじめますし」

カラ

男娼「…あれ」

少女「あっ」

男娼「何、お出迎えー?」

少女「…そんなとこです。お帰りなさい、男娼さ」

男娼「…」グイ

少女「ん」

店主「わお」

男娼「ただいまぁ、少女ー…」ギュウ

少女「ち、ちょっと。ここ外ですよ」

男娼「会いたかった。すっごく、会いたかった」

少女「う…」

男娼「君、案外寂しかったろ?」

少女「ま、まあ。手持ち無沙汰ではありました」

男娼「素直じゃないの」

店主「…店先でいちゃいちゃしないでくれる?」

男娼「はいはい」

少女「今日、夜はお休みなんですか」

男娼「うん。昼拷問を受けたから」

少女「ご、拷問?!」

男娼「そうそう」

少女「だ、大丈夫なんですか!痛いところとか、ある…」

男娼「君…あはは。例えだよ、馬鹿だなあ」

少女「…」

男娼「夜は暇だから、何かして遊ぼう。君、札もってたろ?僕強いんだよ」

少女「やりましょう」コク

少年「少女おーー!」ドン

少女「うお!?」

少年「ねえねえ助けて!お魚焦がしちゃったんだけど!」

少女「何で!?行ったとおりにやれば簡単でしょ?」

少年「わかんないよおー!助けてー!」

男娼「…」

少年「あ、男娼さんだ。おかえりなさいっ」

男娼「ちょっと、彼女を放して」グイ

少年「ああ、ごめんなさいー」パッ

少年「早く来て、消し炭になっちゃう!」

少女「信じられない…。すみません、ちょっと行ってきても」

男娼「だめ」

少年「ええ?!」

男娼「早くおいで、少女」グイ

少女「ちょ、」

バタン

少女「…」

男娼「…」

少女「お、怒ってますか」

男娼「何に対して?」

少女「ごめんなさい、勝手に…。あまりに暇だったんで、厨房のお手伝いを」

男娼「ふうん」ギシ

少女「…」

男娼「…いいんじゃない、別に」フイ

男娼「君が僕の不在のときには、何しても良いって言ってるし」

少女(…急に機嫌悪くなってるし)

男娼「なにやってんの、座りなよ」

少女「は、はい」

男娼「…」

少女(帰ってきたときから、なんとなく嫌な雰囲気だったもんな)

少女(何か、あったのかな)

男娼「…何、見てるの」

少女「…」

少女「札遊び、しましょう」ニコ

男娼「…」

少女「男娼さん何が出来ます?私も結構札には自身あるんですよ」

男娼「そう、だね」

少女「遊びましょう!ねっ」

男娼「…」クス

男娼「…君にはかなわないな」

少女「何か、言いましたか?」

男娼「ううん。早く札切って!僕君なんかに負けないから」

少女「望むところです」

少女「店、開いたみたいですね」

男娼「そうみたい。他が働いてるのにのんびりできるって、いい気分だね」

少女「な、なんですかそれ…」

男娼「…はい、あがり」

少女「えっ!?」

男娼「大したことないね、君。これで二勝だ」

少女「そ、そんなはずは…」

男娼「…」ニヤニヤ

少女「こ、今度は別の勝負しましょう!ねっ」

男娼「はいはい」

ガタ

少女「…」ピク

男娼「隣の部屋に客、入ったみたいだね」

少女「えーと、札、切りますね」パラ

男娼「ん」

少女「…」

男娼「はい、あがり」

少女「ううぅう…」

男娼「君、顔に出やすいんだよねー。どこにどの札があるかすぐ分かっちゃう」

少女「…そうですか」

男娼「ちょっと休憩していい」

少女「私も、ちょっと疲れたなって思ってました」

男娼「…そう」

少女「ふう…」ノビ

男娼「…少女」

少女「はい」

男娼「膝の上、来て」

少女「え」

男娼「早く」ポンポン

少女「…」

男娼「はーやーく」

少女「…重いですよ」

男娼「全然平気だから。座って」

少女「…」ギシ

男娼「うわ、本当だ」

少女「降りますっ」

男娼「冗談だってば!寧ろ君、もう少し太ったほうがいいよ。肉感がもう少し欲しい」

少女「…うー」

男娼「恥ずかしい?」

少女「か、なり」

男娼「本当、君何もやったことないんだね」

少女「そりゃ…そうですよ。けど、負い目だと思ったことないです」

男娼「ふうん?その歳だったら皆興味あるんじゃない?」

少女「私は、私ですし。気にしません」

男娼「…」

ギュ

少女「う、わ」

男娼「…君のそういうところ、好きだな」

少女「…どうも」

男娼「僕もそういう風になれたら、いいのに」

少女「なれば、いいと思いますよ」

男娼「…くす。なれるわけないさ。僕は、ずっとこのままだ」

少女「そんなことないですよ」

男娼「…」ギュ

少女「…」

男娼「少女って、良い匂いだ」

少女「そ、そうですか」

男娼「僕、女の人の匂いって苦手だった」

少女「…」

男娼「女って…白粉と、香水と、汗の匂い。どんなに隠してもさ、するんだよ。いやらしい匂いが」

男娼「僕の関わってきた女って、全員そうだった。…君以外」

少女「そ、うですか」

男娼「僕、君のこと好き」

少女「…知ってます」

男娼「おや。珍しく強気なんだね」

少女「なんかもう、なれてきました」

男娼「…君がさ」スル

少女「…」ビク

男娼「初めて僕に薬売ってくれたときのこと、覚えてる?」

少女「…えっと」

男娼「君、真面目な態度だったけど、微かにだるそうでさ」

男娼「僕、最初は色気のない女だなあ、って思ったよ。仕事ばっかで擦れた女だって」

少女「それ、間違ってないですよ」

男娼「そだね。…でもさ、僕に薬を手渡す時」

男娼「一瞬…君、僕の手を見てね」スル

少女「…」

男娼「きっとこう思ったと思うんだ。…汚い手だ、って」

少女「そん、な」

男娼「図星でしょう」

少女「…」

男娼「でも、君はお釣りをしっかり手を握って渡してくれた。それで、目を見てこう言ってくれた」

男娼「お大事に、って」

少女「…」

男娼「その時さ、なんとなく、だけど。…僕のこと、ごたごたした感情抜きに」

男娼「純粋に…可哀相な人だ、って思ってくれたんだって…感じた」

少女「…思いました。あなたが、なんとなく可哀相だった」

少女「でもそう思うのって、あなたにとって侮辱でしかないんじゃないですか?」

男娼「侮辱?…ふふ」

男娼「僕は確かに、可哀相だって言われるの嫌いだよ」

少女「ほら、やっぱり」

男娼「でも君の思った可哀相、は何か違うんだよね」

男娼「目で…分かった。哀れみでも、何でもないんだ。僕をただ単に、不憫に思ってくれてる気がした」

少女「…」

男娼「あと頼んでない腰の痛み止めもこっそり付けてくれたよねえ」

少女「え、バレてたんですか」

男娼「君馬鹿だよねー。自分の生活が苦しいくせに、あんなことするんだもん」

少女「…」

男娼「そんなまっすぐな感情を向けられたこと、なかったんだ」

少女「そうですか」

男娼「だから、君は…」

少女「…」

男娼「…」ナデ

少女「綺麗ですね」

男娼「ん?」

少女「手。…今は、綺麗に見えますよ」

男娼「…」

少女「一生懸命働く手だと思います。あなたに汚い所なんて、一つもないです」

男娼「…嬉しいな」

少女「事実を述べたまでです」

男娼「あはは…。可愛くないなあ、君」ギュ

少女(…少しずつだけど)

少女(この人が、近くなってきた気がする)

男娼「…よし」

少女(距離をとる必要も、もう感じない)

男娼「寝るか」ボフン

少女「は」

男娼「おやすみ少女。売れっ子と添い寝できるなんて、君幸運だね」

少女「ちょ、ちょっと。それはマズイ…」

男娼「何もマズくないよ。僕はね」

男娼「君は何か…、他意があるの?寝るだけなのに」

少女「あるわけないですよね」

男娼「んじゃ、寝よう。おやすみー」

少女「もう…」

少女(寝苦しいんだけど)

男娼「…すぅ」

少女(寝付くの早)

少女「…」ナデ

少女(ああ)

少女(この感じ、そうだ。…この人、弟に似てるんだ。…脆いんだ)

少女「…」ナデ

男娼「ん…」

少女(子どももたいな寝顔)

男娼「…」

少女(…この人って)

少女(前に、なにがあったのかな)

男娼「…」

少女(それを知って、どうにかなるものでもないけど)

少女(段々、知りたいと思い始める私がいる)

男娼「ん。…すぅ」

少女「…」クス

少女「おやすみ、男娼」

……

店主「男娼、ちょっと来い」

男娼「やだ」

店主「やだ、じゃねーんだよ!話がある」

男娼「もう君、見て分からないの!?今大事な所なんだよっ」

少女「店主さん、どうぞ連れて行ってください」

男娼「負けそうだからってそういう言い方はよくないなあ」

少女「関係ないですよ。行ってください」

男娼「…札に細工しないでよね!このままだったら後二手で勝てるんだから」

少女「はいはい」

店主「…仲がいいこったな」

男娼「んで、何」

店主「仕事だ。予約が入った」

男娼「そりゃまた、珍しい。高いのに」

店主「ってことでもう早めに準備しておけ。遊びは終了」

男娼「えぇーー」

男娼「予約とか聞いてないよぉー。誰だよぉ」

少女「…」

店主「令嬢さんだ。早くしろ」

少女「…」ピク

男娼「…げ。あのお花畑娘か」

店主「いいか、夕方から朝までの予約だ!失礼のないよう接客しろよ」

男娼「…」チラ

少女「!」バッ

少女(平常心。…平常心)

男娼「はぁ」

男娼「分かったよ…。少女、札はもういい。片付けて」

少女「…」キュ

男娼「少女?」

少女「あっ、は、はいっ」

男娼「…どうかしたの」

少女「いえ、別に。なんでも」

少女「令嬢、って」トン

少年「うんー?」

少女「どんな人、なの」

少年「ははあ、男娼にぞっこんなお嬢様か」

少女「…そうなんだー」

少年「なあに、気になるのぉ?」ニヤニヤ

少女「…青年さん見たいな顔しないでよ。答えてくれないんなら、もういい」ジュッ

少年「ああ、言う!言うからこっちに背向けないでよ!」

少年「令嬢さんは、そりゃもう美人でお金持ちでー。男娼の憧れっていうか、是非抱えたいお客さんだよ!」

少女「ふうん」

少年「前は毎日のように男娼を買いにきてたけど、最近はぱったりだったんだよねー」

少年「何かあったのかなあ。…あ、まさか身請けの話がまとまったとか?」

少女「えっ」グシャ

少年「…少女!卵がー!」

少女「あ、ご、ごめん」

少女(…身請け、される?)

青年「うわ、っと!」ドン

少女「ひゃ、ごめんなさい!」

青年「あら少女…って、ついに掃除まで始めたのね。本当に小間使いみたい」

少女「ひ、暇ですし。何もしないとうずうずしちゃうんです」

青年「ふうん…」

少女「青年さん、準備しなくていいんですか?もう開きますよ」

青年「ああ、私今日は休みなのー」

少女「そうなんですか」

青年「うん。ひさびさに布団広く使えるわー。いい気分」

少女「…」

少女(……布団。二人で使う。…)

青年「どうかした?」

少女「!」

少女「何もっ。なんっにもありません!」

青年「そお?…ならいいけど」

少女「…」ソワソワ

ガチャ

少女「!」

男娼「うわっ、何君っ。びっくりしたっ」

少女「あ、う。その、掃除を」

男娼「もういいよ。十分綺麗だし、もう店が開くからお休みよ」

少女「…」

少女(…仕事する前の男娼さん、初めて見た、かも)

少女(こんな…綺麗、なんだ)

男娼「何?見とれてるの?」

少女「は、はあ?!」

男娼「…そんなに否定しなくてもいいじゃん」

少女「す、すみません。恰好いいです、よ。…お仕事頑張ってください」

男娼「…」

少女「で、では」クル

男娼「…」ニヤ

男娼「少女」グイ

少女「ひゃ…」

男娼「何でそんなにおどおどしてるの?らしくないね」

少女「あ、あの。廊下です、廊下ですよここ」

男娼「何がいけないの?君と手繋いでるだけなのに」

少女「近い、です。あの。もう行かなきゃ」

男娼「…」

少女「…あ、の…」

男娼「少女、僕」ギュウ

少女「…っ」

「少女ー!札もってきてー!遊びましょうよー」

少女「あ、行かなきゃ。…青年さんが」ドン

男娼「えー」

少女「が、頑張ってください」ペコ

男娼「…頑張って欲しいの?」

少女「…」

少女「も、勿論です」

男娼「…そう」

少年「…」

青年「…」

少女「…」

青年「あの、あんたの番だけど」

少女「っ!?」

青年「何ぼーっとしてんのよ…。目が完全におかしいわよ」

少年「おかしいよねー。さっきからチラチラ扉の方見てるし」

少女「ご、ごめんなさい。私の番ですね」バララ

青年「札…落としてるわよ」

少女「ああ…」

少年「ええ、本当にどうしちゃったの少女ー?変なのー」

少女「何でもない、です。ちょっと眠いのかな、あはは」

青年「…」

青年「気になるわよねぇ…」

少年「ねぇ…」

少女「だっから、何がっ!」バン

少女「何なんですか皆してっ」

少年「まあまあ落ち着いて」

青年「悪かったわよ。…あら」

少年「下が騒がしいねー。お客入ったかな」

少女「…」

青年「…少女」

少女「…喉、渇きませんか?私何か持ってきますよ」

青年「オススメしないわよ」

少女「え…」

青年「見てどうなるの?あなたはどうしたいの?」

少女「……」

少年「俺、ウーロン茶がいいー」

青年「黙ってろ殺すわよ」ギッ

少年「え、どうしてぇ…」

少女「…」ギュ

青年「まぁ、強く止めはしないけど」パラ

少年「ウーロン…」

青年「おい、餓鬼」

少年「ひぇ」

少女「…単純に、好奇心ですよ」

青年「あら、そう」

少女「…はい」

青年「じゃあ私、お酒飲みたいわ。何でも良いから持ってきて」

少女「はい」キィ

バタン

青年「…青いわねー」

少年「え、なに?なになにー?そういうことー?」

青年「…あんた、そんなんだから全然客つかないのよ」コツン

少年「ええぇー」

少女「…」トントン

「お客様をお通ししろー!」

少女(…女の人、いっぱいだ)

少女「…」

少女(何、探してるんだろう)

少女(馬鹿らしい)

少女(えっと、お酒と。…緑茶だったっけ?)カチャ

少女(早く、もって行こう…。店先を避けて、階段に…)クル

「男娼っ…」

少女「…」ピタ

「いらっしゃいませ、お嬢」

少女「…」カチャ

少女(何で)

令嬢「会いたかった…!」

男娼「僕もです、あなたをずっと待っていました」

少女(…)

