小鳥「襟巻」 (21)
「おはようございます~」
朝、事務所の扉を開いて一人の女性が事務所へとやってきた。
この事務所に所属する三浦あずささんである。
「今日は一段と寒いですね」
見慣れた優しい微笑みを湛えながら、しかし寒さが堪えたのか、どこか困ったような。
そんな複雑な表情をしている。
だが、暖房の効いた事務所内に入ってすぐにその表情は穏やかなものへと変わった。
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あずささんは、着ていたブラウンのコートをハンガーに掛けると、そのままソファーへと腰掛ける。
近くに置いてあったファッション誌に手を伸ばし、ぱらぱらとめくっては嬉しそうに微笑んでいた。
「何か面白い特集でもあったんですか?」
デスクにいながらあずささんへ声をかける。
それに気づいたあずささんは慌てた様子で返事をしてくれた。
「や、やだ音無さん……。見てたんですか……?」
「うふふ、雑誌を見ながら嬉しそうにしていたので気になっちゃって」
私がそう言うと、両手を頬に当て、恥ずかしがっている。
一体何を見ていたのだろうか。
気になって近くまで行き、彼女の読んでいる雑誌の1ページを覗きこんで見る。
そこには春香ちゃんや美希ちゃんが、様々な服に身を包んだ写真が掲載されていた。
あずささんは、雑誌に載った765プロの娘達のページで微笑んでいたのだ。
「こうやってみんなの頑張りを目にすると、どうしても嬉しくなってつい頬が緩んじゃうんです」
ページに目を落としながら、あずささんは優しい口調で話してくれた。
そんなあずささんを見て、私も思わず笑みが溢れる。
私がそう言うと、両手を頬に当て、恥ずかしがっている。
一体何を見ていたのだろうか。
気になって近くまで行き、彼女の読んでいる雑誌の1ページを覗きこんで見る。
そこには春香ちゃんや美希ちゃんが、様々な服に身を包んだ写真が掲載されていた。
あずささんは、雑誌に載った765プロの娘達のページで微笑んでいたのだ。
「こうやってみんなの頑張りを目にすると、どうしても嬉しくなってつい頬が緩んじゃうんです」
ページに目を落としながら、あずささんは優しい口調で話してくれた。
そんなあずささんを見て、私も思わず笑みが溢れる。
「分かりますよ、それ」
「まぁ、本当ですか!」
私が同意すると、とたんに嬉しそうな表情へと変わるあずささん。
「みんなの出てる番組とか、雑誌を見たりするとやっぱり嬉しいですし、何よりみんなの為にもっと頑張ろうって思えるんです」
私にとって、それは一番の楽しみなのである。
アイドルみんなのお姉さんとして、一番近くで見守っているあずささんも同じ様に感じてくれているようだった。
「そうなんです、私もみんなから力を貰っていると同時に、負けられないって思うんです。それでもやっぱり、嬉しくなってしまうんですけれど」
「うふふ、あずささんらしいですね」
照れているのか、ほんのりと頬に朱が刺していた。
「今日はレコーディングだけですよね?」
あずささんの今日のスケジュールを確かめる。
もう間もなくプロデューサーさんも来て、あずささんと一緒にレコーディングスタジオへと向かうはずだ。
「そうですね、新曲のレコーディングなのでとても緊張します」
朗らかな笑顔で答えるあずささん。
とてもそうは見えないが、きっと本人なりに緊張しているのだろう。
「あずささんならきっと大丈夫ですよ」
陳腐な言い回しだが、偽らざる本心なのだから仕方がない。
それに、日夜プロデューサーさんと二人三脚で走り続けるあずささん、その頑張りを知っているからこその言葉でもある。
「うふふ、音無さんにそう言ってもらえるとなんだか安心しますね」
こんな私の言葉でも、あずささんを安心させられたのならばそれは喜ばしいことだ。
――――その時だった。
事務所の電話が大きな音を立て着信を示している。
すぐさまデスクへ戻り、受話器を取る。
