少女「パンを下さい」 男「はい、パーンッ!」パーン (5)


乾いた音がした。死が囁いた。目の前が見えなくなった。

ドサッ。

男「……」

私は倒れた。最後に見えたのは黒だった。
辺りには悲鳴が聞こえる。
そうだ、ここは人混みの中心だった。
硝煙の臭いが周りに狂気を伝えた。人々は何かから逃げ出した。
私は相も変わらず、横たわっていた。


男「…パンくれって。言ったやんな」

少女「ごほっ…ヒュゥ……ご、これはないですよッ」

少女「あんまり……だァ」

男「せやなぁ」

男「それやったらな、次は手前でなんとかしてくれや」

男「ほな」


なんて酷だろうか。倒れた私を放って、あなたは去っていく。
ならば私も去るとしよう。

次は死体になりたくないものだ。


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少女「……はぁ」

悪い夢を見た。私の胸を、黒い靄が駆け回る。
気持ちが良いものではない。

少女「私はこうして繰り返す存在…?」

少女「いや、夢だろう。現に私に銃弾の後はない」

少女「……何を言ってるんだ、私は?」

自信の妄言に少しむず痒くなりつつ、ベッドから抜け出す。
外は寒い。ひんやりと、という表現が似つかわしくない寒さだ。
これは…。

少女「そんなことよりも、お腹が空いた」

私の腹はどうやらいつの間にか私を制御下に置いていたらしい。
足は勝手に一階の台所へ向かっている。


少女「いやしんぼ」

腹はグーッ音を立てた。

少女「ふぅー…」

冷蔵庫の中身をざっと見てみれば、
なるほど。私の食生活の悪さが今更露呈した。
いや、隠していた訳ではないが。

少女「インスタントに頼っていたら駄目だなやはり」

少女「冷蔵庫の中身が嗜好品ばかりになってしまう」

そう言いつつ私は、コーヒー牛乳を取り出した。

ゴクッ!


少女「さて、行こう」

家にまともなものがないなら、外に求めればよい。
至極まともな思考回路である。
だが、胸につっかえるものがあるのは何故だろうか。

少女「……おっと、外はクリスマスだったか」

少女「だったらジャージは…まずいか」

華の十代とは私にとって譎詐でしかない。
余所行きの服に着替えて、私は外に出た。


しとしとと降り立つ雪を見て、趣を感じた。
それは死ではなく、祝福を感じさせた。

少女「さすが性夜。もとい聖夜だ」

まだ私は寝ぼけているらしいが、きっとこの寒さで目も冴えるだろう。
その証拠に、足は早速パン屋へ向かっていた。

少女「やはり腹を満たすものはパンだ。いついかなるときも、パン」

サンタクロースとやらも、全ての人にパンをくれてやったらいいのに。


少女「パン、パン」

男「なんや嬢ちゃん、パンが欲しいんか」


突然背後から声を掛けられた。背筋が凍るのを感じた。


少女「さ、サンタクロース?」クルリ

男「戦慄した顔で言う台詞やないなあ……」


正しくそれは、夢であった男であった。

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