姉「この夏の不思議な出来事」(929)

深夜バイト明けのある日
寝ぼけた頭でリビングに降りていくと、待ち構えていたように姉が声をかけてきた。


姉「おう、起きたか」

弟「ん……おはよ姉貴」

姉「おはよう、と言ってももう昼だけどな」

弟「昨日はバイトで遅かったんだよ」

姉「知ってるよ、ほら朝ごはん置いてあるから食べちゃいな」

弟「うん」

弟「あれ雨降ってる?」

姉「気付かなかった?結構降ってるよ」

弟「そうかあ……天気予報なんて言ってた?」

姉「夕方まで振り続けるらしいけど、なにか予定でもあんの?」

弟「買い物行こうと思ってたんだよ」

姉「行けばいいだろ、雨でもさ」

弟「んーなんだかそんな気無くなっちゃった」

姉「根性ないな」

弟「気分の問題だよ、あーあ、折角バイト休みなのに気が滅入るなぁ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

弟「ごちそうさまっと」

姉「じゃあ食器の片付けよろしく」

弟「わかってるよ」

姉「私のも洗っといてね」

弟「え?」

姉「シンクに置いてあるから」

弟「なんだよ、それじゃ姉貴もさっき食べ終わったところだったのかよ」

姉「うん実はそう」

弟「自分のは自分で洗いなよ」

姉「頼むよ、今日は何もしたくないんだ」

弟「いつもそんなことばっかり言ってるじゃないか」

姉「お願い~」

弟「もう」

姉「この次は私が洗うから~」

弟「あー仕方ないな」

姉「うひょ!ありがとー!」

弟「なにが『うひょ』だよ、洗ってくるからテーブルくらい拭いといてよ」

姉「あーい」


 カチャカチャ
 
 ジャーッ

 カチャカチャ

 キュッ


弟「ふう、終わりっと」

姉「おとうとー」

弟「なんだよ」

姉「あいしてるー」

弟「心にもない事いうなよ」

姉「心にあるってぇ」

弟「それで?」

姉「ついでに珈琲」

弟「淹れろってか」

姉「あいしてるー」

弟「はいはい、俺もあいしてるよ」

姉「うひょー」

弟「ったく、なにが『うひょー』だよ」

弟「はいよ、珈琲」

 カチャ

姉「へへっ、ありがとな」

弟「ミルクと砂糖は」

姉「ああ、いい。 私ブラックだから」

弟「なに大人ぶってんの」

姉「私はもう大人だよ」 ズズッ

弟「俺と二つしか違わないくせに」

 カチャカチャ

姉「二つもだよ。 姉ちゃんだぞ、敬え」 ズズーッ

姉「美味しかった」

そう言って姉は食卓の椅子から腰を上げ窓際のソファに移動した
tシャツに短パン姿だ。 最近はいつもこうだ、目のやり場に……いや俺は興味ないことだが
そのままゴロンと寝転がり、全身を反らして「んんーっ」と伸びをする
しなやかな猫みたいだった
反らしてtシャツを押し上げる胸と、短パンからピンと伸びた太腿がやけにどうでもよかった
いや本当に


「でもさ」と姉はこちらを向いた姉の大きな目は、いたずらっぽそうにクリクリしていた


姉「最近ちょっと変わったよな」

弟「変わった? 俺が?」

姉「うん、なんかしっかり来てきた」

弟「マジで? 自覚ないけどなあ」

姉「バイト始めてからだな」

弟「バイト? 俺いつもペコペコしてるだけだぞ」

姉「それだって十分に社会の厳しさを学んでるんだよ」

弟「なんだよ偉そうだな」

姉「偉いんだよ、姉ちゃんだからな」

弟「わけわかんねえ」

姉「でも確かに男っぽくなってるぞ、たまにドキッとするし」

弟「ドキッとって」

姉「ついこの前まではあんたが居ても空気みたいに何も感じなかったけどさ」

姉「この頃は『うわっ男がいる』って思う時あるんだ」

弟「俺は元々男だってーの」

姉「そういうことじゃないよ、判らんかなあ」

弟「何がだよ」

姉「例えば今こうやって家に二人だけでいるだろ」

弟「うん」

姉「そういう時なんかに、『あれ?今こいつに襲われたらどうしよう』って」

弟「は?」

姉「不安になる時があるんだ」

弟「なんだよそれ! 俺をなんだと思ってる!」

姉「弟だけど……」

弟「弟はそんなことしやしないよ!」

姉「判ってるって、だからそういうふうに思わせる男っぽさが出てきたってこと」

弟「例えが悪いよ」

弟「ったくもう……」

姉「でも男臭いくなったのは本当だから」

弟「臭いのかよ」

姉「いきなり襲わないでね」

弟「あのな、だったら姉貴もそんな格好やめろよ」

姉「え? 私の格好?」

弟「いくら家でも、そんな、なんていうかその……」

姉「やだ、あんた私のことそんな目で見てたの?」

弟「見てない! 見てないよっ!」 ガタッ

姉「ちょっと、来ないで……やだ、近づかないで」

弟「違う……違うよ」

姉「やっぱり……」

弟「姉貴……」

姉「やっぱりあんたからかうと面白いわ、ププッ」

弟「は?」


結局俺はまた姉にからかわれてた
むかつく、俺は断じてそんなんじゃない
いやいや、そんなんって何なんだよ、違うよ

ショートの髪をかき上げながらケラケラ笑う無邪気な笑顔も
「ごめんごめん」と擦り寄ってきた時に見えた胸の谷間も
弟の俺にはどうでもいいことなんだって、うん

いや本当に本当ですよ?

それからちょっと文句も言ってやったけど
姉はそれを嬉しそうに聞いていた
こいつ何で嬉しそうなんだよ

まあこういうのもいつもの事で、俺も本気で怒ったりしない
ただ、今回はちょっと戸惑っただけだ
男っぽいなんて言われたのは初めてだったから
それだけだ

なんて考えながら窓から外の雨をなんとなく見ていると
すぐ横からまた姉の声

姉「おい」

弟「うわっ!」

姉「何驚いてるんだよ」

弟「急に近くで声がしたら驚くよ」

姉「向こうから呼んでも返事しないからだろ」

弟「え? 呼んでた? 気付かなかった」

姉「呼んだよ、何度も。 無視されるのかと思って泣きそうになっちゃっただろが」

弟「で、何?」

姉「あれ? 大好きなお姉ちゃんが泣きそうになったっていうのはスルー?」

弟「スルー」

弟「て言うか、大好きじゃねーし」

姉「マジで泣きそう」

弟「スルー」

姉「ちぇっ」

弟「それでなんだよ? 用事があるから呼んだんだろ」

姉「ああそうそう、そうだった。 えっと……何だったかな」

弟「……忘れんなよ」

姉「あそうだ。ちょっと不思議な体験したから、あんたに聞かせようと思って」

弟「不思議な体験?」

姉「まあこっちのソファに来なさいよ」


姉は俺の腕をとって、さっきまで自分が陣取っていたソファに導いた
姉の横の座らされる
ソファは二人掛けだ、なんか近い

姉「この前の旅行の時のことなんだけどさ」

弟「旅行?」

姉「ほら、おみやげあげただろ。 可愛いストラップ」

弟「ああ、あれね」

姉「そういやあれ使ってるか」

弟「いいや、部屋においてある」

姉のおみやげというのは
猫が月にしがみついてる変なストラップ
枕元のスタンドに掛けてある

姉「使えよな、せっかく買ってきてやったんだから」

弟「そのうちな」

どこへ行ったのかは知らなかったが
聞けば友達と温泉に行っていたらしい
二泊三日の温泉旅行

「年寄りくせえ」と笑ったら、「お肌にいいんだよ」と脚を突き出して見せた
「ほらツルツルだろ」って
ま、まあ確かに……いやそうじゃなくて

こいつがいない間はこういうこともなく
やけに家が静かで平和だった

姉「その行った温泉地っていうのが結構寂れたところだったんだ」

姉「泊まった旅館も雰囲気はいいけど年季が入った建物でさ」

弟「なんでそんな寂れたところにしたんだ?」

姉「え? あ……まあだから人も少なくて空いてるし。 安かったし」

弟「ふうん」

姉「あ、食事も美味しかった」

弟「それで不思議な出来事って?」

姉「うん、その旅館で……あったんだ」


姉「その日はねチェックインしたのが4時頃だったかな」

姉「すぐ温泉に入って、夕御飯食べて、また温泉に入って」

姉「あとはすることなかったから、10時には布団に入ったんだよ」

弟「またえらく早く寝たんだな」

姉「だって夜になったら周りに何にもなくて、本当に真っ暗だったし」

弟「そうか寂れてるって言ってたよな」

姉「そうそう」

姉「んで、そんな早く寝たもんだから夜中に目が覚めちゃったんだ」

弟「旅行先は眠りも浅いしな」

姉「それで気が付いたら結構汗ベトベトで気持ち悪かったからさ」

姉「もう一回温泉行こうってことになった」

弟「そんな夜中にお風呂入れんの?」

姉「そこの大浴場は源泉かけ流しっていって、24時間いつでも入れるってのが売りだから」

弟「ああ、そんなのあるんだ」

姉「温泉しか無いだけあって、お風呂は立派なんだよ。 大きな露天風呂もあるし」

弟「それでその立派な大浴場に行ったと」

姉「ああ、廊下が薄暗くてギイギイ鳴るんだ。 ちょっと不気味だったよ」

弟「あれ? これ怖くなんの?」

姉「まあ聞けよ。 それから脱衣場でさっさと浴衣脱いで浴室の中に入った」

姉「その時に、あれっ?って思ったんだ」

弟「……」

姉「そこからはガラス越しに外の露天風呂も見通せたんだけど」

姉「そこに人影が見えたんだ」

弟「ま、まあ他にも利用してる人もいるだろうさ」

姉「そうなんだけど、深夜の2時とかそんな遅い時間だったし、それに」

姉「脱衣場の入り口にスリッパが脱いでなかったから、てっきり誰も居ないと思い込んでたんだ」

弟「それは……姉貴が見落としてたんだろ」

姉「そう、その時は私もそう思ってさ、別にそれ以上気にもしないで洗い場に座ったんだ」

姉「まずベタついた身体を洗いたかったから」

弟「……」

姉「それで体を洗って、次にシャンプーで髪を洗っている時に聞こえたんだ」


姉「カラカラっ……って」


弟「な、なんだよそれ」

姉「露天風呂の出入口の扉の音」

弟「……」

姉「私は髪洗ってる最中だったからそっちの方は見られなかったんだけど」

姉「ああ、露天風呂に居た人が入ってきたんだなと思った」

姉「案の定、それから足音がぴちゃぴちゃって耳に入ってきた」

姉「ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、って」

姉「それでさ……それでその足音」

弟「変な間をおくなよ……」

姉「足音は脱衣場の方に向かっていたから、そのまま出ていくのかと思ってたら」

姉「洗い場の横に来た時、ピタリと止まったんだ」

弟「洗い場って」

姉「そう、私が髪を洗っているところ」

姉「それっきり足音がしないのよ」

弟「……」

姉「おかしいなーと思って、とりあえず髪を流そうと手探りでシャワーのノブを回した時」

姉「すぐ後ろで何かの気配を感じたの」

弟「っ……」

姉「勘違いなんかじゃない、はっきり判ったわ」

姉「すぐ後ろに何かが立っている。 そしてじっと私を見下ろしている」

姉「全身総毛立った。 頭から熱いシャワーが掛かっているっていうのに」

弟「そ、それで、後ろ見たのかよ?」

姉「見るわけ無いだろ、ただもう眼を閉じて早くどっか行ってくれって一心に祈ってたよ」

弟「それから? 何か、された?」

姉「いや何もされなかった。 しばらくして」

姉「と言っても、本当は1分か10分かもよく判らないんだけど、気配が急に消えたと思ったら」

姉「またあのぴちゃぴちゃって足音がして、それは脱衣場の方に出ていった」

弟「それが不思議な出来事か? 誰かのイタズラじゃ……」

姉「そう思うだろ? でもまだ続きがあるんだ」

弟「続きって、まさかあとで後ろ見たら真っ赤な足跡ついてたとか、背中に血の手形がついてたとか……」

姉「ま、まさか、そんなことだったらもっと大騒ぎになってるよ」

弟「あ、そりゃそうか。 それじゃ」

姉「足音が出ていったあと我に返ったらさ、急に腹が立ってきてんだ」

弟「なんで?」

姉「さっきあんた誰かのイタズラって言っただろ。 私もそう思ったんだ、からかわれたって」

姉「そしたらびびってた自分はすごく恥ずかしくなって、それが段々怒りに変わって」

弟「あーそういうこと」

姉「だから私追いかけたんだ。 そいつの顔見てやろうって」

弟「追いかけた? マジで? よっぽど頭に血が上ったんだな」

姉「うん、それで急いで脱衣場に出た。 でもそこには……」

弟「……」

姉「脱衣場には誰もいなかったんだ」

弟「……」

姉「……」

弟「あ……いやそれ、もう浴衣着て帰った後だったんじゃ」

姉「足音が出てから私が出るまで2分もかかってない。 女はその時間じゃ着替えて出ていくのは無理だ」

弟「姉貴が追いかけてくるの判ったから身体も拭かずに逃げ出したとか?」

姉「それはない」

弟「断言できるのかよ」

姉「できるんだよ」

弟「なんで?」

姉「その時はもう風呂に浸かる気もなくなっちゃってたから、私も浴衣着て脱衣場から出たんだ」

弟「うん」

姉「そしたら前の廊下でもう友達が待ってて」

弟「うん……え?」

姉「私の前に誰か出てこなかったかって聞いたんだけど、一人も出て来なかったって」

弟「……」

姉「あんたこれどう思う?」

弟「……」

姉「ねえ」

弟「……」

姉「おーい、どう思うかって」

弟「どうでもいい」

姉「え?」

弟「興味ない」

姉「な、なんだよ急に、話に乗ってきてただろ?」

弟「……」

おい、という姉の言葉をもう一度無視する
胸が重たくなってモヤモヤしたから
なんだこれ、なんでこうなる

ちょっとした事に、ほんの些細な事に思い当たっただけなのに
俺はなんでこうなってる?

あれ?もしかして俺って本当にヤバイんじゃね?

いや待て、冷静になれ
落ち着いて整理しよう
胸が急に重くなったのはいつだ?

――そしたら前の廊下でもう友達が待ってて

それは姉のこの言葉を聞いた時

……


何で友達が廊下で待ってるんだよ?
何で一緒に入ってないの?
二人で風呂に来たんだろ?

じゃあ友達は入らなかったのか?
いや汗で身体がベトベトなったからわざわざ来たんだ
だったら入ったはず

そうだ友達は風呂に入ったはずだ
姉とは別の風呂に

姉の入ったのは女風呂
友達は女風呂には入れなかった

それはつまり
その友達は

 男


――っていうことだよな


男と二人で温泉旅行かよ
夜中に汗ベトベトって、ベタついた身体を洗いたいって
……早く寝て何してたんだよ


……ちくしょう

あ、いやいやいやいや
違う違う
俺は何を動揺してるんだ

例え性格には難有りでも、男みたいな話し方でも
黙ってりゃ結構可愛いこいつに男がいてもなんの不思議もない

動揺なんかする必要はないし、してないし
してない
ただちょっと……ビックリしただけだ

こいつが……
こいつがもう男としてるとか

ちょっとビックリしただけだ

よし
落ち着いたな俺
大丈夫だ、冷静に今までどおり話せばいいだけだ
うん、よし

そして俺は姉の方を見た


姉「ねえって!」

弟「なんだよっ!」

姉「何怒ってんだよ!」

弟「怒ってねえよっ!」

姉「怒ってるだろ!」

弟「怒ってねえって!」


 だめじゃん俺

姉「あのな、気に喰わないことがあるんなら言えばいいだろ」

弟「別にないよ」

姉「言えよ」

弟「……なんにもない」

姉「ウジウジすんな」

弟「なっ?なんだと」

姉「このバーカ」

弟「……」

駄目だ、挑発に乗るな
聞いたら駄目だ
こんな事聞いたらおかしなことになっちまう

 「じゃあ聞くけどさ」

何言ってんだよ俺
駄目だって言ってんだろ?
やめろって

 「その友達って……」

よせ、駄目だやめろ

 「男……だろ?」

あーあ

姉「え?」

弟「男と温泉旅行とか、姉貴もずいぶんだな」

姉「へえ」

弟「?」

姉「さすがだなって思ってさ。 あんたなかなか推理力とかあるんじゃね?」

弟「知るかよ」

姉「んで、あんた」

弟「え?」

――あんたが怒ってんのは、

ニヤリと
姉がと笑った

――私が男と温泉行ったから?

ああしまった

そして俺は理解した

こいつ

こいつまた引っ掛けやがった

弟「姉貴……」

姉「うひょひょっひょっひょっ。 その顔、判ったようだな」

弟「騙しやがったな」

姉「でも今の話は本当だぞ。 ただし別の友達に聞いた話だけどな」

姉「私が行ったのはまた別のとこ。 あ、もちろん女同士でな」

弟「……」

姉「安心した?」

弟「何がだよ、知るかよ」

姉「うひょひょっひょっひょっ」

姉「ヤキモチ? ヤキモチ妬いちゃった? うひっ」

弟「そ、そんなんじゃねえよ」


俺を上手く引っ掛けたのが嬉しかったのか
嬉しそうに姉ははしゃいでいた

俺の耳元に口を近づけて
バーカ
と言いやがった

こいつうぜえ

て言うか顔近いんだよ、キスすんぞ
いや嘘ですけど

やばい
この話は引っ張ると俺に不利になるだけだ
なので俺はなんでもない顔で話を戻すことにした


弟「でも男と温泉行く友達なんているんだな」

姉「ん? そりゃな、いろんな子がいるさ」

弟「で? 結局何だったんだ?」

姉「だからそれをあんたに聞いてるんじゃない」

弟「判ってないのかよ」

姉「だから不思議な話って言っただろ」

姉「どう思う? あんたの推理力で解明してみてよ」

弟「そんなもんないって、俺はコナン君じゃねえ」

姉「あん? でもさっきは」

弟「あうっ」

ああヤバイ、話が戻ってしまう
とりあえずなんか言わなくちゃ


弟「あーっと。 んー……ん?」

弟「えーっと、そうだ」

弟「例えば、足音が脱衣場に出ていったってのがその友達の勘違いで」

姉「勘違い?」

弟「うん、実際はその横にあるサウナに入ってた!」

姉「……サウナあったのか?」

弟「俺が知るかよ、それは友達に聞けよ」

姉「うーん」

姉「他には?」

弟「ええー」

弟「うーん」

姉「がんばれがんばれ、もうひとつ考えたらご褒美やるぞ」

弟「別にいらないけど……じゃあ、こんなのは」

姉「ふむ」

弟「えっと、その足音の主は実はその旅館の従業員だった」

姉「へえ、それで」

弟「だから客と一緒に入浴したり、脱衣場で顔を合わせるとまずかったんだ」

弟「だから隠れた」

姉「ほう、どこに?」

弟「脱衣場には風呂の管理用の小部屋みたいなのがあったんだよ」

姉「あー機械室とかメンテナンス用とかそんな感じの」

弟「そうそう、そこは従業員しか知らなくて、入り口も目立たないようなってて気付かなかったと」

姉「なるほどな、なんかこじつけ臭いけど一応筋は通ってるか」

弟「こじつけだから仕方ないだろ」

姉「それじゃなんで友達の後ろに立ったんだ?」

弟「それは……その友達が他の従業員の誰かに似てたんじゃないのかな」

姉「ん? どういうこと?」

弟「つまり足音の主が洗い場の友達を他の従業員と勘違いして近づいたんだ」

弟「『あ、あの子も来てたんだ、ようし驚かせてやろう』とでも思ったのかもしれない」

姉「ほほう」

弟「で、後ろにたってみたものの、なんかおかしい。 似てるけど違うような気もする」

姉「ああ、それで黙ってじっと見てたと」

弟「それでやっぱり違う、これはお客だって気付いて慌てて逃げたんだ」

姉「……まあそれで説明はつくか」

弟「こんなもんでいいだろ」

姉「判った。 じゃあそれを確認しよう」

弟「え?」

弟「友達に電話で聞くのか?」

姉「いいや実地検分」

弟「じっちけんぶん?」

姉「この次連休、そこの旅館に確かめに行くから」

弟「わざわざ姉貴が?」

姉「何言ってんの、あんたもに決まってんだろ」

弟「へ? 俺も?」

姉「当たり前じゃない、あんたの説が合ってるか確かめに行くんだから」

弟「いやでもその、俺と姉貴で?」

姉「そう楽しいでしょ? 姉弟二人で仲良く温泉旅行」

弟「へ?」

姉「その日はちゃんとバイトの休み取っとけよ」

弟「へ?」

姉「あ、さっき言ったご褒美ってこれだから」

弟「へっ?」

そんなこんなで俺は姉と温泉旅館足音の謎解明の旅へと行くことになってしまった

なんでこうなったのか
あいつは一体何を考えてるのか
その時の俺には知る由もなかった
などど思わせぶりなことを書いてみるが、本当に何が起こるか検討もつかない

ていうか、もう何が起こっても知らないぞ
責任取らないからな

ちなみに一泊二日なのである


そして第一章は終わり、第二章へと続くのだった

結果的にはこうして休みは貰えたけど
その代わりにずっと休み無しでバイトに出た
今日も帰宅したのは明け方

乗り物の中で多少は眠ったけど、まだ眠い、疲れてる
何で俺はこんな苦行をしてるんだ?
足が重い、リュックが重く感じる
荷物は出来るだけ減らしたはずなのに

それに引きかえあいつは何だ?
ショルダーバック一つって、普通女ってもっと荷物多くなるんじゃないのか?

今日はデニムジーンズかよ
それってしゃがむとお尻の割れ目見えちゃうヤツじゃないか?
体の線出過ぎだし、いやらしい目で見られちゃいますよ?

まあ俺は興味ないんだけど

姉「どこ見てんだよ」

弟「え? いや、山を……」

姉「嘘つけ、私のお尻見てたろ」

弟「見てねえよっ」

見るわけねえだろが
こいつは後ろに目が付いてんのかよ


姉「ふうん」

弟「それより旅館はまだなのか?」

姉「もう少しだよ、この坂上がってちょっと下ったところに看板が出てるらしい」

弟「交通の便が悪すぎだろ。 友達もよくこんなところまで来たんだな」

姉「ああ、あの子達は車で来たんだ」

弟「車?」

姉「ああ、彼氏の車。 車だと近くに高速道路が通ってるんで早いんだ」

弟「マジかよ……。 じゃあ車借りてくりゃ良かったんだ」

姉「誰が運転するんだよ」

弟「あれ? 姉貴、高校出た時に免許取ってったんじゃ?」

姉「じゃあ聞くけど、あんたは私の運転で車に乗りたいのか?」

弟「……いや、遠慮したい」

姉「だろ?」

弟「納得した」

姉「ならいい。 それに二人で電車やバス乗ったり、こうして歩くのもいいもんだろうが」

姉「互いの距離が近くなるっていうかさ」

弟「そうかねえ、逆に溝が深まるんじゃねえの?」

姉「元から溝など無いし」

弟「はは、無いことは無いだろ」

姉「え……あるの?」


あれ?急になんだよこいつ
なんでそんな不安そうな顔なってんだよ?
こらやめろよそんな顔

弟「あーいや、ない、かな……」

姉「だよなっ」

あ、笑った
バカじゃないの?この姉

姉「でもまああんたが免許取ったら車であちこち行くことにしよう」

弟「勝手に決めんなって」

姉「へへっ楽しみだな、早く免許取れよ……って、あれ?」

弟「なんだ?」

姉「これリュックに付けたんだ」

弟「ああこれか、付けなきゃまたうるさいからな」


姉が見つけたのは例のおみやげ、猫が月にしがみついてる変なストラップ
家を出るときにリュック付けてきた
付けたけど汚れないように横の収納ポケットに入れてあった
いや別に汚れてもいいんだけど、なんとなく

姉「そっか、じゃあ私もバックに付けよう」

弟「え?」

姉「ここでいいかな……よいしょっと」

カチッ、っと
姉がバッグに付けたのは、俺にくれたのと色違いの
猫が月にしがみついてる変なストラップ


姉「ほらっ、お揃いだ」

弟「……やめろよ恥ずかしいだろ」

姉「なんで?」

弟「何でって」


いややめろよ本当に

しちまうだろ

勘違い

弟「じゃあ俺が……」

――俺が外す
と言いかけてやめた
まあいいか
こんな事でこいつの機嫌を損ねるのも馬鹿らしい
俺が我慢すりゃいいことだ
うはっ、俺って大人

前を歩く姉を見る
姉が足を進める度に
そのお尻……じゃなくて、その変なストラップはゆらゆらと
ゆらゆらと揺れていた

俺はそれを見ながらまた坂を登った

やっとのことで坂の頂上まで辿り着いた
ほら見えたぞ、と姉が指さしている

姉「もう少しですよ、金田一さん」


その方向に目をやると大きな木の影に看板が立ててあった
その横の脇道を入れば問題の温泉旅館があるらしい

はあやっと着いた
早く荷物を降ろしてゆっくりしたい

ていうか

金田一さんって誰だよ

今日はここまで

仲居「では夕食は6時からということで」

弟「はい」

仲居「大浴場へは一旦本館ヘ戻って頂くと、次の渡り廊下から行けるようになっとります」

仲居「廊下の入り口に看板がかかってますからそれを目印に入って下さいませ 
    間違えると他の部屋に行っちゃいますんでねえ、お気を付けて」

弟「はあ、そうなんですか」

仲居「とは言いましても、今日お客さんが入ってるのはこの部屋だけなんですけどね」

弟「え、俺達だけなんですか? 連休なのに?」

仲居「そうなんですよう、もう暇でねえ」

仲居「でもその代わりに人目も無いですし、ごゆっくり楽しんでいただけますよ」

仲居「二人きり水入らずで。 ねえ、彼女さん」

姉「え?いや、私は……」

仲居「あらそんな赤くなりんさって、初々しい」

仲居「ほんに可愛い彼女さんで」

弟「ああいやいや違いますよ。 俺達姉弟なんです」

仲居「えっ? あらまあ、そうでございましたか」

姉「はい、そういうことにしておいて下さい」

仲居「ああ、なるほど……これは気が付きませんで」

弟「?」

仲居「そうそう、ご家族ということでしたら大浴場が家族風呂としてご利用いただけますよ」

弟「は?」

仲居「いいんでございますよ。 どうせ今日は貸切ですし、そのようにフロントに伝えておきますから」

姉「お願いします」

仲居「判りました、むふふふ」

弟「ええー」

仲居「それではこれで失礼します。何が御座いましたらご遠慮なくフロントまで」

仲居「ごゆっくり。 お楽しみを。 むふふ」


そして仲居さんは帰っていった
意味有りげな含み笑いを残して

いやおかしいって、あの仲居さん

姉「はぁーっ、緊張したー」

弟「え? 緊張してたのか?」

姉「うん、もうドッキドキしてた」

弟「姉貴そんな性格じゃないだろ」

姉「そうなんだけど、なんかここの雰囲気に飲まれったって言うのかな」

弟「雰囲気?」

姉「なんか訳有りカップルが隠れて遊びに来るみたいなさ、そんなエロい雰囲気」

弟「エロいって……」

姉「あんたは鈍感だから判らないんだよ」

弟「……」

姉「だからさこんなとこ来て、二人で部屋に案内されてる、とか」

姉「私達もそんな関係だと思われてるんだ、とか考えたら」

姉「なんか胸のあたりがギュッて変な気分になったんだ」

弟「……考えすぎだって」

姉「でもあの仲居さんそんな目で見てたぞ。 絶対カップルだって思われてる」

弟「ああ、まああの仲居さんはちょっとな……じゃなくてっ」

姉「え?」

弟「だから俺がわざわざ姉弟だって説明したのに、姉貴が横から余計なこと言うから」

姉「私なんか言ったっけ?」

弟「言っただろっ、そういうことにしておいて下さいとか何とか」

弟「あれで完全に誤解されたんだからな」

姉「ん? そうだったか?」

弟「そうだよ、すごい意味有りげな笑い方されたぞ」

姉「うーん……まあいいじゃん」

弟「いいじゃんって、そんな目で見られるのが嫌なんだろ?」

姉「え? 嫌とは言ってないだろ。 変な感じがするってだけ」

弟「?」

姉「それに……この胸がギュッとなる感じも悪くない」

弟「う……」

姉「ああ……なんか妙な気分だ……」

そう言って姉は俺の顔を見た
トロンとした眠そうな眼ではあっ、と吐息をつく
なんか、これは
やばい

姉「こういうの鈍感なあんたにはわからないんだろな」

くそっ
こいつ、また言いやがった
別に好きで鈍感やってんじゃねえよ
そうでもないとやってられねえだろが

姉「私の気も知らないで」

知らねえよ
そっちこそ俺の気も知らないくせに

ああ駄目だ
こういう思考はやばい
そしてこの沈黙もやばい
こいつまた何か企んでるかもしれん

ここは……
そうだこういう時は
俺は大きなあくびをひとつした
もちろんわざと

俺は姉に背を向け座布団を枕にして畳に寝転んだ

弟「俺ちょっと横になるわ。 昨日寝てないし疲れたよ」

姉「……そうか」

残念そうな姉の声
やはり何か企んでやがったか

姉「しかしそれなら先に風呂に入った方が良くないか? 汗かいただろ」

弟「いや後でいい。凄く眠いんだ」

姉「わかった……じゃあ私はその辺の庭でも見てくる」

弟「……うん」


姉はしばらくゴソゴソしていた気がするけど
いつの間にか部屋から出て行ったらしいけど
よく覚えていない

眠いのも疲れてるのも本当だったんで
俺はすぐに眠りこんじまったから

ぐうぐう……

~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~

 「失礼しまーす!」

大きな声でびっくりして目が覚めた
時計を見るとさっきから一時間も経っていない
それでも身体はだいぶん楽になった

声は入口の戸の向こうからだった
はいどうぞ、と返事をする

ガラリ、と戸が開くとそこに居たのは
作務衣姿の若い女の子だった
多分俺より年下だ


「失礼しまーす」

彼女はもう一度そう言いながら室内に入ってきた
そして畳にぺたりと正座して
ニッコリと微笑んだ
おお、マックの営業スマイルみたいだ

「えーどうも本日は遠いところを……えっと、なんだっけ? ようこそおいでくださられまして、あれ?
 ……ありがとうございます。 えっと、私、バイトで下働きの見習いです」

ぷっ、思わず笑っちまった

見習い「あーっ、お客さん笑いましたねー」

弟「あ、いやごめん。 でももうちょっと挨拶練習した方がいいと思うよ」

見習い「急だったから焦っただけですもん」

弟「そうなの?」

見習い「はい、いつもならちゃんと出来るんです」

弟「へえ偉いね」

見習い「あっ信じてないですね、お客さん、 もうー」

弟「そ、そんなことないよ」

うわあ、何この子? 人懐っこいというか馴々しいというか
でも凄い話しやすい

見習い「ぶー」

弟「いやそれより何の用事かな?」

見習い「あっそうだった、あのー夕食なんですけど、おかずが一品サービスになってましてー」

弟「へえそうなの」

見習い「はいー。 それがお肉とお魚と二種類ありましてですね、」

見習い「どちらが御希望を聞いてこいって急に言われて来たんですー」

弟「なるほど、さっきの仲居さんが聞き忘れたんだね」

見習い「はいー。 あの人どうでもいいことはよく喋るのに、肝心なことは聞き忘れちゃうんですよー」

弟「ああ、そんな感じだったかな」

見習い「でもだめですよー。 それを言ったら怒られちゃうんですからねー」

弟「怒られるなら言わなくていいのに……」

見習い「でもーそういうことなんです。 お肉とーお魚、どちらがご希望ですかー?」

弟「うーん、どうしようかなあ……肉?」

見習い「お魚がお勧めですよー、川魚新鮮ですからー。 お肉美味しくないです」

弟「ええ? 美味しくないって、そんなこと言っていいの?」

見習い「でも美味しいほうがいいでしょー?」

弟「そりゃそうなんだけど……じゃあ魚で」

見習い「お連れさんもご一緒でいいですかー?」

弟「うん、いいよ。 美味しけりゃ文句ないだろうから」

見習い「お連れさんって彼女さんなんですよねー?」

弟「え?」

見習い「凄く美人でカッコイイですよねー」

見習い「いいですよねー。 あんな素敵な恋人とお泊りでー」

弟「この旅館の人達って結構こっちに踏み込んでくるよね……じゃなくてっ」

弟「あれ姉貴なんだけど」

見習い「えー?」

弟「俺達姉弟なんだよ」

見習い「あー、そういうことにしておけって仲居さんから言われてましたー」

弟「いやそういうことじゃなくて、本当だから。 本当の姉弟。 あの仲居さん勘違いしてるから」

見習い「えー、そうなんですかー」

弟「そうなのっ」

見習い「でもお二人似てませんよねー」

弟「姉弟だからって似てるとは限らないよ」

見習い「お姉さんあんなにカッコイイのにー」

弟「どういう意味だよ……」

見習い「あはははー」

弟「あははーじゃねえよ」

見習い「じゃあ珍しいですよー、お客さんみたいな人」

弟「珍しい? 何が?」

見習い「ここのお客さん達ってカップルか女の人同士ばっかりですからー」

見習い「カップルもおじさんんと若い女の人みたいな不倫系が多いのでー」

弟「おいおい、またそんなこと言っちゃって」

見習い「バレなきゃいいんですよー、まだ見習いバイトですからー」

弟「まあ俺は言わないけどさあ」

見習い「だから珍しいんですよー。 若くてーそういう相手のいない寂しいお客さんはー」

弟「寂しくて悪かったな」

見習い「あはははー」

見習い「お客さんどちらからおいでですかー?」

弟「○○だけど」

見習い「○○? わあ都会だなー、いいなー」

弟「そうかな?」

見習い「いいですよー、憧れますー。 この辺なんてホント何にもないんですよー」

弟「まあ山と谷ばっかりだとは思うけど」

見習い「でしょー? ○○かー、行ってみたいなー。 でも怖いからなー」

弟「そんな怖いところじゃないよ」

見習い「ホントですかー? じゃあ行ったら案内してくれますかー?」

弟「え? 俺が?」

見習い「はいー」

そう彼女、見習いちゃんは答えた
某長寿アニメのイ○ラちゃんのみたいに

さっきの営業スマイルとは違う純朴そうな自然な笑い顔

見習い「そうだ、アドレス交換しましょーよー」

なんて、この子が無防備過ぎるのか
この辺りの人はみんなそうなのか
そういえばあの仲居さんも人懐っこかったっけ
遠慮が無いのもそう

見習いちゃんは腰を上げる気配もなくずっと話しかけてくる
ここでサボってると怒られるんじゃないかと、こっちが心配になるくらい

こんな無防備だと街に出たらさすがにヤバイかもしれない

改めて見習いちゃんを見る
それはもう何気ない素振りでだ

ん?
あれ?結構可愛いぞ
色白で眼がクリクリしてて、長い髪を後ろで一本に括っている
それに背は小さいけど
大きめの作務衣越しに判るくらい出てるところは……
これは、なかなか

「あっ!」

俺の方に身を乗り出していた見習いちゃんが
ぴょん、と居住まいを正した

その拍子に揺れたのを俺は見た

胸が

ぷるんと
ぷるるんと

おうふ……

なんて感動している暇もなく
座った腰のあたりに
ゲシッ!っと衝撃が

痛てえなっ、なんだよと
後ろを見るとそこに姉が立っていた

こいつ今蹴りやがったよ


弟「びっくりするだろ」

姉「……ただいま」

弟「お、おう」

姉「もう起きてたのか」

弟「ああ」

姉「何してたんだ」

弟「いやオカズ、この子が夕食のオカズのことで……」


言いながら俺は見習いちゃんの方を……
あれ?

姉「さっきの子ならもう出ていったぞ」

弟「早っ。 見習いちゃん早っ!」

姉「ほう、見習いちゃんか。 少しの間にずいぶん仲良くなったんだな」

弟「いやそんなんじゃないよ」

姉「へえ、やけに寄り添ってるように見えたけどな」

姉「お前嬉しそうにニヤけてたし」

弟「違うって、つかお前って……」

姉「まあいいや。 おめでとう、可愛い子と話ができて良かったな」

姉「お祝いだっ!」

 ゲシッ!

弟「あ痛っ!」

姉「あーめでたいめでたい」

弟「蹴るなよもう、何がめでたいんだよ」

姉「ふん」

弟「イテテテ」

姉「おい」

弟「……なんだよ」

姉「風呂行くぞ風呂、お前も用意しろ」

弟「別に一緒に行かなくったって」

姉「せっかくの家族風呂なんだから一緒に行けばいいだろ」

弟「行っても一緒に入られないだろが、ここで待ってるよ」

姉「あのな、お前何か忘れてないか?」

弟「え?」

姉「実地検分」

弟「あ」

姉「そもそも私達がここへ来た理由は何だったんだ?」

弟「そうか」

姉「一緒に脱衣場を調べられるなんて好都合だろが」

弟「そうだった」

姉「ったく、鼻の下伸ばしてるから忘れるんだ」

弟「うう」

姉「判ったなら早く支度しろ。 ほらその浴衣こっちに貸せ」

弟「え? 浴衣?」

姉「お前の後ろに置いてあるだろ。 着替えるんだよ、お前もだぞ」

弟「俺も?」

姉「当たり前だろ、温泉のマナーだぞ」

弟「マジかよ」

姉「着替えたか?」

襖の向こうから声がした

弟「まだ。 姉貴は?」

姉「もう着替えたよ。 ったく、なんでそっちの部屋に入ってるんだよ」

弟「姉貴がいきなり脱ぎだすからだろ」

姉「別に私は気にしないぞ」

弟「俺が気にするんだよ」

姉「ははーん、さては私にパンツ姿見られたくないんだな」

弟「そうじゃない……こともないけど」

姉「今更恥ずかしがっても仕方ないだろ」

弟「今更って……」

姉「私はあんたのちんちんのホクロまで知ってるぞ」

弟「へ?!」

な、なななな、何言ってんだこいつは
ホクロ?
あるけど、確かにホクロあるけど……
な、なんで

姉「だから風呂なんていつも一緒に入ってたろ? あんたのちんちんくらいずっと見てたっつーんだよ」

そう言ったかと思うと
ガタガタっと建付の悪い襖を開けて姉が入ってきた

きゃー

姉「遅い」

弟「いや帯がさ」

姉「なんだよそれ、男はもっと腰に巻くんだよ」

弟「あ、そうなのか

姉「ほら、かしてみろ」

弟「あ、ちょっと……」

姉「こうするんだ」

姉の手が俺の腰に帯を巻く
前から後ろに手を回して
近い……
っていうより、これじゃ抱きつかれてるみたいだ

自分のじゃないと感が狂うのか
姉は手間取っているようだった
何度も抱きつかれて
俺はもうなんていうか、その

必死だった

姉「……はいこれでよし。 きつくないか?」

弟「大丈夫、ありがと……」

姉「行くか」

弟「ん」


俺達は部屋を出た
ギイギイ鳴る廊下を並んで歩く
……
うーん
何を意識してんだよ俺

何をってあれだ
姉の浴衣姿が凄く、なんていうかあれだ

いや卑怯だよ
帯でお腹締めたら
胸とお尻が強調されるでしょ?
それで浴衣って薄いんだよ、いろいろと見えるんだよ

いいよ、もうぶっちゃけるよ
エロいよ
凄くエロいんだよ

まだ姉だから我慢できるけどな!

