八幡「由比ヶ浜がピンチ?」 (61)
材木座「♪~」
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八幡「由比ヶ浜お前……食いすぎだろ芋」
結衣「いいじゃんもー!ヒッキーも食べてみなよ美味しいから!」
八幡「いいって俺は」
年も明けて三学期。二年生はそれぞれ進路を決めたり、部によっては後輩への引継ぎ準備を始めている。クリスマス会以降、特に依頼もない奉仕部は貴重な青春の時間を読書とスマホに費やした挙句、こうして呑気に買い食いなんかをしていたり。もっとも食ってるのは由比ヶ浜一人なわけだが。
結衣「うまうま♪」
雪乃「由比ヶ浜さん……わかってるとは思うけどサツマイモは炭水化物だから食べ過ぎると」
結衣「だーいじょうぶだよゆきのーん!後でしっかり運動するもん。それに消化もいいから太らないし♪」
雪乃「もう……」
呆れたように溜息をつく雪ノ下。いるよなー食べた分は運動すれば解消されるとか思ってる奴。
八幡(この分だとビッチのほかにぽっちゃり属性までつきそうだな」
結衣「聞こえてるし!ヒッキーったらそんな事ばっかり言って!!サイテー!」モグモグ プンプン
八幡「いや、食うか喋るかどっちかにしなさいな」
雪乃「比企谷君じゃないけどその内お腹がカエルみたいになっちゃうわよ?」
八幡「なんで俺を引き合いに出した!?ちゃんと引き締まってるから!」
結衣「もーーー!!!ゆきのんまでぇ!!いいもんあげないもん!」
雪乃「はぁ……しょうのない子ね」
口いっぱいに焼き芋を頬張って歩く女の子を俺と雪ノ下が挟むようにして歩く。由比ヶ浜が少し先を歩いてはこちらを振り返って楽しげに喋る。遊びの興奮がまだ冷めない親子連れの子供のようだ。そんな子供の様なこいつに、俺も雪ノ下も救われたのかと思うと不思議なものである。雪ノ下はというと、以前までの堅い雰囲気は薄れ、由比ヶ浜を見る目はさながら母親のようなそれである。
あと少しで俺達も3年。こうしてゆっくりする時間も少なくなる。遠回りしてきた時間を惜しいともなく、これからの日々を不安に思うでもなく、今日もいつもの一日だったなと安堵に似たような気持ちで俺はその日帰宅した。
~比企谷宅~
小町「お兄ちゃんおっかえりー!」
八幡「おう」
帰宅。と同時に愛しい妹の出迎え。この年頃なら反抗期が来て兄を嫌っても可笑しくない年頃だとは思うが、小町を見るにあまりそんな兆候は見られない。出来れば小町の反抗期=サンにはこのままスリープ状態のままでいてもらいたい。オタッシャデー
小町「ん?お兄ちゃんなんか匂う?お芋……あ、焼き芋の匂いだ!」クンクン
俺の首周りに鼻を鳴らす小町。犬かお前は。なんか段々由比ヶ浜に似てきてるような気がする……アホになってしまわないかお兄ちゃん心配よ?
八幡「由比ヶ浜が買い食いしてたんだよ。その時の匂いだろ?ったくあいつめ」
小町「あ!それひょっとして昨日今日出来た焼き芋屋さんでしょー!!小町も明日帰りに買いに行くんだー!」
八幡「そんなに上手いもんかねぇ。どれも同じだろ芋なんて」
小町「噂だけど、なんでも体中の老廃物を全部吸収してくれるんだって!サツマイモって調理方法もこんなにあるし。小町も楽しみだなー♪」
八幡「そんなもんかねぇ」
小町「あ、そういえば!お兄ちゃん由比ヶ浜さんと帰宅ですかぁ~?」ンフフフ
八幡「別に他意はねぇよ。向こうだってそうだ。最近はいつも部活の3人で帰ってるってだけだ」
小町「雪ノ下さんもか~。んー小町的にはどうなんだろうなー。どっちも応援したいというか」
八幡「はぁ……なんでも色恋ばっかに繋げんなって。ビッチ脳になっちまうぞ?」
小町「わかってないなぁ~お兄ちゃんは。女の子なんて良くも悪くもそういう事には興味あるんだよ~」
八幡「はいはいリア充乙っと。俺にはわからん世界の話だわさ」
小町「……」ムー
八幡「着替えて晩飯作るから。お前はそれまで勉強しとけ」バタン
小町「……変なとこばっか気を回して肝心な時は馬鹿なんだから。二人とも苦労するよきっと……はぁ」
ギーッ
八幡「いいよ。俺にはお前がいるし」
小町「うわわっちょっ!!!もう!独り言に返事しないで!」
八幡「へいへい」バタン
やたらと本の多い自室。とりあえずカーペットについた猫の毛をコロコロで回収する。小町め、また俺の部屋にカマクラと入ったな。
かつて勉強道具と蛍光灯を乗せる以外は役立たなかった机には何枚もの写真がある。キャンプの時、文化祭の時、クリスマス会の時。小町以外の人間たちと関わってきた確かな証がそこにあった。
今の俺はもはやポリシーの上でなりたった『ぼっち』でしかない。
ならぼっちじゃない比企谷八幡とはなんなのか?
