「炉心融解―歌ってみた【蒼き鳥の乙女】」

蒼き鳥の乙女（千早）『くわあくうゆううごうるるおっにっさあああああああああああ！つぉびこんでみいいいいいいたいとぅおおおおおおおもうううぅううううう！！！！』


春香「これが千早ちゃんの動画です」

Ｐ「…確かに千早の声だな。ＨＮもなんかそれっぽいし」

春香「でしょう？」

Ｐ「でも再生数は少ないな…たったの７２だ。『薄き壁の乙女』って名前の方がしっくりくるぜ」

春香「コメントも、多分千早ちゃん本人がした『よろしくお願いします』っていうのが１つだけですね…」

Ｐ「一応歌は上手いんだけどな…加工はしてるけど」

春香「でも本職のアイドルが歌い手やったらまずくないですか？」

Ｐ「でもあいつ歌の仕事あんまりないからなー」

春香「プロデューサーさんのせいじゃないですか」

Ｐ「うん」

千早「おはようございます」

春香「あ、千早ちゃん来ましたよ！」

Ｐ「ああ、一旦消しとく」ﾌﾞﾁｯ

千早「何かあったんですか二人とも？」

春香「あ…いやなんでもないよ」

Ｐ「なあ千早。歌い手って知ってるか？」

千早「え」

春香「ええ！ちょ、ちょっと！」

千早「歌い手…聞いたことは…あるようなないような…」ﾁﾗﾁﾗ

Ｐ「ニコニコ動画で歌手活動をしている連中だ。中には正式に歌手としてメジャーデビューするのもいる。これからは素人も競争相手だ。負けられんぞ」

千早「そうですか。うむうむ…そうですよね。よくは知りませんけど。本当に」ｷｮﾛｷｮﾛ

Ｐ「だから歌の仕事は前よりそう簡単なものじゃなくなってる。お前なら大丈夫だと思うけど気を抜くなよ」

Ｐ（もっとも歌い手なんか町内カラオケ大会レベルだしいろいろご察しだが）

千早「え、ええ。それはもちろん…歌い手なんて何もよくわからないですけど。では私はレッスンがあるので…」ｿｿｸｻ

春香「……あれは間違いなくクロですね」

Ｐ「ちょっと遊んでやるか」

「ロミオとシンデレラ―歌ってみた【蒼き鳥の乙女】」

蒼き鳥の乙女（千早）『ずぅうっとこいすぃくぅてすぃんどぅうぇるぇらあ！せえふゅくうだくぅえっでかきぇええてくうわあ！！！！』


春香「新作が投稿されてましたよ」

Ｐ「一応実力相応に再生数は増えてきたみたいだな…それでも１００程度だけど」

春香「このまま続けさせていいんですか？」

Ｐ「いいじゃんだって面白そうだし」

春香「えー」

Ｐ「にしてもさっきから歌詞が意味不明なんだけどなんなのこれ」

春香「さあ」

Ｐ「えー」

千早（ダメだわ…投稿しても全然伸びない）

千早（歌手である私の歌唱力なら伸びると思ったけど、やっぱりうまくいかない）

千早（『あの有名歌い手が実は現役アイドルだった！』ってなったら現実でも歌手の仕事が来ると思ったのに…）

ＴＶ『最近のゲーム会社は、いわゆる実況動画を容認しようという動きが出ており―』

千早「実況…ゲーム…」

千早「それだわ！」

数週間後

Ｐ「最近千早歌ってみた投稿しないなー」

春香「プロデューサーさん！」

Ｐ「なんだ春香」

春香「この動画を視て下さい！」

Ｐ「ん？今度は一体…な！？」


「人は壁だけでデュエルできるか？【蒼き鳥の乙女】」

蒼き鳥の乙女（千早）『うわースターダスト来ちゃいましたねーでも幻影の壁がいるのでバウンスでなんとかできまーす』 ﾋｼｮｳｾﾖ ｽﾀｰﾀﾞｽﾄﾄﾞﾗｺﾞﾝ！


Ｐ「これは…ゲーム画面に千早の声？まさか…」

春香「どうやら実況動画を投稿したみたいなんですよー」

Ｐ「どれどれ…なるほど、毎回いろんなテーマに沿ってゲームをプレイしていくっていうスタイルが受けたのかどの実況動画も再生数１０万越えしてるぞ」