ガシャン

青年「…と。危ない、落とすとこだったじゃない」ヒョイ

少女「…あ」

青年「ほら、何ぼうっとしてるのよ。行きましょう」グイ

少女「…」

令嬢「早く行きましょう。あのね、話したいことがあるのよ」

男娼「ええ」

少女「…」

少女「だん、」

青年「…っ」バッ

少女「ん、ぐ。…っ」

青年「声をかけてどうするのよ。これが、彼なの。…彼の仕事なのよ」

少女「は、…っ」ギュ

青年「…しょうがない子ね」

少女(彼の、仕事)

少女(あの笑顔も、絡めた腕も、言うことも)

少女(あれが、仕事)

青年「少女」

少女「…馬鹿ですね、私。…行きましょう」

少年「あ、お帰りー!ねえねえ、次はさあ、盤の遊びしない?俺飽きちゃったー」

青年「あんたねぇー…」

少女「…はい」

少年「ウーロン茶じゃない…」

少女「…」

少年「少女ぉ、どうしたの?どうして泣きそうなの?」

青年「阿呆」パシン

少年「いだっ、何だよー!」

青年「少女、私達部屋に戻るわね。さようなら」

少女「…」コク

少年「えぇー!ちょっと、オカマさんどうしてー!」

青年「ぶち転がすぞてめぇ!いいから来い!」

バタン

少女「…」ボフ

少女(なーに、がしたいんだろ。…私)

少女「はぁ…あ」

男娼「…は?」

令嬢「だから、身請けよ」

男娼「…あなたが?」

令嬢「そう!お父様を一生懸命説得したのよ。待たせてごめんなさい」

男娼「…」

令嬢「男娼…?」

男娼「…そんな。…僕には、勿体無い、ことです」

令嬢「何を言ってるの。私達、想い合ってるじゃない」

令嬢「決めたの。あなたの面倒は私が一生見るわ。勿体無い事なんかないわ」

男娼「……」

令嬢「もう日取りも決まってるの!店主さんに話を通しておいたから」

男娼「そ、う」

令嬢「あとは待つだけなのよ。良かったわね」

男娼「…」

令嬢「ね、男娼。…嬉しいわよね?」

男娼「は…」

令嬢「男娼…」

男娼「…っ」

グイ

令嬢「…きゃっ!」

男娼「はぁ、はぁっ…!」

男娼「…僕、は」

令嬢「男娼…?なぁに、もうなの?」クス

ここが今日からお前の家だ

男娼「…僕」

食うためには働かなきゃなんねーんだ、分かるよなぁ?

男娼「…」

お前なんか…いなければ

令嬢「あっ、男娼っ…やっ…」

お前なんか

男娼「はぁ、はあっ…!」



モノのくせに



男娼「あ、…ああああっ…!」

コンコン

少女「…」

少女「…誰」ムク

「少女…?」

少女「は、はい」

青年「あ、寝てたの。起こしてごめんなさい」

少女「いえ。…寝てたっていうか、横になってただけなんで」

青年「…あの、入ってもいいかしら?」

少女「どうぞ」

青年「電気、つけるわね」パチ

少女「…」

青年「あんた、夜ご飯は食べたの?」

少女「いえ。…いりません」

青年「そう」

少女「…」

青年「座っても良いかしら?」

少女「どうぞ」

青年「よい、しょ」

青年「…ちょっと、話がしたくて」

少女「…」

少女「話、ですか」

青年「そう。…あなたのこと、心配で」

少女「…何言ってるんですか。私は、なにも」

青年「私にはそうは思えないわ。あなたがどんな感情を持ってるか、手に取るように分かるもの。…言わないけど」

少女「…」

青年「お節介なら、追い払ってくれてもかまわないわ」

少女「…いて。ここにいて」

青年「ええ。いいわよ」

少女「…」

少女「男娼のこと…教えてください」

青年「知って、どうするのかしら」

少女「わかんないです」

青年「…」

少女「けど、彼は。…私、彼の事知りたいです。それだけなんです」

青年「あんたが失望するような内容かもしれないのよ?」

少女「失望、もなにも」

少女「私は、最初から彼に期待なんかしてないです…」

青年「…知りたいの?」

少女「はい」

青年「…じゃあ、私の知ってる範囲で話すわ」

青年「…私がこの楼に入ったの、16歳くらいの頃なんだけどさ」

少女「はい」

青年「同じ頃くらいに、彼も入ってきたわ。歳は…12くらいだったかしらね」

少女「…」

青年「あいつさあ、他の芋臭い新人よりもずば抜けて可愛かったのよねえ」

青年「けど、やっぱ…最初からどこか顔つきに冷たいものがあったわ」

少女「そう…」

青年「私は自分の意思でこの商売を選んだんだけど、彼は確実に何か負ってる、って思ったわ」

青年「…なつかしいな」

青年「これでも仲、結構良かったのよ」

少女「えっ…そうなんですか。話してるところ、見たことない」

青年「私に限ったことじゃないわよお。あいつ、誰とも話さないわ」

少女「へえ…」

青年「ま、時間はあるし、ゆっくり話すわ。…いい?」

少女「はい。お願いします」

青年「…彼は…」

……

…6年前

青年「…よろしくお願いします」ペコ

先輩男娼「おう、じゃあ今日は着付けの訓練なー」

青年「はいっ」

青年(…うーん、前の仕事が合わなくてやめて)

青年(一晩でがっぽり稼げる遊郭を選んだけど…)

青年(案外簡単じゃん。俺に合ってるかも)

ガラ

店主「おい、帰ったぞー」

青年「あ、お帰りなさいー」

店主「おお青年、早速稽古受けてんのか。熱心なこった」

青年「…あれ」

店主「ん。ああこれか」

男娼「…」

青年「だれそれ」

店主「新しい人材だよ。引っこ抜いてきた」

青年「え、結構小さいのな…。よお」

男娼「…」ジ

青年(…汚れてるけど、綺麗な顔してんな。こりゃ、才能ありそうだ)

店主「おまえ入って三週間のくせに先輩風吹かすなよ」ペシ

青年「あだぁ。いいじゃん、別に」

青年「なああんた、名前は?」

男娼「…」

男娼「僕。…男娼」

青年「そっか。俺は青年!お前と一緒で、新参だ。よろしくなー」パッ

男娼「…」

男娼「うん」キュ

店主「青年、そいつ洗ってきてくれないか?あと新しい服もやってくれ」

青年「わかったー」

男娼「…」

青年「ここが一応公衆の風呂だ。けど、売れっ子になると部屋貰えるんだ」

青年「部屋にはお風呂とかベッドとか色々ついてんだぜー」

男娼「…青年は、部屋あるの?」

青年「ないよ!俺三週間前に入ったばっかなんだ。ほら、脱いで」

男娼「…」バッ

青年「お、何」

男娼「自分でできるよ」ヌギ

青年「あ、そう」

青年「…ん」

男娼「…」

青年「お前、その肩の傷どうしたんだ?割と新しいけど」

男娼「転んだ」

青年「ふうん…。あ、お湯だすぞー」キュ

青年「…ほら、店主がこれ着ろだって」

男娼「ありがと、青年」

青年「おー。…ところでお前、どっから来たの?」

男娼「…西のほう」

青年「も、もうちょい具体的にいえよな…。まあいいけど」

男娼「…」フキフキ

青年「何でここに入ったんだ?あ、言いたくなかったらいいけどよ」

男娼「んー」

男娼「ここ、安全だから」

青年「…は?」

男娼「青年は?」

青年「(…安全、って。変な奴)俺は、稼ぎたいから自分から志願したんだよ」

男娼「そうなんだ」

青年「…」

青年(…なんか、こいつ。目が、変だな。綺麗なのに、…なんか)

男娼「ね、僕これからどうしたらいい?」

青年「あ、おお。とりあえず店主に聞いてみるか」

青年「…なあ、店主」

店主「んだよ」

青年「あいつさぁ、何か変じゃない?」

店主「あいつってー?」

青年「男娼。…目が据わってるんだけど」

店主「ああ、あいつは…。まあ、慣れるさ。気にすんな」

青年「ふうん」

店主「ま、ここの者の過去なんて詮索するだけ無駄だし、やめとけ」

青年「んー…」

店主「ただ、あいつは良い男娼になるだろうな。稼ぎ頭に」

青年「えっ、まじで」

店主「お前も客取られるような情けないことはすんなよなー」

青年「う、んー…。そだな」

店主「まずはお前は所作の稽古だな。最近は上品な男娼がウケるし」

青年「はいはいはいはい」

青年「…男娼と私が打ち解けるのに、それほど時間はかからなかったわ」

青年「同期だし、歳もまあ、同じ十代だったし」

少女「…」

青年「本当、今とは比べ物にならないくらい、可愛げあったのよ」

少女「想像できないですね」

青年「そうね…。けど、才能はもとからあったわ」

青年「稽古なんかすぐ終わっちゃうくらい。私も追いつくのに必死だった」

少女「…二人は、そのころは」

青年「見習いね、いわば。座敷にあがるのって、大体一年修行をつんだ17,8の子だもん」

少女「へえ」

青年「…うん。それなのに、あいつはやっぱり異常だったわ」

少女「異常?」

青年「ええ」

……

…5年前

青年「…え、マジで?」

男娼「うん、…どうしよう」

青年「お前ちょっ、こっち来いっ」グイ

男娼「んー…」

青年「どうしよう、ってあんた。…それ見せて」

男娼「はい」

青年(…間違いない。これ)

男娼「これ、女の人からの…恋文、だよねえ?」

青年(…こいつっ…)

男娼「どうしてかな…」

青年(いつか、こんなことが起こるかもしれないって思ってた…!)

青年(こいつかなり器量がいいし、女客にも人気だったし…!)

男娼「どうしよう、僕」

青年「…この手紙の差出人、これってよ」

男娼「うん。…先輩の固定客だよね」

青年「ああ…」

青年(…まずいことになったな)

青年「お前も知っての通り、まだ楼に上がってない見習いが女と交わることは許されない」

青年「…俺らが一番稼げるのが、初日。上がりたてなんだから」

男娼「うん」

青年「ってことで、これは忘れろ。面倒なことになる」

男娼「え、どうしてさ」

青年「はあ?聞いてたのかよお前っ。これは…」

男娼「でもこの人、僕のこと好きだって」

青年「…」

男娼「僕、そんなこと言われたの初めてで…なんだか嬉しい」ニコ

青年「お前なぁ…」

先輩「おーいお前ら、そろそろ稽古すっぞー」

青年「!」ビクゥ

男娼「あ、先輩」

青年「けけ稽古!今行きます行きます!」ガバッ

男娼「む、ぐ」

青年「いいかお前っ。これ絶対言うな!俺以外に!」

男娼「どうしてー?」

青年「どうしてもクソもない!分かったな!」

男娼「…青年がそう言うなら、いいけど」

青年(…あいつ大丈夫なのか…?)

青年(約束はしたし、言わないとは思うけど…)

青年(ああくそ、文も取り上げりゃ良かった!見つかったらこじれるぞ…)

男娼「ね、青年」

青年「ああ?」

男娼「僕、明日少し外出するね」

青年「なんでだよ」

男娼「あの女の人に会いに行くんだ」

青年「お前、アホか?」

男娼「…」キョトン

青年「その足りない頭でよっく考えろよ、会ってどうすんだ?」

男娼「でも、会いたいって」

青年「ー…っ」ガリガリ

青年「てめーはぁ!処女みてえなこと言ってんじゃねえ!その女、ろくでもねえぞ」

男娼「どうしてそんなこと言うのさ」ム

青年「だってよお、固定の男娼がいるのにその弟子に手を出す浮気女だぞ!?」

青年「しかも楼に上がる前のお前に…」

男娼「…」

青年「分かってんのか?ああ?」

男娼「確かめてみたいんだ」

青年「はあ?」

男娼「僕でも、誰かに愛されることができるのか」

青年「…どういうことだよ」

男娼「僕、愛されてみたい」

青年「何、言って…」

青年(お前…お前は、男娼なんだぞ…?)

男娼「…駄目なのかな」

青年(こんな職業の男が、心から愛されるときなんか)

男娼「僕、この女の人信じたいんだ」

青年「…」

…その目が、あんまりにも純粋で

青年「…男娼」

男娼「お願い、青年。協力して」

私は…

青年「…分かった。でも、一度きりだ」


間違ってしまった

青年「じゃ、行ってきまーす」

男娼「きまーす」

先輩「おう、頼んでた化粧品もよろしくなー」

青年「ほーい」

男娼「…」

青年「上手くいったな。買出しを口実に出れるなんて」

男娼「やったね。やっぱ青年はすごいや」

青年「へへ。…しかしお前よ、ちゃんと昼過ぎには帰ってくるんだぞ?」

男娼「うん。分かってるよ」

青年「待ち合わせ場所はあの橋だからな。一緒に帰らないと怪しまれるから」

男娼「うん。ありがとう、青年」

青年「おう、しっかりやれ」

男娼「ばいばい」タッ

青年「…」

青年「頑張れよ…」

青年「…」

青年(お、っそいんだよあのガキャ…)イライラ

「…青年っ」

青年「ん。男娼っ」

男娼「はぁ、はぁ。ごめん、ちょっと遅れちゃった」

青年「馬鹿、しくじったかと思ったじゃんかよ。…で、どうだった」

男娼「優しい女の人だったよ。すっごく」ニコニコ

青年「ふうん…」ポリ

男娼「言われたとおり、お話だけした。一緒に散歩して、お菓子食べた」

青年「おう健全健全」

男娼「あの人も、僕と会ったことは誰にも言わないって」

青年「そうか」

男娼「じゃ、戻ろう?」

青年「ああ」

男娼「あー…楽しかったぁー」ノビ

青年(…あいつがあんなに笑ってるの、初めて見たな)

…それからというもの

男娼「ふんふーん」

青年「…」

男娼は今まで以上に稽古に身を入れ

青年「…」

今まで以上に美しくなっていった

青年(…あの女客のせい、だろうか)

青年(恋をすると女は綺麗になるっていうが。…あいつもそうか)