かつての俺と今の俺。
数々の黒歴史を乗り越えて築いた俺の理念は確かに本物だ。
じゃあ彼らと関係を築いた末の今の俺は偽物か。
否。
今の俺も確かに本物である。ならばこそ。
ならばこそ彼らとの絆も本物であると信じたい。自慢ではないが俺は誰よりも自分が好きなのだ。
俺だからこそ、今も昔も比企谷八幡を肯定できるのだ。
八幡「意地悪言うなよな。小町、俺は」
今の俺は、大切な人間が多すぎる。孤独を愛するぼっちにはこれは苦行であろう。
雪ノ下雪乃。
由比ヶ浜結衣。
二人の女性の好意を知ったとて、それは変わらないのである。
………
……
…
【翌日・昼休み】
ぼっちの昼休み。今日は購買で買ったツナサンド。ここのツナは具をケチってなくて割と好みの部類である。
天気もいいし、いつもの昼飯ポジションに行こうと廊下を歩いていた所、何やら周りが騒がしくなってきた。
俺は一旦思考をやめ、辺りの意識を移す。
そんな俺の前方から物凄い勢いで金色の何かが突進してきた。
「はっ……はっ……はっ……」
三浦だった。日々欠かさず手入れを怠っていないであろうその金髪を、三浦はさながら破城槌のごとく前へ前へと傾けて走ってきた。
その勢いはもはや獣の類だ。
三浦が向かったのは一階の女子トイレだった。もはや見栄や外聞など知ったことかと勢いよくドアを開けて入っていった。
腹の調子でも悪いのか?
それならなぜわざわざ一階まで降りてきたのかとも思ったが、それこそ俺の知る所ではない。
人間生きていれば理屈じゃない事もするだろうと、そのまま女子トイレの前を通り過ぎようとした。
その時。
ブッパアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン
目の前で小町の持ってる風船が割れた事があった。
夏の昼、空気の熱膨張により自転車がパンクした事があった。
ロケット花火を打ち上げようとしたが地面に深く刺しすぎてそのまま爆発した事があった。
経験しうる全ての破裂音も遠く及ばない。
雷の轟音と台風の突風。目の前でそんな現象が起こったかのような錯覚に陥った。
ここまで来て、俺は女子トイレが爆発したのだと気づいた。
一瞬の沈黙。その後は勿論。
『い……い…いやぁああああああああああああああああああああ!!!!』
女子の誰かが叫んだのを皮切りに辺りは騒然となった。廊下にいた生徒は教室へ入るやいなや整理しきれていない言葉を発し、おそらく雑談していたであろう近くの女子二人組は一人が怯えるように震えもう片方が倒れないようにと支えている。
しかし、事態は俺らを待ってはくれなかった。
バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン
バァン ガッシャァアアアアアアアアアアアアアアアア
続けて同じような爆裂音。おそらく上の階だ。空気の圧が体の芯に重くかかる。
三浦……。
そうだ三浦だ。確か目の前の女子トイレ。
この事態の第一声の女子トイレ。
あそこに三浦がいる。行くべきか?
脳裏に由比ヶ浜の顔が浮かぶ。三浦にもしもの事があれば彼女は悲しむ。優しいあいつの事だ。下手したら人格歪むくらい落ち込むかもしれん。
そばにいた俺がここで何もしなかったとすればそれはとても目覚めが悪い。
二次災害が怖いが……俺は現場の女子トイレへと入った。
………
……
…
八幡「なんだよ……これ」
入って早々目にしたのは信じられない光景……いやむしろ想定した光景だった。
個室のトイレそれぞれ綺麗に設けられた敷居。
これらが全てものの見事に吹っ飛ばされており、ノンプライバシー状態になっていた。
壊された敷居は入口側に集結し、ハリーポッターのトロールでも入って暴れたんじゃないかとさえ思った。
見た所便器や水道が壊された形跡はないが……。
部屋の奥を見ると倒れている少女が一人。長い金髪からして三浦だ。
そもそもこれはなんだ?何かのテロか?さっきのは爆弾か?テロだとしたらなぜこの学校を?
