今日は久しぶりに街に出て、ぶらぶらとショッピング。
たまにしか来ないし、何か面白いものでもないかなって思ったんだけど・・・。
うーん。
ボクって、こういう所にきてもあんまり見るものが無いんだよね。
妹の鈴谷には、少しくらい流行に気を遣えって言われてしまったし。
同じく熊野には、美容やコスメにもう少し関心を持てとも言われた。
艦隊のみんなには、ボクは航空機にしか関心の無いマニアとして扱われてしまう始末。
一応、ボクなりには気を遣ってるんだよ?
・・・まぁ、提督はその辺ちゃんと分かってくれるから、それでいいと思ってるけどさ。
だって、ボクらが関心を寄せる男なんて、彼しかいないだろう?
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あ、そうだ!
ちょうど季節の変わり目だし、提督にカワイイって言って貰えそうな服でも探そうかな。
何がいいかな?
三隈や熊野みたいなお嬢様系はボクには似合わないし・・・。
でも、鈴谷みたいなシティ・ガールを目指すのも、ちゃんと勉強してないと難しい。
やっぱ、無難に動きやすいパンツルックで、アクセはこうで・・・
などと考えていると。
「て・・・く?そろそろランチにしません?」
「今日のあなたは、わたくしのものですわ」
前方に、うっとおしいカップル発見。
腕なんか組んじゃって、羨ましいなぁ。
ボクも提督と、あんな風に・・・。
「今日だけは、モガミンのことは忘れてくださいまし」
待てよ?
今、ボクの名前を呼ばなかったか。
んー?
あっ・・・
あれは三隈。それと・・・
提督じゃないか!
「二人だけって、つ、つまり・・・」
「そういうこと、なのか・・・?」
見つけた瞬間、ボクの心臓は急激に萎縮した。
胸が、苦しい。
* * *
×わたくし
○三隈
そんな。三隈は確か、熊野とエステに出かけるって。
提督は、秘書艦の満潮と外回りに行くって。
なんで?
なんでボクが独りで、あの二人が一緒に買い物を楽しんでるの?
三隈や提督どころか、熊野や満潮までがボクに嘘を吹き込んだというのか。
そんな馬鹿な・・・。
ボクなんか、提督と手をつないだことさえないんだぞ。
直接どころか、間接キスすらしたことが無いんだ。
それを三隈・・・あの子は、もうやってのけたというのか?
そんな馬鹿な。
提督とボクは、出会ってすぐに意気投合したはずだった。
のちに婚約だってした。
ボクの好みは、何でも分かってくれると思ってた。
ボクだって、提督の趣味に合わせて色んなことをたしなんだ。
なのに、どうして・・・?
ボクは自分の腰がすっかり抜けていることにすら、すぐには気付けなかった。
――――
「最上姉お帰り。・・・何か、あったの?」
やっとの思いで寮に帰ると、鈴谷が心配そうに声を掛けてきた。
ボクは、蚊の鳴くような声で答える。
「・・・うん。・・・少し、ひとりにして欲しいかも。」
「りょーかい。何があったか、ちょっと気になるケド・・・」
「・・・ごめん」
「分かってる。多分、あの人のことだよね」
言ってから、鈴谷はハッとした顔でゴメン、と付け加えた。
「鈴谷、今まで黙ってて・・・」
「いいんだ」
気を遣ってくれる妹の優しさが、少しだけ傷に染み渡った。
* * *
少し落ち着いたボクは、鈴谷に事の顛末を話すことにした。
「三隈が提督のことを好いていることには、一応気付いていたさ。」
もちろん、三隈に限った話では無いんだけどね・・・。
鈴谷は答える。
「鈴谷の緩い観念が参考になるかどうかは分からないけど・・・」
「なにさ?言ってみて」
「・・・怒ったり泣いたりしない?」