男娼「ねえ、青年」

青年「おう」

男娼「青年はそろそろ店に上がってもいい頃だよね」

青年「ああ。早いもんだな」

男娼「僕、…上がりたくないなあ」

青年「は?何で」

男娼「ん。…内緒」

青年「変な奴…」

あの女だ。…頭の中では分かっていた

私は、知っていた。

男娼「…」

ギィ

青年「…」

あいつが夜な夜な抜け出しているのも

男娼「…青年?」

青年「…ぐが…んー…」

男娼「…」ホッ

青年「…」

…誰と会って

男娼「よい、しょ」ボフ

…何をしているのかも

青年「…」

それがどれだけ、大変なことかも

青年「俺は、やっぱ引退するまでは情婦なんて取らないな」

男娼「えー。どうして」

青年「だってそうじゃないかよ。本当に好きな女なんか、できっこないさ」

青年「できたとしても、傷ついて終わるだけさ」

男娼「…僕は、そう思わないよ」

止めなかったのは

青年「…」

男娼「愛される、って素敵なことだと思う」

あいつの目の輝きが、眩しすぎて

男娼「違う?」

満たされているあいつが、眩しすぎて

青年「…」

だから

青年「…あー」

あの綺麗で濁った目をしていた友人に

青年「お前の、言うとおりだな」

男娼「本当?君が賛同してくれるなんて、珍しいなあ」ケラケラ

…心の底から、幸せになってほしいと思ったから

それは、突然だった。

「…っ、おい、誰か来てくれ!!」

青年「…!?」

店主「二階だ!どうかしたか!?」

「早く!男娼が、男娼が死んじまう…!」

青年「男娼、っ…!?」ダッ

青年「どうし…」

先輩「…ふーっ、…ふーっ…」

青年「…あ」

男娼「…」

先輩「てめぇ、ふざっけんなよ…」グイ

男娼「…」

先輩「人の女にっ…汚い手ぇ出してるんじゃねえよ!!」

青年「やめっ…」

バキッ

青年「…!!」

男娼「…」

青年「先輩!やめてください!男娼、血がっ」バッ

先輩「うるせぇ!!」ドガッ

青年「がっ…、…」

男娼「…はぁ、はぁ…」

先輩「あいつは…俺の身請け話まで持ち込んでくれたってのに…」

先輩「お前だ!お前がたぶらかしたんだ!男娼ぉおおおっ!!」

バキッ ドガッ

青年「…やめ、ろ…」

男娼「…ぐっ、…」

店主「おめえら!何やってんだ!!」

青年「て、店主!男娼がっ…!」

店主「…!」

先輩「殺すっ…殺してやるっ…」

店主「やめろ!馬鹿かお前ぇえええっ!!!」

青年「…」

修羅場だった

男娼「…」

男娼は何も言わず、自分より一回りも二回りも大きい男に殴られていた

男娼「…ごほっ…」

その目は、笑ってるように見えた

青年「…ってえ…」

男娼「ごめん、青年。君まで殴られちゃった」

青年「うっせーな、別にあんなの平気だよ」

男娼「…」

青年「…あの女と、会ってたんだな」

男娼「うん」

青年「何やってんだ、お前は…馬鹿かよ」

男娼「でも青年、知っていたよね」

青年「…」

男娼「知ってて黙ってくれてたもんね。ありがとう」

青年「ありがとう、じゃねーよ。…お陰でお前はボコボコだし、罰受けてるじゃねーか、実際」

男娼「酷いよねえ。柱にくくりつけるなんて」

青年「ほんっと、馬鹿…」

男娼「けど僕、何だかすっとしちゃった」

青年「はあ?」

男娼「だってあの人と先輩、離せたんだもの」

青年「…お前」

男娼「先輩、追い出されて別の楼に流されたんだよね?」

青年「あ、ああ。警察に突き出されないほうが不思議なやりかただったがな」

男娼「…じゃあ、もうあの人とは会わないもの」

青年「お前なぁ…」

青年(…女と密通してたのに追い出されなくて済んだし)

青年(やっぱこいつ、店主の気に入りなんだな…。けど、これは)

男娼「う、痛」ギシ

青年「もう懲りたろ。だから迂闊に男娼が女に手をだすとこうなんだよ」

男娼「懲りる?あはは」

男娼「僕、懲りちゃいないさ。だって何も悲しくないんだもの」

青年「…は?」

男娼「僕、あの人が愛してくれるんならそれでいい。僕のものでいてくれるなら、それでいい」

青年「…」

青年「…もう、やめておけよ」

男娼「どうして?」

青年「ろくなことが…ねーからだ」

男娼「だから、こんなのどうでもいいんだよ。悲しくも辛くもない」

男娼「…これからだってそうだよ。僕は」

青年「…」

青年(何で、そこまで)

男娼「明日はあの人が来る日でしょう。そしたら僕、自分で先輩がいなくなったこと教えるんだ」

青年「…そうか」

男娼「先輩が殴ったのが体でよかった。痣できた顔で会いたくないもの」

青年「…ああ」

男娼「青年、そろそろ部屋にお戻りよ。誰かに見られたら君も怒られちゃう」

青年「ん…。じゃあ、な」

男娼「うん。おやすみ」

青年「…」

店主「青年、そろそろ客入れるぞ」

青年「ほーい」

男娼「…」

青年(あんなに着飾っちゃって、まあ)

店主「お客様のおなりだー」

ガララ

男娼「…」キョロキョロ

女性「…あのう」

男娼「…あ」

女性「あの、いつもの男娼をお願いしたいんですけど。…彼、姿が見えないわね」

男娼「…お姉さんっ」タタタ

女性「!…男娼」

男娼「こんばんはっ。…あの人なら、いないよ」

女性「…え」

男娼「他のお店に流されちゃったんだ」ニコ

女性「…」

男娼「お姉さん、言っていたでしょ」

男娼「あの人はそろそろ飽きてたし、いなくなっても構わないって」

青年「…」

男娼「僕ね、あの人の分まで頑張るよ!だからね、姉さん。これからもごひいきにしてね」

女性「…あの人、」

男娼「姉さん?」

女性「その話、本当なの…?」

店主「ええ。…ちょっと問題を起こしたので」

女性「…」

男娼「お姉さん…」ギュ

女性「…どう、して」

男娼「…お姉さん?」

女性「嫌。…あの人じゃなきゃ、嫌…」

青年「…!」

女性「教えて、どこの店なのっ。彼をどこにやったの!?」

店主「う、えっ!?」

女性「教えてください!お願い!!」

青年「…」

あっけないものだった

女性「教えて!!!」

簡単なことだ。彼女は界隈でも有名な好色家で

店主「ちょ、ちょっと落ち着いてください」

一目気に入ったらすぐ唾をつける

男娼「…」

女性「彼がいいの!私!」

男娼は何人ともいる手慰みの一人であって

女性「あの人が…いいのぉ…!」

先輩の男娼だけが、本命。

男娼「…」

彼女にとって、男娼は、

女性「うっ…ううっ、うううっ…」

男娼「…」

青年「男、娼…」

男娼「…」

彼の顔を、見ることができなかった

男娼「…」

しかし彼の顔は容易に想像できた。

青年「…だいじょう、ぶか」

きっと泣いている。あの、大きな目を水で一杯にして。裏切られた悲しさで溢れて。

青年「…おい」

男娼「…」

覗き込んだ彼の顔は。

青年「……」

青年「……っ…!」




彼は、ただ笑っていた。


あの濁った目で、ただ、頬を片方だけ吊り上げて、美しい顔で

青年「男、娼…。お前…」

女性「うう…ああっ…」

男娼「…」

男娼「教えてあげなよ、店主」

店主「…え」

男娼「可哀相じゃないか。お店の場所、教えてあげなよ

青年「お前、この女は…」

男娼「教えてあげなよ」

店主「…お、お、う…」

女性「本当!?ありがとう、ありがとうっ…!」

男娼「…」

その女は、最愛の男娼の場所を聞き出すとすぐに店を出た。

男娼「…」

一度もこちらを、振り返らなかった。

青年「…なあ、おい」

男娼「…」クル

青年「お、おい」

男娼「…」トントン

青年「何処行くんだよ、男娼っ」

ガチャ

青年「お、おい…」

男娼「…」シュル

青年「…」

男娼「…」キィ

青年(…風呂場?どうして)

男娼「邪魔」

青年「…」

男娼「…」

浴室に吸い込まれていった彼の白く細い背中を、ただ呆然と見つめた

バタン

青年「なあ、お前…」

激しい水音と、体を強く強くこする音

青年「…」

それだけだった

青年「お前、どうしちゃったんだよ…」

ごしごしごしごしごしごし。何度も何度も、強く擦っていた

青年「…」

嗚咽の音は、聞こえなかった。

青年「何でお前、泣かないんだ…?」

答えは、なかった。

青年「どうしてだよ…なんで…」

今となっては、分かる。

彼が全てを、諦めてしまったからだ。

男娼「…」

青年「…」

男娼「僕、店に上がるよ」

青年「…は?」

男娼「そのほうがいい気がしてきた」

青年「でも、お前」

男娼「明日にでも頼んでみる」

青年「…本当に、大丈夫か」

男娼「え?」

青年「だって、あんなの…」

男娼「…」

青年「あんな仕打ち…」

男娼「何が?」

青年「…」

男娼「何の仕打ち?…どういうことさ」

青年(…ああ)

彼の中で、何かが終わったんだ。

青年(…俺、なんてことを)

あの時、止めていれば。

男娼「…どうしたの、青年」

青年「…っ。俺、男娼ぉ…」

男娼「何。泣いているの?どうしたのさ」

青年「俺が、もっと…お前に色々忠告してやればよかったんだ…」

青年「俺が、…馬鹿だったから…。ごめん、ごめんな男娼…」

男娼「…」

青年「…っ、あの時、止めてたら…!」

男娼「…」

頭に、温かい手の感触があった

男娼「君は悪くないさ」

青年「…お前…」

男娼「悪いのは、要領のない僕だ」

青年「…」

男娼「もう、寝な。明日も早いから」

青年「…」

男娼「ばいばい、青年」

バタン

青年「…」

扉の奥から、水音と、皮膚を擦る音が微かに響いていた。

青年「…あいつは変わったわ」

青年「次の日起きて会ってみると、誰にも目をあわさない、話さない」

青年「…私も、最初から全くの他人だったみたいに扱われた」

少女「…」

青年「あいつはその後すぐに店にあがって男娼になった。…13歳よ」

少女「…」

青年「恐ろしいほどの速さで売れっ子になって…。私が半年後に上がるまで、一番だった」

青年「何故か私が客を取り始めた途端、二位に甘んじはじめたけど」

少女「…」

青年「そういうかんじ」

青年「言葉もないでしょ。…彼を壊したのは、きっと私」

少女「それは、違いますよ」

青年「直接じゃなくても原因を作ったのは私だもの。…あのとき止められなかったから」

少女「…」

青年「今でも後悔してる。けど、もうどうにもならない」

少女「…」

青年「ふぅ」

少女「ありがとうございます」

青年「嫌な話だったでしょう」

少女「ごめんなさい。…辛かったですよね」

青年「ううん。私なんて、そんな」

青年「…一番可哀相なのは、あいつだから」

青年「…」

少女「だから、私に忠告してくれたんですね」

青年「まあ、ね。…駄目な未来しか想像できなかったし」

少女「私は…」

少女「…」

青年「どうして良いか分からないなら、あいつから逃げるべきよ。男娼のためにも、あんたのためにも」

青年「それに私、もう彼は駄目だと思ってるの。…戻ってこないと思う」

少女「…」

少女「私は、そうは思いません」

青年「…ふ」

青年「そうね。…あんたは、強いわね」

青年「あんたなら…」

ギシ

少女「!」ビク

青年「あら。…誰かしら」

少女「もう誰も起きてる時間じゃないのに…変ですね」

少女「…」

青年「…」

少女「…えーと」

青年「建物の軋みね。大丈夫だから、そんな死にそうな顔しないの」

少女「です、よねー」

青年「…ふあ」

青年「ねっむ…、自分語りって疲れるわね」

少女「お疲れ様でした」

青年「まあ、今後の展開はあんた次第よ。少女」

少女「はい」

青年「じゃ。私は寝るわ。彼をよろしく」

バタン

少女「…」

少女「…」ボフ


……

少女「…え、何で」

店主「昨日結構無理したみたいでさぁ。ちょっとやばいみたい」

少女「…」

少年「令嬢さんとそんなに盛り上がったのね。ふうん」

少女「…!」バッ

少年「って、顔してる」

少女「してないわよ」

少年「ふふ、そうかなー」

少女「馬鹿らしい…。どいてよ」

少年「何処行くのー?」

少女「男娼のところ。私医療かじってるし、診察くらいならする」

少年「いってらっしゃーい」ヒラヒラ

少年「…」

ギィ

少女「…おはようございます」

男娼「…」グタ

少女「うわ。…大丈夫ですか、顔色悪いですよ」

男娼「うん…」

少女「失礼します」

男娼「…めっちゃだるい。…腰痛い、喉痛い。熱あるし、もう死ぬ」

少女「死にませんよ。ちゃんと薬飲んで寝ればね」

男娼「あー…」

少女「うん、風邪。というか疲労熱ですね」

男娼「うー…」

少女「暫くは布団から出ちゃ駄目です。んで、薬も飲んでください」

男娼「君、そういえば薬師だったね…忘れてた」

少女「私も久々に仕事しました」

少女「よい、しょ」チャプ

男娼「汗…きもちわるいよう」

少女「今拭きますから、文句言わないでください」

男娼「うー…」

少女「…」

男娼「きもちいい…」

少女「そんなに仕事頑張ったんですか」

男娼「だって君に頑張れって言われたもの」

少女「…」

男娼「首の下も拭いて」

少女「あのですね、人形じゃないんだから少しは加減を覚えてください」

男娼「うるさいなあー…」

少女「私は、心配してるんです」

男娼「…んふ」

少女「な、何笑ってるんですか」

男娼「嬉しくて」

少女「…」

男娼「ふふ。君、心配なんだ。僕のこと」

少女「ええ」

男娼「…ありがとう」

少女(…綺麗な目に見える)

少女(見えるだけなのかな)

男娼「ん。もう大丈夫。喉渇いたから、お水持ってきてくれる?」

少女「はい」

バタン

青年「あ」

少女「あ」

青年「あいつ…大丈夫?」

少女「全然大丈夫です。2日安静にしとけばすぐ治りますよ」

青年「そう」

少女「…心配なんですねー。やっさしー」

青年「う、うるさいわね!」

少年「えー、なんだあ。移る病気かと思っちゃった」

少女「疲労よ、疲労。もう少し加減すればいいのに」

少年「じゃあ彼はお粥だねー」

少女「私が作るよ。少年は他のやって」

少年「ふーん」ニヤニヤ

少女「これは栄養面の観点から、私が作ったほうがいいと判断してるんだからね」

少年「はいはい」

少女「…」

少年「けどさ、少女」

少女「何」

少年「彼にあまり肩入れしないほうがいいんだよ」

少女「…なんで」

少年「だって彼、もう身請けが決まったらしいし」

少女「…え」

少年「相手は言わなくても分かるよね?」

少女「…」

少女「だから何なの?」

少年「だから、好きになっちゃだめだよー、ってこと」

少女「…私の問題だよ。心配してくれてありがとう。でも、気にしないで」

少女「…」

コンコン

「どうぞお」

少女「男娼さん、お粥です。食べれますか」

男娼「あ、食べたいー…。ありがと」

少女「体起こしてください。ゆっくりでいいですよ」

男娼「…う」

少女「あとで湿布張替えましょう」

男娼「ん。なんだか看護婦さんみたいだね」

少女「似たようなものですね」

男娼「…」アーン

少女「…何やってんですか」

男娼「あーん、してくれないの?」

少女「…匙ももてないんですか」

男娼「持てるけど。動かすのだるい」

少女「あのですねえ」

男娼「あーーん」

少女「…」

男娼「ちょ、ちょ、っと。そのまま突っ込んだら熱いでしょ!?」

少女「うるさいなあー」フゥ

少女「はい」

男娼「ん。…あむ」

少女「どうですか?」

男娼「美味しい。すっごく美味しい」ニコ

少女「そうですか。光栄です」

男娼「あーん」

少女「はいはい」フゥ

男娼「…」

少女「卵のところも美味しいですよ。今…」

男娼「ね、顔上げて」

少女「…ん?」

男娼「…」

少女「ちょ、っと。何してるんですか」

男娼「いや、ちゅーしようかなって思って」

少女「…」

男娼「ん」

少女「嫌、駄目ですよ」パシ

男娼「なんでさあ!いいじゃない、キスくらい」

少女「駄目ですっ」

男娼「僕上手だよ?やってみて損はないよ?」

少女「ふざけてるんならもうお粥あげません」

男娼「うわ、酷い…」

少女「…もう」

男娼「…その気になれば出来るんだからね。引くのは僕が紳士だからなんだよ」

少女「どうも」

男娼「絶対、近いうちにしてやる」

少女「頑張ってください」

少女「…ん」

男娼「…すぅ、…すぅ」

少女(やば、寝てた)