そんな事を考えているとさっきから感じる違和感に気づく。
トイレなのだから別段おかしくはない……おかしくはないのだが……。
通常現代のトイレでは嗅がないようなこの強い臭気。
八幡「この臭い……屁?」
俺は三浦に近づき声をかける。
八幡「おい!だ、だだ、大丈夫か!?」
ああああああこんな時に噛むな俺!!
三浦「う、ぐ……ひ、ヒ……キオ?」
八幡「怪我、はねぇか!?」
三浦「ぐ……あぁ……」
見ると今にも泣きそうな顔で何かに耐えているようだ。やはりどこか怪我したのか?
八幡「ちょっと待ってろ。立てるか?」
コクリと力なく頷く三浦。
俺はトイレの窓を全開にした後三浦の腕を掴み自分の肩に引っかける。もう一方の腕で横腹を抱えるようにして立たせる。
とりあえず保健室だ。
あああああああなんて昼休みになってしまったんだと脳の片隅で思いながらも三浦に肩を貸して歩く。
するとズルりと三浦が倒れこむ。
八幡「お、おい……」
三浦はこちらの顔を見ながらこう言った。
三浦「ぱ、パンツ……」
三浦の足を見るとパンツがずり落ちていた……白だった……。
三浦「はか……して……」
いつもの高慢そうな覇気はそこになく、ただただか細い声でつぶやく。
なるほどこれでは歩きにくい。とはいえ他人を呼ぶのも時間が惜しい。
実行できる人間が俺しかいない事の羞恥心や来たのが俺で申し訳ないという罪悪感を追いやって俺はササッと三浦にパンツを履かせる。
三浦「ご……めん」
何か聞こえたような気がしたが、聞き返す余裕はない。一刻も早く出る必要がある。
覚束ない足取りでトイレの外へ出る。ようやくこの臭気から解放される……
ことはなかった。
廊下はトイレの中よりもさらに臭気が濃かった。見ると男子生徒が尻から屁を臭いと音を出しながら、何かにぶっ飛ばされたかのように宙を舞っていた。
近くの生徒はそれを見て這うように逃げる。
目前の教室でも同様な事が起こっているのか、男女の絶叫がマックス音量で聞こえてくる。
その中で嘔吐している生徒もいた。
この状態では保健室も無事ではないかもしれない……。
平塚「比企谷!!!」
声のする方へ顔を向けると自分の担任の姿。パニック状態の中自分の知り合いに出会えたことにわずかながらも安堵する。無論いつものように嫌味屁理屈をしている暇はない。
平塚「無事だったか!」
八幡「俺は……でも三浦が……」
平塚「三浦ッ……わかった。だが保健室はもうダメだ……奉仕部へ来い。雪ノ下と由比ヶ浜もいる」
八幡「先生……これって一体」
平塚「国中が今大騒ぎになっている……それと」
平塚「今由比ヶ浜も危険だ」
頭の中で絶望の音がした。
………
……
…
三浦を連れて部室へ行くとそこには椅子に座る雪ノ下がいた。そばには材木座と戸塚。そして床には由比ヶ浜が横たわっている。
俺は三浦を床に寝かせる。
戸塚「八幡!!!どこ行ってたんだよ!!」
八幡「戸塚……」
戸塚「僕……探したんだけど見つからなくて……心配したんだよ??メールも返事こなくて……僕……」ヒック
八幡「わ、悪かったよ……」
材木座「お主が無事でよかった……我も逃げてる内にここへたどり着いたものでな……ぶっちゃけ死ぬかと思ったぞ」
戸塚「ウゥ……グズッ」
俺を迎えて無事を喜んでくれる二人。とりあえず安心したのか、嗚咽を漏らしている戸塚を胸で抱きしめる。
そして俺を迎えてくれる人がもう一人。
雪乃「比企谷君……」
八幡「雪ノ下……お前は大丈夫か?」
雪乃「ええ……どうにか。それよりも由比ヶ浜さんが」
八幡「どうしたんだ一体!」
見ると横になっている由比ヶ浜は苦しそうにお腹を押さえながら痛みに耐えているかのようだ。
平塚「それについては今説明する」
………
……
…
冗談交じりに俺は最初テロなのかと思ったが、それはあながち冗談ではなかった。
昨今世界中を騒がせているテロ組織、通称『ksms』。俺ら一般市民とは裏側の世界の存在に思っていたが、その支部がこの日本のしかも千葉県で見つかったらしい。
日本政府は事を密かにこれを捜査、及び関係者逮捕を実行。
成功したかに見えたが捜査から逃れた者も複数おり、彼らは新兵器を持って逃走。
細菌兵器『ヘノボウソウ』
それが仕込まれていたのが……
平塚「つい昨日、本学校付近で販売されていたサツマイモだ」
八幡「……」
まじっすか……。部屋にいる全員が信じられないと言わんばかりに互いの顔を見合う。
平塚「あちこちに売っていたようでな。今しがた全て販売店は警察により摘発された……が、ただちに影響が出る恐れがあるとの事で先ほど正式に発表があった」