「多分」
鈴谷はこれを、了承と捉えたみたいだ。
「・・・もし鈴谷が提督の立場だったらさ、三つの考えが浮かぶかも。」
「一つ目が、三隈の押しに耐えかねた、ってパターン」
「あの提督のことだから、まだ捨てるべきじゃない可能性っしょ?」
そうかもしれない。それならまだ許してあげられるかな。
「それで、・・・二つ目が、最上姉が飽きられたってパターン」
・・・まぁ嫌だけど、一番想像のつきやすい意見だと思う。
「ボクの、何が悪かったんだろうなぁ・・・」
紛う事なきひとりごとにも、鈴谷はしっかり答える。
「一緒にいる時間が長いとさ、家族みたいに思えてこない?」
「居るのが当たり前で、少し刺激が欲しくなる。」
「・・・鈴谷だけかな?」
こうして、浮気者は生まれるのか。
そして少しの間を空けた後、鈴谷は決定的なことを口にした。
「三つ目が、……」
「最初から、最上姉とはお試し感覚だった」
……脂汗が出てきた。
「とりあえずお付き合いして、それから好きになるかどうか判断するんだ」
「もちろん、人として好きじゃない人とは付き合わないよ?」
「でも男のコと一緒のフツーのお出かけをさ、形だけデートにしてみたり・・・」
「なーんて、女のコもいるって話だよ?」
「まぁ、女のコのことだから、あの人には関係ないかもしれないケド」
* * *
悪い想像なんて、しないが勝ちだと思ってたんだ。
だけど、鈴谷の言葉を聞いて、悪い想像をしない方がどうかしてると思う。
「・・・最後に、鈴谷の見解を聞かせてくれるかい?」
鈴谷は、ボクの反応にバツが悪そうな表情を浮かべていたが、はっきりと答えた。
「さっきも言ったけど、鈴谷は二つ目の考えが一番近いと思うな」
「提督はさ、着任してから割とすぐに最上姉と付き合いだしたじゃん?」
「・・・うん。」
ボクは相槌を返す。
「って事はさ。あんだけいる女のコ、みーんな無視して最上姉を選んだって事っしょ?」
「提督もさ、もしかしたらもう少し・・・」
「遊びたかった、とかじゃないの?」
……そんな。
「それってボク、付き合いだすのが早すぎたってこと?」
「だからって、まだ諦める時期じゃないけどね。」
鈴谷は少しだけ、いつものようにおどけながら続けた。
「もうちょい、ガマンしてあげたら?」
「もちろん、一旦ここいらで話をつけて、さ。」
やっぱり、提督とは一度話すしかないのかな。
ちょっと怖いけど・・・。
「・・・わかったよ、提督と話してくる。」
――――
こうしてボクは、提督の部屋に向かった。
彼はいつものように、難しそうな書類の束に手をつけている。
奥の給湯室には、三隈もいる様子だ。
ボクは少しだけ迷ったけど、やっぱり例の件を言うことにした。
「ねえ、提督。・・・ボクは、提督の婚約者だよね?」
「何だ、今更。当たり前のことだろう?」
すぐに答えが返ってきた。
「・・・そうだよね。」
「何か、あったのか?」
ボクは俯く。
「……」
「……」
次に沈黙を破ったのも、ボクだった。
「昼間、駅前通りのお店に行ったんだ。」
提督は、動じた様子を見せない。
給湯室からは、静かに沸く熱湯の音だけが聞こえている。
「あそこのお店で、羨ましいカップルを見たなぁ。」
「腕組んで、一緒にランチして、あーん、ってさ。」
言いつつ、ちょっと惨めになってきた。
「・・・ねぇ、提督。ボクたちってさ、まだ手も繋いでないよね。」
提督は、落ち着き払った様子で答える。
「手を繋いでないのはまぁ、アレだけどな」
「・・・別にあそこなら、カップルなんて幾らでもいるだろ?」
「・・・そう、だよね。」
少し、頭にきている。なんで彼は動じないの?
