……まぁ、嘘だと思うよね……私だって最初は信じられなかったもん

はいこれ、診断書？みたいなやつ

なんかね、肺の機能が段々弱ってく病気なんだって

原因は不明で、ちゃんとした治療も出来ない難病らしいよ

出来る事といったら、病気が進行して自分で息が出来ない状態の時に、人工呼吸器とかで延命するぐらいだって

それに書いてあるでしょ？

どう？これで信じてくれた？

それでね、プロデューサーにお願いがあるんだけど……

私の体がもつまで、今まで通りにアイドル活動を続けさせて欲しいの

……何言ってるんだって？まぁ、そう思うよね

……でもね、決めたの

昨日、病院から帰ってすぐ、お母さんとお父さんに結果を話して……

その一日中、家族３人で泣いて泣いて散々泣き明かして、その後みっちり話し合って……決めたの

残った人生を、アイドルの北条加蓮として……

ファンの人たちに、笑顔とか元気とか夢とか希望とかそういうのを、与えていこうって

病弱で病院に籠りきりだった私に、夢や元気をくれた、あのアイドルみたいに……

そして、１６歳の女の子として……

今まで通りに友達と遊んで、色んなやりたい事やって皆と笑って……

もう二度と、自分の事で悲しんで泣いたりしないで生きていくって……

そう、決めたんだ

だからお願い

今まで通り、アイドルを続けさせて……

………………

………………

……うん、ありがとう

プロデューサーなら、そう言ってくれるって思った

……ありがとう

……あ、そうだ

後ね……それに加えて、一つ約束があるの

まぁこれは、プロデューサーだけじゃなくて、皆にも言う事なんだけど……

明日から、私の事で泣かないで欲しいの

……うん、そう

私の事で泣かないで欲しいの

……さっき、残った人生を皆と遊んで笑って、二度と自分の事では悲しまずに泣かないで生きていくって、言ったでしょ？

私が私の事で泣かないんだから、プロデューサーも

明日から私の事で悲しんで泣いたりしないで、笑って明るく楽しく過ごして欲しいの

それで私が死んじゃった後も……他の事ではどんなに泣いたって良いから

絶対に、私の事では泣かないで欲しいの

……約束してくれる？

……ん？なんで明日からなのかって？

私も、病気の事を聞いた日は散々泣いたからね

だから、明日から

プロデューサーがもし、私のために泣いてくれるんだったら、今日中にしっかり泣いておいてね！

……なんてね、ふふっ

……で、どうなの？約束してくれるの？

……うん、ありがとう

それじゃ、明日から……私の事では何があっても

死んじゃった後も、絶対に泣いちゃダメだからね！約束したよ

……あ、そうだ

ゴメン！あともう一つお願い

明日から、仕事の無い空いた時間とかは、極力皆と過ごすために使う予定だし、プロデューサーにも付き合ってもらうけど……

自分の仕事もしないで私に付き合うのは無しだからね

私も自分の仕事はしっかりやるし、皆の負担や邪魔にはなりたくないから

しっかり仕事をやった上で、もし空いた時間があれば、その時はちゃんと付き合ってね

……うん、お願いね

それじゃ、今日はもう私は仕事ないよね？

私はこれから、他の皆にもこの事を話してくるね

なるべく直接会って話してくるけど、今日は会えない人たちもいるから

その人にはプロデューサーからも伝えて貰っても良い？

……ありがとう！それじゃ、また明日からよろしくね！

お疲れ様！

今日はここまで
短いから、明日には終わる
読んでくれてる人がいたら、ありがとう

――――――――――

かな子ー！あ、愛梨もいる

二人で何してるの？……お菓子作り？ねねっ、私も一緒にやらせて

……うん、ありがとう！

うん……これからね、なるべく事務所の皆と色んなやりたい事とかやったことない事して、色んな事を話していくんだ

……うん……で、今日は何作るの？

クッキーか、それなら私でも上手くできそうかな

……ふんふん……うん……んっ……えと、こう？

……へぇー……うわー、結構むずかしいだね……

……ん……よしっ、こんな感じ？やった、出来た！後は形作って焼くだけ？そっかぁ、どうしようかな

よし、じゃあ……ん？……ハート型にしないのかって？な、何で？