平塚「それによると個人差にもよるが、体内に入ったヘノボウソウはおよそ18時間ほどで効力を発揮する……仕組みはわからんが、中で発生されたガス密度が指数関数的に上昇する。時間が一定以上たつと一気に体外へ排出される。中の最近はガスと一緒に外に出され分解され、体内に証拠が残らないようになっている。」
平塚「……以上が……簡単ではあるが発表の内容だ。効果は……君たちが見てきた通りだ。これは一応全校生徒の携帯にメールが送られた」
遅かったがな……っと平塚先生の説明が終わると一気に部室は静かになる……わけもなく、余り遠くでないであろう距離から誰かの悲鳴が聞こえる。
雪乃「信じられない……といっても信じるしかないのですね」
平塚「ああ、すべて事実だ」
戸塚「そんな……テロだなんて」
材木座「うぅむ……むむむ」
皆がそんな反応をしている中、部室のドアが開く音がした。
葉山「はぁ……はぁ……」
戸部「ぐ、ぐへぇ……こ、ここはマジ……どこ???」
現れたのは精も根も果てたような顔をした葉山と戸部だった。
平塚「お前ら!!!無事だったのか!!」
戸部「な、なんとか」
葉山「ただ……教室の皆はパニックになってしまって。大和も大岡も優美子も海老名も……。!? 優美子!?それに結衣!!」
葉山は横たわっている三浦に気づくと一目散に近づく。
三浦「は、やと?」
葉山「ああ俺だ!大丈夫か?」
三浦「大丈夫……ヒキオの奴が……助けてくれた」
葉山「そうか……」
葉山の視線が三浦から俺に移る。
葉山「優美子をありがとう……感謝する」
八幡「いや……おう」
雪乃「それで先生……由比ヶ浜さんは。すぐにでも救急車を」
椅子から立ち上がりやや焦った様子で平塚先生に提案する雪ノ下。
平塚「救急車は……出せないそうだ」
雪乃「どうしてですか!!これだけ被害が出ているんですよ!!」
平塚「理由は二つある。一つは、すでに救急隊員にも救急車自体にも被害が出ていて直ぐには出動出来ないとの事だ。オナラで救急車が吹っ飛んだ件もあるらしい」
平塚「二つ目はパンデミックの可能性を避けるため……絶対に感染者を外に出すなと言われているからだ」
平塚「だから……君達を今すぐ病院へ送ってやることも……すまない……すまないッ」
そう言いながら先生は俯く。その声はとても震えていた。
そこへまたもや来訪者が来た。
川崎「比企谷!!」
八幡「川崎……」
自然と名前が声に出た。
川崎「よかった……ずっと連絡が取れないって妹さんが」
八幡「小町が!?」
さっき電話もメールもしたのに全然連絡がなかったのだった。
川崎「Twitterのだけどね……大志もあんたの妹も無事だって」
八幡「そうか……ありがとな」
川崎「ああ……あんたの無事も伝えるように送っとくよ」
八幡「悪ぃ。助かる」
俺らがそんなやり取りをしている一方で葉山は三浦とコンタクトを取っていた。
葉山「先生……そのヘノボウソウの威力って」
平塚「一本の半分でそばにいる人間が軽く吹っ飛ぶらしい」
葉山「優美子も半分食べたと言っていました。海老名と半分ずつ食べたと」
結衣「う……ぐぐ……ゆきのん……」
雪乃「!? 由比ヶ浜さん!!」
今までうめき声しかあげていなかった由比ヶ浜が弱々しく口を開いた。
結衣「どうしよう……どうしようあたし……」
雪乃「大丈夫よ……何があったのか話して?」
何かに怯える由比ヶ浜の手を雪ノ下はやさしく握る。
結衣「あたし……」
結衣「5本も食べちゃった……」
………
……
…
雪乃「ご、5本……」
八幡「お前そんなに食ったのか」
結衣「ヒッキーたちと帰ってる途中で一本……家で4本も食べちゃって。あんまりおいしかったもんだから」
結衣の言葉に部室内の一同は黙ってしまう。
半分を食べた三浦の威力は俺が先程目撃済みだ。半分だけ食べた彼女ですら女子トイレの個室の壁を吹き飛ばした。
5個分の威力なんて想像もつかない。
数学は苦手だが指数関数なら知っている。一気にガスが増幅する代物だ。単純な比例計算では測れないかもしれん。
俺の周りを改めて確認する。
どうにか少しだけ喋るくらいの気力はある三浦。それに話しかける葉山。
何も考えたくないといった表情の戸部。
難しい顔はしているが多分何も考えていないだろう材木座。
不安そうな顔で今にも泣きだしそうな戸塚。
おそらく小町たちと連絡を取り合っているだろう川崎。
何もしてやれない歯がゆさと口惜しさが入り混じった平塚先生。
どうしたらいいかと戸惑いながらも由比ヶ浜の手を握る雪ノ下。
考えろ。
考えろ比企谷八幡。
俺はいつも奉仕部の依頼をこなすように順序だてて作戦を練る。
今回の目標。
これを由比ヶ浜の救命と設定する。
今までの情報からそのために必要なフラグやルートはなんだ……?
