・垣根くん再構成
・若干のキャラ崩壊&ヤンデレ化あり?
・エログロは安価次第(ホモは基本なし、百合はいいんじゃない?)
・>>1は安価としては遅筆
・今回は完結させたい
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白い悪魔が手を振るう。
金髪の少年の右手がブチリと引き裂かれた。
「そうか、そういうことかテメエの役割は――!」
黒い翼。
そう形容するしかない圧倒的な力を見て、少年は大きく叫んだ。
最後に爪痕を残そうとするように叫んだ。
そう。
少年の哀れで醜い人生はここで終わるはずだった。
悔しかった。何もできずに死んでいくのが。
そして、わずかに思った。
誰にも愛されず死ぬのがさびしい、と。
(……どうせ、俺は実験体コース確定、か)
脳みそさえあれば能力は吐きだせるし、保存だって学園都市の技術なら難しいことではない。
きっとそうなるだろう。
思いながら、少年……垣根帝督は意識を放り出した。
≪今回はこれだけで。連投は下のレスから十分経過でOK。>>1安価から二十分で安価↓とします≫
次に目を覚ました時には見慣れた自室のベッドで眠っていた。
「……は?」
確かに垣根の能力は常識が通用しない。だが、これはそれ以前の問題だ。
訳がわからない。
必死に周りを見渡す。間違いなく自室だった。
思考の中で動揺が広がる。
前後の記憶と目の前の情報が一致しない。
「ふむ、さすがに動揺は隠せん……か」
目の前に気づけば天使が現れていた。
青白く輝く天使はにこやかにほほ笑みながら言う。
「君はいわゆる並行世界に飛ばされたと思ってくれてかまわん」
並行世界。
あまり信じたくはないが無数に広がる選択の可能性だとでも思えばいいのか。とにかく、垣根は別の世界に飛ばされた。
「そこまで一瞬で至る思考能力は称賛に値するよ、垣根帝督」
じわり、と垣根の手に汗が浮かぶ。
一方通行は強い。垣根はそれだけはわかっていた。だから慎重に戦った。
だが、目の前の天使は次元が違う。
勝てない。本能がそう言っている。
天使は垣根の思考など意に介さず、言葉を続ける。
「君には前から興味を持っていてね。ちょうどいい機会があったので使わせてもらうことにした」
「……、」
「そう怖い顔をするな。これでも救済処置のつもりではある」
「どういうつもりか知らねえが、俺は今最高に気分が悪い」
「何を言いたいのかわからないが君ではdxsrt……と時間がないな。手短にいこう」
天使は軽く肩をすくめる動作をしてみる。
その動きに垣根は今までで一番の違和感を覚えた。
「この世界は基本的に前と変わりない。君は第二位だし、一方通行は第一位。……他の人間も配置は変わらない」
「……つまり、俺に世界をやり直せってか?」
「いいや、違う」
天使は首を横に振る。
そこにはいたずら心のようなものがあった。
「ここからが本題……君には恋人がいる。そして……登場人物も少々面白いテイストになっている。ここから先は自分で
確かめるといい」
そう言って、天使は自分勝手に消えた。
「……、」
ベッドから降り、窓から外を見つめる。
見慣れた景色に飽き飽きしていると、電話がなった。
垣根の電話相手(恋人、禁書女性キャラ一名) 安価下2
「……もしもし」
月詠小萌と表記された名前に聞き覚えはない。
早くも起きる不確定要素に警戒感を抱きながら、垣根は通話に答えた。
『よかった……ちゃんと起きてましたね』
響くのは甲高いソプラノボイス。
やはり前の自分とは明らかに交友関係が違う。
自分が今までの記憶がないと悟らせてはいけない。
垣根は慎重に口を開く。
「……何の用だ」
「安価下2」
『学校来てくれないから心配したんですよー? 今日は来れますか?』
「学校……?」
耳を疑った。
この世界の垣根帝督は暗部に身をおきながらも表の世界でも生きているのか。
それは垣根からしてみればどうしようもない甘えに感じられる。
『そうですよ! みんな帝督ちゃんを心配してますよー?』
「……、」
垣根はわずかに考える。
今までの垣根と今の自分は間違いなく別人だ。
普通に考えれば、これに従う必要もないではないか。
『……帝督ちゃん?』
「安価↓2」
「俺、何年何組何番だっけ? 後期末テストとかまだだよな?」
『なーに寝ぼけたこと言ってるんですか! 期末テストはまだですし、帝督ちゃんの学籍番号は――――』
適当に電話の声を聞き流しながらも垣根は状況をまとめる。
まず、この世界は自分の知識や記憶とは根本的に違う。これからも垣根には面識のない人物が出てくるはずだ。
それに、なぜか彼女がいる。ならばこの世界の垣根帝督はどんな人物なのか。
知るべきことはたくさんある。
(まずは知り合いを確かめる。……利用できるヤツはとことん利用してやる)
この何もかもを使うというおよそ卑怯なやり方。
これこそ垣根帝督だ、と少年は唇をゆがませた。
学校。
そんな場所には行ったこともないが、とりあえず家にあった制服を着用している。机の上に置いてあった学生鞄の中には教科書があった。ノートの類はなかったが、まあ垣根にそんなものは必要ない。
(さあて、どうすっかな……)
いくら垣根が優秀とはいえ対人関係は難しい。相手が女性だけなら多少の自信もあるが、そういう訳ではない。
まずはその場に自然に溶け込む。これを目標に垣根は教室へと向かう。
教えられていたため、教室への道を聞かなくともある程度の場所は把握できた。
不意に、肩をたたかれる。
それに反応し、垣根は振り返る。
垣根を止めた人物 安価↓2(禁書キャラ、一名)
「やっほー垣根ちゃん」
「あ、ああ……」
目の前には金髪にやはり制服の少女。
西洋系、と垣根は適当に見当をつける。まあ、彼自身にとってはどうでもいいことなのだが。
「いやー今日も相変わらずカッコいいね!」
「はいはい」
「……? まあいいや。ほら、さっさと歩く!」
背中を押される形で垣根は教室へと入っていく。
そこには確かに垣根の知らない世界があった。
談笑する女子生徒。何かケンカまがいの攻撃をしあう男子生徒。
それは垣根が今まで見向きもしなかったもので、明らかに異質なものだった。
「どしたの?」
立ちつくす垣根の顔を少女が覗き込む。
綺麗な青の瞳が垣根を映した。
「いや、何でもねえ」
そう言って、垣根は一番前の自分の席に座る。
ほどなくして小萌が入ってきたため、他の生徒たちも席に着く。
「うーん……垣根ちゃんが来たかと思えば、上条ちゃんが遅刻ですかー?」
小萌の言葉にクラスは「またか」といったような雰囲気になる。
垣根はそれに加わるのも億劫なのか、頬杖をつきそっけない表情をとった。
「はいはーい。静かにしやがれですよー。プリントを配るので後ろにまわしてくださーい」
小萌が小さな手でプリントを配っていく。垣根にはこんな小さいのが教師をやっていることが一番の驚きだったが、口に出してはそこからボロが出かねない。
プリントを受け取り、後ろへ回そうとすると誰にもわからないようにメモ紙片を渡された。
それを、垣根は開いた。
メモの内容 安価↓2(アバウトでも可)
『昼食は何にしましょうか?』
メモの内容だった。
どうやら付き合っているというのは嘘でもないらしい。
「せんせーい。一枚多いです」
「そうですか、じゃあ前まで送ってください」
垣根の列の一番後ろの生徒から余ったプリントが送られてくる。
いちいち考えるのも面倒なのでそれっぽく『お前が作ったのなら何でもいい』と書きこむ。
若干、周りからの視線が気になったが無視する。
「はーい。じゃあ一時間目の準備をしててくださいねー」
ガラガラ、という音と共に小萌が教室を後にする。
教室がざわめきを取り戻すと同時に、先ほどの女生徒が歩み寄ってくる。
「相変わらずラブラブだね、垣根ちゃん」
「うるせえ。お前もちゃんつけるな」
「もー……てれ隠しはやめなって。気付いていない人なんていないんだから。我らが吹寄いいんちょーまでが黙認するレベルなんだから」
ニヤニヤとしながら首に腕を巻きつけてくる。
顔を近づけ、少女は言った。
「そ・れ・で・? 何を手紙で交換したのかな?」
「安価↓2」
「つーかよ。さっきから気になってたんだけど何でお前そんなに根掘り葉掘り聞いてくるんだ? アレか? 幼馴染みだから~みたいな?」
「な……っ」
垣根としては目の前の記憶にない人物との関係性をはっきりさせたいが為の行動だった。
だが、少女の方は違うようだ。
「違うけど……そうだったらいいな~とか妄想――――はっ! ちょっと垣根ちゃん、何言わせるの!?」
「いや、お前が勝手に言っただけだろ」
「このサローニャちゃんが出し抜かれるとは……」
サローニャ。垣根は一瞬で少女の名前を記憶する。
今後もこんな感じでいってくれるとありがたいのだが……。
「と、とにかくまだ諦めてないから!」
サローニャは謎の捨て台詞と共に席へ戻っていった。
昼休み。
垣根は約束の屋上へと向かった。
こういうシチュエーションは意外と普通なのには驚きだ。
「あ、来ましたねー。ほら、ここあいてますよ?」
ばしばしと隣を促され、ベンチに腰をかける。
座ってみるとやはり身長差があり、カップルというより兄と妹みたいだった。
「はい、これ。帝督ちゃんの好みに合わせました!」
可愛らしいピンクの弁当箱の中には唐揚げやウインナー……確かに肉類という意味では垣根の好みに一致していた。
箸を手に取り、ウインナーを口に運ぶ。
程良いぬくもりが口に広がった。どうやら味まで工夫されているようだ。
しばらく食事を進めていると、小萌が口を開く。
「どうですか? 学校には慣れましたか?」
「安価↓2」
「慣れたな確かに」
もちろん彼の言っていることは適当だ。どんな生活かもわからないのにそんな事わかるはずがない。
しかし、そんな仮初の言葉にも小萌は安堵する。
「よかったです……帝督ちゃん、最初はあまり乗り気じゃなかったですから」
「……そうだな」
やはり垣根は垣根だ。乗り気じゃなかったというか、そもそもそんな気がなかったのだろう。
その後に何があったかは知らないが。
「でも……心配ですね。やっぱり気をつけないと」
「? どうした?」
「あ、いや何でもないですよ! ほら、もう戻らないと授業に遅れますよ?」
「ああ、そうだな」
気のせいだとは思う。
でも垣根には何かが引っ掛かっていた。
初日は問題なく学校を終えられた。
気になるのは上条という生徒が学校に来なかったことくらいだが、今は気にしないことにする。
小萌も仕事が残っているらしく、放課後は時間が余る。
『スクール』がどうなってるのかも気になるが……。
家へと向かいながら、アドレス帳をチェックする。
心理定規。やはり『スクール』は存在しているようだ。
だが、問題はここからだった。
麦野沈利、食蜂操祈、木原病理、木原円周。
何やら危険なにおいのする人物が登録されていた。
(……どうなってやがる。何でこんなヤツらと関係を持っている?)
「やはり、気になるか」
声に振りかえる。
周囲から人の気配が消えている。まるで別世界に飛ばされたような感覚だった。
青白い光とともに天使が現れる。
目の前の天使は、笑いながら問いかける。
「垣根帝督。そろそろ気になっていることがあるだろう?」
「……この世界の俺は何者だ。イヤ、もっとわかりやすく今の俺とどこがどう違う?」
「安価↓2」
「この世界には暗部が無いということだ。君はそのスクールと言うボランティア団体のリーダーを務めている」
「……暗部がない?」
何がどうなっている。垣根の思考が無茶苦茶に飛んだ。
暗部がそんな簡単になくなっていいのか。というより暗部がなければ自分の居場所がない。闇とか暗いところで生きてきた自分の居場所がどこにもなくなってしまう。
「アレイスターは! 『プラン』はどうなってる!」
「それは問題なく進行している。……もっとも君のいた世界とは全く違う形でね」
確かに無数に平行されている『プラン』が残っているとするなら、これが可能性の一つということはあり得る。
同じポジションという天使の言葉はおそらく、このボランティア団体を示している。
「……それで、俺はこの世界でどうしろって言うんだ。お前は何で俺にチャンスを与えた」
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「戯れに」
天使は艶やかにほほ笑んで言う。
いいおもちゃが見つかった、と言わんばかりに。
「例えば、蟻をアクアケースに入れて飼育するのを試みている、と考えてくれ」
「……テメエ!」
垣根にはその意味が一瞬で理解できた。
飼育。自分を、第二位をそんな風にしか思わない天使。
これ以上は許せない。
三対六枚、純白の翼を顕現させ天使へ思い切り振るう。
だが。
天使は涼しげにその羽根を一瞥すると、右手で受け止めた。
「は……?」
握りつぶされた羽根は空中に霧散し、垣根は力なく地面に倒れる。
しかし、怒りだけは消えていない。
「……どうやったら俺はアクアケースを出られる」
「ほう、なかなか冷静だな。もっと怒り狂うかと思っていたが」
天使は心底意外そうに呟く。
主導権を握られているのは癪だが、ここは我慢するべきだと自分に言い聞かせる。
天使はさらりと答えた。
「安価↓2」
「このぬるま湯のような、日和らずを得ない世界で、『現在の君』の思考ルーティンとソフトを維持し続けてみたまえ。つまりは、今の君の残忍さ、冷淡さ、何者も寄せ付けぬその心を一年後まで」
「……それで終わりか?」
「まさか。人を好きになったり好きになられたら君の負けだ」
つまり今の小萌などは『前の垣根帝督』を好きなためこれには含まれない。
それにいつもどおりにふるまえば問題ないはずだ。
「簡単じゃねえか」
「そうかね……まあ頑張るといい」
天使はそう言うと、また勝手に姿を消す。
消えていた人の気配が戻り、街に活気が戻り始める。
いつもどおりに。ただそれだけで垣根はあの天使に勝利できるのだ。
垣根の口が歪んだ。
忘れようとしたものを思い出したような感覚だろうか。
とにかく垣根の勝利条件は彼にとってはこの上なく楽なものだった。
「帝督」
不意に呼びかけられて、垣根は足を止める。
後ろには見慣れた少女が立っていた。
心理定規。かつての同僚。
彼女は垣根の知る心理定規とは違う。この世界では人を殺したことなどないだろうし、暗部も存在しないのだから幸せを謳歌している。
別の人物とはいえ、同じ顔をしているだけに、無性に腹がたつ。
垣根はそっけない調子で言った。
「何しに来た」
「安価下2」
酉つけわすれた……
安価↓2
何を、とはご挨拶ね?あなたが昨日『明日スクールの"仕事"があるから全員ちゃんと来いよ』って皆に約束させたんじゃない…
なのに集合場所にはゴーグルくんに砂皿しかいないし…遅れてくるならせめて連絡ちょうだい
「何を、とはご挨拶ね? あなたが昨日『明日スクールの"仕事"があるから全員ちゃんと来いよ』って皆に約束させたんじゃない…なのに集合場所にはゴーグルくんに砂皿しかいないし…遅れてくるならせめて連絡ちょうだい」
「……、」
やはり、垣根の知るものとは根本的なところが違う。
この世界では垣根がどんな人物だったのか。気になるが、天使との賭けもある。条件を満たす方が先だった。
「ああ……そういや、そうだったな」
「……?」
垣根の動作に心理定規は首を傾げる。
目を細め垣根を凝視して言った。
「アナタ……何か昨日までと雰囲気変わってない? 何かあったの?」
「安価↓2」
何も
「…、……」
垣根は何も言わなかった。言おうとも思わなかった。
心理定規はゆっくりと歩み寄り、背伸びして顔を垣根の前まで持ってくる。
すとんと体を落とすと確信するように言った。
「やっぱりアナタ、昨日までの帝督とは違うみたいね。……顔も体も匂いも一緒なのにまるで人格だけが変わってしまったみたい」
さすがは精神系能力者というところか。
匂いに関しては垣根にはよくわからないが。
だが、目的の最短ルートを達成する。これはその布石だ。
「へえ……じゃあ昨日までの俺はどんなヤツだったんだ?」
「安価↓2」
そうね、一言で言うなら『鬱陶しい』かしら…
スクールだって、私が学校サボってるって聞いたら毎日追いかけてきて「何で来ないんだ」って煩いし。
そんで「学校行っても毎日つまらない」って言ったら、次の日に「"スクール"って面白い事やる部活作ったから入れ。そんで学校こい」って…
「苛烈で極悪でぺドフィリア、そのうえ中二病をこじらせて、毎日意味不明な発言を連発してたわよ?」
「……え?」
垣根の中の思考が止まった。いや、現実を認めまいと脳が必死に拒絶反応を起こしている。
目の前の少女に疑惑の視線を送っても、彼女は首を傾げるだけだ。嘘をついている様子はない。
(いや、騙されるな。相手は心理戦のプロ。嘘をつくだけなら俺よりもうまい。……だが仮に嘘をつくとして、何のメリットが?)
ぐるぐると垣根の頭の中が渦を巻いていく。
苛烈、極悪。とてもボランティア団体をする人間じゃない。
ぺドフィリア。人間として危ないとしか言えない。
中二病。社会的にアウトだ。
垣根は嘘、という結論を出す。間違いない。間違ってても問題はない。
ぎろり、と鋭い視線を向け心理定規を壁に押し付ける。
暗部時代の殺気を放ちながら垣根は強く問いかけた。
「……おふざけで聞いてるんじゃねえ。真面目に答えやがれ」
「安価↓2」
冗談にツッコミもいれない、返してこないとか…あなた本当にどうしちゃったわけ?
はいはい、『優しいいいやつ』。これでいい?じゃ、早く皆のとこいきましょう
「冗談に突っ込みいれない、帰してこないとか…あなた本当にどうしちゃったわけ?」
「うるせえ。いいから答えろ」
「はいはい、『優しいいいやつ』。これでいい? じゃ、早く皆のとこいきましょう」
子供をあやすように心理定規はポンポンと頭を叩き、手を引っ張る。
やはり、知る必要性はあるのか。この世界の自分について。
あるいは、それが天使の狙いかもしれない。
(上等じゃねえか……今はとことん遊んでやるよ、天使様)
たった一年。
ならば遊んでもいいじゃないかという垣根の好奇心だった。
集合場所は『スクール』のアジト。もちろん前の世界での話だが。
こういうところで共通点が出るのはやはり平行世界ということか。
「あ、遅かったスね!」
「ごめんなさい。帝督が情緒不安定で……」
「死にてえのか、お前」
軽く罵声を浴びせてからソファに腰をかける。もう一つのソファには砂皿が神妙な表情でコーヒーを啜っていた。
間取りも記憶と一緒なようで、これなら地理面での心配はなさそうだ。
「あ、垣根さん。例の資料コピーしといたッスよ」
「ああ……そうか」
おそらくは仕事の内容についてだろう。ボランティアで何をしてるのかは知らないが、とにかく事前に内容を察知できるのはありがたい。
垣根は資料に目を落とした。
資料の内容 安価↓2(アバウトな仕事内容でも可)
時事ネタで、学園都市全域でハロウィン祭り。ひいてはお菓子配りとチビッ子達への対応、仮装
内容は端的に言えば学園都市全域でのハロウィン祭りという催しをやるので、お菓子配りとチビッ子達への対応である。最後のページにはなぜか仮装もしてみよう、みたいな感じのものもあった。
(……マジで前の俺なにやってんだ。これじゃただのメルヘンじゃねえか)
自分の能力においてそういう自覚はあったものの内面までそんなになった覚えはない。
というか、学園都市がこんな催しを認めてるのにも驚きだった。イメージ戦略でもあるのか。
「はあ……仮装って私もやらなきゃダメなの?」
「当たり前ッスよ! むしろ個人的にはそれが一番楽しみっす!」
「……ああもう」
頭を抱える様子も暗部でのそれとはまるで意味が違う。これからどんな思い出ができるのか、どんな楽しい事があるのか。
考えているのはそんな希望的な思考ばかり。
垣根の胸の中でむずむずとした苛立ちが積もる。いっそ、当日を滅茶苦茶にしてやろうかとさえ思ってしまう。
「それなら第五位とか呼べばいいじゃない」
「ダメ! あの人はいつ記憶改竄してくるかわからないからダメッス!」
会話を聞いていることさえ苦痛。こんな日がくるとは思わなかった。
とんとん、とかるく足で床を叩き立ち上がる。
「……少し外に出てくる」
少し意外そうな表情をするメンバーをおいて、垣根は外に出る。
何となく空を見上げた。綺麗な青く澄んだ空だった。
今までの自分とは全てが真逆。受け入れられるはずがない。自分はここにいてはいけない。
そんな気がした。
(一人で世界でも回ってみるかな……)
学園都市を出たことのない垣根にとってはいい体験になる。一年などあっという間に終わるかもしれない。
そこまで考えると肩をたたかれる。
「ねえ、やっぱり今日変よ? 体調でも悪いの?」
何の警戒もせず話かける。
垣根の知る彼女はそんな人間ではなかった。
「……うるせえ。俺は今までの俺じゃねえ。昨日までと変わっちまったんだ」
「何それ、中二病?」
「それでも構わねえ。とにかく俺はお前らとは関わる気はねえから、じゃあな」
適当に手を振る。
逃げるように帰っていく垣根に心理定規は言った。
「ねえ、何か悩みでもあるの? 相談なら聞くけど……」
「安価↓2」
「それじゃベッドの上で話聞いてもらえるか?」
垣根は唇をゆがませて、問いかける。
心理定規は困ったように顔をそむけた。
(これで立ち去るだろ)
垣根は内心そう思っていた。
どうせ、前の自分も『気前のいいリーダー』程度にしかみられていないと思ったから。
だが。
「え、ええと……そういうのは段階があって――――でも、どうしてもって言うなら……優しくしてね?」
「……は?」
予想外の反応だった。
ちらちらと垣根を見る目はまさに恋する乙女といった表情だ。垣根にはよくわからないことだが。
背筋が凍りつく。不思議な嫌悪感が体を支配した。
そんな垣根を無視して、心理定規は口を開く。
「ね、ねえ……そのかわりちゃんと正直に話してよ?」
「安価↓2」
冗談に決まってんだろアタマポンポン
で?結局決まったのか?
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「冗談に決まってんだろ」
上目遣いをする心理定規の頭をポンポンとたたく。
かわしたというより誤魔化したという感じだった。
「で? 結局決まったのか?」
「……え?」
「ハロウィンだよ。細かいこと決めるのは性に合わねえ」
「もう……わかったわよ。こっちで決めとくからアナタはもう帰って休んだ方がいいわよ」
「そうさせてもらうわ」
今度こそ垣根はその場を立ち去った。
後ろからそれをうっとりと見つめる心理定規に気付かないまま。
「お帰りなさーい」
「……、」
家に帰ると多少見覚えのある女性がベッドで枕に顔をうずめていた。
木原病理。
垣根の記憶通りなら相当の危険人物だが、この世界ではどうなのか。
怪しまれないように垣根は慎重に動く。
「ったく……人の家に勝手に入るとか不法侵入かよ。ってかセキュリティあったろ」
「むふふ……あんなの病理ちゃんにかかればちょちょいのちょいなのです」
「ちゃんつけんな気持ち悪ぃ……」
とりあえず病理をベッドから追い出す。
今度はソファの匂いを嗅ぎ始めたのでもう放っておく。
「で、お前は何でそんなことしてんだ」
「安価↓2」
義姉が弟くんに世話になりにきただけですよー?
「私は匂いフェチですから。多分初めてあったときに言いましたよ」
「犬か、お前は」
「垣根くんの匂いを嗅ぎ放題なら犬になってもいいですよ?」
「じゃあなるな」
ソファから病理を放りだして、腰をかける。
目の前の女性は殺気とは無縁のほんわかとした雰囲気を纏っている。
(木原までこんなのかよ……マジでやりにくい)
だが、前と同じ部分もあるなら『木原』も学園都市において何か
の役割を背負っているはずだ。
場合によっては利用できるかもしれない。
「なあ……『木原』って普段なにやってんだ?」
「安価下2」
「学園都市の中の靴を作る工場を一族で運営しています」
「靴……?」
確かに意味のわからない回答は予想していたが、靴とは意外だった。
慣れてきてる垣根も大概だと思うが。
「はい、私は開発部ですね」
「ふーん」
「興味持ちました? それならアナタの『未元物質』をぜひ利用したいのですが」
垣根は再び思考に入る。
おそらくこの一族経営とやらはかなり大規模なものだろう。今後なにかに使えるかもしれない。
(……何に使うかはわからねえが)
とにかく今は目的のために誰にも好かれない環境をつくることだ。自分が誰かを好きになる可能性は絶対にないのだから。
つまり、木原病理もいつかは邪魔になるということだ。
病理を追いだし、外に出て。
垣根は吹寄なる女生徒に出会った。
垣根に面識はないが、顔は記憶しているので問題ない。
「おい、垣根! 貴様、ハロウィン祭りの準備をサボっているそうじゃないか! ならクラスを手伝う気はないのか!?」
ものすごい形相で迫るのはいいが、垣根の視線は胸にいっている。
吹寄は知ってか知らずか、その胸を強調するように前かがみになる。
「やる気はあるのか、やる気は!」
食いかかるように距離を詰める吹寄に垣根は答えた。
「安価↓2」
「おっぱい」
「ぶふ……っ!」
垣根の唐突な言葉に吹寄の呼吸が一瞬止まる。
言った本人はニヤニヤとしたままだ。
「貴様……ふざけているのか!」
「ああもう。暑苦しいんだよ、お前。そんな強調するようにぶるんぶるんさせんな。視線のやり場ねえだろうが」
プルプルと吹寄の肩がふるえる。
怒りなのか何なのか、垣根には興味もないことだが。
「いや……話をすりかえるな! 今はハロウィン祭りの準備をだな……ッ!」
「おいおい、お前こそそういう耐性ないのか? 露骨に話そらしやがって」
「安価↓2」
「き、貴様……! おちょくるのもいい加減にしろ!」
「はいはい。わかったから先に行ってろ。気が向いたら顔だす」
「……とにかく仕事はきちんとやってもらうぞ!」
スタスタと逃げるように早歩きする吹寄がいなくなるのを確認する。
垣根は大きく息を吐き出した。
(……こんな茶番をやんなきゃいけねえのか)
ハロウィン祭り前日ということで街は活気に満ちている。
垣根の長い前日はまだ終わらない。
「垣根さぁん☆ やっと見つけましたよぉ!」
食蜂操祈。学園都市第五位の超能力者。
彼女は垣根の腕に思い切り抱きつく。
「いやー彼女できたって聞いてからあんまり会えなかったですから……会いにきちゃいました☆」
「明日はお祭りだろうが」
「そんなの能力で何とでもなりますよ」
そんなことより、と食蜂は笑う。
「少し疲れてますねえ……悩みなら聞きますよ?」
「安価↓2」
「……、」
「あれぇ?」
首を傾げる食蜂を無視する。
やはり精神系において頂点に立つ能力者は格が違う。一目見ただけで垣根の変化に気付くのだから。
必死に周りを見渡し、逃げ場を捜す。
適当な女の子を発見してナンパをする。
そう判断した垣根は食蜂の拘束から逃れる。
「ちょっと垣根さぁん!」
運動神経のない食蜂から素早く動き、距離をとる。
活気のある街の人ごみにまぎれながら垣根は目的を遂行する。
「すいません、少しよろしいですか?」
垣根のナンパした人物 安価↓2(禁書女性キャラ一名)
「む……」
声をかけたのはドレスを着た絵本の中にいるような女性。
サンドリヨン。
垣根は祭りの仮装か何かと判断したが、これは立派な術式構成のための衣装だ。
「私になにか用か?」
「綺麗だと思ったから声をかけただけですよ」
「ナンパというやつか? ふむ、やはり学園都市はよくわからんな」
ドレスを着こんだ少女は首を傾げる。
とんでもない猫かぶりをしている垣根には気付かない。というより当然の対応なのか。
「ここはお祭りの前日で人が多い。落ち着いた場所でお茶でもしませんか?」
「安価↓2」
「え…王子様?」
「……、」
確実におかしな勘違いをされている気がする。
しかし、今更引き下がることもできない。
「ハハハ……そう呼びたいならお好きにどうぞ。エスコートしますから」
「はい、喜んで…」
洗脳されたように手を差し出すサンドリヨン。
その手を優しく掴み、垣根は歩を進める。
一瞬。
第五位の視線が妖しくぎらついた。
場所移って喫茶店。
少し静かで落ち着いた雰囲気を漂わせる大人向けの店だった。
目の前では童話のお姫様のような女性が照れくさそうに垣根を見つめていた。
「学園都市には外部から来たんですか」
「はい……その、ハロウィン祭りというのに興味があって」
「なるほど、そのドレスよく似合ってますよ」
「////」
垣根も当然、女性経験はある。
遊びでナンパしたこともあるし、暗部の仕事としても経験済みだ。
だが、こんなに簡単である意味面倒なのは初めてだった。
コンマ判定↓1
偶数 デート続行
奇数 修羅場突入
ゾロ目で修羅場のランクが上昇
「垣根さぁん、何やってるんですか……?」
微妙な雰囲気を醸し出す席に彼女は問答無用で割り込んでくる。
食蜂操祈。
彼女は垣根の横に座ると、サンドリヨンを鋭くにらむ。
「この人はぁ、私のモノなんであまりちょっかい出さないでくれます?」
「何を言って……ッ!」
サンドリヨンが殺気を感じて言葉を止める。
わずかに下に視線を向けると、桃色の髪をした少女が俯き、佇んでいた。
月詠小萌。正真正銘、垣根帝督の恋人。
垣根さえも背筋が凍りつく程の殺気を漂わせながら、彼女は顔を上げる。
「人のモノに手を出すなんて最低なのですよ? ほら、帝督ちゃんもこっちに来るのですよー」
「ッ!!?」
正体不明の殺気。何もわからないというのはある意味、一番怖かった。
第一位ですらここまでの脅威は感じない。
目の前にはただ、未知が広がっている。
三人は思い思いに口を開く。
「帝督ちゃん。浮気はダメなのですよー?」
「垣根さぁん……新手のプレイですか?」
「王子様……これは一体?」
人生最大のパニックに陥りながらも垣根は答えた。
「安価↓2」
「その、普通に『誰かと仲良くなりたい』って思っただけなんだ…」
シュンと落ちこんでみせる。
もちろん演技だ。第五位がいる以上、バレることも覚悟の上だった。
しかし。
「えと……その、私はですね、節度をもって異性と関わりましょうと話してですね」
「だ、大丈夫ですよぉ。垣根さんは充分中いいですから」
(……あれ?)
垣根は内心首を傾げる。
小萌はともかく食蜂までもが慌てふためく。
「お、王子様……私はもうアナタの虜です」
吐き気のしそうな言葉を聞きながら、垣根は思う。
おかしい、と。なにかがずれてる。
平行世界とかそういうものではない。人間としてのなにかが根本的におかしい。
「……何だ、どうなってやがる!?」
垣根はいいようのない感覚に支配されて店から走り去る。
しばらく走って、気がつくと自宅にいた。
「あら、どうしたの? 帝督」
そこにいたのは心理定規。
垣根は息を荒らげながら答えた。
「安価↓2」
「俺は初対面の女を惚れさせる程のイケメンか? 常識が通用しない質問で悪いな」
垣根自身も自分の質問の意味がよくわかっていなかった。
しかしそんな質問に心理定規はサラリと答える。
「ええ、見た目はかなりいいと思うわ。その顔なら大抵の女は好印象持つでしょうね」
「ああ、そうか……」
垣根は空を見上げる。
これもまた世界の違うことによる影響なのか。とにかく、垣根は今後女性関係は慎重にならなければいけないことになった。
「ねえ」
「あ?」
唐突に心理定規が笑うので視線を戻す。
そして、一歩後ずさった。
心理定規の表情はさっきの三人と何も変わらないものだったから。
「それを自覚してるのに、どうしてナンパなんてするの? そういう事されると腹立つんだけど。アナタに一番近い女としては……」
ゆらりと心理定規が近づいてくる。
首筋をつたう汗に嫌悪感を覚えながら、垣根は言葉を発する。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
「他の男に自慢したかったんだ、ナンパしても成功するっていう武勇伝を」
「冗談でしょ」
心理定規は呆気なく否定した。
その目はドロドロと渦巻いている。
「アナタは昔からそうだった。すぐ女に手を出して……あのロリババアだってその結果みたいなものでしょ。全く昔からアナタは加減ってものを……」
説教続くこと数十分。
ようやく解放された垣根は自室のベッドに座り込む。
何が起こっているのかわからなかった。理解したいとも思わない。
「フフ、だから言ったじゃないか。面白いテイストだと」
目の前には再び天使。
垣根の怒りが爆発した。
「テメエ……俺をこんな場所に送ってどうしてえんだ! アイツらは何なんだ!?」
「君の知識とさしたる差はないよ。強いて言うなら君に対して、相当の愛と執着心を持っていることくらいか」
「その女を俺にぶつけてどうしてえんだ、お前」
「安価↓2」
吹寄は男みたいな喋り方じゃないぞ、普通に女口調
「つまり貴様が遅刻したから皆のやる気がなくなったのね?」
「何で訝しげなのよ。別にこの歳で肩こりになってたって良いじゃない!」
「……言っておくけど、今日のあたしはフロントホックよ」
これ、何気に難易度高すぎね?
