藍子「激辛麻婆豆腐……ゴクリ」 (60)

―――事務所―――

藍子「……」コソコソ

かな子「藍子ちゃん?」

藍子「は、はい!?何ですか?!」

かな子「そんなにコソコソしてどうしたの?一緒にお弁当食べようよ~」

藍子「えーっと……今日はその、すみません」

かな子「もしかして先約がいるの?」

藍子「先約……そ、そうです。Pさんと約束してて」

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かな子「そうなんだ……じゃあ仕方ないね」

藍子「ごめんねかな子ちゃん。絶対埋め合わせするから」

かな子「いいよいいよ。大丈夫」

藍子「じゃあ私はこれで……」コソコソ

かな子「……うーん。なんだか藍子ちゃん、様子が変だなぁ」

P「どうしたんだかな子」

かな子「あれ?Pさん?今日は藍子ちゃんと昼食を食べるんじゃないんですか?」

P「え?俺が?」

かな子「約束してたって言ってましたけど……」

P「いや、そんな約束した覚えはないけど……もしかして俺が忘れてるだけか?」

かな子「なら大変です!藍子ちゃん、レッスン場の方に行きましたよ」

P「そうか。ありがとな、かな子」

かな子「いえいえ~。あ、そうだ」

P「何かあったか?」

かな子「藍子ちゃん、何だか様子が変だったので……Pさん、話を聞いてあげてください」

P「様子が変、か。わかった。それとなく理由を尋ねてみるよ」

かな子「お願いします。藍子ちゃんにはお世話になってるので……」

P「じゃあ行ってくる。……というか、レッスン場……?」

―――レッスン場―――

藍子「……」コソコソ

藍子「だ、誰もいませんよね……」

藍子「かな子ちゃん、ごめんなさい……これだけはどうしても、打ち明けられないの……」パカッ

藍子「……いただきます」

P「藍子ー?いるかー?」ガチャ

藍子「!!!???」ババッ

P「お、いたいた。探したぞ」

藍子「ど、どどどど、どうしてPさんがここにいるんですか!?」

P「(確かになんか様子が変だな。ここまで慌てた藍子は初めて見る)」

P「いや、かな子から聞いたんだけど俺と弁当食う約束してたんだろ?忘れててごめんな」

藍子「あ、えっと、それはっ!」

P「それと、あれだ。今後の方針についても同時に話し合おうと思っててさ。もし今後の悩みや不安があるなら聞かせて欲しいなと」

藍子「そ、その……約束はもういいです。大丈夫です」

P「本当か?」

藍子「はい。それに、悩みとかもないですから。……大丈夫です。はい」

P「……藍子」

藍子「何ですか?」

P「お前、もしかしてお弁当、他のアイドル達に何かされたんじゃないか?」

藍子「えっ!?何でそういう事になるんですか!?」

P「だって……俺が来た瞬間に、弁当箱を隠しただろ?それに普段一緒に食べてるかな子達にも見せられない弁当って事になると……さ」ジリジリ

藍子「べ、別に何でもないです。普通のお弁当ですから、気にしないでいいです」

P「それに約束はもういいっていうのも気になる。約束するぐらい、楽しみにしてたはずなのに」

藍子「本当に、約束はいいんです。あれは……その……べ、別の事で埋め合わせしてもらえばいいと思って」

P「そこまで頑なに弁当を見せたくないって事は、弁当の中身、実は大変な事になってるんじゃないか?」

藍子「っ!」

P「やっぱりな……ほら、見せてくれ。多分麗奈だと思うけどな、律儀に食べなくてもいい」

藍子「う、うう……」

P「藍子」

藍子「……ぐすっ」

P「えっ」

藍子「どうしてそんなに私のお弁当の事を気にするんですか……別にいいじゃないですか……女の子らしくないお弁当でも……」

P「ちょ、藍子!?」

藍子「確かに自分でも女の子らしくないって思ってますけど……食べたいんだから仕方ないじゃないですかぁ……」

P「ご、ごめん藍子!何かよくわからないけどごめん!!」

藍子「……じゃあ、お弁当、見せなくてもいいですか」

P「それはダメだ。しっかり確認させてもらうまで、俺はここにいるぞ。俺は藍子が心配なんだ」