姉「ん? どうした?」

弟「いや別に……」

姉「蹴ったの怒ってんのか?」

弟「いつものことだろ、慣れてるよあのくらい」

姉「そうか、ならいい」

弟「なんだよ気にしてたのか」

姉「いや怒ってんのならお詫びに手でも繋いでやろうかと思ったんだけどな」

弟「なっ、いらねえよ子供じゃあるまいし」

姉「じゃあ腕でも組もうか」

弟「余計にいらねえわ」

姉「ちぇっ、つまんねえ奴」

弟「そういやさ、庭見てくるって言ってたよな?」

姉「おう見てきたぞ。 この廊下のな部屋よりもう少し奥に庭に出るところがあった」

弟「ああ奥の方から出られるのか」

姉「なかなか面白かったぞ、ここの庭」

弟「へえ、どんなふうに」

姉「ほら、この廊下の窓からも私達の部屋からも他の建物が見えないだろ」

弟「ああ、ずいぶん広いんだなとは思ってた」

姉「それが違うんだ」

姉「他の部屋とか建物同士も結構近くに建ってる」

弟「ほんと? じゃあ何で見えないんだ?」

姉「この旅館の敷地全体が山の斜面みたいでな、建物ごとに高さが違うんだ」

弟「高さが違う? 他が高かったり低かったりするから見えないってことか?」

姉「そうだ。 この廊下も奥に向かって登ってるだろ」

弟「でもそれだけじゃ少しは見える気もするけど」

姉「そういう所は大きな木とか植込みなんかで目隠ししてあった」

弟「じゃあ隣の建物見たのか?」

姉「見たよ、誰もいなかったけど。 ここより低いところにあった」

弟「へえ意外と考えてあるんだな。 俺も後で庭に出てみよっと」

姉「まあそれは明日にしとけよ」

  <本館ロビー>

弟「大浴場はっと……すぐ横の廊下って聞いたけど」

姉「これじゃないのか、看板が出てる」

弟「ああそれだ、この廊下を行けばいいんだ」

姉「じゃあ……」

  「あらお客さん!」

弟「あ、仲居さん」

仲居「今からお二人でお風呂でございますか」

弟「あ……いやまあ」

仲居「そんな照れなくてもよろしゅうございますよ。 判ってますから、はい」

仲居「あちらには誰も行かないように言っておきますので」

仲居「ごゆっくりお楽しみ下さい。 むふふ」

弟「だから違うんですよ」

仲居「はい判っております。 心得ておりますとも」

弟「ほんとかなあ……それじゃ男湯と女湯は別々にあるんですよね?」

仲居「はあ? 今日は女湯を家族風呂にいたしましたんでね」

仲居「男湯の方は掃除のために湯を落としておりますよ」

弟「ええっ?」

仲居「こんな時でもないと湯船が洗えませんのでね」

弟「ええー」

仲居「そんな事よりほら、お連れさんがお待ちですよ」

弟「あっ」

仲居「こんな美人さん滅多にいないんだから逃がしちゃ駄目ですよ。 ねえ」

姉「え……私はそんな」

仲居「いえ本当の事でございますよ」

姉「ありがとうございます」

仲居「ではごゆっくり。 たっぷり甘えて可愛がってもらって下さいな。 むふふ」

弟「あーあ、勝手なことばっかり言って行っちゃった。何なんだよあの人は」

姉「おーいさっさと行くぞ」

弟「あ、はいはい」

姉「面白い仲居さんだな」

弟「困った人だよ、まったく」

姉「そうか?良い人じゃないか」

弟「そりゃ姉貴は美人なんて褒められてたもんな」

姉「いやそんなことじゃなくて」

弟「え?」

姉「ほら、甘えるからさ……」

 ぎゅっ ぴと

弟「な、何を……」

姉「たっぷり可愛がってくれよ」

 むにゅ

弟「引っ付くなっ! 放せっ!」

あ、当たってるって
ほら、胸が……
や、柔けえ……

などと感動する間もなく
俺は腕に絡み付いている姉を振りほどいて
大浴場へダッシュした
何故か前屈みで

そしてとうとうやって来ました
この旅のきっかけとなった

  <大浴場>

廊下を下った突き当りに並んだ入口が二つ
もちろん男湯と女湯

しかし今男湯の前には「清掃中」の
そして女風呂の前には「御家族風呂でごゆっくり」の立て札が

あの仲居さん張り切り過ぎだろ……

まだ少し前屈みで呆然とその立て札を見ていたら
やっと姉が追いついてきた

姉「置いていくなよ、寂しいだろ」

姉「ん? どうした前屈みで。 腰が痛いのか?」

弟「え? あそ、そう、ちょ、ちょっとひねったかな」

俺は腰に手を当てて祈った
神に? いや下半身に
おさまれ、頼むから早くおさまってくれ


姉「そうか。 じゃああとでマッサージしてやろう」

弟「いっ、いやいい、それはいい」

そんなことされたらもっととんでも無いことになってしまいますよ?

弟「大丈夫だから。 それより早く脱衣場を調べよう」


入口の暖簾をかき分け
俺と姉は脱衣場へと入ったのだった

まあ現実はこんなもんですよね
逆に言えば適当に考えた説が当たってる方が怖い
その方が不思議な出来事でしょ

ともあれ、これでこの件も終了だな
後は風呂でも入って……
あそうか
一応風呂くらいは覗いとくか

そう思って俺は浴室への扉をガラリと開け
一歩中へ入った――おお凄い湯気だこりゃ

なるほど
聞いた通りここから露天風呂が見える
露天風呂への出口は……っと、見回した時

姉「おい、何してる」

後ろから姉の声

弟「え? ……うわっ!」

振り向くと姉が立っていた
全裸で

え? なに? どういうこと?

つうか

おっぱい見えてますよ?
ねえ見えちゃってますよ?


弟「なっ!ななな、何脱いでんだよ!」

姉「何って、当たり前だろ風呂入るのに」

姉「浴衣着て入ってるあんたの方がおかしいんだよ」

弟「そ、そりゃそうだけど……じゃなくて、そうじゃなくて」

姉「ほら、あんたもさっさと脱いで来いよ」

弟「いや隠せよ! 見えてるよ!」

姉「隠してるだろ? タオルで」

弟「いや見えてるから! チラチラ見えてるからっ!」

姉「見ようとするからだろ、このスケベ」

弟「してねえよ……見せんなよそんなもん」

姉「嘘つけ。 視線が身体の方ばっかりいってるぞ」

弟「嘘だっ!違うっ」

姉「そんなに見たいなら見せ合いっこしてもいいぞ」

弟「しねえよっ」

姉「恥ずかしがることはないぞ。 こっちはあんたのちんちんのホクロまで知ってるって言っただろ」

弟「そ、それは言うな」

姉「ほら早く脱いでこい。 私は露天風呂に行ってるから」

弟「い、いや俺は脱衣場で待ってるから」

姉「待ってるぞ、背中くらい流してやる」

弟「お、おい」

姉「じゃお先ー」


そう言うと姉は露天風呂の方に歩いていった

あの
後ろからだとお尻丸見えなんですけど
いや見てないよ
視線反らしたからな

形の良いプリプリお尻なんて見てませんよ

しかし、しかしだ
見た。 俺は見た

見てないと言ったけど
実は見た

姉貴の生おっぱい、生尻
さすがにあそこは見えなかったけど


俺は脱衣場の椅子に腰を降ろす
うわ、結構俺狼狽えてるな

頭の中でさっきの光景がグルグルと回っている

おっぱい……尻……乳首……

乳首って……姉貴の乳首って……

薄い桜色でつつましげながらもぷっくりして、ツンと上を向いて……
摘んでくださいと言わんばかりの
姉貴の乳首

なんて理想的な
色も、形も、大きさも、その位置も

おっとヤバイ
下半身が活性化する気配

でも大丈夫
これは俺が若い男だから
これはただの生理現象

初めて生のおっぱいを見たんだからこうなって当然
例え姉でもあんなの見せられたら反応して当然

大丈夫
俺は大丈夫
俺はごく普通
そうノーマル

決してシスコンなんかじゃない

それから20分程待っても姉は上がって来なかった

これ以上待てない
俺の身体もベタベタしている
言っとくけど汗でだよ
ひとりで変なことしてないよ

仕方ないから

そう仕方なしに、俺は浴衣を脱いで浴室に入った

姉は……

まだ露天風呂のようだ

今のうちに体を洗ってしまおう

コソコソと洗い場に移動し、手早く髪と体を洗った
それから室内の浴槽の端っこ、
露天風呂から見えない場所に身を潜める

落ち着かない
もう出ようか

いやしかし、これってどうなんだ?
せっかく温泉に来ているのに何なんだこの窮屈さは
全然くつろげないじゃないか

それもこれも姉貴のせいだ
普通は女の方が恥ずかしがるんじゃないか?
何で俺がコソコソしなきゃいけないんだよ

あーなんか腹立ってきたな

そうだ、こうなったら堂々と目の前に行ってやろうか
どうせ入って来られないって思ってるからあんな事言えるんだ

俺がドーンと裸を晒してやれば、きっと驚くに違いない
キャー! とか、イヤーッ! とか言って顔を赤らめたり……グヒヒ

よしやるか
やってやるか


ん?
いや待て
もしその時大きくなったらどうする?
怯える裸の姉貴をみて
おっきしたら……

……

入浴している姉に勃起チンコを見せつける弟……

……

もう最低
これド変態の所業ですわ

俺は自分の妄想に打ちのめされた

弟「駄目だ……もう上がろう」

立ち上がって湯船から出たその時

 ガラリ と戸の滑る音がして

露天風呂から姉が中に入ってきた

姉「ん?なんだこっちに入ってたのか。 なら私もこっちに入ろうっと」

言いながら姉が近づいてくる、もちろん全裸で


弟「キャー! イヤーッ!」


俺はタオルで股間を隠して一目散に脱衣場へ飛び出した

結局俺は風呂場の前の廊下で待機して姉を待った
なんで先に部屋に帰らないかって?

そこはほらなんて言うか
さすがに一人で置いていくのはって思ったからね
そんなことしたら後でうるさいし

なんて考えてたら暖簾から姉が顔を出した

姉「なんだここで待ってたのか」

弟「先帰ったら怒るだろ」

姉「当たり前だ、逃げやがって」

姉「姉に寂しい思いをさせるな、弟のくせに」

弟「どういう理屈だよ」

姉「心細かったんだぞ。 お詫びに部屋に帰るまで手を繋げ」

弟「うんやだ」

姉「なんだこのやろっ」

姉は小突こうとした俺がサッとかわしたもんだから
「あっ!」っとバランスを崩して前のめりに倒れそうになった

その姉を俺はとっさに抱え揉む
それはびっくりするほど軽くて柔らかくて

すぐ目の前に姉の顔
石鹸の香り
風呂あがりの上気した肌
首筋に張り付く半乾きの髪
あうっ

姉「あ……ありがと」

弟「うん……」

2秒……3秒……
何故かその体制が続く
姉が離れないのか
俺が離さないのか……

うーん、いかんいかん

弟「……」

俺は思い切ってぐいと体を離した

姉「あっ……」

互いに目をそらす俺と姉
気まずい沈黙
何か、何か話題を……そうだ

弟「そ、そうだ。 例の出来事のあった夜友達の彼氏も出てくるのを待ってたのかな……」

姉「あ……そ、そういえば入口の前の廊下って言ってたから、ここかも」

弟「うーん、ここに立ってたんなら出てくる人はみんな見えるよなあ」

姉「そうだな、見逃しようがないな」

ここで深夜に恋人を待つってどんな気分だったんだろう
風呂に来る前してたんだろなあ……セックス

うーん
どうもこんな事ばっかり考えてしまう
溜まってんのかな、俺

横目でちらりと姉を見る
もうなんでもない顔をしている
当たり前だ、実際なんでもなっかたんだし

でも俺の手にはまだ姉の体の感触がしっかりと残っていた

弟「結局何だったのか判らずじまいだな」

姉「ああ、残念だけどな。 後は、」

弟「後は?」

姉「その出来事があった夜の2時にもう一度この風呂に入って終わりにしよう」

弟「えっ? そんな遅くに?」

姉「その時間なら何か判るかもしれないだろ? もしかしたら何か起こるかもしれないし」

弟「何か起こるって……そんなのやだよ俺」

姉「なんだ怖がりだな」

弟「第一そんな時間に起きられないよ」

姉「寝なきゃいいじゃないか

弟「ええー」

姉「よし、今夜は寝かさないぞ」

弟「マジかよ……」

姉「さあそうと決まったら売店で冷たいものでも買って部屋に帰ろう」

弟「売店? ああロビーにあったっけ」

姉「なんかいいおみやげあるかな?」

弟「期待しない方がいいと思うけど? なんにも無いって言ってたし」

姉「誰が?」

弟「見習いちゃん」

姉「ふーん」

  ゲシッ!

弟「痛っ! また……何で蹴るかな」

姉「単なる愛情表現」

弟「は?」

姉「ほらもう早く歩く。 喉が渇いた」

弟「はいはい」

それから俺達はロビーの売店には行ったんだけど
何も買わずに部屋へ帰った

買うものがなかったわけじゃない
俺も姉もお金を持って来てなかったから

姉は俺が持っている思っていたらしい
ひとの財布あてにしやがって
まあ俺もだけど


そして俺は財布を持ってもう一度売店へ引き返した
姉御所望の冷たいミルクティを買うために

売店の自販機で飲み物を買った
それとなく店内を見廻す――お、アイスが売ってる
あれも買って帰ろう、姉貴喜ぶぞ

店番の姿が見えなかったので奥に声をかけてみた


弟「すいませーん!」

 「はいー」

奥から聞き覚えのある声がして、
にゅっと顔を出したのは見習いちゃんだった
こっちを見て顔をほころばせる

見習い「あらーお客さん」

弟「ああさっきの」

見習い「先程はすみませんでしたー」

見習いちゃんが頭をペコッと下げた
ぷるん、と作務衣の胸がまた揺れたのを
俺は見逃さなかった

弟「いや何も君が謝ることはしてないだろ」

見習い「だって私にらまれちゃいましたもん」

弟「誰に??」

見習い「お連れさんにー」

弟「えーほんと? 姉貴が?」

見習い「ほらほらそれですよー。 お客さんもいけないんですよー」

弟「え?」

見習い「あの彼女さんが姉さんだなんて、やっぱり嘘じゃないですかー」

弟「嘘って」

見習い「なのに私が遊びに行く約束なんてしてたら、そりゃあ怒りますよー」

弟「いや違うんだけどな。 ほんとに姉弟……」

見習い「お客さんの建前上はそういうことでいいんですけどねー」

弟「いや本当なんだって」

見習い「もうそんな事言っても駄目ですよー。 あれは絶対にヤキモチですよー 」

弟「それはないと思うけど……面白ろがってただけだって」

見習い「もしかしてお客さん私を口説こうとしてるんですかー?」

弟「ええー」

見習い「だめですよー。 浮気はだめー」

弟「いやいや、あのね」

見習い「でもそうですねー彼女さんと別れるってことなら私もいいかなー、なんて」

弟「いやいや違う、違うからっ! 口説いてないからっ!」

見習い「えー、おもしろくないですー」

拗ねたような上目遣いの見習いちゃん
わざとなのか、それとも素なのか
こういう経験に乏しい俺にはわからないけれど

うわ怖い。 この子怖い

かなり魅力的だけど(特に胸の辺りが)
かなり怖い

弟「あっ、そうだ!」

見習い「え?」

弟「このバニラアイス2つください」

これ以上の会話はもっとややこしくなりそうなので
さっさと退散しよう

お金を支払って
まだ何か言いたげな見習いちゃんに
じゃあありがとう、と声をかけて売店を後にした

しかし上手くやれば見習いちゃんとお付き合いなんて展開もあったのかも
まあいいや
俺は他の女と付き合う気なんてないから

ん?

部屋に戻り買ってきたものを姉に渡す
アイスを見て嬉しそうに顔を輝かす
そういうところはまるで子供だ


さっきまで半乾きだった髪がサラサラしている
見るとドライヤーが置いてある
ああ、乾かしてたのか……

って……ん? これうちのじゃん!
家から持ってきたのかよ

弟「姉貴、このドライヤー持ってきたのか?」

姉「ああ、こういうところの備品は性能が良くないからな。 それ使っていいぞ」

弟「へえ」


あれ? なんか引っかかるな?

ええと

あそうだ

姉貴はショルダーバッグだけだったはずだ
こんな大きなドライヤー入るわけが

俺はアイスをパク付いてる姉に聞いてみた
まあ答えは解ってたけど

弟「なあ姉貴、このドライヤー……」

姉「うん、あんたのバッグに入ってた」

弟「入ってたんじゃなくて入れたんだろ!」

姉「そうとも言う」

弟「……なんか重いと思ったらこれだ」

姉「まあお礼はするから」

弟「何をしてくれるんだよ」

姉「えーと、キス?」

弟「そんなもんいらねー」

姉「なんだとー」


まあいつものやり取り、いつもの会話だ
お約束みたいなもん

しかしこいつは、もし俺が
じゃあキスしろって言ったらどうするつもりなんだろ

言わないけど
もし言ったら

言えないけど

何考えてんだ馬鹿らしい
なんて考えながら時計を見ると
6時前だ

弟「そろそろ夕食の時間だな」

姉「ああもう6時か」

外はもう薄暗い
ああ山奥ってのは日が暮れるのが早いんだな


夕食が用意されているのは別の離れなので
俺達はギイギイ鳴る廊下を歩いて移動した

美味しい料理、和やかに過ぎていく時間もやがて終わり

またギイギイ鳴る廊下を歩いて戻った時には
部屋にはもう布団が並べて敷かれてあった


俺が生涯忘れられないであろう経験をした夜

その夜が始まろうとしていた

二組の布団は部屋の奥と手前に並んでいた

うひゃー、と声を上げて姉が奥側の布団に寝転ぶ

姉「おーふかふかだー」

姉ご満悦

姉「よーし、こっちが私の布団だあ」

自動的に俺の布団は手前側
別にそれはいいんだけどね
まずはしなければならないことが

問題は二組の布団が隙間なく密着していること

よし
俺は自分の布団を掴んで
ズルッと引き離した

姉「あ、何すんだよ」

弟「部屋が広いのに何もこんなに布団くっつけることないだろ」

姉「並んで寝るのが楽しいんだろ」

弟「窮屈だよ」

俺は布団の間を50センチ程開けた

姉「空気読めよ、やな奴だな」

俺「はいはいそうですよ」


何で俺が文句言われなきゃいけないんだ
誰のためにやってると思ってんだ
空気読めよはこっちのセリフだってーの

それからしばらくは、なんとなくテレビを見ていたけど
局数も少ないしつまらないから消した

携帯をいじっていた姉も電波の状態が良くないとぼやいている

いやこれは
ほんとにすることがない

もう一度風呂入るか?
いやどうせ深夜にまた行くんだし
そう思うとその気になれなかった

こりゃ寝るしかないのか

なんて考えていると
部屋の扉がノックされた

コンコン
 「失礼しまーす」

姉「はーい」

ちょうど洗面所に居た姉が答えた
仲居さんのようだ
玄関口で何か小声で話している

仲居「ではお休みなさいませ」

姉「お休みなさい。 わざわざすいません……」

扉に鍵を掛けた音がして、姉が部屋に戻って来た
手にポットとタオルのようなものを持っている
その顔がほのかに赤らんでいるように見えた気がした
あの仲居さんになんか言われたのか?

弟「なにそれ?」

姉「え? ああ冷たい氷水持ってきてくれたんだ。 夜中に喉が渇くからって」

弟「へえ、意外とサービスいいね。 で、そっちのタオルは?」

姉「これはバスタオル」

弟「バスタオル? 何で?」

姉「シーツが汚れないようにな」

弟「へ? 何でシーツが汚れんの?」

姉「そ、それは……あんたがオネショするからじゃないのか」

弟「……」

弟「あの仲居さん、俺のことなんだと思ってんだろ」

姉「さあな。まあ敷いとけばいいんじゃないか?」

弟「敷くかよっ」

姉「じゃあここに置いておくか」

そう言って姉はポットとバスタオルを枕元に置いた


姉「それで……どうする?」

弟「ど、ど、どうするって……」

俺は口ごもった
なんだよ、急にそんな目で見られたら焦るだろが

姉「一度寝るのか、ずっと起きてるのか」

弟「?」

姉「だからさ、もう一度風呂に行く2時までにはまだまだ時間あるだろ。 それまでどうする?」

弟「ああ、そういうことか。 うーん一度寝たら起きる自信ないなあ」

姉「そうか、じゃあ起きてるか」

弟「ああ……でも」

姉「何もすることがない、だろ?」

弟「うん、ないなあ」

姉「だったらこういう時はアレをしよう」

弟「アレ!?」

弟「あ、アレって……な、何をする気だよ?」

姉「アレっだよ。 ほら修学旅行とか行ったら寝る前にするだろ?」

弟「え? 枕投げ?」

姉「違う。 ほら告白大会とか恋話とかエロ話とか」

弟「あー、でも俺はそういうのしたことないかも」

姉「だからするんだよ。 あんた歯はもう磨いたな?」

弟「ああうん」

姉「よし自分の布団に横になれ」

弟「えー、もう決まりなのかそれ」

姉「いいだろ。 たまには腹を割って話そうぜ」

弟「うーん、でもなあ」

姉「じゃあ電気消すぞ」

弟「え? 電気消すの?」

姉「暗くした方話しやすいんだよ。 つい本音が出たりするから面白いぞ」

ノリノリの姉はそう言って部屋の明かりを消した

仕方なしに俺は布団に仰向けで寝転がる
姉も自分の布団に入ったようだ

つい本音が出るだと?

これは気を付けないと
俺は気を引き締めた

しかしそんな心配は無用だったんだ

俺は多くを語ることはなかった
ほとんど姉の話を聞いていただけだったから

そのとんでもない話を

姉「さて、初めはどういうネタにしようか」

弟「ネタって」

姉「そうだな……恋バナいってみようか」

弟「えー」

姉「と言ってもあんたは女っ気無さそうだし、彼女なんて居たこともないんだろけど」

弟「……」

姉「だろ?」

弟「決めつけんなよ。 俺だって彼女くらいいたことあるぞ」

姉「へ? マジ? 嘘つけっ」

弟「いや本当だって」

姉「な、なに? 私はそんなの知らないぞっ」

弟「そりゃ言ってないし」

姉「ぐぬぬ……」

弟「なんだよ」

姉「姉ちゃん泣きそう」

姉「あんたがもうそんな経験してたなんて……」

姉「それいつのことだよっ? もしかして今でも付き合ってんのかっ?」

弟「いやいや、そうは言っても一日だけなんだけどな」

姉「え? なにそれ?」

弟「相手っていうのがツレの彼女の友達を紹介されてさ、」
  
弟「話してみたら気が合いそうだったから付き合おうってなったんだけど……」
  
姉「……」

弟「一回デートして、その日一日でダメになった」

姉「ほっ」

姉「な、なーんだ」

姉「バーカ。 そんなの付き合ったうちに入らねえんだよっ、バーカ」

弟「なんだよ」

姉「で、で、なんでダメになったんだ?」

弟「いややっぱりなんか違うかなあって、向こうもそんな感じだったし」

姉「うーんよく判らんが……よかった」

弟「え?」

姉「あ、いや何もない」

姉「しかしあんたは男子校で女には縁がないと思ってたけどな」

弟「そんなことないよ、バイト先にも女の子何人かいるし」

姉「なんだと……」

姉「じゃあお前はその子達とどうなんだ?」

弟「どうなんだって、なんだ?」

姉「それはほら、仲良くしてるのか?」

弟「ええと、普通かな?」

姉「普通じゃ判らんだろっ、普通じゃ!」

弟「んだよ、そんなの姉貴が気にすることじゃないだろ」

姉「いや気になるっ」

弟「なんで?」

姉「それは、その……あんたが、いや」

姉「弟が不純異性交遊に走るのを見逃すわけにはいかん」

弟「えー、なにそれ? 大げさだな」

姉「そんな事はない。 いいか」 

姉「あんたが孕ませた女が家に来て、いきなり『お姉さん』 なんて呼ばれてみろ」

弟「おいおい」

姉「私はその女殴り殺すぞ?」

弟「あはは怖いな。 また姉貴はそんな冗談」

姉「ははは、冗談だといいがな」

姉「で、そのバイトの女の子達はどうなんだ?」

弟「だから普通に挨拶したり会話したり」

姉「じゃなくて、その、好きな……気に入った子とかは」


姉「……いるのか?」

弟「まさか。 いないよ、そんなの」

姉「ほんとに?」

弟「心配しなくてもその不純異性交遊とかないから」

姉「そうか……」

姉「ならいい」

姉「しかしあんたも意外と油断ならないな」

弟「こらこら、曲者みたいに言うなよ」

姉「さっきだってちょっと目を離したら見習いちゃんだっけ?あの子と仲良くなってるし」

弟「あ、あれはあの子が人懐っこいんだよ」

姉「どうだかね。 まさかあんたモテ期とか来てんじゃね?」

弟「俺がモテ期? ははは、ないない」

姉「ヤバイな。 とりあえず注意を怠らないようにしないと悪い虫が……」

弟「姉貴」

姉「ん?」

弟「姉貴は俺のことペットかおもちゃみたいに思ってるんだろうけどさ」

姉「え?」

弟「そうやっていつまで俺に構うつもりなんだ?」

姉「え……嫌なのか……?」

弟「違う、そうじゃなくて、えっと……いや別に俺はいいんだけど」

姉「……」

弟「姉貴がさ、姉貴はそれでいいのかなって。 俺だってもう子供じゃないし、あんまり」

姉「わかってる……わかってるって」


姉「いいんだよ、好きでやってるんだから」

弟「そうなのか? ならいいんだけどさ」

姉「スルーかよ」

弟「えっ?」

姉「いいよ別に」

姉「ただ勘違いすんなよ?」

弟「え?」

姉「私はあんたのことペットだとかおもちゃだとかなんて思ってないからな」

弟「そ、そうか」

姉「そうだ、よく覚えとけ。 好きでやってるんだ」

弟「わかったよ。 じゃあ次は姉貴の番だぞ」

姉「そうか、またスルーか」

弟「へ?」

姉「で、何だ私の番って」

弟「姉貴はその……彼氏とかいたりすんのかよ、って話だけど」

姉「私? いないな。 いたこともないな」

弟「そうなのか? 今まで一回も?」 

姉「ああ、一回もないぞ」

弟「でも姉貴ってもてるだろ」

姉「知らん」

弟「知らんって……みんな姉貴のこと美人だっていうじゃん」

弟「さっき仲居さんだって言ってたし、俺の友達連中だって」

姉「それは彼氏がいたことないのとは関係無いだろ」

弟「でもよく誘われたりはするんだろ?」

姉「まあ……それはあるけど」

弟「だったらデートの一回くらい」

姉「あのな……」

弟「?」

姉「お前は私に彼氏がいたりデートしてたりして欲しいのか?」

弟「い、いやそういうことじゃ……」

姉「私はな、お前とは違うんだよっ」

弟「え? 俺と違うって?」

姉「私はお前みたいに好きでもない相手と遊びに行ったりしないんだよ」

弟「お、俺だって」

姉「じゃあお前はデートしたその子が好きだったのか?」

弟「それは……」

姉「みろ、好きでもない相手と付き合うから一日で別れることになるんだ」

弟「うう」

姉「そんなの相手に失礼だろ」

姉「だから私はきっぱり断ってきた。 だから彼氏などいたことなどない」

姉「な、お前とは違うんだ」

弟「俺だって事情があったんだよ」

姉「どんな事情だよ?」

弟「それは……言えないけど」

姉「言えないのはやましいからじゃないのか?」

弟「……」

姉「まあそれはいいけど」

弟「じゃあ……」

弟「じゃあ姉貴は彼氏なんていらないのかよ」

姉「違う。 好きな相手が彼氏にならないんなら仕方ないだろが」

弟「あ」

姉「私はな、一度好きになったらずっと好きなんだよ」

姉「そんなもんころころ変わるかよ」

弟「姉貴」

姉「……うるせ」

会話が少し  途切れた

腹割って話すんじゃなかったのかよ、とか
そんな相手がいたのかよ、とか
軽い感じで聞いてみればよかったのか

でも聞けなかった、いや違うか

聞きたくなかった

そうだろ?
こいつが誰かを片想いしてる話なんて
なんだってんだ

らしくもない
聞きたくないよ、そんなの

姉もしばらく黙り込んでいたけど
思い切ったように大きな溜息をついた
なんだよその 「あんたは判ってないなー」調の溜息はよ

なんだよ、「お前とは違う」って

俺だってな、俺だっていろいろ吹っ切ろうとしたんだよ
彼女作ればどうにかなるかもって
頑張ってみたんだよ

全然無駄だったけどな


そうだよ、俺だって知ってる
姉貴の言う通りだよ

気持ちなんてもんは
そんなころころ変わるもんじゃなかったよ

そして溜息の後、気を取り直したように姉は続けた


姉「よし次行こうか」

弟「次?」

姉「恋バナはもういいだろ。 盛り上がりに欠ける」

姉「次は下ネタ行こう。 エロバナ!」

弟「エロバナって……それ姉弟でする話題かなあ」

姉「いやいや、それは違うぞ」

弟「え?」

姉「お前とはこういうことにもオープンな関係の方がいいんじゃないかと思うんだ」

弟「オープン?」

姉「ほら、何でも話せる姉弟っていいだろ?」

弟「あ、ああそうなんだ、そういう風に思ってるんだ」

姉「ああ、下ネタでも何でも恥ずかしがらずに話し合える関係だ」

弟「ふうん、よく判らんけど……まあそれなら」

姉「はい、じゃエロバナ開始~」

弟「なんか無理矢理持っていかれたような」


姉「じゃあ弟くんに質問です」

弟「へ?」

姉「最初にオナニー覚えたのはいつ?」

弟「えっ? ちょ、姉貴、いきなり何言ってんだっ?」

姉「何って、初めてオナニーしたのはいつだって聞いてんだけど?」

弟「そ、それは判ってるけど……オナ、オナニーて」

姉「あれ? しないのあんた? 男は大抵するって聞いたけど」

弟「い、いや、そうじゃなくて……」

姉「なんだ、やっぱするんだろ」

弟「え、いや、その」

姉「なんだよ、恥ずかしがってんのかよ」

姉「こういうのは恥ずかしいとか考える前にさらっと答えちまえばいいんだよ」

弟「そう言われてもな」

姉「先に言っとくと、私はオナニーするぞ」

弟「ええっ?」

姉「ほら、さらっと言ったら全然平気だ」

弟「マジで?」

姉「す、するんだよ。 もう凄いんだからな」

弟「うわあ……」

姉「な、なんだよっ、ここは聞く方もさらっと流すところだろがっ」

弟「そ、そうか」

姉「まあこっちの話は後回しだ」

姉「これで言いやすくなっただろ? ほらさっさとゲロっちまえ」

弟「だからそれは……うん」

姉「うん、じゃ無くて」

弟「そりゃ……してるよ」

姉「いつ頃から?」

弟「ええー」

姉「だから恥ずかしがるなって、さらっと言え。 さらっと」

弟「わかったよ。 初めてしたのは中1だったかな」

姉「ほう、私が中3だからちょうど同じ時期だな」

弟「そ、そう、なのか」

姉「それでどうやって覚えたんだ?」

弟「どうやってって」

姉「はいはい、さらっとさらっと」

弟「ああもういいよ。 なんでも話してやるよ」

弟「中学の先輩に教えてもらったんだ」

姉「お、女かっ?」

弟「いや男に決まってんだろ」

弟「先輩たちが1年坊主集めてさ、『お前ら知ってるか?』 とか、そんな話するんだよ」

姉「ほう、語り継がれるわけだな」

弟「そんな大げさなもんじゃないけど、恒例みたいにはなってた」

弟「もう俺もその頃は夢精とかしてたし」

姉「むせい? なんだそれ?」

弟「ああ知らないのか。 眠ってる間に射精しちゃうんだよ」

姉「しゃせい?」

弟「精子が出ることな」

姉「あ」

弟「つか、姉貴あんまり知らないんだな」

姉「し、知ってるぞ、しゃせいくらい。 聞いてみただけだ」

姉「夢精は知らなかったけどさ……」

姉「じゃあ、じゃあ夢精したらパンツ汚れるんじゃないのか?」

弟「そうだよ。 最初はびっくりしたなあ」

弟「寝小便しちゃったと思って慌ててトイレに駆け込んでパンツ見たら」

弟「見たこともないようなのが付いてるんだ。 ネバネバって」

姉「ネバネバ……せ、精子か」

弟「ああ。 でも知らないもんだから何がなんだか判らなくて、もう涙目でパンツ洗ってた」

姉「そういう知識はなかったのか? 女は生理の教育受けるんだけどさ」

弟「全然知らなかった。 病気かと思って本当にびびってたよ」

姉「へえ、じゃあ親には?」

弟「言おうとしたんだけどなんか後ろめたくて言えなかった」

姉「なんでよ」

弟「さあ、よく覚えてない」

姉「パンツ汚しちゃったからとか?」

弟「どうだろ? 凄い罪悪感みたいなのはあったけど、それは夢が、とっと」

姉「とっと?」

弟「いや……やっぱりパンツ汚したからだな、うん」

やばかった、口が滑りそうになった
実は覚えてる
夢だ

男なら当然知っているだろうけど
夢精の時はエッチな夢をみる
そんな知識はないのに夢の中で何故かエッチな事をしたりする

そのうちにちんちんに排泄感がこみ上げてきて
最後には出る
ずっくんずっくん、出る
またこれが気持ちがいいんだな

うん

でもその夢の内容がさ
例えば、そう例えばだよ?

例えば、誰かにオシッコを掛けてる夢だったら?

例えばその誰かが、自分の……だったら?

言えないだろ?
罪悪感でいっぱいですよ?
落ち込みましたよ?
もうトラウマものですよ?

だからそんなこと親には言えなかったんだよ

それは今だって同じだ
いやそれ以上か?

だって本人に
オシッコ掛けた夢、なんて
言えるわけない

そうだここは慎重に
さらっと、さらっと流すんだ


弟「んで結局友達に聞いて夢精って判ったんだ」

弟「あの時はほんとにホッとしたよ。 今考えると笑けるなあ、ははは……」

姉「……ふうん」

弟「まあ夢精の話はそのくらいでいいな、とまあそんな事でオナニー覚えたんだ」

姉「じゃあ週に何回位してるんだ?」

弟「えっと……3・4回かな」

姉「へえ結構してるんだな」

弟「そうかな? 毎日のやつだって普通にいると思うけど」

姉「そうなのか……」

弟「中には一日に何回もする奴もいたり」

姉「気持ちいいんだな」

弟「え?」

姉「だからそれだけ気持ちいいってことだろ」

弟「まあ……そうなるのかな」

姉「見たいな」

弟「え?」

姉「精子だよ。 見てみたい」

弟「え?」

姉「ちょっとここで出してみてくれ」

弟「だ、だだだ、出せるかそんなもんっ!」

姉「なんで? 擦ったら出るんだろ?」

弟「そりゃあ出るけど……じゃないだろ!」

姉「凄いよな、擦ったら粘液みたいなのが出るって、なんか不思議」

姉「見たい。 出るとこも見たい」

姉「なあ、見せてくれよ」

弟「バ、バカじゃないのっ?!」

姉「なんで? ああ、オカズか? オカズがいるのか?」

姉「私のパンツなら見てもいいぞ」

弟「ち、ちが、ちが」

姉「あれ? 私のパンツじゃ不満か?」

弟「い、いや……それ」

姉「おかしいなあ、たまにパンツが無くなるのあんたの仕業かと思ってたのに」

弟「うっ、それは……」

姉「違ったか?」

弟「し、知らんっ! 俺は知らん!」

姉「じゃあなんでなくなるんだろ? おかしいなあ」

違う、違う、違う、違う
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。
俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺はちゃんと返してるはずだ

弟「違うし!知らんし!」

姉「なんかやけに必死なのが余計に怪しいんだが」

弟「いやそんなことはどうでもいい」

姉「あ、どうでもいいことにしやがった」

姉「じゃあそれでもいいから、どうしたら見せてくれるんだよ」

弟「そんなもん出さないし! 見せない!」

姉「なんだよケチー、見せて減るもんじゃないだろが」

弟「いやほんとに無理だから。 姉貴の前でそんな事できるわけ無いだろ」

姉「なんで?」

弟「なんでって思う方がおかしいっての。 無理ったら無理」

姉「じゃあちょっとだけ胸触ってもいいから」

弟「え?」

姉「どうだ?」

弟「いやいやいやいや、何でそうなるんだよ」

姉「えーダメか?」

弟「当たり前だろ、姉貴はそんな対象じゃないから。 何したってダメ、出るもんも出ない」

姉「んだよ、そんな寂しいこと言うなよ」

弟「あのなあ」

姉「私はあんたのことはそういう対象だぞ?」

弟「へ?」

いつの間にか普通にこういう話ができる空気になっていた
その空気に飲まれて俺も結構恥ずかしいことを口走った気がする
が、しかし


弟「えっと……どういうこと?」

姉「私はあんたをオカズにしてるってこと」

弟「は? オカズって……え?」

姉「オナペットだよ」

弟「オナ、ペット?」

姉「なんだ、知らないのか?」

弟「い、いや、意味は知ってるけど」

姉「じゃあそういうことだ。 あんたは私のオナペット」

弟「えー」


こいつはまたとんでも無いことを言い出しやがった

姉「ちょうどいいから次は私のこと話そうか」

姉「どうせ精子見せてくれないんだろうしな」

弟「あ、ああ……」

姉「ちぇっ」


そして姉は語り出した
自分のオナニーについて
またその時の妄想について

姉「私が初めてオナニーをしたのはさっきも言ったけど中3の時だ」

姉「美容院で読んだ雑誌でやり方を知って、興味を持ったんだ」

姉「最初の頃胸だけだったんだけど、そのうちパンツの中にも手を入れるようになった」

姉「するのは週に2・3回、大抵寝る前だ」

姉「オカズは最初からずっと変わらないままだな」

弟「な、なんで……」


姉「私はそういう願望でもあるのかもしれないけど」

姉「妄想の中のあんたは結構凶暴でな」

姉「いろんなシチュで私を蹂躙してくるんだ」

弟「……」

姉「んじゃその中のひとつを聞かせてやろう」

姉「一番よくあるパターンが寝込みを襲われるってやつなんだけどさ」

姉「これも自分の部屋でとか、睡眠薬盛られてとかあるんだけど」

姉「まあ今は旅行先でってことにしようか」


姉「家族旅行先で泊まった部屋。 親とは別の部屋で、私とあんたが布団を並べて寝てる」

姉「ちょうど今みたいなこんな感じで」

弟「……」

姉「寝る前まではいつもみたいに冗談言い合って楽しい気分だった」


姉「でも夜中にあんたが身体を起こす気配を感じて目を覚めるんだ」

姉「トイレでも行くのかな?っと思って、そのまままた寝ようとするんだけど」

姉「どうしたことかあんたは私の方へ近づいてくるんだ。 静かにゆっくりと」


姉「なんだろうとは思ったけど、寝ぼけてんの相手すんも面倒くさいんで寝たふりする」

弟「……」

姉「側まで来たあんたはしばらく様子をうかがったあと」

姉「私の胸に手を伸ばすんだ」

姉「初めは軽く置くだけ、でも次第に感触を確かめるようにゆっくり指が動き出す」

弟「……」


姉「私はびっくりしたけど寝息を乱さないように寝たふりを続けるんだ」

姉「だって今声をかけたら私達の姉弟としての関係がおかしくなるだろ?」

姉「きっと気まずくなって会話もしなくなる、そうなるのが怖くてな」

姉「すぐに止めるだろうと思った」

姉「今はちょっとした気の迷いで姉の胸なんか触ってるけど」

姉「すぐに我に返って自分の布団に戻るだろうと」

姉「私はそれを願って寝たふりを続けるんだ」


姉「でもそうはならないんだ」

姉「調子に乗ったあんたの手は次第に力が増してきて、ゆっくりだけど揉みしだくようになっていく」

姉「そしてやがて浴衣の上から私の乳首を探り当てるんだ」

姉「ほら、あんたも知ってるように私って寝る時はブラしてないからさ、ポチッと浮き出ちゃってんのな」

弟「知るかよ……」

姉「それから乳首のあたりばっかりを撫でられて、しまいには指できゅっと摘まれる」

姉「私もしつこく揉まれてその辺りがジンジン熱くなってたもんだから」

姉「ぁんっ……と小さい声が出て、思わず身体がビクンと反応してしまう」

姉「驚いたのかあんたの手が離れる」

弟「……」


姉「その隙に私は寝返りを打って、あんたの背が向くように横向きになる」

姉「これで諦めてくれる……よかった、明日は何も無かったように振舞おう」

姉「なんて考えながら殊更寝息を大きくするんだ。 あんたが自分の布団に戻るのを期待して」

姉「でもやっぱりあんたは諦めないんだ」

姉「背を向けた私の後ろに寄り添うように寝たかと思うと」

姉「抱きしめるように後ろから回した手を襟から差し入れてくる」

姉「そしてその手がついに直接胸に届いて、私の身体がまたビクンと」

弟「……」

姉「そうして私はあんたに胸を弄ばれるんだ、何度も何度も」


姉「私もだんだんと体の反応も抑えられなくなってきて、頭がぼうっとしてきたその時」

姉「あんたの手が止まりそっと襟から引き抜かれたかと思うと」

姉「次の瞬間その手は下の方へと」

姉「胸揉まれてて気が付かなかったけど、いつの間にか浴衣の裾は腰まで捲り上げられてたんだ」

姉「そしてお尻には熱くて固いものが押し付けられてて」

姉「私は思わず脚をぎゅっと閉じる」

弟「……」


姉「お尻や太ももを触られるうちは我慢できたんだが」

姉「でも下腹部に伸びたあんたの手が、パンツの上からあそこに触れてきた時」

姉「いや……やめて……」

弟「?!」

姉「思わず声が出てしまった」

姉「でもあんたは驚く様子もなくて、『姉貴やっぱり気付いてたのか』って言いながら」

姉「さらにあそこを撫でてくる」

姉「やめて……お願い」

姉「私は声を潜めて言う。 隣の部屋で寝ている親には気付かれたくはないから」

弟「……」


姉「ね、お願い……今ら冗談で済むから」

姉「でもあんたはやめないし、返事もしない。 それどころかパンツをずらそうとしてくる。だから」

姉「やめろ……って」

姉「私は手を振り解いてあんたに向き直る。 そして力一杯押し返してあんたを見る」

姉『あ、あんた……それ』

姉「キツく言おうと思ったのに、私は思わず息を呑んだ」

姉「あんたが全裸で、その股間にはまるで棍棒みたいなアレがそそり立っていたから」

弟「……」


姉「そしてその怯んだ隙に私はあんたに抑え込まれてしまう」

姉「私は覆いかぶさるように組み敷かれて身体の自由を奪われる」

姉『な、何する気なの』

姉「私の問いかけにあんたは押し殺したような声で答えるんだ。 『姉貴を俺のものにする』」

姉「って」

姉「『な、何を言って……』 『姉貴は俺が嫌いか?』 『き、嫌いじゃ……ないけど』」

姉「『じゃあいいだろ』 『いいわけないっ、姉弟なんだよ?』 『関係ない』 『関係なくないっ』」

姉「『もう黙れ』 そう言われて私は口を塞がれた。 あんたの唇で」


姉「閉じた私の口に強引に舌が捩じ込まれてくる」

姉「それでも抵抗はするんだが、弟にキスされてびっくりしたのか身体に力が入らない」

姉「やがてあんたの舌は私の舌を絡め取る」

姉「弟との長い長いディープキス」

姉「口の中を舐めまわされ、舌を吸われ、涎を舐められ、唾を飲まされ」


姉「そうされるうちに私はあんたのされるがままになっていくんだ」

姉「帯を解かれ、浴衣をはだけさせられる」

姉「胸を揉まれ、乳首を吸われ、身体中をゆっくり舐めまわされていく」

姉「身体中がしびれたようになって抵抗できない、思わずエッチな声をあげそうになるのを押し殺す」

姉「こんなとこ親に見つかる訳にはいかないから」

姉「ただその押し殺した喘ぎ声と一緒に」

姉『いや……やめて……いや』 
姉『お願い……こんなのいやだ……』

姉「と小声で繰り返すだけ」

姉「でもパンツを脱がされて、あんたが私に入って来ようとした時には最後の抵抗をするんだ」

姉「あんたがアレを当てがおうとするのをぐっと膝を閉じて防ぐ」

姉『お願い……それだけはダメ』

姉「私は必死で懇願して膝を閉じる」

姉「力ずくでされれば膝なんて割ってしまわれるのは判っていたけれど」


姉「でもあんたはそうしないんだ」

姉「ぎゅっと私を抱きしめて耳元でこう言った 『姉貴大好きだ、愛してる』」

姉「それを聞いた途端、私はあんたを抱きしめ返すんだ」

姉「私の膝の力が抜ける」

姉「そしてあんたの熱い棍棒が濡れそぼった私の中に……」

姉「……」


姉「弟?」


姉「おいっ」

姉「おい、聞いてんのか?」

姉「おいっ!!」

弟「……え? あ、ああ……」

姉「聞いてんのか?」

弟「ああ、ごめん。 寝てた……」

姉「は? はあ? なんだよ静かだと思ったら。 私がせっかく話してるのに」

弟「ごめんごめん。 でも眠くなったからちょっと寝るわ」

姉「おいおい」

弟「あー、ごめーん」

姉「寝るってお前な」

弟「……」


姉「おい」

弟「……」


姉「おーい」

弟「……すぅ」


姉「姉ちゃんだよー」

弟「すぅ……すぅ……」

姉「ちぇっ、寝ちまいやがった」

姉「……なんだよもう」


姉「つまんねーの」

寝てねーよっ!
全部聞いてたよっ!