というか、すでにサンドリヨンが好意を抱いてないか?
誰かが帝督の事を好きになったらアウトじゃなかったっけ?
>>106
申し訳ありません。今後気をつけます
>>107
難易度はそこまで高くならないようにします。バッドエンドはあるかと思いますが。
>>108
そこはしっかりと描写させてもらいます
それでは開始
「このままいくと彼女らは君を求めるばかりに互い傷つけることになるが君が彼女らを傷つけさせることなく一年間過ごせるか見てみたくてね」
「……、」
つまりは最初の敗北条件はなんなのか。
いや、これは間違いなく生きているはずだ。
しかし。
「俺はすでにドレス女に好意持たれてんじゃねえか?」
「君は少々自意識過剰なところがあるな。彼女は段階的に言えばもうひと押しといったところか。それに前の垣根帝督の色がこの世界には多く残っている。まあ一週間もすれば完全に定着するのだろうが……」
天使はそう言ってほほ笑んだ。
垣根は警戒しつつも考える。
傷つけないように好意を抱かせない。これはかなり難しいことなはずだ。
それを天使はやれと言う。天使の真意などどうでもいいが、このままやられっぱなしも確かに癪だ。
最後に垣根は問いかけた。
「この世界の俺はどういうヤツだ。それによって対応も変わる」
「安価下2」
「典型的なマンガの主人公の無愛想でダルそうな男なのになぜかモテる感じだな」
「……なんだそりゃ」
「ふむ、人間にはこういう表現で通じるかと思ったが君の場合はそうでもないらしい」
天使は人差し指を唇にあてる。
女性のような動作に嫌悪感を覚えながらも垣根は会話を続けた。
「まあ、前の俺がどういうヤツかイメージはついた。……ただ、今回のゲームは一つ納得いかねえ」
「ほう、何がだね?」
「ゲームなら勝利特典と敗北の罰則ってのがつきものだ。それを決めてもらう」
「つまり賭けと言う訳か」
「ああ、俺が勝った場合と俺の負けた場合の二つきっちり用意させてもらう」
「それは面白い……その賭けに同意しよう」
垣根の勝利した場合の特典 安価↓2
垣根が敗北した場合の罰則 安価↓4
≪さすがに処理しきれん……安価上を採用します≫
「そうだな、君が勝利したならば未来と過去を見せよう」
「……?」
怪訝な顔をした垣根に天使は補足した。
「この世界の過去。君の元いた世界の未来、ということかな?」
「なるほどな。それで負けた場合は?」
「君を第一位の家族にする」
「!?」
垣根の表情が驚きにそまる。
この上ない屈辱。それを天使は淡々と告げる。
「もちろん第一位に君を殺したという記憶などない。ただ君を家族として愛するだろう。君は死ぬまで第一位と家族として生きていくのだ」
「……ふざけやがって」
「なに。敗北するのが悪くて勝利するのが良いことというのは人の先入観だよ」
天使はそう嘯く。
垣根はそれを殺気だててそれを見ていた。
天使が消えて三十分程がたって。
小萌が垣根のマンションを訪れていた。
「帝督ちゃーん。さっきは申し訳なかったのですよ。クッキー焼いてきたので入れて欲しいのです」
「安価↓2」
「鍵は開いてるから勝手に入れ、俺は寝る」
『ええ!? それはあんまりなのですよ!』
その声と同時に呼び出し状態を切る。
垣根は言った通りにベッドに横になった。
がちゃり、という音と共に小萌が入ってくる。
「むー……本当に寝てるのですかー?」
小さな手で垣根の体をゆする。
しかし背を向けたまま垣根は寝たふりを押し通す。
小萌はクッキーをいれた袋をテーブルに置くと、垣根の体にしがみついた。
「先生が悪かったですから、機嫌を直して欲しいのです。……帝督ちゃんがいないと生きていけないのですよ……」
垣根のジャケットの裾を強く握りしめる。顔を背中にうずめた小萌の体は震えていた。
垣根は不思議な感覚とゲームのことを考えながらもゆっくりと口を開いた。
「安価↓2」
「俺の靴を舐めろ。話はそれからだ」
ベッドから降り、小萌に足を差し出す。
性的嗜好などではなく、単純に小萌を自分から突き放すだけのもの。
だが。
「……わかったのです」
小萌は地面に膝をつけると、舌を垣根の靴へと伸ばす。
小萌が靴から舌を放すとわずかに濡れていた。本当に舐めたようだ。
(コイツ……冗談だろ)
しかし小萌は躊躇なく靴を舐め続ける。
最後には靴にむしゃぶりつきだした。
「おい……おい、やめろ!」
なにか危険な気配を感じた垣根は靴から小萌の顔を手で放す。
蹴らなかったのは堅気には手を出さないという彼なりのルールがあるからか。
「帝督ちゃん……許してくれるのですか?」
「安価↓2」
(でもちょっと興奮したな、もう少しやってみよう)
垣根の中にぞわぞわとしたなにかが生まれ始める。
それは暗部時代に人を殺してきた時のものとは違うものだった。
垣根はそれを抑えることもせず、吐き出す。
「次はコレをつけて俺と外出するんだ」
垣根はペットの首輪を差し出す。
なぜあるのかは不明だが、前の垣根が残していたのだろう。
彼の嗜虐的な行動に小萌は逆らわない。
「……わかったのです」
外に出る。街の視線は一人の幼女に注がれていた。
小萌は顔を真っ赤にしながら、
「うう……帝督ちゃん。いつまでやればいいのですか?」
「俺が満足するまでだな」
口角をつり上げながら垣根は答える。
ペットと主従。元々、高圧的な性格の為かその征服感は垣根に不思議な興奮を与えていた。
視線は依然として小萌に集まる。首輪から伸びる鎖を握りしめている垣根を恐れてか、より多くの視線が小萌に向けられるのだ。
そして、それだけ注目されれば声をかける人間も出てくる。
垣根と小萌に声をかけた人物 安価↓2(禁書キャラ一名)
「ぶっふ、アンタら何やってんの? ハロウィン祭りの前日に」
声をかけたのはチャイニーズドレスを着た女性らしいラインを持つ女性だった。
番外個体。
『妹達』と違って垣根も一度、資料を見た程度の知識しかないが第三位のクローンである。
(イヤ……ここじゃあ、そんな常識は通用しねえか)
それを常識としている時点で垣根もずれているのだろうが。
だが、これはこれで面白い。垣根の気持ちはさらに昂ぶった。
「見りゃわかるだろ?」
「公開プレイってやつ? ミカサいくらなんでもそこまで鬼畜にはなれないや」
「まあ、そうだろうな」
ニヤリと笑い、小萌の耳に口を近づける。
「せっかく声をかけてくれたんだ。この人にどんな気持ちかいってやれよ、小萌」
「安価↓2」
「は、恥ずかしいのです」
小萌は顔をうつむけながら言う。
垣根はそれを逃すことなく、髪を引っ張り顔を上げさせる。
抵抗することなく彼女は言う。
「でも先生がいけないのです。そい、あんなことをしてしまった先生が」
「……だ、そうだ」
「あひゃひゃひゃひゃ! アンタら面白すぎんだろ! 何ソレ!? 超SMじゃん!!」
腹を抱えて笑う番外個体。
垣根はさらに小萌へたたみかける。
「どうだ? お前もやるか? もちろん制限はかけるけどな。俺もハードすぎるのは好みじゃねえ」
「へ? ミカサがいじめていいってこと?」
「ある程度なら好きにしていいぞ?」
「帝督ちゃん!?」
驚き目をむく小萌に垣根は顔を近づける。
髪をくしゃりと握りながら言った。
「今のお前に自由はねえよ。大人しくいじめられてろ。そのうち気持ちよくなってくるかもしれねえじゃねえか」
「そ、そんな……」
今にも泣き出しそうな小萌の行動を押さえつけ、垣根は番外個体へ視線を向ける。
彼女の目は獲物を見つけた獣のように輝いていた。
「で? どうするか決まったか?」
「安価↓2」
「垣根を押し倒せ」
番外個体の命令に小萌は茫然とした。
垣根は自分の名前を知っていることに違和感を覚えたが。
「何で名前知ってんだ?」
「第二位だろ? 知らない方が珍しいというか何というか」
垣根は軽く肩をすくめて近くの公園のベンチに腰をかけた。
皮肉な口調で彼は小萌を挑発する。
「ほら、どうした? 今なら抵抗もしねえぞ、俺は」
「うう……」
絶対に逆らえないという圧力を感じる。抵抗できる気がしない。
小萌が自分の軽い体重を垣根にかけると、それに従いベンチに背を預ける。
「おい、これにはどういう意図があるんだ?」
立ってそれをニヤニヤと見つめる番外個体に垣根は問いかける。
その問いかけに彼女は笑って答える。
「いや、これなら二度おいしいじゃん? 上手くいけばアンタも私の奴隷になってくれるかと」
「ふーん……」
「でも今の私にアンタをこき使う権限はないからね。どうされても命令で抑えられない訳だ」
遠回しな表現だった。
つまり『小萌が垣根になにをされても干渉しない』ということ。
小萌は恐怖に耐えるように垣根の胸に顔をうずめる。
とどめをさすように垣根は行動に移った。
垣根目線でどうする? 安価↓2
「邪魔なんだよ」
垣根は小萌を地面に放り投げる。
その衝撃に肺から酸素を吐き出され苦しそうにうめく小萌の頭を踏みつけた。
「あ、痛い! 帝督ちゃん……ひどいのです」
「うるせえよ、テメエなんかこれで充分だろうが」
「うっわー……ミカサも敵わないくらいの鬼畜だねー」
番外個体の顔を見る。互いに視線があい、笑ってしまう。
もう、周りに人はいない。三人の雰囲気についていける者がいないという証拠だった。
それだけによりエスカレートしていく。
徐々に頭を踏みつける力が強くなり、小萌の小さな頭がつぶれてしまうのではという程地面に押し込まれる。
しかし垣根も力加減はわかっている。そのつぶれる寸前で強めるのをやめていた。
小萌は泣きじゃくりながらも懸命に言葉を発する。最後の抵抗とでも言わんばかりに。
「どうしてですか……ッ、ひっぐ、んぐ……いくらなんでも、恋人にする仕打ちじゃないのですよ……」
ニヤニヤと垣根の口を見つめる番外個体を傍目に垣根は答えた。
「安価↓2」
「俺は大切な人の泣き顔を見るのがたまらなく好きなんだ。嫌ならやめるけどね、すまなかった」
地面に倒れ込む小萌に優しく手を差し出す。
小萌はそれをうるうるとした瞳で見つめると、受け取った。
立ち上がり服の埃を払ってから答える。
「その……痛すぎるのはイヤですけど、節度と場所を守るなら……いいのですよ?」
「そうか……」
垣根は優しく頷く。
小萌は心底安心し、少年の体に抱きついた。
小萌と別れた後。
未だに残っていた番外個体がニヤニヤと近寄ってきた。
「いやー迫真の演技だったね。ちょっと異常な性癖をコンプレックスにするイケメン……確かに状況によっちゃミカサも堕ちちゃうかも」
「……何の話だ?」
とぼけるように答える垣根の肩に腕をまわし、強く拘束する。
そして、小さな声で言った。
「本当は大切でも何でもないんでしょ……? 元々捨てる予定だったけど玩具になりそうだから『保管』しておくつもりなの?」
「安価↓2」
「俺ってそんなに悪党だったか?」
垣根は他人事のように答える。
だが彼はそこに留まらない。
それとも、と言葉を続ける。
「…お前が俺にめちゃめちゃにされたい…とか?」
番外個体のドレスの上からでもわかるほど女性らしい体に自分の手を這わせる。
そこそこ慣れているのか番外個体はその程度では動揺しなかった。
(……そこらの女よりは手ごわいな。ま、それはそれで堕としがいあるのかもしれねえけど)
微妙な駆け引きが視線だけで行われる。
その間、両者は一瞬たりとも目をそむけなかった。
コンマ範囲判定 ↓1~↓5
ゾロ目あり 番外個体承諾
ゾロ目なし 番外個体拒否
「……別にいいけど?」
「マジで?」
「うん」
あっさりと承諾した番外個体。
さすがに垣根も意外そうな表情を見せる。
目の前の女はそれほど単純な女なのか。
(……他の女は前の垣根帝督に異常な愛。つまり、いくら暗部がないとは言っても人の心がまっ白になった訳じゃあねえんだ。つまり……)
相手はネットワークの悪意を抽出したような存在だったはずだ。
この世界でもそれに近い何かを持っている可能性はある。
「……何が狙いだ。信用ならねえ」
「安価↓2」
「だったら確かめてみればいいじゃない、身体でさ」
番外個体は誘うように言う。
体を垣根に摺り寄せ、挑発さえし始める。
これ以上、好きにさせれば増長しかねない。
「上等じゃねえか……少しばっかり遊んでやるよ、クソビッチ」
「ハハ、アンタやっぱ根っこからサディストみたいだね。そういうクソ野郎ミカサ嫌いじゃないよ」
場所移って垣根の自宅。
最初は適当なホテルとも考えたが、学生という社会的地位を考えると後で面倒くさくなりそうなので自宅を選んだ。
それはそれでデメリットがあるかもしれないが。
垣根はシャワーから上がり体をふく番外個体から何となく視線をそらした。
彼女はそれを敏感に察知する。
「なにー? まさかここまで来て未経験でしたとか言うつもり?」
「安価↓2」
「中に入れたことはないだけだ」
垣根はふてくされるように顔をそむける。
番外個体はニヤリと笑うと言った。
「そういうのを『童貞』って言うんだよ、バ―カ」
「うるせえな。それに俺は女をイカせて虜にすることには自信がある」
「ぷっ……何それ」
番外個体は軽くふきだすと、ベッドに寝転がる。
阿吽の呼吸で垣根もその上に覆いかぶさった。
「じゃあ自慢のテクニックとやらを見せてもらおうかな」
「何言ってんだよ、ビッチが」
軽く皮肉を言い合い口をつける。
お互いに主導権を握るという目的があるからか、最初から不思議な激しさがあった。
「ぷはっ……思ったよりはキス上手いね」
「だから言ったろうが、すぐにヨガらせてやるよ」
ドレスを乱暴に脱がし、放り投げる。
あらわになった黒の下着に目を細めながら下着のホックを慣れた手つきで外す。
パチリ、という音とほぼ同時のタイミングで直に触れた。
「は、んん……」
我慢できなくもない声を彼女は我慢しなかった。下手に我慢するよりはそちらの方が優位を示せるという判断をしたからだろう。
垣根はその余裕を見透かした上で、胸の中心へと指を集中させ口に含んだ。
ほんの一瞬、体が反応したのを見逃さず舌の動きを一気に速めた。
「ひ……あんん!」
「どうした? 声大きくなってるぞ?」
「うるさい……いいからさっさと続きやれ」
「はいはい」
適当に答えながら垣根は手を下へとずらす。
そこにふれると、すでに下着まで湿っていた。
ニヤリと垣根が優越感の笑みを見せると、番外個体は恥ずかしそうに目をそらす。
「こんだけ濡れてりゃ問題無いな」
湿った下着の中へと手を入れる。
番外個体は身体の中に生まれる唐突な快感に悶えた。
「ああ……やばいって、それ……! イっちゃう!」
「さっさと楽になれよ、クソビッチ」
罵られて興奮したのか。
番外個体は一気に絶頂へと達した。
「はあ……はあ……」
番外個体は息を落ち着かせ、一時の休息をとる。
垣根は自身の勝利のようなものを確信して笑った。
「で? どうだった? なかなかだろ?」
「フン……ミカサを舐めるなよ」
番外個体は身体をくるりと反転させると垣根との上下を真逆にした。
その目は情欲的な光を帯びている。
「入れたことないんでしょ? ミカサが動いてあげるよ」
問答無用で服を脱がせる。
垣根の引き締まった体を見て、ミカサは笑みを深める。
「いいね、ミカサ好みの体してんじゃん。下もまあまあ立派だし」
ズボンの上からじらすように触りながら垣根を見る。
彼の表情もまた、完全に男のソレだった。
お互いに一瞬目を合わせ、
番外個体は自身の中へ一気に挿入した。
「ひ、ああん……どう? 初めての御感想は」
「いいから動けよ。エスコートしてくれんだろ?」
「生意気言うとはね……」
一度舌舐めずりをして、番外個体は上下運動を始める。
静かな部屋には二人の男女の息だけがかすかに漏れ続ける。
それが二人をより興奮させていく。
「なーんかビクビクしてきたけど……ん、はあはあ……出そう?」
「お前こそ……我慢できねえだろ?」
口を合わせ、互いに絡み合う。
息が当たる程に近づき見つめあいながらもベッドの軋みは激しさを増していく。
どちらも悦楽に浸りながらも相手を負かすということは忘れない。
垣根は身体を無理矢理ねじり、上に戻った。
「出すぞ……このまま中に!」
「うん、いいよ。私の中にアンタの全部ぶちまけなよ……ッ」
番外個体の首元に顔をうずめる。
それを彼女は優しく押さえつけた。
お互いに達する声はなかった。しかし、それは確かに感じられた。
「うわあ……どくどくしてる」
「お前、こそひくひくしてんぞ……」
日が昇り、朝になる。
体に重くのしかかる倦怠感を振り払い垣根はベッドから体を起こした。
隣では番外個体がベッドに横たわったまま変わらずにニヤニヤと見つめる。
「……なんだ?」
「初めてだったんだろ? 喪失した感想くらいくれてもいいんじゃない?」
「安価↓2」
すごい気持ちよかったよ……。頭真っ白になっちゃった!ありがとうね御主人っ!
≪>>167 垣根君安価のつもりだったが……文章力無くて伝わりませんでしたね、申し訳ありません。採用します。質問したのは垣根くんということで脳内保管お願いします≫
「すごい気持ちよかったよ……。頭真っ白になっちゃった! ありがとうね御主人!」
「はあ?」
またか、と垣根は内心頭を抱える。
いつかのドレス女といい、自分はこの世界でなにかの才能に目覚めたのかと疑いたくなる。
天使との賭けがあるので、これが恋愛に発展しないようにしなければならない。
「……そういや、お前って初めてじゃなかったな。彼氏でもいたのか?」
「安価↓2」
「いや、いないよ?」
番外個体はわざとらしく答える。
あまりにも狙っているような返答に垣根も問いただす事はしない。
(第一位に無理矢理、なんて言える訳ないよね)
あれは何もなかった。あるのはただの虚無感。そんなので番外個体が満足できるはずもない。
軽く首を鳴らし、垣根は立ち上がる。
「そういや今日はハロウィン祭りだったか? 面倒だな……」
憂鬱そうに呟く。
昨日の今日だけに余計にだるく感じられる。
そこでインターフォンが鳴った。
垣根を呼びに来た人物 安価↓2(禁書キャラ、一名)
『あ、あの王子様……ハロウィン祭りに誘おうかと思いまして』
尋ねてきたのはサンドリヨンだった。
ある意味では目下の要注意人物。彼女のせいで垣根がゲームに負けるかもしれないのだ。
「あー……下いくから待ってろ」
『は、はい!』
丁度、後ろには番外個体がいる。
女性が来た。二人で下に降りる。それだけで彼女は全てを理解した。
下に降りると、案の定サンドリヨンは慌てふためく。
朝から垣根が女性と一緒に降りてくる。当然、同棲しているように見えるだろう。
「あの、そちらの女性は……?」
「安価↓2」
「俺の下僕だ」
「ちょっと////」
「いいじゃねえか。事実だろ?」
「そうかもしれないけど……」
少し余裕のある笑みをサンドリヨンに見せる。
番外個体の表情にサンドリヨンの肩が震え始めた。
だが、このままいけば他の女のように執着される恐れがある。それでは意味がない。
もうひと押しする必要があった。
(だ、大丈夫……あっちは下僕。私はお姫様だ)
自分にそう暗示をかける。
サンドリヨンとしてはここでぱっと出の女には負けたくないのだ。一目見てそう思ってしまったのだから仕方ない。
必死に彼女は言葉をつなげる。
「あ、あのよかったら一緒にお祭り回りませんか?」
垣根は少々悩んで、それに答えた。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
「済まないが今日はそんな気分じゃない」
「そ、そうですか……朝早くから申し訳ありませんでした」
ペコリと丁寧に一礼しサンドリヨンはさびしげな背中を見せて去っていく。
番外個体はそれをニヤニヤと見つめた。
「よかったの?」
「ああ? 俺がいいって言ったらいいんだよ。わかってるだろ?」
「はあ……まあ強引なのはミカサも嫌いじゃないけどさ」
「じゃあ、いいじゃねえか」
街はハロウィン祭りということで昨日以上の活気があった。
出店は街一杯に広がり、学生は思い思いに広がっている。
(やっぱこういうのは俺に合わねえな……)
場違い感を味わいながらも辺りを見回す。
番外個体は面白そうにきょろきょろと周りを見ているので何か買ってやるべきなのか。
そう思っていると、
「て、帝督ちゃーん! 見つけたのですよ。ちゃんとクラスのお仕事はやってもらいます……」
明るい表情が徐々に暗くなる。昨日の事を思い出すと体が震えてくる。
おそるおそる番外個体をうかがう小萌は勇気を振り絞る。
「て、帝督ちゃんは私の恋人であり生徒なのです。ここは譲ってもらいます!」
強く言い放つ小萌に番外個体が垣根より速く答えた。
「安価↓2」
ミサカが全部ミカサになってるのはアレか、この世界じゃあ番外個体は兵士100人と等価の残念な言語力なのか
「小学生はお家に帰りましょうね」
番外個体は小萌の髪を乱暴にかき乱す。
しかし、小萌は小さな手でそれを振り払うと強く言った。
「た、確かに先生は小学生みたいなのです。でもそんな事、今は関係ないのですよ! 帝督ちゃんは大事な生徒です。ほら、帝督ちゃん行きますよ!!」
垣根の手をつかみ強引に連れて行く。
それに抵抗する様子もなく、従った。
「ちょっと、ミサカはどうすんの!?」
「あー後で何か買ってやるから」
叫ぶ番外個体をおいて、垣根は小萌についていく。
集まるとクラスは既に準備に取り掛かっていた。
何の店をやるのかはわからないが、何もしないというのもそれはそれで居心地が悪い。
とりあえず、サローニャに声をかけた。
「お、垣根ちゃん。早く手伝ってよ」
「あー……俺らのクラスって何やんだっけ?」
「安価下2」
「模擬店だよ、確か和風喫茶だって」
「ふーん……」
辺りを見れば確かにのれんやらの和風の内装が見て取れる。
開店が近いためか調理係と装飾係に分かれ、クラスも騒がしくなってきた。
天井にのれんを取り付けながら、サローニャは笑う。
「ねえねえ、垣根ちゃん」
「あ? 何だよ」
「先生と何かあった? 来る時も引きずられてたし」
取り付けたのれんを確認し、サローニャはイスから降りる。
垣根の前まできた彼女は誰にも聞こえないような声で言った。
「ほら、誰にも言わないからさ。サローニャちゃんに話しちゃいな?」
「安価↓2」
「何て言うか私をいじめて欲しいみたいなこと言われたんだよ」
「へぇ……あの先生がねー」
そう言ってサローニャは小萌をチラリと見る。
小萌はいつもの何一つ変わらない笑顔でクラスに溶け込んでいる。
そんな絵に描いたような教師が裏では自身の性癖を恋人とはいえ生徒である男にぶつけている。
(……案外、付け入る隙ってのはありそうだねー)
一瞬だけ黒く笑う。
それをすぐに引っ込めて垣根の方を向いた。
「わかった、これは私だけの秘密にしておくね?」
「ああ……」
「もう。そんな暗い顔しないの! ほら、さっさと終わらせよ?」
作業が終わり、店を接待係に引き継いだ。
自由時間を手に入れた垣根は何の当てもなく外に出る。
(さーて、どうすっかな……)
ガシガシと粗雑に頭を掻く。
辺りを見回すと、見慣れた少女がいた。
心理定規。
(どうやらこっちの俺は友人関係には暇しねえらしいな)
若干辟易してしまう程の交友関係。今までなら考えもしなかっただろう。
そんな事を考えつつ、垣根は口を開く。
「何しにきやがった。まさかお前もお店やるんで手伝ってください、とかじゃねえだろうな」
「安価↓2」
「私は劇をやるのシンデレラのね、それで王子様を演じるからあなたにアドバイスもらおうと思ってきただけよ」
「……ちょっと待て。何で女のお前が王子様なんだよ。普通お姫様だろ?」
「ええ、でもうちの学校女子しかいないし……」
つまりは女子校。
垣根の中でイヤな予感が広がる。
「ねえ、アンタは馬鹿みたいに女堕とすから何かアドバイスくらいあるでしょ? 他の男じゃあまり頼りないの」
「イヤ……少しカッコつけるくらいでいいんじゃねえの? 俺だって王子様の気持ちなんかわからねえよ」
「そう、とにかくカッコつけようかしら」
適当に言って、垣根の手を握る。
怪訝な顔をする垣根に心理定規は言った。
「せっかくだし見ていきなさいよ。うちの学校、今日は一部開放してるから」
常盤台。
学園都市屈指の名門に心理定規は入籍していた。
記憶では学校には行っていないと思ったが、暗部がないとこうなるらしい。
(しっかし暇だなあ……)
目の前ではシンデレラの劇が流れ続けている。
心理定規は物々しい衣装で凛々しく演技しているつもりなのだろうが、垣根からすれば子供のお遊びにしか見えない。
瞼が重くなってきた時、背中を柔らかい感触が包んだ。
「垣根さぁん……驚きました?」
「……普通に声かけろ、食蜂。俺はてっきりお前がお姫様かと思ったがな」
「私は『常盤台の女王』ですよぉ? ……それに私の王子様はあんな女じゃないしぃ」
「そうかよ」
どういう事かは何となくわかるが、食蜂もまた敵になる一人だ。
心を許す訳にはいかない。
警戒を強めていると、食蜂が体重をかけてくる。
暗闇の為か、彼女が能力で認識をさせていないのかわからないが周りの客が気付く様子もない。
「垣根さぁん……朝一緒にいた茶髪の女は誰ですかぁ? 私の情報力を舐めないでくださぁい」
とろんとした猫撫で声で垣根の耳元へ囁く。
それに惑わされぬよう、垣根は冷静に答えた。
「安価↓2」
「何でお前みたいな性格ブスに言わなきゃならんの?」
「な……ッ」
後ろから抱きつく力が強まる。
周りは劇が正念場を迎えている為か、二人には見向きもしない。
今は二人だけの世界。食蜂なりの勝算もあった。
ここで垣根の心を一気に自分に向けさせたい。
「……いいですよぉ? そこまで言うなら私にだって言いたい事はあるんですから」
どこか余裕を保った声。
垣根は一抹の不安を覚える。
「垣根さん、変わりましたよね。今までは何だかんだ言ってもあの教師を一番大事にしてたのに……会ったばかりの女に手を出したみたり。でも私の改竄力が効かないってことは目の前にいるアナタは間違いなく本物ってこと……まるで中身だけ別人になったみたい」
「……で、そうだとしたらどうした?」
「別にぃ……でも今のアナタはほぼ間違いなく私の知る垣根さんじゃないですし? もし、そうなら別の選択肢もあるってことですよぉ。例えば……別れて私と付き合うとか」
誘惑する悪魔の言葉を聞きながら垣根は考える。
食蜂と付き合うかは別として、別れるというのはありだ。正直、近過ぎても邪魔になる気しかしない。
垣根はゆっくりと口を開いた。
「安価↓2」
≪安価↓でいきます≫
「お前は犬とでもちちくりあってろ」
「酷いですよぉ……」
食蜂はまだ垣根の背中から離れない。まだ勝算があるのか。
能力が効かなくとも、素の心理戦において垣根は食蜂には勝てないだろう。
いざとなれば力に任せる。そう判断しながらも思う。
食蜂はこの思考すら見透かしているのではないか? と。
現に後ろの少女はまだ笑みを崩さない。
「……でも、垣根さんってS力ですよねぇ。あの女の記憶見てもすごい絶倫じゃないですかぁ? だったら……」
垣根の首にまわされていた手が体を這う。
ぞわり、としたなにかが垣根の背中を駆け抜けた。
「私のこともそうしたいと思いません? 女王のソレなんて高くつくと思いますけどぉ?」
「さっき言ったこと聞いてなかったのか?」
「だからぁ……私と犬を絡ませるより、私をアナタの犬にする方が楽しいんじゃないかと思いましてぇ」
「安価↓2」
≪安価↓統一します≫
「ウゼェなー、そんなにしつけて欲しいのかよ」
「……個人的には興味力ありまくりですけどぉ?」
甘ったるい声に垣根の中からムラムラとしたものがわき上がる。
番外個体との行為を思いだしているだけではない。食蜂が自分に伝えている体の感触がそれをさらに強めている。
「……、」
時間が、止まる。
暗い空間に二人閉じ込められたような感覚。
垣根の唇が歪んだ直後だった。
ビー、と劇の終了を告げるブザー音が鳴り響いた。
現実に引き戻された垣根は食蜂の手を払いのけると乱暴に席を立った。
「……悪いが今は気分じゃねえ。すっこんでろ」
「……フフ」
少女の意味深な笑い声だけが場に残った。
「危なかったわね」
心理定規が垣根の元へ歩みよってくる。
着ている服は劇の衣装ではなく、いつものドレスだった。
「ねえ、どうだったかしら。私の演技」
「安価↓」
≪……と思ったら人いましたね。↓2でもう一回≫
「よっかったんじゃねえ? うどんをうまそうにすするあたりとか特に」
「……そんな場面あったかしら」
心理定規は首を傾げて笑う。
垣根が何かを言うのを待っているかのようだ。
「……どうした?」
「別に? ただ私は劇中で一度もうどんなんかすすってないってだけ。普段ならアナタ得意の冗談で済むけど……」
眉をひそめる垣根に心理定規は告げた。
「第五位にちょっかいだされて劇どころじゃなかったんでしょ? ……ま、仕方ないわね」
そう言って優しく彼女はほほ笑んだ。
一歩、前へ出て垣根の手を握る。
「で? 何されたの? 正直心配なんだけど」
「安価↓2」
死ぬほどどうでもいいけど『シンデレラにんなシーンねーよ!ロクに見てなかっただろ?!』的なツッコミ待ちだった
安価↓
≪>>212 一瞬頭よぎりましたが精神系能力者は理知的にいくのかな、と……≫
「なに、大したこたぁねぇよ。ちょいとやんちゃしただけだ」
「ふぅん……じゃあ、朝一緒にいた女もやんちゃなの?」
「……何のことだ?」
あくまでとぼけようとする垣根に心理定規は目を細める。
そして、笑った。
「私ね。読唇術ができるの。……ここまで言えばわかる?」
また、一歩追い詰められる。
二人の精神系能力者が垣根の内側へと迫っていく。
「……第五位はアナタの中身だけが変わったって言ってたけど、それは私も大体同じ考えね。何でかまでは興味ない。でも、やっぱり裏切りはあるわよね?」
「は?」
「だってアナタは私に言ったじゃない。『俺は小萌しか愛せないからお前は選べない』って。だから、それを破ったってことは私がアナタに何をしてもアナタは文句を言えない、そうでしょ?」
垣根は自身に迫る危機を明確に感じる。
心理定規が言っている事が真実かどうかはわからない。いくら『未元物質』でも過去を見る事はできないからだ。
確かに、彼女を殺すのは簡単かもしれない。だが、この事実が広がればこんなやり取りをいちいちしなくてはならない事になる。
「……ねえ、私の我慢を返してよ」
手を握る力を強めながら言う心理定規。
垣根は、答えた。
「安価↓2」
「ハァ? 知るかよ。元々、お前が上手くやれなかった故の結果。我慢せずに奪おうとしなかったからこそのこの結果。お前がそういう選択をしたからだろ?」
挑発するように、心理定規を焚きつけるように言う。
一度突き放して、退く程甘い相手ではないと考えたからこその行動だった。
案の定、心理定規は感情的になる。
「なによ、ソレ。アナタがそうしてくれって頼みこむから言うとおりにしたのに……」
「何でその時に全力で引き止めなかった? 所詮、お前の覚悟なんてその程度なんだよ」
暗部がない。
それだけで感情を簡単に殺せるはずの心理定規は普通の女の子になっていた。
垣根が一番腹を立てたのはそこだったのだ。
心理定規もそんな垣根に呼応させるように感情を表に出す。
「じゃあ……もう我慢なんかしない。私は――――」
言葉より先に心理定規は動いた。
自分より背の高い垣根の顔へ背伸びする。
そのまま口をつけた。
初めてなのか、と垣根は特有の初々しさを感じる。少女は無理して彼の口内にまで舌を侵入させた。
「んむ……どう? これでわかってくれた?」
「安価↓2」
「節操がないな…。簡単に男にキスするなんてどうなんだ?」
「アナタだけに決まってるじゃない。……むしろ帝督こそ簡単にキスしてそうね」
「必要ならな」
そう言って垣根は肩をすくめる。
実際に罪悪感などあるはずもないし、何の感慨もない。
強いて言うなら仕事や義務、だろうか。
心理定規はそんなところは理解しているのか、呟く。
「……やっぱりアナタは私の知る帝督じゃないのね。まあ、いいわ」
ぎゅっ、と心理定規は垣根の腕に自分の腕を押しあてた。
二度目の、一度目とはまた違う感触が垣根の腕を包む。
「……私は、綺麗言を言うつもりはない。奴隷でも、何でも構わないからただアナタの一番になりたいの……」
肩を震わせながら心理定規は垣根に身を預けた。
垣根はその様子を見ながら、ゆっくりと答える。
「安価↓2」
「本当に奴隷なんかで構わねえのか?」
垣根は顔を伏せている心理定規に問いかける。
その表情はどこまでも黒かった。
「お前のことを愛してやる自信はあるが俺は大切なヤツの泣き顔が大好きなもんでね」
「フフ……ホントに別人になっちゃったのね」
心理定規は目元の涙を指先で拭いとり、笑う。
彼女はすでに堕ちていた。
垣根が何を言っても従うだろう。