男娼「…ん」

少女(いけないいけない。そろそろ夕ご飯の準備もしなきゃ)

少女「…」

男娼「…」

少女(手、繋いでたっけ)

少女(ま、いいや)スル

男娼「…」

少女「いつもこうやって静かならいいのに」ボソ

キィ

少女(あ、新しい手ぬぐいも用意しなきゃ。氷枕も入れ替えて…)

「ちょっと、どういうことなの?」

少女「…」ピタ

店主「あの、ですから今日男娼は体調が悪くて」

「…ふうん?」

少女「…」チラ

令嬢「今朝は平気そうだったわよ」

店主「あなたが帰った後に、急に具合が悪くなったみたいで」

令嬢「何それ。私が悪いみたいな口ぶりね」

店主「そ、そんなことはありません!断じて!」

令嬢「とにかく会いたいわ。部屋に私が行けばいいんでしょう?」

店主「し、しかし…」

令嬢「いくら欲しいのよ?いいから早く通して」

店主「…う」

少女「…」スゥ

少女「はぁ」

少女「あの」

令嬢「…何、あなた」

少女(…この人か)

令嬢「…ここに女の小間使いなんていたのね」

店主「あ、いや、彼女はー…」

少女(綺麗な着物、綺麗な化粧。…なるほど、お金持ちだ)

令嬢「で、何かしら?私急いでるのだけれど」

少女「…男娼は本当に具合が悪いんです」

令嬢「…は?」

少女「筋肉疲労で立つことも難しい状態ですし、喋るのも辛そうです」

少女「彼に負担をかけてまで会いたいんですか?それほど大事な用があるんですか?」

令嬢「…」

店主「ちょ、ちょっと少女ちゃ…」

少女「お引取りください。彼は2日後にはよくなります。それまで休ませてあげてください」

令嬢「…くす」

少女「…」

令嬢「ああ、あなた。…あなたなのね」

令嬢「男娼の懐に入り込んだ娘…。図々しくも」

少女「そうですね、私ですね」

令嬢「彼も趣味が悪いわ。小間使いとはいえ、もう少し見栄えがいいものを選べばよかったのに」

少女「はい、そうですね」

令嬢「小間使いごときが勝手言わないで。うるさいわよ」

少女「私は事実を述べたまでですが」

令嬢「とにかく」

令嬢「私は彼の身請け人でもあるのよ。何時会おうが勝手でしょう」

少女「…」

令嬢「彼だって明日会いたい、って言ってくれたのよ。それを引き裂くの?」

少女「はい。お引取りください」

令嬢「…」イラ

令嬢「いい加減にしなさいよ、小娘。あんたに何の権限があるの?」

少女「担当薬師として、小間使いとしてです」

店主「少女…」

少女「お引き取りください。お願いします」ペコ

令嬢「何なのよ、店主さん!この子は」

店主「も、もういいから。少女ちゃん、戻って」

令嬢「気分が悪い…。もう、早く通してちょうだい。いくらなの?」

少女「…」

少女「いい加減に」

「あ、お嬢ー」

令嬢「…!」

男娼「こんな早い時間に、どうしたんですか?」ニコ

少女「…男娼」

令嬢「ああ、会いたかったわ男娼!話したいこといっぱいあるのよ」ガバッ

令嬢「あなた、元気そうじゃない。なあんだ…」チラ

少女(嘘だ。歩くのも限界なはず)

令嬢「聞いてよ、この子が邪魔をしてきたのよ。どういうつもりなのかしら」

男娼「…」

少女「…」

男娼「僕、大丈夫ですよ」

少女「!」

男娼「行きましょうか、お嬢」

令嬢「ええ!」

少女「…」

少女「…」

少女(ふざけんな)

少女(何であんたは)

少女(明らかに顔色悪くて、熱くて、震えてる男を自分の都合で振り回せんのよ)

少女(何であんたは)

少女(…大丈夫、って言うのよ。そんな諦めた目で、どうして)

少女(自分が…そんなに大事じゃないの?)

少女「…っ」ギュ

少女(男娼は)

少女「…じゃない」

令嬢「…は?何、退きなさいよそこ」

少女「…」

男娼「少女」

少女「…物じゃないのよ」




少女「男娼は、物じゃないっ…!!!」

少女「生きてるし、自分の意思があるのよ!物じゃない!商品なんかじゃない!」

男娼「…」

少女「彼を苦しめないで!自分を苦しめないでよ!」

少女「何でそんなことも分かんないの!?あんたら、本当、馬っ鹿じゃないの!?」

令嬢「…な」

少女「彼を離して!帰りなさい!」

青年「あ、あらああー!こんな所にいたのねー!探したわよー!!」バッ

少女「ん、ぐ!?」

令嬢「なに、こいつ!!私になんて暴言を…!」

青年「ほ、本当よねー!この子本当に馬鹿なんです、ごめんなさいごめんなさい」

少女「…っ」

令嬢「…ふざけないでよっ…」

少女(…あ、やば)

青年「ほら、あんたも謝って!」グググ

少女「う、…」

少女(でも、謝りたくない。…絶対)

男娼「…」

少女「帰って、くださいっ…」

男娼「…少女」

青年「…!」

令嬢「え、ちょ、っと…」

少女「男、娼…」

男娼「…」

ポタ

少女「泣いてる、の…?」

男娼「…」

青年「う、そ…」

令嬢「……」

男娼「なんでだろ。涙止まんない。…あはは」ポロ

令嬢「どう、して…」

男娼「…はぁ」フラ

少女「あ、男娼さんっ」バッ

男娼「…やっぱ、今日はキツいです。お嬢…。また、今度にしてくれませんか?」

令嬢「…!」

男娼「お願い…します」

少女「青年さん、彼を部屋に。店主さん、氷と桶に水を」

青年「え、ええ」

令嬢「…な」

令嬢「…」

男娼「…」ハァ

令嬢「わか、ったわよ。…今日は帰る」

少女「ありがとうございます。申し訳ありませんでした」ペコ

令嬢「…っ」

バン

少女「…」

男娼「…ふふ、君…。恰好、良かったよ」

少女「…やっちゃった」

店主「ああ、やってくれたな」

青年「くれたわね」

少女「本当…ごめんなさいぃ…」

男娼「彼女を責めないで。…お願い」

青年「…いいから、あんたは部屋で寝ろ!」グイ

男娼「…」

少女「…うう…」

男娼「何泣きそうになってるのさ」

少女「だって、私…あなたの身請け人に暴言を」

男娼「…」

男娼「いいんだ、別に」

少女「全然良くないでしょう…!」

青年「ほら、行くわよ」

男娼「…」

少女「…」

少女「…はぁ」

男娼「72回目」

少女「何が」

男娼「溜息」

少女「そんなにしてましたっけ」

男娼「うん。めっちゃしてる」

少女「うう…」

男娼「僕、本当にすっきりした」

少女「え」

男娼「何か言いたいこと全部君が言ってくれた感じ。すっごく、きもちいい」

少女「…」

男娼「どうなるだろうねえ。彼女、怒ってるかなあ」

少女「かなり」

男娼「でも、まあいいや。どうでも」

少女「…」

男娼「それに、身請け人は君って決めてるし」

少女「また、そんな非現実的な話をー…」

男娼「ますます好きになっちゃったんだもん」

少女「…なんなの…」

少女「あー、私殺されるかな」

男娼「えっ、誰に」

少女「青年さんか店主さん」

男娼「そんなことさせないさ。大丈夫だよー」

少女「…そうでしょうか。はぁ…」

男娼「…何。あの暴言を後悔してるの」

少女「…」

少女「いいえ。だって事実言ったまでですし」

男娼「…」クス

少女「ああでも、怖いのは怖いよ…」ガリガリ

男娼「少女」

少女「は、」

男娼「…」

ギシ

少女「…!」

男娼「…ん。ふ、…はぁ」

少女「あ、…」

男娼「ぷは」

少女「………」ポカン

男娼「しちゃったね」

男娼「キス」

少女「…」

男娼「はとが鉄砲食らった顔してるけど」

少女「…」

男娼「何、気持ちよすぎて魂抜けちゃった?」

少女「マメ」

男娼「うん?」

少女「鳩が豆鉄砲食らった顔、です」

男娼「…案外冷静じゃないか」

少女「…」

男娼「よいしょ」チュ

少女「……っ、何やってんの!!?」ドン

男娼「あはは、やっと目が覚めたー」

少女「うわああぁあああ!?馬鹿、馬鹿じゃないの!?ねえ!?」バッ

男娼「柔らかかった」

少女「…い、…!?」

男娼「ねえ、もうちょっと大人なやつしない?」

少女「死ね!!」

男娼「酷い…さっきまで物じゃないとか言ってくれてたのに」

少女「…っ」カァ

少女「あなたって、本当っ…」

男娼「今のはずるかったかなー…。ちゃんと君の許しがあってからが良かったかな、最初は」

男娼「ん、でもしたかったからしょうがないね。うん」

少女「……」

男娼「怒ってるの?」

少女「う…」

男娼「…ごめんね?」

少女「!」カァ

男娼「…許して。君が可愛くって、つい」

少女「おっ、おやすみ、なさいっ!!」

バタン!

男娼「…あはは。本当、可愛い」

今日はここまでにしときます。支援本当ありがとうございます…
しかし疲れるな。多分もうそろそろ終わります

少女「…」カチャカチャ

少年「…あ、おはよ。早いねー」

少女「少年、おはよう…。あ、茶碗出してくれる?」

少年「ん。んー…」

少女「どうかした?」

少年「…あのさ」

少年「店主が、ちょっと来いって」

少女「…げぇ…」

……


店主「あいつの容態はどうだ?」

少女「まあ、ぼちぼちです。明日には熱も引くと思いますよ」

店主「そうか…」ボリボリ

少女「…」

店主「えー、で、昨日のことなんだが…」

少女「本当に、申し訳ありませんでしたっ」バッ

店主「うお!?」

少女「わ、私本当にっこの楼のこととか何も知らないくせに偉そうなこと言ってっ」

店主「顔上げて顔上げて!めっちゃ変な目で見られてる!」

少女「うう…悪気は微塵もなかったんです…」

店主「うん。そりゃあ、分かるよ。男娼を心配して言ってくれたんだろうな」

少女「その通りです…。薬師根性がうずいてしまって…」

店主「んー」ボリボリ

店主「俺は勿論、君が間違ったことをしたとは思ってない。…人道的にはな」

少女「…」

店主「たださあ、その、お客側が…」

少女「ですよ、ねぇ…」

店主「ちょっとやばいんだわ…」

少女「ごめん、なさい…」

店主「うわあああ泣かないでお願いいいい」

少女「…ど、どうしたらいいでしょう。私は」

店主「まあこの場合一番心配なのはあいつの身請け話がパアになることなんだが」

店主「それは、ないらしい。ぞっこんだからな」

少女「…」

店主「ただ、令嬢さんは少女ちゃんが小間使いを辞めるべきだと言ってる」

少女「…!」

店主「圧力をかけてくるかもしれないんだ」

少女「…」ギュ

店主「君も、複雑な事情からこの楼に入ったわけだ」

店主「…」

店主「残酷なことを言うようだが、彼の人生に君は関わるべきでない」

少女「…店主、さん」

店主「それがお互いのためなんだ。あいつは身請けされて安定した人生を送る。君は日常に戻る」

店主「それが一番良いんだ」

少女「…」

少女「…」

店主「青年から聞いた。君に男娼の話をしたって」

少女「は、はい」

店主「知っての通り、あいつは愛を知らない空っぽの男だ」

店主「君が受け止め切れないほど、その空白は大きいと思う」

少女「…」

店主「だから、あいつはもう」

店主「その空白にできるだけ目を背けて、身請け先で暮らしていくしかないんだ」

少女「…希望もなにも持たずに?」

店主「そうだ。彼はいつだって裏切られてきたから」

少女「…」

店主「お願いだ。男娼をこれ以上壊さないでくれ。これ以上期待させないでくれ」

店主「俺は…。そこまで残酷にはなれない。このままが、きっと男娼にとって一番良いんだ…」

少女「…」

少女「私、でも」

少女(…助けたい、の?)

少女(助けられるの?私に?弟も、まだ治ってないのに?お金もないのに?彼を満足させられるの?)

少女(…それほどまで、彼を想い続けていられるの?そもそも、私は彼をどう思ってるの?)