……ち、違うよ！プロデューサーはそんなんじゃ……！

だから違うってば！ちょっとかな子！愛梨！もー！

――――――――――

拓海さん、夏樹さん！ねーねー、お願いなんだけど、バイクの後ろ乗っけて

うん、一度乗ってみたかったんだ！

本当？ありがとう拓海さん！……んっしょと、うん良いよ

わかった、しっかり捕まれば良いんだね……じゃあ……

うわっ！？拓海さんのオッパイでっか！すっご！柔らかっ！

きゃっ！？もー、危ないよ！……ちょ、そんな怒らなくたって……

……う……ごめん、なさい……ふぇ……だ、だって……う……ぐす、あんまり話した事なかったし……ひっく……仲良く、なりたくて……

……なんてねっ！あはははは！！拓海さん、すっごいオロオロして奈緒みたい！かわいいー！

夏樹さん見た？今の拓海さんの顔……え？写真とった？私にも送って！

……あれ、拓海さん？恐い顔してるよ……？ダメだよ……アイドルがそんな顔しちゃ……

ちょ、やめ……何その震えるデコピンの構え……やだやだ！すっごい痛そう！助けて夏樹さん！ちょっと待って、やめ……

藍子、どこ行くの？散歩？私も一緒に行って良い？ありがとう！

……え？おでこの絆創膏？あっはは、ちょっとね……

……ちょ、こんなの写真撮らないでよ、恥ずかしいじゃん！

……いや、確かに思い出にはなるけど、こんな恥ずかしいの撮らなくたって良いじゃん

もー、こうなったら今日は藍子の恥ずかしい写真撮るまで帰らないからね！

ほら行こ！

――――――――――

やっほー奈緒！お邪魔しまーす

……それで、奈緒のお勧めアニメってどれ？

……え、それ？それって小さい女の子向けのやつじゃないの？

……いや良いけど、もっとこう……一大スペクタクル的なのとか、感動して泣いちゃうような大人向けの……まぁ良いや……とりあえず見せて？

………………

………………

……奈緒……これって、後どれぐらいあるの？

……そんなに！？……ごめん、ちょっと着替えとか取ってくる

……え？何でって？もう、それ全部見るまで帰らないから

今日はもう、奈緒の家に泊まるからね！良いでしょ別に

ちょっと待っててね！すぐ戻ってくるから！

――――――――――

凛！ごめんね、待たせちゃって！

……うん、奈緒と一緒に来ちゃった

いやね……昨日、奈緒の家でアニメ見せてもらったら、思ったより面白くさ……夜通し見ちゃった

……だからごめんねってば！後で甘い物奢ってあげるから

ほら、早くハナコの散歩行こう！ハナコ待ちくたびれちゃってるよ！

ほら凛、リード貸して！行くよハナコ！

……大丈夫だよ！まだ全然平気だって！

ほら、二人とも！早く早く！

―――――――――

お疲れ様でーす！あ、プロデューサーお疲れ様！

あれ？ちひろさんとか、他の皆は？もう帰っちゃったの？なんだ……せっかく、またお菓子作って来たのに……

まぁ良いや、はいプロデューサー！クッキーあげる！

ありすちゃんのイチゴ料理を参考に作ったイチゴクッキーだよ！ピンクのハート型でかわいいでしょ？

あ、プロデューサー見て見て！これ、裕美ちゃんと作ったアクセサリー！どう？よく出来てるでしょ

後ね、今日は色々と皆で撮った写真とか持って来たんだ！

これが、この前肇と一緒に行った川釣りの写真でしょ……こっちが先月に美嘉と莉嘉と一緒に撮ったプリで……

こっちが卯月と未央と買い物行ったやつで、これは先々週に楓さんと温泉行った時の

あ！ほらこれ！麗奈ちゃんと一緒にイタズラした時の写真！見てよこのプロデューサーの顔！あははっ！いやー、見事に成功したよね！

後ね、一昨日は周子と初めてダーツやったんだ！あれむずかしいね、全然当たらなかった

それからね……

……ん？時間？あっ、本当だ……

……えー？良いじゃん、もう少し居たって

プロデューサー、もう少しで仕事終わるでしょ？待ってるから、一緒に帰ろうよ……ね？

久し振りに二人きりで話すんだしさ……もう、少し……くらい……

……えっ？あ、えと、ううん！何でもない！……本当に平気！大丈夫！大丈夫だから！私、あっちのソファーで座って待ってるからパパッと終わせちゃってよ！ね！終わったら、声かけてね、それじゃ！