「おい、もう行かなくていいのか? 祭りはまだ終わってねえぞ?」
「あ、うん。……今夜、帝督の家に行ってもいい?」
「ああ、好きにしろ」
そう。
祭りはまだ終わっていない。
心理定規と別れて、少し歩く。
ついに彼女は垣根のまえに現れた。
「お、いたいた。全く、捜しても見つかんないし参ってたのよ?」
秋物のコートを着た、モデルのような女性。
麦野沈利。学園都市第四位の超能力者。
ある意味では食蜂よりも厄介な存在。
垣根は慎重に問いかけた。
「何しに来た」
「安価↓2」
「別に少し異性とお茶が飲みたくなったから来ただけよ」
「……そうか」
麦野はまともなのか。
それともまだ何かを隠し持っているのか。
垣根が警戒を強めるのを無視するように、麦野はその腕を引っ張る。
「ほら、さっさと行くわよ」
「おい、ちょっと待て――――」
結局。
垣根はよくわからない模擬喫茶で紅茶を啜っていた。
麦野も上品に紅茶を口に含む。
「最近、連絡くれないからちょっと焦ったじゃない」
「はぁ? お前が焦るような事じゃねえだろ」
「相変わらず人の気持ち考えないな、と言いたい所だけど」
麦野は一度言葉を区切って続けた。
「……アンタが今までにない行動してるってのは病理のババアから聞いてんだよ。他の女がやられる前に私が出張ったって訳だ」
「……何の事だかわからねえな」
「おいおい、そうやってとぼけながら堕とす気? 私はそこまで甘くないぞ、第二位」
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「へー」
垣根は心底興味がないように相槌をうつ。
麦野はその挙措を注意深く見守った。
「おいおい、そんなに気張るなよ。何もしねえから」
「……信用できないから警戒してんのよ」
「警戒しても勝てねえだろ? そうやって誘ってるようにも見えるが?」
「……ッ、うるさい」
「安心しろ。お前に興味はねえよ」
垣根はそう言って、一口お茶を飲み込む。
微妙な駆け引きのような空気が流れる。
垣根としてはティータイムくらいゆっくりと楽しみたいのだが、相手がケンカを売るなら仕方ない。
「……そういや、お前って普段何してるんだ? 俺にそんな事言いにくるなんざ、かなり暇と見たが」
「安価↓2」
白垣根「 私の出番は・・・」
上条「 俺の出番がない?そんな幻想ぶっ壊す!!」
「私は定時制の学校に通ってるから。昼間は適当にバイトしてるわね」
麦野は話を逸らされたのが気に食わないのか不機嫌そうに答える。
彼女の視線は垣根の内側への突破口を模索していた。
垣根はその視線にとぼけるように、
「お前の学力で定時制かよ。第四位の名が泣くぞ?」
「第四位だからこそ、よ。進路なんて初めから自由だしね」
「そんなもんかね」
「アンタだって彼女がいる学校選んだ時点で同じでしょ? まあ、担任にまでなるってあたりは作為を感じるけど」
「……まあ、そうだな」
実際は垣根の意思ではないのだが、麦野はまだそこにたどり着いていない。
だから、彼女は何の疑問も持たずに言葉を続ける。
「それなのにアンタは突然、その恋人を蔑ろにし始めた。……私には理解できないわ」
「別に理解してほしい、とは思わねえよ」
あえて垣根は否定しない。
むしろ、ここから麦野がどういう反応を取るかを見ておきたかった。
いわば統計、データ。
勝利するための一要素。
第四位を垣根はその程度にしか見ていなかった。
「……でも知るくらいいいじゃない。ねえ、教えてよ」
どこか探るような言葉。
麦野の真意が垣根には読めない。
それを知るために、垣根は答えた。
「安価下2」
「知るか」
垣根は適当に言う。
そんなもの思い付き半分のところがあるからか、明確に答えることはできない。
もっとも適当に行動しても対応できるという自信の表れでもあるのだが。
「……今はそういう事にしといてあげる」
麦野は席を立つと、軽く髪をなびかせた。
「ただ、いつまでも自分勝手に行動できるとは思わないことね。……いつか必ずアンタの本性を暴いてやる」
麦野と別れた後、また当てがなくなった。
時刻はまだお昼時を過ぎたばかりで、家に帰るにしても早すぎる。
しかし、この世界は簡単に垣根を自由にはしない。
「あ、見つけましたよ。垣根クン」
軽い調子で車イスを動かしてくる女性。
木原病理。
彼女は垣根の前まで車イスをこいでくると、いきなり笑った。
「……何がおかしい」
「いえ、別に。ただこの前まであんなに飄々としていたアナタがいきなり俗物的な物に見え始めたので可笑しかっただけですよ、気にしないでください」
「どんなところが」
「うーん……前までは垣根クン、無駄に人と関わらなかったじゃないですか。そのクセにヒーローみたいに人を助けるところがまた魅力的だったんでしょうけど……私的には今の方が好きですよ? その脆くて、ちょっと指でつつけば簡単に崩れそうなところとか」
「……、」
一瞬、本気で殺意を覚えた。
この女は自分を下に見ている。学園都市第二位の力を持つ自分を。
垣根は病理の襟首をつかんだ。
「お前……死にたいのか?」
「まさか。でも大人をあまり舐めないことです」
「……、」
黙りこくる垣根。
病理は言葉を続けた。
「やっぱりアナタ……第五位の言うように中身だけ変わったんですか?」
「……だとしたら何だ」
「安価↓2」
それは勿論、原因が気になりますから。
「それは勿論、原因が気になりますから」
ここで科学者という側面が顔を出す。全てを科学で解決しようとしたがる。
しかし科学だけで解決できるとは垣根には思えない。仮に協力したところで病理がどこまで役に立つかは怪しいものだ。
あの天使が科学におさまるようには見えなかったから。
「……仮にそうだとして、原因があったとしてもお前には教えねえよ」
「あっれー? 何で目をそらすんですか? もしかして知られたくない事でもあるんですか?」
「別にねえよ」
フフ、と笑って病理は車いすの背中を垣根に向ける。押してください、というジェスチャーのようなものだった。
ここで逃げては尚更怪しまれる。そう判断して垣根は取っ手を掴み、軽く押した。
「……本当はですね。半信半疑だったんです」
「何が」
「アナタが別人格になっているという話です。最初は第五位お得意の嘘だとも思ったんですけど彼女の目がいつもと違うような気がして、来てみたらこれですよ。だから、確信を持てました」
病理は垣根の方に横顔を向けてほほ笑んだ。
その笑みに垣根は何か恐ろしい予感を覚える。
バレた。ついに露見してしまった。
直後。
望んだように時が止まる。
全てが灰色に染まった中、色づいているのは垣根と天使だけ。
「少々、予想外だったかな? こんなに早く確信を持たれるとは……」
面白そうに呟く天使に垣根は問いかけた。
「おい、天使。この場合……俺の入れ替わりに気付かれた場合はどうなるんだ?」
「安価↓2」
「問答無用で黄泉川愛穂の実の息子になる、なんてのはどうかな?」
「誰だソレ」
「ふむ、君が一方通行に敗北する直前にその翼で貫いた女性、でわかるかな?」
「……、」
垣根は記憶を模索して思い出す。
確かに垣根は女性を貫いていた。苦し紛れの行動を誤魔化していたような気もするが。
天使は笑って言葉を続ける。
「それと彼女は一方通行に比較的近い人間だ。そうなった場合、かなりの確率で一方通行と親しい関係になるぞ?」
「クソ……二つ目の敗北条件ってワケか」
「まあこちらは多少、甘めの判定を取ろうと思っている。やはり君が愛し、愛される事こそ私の見たい光景だからね」
「……最後に一つ教えろ。元の世界の俺はどうなった?」
「安価↓2」
「隻眼のオティヌスと呼ばれる少女に馬車馬のように働かされてるよ。なかなか頼られているようだから安心したまえ」
そう言い残すと、天使は姿を消した。
垣根としてはそれが自分の見る世界ではないと信じたい。
目の前では病理が怪訝な顔をしていた。
「……何でもねえ」
そう言って、垣根は誤魔化した。
日が暮れる。
夜を迎え、垣根は心理定規と共に自室へ帰っていた。
「アナタ、彼女できてから私を部屋に入れなくなるんだもん。ずいぶん久しぶりに感じるわ」
「……そうか」
疲れ果てたようにソファに座りこみ、答える。
もちろん前の世界では心理定規を家に入れた事はない。
ただ何となく違和感は覚えた。
「なあ……お前なんで俺の部屋なんか来た訳? ライトアップでも見てればよかったじゃねえか」
「安価↓2」
「ライトアップよりアナタといた方が私にとっては最高の娯楽になるわよ」
何の迷いもなく、真顔で彼女は言った。
こういう性格だとは考えた事もない。やはりこれは別人だ。
相手から見れば自分もそうなのだろうが、どうしてもそう思ってしまう。
「……今のは口説き文句か何かか?」
「いえ、単純な本心よ」
そう言って垣根の横に腰をかける。
ともすれば自分に体を預けてきそうな程、近い距離だった。
わずかに届くレモンの香りに目を細める。
番外個体との行為が垣根をわずかに熱くした。
「アナタはやっぱり私の知ってる帝督じゃない。だから、今なら思うの。自分のモノにできるって……どうかしら?」
「安価↓2」
「お前のその匂いだけは俺のモノにしたいがお前自身を縛りつけるのは俺はしたくないな」
本当は天使に負けたくない。それだけだった。
しかしそれを心理定規に告げる訳にはいかない。
「……匂い? ああ制汗剤ね。香水だとでも思った? 人の熱気で余計な汗かかないようにしてたのよ」
「じゃあソレだけ俺によこせ。そんでお前は帰れ」
「フフ……わかってないわね。制汗剤だけあっても大していい匂いだとは思わないわよ。私から匂ってるっていうのも相乗効果でアナタを刺激してるの。ほら……」
垣根の手を握り、心理定規は自分の体を近づけた。
垣根を刺激する匂いがより鮮明になる。
自分の中の自制心のような物が崩れかけるのを自覚しながら、止められない。
「ね? アナタ、さっきより私見る目が変態みたいよ」
「……どうとも思わねえ」
「嘘。今アナタは必死に理性で耐えてる。精神能力者ってこういう時は最強なのよ? アナタでも……いえ、今のアナタだからこそ勝てるわ」
首に手を回し、耳元で囁く。
首に塗っていた所為か、そこからより強い匂いを感じる。
「……前のアナタの方が厄介で強かった。こんな事で揺らがないから手に入らなかった。……悔しい? こんな小娘に負けそうで悔しい? でも勝てるわよ。アナタが私を襲えば、私は抵抗できない。第二位に私が勝てるはずがないから……」
「安価↓2」
「性欲を解消するために実力を使うのは三下のすることだ。この都市の二位ならそんなことはどんな女が相手でもしないから安心しろ」
心理定規の体を強引にひきはがし、ソファに座らせる。
少し残念そうな表情を見せながら心理定規は逆らわなかった。
「思ったより我慢強いのね。茶髪の女を奴隷にしてみたり、私を子供扱いしてみたり……わからない人」
「気分でするもんじゃねえよ、そういうのは」
「まあ、いいわ。シャワー借りるわね」
そう言って心理定規はシャワー室へと迷わずに向かう。
やはり部屋へ入った事はあるようだ。
垣根は全身からどっと力を抜いた。
はっきり言うと、危ないところだった。
番外個体との一件以来、理性の枷がかなり緩くなっている。
三十分程して、心理定規はシャワーを浴び終える。
元々部屋にあったのか、サイズのあったTシャツとショートパンツが用意されていた。
心理定規が何のためらいもなくベッドへ身を預けた。
「……何よ」
「別に、何も」
垣根もここは余裕を見せるためか、ベッドへと寝そべる。
結果的に添い寝する形となった。
心理定規目線でどうする? 安価↓2
背中にぴったりくっついてみたり
心理定規は垣根の背中に張り付いた。
ぴったりとくっつき、離れない。
柔らかい感触が垣根の背中へと確かに届く。
「……諦めると思った?」
打算的な一言。
しかし同時に天使との賭けを忘れかけさせる程の威力もあった。
離れろ、と言えない。
言葉を出すのが今までで一番重く感じた。
かつて同僚だった女。仕事の付き合いだけだったはずの女。
こんなにも近いだけで垣根の鼓動が高鳴る。
「……、」
「……、」
微妙な時間だった。
眠気が全くこない。むしろこれが夢にすら感じられるようなふわふわとした感覚。
それを自分より年下であろう少女が演出していた。
垣根は一度、大きく息を吐く。
垣根目線でどうする? 安価↓2
…勝手にしろ
「…勝手にしろ」
「そう、いいの?」
「そう言ってる」
垣根の体を強く引っ張り仰向けにさせる。
その上に心理定規は馬乗りになった。
心地よい重みが垣根へと届く。
嬉しそうにほほ笑む心理定規を垣根は無機質な瞳で見つめた。
「誘ってるのにつれないわね。露出多くて脱がしやすいと思うんだけど」
「俺は別に何とも思ってないからな」
垣根も笑った。
心理定規はそれも想定内なのか、顔をぐっと近づける。
お互いの息が相手にかかる程の距離で彼女は囁いた。
「ねえ……私の事好きにしていいのよ? 今ならアナタが私を好きにする、で済むのに何で一歩退くの?」
「安価↓2」
「俺の能力を使えば世界中の女を好きにできる。だがそれだと虚しいだけだろ? 俺はあくまで本当に欲しくなった女だけを全力で襲うことにしてるからな、今は無論いないが」
「……なら私をその対象にしなきゃね」
心理定規はそう言って垣根へ口をつける。
無理をしているのか、口内へ侵入した舌はどこか探るように恐れていた。
あまりにももどかしいので後頭部を掌で押さえつけ、自分から舌をいれる。
「んむ……はあっ、結局やる気なの?」
「ふざけんな。こんなんでするつもりだったのか? ……もう寝ろ。添い寝くらいは許す」
「そう……残念」
心理定規は垣根の横へずれると、目を閉じる。
垣根も今度こそ意識を手放した。
夢の中だろうか。
天使が目の前にいた。
『残念だ。非常に残念だよ。……君は明日にでも私に敗北するだろう。もう、手遅れだ』
天使はどこか嬉しそうに告げる。
だが、垣根には一つだけ切り札があった。
「条件の定義が曖昧なんだよ。具体的にどうしたら『惚れた』『惚れられた』っていう状況になるのかを定義しろ。それまでは負けを認める気はねえぞ」
『安価↓2』
そうだな…まず『惚れた』の定義だが、これは君が「あ、俺こいつの事が本当に好きなんだ」と自覚したら、としようか。
続いて『惚れられた』だが、これはやはりなしにしようか。君はもうすでに言い訳ができないほど回りの人間から惚れられているからね
『そうだな単純に両者が相手のために子供を作りたいと思って子作りした時にしようか』
垣根はおもわず唇を歪めた。
この条件はかなり緩い。一年間など絶対に耐えられる。相手がそう考える事はあったとしても自分はそう考えないからだ。
おそらく天使もその事には気づいているはずだ。
ならばこの天使は何を考え、この条件を提示した? これでは明日に負けるなんて可能性はなくなってしまう。
「……俺で遊んでるのか」
『そうだな、君に勝ちはある意味ないとさえ思っているよ。……明日の敗北はないが、一年後の勝利もない』
夢が終わる。
気付けば朝になっていた。
横では心理定規がすぅすぅと寝息を立てていた。
一度だけ少女の頭に手を置いて、撫でる。
「……これなら案外楽かもな」
垣根の、慢心だった。
外に出る。
唐突に飛びつかれた。
「帝督お兄ちゃん! 久しぶり!!」
木原円周。
これもまた木原一族の一人。
外で堂々とすりより、抱きつく少女に垣根は問いかけた。
「何の用だ」
「安価↓2」
うん、うん。わかってるよ垣根お兄ちゃん。お兄ちゃんは拗ねてるんだね
この前私におとまりしにおいでって誘ったのが断られたからって拗ねない拗ねない!
「うん、うん。わかっているよ帝督お兄ちゃん。お兄ちゃんは拗ねてるんだね」
円周は自分を納得させるように呟く。
そして、笑った。
「この前私に宿題を教えてくれる約束をすっぽかしたことを覚えているよ」
(……何やってんだ、前の俺! 面倒事増やすんじゃねえよ)
精神的余裕があるためか、垣根の動揺は少ない。
優しく円周の頭に手をおくと、言った。
「そいつは悪かったな。かわりに今日一日遊んでやるから、な?」
「むー……仕方ないなあ、帝督お兄ちゃんは」
ぷくー、と頬を膨らませる円周。
心理定規や食蜂にあった張り詰めた緊張感はない。
その事に安堵を覚えながら垣根は問いかけた。
「それで? どうする? 今日はお前の好きにしていいぞ」
「安価↓2」
うん、うん。とりあえず美味しいものを食べにいこうよ垣根お兄ちゃん!
クレープとかタルトとか、いっぱい食べさせてね?
「研究所で遊ぼう?」
「それでいいのか?」
「うん! 二人きりがいいな」
二コリとほほ笑む円周が垣根の手を引っ張る。
研究所にはものの十五分程でついた。
まだ十四歳程の少女が中規模の研究所を所有しているのだから、『木原』の影響力の高さがうかがえる。
「ほら、早く早く!」
研究所は無機質で単調な廊下が続いていた。
その一室が円周の私的空間となっている。どうやら研究はほとんどせず遊んでいるようだ。
ベッドに座り込む円周、とりあえず垣根も横に座った。
「それで何して遊ぶんだ?」
「安価↓2」
実験用マウスに色んな薬を投与して反応を楽しむとか
「垣根お兄ちゃんの未元物質の羽根で靴を作ってみる!」
「そうか、そんじゃあ……」
垣根は三対六枚の翼を顕現させる。
こちらの世界では使うのは初めてだったが、問題はなさそうだ。
円周は興味深そうに翼を見つめてから、
「難しいかなあ……お兄ちゃん、何か出せない?」
「んな事言われても困るっつうの。俺自身、把握できねえ部分もあるからな」
「そうかあ……」
そう言いながらも円周は羽根の一枚から懸命に靴の素材を考えようとする。しかし、まともに調べていない為にすぐに投げ出してしまう。
「仕方ない! 他の事しよう!」
「はあ――――」
垣根が問いかける前に円周は垣根に抱きつく。
そういえば病理は自身を匂いフェチと語っていた。
つまり円周もそういう性癖なのか。
この世界の『木原』に辟易しつつも垣根は問いかけた。
「……抱きついて、今度はどうするつもりだ?」
「安価↓2」
ペロペロ?
「垣根お兄ちゃんの匂いを楽しむんだよ?」
「お前もか!」
バタバタと暴れてみせるが、強く絡みついた円周を振りほどけない。
円周は垣根の胸部に顔をうずめると、深く呼吸する。
「すーはー……ああ、お兄ちゃんの匂い大好きぃ……」
うっとりとした声で円周は呟く。
思わずもれだした、というような感じだった。
「おい、離れろ」
「いやぁ……もうちょっとだけぇ」
「……、」
呆れさえ覚えるが、容姿が幼いだけに病理程の嫌悪感がない。
妹のような感覚。垣根は頭をそっとなでる。
「んむぅ……はぁはぁ……」
「おい、息荒いぞ。大丈夫か?」
「安価↓2」
うん、うん。わかってるよ垣根お兄ちゃん。クンクンを許してくれるって事は私に垣根お兄ちゃんを好きにさせてくれるってことだもんね!クンカクンカクンカクンカクンカクンカ
「んっ……ふわぁ……」
円周の体がビクビクと痙攣する。頬は明らかに紅潮し、興奮しきっている。そこに理性はなかった。あったとしてもかなり薄く、役に立たない物だろう。
垣根は円周の体をどかせる。
「おい。お前変だぞ?」
「はぁはぁ……大丈夫だよ」
円周は酒に酔ったかのようにフラフラと立ち上がる。
垣根は少女の体をそっとベッドに寝かせつけた。
「あれ、帝督くん。いたんですか」
「あー……病理か」
疲れ果てたように廊下の壁に背中を預ける垣根に病理は優しく声をかけた。
今までとは違う異常性。
垣根はゆっくりと口を開く。
「なあ……木原円周って何なんだ? 訳がわからねえ」
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
「今はただ、色々と『事情あり』な子、と説明しましょうか」
垣根にほほ笑みかけながら、言う。
「家族が、特にお兄ちゃんが欲しいだけのいい子ですよ。……あなたなら、いいお兄ちゃんになれると思いますよ」
「本気で言ってるなら、お前は相当のバカだよ」
垣根は壁から背中を放す。
病理の車イスに手をつけ、顔を近づけながら言った。
「……それで? お前は俺を円周の兄にしてどうしたいんだ? お前の事だから最後は自分だけおいしいところ持っていきそうだな」
「安価↓2」
一方通行「 出番が回想( レイプ)だけなンだが・・・」
>>296
アナタはそのうち出番ありそうですね……
それでは開始
「やーですねぇ、変わってからの帝督は"人が打算と理屈、欲望と利益だけで動く"と思ってる節があって」
実際にはその通りだし、否定する気もない。
垣根は人はそういうものだと信じている。
病理はそれを変えようとしているように見えた。
「私だって純粋に誰かのために何かしてあげたいって思い、行動するんですよ?」
「バカバカしいな。嘘としか思えねえし、ホントなら笑えてくる程のアホだぜ、お前」
「フフ……それでも構いませんがね」
自分が入れ替わったと確信を持たれても負ける。
その事を垣根は忘れていない。
「……じゃあ仮定の話をだな。俺が入れ替わってるとして、お前はどうしたいんだ?」
「安価下2」
「あなたが元いた世界の『私』の話が聞きたいですね」
「……、」
まずい。別世界ということまで推測の中に入っている。
垣根の中で不安がどんどんと広がっていく。
いっそ、殺してしまおうか。そんな事さえ頭をよぎった。
だがここで殺せば事実を認めるようなものだ。それは逆にできない。
何とかしてこれを『確信』ではなく、『推測』で留めなければならない。
「残念だが、そんな知識は持ち合わせていないな」
「……そうですか、残念です」
病理は軽く笑うと、研究所の奥へと消えていった。
『だから言ったじゃないか。君は負けると』
全てが灰色に変わった世界。
その中で青く輝き色づく天使は告げた。
垣根の敗北を。
『残念だが、木原病理は限りなく「確信」に近い自信を持っていると言えるだろう。……このまま行けば君は黄泉川愛穂の実の息子になってしまうな。それはそれで興味深いが』
「ふざけんな、俺はまだ……」
『負けているとも。まだ子供のような言いわけをするつもりか? 誤魔化し続けてきた結果が十月九日であり、そして今じゃないのかね?』
「テメエ……」
『都合が悪くなるとすぐに怒りに身を任せるのも悪い癖だ。堅気には可能な限り手を出さない、で留めているあたりに君と一方通行の差を感じるよ』
だが、認められない。
この段階に至ってもまだ垣根は子供のように言いわけを重ねる。自分を誤魔化す。
『さて……また違う世界へ飛ばされる前に、何か言いたい事はあるか?』
すっと伸ばされた天使の指先を見つめる。
言いようのない恐怖を覚えながら、垣根は言った。
「安価↓2」
「円周の兄になってもよかったかもしれないな……」
『……それは面白い。そうだな、今度はそんな世界を用意してみるか』
天使はほほ笑む。
この天使が何を考えているのかは垣根には想像もできない。
しかし、これがいつ終わるかもわからないのは彼を言いようもない不安に陥れる。
自分は死んだ人間で、呪縛から解放されたはずなのにまだ誰かの思惑に動かされている。
それがイヤだった。
「なあ……もしかしてお前、これを永遠に続けるつもりなのか?」
『少なくとも、君が勝利するか私が飽きるまでは続くだろうね』
「……飽きるまで、か。ならお前は何でこんな面倒な事を始めようと思った?」
『安価↓2』
『お前を愛しているからだ』
「はあ!? 意味わかんねえ……俺とお前に接点なんてねえだろうが」
『お前にはなくとも私にとって世界を見渡すなど簡単な事だ。……君は興味深かった。一方通行よりも上条当麻よりも心奪われる存在だった』
垣根は一瞬、本気で思考すら失いそうになる。
目の前の天使が何を言っているのかわからない。正確には理解したくなかった。
だが、そんな垣根を無視して天使は言葉を続ける。
『もっともこれが「愛」だと気付くのはもう少し後だったな……』
饒舌に話す天使は確かにどこか興奮しているようにも見える。
女性に見えなくもない所為か、それは恋しているという錯覚を垣根に与える。
「……何で俺だった。それに、俺を愛してるならもっと他に方法があるだろ? 直接言えるなら、こんな回りくどい方法じゃなくてもよかったはずだ」
『安価↓2』
『私が人だったとしたら君は虫だ。人が虫を愛するのに対等な関係でいるはずがないだろう』
そう言って天使は不気味に笑う。
つまり垣根は虫かごの中。よく言ってもペットとしか表現できない。
垣根と天使の間にはそのくらいの差はあるだろうが、やはり垣根は納得できなかった。
『おっと、長話し過ぎたようだな。……安心しろ。この世界は問題なく稼働し続けるさ』
天使が指を軽く垣根の額に置く。
直後だった。
垣根の意識が何の前触れもなく暗転した。
眠い。
それが最初に垣根が考えたことだった。
少しふかふかなベッドの感触が恋しく、垣根はベッドの中で縮こまった。
その垣根の背中を後ろから叩く。
垣根を起こした人物 安価↓2(禁書キャラ一名。黄泉川以外)
「ほら起きてください。朝食が出来ましたよー?」
ゆったりとしたお嬢様。
そんな印象を抱かせる女性が垣根の背中をゆする。
上条誌菜。
上条当麻の母親なのだが、垣根はもちろんそんな事を知らない。
「……、」
平行世界による影響。
それを理解している為、垣根は至って冷静だった。
眠そうに目をこすり、ベッドから起き上がる。
「お、朝食できてるからさっさと食べるじゃん」
リビングの中央にあるテーブルでフレンチトーストを口に含んでいるのは黄泉川愛穂。
確かに垣根が十月九日に貫いた『警備員』だった。
実の母親が彼女なのは違和感しかない。
席についた垣根に黄泉川は話しかけた。
「予定は覚えてるじゃん?」
「……予定?」
「安価↓2」
「今日はお前の授業参観じゃんよ、かっこいい姿期待してるじゃん」
「……授業参観で目立ってどうすんだよ。あれは普段どういう態度で授業に臨んでるかを親に見せる場だったはずだ」
「そんなの建前じゃん。親は子供の輝く姿を見たいものじゃん!」
「そんなもんか……」
フレンチトーストを口に含みながら垣根は考える。
隣に座ってニコニコしている女性は誰なのか。
この世界で自分はどんな人間なのか。対人関係はどのようになっているのか。
(……今、考えても仕方ねえ。その場を冷静に凌ぐ、か)
垣根は自分の中の不安を必死に振り払った。
スクールバッグを肩にかけ、学校に向かう。
慣れてきた制服に嫌悪感を覚えつつも垣根は歩を進める。
教室の前に立った。緊張からか一瞬、足が止まった。
(……落ち着け。まずは向こうの反応を見てからだ)
唐突に、後ろから押される。
そのまま垣根は教室に入った。
垣根を押した人物 安価↓2(禁書キャラ一名)
「垣根ちゃん! さっさと中に入る!」
背中を押したのは金髪に青の瞳を持つ少女。
垣根の記憶通りならサローニャだったはずだ。
「朝からテンション高いんだよ」
「今日は授業参観だよ? メイクも張り切りちゃん!」
「……訳わかんねえ」
イスに座るなり、垣根はだるそうに机に突っ伏す。
サローニャはばしばしとその背中を叩きながら、
「ほらほら、しゃきっとする! もう担任くるよ?」
「……ああ、そうだな」
時刻は八時四十分。朝のHRが始まる頃あいだった。
一抹の不安を覚えながらも垣根は身体を起こした。
垣根のクラスの担任 安価↓2(禁書キャラ一名)
「はいはい、さっさと席に着きなさい。HR始めるから」
目の前に立ったのは麦野沈利。紫を基調としたワンピースにストッキングだった。
垣根はこみあげる笑いをこらえる。
(……実年齢がバレた瞬間じゃねえか)
「おい、垣根。今失礼なこと考えなかったか?」
「いえ、別に」
必死で取り繕い、表情を戻す。
麦野は不審そうに眉をひそめるが、切り替えて視線を下に落とした。
「はーい、今日は授業参観があるから情けない姿見せた奴はお仕置き確定だから」
「ぜひともお仕置きされたいでー! 麦野先生!!」
「青ピは窓から落とす。じゃあHR終わり」
起立して礼をする。
凛とした教師らしい姿を見せる麦野に垣根は不思議な苛立ちを覚えた。
教室にいる親の人数が増えてくる。
生徒たちも心なしか落ち着きなくそわそわとし始めた。
「いやー楽しみだね、垣根ちゃん!」
「ちょっと黙ってろ、お前」
「なにー緊張ちゃんかなー?」
無神経にボディタッチしてくるサローニャに苛立ちを覚えながらも垣根は別方向の事を考えていた。
まずは勝利条件。
そしてこの世界の構成。
勝利条件は同じ可能性が高いが、一年はさすがに長いかもしれない。
「はい、授業始めるから座れ」
麦野の適当な声と共に授業が始まった。
授業の内容 安価↓2(アバウトな教科だけでも可)
日本史。
垣根も適当に一通り頭に入れた程度の知識しかないが、一般的なところは網羅している。
適当に教科書をまくってノートを取る。
内容は平安時代、とくに藤原氏の台頭にあたるものだった。
しかし垣根にとってはものすごくどうでもいいので、摂関政治など今さら何を言うのかといった感じだ。
「はい、垣根。摂関政治の全盛期を築いた人物は?」
「……藤原道長」
「そう、で――――」
黒板にスラスラと書いていく麦野を見て垣根はわずかに考える。
結構似合ってるな、と。
麦野がちゃんとした職についているくらいなのだから、この世界はかなり平穏だと言えるだろう。
垣根の基準はずれている可能性もあるが。
授業が終わり、帰り道。
横に並んで歩いていた黄泉川が唐突に問いかけた。
「そういえば彼女とは上手くやってるじゃん?」
「彼女?」
「安価↓2」
「あの事件以来ずっと引きこもってる吹寄のことじゃんよ。アイツ、アンタ以外は家に入れないようにしてるから心配なんじゃん」
「……」
吹寄という名前にも聞き覚えがある。
彼女も前の世界では垣根のクラスメイトだった。
だが、今回も何もなしとはいかないようだ。
天使が用意してる可能性すらある。
「この前も様子見に行ってたじゃん。復帰の目途はたってるじゃんよ?」
「……何とも言えねえ」
「そうか……」
黄泉川は重たそうな表情でうつむく。
さすがにここで事件の内容を聞くわけにはいかなかった。
帰宅してベッドに身をあずける。
垣根の予想通り天使が現れた。
『どうだい? 今度の世界は』
「訳がわからねえな。……とりあえず聞きたい事は一つしかねえ。吹寄って女とは何があった? 事件って何だ?」
天使はわずかに考える。
教えるべきか隠すべきか迷う。
どちらの方がこのペットを愛でられるかを考えていた。
そして、答える。
『安価↓2』
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
『嫉妬に狂った心理定規に殺されかけた。この世界での二人は元々仲が良くてね。それで吹寄制理は人間不信に陥ったという訳だ。……それでも君を信じ続けてる辺り相当前の君を愛していたんだろう。あるいは一人で生きていける程強くなかったというべきかな?』
スラスラと言葉をつづけて天使は笑う。
垣根としては面倒極まりないが、とにかく終わらせなければいけない。
こんな世界にはもううんざりだった。正確には繰り返す事が怖かった。
「……それで今回の条件はなんだ?」
『フフ……そうやって君は病みつきになるさ。私と遊ばずにはいられなくなる』
「うるせえ。さっさと教えろ、もう終わらせてやる」
『そうだな……』
少し考える。
天使はゆっくりと告げた。
勝利条件 安価↓2
敗北条件 安価↓4
セロリ……
あの能力で人並みに性欲があったら仕方ないのか
一方通行「 またレイプかよ!」
『そうだな……勝利条件は逆に誰かを心から愛したらにしようか』
天使は笑って答える。
だが、その奥にある悪意のようなものを垣根は感じ取っていた。
そしてそれを天使は躊躇なく伝える。
『敗北条件は強姦魔とかした一方通行を止める、でどうかな?』
「……はあ? それはむしろ勝利条件よりだろ。それじゃ俺は負けないぞ?」
『なに……勝利するには敗北のリスクは伴うべきだと思ってね』
含むようみ肩をすくめた天使を垣根はじっと見つめる。
その真意は読めない。でも、何かある。
それでも現段階では垣根にこの条件を断る理由はない。むしろ、楽にクリアできるチャンスになるだろう。
「いいぜ、その条件でやろう」
『変更はできないぞ? それでいいんだな?』
「……ああ」
何か意味ありげに問いただす天使は垣根の答えを聞くと、頷く。
そして映像がとぎれるように天使が消えると同時に、世界も色を取り戻した。
何はともあれ動く事だ。
垣根は吹寄の住む学生寮へ向かった。
まだ最終下校時刻が過ぎていない事と、吹寄の境遇を察してなのか部屋に入る垣根を止める人間はいなかった。
(さて、と。始めますか)