ボクは少しだけ、棘のある言葉を投げつけることにした。
「デパートの地下で、お茶請けのお煎餅を買うカップルなんて、いくらでもいるよね」
「・・・例えば、そんな。」
ボクは机の上の、ちょっと高級そうな箱を指差して――
「・・・まだ、しらばっくれるのかい?」
提督を睨めつけた。
* * *
「待ってください!」
ボクの言葉に答えたのは、それまで奥に居た三隈だった。
「提督は悪くありませんの!三隈が強引に誘って・・・」
「・・・そうなの、提督?」
淡い期待をよそに、提督は答えない。
まあ、そんな期待はするだけ無駄だと思っていたけど。
「違うってさ。」
流し目を送るボクに、三隈は少し焦った様子で応じる。
「強引に誘ったのは本当ですわ!」
「提督は、三隈の求めに応じてくださっただけです。」
そんな理屈が通ってたまるか。ボク、そろそろ頭にきたぞ。
「だからって、ボクをほったらかして二人仲良くお出かけかい?」
「提督と付き合ってるのは、ボクなんだぞ!」
「・・・ボクのことなんか、その程度でしかないんだ?」
「……」
くそっ。なんであの男は黙ってるんだよ。
「違います!」
「じゃあ何が違うって言うのさ!」
ボクの頭は、すっかりのぼせていた。
「三隈は、モガミンと提督の両方が大切です!」
「ですから・・・その」
「提督とモガミンが一緒になって、三隈のことを見て下さらなくなってしまうのが、嫌で・・・」
三隈は、なおも懸命に訴えてくる。
「提督だって、モガミンのことを見捨てたはずはありません!」
「ね、提督。そうでしょう?」
「……」
「結局モガミンが一番だって。三隈とはあくまでお遊びだって。」
「そう、おっしゃったではありませんか・・・。」
「……」
あの男は依然、だんまりを決め込む。
疑念を深めるボクにはもう、この男を信用するだけの理由を見つけられない。
* * *
たっぷりと間をとった後、ようやく男は重たい口を開いた。
「・・・俺は、三隈が好きだ。」
「提督!こんな時に・・・やめてくださいまし!」
「冗談なんかじゃない。本気だ」
そんな・・・。
ボクはもう、何も考えられない。
男は続ける。
「最上。俺は、お前に飽きていたんだ。」
「お前には悪いが、俺のことは忘れてくれないか。」
この言葉に応じたのも、三隈だ。
「な、何をおっしゃるのです・・・?」
彼女の傷つきようは、ボク以上にも見える。
しかしボクにはもう、二人の言葉は聞こえていない。
もう、何も聞きたくない・・・。
ボクは、黙って部屋を後にした。
――――――
――――
――
きっかけは、今思えば些細な出来事にすぎないだろう。
だけど積み重なった不満の上では、その些細な出来事ですら、長年築いた関係を崩す炸薬になるんだ。
あの時のボクのしつこい追求に、提督はついに愛想を尽かしたのだろう。
あの後、ボクは一切の仕事に手をつけられなくなった。
三隈や提督とも、ずっと疎遠な状態が続いている。
僻地の鎮守府に転属させられたりもした。
でも、そこでさえまともな業務一つこなせないボクを待っていたのは当然、退役しかない。
こうしてボクは普通の女の子として生活することになり・・・
そしていつしか、街の雑踏の中に溶け込んでいった。
* * *
そして、数年の月日が経った。
ボクは今、あの通りを歩いている。
再開発が進んだ駅前通りは、以前にも増して活気に溢れたように感じられる。
通りを行き交う人々は、スマホに夢中な者、友達とお喋りに興じている者などそれぞれだ。
しかし、誰もが通りを歩く人間を単なる障害物程度にしか捉えてないようにも見える。
それも一理あるかもしれないな。
まさしく、あの日以来のボクは抜け殻のようで、障害物という表現が相応しい。
学校には行ってたけど、特に何かあった訳でもない。
親友というべき相手も、熱中できるスポーツなども見つからなかった。
モテない訳じゃなかったが、男と付き合うなんてボクには出来る筈もなく。
ここ数年で、ちょっぴり人との会話が苦手になった・・・かもしれない。
そして――
全ての始まりは、この通りでデートを目撃したことだ。
ここを歩き回ることで・・・
何か、少しでも自分が変われるきっかけは見つからないかな?
