勇者「拝啓 愛する魔王様へ♪」(25)
側近「魔王様。勇者と名乗るものから封筒が」
魔王「…ッ!!?」
側近「何者かのいたずらでしょうか? 未開封ですが処分しましょうか」
魔王「み、見せろ…」ビリッ
拝啓魔王様。
無事転生することができました。
今生も仲良くいたしましょう♥
私はいまより城を発ち、愛するあなたの元へと伺います。
魔王「…」ガクガクブルブル
側近「魔王様…・?」
側近「なぜおびえているのです。向かう所敵なしの魔王様が」
側近「仮にこれが本物の勇者からの手紙だとしても、人間なぞ取るに足りません。
魔族の軍勢に阻まれ、この城まで辿り着くことも叶わぬでしょう。フフフ」
魔王「いや…いますぐ勇者の生まれた土地近辺の魔物たちをひきあげさせろ」
側近「しかしあそこには四天王が一人、グランドデーモン様が治めております」
魔王「……」
使い魔「魔王様魔王様~お荷物が届きましたよ~」パタパタ
使い魔「ずいぶん大きいですねぇ。なにを注文したんですか~」
魔王「……ま、まさか」
側近「開けてみましょう」パカ
魔王「この黒巻の巨大な角は」
側近「グランドデーモン様ですね」
使い魔「丁寧な手紙も添えてありますよ」
いま海を越えそちらに向かっています。
会える日を心待ちにしております。
追伸:魔王様へ精のつく食べ物をたくさんお送りいたしますね。
まず最初にグランドデーモンという悪魔の角を送りました。
粉末にして溶かして飲むと健康に良いですよ。
魔王「ああああああああああ!!まただああ!!! イヤあああああああ!!!」
側近「お気を確かに! グランドデーモン様は四天王の中でも最弱」
魔王「殺される…また殺されるんだ…」
側近「またとは…どういうことでしょうか」
側近「魔王様は現世、冥府において最強最悪の存在」
側近「人間の少女など赤子の手をひねるようなものかと存じ上げますが」
魔王「いや、前世の私は奴の前に為す術もなく敗北し。凄惨な死を遂げた」
側近「そんな! えっと、前世と申されますと、300年ほど前でしょうか」
魔王「そうか、そんなになるか…平和だった日々もついに終わるんだなぁ」ホロリ
側近「お気を確かに! まだ敗北すると決まったわけではないでしょう?」
側近「なにを怯えるのです。相手は勇者といえどまだ年端もいかぬ少女です」
側近「前世の因縁がどうであれ、今世は魔王様優勢であられましょう!」
魔王「前世もそんなこといいつつ普通に死んだんだよなぁ」
魔王「前々世もお前(の先祖)に担がれて意気揚々と待ち構えたら死んだんだよなぁ」
側近「え、それは先祖代々ご迷惑をおかけいたしました…」
側近「して、なぜそこまで勝てないのです」
魔王「そ、それは…」
側近「失礼ですが魔王様の度重なる敗因は何でしょうか」
側近「魔王様には魔術の類はほとんど通じませんし、体術も剣術も魔界随一といって良いほど」
側近「小娘なんぞに負ける要素が私にはちっとも思い浮かびません」
側近「まさか前世は魔王様病弱色白少年だったとか!?キャー!」
魔王「いや今とそう変わらん」
側近「…で、ではなぜ…むむむ」
魔王「――――死だ」ボソッ
側近「え? なんていいました?」
魔王「腹上死だ」