天使とは約束したが、心から他人を愛するなど垣根には考えられない。
今回は上辺だけ取り繕っていくつもりだ。
ゆっくりと静かに上がるエレベーターから降りる。
奥が見える程の廊下を見るに一部屋はあまり広くないのだろう。
吹寄が無能力者という事を知れば当然ではあるが。
そんなあたりの雰囲気や様子を見ながら、垣根は吹寄の部屋のインターフォンを鳴らす。
中から出てきたのは少しやつれてはいるが、間違いなく吹寄制理だった。
「……帝督」
疲れを見せながらも彼女は部屋への道を開き、垣根を招き入れる。
部屋は整理整頓されてはいるもののカーテンで窓を仕切っているため、少し薄暗かった。
垣根は探るように口を開く。
「制理、調子はどうだ?」
「安価下2」
「何よアンタ心配し過ぎよ。勉強の方はどうなの? 私は次の回の授業の箇所まで家で勉強したわよ!」
「……大丈夫そうだな」
引きこもっている以外は普通な吹寄を見て、余計な心配を振り払う。
取り敢えず垣根の勝利への第一候補は吹寄という事になっているので、これは垣根としてもありがたい。
「私としては帝督が学校生活を真面目に送ってるかが心配ね。帝督はサボり癖があるから」
「普通だ、普通。何もなく平和って感じだな」
「……何か怪しい」
「はあ? 何がだよ」
「帝督じゃない。でもアイツなら……」
ブツブツと呟きだす吹寄。
やはり精神面は不安定なのか、目も焦点があっていない。
その様子を別の意味で心配して声をかけようとした垣根を吹寄は唐突に抱きしめた。
「……どうした?」
「安価↓2」
「私は学校に行こうとすると吐いたり、体が痛くて動けなくなったり汗が止まらなくなるの……」
吹寄がボソリと呟いた。
垣根の服を掴む細い指は確かに震えているし、顔を彼の方向に向けようともしない。
なにより、前の世界では確かにあった凛とした雰囲気が今はなかった。
「心理定規にも謝りたいのに……委員長ぶってた人間が恥ずかしいわね」
「……ちょっと待て。何でお前が心理定規に謝る必要がある? お前は普通に俺と付き合って、心理定規がお前を襲っただけだろ?」
「そう、だけど……」
「ならお前が謝る必要もねえだろ。そんなもん放っておけばいいんだよ。……もし問題があれば俺が片付けるしな」
今回は人を殺す、という行為に対する制限がない。
ならば障害となる人間を殺しても全く問題はないという訳だ。
もちろんその行いによって相手に嫌われても自分が好きという見せかけをしておけば天使も負けを認める。そういう打算だった。
現に吹寄は垣根を最初から信頼しきっている。というより依存していた。
それを表すように吹寄は垣根の背中に手を回すと力強く抱きしめる。
同時に振り払えばほどけてしまいそうな弱弱しさも帯びながら。
「……それでも私は帝督と前みたいにいろんな所に行きたいし、外にだって出たい。でも……やっぱり帝督しか信じられない。あの時の心理定規の顔を思い出すだけで何もできないの……」
甘え、媚びるように体をすりつける。
それは誘惑のようで違う。
最後の支えを失わないようにする彼女なりの必死の抵抗だった。
それでも柔らかい感触は確かに垣根に届く。
確実に強まっている自分の欲求を感じながら、垣根は口を開いた。
「安価↓2」
「そもそも何で心理定規はそんなふうになったんだっけ」
「……え?」
怪訝な顔をする吹寄。
さすがに無理があると察したのか垣根は誤魔化すように言った。
「ほら、元々そういうタイプじゃなかっただろ? だから何でかなと思ってさ」
「……それは私達が付き合ったからじゃない?」
吹寄は考えるように首を傾げる。
これを知る事ができれば垣根としても選択の余地が広がる。
だからこそ強く念を押した。
「ほら、関係修復のためにもやっておきてえんだよ。アイツが豹変したキッカケみたいなのがあったら教えてほしい」
「うーん……」
不安でも垣根の言う事には逆らえない。
さらに心理定規と仲良くしたいという善心からか、吹寄は真剣に考え込む。
一拍置いてから彼女は口を開いた。
「安価↓2」
「そういえば彼女、貴方に捧げる時まで大切にとっておいたものを奪われたって言ってたわね」
「……まさか」
垣根の中でイヤな予感が広がる。
女がとっておく、特に重たい愛をぶつける女が失わないようにするものは垣根には想像がつく。
吹寄はその様子を不思議そうに見つめるが、決して疑ったりはしない。
「ありがとな、制理。何となくわかった気がする」
「あ、うん……」
垣根はここで吹寄を不安にしないようにほほ笑み、言った。
「心配するな。最後は俺が全部何とかしてやるからよ」
吹寄と別れた後。
垣根は心理定規を捜していた。
そして案の定、彼女は現れる。
「よう……久しぶりだな、心理定規」
「……ええ、本当に」
お互いに含んでいる意味は違うが、不思議と噛みあう。
近くのベンチに心理定規と座り、口を開いた。
「……災難だったな」
「何よ、今更あの女に貴方を取られた事を馬鹿にしにきたの? そうね……貴方の事だから『俺はお前みたいなホステスビッチと付き合う気なんか全くない』とでも言うつもりかしら?」
「隠すなよ。……一方通行だろ?」
心理定規はその名前に一瞬反応したようにも見える。
だが精神系能力者だけあって、その辺りに駆け引きはうまい。
でも、本心は小手先で隠しきれるものでもない、と垣根は思う。
「……そうなら話しくらい聞いてやる。制理もお前とは仲良くしたいって言ってたしな。本音を言った方が楽になるぞ?」
「安価↓2」
「そうよ!」
心理定規は強く叫んだ。
その目には涙が浮かんでいる。
「……ずっと貴方の為にとっておいたのに、貴方の為に生きようと思ってたのに。あの男はそれを一瞬で奪った! しかも第一位相手に手を出せない学園都市は私を見捨てた……ええ、確かにあの男に勝てるヤツなんていないわよ。でも……あの恐怖を忘れられる訳ないじゃない……」
「それで、その後は?」
「……たまに連絡が来るわ。何人かはそのまま堕ちたって聞いた事もある。どうすればいいかなんて私にはわからないわよ。いっそこのままアイツの奴隷になった方が貴方の為だとも思えてくるわ」
その目はうつろで、悲しげだった。
それでも強く握りしめた彼女の手の甲にはぽたぽたと水滴が落ちていく。
彼女は諦めを交えながら問いかけた。
「貴方はどうすればいいと思う?」
「安価↓2」
「思ったもの全部俺にぶつけてみろよ」
垣根は心理定規の頭に手をおきながら言った。
心理定規は少し俯き、ゆっくりと話しだす。
「……怖いわよ。私もいつか奴隷になっちゃうんじゃないかって思うと。今は貴方を考えて誤魔化してるけど、いつ他の女みたいになるのかって考えただけで寒気がするわ。アイツに襲われるより、貴方を考えられなくなりそうで……」
言うなれば一種の洗脳。
それを一方通行は第一位の能力を存分に振るうことで実現している。
ありとあらゆる能力の干渉を受けず、ただ圧倒的な力で屈服させようとすれば、女側の心は行為による快楽に逃げるという寸法だろうか。
細かい事は垣根自身、どうでもいいが大方の推測はしておく。
そもそも止めれば天使との勝負に負けるのに止めるはずもない。
しかし抑制は必要だ。
そう判断し、垣根は一言だけ洩らした。
「……俺が何とかしといてやるよ」
二人の少年は路地裏で相対した。
「……オマエ、第二位だろ。顔写真よりもイケメンだなァ、オイ」
「ソイツはどうも。第一位から褒められるなんて光栄この上ないね」
一方通行は一人でコーヒーを大量に購入していた。
垣根もコーヒーは飲むが、彼ほどではない。
「ンでェ? 俺に何の用かなァ、格下クン。生憎だが俺にそっちの趣味はねェぞ」
「ああ、俺もない。……そうだな。何でこんな事してる? お前なら金にもの言わせる事だってできるだろ?」
「安価↓2」
「金で買った女なンざダメだ。ヤツらには『覚悟』がある」
一方通行は子供の戯言を聞き流すように答えた。
そして、唇を大きく引き裂かせながら言葉を続ける。
「『覚悟』のない女にブチ込んで堕としてやるのが最高なンだァ」
「……、」
垣根はただ呆れた。
この一方通行は自分を倒した一方通行とは違う。くだらない悪党なりの美学も何もない。
そこにいるのは欲望に負けた哀れな怪物だった。
その不機嫌そうな表情を読み取り一方通行は思いついたように言う。
「あァ……何なら何人か貸してやるかァ? そうだなァ……さっき記念すべき二十人調教達成したから一人か二人くらいやるぞ? イヤ、待てよ。第一位と第二位でコンビ組めばどンな女も調教できるなァ! レベル高い女は全部堕とす方向で手ェ組まねェか?」
「……もういい」
「あァ? 何だよ。悪ィが俺のペットは渡せねェぞ。共有なら条件次第だが……」
無神経に話し続ける一方通行に垣根はいらだちを覚える。
そのまま感情に身を任せ、言った。
「安価↓2」
「とにかく心理定規だけは解放してもらうぞ。調教し終わってからでもいいから」
「……ハァ?」
一方通行はあり得ない物を見るような目で垣根を見た。
その目はまるで興が冷めたとでも言いたげだ。
「……あのなァ。渡せねェって言っただろォが。それに調教し終わってからが本番なのによォ。俺は一度奴隷にしたヤツは絶対見捨てねェンだよ。……つってもあンまババアすぎると奴隷ですらなくなるけどなァ! ハハハ!!」
本物のクズ。
それを垣根は初めて見た気分だった。
気持ち悪いものを見るような目で垣根は一方通行を見つめる。
だが、一方通行は笑みを崩さない。序列からくる自信が彼を支えていた。
「まァ、お前が女五人くらい見つけてきたら考えてやるよ。……当然、渋るなら心理定規も周りの女も全員堕とすだけなンだがなァ……」
一方通行はメモ紙片に自分の電話番号とメールアドレスを書きこむと、垣根に放り投げる。
能力によって制御された紙片は正確に垣根の手のひらへおさまった。
「待ってるぜェ? 垣根クン」
翌日。
言いようもない不快感と共に垣根は気配を感じ取った。
尾行されている。
次の朝に用意しているのは腐っても第一位の頭脳と行動力の所為か。
だが、それは一方通行がこの場にいないと垣根に教えるようなものだ。
その人物を逆にこちらへ引き込めばいい。
垣根は一瞬だけ後ろを向く。
(アイツは……)
垣根を尾行していた人物 安価↓2(禁書女性キャラ一名)
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
(あ、あれが垣根帝督さんですか……やっぱ怖いですね。でもご主人様の為に頑張らないと! ご褒美もくれるって言ってたし……えへへ)
花飾りの少女が物影からひっそりと自分を見つめている事に気付く。
そしてその少女には見覚えがあった。
十月九日に痛めつけたあの少女だ。もっとも、その後に一方通行に敗北する訳なのだが。
「……さーて、あの女を使って探りあいと洒落こむか、一方通行」
垣根の唇が三日月に歪んだ。
さすがに学校の中までは尾行していない。ただの学生にはここが限界なのだろうか。
だとすれば垣根には好都合だ。
一方通行の目が届かない範囲であの少女から情報を手に入れる。
正確には連絡方法、他の女との繋がりの有無である。
「……さーて、どうするか」
「何々、垣根ちゃん考え事?」
声をかけてくるサローニャ。
女という時点で彼女が一方通行側でないという確証がなくなる。
適当にごまかして、思考に戻った。
その時、校内放送が流れる。
『あーあー。垣根帝督ー垣根帝督ー、至急相談室まで来るように。麦野先生からお話があります』
(お前自身じゃねえか……)
呆れながらも垣根は相談室へ向かう。
場所はわからなかったが、チラリと見た地図で把握する。
相談室は周囲に資料がまとめられた棚が複数あり、中央にテーブルと黒のソファという平凡な構造になっていた。
垣根が到着して程なく、麦野も相談室へと入る。
彼女がさりげなく鍵をかけたのを垣根は見逃さなかった。
「……それで何の用だ?」
「えーと、ね。吹寄のことよ。担任としてはクラスの生徒の状態は知っておきたいしね。……それでどんな感じかな?」
麦野も一方通行の奴隷。
その可能性を考慮しながら、垣根は答える。
「安価↓2」
乙
一方ちゃんは悪い子ですねー
垣根くんがお仕置きするしかないゾ~これ
乙。勝つ事が目的なのだから、敗北条件に向かって行かなくてもいいのに邁進しちゃう垣根さんマジツンデレ。
極端な話、敗北条件を達成せずに一方さんと友好築いた後に自分もハーレム作って、お互いの女には手を出さない不可侵条約結べば後は~みたいな手もあるっちゃあるような。
一方通行「 俺がクズ過ぎる件」
上条「 俺の出番がなさすぎな件」
この一方通行なら勝てそうな気がする
>>381
上条「俺は?」
>>382
もちろんその可能性はありますね
>>384
確かに上条さんがここまで出てこないSSってないかもですね
>>385
腐っても最強……でも勝てそうだなあ
それでは開始
「心理定規と仲直りしたいんだと」
垣根は他人事のように言う。
呆れた表情で彼は言葉を続けた。
「俺は場を整えるだけさ」
「ふーん……いい感じなのね」
麦野はほほ笑んだ。
その笑顔は確かに生徒の良好な経過を喜ぶ教師のものにしか見えないはずだ。
だが、垣根はその笑顔にある何かを感じ取る。
麦野も隠す気はなかった。
ソファに腰掛けている垣根へまたがる。
その目はとても大人びて、ほぼ同年代の女性とは思えない程の魅力を持っていた。
麦野は自分の顔を垣根の耳元へ移す。
垣根の横髪をそっと掻き分け、その髪先の匂いを一度だけ愛おしそうに嗅いでから麦野は言った。
「……密室に男女が二人きり。考えなかったの?」
「安価下2」
「貴方も奴隷だったのですか? ……先生」
挑発するような敬語を使う垣根。
その言葉を聞いて麦野は思わず噴き出した。
「ぷっ……アンタが敬語とかあり得ないんだけど」
「悪いな。今の俺は女に心を許せるような状況じゃねえんだ」
「どうせ第一位とやりあってるんでしょ? だからこそ何だけどなー」
「……どういう意味だ?」
「少なくとも私はまだアイツ側じゃない。でもアイツに襲われればそれまで。……なら先手必勝。アンタが私を堕とせばいいだけじゃない。それに第四位っていう戦力は第一位相手ならともかく、他とやり合うなら圧倒的戦力よ?」
利害の一致。
タイミングを掴んだ上での言葉だった。
垣根には自分が必要と確信した上で麦野は言葉を続ける。
「私って見た目はいい方だと思うんだけど。……さすがにこれで断られるとへこむなあ」
「安価↓2」
「キスだけだぞ。それ以上はごめん被る」
「……キスだけじゃ終わらせたくないって言わせるくらいキスする」
「加減くらいしろよ……」
「わかってるって、んん……」
麦野が垣根の顔を両手ではさみこんで、口をつける。
乱暴に舌を入れ込んできたので多少の不快感は覚えたがそこは垣根がうまくカバーした。
二分、三分と時間が過ぎていく。
その過ぎゆく時間も気にせずに二人は口を合わせ続ける。
わずかな休憩と言えば麦野が呼吸するために口を話す数秒くらいのものだ。
結局、二人がそれをやめたのは昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってからだった。
「……はあ、夢中になちゃった」
「乱暴すぎんだよ。お前の舌で窒息するかと思ったわ」
「でも最後は上手かったでしょ?」
「……俺のマネしただけだろうが」
適当な冗談を交えつつ、相談室を出る。
周りに生徒がいない事を確認して二人は何気ない表情で、それぞれの場所へと戻った。
教室に戻ると、サローニャがニヤニヤした表情で垣根を待ち構えていた。
彼女は垣根に物々しく席を譲りながら言った。
「ねえねえ……昼休み、どこの相談室ちゃんでどの麦野先生と何してたの? 垣根ちゃん」
どうやらサローニャは麦野の様子から察していたらしい。
だが垣根は変わらずにサローニャを警戒している。まだ麦野すらも疑っているのだから当然だろう。
「ほらほら……こっそりサローニャちゃんに教えてよ、ね?」
「安価↓2」
「……こういうこと」
垣根は一瞬だけ周りへ視線を移す。
だれも自分たちを見ていない事を確認してから。
サローニャの口へ浅く自分の口をつけた。
「……へ?」
余りの事にサローニャの思考が停止する。
茫然と垣根の顔を見たまま、何度か瞬きを繰り返した。
その様子を見てやりすぎたと思いつつも垣根は軽く肩をたたく。
「教えてやったんだから、さっさと座れ」
「あ、うん……」
その後もサローニャはどこか上の空であった。
サローニャは少し気分が高揚していた。
垣根が自分にキスをした。その事実は少女を確実に虜にする。
だからこそ隙ができる。
「どォも。第一位でェす!」
吹き抜けるような烈風が一瞬だけ頬をかすめる。
気付けば、サローニャは路地裏の壁へ背中を押しつけられていた。
「おいおい……レベル高ェなァ。一瞬でボルテージ上がったぜェ」
第一位、一方通行。
学園都市でもひそやかな噂になっている都市伝説のようなもの。
そのターゲットにサローニャはロックオンされた。
「……第一位!?」
「こンな可愛い子ちゃンに覚えられてるとかなァ……まァ、用件はわかってんだろォ?」
サローニャの頬を舐めながら、一方通行は笑った。
彼女も第一位が何故、自分の前に現れたかはわかっている。
それでも一方通行は囁きかけた。
「……いい思いさせてやるから、第二位捨てて俺のモノになれよ」
「安価↓2」
「確かあんた、アホみたいに奴隷ちゃん持ってるんでしょ」
サローニャの目から光が消える。
その様子に怪訝な顔をしながらも口元に視線を向けた。
彼女はそんな第一位に恐れも抱かずに言葉を続ける。
「そいつらで我慢したら」
「……ハハハ。すげェな、オマエ。今までで一番度胸あるぜェ? この俺にそこまで言ったンだからなァ!」
一方通行は意図的に隙をつくった。
彼女が逃げるための道を開けるように。
サローニャは罠と知りつつもその隙をついて、逃げる。
「さァて……鬼ごっこといきますかァ」
第一位は獲物を狙う獣のように瞳をぎらつかせながら、笑った。
「へえ……じゃあ飾利ちゃんは『風紀委員』なんだ」
一方、垣根はと言うと第一位が尾行を任せたと思われる人物と接触していた。
初春飾利。
持ち前のルックスとコミュニケーション能力で素早く彼女との距離を詰める。
もっとも、相手も自分との接触を望んでいたのもあってここまではスムーズだった。
(……意外とちょろい人ですね。第二位って)
初春は内心ほくそ笑んでいるのだが、これも垣根の想定内。
手のひらで動かされている事に気付かない。
「すごいね、大変でしょ?」
「ええ、まあ。でも誰かの為に働けてると思うとやっぱり励みになります」
そう言いながら初春はさり気なく路地裏へと入る。
腕には『風紀委員』の腕章がしっかりとつけられていた。
これは、宣戦布告。そして罠。
この先には間違いなく第一位が待ち構えている。
「どうしたんですか? ……あ、すいません。一般の方をこんな場所に入れる訳にはいきませんよね」
わざとらしく言いながら初春は照れくさそうに笑う。
大根役者の演技を見る時の苛立ちを感じながら、垣根は言った。
「安価↓2」
「別に風紀委員と一緒なら問題ねえだろ。土足で踏み込んでやるよ」
垣根は初春へ向けて意味ありげに含み、笑う。
その笑みの意味を初春は感じ取るがあえて表情を変えなかった。
「そうですか……でも危なくなったら逃げてくださいね?」
「大丈夫だよ。それに君みたいな女の子おいていけるはずもないし」
戯言に等しい言葉をお互いにかけながら二人は路地裏へと踏み入る。
どれ程歩いただろうか。
奥へ進むと、徐々に一つの廃工場が見えてきた。
「……ここで最後ですね」
初春は呟くとゆっくりとドアを開ける。
軋む音と共に垣根の目には意外な光景が入ってきた。
拘束されているサローニャだ。その横にはやはり一方通行がいる。
後ろでは初春が一瞬笑うと、一方通行の元へ媚びるように駆け寄った。
「よォ……奇遇だな、第二位」
初春のスカートの中へ手を入れながら一方通行は白々しく言った。
よこでは初春が一方通行の腕にしがみつき、顔を真っ赤にしながら悶えている。
「お前がそうしたくせになに言ってんだ」
チラリと拘束されたサローニャを見る。
彼女は意識がないのかピクリとも動かなかった。気絶させられている。
一方通行は状況を把握しようとする垣根に笑いながら告げた。
「オマエには三つの選択肢がある。一つ目、俺に殺される。二つ目、大人しく引き下がる」
そして、と一方通行は口を三日月に引き裂く。
「三つ目は俺と一緒に奴隷ハーレムを作りまくる。……さァ、オマエはどォする? もし三つめ選ぶなら、この女をこの場で犯せ」
トントンとサローニャの額を指先で叩く。
一方通行が初春の耳元へ顔を近づけた。
直後、初春の体が地面へ呆気なく崩れ落ちる。
その様子を一瞥し、垣根は考える。
一つ目は論外。二つ目と三つ目の二択問題。
天使との賭けもある。それを考えながら垣根は答えを出した。
「安価↓2」
「はあ……わかったわかった。二つ目でいかせてもらう。もうお前とは関わらねえ。そいつも心理定規も好きにしろ」
垣根は呆れたように言った。
後ろを振り向き、手を振りながら悠然と立ち去っていく。
最後に垣根は言い残した。
「じゃあな」
ばたん、という音と共に一方通行は笑った。
それは勝利を確信するような笑みだった。
「……そンじゃァ、遠慮なくいただきますかァ?」
翌日。
いつも通りに登校した垣根はサローニャを見る。
一見、変わらないように見えるがそのわずかに疲労感を残していた。
もう第一位は関わってこない。
そう安心しているのか、垣根はサローニャに話しかける。
「よう、サローニャ。……昨日はどうだった?」
試すような一言。
サローニャは答えた。
「安価↓2」
「はっはっはー! 垣根ちゃん、君は私があんなモヤシに強姦されたくらいでうろたえるようなだらしのない女の子に見えるのかな?」
サローニャは豪快に笑い飛ばす。
しかし、それは少女のはかない抵抗であった。
震えだす足は止まらず、やがて体全体へと行きわたる。
「そんなわけないじゃん……そんなわけ……そ、んな……わ、け……」
「よくわかった。お前、ビビりまくってるんだな?」
席に腰をかけ、笑う。
実際に女じゃなければわからないのだろうが一方通行の責めは相当に執拗なのだろう。
加えて能力を使用されれば十中八九の女はそれに負けてしまうはずだ。
放っておけばサローニャもそうなるだろう。
明日か、三日後か。
どちらにしろ彼女の未来は奴隷一直線だ。
「それで? 何されたんだよ」
「……言わなきゃダメ?」
「イヤ別に言いたくないならそれでいい。でも純粋な興味があるのも事実でな」
サローニャはわずかに考え込む。
そして少し躊躇いを見せながらも彼女は口を開いた。
「安価↓2」
「えーとね、まずは媚薬使われてー、身体が感じやすくなったあと口や胸を弄ばれてー、ついに処女奪われてー、しかも生理中だったのに中出しされてー、果てにはお尻まで入れられてー、他の女の子といっしょにHしたりもしてー、それからそれから――」
息まくようにそこまで言って、サローニャの言葉が止まる。
少女の両目からは涙が溢れかけていた。
他の誰にも見られないように彼女は廊下へと出る。
それを垣根は追いかけた。
彼女はそれでも涙を見せたくないのか、垣根に背を見せたままだ。
「……とにかく一通りやらされたって感じ。『素直になったら好きなプレイさせてやる』だって。ホント、バカみたいだよねー。私が堕ちるわけないのに」
サローニャの肩がぶるぶると震え、悔しさがにじみ出てくる。
その哀れな姿を見せつけるように振り向いて、言った。
「もう私は取り返せない! 垣根ちゃんのせいじゃないのはわかってる……でも、あの時もし垣根ちゃんが私を助けようとしていたら、頑張れたのに……私、こんなの耐えられない……ッ」
噛みしめるような声。
味あわされた屈辱をかみ殺しているのだろう。
一瞬、瞳を閉じる。
そして開いて、垣根は言った。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「わりい……」
垣根は申し訳なさそうに顔をそらした。
「俺にはやらなきゃいけない事があるんだ。こんなところでつまづいてなんかいられないんだよ」
「そっか……そうだよね」
サローニャは何かを諦めるように呟く。
そして、二コリと笑った。
垣根に余計な心配をさせまいとする、彼女なりの心遣いだ。
「大丈夫だよ、垣根ちゃん。私は一人でも頑張れるから……垣根ちゃんが少しでも私を心配してくれたってだけで、頑張れるから」
違う。垣根にはわかる。
彼女は、もう折れていた。
放課後。
胸のしこりがどこか取れないまま、垣根は例の相談室で麦野と会っていた。
こちらは垣根とは対照的に明るい表情だ。
「まあ、うちのクラスの子が被害にあったのはっていうところはあるが……どうせサローニャも堕ちるってわかってるからどうでもよくなっちゃった」
そう言って麦野は垣根の膝に手を置く。
彼女の目が細まった。
今日こそは、と垣根に伝えるように。
「……ねえ、帝督。今日は時間もたっぷりあるし、いいよね?」
「安価↓2」
>>416
>果てにはお尻まで入れられて
尻を挿入しただと……流石第一位は格が違った
>>426
うわあ……ホントだ。アブノーマルすぎるだろ
誤字すいません
それでは開始
「よし俺のナニを擦ってくれ」
垣根は珍しくおどけるような調子で言った。
麦野もそれに笑みをこぼす。
少し体を垣根へ預けるように傾ける。
そして、するりと垣根の太ももからその間へと手を移した。
そのわずかな刺激にも垣根は敏感に反応し、目を細める。
麦野は手に伝わる熱を感じながら、恍惚とした表情で言った。
「……楽しみ」
「いいから続けろ」
うん、と麦野は頷く。
少しだけその感触に浸りながらもベルトをはずし、チャックをおろしていく。
そのまま露出した垣根のそれを手でしごきながら麦野は接吻を求め、垣根もそれに答える。
「ん……」
口の中に侵入した異物の感触に麦野は思わず身震いする。
隙を突くように垣根は麦野の胸に手をのばした。
「や、はあ……」
肩をはね上げ反応する麦野へ畳みかけるように服の中へ手を潜りこませた。
下着からさらに奥の中心へと指を届かせる。
「あん、そこダメ……」
「ったく……教師が生徒にそんなんでいいのかよ」
「そっちの方が興奮するから……」
垣根は頬を赤らめ興奮を見せる麦野。
彼女を見て、自分の中で帯びていく熱を自覚しながら垣根は麦野を押し倒した。
「……クソ」
垣根は口惜しそうに街を歩いていた。
麦野とアドレスを交換し、別れた後に気づいたからだ。
これが第一位の罠である可能性に。
考えすぎだとは思うが、万が一という事もある。
「よォ」
そして割符を合わせたように彼は現れた。
一方通行。
彼は相変わらずの笑みを浮かべながら、口を開く。
「少しばかり付き合えや。別に今はそォいうの抜きだからよォ」
「……いつもはそういう目的ってわけか」
「まァな。……でもオマエが俺につくってのはいつでも大歓迎なンだがなァ」
「安価下2」
「俺は迷惑だ。それで何の用だ?」
「……そォ言うと思ってたぜ。たまには男と話したくなったンだ。オマエ以外は頭悪すぎて話にならねェからなァ」
そう言って一方通行は簡素な喫茶店へと垣根を招き入れる。
静かな雰囲気を持つその店は確かに、二人で話をするには落ち着きのある場所だった。
そう、人が少ない分だけ密談もできるという訳だ。
「ブラックでいいだろ?」
「……ああ」
どうしても裏があると疑ってしまう。
いくら色欲の事しかないとはいえ、第一位の頭脳は垣根と互角かそれ以上なのだから。
(一番近いところで心理戦ってか? ……面白え)
わずかに一方通行に向けて唇を歪めて見せる。
一方通行もそれに答えるように口角を釣り上げた。
「……気になってたンだがよォ。オマエってどうやって女引っかけてンの?」
「普通に声掛ければいいだけだろ。俺はお前と違って容姿も優れてるからな」
「ソイツは羨ましい。俺も一回くらいそォいう方向で楽しみてェな」
一方通行の言葉の意味が垣根にはわからない。
それを見透かすように第一位は口を開いた。
「適当な女ナンパしねェか? 第一位と第二位なら余裕だろ」
「安価↓2」
「あいにくナンパは趣味じゃねえんだ。俺は帰る」
勢いよく席を立ちあがる。
これ以上、第一位と会話していても頭が痛くなるだけだ。
この白い怪物は結局、女の事しか考えていない。
「……オマエも随分と遠慮がちな野郎ォだな。正直になればイイのによ」
「お前ほどがっつかねえだけだ」
垣根はあきれた様子で喫茶店を後にした。
だが、第一位の追撃は終わらない。
彼は自身の奴隷を駒のように弄び、笑う。
「……帝督」
心理定規。
彼女もまた、あの第一位の被害者だった。
垣根はサローニャとの事を思い出し、目をそらす。
「どうした?」
「どうした、じゃないわよ。サローニャがアナタに見捨てられたって泣いてたわよ?」
「……別に後悔はしてねえ。俺は善人じゃねえから誰でも救える程強くないだけだ」
「ホント、アナタらしいわ。……その、自分にとって必要な人間以外を簡単に見捨てる冷酷なところ」
「そんな事を言いに来たんじゃねえんだろ? さっさと用件を言え」
心理定規は何かを諦めようとして俯き、そして言った。
「安価↓2」
「見てよ、私のあそこ、こんなになっちゃった」
唐突にドレスをひらりと上げた心理定規。
下着の類はつけていなかったため、一気に少女の性器が露出する。
垣根は一瞬、思考が止まった。
ぽたり、ぽたり、と
心理定規のそこから透明な液体が滴り落ちる。
「ねえ、すごいでしょ? 私、見られただけで興奮するようにさせられたの。もう……逆らう気も起きないくらいよ」
恍惚とした表情で心理定規が歩み寄ってくる。
本物の奴隷。
それを目の当たりにした垣根は思わず一歩後ずさる。
それでも距離を詰めながら、心理定規はドレスの裾を下ろそうとしない。
「ああ……すごい。前に好きだった人に見られるとこんなに興奮するのね。どう、帝督? 私、すごくいやらしいでしょ?」
ベンチに思わず腰を落としてしまう。
そのわずかな隙を心理定規は見逃さずに覆いかぶさった。
可愛らしい小動物を愛でるように垣根の顔を少女は撫でていく。
そんな、堕ちた女に向けて垣根は言葉をかける。
「安価↓2」
「ホント趣味の悪い野郎だな、一方通行」
垣根はもはや目の前の心理定規を見てすらいなかった。
彼女もまた被害者の一人に過ぎない。
だからこそ、垣根は言葉を続ける。
「どっかでこの状況をニマニマ見てんだろ? 反吐が出る。だが覚えとけ、俺はお前のおさがりを貰うつもりはねえ」
「……そう言うと思ってたわ、帝督。でもね、これは私の意思でやってるの。だからご主人様は関係ない」
「テメエまで洗脳されたのか。情けねえな」
「いいえ。気付いただけよ。こっちの方がずっと幸せだって……」
垣根は心理定規を冷たく見つめた。
確かに、そっちの方が楽かもしれない。
だが、垣根には越えなければいけない壁がある。
その決意を鈍らせようと心理定規は垣根に抱きつき、耳元で囁いた。
「私はおさがりじゃない……もう立派な女なの。こっちにくれば私以外の女が何人も手に入るのよ? 全員アナタの思うがまま。素晴らしいとは思わないの?」
「安価↓2」
「暴力と快楽に負けた女共に用はねえんだ消えろ」
「……わかったわ」
心理定規は垣根の予想に反して素直に拘束を解いた。
だが、その表情はまだ笑みを崩さない。
「でも……諦めないからね?」
そう言い残し、心理定規はゆっくりと立ち去った。
吹寄の部屋のインターフォンを鳴らす垣根はどこか陰鬱だった。
応じた吹寄もそれに気付いたのか、部屋に招くとそっと手を握る。
「……大丈夫?」
「まあな。……ただ悪い報告だ。心理定規の野郎、一方通行の奴隷になりやがった」
「それじゃあ、あの噂は本当ってこと?」
垣根はうなずき、言葉を続ける。
その目に力はなかった。
「サローニャも、だ。……女ってのは本当にバカだよな。そんな一時の恐怖と快楽に負けて堕ちるんだから」
それは本音だった。
このままでは天使との賭けには勝てない。そう思っても、誰にも踏み込めないのだ。
結局、これは垣根自身の弱さを表すことになっているのかもしれない。
愚痴をこぼすように垣根は言う。
「……お前も第一位に襲われればそうなるんだろ? 外に出るトラウマなんざ鶏みたいに忘れて、心理定規とも何もなかったように会話する。そんな程度のものだ、全部」
諦めるような言葉。
吹寄は前のように縋る意味ではなく、そっと落ち着かせる意味を込めて垣根を抱きしめる。
そして言った。
「安価↓2」
「私もその恐怖と快楽に負けてしまったわ」
「……は?」
垣根は吹寄を疑うような目で見つめた。
引きこもりの彼女がなぜ?