藍子「ううう……」

P「俺を安心させるためにも、な?頼むよ」

藍子「……絶対、誰にも言いませんか」

P「当たり前だ」

藍子「……」スッ

P「あれ?いつも使ってる弁当箱と違うな」

藍子「……それを使う時は、特別な時だけですから」

P「そうか。開けてもいいか?」

藍子「……どうぞ」

P「開けるぞ」パカッ

マッカッカー

P「……これは悪戯の粋を越えてるな。麗奈あの野郎」

藍子「……えっと」

P「つーかなんだこれ……見てるだけで目が痛くなってくるぞ……?何かけてあるんだこれ」

藍子「デスソース、です」

P「なんちゅー名前の……これじゃあ食えないだろもうこれ」

藍子「……Pさん」

P「なんだ?」

藍子「それ……かけたの、私なんです……」

P「……はい?」

―――数分後―――

P「……つまり、藍子は大の辛い物好きで、このお弁当をみんなに見られたくなくて辛い物が食べたい時だけこうやって一人でお弁当を食べていたと」

藍子「……はい。そういう事です」

P「……マジで?」

藍子「女の子らしく、ないですよね……」

P「いや、その……普通に辛い物好きの女子はいるだろうから気にしなくても……」

藍子「でも、これですよ……?」

マッカッカー

P「うっ……」

藍子「引きますよね……だから嫌だったのに……ありえませんありえませんありえません」フッ

P「藍子!ハイライトハイライト!というかアレだろ?実は大して辛くないっていうオチなんだろ?」スクッ

藍子「あっ、Pさん、本当にやめた方が」

P「へーきへーき。俺も男だからな。辛い物にはある程度耐性があるさ」パクッ

藍子「あ……」

P「うん、うまいじゃぐぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」ジタバタ

藍子「Pさん!水です水!」サッ

P「み、水ぅ!ああああああ水飲むとなんか余計喉がああああああ!!」ジタバタ

藍子「じゃ、じゃあ……牛乳です!」サッ

P「んぐんぐ……はっ、お、落ち着いた……でもまだなんか喉がおかしい……けほっ」

藍子「大丈夫ですか?」

P「何とか……え?というか藍子はこのレベルをいつも食べてるの?」

藍子「……はい」

P「そりゃまぁ……人には見せられないわなこれは……あー喉いてぇ」

藍子「Pさんには見られてしまいましたけどね。ははは……死にましょう」フッ

P「藍子!ハイライト!と、ともかく!だ。俺はこの事、誰にも言わないから」

藍子「本当の、本当ですよね?」

P「ああ。むしろ辛い物が食べたくなったら言ってくれ。多少無理してでも時間を作るから」

藍子「……ありがとうございます」

P「俺が無理に見ようとしちゃったからな。気にするな」

藍子「いえ、私も最初から誰かに相談したりしていればこんな事には……」

P「相談しにくいのも分かるよ。確かにこれは誰にでも受け入れられるようなものじゃねぇよなぁ……」

藍子「……ずっと前、これのせいで友達を失くした事があって……それで、怖くなって……」

P「そっか……辛かったんだな」

藍子「辛(から)くはありませんよ?」

P「俺は辛(つら)いって言ったつもりなんだけどなー」

藍子「あの、Pさん。実はもう一つ悩みがあって……」

P「今度はどうした?」

藍子「Pさんが取ってきてくれた、バラエティのお仕事がありますよね」

P「ああ。あれだよな。クイズで不正解の人には激辛麻婆豆腐を……あっ」

藍子「……私の台本には、わざと不正解になって、激辛麻婆豆腐を食べると書いてあって」

P「ちょ、そんな事やらせるつもりだったのかよ。わかった、あの仕事はお断りして―――」

藍子「そこじゃないんです。私が心配なのは」

P「……まぁ、さっきの会話聞いてれば、そうだろうな」

藍子「その……恥ずかしながら私、リアクションが出来るか不安で」

P「……あー」

藍子「私、こんな味覚ですから……その、激辛麻婆豆腐を食べてもきっと……むしろ美味しいって感じちゃうと思うんです。バラエティなのに、そのリアクションはおかしいんじゃないかと思ってしまいまして」