でもこうでも言わなきゃ困るだろが
なんのつもりだよ
今こんな話しされてだよ?
今夜は並んで寝るんだぞ?

こんな恐ろしい話、どう反応すりゃいいんだよ
つうか
下半身は反応しちまってるよ

棍棒? バカにすんなよ? そんなにでかくねーよ

だいたいどういうつもりなんだ、こいつは

ほんとにいつもマジなのか冗談なのか判らん
今の話だって、俺でオナニーしてるとか……
それこそ妄想じゃないのか?

考えたら、よくある話だったし
話し方も姉貴っぽくなかったし

『いや……やめて……いや』 なんてこいつが言うか?
言うんなら 『やめろボケ』 だろ?

しかし妄想の中だと話し方も変わるのかも……

うーん判らん
判らんがモヤモヤしちまったのは事実だ

俺に襲って欲しいのか?
いやいや
そんなことはない、それは違う

いやしかし

モヤモヤしちまった
特に下半身が

はっきりいってこんなに意識させられたら、今横で寝ている状態だけでもきつい
特に下半身が

姉がどうとかではなく、俺が健全な男子だから
性には敏感なんだよね
特に下半身が

あーもう、仕方がないな
俺はそっと姉の様子をうかがった
スヤスヤ眠ってる

よし
俺はゆっくり身体を起こした

もちろんそれは、姉の寝込みを襲うため
ではなくて

そうなるのを防ぐため
いやいや違うって
そうでもなくて

火照った頭とついでに下半身を冷やしたかった

だから俺は部屋から外へ出た
ロビーに休憩用のソファがあったはずだ
とりあえずあそこで頭を冷やそう

俺は暗い廊下をひとりロビーへ向かった
床は相変わらずギイギイと鳴いていた

唇がぽってりしたちょっとくせのある美人、
って言ったら怒られるのかな?
色白で全体的に柔らかい感じの人だった

女将「金柑の間のお客様でございますね」

弟「あ、どうも。 お世話になってます」

女将「ようこそおいで下さいました」

ツヤツヤした唇が滑らかに動く

ゾクッとした
なんだ? なんかやけに艶かしく感じる
さっきまで下半身は火照っていた名残かな

よくわかんないけど、こういうのを色気があるって言うんだろうな
この女将さん目当てに泊まりに来るスケベオヤジも少なくないかも

いやいや俺は熟女属性ないからね?
年上は嫌いじゃないけど
母親と同年代なんてのはちょっとね
いくら美人だからって俺は無理

だからこの会話はこれで終わり……

のはずなんだけど

挨拶が済んでも女将さんはニコニコ笑って立ち去る気配がない

ん? なんだ? 
挨拶の他に何か俺に用でも?

あ、そうか
もしかして俺怪しまれてる?

だよなあ
夜遅くにこんな暗いロビーで一人ソファに座ってるんだもんな
当然といや当然だ

ここはなんとか弁解しとくべきなんだろうな

でもなんて言う?
部屋にいたらとんでもなことしでかしそうで、
なんて言えるわけないし

ここは適当に誤魔化すか

弟「いやあの、星を見てたんですよ」

女将「ああ、そうで御座いましたか」

弟「ほんと凄く綺麗に見えますよね。 つい時間を忘れちゃっいました」

女将「こんな山奥ですから、そういうものしか取り柄がなくて」

弟「いやいや、こんな星空初めて見ました。 俺なんか感動しちゃって」

女将「そう言っていただけると嬉しゅう御座いますが」

弟「それにお風呂も良かったですよ、食事も美味しかったし」

女将「まあそうで御座いますか」

女将「ありがとう御座います」

と、また頭を下げる女将さん

そして何を思ったのかソファに腰を下ろした
って、なんで俺のすぐ横に座るんですかね?

女将「気に入っていただいて良かったです」

そう言って何気なく差し出された女将さんの手が一瞬俺の膝に触れる

うおおっ

ひんやりした柔らかい手
ビビッと電気が走った――気がした

ああこの人もなんだ
仲居さんといい、見習いちゃんといい
いまいちここの人達の距離感が掴めない
油断してるといきなり詰めてきたりする

注意注意

弟「と、特にあの、川魚の姿焼きが美味しかったです」

女将「川魚、ああ岩魚ですね」

弟「あ、あれ岩魚なんですか」

女将「こういう説明は本来なら仲居がしなくてはいけないのですが、どうも申し訳ございません」

弟「い、いや違います。 俺がちゃんと聞いてなかっただけですから、仲居さんのせいじゃ」

女将「まあ、ふふふ……お客様、お優しいですのね」

弟「そ、そんなわけじゃ……とにかく魚美味しかったです」

弟「さすが新鮮だって見習いちゃんが教えてくれただけあって」

女将「あら、あの子が? そうでしたか」

弟「いや、見習いちゃんもいろいろ良くしてくれましたよ」

女将「ふふ、そんなご心配頂かなくても大丈夫ですよ。 叱ったりいたしませんから」

弟「あ、そうですか……よかった」

女将「お客様、本当にお優しくていらっしゃいます……」

あれ?
今ジリッと寄った?
うわ、いつの間にか肩は触れそうになってる
うわわ、何ですかその目は

ダメですよ
自分の母親くらいの熟女にそんな甘えた目をされても
俺はビクともしませんよ
第一俺には大好きな相手が……

……いないけどさ

女将「お客様……実は」

弟「は、はい」

女将「実はあの子は私の娘、なので御座います」

弟「え? あの子って、見習いちゃんですか?」

女将「はい」

弟「でもバイトで見習いだって聞きましたけど……」

女将「見習いは見習いでも、女将の見習いなんです」

女将「都会に憧れてるせいか、全然身が入っていないようで困ってるんですが」

弟「あーそうだったんですか」

弟「そう言われると、どこか女将さんと似ているような」

女将「ふふふ、私はおばちゃんですけどね」

弟「おばちゃんだなんて……とてもお若く見えますです、はい」

女将「まあ嫌ですよ、ご冗談を」

と言いつつも明らかに女将さんの顔が輝いた
いやお世辞ですよ?
でも今の会話の流れじゃそう答える他ないでしょ?

女将「判ってるんですよ。 お客様の様なお若い方からすれば」

女将「もう女としては見てもらえない事くらいは……」

ここでまたさっきの目で見つめられる
甘えたような、期待するような意味有りげな目付き

参ったな
もうこうなっては俺もその期待通りの答えを言わざるを得ない

弟「そ、そんなことは、ない……と思います」

女将「ふふ、いいんですか? 本気にしちゃいますよ?」

ジリッと
また少し距離が詰まった

あれれ?
今俺言わされたよね
これって流されてるんじゃないか?

って言うか、絡め取られてる?
なにこれ? どうしてこうなった?

もしかしてこの女将さん、やばい人なんじゃね?

女将「んふ……」

やっぱりやばい人だ
この人何か出てる、明らかに何か出てる
フェロモンだっけ? 異性を興奮させる、そういうやつが

現にほら今、甘酸っぱい香りがして
下半身がピクってなった

熟女属性なんてないはずなのに

このままだと俺
マジで絡め取られちまう

この空気に飲まれちゃだめだ
ここは気を取り直す

弟「よし!」

と言った拍子に俺は女将さんから少し離れた
5センチ程だけど

女将「え?」

女将「どうされました?」

弟「あ、いやあ……そう言えば、ええっと」

何がそう言えばなんだ、と自分で突っ込みたくなるほど
わざとらしい話題の転換
女将さんも戸惑ってるけど気にしない
気にしてる余裕なんかない

弟「そう言えば……女将さんも大変ですね、こんな」

女将「こんな?」

弟「あ、いや……えっと」

女将「こんな田舎の古い旅館、ですよね」

弟「いや、そんなこと」

女将「ふふふ、いいんですよ。 本当のことなんですから」

弟「……すいません」

しくじった
何言ってんだ俺のバカ
もっと考えて物言え

女将「それで思い出しました」

弟「え?」

弟「なにか?」

女将「いえお客様にお尋ねしたいことが御座いました」

弟「俺に尋ねたいこと? なんですか?」

女将「こんな田舎の名前も知られていない古い旅館にわざわざお越し頂いたのは」

女将「どちら様からかのご紹介でしょうか?」

弟「はあ、いやご紹介って程の事もないんですけど、以前泊まった人に聞いては来たんです」

女将「ああそうで御座いましたか」

弟「その人がなんか奇妙な体験をしたっていうことで……」

女将「え? 奇妙な体験? この旅館でで御座いますか?」

弟「あ、こんな事言っちゃいけなかったかな」

しまった、言うんじゃなかった
自分のとこで奇妙な事があったなんて聞いたら気分悪いよな
また失言だよ、俺

弟「すいません、何でもないです」

女将「でも今奇妙な体験と」

弟「お、俺の勘違いでした」

女将「お気遣いは無用で御座いますのでおっしゃって下さいませ」

弟「いや……ほんとに何も」

女将「お客様」

ズイッと詰め寄られた
さっき離れた以上に
あ、ちょっと眉がつり上がってる

女将「おっしゃって下さいませ」

まっすぐに目を見つめられる
うっ……またフェロモンが……ピクッ
ああ、こうなったら逆らえない

弟「実は……」

そして俺は女将さんに語った
この旅行のきっかけとなった
大浴場で起こったという不思議な出来事を


 * * * * * * *

女将「そうでしたか、そんな事が……」

弟「でもこれは姉貴が友達から聞いた話なんですよ」

弟「だから本当にあったことなのかどうかも判らないし……」

女将「いいんですよ、よくある話ですから」

弟「え? よくあるって……」

女将「ええ、古い旅館に怪談話は付き物みたいなものなんですよ」

弟「そ、そうなんですか?」

女将「はい。 ですからご心配頂かなくてもそんな事をいちいち気にしたりは致しません」

弟「ならいいんですけど」

女将「はい」

女将「でも不思議だとは思います。 一体何があったの御座いましょうか」

弟「女将さんにも判りませんか?」

女将「はい、さっぱり」

弟「じゃあ従業員さんが入ってたってことは」

女将「うちの者がお客様用の風呂に入浴するようなことは御座いませんよ」

弟「そうですか……」

でも隠れて入ってた人がいたかもしれませんよね? とはさすがに訊けなかった
そりゃ失礼でしょ、そんな疑うようなこと訊くのは

中身が高校生の小学生探偵君でもあるまいし
中も外もごく普通の高校生の俺には到底無理です
はい

それに俺は姉貴に連れられて来ただけで
多少の好奇心はあったけど、そこまでして知りたいとも思えなかったし
例え知った所でどうなんだ?っていうね

姉貴だってこの話をダシに俺と遊びに来たかったってだけで……

って、あれ?
来たかった? 姉貴が? 俺と?

いいやまさか、俺はただの荷物持ちだ
変な期待はやめろ、このバカが


女将「どうなさいました?」

弟「え?……うっ」

甘酸っぱい香りに下半身を刺激されて我に返る
見ると女将さん顔がすぐ近くにあった

女将「急に難しい顔で黙り込まれて……何かお悩み事でも?」

弟「い、いやちょっとぼーっとしてただけで、悩み事なんか」

弟「別に……あ」

言いながら腰を引こうとしたが、そこはすでにソファの隅
俺は追い込まれていた

弟「あの、その……」

女将「お若いうちはねえ、いろいろ御座いますでしょうから」

ねえ、と更に女将さんがにじり寄ってくる
おかしい、さっきより若くて魅力的に見えてきた
これはフェロモンのせいか? 
俺はフェロモンに酔ったのか?
それに下半身がもう

弟「はあ……うぁっ」

女将「ふふふ」

弟「あの、すいません……ちょっと」

女将「え?」

弟「は、離れて」

女将「どうして? いいじゃありませんか……んふ」

弟「でも、その」

女将「そうそう、先程のお話で思い出したことが」

ぽってりとしたその唇が耳元でささやく
吐息が耳ををくすぐった

女将「あるんです……」

ひそめた女将さんの声
頭がくらくらする

弟「な、何を……です、か?」

俺は固まっていた
もうカチンコチンに

女将「山の魔物のお話……です」

弟「山の、魔物?」

女将「そう……昔からこの辺りで言い伝え」

女将「お聞かせ……しましょうか?」

弟「は、はい」

女将「ん、ふぅ……」

弟「ぁ……」

女将「この辺りでは、夜にひとりで山道を歩いていると……」

弟「……」

女将「魔物に出会うことがあるのです……」

女将「そのような時は決して振り返ってはいけないのです」

女将「ここのもう少し奥に入ったところに忌み山があります」

弟「……いみやま?」

女将「はい。 そこに足を踏み入れると悪いことが起こると言われている山です」

女将「それを知っている地元の者は決して入らないのですが、ある時旅人がその山に迷い込んだのです」

女将「旅人が山道をさまよっていると……始めは後ろの方で足音がします」

女将「誰か来たのか道を尋ねよう、と後ろを見ても姿がない……」

女将「気のせいかと思ってまた歩きだして……しばらくしてふと気が付くんですよ」

女将「自分のすぐ後ろに……何かが付いて来ているのを……」

女将「んふ……」

弟「……」

女将「それを意識した途端、はっきりと足音も聞こえるようになります……」

女将「それは次第に近づいてきて、ついには息遣いは首筋に掛かるほどまでに」

女将「ふぅっ……」

弟「っぁ……」


女将「旅人は恐ろしくなります。 振り返ればすぐそこにそれの顔があるに違いないのですから」

女将「だから旅人は後ろを見ずに駆け出しました。 しかし、どれだけ必死に走っても……それはぴったりと」

女将「まるで背中に張り付いているように、決して引き離せないのです」

弟「……」

女将「そして走り疲れた旅人は木の根に足をつまずかせ、転び」

女将「ついに振り向いてしまうのです……そして」

弟「……」

女将「……」

弟「……」

女将「……わあっ!」

弟「んひぃぃっ!」



女将「うふふ……」

弟「お、驚かさないでくださいよ……」


女将「そしてその旅人が山を降りてくることは二度とありませんでした」

弟「それだけ……ですか?」

女将「はい」

弟「結局その魔物っていうのは」

女将「それははっきりとは判らないのです……」

女将「美しい娘だという人も……恐ろしい老婆だいう人もいます」

弟「じゃあ……旅人は」

女将「それも食べられてしまったとか、山奥の屋敷に連れられて……」

女将「たっぷり精を抜かれたとか」

弟「っ……そ、そうですか」

女将「はい」

弟「つまり女将さんは……風呂で後ろにいたのは山の魔物だったのかも、と」

女将「それはどうでしょう……ね」

女将「私は思い出したお話をしただけですから……」

弟「あ、ああ……すいません、こんな話で時間を取らせちゃって」


女将「いえ、逆にその方には感謝しなければいけませんね」

弟「感謝……なぜ、ですか?」

女将「そのおかげでお客様がこうして来て下さったんですから……んふ」

弟「……」

女将「ね……ん」

弟「うぁっ……」

しなり、と
女将さんがその身体を預けてくる

俺は
俺はその身体を

思いっきり抱きしめた

女将「ああっ……いけません、お客様」

抱きしめたまま、はちきれそうな着物の胸を激しく揉みしだく
女将さんは眉を寄せ、その顔は一層色気を増した

女将「んんっ……ああっ……」

女将「んあああっ……」

その声がまた俺をたぎらせる
堪らず着物の襟から手を差し入れようと強引に押さえつけた
着物ってどうやって脱がすんだよ、これっ!

女将「ああっ、待って……待って下さい。 ここ、では……」

女将「ここでは、ああっ、着物が乱れてしまい、ます」

今さら何言ってやがんだ
誘ってきたのはそっちだろがっ
俺は情欲に任せ胸を揉み続ける

女将「私の……私の部屋までお連れ致しますので、そこで」

女将「どうかそこで……んんっ……ああっ」

女将「お願い……します」

部屋で、だと?

ふざけんな、こっちはもう我慢の限界なんだよっ
俺は女将の帯に手を掛け、乱暴に解こうとした

女将「ああっ……」

しかしいくら引っ張っても帯は緩まない

女将は俺の腕の中でその柔らかな身体をくねらせている
もどかしくてどうにかなっちまいそうだ

だめだ……この着物を脱がせそうもない

仕方なく俺は押さえつけた力を緩めた

女将「はぁ、はぁ……お願いで、御座います……私の部屋へ……」

女将「部屋で……お抱き下さいませ……」

よし判った

行ってやる
そこでお前を抱きまくってやるっ

俺は頷き、身を引く
女将は静かに身体を起こす

そして髪と着物の乱れを手早く整え立ち上がった



女将「こちらへ……」

女将が歩き出し、俺はその後へ続いた

ピンと伸びた背筋から腰へのライン
歩く度に揺れる尻が艶かしい
着物の上からでもその割れ間はくっきりと判った

そのぷりぷりと動く尻に誘われた気がして
俺はまた堪らなくなった

女将に追いつき、そのまま後ろから抱きしめる

女将「あっ……んっ……」


後ろから手を回し胸を弄る
そしてさっきから下半身で硬直しっぱなしのアレを
尻の割れ目に擦りつけた

女将「んんっ、そんな……これでは歩けません……」

その言葉とは逆に
女将の柔らかい尻肉が俺を逃がすまいとでもするかの様に
むっちりと挟み込んできた

女将「あ、んっ、いけませんっ……ああっ……」

ゆるゆると、うねうねと
女将が尻をくねらせる

ぬおっ

ゾクゾクっと射精感がこみ上げてきて、俺は慌てて腰を引いた

これはまずい
童貞の俺には刺激が強すぎる
ここで出すわけにはいかない

女将「もう……」

離れた俺をチラリと恨めしそうな目で見て
女将はまた歩き出した

待ってろよ

そのでかい胸を、いやらしい尻を
俺が犯しまくってやる
その身体全てを俺のものにしてやる 
あんたの身体の中に何度も何度も射精してやる

そうだこれから俺はこの女とセックスするんだ
これで童貞も卒業だ

はは
やったじゃないか
こんなとこで童貞卒業できるなんて思ってもいなかった

姉貴のお供で来た甲斐があった……

悪いな、姉貴
俺は大人の階段登っちまうぜ

姉貴が一人寂しく寝てる間に
俺は……


姉貴?

あ?

ね……?

き…………?


姉貴?……?????


?!……!!


!!!!!!!!!!!!!


何してんだよ! 俺!!

いきなり冷水をぶっ掛けられた気がした

全身から汗が噴き出る
脚が震えた

えっ?
どういうことだよ?
いつの間にこんなことになってるんだ?

ただ話をしてただけだろ?
なのに

この女将さんとセックス?
バカな、ありえない

だめだっ
これはだめだっ

俺は……俺には

なぜか頭の中に姉貴の人懐っこい笑顔が浮かんだ

俺は、俺は……

弟「すいませんっ!」

女将さんの背中に向かって叫んだ
女将さんの歩みが止まる

弟「俺どうかしてましたっ!」

弟「すいませんでしたっ!」

そして逃げた
俺はいきなり逃げた

女将さんが振り向く前に
振り向いたその顔を見るのが怖かった

だから逃げた

一目散に

姉貴のところへ

女将さんは追いかけて来なかった

しかし焦る気持ちで長い廊下を足早に進んで行く
床のギイギイと鳴る音が静まり返った廊下に響いた

俺はなんてことを……
なんてことをしちまったんだ
さっきの俺は一体なんだ?
あれじゃまるで飢えた獣じゃないか

なんて言い訳しよう
いや言い訳じゃなくて謝らなくちゃ

謝る? なんで?

たぶん、いやきっと
誘われたのは俺の方だ
そうなるように仕向けられた
あの人に操られた

いやでも……

いくらそうだとはいえ
実際に乱暴しようとしたのは俺だ
俺はとんでも無いことを……

やっぱり謝った方が?

一瞬引き返して謝ろうかと思ったけど、出来なかった

今あの女将さんと会えば、また変になるかもしれない
そうしてら今度こそ俺は……
もう一度ああなったら自分を取り戻せる自信がなかった

それが怖かった

今はだめだ、明日
俺が謝るとしてもそれは明日だ

気持ちを整理しているうちに部屋へたどり着いた
扉を開ける前に深呼吸する

少しは落ち着いたが頭はまだくらくらする
酷い毒気に当てられた気分

俺はもう一度深呼吸して扉を開いた

中に入り、静かに襖を開ける
当然中は暗い

足音を殺し
ほとんど手探りで自分の布団に潜り込む


姉の様子を窺うが
眠り込んでいるようで、その布団の膨らみが動くことはなかった


 * * * * * * *

気が立っていたせいか
うとうととして、すぐ目が覚めた

しかし少しでも睡眠とは凄いものだ
さっきのことが夢のことのように思えている

まあただの現実逃避かもしれないがね


そろそろ風呂へ行く時間かな
気がすすまないけど……

俺は姉の布団の膨らみ方を見た
まだ寝て……ん? 起きてるか?

動いたような気がして目を凝らした、その途端

その膨らみがむっくりと起き上がり
いきなり飛びついてきた

弟「な、なんだよっ姉貴!」

柔らかい身体が俺に密着する

弟「あ、姉貴……」

なんだ? 姉貴?
どういうつもりなんだ?

戸惑いながらも俺は一気にクライマックス
つまりフル勃起

それに気付いたのか姉のその手が下半身へ
そしてギュッと、フル勃起のアレを……


弟「うっ! ううっ!」

ヤバイ、さっきよりヤバイ
だめだろこれ

くそっ、姉貴……なんでこんな
こんなやりかたは違うだろっ

俺はその身体を抱きしめ返したい気持ちを必死の思いで振りきり
ドン、と
突いて押し返した

こんなじゃないっ
俺が望んでるのはこんなんじゃないんだっ

身体が離れた隙をついて立ち上がり、そのまま俺は玄関へと抜け出す

そしてとりあえず部屋の外に出ようと
玄関の扉を開けた
と、そこに……

 「きゃっ」

弟「へ?」

 「なんだよ、びっくりすんだろが」

弟「へ? 姉貴……?」

そこには、玄関の外には

姉が立っていた

女将さんはこんなキャラにするつもりじゃなかったのに
なんか暴走しちゃった
やっぱりその場の思いつきで書いてると良くないのかな
今日はここまでにしよう

いつもレスくれる人ありがとうございます

弟「な、何で姉貴が、ここに……?」

姉「は? 今風呂から帰ってきたんだよ」

弟「何で……」

姉「何で何でってなあ、こっちが聞きたいよ」

弟「え?」

姉「目が覚めたら部屋にあんたがいなくて」

姉「風呂に行ったのかと思ったから、私も行ったんだ」

姉「なのにあんたは風呂にもいなくて……」

弟「……」

姉「一体どこ行ってたんだよ……心細かったんだぞ……」

弟「それは……あの、えっと、ロビーで星見てたんだ。  ごめん」

姉「星? だったら私にも言えよ、誘えよ。 一緒に行くよ」

姉「寂しいからひとりにすんなって言ったろうが」

弟「……ごめん」

姉は結構マジで怒っているようだったが
でも俺は謝りながらも部屋の中が気になっていた

ここに
姉貴がここにいるなら
さっきのは、誰だ? 
あれはいったい?

弟「ごめん姉貴、ちょっとここで待ってて」

そう言って俺は恐る恐る部屋に戻った

弟「あれ?」

暗い部屋の中には誰も見えなかった

弟「あれ?」

ぶら下がったコードを引っ張って、電灯を点けてみる

……やはり誰もいない

弟「……」

俺が呆然としていると
姉も部屋の中に入ってきた

姉「おいどうした? 待ってろってなんだよ?」

弟「いや、今ここに誰かが……」

姉「えっ?」

弟「いた、気が」

姉「えっ? 誰?」

弟「う……判らない」

姉「なんだ? あんた寝ぼけてんのか?」

寝ぼけてる?

そうなのか? さっきのは夢だったのか?
俺は夢に驚いて部屋を飛び出した?

……かもしれないな
だんだんそう思えてくる

でもさっきから気になってるこの違和感は
このパンツの違和感は

弟「……姉貴」

姉「ん?」

弟「風呂、行ってくる」

姉「えー、私今入ってきたばかりなんだぞ」

弟「いやだから俺だけ」

姉「なんだと? また私をひとりに……」


不満そうな姉の言葉が終わる前に、俺は部屋を出ていた

まずはシャワーで身体を流す
特に股間は念入りにね、っと


さてと……浸かりますか
まずは露天風呂だよな
夕方は姉貴がいたんで入れなかったし

うんよし
やっぱり温泉といえば露天風呂だよな


俺は滑らないように気をつけながら露天風呂に向かった

露天風呂があるのは外の岩場だ
そこへ出ようと扉へ手をかけた時
俺は思い出した

そうだ、例の出来事があったのって、ちょうど今くらいなんだよな
この露天風呂から何かの足音が入ってきたとかって……

うう……もし外に何かいたら

ちょっとだけ
ほんのちょっとだけ怖くなって
俺は扉のガラス越しに外をうかがった

誰も……いないよな……

ははは、いないよ
誰もいないじゃないか
何ビビってんだ俺

いやビビってないし、怖くなんてないし

俺はガラリと扉を開けて外へ出た

結構広いんだな
ゴツゴツとした岩で囲まれた湯船
岩場からジャバジャバとお湯が流れ出て溢れだしていくのが
もったいないような気がした

熱いのかな……

熱いのは苦手なんだよな
湯加減をみなきゃ
俺がそっと足先を湯船につけようとした
その時

バシャッと湯を掛けられた

弟「うわわっ!!」

熱かったけど、それ以上に驚いた

弟「な、何だ、何だ」

お湯の飛んできた岩場の方を見ようとして
やめた

またあの話を思い出したんだよ

だって
だってもし山の魔物だったら……
どっかに連れて行かれちまうんだぞ?
もう帰って来られないんだぞ?

俺はそのまま逆の方を向いて固まってしまった

ど、どうするんだこういう時は
ええっと……

弟「ナムアミダブツ……ナムアミダブツ……」

バシャ!
また湯が掛けられた
だめか、仏教じゃだめなのか

弟「悪霊退散……アーメンアーメン」

バシャ!
これは死ぬ、俺はきっと死ぬ
俺が死を覚悟した時


 「おいおい、ビビりすぎだろ。 みっともないぞ」

魔物が声をかけてきた

 「それでも私の弟か」

弟か、だと? 何言ってやがんだ
姉貴みたいなこと言うな魔物のくせに
おまけに声までそっくりって、モノマネ得意かよこのやろう

弟「あうう……」

 「おいって、こっち向けよ」

弟「見ない……見ない見ない」

 「よーしわかった。 じゃあ絶対こっち見んなよ」

何? 何がわかったの?

そしてザパァと湯船から上がった気配がして
足音がぴちゃぴちゃと俺の背後に迫ってくる

弟「あわわわ」

 「こうしてやるからっ」

そう言ったかと思うと
そいつは俺の首筋にかぶりついてきた
ちゅうぅっ、と吸われる

弟「ひえぇぇぇえっっ!」

血を吸われちゃうよぉぉぉ

しゃがみこんでいた俺は前へ逃れようとして
そのままつるんと足を滑らせてしまった

弟「あ痛ててて……」

 「ばーか」

そう言われて思わず振り返ってしまう

しまった!
そう思った時はすでに遅く
俺は見てしまった
山の魔物……

弟「あれ? 姉貴?」

そこにはバスタオルを身体に撒いた姉がいた
そしてすっ転んだ俺を見て呆れたように言った

姉「無様だな、弟」

……えっ?

えっ?

なんで……? 

なんで?


弟「な、何で姉貴が、ここに……?」

姉「は? 今風呂入ってたに決まってんだろ」

弟「何で……」

姉「それはこっちが聞きたいよ」

弟「え?」

姉「目が覚めたら部屋にあんたがいなくて」

姉「風呂に行ったのかと思ったから、私も来たんだよ」

姉「なのにあんたは風呂にもいなくて……一人で寂しく入ってたんだ」

弟「……」

姉「一体どこ行ってたんだよ」

ちょっと、ちょっと待て
さっきもこんな会話したぞ

姉貴は今部屋にいるはずだろ?
ここにいるわけがない

弟「あ、姉貴」

姉「なんだよ」

弟「もしかして、瞬間移動とかできたり……する?」

姉「はあ? なにわけの判らないこと言ってんだよ? そんな事出来たら世界征服するってーの」

弟「でも……だって、姉貴今さっき部屋にいたじゃん」

姉「いいや、私はずっとここにいたぞ」

弟「え……」

姉「なんだ? あんたもしかして寝ぼけてる?」

弟「そうなのかな……俺もなんだか判らなくなってきた……」

弟「……」

姉「おい大丈夫か?」

弟「なあ……姉貴」

姉「ん?」

弟「ちょっと触ってもいいか?」

姉「え?……さ、触るって、 触るって……急にそんな」

弟「?」

姉「っ、いいけどっ? む、胸かっ? そ、それとも……」

弟「い、いやいや、手で、手でいいから」

姉「え、手でいいのか……なんだ……」

姉「ほら」

俺は姉が差し出したその手を取った
白くて柔らかくて、ぷにぷに

なんだよこの可愛い手は
ぷにぷに、ぷにぷに

姉「あはは、こらやめろって」

ああ本物だ
本物の姉貴だ

俺は手を放した

弟「やっぱり姉貴だな」

姉「当たり前だろが、バカ」

この姉貴は本物

だったら部屋にいたのは……誰なんだ?


弟「でも中から覗いた時は見えなかったのに」

姉「ああ、あんたがこっちに来るのが見えたから、そこの岩の影に隠れてたんだ」

弟「なんでそんなことするかな」

姉「だってあんた私がいたらこっち出て来ないもん」

弟「そりゃそうだけどさ」

姉「でもあんなに怖がるとは思わなかったよ。 あれマジでビビってたのか?」

弟「ちぇっ、俺だって色々とあったんだよ」

姉「ふうん、よく判んないけど……」

姉「まあいいや、とにかく風呂に入ろう……あっ」

弟「え? なに?」

姉「いや……ちょっと見えたから」

弟「?」

姉「だから……さっきからチラチラ見えてるんだけど」

弟「……へ?」

姉「気付いてないのか……ほら、お……おちん、ちん」

弟「!?」

姉「いや、さすがにそう露骨に見せられるとな……いくら私だって」

弟「……いっ!」

姉「目のやり場に困る、っていうか……」

弟「いやああああああああっっっっ!!!」


弟「ななななな、何見てんだよぉぉぉぉ」

姉「人聞きが悪いな、あんたが見せつけたんだろうが」

弟「み、見せつけてねえよっ!」

姉「でもそれ昔とは形変わってるよな?」 

弟「うわわ……うわわ……」

姉「ホクロの位置は変わんないけど」

弟「目のやり場に困るとか言って、しっかり見てるんじゃねえかっ!」

姉「そうか、ああいう風になってんのか……うーん」

弟「うう……もうやだあああっ!」

姉「あっ、おい待てよっ!」

いたたまれなくなって、俺は脱走した
恥ずかしかったのか、悔しかったのか
とにかくその場から、姉の前から逃げたかった

浴室内を通り抜け、脱衣場に出る
あたふたと身体を拭いて、パンツ……
あ、パンツ濡れたままだ

ええい、もうノーパンでいいや
俺はそのまま浴衣を羽織って大浴場から出た

股間がスースーした

そうだ、寝よう

すぐに姉貴も風呂から帰ってくるだろうし
起きてたらどうせまたさっきの事で
なんだかんだとからかってくるに決まってる

そういうことになる前に
それまでに寝てしまおう

俺は静かに部屋の扉を開け、そっと中に入った

って、なんでだよ
誰も居ないのにコソコソする必要もないだろうが
ははは、バカだなあ俺は

そういやさっき女将さんから逃げてきた時も、こうしてこっそり入ったっけ
俺は玄関を入った前室から襖の隙間を通して
部屋の中をうかがった
奥の方の姉の布団を

あの時は布団に姉貴が……

豆電球の薄ぼんやりとした灯りでも
姉の布団がぺちゃんこなのが判った

よし、いないな
姉貴の布団は空だ

そうそうこれでいいんだ
誰もいなくて当たり前
いる方がおかしいっての

俺はそのまま襖を開き、部屋に足を踏み入れ
視線を手前の俺の布団に……

弟「え……」

目を疑った
俺の布団に……

弟「姉貴?」

弟「う、うそだろ……」

思わず口から声が漏れた

そこに姉がいた

俺の布団に姉がいた

姉貴が、寝ていた


俺はまた

わけが判らなくなった

落ち着け……落ち着くんだ俺

落ち着いて考えるんだ

これは……?
こいつは何だ?
姉貴に見えるこいつは……誰だ?


落ち着け

そうだ、確かめればいい
確かめるんだ

俺は改めてそれを見た
落ち着いて
じっくりと

じっくりと見る

……

うーん、これは……

どう見ても姉貴だ

でも姉貴はさっき風呂に……

じゃあこれは……

もしかして得体の知れないのもが化けてたり?
例えば……そう、山の魔物とか

……

それにしても……


寝相悪いな、こいつ

蹴ってしまったのか、掛け布団は下の方でくしゃくしゃだし

自分も斜めにはみ出して、畳へ落ちかけてる
寝乱れた浴衣は胸がはだけて……見えそう

ああ、やっぱりブラしてないんだな
おおっと……これは


いやいやどこをじっくり見てるんだ、落ち着け俺

確かに寝相が悪いのもブラしてないのも本物の特徴だけど
もっと確かめるんだ

これが姉貴であるわけがないんだ

もっと確かめるんだ
きっと何か……

そうだ、風呂場で確かめたのは……
手だ

確かめるんだ


俺はそれの手をそっと触ってみた

白くて柔らかくて、ぷにぷにだったはずだ……

ぷにぷに

同じだった

ぷにぷに、ぷにぷに


同じだった

それは相変わらずスヤスヤと眠っている
急に姿を変えて俺を襲ってくるようなこともなかった

おかしい……
これじゃまるで本物だ

もっと、もっと何か確認できることは……


……あった

そうだ、あれだ。 あれがあれば

でも……

いやこの状況なら、仕方ないだろ

よしっ
俺は覚悟を決めた

姉には、本物の姉には
左の脇のところに、ていうか

おっぱいの脇に二つ並んだホクロがある

んだよ

な、何で知ってるかって?
そりゃそのくらい知ってるさ

おかしくないだろ別に
姉弟なんだし
小さい時に見たのを覚えてるんだよ

あいつが俺のちんちんにホクロがあるのを覚えてたように
俺だって覚えててもおかしくないだろっ

それを確かめるんだ
でもどうやって?

わかってるだろ
こいつのはだけた浴衣の胸をもっとはだけさせる

俺はそれの浴衣の襟に手を伸ばした

こりゃやばい
今目を覚まされたら言い訳なんかできないぞ

早く浴衣を戻さないと
せめておっぱいをが見えないくらいに

戻さないと……

……

じゃあこれは

本物の姉貴のおっぱい

改めて見ると

綺麗だ……


あう……

また下半身が……

だからダメだって

早くするんだ
写メなんか撮ろうとか考えてるんじゃねえよ

しっかり
しっかりに目に焼き付けるんだ

ジーーーー


じゃなくて!

戻すんだよっ
浴衣をよっ

はぁはぁ

脱がすときより慎重に
俺は浴衣を戻していった

そろり……じわり……

じわり……じわり……もにゅ

ぷにゅ

あ、いかん
おっぱい触っちゃった
もっと慎重に

じわり……じわり……もみゅん

ぷにゅぷにゅ

いかんいかん
こんなに触ったら起きちまう

いや違うって
わざとじゃないって

俺はさんざんおっぱいを楽しんで……
いやいや、違う

俺はさっさと浴衣を戻した
慎重かつ手際よく

ふう
これでよし、と
後は

弟「寝相悪いな、姉貴。 布団からはみ出してるぞ」

弟「ほら直してやる」

ほとんど聞こえないような声で俺はつぶやいた

そして姉の身体に手を掛ける

弟「よいしょ」

上半身と下半身を交互にずらして
姉の身体を布団の真ん中に移動させた

こうされても姉は目を覚まさなかった

お尻とか太ももとか腰とか触っちゃったけど
それは不可抗力
仕方がない、知ったこっちゃない

それから掛け布団を胸までそっと掛けてやる

これでよし……


……

……ふっ

なんだその可愛い寝顔は
キスでもしてやろうか、ははは……

……

……姉貴

……

……ちょっと


ちょっとだけ

俺は眠っている姉の胸に手を……


さわ……さわ……さわ……


むに……むに……


この辺?

……くりっ

指が乳首のしこりを探り当てる

ぷに……ぷに……

そして……


……ちゅ

いやそれだけ
それだけだから

そして俺は空いている奥の布団に潜り込んだ

枕の位置を合わせて横向きに寝る
姉に背を向けたのは
きっと後ろめたさと自己嫌悪から

でも手にはまだ柔らかい感触が残っていて
良い思いが出来たなんてことも思っちゃったり
下半身もそれなりに反応してて……

ふぅ……

……俺は目を閉じた

その時

 「なあ……」

姉の声が……


姉「本当にしちゃおうか」

!!!!!!!