いや、そもそもドア一枚などあの怪物には何の意味もない。
全てを察してもあえて吹寄を振り払わずに、垣根は問いかけた。
「……どういう意味だ?」
「そのまんまの意味よ。確かに最初は怖かった。……でも気持ちいいのも事実だったのよ。あなたはそういうのなかなかしてくれなかったし……隙を突かれたと言えばその通りだけど」
ドアが開く音が聞こえる。
入ってきたのはサローニャと心理定規。そして一方通行。
第一位の怪物は自分の勝利を確信したような笑みを浮かべながら言う。
「という訳でェ……俺の完全勝利ィ! オマエの女はぜーンぶいただきましたァ!! こンだけレベル高いの揃えてンのに手を出さないオマエが悪いンだぞ?」
あからさまな挑発に対する怒りを必死に押さえつける。
十月九日の失敗を繰り返す訳にはいかない。
こみあげる屈辱を感じながらも垣根は言った。
「安価↓2」
「残念だったな俺にはまだ麦野がいる」
「麦野? あァ……第四位かァ。そういやァ忘れてたわ。よ・ぶ・の」
「……、」
一方通行は気軽に携帯を耳に当てる。
電話してから十分程で彼女は現れた。
麦野沈利。学園都市第四位の超能力者。
これにはさすがの垣根も怒りを隠そうとすら思えなくなる。
「……どういう事だ。答えろ」
「……帝督」
横で眺める一方通行はニヤニヤとしながら吹寄の胸へ手を持っていく。
顔を俯かせる吹寄を無視して、垣根は問いかける。
「最初から俺の味方じゃなくて、コイツの駒だったってことか? 全部第一位のシナリオ通りだって事か?」
麦野は垣根と視線を合わせようとしない。
だが、それでも彼女は口を開いた。
「安価↓2」
「その通りよ。残念だったなぁ、垣根」
「ま、そォいう訳だ。ちなみに俺の奴隷一号は麦野だからなァ」
「ったく……経験不足の演技も疲れるっての」
そう言って麦野は一方通行に抱きつき、口を合わせる。
その浅ましい光景に、ドロドロとした何かが垣根の中を渦巻く。
「アナタが余計なプライド働かせるから悪いのよ。最初からこっち選んでればよかったのに」
「こればっかりは垣根ちゃんをかばえないよねー」
もう垣根の知る二人はいない。
そう思うと、少し気が楽だった。
「あ、ん……ごめんなさい、帝督」
そう言いながらも全く悪びれる様子もなく快楽だけを享受する吹寄を見てると異常な苛立ちを覚える。
それは抑えようとして抑えられるものでもなかった。
そんな垣根の変化に気付かず、一方通行は問いかける。
「さァて……垣根クン。これが最後のチャンスだ。オマエはどォする?」
自分ではない垣根帝督がつくりあげたであろう人間関係。
その全てを壊され、他人事なのに不思議と見過ごせないまま垣根は言った。
「安価↓2」
「飽きた、全部終わらせる事にするわ」
直後だった。
何の前触れもなく心理定規を白い翼が貫いた。
声を上げる間もなく鮮血をまき散らして心理定規は息絶える。
わずかな静寂があって。
第四位が動いた。
「垣根、テメエ!!」
「うぜえぞ第四位」
元の世界では倒すのに多少の時間をかけた。
だが今は瞬殺できる。
まだわずかにこびり付いた血を振り払うように翼を横薙ぎに振るった。
麦野が能力を使う間もなく吹っ飛ぶ。意識を失ったのかそのまま地面へ向けて落ちていった。
そんな、流れ作業のような調子で垣根はサローニャと吹寄も殺していく。
最後に残ったのは一方通行。
結果、垣根は敗北条件を満たす。
そして、垣根は――――
『今回は随分と過激な結末だったな。それはそれで面白いが』
「……ったく、いいからさっさと次の世界を用意しろ」
垣根はまっ白な空間で呆れたように呟いた。
あそこまで怒りを覚えたのは初めてだったのか、その表情は険しい。
『しかし……これだけ恥ずかしい失態をしておいて、君に罰ゲームがないのもつまらん。ここは私が直々に罰を与えよう』
「……なんだそりゃ」
『フフ……いけないペットをしつけるだけさ。案外、あの世界の女のように快楽になるかもしれんぞ?』
天使は笑って、垣根へ下す罰を決めた。
垣根に与えられたペナルティ 安価↓2(アバウトでも可)
『そうだな。次に君は女として生きてもらおう』
「はあ!?」
『なに、これはちょっとした思いつきさ。肉体は女らしくなるが容姿は基本的に変わらないし、能力も問題無く使える。……それにそっちの方がいろいろと面白そうだしな』
「クソ……」
垣根は思わず歯ぎしりをする。
こんなことならあの時、一方通行に従っていた方がマシだったかもしれない。
もちろん、今そんな事を悩んでも後の祭りだが。
『次は世界設定か……勝利条件は「人を愛する」これでいこう。女と男の狭間で悩む……なかなかに興味深いものが見られそうだ』
ブツブツと一人ごとを呟きながら、天使は何かを見渡している。
おそらく平行世界のチェックだろう。
少し考えて、天使は世界を選んだ。
安価↓2 垣根の次にいく世界
安価↓4 垣根の敗北条件(勝利条件は固定。世界の雰囲気にあわないものは却下)
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした。……今回のはちょっと難易度高すぎましたかね?≫
『……これは面白い』
天使は一つの世界を興味深そうに見つめた。
垣根も覗き込もうとするが、天使はそれを隠す。
怪訝な表情になりながらも垣根は問いかける。
「どんな世界なんだ?」
『今回、君は一方通行と恋人だ。ただし、その恋愛は彼のレイプから始まっている。……つまり君はすでに一度負けているという訳だ。先ほどのようにはいかないぞ?』
「……最悪だな、おい」
『そして敗北条件は一方通行の殺害。……まあこれも可能と言えば可能だ。今回はあくまで「殺害」だからな。死なないなら何をしても構わん』
「……わかった」
自分が女になることの恐怖をわずかに抱きながら、垣根はうなずいた。
天使はその様子にほほ笑むと、そっと垣根の額に指先を触れた。
「……い、おい……、起きろ、帝督」
垣根は重い倦怠感と共に目を覚ました。
目の前には白い少年、一方通行がいる。というより、添い寝していた。
その状況に嫌悪感を抱きながらも垣根は問いかける。
「なんだよ、一方通行」
「安価↓2」
殺さなければ何してもいい
あ……(察し)
一方通行冷蔵庫化計画、始動
アクセラレイパー
一方強姦
「おはよう帝督。愛してる」
そう言って一方通行は垣根の口をふさぐ。
機嫌よさそうに部屋を出た一方通行。
彼がいない隙に垣根は自分の体を調べる。
確かに、胸はくっきりと出ているしあるはずのものもない。これは決定的だ。
というより、その体はかなり女性らしいものだった。
身長もほとんど変化がないためかなりモデル体型になっている。
自分でも興味を示すほどだ。
(……しかしどうすっかな)
鏡を見ながら、垣根は思考にふける。
先の展望がつかめないまま、リビングへと出た。
そこでは一方通行がコーヒーを淹れている。垣根を見ると彼はわずかに笑った。
「……ずいぶんと寝ぼけた顔してンな」
「うるせえ。さっさと用意しろよ」
垣根は席につく。
一方通行もコーヒーを二つ持ってきて、一つを垣根の前においた。
覗きこむように垣根を見てから一方通行は言う。
「今日の予定、覚えてるか?」
「……?」
「安価下2」
「水族館、行くって言ったじゃねェか」
一方通行がひらひらと二枚の紙は確かに水族館へ行くチケットだった。
垣根はそれをしかめた顔で見つめる。
初日からついていない。世界が変わるのはなれたが、性別が変わるのは完全に想定外なのだ。
そもそも今のままの口調でいいのかすら不安になってくる。
「……覚えてるにきまってるだろ」
「だよなァ……帝督が俺とデートする約束を忘れるわけねェモンなァ」
そんな訳で垣根は一方通行と手をつなぎ、水族館へと向かっていた。
しかし実際は一方通行の方が小さい事と身体が華奢な事もあり、女同士が手をつないでいるように見える。
しかも垣根の男の時以上に人を惹きつける容姿は周囲の視線を集めていた。
これではやりづらい事仕方ない。
その様子に一方通行は笑って言った。
「恥ずかしがってンのか?」
「……別にそんなんじゃねえよ」
「クソ、つまんねえ。最初の頃は恥ずかしくて死にそうな表情してたのによォ……いつの間にか元の男勝りな感じに戻りやがって。……まァ、夜は相変わらずだからイイケド」
「どういう意味だ、テメエ」
「そのままの意味だよ、バ―カ」
水族館へ入りながらも垣根の不信感は消えない。
女になるというのは相当にイヤな予感がする。
「……機嫌悪ィな。イヤだったか?」
怪訝な顔をする一方通行に垣根は答えた。
「安価↓2」
「お前にやられた時の夢を見たんだよ」
天使からの情報を頼りに垣根は探りを入れる。
案の定、一方通行は何とも言えない表情で顔をそらし、目の前のイルカを見つめた。
そして垣根の手を握る力を強めて口を開く。
「……オマエってその話しする時だけそォやって冷たい目するよな。確かに悪いのは俺だ。でも、俺と一緒にいるって選択したのもオマエじゃねェか」
「……、」
違う。
それを選んだのは前の、間違いなく女であった垣根帝督であって自分では無い。
だが、一方通行がそんな事に気付く訳がなかった。
「何か変な話になっちまったじゃねェか。さっさと行くぞ!」
グイ、と強引に手を引っ張る一方通行。
その慌てた様子に何かを感じた垣根は問いかける。
「……そもそも何で俺をレイプなんかしたんだ」
「安価↓2」
「だってよ、オマエは上条の野郎との子供を認知してもらえなかった上、無理やり堕ろされたんだろ? だからせめて俺の子供を産んでほしくて」
(……上条? 誰だ)
また垣根の記憶にない名前があがる。
しかし妊娠して捨てられるというのは苛烈な人生だ。
やはり垣根は疫病神に魅入られているとしか思えない。どちらかと言うと天使だと思うが。
そんな他人事のような事実を認めつつも垣根は笑った。
「だとしてもそれはお前の自己満足じゃねえか。俺がそれを望んでると確信してるのか?」
「……かもしれねェ。オマエはそォいうところがホントに女らしい。だから惚れたンだ。でも、オマエをそうやって思いのままに独占してェのも事実だ」
「……そうかよ」
一方通行の食いかかるような視線に思わずたじろぐ。
その時、垣根を救うかのように携帯の着信音が鳴り響いた。
送られてきたメールの送り主は『上条当麻』。
目を細め、何かを疑うように垣根は携帯を開く。
上条から送られてきたメールの内容 安価↓2(アバウトでも可)
『やらないか』。
ただ一文だけ書かれていた画面から逃げるように垣根は携帯を閉じた。
一方通行が首を傾げて、問いかけてくる。
「……何があった?」
「イヤ、ただ上条とかいうクソ野郎が変態メール送ってきた」
そう言って、垣根は一方通行にそのメールを見せる。
それを一目見ただけで明らかに第一位の表情が変化した。
「……おいおい。ずいぶンなお誘いだな」
「こんなもん無視した方がいいな。さっさと行こうぜ」
この日。
初めて女として生きた垣根の一日はとても陰鬱なものだった。
帰宅すると垣根は真っ先にソファに身を投げる。
身体を異常な疲労感が襲った。
しかしそれが眠気に繋がる事もなく、ただ身体の凝り固まる感覚だけが広がっている。
そんな垣根を一方通行は優しく抱きしめた。
「……何のマネだ」
「今日は疲れたろ。……あンなメールが来たんじゃ仕方ねェ。オマエ、第二位のクセに弱いからな。孤独なオマエは本当に……弱い」
彼なりに垣根を安心させようとしているのだろうか。
しかしそれが垣根の感情を動かす事はない。
むしろ精神が男なだけに嫌悪感すら覚える。
「……怖いのか」
「別に」
一方通行はその嫌悪した様子を恐怖と勘違いした。
垣根は素っけなく答えて、しらをきる。
「帝督……俺は、あの時した事は間違いだと思ってる。でも……一人のオマエを見てると、壊れそうで怖いンだよ。オマエじゃなくて俺が」
最後の一言に全てがこもっていた。
結局は自己満足。それでも綺麗な言葉で終わらせないのは彼のわずかな善心を示しているのか。
垣根はゆっくりと答える。
「安価↓2」
「安心しろ。少なくとももう覚えちゃいねーよ」
「そォか……忘れてくれたのか」
何か勘違いしたまま一方通行は垣根に体重を預けた。
その華奢な見た目通り、垣根にかかる重みなど知れたものだった。
だが、その体温はなぜか垣根から警戒心を奪っていく。
精神ではなく身体がそうさせていた。
薄らぐ思考の中で垣根は問いかける。
「……なあ、上条ってどんなヤツだ?」
「なンでそンな事聞く必要があるンだ。それに、オマエも一時は付き合ってたじゃねェか」
「バカ。客観的な意見の話だよ。友人関係とか、周りの評判ってのをだな……」
わずかに考え込む。
教えるべきか迷って一方通行は言った。
「安価↓2」
「女なら自分の母親でも手を出すヤツだ」
「……ソイツは盛んなことで」
「もちろン、美人に限るらしいぜェ? オマエもそのターゲットの一人ってわけだ。……しかも、女を上手いこと助けたりして流れをつくるから質が悪ィ」
「……前のお前より最悪だな」
「あァ?」
怪訝な顔して一方通行をは垣根を見下ろす。
わらった彼……彼女は一方通行にとっては我慢する気も吹き飛ばさせる程に魅力的だった。
ソファをベッドかわりに垣根の顔の前まで自分の顔を持ってくる。
垣根は一方通行の意思を読み取りながらもとぼける。
「急にどうした?」
「……わかってるだろォが。オマエが可愛いから悪ィンだよ」
そう言って垣根のTシャツに顔をうずめ、脱がそうとする。
わずかに抵抗の意思を見せるが一方通行はそんなものお構いなしに振り払った。
徐々に垣根は焦りを覚える。
男と行為に走るなんて途中で死ぬかもしれない。そんな予感を覚えたからだ。
「おい、一方通行。……本気か?」
「安価↓2」
上条さんがクズだなんて、一方通行のほうは案外いいやつなのに
上条さんの両親はどうなっちまったんだろう
「俺は常に本気だ」
一方通行の手が垣根のシャツの中へと入り込む。
おぞましい嫌悪感に垣根は身構える。
だが。
(……あれ?)
想像していたような波はこなかった。
むしろ、人のぬくもりに身体は完全に脱力していく。肉体が完全に一方通行を受け入れていた。
「あ、クソ……」
「我慢するな。身体によくないぞ?」
そう言って一方通行は垣根と口をあわせる。
拒絶する心に反して、垣根の体は勝手に一方通行の首に手をまわしていく。
胸にあてられた手も完璧に受け入れるし、自然と何をどうすればいいのかがわかってしまう。
だが、それに垣根の精神が歯止めをかける。
「や、めろ……」
「今までノリノリでしてきたのにそれはねェだろ。それとも……」
垣根の胸から手を放して、ジーンズのチャックをはずす。
その中に手をいれ、確かに湿ったその部分をいじりながら言った。
「……我慢できンのかァ?」
能力を使っているのか、垣根の腰が跳ね上がる。
肉体と精神の乖離。
初めての感覚に体を悶えさせながら垣根は答えた。
「安価↓2」
「まだ孕ませ足りないとか言わせねーぞ。テメエこそ我慢を覚えろ」
「……」
若干強がりながらも、凛とした声を放つ垣根。
それを見て諦めたのか一方通行は垣根から手を放した。
「そォか。気分じゃねェか。のったら結構すごい癖に……自分勝手な女だ」
「そういうヤツに惚れたお前が悪いな」
「生憎、俺は後悔なンざしてねェよ」
それでも一方通行は惜しむように、垣根と唇をあわせた。
翌日。
垣根は上条から場所指定のメールを受け、そこへ向かった。
もっとも本当の目的は探るためだけなのだが。
指定された公園につくと、ツンツン頭の少年がこちらに向かって手を振る。
彼こそが上条当麻。
前の世界の一方通行を超える変態だ。
「……何であんなメールを送った」
垣根は昨日のメールについて問いかける。
上条は笑って答えた。
「安価↓2」
「お前が俺に会いたがってるんじゃないかと思ってさ」
「ハハハ、本気で言ってるならお前。相当のバカだろ。女が誰でも尻ふるだけの犬だと思うなよ」
「……そうなのか?」
悠然とベンチに座る垣根の横に腰をかけ、上条は彼女の腰に逃げられないよう手をまわした。
ぞくり、と垣根の内側で何かが渦巻く。
それは確実に垣根の体に熱を与えていた。
そのわずかな動きを逃さず、上条はたたみかける。
「ほら見ろ。口では強がっても体は正直じゃねえか。……あんなによがってたくせに意地はるなよ。一方通行なんか捨てて俺のモノになれ、な?」
耳元に、囁かれる声は垣根を洗脳しようとしていた。
そこにあるのは男の醜い欲望。
かつて自分も男の時はこんなものだったかと疑問を誰かにぶつけたくなるような光景だ。
「うるせえな。とにかく俺はお前の相手なんかしてられねえんだ」
「そう言うなよ。俺さ、今同居してるヤツがいるんだ。ソイツから話聞けばお前も思い出すって! なあ、頼むよ。他の女じゃ今一つなんだよ。お前みたいなヤツ他にいなくてさあ!」
逃がさないように、半ば強制的なその言葉は前の垣根になら聞いてたかもしれない。
だが、今の垣根は違う。
絶対的な自信。
それと共に垣根は答える。
「安価↓2」
「ただ今妊娠三カ月目だから無理☆」
自身のプライドを半分ほど消費して垣根は女らしくウインクをしてみせる。
その様子に上条は笑う。
というより、狂気に満ちた目で言った。
「……一方通行だな? 一方通行なんだろ。あの野郎……俺の帝督に手ェだしやがって! 今すぐボコボコにぶんなぐって殺してやる!!」
「はぁ……? 別に女なんか掃いて捨てる程いるんだろ? だったら俺一人くらいいいじゃねえか」
「うるさい! お前に何がわかる! 綺麗な女は全員俺のモノなんだよ! だからお前も俺のモノだ!!」
異常なまでの執念を露出させながら上条は叫ぶ。
垣根はその様子を見て思った。
彼は間違いなく何かを怖がっている、と。
それが同情すべき理由なのか、軽蔑すべき下らないものなのかはわからない。
だからこそ、確かめた。
「……お前、そこまでして女が欲しいのか?」
「安価↓2」
女がいてこそ男ってなんか深いな
狂気染みてるな
「女がいてこそ男だろ」
当たり前、というような調子で上条は言った。
確かにそうだが普通の男性は一人の女性を定め、その一人を愛するものだ。少なくとも垣根はそういうものだと考えている。
もっとも、誰かを愛するのが条件な以上はそうせざるをえない状況にいるのが事実な訳だが。
上条は首を傾げると、問いかけた。
「……お前、本当に妊娠してるのか?」
「嘘にきまってるだろ、バカが。……にしても、そこまで俺に執着するか? 普通」
「俺は綺麗さのレベルで女への執着度を変えてる。……今のところお前はトップクラスだよ。絶対に独占したい。そういうもんだ」
「……最悪だな。俺は板挟みじゃねえか」
頭を抱える垣根。
上条はじっとそれを見つめた。
それは愛おしい人を愛でるような目だった。
垣根はそんな上条に問いかける。
「それで? お前は俺にどれくらいまでなら執着できるんだ?」
「安価↓2」
「その時々の気分しだいだ」
「……情緒不安定なヤツだ。いや、女に依存しているとしか思えねえな」
「ああ、そのとおりだ。俺は女がそばにいなきゃ死んじまう」
孤独が耐えられない。そう思うべきか。
だが上条は諦める様子はなかった。
結局、垣根は引きずられるように上条の家に連れ込まれる。
上条はさすがに無理矢理はしないと言ったがどこか信用できない。
「ま、女同士仲良くしろよ!」
そう言って上条はどこかへ向かっていく。
大方、他の女にでも会いに行くのだろう。
そんなどうでもいい推測をしながら垣根は上条の住む寮の部屋の扉を開けた。
上条の同居人 安価↓2(禁書女性キャラ。一名)
≪文字化けしてるので安価↓で……てか上はなんなのか≫
「む、とーまがまた女の子を連れてきたんだよ!」
出てきたのはシスターの姿をした少女。
彼女は自分の名前をインデックスと名乗った。
「目次? ペンネームみたいな何かか?」
「れっきとした本名かも!」
そう言ってインデックスはない胸を張った。
その背伸びした様子に苦笑いしつつも垣根はベッドに腰をかける。
「……なあインデックス。お前から見て上条当麻ってどんな人間なんだ?」
「安価↓2」
いろんなこと(意味深)
「豪快ですっごく頼りになる人なんだよ! 記憶の無い私にいろんなこと教えてくれるし」
「……いろんなこと、ねえ?」
垣根は笑ってインデックスの頭に手をおいた。
きょとんとした様子で首をかしげる少女に垣根は言った。
「アイツはお前の思ってる程、豪快でも優しくもねえぞ? 女に弱い……なんてもんじゃねえな。普通に汚い。俺も妊娠させられたくらいだしな」
「……どういう事かな?」
「だからー……アイツと一緒にいるとそのうち襲われるぞ?」
純粋な助言のつもりだった。
ここに長くいれば自分もどうなるか知ったものではない。
現に、一方通行に襲われた時もそうなりかけた。
「とーまはそんな人じゃないかも」
「……今はな。でもいずれはそうなる。俺はそういう事実を味わった。お前だってアイツに失望したくねえだろう?」
「安価↓2」
「とーまのやることなら、何でも受け入れるんだよ。シスターだから」
インデックスは強い決心を込めて言った。
自分の信仰する宗教よりも大事なものだから。
少女の小さな体にはそういう力を感じる。
「……そうか、なら俺も何も言わねえさ」
そこまで言ってわずかな静寂が流れる。
それを破ったのは上条が帰ってきたからだ。
「よう、インデックス! 帰ったぞ」
「おかえり、とーま!」
インデックスの頭を撫でながら上条は垣根に問いかける。
「……それでどうだ? 少しは考えてくれたか?」
「安価↓2」
「もう少しお前たちの生活を見させてもらう」
「よっしゃ! よくやった、インデックス!」
「えへへー」
少なくとも今の上条からは危険な気配を感じない。
どれが本当の上条当麻かわからなくなり、垣根は現状維持を選んだ。
インデックスと上条の様子はまるで兄と妹のようでとてもそんな風には思えなかったからだ。
それでも疑いは消えない。
「……上条。お前って女は片っ端から犯すのかと思ってたが違うんだな」
垣根の皮肉に上条は真面目に答える。
そのまなざしは真剣そのものだった。
「安価↓2」
「インデックスは特別だ。自分の娘に手を出す父親はいないだろ」
「……俺は一方通行から母親にも手をだすような男って聞いたが?」
「バカか。そりゃアイツが嘘ついたんだよ。俺を嫌うようにな」
しかし逆を言えば、一部例外を除いて上条は結局そういう関係にまで発展させるという事だ。
垣根はより一層の警戒心を強める。
その様子に上条は笑った。
「……今はインデックスがいるんだぞ? 間違いも起こさねえよ」
「そうだったな。……まあそのうち機会があれば誘ってくれ」
「おい! なんか変な事されてねェか!?」
家に帰るなり、一方通行の過剰な質問責めにあった。
正直、重い執着にうんざりしていた垣根はいらだちを募らせる。
一方通行もその様子に気がついたのか気持ちを落ち着かせ、ソファに腰をかけた。
さっきまでの雰囲気とは変わり、彼は問いかける。
「……どォだったンだよ。上条の野郎ォは」
「安価↓2」
「大したことはなかったよ」
「そ、そォか……」
あからさまにほっとする一方通行。
どっちもどっちだな、と呆れながらも垣根は笑う。
今までなら考えられなかった状況。
誰かが自分を愛するという異常な状況。
これは垣根になにかの変化を与えているかもしれない。
もっとも自覚できないのが垣根らしいが。
「……なあ、一方通行。お前は俺のこと愛してるんだよな」
「当たり前だろ? どォしてそンなこと聞くんだ」
首を傾げる一方通行。
垣根は自分の容姿を活かしていたずらっぽくほほ笑んで見せた。
一方通行がどきっと肩を跳ね上げたかと思うと、頬が赤く染まり出す。
(……コイツは使えるかもな)
自分の容姿など女になってから逃げるように見ていなかった。
だが、男を誘惑できるこの見た目は使える。
そう思い、垣根は一方通行の膝にまたがった。
そして、できるだけ女らしく彼の耳元に囁きかける。
「……一方通行。どこまで俺に尽くせる?」
「安価↓2」
「なンでもだ」
「……そうか、ソイツはよかった。これで変な答えが帰ってきたら上条に俺をとられてたぜ?」
「そォ言うしかねェだろォが。あンなことされたらよォ」
「だろうな」
不敵に笑い、垣根はベッドに身を預けた。
一方通行がその横に寄り添う。
二人は静かに眠りへと落ちていった。
朝。
垣根は部屋の呼び出し音で目を覚ました。
まだ眠っている一方通行の代わりに出る。
『朝早くからごめんね? 帝督』
来ていたのは麦野沈利。
眠い目をこすりながら垣根は問いかける。
「そう思ってるなら何しに来た。それなりの理由だよなあ?」
『安価↓2』
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
『今まで上条当麻と性関係に至ったことのある奴らが知りたい』
「……ちょっと待て。何で俺に聞く?」
事情を聞くために麦野を部屋へと上げる垣根。
麦野は一方通行が寝ているのを確認すると意味ありげに笑った。
「悪いが、俺にはそんなもの把握はできない」
「でも関係があったのは事実でしょ?」
「まあ、そうだが……そもそも何でそんな事知りたいんだ?」
「安価↓2」
乙
滝壺おおおおお
浜面あああああ(笑)
浜面は本家上条さんみたいになってそう(錯乱)
それでは開始
「滝壺があいつの毒牙にかかってるっぽくて」
「……滝壺? ああ、お前の同僚か」
「まあ、そんなとこね」
垣根は目を閉じ考える。
確かに上条なら平然とやりかねない。しかしここで気になるのは前の世界のことだ。
前回、麦野は最初から敵だった。今回は違う、などという盲信は絶対にできない。
(もしこいつが上条のお人形とするなら、ヤツの狙いは俺ってことになる。麦野ならやりかねないな)
おそらく滝壺の事も事実だろう。
同時進行で垣根を狙う。
その可能性を考慮して垣根は会話を続けた。
「それで……? 具体的にはどんな感じなんだ?」
「安価↓2」
「携帯に着信があると怯える。上条当麻と呟いていた」
麦野は自分の記憶をよみがえらせる。
その言葉の後にわずかに考えて、うなずいた。
「……こんなもんか?」
「ふーん」
垣根は麦野の言葉を聞くと、軽く彼女の目を見た。
怪訝な顔をする麦野をじっと観察する。
今のところ怪しい点はない。友人を心配するという普通の状況。
だからこそ疑う。彼女はそこまで綺麗な人間だったかと懐疑的に考える。
「……麦野。悪いが俺はお前を心の底から疑ってる。上条とグルなんじゃねえかってな」
「はあ? どういう意味?」
眉をひそめた麦野は苛立ちを見せる。
心外な事を聞かれれば当然と言えるだろう。
だが、それすらも演技ではないかと垣根は徹底的に麦野を探る。
「俺の推測だとこうだ。まず滝壺は確かに上条に脅されている。だが、それは俺っていう本命を手に入れる為の餌だ。お前は上条の策を実現させるよう俺に接近して、油断したところをまとめていただく。……上条の奴隷であるお前が逆らえる訳もないし、俺も滝壺も上条のモノになる……違うか?」
「ああ、そういう事ね。……まあ無理もないと思うけど」
麦野は笑った。
それが肯定なのか否定なのかは彼女自身にしかわからない。
少し間をつくってから、麦野は言った。
「安価↓2」
「でもそれは的外れ。……まぁ、証明なんて出来ないしこればっかりは信じてくれとしか言えないけど」
お手上げ、と言いたげに麦野は両手を広げ肩をすくめた。
確かにここで証明できない事なくらい垣根は当然わかっている。見たかったのは彼女の反応だ。
しかしさすがは第四位。何とも言えない表情だった。
嘘をついているようには見えないし、そうだとしたら作為的すぎる。
「……そうか、そうだよな。すまない、変な事聞いた」
「気にしないわ。……アンタの境遇考えれば当然の措置だとは思うし」
「そうか」
垣根は天井を見上げ、目を閉じた。
「……むぎの」
「ったく。まだここにいたの? 帰ればよかったのに」
垣根は麦野と共に滝壺がいるアパートに来ていた。
しかし実際にその部屋は麦野と仲間のたまり場のような場所になっている。
それも第四位だからこそできる事だった。
「……外は怖いから。それにここが一番安心できる」
滝壺はぎゅっと目をつむり、麦野に体を預ける。
震える子猫のような滝壺を麦野は優しく抱きしめ、その頭を撫でる。
垣根にはやはり不信感がつきまとう。しかし今は『頼れる上司』のような印象しか得られない。
疑いすぎかと頭を振った垣根に麦野は言う。
「それじゃあ滝壺。垣根が聞きたい事あるんだって」
「うん、わかった」
子供のように素直に頷く滝壺。
そんな彼女を引き渡される形ながらも垣根は問いかけた。
「滝壺。……上条と接触持ったのはいつだ?」
「安価↓2」
「はまづらにフラれてすぐだよ。……はまづら、新しい彼女ができたって言ってた」
「……なーるほどね」
垣根は笑う。
麦野も大体の状況が読めてきたのか口惜しそうに舌打ちした。
浜面にタイミングよく彼女ができたという事は、やはり上条の存在を否定できない。
例えば滝壺を手に入れる為、浜面に新しい女を与えてそちらに感情を移したという可能性。
元々、浜面と上条は手を組んでいてそういう演出をしたというのも面白い。
「……そうか」
垣根はそういう悪らしい思考をひた隠しながら滝壺を優しくねぎらった。
辛かったな、と。
それだけで滝壺は垣根を信用し、身を預ける。
相当に心が弱っていた。
「次は浜面仕上だな……」
垣根はそう呟いて、唇を歪めた。
滝壺を麦野に任せて垣根は浜面仕上と接触した。
唐突に現れた第二位に彼は動揺を隠しきれない。
その背中でじっと垣根を見つめる視線があった。おそらく浜面の今の彼女だろう。
垣根は笑って言った。