側近「フクジョウシ? 腹上死?」
側近「えぇ……」
魔王「あぁ…毎世これを言うのが嫌でたまらん。そしてお前一族のそのドン引きした顔もキツイ」ガクッ
側近「なぜ腹上死……なにしてるんですか」
魔王「……」
側近「顔をそむけてないでちゃんと話してくださいよ! 魔王様が亡くなられると我々は困るんです!」
魔王「貴様は私の能力は知っているな」
側近「はい。すべてのパラメータがカンストしており、あらゆる耐性もMAX! つまりは最強無敵です!」
魔王「そうだ。これは私が前世の記憶と魔力を引き継いだまま、今世へと転生したことによる絶対のちからだ」
魔王「だがこれは私に限った話ではない」
側近「ま、まさか勇者の野郎も! いや勇者のアマも!」
魔王「前々々々々世くらいからカンストしている」
側近「ひぇぇ…」
魔王「つまりだ。私達は、いくら戦っても決着がつかないのだ…」
魔王「どちらかが死ぬまで戦い続けると、その前に世界が滅びてしまう」
側近「そんなおっかない奴がいまここに向かっているなんて」ブルルッ
魔王「しかし古よりたった一つだけ、雌雄を決する方法があった」
側近「それでセックs…ゴホンを行ったんですね」
魔王「私は男、奴は女。まさしく雌雄を決するというわけだ」
側近「はぁ。そうですか」
側近「それでなぜ魔王様はアレをすると死んでしまうのですか。アレが下手なんですか?」
魔王「わからん。どうも奴には勝てんのだ。一方的に犯されて、気が遠くなり、次に目覚めた時には新しい自分へと転生している」
側近(Mなのかなぁ)
魔王「私はどうしたら良いのだ…」アアア
魔王「もう何日もしないうちに奴はここへと乗り込んでくるだろう」
魔王「私ほどの魔力を包括していれば、どこかに隠れる手段をとることもできない…」
魔王「あぁ殺される…勇者にセックスで殺されるぅううう!!!」
側近「……」
側近「あの、一つお伺いしてもよろしいですか」
魔王「…どうした」
側近「歴史の本では、前世の魔王様は勇者と相打ちになっていますよね?」
魔王「いやそれは……真実は違う。あれは勇者が勝手に死んだのだ」
側近「えっ」
魔王「奴は私がすでに腹上死していることに気づかず、私の骸相手に腰を振り続け、テクノブレイクしてしまったと言っていた」
側近「はぁ?」
魔王「つまり私は死してなお打倒勇者の目的を果たしていたのだ。魔界はそうした私の犠牲の上に守られてきた」
魔王「だが私は勝ちたい! 奴に殺されるのではなく、私の手で奴を闇に葬りたいのだ!」
魔王「二度と転生できんように邪神として奴の魂を未来永劫封印したい! 忌まわしい記憶から抹消したい!!」
側近(ほ、本気だ…魔王様が本気になってる!)
使い魔「お取り込み中すいませ~ん。また小包が誰ぞから」
側近「一体なんでしょうか」パカッ
魔王「…!!」
側近「おー、これは革のカバンですね。綺麗だなぁうふふ」
側近「でもよく見ると水の四天王リヴァイアサン様の鱗に似ているような…」
側近「似ているような……?」
側近「 」ボトッ
私勇者。いま大陸に着いたの。
もうすぐ逢えますね♥
追伸:鞄気に入ってくれましたか?
魔王様はもっとシックな色が好みだったかな?
次は闇の魔龍の皮で作ってみます!