少女「…」

店主「君も、迷っているんだろう」

少女「だって…彼は、彼は」

店主「…」

少女「助けたい…けど、私…」

店主「分かった」

少女「…」

店主「君が彼をどうあれ大事に思ってることは分かる」

店主「だからこそ、これは言うべきだと思う」

少女「言う、べき…?」

店主「ああ。あいつが、この楼に来る前の話だ」

少女「…」

店主「俺とあいつしか知らない話だ。物凄く重たい」

少女「…」

店主「聞くに耐えないかもしれない。けど、君は知る権利がある」

店主「これ以上、自分と彼の人生を壊さないためにも」

少女「…彼に、何が」

店主「男娼は…」

男娼「僕がなに?」

店主「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ」

少女「うわあああああああああああああああああああああああああ」

男娼「ちょ、うるさっ」

店主「だだだ男娼っ。お前、寝てたんじゃないのかよ!?」

男娼「いや、お腹空いちゃったし」

男娼「君はいつの間にかいなくなってるしさぁ」

少女「あ、あ…ごめんなさい…」

男娼「で、二人して何の話してたの。随分真剣な顔だったけど」

店主「!」ビクゥ

少女「お、お叱りを受けてました!昨日の失態について!」

男娼「ふうん」

店主「あ、ああああー!でも、大丈夫大丈夫!もう怒ってないから!」

男娼「…何焦ってるのさ」

少女「焦ってないですよ?!何も!」

男娼「…」

店主「う、うんうん!だからお前は部屋に戻れ!」

男娼「そうする。少女、行こ」

少女「あ、え…。は、はい」

バタン

少女「…」

男娼「顔が白いよ。汗もかいてるみたいだし」

少女「暑い、からですね」

男娼「…」

少女「すみません、ご飯持って来ましょうか」

男娼「いいよ。ここにいて」

少女「は、はい」

男娼「…あのさ」

少女「はい」

男娼「令嬢、怒ってるみたいだった?」

少女「あ、はい…。すごく」

男娼「うー、やっぱりかぁ…。あの娘プライド高いしなあ…」ボフ

少女「すみません…」

男娼「いいんだって別に。けど、俺が治められる程度の怒り方だったらいいんだけれど」

少女「…」

少女「小間使い、やめろって言われました」

男娼「はあ!!?」

少女「お、大きい声出さないでください。熱上がりますよ」

男娼「ど、どういうことさ!何でそんなことしなきゃいけないのっ」

男娼「君、それ受けたわけじゃないだろうね!」

少女「へ、返事はなにもしてないですけど」

男娼「当たり前だろ!君を手放すかどうかは僕が決めるんだからっ」

少女「…で、でも」

男娼「あー、どうしよう…。令嬢の屋敷に言って丸め込もうかな」

少女「駄目です。まだ熱があります」

男娼「瑣末な問題だよ。早くしないとあの頑固女、本当に君を取り上げかねない」

少女「駄目ですってっ」

男娼「着替え持ってきて。あと履物も準備してくれる?」

少女「嫌です。寝ててくださいっ」

男娼「あのねえ」

男娼「じゃあ何、君はこのままほいほい追い出されていいの?」

少女「…」

男娼「ああそうか。僕から離れるきっかけができて嬉しいんだ」

少女「違う!」

男娼「…」

少女「そんなこと、思いませんよっ」

男娼「…そう。なら、行かせて欲しい」

少女「じゃあ、私が行きますからっ」

男娼「火に油だろ。僕だったらできる」

少女「…男娼さんっ」

男娼「…」フラ

少女「ちょっと!」

男娼「店主ー。ちょっと令嬢ん家行ってくるー」

少女「止めて!店主さんっ!」



少女「何でいないのよぉ!?」

男娼「ご飯でしょ。もう君うるさい。留守番しててよ、いい子だから」

少女「あなた、倒れますよ!お願い、行かないでっ」

男娼「やだ」スタスタ

少女「…っ」

少女「…」ギュ

少女(…私がいると、駄目なのかもしれない)

少女(この人は、際限なく無理をしてしまうんだ。…きっと…)

少女「…」

少女「もう、やめてください」

男娼「ん、しつこいよ」

少女「私は…こんなことして欲しくない」

男娼「どういう意味」

少女「自分を、もっと大事にしてほしいんです」

男娼「…」

男娼「君、…僕を大事にしてどうするのさ。何言ってるの」ケラケラ

少女(…そう)

少女(あなたは、ずっとそうなんだね)

少女「私がいると、私のことばっかり考えちゃうんですね」

男娼「そうだね。君、分かってきたじゃない」

少女「自分は、どうでもいいんですね…」

男娼「勿論」

少女「…」

男娼「じゃ、行ってきます」

少女「私、もう嫌」

男娼「…は?」

少女「あんたのお守りなんか、もうやりたくない」

男娼「…」

少女「もう散々よ!嫌だ、帰りたいっ!」

男娼「少、女」

青年「…お」

少年「なんだろ、この声」

少女「触らないでっ!」

男娼「少女、どうしちゃったの。ねえ」

少女「もう、こんな所いたくないの!お願い、もう帰して!」

青年「少女…?」

男娼「どうして、君。そんな」

少年「…や、やばいかな?」

青年「…少女…」

少女「お金は返します!だから、もう許してください!」

男娼「…」

少女「ごめんなさい、ごめんなさいっ…」

男娼「少女。…」

少女「もう、帰りたいよぉっ…」

男娼「…」

男娼「分かった」

少女「…」

男娼「…ごめん」

少女「うっ…うう…」

男娼「君の気持ち、汲んであげられなかったね」

少女「…」

男娼「…」

男娼「お金は、もういいよ。十分楽しかったし」

少女「でも…」

男娼「いいって言ってるだろ」

少女「…」

男娼「もう、お帰り」

少女「い、いいんですか…?」

男娼「うん。…準備、しておいでよ」

少女「ありがとう、ございます…」

青年「…」

少年「うわ…」

男娼「…」クル

青年「男娼」

男娼「話しかけないで」

青年「…」

男娼「今凄く、…嫌な気分なんだ」

少年「…」

少年「あの人でもあんな顔、するんだね…」

青年「…ええ」

少女「…」

少女「…準備、ってさ」

少女(…何もないんだけどね。私物なんて)

少女(…服くらいしかないや)

少女「…」

少女(この部屋とも、お別れか)

少女(…もう二度と、この町には来ない)

少女(男娼)

ギイ

少女(ごめんね、さよなら)

バタン

青年「…」

少女「お世話になりました」ペコ

青年「もう少しだったのに」

少女「…」

青年「ありがとう、少女。あなたは十分やってくれた」

少女「私なんて、…そんな」

青年「ハグしてもいい?」

少女「はい」

青年「…っ」ギュウ

青年「ごめんなさい。あなたが一番、辛いよね…」

少女「何も…」

青年「ありがとう、男娼のこと考えてくれて、ありがとう…」

青年「何も出来なくて、ごめんなさい…」

少女「…」ポンポン

少年「…」

少女「ばいばい、少年」

少年「俺…これで良かったか、分かんないよ…」

少女「…そうだね」

少女「そろそろ行かなきゃ。…二人とも、よくしてくれてありがとう。ばいばい」

青年「…」

少年「…」

少女「…」ペコ

バタン

少女「…」

少女(あ)

ポツ

少女(雨)

少女(…)

振り返って見上げた楼の二階には

少女「…男娼」

高い美しい、彼のいる城には

少女「…」

少女「さよなら」

あの日のように笑顔で手を振る彼の姿はなく

少女「…」

ただ雨粒だけが跳ねているのが見えた

……


少女「はい、二袋全部飲めたね。偉い偉い」

弟「えへへ」

少女「一週間も放ったらかしにしてごめん。手術も上手くいったみたいで、安心した」

弟「全然痛くなかったよ!体が軽くなったかんじ!」

少女「そっか」

弟「お姉ちゃんがお見舞いに来てくれて嬉しいな」

少女「何言ってんの。退院までもうつきっきりだよ」

弟「…明日だもんねー」

少女「そうね。拍子抜けするくらいだわ」

弟「うん」

少女「…ふー」

弟「ねえ、姉ちゃん」

少女「なに?」

弟「何かあった?」

少女「…」

弟「何だか、すごく悲しそうな顔してる」

少女「そう、かな」

弟「大事な人がいなくなっちゃったみたいな、顔」

少女「…あはは、何でそんな具体的に」

弟「お母さんとお父さんが死んじゃったときみたいな顔、してるから」

少女「…」

弟「あ、ごめん。…変なこと言って」

少女「ううん」

少女「…もういいのよ。終わったことだし。前を向かなきゃ」

弟「…そう?」

少女「そう。今はあんたが一番大事なの」ギュ

弟「あは、くすぐったい」

少女(…)

少女「もう、終わったことか」

少女「…ふー」

弟「お姉ちゃん、そうだ」

少女「なに?」

弟「男娼さんは、お見舞いに来てくれないの?」

少女「…うん、お仕事忙しいんだって」

弟「そっか、…暇だったら行ってやるって言ってたんだけど」

少女「え?でも、入院することなんて知らないんじゃ」

弟「んー、でも男娼さん、そろそろ君は入院できるよって言ってた」

少女「…」

弟「僕がね、そんなの姉ちゃんの負担になるって言ったら」

弟「そんなこと言っちゃ駄目だ、自分を大事にしろって怒ってた」

少女「…」

弟「優しい人なんだね、あの人」

少女「馬鹿みたい。…人のことばっかり」

弟「馬鹿?ええ、男娼さんは頭良いよー」

少女「…そうね」

少女(…)

弟「すぅ、すぅ」

少女(…思えば)

少女(優しかったな)

少女(何かちょっと偽悪みたいな顔して、さらっと親切おしつけるんだもん)

少女「…」

少女(ね、自分のことなんか、考えないくせにね)

弟「…姉ちゃん」

少女「あ、起こしちゃった?」

弟「ううん…」

弟「あのね」

少女「うん」

弟「僕、姉ちゃんがふらふらで働いてる時ね、本当はすっごく怒りたかったんだ」

少女「…」

弟「だから、男娼に自分を大事にしろって言われた時、ああお姉ちゃんにも言ってあげなきゃ、って思った」

少女「…」

弟「姉ちゃんも、自分を大切にしてね。…おやすみ」

少女(…ああ)

少女(お互い様、だったのか)

弟「…姉ちゃん?」

少女「…私さぁ」

弟「うん」

少女「やりたいこと、やっていいのかな」

弟「…?」

少女「私も、自分を大事に…やりたいことやっていいのかな」

弟「うん」

少女「わがまま言って、いいのかな」

弟「当たり前じゃない。姉ちゃんは今までいっぱい頑張ってきたんだもの」

少女「…」

弟「そうでしょ?」

少女「私、助けたい人がいるんだ」

弟「うん」

少女「…助けていい?」

弟「姉ちゃんの好きなように、しなよ」

少女「…」

少女「うん。ありがとう、あんたのお陰で目が覚めた」

=次の日

弟「ふんふーん…」

看護婦「あら、弟くん、一人で準備してるの?」

弟「うん」

看護婦「お姉さんは?今日は退院の手伝いするって…」

弟「僕一人でできるもん」

看護婦「…一緒にいてあげればいいのに」

弟「…」クス

弟「姉ちゃんがね、やっと自分を大事にしてくれたんだ」

看護婦「え?」

弟「僕、すっごく嬉しいんだ」

看護婦「…」

弟「手のかかる姉ちゃんだったけど。…ね」

弟(…頑張れ。姉ちゃん)

少女「はぁ、はぁ」

少女「ふー…」

「あー朝まで頑張りすぎたな」

「仕事行きたくねー」

「あの女郎、もう絶対指名しねーわ」

少女「…」

少女「…」パンッ

少女「よし」タタタ


青年「…はー」

少年「…うー」

青年「私なんだか、もう男娼から足洗いたくなってきた」

少年「俺もー…」

青年「あんたは借金返してからにしなさいよねー…」

「…あのっ」

青年「うおっ!!?」

少女「ごめんなさい、こんな朝早くにっ」

青年「少女おおおー!久しぶりじゃないのー!」

少年「あれ?3,4日しか経ってない気がするけど?」

青年「どうしたのっ、忘れ物でもした?」

少女「男娼さんに…話があるんですっ」

青年「…あ」

少年「…えーと」

少女「彼、二階です?」

青年「ここには、いないわ」

少女「…え?」

少年「令嬢さんの家に…いるんだ」

少女「…!」

青年「昨日の夜からよ。身請け話をまとめに行ったみたい」

少女「…どこですか、それ!」

青年「ま、待って。あなた、行ってどうすんのよ」

少女「わがまま言いまくります!」

少年「えええ!?」

少女「私、もう絶対遠慮しません!弟に怒られるし!」

青年「ど、どういう心境の変化なの?!」

少女「もう彼から逃げません。ちゃんと私がなんとかします。だから」

青年「…」

少年「そっかぁ」

少年「君は、彼が好きなんだね」

少女「うん」

少年「彼を助けてあげられるほど、好きなんだね?」

少女「うん」

青年「…」

少年「橋を渡って、二つ目の角を曲がった所。かなり大きいからすぐ分かるよ」

少女「ありがとう、少年っ」タッ

青年「…行っちゃった」

少年「あーあ」

青年「……」

少年「僕、結構あの子のこと狙ってたのになぁ」

青年「そうだったの…?」

少年「うん。…ってうわ、泣いてるのあんた!すっごい顔だよ!?」

少女「はぁ、はぁ」タタタ

少女(この角、曲がって…)

少女(…うわぁ、本当にでかいわ)

少女「…」スゥ

少女(ん、でも待てよ。どうやって男娼呼び出そう)

少女「…」

少女(いや、やるしかない)

召使「…」

少女「あ、あのお」

召使「はい」

少女「私、男娼の楼の小間使いなんですけど…。彼を、呼んでくれませんか」

召使「今お嬢様と身請けのお話をしています。できません」

少女「…(ですよねぇー)」

少女「でも、すっごく大事な話なんです。えーと」

少女「そ、そう!彼の楼の同僚が、急に苦しみだしちゃって」

少女「その人、女形みたいな男性なんですけどっ、死ぬ前に一目で良いから友人に会いたいって…!」

召使「…」

少女「も、もう息も絶え絶えなんです!お願いですから彼を会わせてやってください!」

召使「…少女」

少女「は、はい!?」

召使「ああ、合点がいきました。あなたが男娼さんにつきまとっていた方ですね」

少女「つ、つきまとってなんか…。今はそうかもしれないけど」

召使「お嬢様にあなただけは入れるな、追い払えといわれておりますので」

少女「わ、私少女なんかじゃないですよ」

召使「さっき自分で肯定ともとれること言ってましたよ」

少女「…」

召使「お引き取りください」

少女「わ、分かりました。私は少女です、けど本当にあのオカマ死にそうで」

召使「接触させるなとも言われております」

少女「な、なんでよ!人の最後の願いを無下にする気?!」

召使「青年さんは朝うかがったときにはお元気そうでしたが」

少女「うっ…」

召使「そろそろ仕事に戻りたいのですが」

少女「…」

召使「もう諦めたらどうです。彼はお嬢様のものになるんですから」

少女「…」

少女「訂正して。物じゃない」

召使「…人を呼びますよ。いい加減にしてください」

少女「…お願いします。少しの間でいいんです、彼に会わせて」ザッ

召使「困ります。顔をあげてください」

少女「お願いします…!」

召使「いけません。私が怒られます」

少女「…」ギュ

少女「…彼、もう」

少女「私が会わなきゃ、駄目になるかもしれないのに?」

召使「…」

召使「私は、お嬢様の幸せを第一に考えないといけないんです」

少女「…」

召使「…」

少女「そう」

召使「ええ」

少女「分かった。…ごめんなさい、困らせちゃって」

召使「…」

少女「…」フラ

少女「…」

召使「さようなら」

男娼「…」

令嬢「さ、ここにあなたの署名をして」

令嬢「これで晴れてあなたは自由の身だわよ」

男娼「ありがとうございます」

令嬢「色々邪魔はあったけど、私達、一つになれるのね。やっと」

男娼「…」

男娼(これで、いいんだろうなあ)

男娼(僕は…いや。あれだけ彼女と過ごせただけで、十分な幸せだったのかもしれない)

「…お願いします!」

男娼「…」ピタ

令嬢「男娼…?」

男娼(…少女…?)

令嬢「どうしたの、窓の外なんか眺めて。早く書いてしまったら?」

男娼「…」

「…分かりました」

男娼(…少女!)