「彼女つれてデートとはいい御身分じゃねえか。落ちこぼれ」
浜面の彼女 安価↓2(禁書女性キャラ一名)
「……仕上、こちらの女性は?」
浜面の後に佇むのは凛とした雰囲気を放つ長身に黒髪の女性。
長い刀と片方だけ完全に破れたジーンズをはいているのをあえて垣根は無視する。
「おいおい、浜面。テメエにはもったいないくらいイイ女じゃねえか。俺が欲しいくらいだぜ」
「……うるせえよ。お前はレズかっての」
「あの……話が読めないのですが?」
「ああ、そっちのお前は少し話聞いとけ。まずはこの男と話さなきゃいけない事がある」
「……わかりました」
流れるような会話。それはまるで台本に書かれた台詞を読み上げるかのようだった。
垣根は近くのベンチを指す。
そこに三人で腰をかける。
普通なら美人に挟まれた浜面は羨むべきなのだろう。
だが垣根の放つ殺気はそんなものを吹き飛ばしてしまう程だ。
「……見れば見る程綺麗な女だ。浜面、どこでソイツと会ったんだ?」
「……答える義理はねえ」
そっぽを向く浜面に垣根は笑って見せる。
それは答えなければ殺す、というサインでもあった。
垣根はさらに追い詰めるように言葉を続ける。
「まさか……上条当麻が紹介してくれました、とかじゃねえよなあ?」
「安価↓2」
「違う。スキルアウトに路地裏で迫られてたから助けたんだ」
「……本当か?」
垣根の言葉に神裂はうなずいて応じる。
ここまで見ると、確かに学園都市ではあり得る話に思えなくもない。
だが、垣根はこの事実すら疑う。
(……もしこの女が上条当麻の駒ならどうなる? この期に及んで浜面が演技できる程のヤツとは思えねえが、この女……イヤな感じだ。どうも信用できる気がしねえ)
その可能性を考慮しつつも垣根は話を進めた。
「さて……本題に入ろうか。浜面、お前がこの女に惚れちまったから滝壺と別れたってのは、まあわかる。だが、滝壺が上条当麻に脅されてるってのを知らないとは言わせねえ。……どうして、何もしない。元カノならせめてものけじめってのがあるはずだ。そう考えるとやはりお前は上条と繋がってるんじゃねえのか?」
「安価↓2」
「いいよ滝壺のことなんかどうでも……」
浜面は吐き捨てるように言った。
表情に怒りをにじませながら彼は言葉を続ける。
「あいつは、あいつはな。俺を包茎で早漏ってバカにしたんだ。だけど神裂は違う。ありのままの俺で良いと言ってくれた。俺の劣情を受け入れてくれんたんだ」
「ぶふっ……」
垣根は思わず噴き出した。
浜面の言葉がバカらしくて仕方がなかったからだ。
「そんなの俺でも幻滅するわ。離婚の原因の一番は浮気じゃなくてセックスレスっていう時代なんだぞ?」
「な……テメエ!」
「まあいいや。その辺りはまた後で滝壺に聞いてやるよ。……さて次はそっちの女だ」
「!? おい、神裂は関係ないだろ!!」
「神裂っていうのか……そうかそうか」
憤る浜面を無視して笑う。
垣根はベンチから腰をあげ、神裂の前に立つ。
見下ろすような形で垣根は問いかけた。
「神裂、正直に答えろ。……お前は上条当麻に命令されて浜面に接近したんじゃないのか? アイツが滝壺……そして俺を手に入れる為と聞かされて、な」
「安価↓2」
「残念ながら私は上条当麻とは無関係です。インデックスへの仕打ちで話が拗れて以来、彼とは一度たりとも顔を合わせていません」
「……なるほど。そういう事、ね」
垣根は天使との賭けを忘れそうになる程、この頭脳戦に没頭していた。
上条当麻。
彼はただ一つ、『女』が絡むだけでここまでの網をはる。
それは確実に垣根の行動を停滞に追い込んでいた。
(面白え……絶対に負けを認めさせて、跪かせてやる)
黒く笑った垣根は浜面へと視線を向ける。
その異常な雰囲気に気圧されながらも浜面は視線をそらさない。
「……何だよ」
「まあ、簡単な事だ。今後、何かあればお前らには協力してもらいたい。あと、上条から何か言われても全部無視して何を言われたか俺に伝えろ。いいな?」
浜面はわずかに躊躇しながらも答えた。
「安価↓2」
「別にかまわねえよ」
「ソイツはよかった。ここでおしい人間を二人失うところだったぜ」
「……それは私も含まれているという事ですか?」
さあな、ととぼけて垣根は携帯を取り出す。
浜面と互いのアドレスを交換し合って、垣根は二人と別れた。
「お帰り、どうだった?」
「……意味がわからない程、拗れてやがるぞ」
垣根はアパートに戻ると、心底面倒そうにソファへ身を預けた。
滝壺はもう立ち直ったようでもぐもぐと大福をほおばっている。
そんな何気ない様子で過ごす滝壺へ垣根は言う。
「なあ、滝壺。お前さ、浜面を包茎と早漏で馬鹿にしたらしいな」
「……それは」
「別に責めてる訳じゃない。俺だってそんな男には幻滅するさ。……けどな、お前の口から出た言葉が原因で上条に狙われてるなら、それはお前の責任だろ。それなのに、いざ標的にされたら『怖いです、助けてください』ってのは少しばかり自分勝手すぎないか?」
「安価↓2」
「ごめんなさい。でも女の子が大切にする……その、初めてを捧げたのがそんな情けないのだと思うと……」
「クク……ハハハハハハ! ダメだ、これ。腹いてえ……」
垣根はソファの上で足をばたつかせて悶える。
その姿に滝壺はむっと怒りを見せながら言った。
「かきね……いくら何でもそれは酷い」
「は? いやいや、お前がそんな馬鹿な事するから悪いんだろ。どう考えてもな。……これならもう上条に犯された方が幸せなんじゃねえの?」
「……ッ! もういい」
滝壺は不快感をあらわにしながら、その場を立って自室へとこもる。
垣根はそれを笑って見つめた。
「……ずいぶんと厳しいわね」
滝壺が部屋にこもってからわずかな間を開けて、麦野が言った。
だが、その目はどこか嬉しそうにしている。
「……でも滝壺の気持ちだってわからなくもないわ。そういう意味ではアンタ、言いすぎよ」
「ま、別れるカップルなんざいくらでもいるしな。気にするだけ損、か……。でも上条はそういう女も確実に自分のモノにするぞ? 俺もお前も女なんだぞ? 明日には誰か……あるいは全員がアイツの虜かもしれねえじゃねえか」
「それはないわね」
「……どうしてそう言える?」
麦野はわずかに笑う。
その様子に怪訝な表情をした垣根に彼女は告げた。
「安価↓2」
「私は女としての機能を失っているから」
「……はあ?」
思わず驚きの声を上げる垣根。
その様子も当然、と言わんばかりの表情で麦野は語る。
その姿は彼女の諦めを写していた。
「……妊娠、できないの。学園都市でも原因不明でね。ホント、人の体って神秘的よねー……私、妊娠だけじゃなくて満足に男と性行為もできない体なのよ? 意味を理解した時には少し悲しかったわ。異性を好きになる権利する奪われたんだなって」
「……不感症ってやつか」
「それは症状の一部ね。完全に生殖機能がいかれてるのよ、私」
辛い現実。それを理解しても麦野は強く生きようとしている。
自分のような暗い人生を歩ませないために彼女は滝壺を救おうとしているのか。
上条サイド、という可能性は一気に減ったがそれでも垣根は疑念を消さない。
「……それで、どうして俺にそんな事を話す必要がある。お前からしたら知られたくないコンプレックスってヤツじゃないのか」
「安価↓2」
「『誰にも言えない秘密を言いたくなったのがアナタだった』じゃ、ダメ?」
「そいつはどうも。まるで好きなヤツに言う口説き文句だな」
「好きよ……少なくとも私の周りの中の人間じゃ一番」
ぽん、と垣根の膝へ頭をおく。
結果的に膝枕の形をとった二人の間に微妙な時間が流れる。
静かで、心地よく、安心できるわずかな瞬間。
警戒を解かないようにしても、自然と心がゆるむのを垣根は自覚する。自覚しても、止まらない。
「……ねえ、アンタに彼氏がいるのもわかってる。でも、今日くらいさ。恋人ってのを味わいたいんだけど……ダメ、かな」
もう届かない願い。
それでも一度くらいは、と麦野は垣根のズボンを握る。
不思議な感覚と共に麦野な頭を撫でながら言った。
「安価↓2」
≪酉入れ忘れた……≫
「とりあえず、いっぱいキスを」
「はいはい……」
麦野が垣根に口を合わせると、垣根はそれに合わせて舌をまぜあわせる、
互いの舌が絡み合い、水音を響かせた。
それは二人に届く程度のもの。だが、二人の間では確実にとろけるような感触だった。
それを何度も何度も繰り返す。
言葉もかわさずに互いの唇、舌をむさぼり合う。息が切れれば少し口を放して空気を吸う。わずかな間は全てそれだけだった。
しばらくして、麦野がもういいと言ったように首をふる。
それを合図に垣根も息を整え、そっと麦野を抱きしめた。
「……本当にこれだけでよかったのか?」
「ええ、これ以上は望みすぎよ。私はそういう人種だから」
ふと、元いた世界を思い出す。
暗部の自分もその時は誰かを愛する事はできないと思っていた。というより、できる環境ではなかった。
それが今は逆に誰かを愛する事を強いられている。
でも男を愛すれば精神が、女を愛すれば肉体が矛盾するこの世界でそれは難しいだろう。
だが切り捨てるにはどこか惜しいとも思えるのが、垣根の葛藤を誘っていく。
これもあの天使は笑って見ているのだろうか。
誰かを愛するのは男でも女でもかまわない。だがお前にできるのか。
そう言われている気がして垣根はこみあげる悔しさをにじませる。
「……帝督。アナタはすごいわよ。身勝手な男二人にレイプされてそれでもまだ、そんなに強いんだから。私なら悲観して自殺しちゃう」
「俺は別に強くねえよ」
そう。
強かったのは前の垣根帝督で自分では無い。自分は今の状況を見ているだけの他人。
それでも何を思うべきなのか。何を感じるべきなのかくらいは理解すべきなのだろう。
「ううん。帝督を見てると、カッコいいって思える。……だからこんな事頼んだのかな。私、自分が思ってる以上に帝督の事が好きなのかもね」
「安価↓2」
気の置けない相手の間違いだろ
「また何かあったら頼ってくれ。こっちも初めてこっちで完全に気のおける相手を見つけてほっとしたよ」
「……こっちで? まあいいか。でも彼氏は?」
「アイツは、そういうのじゃない」
垣根の上から避けて、麦野はいじらしく笑う。
いくつもの世界で初めて得た信用。それに垣根は言いようのない感覚を得る。
それは愛とかそんなものではないだろう。だが、そうなる可能性はあった。
結局、一方通行の事を考えると垣根は帰宅するしかなかった。
だが、彼女をただで帰させる程この世界は甘くない。
唐突に後ろから抱きつかれる。
その犯人はやはりと言うべきか、上条当麻だった。
「……周りの視線を考えないのか、お前」
「そう言うなよ、気にしないのが学生ってもんだろ?」
耳元でぼそぼそと囁く上条。
実際、これに堕ちる女がいると思うと垣根は寒気すら覚える。
「……何しにきやがった。様子を見る、と言ったはずだが?」
「安価↓2」
≪>>622 そうですね、申し訳ありません。気のおける→気のおけないに訂正します≫
「ちょっと面白いモン見つけたんだ。こっちに来てくれ」
引っ張る上条の手を垣根は振り払った。
怪訝な顔をする上条に垣根は言う。
「……そのまま路地裏でってパターンじゃねえよな」
「いくらなんでもそれはしねえよ。そしたら一生お前に愛されないだろ?」
「まあ、そうだが」
冷静に考えれば能力もある。
上条から逃げる事くらい訳はない。
垣根はそう決心し、上条についていく。
「ほら、こっちだよ」
そう言って、上条は路地裏をさす。
先に行くように促し、垣根は慎重に路地裏へ入った。
そして、そこには。
上条が見つけたもの 安価↓2(アバウトでも可)
「ん、はぁ、浜面ぁ! 好き、好きですう!!」
「ああ、俺もだ! 神裂」
そこでは神裂が浜面を強く抱きしめ、腰を振っていた。
浜面も彼女を強く束縛し放さないようにしている、
垣根はその様子にただ呆れ、幻滅した。
上条はその様子をニヤニヤとしながら見つめているが、垣根には理解できない。
その淫靡な光景を見せて上条は何をしたいのか。
「……おい、これお前がやらせたのか?」
「冗談だろ。たまたま見つけた」
「だったらほっとけばじゃねえか。何で俺に見せた」
「安価↓2」
「なに、ちょっとした余興さ」
そう言って上条は肩をすくめた。
この男が何を考えているのか垣根にはわからない、もっともわかりたいとも思わないが。
視界をさりげなく路地裏からそらし垣根は告げる。
「……とりあえず、減点だな」
「ええー!? なんでだよ! エッチな事してるヤツ見せただけじゃねえか」
「だからだよ! 胸糞悪ぃ……」
「……笑わせんなよ。一方通行にレイプされる直前には自分から俺に迫ってたクセに」
急に、上条が雰囲気を変えた。
一方通行にもあった、異常なまでの執着。
それを露出させながら上条は言葉を続ける。
「あんなに気持ちよさそうに俺としたクセに! お前は……普通の女と違って、情緒不安定じゃなくて……ただ、人を弄ぶように、誘惑する。自分勝手な女だよ! なのに、お前はこんなにも魅力的で、綺麗で……クソ。何でお前は俺に堕ちない。他の女とお前の何が違うんだよ……」
八つ当たりするように胸ぐらを掴み叫ぶ上条は震えていた。
怒りと悔しさをにじませるその姿はどこか悲しげでもある。
垣根はゆっくりと口を開いた。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「知るかそんなもん」
適当に答えて、垣根は上条を押しのけた。
抵抗する様子もなく上条は後ろへ後ずさる。その姿からは一切の覇気を感じられない。
ただ、その瞳は決してあきらめない。
「……そう、だよな。お前が知るわけないか。俺に魅力がないだけだし、な」
半ばやけくそになって上条は呟く。
そこまで執着する意味はわからないが、それが彼の信条というなら垣根も否定しない。
だが、それに垣根が従うかは別問題だ。
「……気分次第のわりにはやけに積極的だな。今はそんな気分だからか?」
「まあ、な」
ここで垣根のいたずら心に火がつく。
思いつくように垣根は言った。
「じゃあ……もしお前が全部の女と別れるなら、俺を好きにしていい。そうなったらどうするんだ?」
「安価↓2」
この世界にヒーローはいないと思う
それでは開始
「そんなことでお前が手に入るなら、他の女なんて全部捨ててやるさ」
上条はそう言いながらも諦めるように視線を落とす。
垣根はそんな事でなびかないとわかっているから。
それでいて弄ぶ彼女がどうしようもなく、憎くて愛おしい。
上条はだから垣根がほしかった。
その全てを自分にだけ向けてほしいから。
案の定、垣根は首をふって否定する。
「まあ捨てても意味ないんだけど」
「だよな」
短く答えて上条はため息をついた。
「……はあ、疲れる」
垣根はだるそうにベッドに寝転がった。
隣では一方通行が寝息を立て、眠りについている。
殺そうと思えば簡単にできそうな程、近い距離だった。
反射もきっているのか、触っても問題はない。
「……またお前か」
世界が色を失うと同時に天使が現れる。
天使は静かにほほ笑むと言った。
「どうだい? 男から女になった事で影響はあると思うが……今回は勝てそうかね?」
「安価下2」
「いろいろと面倒くさいことが多すぎる。心底、男に生まれてよかったと思うぜ」
垣根は吐き捨てるような調子で言った。
天使はその言葉に笑う。
それはある意味、ゲームを支配するマスターの余裕ともとれる。
『確かにそうだろう。だが実はもう一人足りなくてね』
「……どういう意味だ」
垣根は天使を注意深く観察する。
そんな事でどうにかなるとは思えなかったが、これは気持ちの問題だからどうしようもない。
しかし天使は多くを語らず、一言言い残し消えた。
『それは始まってからのお楽しみさ』
それは意外な形で起きた。
世界が色を取り戻した直後。垣根の携帯が鳴った。
通話に出てみるが、垣根にとっては予想外の言葉が響く。
『こうして話すのは初めてかな? 私はアレイスター=クロウリー。学園都市統括理事長だ』
「!?」
垣根は思わず言葉を失った。
今、通話している相手が学園都市のトップだとすればわからない事が多すぎる。
なぜ自分なのか。そもそもこのタイミングである意味はあるのか。
垣根は慎重に問いかけた。
「……何の用だ」
『安価↓2』
『絶対能力進化計画。そう言えばおおよその事は理解してもらえるだろう』
「……ああ、そうだな。物凄く聞き覚えがあるな」
電話の向こうで微かな笑い声が漏れた。
それは何かを確信するようなもので、垣根にイヤな感覚を与える。
『とにかく、だ。私の「プラン」の為にもこの言葉を覚えていて欲しいだけさ』
通話が、切れる。
携帯を棚におく垣根の表情はさえないものだった。
疑念は晴れない。
アレイスターの考えが読めない以上、別の切り口を捜すしか垣根には方法がなかった。
最初から垣根は自身の立場を利用する。
彼は一方通行へとストレートに投げかけたのだ。
「なあ、一方通行。『絶対能力進化計画』って知ってるか?」
「……さァな。俺に関係ありそォなのは認めるが、聞かない話だ」
一方通行は何かを含むように答える。
それは隠し事があるようにも見えるし、『絶対能力者』に一番近い人間として当たり前の動揺にも見えた。
一方通行はその間を潰すかのように問いかける。
「仮に、関係してたとしても自分から切り出さない時点で素直に認めるわけねェだろ。まあ知らないンだけどな。……その胡散臭い計画がどォかしたのか?」
「安価↓2」
「統括理事長がそれを覚えていろってさ」
「……なァるほど。そォいう訳か。前から不気味な人間じゃねェかとは思っていたがそうくるのか。確かに、俺とオマエには無視できねェ話ではある」
だが、と一方通行はコーヒーを啜りながら言葉を続ける。
「俺はそォいう大事な話は必ずオマエにする。これだけは約束できるぜェ?」
「……そうか。ならいい」
一方通行の言葉は恋人である垣根帝督へ伝えている。
信用できるはずなのだが、あの統括理事長が相手なだけに垣根は不安を消しきれなかった。
街を歩いていると、垣根にしては珍しく不幸に出くわす。
それは銀行強盗。
本来、現金よりもカードなどのマネーカードが流通しているから銀行など垣根には必要ない。だがそれでも何となく現金が全くないのも不慮の事態に備えられない。そういう意味での引き下ろしだった。
銀行強盗は手際よく人質を一か所にまとめる。
やがてそれは垣根の元へも及んでいく。
垣根はチラリと強盗犯を見た。顔を隠していないのはバカだからか、自信があるのか。
(さーて……どんな顔してんだか)
垣根はその目に焼き付けた。
強盗を実行した人物 安価↓2(禁書キャラ。常識の範囲であれば複数でも可)
(コイツ、グループの……イヤこの世界では違うのか?)
主犯として動いているのは金髪にサングラスの男。
垣根の記憶が正しければ土御門元春という名前だったはずだ。
その影では少女がせっせと金を集めている。
少女はともかくこの男がこんな間抜けな事をするとは垣根には思えなかった。
「おい、お前。あまり動くと撃つぞ?」
「よせよ。そんな銃が俺に効くとは思っていないはずだ。お前が俺の思った通りの男ならな」
「……、」
確かに土御門の銃は何の迷いもなく垣根へ向けられている。慣れている者独特の威圧感がそこにはあった。
だが、少女はおそるおそるといった感じで襲えば簡単に取り押さえられるだろう。単に、土御門がその抑止力になっているだけだ。
垣根は薄く笑う。
「……俺にはどうも意図的な何かを感じるな。第二位のいるところを襲うなんて、もし知ってれば絶対にやらねえだろうしな。……お前があんな弱そうな女を巻き込んでまで強盗をする理由はなんだ?」
「安価↓2」
「舞夏は捕まった方が安全なんぜよ。まあ三年は出れなくなるだろうが死ぬよりはマシなはずだにゃー」
おどけた調子で言ってはいるが、土御門の目には確かな意思が宿っている。
垣根はそれをじっと見つめた。
もう、他の人質など蚊帳の外だ。今は二人の微妙な駆け引き。
「……それで? 他に方法なかったのか」
「ない、と断定する程俺は綺麗な人間じゃないにゃー。……だが俺にとってはこれが限界だった」
「でも周りに頼れば違う方法があったんじゃねえのか?」
「……さあな。周りを頼る余裕もなかった」
大方の事情を聞きだした後。
垣根は核心へと迫った。
「……理由と状況によっては協力できる。何があった?」
「安価↓2」
「木原とある統括理事主導の実験を潰そうとした。……その過程では罠にはまったんだよ。全く、我ながら情けない話だと思うくらいだ」
「……木原? 何でアイツらが協力した。むしろアイツらが実験を主導しそうな感じじゃねえか」
垣根が怪訝な顔で問いかけると土御門は軽く笑った。
そして諦めたような表情で言う。
「そこから先は言えないにゃー。……じゃあな、第二位。後は頼むぞ」
結局、ヒントと言える程のものは得られなかった。
土御門兄妹は呆気なく捕まったし、木原の動きも謎だらけである。
でも木原なら垣根にも当てはあった。
木原病理。
彼女と垣根は簡素な喫茶店で向かい合う。
「……久しぶりですねえ、垣根クン。私としてはお呼び出しは嬉しい限りです」
「そうかよ。俺は別にどうでもよかったんだがな」
病理はじっと垣根の顔を見つめている。
ときどき、何かにほほ笑んでみせるそのしぐさに垣根は違和感を覚える。
「……なんだよ、何がおかしい」
「安価↓2」
「え? いや可愛い顔してるなーって」
クスクスと笑い、また垣根を見つめる。
それはイタズラする大人の女性にも見えるが、本当に垣根を狙う獣にも感じられる。
垣根はそれに変な嫌悪感を覚えながらも言った。
「……そういう話をしに来た訳じゃねえんだ。お前、土御門って知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。何度か聞いたことがあります」
「なら、アイツが潰そうとしていた実験を知ってるんだな?」
「ええ。『絶対能力進化計画』でしたかね。……あれは木原の流儀に反する実験ですからね」
やけにあっさり話が進む。
逆に気に入らないが、展開が早まるのは垣根としてもありがたい。
しかし、相手は木原病理。ただで終わるはずもなかった。
「教えてもいいですけど……条件があります」
「条件?」
「安価↓2」
「今、木原ではレベル6を巡って対立が起きてましてね。第一位を使ってレベル6に至るか、それとも第二位、もしくは三位を使うかで、お互いに潰しあってるんですよ」
そこで、と病理は言葉を続ける。
「アナタに第一位の派閥をつぶして欲しいんです」
「……ちょっと待て。俺がその派閥を潰すのは、まあできるだろう。だが、もし潰せば俺に白羽の矢がたつってワケだよな」
「まあ、そうですね」
垣根は思わず眉をひそめた。
病理の意図が全く読めない。というか何をしたいのかがわからなかった。
第二位を使いレベル6を実現させる。それは確かに不可能な話ではないだろう。
だが、垣根がそれを引き受けるかは別問題だ。
「……俺が実験を受けるかわからないだろ。なんでそんな事をする」
「受けるって確信してるからですよ。アナタは上条当麻と第一位の二人にレイプされた。女性問題を抜きにしてもアナタのプライドがズタズタな事くらい私にもわかります。……その二人を好きにできるんですよ? 単純に殺すよりも、『死』を与える事よりももっともっと酷い目にあわせられる……そっちの方が素晴らしいと思いません?」
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「帰る」
「……え?」
垣根の言葉に病理は意表を突かれたのか間抜けな声を上げる。
本当に席を立ちあがった垣根の表情は呆れを写していた。
こんな事で単純に引っ掛かると思われていたのか。それ程、この世界の垣根は単純な人間だったのか。
怒りを通り越してあきれるばかりだ。そこまで自分は単純じゃない。
そんな垣根の心情に気付かず病理は言った。
「どうしてですか? チャンスなんですよ!? こんな互いにとっておいしい話は滅多にありません。……それを棒に振る気ですか?」
「……どうだろうな」
「……まさか、一方通行と恋人である内に本当に情が移ったとでも言うつもりですか?」
「安価↓2」
上条「 やっと登場したと思ったのにクズとか・・・」
一方通行「 ようやくクズ撤回!」
これ垣根が誰かを愛してしまったらクリアなんだよな?
次の世界に行きたかったら敗北条件満たすしかないのか?
いっそ勝利してしまって、また新しく世界観構築から~とか。
もしくは新スレで主人公、話チェンジとか
「かもしれないな……」
垣根は意外な形で肯定した。
これが天使との賭けだからなのか、単純に自分の心理なのかは本人にもわからない。
「残念ながら『俺』はあいつらになんの恨みをもっちゃいないからな。上条は気持ち悪いが」
「……どうして、あそこまでされて恨まないんですか?」
垣根の意味ありげな一言に病理は首をかしげた。
しかしどこかに科学者としての探究心が見えている。
垣根は病理が前の世界で自分の中身が別人であると気づいたことに注意しながらゆっくりと立ち去った。
帰宅すると一方通行がふてくされたようにソファに身を預けていた。
どうやら垣根とあまり一緒にいられないのが気に入らないらしい。
そんな程度の事で、と苦笑いしながら垣根は言った。
「……今日さ。木原病理から『絶対能力進化実験』の被験者にならないかって誘われたよ。お前と上条を倒せるっていう誘い文句でな」
ピクリと一方通行の体が反応する。
勢いよく起き上った第一位は問い詰めるように垣根に迫った。
「……それで引き受けたのか?」
「イヤ、断った」
それを聞いて露骨にほっとして見せる一方通行。
だが同時に垣根がどうして引き受けないのかという疑問も上がった。
「何でイエスと答えなかったンだ? ……いくら彼氏とはいえ、俺はオマエをレイプしたンだ。オマエが断る理由がわからねェ」
当然の質問。
そう思って垣根は答えた。
「安価下2」
「そんな事しても何も戻りはしない」
本音で言えば垣根のプライドはボロボロだ。
でも、何度か失敗して学んだ事があった。過去は変わらない、と。
ならば変わりもしない過去に執着するよりは可能性を広げられる未来を選ぶのが得ではないのか。
垣根はそれに気付いただけだ。
過去は忘れないが、そこを中心に生きては間違いなく失敗する。
感情を完全に切り捨てた合理的判断だった。
「……俺は、わかったんだ。ここでお前を殺しても、圧倒的な力があっても……勝てないって」
今さら知った事。
あの時、あの一方通行に勝てなかったのは守りたいものがあるかないかの差だった。
能力の制限を考慮すれば互いの力は五分五分。
その微妙な差を絶対的な壁に変えたのは、目的意識。本当にそれだけ。
だが、垣根はそれを捜そうともしなかった。一方通行が力と引き換えに得た居場所はその溝を深めたのだ。
「……帝督。オマエが何を抱えてるかは聞かねェ。でも俺は例え何を失ったとしてもオマエだけは守り抜くって決めたンだ。ずっと、死ぬまで」
一方通行の言葉が重たく垣根にのしかかる。
しかしそれはある意味、垣根が求めていたものなのかもしれない。
ぎゅっと一方通行は垣根を抱きしめた。
「頼む。……たった一度でいいから、オマエから答えが聞きてェンだ」
「安価↓2」
「お前を愛してる」
なぜそう思ったかはわからない。
ただ、間違いなくそう思えた。
きっと誰かを愛するのにそこまで深い理由なんてないのだろう。
「あ……あァ」
一方通行はそんな垣根の情動に反応するように抱きしめる力を強める。
放さないように、離れないように。
垣根もそれに応じ、頭にそっと手をおく。
女なのにやってる事は男と変わらないな、と苦笑いしながらも垣根はそのふわふわとして白髪に顔をうずめた。
勝利条件は満たした。
だが、天使は現れない。
まだ超えていない問題があるからだ。
上条当麻。
人気のない路地裏へと垣根を誘導した彼は笑い、俯いた。
垣根がわざとついてきたとわかっているからだ。
彼は体を震わせ、迫る。
「どうしてだ! 何で第一位なんて選びやがった! ……俺は確かにクズだよ。お前が俺を嫌悪するのはわかる。でも、それは第一位も同じだろうが!!」
「……そうだな」
「なら、何で! 俺は捨てられてアイツは選ばれる!!」
「安価↓2」
レベル6計画止めなくていいのか?
安価なら生理的に受け付けない
≪>>698 この世界ではまだ始まってないです≫
「生理的に受け付けない」
容赦のない一言。
上条の表情が怒りにそまり、沈んだ。
上がったりさがったりの不安定な上条はまるで女のようだった。
「……、」
わずかな間があって、上条は笑った。
一瞬だけ不信感を覚えるが問題無い。
上条について調べても間違いなく無能力者だ。第二位の垣根に不安な要素はない。
にも関わらず上条は笑い続ける。
「……まあここまでは予定通りだったりする訳だ。最初は不安だったが、お前が油断してくれてよかったよ!」
ダン! という鈍い音と共に垣根は壁に押し付けられる。
素早く能力を使おうとして違和感に気付く。
能力が、使えない。
上条は焦る垣根の耳元で挑発するように囁いた。
「み・ぎ・て」
(右手? そうかコイツ……! 資料で一度目を通しただけだが間違いない――――『幻想殺し』か!!)
ようやく自分のミスに気付くがもう遅い。
女の細うででどうにかできるほど、上条は脆くなかった。
「……思い出させてやるよ。自分がどういう女だったか」
上条の引き裂くような笑み。
垣根は思わず歯ぎしりする。
ようやく、ここまで来たのに。あと一歩だったのに。
自分は、またくじかれるのか。
コンマ範囲判定 ↓1~↓6
ゾロ目なし 上条による強姦
ゾロ目あり 一方登場
ゾロ目二つ以上で……?
連投あり?
