一方通行「俺は自ら望ンであの実験をやっていた」 (5)

一方通行が改心せずに3巻の性格のまま物語が進んだら…というifです



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 路地裏の淀んだ空気を引き裂き、触れるもの全てを跳ね除け、その骸が彼の進んできた道に痕跡を残していた。少年は何事もないように歩いているがその心中は穏やかなものではなかった。

(チッ…クソッタレ)

 彼の憤懣の原因は明らかだった。あの日、彼は一人の男に敗北した。完敗だった。あの男がいかなる手段を用いて自分を倒したのか。それは彼自身にもよく分かってはいなかった。彼の高い演算能力を以ってしてもあの男の力の正体を看破するには至らなかった。

 ただ、そんなことは瑣末な問題に過ぎない。やはり彼の憤懣の原因は「負けた理由」よりは「負けた事実」の方が大きく割合を占めるのだろう。

 ここ最近の相次いだ襲撃も彼にその事実を否が応でも思い出させる。一度の敗北が彼に与えるものは計り知れなかった。

 少年は変わらぬ足取りで歩を進める。その途中、学生寮マンションの上層から降ってきた耳障りな痴話喧嘩に微かな苛立ちを覚え、そのまま音を反射に設定した。

 
 

 無音の世界を一方通行は歩む。無論、実際に音が消え去ったわけではない。ただ、全ての音が彼の元には届かないというだけである。

 しばらくするとーーー不意に視界の端に蠢く物体に気付いた。

「あン?」

 それはひとりでに走り回る薄汚れた毛布だった。

「なンだそれ」

 その毛布に何かが包まっている。それは幼い女の子だった。その子は腕を振り、何かを喚き続けていた。そこでようやく彼は音を反射してたことを思い出した

「あァ、そォいえば反射したまンまだったな」

 直後、彼の聴覚は毛布に包まれた女児の声を拾い上げた。

 


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