男娼「…あ」

令嬢「どうしたの、ねえ」

男娼「…いか、ないで…」

令嬢「え…」

もっと自分を大事にして

男娼「…嫌」

令嬢「ちょっと、座りなさいよ。ねえ」

男娼「…行かないで。もう、離れないで」

令嬢「ちょっと…!」

男娼「…少女…!」

令嬢「!」

男娼「ごめんなさい、お嬢。…僕、この書類に名前を書けません」

令嬢「ど、どうして!何言ってるのよ!」

男娼「僕、僕。…大事な物を見つけてしまったから」

男娼「もう諦めたくないから…」

令嬢「…駄目よ!許さないっ!あなたは私のものになるの!私のっ!」

男娼「…」クル

令嬢「戻りなさい!男娼ぉっ!」

男娼「…はぁ」

令嬢「店がどうなっても知らないわよ!あなた、路頭に迷いたいの!?」

男娼「…」

令嬢「私といれば幸せになれるのよ!?何でもできるのよ!?」

男娼「…お嬢」

令嬢「あんな、あんな貧相な小娘と一緒になったって、何も…!!」

男娼「あなたはもっと大切なことを知るべきです」

令嬢「…!」

男娼「ごめんなさい。急がないと」

令嬢「…っ、男娼ごときが!卑しい男のくせに!私を拒むな!!」

男娼「…」

男娼「はぁ?」

令嬢「…!」ビク

召使「お嬢様、いかがしましたか」

令嬢「!召使、そいつ捕まえなさい!外に出しちゃ駄目!」

男娼「もー…」ガリガリ

令嬢「男娼、今なら許してあげるから!座って、書きなさい!」

男娼「…う、っさいなぁあああ!!」ダン

令嬢「!」

男娼「もうぎゃんぎゃんうるさいんだよ、小娘っ!親の七光りでよくそんな偉そうにできるもんだよ!!」

男娼「お前といると蕁麻疹が出そうだ!僕、こういう恵まれて我儘な女、だいっきらいなんだよっ!!」

令嬢「…だ」

男娼「何驚いてんの?これが僕だよ?あはは、失望したかなぁ、お嬢様?」

召使「…」

男娼「…あー、もうだるい。お前に身請けされるくらいなら、死んでやる」

男娼「どいて」

召使「…」フルフル

男娼「あんたもさあ、自分のお嬢さんの道徳性、考えた方が良いよ」ドン

召使「…っ」

男娼「じゃあね、もっと上品な男娼ひっかければ」

召使「…」

召使「彼女、西へ…。色町のはずれのほうへ行きました」

男娼「ん」

令嬢「あ、あんたっ…」

召使「…が、」

召使「…頑張ってください…」

令嬢「……!」

男娼「あはは、君、恰好良いなぁ」

男娼「ありがとっ、ばいばい!」タッ

バタン

令嬢「…」ヘナ

召使「申し訳ありません、お嬢様」

令嬢「…彼…」

召使「しかし、彼と一緒になってもお嬢様は幸せにはなれないんですよ」

召使「…気づいていたでしょう?」

令嬢「…」

令嬢「そう、ね…」

男娼「はぁ、はぁ」タタタ

男娼(何処に、行ったんだろ)

男娼(全く、わざわざ会いに来たんなら、逃げ出すなっての)

男娼「…っ」

男娼(…ここら、結構人通りも少ないのに…)

男娼「少女おー」

男娼「何処だよ、なあー」

男娼(…会いたい)

男娼「少女ー!」

男娼(今すぐ、会って、話して。…少女…)

男娼「少…」

ジャリ

「…」

男娼「…あ」

少女「…」

男娼「…あはは、君…。何やってるの。そんなとこに座り込んで」

少女「…男娼さん」

男娼「君…下駄のまま出てきたの。足、血が出てる」

少女「う…」

男娼「ほら、立って」

少女「…」

男娼「よいしょ」グイ

少女「…お腹、空いた」

男娼「馬鹿だな…。もー」

少女「もう歩けない…」

男娼「あはは、…情けないのー」

少女「うう…」

男娼「どこかお店に入ろう。君、ちょっと休んだ方がいい」

少女「ごめんなさい…」

男娼「いいんだ。謝らないで」

男娼「おぶってあげる。はい」

少女「そんな、でも」

男娼「はーやーくー」

少女「…ありがとう」ノシ

男娼「ん。…ちゃんと掴っててよ」

少女「はい」ギュ

男娼「…」

少女「…」

……


少女「で」

男娼「うん」

少女「ここは、どこですか」

男娼「君図々しくも背中の上で寝ちゃったろ。そりゃ、分かんないよねえ」

少女「…ご飯食べるんじゃ」

男娼「…」

少女「なんですか、この布団は。どこですか、ここ。本当に」

男娼「うーん」

少女「状況がまじで飲み込めないんですが」

男娼「逢引茶屋、ってとこかなー」

少女「あいびきちゃや?はぁ?」

男娼「うん。男女の組が一晩を過ごす所」

少女「なんちゅうところに連れ込んでくれてるんですか」

男娼「だってさあ、休める所ここしかなかったんだもん」

少女「本当ですか?」

男娼「色町のはずれって、結構閑散としてるし」

少女「…はぁ」

男娼「んじゃ、するか」

少女「馬鹿か!」

男娼「あはは、その感じめちゃくちゃ懐かしい。心地いいなあ」

少女「…」

男娼「はー…」

男娼「なんか異様だね。一組の布団を前にして正座しあう男女」

少女「ですね」

男娼「…で」

少女「はい」

男娼「何で来たの?」

少女「…話あったんで」

男娼「そう」

少女「あなたはどうして、追いかけてきたんですか」

男娼「君に会いたかったから」

少女「…どうも」

男娼「…」

少女「…」

少女「み、身請けは」

男娼「何それ。だから、僕の身請け人は君だよ。最初から」

少女「…」クス

少女「えー、っと」

男娼「…」

少女「あのですね、私あなたと離れてみて」

男娼「うん」

少女「あなたのことを、どう思ってるか実感できたんです」

男娼「…好きなの?」

少女「はい」

男娼「わお」

少女「あなたのこと、放っておけないので。…だから」

男娼「…嬉しい」

少女「…私にできることを、したいです」

男娼「…えへへ」

少女「ん、うわ」

男娼「あーー。…すごい、嬉しい。少女、好き。大好き」ギュウ

少女「う、うん」ポンポン

男娼「…でも、君には言っておきたいことがある」

少女「…はい?」

男娼「僕、君に隠してることがある」

少女「…あ、楼に入ったときの話ですか」

男娼「ああ、青年が言っていた話じゃないよ」

少女「…ん。何で知って」

男娼「勘」

少女「えええ…?」

男娼「だって青年、顔に出やすいもの。それに君もそわそわしてたし」

少女「…」

男娼「ま、楼でも色々はあったさ。けど、これはそれより前のこと」

男娼「僕がずっと子どものころ。…思い出したくは、ないんだけど」

少女「…無理には」

男娼「ううん。でも、君になら言いたい」

少女「はい」

男娼「聞いてくれる?…僕のこと、嫌いになっちゃうかもしれないけど」

少女「今更…」

少女「嫌いになんて、なりませんよ。どうぞ」

男娼「…肝が据わってるね。じゃあ、…」

少女「…」

男娼「僕の両親は、僕が5歳の頃に死んだ。心中だった」

少女「…」

男娼「親戚もなくて、僕は借金取りの人に連れて行かれた」

男娼「…そして、色町に売られた」

少女「…」

男娼「…」

少女「大丈夫ですか」

男娼「うん。…うん」

男娼「…手、握ってくれる」

少女「はい」

男娼「…はぁ…」

少女「震えてますね」

男娼「大丈夫…。僕、ずっと、言いたかった。誰にもいえなくて、気が狂いそうだった」

男娼「…店主なら少しの事情は知ってる。けど、詳しいことなんか話したことない」

男娼「どんな目で…見られるか。怖くて、怖くて」

少女「…ええ」

男娼「でも、君…」ギュ

男娼「僕の話、受け入れてくれる?僕のこと、拒まない?」

少女「…言わなくても分かると思いますけど」

少女「当然です。絶対、受け入れます」ギュ

男娼「…」

男娼「僕」

少女「はい」

男娼「…っ」

男娼「……男色の店で働いてたんだ。…楼に入るまで、ずっと…」

少女「…!」

男娼「6歳から、12歳くらいまで。汚いところだった。…色町でも、日にあたらな暗い場所」

少女「…」

男娼「女と違ってね、男は、ちがう醜さがあるんだ」

男娼「ただ性欲だけを吐き出して、僕を酷く扱った」

少女「……」

男娼「でも僕、諦めてたんだ。これが自分の人生だ、ここで、生きていくしかないって」

男娼「…ある日」

少女「…」

男娼「客が、…僕の首を絞めてきた」

少女「…っ」

男娼「何度も何度も、絞めてきた。そうすると、気持ちが良くなるんだって」

男娼「僕は、…ここで死ぬのかなって思った」

男娼「それでもいい、どうせ辛いならこのまま殺してくれればいい。…そう思った、のに」

男娼「…体は、真逆のこと考えてた」

男娼「客が一瞬力を緩めた時に、僕の腕は勝手に動いてた」

男娼「…目を、潰した。今でも感触が残ってる」

少女「…」ギュ

男娼「当然僕は店の人と客から激しい折檻を受けた。本当に、殺されそうだった」

男娼「すごい形相で追いかけられて、店先で肩に刃物を突きつけられて」

男娼「折角抵抗したのに、ここで死ぬ。…でも、もう体が動かなかった」

男娼「…その時だよ」

男娼「…ある人がね、僕を助けてくれた」

少女「…店主」

男娼「そう。彼は僕を助けて、自分の店で働かせてやるって言ってくれた」

少女「…」

男娼「僕、初めて店の外の空気をすえたんだ。すごく、嬉しい」

男娼「…はずだったのに」

男娼「何も感じない。何も、思わなかった。ただ、自分は汚いっていう思いだけが漠然とあった」

少女「…」

男娼「…僕は楼に入った。初めのうちは、天国に思えた」

男娼「けど、あの件で…。もう僕、本当に考えるのをやめちゃったんだ」

男娼「僕は所詮、こういう人間なんだ。幸せになる権利はないんだ、って」

少女「…」

男娼「そういうかんじ」

少女「…」

男娼「すごい汗。…君も、僕も」

少女「…っ」

男娼「ぞっとしたでしょ。僕、本当に汚らわしいんだよ」

男娼「ずっと騙してた。青年も、客も、君も」

男娼「こんな汚い手で、君に触れたんだよ…」

少女「…何、言ってるんですか…」

男娼「…」

少女「あなたは汚くなんかない。酷いことをされたけど、汚くなんかない!」

少女「そんな…どうして自分を責めるの。全部、周りが悪いのに!」

男娼「…少女」

少女「馬鹿です、あなた…。こんなこと…」ポタ

男娼「泣かないで」

少女「うっ、…っ。ううっ…」ポロポロ

男娼「…」

少女「あ、あなっ、あなたはっ」

少女「綺麗で、優しくてっ、とっても、いい人っ…なんですっ」

男娼「…」

少女「あなたがっ、幸せになっちゃいけないなんて、…そんなこと、ないんですっ」

男娼「…」

少女「自分が汚いって思うならっ、今から存分に綺麗に生きましょう…!」

男娼「綺麗に、生きる?」

少女「はいっ…。わ、私がっ、お手伝いできることなら、何でもしますっ」

少女「だから、だからお願い。もう過去に捕らわれないで…!」

男娼「!」グラ

ドサッ

少女「ぐっ。う、うわぁあああ…っ!」

男娼「ちょ、ちょっと。何。大丈夫なの!?」

少女「うっ、…っ大丈夫じゃないのは、そっちでしょう…!?」

男娼「そ、そうだね。だから泣かないで!落ち着いて!」

少女「無理、ですっ…!泣かせてくださいぃ…!」

男娼(…ああ)

少女「うっ、ひぐっ、うわぁあああ…」

男娼(本当に)

少女「男娼、男娼…っ」

男娼(この子は、僕の希望だ)

少女「辛かったね、悲しかったね…!気づいてあげれなくて、ごめんねぇ…!」

男娼(…涙が、熱くてきもちいい)

少女「男娼、ごめん、ごめんなさいっ…!」

男娼「…ううん」

少女「ひぐっ、ひっ。…うぅっ…」

男娼(…なんだか)

男娼(もう、どうでもいいや)

男娼(僕は、この涙さえあれば)

男娼「…少女。…ありがとう…」ギュッ

男娼(全てのことを、もう、許そうと思う)