≪……連発とかない >>702コンマなら構いませんが今回は……≫
「そこまでだ」
凛とした声が響く。
その声の主は緑の手術衣に地面にふれそうな程の長い銀髪だった。
男とも女とも。老人とも子供とも。聖人とも囚人とも判断がつかない人間は淡々と言葉を続ける。
「残念だが、上条当麻。君は私の思い描く『プラン』には適さない人材だったようだ。……ただ今を持って君からその右手をもらいうける」
「……なに言ってんだお前。というより誰だ」
上条は垣根から右手を放さずに問いかけた。
その言葉に人間は笑う。
子供を慈しむようにしか見えないその目に、上条は不思議な怒りを覚える。
直後だった。
上条の右手が肩のところから切断された。
「……は?」
その声は上条だけでなく、垣根のものでもあっただろう。
現に彼女の服にも顔にも上条の血液が大量に飛び散っている。
上条はその鮮やかな景色を眺めながら地面に崩れ落ちた。
「……やはり完成度が低すぎる。次代に期待、と言ったところか」
垣根は茫然とする頭を必死に回転させる。
プラン、という単語。
そして幻想殺しの重要性。
これを考えると目の前の人物は一人しか考えられない。
「……統括理事長、アレイスター」
「垣根帝督。こうして顔をあわせるのは初めてだな。……資料を通すよりも美しい」
気を利かせているつもりだろうが、全く意味はなかった。
垣根さえ直接破れないであろう右腕をアレイスターはいとも簡単に切り離したのだ。
勝てる気がしなかった。
「……何で、どうしてお前が出てくる。お前の『プラン』にどう関係する!?」
必死で、追い込まれた獲物のように声を上げる垣根。
アレイスターは軽く笑う。
そして、ゆっくりと言った。
「安価↓2」
「土御門兄妹はあらぬ事故で人生を棒に振った、可愛そうに。せめてあの時、上条当麻が禁書目録と関わるのを阻止できていれば学園都市から見捨てられてもイギリス清教に助けてもらえただろう」
「……、」
垣根にはアレイスターが何を言っているのかはわからない。
でも何かを示唆している。確実に。
血を拭き取る事すら忘れて、垣根はその話に聞き入った。
「上条当麻のせいで稀代の天才、ステイルはイギリス清教を去り、聖人である神裂火織も寂しさを埋めようと学園都市の男に走ってしまった。彼、土御門元春はその責任を負わされイギリス清教から追放された」
そこまで言ってアレイスターは深く息を吐く。
何かに落胆するようなその吐息は、愚痴をこぼす人間のような述懐だ。
「……そしてそんな状況になっても彼は友よりも情欲を優先した。彼はもはやヒーローではない」
アレイスターの寂しげな笑顔で全てを悟る。
全てを知ったその笑みには、疲れが見えたから。
何か大きな事をしようとして、失敗してしまった。
その諦めが一人の人間を失意の奥へとおとしていく。
「……今さらお前の『プラン』に興味はねえ。それでも、おしえてくれ。お前は……この街を使って何をしたかったんだ?」
「安価↓2」
「幸せな妹達の世界を作りたかった」
叶わない願い。
手を伸ばし、努力すれば間に会ったはずのソレはたった一人のヒーローが壊れたばかりに終わってしまった。
隠す意味もなく、話す意味もない。
虚しいだけの、夢物語。
「……そうか」
垣根は、その他人には理解できない何かを否定しなかった。
それこそが彼の成長なのか。
むしろ、理解できない事こそが。安易に認めない事こそが理解なのかもしれない。
「……それではな。垣根帝督。上条当麻はこちらで処理しておく。彼にはこのまま生きてもらうよ。私の短い余命の娯楽として、ね」
そう言って統括理事長は姿を消す。
垣根はただ、上を見上げた。
片づけなければいけない問題がある。
それは個人的にスッキリさせたいだけの事なのかもしれない。
神裂火織。
垣根は呼びとめ、問いかけた。
「……お前の経歴は大方聞いた。その上で答えろ。お前は、浜面を本当に愛しているのか?」
「どういう意味ですか」
「ただ単純に自分の隙間を埋めるピースか何かと思ってるなら……俺はアイツに失礼だと思う。それだけだ」
自分にしては珍しい感情論だと思う。
でも、これだけ言えるのは彼の強さだった。
神裂はその雰囲気を感じ取り、答える。
「安価↓2」
「虚しさを埋めるために近づいた事は否定しません」
神裂は己を恥じるように言った。
だが、彼女はそこにはとどまらず言葉を続ける。
「……恋愛感情かどうかはわかりませんが、彼が大切な人である事は確かです」
「……そうか」
本当に神裂の真意が知りたい訳じゃなかった。
自分の中の思いが何なのか確かめたかっただけ。
きっと、それだけだったのだ。
「……遅かったな」
重々しく呟いた一方通行の横に垣根は座る。
怪訝な顔をする第一位にほほ笑みかけると、彼は頬を赤らめた。
それがどこかバカらしくも素晴らしい事に思えてくる。
「どォしたンだよ……急に」
「何だよ。俺は彼女なんだろ?」
「まァ、そォだけどよ」
視線をそらした一方通行の顔を強引にこちらへ引き戻す。
垣根は確かめた自分の感情を告げた。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
「愛してるぜ……俺はすぐにいなくなるけどな」
「……え?」
一方通行は思わず自分の目を疑う。
垣根は、泣いていた。
それなのに、何かイヤな予感がするのに潤んだ瞳も速まっている呼吸もただただ愛おしいとしか思えない。
ぽたり、と一粒だけ涙を落とし垣根は一方通行と口を合わせた。
「……じゃあな」
その言葉と共に垣根は一方通行の前から姿を消した。
彼の手の甲には、間違いなく彼女の涙が残されているのに。
垣根帝督の姿はどこにもなかった。
『素晴らしい……見事だ垣根帝督。やはり私の選択は正しかった』
天使は珍しく感情を高ぶらせて言う。
その無機質な目がわずかに息を取り戻したようにも見えた。
垣根はその様子に苛立ちを覚えながら強く言う。
「……勝利条件は満たした。どうなるんだ、これから」
『そうだな……君の望むままにしよう。過去と未来を見せる約束を果たしてもいい。この世界に残る、でもいい。その場合は二度とその世界から出られないがね。次の世界へ行くのもありだな。……ただし叶えられる願いは一つだけだ。大穴に私のペットになる、というのもあるが?』
天使は茶化すように言った。
しかしこれは大事な問題だ。
この世界は垣根にとって一番のものだったが何しろ自分は女なのだ。色々と弊害があるだろう。
慎重に考えながら、垣根は言った。
「安価↓2」
どこまで夢は広がるのか……
それでは開始
「次の世界へ」
その言葉に天使は笑う。
まだ、楽しみが消えない喜びを実感しているようだ。
もう慣れたやりとりを垣根と天使は行う。
「……今度は男にしろよ」
『もちろんだとも。さて……今度はどんな世界がいいかな?』
何か試練となる何かを天使は探した。
垣根はそれをじっと見守る。
その時間は永遠のような何かを感じさせる。
ふと、目が合う。
天使が、やさしくほほ笑んだように見えたのは気のせいか。
「……決まったか」
『ああ……この世界はよさそうだ』
次の世界の設定 安価下2(アバウトでも可)
『二万人の白井黒子を君が管理しなければならない、か……これはこれで見ごたえがありそうだな』
「……?」
怪訝に眉をひそめる。
聞きとれた単語から連想できる何かはない。
白井黒子という名前に聞き覚えはないし、管理の意味も推測はできなかった。
だがそれももう慣れたものである。
そんなものは世界に行ってから確かめればいい。
『次は勝利条件、敗北条件の設定だな。……前回は簡単すぎるような気もしたから今回は難しくしようか?』
「やめろよ、面倒くせえ」
まだ一度しか勝利していないだけに垣根の不安は払拭されていない。
やはり、この天使はいつか出し抜く。
そういう判断からの言葉だった。
垣根の勝利条件 安価↓2
垣根の敗北条件 安価↓4
『勝利条件はフィアンマという男が経営する何でも屋の倒産……敗北条件は殺人鬼である一方通行に二万人の白井黒子を十人殺されたらにしよう』
「……十人? やけに少なくないか」
垣根の言葉に天使は軽く笑う。
その笑みは、垣根の意図を察しての笑みだった。
わかってるくせに、と。
『安心しろ。もちろんゲームバランスはとるさ。この世界の一方通行は強い相手と戦っていない。つまり「反射」を破られた事がないという訳だ』
「……つまり俺の『未元物質』は通るし、経験もそれほどないってワケか」
『うむ、それにフィアンマという男はなかなかできる男でな。……はっきり言って第一位よりも強い』
「ソイツは楽しみだ」
垣根は笑って瞳を閉じる。
天使がその額に触れると同時に。
垣根の世界が始まった。
響き渡る着信音。
どの世界でも同じ携帯を使っている自分に笑いがこみあげる。
通話相手は『フィアンマ』と出ている。
おそらく自分は部下なのだろう。
もっとも、『二万体いる白井黒子の管理』ならばそれなりの待遇のはずだが。
垣根はそんな推測を立てつつ、電話にでた。
「……どうかしたか?」
『安価↓2』
電話かけてきて、いきなり何すればいいって聞いてるフィンアマ想像してワロタ
≪>>750で笑ったので採用≫
『俺様は何をすればいい』
「知らん」
唐突な問いに垣根は切り捨てるように答えた。
自分に問いかけるという事は件の白井黒子に関わることなのか。
あるいは、一方通行。
敗北条件が頭をよぎる。
まさかあの天使がいきなり負けを用意している事はないと思うが、それでも不安は残るものだ。
「……何かあったのか」
『まあな。白井黒子はお前の一任している。だからお前に報告しておこうと思ってな』
「で?」
フィアンマは一瞬だけ答えを渋り、それでも言った。
『安価↓2』
『お前がこの世界の垣根ではない事はわかっている。勝利条件もな』
「……何?」
垣根の耳に予想外の言葉が響く。
動揺する垣根の情動を感じ取ったのか、電話の向こうでフィアンマは笑った。
その上で言葉を続ける。
『一応言っておくがクロコ達には魔術的自爆装置が仕掛けてある。もし奴らを利用して妙な事をすればお前は死ぬ事になる』
「……いいのかよ。そんな事して。俺はそっちの業務内容を知ってるんだぞ」
『人員が減る? とかか……なあにまた作ればいいのだ。定価四円の命だ、心配はいらん』
一方的に電話が切れる。
どうやらフィアンマという人物はなかなかに冷酷な経営者のようだ。
だが、それも面白いと垣根は思う。
甘ったるい恋で退屈していたのだ。こういう頭脳戦もいいではないか。
垣根は唇を無自覚に歪ませた。
インターフォンが鳴る。
どうやらこの世界はまだ自分を出勤させる気すらないらしい。
家に入ってきたのはツインテールに常盤台の制服を着た少女だった。
白井黒子。
この世界に二万体存在する。しかし垣根とフィアンマの運命を左右するキーパーソン
「……どうした?」
黒子は垣根の前までひょこひょこと歩いて首を傾げる。
そしてにっこり笑うと言った。
「安価↓2」
「お迎えにあがりましたわ、帝督様」
黒子は垣根の手をそっと握る。
きょとんとする間もなく垣根の目の前の景色が外へと移った。
(……空間移動か。大能力者相当だな。これなら二万体製造もメリットがある。定価四円はおかしいと思うが)
さすがに命の尊厳まで言う資格は自分にはない。
だが、商品と考えても彼女は軽く一千万は払う。
オークションにでもかければさらに値は跳ね上がるだろう。
独占禁止法にでも引っ掛かりそうな勢いで秘匿しているであろう辺りにフィアンマの性格が表れている。
そんな事よりも、今は情報の収集が先と垣根は気持ちを切り替えた。
「黒子。今日の俺の予定って把握してるか?」
「……? 帝督様がそれを私に聞く意味はありますの?」
「お前は優秀だからな。ぜひとも秘書に欲しいくらいだよ」
白井はその言葉に若干てれたように顔をそむける。
顔をそむけたまま、彼女は早口で言った。
「安価↓2」
「まずは黒子のクローンの運用のされ方を教えるようにフィアンマ様が言っていました。……何でそんな事するのかはわかりませんが。それを取り決めたの垣根様なのに」
(……あの野郎)
まだ出会ってもいない相手に異常な苛立ちを覚える。
ここまで陰湿で、嫌味な相手と感じるのはアレイスター以来だろうか。そのアレイスターにさえ前の世界で人間味を見せられたというのに、フィアンマという男はもう何なのかがわからない。
おそらく本当に優れた経営者なのだろう。
黒子が柔らかく地面に着地した。
高くそびえたつ目の前の建物こそが『フィアンマコーポレーション』。
これから垣根が倒産に追い込む会社となる。
乗っ取るのも面白いかもしれないが。
「……それでは会社の説明を開始しますの。『フィアンマコーポレーション』は学園都市を本拠地に世界へと私、白井黒子を派遣する派遣会社となっております。安価で依頼できる事が売りとなっていますわね」
ゆっくりと会社の内部に入る。
内部はシックなグレーを基調とした絨毯タイルが引かれており、壁も落ち着いた色をしている。清潔感もあるだけにこの中に入った時に抱く印象は決して悪くはないだろう。
垣根と黒子の二人はそんな社内をゆったりと歩く。
「……社員数は支部も合わせればおよそ三千人。そこに黒子を合わせて二万三千人となっております。主な業務は黒子達は実動課。外部との契約を取り付ける営業課……後は企画課などその辺りは普通の会社と変わりません。そして、垣根様が所属している管理課こそが最も重要な職務をこなしています」
黒子達の管理から依頼の細かい金額査定まで行うのが管理課らしい。
しかし一人で二万人を管理しないですんだのはありがたい。それは出来るだろうが面倒くさいからだ。
最後に垣根は一つ問いかける。
「……国際法はどうなってる。クローンなんざすぐに処理されちまうだろうが」
「安価↓2」
>>1
帝督が垣根になってる。できれば統一してくれると嬉しい。
≪>>770 御指摘ありがとうございます。訂正します≫
「何を言っていますの? クローン製造は合法ですの。所属国に充分なお金を支払えば」
黒子は心底疑問な表情で言った。
この世界もある意味では歪んでいると垣根は思う。
今までとは何かが違うのは確実だが、こういう方向は気に入らなかった。
そんな垣根に黒子は暗い表情で告げる。
「それに……クローンに人権などありませんから何をやらせてもいいんですの」
(……それが本性か)
結局この会社は暗部と大差ない。
人の命を使い潰しているのだから。
やっている事は人助けでも、その内容はそれほど伴っていないのだ。
垣根はメラメラと燃えあがる何かを自覚した。
「それでは帝督様。……私はこれで」
「ああ」
とぼとぼと去っていく黒子を見て垣根は思った。
この会社は俺が潰す、と。
とりあえずまずは状況把握だ。
相手が自分に気づいていて斬らないという事は自分はこの会社で相当優秀なのだろう。
デスクに座ってPCの電源をつける。
かなり性能のいいPCはわずか数秒でデスクトップに到達した。
その横にぬっと人影が現れる。
(……同僚か?)
垣根はゆっくりと振り向いた。
垣根の同僚 安価↓2(禁書キャラ一名)
「……どうかしたのかい?」
垣根の横には何故か白衣を着た女性がパソコンを覗き込んでいた。
目の下のクマが印象的な女性の胸には『木山春生』というネームプレートがつけられている。
木山は垣根の肩を優しくもみながら言う。
「ふむ……わが社きっての天才も疲れはたまるようだな」
「……なれなれしく触るなよ。逆セクハラで訴えるぞ」
「そう硬い事を言うな。君と私の仲じゃないか……今夜あたり、どうだ?」
「まだ昼にもなってねえのにそんな話するな」
垣根はそう言って、自分のフォルダを開く。
無数に並べられたデータを素早く記憶しながら垣根は会話を続ける。
「……それで? 本当は何しに来た」
「意地悪な男だ。……まあいい、とりあえず今日の依頼だ。一時間後にこちらへ来ることになっているから目を通しておいてくれ」
「了解」
垣根は渡された資料に視線を落とした。
依頼の内容 安価↓2
依頼主 安価↓4
≪今日はここまで。何か半沢直樹みたいになりそう……>>1の頭脳が追いつくかどうか心配です≫
「危険物の撤去作業か。確かに空間移動ができるなら持ってこいだが……」
触れる事すら許されないモノだった場合は相当値もはる。
とにかく会社を潰すにはその仕事を知るのが一番早いのだ。
応接室に入ると、そこにいたのは長い金髪の女性だった。
依頼人の名はローラ=スチュアート。
女性にはできない、という事での依頼だった。
ローラは笑って口を開く。
「今回の件は感謝したるなりよ。もー猫の手も狩りたいとはこの事なるのね。……金はそちらの納得する額でどうぞ? もちろん常識の範囲でね」
なかなか腹黒い印象を与える彼女は垣根を異質な目で見つめる。
その目に違和感を感じながらも垣根は言った。
「……この内容なら十人は行かないとダメだな。一人百万としても一千万か……じゃあ七百万でどうだ?」
「そうね……」
二人きりの空間。
唐突にローラは垣根の横に座る。
怪訝な表情をとる垣根の耳元で彼女は囁いた。
「安価↓2」
>>788
それもそうやな
というか言ってから気づいたけど
それが出来たとしても、フィアンマがよっぽどのやり手の場合それでも無理だわ
即行、垣根が所属していた痕跡を消して、その後の復旧を行い。
あくまで哀れで優しい被害者を演じて、世間からの同情を買うかもしれん。
多少は客足が遠のくかもしれんが、企業としての価値はかなり高いだろうし。
それぐらいじゃ倒産までいかないかも
二万人のヤンデレ(テレポーター)か・・・やべぇな
乙。木山てんてーにセクハラされてぇ
つか、これひょっとしてフィアンマさんも一方さんも同僚も全員ぶっ殺して自分が社長になった後に経営しなければ勝ちじゃね?
"フィアンマが社長状態で"って条件付きなら達磨にして監禁でもすれば…
っていう恐ろしい考えがふと
「体で払いけるのよ」
ローラの言葉に垣根は思わず耳を疑う。
なぜこの場面でそんな言葉が出てくるのか、と。
彼女の細まった目は確実に、それ以外の何かを感じさせる。
垣根は相手の考えが読めない、という動揺を隠して言った。
「……お前の体に七百万の価値はねえよ。だからその意見は却下だ」
「ええー……」
頬を膨らませて不服を訴える。
だが彼女の年齢を考えると、それは垣根にとって嫌悪しか抱かせない。
でも、この女の目を見ればわかる事もある。
(コイツ……産業スパイか何かか? それなら手を組めるが……イヤ、駄目だ。俺はまだ自分自身の立場を把握できていない。とりあえずは一社員として接するべきだ)
垣根は努めて冷静に口を開く。
「……仕事はやる。だが俺にはアンタが仕事以上の目的を持っているようにしか見えない……何が目的だ?」
「安価下2」
「何体かクローンを買い取りたいと言ったら?」
「……、」
垣根はじっとローラの顔を見つめた。
この女は間違いなく何かを企んでいる。『フィアンマコーポレーション』の専売特許である白井黒子を買い取りたいという真意は読めない。
だが、白井黒子は一人一人が大能力者相当の空間移動能力者という事実は変わらないのだ。軍事的価値は確かに高いだろう。
(……本当にそれだけか?)
もっと深く考えるべきだと垣根は判断する。
たとえば、狙いは白井黒子ではなくフィアンマ自身の可能性。彼の社会的地位を考えれば敵が少しくらいいてもおかしくない。
あるいは垣根を狙っている可能性。学園都市第二位の彼をヘッドハンティングするという訳だ。
「……甘いぜ、ローラ=スチュアート。そんな程度じゃ、俺は揺らがない。……だが俺はこの会社の管理課だ。立場を使って数体の融通はきかせられるかもな。条件次第で」
ローラは予想通りの展開に笑った。
おそらく、この後の言葉も考えているのだろう。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「安価↓2」
「フィアンマコーポレーションを潰す為に協力してくださりたる? 具体的にはスパイとして」
ローラの甘い囁きに垣根の胸が騒いだ。
垣根が単独でやろうと思えば、間違いなく限界はくる。
だが協力者がいればその幅はかなり広がっていく。
垣根は思わず笑った。
それは垣根の勝利条件でもあるからだ。
「……いいぜ、のってやる」
「それはよろしき事ね。……この会社は絶対に穴がありたると思うわ。経営者がいくら有能でも部下までが同じなはずがない」
「全くだな……。それでお前は俺に何をして欲しい? もちろん見返りはいただくがな」
ローラは笑みを深めながら答えた。
「安価↓2」
「言ったはずなりきよ。もっと黒子が欲しいって」
つまりは自分で考えろという事か。
垣根は思わず息を吐いた。
こんな受動的な考え方では絶対にダメだ。
もっと強く、もっと執念深く勝利へと執着する。
垣根はそう思いながらソファから腰を上げた。
「……わかった。白井黒子の方は手をうっておく。とりあえず今は『普通の客』を演じててくれ」
「わかったわ」
垣根はローラを丁寧に会社の玄関口まで見送った。
そしてそれをフィアンマは広い社長室から見下ろしていた。
窓から見える高層ビルは自分の社の高さからか小さく見える。
(……残念だが、垣根帝督。俺様があの女との連携を予想しないと思ったか? こちらには圧倒的な資金力と優秀な部下が何人もいるのだよ。お前一人が反抗したとて、どうにかなる訳ではない。……もっとも、貴様がいつまで俺様の元にいられるか見物ではあるがな)
唇をわずかに歪ませたフィアンマ。
彼は秘書に命じて、コーヒーを用意させた。
フィアンマの秘書 安価↓2(禁書キャラ一名)
「フィアンマ! 持ってきたぞ!」
「ああ……だが削板よ。お前の淹れるコーヒーは熱すぎる」
「熱! 根性! それこそ男だ!!」
いくら広いと言っても彼のカラフルな爆発の前に室内には煙が充満する。
削板は何度も犯したミスに頭を掻きながら、頭をさげた。
元々、彼は営業課の一社員に過ぎなかったのを、その性格を買ってフィアンマが直々に秘書にした訳だ。実際には秘書らしい事はほとんどせず、ただ近くにいるだけだが。
彼には垣根のような頭脳はない。しかし彼の真っ直ぐな性格は信用にたるものだった。
フィアンマは彼の淹れた熱いコーヒーを少しずつ啜りながら笑う。
(……一人で潰せる程この会社は甘くはないぞ?)
垣根の一日はまだ終わらない。
彼は会社の主な情報について調べていた。
やはりこのレベルの大会社になると、派閥のようなものは存在する。
フィアンマも放任しているであろうそのシステムは間違いなく垣根に付け入る隙を与えていた。
営業課、企画課、管理課。
攻め口も方法も無限に等しい勢いで広がる。
(……さーて、どうすっかな)
産業スパイは難しいポジションだ。
会社の情報を痕跡残さず盗まねばならないし、仕事もそつなくこなせる必要がある。
その時、気になる項目を垣根はPCの中に見つけた。
――――食品業者 三千万
羅列される無数の会社の中で、その項目だけが詳しい情報がない。
何かがおかしい。確実に何かある。
垣根は木山を呼びつけた。
「おい、木山。……ここのところ。食品業者としか書かれてねえけどなんか知らねえか?」
「安価↓2」
「それは食品管理業者の天井君に聞いてくれ。今日なら確かこの会社のどこかにいるはずだ」
「……了解、と」
垣根は軽い調子で答えると、柔らかいイスから腰を上げた。
天井亜雄とは科学者つながりらしい木山は軽く笑うと、持ち場に戻る。
垣根は社内の構造を確かめながら歩く。
十分ほどして目的の人物を見つけた。
天井亜雄。
彼は垣根を見るとわずかにビクつきながら言った。
「だ、第二位……何の用だ」
「そうビビるなよ。別に何もしねえさ。……ただ聞きたい事がいくつかある」
垣根は懐から紙を取り出す。
そこには食品業者についての記載があった。
もっとも、空欄が目立っているのだが、これが埋まるかは天井次第だ。
「……食品管理業者だったよな、お前。ならこの三千万の金の流れも知っているはずだ。答えられるならこの会社の責任者の名前とその企業の実態を、答えられないなら答えられるヤツの名前を言え」
まくしたてるような調子で言うと、案の定天井は体を震わせ始めた。
彼のような神経質な人物はそういう威圧に弱い。そして第二位という肩書きがそれを助長している。
天井はおそるおそる言った。
「安価↓2」
「すまないが、答えられない」
それはある意味、意地だった。
恐怖にすら打ち勝ち彼は言葉を続ける。
「情報漏洩になるから、基本この課の管轄については他の部に話せない事になっている。力になれなくて申し訳ないが……」
真に口惜しそうな声で天井は言った。
それは彼なりに思うところがあるからだろう。
垣根もそれ以上追及はしない。というよりする気になれなかった。
「……そうか、悪かったな。だがいいヒントを得たぜ」
間違いなくこの会社は何かを隠している。
課の間で情報交換を封じているが、社長であるフィアンマはその全てを握る事ができるのだ。
どう考えても都合がよすぎる。
「……おい、天井」
垣根は最後に問いかけた。
「この会社に不明な金の流れは存在するか? ……もしあったとして。あの切れる社長様が見逃す理由はなんだ」
「安価↓2」
「仕事に戻りたまえ。黒子のオリジナルが捜していたぞ」
顔をそむけながら天井は言った。
そこにはわずかな動揺が見える。それをごまかすような言葉だった。
垣根はそれを感じ取りながらも無視する。
「そうだったのか……ソイツはすまなかった」
「あ、見つけましたの!」
垣根に駆け寄ってくる少女は間違いなく白井黒子だった。
見た目に差はないが、やはり彼女がオリジナルなのだろう。
「……どうした?」
白井は垣根の前まで一気にテレポートすると、言った。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「そろそろ男性職員用トイレに設置されてる肉便器黒子達に餌をあげてくださいな。精液ばかりでは栄養失調で死んでしまいますの」
「……肉、便器?」
予想外の言葉だった。
いや、ある意味ではわかっていたのかもしれない。
ただ世界の善心を見ているうちにそういう黒い部分から目をそむけていただけ。
垣根はようやく思い出した。
あの天使が甘い世界をつくっているはずがない、と。
「そう、か……肉便器か」
「……? どうしましたの? 代理で私があげてもよろしいのですが、やはりアナタの許可が必要ですの」
ふー、と垣根は大きく息を吐き出す。
白井はその様子に怪訝な表情をしながら、問いかけた。
「どうしましたの? さっきから様子がおかしいですわよ?」
「……お前さ。自分のクローンがそんな待遇で悔しくないわけ?」
「安価↓2」
乙!