今日一番
何よりも一番

もう最高にビックリした

そして……だんだんと

意識が遠くなって……

……やがて……



……途切れた


~~~~~~~


~~~~~


~~~


~~~~~




~~~~~~~




……ん

うっすらと意識が戻った

目は開けられないし、指も動かせない

金縛り?
いやただそうしたくないだけ

半分目覚めて半分眠って
うつらうつらと気持ちが良い状態

しばらくこのままでいたい

ああ……
同じような夢を繰り返し見た


長くて暗い廊下をひとりで歩いていると
後ろから声を掛けられる夢

振り返りたくなくて無視しても、何度も何度も呼ばれ続けて
最後に俺はその声に応えてしまう
振り返ったそこにいたのは、黒い影……

影は次の瞬間には人に変化した
その姿は仲居さん、見習いちゃん、女将さんと、次々に変わっていって

そしてついには俺が一番見たくないものへと姿を変えた

―― 親父

俺と姉の父親の姿へと
あの糞野郎の

鬼の形相
親父、また酔ってやがる
また俺や姉ちゃんを殴る気なんだ

俺は逃げようとするが足が重くてすぐに捕まってしまう
鬼は怒っている
意味不明の怒声
拳を振りあげて俺を殴ろうとする


何でだよ俺は何もしてないのにっ
ずっとおとなしくしてただろっ

しかしこうなっては防ぎようもない
俺は殴られるのを覚悟して目を閉じた

だがいつまで経っても殴られない

不思議に思って目を開けると、そこはさっきまでの廊下ではなく
どこか見覚えのあるような白っぽい部屋
そこに親父と少女がいた

また激しい怒声
親父は少女の胸ぐらをわしづかみにして壁に叩きつける

いやあれは少女ではなくて、姉ちゃん……
小さい頃の姉貴だった

姉ちゃん、また俺を庇って……

倒れ込んだ姉ちゃんに親父がのしかかる
やめろ、だめだ……それは

 やめろぉっ!

俺は無我夢中で親父の背中に突っ込んでいった


……こんな夢を繰り返し見た

なんだ、悪夢かよ
夢見心地の気持ちよさが消えていく

何で今更夢に親父が出てくるんだよ
糞が
死んじまったくせに出てくんな

ああ、気分悪い

今思い返してもあの頃は地獄だったと思う
毎晩毎晩、酒に酔って暴れて
俺達を殴って、蹴って

それは親父が死ぬまで続いた
酒に酔ってベランダから落ちたんだから自業自得だ、ざまあみろ

そういえばさっきの夢の白っぽい部屋って
昔住んでた団地の部屋だったよな
親父が落ちて死んだんで引っ越したんだっけ

それにしてもやっぱり姉貴には
頭が上がんねえよなあ

それは親父だけの事じゃなくて……


小さい頃の俺は身体が弱くて、運動も得意じゃなかった
それに気も小さくて、恐がり

友達も自分で作れなくて、後をずっと付いて回ってた
そんな俺を姉はずっと面倒見てくれてた
俺とは逆に活発で社交的だったから友達も多くて、その子達と遊びたかったろうに
ずっと俺の相手してくれてた

逆上がり教えてくれたのも姉だったし
駒なし自転車乗れるまで付き合ってくれたのも姉だった

あの頃はそれが当たり前みたいに思ってたけど
今考えるとかなり迷惑掛けてた

親父そんな軟弱な俺が嫌いだったんだろうと思う
だから俺に暴力振るって……
姉はそれを庇ってまた殴られて
結局二人で押入に閉じこもって震えてた

本当に迷惑な弟だったと思う

でもそういうことがある度に姉は言った

「あんたはずっと私が守ってやる」

泣き声をこらえる俺にそう言ってくれたんだ


そして俺はいつもこう答えていた

「うん、姉ちゃん大好きだよ」

あー
いろいろ思い出しちまったもんだ

しかし、大好きだよ、か
あの頃はサラッと言えたんだよなあ
もう10年以上も前になるのか

10年経てば心の傷も癒えるけど
それだけ経っても変わらない想い
忘れられない気持ちってのもあるんだな

親父が死んだときのことなんか殆ど思い出せないけど


さて……
鳥の鳴き声が聞こえてきたし
そろそろ空が明るくなってきた頃か

俺は頭の中だけだった意識を、身体の感覚にも広げる

枕やシーツ、浴衣の肌触り
じわぁっと広がっていく自分の体温
爽やかな山の朝の空気

それと……よかった、セーフだ
また夢精してたらどうしようかと思った
朝立ちはしてるけどね

そこで気がついた
背中に何か当たっている

なんだこれ棒か? あ、動いてる……

これは……指?

誰?
いやこれは姉貴だ

姉の方に背を向けて寝たから、今俺からは見えないけど
こんな事をするのは姉貴だ

背文字当て

指で背中に文字を書いてそれを当てる遊び
小さいとき一緒の布団で寝たときによくやった


またこんなふざけて
つうか俺の方の布団に来てたのかよ

何のつもりだよ

どうせまた 『バカ』 とか 『あほ』 とか書いてんだろ……

……ん? 『子』?

『き』……? 次は 『大』 だな

『女』 かな?

『子』 で、また 『き』 か

? なんだ?

子き大女子き?

……

ああまた『大』

ああ繰り返してんのか

つうことは 『大女子き』

だいじょしき? おおじょしき?

なんだ?

ああ、女と子はくっついてんのか
ということは……

『好』……

……

ん?


『大好き』……



へ???

大好き?!!

だと?

な、なんだよ
またかよこいつ

またこんな
こんなこと……しやがって

お、俺だってな
しまいに切れるんだぞ

どうでもよくなるんだぞっ
俺だってなあっ


ええいもう……

もういいか?

……

そうだなもういいや

これも夢も続きかもしれんしな
よし、もういい

今度はこっちがビックリさせてやるっ


弟「……姉貴」

ビクッと姉貴の指が止まる
そして俺は言った
ついに言った

弟「俺も好きだ……大好きだ」


いかん
ちょっと声が震えてしまった

はいここで白状します
衝撃の事実! カミングアウトです

実は俺はシスコンなんです
どうしようもなく姉貴ラブです

どう? 驚いたでしょ?
今までそんなことおくびにも出さなかったし
逆に興味ないって装ってたし

でも俺は姉を女として見ている変態でした
ああ、オナニーネタにだってしますよ
パンツだって盗んでます

だって、だって

好きなんだもん

俺からしたらこれ以上の女はいないんです
世界一の女なんです

大好きなんですよ


はいカミングアウト終わり

しばらくの沈黙があって
やがて姉が言った

姉「だ、だめだろ……そういうのは」

ほらっ
ほらね?

ほら見たことか、バカ
どうすんだよ、気持ち悪いって思われんぞ、バカ
もう普通に話できないぞ

ああ、なんか変な汗出てきた

そうだ寝ぼけてたって事にして……


姉「そ、そういうのは……こっち見て……言ってくれよ」

姉の声も震えていた

え?
こっち見て言えって……

いいの?
本当に?

いいんだな?
もう止まらないよ?


俺は一旦俯せなり、一呼吸して
それから勢いよく姉の方に向き直る

姉「……」

姉は真っ直ぐに俺を見ていた
何故か泣きそうな顔をして

俺はその瞳を見つめ返す

弟「好き……だ」

弟「大好きだ!」

言い終わると同時に

姉が俺に抱きついてきた


 * * * *

姉「おかわりは?」

弟「いやもういいよ、ごちそうさま」

姉「そうか、じゃあお茶煎れてやるな」

弟「あ、うん」


すでに朝食なのである
姉がなんやかんやと世話を焼いてくる
上機嫌でニコニコしている

俺は……

気まずい

なんか姉の顔をまともに見られない

時計はもう9時をとっくに過ぎている
こういうところの朝食としてはかなり遅いよな
宿に迷惑を掛けてしまったんじゃないだろか

なんて考えていると

コンコン!

 「失礼しまーす」

仲居さんが顔を出した

仲居「何かご用はございませんかね」

姉「今済んだところです。 ごちそうさまでした」

弟「あ、ごちそうさまでした。 すいません、こんなに遅くなって」

仲居「いえいえいいんですよ。 うちじゃよくあることですから」

弟「え?」

仲居「ええ、皆さん夜に頑張りすぎて寝坊なさるんですよ」

弟「……」

仲居「朝は難しいんですよ」

弟「はあ、そうなんすか」

仲居「いきなりお訪ねしたら真っ最中のところに出会したりしますんでねえ」

弟「真っ最中……」

仲居「だから部屋の外で様子をうかがって」

仲居「終わったな、と思った頃に声をおかけするんですよ」

弟「……」


おいおい、まあここだったら声は廊下まで筒抜けなんだろうけど
それじゃ盗み聞きじゃねえか……


いや待てよ
それじゃあ俺達の部屋もうかがってたってことか?
え?

弟「まさか……」

仲居「ああいえいえ、お客様のお部屋はね、そんなことはね、はい」

仲居「しておりませんですよ」

ほんと? ほんとに?
信じるよ? 信じるからね

弟「いやあ夜が静かだし涼しいしそれで寝過ごしちゃいましたよ」

仲居「そうでございますか、それはそれは」

弟「本当に朝までぐっすりで、気が付いたらもう」

仲居「まあ何事も初めは上手くいかないこともありますからねえ」

……

は?

あれ?
このひと何言ってんのかな?
理解不能なんですけど……

ていうか俺の全身全霊が理解拒否してますっ

これはどう会話を繋げばいいんだよ……
と考えていると

姉「はいお茶」

コトン
姉が俺の前に湯呑みを置いた

弟「あ、ありがと……」

姉「うん」

にっこり微笑む姉
うわすげえ可愛い

俺はドギマギして目を逸らした

仲居「おやまあ……むふふ」

そんな様子を見ていた仲居さんが笑った
うわあ
またこの人は何か言い出す気だよ

弟「な、何ですか」

仲居「いえね、お二人のご様子が昨日とはすっかり違ってますんでね」

弟「そ、そんなことはないでしょ」

仲居「いえいえ、まるで初夜明けの新婚さんを見ているよう」

弟「ぶっ」

ほらまたこんなわけの判らないことを……

姉「え……そんな……」

って、姉貴? 嬉しそうに顔赤らめてるんじゃねえって!
こっちまで赤く……じゃなくて

変な汗出ちまうだろっ

うわ参ったなこりゃ
ただでさえ気まずかったのに

俺と姉貴が新婚に見えるって?
へへ……

何なんだこのむず痒さは
頬がゆるむ、ニヤけちまう
こら気持ちわりいぞ、俺

落ち着け、男はここでキリッとしてなきゃイカンだろ
平然と、冷静にだ

へっ……
ああだめだ、やっぱりニヤけちまう


よしこうなったら

弟「お、俺ちょっと庭見てくるから」

そう言って俺は部屋から出た
こうなったら一人になってニヤケまくってやる

生け垣の向こうには屋根があった
少し見下ろすくらいの高さに

そう言えば昨日姉貴が言ってたっけ
俺はその時の会話を思い返す

 姉『他の部屋とか建物同士も結構近くに建ってる』

 弟『じゃあ何で見えないんだ?』

 姉『この旅館の敷地全体が山の斜面みたいでな、建物ごとに高さが違うんだ』

 弟 『高さが違う? 他が高かったり低かったりするから見えないってことか?』

 姉『そうだ』

 弟『でもそれだけじゃ少しは見える気もするけど』

 姉『そういう所は大きな木とか植込みなんかで目隠ししてあった』


ああなるほど
こういうことか

でもこの建物って……

きょろきょろと辺りを見回すと
すぐ横の斜面に階段が作られているのを見つけた

そうか、ここから下へ行けるんだな
よし行ってみよう


俺はその階段を降りていった

下の建物は周りを高い塀で囲われていて
階段はその外側に続いていた

ちょっと行くとその塀に扉があった
たぶん裏口なんだろうな
だって裏口って書いてあるもん

俺は扉のノブを回してみる
鍵が掛かっていたら引き返すつもりだった

でもノブは回り、扉はすんなりと開いていった

そこに人影が……
あっ

 「あーっ、お客さんー」

見習いちゃんだった
手に箒を持ってきょとんとこちらを見ている

弟「あ、おはよう」

見習い「あー、おはよーございますー」

見習い「どうされたんですかー」

弟「いや庭から降りてこられたから……入っちゃだめだったかな」

見習い「いえいえーいいんですよー、そこからも入れるように開けてますんでー」

弟「そうか、そうなってるのか」

見習い「お客さんー」

弟「ん、なに?」

見習い「昨晩はお楽しみでしたねー」

弟「ぶっ! な、なに……なにが……」

見習い「えへへー」

弟「み……見習いちゃん?」

見習い「何ですかー冗談ですよー」

弟「冗談って……」

見習い「いやですよーお客さん、ほんとにもー面白い顔してー」

弟「面白い顔は余計だろっ つうかそんな冗談は言っちゃだめだろっ?」

見習い「そうですかー? 他のお客さんは喜んでくれるんですけどねー」

弟「どんなお客さんなんだよ……」

見習い「えへへー、エッチな人ばっかりですよー」

弟「そ、そうなの?」

見習い「そうなんですよー、酔うとすぐ胸とかお尻とか触ってくるんですよねー」

弟「ええっ?だめだろそれ犯罪じゃん」

見習い「でもお客さんですしー、あんまり言えないんですよねー」 

弟「でも嫌じゃないの?」

見習い「んーどうなのかなー、やっぱり嫌ですかねー」

弟「そんな、他人事みたいに。 そういうのは最初にきっぱり拒否しないと」

弟「大変なことになったりするからさ」

見習い「あははー」

弟「あはは、じゃなくてさ」

見習い「優しいですねーお客さん」

見習い「お客さんになら触られてもいいんですけどねー」

弟「えっ? えっ? い、いや俺はそんな」

見習い「あははーやだなー冗談ですよー」 

弟「ちょ……勘弁してよもう」

見習い「あははーお客さん可愛いですねー」

見習い「ついからかいたくなっちゃいますー」

弟「あの、俺の方が歳上なんですけどね」

見習い「顔も面白いしー」

弟「だからそれは余計だって」

見習い「あはははー」

弟「ところで箒持ってるけど、掃除?」

見習い「そうですよー毎日大変なんですからー」

弟「それはご苦労様です」

見習い「ほんとにねー」

弟「いやそこはいえいえとか言った方がいいと思うんだけどね」

見習い「あははー」

弟「面白い性格してるね、見習いちゃん」

見習い「お客さんの面白い顔には負けますよー」

弟「ぶーっ」

見習い「あははーっ、お客さんと話してると楽しいですー」

弟「それはよかったね……」

見習い「ああそういえばー」

弟「え、今度は何?」

見習い「何時頃ここを立たれるんですかー」

弟「あ、これから帰る用意するから11時頃になるかな」

見習い「11時頃ですかー」

弟「ごめん遅くて、寝坊しちゃったから……」

見習い「いいんですよー、わかってますからー」

弟「……何が判ってるのかな……」

見習い「11時だとお昼はまだバスの中ですねー、お腹減りますよねー 」

弟「ああ、そうなるのかな」

見習い「じゃあおにぎり作っときますからー」

見習い「持って帰って下さいねー」

弟「ええいいの?」

見習い「いいですよー、駅についても食べるとこないですしねー」

弟「でも忙しいんじゃ」

見習い「大丈夫ですよー、どうせ今日もお客さんいらっしゃるの一組だけですしー」

見習い「暇なんですよ、ひまひまー」

弟「そうなんだ、じゃあお願いします」

見習い「りょーかいですー」

弟「ごめんね、ありがとう」

見習い「いえいえー、ところでー」

弟「?」

見習い「ところでバスタオルはお役に立ちましたかー?」

弟「うっ……またいきなり」


弟「なんの……こと、かな」

見習い「とぼけなくてもいいですよー仲居さんに聞いてますからー」

弟「……なんて恐ろしい人達だ」

見習い「ああいうのって必要なんですかねー?」

弟「し、知らないよ使ってないし」

見習い「えー使わないでしたんですかー?」

弟「し、してないし」

見習い「またまたー」

弟「あのねお客にそういうことを……」

見習い「やっぱり初めてって痛いんですかー?」

弟「はあ?」

見習い「ほら痛くて血が出るって言うじゃないですかー」

弟「し、知ら……」

見習い「お連れさんはどうでしたかー?」

弟「いや、そんなには……って、知らないしっ!」

見習い「あははー、教えて下さいよー」

弟「いやいやい知らない知らない」

見習い「エッチってそんなに気持いいんですかー?」

弟「いや知らない、知らないって。 なんで俺に聞くんだよっ」

見習い「だって気になるじゃないですかー」

見習い「そのうちお世話になるんですからー」

弟「へ?」

弟「あっ、俺そろそろ部屋に戻らないと」

見習い「えー入って行かないんですかー?」

弟「じゃっ、また後で」


これ以上会話を続けると
見習いちゃんがどこまで暴走するか判ったもんじゃない
もう怖い怖い

俺はふくれっ面の見習いちゃんを残して
部屋に引き返すことにした

でもせっかく見習いちゃんに会ったのに
結局一番聞きたいことが聞けなかった

また階段を登って庭から廊下へ上がり
そして部屋へと
そこまで2分足らずだった

やっぱりそうだったんだな……
俺は一人納得して部屋に入った

弟「ただいま」

すでに朝食は片付けられ
服に着替えた姉がつまらなそうにテレビを見ていた
帰り支度も済んでいるみたいだ

姉「ん」

テレビを見たまま姉が答えた
あれ? どうしたんだ?
さっきまでとは様子が違うぞ
なんか機嫌悪そう

待たせちゃったからかな?
昔から待たせると怒るんだよなあ

俺も帰り支度しなきゃ

弟「ああ俺も早くしなきゃ」

わざと姉に聞こえるように呟いて
まずは浴衣を着替える為に次の間に行こうとした時

姉「あーだめだっ」

急に姉が大きな声を出した

姉「おいっ」

弟「え?」

姉「ちょっとこっち来い」

弟「え? なに?」

姉「いいからこっち来て座れ」

ここっ、と姉が自分の横を指さす

弟「なんだよ……そんな怖い顔して」

え? 俺怒られんの?
俺は姉の隣りに座った

姉「怖い顔なんかしてないっ」

とは言え
じっと睨んでくる姉の顔は
口がへの字で、眉が寄って
怒っているようで、泣き出しそうで

弟「どうしたんだよ……」

でも姉はそれに答えなかった

その代わり

姉「うるさいっ」

そう言ったかと思うと
いきなり俺に抱きついてきた

弟「えっ!?」

姉「……」

弟「ちょっ、あ、姉……貴?」

姉「うぅ……」

姉は俺の背中に手を回し
ぎゅうぎゅうとしがみついてくる

いい匂いと柔らかい感触が俺を包む

弟「なあ……どうしたんだよ」

俺はもう一度尋ねた

姉「……」

弟「姉貴……」

姉「ひとりにすんなって……言っただろ……」

弟「あ」

姉「ひとりにすんなって言っただろ……」

弟「ごめん……」

姉「……不安……だった」

弟「ごめん」

姉「なあ……」

姉の抱きしめる力が一段と強くなる
まるで俺の存在を確かめるように

姉「今朝のって……夢じゃなかったんだよな?」

弟「え?」

姉「なあ、好きだって言ってくれたんだよな?」

ああそうか……姉貴も

弟「ああ言ったよ」

俺は姉を抱きしめ返す

弟「夢なんかじゃないよ」

姉「そうだよな、夢じゃない……まだお股痛いし」

弟「う……え……」

姉「でもそれなら……後悔してるのか?」

弟「俺が? 何で?」

姉「だって……あんた、朝からずっと」

弟「……」

姉「素っ気なかったじゃないか」

弟「そ、それは……」

弟「……照れくさかったから」

姉「……バカ……なんだよそれ……」

姉「そんなことで私を不安にさせるなよ」

弟「ごめん……でも俺も不安だったんだ」

姉「え?」

弟「俺勢いで告白しちゃったけど」

弟「そんなこと普通に考えたら受け入れられるわけがないのに」

弟「姉貴は受け入れてくれて……」

弟「でもそれは俺を傷付けたくなかっただけで……」

姉「おい」

弟「また姉貴が……俺のために無理したんじゃないかって」

弟「俺を……弟を守るために」

姉「おい……怒るぞ」

弟「でもさ」

姉「お前は、私の気持ちが信じられないのか」

弟「……そうだな、ごめん」

姉「このバカ野郎」

また姉の腕に力が入る
そして俺を目一杯強く抱きしめた後
ゆっくりと身体を離した

それから俺を見て

姉「よかった……」

にっこり微笑んだ

姉「安心した」

弟「うん、俺も」

姉「うん」

そして姉は黙って目を閉じた

姉「……」

弟「……」

姉「……おい」

弟「……えーと」

姉「おい……ほら……」

弟「あーっと」

姉「こら」

弟「あ、はい」

姉「こういう時はキスだろうがっ」

弟「ごめん、でもちょっと今は……」

姉「なんでだよぉ?」

弟「いや、今キスなんかしたらさ……また我慢できなくなりそうだし」

姉「え……そうなの?」

弟「……うん」

恥ずかしながらビンビンでした
シリアスな話とは裏腹に一度味を覚えた俺の下半身は
姉が横にいるだけでもう激しく反応しまくっているのだった
ビンビン

姉「しかしあれだけ何度も……」

弟「それがダメみたいです」

ビンビンです

姉「そ、そうか……」

姉はちらりと俺の下半身に視線をやり
恥ずかしそうに目を逸らした

姉「なら仕方ないな……私もまだ痛むし」

弟「ごめん、大丈夫?」

姉「大丈夫……じゃないかも」

弟「ええっ?」

姉「誰かさんが無理矢理するから……」

弟「え……そんな」

姉「……」

弟「ど、どうしよう……」

姉「ということで、帰りはおんぶして」

弟「え、おんぶはできるけど山道は無理だよ」

弟「あ、そうだ救急車」

姉「あーこらこら、マジで受け取るんじゃないって」

弟「へ?」

姉「そんなの冗談に決まってんだろ」

姉が笑う
いつもの人懐っこい笑顔だ

弟「なんだよー、もうマジで心配したんだぞ」

姉「ははは、でも痛いのは本当だからな」

弟「……そうか」

姉「いたわれよ」

弟「いたわってやるよ。 ずっとな」

姉「お? おおおっ……そんな生意気言っていいのか」

弟「なんだよ」

姉「もっと惚れちゃうぞ、いいのかおい」

弟「なんだよ、勝手にしろよ」

姉「うんっ」

なんか話が脱線したような、まとまったような

ま、お互いに安心できたんで良かったよ
姉貴も笑ってるし
俺にはそれが一番だ

弟「じゃ俺着替えるから」

姉「着替えさせてやろうか」

弟「いらねえよ、子供じゃあるまいし」

姉「帯結べなかったくせに」

弟「うるせーっての」

うん、いつもの会話だ
調子戻ってきた

帰りの服に着替えていると
姉が来て脱いだ浴衣を畳んでくれた

弟「自分でするのに」

姉「いいからいいから。 早く着替えてしまえよ」

弟「うん、ありがと」

姉「それはそうとさ」

弟「ん?」

姉「庭見てきたんだろ、どうだった?」

弟「ああそうだった」

姉「じゃあバレた?」

弟「ああ判ったよ、姉貴の瞬間移動のタネ」

先に説明してしまうと
さっき庭から降りて行った建物
見習いちゃんが掃除していた高い塀に囲まれた建物

そう、あれは大浴場だった
敷地の高さが違うだけで、大浴場はこの部屋のすぐ隣に立っていた

本館ロビーを経由するv字型に長い廊下歩く内部ルートなら
5分程度かかる大浴場の建物も
外の庭を抜ける最短ルートならさっき計ったように2分足らずでたどりつく
つまり半分の時間で行き来が可能ということだ

そして裏口を入ったところは露天風呂のすぐ横

姉は昨日の夕方庭に出た時にそれを知ったんだ

これが判れば何の不思議もない
昨晩出会った姉は全て本物だった

まず寝ぼけて(夢精して)部屋を出た時に
風呂から帰ってきた姉とかち合った

俺はそのまま大浴場へ
その時に姉は悪戯を思い付いたんだろう

庭へ出て大浴場へ先回り、露天風呂へと隠れた
そしてパンツを洗い終えた俺は露天風呂大浴場で姉と出会った

これが一回目の瞬間移動

次にちんちんを見られて慌てた俺が大浴場から逃げ出す

すかさず姉は浴衣を着て、また庭を通って先回り
部屋に戻り、俺の布団に潜り込んで寝たふり
その後戻った俺が寝ている姉を見つける

これが二回目の瞬間移動

判ってしまえばなんという事はない
ただ俺の行く場所を先回りをしていただけだったんだ

弟「よくあんな事思いつくよな」

姉「へへへ」

弟「へへへ、じゃねえよ」

姉「でも面白かっただろ?」

弟「よく言うよ、こっちは本気でビビったのに」

姉「そうそう、風呂で『ひえぇぇぇえっっ!』とか言ってたよな」

弟「あう……」

姉「可愛くてキュンキュンしちゃったぞ」

弟「う、うるせえ」

弟「可愛いとか言うなって」

姉「あはは、ごめんごめん」

弟「またそうやってからかう」 

姉「でもお陰でおっぱい見られただろ?」

弟「そ、そ……それは」

姉「さすがに浴衣をはだけられた時はビックリしたけどなあ」

姉「寝たふりしてるの大変だったよ」

弟「それは、だから……本物か確かめるためで」

姉「確かめる?」

弟「ほら姉貴左の胸の脇にホクロがあるだろ、二つ並んで」

姉「ああ、あるある」

弟「あれを確かめたんだよ」

姉「なんだそうか、それで顔を近づけてたのか」

弟「そうだよ」

姉「私はまたいきなりおっぱい吸われたらどうしようとかドキドキ」

弟「んなことするかよっ」

姉「でもその後でおっぱい触ってたよな」

弟「あう……」

姉「揉んでたよな」

弟「……はい」

姉「中途半端でやめやがって、あれから大変だったんだぞ」

弟「大変?」

姉「ドキドキが止まらなくなって……」

姉「身体は熱くなるわ、どうしようもないような変な気分になるわで、眠れなくなったんだよ」

姉「なのにあんたはさっさと寝ちまって、声掛けても返事もしないし」

弟「……」

姉「あれだけ前フリもしたから、てっきり襲われるって思ったのに」

弟「……前フリ?」

姉「ほら、あの……オ、オナニーの」

弟「ああ、あの変な妄想」

姉「変なっていうな、あれでも頑張って考えたんだぞ」

弟「考えたって、ならあれは作り話?」

姉「まあ、そうなるのかな……」

姉「正直言うと、私オナニーとかあんまりしたことないし……」

弟「へ? だったら何であんな話」

姉「ああ言えばあんたが発情して襲ってきやすくなるかと思って」

弟「じゃあなんだ? 俺に襲わせようとしてたのかよ?」

姉「うん」

弟「うんって、なんでまた」

姉「……襲われたら責任取らせてやろうと」

弟「怖っ」

姉「まあそれは半分嘘だけどな」

弟「半分か……」

姉「でもあの話効果なかったか? 恥ずかしいの我慢して頑張ったんだぞ」

弟「効果? あったよ。 発情なんか、すごくしたし」

姉「じゃあなんで」

弟「バカだなあ」

姉「は? 何がバカだよ?」

弟「いくら発情してもな、俺が姉貴の嫌がることなんかするかよ」

姉「……あ」

姉「おぅふ……」

弟「?」

姉「い、いや、今のじゃちょっとよく判らないな。 もう少し詳しく頼む」 

弟「詳しくって、だから」

弟「大切な人を悲しませるような真似出来るわけないだろ、っていう」

姉「……おうふっ」

弟「?」

姉「お、おい」

弟「え?」

姉「やっぱりキスしろ」

弟「ええっ?それはだめって言ったろ」

姉「なんだよ……したくないのかよ」

弟「そうじゃないけど……」

姉「あの時は、『キスしていい?』 なんて言って優しく抱きしめてくれたのに」

弟「こ、こら……よせよ」

姉「あれファーストキスだったんだぞ、なのにいきなり……」

弟「よせって、今そういう事言われても」

姉「じゃあしろ」

弟「だめ」

姉「なあ、なあ」

弟「だめ」

姉「ぶーっ、つまんねーっ」

弟「だから今は無理なんだって」

姉「じゃあいつならいいんだよ?」

弟「そ、それは、ええと……帰ってから、かな」

姉「……帰ってから?」

弟「ん」

姉「そうか……そうだな……」

弟「?」

姉「帰るんだな、私達」

弟「姉貴? どうしたんだ?」

姉「帰りたくない……」

弟「え? なんで?」

姉「怖いんだ、帰ったらこの夢が覚めてしまいそうで」

弟「夢って」

姉「夢みたいなもんだろ。 帰って待ってるのはいつもの姉弟としての現実だ」

弟「……」

姉「そして夢から覚めたあんたは言うかもしない……」

姉「あれは気の迷いだったって」

弟「な……なんだよそれ」

弟「あのな」

姉「……なあ」

弟「え」

姉「このまま帰らないで、どこか他のところ行って……」

弟「だめだ、そんなのは」

姉「……なんで……だよ」

弟「俺明日バイトあるし」

姉「バイト? バイトなんて」

弟「学校もすぐに始まるし」

姉「やっぱり現実か……」

弟「当たり前だろ、俺は現実から逃げないぞ」

姉「……」

弟「俺はバイトも続けるし、学校も今よりもっと勉強してちゃんと卒業する」

弟「それからいい仕事見つけて、稼いで」

姉「……なんだよその普通の人生設計」

弟「悪いかよ、じゃないと一緒に暮らしていけないだろ?」

姉「え……」

弟「俺がしっかりしないと姉貴を守ってやれないだろ?」

姉「……あんた」

弟「ま、まあ……姉貴さえ良ければ、だけど……」

姉「え……」

弟「あ……だめだった?」

姉「え? あ……い、いや」

弟「嫌?……なの?」

姉「え? いや、あの、そのな……」

弟「え?」

姉「だから、その……」

弟「……」

姉「よろしくお願いします」

弟「あ……」


弟「あ、はい」

弟「ああー良かったー」

姉「うっ、ああっ……」

弟「あれ? どうした?」

姉「ちょっと動悸が……おさまんない」

弟「なんで?」

姉「あんたがキュンキュンするようなことばっかり言うからだろっ」

姉「ああっ……悶え死にそうだ……」

弟「大げさだよな、姉貴って」

姉「んなことあるかっ! 弟にプロポーズされたんだぞっ」

姉「今私の一生が決まったんだ」

弟「そうか、そう言われれば……」

弟「あうっ……俺も動悸がしてきた」

姉「遅いんだよ、とんでも無いことを自覚も無しに言いやがって」

弟「ごめん……まだ言わない方が良かったかな」

姉「んなことはないけど、ビックリはしたな」

弟「迷惑だった?」

姉「迷惑? なんで? バカ言うなって」

弟「……」

姉「そんなもん嬉しかったに決まってんだろ」

姉「覚悟しとけ、もう一生離れないからな」

弟「はい、覚悟しておきます」

姉「よしっ。 ふふふっ」

弟「はははっ」


姉「でもあんたそんな事まで考えてたんだな」

弟「そりゃ俺だって男だし、責任ってものが」

姉「責任?」

弟「うん」

姉「ああ、私の初めてを奪った」

弟「奪ったって……」

弟「そんな無理矢理だったみたいなこと」

姉「じゃあなんて言いばいいんだよ?」

弟「えっと、もらった、かな?……いや、いただいた?」

姉「そうか、私は美味しくいただかれたってわけだ」

弟「違うって」

姉「何だ美味しくなかったのか」

弟「いや、そ、それは……美味しかったけど、すごく」

姉「うぷぷっ」

弟「なんだよ」

姉「私も美味しかったぞ」

弟「な、なにがっ?」

姉「うぷぷっ」

弟「……」

弟「と、とにかく、今の俺の気持ちが現実だから」

弟「家に帰ったってそれが変わることなんて絶対無いよ」

姉「じゃあ帰ったら、ちゃんとキスしてくれるんだな」

弟「おう」

姉「いっぱいイチャイチャするからな」

弟「おう」

姉「いっぱい……するからな」

弟「お、おう」

姉「よしっ、帰るぞっ!」


姉「ほら、さっさと支度しろっ!」

弟「わ、わかった」

俺は手早く服を着替えた

後は荷物をまとめるだけだ
俺はリュックを開いた
そうそう、姉貴のドライヤーも入れなきゃな

弟「ええっと後は……」

姉「そうだ、あのバスタオル知らないか?」

弟「ん? 知らないけど?」

あのバスタオルってのは、あれだ
昨日仲居さんが持ってきたやつだ
シーツを汚さないようにって、大きなお世話なんだよ


弟「あれがどうかした?」

姉「見当たらないんだよ、確か洗おうと思って洗面所に置いたはずなんだけど」

弟「仲居さんが片付けたんじゃないの?」

姉「ええー」

弟「なにが、ええーだよ」

姉「だって恥ずかしいじゃないか……汚しちゃったし」

そう、仲居さんの大きなお世話、実は使いました
だからシーツは汚れなかったけど、バスタオルはね
汚しちゃった

弟「バスタオルなんてまとめて洗濯するんだから、いちいち確かめないさ」

姉「そうかなあ」

弟「そうだよ、気にしない気にしない」

なんでそう気にするかな
そういや見習いちゃんも気にしてたっけ
きっと仲居さんも探したろうな

洗面所とか押入れとか
でもそんなとこ無いよ
探したって見つかりっこ無い

どうしてって?

だってここにあるもん
俺のリュックの中
ビニール袋に入れて隠してあるもんね

姉貴、ごめんな
これは内緒にしておくよ

嫌がられると困るから
これは俺の一生の宝物にするんだから

弟「うへへ」

姉「うん? なに笑ってんだ?」

弟「あ、いや別に。 さあ用意出来た、忘れ物もなし」

姉「そうか、じゃ」

弟「ん、帰ろう」



そして俺達は思い出深い場所となった部屋を後にした

ありがとう、金柑の間
いざさらば


長い廊下を本館ロビーヘと向かう
ギイギイとうるさく鳴る床も
これが最後だと思うと感慨深い

弟「姉貴、大丈夫か?」

姉に声をかける

姉「ん……大丈夫だけど、ちょっと歩きにくいんだ」

弟「そうか、カバン持ってやろうか」

姉「カバンはいいから、はい」

そう言って姉は手を差し出した

姉「手、繋いで」

弟「ん」

俺はその手を取った

姉「へへへ」

弟「なに?」

姉「いや、昨日まではあれだけ手を繋ぐの拒んでたのになって」

弟「仕方ないだろ、俺は姉貴と距離を置こうとしてたんだから」

姉「ん、判ってた。 あんたが段々離れていこうとしてるのが」

弟「……」

姉「だからこの旅行に誘ったんだ」

弟「え?」

姉「私の気持ちを伝える事がこの旅行の本当の目的だったんだ」

姉「もしそれが無理だったら」

弟「……」

姉「あんたを諦めようと思ってた」

弟「そうだったのか……それであんな真似を」

姉「ん、ちょっと頑張った」

弟「そのお陰で俺達今こうやって」

姉「ん、よかった」

弟「そうか」

姉「ん」

あ……

思わず息を呑む
着物姿の女性が見えた

鏡台の前に座って髪を整えている後ろ姿
顔は見えないがその着物の柄は確かに覚えている

……女将さん


俺はもう一度考えた
このまま引き返すか、それとも

……よし

答えはすぐに出た

そして俺は声を掛けた

弟「あの……すいません」

その途端

 「ひゃあっ」

と、声を上げてこちらを振り向いたのは
女将さん……ではなくて

弟「え? 見習いちゃん?」

そこにいたのは見習いちゃんだった

見習い「お、お客さん?」

驚いた顔をして俺を見つめている

見習い「え? えー?」

弟「ど、どうして……」

じゃあさっきロビーで見かけたのは見習いちゃんだったのか?

見習い「それは私が聞きたいですよー」

見習い「ここには入ってきたらだめなんですからねー」

弟「いやあの……ロビーで見習いちゃん見かけたから、つい」

見習い「ダメですよー嘘言っちゃあ。 今まで私ずっとここにいましたよー」

弟「え?」

弟「で、でもその着物……」

見習い「だから今までこれを着付けてたんですよー」

今見習いちゃんが着ている着物
それは確かに昨夜女将さんが着ていたものだ

弟「今まで……?」

見習い「そうですよー、お見送りくらいおめかししようと思ってー」

見習い「せっかくお客さんを驚かそうと思ったのにー、もう台無しじゃないですかー」

弟「……」

じゃあ俺がさっき見たのは……
あれはなんだったんだ……

見習い「お客さん?」

弟「えっ?」

見習い「何ですかー? 怖い顔して……」

見習いちゃんが不安そうな表情になっている
しまった、怯えさせたか
そりゃそうだな、着替えてるとこに急に男が入ってきたんだから

ここは誤魔化しておこう

弟「あーいや、ごめん。 俺の勘違いだったみたいだ」

弟「それより見習いちゃん、その着物にあってるねー」

見習い「えー」

途端に嬉しそうな顔を輝かせる見習いちゃん
良かった単純な子で

弟「いつも着てるの?」

見習い「いえー、今日は特別ですよー」

弟「特別?」

見習い「お客さんに見てもらいたかったんですよー」

弟「あ、それはどうも」

見習い「ほんとはいつも着なさいって言われるんですけどねー、面倒くさくってー」

見習い「それで言いますけどー、実は私女将見習いなのでしたー」

弟「うん、そうなんだってね」

見習い「あれれ?驚きませんねえ」

弟「いや知ってたから」

見習い「ええー誰に聞いたんですかー口止めしてあったんですよー」

弟「それは……」

見習い「もー面白くないですー」

見習い「本当はお見送りの時にババーンと正体を明かそうと思ってたのにー」

見習い「いきなり着物姿見られちゃうし」

弟「ははは……それで着物を」

見習い「はいー、これ大事な着物なんですよー」

弟「ああ、それで……」

なるほどそうだったのか
それで女将さんの着物を借りたのか

見習い「お母さんの形見でー」

え?
……なに?

弟「……形見?」

弟「形見って?」

見習い「えー、お客さん知らないんですかー? 形見っていうのはですねー」

弟「いや意味は知ってるよ、でも見習いちゃんのお母さんって……」

見習い「亡くなったんですよー、ほらそこにー」

見習いちゃんが指差した先を見ると
そこに

弟「お仏壇……」

額に入った写真がその上に掛けられていた
その中で女性が微笑んでいる
それは紛れもなく昨夜のあの女将さんの顔で……

弟「そんな……」

愕然とした

そんな俺を見て気を使わせてはいけないと思ったのか
笑いながら見習いちゃんが言った

見習い「気にしなくていいですよー、もう三年前のことですからー」

弟「三年前に……亡くなった」

見習い「正確にはいなくなったんですけどねー」

弟「え? いなくなった?」

見習い「お母さんここの女将で頑張ってたんですけど」

見習い「男の人と山に入って、それきりなんですよー」

弟「山に? じゃあ亡くなったわけじゃないんだ」

見習い「でも崖から落ちたあとがあったらしくてー、多分死んだんだろうって」

弟「……」

見習い「ここの常連さんだったんですよねー」

弟「え」

見習い「一緒に山に入った男の人」

見習いちゃんは話し続ける
こんな話はさせちゃいけない、それは判ってた
でも俺は止められなかった

見習いちゃんのお母さんの話が
女将さんの話が聞きたかった


見習い「お母さんって男の人を惹きつけるような魅力があったんですよー」

見習い「だからその頃はお母さん目当てのお客さんが多くて」

見習い「その人もそうだったんですけどー」

見習いちゃんが話してくれたことによると
その男、常連の客はいわゆるストーカーだったようだ

泊まりに来ては女将さんに付きまとい
セクハラまがいの行動を繰り返して
ついには女将さんを部屋に呼び出して押し倒した

これにはお客さんだからとずっと堪えていた女将さんにも我慢の限界が来て
以後宿泊お断りの通告を受けることに

これでその男がキレてしまう

ある日の夕方、
一人で出かけた女将さんを脅迫して車に押し込み山へ逃げた
だがその山はどこにも抜けない行き止まりの山で
そして二人はそれきり行方不明

車は中腹辺りの道が途切れるところで乗り捨ててあって
その近くの崖に何かが落ちた形跡があったらしい

見習い「みんな探してくれたんですけどねー、見つからなくて」

弟「……」

見習い「それで一年後にお葬式出したんですよー」

見習い「そこから私の女将修行が始まっちゃって……はぁー」

見習い「もう参っちゃいましたよー、お母さんどこかで生きててくれないかなーあはははー」

あっけらかんと見習いちゃんは笑ったけど

もちろん俺は笑えるはずもなかった

じゃあ昨日のあの女将さんは……
あれは……

弟「ねえ、見習いちゃん……」

俺は思わず声を掛けた

見習い「はいー?」

弟「もし……」

見習い「なんですかー?」

きょとんとした表情の見習いちゃん

弟「もし俺が……」

昨日の夜お母さんにあったって言ったら、どうする?
と訊きかけて

やめた

この子に今さらそんなこと

弟「あ、いや……」


見習い「もし付き合ってくれっていうんならーっ」

弟「えっ」

見習い「おーけーですよーっ」

弟「え? いやいや違うよ、そうじゃなくてね」

見習い「えー、違うんですかー、期待させといてひどいですよー」

弟「え、あ……なんかごめん」

見習い「もー、せっかく奥の手の着物姿で落としてやろうと思ったのにー」

見習い「これ似あってませんでしたかー?」

弟「いやそんなことないよ」

そう
薄化粧で髪を結った着物姿の見習いちゃんは
見違えるほど大人びて

弟「とても……似合ってる」

見習い「ほんとですかー?」

弟「うん、本当に。 すごく綺麗だ」

見習い「えへっ、えへへー、 なら許す」

見習い「やったー、綺麗って言ってもらっちゃったー」

見習い「えへへへー」

そうだよな