止める方法のない屁。
トイレを吹き飛ばす何倍以上の威力。
学校からは出れない。
タイムリミットが近づきつつある由比ヶ浜。
そして部室の外は同じように苦しむ生徒と教諭ら。
導き出される答えは……。
八幡「雪ノ下」
雪乃「なに……今回はいくら貴方だって」
八幡「体育館だ」
雪乃「なんですって?」
八幡「そこへ由比ヶ浜を連れていく」
雪乃「それでどうするって言うの!!」
八幡「落ち着け……。戸塚」
戸塚「な、なに?」
八幡「体育館には確かトランポリン用の弾力吸収マットがあったよな」
戸塚「そ、そうだね……体操部用の……」
雪乃「!!」
そこまで行くと皆気づいたようだ。
俺は考えた作戦を部屋の全員に伝える。
八幡「……以上だ。危険な作戦だ。やりたくないなら断っていい」
葉山「……君の案以外はこの場では出なさそうだね……。僕はやる」
川崎「あたしも」
戸塚「僕もいくよ」
材木座「ムフフンッ 今までの恩を返さねばならんからな」
戸部「あー……これ俺も行く系っしょ?」
葉山「無理には言わない」
戸部「いや、っつーか行くしかなさそうじゃん」
結衣「みんな……」
三浦「結衣……あたしも」
平塚「三浦は私とここに残れ」
三浦「なんでッ あーしは」
平塚「その体では無理だ」
三浦「くっ……結衣ぃ……」
結衣「優美子……」
三浦「ごめん……ごめん結衣……」
雪乃「大丈夫よ……三浦さん」
三浦「雪ノ下さん」
雪乃「こんな……サツマイモ程度で崩れる奉仕部じゃないわ」
雪乃「私たちが、そうさせない」
結衣「ゆきのん……」
かくして平塚先生と三浦を残して、俺達は体育館へと急いだ。
………
……
…
~体育館~
体育館までの道中はまさしく阿鼻叫喚の真っただ中であった。
ヘノボウソウの効果はサツマイモを食べた時間と量、加えて個人の代謝による所が大きいため、いつだれが爆発するかもわからない状態。
教師達の制しもむなしく争いあう生徒達。廊下にはすでに放屁したであろう人たちが横たわり、周囲には生涯忘れようもないような臭いが立ちこまっていた。
昼休みの早い時間だったせいか体育館には誰もおらず、到着して息をつく間もなく葉山、戸部、川崎、戸塚はトランポリンと通常の何倍も厚く、そして柔らかい素材のマットをトランポリンを囲うように配置する。
俺と材木座、雪ノ下は作戦の再確認。
緊張した面持ちの由比ヶ浜。しかしその目はとうに覚悟を決めた色が込められている。そして限界が近いのか、必死に尻の方を抑えている。
チャンスは一度きり、失敗は許されない。
材木座「い、今更だが本当に大丈夫だろうか」
八幡「この作戦は寧ろお前次第でもある……頼まれてくれるか?」
材木座「八幡よ。勘違いして貰っては困るが別に我は断りたいのではない……ただもの凄ぉぉぉくビビっているだけなのだ……」
八幡「……そうだったな……」
雪乃「ごめんなさい材木座君……こんな事させてしまって……」
材木座「おおおおお!?わ、我の名前をよんでく、くりゃさったぁあ!!」
雪乃「私、その、貴方の事を……」
材木座「き、気にされるな!お、お、おおお男としては当然の、事、よ! ほほ、ほほほほ」
八幡「無理すんなって」
材木座「ここ、これは噛んだのではない……ちょっとした武者震いというものよ……」ガクガク
八幡「……」
今、ひょっとしてこいつカッコいいんじゃないかと思ってしまう自分がいる。
隣の雪ノ下もそう思ったのか、じっと、今までではあり得ないようだが、じっと材木座の横顔を見ている。
葉山達からのOKのサインが来る。
いよいよ作戦だ。
俺、材木座、雪ノ下は3人で由比ヶ浜を囲んでトランポリンの上に乗る。3人とも由比ヶ浜から離れ無いようがっちりと抱き合っている。
結衣「ヒッキー……」
八幡「大丈夫だ……」
結衣「でも」
雪乃「大丈夫私達を信じて?」
結衣「ゆきのん……」
八幡「お前はいつもの通り、馬鹿みたいに笑ってりゃいいんだよ」
結衣「ば、馬鹿っていうなし!!ば、バーカッバーカッ」
材木座「お主ら相変わらずにぎやかよの」
結衣「ちゅ、中二ほどじゃないし!!!」
雪乃「ふふっ」
八幡「へっ」
材木座「むぅ」
八幡「……いくぞ」
雪乃・結衣・材木座「「「うん!!(うむ!!)」」」