そんなことを考えながら、通りをふらついていると――
「もしかして、モガミン・・・?」
少し、嫌な相手と目が合った。
* * *
「三、隈・・・」
今、一番会いたくなかった相手だ。
ボクの、かつての恋敵。
「モガミン、お会いしたかったですわ」
「う、うん・・・久しぶり」
自分でも分かりやすいくらい、上ずった声が出てしまった。
「あの、その・・・元気でやっていらして?」
三隈は、ボクの顔色をしきりに窺いながら続ける。
「少し、痩せたようですね。ご飯はちゃんと、食べてくださいな」
「そうだね。ちょっと、食が細いかな・・・。」
「やっぱり!・・・モガミン?三隈たちみんな、あなたのことが心配でしたのよ?」
「・・・ごめん。」
「謝るのでしたら、たまには連絡の一つくらい下さってもよいではありませんか・・・。」
「うん・・・。」
ボクは、自分の気持ちが疼きだす感覚を覚えながらも、三隈との空虚な世間話に花を咲かせた。
無限に続くかのように思われた、上滑りの会話。
道行く人々からすれば、ボクらは仲の良い旧友同士と映るだろう。
しかしボクは、自分の感情を長く抑えつけることができなかった。
* * *
「さっきからなんなんだよ。」
ボクは、冷たい声音で吐き捨てる。
「きみが来なければ、ボクはあの男と続いた筈なんだ。」
「・・・きみが目の前に現れること自体、ボクには耐え難い。」
言いながら、ボクはあの男――提督のことを、未だ諦められないのだと自覚していた。
「そんなこと言わないでくださいな。三隈は、純粋に貴女のことが心配して・・・」
「じゃあさ。・・・その指輪は何?」
間をあけず、ボクは続ける。
「いっつもそうだ。きみは、ボクの邪魔ばかり。」
「モガミン・・・」
「どうせあの男とだって、今頃幸せに暮らしているんだろ?」
言葉にするうち、ボクの中ではあの頃の情景がフラッシュバックを起こしていた。
提督と仲が良かった頃、一緒に歩いた通り。
あの日、喧嘩の末に駆け抜けた、鎮守府の冷たい廊下。
だが。
三隈はここで、キョトンとした顔を覗かせる。
「・・・え?ちょっとお待ちになって・・・。」
その表情がまた、腹立たしくて――
「・・・なんだよ。」
「モガミンは、三隈があの男と一緒になったとお思いで?」
・・・は?
「違うって言うのか。」
「違いますわ!あんな男となんて・・・」
「……」
何だ?あんな男って・・・
「違うって、言うのか・・・?」
どういうことだ。それは、どんなつもりで言って・・・
三隈は悲痛な顔で続ける。
「そういえばモガミンは、途中で帰ってしまわれたのでしたね。」
「事の顛末は、こうなっておりますの――」
――――――
――――――
「モガミンが、大切ではないと・・・?」
「・・・そうとも言う。」
「三隈、言いましたよね。モガミンのことを、ずっと大切にして欲しいと。」
「・・・ああ。」
「ああとは何です!三隈を大切にするということは、その約束を破るということですのよ!」
「それでは、約束が違うではありませんか・・・。」
「……」
「そんな提督のことを、これ以上三隈が好きになることはありません」
「・・・さようなら」
「・・・待てといったら、待ってくれるか?」
「答える必要が、おありでしょうか。」
「・・・いや、いい。」
――――――
――――――
「この指輪は、のちに出会った民間の殿方に頂いたものですわ。」
「そう、だったのか。そんな、ことが・・・。」
言いながら、ボクはガンガンと響く頭痛に顔をしかめていた。
「じゃあ、ボクのこの数年間って、一体・・・。」
何だったんだ?
三隈に対する積年の恨みとは、いったい何に向かうべきものだった・・・?