嬉しそうに笑ってる見習いちゃんを見て思う

やっぱり言わなくていいや

昨夜いなくなった女将さんに会ったとか、話したとか
オッパイ揉んで部屋に誘われたとか

そんなこと言わなくていい
いや言えないだろ
お母さんに誘惑されて欲情しましたとかさ

やっぱり女将さんは山で死んでるんだろう
それでもここに帰って来ていて
きっとこの子を見守っているんだ

悪いことが起きてないんなら
それでいいじゃないか

でも気になったこともあった
それは女将さんの言ってた、山の魔物のこと

少し考えて俺は見習いちゃんに尋ねることにした

弟「ねえ山の魔物って知ってる?」

見習い「あれ? それも誰かに聞いたんですかー?」

見習い「それはここの人ならみんな知ってますけどー?」

弟「いや帰りに山歩くからちょっと怖いなって」

これは口からでまかせ
見習いちゃん、ごめんね

見習い「それなら大丈夫ですよー、山の魔物に出会うのはねー」

見習い「他人の命を奪ったことのある人だけなんですよー」

弟「え?」

見習い「もともと山の魔物は山で殺された人が化けたものなんですよー」

弟「そう……なの?」

見習い「はいー、だから人を殺したことのある人にしか手を出せないって事になってますー」

見習い「だからお客さんは大丈夫ですよー」

弟「……」

見習い「どっちにしても迷信ですからねー気にしなくてもいいですよー あははー」

弟「うん……そうだね」

一瞬
何かを思い出したような気がした……

……

女将さんは山で死んだ
男が車で逃げ込んだ
どこにも抜けない行き止まりの山

そこはもしかすると 【忌み山】 だったのかもしれない
山の魔物が出るという 【忌み山】

その山で殺された女将さんは
山の魔物になったしまったのか……

そして俺は女将さんに出会った


 『山の魔物に出会うのはねー』
 『他人の命を奪ったことのある人だけなんですよー』

……

ははは
まさかな

やっぱり迷信だ

何も思い出しちゃいない、気のせいだ

弟「ええと……」

ズキン!
弾けるように頭の奥に痛みが走った

弟「う……」



見習い「お客さん?」

弟「……」

見習い「おきゃ……弟さーん!」

とんとん、と肩を叩かれて我に返る
……あれ?

弟「……へ?」

見習いちゃんがすぐ横に立っていた

見習い「どうしたんですかー? 急に固まっちゃってー」

弟「え? そうだった?」

見習い「なんですかー? さっきからおかしいですよー」

弟「いや、今一瞬頭痛が」

見習い「えー、弟さん熱でもあるんじゃないですかー?」

見習いちゃんはそう言うと俺の額に手を当てた
ぐっと身体を寄せて、顔も近づけてくる

弟「い、いや大丈夫だから」

俺は慌てて身体を離した

見習い「そうですか?」

どこか残念そうに見える見習いちゃん
なんかこういうところは昨夜の女将さんそっくりだ

見習い「お薬ありますよー?」

弟「ありがとう、でもなんともないからさ」

それは強がりではなくて
頭痛は本当に一瞬だけだった

弟「きっと寝不足のせいだよ」

見習い「寝不足ですかー?」

弟「そうだと思う」

見習い「寝不足になるほど頑張ったんですねー」

弟「うん……って! 何をだよっ!」

見習い「えー私に言わせるんですかー?」

弟「い、いや言わなくていいっ、言わなくていいからっ」

見習い「ですよねー、私に言わせたらセクハラになっちゃいますもんねー」

弟「……」

返答に困った
言葉で絡めて攻めてくる感じも女将さん譲りだ
ああ、この子も男を惑わすような女になるんだろうか

よしここは撤退だ
俺はわざとらしく時計を確かめる仕草をした

弟「あ、そろそろ戻らなきゃ」

見習い「えーもうお帰りですかー?」

弟「うん、そうするよ」

見習い「そうですかー、じゃあおにぎり持っていきますから玄関で待っていてくださいねー」

弟「わかった、じゃあ待ってるから」

見習い「はいー」


俺は見習いちゃんの部屋を出た
縁側を通り階段を上がる

あまり待たせるとまた姉貴の機嫌が悪くなる
そう思うと自然と足早になった


でもさっきのあれは……
頭の中がスパークしたような感じ

あれは何だったんだろう……

廊下からロビーへ出てフロントに向かう
しかしすでに受付カウンターに姉の姿はなく
ありゃりゃ、と慌てて辺りを探すと、売店にその姿を見つけた

弟「ここにいたのか、姉貴」

姉「ふん」

姉は少しふくれっ面だった

姉「すぐどっか行っちまうんだから」

弟「ごめん、バス乗るまでにトイレ行っとかなきゃと思って」

姉「そうか、なら仕方ないな」

俺はまた小さな嘘をついた
姉に嘘をつくのってなんか嫌な気分だ

後ろめたい気分
その嫌な気分を振り払いたくて俺は言った

弟「そうだ、お詫びになんか買ってやるよ」

姉「おっ、マジで?」

弟「うん」

姉「やたっ、じゃあダイヤの指輪」

弟「いや……ここに売ってるもので、お願いします」

姉「なーんだ、ちぇっ」

弟「ちぇっ、って言われても……」

姉「あー残念」

姉は楽しくてたまらないといった表情でニヤニヤしている
俺をからかうのが本当に大好きらしい

姉「これにするーっ」

あれこれと悩んだ挙句に姉が選んだのは

弟「湯呑み? そんなの今使ってるのがあるだろ」

姉「いいんだよ、記念なんだから。 ほらこの近くの窯で焼いてるみたいだし、このデザイン可愛い」

弟「まあいいけど、えっといくらかな……うわ、五千円?」

弟「湯呑みひとつで五千円って……」

姉「いや、それ隣りのと大小ペアになってるから」

弟「えっ、ペア?」

なるほど、同じデザインの色違いが大小並んでいる

姉「ほら夫婦湯呑って書いてあるだろ」

弟「……夫婦?」

姉「だめ?……なら、他のにするけどさ……」

弟「いやっ、いやいや」

喜んでお買い上げ
させていただきました

姉「うひひひ」

姉が嬉しそうに笑っている
手には湯呑みの箱が入った袋

弟「それ俺が持とうか?」

姉「いいよ私が持つから、あんた落として割るかもしれないし」

弟「信用ないなあ、でも大丈夫か?」

姉「じゃあこっちを持たせてやろう」

そう言って差し出されたたショルダーバッグを
俺は受け取った

弟「はいはい、喜んで」

姉「うひひひ」

姉がまた嬉しそうに笑った

姉「よーし、これでもう思い残すことはないな」

弟「え」

姉「さあ出発しようか」

弟「あ、でも……ちょっと待って」

見習いちゃんがまだ来ない

姉「ん? どうした?」

弟「帰りにおにぎり持たせてくれるらしいんだけど」

姉「え、そんなサービスあったっけ?」

弟「バスの中でお腹すくだろうからって言って」

姉「誰が?」

弟「えっ」

言葉に詰まった
見習いちゃんの好意、と言っていいのか
それともただのサービスと誤魔化した方がいいのか

やっぱり好意なんて言わない方がいいよな
どこで何を話したなんてことも説明しなきゃいけなくなるし

でも……それって
また嘘、だよな

俺はまた姉貴に嘘をつくのか?

弟「それは……」

姉「まあいいや」

しかし俺が返事をする前に姉はあっさりと

姉「それじゃあここで待ってよう」

そう言ってん玄関先の椅子に腰を下ろした

姉「ほら、あんたも座れ」

言われて俺も隣の椅子に黙って座る
もしかして今俺は凄く情けない顔をしているのかもしれない
そう思うと恥ずかしくて姉の顔を見られなかった

弟「……」

黙ってうつむく俺
そんな俺を見て姉がふふふっと笑って言った
柔らかく、優しく

姉「ばーか」

胸がキュンとなった
そして改めて思った

俺はこの人が大好きなんだと

なんだよ
なんで今さらドキドキしてんのかな俺

弟「ああそういえばさ」

照れ隠しに話しかける
さも今思いついたかのように
本当はそうじゃないんだけど

弟「さっき売店でもう思い残すことはないって言ってたけど」

姉「うん」

弟「結局友達の経験した不思議な出来事の謎って判らなかったよな」

姉「ああ、あれな。 あれはいいんだ」

弟「いい?」

姉「あれはもう判ってるから」

弟「え?」

弟「……どういうことだ?」

姉「初めから無かったんだよ、不思議な出来事なんて」

弟「作り話だったっていうことかよ」

姉「いやそれは違う、あれは事実だ。 私の友達が本当に体験した話だ」

弟「でも不思議な出来事なんか無かったって」

姉「不思議に感じた事でも原因が判れば不思議じゃなくなる、だろ?」

弟「そうか、つまり姉貴はそれを最初から」

姉「うん、知ってたんだよ」

弟「知ってた? じゃあなんで不思議な事なんて言ったんだよ」

姉「まあそれは……口実だな」

弟「口実? 何の?」

姉「あんたと二人で旅行するためのだよ、決まってるだろが」

弟「なんだよ、わざわざそんなことしなくても」

姉「しなくてもなんだ? 二人で温泉行こうって誘っただけでホイホイついて来たか?」

弟「それは……逃げたかもしれない」

姉「ほらみろ、そういう事のなるだろ? だから口実が必要だったんだよ」

ああそうか
姉貴のためだけでなく、俺のための口実でもあったんだ
俺が自分を誤魔化すための口実

これがあったから仕方ないなあと
姉貴のお供をさせられるフリが出来た

姉「それに普通に誘って、嫌だとかバッサリ断られたらと思うと怖くて……」

弟「……」

姉「だからこの口実付けて、軽く誘ったんだぞー みたいな風にしたら」

姉「そうすれば正面から木っ端微塵にされるよりもショックが少ないかなあって思ったんだ」

弟「なにそれ、ははっ」

姉「なんだよう」

弟「いや、姉貴にもそんなところがあったんだなって思って」

姉「ばか」

姉が拗ねたような目で睨んで言う

姉「私がどれだけの覚悟で誘ったんだと思ってるんだ」

それからプイと横を向く
その仕草は少女のようでとても可愛かった

俺はその横顔に向かって言った

弟「ありがとう」

心からの感謝の言葉だった

姉「え、いや……わ、わかればいいんだけどな」

姉「だ、だいたいあんたは、素直じゃないからいつも私が……」

姉が何故かあたふたしている
なんか面白いからもう一度言ってみた

弟「ありがとう」

姉「あ、うっ……な、何回も言わなくていいっ」

弟「ん? どうしたの顔赤いよ?」

姉「う、うるさいっ」

姉が両手で顔を隠した

うん可愛い
俺の姉貴可愛い

思わず抱きしめたくなるくらいに

いや俺がその気になれば実際に姉を抱きしめることが出来るんだよな
その柔らかい身体を、拒まれること無く
そういう関係に、俺達はなったんだ
改めて考えるとこれって……

なんて、あ……いやいや待て待て
今はそんな感慨に耽ってるよりも聞かなきゃいけないことがあるだろ
そうだ、それを聞いとかなきゃ

俺はもう少し可愛い姉貴を見ていたい気持ちを振り切って話しかけた


弟「で、さ」

姉「な、なんだよ?」

弟「知ってたんなら教えてくれよ、大浴場の謎の答え」

姉「ん?……ああ、やっぱり知りたい?」

弟「そりゃあな。 姉貴はその答えが判ったってことか?」

姉「いや違う。 判ったんじゃなくて、知ってたって言ったろ?」

弟「うん」

姉「答えも全部聞いてただんよ、友達から」

弟「え? と言うことは友達が謎を突き止めたってこと?」

姉「突き止めたっていうか……次の日に犯人が出てきちゃったから、そりゃ判るよな」

弟「犯人? 足音だけで消えた人が?」

姉「そう、自分からあっさり出てきた」

弟「……」

弟「その犯人って……人間?」

姉「は? 当たり前だろ?」

弟「そ、そうか……そうだよな」

弟「いやあ、俺の思い付いた説以外だったら、そんなのしか考えられなかったから」

山の魔物かと思ったとか
姉には言えなかった

姉「まあそうかもしれないな、ひとつ伝えなかったことがあるから」

弟「伝えなかったこと?」

姉「ああ、わざとな」

弟「と言うことはそれを聞いたら俺にも答えが判るのか」

姉「あんたなら判るかもな。 変な事だけ鋭いとこあるし」

弟「変な事だけかよ」

姉「そうだろ? じゃああんた私の気持ちに気付いてたか?」

弟「……いやそれは」

姉「ほれほれ」

弟「それを言うなら姉貴だって同じだろ、俺の気持ちに」

姉「あ、あんたはそういうの隠してたじゃないか」

姉「私はずっと好き好きオーラ出してたぞ」

弟「そういう事するから余計判らないんだよっ」

姉「なんだとっ」

弟「てっきりふざけてるのかと思ってた」

姉「じゃあなにか? ツンケンしてた方が判ったって言うのか?」

弟「いやツンケンされても」

姉「普通にしてたら判ったのか?」

弟「ん……いや」

姉「そらみろ、この鈍感野郎が」

弟「うう」

姉「と言うことで、あんたは私に謝れ」

弟「ええっ? なんで?」

姉「その鈍感さのおかげで私がどれだけ胸を痛めてきたことか。 謝れ」

弟「胸を痛めてって……そんな風には見えなかったけど」

姉「痛めたんだよ。 あんたに冷たくされる度、夜に部屋でシクシク泣いてたんだよっ」

弟「いやいくらなんでもそれは嘘くさいよ」

姉「ん? そうか?」

弟「うん」

姉「まあでも落ち込んだのは本当だ」

弟「えー、俺そんな落ち込むようなことなんてした覚えないぞ」

姉「チューしろって言ってもしなかっただろ」

弟「……それは普通しないって」

姉「ふざけるなっ、とか大きい声出すし」

弟「だからからかわれてると思ったからだよ」

姉「怖い顔になるし」

弟「そ、それは怖い顔じゃなくて、顔が強張ってたんだと、思う」

姉「なんで?」

弟「抑えてたんだよ、本当にキスしちゃいそうになるのを」

姉「したけりゃすればよかったのに」

弟「本気だと思わないだろ、姉弟なんだし」

姉「姉弟だろうがなんだろうが私はずっと本気だったぞ?」

弟「でも……」

姉「ん?」

弟「判ったよ。 謝るよ」

姉「よし謝れ、鈍感」

弟「うう、何でこうなるかな……」

姉「ほらほら」

弟「……ごめん、鈍感で悪かった」

姉「んふふ、そうか。 でもそれじゃだめ」

弟「え?」

姉「『お姉ちゃんごめんなさい』 って言え」

弟「えーなんだよそれ」

姉「言え」

弟「う……お姉ちゃん、ごめんなさい」

くそ、何言わせるんだよ

姉「あはっ」

姉は凄く楽しげに笑って

姉「そうかそうか、よしよし」

よしよしと嬉しそうに
俺の頭を撫でた

なんだよこれは
なんかしてやられた気がして悔しい

姉「これからはちゃんとするんだぞ」

弟「……」

姉「返事は?」

弟「……判ってるよ」

姉「本当に判ってる?」

弟「判ってるって」

姉「でもさっきもしてくれなかったよな」

弟「だからあれは……」

あ、またそれを蒸し返すのかよ
その話はさっき終わったじゃないか

ええい、もう
こうなったら

弟「姉貴」

姉「え?……あんっ」

むちゅっ!

いきなり軽くキスしたやった

ははっ
なんだそのビックリした顔は

姉「んなっ? ななな、なにをーっ」

弟「キスだけど? して欲しかったんだろ?」

姉「ぼ、暴走するから出来ないんじゃなかったのかよ……」

弟「こんなとこで暴走するはずないだろ」

姉「な、なんだよ……いきなりは……ずるい」

姉の顔がまた真っ赤に染まっている

ははっ
ざまみろってんだ

しかしなんだよその恥ずかしがり様は
頭から湯気が出そうだぞ

ま、たまにはこういうのもいいだろ
いつも俺が攻められる側だったからな

と、そこで気が付いた

あれ?
もしかして姉貴って攻められると弱いんじゃね?

むむむ……

ニヤリ


……って
いけね
また話が逸れてるじゃねえか

弟「姉貴」

姉「な、なんだよぉ……」

弟「そんなことよりさ」

姉「いきなりキスしといて、そんなことって言うなあ」

弟「いや、謎の答えってやつを教え……」

姉「やだ」

弟「えっ?」

姉「いじわるしたから教えない」

弟「えー」

弟「それはないだろ」

姉「ふん」

弟「姉貴って」

姉「謝れ」

弟「え?」

姉「さっきみたいに謝れ。 そしたら教えてやる」

弟「さっきみたいって……さっきのあれか?」

姉「そうだ」

弟「あーもう、またかよ」

姉「別に嫌ならいいぞ、教えないから」

弟「いや謝る、謝るから」

姉「じゃあほら」

弟「うー」

姉「ほら」

弟「……お姉ちゃん」

姉「はい」

弟「ごめんなさい」

姉「ぷぷっ、可愛いー」

弟「くっ」

弟「これでいいだろ? 早く教えてくれよ」

姉「んくっ……うぷぷぷぷっ」

弟「そんなに笑うなよ」

姉「ぷぷぷっ」

弟「あのなあ、いい加減に」

姉「うん分かった、分かったから。 教えるから」

弟「そうか。 で?」

姉「じゃあヒント教える」

弟「ヒントかよっ」

姉「ただ答えを訊くんじゃつまらんだろうし、これを聞けばあんたなら判るって言っただろ」

弟「伝えなかったことっていうやつか?」

姉「そうだ」

弟「もし判らなかったら教えてくれるんだろうな?」

姉「その時は、お姉ちゃんお願いしますって言えば教えてやるよ」

弟「……言わねえよ」

姉「今言っても教えてやるけど?」

弟「いいよもう、ヒントくれ」

姉「なんだよー」

弟「いいから早く」

姉「お姉ちゃん寂しー」

弟「姉貴」

姉「はいはい」

姉「じゃヒント」

姉「この話に出てくるのは、私の友達と、その彼氏と、足音の犯人」

弟「うん」

姉「この彼氏と犯人、実はこの二人は顔見知りだったんだ」

弟「え……」

姉「ヒント終わり」

弟「えーと」

姉「どうだ?」

弟「ん……ちょっと考える」


ええっと……

……

ああそうか
そういうことなら幾つか説が考えられるな……

んんー?


ん? いやそれは違う

知ってたか知らなかったか……

だよな

どっちだ?

弟「なあ、一つ質問いいか?」

姉「質問によるけど、まあ言ってみろ」

弟「ドッキリ、じゃないよな?」

姉「それは違う」

弟「じゃあその友達と彼氏は今も付き合ってるの?」

姉「質問は一つだったんじゃないのか?」

弟「あ、そうか」

姉「でも判ったみたいだな」

弟「うん、何となくだけど」

弟「消えた謎に関してはすぐに解けたよ」

姉「そうか、まあ言ってみろよ」

弟「犯人が消えた様に見えたのは……」

弟「彼氏が嘘をついていたから、だろ?」

姉「つまり?」

弟「やっぱり犯人は脱衣場から廊下へ逃げた」

弟「着替える時間がなかったって話だから、きっとバスタオルでも身体に巻いて」

弟「そこで廊下で友達を待っていた彼氏と出くわしたんだ」

弟「ドッキリじゃないってことは、犯人と彼氏はグルじゃないんだよな?」

姉「ああそうだ」

弟「だとしたら彼氏は驚いたろうな、知ってる女が裸同然で飛び出してきたんだから」

姉「……」

弟「そして彼氏は犯人を隠れさせた」

姉「どこに?」

弟「隣の男風呂だろうな」

弟「俺も昨日あそこで姉貴を待ってたから判る。 あの時間じゃ他に誰もいなかっただろうし」

姉「うん」

弟「後から出てきた友達には、『誰も出て来なかった』 と、知らん顔で嘘をついた」

弟「と、これでどう?」

姉「うん、正解だ。 それで合ってる」

弟「おお、やった」

姉「まあそれはヒントで簡単に判ることだしな」

弟「そりゃそうだけどさ」

姉「じゃあ何で彼氏は犯人を隠したんだ? そこの説明飛ばしただろ」

弟「うん、それなんだよなあ……」

弟「偶然同じ日に泊まりに来てたってもの無理があるし」

弟「普通に考えたら何かの理由で彼氏をつけてた? いや見張ってたのかな?」

姉「何かの理由って?」

弟「そんなことをするくらいだから、やっぱり恋愛感情とか」

弟「恨みがあったとか……いや後のことを考えるとそれはないか」

姉「……」

弟「やっぱり恋愛絡みだよな?」

姉「さあ」

弟「さあ、って」

姉「まあ続けりゃいいよ」

弟「じゃあ恋愛絡みとしてだ」

姉「ふふっ……」

弟「考えられるのは……」

弟「浮気相手、前に付き合ってた彼女、片想いのストーカー……くらいなんだけど」

弟「ここからが絞れないんだなあ」

弟「なあ、ヒントくれよ」

姉「もう少し絞ったらやるよ」

弟「うーん」

弟「うーん……ん?」

弟「ああそうか、彼氏が隠れさせたっていうことは」

弟「友達にバレたら都合が悪い相手ってことだ」

姉「ほう……」

弟「それに当てはまるのは、浮気相手と元カノ」

弟「ストーカーなら彼女にバレたって構わない、そんなの隠したら話がややこしくなっちまう」

弟「その場合二人でストーカー退治した方がいいに決まってる」

姉「……」

弟「ということで、片想いのストーカーが消える」

姉「なるほど」

弟「あっ」

姉「ん?」

弟「元カノには旅行の日程とか宿泊先とかを知りようがないんじゃ……」

姉「そうとも言い切れんだろうけど、難しいのは確かだな」

弟「じゃあこれで元カノも消しで犯人は浮気相手」

弟「これでどうだ?」

姉「うん……じゃあヒントをやろう」

弟「え?」

姉「いいか? ヒント、彼氏は割と硬い男でな、浮気なんかしてなかった」

弟「え」

姉「それと、彼氏にとって私の友達が初めての彼女だ」

弟「それはつまり……彼氏には浮気相手も元カノも」

弟「存在しないってことじゃないか」

姉「そうなるな」

弟「マジかよ……」

姉「ヒント終わり」

弟「ええー? それじゃやっぱりストーカーってことになるのか?」

弟「いやでも、それはどう考えてもおかしいだろ……」

弟「彼女からストーカーを匿うとか、そんなこと」

姉「本当にそうか?」

弟「え?」

姉「その犯人が彼氏にとって大切な存在だったとしたら?」

弟「でも彼女を騙してまで……」

姉「彼女でも恋人でもないけど……」

姉「そうしてまで守らなきゃいけなかった存在」

弟「守らなきゃいけなかった……?」

姉「あんたなら判るんじゃないのか?」

弟「俺なら……?」

彼女でも恋人でもないけど
大切な存在……?

弟「……あ」

姉「判ったか?」

弟「まさか……」

姉「せっかく彼氏がそうしてまで守ったんだけど、その犯人」

姉「次の朝には我慢できなくなって、部屋までやって来て友達にこう言ったそうだ」


姉「お兄ちゃんを返せ、 ってな」

弟「……妹か」

姉「つい言っちゃったけど、そういうことだ」

弟「そうか妹か……」

姉「ははっ、バカだろ、兄妹なのに」

弟「それ、本気で言ってる?」

姉「んなわけ無いだろ……」

弟「……だよな」

弟「好き、だったのかな」

姉「じゃなきゃそんなことしないよ」

弟「ん」


姉「確かに最初にこの話を聞いた時は……」

姉「バカだと思ったよ、とんでも無い事しでかす子もいるもんだなって」

姉「友達には悪いけど笑っちゃったよ。 なんか微笑ましくてさ」

姉「でも、そのあと思ったんだ、もし自分だったらって」

弟「……」

姉「もしあんたが彼女二人で泊まりに行くって知ったとしたら」

姉「そう考えたらさ……」

姉「恥ずかしいけど、気が狂いそうになった」

姉「ははっ、おかしいよな」

姉「いもしないその彼女に自分でもびっくりするくらい嫉妬してたんだ」

弟「姉貴……」

姉「もしそうなってたら、私だって同じようなことしたかもしれない……いや」

姉「きっとしてた。 そう思った」

弟「……」

姉「そうやって考えてたら、妹さんの気持ちや行動が判った気がしたよ」

姉「嫉妬のあまり自分の気持を抑えきれなくなって」

姉「隠れて同じ旅館に泊まって、ずっと兄さんを見ていたんだろう」

姉「それをストーカーと言われれば確かにそうだよ」


姉「深夜に風呂に入ってたのも、きっと眠れなかったんだろうと思う」

姉「大好きな兄さんが今他の女と部屋で、なんて思ったら眠れるわけんてないよ……」

姉「だからきっとやりきれない気持ちで露天風呂に入ってたんだ」

弟「……」

姉「誰も来ないと思っていた風呂で、その女を見つけた時は驚いたろう」

姉「憎い女がすごそこで洗髪しているんだ」

姉「こいつはさっきまで大好きな兄さんと……そんな考えが嫌でも頭に浮かぶ」

姉「思わず殺意が湧いて、足音を潜め背後に」

弟「殺意? それは大げさなんじゃ」

姉「いや本当にはやらないとしても、それくらい激しい感情はあったと思う」

姉「私だったら湯桶で殴ってたかも」

姉「でも彼女はそうしなかった。 怖くなったんだろう、ただその場から逃げた」

弟「……」

姉「廊下で兄さんに出くわしてしまった時は目の前が真っ暗になっただろう」

弟「そうかな? でも兄貴は匿ってくれたじゃないか」

姉「妹、だからな」

姉「どう言い訳すればいい? 妹さんは絶望したろうよ」 

姉「兄さんに自分の恋心を知られてしまう」

弟「そうか……」

姉「兄さんはどう思うだろう?」

姉「兄に恋してる妹なんてどう思われるだろう?」

姉「異常だ。 気持ち悪い」

姉「もう近寄らないでくれ」

姉「きっと嫌われてしまう」

姉「兄さんに嫌われる、そう思ったんだろう」

弟「……」

姉「そして妹さんは自暴自棄になって部屋に乗り込んでしまった」

姉「どうせ嫌われるなら気持ちをぶつけてしまおうと」

弟「……そういうことか」

姉「大きな間違いはないと思う」

弟「だろうな……」

姉「友達には悪いが、私は妹さんの方に同情してしまったんだ」

弟「それは……俺だって」


俺は思い出した
最初に姉から話を聞いた時のこと

姉は自分の体験だと言ってこの話を語った

あの時俺が感じたのは
姉と旅行したという彼氏に対しての激しい嫉妬心
焼けるような胸の痛み

弟「俺だって同じだよ」

姉貴が他の男になんて……

考えるだけで頭に血が上る
身体が熱くなった

いやだっ

弟「姉貴っ」

姉「あっ ちょっ!」

衝動的に姉を抱きしめてキス……
濃厚なキスを

姉「んっ、こ、こら……あ」

しようと

あれ?
なんか視線を感じる……

姉を抱きしめた手を緩め
チラリと横を見た

弟「あっ……」

いつの間にかそこに見習いちゃんが立っていた

弟「わわ」

姉「こ、こら放せ」

慌てる俺の様子からそれに気付いた姉が
俺の手を払いのけて言った

姉「こんなところで……全く非常識だぞ」

なんだよ、この裏切り者
自分だって目を閉じてその気だったくせに

見習い「あ、お邪魔でしたかー?」

弟「あ、いやいやいやいや、何も、何もしてないから」

姉「ゴホン、コホン……」

見習い「気にしないで続けてくれていいんですよー」

弟「いや、ほんとに何も」

見習い「うふふー、お二人とも赤くなってますー」

弟「そ、そんなことより、ど、どうしたの?」

見習い「いやだなー何言ってるんですかーこれですよー」

見習いちゃんはそう言うと
手に下げていた包みを差し出した

見習い「はい、お持ち帰りのおにぎりですー」

弟「あ」

見習い「これを待っててくれたんじゃないんですかー?」

弟「そうだ、そうだった……ありがとう」

見習い「はい、お姉さんもどうぞ」

姉「あ、すまない、ありがとう」

見習い「いえいえー」

姉「あれ? その着物は……」

見習いちゃんの着物姿に今更ながら気付いた姉が不思議そうな顔をした

見習い「えへへーこれですかー?」

見習い「弟さんは似合うって言って下さいましたよー」

姉「へ、へえ、そうか……うん、私も似合ってると思うよ」

姉は見習いちゃんにそう答え
それからジロリと俺の方を見た

姉「弟、さん……?」

弟「あ」

え? 
見習いちゃん、俺のこといつのまに名前で呼んでたっけ……?

姉「ははっ、やるなあ弟さんは」

弟「あうっ」

見習いちゃんから見えないところを思いっきり抓られた

弟「ったぁ……」

痛みに思わず飛び上がる

見習い「? どうしたんですかー?」

姉「気にしなくていい、こいつはたまにおかしくなる」

見習い「えー?」

姉「気持ちの悪い奴だからあまり近づいてはいけないよ」

弟「ひ、ひでえ」

見習い「うふふーヤキモチですねー、お姉さん」

姉「なっ」

見習い「ほんとにラブラブですねー」

姉「そ、そんな事は……」

見習い「ないんですかー?」

姉「あ、ああ」

見習い「じゃあ私、弟さんにお付き合いしてもらっちゃおうかなー?」

弟「え?」

見習い「ねー、弟さんー」

姉「いやっ!それは……だめ」

見習い「えー、どうしてですかー?」

姉「らっ……らぶらぶ……だから」

見習い「それじゃ愛し合ってるんですねー?」

姉「も、もちろん」

見習い「もう男女の関係なんですねー?」

姉「そうだ」

見習い「初めては何時ですー?」

姉「それは……今朝」

弟「おいおいっ、なに言ってんだよ」

姉「え?……ああっ」

弟「恥ずかしいだろが」

姉「いや、つい……」

見習い「うふふー」

見習い「それでよく姉弟だなんて言えましたねー」

弟「あ……いや、それはね」

見習い「うらやましいなー、私も弟さんみたいな彼氏が欲しいなー」

姉「見つければいいだろ、同じようなの。 あんた可愛いんだし、ていうか」

姉「こいつより良いのなんかいっぱいいるから」

弟「……悪かったな」

見習い「じゃあお姉さんがもっと良い方を見つけてー」

姉「だめ。 私はこいつじゃないとだめなんだ」

見習い「でも私も弟さんがいいんですけどー」

姉「だめったら、だめ」

見習い「仕方ないですねー、じゃあ飽きたらでいいから譲って下さいよー」

弟「おいおい、そんなオモチャみたいに……」

姉「飽きない。 絶対に飽きないから」

見習い「でも弟さんの方が飽きちゃうってこともー」

姉「え……?」

弟「え?」

姉「え? あんた、まさか……」

弟「いやいや、あのな」

姉「私に……飽きちゃうのか……?」

弟「だから冗談に乗せられてるんじゃないって」

姉「え、冗談……なのか?」

弟「そんなの決まってるだろ」

姉「そ、そっか」

弟「もう見習いちゃんも冗談はいい加減にして、ね?」

見習い「えー、冗談ってことになっちゃうんですかー」

弟「あのね」

見習い「子供産めなくてもいいから、そばにおいてくれるだけでいいんですけどねー」

姉「こ、子供……」

弟「だから意味不明なこと言わないでっ」

見習い「あきらめませんよー」

弟「何をだよっ」

参った
すっかり見習いちゃんのペースになってしまった
姉貴なんかさっきから俺の腕を握って離さない

いや俺はオモチャじゃないから
盗られたりしないから

見習い「いつかきっと……あーっ」

弟「ん? なに?」

見習い「それ可愛いですー」

弟「ああこれ?」

見習い「あ、お姉さんにも。 それお揃いなんですねー」

見習いちゃん言ってるそれってのは、例のストラップのこと
姉のおみやげの猫が月にしがみついてる変なストラップ
俺がリュックに、姉はショルダーバッグに付けてる

弟「うん、ちょっと恥ずかしいんだけど」

姉「なんだと」

見習い「へえ、これって縁結びのお呪いがしてありますねー」

弟「え? そうなの?」

姉「あ、うん……まあそうだ。 よく判ったな」

姉が俺の横から言う
腕はまだ離さないままだ

見習い「それくらい判りますよー」

見習い「匂いがしますからねー」

弟「匂い?」

俺はストラップの匂いを嗅いでみた
うん
全然わからない

弟「匂いなんかしないよ?」

見習い「するわけないですよー」

弟「な、なんだよそれ」

見習い「うふふー」

うーん、何だ?
このわけがわからない会話は

見習い「それじゃあー」

でもそんなことはお構いなし
相変わらず見習いちゃんはマイペースだ

見習い「お二人とも猫はお好きなんですかー?」

弟「猫? 俺は好きだよ」

姉「私も猫は好きだ」

見習い「飼ったことはー?」

弟「いや、それはないんだ」

姉「飼ってみたいとは思ってるんだけど、縁がなくて」

弟「それに死んだら可哀想だしなあ」

見習い「なるほどねー、んふふー」

弟「そういえば今朝庭で三毛猫見かけたけど、ここの……」

 「まあまあ、お客さんったら!」

受付カウンターの方から声がした
見ると仲居さんが奥から顔を出していた

弟「ああ仲居さん」

仲居「お帰りになられるんなら、一言お声をお掛け下されば」

言いながら仲居さんはこちらへ近づいてくる

仲居「お見送りなしで帰られるなんて寂しいですよ」

弟「あ、すいません。 でも見送りは見習いちゃんが……」

仲居「え? 誰ですって?」

弟「だから見習い……さんが」

仲居「見習いさん?」

弟「そうです……ねえ」

そう言って俺は見習いちゃんの方を振り返った

弟「あれ?」

しかしそこに見習いちゃんの姿はなかった

弟「あれ? 姉貴、見習いちゃんは?」

姉「いや……今までそこにいたんだけど……」

仲居「どうしたんですか? お客さん」

弟「いや……今ここに見習いちゃんがいたんだけど」

仲居「だからその見習いって誰なんです?」

姉「えっ?」

弟「ここの女将さん見習いをしてる……」

仲居「何のことを仰ってるかはよく判らないんですけど」


仲居「うちにはそんな人いませんですよ?」

更新が不定期で申し訳ないです

ハッピーエンドかバッドエンドかで迷ってしまってます

弟「へ? でも女将さんの……」

仲居「女将?」

弟「はあ」

仲居「いやあお恥ずかしい話ですけど、この旅館には女将がおりませんのです」

仲居「前の女将が三年前にお亡くなりんさってねえ、後を継ぐ方もおいでにならんもんで」

弟「え……でも娘さんが」

仲居「娘さん? どなたのですか?」

弟「その……亡くなった女将さんの」

仲居「娘さんどころか、女将さんには子供さんはお一人もおいでになりませんでしたけど」

弟「えー?」

弟「あれ? おかしいなあ……」

仲居「お客さんはその話をどこで?」

弟「は?」

仲居「娘さんがいるなんて、どなたにお聞きになったんです?」

弟「ああ、それは」

その娘さん本人に聞いたんですけどね
って言っても無駄なんだろうなあ
そんな気がしたんでテキトーに答えることにした

弟「ここを紹介してもらった人に」

仲居「ああ、それじゃそのお方が勘違いなさったんですねえ」

仲居「女将さんには娘さんはおりませんでしたよ」

仲居「娘のように可愛がっていた猫ならいましたけど」

弟「猫、ですか?」

仲居「はい、そりゃあもう可愛がられて、女将さんは誰にでも自分の娘だって紹介されてました」

仲居「懐っこいもんだから、挨拶するみたいにお客さん方のところを回るんです」

弟「……」

仲居「酔った方にしつこく触られても我慢しておとなしくしてましたよ。 まるで女将さんの真似をするみたいに」

仲居「毛並みの綺麗な三毛ちゃんでしてねえ」

弟「三毛猫……」

弟「三毛猫なら今朝庭で見かけましたよ」

仲居「え? そんなはずは……」

弟「毛繕いしてましたよ」

仲居「じゃああの子戻ってきたのかしら?」

弟「えっ」

仲居「女将さんがいなくなって、すっかり元気が無くなってしまってねえ」

仲居「それでも1年くらいはここにいたんですけど、ある日姿が見えなくなってそれっきりだったんです」

仲居「てっきり女将さんの後を追ったのかと」

弟「でも俺確かに今朝」

仲居「はあ……今頃戻ってきても、もうここも無くなるのにねえ」

弟「無くなる?」

仲居「はいそうなんですよ、今年いっぱいで閉館ということになりました」

姉「閉館……」

弟「それは後を継ぐ人がいないからですか?」

仲居「それもありますけど、やっぱりここまでお客さんが少ないと厳しいみたいです」

仲居「残念ですけど、世の中不景気ですからねえ」

弟「そうですか……」

姉「無くなってしまうのか……また来たかったのに」

姉が寂しそうに呟いた
それは俺だって同じだ
俺達にとってこの旅館は、忘れられない特別な場所になっていたから

そうか、無くなっちまうのか
こんなに寂れてやっていけるのかと思ってたら
やっぱりそういうことになってたんだな

ここで姉と過ごした時間が
よりいっそう貴重なものに思えてくる

弟「……寂しいですね」

仲居「寂しいですよねえ……私も長く勤めさせていただきました」

感傷的になったのか仲居さんも目を伏せたが
でもすぐに気を取り直したのか

仲居「あっすいません。 つい、つまらない話をお聞かせしてしまって」

仲居「さあお見送りさせて頂きますよ」

やけに明るくそう言った


そして俺達は旅館を出て
仲居さんに見送られながら帰途についた
のだった


のだった……
はいいんだけど

迷った
迷ってしまった……のだった

おかしい
来た時は表の道から脇道に入って3分ほどで旅館に着いた
なのに今はもう旅館を出て30分
まだ表の道に出ない

一本道で迷うようもないはずなのに
迷った

少し下りの山道
行けども行けども先が開けない
いやかえって細くなってるんじゃないか?

鬱蒼とした周囲の木が迫ってくるような気がして
なんだか妙な気分だった

初めは気軽に考えていた俺が少し焦りだした時

姉「あーもう疲れた」

姉がついに音を上げた

姉「ちょっと休憩だ」

そう言って脇の四角い石に腰を下ろした
それを見て俺も適当な石を見つけてどっかりと座り込む

姉「なあ」

弟「ん?」

姉「迷ってるよな、これ」

弟「ああ」

姉「何でこんな道で迷うんだ?」

弟「わかんねえよ」

姉「これ一度引き返したほうが」

弟「いいかもな」

姉「じゃあ休憩が終わったら引き返すか」

弟「そうしようか。 それより身体の方は大丈夫か?」

姉「ん?大丈夫だけど 心配してくれてんのか?」

弟「当たり前だろ」

姉「へへっ、おいおい」

弟「な、なんだよ」

姉「嬉しいぞ」

弟「……なんだよ」

ドキッとした

ううーん、なんだこれ
この当たりの柔らかさは
なんか調子狂う

姉「ん? どうした?」

弟「いや、なんか変わったなって思って」

姉「え? 私?」

弟「うん」

姉「そうかな? どこが?」

弟「なんか素直になったっていうか」

弟「その……可愛くなったっていうか」

姉「んなっ?」

姉「ななっ、なに? かっ、可愛い?」

弟「うん」

姉「な、何言い出すんだ、今さら口説いてどうしようって気だよっ?」

弟「いやそんなつもりはないけど……」

姉「じゃ、じゃあなんなんだ? 急に可愛くなったとか……」

弟「急にじゃなくて前からそう思ってたんだけど、今日はまた一段と」

姉「へっ?」

弟「可愛い」

姉「ひゃあ」

弟「え? なにびっくりしてんだ?」

姉「あ、あんたな、姉ちゃんに対して可愛いとか……普通言わないぞっ」

弟「うん、だから今までは言わなかったんだけどな」

姉「だったらこれからも言わなくていいっ」

弟「なんで?」

姉「だから姉ちゃんに可愛いなんておかしいだろっ」

弟「そうか? じゃあなんて言えばいいんだ?」

姉「それは……綺麗とか、美人だとか……」

姉「……好きだ、とか」

弟「綺麗は良くて、可愛いはだめなのか?」

姉「そ、そうだ、だめだっ」

何をそんなあたふたしてるんだか
よく判らん理屈だよな

そりゃ今まで可愛いとか言ったことないけど
耐性無さ過ぎだろ
あれ?そういや押しに弱かったんだよな
もしかしてこれも弱点なのかな?

弟「じゃあ姉貴は綺麗で美人だ」

姉「うん、いいぞ」

弟「好きだ」

姉「お、おう」

弟「可愛い、凄く可愛い」

姉「ひゃあっ、ひゃあ」


うん、これは面白い

こんな下層じゃ気づく人ほとんどいないんじゃね
ageないん?

姉「か、可愛い言うなっ」

弟「いいじゃねえかよ」

姉「ダメったらダメなんだよっ、このバカッ」

弟「何恥ずかしがってんだよ」

姉「ち、違うもん、恥ずかしがってなんかねーしっ」

弟「ははっ」

姉「何笑ってんだよっ。 いいか、今度言ったら罰金だからなっ」

弟「ええーっ、なんでよ」

姉「なんでもだよ、このバカ」

弟「んだよ、口悪いな」

姉「大きなお世話だ、バーカ」

はは、ムキになってら
そんなちょっとふくれっ面の姉貴も可愛かったんだけど
今それを言うとマジで罰金取られそうなんでやめた

しかしまあ口が悪い
なんでこんななんだろう

弟「そういえばさ、前から思ってたんだけどな」

姉「ん?」

弟「姉貴ってなんでそんな男みたいな喋り方なんだ?」

姉「は? あんたがそれを言うか?」

弟「?」

姉「なんだ? 覚えてないのかよ」

弟「何を?」

弟「姉貴は小さい時からそうだろ?」

姉「ああ、そうだよ。 でも一度直そうとしたんだけどな」

弟「え?」

姉「最初はさ、あの人に負けないようにって男言葉使ってたんだ」

姉「でもその必要が無くなって、その時に女らしい話し方に戻そうとしたんだ……」

弟「あ……」


あの人
姉があの人と呼ぶのは、あの鬼
糞野郎

俺達の父親

そうか……
あいつが死んで、あいつから俺を守らなくて良くなったから
女言葉に戻そうとしたってことか

じゃあ……なんで?

弟「じゃあ何でその時戻さなかったんだ?」

姉「だからっ!」

弟「へ?」

姉「頑張って女言葉にしたら、あんたが姉ちゃんみたいじゃないから嫌だって言ったんだろがっ」

弟「ええ? マジ?」