この世界やだ怖い
でもちょっとリアルな未来かもしれない
>>833
こんなリアル嫌だ……
それでは開始
「クローンは家畜だから問題ないと帝督様がおっしゃっていたではありませんか」
白井の顔には疑う色さえ見えない。
あるいは洗脳されたようなまなざしでもあった。
「あっ、いつも黒子達を使用する方達が来たようですわ。毎度ようこそ、ぜひ黒子達で用を足していってくださいな」
数人の男性社員がいそいそとトイレに入ったかと思うと、そのト
イレの中からそう時間を開けずにあえぎ声のようなものが響きわたる。
腐ってる、と。
垣根は思わず嫌悪感を表情にだした。
「……どうしましたの?」
「家畜、か。……ならお前はなんだ? はっきり言うぞ、お前は狂ってるよ。クローンをつくられた、自身のアイデンティティを傷つけられた。それだけで怒りを覚えるには充分すぎるだろ。……お前にプライドはないのか」
「安価下2」
「こんな企業に携わる人間がそのようなものを持ち合わせていると思いまして?」
「……そうか、そうなのか」
確かめるような一言。
今までの垣根とは何かが違う。
白井はそう首を傾げてみるものの、具体的な事は一つもわからない。
しかし垣根の目は爛々とした光を宿していた。
「……帝督、様?」
「俺の名前を呼ぶなよ、社畜が。お前は精々、社長に使われてろ」
「……今日の帝督様はおかしいですわ。一度、頭を冷やす事をお勧めしますの」
「ああ、そうさせてもらう」
不機嫌そうに白井と別れようとして。
垣根は思わず足をとめた。
そして、あのクローン達の空間へと入り込む人物を。
呼びとめた。
入ろうとしていた人物 安価↓2(禁書キャラ一名)
「ん? どうしたんや?」
その空間へ入り込もうとしていた青髪にピアスの少年。
彼の目には罪悪感の欠片もない。
その姿に嫌悪どころか呆れすら覚えながら垣根は口を開く。
「……ちょっとしたアンケートだ、答えろ。この会社についてどう思う?」
「そら、最高の会社やろ? 給料も悪ないし、画期的なシステムをいくつも――――」
青髪ピアスの言葉は最後まで続かない。
垣根が強く壁に青髪ピアスを押し付けただからだ。
きょとんとする青髪ピアスに垣根は告げる。
「ここはな……お前たちの心を弄んで、まるでカルト宗教のように壊していく。画期的? 仮にも人の姿をしたヤツが奴隷扱いされるなんざおかしいだろうが!」
何故自分がこんな事を言うのかわからない。
これが自分なのかと思うくらいに饒舌な言葉だった。
でもきっと自分にはこんなところがあったはず。
そう信じる垣根へ青髪ピアスは答えた。
「安価↓2」
「大多数が気持ち良ければそれでいいやん。あれら肉便器のおかげでどれだけ僕ら男の仕事効率が上がったと思うとんねん」
それはゆるぎない事実。この会社の原動力。
垣根がどれだけ抗っても事実というものは変わらない。
青髪ピアスは軽く垣根の手をほどくと、トイレの中へ入っていく。
その醜い姿に垣根の中で何かが休息に冷めていった。
一瞥して垣根はそっとその場を離れる。
わずかに響く声だけが垣根の耳を不快に刺激した。
「……腐ってる」
垣根は思わず呟いた。
暗部も確かにまともではなかったが、その中には自分なりの流儀を貫いていたり、決めたルールを守り抜く事のできる人間もいた。
しかしここにそれはない。
一見、すぐれた人材の集まりの会社もふたを開けてみればただ一人の長がすべてを支配し、残りの人間は利用されるだけの哀れな実態。
「そう思うか?」
ふとした別の声。
垣根が振り向くとそこには赤髪に赤の瞳。赤でコーディネートされた服を着た男が悠然と立っていた。
右方のフィアンマ。
この会社の社長にして、世界を救う程の力を持った人物。
今回、垣根が倒すべき人物。
フィアンマは社長という立場を無視して垣根の前に立っている。
「……やはり前の垣根帝督ではない、か。俺様にも理解できんが中身だけが綺麗さっぱり変わってしまったらしい」
「へえ……」
フィアンマの雰囲気に思わず声が震える。
それを隠すように垣根は言葉を続けた。
「じゃあ前の俺はどんな人間だった?」
「安価↓2」
苛烈で極悪でぺドフィリア、そのうえ中二病をこじらせて、毎日意味不明な発言を連発してた
≪>>848さすがに同じなのはアレなので安価↓にさせてもらいます≫
「冷酷無比で人らしくない機械的な合理主義者。俺様はそう認識していた」
ある意味、昔の垣根帝督そのもののようだ。
だが今の垣根にはわかる。
自分はそんなに感情を殺しきれるような人間ではない、と。
「……そうか。だが覚悟しておけ。俺は前のヤツ程、合理的でもなければ従順でもねえぞ」
「別に従順とまで言った覚えはないが……。確かに表向きはそうしていただろうな」
それは通過儀礼。
結局は宣戦布告に過ぎなかった。
二人はゆったりと別方向へと歩いていく。
両者の顔は、笑っていた。
(……少し前の俺なら考えられなかったな)
垣根の手にはビニール袋が提げられている。
その中には数人分の食べ物があった。
ゆっくりとトイレのドアを開ける。
つーん、と鼻をさすような生臭い匂いに顔をしかめながら垣根は一歩踏み出した。
目の前には白濁に身をそめた外見が全く同じ少女たち。
一人一人、丁寧に体をふきとり服を強引に着させた。
服を着ている事の方が違和感を感じるのか、少女達は思い思いに反応を示す。
「……とりあえずここから出ろ。ここじゃ食事する気も起きねえだろ」
主人の命令。
少女達は素直に従い、トイレから出ていく。
換気扇のスイッチを入れてトイレを後にする。
食堂へ向かう最中。
一人の白井が垣根の服の裾を掴んだ。
「……どうした?」
「安価↓2」
「帝督様……一部の黒子に慈悲を与えてしまってはいけません。恩恵を受けた黒子達は、他の黒子達から迫害されてしまいますの」
黒子は沈痛な表情で言った。
その顔は嘘を言っているようには見えない。
「……それに帝督様はそんな人物ではなかったではありませんの。前はトイレに食べ物だけおいて、食事をとらせる……黒子達もそれで満足してましたのに……いまさら、」
今さら、何なのか。
黒子には垣根の人格変化なんて気付くはずもなく、ただ考え続ける。
「いまさら、黒子に優しくするなんて……どうしてですの?」
それは答えられるか垣根にもわからない。
でも垣根は今、黒子のクローンに対して何かを感じているのは確かだ。
黒子はクローンらしくもない表情で言葉を続ける。
「私はクローン、人ではなく家畜。生まれてから死ぬまでこの会社の所有物としてただ存在するのではありませんでしたの?」
「安価↓2」
「あの時の俺と今の俺は違う」
垣根は強く言い切った。
白井は垣根の瞳をじっと見つめる。
その目は今までのような無機質なものとは違った。
機械ではなく人間。クローンではなく人間。
二人は今この瞬間だけ、誰にも否定できない程の絶対的な何か。
それが場を包んだ。
「……おい、お前の名前は?」
「そんなもの……黒子にありませんわ。強いて言うなら黒子一〇四三号でしょうか」
検体番号だろう。
しかしそれではどこか味気ない。
何よりも垣根は何かをしたい気分だった。
「……じゃあ、俺が名前を考えてやるよ。白井……白井……」
「……?」
考え込む垣根は思いついたように笑った。
白井の頭に手をおいて、告げた。
「安価↓2」
よく考えたら白井~~号じゃないんだな
kskst
≪>>862 それでもよかったんですが語幹重視しました。今日はここまでです。お疲れさまでした≫
「……黒美。黒く美しく、でどうだ?」
「……黒子は名前を与えられた事がありません。だからそれがどういう意味なのかわからないのですが」
無表情に首を傾げる少女はまだ人間として未熟すぎた。
名前の意味すら知らない程に。
こんな虚しい事があっていいのだろうか。
一寸の虫にも五分の魂。クローンにだって感情はある。
それは科学的に説明できてしまう程度の代物でしかないが、それ以上の何かを今の垣根は感じていた。
こんな、ふざけた根拠もない考え方は自分でもおかしいと思う。
それでも、と垣根は口を開いた。
「いいか。名前を与えられるってのはな。……俺も正しくは知らねえが、そいつが一人の人間として認められるって事なんじゃねえか?」
「そう、なんですの? だったら……黒子、いえ黒美は人間なんですの? クローンでも家畜でもなく、一人の人間?」
「……俺がそう認めたから、そうなるな」
「でも……今の黒美は肉便器ですわ。そんな状態でどうして人間として生きていけましょう」
「安価↓2」
愛は人を変えるんだな
愛って素晴らしいなァと思いました(小並感)
>>873
なお、ヤンデレだった模様
それでは開始
「だったらお前は今から俺の秘書だ」
垣根は強く言った。
黒美もそれに触発されたように肩を震わせる。
きっとそれが当たり前で、普通の事で。
でもそんな事すら与えられなかった少女がいて。
「……どう、してそこまで」
黒美にはわからない。
それは理解したくても、少女にはあまりにも重すぎた。
垣根はそんな黒美に告げる。
「お前が……人、だからじゃねえか?」
垣根は黒美とともに戻った。
そのふっきれたような表情に気づいたのは木山だ。
「どうかしたのかい? ……後ろに、いるとは思えない人物がいるのも気になるな」
「おいおい、嫉妬か?」
木山は笑った。
その意味を次の言葉で垣根は知る。
木山はゆっくりと口を開く。
「安価下2」
「君がどうしてそこまで変わったのか問わない。だがそこのクローンも人として扱ってあげるべきではないのかな」
木山の言葉にはどこか重みがあった。
彼女はただ単にこの会社に従っている訳ではないのか。
それとも垣根を説得しようとしているのか。
「……もっともそれは不可能だろうがね」
木山はそう言って言葉を続ける。
「欲求不満をぶつける道具が奪われたとなっては男性職員が黙ってはいないだろうからな」
「そんな事はわかってる」
木山の言葉はまぎれもない現実だった。
しかし、垣根も全て私情に流されてそうした訳ではない。
既存の絶対的なシステムを破れなければフィアンマには勝てないからだ。
「……そうか、なら私もこれ以上は何も言わないさ。もっとも、君の味方をする気もないがね」
木山は呟いて肩をすくめる。
垣根は笑っていた。
その笑みの意味は、木山にはわからない。
とりあえず黒美を膝の上にちょこんと座らせる。
他の黒子達もトイレには行かせず、適当な場所で待機させていた。
そして十分程の間があって。
その時は来た。
(……それじゃ、始めますか)
垣根はくるりとイスを翻させ、その人物の方を向く。
黒美は思わず目をふせながらも、ゆっくりとその人物の顔をのぞいた。
誰が来た? 安価↓2(禁書キャラ一名)
「ちょいちょい垣根はん! どうなっとるんや!!」
文句を言いに来たのは先ほどの青髪の少年だった。
彼は額に青筋を浮かべながらまくし立てる。
「さっき『トイレ』に行こうとしたら『便器』が一個もないやないか! ……これじゃ仕事にならへんで!!」
「ああ、そうかいそうかい」
垣根はどこかで失望していた。
もしここに来たのがフィアンマであったなら垣根も多少は意表をつかれていたかもしれない。
だが、来たのは名前もわからない下っ端。
これでは垣根のやる気も失せるというものだ。
その様子に何の勘違いをしたのか、青髪ピアスは悠々と言葉を続ける。
「あのなあ……気持ちはわからんでもないで? でも、この子らは社会的に認められたクローンや。……つまりこの子は社全体の所有物で、君だけが勝手に使っていいわけではないんよ。責任、取れないやろ?」
「安価↓2」
「クローンをどう扱うかは管理課に一任されている。文句があるなら社長を通せ」
「……でも、これは」
「残念だが、既存のシステムをつくったのは管理課。つまり管理課がこのシステムを壊す事にはなんの支障もないってワケだ」
「……クッ。覚悟しといてや!」
青髪が逃げ去るように立ち去っていく。
垣根はそれを見て、思わず噴き出した。
黒美はその様子を呆けたように見つめている。
彼女には垣根の考えが全くわからない。
「帝督様は……どうしてこんな事をしていますの?」
「? どういう意味だ」
「帝督様は私達を生み出した中心人物と聞いておりますの。……そして私たちに家畜である事を教育なされたのも帝督様……今でも覚えていますわ『お前たちは人間じゃない。俺たちに買われるだけの家畜だ』という言葉を。黒美はそれが間違っているとは思いません。ですが、帝督様は私たちに一番近い『人間』で……その、急に優しくされたら……困りますの」
「安価↓2」
「デートしようぜ」
「……え?」
垣根は黒美の問いに答えなかった。
言葉よりも、実際に示してしまった方が簡単だと思ったから。
「ほら、わかるだろ? 男女でやるアレだよ」
「それはわかりますが……」
仕事はいいのか、お互いに。
彼女の目はそう訴えていた。
だが垣根がそんな事を気にするはずがない。
強引に黒美の手を掴み、会社から逃げるように外へ出た。
垣根は黒美と手をつないで歩いていた。それも俗に言う恋人つなぎで。
黒美にとっては間違いなく初めての経験。
温かく、大きなその手は白井の手を飲みこんでいた。
それは安心できるものなのだが、どこか怖い。
今まで人へ感情を持つ事がなかっただけになにかを感じ始める恐怖は言いようのないものだった。
「……どうした?」
「ひゃ、ひゃい!」
「何やってんだ、お前。そんな緊張するなよ」
「で、ですが……」
「じれったいな……」
垣根はイライラしたような表情で歩く速度を速めた。
そして人気のない住宅街まで黒美を連れそう。
あまりにも自然な動きだった為か、周りの人間は気付かず、とうの黒美も何もできなかった。
そもそも逆らうという思考に至らない。
垣根は黒美を近くのベンチに座らせる。そして自分も腰をかけると黒美へ近寄った。
すっ、と黒美の肩に右腕を回し、互いの体を密着させる。
強く抱かれ、苦しいと感じるがそれも一瞬。すぐに安らぎのようなものへと変わっていく。
「……ほら、こうしてると暖かいだろ?」
「は、はい……」
不思議な眠気が黒美を襲う。でも決して瞼を重くするようなものでもない。
むしろ黒美の脳はこれまでにないほど、上気していた。
自分の主人にも等しい人間が近くにいる。
とくん、と胸が高鳴った。
「お前、やっぱり人間だよ。家畜はこんな事で照れたりしないからな」
「私が、人間……?」
現実離れしたその言葉はしかし、確かに黒美へ実感を与えていた。
もっと一緒にいたい、と。
だからかもしれない。
彼女は首を振った。
「やめてください……これ以上は、ダメですの。帝督様が御身を汚す必要はありませんわ。それに、私達は平等ですの。……そんな事をしては帝督様は二万人の私を愛さなければ……」
「ハハハ……面白いんじゃねえか? それはそれでやりがいがある。少なくとも今の仕事よりはな」
唐突に垣根は黒美をベンチに押し倒した。
周りにはやはり人気がない。生い茂った街路樹が高いマンションから見えるはずの二人を隠す。
誰にも見られないその場所で、二人だけで。
「帝、督様……」
垣根は黒美に顔を近づける。
その真っ赤な頬が視界から外れる程、互いの目しか映らない程の距離で垣根は言った。
「安価↓2」
「俺はテメエらの父親みたいなもんだからな。まずは愛を教えてやる」
「……はい」
思考が薄らぐ。
それでも垣根の事だけは強く鮮明に、考えられる。
というより垣根の事しか考えられない。
「……いい目だな。一気に女っぽくなりやがって」
「あ、あの……えと、その」
「慌てるなよ。いきなりあれもこれもは無理だ。……お前が人間ならな」
それは黒美が人間である事の証明。
誰かに認められるという当たり前の事を黒美は知る。
この、世界で。
垣根は何かをしっかりと掴んだ。
次の日の垣根の行動は大胆だった。
朝、出迎えに来た黒美にそっとキスをする。
周りの人間は騒然とした。
当たり前だ。少し前までクローンと扱われていた少女を、そう扱っていた少年が優しく抱きしめているのだから。
木山はそんな何とも言えない雰囲気に踏み込み、言った。
「……覚悟を決めたか? いや、それとも……余興か?」
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れ様でした≫
「聖戦だよ。ステキでステキでしようのない、な」
垣根の笑みに木山はわずかに肩を震わせる。
それは喜びのようにも見えた。
「……垣根くん。ちょっとこっちに来てくれ。二人で話したい事がある」
「わかった。黒美、ちょっとここにいろ」
「は、はい……」
垣根は木山と共に廊下の奥へと進める。
彼女は辺りに人がいない事を確認すると。
唐突に壁におしつけ、顔を近づけた。
「……何のつもりだ、木山」
「安価↓2」
乙
面白いんだけどセリフ安価は難しくてなかなか参加できないぜ
>>899
難しく考えなくても簡単でいいですよ。口調とかも修正しますし
それでは開始
「まさかあのような人間だった君がこのような行動をとろうとは予想もできなかったからね」
木山はどこか嬉しそうに言う。
その目が帯びている光の意味は、垣根にはわからない。
「今とは真逆を走る一方通行な人間だった君がクローンに人権を与えようとする……かつての私自身を思い出してしまうよ」
「お前……」
木山は垣根の唇にそっと指先を当てる。
その目は何も言ってほしくない、というような目だった。
垣根はようやくその目の意味を悟る。
彼女は、怖いのだ。
きっとどこかで自分がやらなければと思いつつも諦めてしまう。
そんな自分がもどかしいのだ。
そんな時に垣根が自分の意思を代弁した。
それだけで木山は嬉しかったに違いない。
垣根はそっとやつれた頬に手をあて、やさしく囁いた。
「安価下2」
「俺となら恐れるものは何もねえ」
この状況で女一人を思いのままにする。
それは垣根にとってはとても簡単な事だった。
案の定、木山は垣根をじっと見つめている。
その瞳はすでに答えを出していた。
だが、現実を見据える自分との間で彼女はわずかに悩む。
「……それは」
そのわずかな躊躇いを垣根は見逃さない。
とどめをさすように垣根は背中に手をまわして、言った。
「俺と来るか?」
木山の言葉は聞こえていた。
聞こえていた上で無視したのだ。
木山は意思を失った人形のように頷く。
(……ま、こんなもんか)
垣根は思わぬ収穫にわずかな笑みを漏らした。
木山がその耳元で囁く。
「……それで、私は何をすればいい? 今は気分がいいから何でもできるが?」
「安価↓2」
「何としてでも天井から情報を引き出して欲しい」
「……わかった。彼とは仕事の関係で見知っている。やれるだけやってみよう」
「ああ、頼む」
木山は体を垣根から放して、笑う。
彼女には勝算があるのかわからないがどこか余裕だった。
木山は天井と共に簡素な喫茶店で昼休みの時間を潰していた。
天井はどこかそわそわしていた。
木山が何を狙っているのかわかるからだ。
「……木山。悪いが私から話せる事はないぞ?」
「ふむ、こちらが何も言っていないのにそう言うとはな……まあそっちの方がやりやすい、か」
どこか余裕そうに木山は呟く。
その悠々とした態度に木山の不安は広がる。
何か、木山は隠し持っていた。
「……ならば君には消えてもらおう。社会的に、な」
「な、何だ。私には不祥事をした記録などないし、他人から後ろ指をさされるような事をした記憶もないぞ!?」
「安価↓2」
「では私との浮気を奥さんにバラさせてもらおう。証拠もある」
木山がそう言って、懐の端末から映像を再生させる。
そこには天井と木山の情事の浅ましい光景が映っていた。
天井の肩が明らかに震える。
青ざめた表情で天井は言った。
「……何を言えばいい」
「正直なのはいいことだ。……とりあえずはあの三千万の用途。受け取った企業の実態とそこの担当者だな。なに、知らない事まで聞こうとは思わない。もちろん、嘘が発覚すればこの映像を会社全体にばらまくというのは忘れないで欲しい」
八方ふさがりの状況だった。
天井が木山に話したとする。だとしてもそれがフィアンマにばれれば、やはり会社にはいられなくなる可能性が高い。
それでもここで確実に終わるよりはマシだ。木山の後ろには第二位の垣根がいる。ここで断っても後で何をされるかわかったものではない。
天井はかすれた声で答えた。
「安価↓2」
「表向きは食品企業だが、実際はダミー会社で、学園都市お抱えの研究施設に流したんだ」
「……ほう、それで?」
「担当者は木原数多、そばに御坂美琴を従えていた。……内容までは知らん。私が知っているのはここまでだ」
だから解放してくれ、と天井の目は訴えていた。
ここで出し惜しみしているのが露見すれば意味がない。
木山は天井の思考を読んで、それ以上は問い詰めなかった。
「わかった。とりあえずは信じるよ。……だが嘘だった時の為にこれはとっておく」
「ああ……好きにしろ。それでばら撒かれるなら私は死ぬしかない」
木山は垣根に天井からの話をした。
垣根は笑ってその言葉を聞く。
「……第三位、か。それはそれで面白いな」
「まさか第三位まで関わってくるとは思わなかった。……それに木原数多。どうやら相当な問題に首を突っ込んでしまったが?」
「俺がそれで諦めると思うか?」
「そうだな。今の君にはそういう姿勢がピッタリだ」
「そいつはどうも。……まずは第三位だな。木原はどうも信用ならねえ。なあ第三位ってどんな性格だ?」
「安価↓2」
「能力以外は一般の範疇におさまる普通の娘だ。ただ少々というか、かなり偏執的なようだが」
「……それはそれで話を聞きにくそうだな」
だが、相手を飲みこまんばかりの木原数多よりは多少マシだろう。
接触するなら御坂しかいない。
彼女に第二位の自分が負けるとは思えないし、それ以外でも勝っているとしか考えられない。
「……そんじゃ行きますか。木山、お前はそれ以外の穴を見つけておいてくれ」
「わかった……しかし気をつけた方がいい。天井の口ぶりを察するに、相当厄介な問題らしい」
垣根は木山の言葉に手を軽く振って、答えた。
大丈夫だ、と。
御坂美琴は常盤台の学生だ。
それだけに彼女を見つけるのは簡単だった。
学校帰りを狙う
『学び舎の園』の外部にある寮に住む彼女を見つけるのはそれだけでいい。
御坂は垣根の顔を見ると、呆れたように言った。
「……ナンパか何か? 最近そういうの多くて困ってるんだけどさ。……あんまりしつこいと電撃喰らわせるわよ」
だから立ち去れ、と手でジェスチャーする御坂。
垣根はそんなもの意に介さず、言った。
「生憎とお前は好みじゃねえよ。女なら他にもいるしな。……それより俺が聞きたいのはお前は木原数多と何の実験をしているか、何だが?」
その言葉に御坂の顔色が変わった。
どうやら天井の言っていた事は嘘ではないらしい。
だが、御坂はすぐに表情を戻す。
「……知らないわね。私はそんな人と知り合いじゃないし」
そう言って御坂は目の前の公園に入り、ベンチに腰をかける。
垣根はその態度を見て、方針を切り替えた。
懐柔から、脅迫へと。
強引に御坂の体を押さえつける。
御坂が電撃を放つよりも速く『未元物質』をばら撒いて、それを封じた。
気のせいかもしれないが、いつもより能力の使い勝手がいい。
「……調子にのるなよ、第三位。俺はお前なんざ簡単に殺せるんだ。それともここで一生女になれなくしてやろうか?」
だからさっさと話せ。
垣根の脅しに御坂は答えた。
「安価↓2」
「クローンを奴隷とする世を作ったヤツらに話すことなんてないわ。アンタらのせいであの子たちがどれだけ酷い事されてるか……考えた事ある!?」
「……何が言いたい」
垣根の問いかけに御坂は怒りを見せる。
振りほどけないとわかったからか、垣根の腕を強く握り、言った。
「確かに全ての人間がそういう扱いをしてる訳じゃないわ。……でもほとんどのヤツはあの子たちを欲求のはけ口にしたりストレス発散にしたり……あげくの果てには犯罪の代行までするっていう噂がある! 第二位なら知ってるんでしょ? 答えなさいよ!」
「……、」
垣根にはこの世界での記憶がない。
だから、と言いわけするつもりはないが答える事はできないのだ。
御坂はそれを勘違いしたのか言葉を続ける。
「答えられないでしょうね。……黒子ね、初めは泣いてたのよ? 自分と同じ顔した人間が酷い目にあわされるって。でもある日突然、何も言わなくなった。話聞いたらアンタが『アイツらは人間じゃない。だから人間のお前が気にするな』って言ったらしいじゃない。そりゃ、第三位の私じゃアンタには遠く及ばないけどね……黒子はあの日から非情な人間になった! 私の後輩返しなさいよ!!」
それは怒り。
だから木原数多につけこまれたのか。
垣根は少女に哀れみを覚えながらも答えた。
「安価↓2」
≪今日はここまで。皆さんお疲れさまでした≫
「お前の怒りはもっともだ。だが、そんなお前が大事な後輩を傷つける事に手を貸してるとは皮肉な話だな」
「……どういう意味?」
御坂は思わず眉をひそめる。
垣根はその御坂への拘束を解いて、言った。
「俺の会社から木原数多に三千万の金が横流しされてる可能性が高い。……俺の想像通りなら、木原個人よりも外部から流れる金の方が使いやすいからそうしてる。それでお前が木原数多に接近してるって聞いて、思ったよ。お前はアイツとこっちの会社に利用されてるだけだ」
「だけど、あいつは……」
御坂の言葉にはさっきまでの力はない。
むしろ、不安からその表情まで焦りを見せていた。
「だから教えろ。木原数多はお前と何をしようとしていた?」
「安価↓2」
最早ヤンデレ関係ない件
>>929
これは酷いスレタイ詐欺
それでは開始
「クローンを利用する人間を排除して都市内に黒子達を保護する法を公布する……戸籍と住居を用意して一般人と同じ待遇まで引き上げてやる、理事会も後援してくれる……だから協力しろって……」
重々しく口を開いた御坂は悔しそうに唇をかんだ。
もし自分が利用されているのならこれ以上バカな話はない。
それが悔しくて、怖くて少女は俯いていた。
しかし垣根は言う。言わなければならない。
「……利用されたな、お前。冷静に考えればわかるはずだ。純粋にクローンへ人権を与えようとするヤツが協力を頼むならまだしも、実験の誘いなんておかしいと思わねえか?」
「で、でも……そうしないと」
「バカが。簡単に引っかかりやがって……第三位の名前が泣くぞ」
「……、」
黙りこむ御坂。
その表情はさえないものだった。
そんな御坂に垣根は問いかける。
「それで? 協力って何させられたんだ?」
「安価下2」
「私のクローンを作るためにDNAマップを提供した……そして誕生したクローンを使って『フィアンマコーポレーション』に負けない組織を作って、人権を訴えようって」
「おいおい……戦争でもおこす気か? いや、この場合は内戦だな。……外の国の連中も放っておかねえだろうぜ」
垣根は皮肉を言った。
それは御坂にその行いが無駄であり、現状を悪化させるだけだと伝える為のものだ。
御坂にもその事はわかる。
そして彼女はたった一つのつまづきで起き上がれなくなる程、弱くない。
強く、強く。
彼女は言った。
「ねえ、今なら私にもできる事があるんじゃない? あなたと違って私は内部に入る事に何の怪しさもない。……このまま利用されっ放しなんて、やりきれないの。……だから、私は私の都合でアンタに協力するわ」
彼女の瞳には確かな意思。
垣根はそれに笑うと、少女に告げた。
「安価↓2」
「お前は白井を腐らせた俺を信用してくれるのか」
垣根の言葉には自嘲だった。
その弱気な、吐き捨てるような言葉に御坂ば笑う。
「そんな事言ってていいの? ……何が起きても後悔しないでよね」
「良く言うぜ。お前なんか俺に勝てねえくせに」
「それはいつまで続くかわからないわよ?」
「……そうだな」
垣根も気付けば笑っていた。
御坂がスパイを確約してくれた。
それだけで垣根の現状は大きく前進したのだ。これ以上の朗報はない。
木山と御坂。
この二人と協力して目的を果たすのが彼の戦い方になる。
だが。
それを妨害する者もいる。
一方通行。
彼は黒子のクローンに重傷を負わせ、あえて殺さずに楽しんでいた。
「……あァ? オマエ、第二位か。奇遇だなァ」
「俺は会いたくなかったし、こんな場面も見たくなかったがな」
十体の白井黒子のクローンを殺されれば、垣根は敗北する。
そこへ一歩近づこうとしているこの状況は垣根にとっても厄介だった。
それに第一位に勝てる保証はない。
見逃すか、助けるか。
その選択の狭間に垣根は立たされていた。
一方通行はそんな垣根の渋い表情を見て、笑う。
垣根はこれが一瞬でも自分の愛した人間かと思いながら、問いかけた。
「一方通行……お前はどうして人を殺す?」
「安価↓2」
「俺に勝ったら教えてやるよ」
「……テメエ」
垣根はじっと一方通行を凝視する。
第一位の目はやはり自分の愛した一方通行とは違う。
濁り、獣のようにぎらついたその瞳は垣根という獲物を写していた。
それが垣根には浅ましく醜いものにしか見えない。
「どォしたァ? ……今なら回れ右で帰っていいンだぜェ?」
「……イヤだね。後ろ向いた瞬間に殺されそうだ」
「なら、死にやがれェ!」
一方通行の足が地面に軽く触れる。
それだけで彼の華奢な体は目にもとまらぬ速度で射出され、垣根の目の前へと迫った。
「クソが!」
垣根も三対六枚の翼を背中から大きく広げさせると、そのまま上へと逃れる。
目的は一方通行を倒す事ではない。白井黒子のクローンをつれ、逃走する事。
少女の傷ついた体をしっかりと抱き抱え、そのままトップスピードで一方通行との距離を開く。
だが、第一位はその程度ではまかれない。
「ハハハ! 面白ェ、鬼ごっこってかァ!?」
彼もビルの壁を足場に空へと大きく跳ぶ。
唯一の救いはそれが飛行ではなく、一時的な大ジャンプである事だろう。
一方通行は足場がなければ垣根を追跡できない。
しかし垣根は能力の続く限り空を飛べるのだ。
コンマ判定↓2
偶数 逃走成功
奇数 逃走失敗
ひょっとしてこのスレでフィアンマコーポレーション編終わらせるつもり?
≪>>948 わからないです…それだと無理矢理感もあるかなとは思ってますが……≫
「……何とか逃げ切ったな」
垣根は一方通行の追跡が途切れた事を確認すると、ほっと肩を落とす。
黒子のクローンを木陰に寝かせると、能力の演算を開始する。
まだ肉体の生成まではできないが、応急処置なら充分に間にあう。
「……どうして、助けましたの?」
少女は垣根へ疑問の目を向ける。
垣根はそれに答えず、治療を続けた。
痛みが弱まる程度だが、歩くくらいはできる段階には回復している。
垣根は起き上がろうとする少女の肩を両手で抑え、もう一度寝かせた。
そして、ポツリと呟く。
「俺の都合だ。……それに、お前を管理するのが俺の仕事だろ?」
「それは、そうですが……私は壊れたらまた作りなおせばいいだけの存在ですの。今更帝督様がこんな事をする意図がわかりません」
「そうだな……でもお前だって痛いのはイヤなはずだ。生憎、今の俺は人の痛みってのがわかるんでね」
「……、」
垣根の言葉は彼女の知る垣根の言葉とは違うのだろうか。
困惑しながらも少女は口を開いた。
「……アナタは、本当に帝督様、ですの……?」
「安価↓2」
「ああ、俺が垣根帝督だ」
これまでの自分が何者かなど関係ない。どれだけ残酷な人間だったのかなんて関係ない。
今は間違いなく自分が垣根帝督なのだから。
「……帝督様。今の方が本当の帝督様……?」
クローンの少女はきょとんと首を傾げる。
目の前の状況に思考が追いついてこない。
でも今までと何かが変わったのはわかる。
この、誰かに指示されるだけの、食い物にされるだけの命にそっと手を差し伸べる誰かがいてくれた。
それだけで、何かが変化する。
御坂は木原数多に会っていた。
目の前のモニターには御坂のクローンが映し出される。
それをじっと見つめる。
自分のせいで彼女らは生み出され、不当な人生を歩まされてしまう。
人としての扱いすら受けずに。
「どうした、第三位。何か言いたそうだな」
木原数多が不意に問いかける。
ここでどう答えるべきか。
目的を強く意識しながら、御坂は答えた。
「安価↓2」
「このクローンどうすんの」
「ああ? 何かと思えばそんな事か……」
木原数多は今さらというような調子で言った。
「コイツらはな。あの会社で苦しめられてるクローンを救うために使うんだ。アイツらに人権を与えて、クローンの価値を認めさせる。そう言ったじゃねえか」
「本当に? クローンを救うためにクローンを作るって負の連鎖じゃないの? もし、そうなら……」
「そうなら、なんだ?」
木原は挑発するような目で御坂を見つめた。
その、異常な威圧感に気圧されず御坂は言い放つ。
「私は、アンタにはついていけない」
「ハハハ! お前バカだなぁ。いいか? 現状、あの会社に立ち向かえるのは理事会か俺ら『木原』しかいねえ。かと言って理事会は大義名分が必要。そうなれば動けるのは俺らしかいねえんだよ。だから学園都市のため、クローン達の為に手をとりあおうぜ、な?」
「安価↓2」
≪今日はここまで。明日最後までやって次スレたてます。皆さんお疲れさまでした≫
「じゃあ既に出来てるクローンはどこで何をしているか教えて」
「……おいおい。もうクローンは一万体以上製造されてるんだぜ? 全部覚えてる訳ねえだろ」
「知ってるだけでいいわ。さあ、答えて」
「……、」
数多が唐突に押し黙る。
しかしその様子は知らない、というより答えられないというような様子だった。
「……やはり、な。木原に金が流れてる時点で予測はしてたが」
垣根はすでに一つの可能性へたどり着いていた。
八百長である。
一見すれば『フィアンマコーポレーション』と『木原』が権力闘争をしているように見えるが、その実態は全く違う。
おそらく、二つのグループは裏で提携していて、クローンという一大ビジネスを成功させようとしているのだ。
その証拠が横流しされた三千万である。
会社の廊下を歩いていると、フィアンマとすれ違う。
垣根は思わず笑みをこぼす。この段階では垣根が先手をとっているからだ。
「……よお社長」
「ふむ、随分と余裕だな。俺様と会社をつぶす算段でもあるのか?」
垣根は噴き出しそうになるのを必死にこらえる。
切り札はこちらが握っているのだ。問題無い。
そういう余裕の元、垣根は言った。
「安価↓2」
今日はレスが990くらいに到達しだい、終了して次スレを建てます。
それでは開始
「お前、社会の窓が開いてるぞ」
「……、」
フィアンマは端正な顔をわずかに歪ませ、無言のままズボンのチャックに手をかけた。
そして、視線を垣根からそらしながら言う。
「……忘れろ」
「イヤだね。今の忘れるとか不可能だろ」
「それは……そうだが」
社長らしからぬ表情でフィアンマは答える。
しかし、こういう態度をとれるという事はまだ彼に余裕がある証拠でもあった。
この状況でまだ何か隠し持っているのか。
それとも企業の規模を考え、つぶれないと油断しているのか。
そう悩む垣根の思考を読んだのかフィアンマは笑った。
「俺様は確かに驚いている。短時間でここまでこぎつけたお前の力にな。……だがそれもここまでだ。お前は俺様にはとどかない」
それは、ある意味では真理なのかもしれない。
いくら垣根が『フィアンマコーポレーション』の弱味につけこんでもその社会的地位の高さは変わらないのだ。
多少は利益なりが落ちるだろうが、それだけで終わるかもしれない。
でも、だからこそ。
垣根の頭脳をフルに使う価値がある。
「垣根帝督。お前は俺様をつぶす力など手に入れられんよ」
冷酷に現実を告げるフィアンマ。
垣根もそれに答えた。
「安価下2」
「それはどうかな」
垣根は笑う。
フィアンマも笑っている。
おそらく、互いの打算の中で動いていると判断しているからこその笑み。
どちらが先に出し抜くかが明暗を分ける。
「……ほう。俺様も知らない何かがあるのか?」
「ああ、そうさ。……残念だが俺はお前に勝つ」
「……そうか。あの天使に勝つという事になるのか。だがな俺様にも切り札はあるのだぞ?」
両者は同じタイミングで振り向く。
別れるその瞬間まで、お互いにじぶんの勝利を確信しながら。
「……答えられないのね」
御坂は確信した。
自分は利用されていた、と。
本当なら認めたくはないが、今はそんなプライドは捨てる。
木原数多の表情に不信感を覚えながらも彼女は言葉を続けた。
「なら私はもう協力できない……いいえ、こんな危険な計画は今すぐにでも踏みつぶす!」
「おいおい……ソイツは無理だな。すでにお前のクローンは白井黒子のクローン回収の為に動きまわってる。今さら収拾なんてどうやってつける気だ? 第三位と言ってもお前は所詮、学生なんだよ」
だから従え、と。思惑通りに利用されろ、と。
そう囁く木原数多に御坂は言いようのない屈辱を覚える。
だが、自分も第三位だ。こんなところでは負けていられない。
彼女はわずかに俯き、そして木原数多の顔を見上げて強く言った。
「安価↓2」
「いやよ」
木原数多は案の定と言った表情を見せる。
だが、今の御坂はそこに留まる程、甘くはなかった。
「…ところでさぁ、アンタがもしここで私にぶっ殺されたらさ、どうなんのかしらね……?」
バチバチ、と電流が彼女の前髪を迸る。
「俺が死ねば、クローンの保護者がいなくなる。運営もクソもなくなって処理されちまうぞ?」
「そんなの関係ない……! 金なら私にも用意できるし、運営者なんて私が信用できる人間と協力しあえばそれで済む!!」
「ハハハ……お前、本気で言ってるとしたら相当バカだな。信用できるヤツをそんな危険な話に巻き込むのか? それで死んだら、お前は責任をとれるのか? だからお前は利用されるんだよ。そういう甘い部分をな」
「……、」
確かにそれは事実だ。すぐに直せるはずもない。
でも、自分は誰かを、強い誰かを頼らなければいけない。
たった一人で巨大な悪をつぶす、と宣言したあの少年のような人間に。
直後。
少女の体が真横に吹っ飛んだ。
「!?」
何かを認識した時にはもう遅い。その華奢な体は壁にたたきつけられていた。
「悪いな。お前が反抗した時の為にそういうクローンを用意してた。……お前を殺す為だけに作られたクローンをな」
目の前の自分と同じ顔をした少女はゆっくりと御坂に歩みよる。
握りしめた拳銃を御坂へつきつけた。その銃は金属類を一切使っていない。だから御坂の磁力操作も効かない。
絶体絶命の状況で御坂は覚悟を決めた。
御坂目線でどうする? 安価↓2
「はあ!」
御坂は冷静に対処した。
電気を目くらまし程度にばら撒き、その場を離れる。
だが研究所は御坂に対する対策を講じているはずだ。
慎重に、確実に脱出を御坂は試みる。
だが。
ふと、通った通路のトイレから信じがたい光景が目に入った。
それは、肉便器として扱われていた自分のクローン達。
恍惚とした表情で彼女らは男性の研究員と行為に励んでいる。
その醜い光景を見て、今までの理性が吹き飛んだ。
前後の記憶が混乱し、全てを一つの感情を支配する。
こんな腐った人間殺してしまえ、と。
「……アハ♪」
少女がどろりとした瞳で笑った直後。
研究所が丸ごと一つ、吹き飛んだ。
異常を察知した垣根はすぐに研究所へ向かう。
研究所のあった場所は完全に焼け野原になっている。
その中央にはクローンを抱きしめ、地面に跪く御坂がいた。
垣根は御坂に慎重に声をかける。
「……大丈夫か」
「この子ね。性奴隷みたいな扱いされてた。だからね、ここのヤツら全員殺してやったの。……ねえ垣根。私、間違ってないよね? 正しい事してるよね?」
「安価↓2」
ありなのか安価なら
わかるもんか
≪>>980 今回はまあそうなるなというので……あまり酷いのは安価↓になると思います≫
「お前のせいで証拠消えたんだけどクローン助からないんだけど」
「……あ」
御坂はようやく気付いたのか、焦りを見せる。
垣根はその様子に呆れながら言った。
「どうすんだ。これでお前のクローンの証拠は一気になくなったぞ。……ていうか、こればれたら普通に社会的にアウトだろ。表向きはちゃんとした研究所って事になってるだろうし」
「……や、でも大丈夫よ。いざとなれば全員、殺せばいいし」
「お前……いつからそんな過激な考え方するようになった?」
「? 別にそんなつもりないけど……ああ、そうだ帝督。この子たちの保護に協力してくれない? それなりに経営能力ある人じゃないと無理っぽいのよね……えへへ」
頬を赤らめ笑う少女。
垣根はどこかであの天使が笑っているような気がしてならなかった。
なぜなら目の前の少女は完全に狂っていたから。
「あ、でもそうなると後で色々面倒だなあ……ねえ垣根。私、どうすればいい? アンタの言うとおりにするわ」
「安価↓2」
「生憎、そのクローン達まで俺の手には負えんから何処かしらに保護するよう頼んどく」
垣根は優しく言った。
そのように、見せかけた。
だが、直後に垣根は冷たく告げる。
「お前は自首しろ役立たずだから」
「……え?」
御坂は信じられない、というような表情で垣根を見た。
その目には甘え、媚びを帯びている。
御坂は垣根の足に抱きつき、言った。
「ねえ、嘘でしょ? 私、これからなの。これからって時にどうしてそんな酷い事できるの? ……お願い。私、アナタの奴隷にでもなんにでもなるから……そばにおいてよ、ねえ?」
「安価↓2」
≪このレスの安価が出次第、次スレたてます。皆さんお疲れさまでした。次スレもよろしくお願いします≫
「従う事しか考えられない家畜に成り下がるなら要らないんだよ。黒子のクローン達を救いたいって思ってたんじゃなかったのか? なのに何だよそのざまは」
「それは……」
御坂は自分のクローンを抱きしめ、考える。
確かに自分はおかしかったかもしれない。でも、間違ってるとも思いたくない。
目の前の少年を見る。
彼はただ、真っ直ぐに何の偏見もなく自分を見ていた。
その姿に見とれ、そして顔をそらす。
彼の端正な顔立ちにさす影が御坂を知らない世界に引き込んでいる。
垣根はその口をゆっくりと動かす。
「御坂。お前は何をどうしたい。次さっきみたいなバカげた事言うならお前をアンチスキルに引き渡す」
「安価↓2」
このSSまとめへのコメント
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