4人は一斉にトランポリンでテンポよく跳ねる。最初は微小な高さだった跳躍も徐々にその高さを増していく。
足元にくる衝撃も比例して大きくなっていく。
そして頃合いのいい高さまで跳躍する。
宙に飛び跳ねた4人の体は重力に引っ張られ頂点に達し、そして徐々に高度を下げていく。
『今だ』
俺の合図と一緒に由比ヶ浜は尻に力を込める。
ブシュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
そのガス、もとい放屁は目には見えないものの、まるでロケットの噴射のように力強く空気を押し出した。
俺が出した作戦はこうだ。
まず由比ヶ浜に他3人ほどをくっつけてトランポリン運動をする。この3人は重りだ。
4人が頂点から落下し始めたらすぐに放屁を開始。
放屁のエネルギーは俺達の落下を打ち消すエネルギーで消費され、実質この差を±ゼロまで近づけるっという理屈だ。
そして今まさに俺達の落下エネルギーによって由比ヶ浜の放屁エネルギーが消費されている状態。
このままいけばハッピーエンドの大団円……と思っていた。
ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
ビヨヨーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
流石は兵器なだけある……サツマイモ5本分のエネルギーは伊達ではなかった。
……まだ策はある。
材木座の腰には命綱用としてゴム状の紐がくくりつけられている。たどった先はマットの中央。このまま5秒後にはマットの中へ行くはずだ。
だがここで4人は先程通った頂点の上を行ってしまう……
ギギギギギッ
材木座「んおおおおおおお!! あばばばあばああああああ!!!!あふううううううううん♪」
伸びて力を増す命綱のゴム紐が材木座を締め上げる。
しかしそんな事にはお構いなしにと材木座が喘ぐ。
由比ヶ浜の屁も唸るッ
なんだこいつ……変態か?
シュウウウウウウウウ・・・・・・・・
ようやく放屁の勢いも収まる……。
エネルギーを消化しきった4人は、今度はゴム紐に導かれるようにマットの中心へと着地する。
材木座「はぁ……はぁ……//////」
八幡「材木座!!」
俺は呼吸が乱れている友人に声をかけ……ようと思ったが、なんか別の意味で呼吸が乱れているようなのでやめておいた。そして地味に呆然としている由比ヶ浜の胸に手を置いていたのでとりあえず脇腹を一発殴っておいた。
雪乃「結衣!!!」
由比ヶ浜の安否を心配する雪ノ下。
結衣「ゆき……のん……」
半ば気絶したような状態から目を覚ます由比ヶ浜。
雪乃「結衣!!結衣!!」
結衣「やっと……名前で呼んでくれたね……」ニコ
雪乃「よく……よく頑張ったわね」ギュウウ
結衣「え……えへへ///」
八幡「由比ヶ浜……」
結衣「ヒッキー……」
結衣「終わっ……たんだね」
八幡「ああ……」
しかし俺はこの時点まで大きな間違いに気づいていなかった。
戸塚「はちまぁあああああん!!」
八幡「戸塚!!!」
戸塚「やった!!やったね!!」ダキッ
八幡「ああ……どうにかな」
目の前の天使と喜びを分かち合う俺。
プシュ
その背後から不吉な音が聞こえた。
戸塚「八幡!!」
俺の背後を見ていた戸塚が俺を横へと突き飛ばす。
八幡「戸塚ぁああ!!!」
飛ばされて床に倒れた俺は再び戸塚の方へと視線を戻す。
先程までいた場所に戸塚はいなかった。
その代り、その後方5mくらいに宙を舞って飛ばされる戸塚の身体を捉えた。
そしてマットにはまだ起き上れていない状態で尻がちょうど戸塚に向いている由比ヶ浜。
八幡「戸塚ぁああああああ!!!」
俺はすぐに戸塚に駆け寄る……。
結衣「彩……ちゃん……そんな」
雪乃「結衣!!!これは……」
結衣「今のは……残りっ屁……」
雪乃「残りっ屁……ですって」
結衣「うぐ……あぁあああああああああああああああああ」
由比ヶ浜はまた呻き声をあげて腹部を抑えた。
八幡「そういう事かよ……」
ここで俺は漸く気づいた。
雪乃「どういう……事?」
八幡「さっきのトランポリンの時の屁は5本分の屁じゃない……あれは俺と雪ノ下と一緒に帰っている時に食べた一本分だったんだ……」
八幡「チクショウ……チクショウチクショウッ!!!!」