………………

（……そうだ……今、プロデューサーと二人っきりなんだ……）

（はぁ……どうしよう……なんか……はぁ、そう意識したら……はぁ、はぁ……緊張……はぁ、してきちゃった……）

（はぁ……はぁ……もう、中々……はぁ……プロデューサーと……二人なんて事……はぁ……無い、はぁ……よね……はぁ……はぁ……）

（……だとしたら……はぁ……今日……）

……うひゃあぁっ！？

なっ、何っ！？……はぁ、あ……終わった……？

はぁ……ご、ごめんね……はぁ……少し、はぁ、ボーッとしてて、はぁ……ビックリしちゃった……は……じゃ、帰……は、ろっか……はっ……うん……

はっ……はっ……あ、あのさ！……はっ、プ、プロデュ……はっ、P、Pさん！

はっ、わ、私っ！私ねっ！はっ、私っ！Pさんの――――

……あれ……ここは……病院？

……あ、プロデューサー……私……何で……

……急な発作？……そっか……ごめんね、迷惑かけて……

……お母さんとお父さんは？……もう来るって？……うん……ありがとう

……もう……病院からは出られそうにないかなぁ……あれから三ヶ月かぁ……思ったより短かったな……

ん……あれ？凛と奈緒？どうして？

……事務所に忘れ物して……戻ったら救急車が来てて……なるほどね……ありがとう……来てくれて

……っていうか、二人とも酷い顔してるよ……ボロボロ泣いちゃって……

奈緒は私たちの中で一番年上なんだから、もっとしっかりしなきゃ……

凛も普段の仏頂面はどうしたの？クールな顔が台無しじゃん……

もう……二人とも、約束したのに……

あ……お母さん、お父さん……

ほら二人とも……プロデューサーも……お母さんとお父さんが来てくれたから、帰っても大丈夫だよ

三人とも……明日もあるでしょ……

……ダメだよ……仕事はちゃんとしないと……

……うん……それじゃ……あ、ちょっと待って……

凛、奈緒……そんな泣き顔のまま帰らないでよ

約束したんだからさ……ほら、ね

笑って……

……ふふっ、変な顔……

……うん、それじゃね……ありがとう、来てくれて……

うん……

じゃあね

――――――――――

あれから、もう二日か……

今まではなんとか大丈夫だったけど、いよいよ加蓮の件で忙しくなってきたな

本当なら、仕事なんか放って見舞いに行きたいんだけど……そうもいかないしな

何より本人から言われちゃってるからなぁ

……後、何回顔を合わせられるかな

……ん？電話か

すみません、ちひろさん！電話お願いします！

……さて、そうしたら……

……あれ？電話終わりました？どちらからで……

……あぁ、加蓮の家から……はい……そうですか

……ん？凛と奈緒か、お疲れ

ちょうど今さっき、加蓮の家から電話があってな……

１２月２２日の１８時１４分だ……

……あぁ、色々と話す事もやる事もあるけど、今日はもう帰りな……うん

ちひろさん、後の仕事はやっておきますから、二人を送ってあげて下さい……はい、お願いします

はい、お疲れ様です

……静かだなぁ……

そういえば、二日前もたまたまこうやって誰もいない時に加蓮が来たんだったな……

それで楽しく話して、さぁ帰ろうって時に発作が起きて……

あ……そういえば……加蓮はあの時に、何を言おうとしたんだろうな……

聞くそびれちゃったな……

……あ、駄目だ

加蓮……約束したあの日から昨日までは大丈夫だったんだけどな……

明日も明後日も、その次の日も平気だし……

来年のこの日も、その次の年も大丈夫だけど……

今日だけは駄目だ……

ごめんな……約束守れなかった……

ごめん

――――――――――

凛、奈緒！準備出来たか？

……よし、それじゃ行こうか

すみませんがちひろさん、留守番お願いします

はい……行ってきます

―――――

あれから、もう１年か……日にちが経つのは早いな……

お、ここだな……ご両親は、もう来たみたいなだな

……さて、ちょっと忙しないけど、予定もあるし、お供えして手を合わせて行こうか

あ……それ、凛の家の花か……うん、喜んでくれるよ

……凛も奈緒も１年経っても約束は守れず仕舞いだな

ん？俺か？……俺も駄目だった

結局、誰も加蓮との約束は守れなかったな……

でも……最後には、笑っていられれば良いんじゃないかな……

加蓮が云いたかったのは、きっとそういう事だと思うよ

……さて、それじゃ帰ろうか

じゃあ加蓮、また来年来るからな……

またな








終