春香「もはや歌なんか関係なくなっちゃいましたね」

Ｐ「まあでも千早がいいならいいじゃん」

春香「そうですね一応」

その後、千早の実況動画は投稿される度にランキングに乗るようになり、実況者『蒼き鳥の乙女』として名も知られるようになった


蒼き鳥の乙女（千早）『結束ＵＮＩＴＹ発動！これでナチュル・クリフの守備力は合計７２００で反射ダメージでトドメ！！！これぞ結束の力よ！』ｳﾜｰ ﾋﾟﾘﾘﾘﾋﾞｰ


千早「ふー…伸びるとはいえ実況も大変ね」

千早「歌とは違ってただしゃべるだけなんだけど毎回面白い台詞とかも考えないと」

千早「まあ、一番大変だったのは実況環境の調達ね」

千早「録画機器とマイクとＰＳＰ買ったらもうお金がなくなっちゃったんだもの」

千早「まあアレのおかげでソフトも手に入れられたけど」

千早「さて、次回作はギャンブルでもテーマにしましょう」ｶﾀｶﾀ

数日後

黒井「ウィ。９６１プロ社長として多忙を極む私だが、このように趣味を楽しむ余裕もあるものだ」

黒井「一人チェスや一人将棋もいいんだが、今ハマってるのは実況動画鑑賞だ」

黒井「特にこの蒼き鳥の乙女という実況者は注目株だな」

黒井「どれどれ今回は……『人はコイントスを全部当ててデュエルできるか？』か。なかなか興味深い」


蒼き鳥の乙女（千早）『アルカナフォース ザ チャリオット召喚！コイントス！』ﾁｬﾘﾝ

黒井「よし頑張れ！当然正位置ィ！おや…？」

蒼き鳥の乙女（千早）『はい表ですね。成功です』

黒井「なんだ今のは…おかしいぞ？」

黒井「確かアルカナフォースの効果でコイントスをする場合はコインではなくカードが回転する演出が入るはずなんだが…」

黒井「エフェクト表示のバグか？調べてみるか」ｶﾀｶﾀ

黒井「えー何々…な！なんだと！？」

黒井「こ…これは大事件だぞ！！！」



Ｐ「千早早く新作投稿しないかなー」

春香「大変ですプロデューサーさん！」

Ｐ「なんだ春香」

春香「千早ちゃんの動画が！」

Ｐ「お！ついに新作が来たか！」

春香「いえ！そうじゃなくて！」

Ｐ「な、なんだこの動画…」


『実況者蒼き鳥の乙女　割れ検証』


春香「どうやら千早ちゃんゲームを違法ダウンロードしていたみたいなんです…ゲームのエフェクトがおかしかったとかで…」

Ｐ「何だって！とんでもないことをしたな！」

春香「千早ちゃん今日は休んでるみたいです…電話も通じません」

Ｐ「はあ…しょうがない。騒ぎが収まるのを待つしかないよ」

小鳥「で、ですから！ウチは何も関係ありませんったら！」

Ｐ「ん？小鳥さん、電話で何かあったんですか？」

小鳥「プロデューサーさん！実は…」

小鳥「ニコニコ動画でゲームを違法ダウンロードした蒼きナントカってユーザーが７６５プロにいるだろうって奇妙な電話が沢山来てて…」

小鳥「特定したとか言ってますけどウチの事務所にそんなことしてる子いませんよね？」

Ｐ「えっ」

春香「え」

Ｐ「どうやらアカウントや音声を分析されていたらしく、動画から個人特定までに行き着いていたらしい。蒼き鳥の乙女＝如月千早ということがに知れ渡ることとなった」

Ｐ「この事件は７６５プロ史上最大のスキャンダルとなり、俺たちは事態の収拾に追われた」

Ｐ「皮肉にも、千早は望み通り全国に名前が知れ渡る存在となった。ただし、歌手ではなく、犯罪行為をしてまで売名行為を行った前代未聞のアイドルとして」

Ｐ「千早はあれ以来行方不明なままだ。今となってはその行き先は知らないが、無名ながら地道に努力していた昨日には帰れないのだろう」

Ｐ「こりゃちょっと遊びすぎましたわ、てへっ」

春香「てへっじゃないでしょう！」


終わり