雪乃「比企谷君……」
戸塚「は、ちまん……」
八幡「戸塚……戸塚ぁ……」
戸塚「ぼく……八幡達と出会えて……よかった。今でも全然後悔していないんだ……。雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも材木座君も川崎さんも……皆ぼくの友達……」
八幡「もういい……もう……」
戸塚「だから……ね?助けてあげて……」
八幡「……あぁ……あぁ」
戸塚「行って八幡……行って……」
八幡「と……つかぁ……」
戸塚「今度生まれるときはきっと……女の子に……」
八幡「戸塚ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
………
……
…
平塚「なに……戸塚が……」
八幡「」
平塚「そうか……」
三浦「戸塚……」
結衣「さいちゃん……そんな……さいちゃん」
最早僅かな猶予もない。先程の4倍の威力の衝撃を和らげる方法……。
トランポリンとマットではもう期待はできそうにない。
もう一度考えろ……強い力を和らげる抵抗力を持つ場所……。
!!!!!
いや、でも……掛けるしかない。
結衣「ウグッ ヒッグ」
雪乃「結衣……」
八幡「由比ヶ浜、雪ノ下」
八幡「これが最後だ」
………
……
…
雪乃「プール?」
八幡「ああ……」
結衣「でも今はまだ春にもなってないよ……?水なんて」
平塚「この時期になるとプールを一度点検するために一度水を貯めているんだ」
平塚「多分まだ流してはいないはずだ」
八幡「水の抵抗力なら……お前の屁も緩和できるかもしれない」
八幡「これは……賭けだ」
雪乃「」
結衣「」
川崎「」
葉山「」
戸部「」
平塚「」
八幡「どうする?」
………
……
…
俺達は由比ヶ浜を連れてプールへと移動する。この時すでにお昼休み開始から40分が経過していた。
葉山と三浦、戸部、平塚先生には先行して職員室にプールのカギを取りに行ってもらい、残りは腹部に来る激痛で動けない由比ヶ浜を運びながら進む。
俺は由比ヶ浜を背負いながら、未だに騒ぎの収まる気配のない校内を潜り抜け、俺達は外へ出た。
八幡「くっ……ふっ……」
短時間の極度の緊張により体力を消耗してしまった。そして何よりも……。
結衣「うぅ……ヒッキー……どうしよう……もうッ 出ちゃう……」
のんびりしている時間はない。
川崎「比企谷!!!」
突然の川崎の声。
見ると川崎がそばの花壇から持ってきていた。
川崎が持っているのは……おそらく土方の仕事をやっていれば必ず目にするであろう。
赤い塗料で塗られた、一輪車走行の押し車……ネコ車。
本来は砂利や土を運ぶための物だがこれならあるいは……
………
……
…
川崎「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
結衣「わわわわ……わわぁああ」
怒涛の勢いで結衣を押し運んでいくさきさき。ひょっとしてバイトで使ったことあって慣れてるんだろうか。
俺達一行は校庭をドカドカと通り抜け……目前にプール場が見えてきた。
………
……
…
戸部「っていうーか折角鍵手に入ったのに!!」
葉山「まさか鍵を差し込んで壊れるとは……」
三浦「ってか今時南京錠とかありえねーーーし!!!」
平塚「」
案の定地獄と化していた職員室。
どうにか門の鍵を拝借できたものの、カギを刺した途端に先端の部分のみが錠の中に入ったまま壊れてしまった。
見ると比企谷達が見えてきた。
戸部も葉山も何とか開けようとするもびくともしない。
戸部「ちっくちょう……開け開け開け開け開けってんだよ!!!」
平塚「……皆離れてろ」
白衣を脱いでただならぬ雰囲気を纏って構える平塚にビビる3人。
そして……。
平塚「そおおおおらぁああああああああああああ!!!!!!!」
気合の叫びと共に放たれた左踵落とし。堅く閉じていた錠前は割れるようにして壊れた。
葉山、戸部、三浦の3人は続いて錠の壊れた門を開けた。
………
……
…
川崎「うおおおおおお!!」
手こずっていたようだがプールの門が開いた。
これで準備は整った。
川崎「ほら!!あんただ!!」
川崎からネコ車を引き渡される。後はこのまま飛ばすだけだ!