・・・
いや。
ボクはもう、その答えを知っている。
ボクが恨めしかったのは、三隈でも、提督でもなく・・・。
男一人満足させることが出来ない、自分の不甲斐なさ、だったのか。
ボクは頭の中が真っ白になって――
「う・・・わぁぁぁぁ」
堰を切ったように、瞳から涙を溢れさせる。
なにせ、これは長年にわたって押し込めてきた積年の涙だ。
ボクは人目を憚る余裕もなく、ただただ叫び泣いていた。
「モガミン・・・」
三隈はかける言葉が見つからないのか、少しおろおろしていたけど。
やがて、そっとボクに胸を貸してくれた。
「心配掛けて、ゴメン・・・。」
「こっちこそ、原因は三隈ですのに・・・。」
「いいんだ・・・。鈴谷と熊野にも、連絡は取れる・・・?」
「すぐにでもお呼びできますわ」
「ひっぐ・・・。二人にも、改めて話さなくちゃ、ね・・・。」
かつての恋敵は、それ以前の仲良し姉妹に戻り始めて。
彼女にぶつけていたのは・・・
積年の恨みではなく、長年溜めこまれた涙だった。
ボクにできたせめてもの仕返しは、涙で濡らした服のクリーニング代だけ。
今までの空虚な数年は、どうやって埋めればいいんだろう?
提督は、今も元気にしているのかな。
ああ・・・電話でも何でもいい。
少しだけでいいから、彼と話がしたいな。
あとでまた、鈴谷にでも頼ってみることにしよう・・・。
――――――
――――
<おしまい>
苦々しいSSになっちゃったので、お口直しもセットで以下に置いときます。
パラレルね
「ふんふふ~ん♪」
今日は街中でお買い物。
基本、飛行機にしか興味がないと思われてるボクだけど・・・
ちゃんと、こういう女の子らしいところもあるんだよ?
ねえ、提督。
きみは、何をプレゼントすれば喜んでくれるかな。
うーん、出かける前に鈴谷にでも訊いておけば良かったかも。
・・・
「て・・・く、そろそろランチにしませんか?」
「ああ、そうしようか。・・・少し、歩き疲れた。」
「ふふ。」
「そこのイタ飯屋でどうだ?」
「み・・・まは、あそこのサ店がいいですわ。」
「お前に任せるよ。」
「もうったら・・・うふふ。」
実にうっとおしいカップルだなぁ。
ボクは、背中の方から聞こえる甘ったるい声に、ちょっぴり頭を悩ませていた。
・・・っていうか、何か聞いたことのある声じゃないか?
そう思って、ショーウインドウ越しにその声を確認してみた。
「やっぱり提督か・・・。」
隣にいるのは、えーっと。
「げ。三隈・・・?」
あの妹か・・・。
提督のことを好きなのは知ってたけどなぁ。
でも、ボクの提督にあんまりベタベタしないで欲しい。
この瞬間、ボクはふたりをストーキングすることに決めた。
ほどなくして、二人は近くの喫茶店で昼食をとり始めた。
ボクはその後を追って同じ店に入り、物陰の席から様子見だ。
「俺は、このクラブハウスサンドとエスプレッソで。」
「三隈はパンケーキと、エスプレッソをもうひとつ。」
二人揃って、ウエイターさんに注文。
何気に同じものを注文しちゃってるし。
「ご注文は?」
「あ、ボク、ホットサンドとエスプレッソを。」
* * *
「最近、パンケーキ流行ってるよな。美味しいのか?」
「おいしいですわよ。提督、一口いかが?」
「頂こう。」
「はい、あ~ん。」
「あーん、んむ」
「……」
うざい。
思わず席を立ったボクは、ひとつ嫌がらせをしてやることにした。
ウエイターさんは・・・。
よし、ちょうど居ない。
ボクは、厨房付近にある大きな水差しを手に取って、二人のもとに近づく。
・・・
「お冷、お足しいたしますよ。」
ウエイターさんの振りをしたボクが目の前に立つ。
「あ、お願いします。それでな・・・」
提督はというと、こちらに目もくれず三隈とお喋りを続けている。
「お冷、三隈のほうにも・・・あ」
一方の三隈は、ボクの姿に気付いてギクリと身体を強張らせた。
「?」
「どうかしたか、三隈?」
「・・・あれ」
「へ?・・・あ」
にっこりと笑うボク。
「お冷を、どうぞ。」
言いながら、提督の頭にお冷を回しかけてやった。
ざまあみろ。
――――
翌朝。
「すびばてんでひた(訳:スミマセンでした)」
ずずっ。
鼻水を垂らしながら、土下座する男がひとり。
ボクのお冷プレゼントによって風邪を引いた提督だ。
「ふん。いいザマだね。」
足を組み替えながら言うボク。
「他の女のコにあんまり優しくしないでって、あれだけ言ったじゃないか。」
まったくもう。
ちょっと目を離すとスグこれなんだから・・・。
「反省したかい?」
「ふぁい」
む、ホントかなぁ。
うーん。
ま、もう一回だけ悪戯してから許してあげるとしよう。
「・・・ふぅ、もういいよ。」
嘘だけど。
「反省したなら、ちゃんと布団に戻っててよね。」
提督はボクの言葉を聞くと、おもむろに布団へと戻っていった。
* * *
「ホラ。お粥作ってきたよ。」
今日の提督の朝食は、ボクの愛(?)がこもったお粥。
勘のいい人なら、ボクの魂胆はわかるかな?