P「それはあるな。そもそも、バラエティとは言えアイドルに対してそこまでの物を用意はしないだろうし」

藍子「ですから、心配で」

P「なるほどなぁ……それで、藍子はどうしようと思うんだ?」

藍子「えっと……事情を知っているPさんに、見本を、お願いしたいんです」

P「見本?」

藍子「はい。Pさんが辛い物を食べた時のリアクションを、私が見て、それをコピーする……そういう方法じゃ、ダメ、ですかね」

P「なるほどね。OK。俺が役に立てるなら頑張るさ」

藍子「本当ですか!?」

P「というかそもそも、バラエティに出ないって選択肢は」

藍子「ないですね。ただでさえ、最近は仕事は減ってますし……」

P「わかった。協力しよう。それで俺は具体的に何をすればいい?」

藍子「今度の休日、私と一緒にお出かけしてくれませんか?」

P「いいけど、それが協力になるのか?」

藍子「はい。私、辛い物の名店、沢山知ってますから。Pさんもきっといいリアクションを見せてくれると思いまして」

P「そっか……」トオイメ

藍子「ふふっ、次のお休みが楽しみになりました」

P「そうだね……」

藍子「そうだ……えっと、食べます?」

P「……これも藍子のためだもんな。もう一口頂きます」

P「(そして俺は昼休み、レッスン場を転げまわる事になった)」

P「(その横で平然と藍子がそのデスソースのかかった何かを食べていたのが、とても印象に残っている)」

―――休日 駅前―――

藍子「Pさーん」

P「おう、藍子。変装はしっかりしてきてるな」

藍子「当たり前ですよ」

P「今日は確か、辛い物メインの店を沢山回るんだよな」

藍子「はい。……あの、今更ですが大丈夫ですか?」

P「何がだ?」

藍子「昨日、あれだけ転げまわっていたので……」

P「なぁに気にすんな。まだ口の中がビリビリしてるだけだ」

藍子「それ大丈夫じゃないですよね」

P「とにかく、約束は守る。そのために今日は秘密兵器も持ってきている」

藍子「秘密兵器、ですか?」

P「ああ。まぁ、すぐに使う事にはならないと思うから楽しみにしておけよ」

藍子「そうですか……わかりました。ではまず、一件目に行きましょう」

P「一件目、料理のジャンルとしては何なんだ?」

藍子「まだ朝食ですから。軽めのパンとでも思いまして」

P「パンか。辛いパンなんて予想がつかないな」

藍子「そんなに辛くはないですよ。でも、凄く美味しくて何個も食べられちゃいます」

P「それは楽しみだ」

―――ベーカリー―――

藍子「どうぞ。Pさん」

P「あのさ藍子」

藍子「何ですか?」

P「そんなに辛くない、って言ってたよね」

藍子「……?はい」

P「このパン、中身真っ赤なんだけど本当にそんなに辛くない?」

藍子「美味しいですよ?」ハムハム

P「……まぁ、信じよう」モグモグ

藍子「どうですか?」

P「ん。確かにうま……ぐうっ!?」

藍子「どうしました?」

P「ぐ、んぐっ……で、デスソースほどじゃないが、これもなかなか……!」

藍子「そう、ですか?」ハムハム

P「だが……この程度ならっ!」ガツガツ

藍子「あ。中に辛味ソースが入ってますから気をつけてくださいね」

P「Noooooooo!!!」

藍子「わっ、だ、大丈夫ですか?牛乳をどうぞ」

P「ありがとう……眠気がスッパリ吹っ飛んだよ」

藍子「それはよかったです。確かにさっぱりしますよね、このパン」

P「……まぁな」

藍子「……あの」

P「なんだ?」

藍子「本当の本当に、大丈夫ですか?」

P「気にすんなって言ったろ」

藍子「私の我侭でPさんを苦しめるわけには……」

P「俺が苦しんでるように見えるか?」ニコッ

藍子「……いいえ」

P「確かに辛いけどさ、これはご褒美に対する代償だと思えば何ともないさ」

藍子「ご褒美って……まさか、PさんってどM……」

P「ちゃうわ。藍子みたいな可愛い女の子とこれからデートできるんだ。そう考えりゃこれぐらい乗り越えてやるさ」

藍子「……で、デートじゃないですよ」

P「男女が一緒に飯食って、一緒に話しながら休日に歩く事をデートと言わずして何と言う」

藍子「それは……あ、遊びです」

P「酷い!藍子は俺で遊ぶつもりだったのね!」

藍子「誤解を招くような言い方はやめてください!」

P「さて、美味しかった」

藍子「へ……?あ、完食して……」

P「ほれ見ろ。藍子と一緒に話しながら食べれば、辛さなんていくらでも我慢できるさ。これが秘密兵器だ」

藍子「……もう、無茶なんですから」

P「そうか?」

藍子「……このお店、ケーキも美味しいんですよ。食べましょう」

P「お、本当か?さ、流石にケーキまで辛いなんて事ないよな?」

藍子「さて、どうでしょう。ふふふっ」

P「ちょ、勘弁してくれよ藍子ー!」

―――翌日―――

P「おはようございます」

ちひろ「おはようご……どうしたんですかその唇!?」

P「ははっ、ちょっと昨日、辛い物を食べ過ぎて」