姉「すっかり忘れてやがるな、ったくもう」 

弟「そうだったのか……全然覚えてなかった」

姉「このやろ」

弟「そうか、と言うことは女らしい話し方も出来るんだ」

姉「当たり前じゃないの」

弟「えっ?」

姉「どこでも男言葉で通用するわけじゃないでしょ?」

姉「そうねえ、弟が良いんならずっと女言葉にしようかしら」

弟「うわ……」

姉「あら? どうしたの? おかしな顔して」

弟「姉貴……ごめん…」

姉「何がよ?」

弟「やっぱそれ、気持ちわりい」


姉「ほらみろーっ!」

>>603-605
500番台まで下がっても完結してなかったら一度上げようと思ってますけど
上げても相手にしてもらえないですよ
グダってるしゆっくりしか書けないし
あなた方が見てくれてるだけでいいです

姉「やっぱりそうなるんだろがっ」

弟「いやいきなり『しようかしら』とか言われても、違和感が凄くて」

弟「『しようかな』くらいから始めてもらえば俺も我慢出来ると思うんだけど」

姉「我慢って……えらい言われようだな」

弟「でもやっぱり女らしい話し方にしたかったんだな」

姉「んー、そういうことでもないんだけどな。 この話し方性に合ってるし」

弟「じゃあなんで?」

姉「それは……あれだ」

姉「これからは一緒に出かけたりする機会も増えるだろ?」

弟「ん……ま、そうなるかな」

姉「そんな時にだな、私が男みたいな話し方してたら周りが変に思うだろ」

弟「そう? そんな事思われるかな?」

姉「きっと思われるって。 それに 『何だコイツ変な女連れて』 とかって、あんたが笑われるかもしれない」

弟「えー?」

姉「私はそんなの嫌だからな」

姉「どうせなら『可愛い女連れて』って思われて欲しい」

弟「えっ?」

姉「ん?」

弟「ふうん、姉貴やっぱり可愛いって思われたいんだ」

姉「あっ……」

弟「ああ、そうかそうか」

姉「い、いやっ、今のはその……」

弟「なんだよ、そうならそうと言えばいいのに」

姉「ち、違うっ……口が滑って」

弟「本音が出たの?」

姉「あーっ! 無しっ、今の無し!」

弟「焦ってる姉貴可愛い」

姉「ひゃあっ! うるせっ! 無し無しっ!」

うはは
姉貴真っ赤っ赤でやんの
うんこれは使える、「可愛い」は姉貴には魔法の言葉みたいだ


ちょっとエッチな事考えちゃった

姉「あ……ああっ、そ、そうだ」

ん? なんだ?
風向きが悪くなったから話題変えるつもりだな

姉「そ、そんなことより……」

やっぱりそうだった

姉「あの子、さっきどこに消えたんだろうな」

弟「あ」

そうなんだよなあ……

見習いちゃん

仲居さんはそんな人はいないって言ってたけど

いたよ
昨日部屋に来たし、売店で会ったし
今朝風呂掃除してたし
あの下の階の部屋にも……

それにほら
今ここに作ってくれたおにぎりだってあるし

見習いちゃんは確かにいたんだ

いたんだけど……いないって
どういうことだよ

じゃああれは誰なんだよ?

それじゃ女将さんと同じ……
ああ、そうだ
女将さんだってあの時は確かにいたんだよな
あの時俺は会話したり、触れたり……抱きしめたり、しちまった

変な興奮状態だったけど確かに覚えてる
夢じゃなかった

でもその女将さんは亡くなってって
見習いちゃんは存在自体しなかったって

俺は何を見たんだ?
俺は
……何と会ったんだ

……判らない

判らない?

いや、そうじゃないだろ?
本当は薄々気付いてる

それを認めたくないだけ

でもそれでいいんだ
そうだ認めるな、判らなくていい

深く考えるな
少なくとも今は

でなきゃ
今俺達が置かれているこの状態が

怖くなっちまう

弟「……」

姉「おいっ」

弟「あ……えっ?」

姉「なんだよ黙りこんじまって」

弟「あ、いや……そういやどこに行ったのかなって考えてたんだ」

姉「あの子急にいなくなったもんな、どうしたんだろ?」

姉「それに仲居さんはそんな子いないとか言うしさ、わけわからん」

弟「あっ……あれは仲居さんの冗談だよ」

姉「え? そうなのか?」

弟「そうに決まってる。 いなくなったのだって、きっとトイレにでも行っただけだ」

姉「……そうかなあ」

弟「そうだって」

俺は無理矢理決めつけた
また、また姉に嘘をついちまったけど
今この状態で姉を不安にさせたくなかった
怪しげな話なんか聞かせたくなかった


……なかったんだけど
どうもそういう訳にはいかなくなった

それは姉のこの言葉を聞いちまったから……

姉「そういえばあの子の着物、昨日の夜に会った女の人が着てたのと同じだったけど」

姉「あの女の人は誰だったんだろ?」

弟「……え?」

姉「いやさ、昨日の夜あんたを探して風呂まで行った時にロビーで声掛けられたんだよな」

弟「声を……」

姉「ああ、こんばんはって」

弟「それ、どんな人だった?」

姉「綺麗な女の人だったよ、凄く色っぽい感じの」

ああ……
女将さんだ

弟「それで姉貴……その人と何か、話した?」

姉「何か話したそうだったみたいだけど、私あんたを探して急いでたから挨拶だけで通り過ぎたんだ」

弟「そうか……」

姉「あの人女将さんっぽかったからそう思い込んでたよ」

弟「……」

姉「だからさっきあの子が同じ着物を着てるの見て、女将さんの身内だって思ったんだけど」

姉「でも違ったんだな、女将さんは亡くなったっていうことだし」

……姉貴
姉貴もあの人に会ってたのか……

姉「じゃああの女の人は誰だったんだろ? ってさ」

姉貴、間違っちゃいない
その人は女将さんだよ

三年前に亡くなったっていう女将さんなんだ
俺も会ったんだよ……

でも

でもさ……

俺の頭の中にあの時の見習いちゃんの声が蘇ってくる

 『山の魔物に出会うのはねー』
 『他人の命を奪ったことのある人だけなんですよー』

まさか……
あんなの迷信だったはずだ

俺や姉貴が人の命を奪うとか
そんなこと

そんなことあるはずが……


あ……
なんだ?
今何かを思い出しそうになった

ズキン!

弟「うぅ……」

まただ
また頭の奥に弾けるように痛みが

くそっ、もう少しで思い出しそうに……

ん?
思い出す?
思い出すって……

……

そうか……


そうだ
今日までの長くもない人生で思い出せない部分があった
重大な事件なのに思い出せない、記憶から消えた部分

糞親父がこの世からいなくなった時のこと……

……?!

そうか?
そうなのか?

じゃあ……
じゃあ姉貴も?

ズキン!

頭が……痛い

弟「う……」

姉「おい……どうしたんだ?」

弟「ん……」

姉「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

姉が心配気にこっちを見ている

俺は「大丈夫だ何もない」と、答えようとして……

答えようとしたけど……
その言葉を飲んだ

ほんとにそれでいいのか?
また姉にその時だけの嘘を、誤魔化しを言って
無かったことにして、それでいいのか? 

姉を誤魔化して、自分を誤魔化して

これからもずっとそうするつもりか?
それでやっていけるのか?

無理だ……
続けられるわけがない

自慢じゃないが、俺の心はそんなに強くない
この姉に嘘をついて、それを繰り返しながら笑って暮らすなんて
俺には出来ない

他の奴らなんかどうでもいい
姉にだけは、好きな人に対してだけは
正直でいたい


弟「姉貴」

姉「どした? 気分悪いか?」

弟「いや、そうじゃないんだ……姉貴」

姉「ん?」

弟「実は聞いて欲しいことがあるんだ」

姉「聞いてほしいこと?」

弟「ああ、この旅館に来てから色々あってさ」

姉「……そうか、色々あったか」

弟「うん、あったんだ」

姉「やっと話す気になったんだな」

弟「え?」

姉「判ってたさ、なんか隠してることくらい」

弟「そ、そうなの?」

姉「当たり前だろ? 私はあんたの姉ちゃんだぞ」

姉「今は……恋人だけどな」

弟「え?」

姉「いや……とにかく、私がどれだけあんたのことを見てきたと思ってんだよ」

弟「そうか」

姉「そうだ。 なんでもお見通しなんだからな」

弟「じゃあ何で訊かなかったんだよ」

姉「あんたが言いたくないのを無理矢理聞き出す気にはならなくてな。 それに」

姉「どうせあんたのことだから隠してるのが辛くなって、そのうちぶっちゃけるだろうと思ってたしさ」

弟「……なんだ」

そうかよ
やっぱりお見通しなんだな
さすが姉貴だ

弟「じゃあ話すよ。 奇妙な話なんで信じられないかもしれないけど」

姉「そんな顔してるあんたの言うことだ、どんなことでも信じるさ」

弟「そうか」

姉「ああ」

弟「それとさ、この話の後で姉貴に訊きたいことがあるんだ」

姉「訊きたいこと?」

俺の言葉から何かを感じ取ったのか
姉は真剣な眼差しで俺を見た
俺の目をじっと見つめる

……

そして
ふぅっ、と溜息を付いて言った

姉「わかった」


 * * * * * * *

姉「やっぱりあんたは信用ならないな」

俺の打ち明け話を聞き終わったて
姉が最初に言った言葉がこれだった

弟「ええっ? どんなことでも信じるんじゃないのか?」

姉「そのことを言ってるんじゃないっ」

弟「へ?」

姉「知らない間になんだ? この浮気者っ」

弟「浮気者?」

姉「あの子だけかと思ったら、熟女とまでよろしくやりやがって」

弟「なんだよよろしくって、そういう話じゃないだろっ?」

姉「わかってるけど……なんだかなあ」

あれ? 
女将さんに抱きついたとか、おっぱい揉んだとか、部屋に誘われたとか
俺そんな話は省略したのに

姉「何かあった気がするけどなあ」

勘良すぎだろ、姉貴

弟「いや……会話しただけだし」

姉「あんたさ、隠し事は嫌だから話してるんだろ?」

弟「あ……」

姉「なら全部吐けよ」

弟「う」

姉「なっ?」

弟「……はい」

ああ、俺は一生こいつには敵わないんじゃなだろうか……

結局俺は全てを話した

姉「ふうん抱きしめた、ねえ……」

弟「いや、だから大事なのはそういう話じゃなくて……」

姉「山の魔物?」

弟「そ、そうそう、それ」

姉「私にはあんたの浮気の方が大事なんだけど?」

弟「ええっ? それは妖しい力で惑わされたっていうか、そのおかしくなっちゃってたから」

姉「ふうん、で、部屋に誘われてのこのこ行こうとしたんだ?」

弟「……はい」

姉「行ってどうする気だったんだ?」

弟「え?」

姉「どうする気だったんだ? あの綺麗な女将さんと」

弟「そ、それは……」

弟「だから行かなかったじゃないかっ。 ほら言っただろ?姉貴の顔が浮かんだら正気に戻ったって」

姉「そう、そこだ」

弟「え?」

姉「そこはいいぞ、褒めてやる」

姉「これからは浮気しそうになったら私の顔を思い浮かべるように」

弟「え……」

姉「わかったな?」

弟「は、はい……」

姉「よしっ、じゃあこの話は終わり」

姉が満足そうに頷いた

って……あ、あれ?
なんでこんな話になってんの?

いやいや違うって

弟「終わりって、姉貴?」

姉「山の魔物か……これで判ったよ」

姉「風呂で声を掛けた時にあんたが変にビビってたのも、部屋に戻ってきた時の様子がおかしかったのも」

姉「そのせいだったんだな」

弟「あ……うん」

姉「私までそのバケモノだと思ったのかよ」

弟「それは姉貴がおかしな真似したからだろ」

部屋と風呂の位置関係を利用したトリック
誰が庭を横切って先回りしてるとか思うんだよ
思いついても普通やらないぞ?
あの時冷静さを欠いていた俺には本当に姉が二重に存在しているように思えた

マジでビビった
くそ、なんか思い出すと恥ずかしい

弟「あれで余計混乱したんだろうが」

姉「そうだったっけ?」

弟「そうだよ、その魔物が化けたのかと思っちまって」

姉「そんなものはいないんだよ」

姉がやけに断定的に言った

弟「いない?」

弟「でも現に俺は」

姉「それは騙されたんだよ」

弟「騙された?」

姉「いいか? この話はな女将さん、見習いちゃん、仲居さん」

姉「この三人が嘘付くだけで簡単に成立するんだよ。 その人は死んだ、いないって言うだけでな」

弟「それはそうだけど……」

言われてみればそうだけど
俺にはそうは思えなかったぞ
誰も嘘付いてるようにも思えなかった

姉「不思議な事は何も起こって無いんだ」

弟「でもさっき姉貴はどうしたんだろわけわからんって不思議がってただろ」

姉「あんただってさっき仲居さんの冗談って言ったじゃないか。 それであってるんだよ」

ホントだ、これじゃあさっきと逆だ
さっきは俺が何もないって言い包めようとしてたのに
今は俺の方が姉貴に……

あれ?
なんだかおかしいぞ?

姉「とにかく、山の魔物なんていない」

姉「だからこの話は終わりだ」

一方的に話を終わらせようとするように姉貴は言った

姉貴、まさか……

弟「でも俺は嘘付かれたようには」

姉「でなきゃそれは幽霊だったんだろうよ」

弟「幽霊ならいいのか?」

姉「ああ、山の魔物なんて聞いたことのないようなものいるわけがない」

弟「……」

幽霊なら認めて、山の魔物は認めないのかよ

……

やっぱりそうだ
姉貴は俺が聞きたいことを感づいている

山の魔物が否定されるということは
俺の質問自体の意味がなくなるということだ

そういうことなんだな
姉貴

弟「姉貴……」

姉「よし終わり。 さあそろそろ行くか」

そう言って姉が立ち上がる
俺を見て微笑むが、その表情が少し固い

弟「待てよ、姉貴。 俺の訊きたいことは」

姉「なんだよっ? だから幽霊だって言ってんだろっ……あ」

姉貴の言葉が急に途切れた
こわばった顔、その視線が俺の背後に釘付けになっている

姉「あ……あ……」

弟「な、なんだ?」

俺は姉の視線の先、後ろを振り向いた
そこに人影が

 「いいえ、幽霊では御座いませんよ?」

その人影は紛れもなく

弟「お……女将さん」


女将「もちろん人でも御座いませんが」

姉「おっ、おい、あの人……」

弟「あ、ああ……女将さんだ」

山道を外れたところ、太くてごつごつした幹の樹の側
そこに女将さんは立っていた
ぽってりとしたその唇に、柔らかい笑みを浮かべて

弟「い、いつからそこに……」

女将「ずっと」

弟「ず、ずっと?」

女将「はい、この山は私の山で御座いますから」

弟「え? それってまさか」

女将「そう、ここは忌み山」

陽が陰ったのかあたりが一段と暗くなった
夏なのにやけに涼しい風が吹いて
汗ばんだ肌に寒気が走る

忌み山?
ここが忌み山だと?

俺達はただ表の道へ帰ろうとしただけなのに
そんなところに迷い込むはずがないのに

しかし……
しかし現に俺達は迷っている

弟「なんで……」

女将「私がお招き致しましたからね」

弟「招いた?」

女将「はい」


女将さんがゆっくりと近付いて来ていた

甘い香りが近付いてくる

女将「昨晩は失礼致しました。 私と関われるような」

一歩

女将「お若い方は久しぶりで御座いましたので」

そしてまた一歩

女将「ついはしゃいでしまいまして」

近付いてくる
濃厚な甘い香りが

女将「んふ」

俺の下半身を直撃する

弟「ううっ」

クラクラする
すでに股間がはちきれそうだ

やばい……
このままじゃまた

弟「あっ……うあっ」

強烈な射精衝動
脚の力が抜ける
俺は膝を突いて蹲った

弟「ああっ……」

女将「あらまあ、大丈夫ですか?」

女将さんがさらに俺に近付こうとした、その時

姉「待てっ!」

姉が前に立ちふさがった

姉「弟にそれ以上近寄るな!」

女将さんの足が止まった
それを見て姉が蹲った俺を抱き起こそうとする

姉「おいっ! どうしたっ?! 立てるか?」

姉の身体が密着する
背中に当たる柔らかな胸の感触

ああ、今ここで姉貴を裸にひん剥いて犯したら
どんなに気持ちがいいだろう……
射精したい、姉貴の中に射精したい

いやだめだ
だめだだめだ

弟「だめだ、姉貴……襲っちまいそうだ」

俺は必死の思いで姉貴を突き放した

姉「バカ野郎っ!気をしっかり持てっ!」

バコッ!!

思いっきり殴られた

弟「あがっ!」

殴られた頭がガンガン響く……
なんてごつい手してるんだ
と思ったら、こいつ太い木の枝を手に持ってやがる
あれで殴ったのかよ、容赦無さすぎだろ

弟「つうっ……」

姉「大丈夫か?」

弟「う……そんなもんで殴られて大丈夫なわけ無いだろ」

姉「ん? もう一発食らっとくか?」

弟「い、いやっ!いいって。 もう大丈夫! 正気に戻ったから」

姉「ならいい。 心配させんな」

弟「心配したら殴んのかよ……」

姉「あ?」

弟「いやなんでもない。 ありがと、助かった」

女将「うふふ」

姉「おいっ!近寄るなと言ってるだろっ!」

弟「よせ姉貴、俺が話すから」

姉「いいからお前は下がっとけっ!」

弟「だめだ、俺が」

姉「うるさいっ、また殴んぞ! お前は私が……姉ちゃんが守ってやる」

そう言うと姉は女将さんの方へ一歩近づいた

姉「あなたに用など無いっ! 消えろっ!」

女将「ふふふ……困りましたねえ、すっかり悪者扱い」

女将「でも私はそんなつもりは御座いませんよ?」

姉「なにを? 現に弟が変になっただろがっ」

女将「それは申し訳ございません。 この山では私の影響力も強くなってしまうのです」

女将「弟さんの場合は特に精力がお強いようですので余計に」

姉「弟の精力が強い……?」

女将「はい、それはもう。 閨を共にされてお気付きになりませんでしたか?」

姉「それは……」

女将「ちなみに昨夜は何度ほど?」

姉「え? 昨夜? ええっと……いちにい……」

姉「さん、しい……ご」

弟「こらこらーっ!」

弟「何の話してんだよっ!」

姉「なあ、あんた精力強いのか? 私他は知らないからてっきりあれが普通だと」

弟「いやいや! 今はそんな話してる時じゃないってっ!」

姉「え? あ、そうか」

弟「だから俺が話すって言っただろ。 注意しないと乗せられて何を言わされるか判んないんだよっ」

姉「なるほど……山の魔物恐るべし」

弟「いやそういう訳でもないんだけど……」


女将「うふふ、本当にお仲のよろしいこと」

ふふふ、と笑う女将さん
姉が何か言い返そうとするのを俺は遮った

弟「姉貴、手を」

姉「え?」

弟「手を握っててくれ」

姉「よし」

差し出した俺の手を姉が両手で握った
こうしていれば惑わされないような気がした
何の保証もないけれど


弟「またおかしくなったら殴ってくれ」

姉「わかった」

姉の手に力が込められるのを感じ
俺は深呼吸をして

そして女将さんに話しかけた

弟「お……女将さん」

女将「はい?」

弟「この山へ俺達を招いたっておっしゃいましたけど」

女将「はい」

弟「それはどういうことですか?」

女将「それは……もう一度お話したかったから」

女将「ではいけませんか?」

姉「それならもういいでしょう?」

姉が言った
冷静になったのだろう
口調が年上に対するものに改まっている

姉「さっきも言ったけど私たちはあなたに用はないですから」

姉「もうこれ以上弟を付け回すのはやめて下さい、お願いします」

姉が頭を下げた
その言葉は丁寧だけど
もし俺が言われたとしたら二度と立ち直れないような
そんな冷たい響きがあった

姉「私達はもう帰ります」

でも女将さんはそんな言葉にも動じた様子もなく微笑んでいる

女将「帰る? どうやって?」

姉「え?」

女将「お判りなんですか? あなた方の今のお立場が」

弟「あ……」

女将「この忌み山で私に出会った。 それがどういうことなのか」


女将「お判りなんでしょうか?」

そうだった
今俺達の眼の前にいるのは……

弟「お、俺達……帰れないんですか?」

女将さんはそれには答えず
ただ、うふふと笑っただけだった

どうする?
逃げるか……?

姉「お……おいっ」

その時、姉が俺に身を寄せて言った

姉「道が……」

姉は俺達の背後、来た方向を見ている

弟「え?」

姉「無い」

弟「えっ?」

振り向くと、さっき歩いて来た道は見当たらず
そこにはただ暗い木の繁みがあるだけだった

弟「これは……」

姉「そこの繁みに逃げこむか?」

小声で姉が訊いてくる
少し考えて俺は首を振った

弟「いや、無駄だよ……きっと」

俺達はもうこの山に取り込まれている
この山が女将さんなんだ
嫌でもそう感じさせられた

弟「そんなことをしてもこの山からは出られない」

姉「そうか」

同じように感じていたんだろう
やっぱり、というように姉が頷いた

女将「賢明なご判断をなされましたようで」

うふふ、女将さんが笑う
優しいけれど妖しい笑顔

だめだ逃げられない
覚悟を決めなけりゃ

あらためて女将さんと向き合う

弟「俺達をどうするつもりですか?」

女将「あなた方は用は無いとおっしゃいましたが、私の方には大事な用が御座います」

弟「だったら、俺に用があるなら、俺だけにして下さいっ」

弟「姉貴は、姉貴は帰して下さいっ」

姉「ばっ、馬鹿っ! お前っ!」

姉「ふざけたことっ!」

ぐいっと、姉が俺の胸ぐらを掴んだ

姉「言うなっ!」

弟「でも、姉貴まで」

姉「でももクソもあるかっ! ……おい」

あっ……

姉「おい……お前それ……」

しまった

姉「本気で言ってんのか……」


泣かしちまった

普段は涼し気な姉の眼
その眼が今は俺を睨みつけ
ポロポロと大粒の涙が溢れている

姉貴のこんな泣き顔初めて見た
他の男が姉貴のこんな顔させたら
俺は絶対に許さない、そんな泣き顔

そんな顔を今俺がさせちまってる
なんてこった……

弟「……姉貴」

姉「だまれっ!黙れ黙れっ!」

それでも姉貴は助けたいんだ
なんて言えばいいんだよ

と、そこで女将さんが声をかけてきた

女将「あの、お二人とも何か勘違いなさってるようですが」

弟「え?」

女将「私が用があるのはお姉さんの方で御座いますよ?」

あれ? 俺じゃないの?

何だ、それならそうと早く言ってくれれば……って

え? 

弟「ええーっ?!」

姉「私に?」

女将「はい」

弟「ちょ、ちょっと待って! なんで姉貴に……」

すうっと血の気が引くのを感じる

女将「女性、ですから」

弟「は? 意味判んねえよっ」

つい口調が乱暴になってしまった
そしてさらに問い詰めようと口を開きかける俺を
姉が止めた

姉「引っ込んでろ。 あんたに用は無いそうだ」

弟「だけどさ」

姉「ですよね?」

姉は女将さんに問いかける

女将「はい」

姉「だそうだ。 引っ込んでろ」

俺を見てニヤリと笑いやがった
なんだよ、つい今まで泣いてたくせに

姉「なんならあんただけ助けてくれって頼んでやろうか?」

弟「なっ? お、おいっ!」

姉「そらみろ判ったか、さっきの私の気持ちが」

弟「う……」

姉「心配すんな。 あんたと違ってそんな薄情なこと私は言わないから」

ちくしょう
薄情者にされちまった
でも立場が変わればその通りだった
返す言葉が見つからなかった

弟「ごめん」

それだけしか言えなかった俺の頭を

姉「よしいい子だ」

姉がそう言って撫でた

ちくしょう
子供じゃねえっての

姉「で」

姉が女将さんの方を向いた

慌てて俺は姉の手を握る
この手は絶対に離さない
そんな気持ちを込めて、強く力を込めた

姉「私に何の用が?」

女将「お誘いです」

姉「お誘い? さっき女性だからっておっしゃいましたけど、それと何か関係が?」

女将「山の神は女性というのは御存知ですか?」

姉「それは……聞いたことがあります」

弟「?」

え? そうなの?
俺は知らなかったぞ
でもカッコ悪いから黙って頷いといた

姉「山の神……なんですか?」

女将「まさか、そんな大それたものでは……でも」

女将「山の神だけではなく、山を統べるものの性は全て女なので御座います」

女将「ですからお誘い、いえお願いを」

姉「お願い……」

女将「私に代わってこの山の主になっていただけませんか?」

姉「え?」

弟「え?」

何言ってるんだ女将さん
女将さんに代わってって、それはつまり姉貴に……

姉「それはつまり私に……」

姉「山の魔物になれと?」

女将「はい」

女将「いかがです?」

姉「冗談じゃない。 どうして私が」

女将「あの旅館も今年いっぱいで閉館」

女将「そうなれば私がここにいる理由も、もう無いのです」

女将「それに私も少し疲れてしまいました」

女将「ですから代わっていただける方を探していたのです」

弟「だからって、なんで姉貴を……」

姉「お前は口を出すなっ」

弟「あう」

女将「そこはやはり条件というものが御座いまして、誰でもいいというわけには」

姉「条件? 私にそれが?」

女将「はい、あなた方に」

弟「え、俺も?」

女将「そうで御座いますよ」

弟「じゃあなんで姉貴だけに」

姉「お前は黙ってろって言ってるだろ」

女将「条件、と申しますのは……」

女将「まず、若い男女のつがいであること」

女将「そしてそのつがいの力関係は、女が主で男が従」

女将「正にあなた方のように」

は? 姉貴が主で俺が従だと?
いやまあその通りなんだろうけど
こうしてはっきり言われると、男としては
……なんだかなあ

姉「でもそんなカップルなんかいくらでもいるでしょうに」

女将「はい。 ですから残るもうひとつ条件が、おわかりになりませんか?」

姉「?」

女将「おふたり共こうして私がお話出来る、ということで御座います」

姉「あ……」

女将「ご存知なのでしょう? 私が関わることの出来る人間は……」

弟「っ?!」

姉「もういいっ!」

女将「はい」

弟「姉貴……」

姉「……話は判りました」

姉「だからって私がそんな誘いを受けると思ってるんですか?」

女将「そうですね。でもあなた方にとっても悪いお話ではない、とは思っています」

姉「意味がよくわかりませんが」


女将「あなた方御姉弟、このまま街へ帰って幸せになりますか?」

姉「え?」

女将「過去に、そして今また人の道を踏み外したあなた方が」

女将「普通に暮らしていけると? 普通の幸せを手に入れられると?」

姉「それは」

女将「自分達の素性を隠して、他人の目を気にして生きていくのですか?」

姉「……」

女将「それならば」

女将「もう俗世間のことは捨てて、この山と共に永劫に近い時間を過ごされた方が」

女将「幸せというものではないのですか?」

姉「幸せ……か」

呟いて姉は俯いてしまい
しばらくは黙りこんでいたが
やがて口を開いた

姉「永劫に近い時間を……弟と過ごせるんですか?」

女将「いえ。 山の主となったあなたは、この山が消え去るまでその姿のままですが」

女将「残念ながら弟さんは普通に老化し寿命を迎えます」

姉「そう……ですか」

姉「じゃあ弟は死ぬまでこのままの私と暮らせるんですね?」

女将「はい」

その返事を聞いて、姉が俺の方を見た

姉「ということだそうだ。 どうする?」

弟「え?」

姉「あんたが決めろ」

弟「俺?」

姉「そうだよ、私はそれに従う」

姉がきっぱり言った
まるで従は自分だと言わんばかりに

でもそういうとこが主なんですけどね

姉「街へ帰って苦労するか、このままここにいて二人で楽しく暮らすか」

姉「どっちがいい?」

姉「あんたは歳を取るみたいだけど、ずっとこのままの私とイチャイチャ出来るぞ」

なるほど
この先ずっと若いままの姉貴とイチャイチャできるのか
姉貴のオッパイもお尻も垂れたりせずにあのまま

そりゃいいな
ここで何の苦労も心配もなく、死ぬまでだらだら暮らして
姉貴に看取られて死んでいくって

おおっ
これ最高じゃね?

うん、よし決めた

そして俺は姉貴と女将さんに向かって言った



弟「帰る。 俺バイトがあるから」

姉「そうか、バイトならしょうがないな」

なんでだよっ、とか
突っ込んでくることもなく
あっさりと姉が言った

姉「あんたに老けたとこ見られずに済むと思ったんだけどな」

弟「ふざけんな、俺だけジジイになって堪るかよ」

弟「一緒に歳を取るんだよ、俺と姉貴は」

姉「そうだな」

俺だけ歳食って幸せに死にゃあいいとでも考えたのかもしれんけど
馬鹿じゃねえの?
俺が死んだらその後は姉貴
永劫に近い時間? ずっとひとりぼっちじゃねえか

無理無理
ちょっと俺がいないだけで困った顔になる寂しがり屋のくせに

そんな事させられっかよ

姉「今の聞こえてましたよね」

女将「はい」

姉「残念だけどそういうことですから、ご期待には添えません」

女将「ふふふ」

姉「な、なんで笑うんですか」

女将「いえ、残念と言われる割には」

女将「嬉しくてたまらないという顔をなさってるものですから」

姉「そんなこと……」

え? マジ?
女将さんの言葉につられて、俺は姉の顔を覗き込もうと

姉「こら」

ペシッ!

弟「いてっ」

見る前に頭をはたかれちまった

姉「これで用は済んだんですよね? じゃあ私達はこれで」

女将「帰れると思います?」

姉「えっ」

女将「このまま帰れると思いますか?」

弟「どういうことですかっ?」

女将「駄目なんですよねえ。 ただでは」

姉「ただでは?」

弟「ただではって」

うふふ
と、女将さんが笑う

なんだか楽しそうだな、この人

女将「忌み山で山の魔物に憑かれた旅人が山から降りる方法がひとつあります」

女将「それは魔物の願いを叶えること」

弟「それはつまり……」

つまりそれは、女将さんの願いを叶えるってこと
っていうか……やっぱり俺達憑かれてたんだ
怖っ

姉「願いってなんですか? さっきの話ならもう」

女将「それはいいんですよ。 どうせ無理だと思ってましたから」

姉「は? どうせ無理?」

女将「いえ、山の魔物になるということは、忌み山で殺されなければいけないんですよ」

姉「殺され……」

女将「つまりそうなるためには、弟さんがお姉さんを手に掛けなければならないということです」

弟「はあ? 俺が姉貴を?」

……殺す?

女将「すぐに蘇りはしますけれども。 弟さん、お出来になります?」

弟「む、無理無理っ! 無理ですよっ」

女将「ですよね」

女将「でも良かったです。 万一お姉さんを手に掛けようとしたら、私が弟さんを……」

弟「?」

女将「殺めてましたから」

弟「ぶっ」

やっぱりこの人
怖っ!

姉「でも……だったらどうして」

女将「はい?」

姉「無理だって判ってたなら、どうしてわざわざ私達をここに」

女将「それは……ふふ……ねえ」

ねえ
そう言って女将さんが意味有りげな流し目をくれた

弟「うっ」

ビクッと股間が疼く
やべえ、気が緩みかけてた
俺は慌てて目を逸らした

女将「気に入ってしまったんですよねえ……」

女将「弟さんが」

弟「へ?」

姉「なんだと?」

姉「気に入ったって……おいっ」

弟「ええっ?」

姉「どういうことだよっ」

弟「い、いや、それ俺に言われても」

女将「ほらほら、そうしてすぐあわあわなさるとこなんか」

弟「?」

女将「可愛い……ですよ」

そしてまた俺に流し目を

弟「あうっ」

ああ、また見ちまった

女将「んふふ」

女将「そういうことでね、私のお願いですが。 お姉さん」

姉「はい?」

女将「少しの時間貸して頂けませんか?」

姉「は? 何を?」

女将「弟さんを、で御座いますよ」

弟「へ?」

姉「弟を……貸す?」

女将「はい、後でちゃんとお返ししますから」

女将「ね?」

弟「ね、って……」

姉「弟に……弟に何するつもりですか」

女将「何って……んふふ……ねえ」

弟「ねえ、って」

女将「もちろん昨晩の続き、で御座いますよ」

弟「お、女将さんっ」

姉「昨晩の続き?」

女将「はい。 昨晩弟さんは女としての私を求めて下さって」

弟「うっ、うぇ……」

女将「それはもう飢えた獣のように激しく」

姉「!」

女将「むりやり後ろから抱きしめられて」

女将「熱いものを押し付けられながら、胸を揉みしだかれました」

女将「あの痺れるような感覚がまだ残っているので御座います」

弟「っうええぇ」

女将「あんなことは本当に久しぶりで御座いました。 こんなおばさんを欲しいと言って頂いて」

んああ、そんなこと言われたら俺も思い出しちまう
あのむっちりと柔らかく、絡み付くように挟み込んでくる尻の感触……
って、いやいやそんな場合じゃ無いだろ

弟「あ、あの……」

女将「お陰でこの身体に火が付いてしまいました。 それでぜひ……」

女将「この火照りを弟さんに鎮めて頂ければと」

姉「……」

しかし姉は女将さんには答えず
ギロリ、と俺の方を睨んできた

うそ、怒ってんの?

弟「あ、姉貴、さっき言ったろ? あれはさ」

姉「わかってるよっ、毒気に当てられたんだろっ!」

弟「そ、そうだよ……」

わかってんならそんな怒んなくてもいいだろうが
っても思ったけど
もちろん口には出せなかった

女将「そんな、毒気って言い方は酷いですよ。うふふ……」

姉「じゃあ妖気とでも言い換えましょうか」

いや姉貴
あんまりそういうことを言わない方がね

女将「あらまあ怖い」

姉「怖いのはあなたですよ、本当に」

女将「んふふ……それで、ご返事は?」

姉「お断りします」

女将「どうして?」

姉「それに答える必要もないと思いますが?」

女将「私は若い精をたっぷり受けることが出来る」

女将「あなた方は帰宅できる上に、弟さんは良い気持ちを味わえる」

女将「どこにも問題はないと思いますが?」

姉「問題だらけですよっ!」

女将「あらそう?」

姉「なんで弟の精をたっぷり取られなきゃ……いや」

姉「例えそれで弟が気持ち良かったとしてもっ」

姉「私は全然気持ち良くないっ」

おいおい、姉貴
あんた何を言ってるんだ

女将「うふふっ」

女将さんが楽しそうに笑った
まあこれは笑われても仕方ないよな

女将「そういう事ならお姉さんも一緒にいかが?」

姉「え?」

女将「三人で」

姉「さんにん?……あ」

弟「おおっ」

三人
俺と姉貴と女将さん
こ、これは……

姉「こらっ!」

あ、また睨んでる

弟「えっ?」

姉「嬉しそうな顔すんなっ」

弟「いやしてない、してないよ?」

姉「今『おおっ』って言っただろがっ」

あれ? 俺声に出してた?
いやそんなはずは……
ちょっとだけいいなって思っただけだから

ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ
裸の姉貴と女将さんに挟まれたら最高じゃね?
なんて思っちまっただけだ

うーん
最低だな、なんて下半身優先なんだ俺って
とりあえず謝っとこう

弟「……ごめん」

姉「とにかく」

姉はもう一度俺を睨みつけてから女将さんに言った

姉「そういうことじゃなくて、絶対にお断りです」

女将「帰れなくても?」

姉「弟にそんな真似させるくらいなら、ここで二人で野垂れ死にます」

弟「姉貴、俺は」

姉貴が生きて帰れるなら
別にさんぴーでもさ……

姉「なっ?」

弟「……はい」

そうだな、そんなのだめだよな

姉「よし」

女将「わかりました」

女将さんのそのぽってりとした唇から笑みが消え

女将「仕方が御座いません」

優しげだった顔に暗い陰が差した

女将「そういうことであれば……」

じわり、女将さんが前へ出た
細められた眼の冷たい光
全身に怖気が走り背筋が凍りつく
さっきまで過敏に反応していた股間さえも

姉「くっ……」

弟「姉貴っ?!」

姉を俺は抱き寄せた
なんで今前に出るんだよ

弟「何する気だよっ」

姉「だって、私お姉ちゃんだし」

姉「あんたを……守らないと」

弟「そんなのもういいんだよ!」

弟「ずっと一緒だって言っただろがっ」

姉「でも、弟が」

俺の腕の中で姉がもがく
ああ馬鹿だこいつは
この期に及んでまだ俺を守ろうとしやがる
まだ俺はあの頃の弱っちい弟扱いだ

弟「聞けよっ!」

姉を抱きしめる手に力を込めた

姉「え……」

弟「もうお前は姉ちゃんじゃねえっ!」

姉「なっ」

弟「お前は……俺の女だ」

姉「!」

姉の身体から力が抜けた

姉「女?」

弟「だろ?」

姉「……うん」

弟「だからもういいんだよ」

姉「……」

弟「これからは俺が守るから……」

なんて臭い台詞言ったのはいいけど、目の前の女将さん
俺がどうこう出来る様なもんじゃないってのは判りきってるんだけど
さてと……

ああこれやっぱ死ぬのかな
覚悟? そんなもん簡単に出来るかよ、修行僧じゃねえんだよ
でもまあ、一緒に死ぬんならな

弟「姉貴」

俺は姉を見つめた
最期にキスくらいしとくか

俺は顔を近づけた

姉「やだ」

弟「え?」

は? なにこいつ
何でここで拒否?
この空気が読めないの?

弟「姉貴」

姉「だから……名前で」

弟「名前で?」

姉「姉ちゃんじゃないんだろ? だったら名前で」

今度は姉が俺に顔を近づけた

姉「呼んでくれよ」

そうか、そういうことね
ちょっと照れくさかったけど俺は姉の名前を呼んだ
愛しい女の名前を

でも焦ってちょっと噛んじまった
かっこわりい

姉「ここで噛むか?」

弟「ごめん……」

姉「でも嬉しいよ……」

微笑む姉
俺達はゆっくりと唇を重ねた

強く
強く抱きしめる

姉「んっ……あ」

姉が濡れた唇から声を漏らし
俺を掻き抱くように身体を擦りつけてくる
寒気を感じていた身体がじんじんと熱くなった

実はこうやってきちんとキスするのは初めてなんだよな
今朝は、ほらその、まあしたんだろうけど、勢い任せで夢中だったし……
あっちの方で精一杯でさ

それはきっと姉貴もで
だからキスしろって朝から何度も言ってたんだろう

姉「っぁ……」

うわっ、唇柔けえ……
なにこのプリプリ感、とろけるみたいだ

しかしなんだな、キスって凄いよ
征服感? 違うな、相手と自分の気持ちが交わり合う感じ
一体感っていうのかな
これもしかしてエッチ以上かも

なんでだろうな
口と口とを合わせてるだけなのに
なんとも言えないこの気持……



弟「ん……ぐっ?」

あ、あれ?
苦しい……

息が……ん? 

あ、そうか
なんか苦しいと思ったら、俺息を止めてたし
息、吐かなきゃね……

弟「んふっ」

いけね、鼻息が掛かっちまう

仕方なく俺は姉の唇を解放した
もう少し続けてたかったんだけどなあ


弟「ぶはあっ」

離れると同時に溜まっていた息が勢い良く吐きだされる
姉が頬を赤らめたままきょとんと俺を見た

ああいいとこだったのに
なんでもっとスマートに出来ねえのかな俺は

でもまあ……よかった
これで何があってももう思い残すことは……って、ん?
あっ……しまった

舌入れときゃ良かったかな?
むしろ入れとくべきだったのか?

あれ? もしかして姉貴が物足りなさそうな顔してたのは
そのせいなのか?
姉貴は涎が糸を引くようなディープなやつを待ってたのか?

そうなのか? じゃあやり直す? ベロチューやっちゃう?


あーいやいや無理無理
今更やり直すなんて
これ以上カッコ悪い真似してられっか

そんなことより俺はここで頑張らなきゃ

そして俺は足を踏ん張って
正面から女将さんに向かい合った

弟「お……女将さんっ」

女将さんは無表情にこちらを見ている
その雰囲気はさっきまでとは全然違った
踏ん張った足が震える

どうする?どうするかって
そんなもんこうなったらやることは一つだ

弟「お願いしますっ」

俺は頭を下げた

弟「もう一度だけチャンス下さいっ!」

弟「他の、さっきの以外で他の望み言って下さいっ!」

もう懇願するしかないだろ?

弟「お願いしますっ! お願いしますっ!」

はい、ヘタレですよ
でもこれしか思い浮かばなかったんだ
みっともなくても、無様でも、そんなことどうでもいい

ただ俺は姉貴を
俺の女を守りたいんだよ

女将「それはまあ随分と虫のいいお話」

女将さんの口調は冷たかった

弟「判ってます、でも……そこをなんとか」

女将「……」

弟「ほら、俺達だって一方的に巻き込まれただけじゃないですかっ」

弟「なのにこんな目にあって……」

弟「俺達女将さんに迷惑とか、気に触ること何かしましたか?」

女将「いいえ、何も」

弟「でしょ? 俺達何も悪いことしてない、だったら」

女将「私にはしていません。 しかしあなた方お二人は」

女将「過去の罪を背負っている」

弟「え……罪」

女将「それをお忘れなきように」

隣の姉の身体がビクリと震えるのが伝わってきた

俺達二人の……過去の罪?

その言葉に反応するように頭の中で何かが弾ける

弟「ううっ!」

一瞬目の前が真っ暗になる
真っ暗な中に火花が散って何かが見えた

手……子供の手だ
四本、右、左、右、左、 二人分
力のこもった子供の手

押している……これは……
背中……?

弟「あううっ!」

火花がまた散った

姉「弟! 弟!」

姉の声に引き戻された

弟「ねえ……ちゃん……」