男娼「…」

少女「あー」グシュ

男娼「落ち着いた?」

少女「…もう体の水分、ない」

男娼「君、鼻水まで垂らしてたもんね」

少女「…まじですか」

男娼「うん」

少女「ずびばせん」チーン

少女「…っ。はあ…疲れた」コテ

男娼「…それで」

少女「はい?」

男娼「いつになったら、僕の体の上から退いてくれるの?」

少女「…」

男娼「女の人に押し倒されたなんて、どきどきしちゃうな」

少女「す、すみません!すみませんすみませんっ」バッ

男娼「あー、嘘嘘。このままでいい」グイ

少女「ちがっ、私夢中で!離れますから!」

男娼「やだ。逃がさない」ギュ

少女「…うー…」

男娼「顔真っ赤じゃない、ほんっと君面白いねぇ」ケタケタ

少女「もうやだ…。何でこんなことー…」

男娼「…このまま」

少女「はい…」

男娼「ちょっと、眠ろうか」

少女「…」

男娼「僕今、凄く満たされてて眠たいんだ。君が一緒なら、きっと安心して寝れる」

少女「…そうですね」

男娼「…抱きしめたままでいい?」

少女「はい」

男娼「…少女、好きだよ」

少女「…はい。私も、好きです」

男娼「…ふふ」

少女「…は、恥ずかしいですね。なんか」

男娼「…そうかなー」

男娼「ま、いいじゃない。おやすみ。少女」チュ

少女「あ、む。…うう、おやすみ、なさい」

青年「…あー」

少年「…うー」

青年「私、何やってんのかしら…。もう男娼やめたい…。恋したくなってきた…」

少年「それ、今日何回も聞いたー…」

少年「…はぁ、少女。カムバーック…」

青年「それも聞き飽きたー…。しつこいわねー…」

「…呼びましたか?」

少年「!」バッ

青年「しょ、少女?!」

男娼「ただいまー」

少女「た、ただいま」

少年「うわぁあ、お帰りー!何々、何でそんなにぎゅって手繋いでるの!?」

青年「うっ、あんたら…。ううっ…」ウルウル

男娼「店主。…ただいま」

店主「…おう、お帰り」

男娼「…こういうことだから」グイ

少女「う、…」カァ

店主「…」

店主「そういうことか」ポリ

男娼「うん」

店主「…令嬢はどうすんだ」

男娼「ごめんだけど、もう二度と会わないよ。僕、浮気しない主義」

店主「…身請けは」

男娼「しない。この子と一緒になる」

少女「…」

店主「…そうか」

店主「…」フッ

店主「見つけたんだな、お前」

男娼「うん」

店主「…分かった。勝手にしろ」

青年「うわぁああ…ええええーん…」オイオイ

少年「青年…うざいよ」

青年「あんたら、あんたら!やってくれたわね!ううう…」

男娼「…ふふ」

少女「…あはは」

少年「あ」

青年「ん?」

少年「感動的な場面に水差して悪いけどさあー」

男娼「何」

少年「身請けもなにも、お金ないとここからは出られないよ?どうすんの?」

青年「…」

少女「…」

青年「あ、別の涙が」

男娼「何言ってんの?お金なんて有り余ってるけど」

少年「は?」

少女「え?」

男娼「僕、実際借金なら返し終わってるし、逆に貯蓄の方が大きいくらいなんだけど」

青年「は」

少女「えええ!?」

男娼「ね、店主。駄目なの?僕が身請け代払って出て行くの」

店主「俺は金が入れば何でもいいよ」

男娼「じゃ、そういうことで」

少女「ええええ…!!?」

男娼「じゃ、そうと決まったらここ出る」スタスタ

少女「ちょ、ちょっとぉ!?」

男娼「君も手伝って。早く」グイグイ

少女「何だ、何なんだこの展開は」

男娼「いいから、もうっ」

バタン

青年「…あー」

少年「…うー」

店主「…」

青年「店主、泣いてない?」

店主「馬鹿野郎、なんで俺が泣かなきゃいけねーんだよっ」

少年「…こんな色町でさ」

青年「うん」

少年「こんな感動的な話、あるもんだね。なんか映画みたい」

青年「…そうね」

少年「…あ、夕焼け」

青年「…ふふ」

少年「綺麗だねぇ…」

男娼「…」ガサガサ

少女「家具とかはどうするんです?」

男娼「そのままでいいさ」

少女「そうですか」

男娼「…」

少女「それ」

男娼「うん?」

少女「全部、捨てちゃうんですか?」

男娼「…だって、これはもう過去のものだもの。服も、煙管も、飾りも。もう必要ない」

少女「…そうですね」

男娼「…って、考えたら。何も持って出なくていい気がしてきた」

少女「え」

男娼「お金だけでいいや。もう後は店主に片付けさせよう」グイ

少女「え、ええええ!?」

バンッ

男娼「店主ー!今までお世話になりました!後片付けよろしくー!!」

店主「殺すぞお前!せめていらない物捨ててから行け!」

男娼「よし、走ろう。逃げるよ」

少女「ちょ、ちょ…!」

店主「待てごるぁああ!発つ鳥後を濁さずだろがあああ!!」

少女「な、何てお別れのしかたしてんですか!」

男娼「いいじゃない、僕っぽくない?」クスクス

少女「せめて、挨拶を…!」

男娼「…その必要は、ないみたい」

少女「え?」

男娼「ほら、後ろ見てごらん」

少女「…」

少女「…あ…」

夕焼けの朱を背景にした、色町の城

「…男娼ぉーーーーーーっ!!」

「先輩、さようならぁああーーー!!」

その二階に、艶やかな男たちが集っていた

青年「しっかりやりなさいよぉおーーー!!」

少年「少女、僕本当は君のこと狙ってたんだよおーー!!」

見習い「少女さん、男娼さん、元気でねーーっ!!」

男娼「…ふふ」

少女「…っ」

青年「ほら、あんたも何か言いなさいよっ!」

店主「ぐっ、…くそぉ…」

少年「いつまで泣いてるのさ!早くー!」

店主「…っ」

店主「男娼ぉおおおおおっ!!」

店主「少女ちゃんを、幸せにするんだぞぉおおおっ!!」

男娼「…あは」

店主「そんでお前も、誰よりも幸せになれぇええええ!!」

店主「お前は、家の楼の誇りだ!!胸を張って、生きろぉおおおっ!!」

青年「そうよそうよーっ!」

少年「いいぞ、店主ーーっ!!!」

少女「…」ギュ

男娼「…うるさい、男たちだなぁ」

少女「…泣いてるくせに」

男娼「君だって」

少女「…あなた、愛されてるじゃないですか」

男娼「…うん。…気づけて、よかった」ポロ

男娼「…っ」

男娼「さようなら…!今まで、大変お世話になりましたっ…!!」

店主「おう!行けぇええええ!!」

青年「たまには遊びに来てねぇえーー!」

少年「少女ちゃん、俺いつでも準備できてるからあーー!!」

青年「お前は死ねぇええ!!」

少年「ぎゃあああああ!!」

男娼「…はは」

少女「…行きますか」

男娼「うん。行こう」

男娼「…手」

少女「はい」ギュ

男娼「…ふふ」ギュ

男娼「…前にさ」

少女「はい」

男娼「ここの景色、汚いって言ったじゃない」

少女「言ってましたね」

男娼「…あれ、訂正しようかな」

少女「それがいいです」

男娼「…こんなに、夕焼けが綺麗って。気づかなかったな」

少女「そうですね…」

男娼「…」

男娼「…あ、ここ」

少女「ん」

男娼「色町の入り口に、門があるだろ。ほら、この赤い大きいやつ」

少女「ああ、ありますね」

男娼「これ、一緒にくぐろう。同時に」

少女「はあ?」

男娼「ほらほら、行くよ、せーのっ」

少女「うわぁ!?」

ドサ

少女「あ、だっ…」

男娼「何やってんの君、どんくさいなぁ」

少女「い、いきなり跳ぶあなたが悪いんでしょ!?」

男娼「あはは、ごめんごめん」

少女「…うー」

男娼「はい、手。掴って」

少女「…はい」ギュ

男娼「…よい、しょ」

少女(…綺麗だ)

夕焼けの町、赤い門、私を掴む、白く細い手。その全てが、洗われたように美しい。

少女「…男娼さん」

私はこの人と

男娼「うん?」

行く先に向かってまっすぐ伸びた二人の影法師を、踏まないように

少女「…手、離さないでくださいね」

男娼「…勿論。君も、ちゃんと掴っててね」


少女「…はい!」

手を取り合って、歩き始めた。


おしまい

おしまいです…
だらだら長くてすみませんでした。

後日談ーは
気が向いたら書きます。
でもちょっとした話になると思いますよw

まとめられてる!嬉しいー
ちょっとした後日談書いていきます

その後のお話

少女「…」

男娼「…ぐー」

弟「…ん…」

少女「いい加減に」

男娼「…」

少女「起きろこの馬鹿野郎どもがああああああああああああああああ!!」

ガンッ


男娼「ねぇ、たんこぶできてない?たんこぶ」

弟「できてないよ」

男娼「ほんっと信じられないよねあの野蛮女、こんな形のいい頭を殴るんだもの」

少女「あ?何か言いました?」

男娼「なんにもぉ」

少女(…男娼をうちで引き取ってから早2週間がたちましたが)

少女(まあ弟とも上手くやり、楽しそうで何より、なんです…けど)

少女「あの」

男娼「うん?」

少女「いつまでそうやってグダグダしてるんですか」

男娼「ぐだぐだ?ぐだぐだって、何さ」

少女「端的に言いますね、働け」バシン

弟「お姉ちゃん、叩いちゃだめだよ」

少女「弟ぉ!何であんたはそこまでしてこのプー太郎を庇えるの?!」

少女「こいつが家に来てからやったことといえば、ご飯食べて寝るだけじゃない!」

弟「でも僕に勉強教えてくれたよ」

男娼「そうだそうだ」

少女「マジで弟に不埒なことを吹き込まないでいただいていいですか」グッ

男娼「女を口説く方法を教えただけじゃない。やだなあ、そんなに怒らないでよ」

少女「男娼…」

弟「お姉ちゃん、喧嘩しちゃだめ!」

少女「…」

男娼「ありがとー、弟お」

少女「あのね、弟でさえ薬の仕分け作業やってくれてんのに、あなた何様なんですかっ」

男娼「だってぇ、昼も夜もゴロゴロできるのが最高すぎてぇ」ヘラ

少女「こっちの生活考えてくださいよ!破産しちゃいますよ!」

男娼「けど僕の稼いだお金、全部君にあげたじゃない」

少女「…5歳児のお小遣い並のあれですか」

男娼「あれっ。そんなに少なかったっけ?あはは、身請け料って高いんだなあ」

少女「…はぁ…」

男娼「もうちょっとあったはずなんだけどなぁ。やっぱ、着物とか売ればよかったかな」

少女「…もういいです」

男娼「ん?」

少女「配達行ってきます。せめて家を散らかさないよう、無害に生活してください」スタスタ

男娼「あら、お姉ちゃん怒っちゃったかなあ」

弟「うん…」

少女「…」

男娼「まあ、待ってよ少女」グイ

少女「ひ、っ。いきなり引っ張らないでください」

男娼「悪かったよ、家の都合も考えずだらけてしまって。怒らないで」ナデナデ

少女「さ、触らないで」

男娼「けど僕ね、色町から出たこともなかったし、何もできないんだよ」

男娼「…夜のことなら、なんでもできるけどねぇ」クス

少女「…っ」ブン

男娼「おっと。あはは、君の攻撃パターンも読めてきたな」

弟「お姉ちゃん、どうして顔真っ赤なの?」

少女「な、なんでもないっ。何でもないのっ」

男娼「あー、君本当面白い。もっとからかいたい」クスクス

少女「~っ…」

少女「お、弟のいる前でそういうことしないでほしいんですけど」ヒソヒソ

男娼「ええ、どうして?いいじゃない」

少女「教育に悪いですし、その、ええと」

男娼「…」

男娼「いいじゃない、僕たち恋人同士なんだから」

少女「…そ、そこなんですけど」

男娼「うん」

少女「弟が…いる前では、本当に。だめです」

男娼「えええ…。生殺しだよねえ、それ」

少女「し、知らないです」

男娼「…んー」

弟「何、何話してるの?」

男娼「…じゃあ、分かった」

男娼「僕が真面目に働いたら、その規制、緩めてくれる?」

少女「はい?」

男娼「勿論、君の可愛い幼い弟の前でいかがわしいことはしない」

男娼「けど、彼が寝てたり、二人きりのときだったらしていい?」

少女「…」

男娼「僕そろそろ限界なんだけど」

少女「…い、いいですよ。ただし、条件があります」

男娼「条件?働くだけじゃだめ?」

少女「働くだけじゃ、だめです。…私の稼いだ額を上回るような仕事ができたら、いいでしょう」

男娼「ええー、何それぇ。厳しすぎるんじゃないの」

少女「今までダラけてた罰ですっ」

男娼「何なのさぁ、君そんなに僕と深い仲になりたくないの?もう本当、泣きたいんだけど」

少女「働かない奴が何言ったって聞きません!この条件下でしかだめ!」

男娼「…」

弟「男娼、だからさっきから何の話?」

男娼「いいよ」

少女「そう、いい…。えっ、いいの!?」

男娼「うん、やる」

少女(え、嘘嘘嘘!絶対面倒くさがると思ってたのに!)

男娼「その代り僕が勝ったら、」

少女(い、いやでも無理。きっとそんなのできっこないもん)

男娼「…少女、覚悟しててね?」ニコ

少女「…っ、う」

男娼「じゃあ、ちょっと出てくる」

バタン

少女「…ヤバい」

弟「だから、なにがー?」

少女(いや、しかしさぁ)

少女(冷静に考えたら、無理に決まってるよね)

少女「…よし、この区域は完了、と」

少女(…最近、私も上手くいってるし)

少女(この額なんて、そうそう…)

少女「…うん、無理」ニヤ

少女(あはは、杞憂杞憂。…次は色町への配達だね)タタタ

=色町

青年「あらぁ、少女じゃない!」

少年「ああああっ、俺に会いにきてくれたのっ!?」

少女「いえ、配達です」

少年「冷たい…」

青年「諦め悪いわね、あんたも」ペシ

少女「どうぞ、咳が出始めたら飲んでください」

青年「ありがとお。…ところでさ」

少女「は、はい?」

青年「あいつと、どこまで行ったのかしら?」

少年「あ、それ俺も気になってた」

少女「ん!??」

青年「ちゅーは流石にしてるわよねえ、じゃあ次はー」

少女「あ、あの!あの、何もないです!」

少年「ええええ!あれから結構経ってるのに!?」

少女「う、家は弟がいますし、部屋も別々ですしっ」カァ

青年「あら、そんな理由?それが無かったら、やってるの?」

少女「や、やらないですよ!!変なこと言わないでください!!」ダン

少年「うわ、君すごいね…。今時こんな硬い子いたんだ」

青年「…あいつもじゃあ、2週間はご無沙汰なのね。辛いわね」

少女「なにが!!?」

青年「あいつ、結構元気なほうだったわよねぇ」

少年「あー、確かに」

青年「人気だったから休みもないし、ほぼ毎日の行為だったし」

青年「それがぷっつり無くなると…どうなのかしらねえ」

少女「止めましょう、この話。はい、やめやめ」

少年「えー、大事だよ」

青年「そうよ!あんた、飢えた男がどんな行動に出るか分かってるの!?」

少女「か、彼に限ってそんなことはありませんよっ」

青年「あんた本当お馬鹿さんね!男を分かってないわ!!」

少女「わ、わかんなくていい!もう、帰りますっ」

少年「気をつけてねー色んな意味で」

少女「しつこいっ!!」

バタン

少女(何なんだあいつらはぁああ!男娼ジョークにも程が或るぞ!)

少女(腰やれ!ぎっくり腰になってしまえ!)イライラ

少女「…うー」

少女(…できるわけない。それだけは、もう。…想像しらつかないし)カァ

少女(あの人案外冷静だし、弟もいるって分別もあるから)

少女(…大丈夫、だよね)

少女(うん。大丈夫、きっと)

キャーキャー

少女「…ん?」

「こっち向いて、男娼さまぁ!」

「きゃぁあ!次私、次私ーー!」

少女「…」

少女(なんでしょう、この胸に湧き上がる暗い気持ちは)

少女(…ああ)

「はいはい、姉さんがた押さないでねぇ。ちゃんと順番守って」

少女「…」

少女「見間違いであってくれ…」

男娼「はい、ぎゅーっ」ギュウ

女「きゃぁあああー!」

男娼「毎度ありー。またよろしくねっ」

少女「男娼ぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

男娼「…ん」チラ

少女「な、何やってんですか!あなたっ!!」

女「ちょっと、順番よ!割り込まないで!」

少女「あ、違…。そ、そうじゃなくて!男娼さん、何やってんですか!」

男娼「何って、…ねえ」

男娼「見て分かるでしょう?女の子を抱きしめてるだけだよ  有料で」

少女「クズ!!!そんな汚いお金、私は認めない!!」

男娼「はぁあ?何がクズさ、働くことに貴も賎もないだろう!?」

少女「ふざけないで!大体公道でこんなことしていいはずないでしょ!」

男娼「いいじゃん別に。ここは色町なんだから、ねえー?」

「はい…!」

少女「…んの野郎…」ギリ

男娼「僕結構稼いだと思うよ?どう?見てみて」ニコニコ

少女「!」

男娼「あれれぇー、どうしてそんなに顔が白いの?汗かいてる?」

少女(……こ、こいつっ…)バクバク

少女「皆さんどうかしてますよ!こんな風紀に反することはやめましょう!」

少女「男娼、お金返してさしあげて!こんなの絶対駄目!」

男娼「ええー、やだ。もうやっちゃったし」

少女「いい加減にしろっ!私はあなたに普通に働いてほしいのっ!」

男娼「だってぇー、達成額が」

少女「うーっ…」

男娼「あ、もしかして」

男娼「嫉妬してる?」ニヤ

少女「…」

男娼「なんだなんだ、それならそうと言ってくれればいいのに。可愛いなあ」ツン

男娼「君にだったら勿論、何回だってするさ。それ以上のことだって、僕…」

少女「馬鹿」ベシ

男娼「あいた。何、素直になればいいのに」

少女「もう終了です、終わりっ!帰りますよ!」

男娼「えー、待って。あともう一人だけ。そしたら一桁増えるんだ」

少女「駄目!!」グイ

男娼「ああ、もう。ケチ!」

少女「うるさい!最低!」

男娼「ひどいじゃないか!僕、これでも真面目に働いてたのに!」

「…」

「帰りましょうか」

「そうねー」

少女「だいたいあなたはいつもいつも…」

男娼「君だって全然触らしてくれないしいい加減にし…」

少女「…はい、これで全部」ジャラ

男娼「へえ、結構たくさんだね」

少女「当たり前です。汗水たらして稼いだお金が、こんな不埒なお金に負けません」

男娼「言うねぇ。じゃ、僕の番」

少女(…札が多い…。価格設定どうだったんだ)ドキドキ

男娼「ひーふーみーよー」

少女「…」ドキドキ

男娼「…あ、お札はこれくらいだ。君と一緒だね、…じゃあ、小銭か」ジャラ

少女(い、いける!見たところそんなに小銭は無かったし…)