ちひろ「とっても腫れてますよ……大丈夫ですか?」

P「気になるんならマスクでもしておきますよ」

ちひろ「そういう問題ではないんですが……」

P「とにかく、今日でしたよね。藍子のバラエティの収録」

ちひろ「そうですね。様子を見に行くんですか?」

P「ええ。散々リアクションをしたんです、ちゃんと最後まで見届けないと」

ちひろ「リアクション?」

P「ああ、気にしないでください。それで藍子は?」

ちひろ「先に現場に向かいましたよ?」

P「あらら、じゃあ俺も急ぎましょうかね」

ちひろ「はい。藍子ちゃんの事、よろしくお願いします」

―――スタジオ―――

藍子「……」ゴクリ

司会「残念不正解でーす!いやー、藍子ちゃん惜しかったねぇ」

藍子「そんな……残念です」

司会「それでは皆様お待ちかね!激辛麻婆豆腐の罰ゲームでーす!」

ワーワー キャーキャー

P「(頑張れよ、藍子)」

藍子「(……凄く赤くて美味しそう。ううん、頑張ってリアクションしないと)」

司会「では、はりきってどうぞ!」

藍子「い、いただきます……」

藍子「(まずはゆっくりスプーンですくって……)」

司会「なんと辛さは唐辛子の二倍!」

藍子「(本当はそこまでじゃないんだろうけど……でもそれなりに辛いって事は分かる……)」

藍子「で、では……いただきます」スッ

藍子「(でもここですぐに食べるんじゃなくて……)」ピタッ

藍子「……」

司会「どうしました藍子ちゃん?さ、ぐいっとどうぞ!」

藍子「ぐ、ぐいっとですか」

司会「ええ。ぐいっと!」

藍子「……はむっ!」

オオー!

藍子「(それでそう、Pさんが辛さを感じてたは後だから……)」

藍子「あれ?意外と美味し……うっ」

司会「だ、大丈夫ですかー?」

藍子「み、水をいただけますか!」

藍子「(少し苦しそうにして……あとはあらかじめさしておいた目薬を……)」

司会「はいこちらです!」スッ

藍子「んぐっ、んっ、ぷはっ……」

司会「どうでしたか?」

藍子「凄く……辛くって、なんだかまだ舌がヒリヒリしてます……」

司会「じゃあ流石にこれ以上食べるのは無理かなー?というか藍子ちゃんのファンに睨まれてるんで罰ゲームはこれでお終い、という事で!」

ハハハハハ

藍子「(よかったぁ……できた)」

―――楽屋―――

P「やったな藍子!」

藍子「よかったです……あの程度じゃ、辛いとは言えなかったと思うので……」

P「そ、そうか……」

藍子「それよりもPさんはどうしてマスクをしてるんですか?」

P「ちょっと風邪気味でな。移したら困るだろうから」

藍子「大丈夫ですか?も、もしかして昨日の……」

P「あれは関係ないよ。むしろ元気になる要素しかなかっただろ。藍子とデートなんて」

藍子「……もう」

P「さてと、それじゃあ一緒に帰るか」

藍子「はい。そうだ、昨日のパン屋さんに寄って行きませんか?」

P「……また食うのか、あれ」

藍子「違いますよ。みんなに、ケーキを買っていこうと思いまして」

P「そういう事か。確かにあそこのケーキは美味かったからな。よし!今日は俺のおごりだ!」

藍子「そんな、悪いですよ」

P「いいっていいって。藍子のバラエティ成功記念って事でどうだ」

藍子「……Pさん」

P「んー?」

藍子「ありがとう、ございました」

P「どうしたいきなり」

藍子「もしPさんにお弁当の事を知られてなかったら。Pさんに昨日付き合ってもらわなかったら。きっとこのお仕事は、うまくいかなかったと思うんです」

P「そうかね。俺はなんだかんだ、藍子なら出来たんじゃないかと思うぜ」

藍子「いいえ。ですから、今度、お礼をさせてください」

P「……そこまで言うなら、楽しみに待ってるな」

藍子「はいっ♪」

―――数日後―――

P「……」

ちひろ「どうしました?Pさん」

P「いえ、何故か俺の机の上に弁当箱が置いてありまして」

ちひろ「もしかして、プレゼントじゃないですか?アイドル達からの」

P「いやいや。忘れ物ですよ。きっと」

ちひろ「そう思うなら開けてみてくださいよ」

P「誰かの忘れ物だった場合、悪いでしょう」

ちひろ「いいからいいから、ね?」パカッ

P「あっ、ちょっとちひろさん」

ちひろ「……あら、まぁ」

P「……」

ちひろ「ふふっ。赤くて大きな、ハートマークですね」

P「……そう、ですね」

ちひろ「頑張って食べてあげてくださいね?」

P「……やっと腫れが引いてきたと思ったんだけどなぁ」

そして、一口。

口の中を焼き尽くすような、辛味。

だけど俺の味覚はもっと強い味を覚えていた。

女の子の淡い思いが詰められた弁当の味。

「……甘ったるいな」

そう言って、俺は黙々と弁当を食べ続けるのだった。


おわり

滅茶苦茶辛い物が好きなアイドルがいてもいいですよね。

では、ありがとうございました。

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