姉「なんだ? どうした?」

弟「姉貴、俺はあの時」

そうか……
やっぱりそうだったんだな

姉「ん?」

弟「俺は……姉ちゃんを守れたのかな」

姉「え……あんた……」

驚いたように俺を見つめる姉
俺はもう一度聞いた

弟「あの時俺は姉ちゃんを守れたのかな」

姉「あ、ああ」

姉「そうだ、あんたは私を守ってくれたんだ」

弟「そうか……」

姉「あの時あんたがいなけりゃ私はあの人に……」

弟「じゃあ俺は姉貴を守れたんだな?」

姉「うん」

弟「良かった……」

それなら俺は後悔しなくていい
人の道に外れようが、罪を背負おうが
そんなもん微塵もするもんか

その証拠にほら
胸につかえてたもやもやが取れた

うんすっきりしたぞ
よし、ついでだから声に出して言っちゃえ

弟「過去の罪なんて糞食らえっ!」

弟「ですよ、女将さん」

女将「……」

弟「いけないですか?」

女将「いいえ、背負ったものをどう扱おうと、それはあなた次第」

女将「私の口出しすることでは御座いません」

弟「あ、そうなんですか」

あらちょっと拍子抜け
気張って言ったのに

女将「はい、それで今の状況が変わるわけでも御座いませんし」

弟「あ」

弟「……そうだった」

女将「しかしまあいいでしょう」

女将「あなたのその言い分も判ります」

弟「マジ、ほんとですかっ、じゃあもう一度チャンスを?」

女将「はい」

弟「あ、ありがとうございますっ」

女将「私だって鬼では御座いませんから」

弟「鬼じゃなくて、魔物……ですよね」

女将「……は?」

姉「お、おいっ」

弟「すいません……」

女将「……但し」

弟「は、はいっ」

女将「ただで、という訳にはまいりません」

弟「え?」

女将「代償を頂きます」

姉「代償?」

女将「はい」

女将「代償として弟さんの精を捧げて頂きます」

姉「は? 精って、それはつまりその」

女将「そう、今あなたが想像したものです」

姉「せい……し?」

女将「はい」

姉「だ、だからそれは駄目だって」

女将「お姉さん、それは勘違いですよ」

姉「なにが勘違いだ?」

女将「私ではなく、精はこの山に捧げて頂きます」

姉「この山に?」

弟「俺の精を捧げる?」

女将「はい。 ですから私は一切手を出しませんので、お姉さんも心配はご無用です」

姉「そ、そうなのか」

弟「でも山に捧げるって、どうやってですか?」

女将「それは今説明致します。 ほら」

と女将さんが俺達のすぐ後ろ横を指差した
いつの間にかそこに小径が出来ていた


女将「その小径を入ってしばらく行けば古い社がございます……」


 * * * *


小径を入って3分と経たないところに女将さんの言った社はあった

姉「ここか」

弟「そうみたいだな」

社の側へ近づく、よく判んないけど周囲の空気が澄んでいる気がした
古くて小さな社だ、大きな鈴も賽銭箱もない

観音開きの格子戸に手を掛けて引いてみると
ギシギシと音を立てて開いた
中を覗きこんでみる

中は板の間になっていて
一番奥の祭壇っぽいところに大きな樹が生えていた
と言っても見えるのは樹の一部分、幹の根に近いところだけで
その上は天井を突き抜けているので見えなかった

つまりこの社は大きな樹の根元にへばりついて
建てられてるってことだ

姉「これがこの山の御神体……」

弟「女将さんは御神木って言ってた」

姉「近寄りがたい雰囲気だな。 なんていうか、荘厳?」

姉の言うとおり御神木は神秘的な雰囲気に包まれていた

弟「うん、でも寄らなきゃ」

恐る恐る
俺達は御神木へと進んだ

御神木
うねった幾本もの太い根が絡み合っている
幹の肌は樹皮が剥がれて意外と滑らかだ

姉「おい見ろ、ここだ」

呼ばれてそちらを見ると
姉が御神木の一部分を示していた

弟「うわ、これは……」

その部分は太い根がまるで人が脚を広げたように二股に分かれて
その分かれ目には女性のあそこに似た裂け目がぱっくりと

姉「木で出来た女の下半身みたいだ……ここに捧げろってことか」

弟「ああ」

女将さんに指示されたことは
社の中の御神木にある女性器に似た裂け目
そこへ直接精を放てと

つまりこの木の裂け目に射精して来いってことだった

姉「出来る……のか?」

弟「やってみるしかないだろ」

ここまで来てどうしようとかいまさら考えても時間の無駄だ
俺はベルトを緩め、えいっと一気に下半身を丸出しにした
パンツを丸めて投げ捨てる

姉貴にいいとこ見せなきゃ
俺は思い切りが良くて頼もしい男だぜってな

姉「お、おい」

弟「いいから俺に任せとけ」

姉「いやそれはいいけど、先に身を清めるんじゃなかったか?」

弟「あ」

そうだった
それも女将さんに言われてたんだった
御神木に触れる前に社の横の湧き水で身を清めること

弟「ちょ、ちょっと行ってくる」

俺はフリチンのまま社の外へ向かった
チンコ隠して小走りで

聞いていた通り社の横の岩の間から湧き水が流れ出していた
綺麗な水だ

俺は女将さんの言葉を思い出して
手を洗い、口を漱いで
それからチンコを洗った

裏側も綺麗にね

冷たくて身が引き締まる気がした

これでよし


俺は姿勢を正して社の前に立ち
今度は一礼してから中へ戻った

フリチンで

「じゃあ始めるから」

御神木の元に帰った俺は姉に告げた

姉「うん」

弟「……」

俺は二股の根の間に立った

弟「……」

高さもちょうどいい
滑らかな木肌だしまるで股を開いた女性と向き合っているようだった

弟「……」

しかし

弟「……」

どうすりゃいいのこれ?

この割れ目にチンコ入れても射精なんか無理だ
第一チンコ立たねえし

じゃあどうする?
直接射精しなきゃいけないんだし

そうだ
ここでオナニーして出そうになったら突っ込むか

弟「姉貴」

姉「なんだ」

弟「ちょっと離れててくれ」

姉「なんで?」

弟「いいから。 それから外のほう向いててくれ」

姉「……わかったよ」


姉貴にオナニーしてるとこなんか見られたくないっての

そして俺はオナニーを……

弟「ん……」

オナニーを……

弟「あれ?」

弟「……」


立たねえよ

こんなエロくもなんともない
どっちかつうと肝が冷えるような状況で
勃起なんかしねえって

それでも俺は必死でこすこすと扱いて

でも焦れば焦るほど
あんなに元気だった息子さんは元気なく俯いたままで
うわ……どうする俺……


姉「あーあ、あんた駄目じゃん」

弟「ひえっ!」

弟「姉貴……いつから見てた?」

姉「ん? ずっと見てた」

弟「なんでっ? 見るなって言ったろっ?」

姉「だって心配だし、目を離した時になんかあったらどうすんだよ」

弟「それはそうなんだけど……うぅっ」

姉「で、大っきくなんないの?」

弟「……うん」

姉「なんだよ、情けない顔すんなよ」

弟「だってここで立たなきゃ、俺」

姉「よしわかった、任せろ。 私が手伝ってやる」

弟「え?」

姉「私が大っきくしてやるって言ってんの。 ほ、ほら、その……あれだ」

姉「く……口で」

弟「く……口?」

姉「……ああ」

弟「そ、それって……ふぇら」

姉「……うん」

弟「姉貴、出来んの?」

姉「出来る。 その位の知識は……ある」

弟「知識じゃなくてさ、実際にさ、 ち、ちん……咥えるんだぞ」

姉「あんたのなら……出来る」

弟「マジで?」

姉「何度も訊くな」

弟「だけど」

姉「あのな、あんたは私のもんなんだ。 だからあんたのちんちんも私のもんだ」

姉「そのくらい全然平気に決まってるだろ」

弟「姉貴……」

姉「も、もちろんあんたが嫌なら、いいんだけど……」

弟「嫌じゃない嫌じゃないっ!」

姉「そうか、それなら……」

弟「えっと……お願い、しようかな」

姉「うん、わかった」

姉「じゃあ出してみろ」

弟「え? あ、はい」

姉「ほら、て言うかなんでさっきから隠してるんだ?」」

弟「えっと、あのそれは……こんなだから」

俺は脱いだパンツで隠していたモノを姉の眼の前に晒した

姉「うわっ!」

弟「は、ははは……」

姉「もう大っきくなってる……」

はい
恥ずかしながら、姉貴が口でと言った次の瞬間にガチガチになってました

姉「な、なんで……刺激もしてないのに」

弟「いや、姉貴がフェラしてくれるって考えただけでこれ」

姉「それだけで?」

弟「それだけで」

十分なんだよ
いつも俺をからかう言葉か出てくる口
時には憎らしくもなるその口
その口が、俺のナニを……ペロ

うひいいいっ
ってなっちまうだろ、そりゃ

弟「こんなんだけど、大丈夫か? 姉貴」

黙ってそれを凝視している姉
お、頬が上気してきた

俺はさらにうひいいいっとなった

姉「だ、大丈夫だ」

姉が俺の前で膝をつく

姉「口で愛撫すればいいんだろ?」

そう言って俺を見上げる姉の口とナニの距離はもう20センチ程

弟「愛撫……」

姉「こんな、だったんだな……こんな大きい……」

姉「これが私の中に入ったのか……」

弟「ちょっ……」

姉「これが私を……女にしたんだな……」

弟「くうっ、そんなこと言ったら……」

ナニが天に向かって反り返る
なんだこれ? 自分でもびっくりするほどでかくなってる

やだ、こんなの初めて

なんて、ふざけてる場合じゃねえぞこれ

姉「わっ、また大きくなった」

弟「うわっ、ちょ、これ……」

おかしいって、いくら姉フェラの予感に昂ってるとはいえ
こんなにでかくなるわけねえよ

長さも太さも、いつもの倍はあるぞ
これもあれか
この山の影響なのか

姉「こんな……私……口に入るかな……」

怖がらせちゃったか
そりゃそうだろ
こんなもん眼の前に突きつけられたら俺だってビビる

弟「いつもはこんなじゃないんだけど……無理ならいいよ?」

そっと姉の頬に手を当てて撫でた俺を
潤んだ目で見返してきた

姉「いや、やってみる」

そうして
姉の唇がゆっくりと開かれ
凶暴にテカる俺の先端に近づいてきた

弟「……」

俺は見下ろしていた
それはスローモーションのようだった

姉の……
姉貴の濡れた唇が近づき、触れる寸前で一旦止まって

それから一気に

姉「あ……んっ」

むちゅうっ……っと

弟「くうっ!」

先っちょがニュルッとした生温かい感触に包まれる
舌が絡み付くように押し当てられる
そこから全身に電流が走って腰が砕けそうになる

姉「んぁ、んっ……」

姉貴が……
俺のチンコ咥えてる……

姉「んぐっ……ぅ」

姉は苦し気に呻いた
しかしさらに口を開いて飲み込もうとした
その瞬間

ぬちゅり……
舌の先が裏筋に当たった
まるで舐め上げるように

弟「ああんっ」

だめ、そこ弱いのぉっ

それが限界だった

うん、もうダメ

時間にして30秒も経っていない
このままトロけるような感触を味わっていたかった
このまま出してしまいたかった

もう死んでも悔いはないとさえ思った

けど
このまま射精しちまうわけには
いかねえっ

弟「よしっ!」

俺は腰を引いた
じゅぷっっ

姉「んはぁっ」

姉の口から涎で濡れた先っぽが吐き出され
つうっ、と
光る糸を引いた


良いお年を

姉「あぁ……」

糸をひく唇から悩ましげな声を漏らし、そのままペタンと尻もちをついた
トロンと眠そうな眼差し
乱れたシャツの襟元から覗けて見えたのは……

谷間……胸の……
う……あの谷間に挟んだら……
挟んで、擦って、先っちょクリクリって……

弟「くうっ」

ダメだ、この緊急時に何考えてんだ
そんなのに気を取られてると今にも射精しちまうって
なんで俺はこんなスケベなんだよ

俺は姉の胸元から目を逸らし
あたふたと御神木の二股に開いたの根の間に立った

そして未だ舌の感触と温もりの残る先っちょを

裂け目めがけて―― 一気に

ぐちゅっ!

弟「あ……あれ?」

ただの木の裂け目、
当然中は空洞で固くて
って、思ってたのに

弟「うわっ」

中はぬるぬる、じっとりと柔らかくて
全体がうねうねと蠢いている

弟「な、なんだっ?」

姉「えっ?」

弟「うわっ! なんだこれっ?」

ぞわり、とした
最初は一つの動きだったうねりが幾つにも別れて
絡み付いてくる
まるで無数の虫や蚯蚓が這いずる回るように

弟「なんだこれっ? なんだこれっ?」

ぞわぞわと絡み付く纏わり付く
気持ちわりい……でも

気持ち……いい

弟「んっ! んひいっ!」

先に根本に全体に、こそばゆい無数の刺激
俺はそれにビクビクと反応してしまう

弟「あふっ!」

じっとしてはいられなかった
俺は腰を前後に振っていた

纏わり付くそのこそばゆさをそぎ落とすように
思いっきり

姉「どうしたっ!」

姉の声が遠くで聞こえる

同時に堪らない射精感が込み上げてきた

弟「あううっ!」

ズクン!
出た

ズクン!
ズクン!
思いっきり出た

いや……まだ

弟「ああっ!」

ズクン!
……なんだ?

弟「あああっ!」

ズクン!

腰がっ
射精が止まらねえっ

うねりながら絡み付いて……
射精する毎にキュウキュウと吸い付いてくる
まるで吸い付いて中に引き込もうとしている様な……
うっ

ズクン!

弟「ああっ! あ、姉貴……」

姉「どうしたっ!? もう離れろっ!」

弟「だ、ダメだ……抜けねえ」

姉「なにっ?!」

ズクン!

弟「あ……あああっ、射精が……止まら、あうっ!」

ズクン!

弟「こ、腰……ひ、引っ張って……」

姉「よ、よしっ!」

姉「腰止めろっ」

弟「んっ……くうっ」

俺は腰を止め必死で射精を我慢した
何かが這いずりまわるむず痒さがひどくなる

弟「んぐぐぐっ!」

姉「いいかっ、引くぞっ!」

姉が俺の腰に手を掛けた

弟「ううっ!」

姉「せーのっ!」

掛け声と同時に腰が強く引かれた、しかし

弟「くうっ……だめだ」

姉「お前も踏ん張れっ! もう一回! せーのっ!」

それから何度か試したが抜けなかった
微動だにしない

弟「くっ……だめだ……ああっ!」

ズクン!

堪え切れずにまた射精してしまう

弟「あ……ああ……もう」

姉「大丈夫かっ、しっかりしろっ!」

弟「姉貴……俺もう……だめ、かも……くっ」

さすがにこれだけ射精を続けると怖くなってくる
身体の力が抜けてしまいそうだ

しかしまだ射精感は込み上げて来る

姉「ば、バカ野郎っ! ふざけたこと言うなっ!」

姉が俺の腰に食らいついてきた
後ろから手を回して

姉「くそっ! これどうなってんだよっ! これはっ!」

裂け目から出ているチンコの付け根をギュッと握りしめた

姉「これはあたしのだぞっ!!」

弟「んっ! そんなことしたらまた……」

出ちまう……って

あれ?

あれ?

弟「……あれ?」

姉「……え?」

急に身体が軽くなった
そのままぐらりと後ずさり
姉に支えられて止まった

姉「抜けた……?」

弟「え……」

抜けた?
いや抜けたって感覚じゃない
ただ離れた
そう、一瞬ですっぱりと……離れた

弟「え……?」

何気なく離れた部分を見る
……ん?

弟「えっ?」

見えなかった
そこに見慣れた俺の
チンコが

無かった


ええっと……


ん?


弟「えっ?」


頭の中が真っ白になって


それから


目の前が真っ暗になった


 * * * *

……………………


……………………


……………………


  『……さーん』


……………………

  『もしもーし』

………………

  『おーい』

…………

  『おとうと さーん』


……ん? 

……呼んでる……誰?


あれ、俺……?

夢??……ん?……んんっ?!


あっ!


弟「うわああっ!!!」

  『あっ、やっと気がついたー』

弟「え……あ、見習い……ちゃん」

見習い「はいどうもー」

目の前に見習いちゃんがちょこんと座って手をひらひらと振っていた
何故か制服――、セーラー服を着て
白いリボンがちょっと古臭く感じる

えっと……何だったっけ
頭がはっきりしない、くらくらする

弟「見習いちゃん……どうしてここに?」

見習い「お母さんが様子見てきなさいってー」

弟「お母さん……。 そうか女将さんが」

見習い「いやー、大変なことになってますねー」

弟「……大変?」

何が大変? 確か俺は姉貴と……
姉貴……?
!! そうだ姉貴! 姉貴が見当たらない!

弟「どこだっ! 姉貴はっ! 姉貴どこ行ったっ!」

見習い「ほらー弟さーん、落ち着いてくださいよー」

弟「でもっ姉貴、姉貴っ!」

見習い「姉貴姉貴って、もー。 お姉さんならさっきまで私と話しててー」

見習い「今は外で身体清められてますよー」

弟「え? そうなの?」

見習い「はいー」

弟「そうか……よかった」

見習い「なんですかーお姉さんのことばっかりー」

見習い「自分ことも心配したらどうですかー?」

弟「自分のこと?」

ああ、そう言われれば何かあったような……
ええっと……

見習い「でも驚いちゃいましたよー。 弟さん、昨日お母さんと会ってたんですねー」

んー……ん?

見習い「だから山の魔物のお話知ってたんですねー」

見習いちゃん……そのセーラー服可愛いけど、サイズ合ってないな
胸とか、お尻とか、ぴちぴちじゃないか

見習い「私のこともバレちゃいましたねー。 えへへー」

田舎くさい感じが逆に変な色気あるよな……
でも全然ムラムラしないのは
さっきあれだけ射精したから……

ん?……
あ……

弟「ああああああーっ!!!」

見習い「あ、思い出したんですねー」

弟「さっきのあれ……夢じゃあ……」

いやいやいやいや
あれは夢だよな
いやいや
夢であってくれ

俺は自分の股間に手を伸ばした

ほらここに、馴染んだモノが……

無い!

うそ……だろ
もう一度まさぐるように確かめる
ここが毛で……この下に

弟「あうっ」

やっぱりチンコは掴まらず
代わりに、ぷにゅりとした変な感触

弟「無いっ! 俺のチン……アレが無くなってるっ!」

見習い「夢じゃないですよー」

弟「な、なんで……」

見習い「それね、祟りですからー」

弟「た……たたり?」

見習い「はいー。 御神木様が怒っちゃたんですよねー」

弟「はあ? なんで怒るの?」

見習い「穢れと嫉妬だってお母さん言ってましたよー」

弟「でも俺言われたとおりに清めて……」

見習い「お姉さんのお口はー?」

弟「口……?」


弟「……あ」

見習い「そういうことなんでー、御神木様がお怒りになってお二人に祟りがー」

弟「だからってチンコもがれるとか……あんまりだ、酷すぎるよ……」

見習い「違いますよー。 おちんちんもがれたんじゃないですー」

弟「え? だって現にチ……アレが無い」

見習い「もう弟さん、まだぼけてるんですかー。 もっとしっかり自分の身体見て下さいよー」

弟「俺の、身体?」

見習い「ほらー、その胸についてるの。 それ何ですかー?」

弟「胸? え?」


弟「……これ?」

胸を見下ろしてみる……あれ? 膨らんでる

膨らみを触ってみる……あれ? 柔らかい

抓ってみる……

弟「痛っ! な、なんだ……これ? これじゃまるで」

まるで女の……


見習い「まるでじゃなくてー、オッパイですよー」

弟「へっ? なんで? 何でこんなもんが?」

見習い「だからー、おちんちんがもげたんじゃなくてー」

見習い「弟さん、女性にされちゃったんですよー」

弟「へっ?」

弟「へええええええええっ?!」

弟「え? なにちょっと? え?」

もう一度胸を揉んでみる
やっぱりオッパイだ

シャツの襟元を広げて覗きこんでみる
膨らんでる……結構でかい

先っちょには……乳首
姉貴とよく似た綺麗な乳首

弟「うそ……うそ……」

じゃあさっき股間触った時のぷにゅりって……

恐る恐る股間を見てみる
毛の下……
今朝初めて実物を見た、これ……

ちょっと触ってみる
ぷにゅり

弟「ひぃーっ!」

弟「これっ……おまっ、おまっ」

見習い「そんな取り乱さないで下さいよー」

弟「だ、だってこれ……俺、女」

見習い「お姉さんはもっと冷静でしたよー」

弟「え?……姉貴?」

姉貴……あ、そういえば……

弟「さっき二人に祟りがって言ってたような……」

見習い「はいー。 そう言いましたよー」

弟「ちょっと待って、と言うことはもしかして……」

弟「姉貴も……」

見習い「はいー」


「何だやっと気を取り戻したのか」

後ろからの声に振り返ると、そこに全裸の姉が立っていた
だが締まった筋肉質な身体に胸の膨らみはなく
代わりに股間に隠しようの無い立派な一物が……

弟「あ、姉貴……」

姉「ああうん、男になっちまった」

男になった姉貴……
元々髪は短いし、キリッと整った顔立ちだったから
すげえイケメンになっちまってる

俺の、
俺の姉貴が男になっちまった……

ショックだ
俺のことよりそっちのダメージの方が――でかい

なのに……なのにだぞ
なんで姉貴は

姉「なんだなかなか良い女になってるじゃないか」

なんて言って

姉「ちょっとオッパイ見せてみろよ」

なんて言って

なんでそんな平然としてんの?

姉「なあオッパイ見せてみろって」

弟「やっ、やだよ」

姉「何でだよ? 別に恥ずかしがることもないだろ?」

姉「私のおちんちん見せてやるから。 ほらっ」

ぶらんっ

弟「ひっ……」

うわわ……
やめてくれよ、堂々と見せんな

って普段の俺よりでけえし
ちゃんとムケてるし……

なんだってんだよ
イケメンでチンコでかいとか
ダメだろそういうの……

うわ、何? この敗北感……

姉「どうだ? 私のこれおかしくないか?」

弟「し、知らねえよ。 み、見たくねえそんなもん……」

小さかったらまだしも、俺のよりでかいのなんて
いや俺のはもう無くなっちまったけどさ……

姉「えーっ、ちゃんと見てくれよーっ」

弟「知らねえってっ!」

弟「て言うかさ、姉貴おかしいだろっ!」

姉「ん?」

弟「だからっ! なんでそんな平気な顔してられんのっ?!」

姉「んー? まあ私も初めはびっくりしたけどさあ」

弟「最初はって、じゃあ何か? 姉貴はもう男になるの受け入れちまったのかっ?」

姉「えっ? あんた……」

弟「?」

姉「ああそうか。 見習いちゃんこいつにまだ話してないんだ?」

見習い「はいー、まだなんですよー」

姉「なるほど、どうりでな」

弟「なんだよ、なんの話だよ」

姉「まだ元に戻る方法がある。 って話」

弟「え? ……マジで?」

姉「あるんだよね? 見習いちゃん」

見習い「はいーっ」

弟「ど、どうすればっ?!」

姉「まあ落ち着け。 ほら、オッパイゆさゆさ揺れてるぞ」

弟「う、うるせっ、気になってんだから言うなっ」

……と、
そんなこんなで
その元に戻る方法って話を聞いたんだけど
まあ簡単に言うと

見習い「御神木様のお怒りを鎮めればいいんですよー」

ってことらしくて、じゃあどうやったら鎮まってもらえんのかと言えば

姉「私が精を捧げてお詫びするんだ」


なんか俺もよく判んないんだけど
つまり御神木が気を悪くした原因ってのが二つあって

一つは俺にフェラした時、姉貴の口が清められていなかったってこと
で、もう一つが無理矢理に御神木から引き離したこと

その引き離した時に俺のチンコ握って「私のだぞ!」なんて言ったもんだから
嫉妬深い(らしい)御神木が怒っちゃったんだと
それなら代わりにお前がって感じで姉貴は男にされちまったらしい

だから今度は男にされた姉貴が

見習い「御神木に精を捧げてお詫びすれば、ご機嫌も直りますよー」

こういうことなんだと
だから姉貴は外で体を清めてたんだと

で……ね?
ここでちょっと俺の疑問が

弟「ならなんで俺が女にされる必要があったんだ?」

見習い「あー、そこに気がついてしまいましたかー」

姉「流石だな、弟」

弟「は? どういうこと? やっぱり祟りだからってこと?」

見習い「それもあるんですけどねー」

姉「私達が協力しなければいけないってことだ」

弟「え? 協力って……まさかフェっ」

弟「いや無理っ 俺そんな、無理だからっ」

チンコは無理っ チンコだけは無理っ
いくら姉貴のだって、そんなの咥えらんないっ

弟「あわわわわ」

見習い「あー、そういうんじゃないですよー」

弟「えっ? そうなの?」

姉「なんだよ、そんなに嫌がられると気が悪いぞ、私にはさせたくせに」

弟「いやそれは……」

見習い「まあまあ、いいじゃないですかー。お口よりもっと大変なんですからー」

弟「?」

見習い「弟さんもねー、捧げ物しなくちゃいけないんですよー」

弟「俺が? 何を? 女だから射精できないよ?」

見習い「いえいえー、女性が御神木様に捧げるものはー」

見習い「生き肝」

弟「い……生き肝?」

見習い「はいー、内臓系ですよねー。 心臓とかー肝臓とかー」

弟「そ、それは判ってるけど……そんなの取られたら俺死んじゃう」

見習い「ですよねーっ」

弟「いや、ですよねーって、死んだら意味無いじゃん……」

見習い「じゃあ死なないのにしますー?」

弟「あ、そういうのもあんのね」

見習い「はいー」

弟「ならぜひそっちでお願いします」

見習い「でもこれはちょっと痛いですよー?」

弟「え……内蔵抜かれるより痛いのがあると思えないんだけど」

見習い「生き肝抜かれるときはー、もうほら意識飛んでますからー」

弟「あ、ああそういうことね……はい、ぜひちょっと痛い方で」

見習い「じゃあ血ですねー」

弟「ち? 血液?」

見習い「はいー」

弟「ど、どのくらい?」

見習い「ちょっとだと思いますよー」

弟「思いますって、抜くんだよね? 血を」

見習い「いえそうじゃなくてー、出ちゃうんですねー」

弟「出ちゃう? よく判んないよ、いったい何の血?」

見習い「破瓜の血ですー」

弟「はか? はかの血? お墓?」

見習い「やだなー破瓜って知らないんですかー。 お姉さん知らないみたいですよー」

姉「なんだよ、あんた今朝見ただろ?」

弟「へ? 今朝見た? へ?」

姉「ほら、布団のシーツにバスタオル」

弟「布団……バスタオル……あ」

姉「判ったみたいだな」

見習い「お姉さん、痛かったですか?」

姉「んー、わりとね。 でも夢中だったから」

見習い「へー憧れちゃいますー」

姉「んふふ、そう?」

見習い「はいー」

弟「ちょっ! ちょっと! ちょっと待てっ」

姉「なんだ?」

弟「破瓜って、俺が? 俺が、ど、どうやって」

姉「なんだよ判ってるくせにわざわざ聞くな」

見習い「弟さん察し良いですもんねー」

弟「じゃあ……」

姉「うん、私があんたの処女頂いてやる。 このおちんちんで」

弟「ええええっ」

姉「だからわざとらしく驚かなくていいって」

見習い「ちなみに生き肝と穢れを知らない生娘が破瓜した血」

見習い「捧げ物はこの二つのどちらかですからー」

姉「ということだ、まあ任せとけ」

弟「そんなあ……」

 * * * *

弟「よっ、と」

tシャツを脱ごうと裾を引っ張る上げ……くそっ
なんか脱ぎづらいと思ったら膨らんだ胸が邪魔してやがる

弟「はぁーっ……」

また溜息がでた、もう何度目かもわからない
脱いだシャツを湧き水の横の岩に置く
そして自分の体を見下ろした

いつもなら見えるはずのチンコ
でも今そこに見えるのは――オッパイ
ふっくらと盛り上がった乳房とポッチリした乳首

弟「……はぁっ」

――身を清める

まずは外の湧き水で身の清め直しから、と
見習いちゃんと姉貴に追い立てられたのである

有無を言う間も無かったのである

湧き水で手を洗う、顔を洗う、そして全身を

身体が柔らかくて、軽い
なんか筋肉がなくなって丸みがついてる
肌もすべすべして

姉貴の身体もこんなだったな……

弟「はぁっ」

しかしこれはどうよ?
昨日から奇妙な事が立て続けに起こったんで
そういうのに変に慣れちゃったとこもあったんだけどさあ

何で俺女になっちゃってんの?
今朝童貞じゃなくなったばっかの俺が
今なんで処女喪失なんてしようとしてんの?

いや処女喪失って……

チンコ入れるんだよな……ここに

俺は湧き水を掬った手で女の形になったそこを
そっとなぞった

弟「ひゃんっ」

思い掛けなく痺れるような感覚が走った
なんだよこれ、ちょっと触れただけなのに……
マジかよこんなのって

自分でこんななのに
誰かに触られたらどうなっちゃうんだよ……
参ったなあ……すげえ不安

弟「ん……」

そう考えた途端、変な感じに襲われた
胸が締め付けられるような切ない感覚

弟「なんだよこの変な気持ち……あれ?」

腹の、へその下辺りがじんわりと
温かくなっていくのがわかった

だからなんなんだよ
どうなってんだよ女の身体って

俺はどんどんこみ上げてくる不安な気持ちを誤魔化すように
勢い良く嗽をして口を清めた

――お清め終了

さっきと同じように姿勢を正して社の前に立ち
一礼してから中へ戻る

今度は姉貴と同様に全裸で
全身を清めたら汚れたものは身に付けてはいけないらしい

弟「はあぁ」

これ以外に選択肢はないって
いい加減腹をくくらなきゃいけないって事は判ってる

でも締め付けられるような切なさが抑えられない
この胸騒ぎみたいなのが

弟「……ふぅ」

熱がある時みたいに身体がだるい
誰かに寄りかかりたい、そんな気分

ああそういや姉貴、昨日旅館い着いて部屋に案内された時……
『なんか胸のあたりがギュッて変な気分になったんだ』
とか言ってたな

あれはこんな気分だったんだろうか
あの時姉貴は俺と関係するのを予感してたのか

じゃあ今の俺のこの気持は……


姉「おう」

あれこれと混乱した頭の中がまとまる間もなく姉たちの元へ戻った
姉の視線がなんか恥ずかしい
自然と胸と股間を手で隠してしまう

姉「ん? 何隠してんの? 私に隠す必要ないだろ?」

弟「な、なんか判んねえけど……落ち着かないんだよ」

姉「へえー、ふーん」

弟「あ、なんだよ、ジロジロ見んなよ」

姉「スタイルいいじゃん」

弟「ふっ、ふざけんなっ」

姉「あっ恥ずかしいんだ? なんで? 私そんなの見慣れてるぞ」

弟「うっ、うるせえっ! 別にいいだろっ」

見習い「うふふー、弟さんすっかり乙女ですねー」

弟「んなことねえってっ!」

見習い「じゃあ準備も整ったようなので、早速お床入りですー。 こちらへどうぞー」

弟「お、お床……」

見習い「はいこちらですー」

姉「へえこんなとこにも部屋があったんだ」

弟「ぁ……」

御神木の裏にもう一つ小さな部屋があった

見習い「お床といってもお布団はないんですけどねー、あそこでー」

見習いちゃんが部屋の奥を手で示す

見習い「お願いしますー」

そこは板の間の床一段高くなっていて、
何やらふかふかした大きな毛皮が敷かれていた

弟「ここで……」

見習い「はいー」

ちなみに見習いちゃんに何の毛皮か聞いてみたんだけど
それは聞いちゃいけないって返事だったんで
怖くてそれ以上追求出来なかった

見習い「この盃に精と血を受けてくださいねー」

見習いちゃんがどこからか出してきた盃を姉に手渡している
手のひら位の黒い盃だ

見習い「なんだったら私がお手伝いしますけどー」

姉「いやそれはいいわ、弟が嫌がりそうだし」

当たり前だってーの

見習い「そうですかー、じゃあ扉のすぐ外にいますんで、何かあったら声を掛けて下さいー」

弟「いや見習いちゃん……出来たら社の外で待ってて」

見習い「えー、それじゃあ声が聞こえないじゃないですかー。 喘ぎ声とかー」

弟「聞かなくていいからっ、ていうか喘ぎ声なんて出さないからっ」

見習い「えーっ」

弟「お願いだからっ、ねっ?」

見習い「んー……わかりましたー。 じゃあ」

ペコリと一礼して見習いちゃんが出て行った

後に残された俺と姉貴
女の俺と男の姉貴、共に全裸

姉「さてと」

俯いている俺に毛皮に座り込んだ姉の声が聞こえた

弟「っ!」

その声だけでビクリと身体が反応しちまった
ずっと無理に声を張ってたけど
ほんとは胸騒ぎも身体のだるさもさっきより増してきてる

姉「ほらこっち来いよ」

弟「……」

姉「おーい」

くそっ
何でこいつこんなにノリノリなんだよ

姉「ほらほら」

弟「ん」

俺は姉貴の横にちょっと距離を開けて座った
胡座をかいたらあそこが丸見えになったんで正座に変える
心臓がバクバクして胸騒ぎどころじゃ無くなってる

弟「な、なあ姉貴……ほんとにやんのか?」

姉「元に戻りたいんだろ」

弟「それは……うん」

姉「じゃあこうするしか無いってのも判ってるよな」

弟「うん……でも」

姉「あんたが嫌なら私はこのままでもいいんだぞ」

弟「え?」

姉「どっちにしたって私があんたを好きだってのは変わらないしな」

弟「そ、そうか……」

姉「そうだよ」

姉「あんたは男になった私じゃダメか?」

弟「いやそんなこと無い……」

姉「好きなままでいてくれるんだな?」

弟「当たり前だろ」

姉「じゃあどうする? あんたが決めろよ」

弟「男には戻りたい……だってこのままじゃ姉貴を守れない」

姉「私が守ってやるさ」

弟「それじゃダメなんだ、俺がちゃんと守らなきゃ」

姉「ふふ、なら悩んでないでやるしか無いだろ」

弟「……それはわかってんだけど」

姉「痛いのが怖い?」

弟「っていうかチンコ入れられるってのが……」

姉「そうかあ、そりゃ我慢するしか無いな」

弟「……だよな」

姉「まあその辺は私に任せてればいい」

弟「え?……あっ!」

いきなり姉に押し倒された

弟「ちょっ……」

姉「いいから」

のしかかってきた姉の顔がすぐ前にあった
もがいても身動きが取れない
凄い力だ、ていうか女の身体ってこんなに力出ないのかよっ

弟「あ、姉貴……っ」

姉「任せろって、いつ入れられたのか判らないって位気持ち良くしてやるから」

弟「そっ、そんなことっ」

姉「女の身体ならよく知ってる……気持ちいいとこ。 ほら……ふうっ」

姉の吐息が耳をくすぐったかと思うと、耳たぶを

甘く噛まれた

弟「んっ、あ……あぁ……」

全身の力が抜けちまった……

姉「……」

姉の唇が優しく触れる様に身体を這う

姉「こことか……」

首筋、腋下……

姉「……ここ」

胸元、そして……

姉「あは、こんなにぷっくりさせちゃって」

そ、そこっ! 乳首! 

弟「ひゃうっ!」

いきなり摘みやがった
ずーん、と身体に甘い痺れが走る

姉「おっ、感じてるな」

弟「んなわけ……あるかよ」

姉「そうか? じゃあ吸っても平気だな」

へっ? 吸う?
いや待て
そんな敏感なとこ吸われたらっ

弟「ちょっ、まっ……」

姉「待たないよ。 あむぅっ」

弟「んくっ……」

ねっとりと吸い上げられ
舌で転がされ
放し際に軽く噛まれ……

弟「あっ、んんっ!」

姉「あんっ、だって。 可愛い声」

弟「ちがっ、そんな声……出して、ねえ」

姉「また強がってー。 ほらコリコリっ」

弟「ああっ!」

揉まれて、吸われて、弄られて
姉に身体をいいようにされて
もう何がなんだか
自分が今どんな状態なのかもよく思い出せなくなっていた

頭と腹の辺りがぼうっと熱い
皮膚の下がジンジンして
もうどこを触れられても甘い痺れが走ってしまう

弟「んっふぅ……」

姉「あんた感じやすいねー」

弟「ふ、ふざけんな……」

そう言い返すのが精一杯

姉「だってここは……」

弟「え……?」

姉「まだ触ってないのにお漏らししたみたいになってるし」

弟「んはあぁっ!」

ビクンと身体が撥ねた

ゆ、指……
さっきまでチンコが付いてたとこに
姉貴の指が……

なんだこれ?
今までとは違う大きな刺激
身体がガクガク震える

弟「あ……あっ……そ、そこは」

指……指が……中に指が
入って………

姉「これだけ濡れてたらもう準備は十分だろうけど……」

姉「折角だから先に一回軽くイッとく?」

弟「え……」

……イッとく?
なに?

姉「ほらここ、ポチッと付いてるだろ? ここが女の一番感じるところ」

姉「これをこうやって皮をむいて……」

ちょっ!! なにやってんのっ?!!!

弟「んひぃっ!!」

姉「それと中のちょい上のこの……この辺……」

弟「あ……あああ……んっ」

姉「この二つを同時にこう……クリクリっと」

弟「あ? あ?……ああああっ?!」

な?……なんだ?……これっ! これなんだっ?!
来るっ! なんか来る!

ちょ……
何これ怖い……怖いって!

どうすんのこれっ

来るって! 来ちゃうって!


くうううっっ!!!!!!!!!!!

あー

あー

ああー

んー


……なんか

ふわふわ……する

あ……? 俺

おかしくなっちまった……

のか?


もうなんか……

どうでも

いいや

 『おいっ』


……?


 『おいっ』


ん……?……姉貴の声?
んだよ……俺眠たいんだよ……


姉「いくぞ」


……え?

え?

えっ?


弟「んあああっ!!」

いきなり下腹部に突き入れられる感覚
全身がカッと熱くなった

弟「くぅっ、あっ姉貴……こんな……いきなりっ」

姉「すまんっ、実は私もおちんちんが限界なんだ」

弟「は……はぁ?」

姉「早く何とかしないとおかしくなりそうでっ」

弟「なんだよっ……余裕ぶりやがって……あっ、ちょっ!」

また、ぐうっと
中に……

弟「んんうっ!! ま、待てっ!ちょっとっ……あううっ」

姉「待てないって! 大丈夫だからっ! 痛くないからっ!」

弟「いや待てって! ああっ、入ってる! 入ってくるって!」

姉「堪んない、堪んないんだよっ!」

弟「ああああっ」

熱い……下腹部が
身体が熱い……

チンコが……
俺の中に今
姉貴のチンコが入ってる……

俺、姉貴に入れられちゃってる……
これどこまで入って来んだよ

弟「ああ……んっ、そんな……奥まで」

姉「え? まだ半分も入ってないけど?」

弟「はぁ?……うそつけ……もう、ヘソまで……」

姉「いや、まだほらこんなに」

ぐっと姉の体重がかかった

弟「んあああああっ」

ずずうっ
そんな……そんなに入れたら
喉まで届いちゃう

姉「……これで全部だ」

弟「あ……あ……ああっ」

弟「血……血は?」

姉「ん、出てる」

弟「そ、そうか……これで」

姉「じゃあちょっと動くから」

弟「へ?……へ?」

姉「あんたの中凄く気持ちよくて我慢できないんだっ」

チンコは引き抜かれるのがわかった
そしてまた
ズウンッ……と奥まで

下半身から頭の芯まで突き抜ける衝撃が繰り返される
その度にゾクゾクと波のように何かが押し寄せる
俺は堪らず姉に抱きついていた

抗いようもなく押し寄せる波に身を任せる

んぁ……
何かが舌に触れた、絡め取られる

あ、俺キスされてるんだ……
これ姉貴の……舌入れられてる……

くそう
これは俺がするつもりだったのに
姉貴に舌入れてやるつもりだったのに……


でも……
ま、いいか
すげえ気持ちいいし……

ああ……
身体が蕩けそうだ……

あっんんっ……
ああっ……こりゃあまた
さっきのアレが来るな

ああ……
これが……女の……

俺は姉貴を
こんな気持にはさせてやれなかったんだろうな……
自分のことで精一杯だった……


姉「あっ!」

姉「ああ!出るっ! なんか出るっ!」

そんな姉の声をどこか遠くで聞きながら
俺は迫り来た大きな波に飲まれていった

そしてそこで俺の

意識が落ちた


 * * * *

弟「……」

濡らしたタオルで身体を拭く

また湧き水のところでなのである

どこかにフワフワ飛んでいっていた俺の気が戻ってきた時には、
もう事は全て終わっていた

見習いちゃんは俺の血と姉の精液が混ざったものを盃に受けると
そそくさとどこかへ行ってしまったらしい

誰がどうやって盃に受けたのかなんて
そんな恐ろしいこと知りたくないし、考えたくもなかった
今は汗ばんだ身体を拭いて、それから服を着るのだ


取りあえずやることはやった
これで御神木の怒りも収まって

……しかし

しかし、俺の身体はまだ女のままなのであった

弟「くそっ」

岩に掛けてあった服を身につけると、シャツの胸とズボンの腰周りがきつい
その代わり肩幅が減って身長も少し縮んだみたいだ

弟「……体型まで変わってんのかよ」

俺はズボンのジッパーを無理やり引き上げた

弟「もうなんだよ、これ……」

ジッパーのその辺り、下腹部に違和感
なんか歩き難い

弟「ふう」

ふらふらと社の正面に戻ると、そこにとっくに支度が済ませたイケメンが待っていた
まあ姉だけど
やけに嬉しそうにこっちを見てやがる

弟「なんだよ」

姉「歩き難いんだろ? まだ何か挟まってる感じがして」

弟「うん……まあ」

姉「私が苦労してたのが判った?」

弟「……わかった」

姉「でもあんたはまだマシだと思うよ?」

弟「マシ?」

姉「あの時、痛くなかったろ?」

弟「ん……ま、まあな」

中に入ってきた時の感覚が下腹部に蘇って
思わず身体がブルっと反応した

姉「じっくり優しくしてやったからな。 あんたと違って」