「食べるでしょ?」
にこにこと微笑みながら、ボクは提督の傍らへ腰掛ける。
「ああ、すまない・・・。」
「いいよ。」
ふーふー。
「はい、あ~ん。」
ボクはお粥をレンゲに掬うと、提督の口に運ぶ。
「あ、あーん・・・んむ」
食べた食べた。
提督、恥ずかしそうだなぁ。
でもなんか、ちょっぴり親鳥の気分。
「もっと食べてよ。」
ボクが次々とお粥を運ぶと、提督も徐々に素直な食べっぷりを見せ始めた。
・・・
そろそろかな?
懐に仕込んだ“あるもの”を、レンゲに乗せて提督の口に運ぶ。
ふーふー。
丹念に冷ましてあげて・・・。
「はい。」
レンゲを差し出す。
「あむ」
提督が口を・・・つけた!
・・・どうだ!
「……」
「・・・ぶっ!?げほげほっ、苦ッ!」
わっ!?
「もぉ~。提督?顔にかかったじゃないか。」
白いお粥で、べたべただ。
「最上ィ!おまっ、げふんっ」
「え゛ほっ・・・お前これ、何入れた!」
やーい。引っかかった。
「ん?なんのこと?」
思わず笑みがこぼれる。
「い゛や・・・めっちゃ苦いんだけど」
「やだなぁ。ボクのお粥が不味いって言うのかい?」
「途中から急に不味くなるわけないだろ!」
鋭いツッコミをありがとう。
「・・・で、何入れたんだ?」
「提督が早く快復するように、粉薬を仕込んであげたのさ。」
「――とびきり苦いヤツを、ね。」
「……」
「最上?」
「なんだい?」
「もしかして、まだ怒ってる、とか・・・。」
愛想笑いを浮かべる提督。
「ん?」
にっこりと威圧するボク。
「「……」」
部屋に沈黙が満ちた。
そして――
「ホント、スミマセンでした。」
土下座、再び。
「婚約、忘れてないよね?」
「もちろんです。」
「もうあんなことしない?」
「誓ってしません。」
「もっとボクだけ見ててくれる?」
「仰せの通りに。」
うんうん。
「しょうがないなぁ。じゃあ、特別に許してあげる。」
「今度、他の子と一緒に出掛ける時は、ボクに一言伝えること。」
「そしたら、ボクがついて行くかどうか決めるから。」
提督は苦笑して、次のように返した。
「ついてくるかもしれないのか・・・。」
「必ずついて行く訳じゃないよ?」
ボクは、提督の鼻先に指を突きつけると・・・
「ただ、提督がみんなに危害を加えないか判断するまでさ。」
こう言って、思いっきり鼻を小突いてやった。
「ふぎっ」
ふふっ、変な声。
鼻を押さえて悶える提督に、ボクは最後にこう付け加えてやったのさ。
「そうだ。粉薬のお口直し・・・ボクのキスでどうかな?」
――――――
――――
<おしまい>
以上で完結でした!
お付き合い頂きありがとうございます。
依頼は明日にでも出します
このSSまとめへのコメント
胸糞展開書くなら注意書きくらいしとけカスが
誤解とおもいきやガチの浮気じゃねえか
胸糞悪ぃ
随分前のだけど良いの見つけたと思ったらなんか噛み付いてる奴いてワロタ