男娼「ひーふーみー…」

少女(お願い神様、見捨てないで…!)ギュ

男娼「…あ」ジャラ

少女「!!お、終わり?」

男娼「…ちぇ。…あとこの硬貨一枚あれば勝てたのに」ムス

少女「やったぁあああああああ!神様ありがとぉおお!」ガタン

男娼「くそ…。あーあ、だから後もう一回やってれば」

少女「だから言ったんですよ、勝てるわけないって!今後その商売形式認めないですからね!」

男娼「…あ、待って」

チャリ

男娼「箱のすみっこにもう一枚あった」

少女「」

男娼「僕の勝ち、ね?」クス

少女「…」

男娼「ねぇ、少女」

少女「…」

男娼「弟、元気になってよかったねえ」ジリ

少女「…」

男娼「近所の子どもと遊べるようになってさ、外にも出て…」ジリジリ

少女「…」

男娼「お陰で二人っきり、だもんね?」ニコリ

少女「あ、お洗濯しなきゃ」

男娼「…っ」グイ

少女「やぁああああああああ!!」ダッ

男娼「少女ぉ!約束はちゃんと守らないとね、だって君が言い出したんだもの」グイグイ

少女「ま、待って!私も数え間違えてたかもしれないんです!」

男娼「嘘だね。もう諦めて」

少女「…っ…」

男娼「君の寝室、ベッド大きい?僕あんまり軋むやつ好きじゃないんだけど」

少女「む、無理」

男娼「だから、無理じゃないってば。…約束だもの」

少女「お願い。私、できな…」

男娼「そりゃ、誰だって最初はできないさ。僕が教えてあげるね」ナデ

少女「弟、やっ…。帰ってくる、からっ…」

男娼「さっき行ったばかりだよ」クスクス

少女「ほ、本当、に…」

男娼「よいしょ」ヒョイ

少女「…!」

男娼「いい子にしてれば、すぐ具合がよくなるから。ね?」

少女「…」

男娼「よっ」ボフン

少女「だ、駄目!絶対!しない、できないっ!」ジタバタ

男娼「うわあ、諦め悪いなあ」

男娼「できないことないさ。僕なんか、君の半分以下の年齢からしてたし」ギシ

少女「無理!嫌!」

男娼「知ってるよ、そうやって一生懸命抵抗してるのも」ギシ

少女「お、降りて!おねが」

男娼「恥ずかしがってるだけなんだもんね。…本当は、興味あるくせに」ボソ

少女「…!」ゾワ

男娼「あは、…大人しくなった。君、耳に息かけると骨抜けちゃうよね」クス

少女「あ、…。男娼、お願い…」

男娼「…」

男娼「無理。もう、駄目だ。限界」グイ

少女「!やっ、…んっ!?」

男娼「はぁ、っ…しょうじょ…。んっ…」ギシ

少女「や、め。…っ…」

男娼「ずっと、…はぁ、こうしたかったのに。意地悪、しないでよ…っ」

長い間放置してまことに申し訳ない
さくっと終わらせます

男娼「ん、…っ。ぁ」モゾ

少女「!ひ、っ」

男娼「…ふふ。ここ、柔らか…」ナデ

少女「…い」

少女「いや。…男娼」

男娼「…」

少女「…っ」

男娼「…はぁ」

男娼「なにさ。泣かなくてもいいじゃない」

少女「…」

男娼「ごめんって、ごめんごめん」

少女「…」

男娼「あー…。本当に冗談だから。ごめん、調子のりすぎた」

少女「…どいてください…」

男娼「うん」

少女「…」

男娼「少女、怒ってる?」

少女「…」

男娼「…少女?」

男娼「…」

少女「お、怒る、って」

男娼「そりゃそうか」

少女「え」

男娼「僕なんか…汚いものね。どこの女を触ったかも分からない男娼だもの」ギシ

少女「…!」

男娼「悪かったよ。気分わるくさせて」

少女「な、なんでそんなこと言うんですかっ」

男娼「…」

少女「ち、違うの。そうじゃなくてっ」

男娼「…」

少女「そういう、ことじゃなくて…。ごめんなさい…」

男娼「どうして君が謝るの?」

少女「…」ギュ

男娼「僕は事実を言っただけだから。…君が謝る道理はないよね」

少女「だから、汚くないって言ったじゃないですか」

男娼「じゃあ、どうして僕をそんな目で見るのさ」

少女「…」

男娼「どうして怖がるの?僕、君を汚したいわけじゃないのに。やっと決心ついたのに。どうして」

少女「…」

男娼「…」

男娼「僕のこといやらしい奴だって思ってるんでしょ」

少女「…」

男娼「答えてよ」

少女「…い、いいえ」

男娼「嘘ばっかり。君、表面だけ取り繕うのどうにかしなよ」

少女「本当のことなんか言ったら、あなたが傷つくじゃないですか」

男娼「…」

男娼「ああそう。じゃあ君は僕の傷つくようなことを、本心では考えているんだね」

少女「…っ」

男娼「ごめんね少女。不愉快だね、僕」

男娼「…ごめんね」キィ

少女「何処行くんですか」

男娼「…」

少女「も、戻ってきてください」

男娼「散歩いくだけだよ」

バタン

少女「…」

少女「…はぁ…」

男娼「…」

「ねえねえ、今度一緒に旅行へ行こうよ」

「何か欲しいものあるか?」

「今日のご飯何がいい?ねえ、あんた」

男娼「…」プカ

男娼「ふー…」

「あらぁ?」

男娼「!」ビク

青年「ちょっとちょっと男娼じゃなぁい!どしたのさ」

男娼「げ。…どうも」

青年「あんた今、げって言ったわね。げって」

男娼「言ってないよ」プカ

青年「ふん。まぁいいわ…。ってか、もう夕暮れよ。こんな所で油売ってないで早くお帰りよ」

男娼「やだ」

青年「やだ、って…。少女ちゃんは?」

男娼「いない」

青年「じゃあなおのこと早く帰りなさいよ。心配してるわよ」

男娼「…」

青年「あんた、煙草吸ってるの?」

男娼「…ん」プカ

青年「珍しいわね。止めたんじゃなかったの?」

男娼「…んー」

青年「…」

男娼「…」スゥ

青年「あんたらねぇ、せっかく恋人どうしになったんだから、仲良くやりなさいよ」

男娼「気持ち悪。なんで分かるの」

青年「だぁって、普通分かるでしょう!あんたが煙草やるのって思いつめてるときだし」

男娼「はぁ…」

青年「何、どうかしたの。どうせ襲って怒られたとかでしょ」

男娼「別に、無理矢理したわけじゃ」

青年「相手の同意がなきゃ無理矢理に決まってるでしょ、馬鹿ねぇ」ケラケラ

男娼「…」ムス

青年「んで、拒否されてスネてここにいるんだ。橋の上なんかで黄昏ちゃってさ」

男娼「どうとでも言いなよ」

青年「話してごらんなさいよ。何か力になれるかも」

男娼「君に?…」

青年「そおよ。少なくとも女側の気持ちには精通してるわよ」

男娼「…ふうん」プカ

青年「火、くれる」

男娼「よしなよ、店に上がる前に匂いがついちゃうだろ」

青年「あんた引退したくせにそんな…。いいのよ、今日上がらないし」

男娼「…はい」

青年「どうも。…ふう」

男娼「…」

青年「綺麗ね、夕日」

男娼「ん」

青年「…」

男娼「…」

男娼「…なあ」

青年「うん?」

男娼「ここにいる恋人らはさぁ」

青年「ん。ああ…今から色町に行くのかしらね。あー、目に毒目に毒」

男娼「…満足してんのかな」

青年「うん?」

男娼「だからさ、満足なのかなって」

青年「…どういうこと?」

男娼「好き同士くっついて、一緒に過ごして、話して、寝て、…それで」

男娼「それで満足なのか」

青年「…ええ、そうでしょうよ」

男娼「…羨ましいな」

青年「なに?あんたは満足じゃないの?」

男娼「ああ」

青年「ほおー」

男娼「僕、贅沢なのかもしれないけど」

男娼「駄目なんだ。いくら一緒にいても、全然足りない。まだもっと深いものが欲しい」

青年「それは、寝るってこと?」

男娼「…」

男娼「多分、違う」

青年「へえ?」

男娼「僕、彼女と関係を持ってもきっとまだ満足しないんだ」

男娼「例え。たとえだよ、夫婦になったとしても、多分。この先ずっとそうだ。終わりが見えないくらい、欲が深い」

青年「…欲、ねぇ。何の欲」

男娼「…僕が彼女の全てであってほしいっていう、欲」

青年「うわ重っ」

男娼「ま、…そうだね」プカ

男娼「言っておくけど、彼女は僕の全てだ。それなのに僕は彼女の全てじゃない。それって、すごく」

男娼「…」

青年「苦しい?」

男娼「そう。苦しいんだ、…すごく。死にたくなるくらい」

青年「…」

男娼「僕は、こんな卑しい生まれで、人生で…。何もない。空っぽだ」

男娼「でも彼女は違う。色んな物で満たされてる。僕が全てになる空きなんか、最初からない」

男娼「…そんなの嫌だ。僕だけ、僕だけでいい」ギュ

青年「そう」

男娼「苦しい…」

青年「じゃあ、死になさいよ」

男娼「…は」

青年「この橋から飛び降りたら、死ねるでしょうよ。苦しいなら死んで楽になりなさいよ」

男娼「…」

青年「あら、何。驚いたような顔して」

男娼「…君」

青年「だってそうじゃないの。死にたい者を止めることなんかできないわ」

青年「あんたは自由になったんだもの。もう好きになさいよ。死ぬも生きるもあんたの勝手よ」

男娼「…そうだね」

青年「…」

男娼「…」

青年「この」

男娼「ん」

青年「贅沢もんが!」バシッ

男娼「あだっ!?」

青年「なによなによ!店から出て自由に好きな女と生きれるようになったってのに、まだガキみたいな文句垂れてるわけ!?」ガクガク

男娼「ぐ、ちょ、やめっ」ガクガク

青年「腹立つのよ!あの子の気持ち、ちょっとくらい考えなさいよ!死ぬとか簡単に言うな!」

男娼「ぐ…んっ」

青年「誰も得なんかしやしないわよ!そんなことも分からないの、馬鹿っ」

男娼「…」

青年「あの子は、…あんたを大事に思ってるし、あんたもそうじゃない」

青年「満たされてないって感じるのは、あんたが幸せから必死に目を背けてるからなんだわ。皆、手を差し伸べてるのに」

男娼「…」

青年「あんたって昔からそうよね。いつまでたっても、自分が幸せになっちゃいけないと思ってるんだわ…」

青年「やっと不幸から解放されたんだもの」

男娼「…」

青年「いい加減、身の不幸を探すのをやめなさいよ」

男娼「…」

青年「あの子、待ってると思うわよ」

男娼「そう、かな」

青年「ええ」

男娼「僕のこと…嫌いになってない、かな」

青年「なるわけないじゃない。そういうの気にしないわよ、きっと」

男娼「…」ギュ

青年「あ、日が落ちる」

男娼「…」

青年「綺麗ね」

男娼「うん」

青年「…」

男娼「…」

男娼「帰る。お腹減った」

青年「おー。また今度、あの子も連れて遊びにおいでよ」

男娼「ん」

青年「ばいばい」

男娼「…」

男娼「ありがと」ボソ

青年「え?」

男娼「…」タタタ

少女「…」

弟「いい加減、中に入ったら?」

少女「…」

弟「寒くなってきたよ。風邪引くよ」

少女「先にご飯…食べてていいよ」

弟「あの人ならきっと、帰ってくるって」

少女「…」

弟「心配性なんだから」

少女「うるさいわね…」

男娼「…」ソロー

弟「あ」

男娼「…」

少女「あ」

男娼「…どーも」

少女「…」

弟「お帰り男娼。僕、ご飯の準備しとく」ガチャ

少女「え、ちょ」

バタン

少女「げ…」

男娼「…」

少女「あ、…」

男娼「…」

少女「お、お帰り。ご飯できてるから…入ったら?」

男娼「少女」

少女「は、はい?」

男娼「ごめんなさい」ペコ

少女「え」

男娼「意地悪ばっかり言ってた。ごめん。謝る」

少女「…な」

男娼「許してくれる?」

少女「…」

少女「あ、当たり前でしょう。こっちこそ、…誤解させてごめんなさい」ペコ

少女(…なんだ、拍子抜けしたな。謝らないかと思ってたのに)

男娼「あー、お腹減った」スタスタ

少女(いつもの調子かい…)

男娼「ねえねえ今日のご飯なにー」

少女「ん。…煮物」

男娼「お、僕の好物にしてくれたの?」

少女「べ、別に…いや、そういうわけじゃないけど」

男娼「ありがとう、少女」

少女「う…」

男娼「…少女」

少女「な、何」

男娼「僕、幸せだよ」ニコ

少女「…」

男娼「君は?」

少女「…」

少女(…何だかんだで、素直な男なんだな)




少女「…私もだよ、男娼」

おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月24日 (金) 16:14:15   ID: sIvf3NtI

この人が書いたのって他に何があるのか判る人教えてくれると嬉しいです

2 :  SS好きの774さん   2016年02月08日 (月) 01:37:46   ID: wGZrYzBZ

良い話だねぇ…即興とは思え無いほどに…細かく話わけしたりしたら普通に12話くらいのネット小説になると思うんだがなぁ…

3 :  SS好きの774さん   2016年08月30日 (火) 05:08:26   ID: oaRDUIYr

思わず一気読みしてしまう面白さ。
おまけでも更に話が続けられそうな感じが凄い。

4 :  SS好きの774さん   2017年02月26日 (日) 17:04:05   ID: bFguGtXj

面白かった!!
普通にお金を払いたい!

5 :  SS好きの774さん   2017年05月03日 (水) 00:04:25   ID: tp6bwWde

久々に素晴らしい作品に出会えた

6 :  SS好きの774さん   2017年09月06日 (水) 05:50:49   ID: xt7_ZoIK

書いてる人の詳細が知りたい…

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