弟「えっ? ちょっ、そんな……」

姉「ふふふっ」

弟「ご、ごめん。 でも俺、余裕なかったし……」

姉「いいんだよ、気にしなくて」

弟「で、でもごめん。 俺上手くできなくて」

自分がそうされて判った
俺のやり方は……酷かったはずだ
それで姉貴あんな調子悪くなって……

姉「こらこら、なんか勘違いしてないか?」

弟「え?」

姉「もっと優しくしてればとかちょっと後悔してんじゃね?」

弟「うん……」

姉「いやうんとか言うなよっ、後悔なんてされたらお姉ちゃん傷付いちゃうだろが」

姉「私には最高の初体験だったんだよ? 最高に気持ちよかったっての」

弟「……ほんとに? 」

姉「嘘なもんか、あんたと抱き合ってるって感じるだけでもう」

弟「もう?」

姉「あ……いやまあとにかくだ、」

姉「女は気持ちが大事ってことだよ」

弟「そうか……だったらいいんだけど」

姉「女になってるのにそんなことも判らないのか?」

弟「なってるのは身体だけで、女の心までは判んねえよ」

姉「まあそうか。 でも気持よかったろ? 私に抱かれて」

弟「さ、さあな……覚えてないし……」

姉「声あげてたじゃないか、私にしがみついてあんあんって」

弟「う、うそつけっ」

そりゃ気がぶっ飛んでからのことは覚えてねえんだけど
俺がそんなこと、まさか……ありえねえだろ

姉「本当だって5回くらいイッてたんじゃないか?」

ちょっ、5回って……
こいつそんなしたのかよっ

姉「最後なんかおしりに指突っ込んだらヒィヒィ叫んでおもらししてたぞ」

弟「へっ? へぇぇっ?」

え……ケツにって……
おもらし?

弟「なっ、何してくれてんだよっ」

姉「まあ嘘だけど」

弟「ああやっぱり嘘か、なんだよ……」

姉「おもらしはな」

弟「えっ、おもらしだけ?」

ケ、ケツは? ケツでヒィヒィも嘘だろ?
嘘に決まってるよな
嘘だと言ってくれ……

姉「しかし女になった弟は可愛かったなあ」

姉「甘えたみたいにしがみつかれた時なんか小さい頃思い出してキュンキュンしちゃった」

弟「甘えたって……」

姉「もうこのままでもいいかなって思ったくらいだ」

弟「良くねえよっ。 いや、あそうだ、それだ」

そうだ、最初にそれを聞かなきゃいけなかったんだ

弟「俺達なんで元に戻ってねえの?」

姉「ああそれは女将さんに聞いてくれって」

弟「女将さんに?」

姉「そう見習いちゃんが言ってた」

弟「女将さん……そうか」

うーん、女にされちまったり、チンポ入れられちゃったりで
すっかり頭の中から消えてたけど
ようやくこの社に来た目的を思い出した
元々俺は御神木に精を捧げに来たんだった

思い出すと同時に心に焦りが溢れ出てくる
そうだ、女将さんが待ってるんだ

早く女将さんの所に戻らなきゃ
戻って別の望みってやつを言ってもらって……
なんとかして二人で無事にこの山から出るんだ

弟「姉貴、女将さんの所に戻ろう」

俺は姉の手を掴んだ

姉「あ、ああ」


急がなきゃ
あんまり待たせてまた女将さんの機嫌を損ねたら厄介だ
なんせあの女将さんはこの山の……

ん? あれ? なんだ?
……

まあいいや、今は急がなきゃ

俺は歩く速度をあげた

走りたかったけど無理だった
下腹部の違和感が気になったし
おっぱいがゆさゆさするのが気になったし
先っちょ擦れて……

ああっ、なんて女の身体は面倒なんだっ


繁みの間を抜けると道が開けて
さっき女将さんに会った場所に出た

弟「女将さん……」

辺りを見回して恐る恐る声をかける

姿が見えない、気配もない
って、もともとあの人気配がないんだけど

どこ行ったんだ?
もしかして怒らせちゃったとか?
やべえな

俺がもう一度、今度は大声で呼ぼうとして息を吸い込んだ時

姉「女将さ~ん」

先に姉が呼んだ
なんか気軽な感じで

いやいや……もっと大きな声で呼ばなきゃ
と思ったけど

その時、姉の呼びかけに応えるように風がすうっと吹いた
樹々が揺れてざわめく……

 「はぁい」

女将さんだ
そこに女将さんの姿があった

弟「お、女将さん……?」

びっくりした
ホントにびっくりした

何でって
さっきまでの冷たくて寒気のするような表情
それとはまるで違って

女将さん「おかえりなさいませ、お疲れ様でしたね」

すっげえ機嫌良さそうな顔でニコニコしてたから

どうなってんの?
きっと怒ってるって思ってたのに……

弟「あの、すいません……遅くなっちゃって」

女将「いいんですよ。 みんなわかってますから」

弟「え……あそうか、見習いちゃんが」

女将「んふっふ。 まあ弟さん、可愛い女の子におなりですこと」

弟「はあ、なんか女にされちゃいました」

女将「ああそうでした。 もう女の子じゃなくて、お姉さんに抱かれて女にされたんでしたね」

弟「い、いや……そう意味で言ったんじゃなくて」

女将「ふふふっ、どうでした? 男に抱かれる女の気持ちは」

弟「……いや、判んないですよ……」

女将「経験なさったのでしょう、女の喜びを」

弟「そ、そんなの覚えてっ……ぁ」

女将さんの言葉に下腹部を意識した途端
そこに甘い痺れが走った

パンツの中にジワッと熱いものが広がっていく

弟「うわわ……」

やべえ、小便漏らしちまった?

女将「ほら弟さん、今すっかり女の顔になってますよ」

弟「へっ? え……うそ」

女の顔? なにそれ?

女将「その御様子ではそうとう可愛がってあげたようですねえ、お姉さん」

姉「はい、それはもうガッツリと」

はいじゃねえよっ ガッツリじゃねえよっ
なに得意気に答えてんだよ

女将「弟さん、どうですか? そのまま女になられては」

弟「はあ?」

女将「そのお身体、結構お気に召されているようですし」

弟「い、いやっ、お気に召してませんって!」

女将「私の後継者としてこの山に留まって頂いて」

弟「いやいやいやっ! そんなの無理ですっ 無理無理っ!」

弟「俺は男でいいですっ! 男がいいですっ!」

女将「口ではそう仰っても、身体は男を欲しがって濡れてますよね?」

弟「濡・れ・て・ま・せ・ん・からっ」

女将「ふふふ」

見透かしたように女将さんが笑う
だめだ、このひとのペースに乗せられちゃ

ほんとはちょっと……濡れてたけど
でも俺の意思じゃないし、勝手に濡れてるだけだし
ぬるぬるして気持ち悪いだけだし

男のほうが絶対いいに決まってるし

弟「つまり俺は男ですから、男なんですよ。 ね?」

女将「は?」

弟「だからその……」

あー、何言ってんだ俺
しかしここで無理矢理にでも話を戻さないと
俺のペースにしないと

弟「俺達、言われた通りに精を捧げてきたわけで……あの」

弟「出来れば女将さんの別なご希望をですね、言っていただければと……」

弟「あ、さっきの俺が女のままでってのは無しで。 つうかですねっ」

もう俺必死ですよ

弟「何で俺っ、男に戻ってないんですかっ?!」

女将「私の希望?」

弟「はいっ、そういう約束でしたよねっ? もう一度チャンスを貰えるって」

女将「チャンス……あ、ああはい、そういう設定で御座いました」

弟「設定……?」

女将「そうですねえ、ではこれからも見習いと仲良くしてやって下さいませ」

弟「え? 見習いちゃんと?」

女将「はい。 これまであの娘もこの山で私と二人っきり、ずっと寂しい思いをさせて参りました」

女将「聞けばあなた方にはとても懐いている様子ですので、これを縁に是非」

弟「それは、勿論いいですけど……それだけ、ですか?」

女将「はい」

弟「じゃあ、えっと……わかりました、見習いちゃんなら喜んで」

女将「有難うございます。 ではそういうことで、よろしく御願い致します」

弟「はあ」

弟「じゃあ俺達これで帰れるってことです、よね?」

女将「はい、勿論」

ええっと、これは……喜んでいいんだよな

弟「あ、それで俺達が元に戻ってないっていうのは」

女将「それは例の盃の奉納が深夜零時となっておりますので」

女将「元の性にお戻りになられるのはその後ということに」

弟「ということは今日は俺達ずっとこのまま……」

女将「はい。 そういう設定ですので」

弟「え、設定……?」

なんだ? なんだこれ?
設定って……

……
あ、
そういや何か俺ずっと引っ掛かってた事あったよな

弟「あの、ちょっと聞きたいんですけど」

女将「はい?」

弟「女将さんはこの山を治めてるんですよね」

女将「はい、この山のすべてを」

弟「じゃああの御神木……様っていうのは?」

女将「この山のすべてを治めている木、で御座いますね」

弟「と、いうことは……あの御神木は女将さん?」

女将「という設定で御座いますね」

弟「えっ? また設定?」

女将「あの木が私というわけでは御座いませんよ。 依り代としてのり移ることは御座いますが」

弟「あーそういうことですか」

なんか色々と判った気がする

弟「女将さん」

女将「やっとお気付きになられましたか」

弟「もう隠す気がないようですね」

女将「はい。 これで終了ですので」

弟「つまりその……俺達騙されてたってことですよね?」

女将「騙したというのは語弊がありますが」

弟「じゃあ何の目的があったっていうんですか?」

女将「お客様サービスで御座いますよ。 余興です。 俗に言うあとらくしょん」

弟「アトラクション? これが?」

女将「御二方に楽しんでいただければと」

弟「いやいや、こんなの楽しめないですって!」

女将「いや結構楽しまれましたよね。 ねえお姉さん?」

姉「はいっ、とっても」

姉が即答

弟「へ?」

なにそのいい返事、にこやかな笑顔
こいつ、もしかして……

弟「姉貴……まさか姉貴もグルだったのか? 初めから」

姉「何言ってんだよ、初めからグルなわけ無いじゃないか」

弟「そ、そうか、そうだよな」

泣きそうになったり怒ったりしてたし
いくら姉貴でもあんな演技は……

姉「途中からだよ」

弟「ぶっ!」

弟「え?……途中から、知ってた……のか?」

姉「うん」

弟「い、いつから……?」

姉「ほら、あんたがおちんちん取られた時」

弟「あ……俺が気を失ってる間に……」

姉「そう、あんたが気を失ったすぐ後に見習いちゃんがやって来てさ、その時に聞いた」

弟「でも、でもなんで姉貴にだけ先にバラされたんだよ?」

姉「ああ、その時私結構取り乱してしまって、見習いちゃんに食って掛かったからな」

弟「取り乱したのか? なんで?」

姉「なんでって、あんたのおちんちん無くなっちゃったんだぞ?」

姉「もう死んじゃうと思うだろ。 そしたらカッとなって」

女将「ふふ、見習いはお姉さんに殺されるかと思ったそうですよ」

弟「はあ……そういうことか」

弟「でもそれだったら俺に言ってくれたら良かったのに」

姉「だって話聞いたらアトラクションだって言うし、それじゃ楽しまなきゃ損かなあってさ」

弟「損得じゃないだろ……」

姉「でさ、あんたは女にされちゃってたろ、それ見て私も男になれるかって聞いたら」

弟「……ん?」

姉「なれるって言われて、じゃあ……」

弟「おいちょっと待て」

姉「え?」

弟「俺と姉貴は同時に性別が変わったんじゃなかったのか?」

姉「あ、やべ」

弟「やべじゃねえだろ……だったら、もしかしてあれは、おい」

姉「えーっと」

女将「あれはお姉さんのご希望で設定を変更したので御座いますよ」

女将「本来は弟さんだけが一日女になるだけで御座いました」

姉「ちょ、女将さんー」

弟「元に戻るのに破瓜の血が必要とか……」

女将「放っておいても一日で戻ります」

姉「あららー」

弟「姉貴!」

姉「いやー……にひひひ」

道理でなんか急にノリノリなりやがったはずだ

そうだったよ、悪戯っ子みたいに笑う姉の顔を見て思い出した
昨日今日といろいろあってつい忘れてたけど
こいつは俺をからかうのが趣味みたいな奴だった

弟「もう……なんだよ……」

姉「あんたがあんまり可愛かったもんでさ、つい……」

弟「……」

姉「あ……怒った、かな?」

姉の顔が曇った

あ、このバカ姉貴
心配気な顔してやがる
そんな顔すんなら初めからやめときゃいいのに

弟「はぁ……」

なんか気が抜けて、同時に身体の力も抜けて
俺はその場にへたり込んじまった

姉「な、なあ」

弟「怒ってないよ」

姉「本当に?」

今はそれより安堵の方が大きかった
なんせ何度か死ぬかと思ったもん

それに俺が倒れた時、姉が取り乱したってのがさ
ちょっと嬉しかったもしたんだ
だから

弟「怒ってないって」

姉「そ、そうか」

まあこれは姉に言うとまた調子に乗るからナイショだけどね

ま、ともあれ
やっとこれで帰れるってことだ
俺はあらためて女将さんに向かい合った

弟「で、これ本当に男に戻るんですよね」

女将「はい、今夜零時を過ぎれば必ず」

弟「今夜零時……そうですか」

女のまま家まで帰らなきゃいけないってことか
知り合いに見られないようにしないとな

弟「じゃあこれで帰って……いいんですよね」

女将「はい、どうも有難う御座いました」

女将さんが柔らかい身のこなしで丁寧にお辞儀をする

弟「いやそんなお礼を言われても、アトラクションの料金を払ったわけでもないのに」

女将「いえお題はたっぷりと頂きましたので」

弟「え?」

女将「お陰様でこの山の気脈も活気付きました。 たっぷり過ぎてもう……」

艶然と微笑む女将さんはなんか若返ったようにも見えた

女将「できちゃったかも……」

弟「……」

女将「それではまた」

そう言うと女将さんはもう一度お辞儀をして、繁みの向こうへ姿を消した

俺と姉は黙ってそれを見送った


……

だめだ
考えちゃだめだ

うんそうだ、聞いてないから
女将さんが仄かに頬を赤らめて言った今の最後の言葉なんて
全然聞いてない

弟「い、行っちゃったな、女将さん」

姉「あ、ああ、行っちゃた」

弟「それじゃ……帰るか」

姉「そ、そうだな、そうしよう」

……何故か漂うぎこちない空気

それを振り払うように
俺は投げ出してあった荷物を手に取った

弟「ん? あ、あれ? そういやこれ……どっちに帰ればいいんだ?」

姉「ああそういえば……えっと」

弟「確かあっちから来たんじゃなかったっけ?」

姉「いやこっちの方だろ?」

あっちだこっちだと
意見が分かれた俺達が揉めている所に

見習い「はいどーも」

と、またまたひょっこり現れましたこの人
セーラー服姿の見習いちゃん

姉「あ、見習いちゃん」

弟「いいところに来てくれた。 俺達これどっちに帰ればいいの?」

見習い「そう思って御見送りに来たんですよー」

弟「ああそうなんだ、ありがとう」

見習い「ご案内しますねー、付いて来て下さいー」

そう言って見習いちゃんが向かったのは
俺と姉のどちらの意見とも違った方向だった

見習いちゃんの後に俺と姉
細い山道を下っていく

弟「あの、見習いちゃん」

その背中に話しかけた

見習い「なんですかー?」

弟「女将さんとの約束の件なんだけど……」

見習い「あー、あれですかー? 別に無理しなくていいですよー」

見習いちゃんは振り返らずに進んでいく

弟「いや俺達こそこれからも仲良くしてもらえると嬉しいんだけどさ。 なあ姉貴」

姉「もちろん」

弟「どうかな? 見習いちゃん」

見習い「いいんですか? 」

見習いちゃんの足が止まる

見習い「私、人間じゃありませんよ?」

姉「うん、だからなんだ?」

弟「そんなのもう判ってるし」

姉「大歓迎」

見習い「本当にいいんですか……?」

見習いちゃんがやっとこちらに振り向いた
笑ってはいるけどその表情は硬かった

姉「ああ、私達だって人の道から外れちゃってるしな、ちょうどお似合いだ」

見習い「そうですか……それなら」

硬い笑顔がフニャッと崩れた

見習い「よろしくお願いしますー」

ああ、よかった
いつもの笑顔に戻った

弟「よしこれで俺達は友達ってことで」

見習い「うふふ、じゃ弟さん」

てててっと見習いちゃんが寄って来て俺の腕を取った

弟「あ」

姉「ああっ、おいそれは」

見習い「いいじゃないですかー、はいお姉さんも」

そう言ったかと思うと今度は反対側の手を姉の腕に絡めた

見習い「さあ行きましょー」

見習いちゃんに腕を引っ張られて、俺達はまた山道を下りだす

見習い「弟さん」

弟「ん?」

見習い「お姉さん」

姉「なんだ?」

見習い「へへへー、何でもないですよー」

見習いちゃん、なんか子供みたいにはしゃいで
俺の肩に頭を預けたり、姉の腕に頬ずりしたり

姉「はは、なんか妹ができたみたいだな」

弟「妹かあ、悪くないなあ」

見習い「ほんとは私が一番年上なんですけどねー」


こうして俺達姉弟は見習いちゃんと友達になった

自然と頬がゆるむ

俺達姉弟の事情を理解した上で友達になってくれた、、それが嬉しかった
この子の前では隠さなくてもいい

そのことに比べたら彼女が人間じゃないなんて
どうでもいいほんの些細なことだった
単純に嬉しかった


でも別れはすぐにやってきちまった

山道が少し開けた所に出た時見習いちゃんが立ち止まった
俺達の腕をゆっくりと放す

見習い「はいー、私のお見送りはここまでです」

姉「え?」

見習い「ここを右に折れて真っ直ぐに行けば大きな通りに出ますからー」

弟「え……じゃここでお別れってこと?」

見習い「はいー」

ニッコリ笑う見習いちゃん
でも眉毛がハの字でどこか寂しそう
もちろん俺達だって……


姉「あのさ、このまま一緒に私達の家まで遊びに来ないか?」

弟「あ、そうだよ、街に出たいって言ってたじゃないか」

見習い「んー、そう言っていただけるのは嬉しいんですけどー」

見習いちゃんは残念そうに首を振った

見習い「私が今このまま行っちゃうとー、お母さんが独りになっちゃいますからー」

弟「あ……」

見習い「お母さんを寂しがらせるわけにはいきませんよー」

姉「……そうかあ、そう言われちゃあなあ」

見習い「それにお母さんこれから大変になるだろうしー」

弟「大変? どうして?」

見習い「できちゃったってー」

弟「ぅ」

見習い「だからそれまでは私が付いててー、お世話してあげなくちゃ」

姉「あ」

見習い「一年後? 私が遊びにいけるのはそれからですー」

弟「……」

判らない
見習いちゃんが何を言ってるのか俺にはまるで判らない
なんで今なら女将さんが寂しくて、一年後なら寂しくならないのか
いったい何を言ってるんだ見習いちゃんは?

ま、まあいいや
判らないことを深く考えても仕方ないよな
なんか姉貴も素知らぬ顔してるし……

弟「そ、そう? じゃ、じゃあメアドの交換……」

見習い「いやですよー、私がそんなの持ってるわけ無いじゃないですかー」

弟「え、だって昨日アドレス交換とか言ってなかったっけ?」

見習い「あれは男の人とそういう会話してみたかっただけですよー」

弟「そうか……でもそれじゃ連絡の取りようが」

見習い「そこは大丈夫ですよー、はいこれを」

どこから取り出したのか、見習いちゃんが小さな木箱を差し出した

弟「これは?」

見習い「今あけちゃダメですよー、帰ってからその中身を庭に埋めて欲しいんですー」

姉「庭って、小さい植込みしか無いんだけど……」

見習い「そこでいいですー、敷地内の土の中であればいいですー」

弟「そうしたらどうなんの?」

見習い「縁が繋がるんですよー」

姉「縁?」

見習い「じゃあこれでー、帰って行かれる背中を見てるの辛いですから先に消えますねー」

それだけ言うと、別れを惜しむ間もなく見習いちゃんの姿が繁みの中に見えなくなった
おいおい「またね」くらい言わせてくれよ……

また残された俺達二人
見習いちゃんが消えた繁みを見つめる男の姿の姉と女の身体の俺
ああ、やっぱり見送るほうが寂しいや

弟「見習いちゃん、また会えるんだよな」

姉「そう言ってたじゃないか、信じよう」

弟「だな」

俺はリュックを下ろし見習いちゃんに渡された木箱をしまった

そしてまた背負う……

弟「うあっ」

姉「どうした?」

弟「いやちょっと……」

姉「リュックが重いのか? 私が担ごうか?」

弟「それは大丈夫だから」

姉「今は私の方が力が強い、あんたは女なってんだから無理すんな」

弟「いいから平気だって、そんなんじゃないから」

姉「じゃあ何なんだよ」

弟「ちょっと擦れて……」

姉「え? 何が?」

弟「ち、乳首が擦れて……ちょっと痛い……だけだ」

姉「ぷっ」

弟「わ、笑うなよっ」

姉「ああごめんごめん」

弟「ったく、何でこんな揺れるんだよ、邪魔くせえ」

姉「ふふっ、あそうだ私のブラするか?」

弟「ええっ? やだよ」

姉「しかしだな、そのまま家まで帰るっていうのもあれだぞ」

弟「あれって」

姉「まあちょっと見せてみろ」

弟「うん……ここがさ」

姉「うわっ乳首カチカチに立ってるじゃん」

弟「仕方ねえだろ……ずっと擦れてたんだから」

姉「こりゃ服の上からでも判るぞ、やっぱりブラした方がいいって」

弟「したら、楽になんのか?」

姉「そりゃなるよ。 あーあ、乳首こんなに真っ赤になっちゃって……こりゃ痛いわ」

弟「ん、痛い」

姉「これじゃオッパイもはってるだろ?」

弟「そう……なのかな」

姉「どれどれ?」

 むにゅ、もみもみ

弟「んひゃあっ!  さっ、触んなよっ!」

姉「でも優しく揉んでほぐしとかないとブラした時にかえって苦しいからな」

弟「んっ……あ、そ、そうなのか?」

姉「そうなんだよ、乳首もちょっと唾つけときゃ早く治る……あむっ」

 んちゅれろ

弟「ひゃんっ! そ、そんな、舐められたらぁ……」

姉「大丈夫、任せろ。 んぐっ」

 ちゅっ ちゅばっ

弟「なあああっ! なんで? 吸ってる! 吸ってるぅ!」

姉「んぐ……らいりょうぶ、らいりょうぶらから」

 ちゅばっ  ちゅばっ

弟「んっ!あっ、やめ……あんんんっ」

 ちゅばっ  ちゅっ 

弟「ひあっ、ああっ……姉貴……もういい、もういいから」

姉「ふぅ、どうだ? 楽になったか?」

弟「バカ……ら、楽とか……そんなんじゃ」

姉「あれ? もしかして気持ちよくなっちゃった?」

弟「……んなわけ……あるかよ」

バカな俺はこの時点でも姉の行動はブラを付けやすくする為のものだと思ってた

弟「もういいだろ……ブラ、貸して」

だがしかし

姉「あ、ああブラな……」

弟「あぁ……」

姉「なあ……ちょっと困ったことになった」

弟「ん……なに?」

姉「えっと……おちんちんが硬くなっちゃってるんだが」

弟「はあ?」

姉「あんたのおっぱい吸ってたら何だかムラムラしてきて、気が付いたらおちんちんが……」

弟「ちょ……」

何のことはない
このバカは俺をからかうつもりで胸揉みまくったくせに
マジで発情しちまいやがったんだ

「こ、これ、なんとかしてくれ」

弟「なんとかって……」

姉「そうだ口で、口ででもいいよ」

弟「く、口? 口は絶対無理だってっ! そんなの自分で何とかしろよっ」

姉「あんたに何とかして欲しいんだよっ、つかあんたが欲しいんだよっ」

弟「あっ、こら放せっ」

姉に肩を掴まれ、そのまま強く抱きしめられる
今の俺では姉の力に抗いようもなかった


姉「もう一度あんたを抱きたいっ」

弟「あっ、やめろっ! ああっ、そんなとこ触んなっ」

だめだ
こいつ完全にスイッチ入っちまってやがる

姉「弟っ!」

弟「ちょ、あっ……くうっ」

胸、腰、尻、姉は滅多矢鱈に触りまくる、揉みまくる
身体が密着して股間を押し付けられる

弟「やぁっ、やめろ……って、あっ、ああ……」

姉「ほらあんたもこんなに濡れてる」

中を指でかき回される、ぴちゃぴちゃと湿った音が聞こえた

弟「あっ……そ、それは違う……んぁ」

姉「好きだっ! 大好きだっ!」

弟「んっ……それしたいから言ってるだけじゃねえかぁ……」

姉「好きだっ 弟!」

またあの甘く痺れるような感覚
ああもう限界
正直言って俺だって敏感なとこ刺激されまくって半分スイッチ入ってたのに
またこんだけ触られちまったら

弟「くそっ……覚えてろよ……んっああ」

あそこに熱いものが押し当てられる感触を覚えながら
俺は最後の悪態をついた




それからそこで三回
やられました

いろんな経験しちまったです……

◇◇◇◇

目が覚めた時そこがどこだか判らなかった
だけどそれも一瞬のこと
そこは見慣れた自分の部屋、自分のベッド

頭がはっきりしない
寝不足気味なのかな
えっと昨夜は何時に寝たんだっけ……

よく思い出せないまま部屋を出た
階段を一階へと降りてリビングに入ると
tvを見ている姉の後ろ姿が眼に入ってきた

何の番組なのかじっと画面を見入っていて
俺が起きてきたのにも気付いていない


俺の姉貴
いや今はもうそれ以上の関係の一番大切な愛おしい女性

その後姿に声を掛けようとして、ちょっとしたイタズラが思い浮かんだ

いきなり後ろから抱きついて驚かせてやれ

なんなら振り向いたその唇にキスを

そういうことが出来る関係に
俺達はなったんだ

心が踊るようなこそばゆいような
そんな想いが胸を満たす

足音を殺し、そっと忍び寄る
姉は気付かない、ただじっとtvを見ている

そして俺は姉を背後から抱きしめて
その白いうなじにキスをした
ついでに胸も少し揉んだ

弟「おはよう、姉貴」

そして唇にキスを……

姉「なっ! 何をする!」

弟「へっ?」

姉「何のつもりだっ! 気持ち悪い!」

弟「え? 姉貴?」

予想外の反応
姉のその表情は驚きと怒りと侮蔑が入り交じっていた

姉「なんだ、どういうことだ? 冗談にしても程が有るぞ」

弟「いやただの朝の挨拶だろ? ちょっと驚かそうとしただけでさ」

姉「抱きしめてキスするのがお前の挨拶か? 私は姉だぞ? 恋人じゃないっ」

弟「でも俺達はそういう関係……俺は一人の女性として姉貴を」

姉「は? 何言ってるんだ?」

弟「え?」

姉「お、おまえ私をそんな目で見てたのか……」

弟「姉貴?」

姉「……気持ち悪い、気持ち悪い 気持ち悪いっ!」

弟「どうしたんだよ……姉貴」

姉「寄るなっ! 気持ち悪い! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」

姉「私はもう出て行く! お前なんかと暮らせないっ!」

弟「待って、待ってくれっ! 姉貴!待ってくれっ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~


 「姉貴っ!」

……

あ……

夢か

ああ……夢か


目が覚めた
そこは見慣れた自分の部屋、自分のベッド

ぼんやりと天井を見つめる

あれからもう一週間が過ぎていた

さっきの夢と同じ様に階段を降りてリビングへ入る

やっぱりそこに姉はいたけど、夢と違ったのはすぐ視線をこっちに向けたことだ

姉「お、おはよっ!」

待ち構えていたように声をかけてきた

弟「おはよう……」

姉「あ、相変わらす遅いなっ」

弟「うん」

姉「今日は休みなんだろ? バイト」

弟「うん」

姉「……あ、そうだ、珈琲。 珈琲淹れようか?」

弟「いや自分で淹れるよ」

姉「遠慮すんなってっ、なっ?」

弟「そう? じゃあ俺歯磨きしてくる」


淹れたての熱い珈琲をズルズル啜って飲む
目の前に座った姉に見つめられながら……

いかにも何か言いたげだ
うーん、なんか感付かれてんのかな

姉「なんか元気ないな」

弟「……そうかな」

姉「……」

あ、今ちょっと怖い顔になった


姉「なあ、なんか様子がおかしいと思ってたんだけどさ」

弟「?」

姉「あんた怒ってるだろ?」

弟「は? 何言ってんだ?」

姉「なあ、怒ってるんだろ?」

弟「いやいや、怒ってないって。 だいたい何を怒るんだよ?」

姉「それはほら……」

姉「私あの時無理矢理やっちゃったから……」

弟「ああ、あれ」

どうやら帰り際の青姦三発のことを言っているらしい

弟「あんなのもう気にしてないって」

姉「でも最後は嫌がってたフェラまでさせちゃったし」

弟「それは言わなくていいからっ、思い出したくないからっ」

姉「あ、やっぱり怒ってたんだ」

弟「怒ってないって、いったい何でそんなこと思うんだよ」

姉「だって……」


姉「だってあんた帰ってから何にもしてこないし……」

弟「へ?」

姉「うぅっ……」

姉「私毎晩待ってたんだぞ……いつ部屋に来るかって」

弟「いや……姉貴なんにも言わないし」

姉「私が言えるかっ! エッチな子って思われるじゃないかっ」

弟「今さらそんなこと言っても、あんだけ俺にやりまくったくせに」

姉「あの時は男だったから……今はもう女だし」

弟「じゃあ俺が行くの待ってたの?」

姉「ん」

弟「んで来ないから俺が怒ってると?」

姉「ん。 それになんかずっと様子がおかしかったし」

弟「そうか……」

やっぱり気付かれてたか

姉「部屋に来たら思いっきり嫌がってやろうと思ってたのになぁ」

弟「へ?」

姉「だめっ、姉弟なのにーって」

弟「なっ、それはやめろって、立ち直れなくなるから」

姉「でも背徳感があったほうが燃えるだろ?」

弟「うん、それもう十分エッチな子だよ、姉貴」

姉「うあ」

弟「そんなしまったみたいな顔しても遅いよ?」

姉「んーもういいや、じゃあ今夜こそはさ」

弟「あ……」

ああ、ついにこうなったか

弟「……いやそれが」

姉「え?」

ここまできたら言うしかない
どうせいつまでも隠せることじゃない
独りで悩んでても仕方ない

弟「姉貴、俺……実は俺、男に戻ってから……ダメなんだ」

姉「ダメ? な、なんだ、ダメって?」


弟「……勃たないんだ」

姉「たたない?……って、えっ、まさか」

弟「うん……そういうことなんだ」

姉「ど、どうして……それ、大変じゃないか! 何で早く言わないんだっ?」

弟「女になったり男に戻ったりで身体の調子がおかしいのかもって様子見てたんだ」

姉「でももうあれから一週間だろ」

弟「うん、さすがにヤバイかな……って」

姉「ちょっと出してみろ、私が確かめてやる」

弟「ええっ? 無理だって、何度も自分で試したんだから」

姉「いいから見せてみろって」

半ば強制的に俺の下半身はむき出され、問題のそれが露出する

しかしいくら柔らかい姉の手に触れられ、包まれても
俺のそれが奮い立つことはなかった

弟「姉貴、もういいよ」

姉「……だめか」

弟「うん」

姉「何も感じないのか?」

弟「いや感じる、凄くムラムラしてる。 でも……勃たないんだ」

姉「そんな……なんでこんなことに」

弟「あれからの事なんだから、女になったのが原因には違いないんだけど」

姉「あそうか、じゃあ女将さんに聞いてみればっ」

弟「でもどうやって」

姉「え? ほらあんた見習いちゃんになんか預かってたろ?」

弟「あ」

姉「縁が繋がるとかいう小さい箱。 あれ試したか?」

弟「そういわれれば……」

俺は自分の部屋に向かいドタバタと階段を駆け上がった
そして机の引き出しにしまってあった小さい木箱取り出し
それを持ってまたリビングへと階段を駆け下りる

弟「こ、これこれ」

姉「これこれって、なんだよ開けてないのか?」

弟「いや、帰ってすぐ開けようとしたんだけど……」

弟「もしかしたら玉手箱みたいに煙が出てとか思ったら怖くなっちゃって」

姉「ああそうか、まあ気持ちはわかるけど」

弟「で、次の日からは勃たないことで頭がいっぱいになっちまってたからそのまま」

姉「忘れちゃってたと」

弟「うん」

姉「貸してみろ、私が開けてやる」

姉は箱を手に取ると躊躇も無しにその蓋を開けた

姉「ん? これは……」

モクモクと煙が出るわけもなく
中には白い木のような石のようなものが二つ入っていた

弟「これ……これって」

姉「ああ、たぶんそうだ」

白い木のような石のような
それはたぶん

姉「これを埋めると縁ができるか、なるほどな」

弟「骨……」

この骨はきっと……

姉「じゃあはい、丁重にな」

判ってるよなといったふうに姉がその箱を差し出す
俺はそれを受け取って玄関に向かった


弟「埋めてくる」

埋めたのは玄関先の小さな植込み
万一野良犬にでも掘り返されないように深く埋めた
パンパンと土を叩いて締め固める

弟「こんなもんでいいかな」

後で大きめで綺麗な石を探して上に置こう
お墓というわけでもないけど、眼を瞑って手を合わせる
しばらくそうしていて……

弟「……」

うん、まあそうだよな
いきなり都合よく何か起きるわけでもないか
実はちょっと期待してたんだけど

弟「戻るか」

俺は腰を上げ、家に入ろうと玄関の扉を開いた

弟「っ?」

その時シュッと、足元を白いものが掠めた気が……


「きゃあっ!」

奥で姉の叫び声がした

弟「姉貴! どうした?!  うわっ!」

慌ててリビングに戻った俺が見たものは

姉「び、びっくりした……戸が開いたんであんたかと思ったら」

面食らった表情の姉と
その視線の先にぴょこんっと立っている可愛い女の子

見習い「どうもー」

弟「うわわっ!」

見習い「そんなに驚かなくてもー、土地の縁が繋がったんですよー」

弟「いや……そうじゃなくて」

俺達が驚いてるのはそういうことじゃなくて
見習いちゃん、その姿は……

姉「見習いちゃん、こっち来て!」

見習い「えー?」

姉「こらっ! あんたは見るなっ!」

弟「み、見てませんっ」

見習いちゃんは一糸纏わぬ姿、つまり全裸だった
うへへへ

そしてなんやかんやと、10分後

見習い「いやあ驚いちゃいました、あははー」

笑ってそう言う見習いちゃん
残念ながらすでに姉に借りた部屋着を身に着けている

姉「驚いたのはこっちだよ」

見習い「急いで来ちゃったから用意してくるの忘れちゃったんですよねー」

弟「いやいや、いくら慌ててたからって普通服は忘れないだろ」

姉「お風呂入ってたとか?」

見習い「違いますよー、私いつもは服なんて来てませんからー」

姉「え? いつも裸なの?」

見習い「だからー、服を着るのは人の形になった時だけですよー」

姉「人の形?……あ」

弟「そうか」

じゃあさっき玄関で足元を掠めたのは……

見習い「弟さんのピンチだから慌てて来たんですよー」

姉「あ、もう判ってるんだ」

見習い「さっき縁が繋がった時に、弟さんのお祈りが伝わって来ましたからねー」

弟「マジで?」

姉「祈ったのか……」

弟「……うん」

見習い「おちんちんダメになっちゃたんですよね?」

弟「あ……はい」

うあ……
ダメになったなんて口に出して言われると堪える
もうなんか泣きそう……

弟「これ治るよね? 女になったのが原因なんだよね?」

俺は縋る想いで見習いちゃんに尋ねた
しかしその答えは……

見習い「いやー、違うと思うんですよねー」

俺の期待は無残にも砕け散った……
のだった

弟「違うって……」

姉「あの山での事とは全然関係ないと?」

見習い「んー、全然ってこともないんですけどねー」

弟「?」

見習い「でも直接の原因は弟さん自身の問題だと思うんですよねー」

弟「俺の自身の……問題?」

姉「あ、それってもしかして本当に女になりたくなっちゃったとか」

弟「ええっ?! いやそれはないって!」

姉「いや判らんぞ、口ではそう言ってても女の喜びを覚えた身体が無意識にだな……」

弟「ま、まさか……」

そ、それはない……はずだ
女もいいかな、なんて思ったりしなかった……いや
あれ?……したっけ?

見習い「いえいえーそうじゃなくてー」

……ふぅ
そうだね、そんなこと無いよね
いまちょっと信じかけた自分が怖い

姉「じゃあなんだって言うんだ、弟の問題って」

見習い「それはですねー、その前にお電話お借り出来ますかー?」

姉「え、電話? そこにあるけど……」

姉がテーブルの脇を指さす
電話台に乗ったごく普通のプッシュホン、見習いちゃんはその受話器を取り上げた

ピポパポとダイヤルキーを押していく
コール音の間もなく電話先はすぐに出た

見習い「あ、お母さん」

やはりというか当然というか、相手は女将さんのようだった
耳をそばだててみたけど、話の内容はよく判らない

「はい、はい」 「はい、わかってます」 「でも」 「ごめんなさい」 「はい」

こちらの説明をするでもなく、ただ見習いちゃんは返事をしているだけだった

よく判らないけどなんだろう
ごめんなさいって……どういうことなんだろうか?

などど考えてるうちに電話は終わった
見習いちゃんが受話器を戻す

見習いちゃん「ありがとうございましたー」

弟「見習いちゃん、今の電話女将さんだろ?」

見習い「はいー、アドバイスもらいましたー」

弟「アドバイスって……女将さんは事情判ってるの?」

見習い「もちろんー、もうここはお山の一部になってますからねー。 なんでもお見通しですよー」

そうか、縁が繋がるってそういうことなのか

姉「じゃあ女将さんもここに現れることが出来るのか?」

見習い「今は無理ですー。 お母さん大事な時ですからねー、お山を離れられないんですよー」

姉「そ、そうか」

大事な時期ってのが何か判らないけど、女将さんは来られないらしい


弟「怒られたの?」

見習い「え?」

弟「謝ってただろ? ごめんなさいって」

見習い「あ……やだなー、盗み聞きは良くないですよー」

弟「え……あ、いや……ごめん」

弟「でもちょっと気になったから」

見習い「別に何でもないですよー、そんなことより弟さんー」

見習い「おちんちんの他には変なことはないですかー?」

弟「変なこと?」

なにか話を逸らされた感じだったけど、自分のことで必死だったその時の俺は
それを深く気に掛けることもなかった

見習い「はいー、気分が悪くなったり重くなったりー。 そんなことですー」

弟「んー、気分が重くなるって言えば……」

すぐに思い当たることがあった
毎晩、毎朝、眠るたび、目覚めるたびに嫌な気分にさせられてる

弟「夢……かな。 この家に帰ってからずっと嫌な夢ばかり見るんだ」

見習い「どんな夢ですかー?」

弟「え……その、姉貴の」

姉「え、私の夢?」

弟「姉貴に嫌われる夢なんだ、気持ち悪いとか近寄るなとか吐き捨てられてさ」

姉「は?」

弟「お前の顔なんか見たくないって姉貴が出て行っちまって」

弟「俺はこの家に一人残されて……後悔するんだ自分のしたことを」

姉「馬鹿……なんて夢見てるんだよ。 私がそんなことするはずないだろが」

姉の声はかすかに震えていた

弟「わかってるけど見ちまうんだよ……何度も何度も」

見習い「なるほどー、それで夢の中の弟さんはお姉さんに欲情してるんですかー?」

弟「それはその……」

見習い「してるんですねー? 恥ずかしがらずに言って下さいよー」

弟「してる……すごく。 気持ちは、だけど」

見習い「どういうふうにですかー?」

弟「姉貴に罵倒された時なんか襲いかかりそうになる」

見習い「でも襲わないんですよねー? それはどうしてー?」

弟「それは……もう一方では姉貴を傷つけちゃダメだって、それを押留める俺もいて」

見習い「そしておちんちんは反応しない」

弟「うん、好きにさせるととんでも無いことになる気がするから」

見習い「ほらねー、自分で押さえつけてるでしょー?」

弟「あ……え、でもそれは……」

姉「そうだ、現実なら例えどんなことでも私が弟を拒むことなどない。 だから弟が自分を抑える必要も無いはずだ」

見習い「そうですねー、でもそれはお二人が純粋にお二人だけの場合ですよねー」

姉「え?」

弟「どういうこと?」

見習い「今お二人の間には不純物が存在してますー」

姉「不純物? 私達の間に?」

見習い「悪いものが憑いてるんですよー」

弟「ま、まさか……俺に?」

見習い「はいー、弟さんのおちんちんにですー」

姉「ええっ?」

弟「マジ? その憑いてるのが勃たせなくしてるの?」

見習い「いえだからそれは逆なんですよー。 憑いてるのはオチンチンで悪さしたくてー」

見習い「それを抑えるために弟さん自身が無意識におちんちんをダメにしてるんですよー」

弟「そうか、俺自身の問題ってそういうことか」

姉「なんだそれ、一体何が憑いてやがるって言うんだ?」

見習い「もともとはこの家、特に弟さんに纏わり付いてたゴミみたいな雑霊でしょうねー」

弟「俺にそんなものが……でも何で急に」

見習い「それは弟さんがお母さんと関係したからなんですよー」

弟「関係……」

見習い「お母さんと関係したことで一時的に弟さんに力が宿ってたんですよねー」

姉「力って……妖力みたいなものか?」

見習い「そんなものですねー。 それを雑霊が吸い取って現実に影響を与える位の力を持っちゃったということですー」

見習い「そして弟さんが男に戻る時におちんちんに取り憑いたみたいですー」

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