「はい、765プロです」
いつもの通り挨拶をし、相手の声を待つ。
『音無さん、お疲れ様です』
受話器の向こうからは聞き覚えのある声。
プロデューサーさんだった。
「あ、プロデューサーさん。お疲れ様です。どうしました?」
『あずささんって、もう着いてますか?』
どうやらよく迷子になりがちなあずささんの安否を確認したいようだった。
「はい、今事務所にいますよ。代わりますか?」
声を聞けば安心するだろうと思い提案してみる。
受話器をあずささんに渡すと、数分の間通話した後受話器が還って来た。
『それじゃあ音無さん、事務所の外で合流してそのまま向かいますので、これで失礼します』
「はい、気をつけてくださいね」
受話器を置き電話を切る。
室内へ目をやると、あずささんは先ほど掛けたコートへと手を伸ばしていた。
「それじゃあ音無さん、行ってきます~」
コートを着込んだあずささんは、扉の方へと向かい、ノブを捻ってそのまま押し開ける。
暖かかった室内に、ひんやりとした空気が流れ込んでくるのがわかった。
「うぅ、寒い……」
ぽつりと呟くあずささん。
ノブに手を掛けたままその場で軽く身震いしていた。
「ちょっと待ってください」
声をかけ、あずささんが出ていくのを制止する。
その声に反応したあずささんは、私の方へ振り返った。
椅子から立ち上がり、自分のロッカーを開いて中から一本のマフラーを取り出す。
その様子をあずささんは不思議そうに眺めていた。
手に持ったマフラーを手早くあずささんの首もとへゆるりとかけてあげると、あずささんは状況がつかめないのかきょとんとしている。
マフラーが巻かれた事に気付くと、その表情は驚き顔へと変わった。
「お、音無さん!? これは……?」
「ふふ、外は寒いですからそのマフラーは貸してあげます」
「そ、そんな、悪いです!」
慌てた様子で私の申し出を断るあずささん。
「良いんですよ、きっとあずささんが戻るまでは事務所にいますから」
昼食は出前を取れば良いし、備品も足りているので外に出る用事もない。
貸してしまっても何も問題はないのだ。
「でも……」
「あずささんが風邪を引かないようにするのも、事務員の務めです!」
それはプロデューサーさんの務めだが、私がやっても問題は無いだろう。
そう言うとあずささんは申し訳無いといった様な、そんな表情で受け入れてくれた。
「帰ってきたら必ずお返ししますね」
「はい、待ってます」
すぐに普段の柔らかな笑顔になったあずささんは、可愛らしくぺこりと一礼すると、そのまま扉の外へと向かっていった。
「頑張ってくださいね、あずささん」
誰もいなくなった事務所で、ぽつりとあずささんへ励ましの言葉をつぶやく。
少ししてから、机の上に置いてある携帯電話が着信を告げながらその身を震わせている。
手にとって開いてみると、あずささんからメールが届いていた。
From:あずささん
Subject:マフラー
本文
貸して頂いてありがとうご
ざいます。
音無さんの暖かさで、とっ
ても心も体もぽかぽかにな
れました。
音無さんも今日一日ずっと
事務所にいるのは大変かも
しれませんが、頑張ってく
ださいね。私もレコーディ
ング、一所懸命歌ってきま
す!
プロデューサーさんに撮ってもらったのだろう、マフラーを巻いて嬉しそうに微笑んでいるあずささんの写真が添付されていた。
その笑顔だけで、今日一日の仕事も乗り切れそうだ。
すぐに返事を返し、頭を仕事へと切り替える。
「さて、あずささんや皆の為に、今日も頑張りますか!」
おわり
終わりです。
寒くなってきたので、一本のマフラーを二人で巻くあずピヨとか見たくなってくる季節ですね。
少しでもあずピヨが増えたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。
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