八幡「愛してるぜ!!! 川崎!!!」
川崎「行って来い!!!!タラシ野郎ぅううう!!!」
隣には雪ノ下が走り、俺も走り、前にはネコ車に乗せられた今にも尻が決壊しそうな由比ヶ浜。
八幡「うおおおあああああああ!!!!!!」
ザッパァアアアアアアアアアアアアアアアンン
汚れた水の溜まったプールに
3人は頭から突っ込んだ。
水面から起き上った俺はすぐさま二人を抱き寄せる。
結衣「ヒッキー!!」
雪乃「比企谷君!!!!」
結衣「ごめん……ごめんね……二人とも」
八幡「謝んじゃねぇよ……そういうのはフラグっていうんだ」
結衣「あたし……あたし!!!ヒッキーの事、ゆきのんの事……好き……!!!」
雪乃「私もよ、結衣!!比企谷君……これで私が死んだとしても……!!!」
雪乃「絶対後悔しない!!!」
八幡「おいおい……」
雪乃「比企谷君……」
結衣「ヒッキー!!!」
八幡「……わーってる」
八幡「雪ノ下……由比ヶ浜……」
八幡「死んでも愛してる!!」
たかがオナラ……されどオナラ……。
オナラでこれだけ仲間を思いやれる俺達は
きっと本物だ。
結衣「じゃあ……いくよ……」
雪乃「結衣」
八幡「由比ヶ浜」
雪ノ下が由比ヶ浜の頭を抱く。俺が由比ヶ浜を挟むようにして雪ノ下を抱く。
生まれた我が子を守る親子のように俺達は身を寄せた。
そして。
スッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン
轟音と共に下腹部への衝撃を感じた瞬間、俺は意識を失った。
………
……
…
ぷはぁああ!!
俺は肺に残り少なくなった酸素を掻き込むように大きく吸い込んだ。
周りを見ると由比ヶ浜が雪乃に笑顔で抱き付いている。
よかった……二人は生きていた!
そして俺も生きている……!
俺は確信した。
俺が守りたかったもの……それは!
この青い空だったんだ!!!!!
………
……
…
材木座「ど、どうかな~?我、今回結構自信作なんだが」ワクワク
八幡「」プルプルプルプル
雪乃「」ビキビキビキビキ
結衣「」チーン
材木座「え、えーっと……もっふん!!我の力作に言葉も出ないかね諸君!!!!」
八幡「てめぇ材木座!!!なんで戸塚ころしやがったし!!!ふざけんなぁ!!!!」
結衣「そこぉおお!!!??確かにそうかもしれないけどさぁ!!!!」
雪乃「まずこの由比ヶ浜さんだった場合、私絶対仲良くする気ないと思うわ」
結衣「ゆきのおおおおんん!!!!???」
材木座「え、えーーっと 由比ヶ浜さんは……?あはは」
結衣「私は……」
材木座「う、うむ」
結衣「人前でオナラなんかしないもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!」ゲキオコ
八幡「でも大食いな辺りは似てると思うぞ」
結衣「何言ってるの!!!!!」
雪乃「でも確かに由比ヶ浜さんちょっとその抜けてる時あるから……」
結衣「ゆきのんまでぇえ!!!もう知らない知らない!!二人なんて大っ嫌い!!!!もう帰るぅううううう!!!!」ウワーーーン
~オワレ~
皆さんありがとうございます。最近ちょくちょくss書いたりしておりますので、また見かけたらよろしくです。
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それではhtml化依頼してきます
このSSまとめへのコメント
ゾロリ思いだしたわwww
剣豪将軍の作品にしては面白いと思った
由比ヶ浜がビッチ?と空目してたから始終意味がわからんかった
ピンチでも同じ感想なんですけどね