魔王「イヤアアアアアアア!みんな撤退してええええ!! 前線離脱は罪に問わないからあああ!!」
側近(昂っていた闘争心があっさり……)
・ ・ ・ 翌日
闇の魔龍「魔王様なぜ召喚命令など」ウネウネウネウネ
闇の魔龍「おいらはとても長いのでこの城は狭くてたまりませんぜ」
魔王「よくもどったな」ホッ
炎の魔人「魔王の大アニキ! 四天王が2人もやられたってまじですかい!」
魔王「あぁ。これで四天王も残るはお前たち2人」
炎の魔人「勇者の野郎、なんて力だ」
炎の魔人「だが俺と魔龍が2人同時にかかれば勇者といえど…!」
魔王「いやまて!そういう話をしているわけではない!」
魔王「お前たちは、何もせずここで安静にしていろ!」
炎の魔人「どうしてですか! 俺は逃げも隠れもしませんぜ!」
闇の魔龍「オイラも魔王様のためならたとえこの命果てようとも!必ず仕留めて参ります!」
炎の魔人「いくぜ魔龍! ライド・オン! 合体だ!!」
闇の魔龍「ひゃっはー! 騎龍モードのおいらたちは無敵だぁ!!」
炎の魔人「空から奴を見つけて闇の業火で消し炭にしてやる!」
・ ・ ・
使い魔「消し炭が届きました」
使い魔「あと皮の鞄も…」
魔王「んん……」
ポトッ
側近「箱の隙間からまた手紙が…」
魔王「……読み上げろ」
側近「拝啓、ぁ、愛する魔王様へ…――」
私勇者はもうまもなくそちらへと到着いたします。
とびっきり綺麗な花束を狩って行きますので、素敵な花瓶を用意しておいてください。
新鮮な肉をはじめとするおいしい食材もたくさん持参しています。
先ほどお送りした炭を使った極上のBBQでふたりの再会を祝しましょう。
その後は、私達の因縁に決着をつけましょうね♥
今宵はたっぷり甘い時間を過ごしましょう♥♥♥
側近「――とのことです」
魔王「ヴォエッ」
側近「魔王様が吐いた!?」
ガチャン! ドタドタ
庭師のオーク「てぇへんですだ! 庭園のラフレシアが何者かに刈り取られちまっただ!!」
魔王「な、なに…」
庭師のオーク「あんなつええバケモンフラワーがどうしてこうなっちまったのかさっぱりわかりませんだ。申し訳ねぇ魔王様ぁ」
庭師のオーク「この責任はおれっちのクビを以って――」
ザシュッ――
庭師のオーク「ほげっ?――――」
ゴトリ…ゴロゴロ
庭師のオーク「 」
側近「は…? 一体なにが」
??「じゃ、この通りクビってことで♪ ごめんね、素敵なお花だったから魔王様に捧げるために摘んじゃったんだ♪」
側近「ひ、ひぃ~~~!! 曲者!!」
魔王「お、お前は……ッ!!!」
勇者「えへへ。来ちゃった♥」
勇者「遅くなってごめんね」
魔王「いやいやいや旅立って何日目だよ」ブルブル
勇者「あっ…今回の魔王様もかっこよくて素敵…♥」
魔王「お前の方は、いつにもまして小娘な見た目だな」
側近「あのぅ魔王様」クイクイ
側近「この子がほんとに勇者なんですか?」
魔王「…あぁ。恐るべき波動を放っているのがお前にもわかるだろう」
側近「でも見た目ほんとに普通の女の子っていうか、細腕で弱そうだし、もしかしたらあたしでも勝てるかも…」
魔王「いやーまてまてまて! お前はもういまこの瞬間解雇! 田舎に、帰れ!」
側近「えぇ…」
魔王「ここにいてはそのうちあいつの気まぐれで殺されるぞ」ボソボソ
側近「…」
魔王「不服そうな顔をするな! いまも見ただろう。デスラフレシアを押さえつけられる最強の庭師がたった一撃で首チョンパだ」
側近「た、たしかに…人は見た目で判断できませんね」
勇者「なにヒソヒソ話してるの」
勇者「私も混ぜてよ」
勇者「そいつ魔王様の何? ムカつく」
側近「!!」
魔王「ええと、こいつはー、こいつはー…ただの無能な使いっ走りだ」
魔王「だからわざわざ殺す価値なんてないぞー?」アセアセ
勇者「ふうん。じゃあ私と魔王様のラブラブ空間に踏み入るのはやめて。さっさと出て行かせてよ」
魔王「ということだ」
側近「心配です…あたしは魔王様が心配でたまりません」
魔王「いつまでも幸せに暮らせよ」
側近「今生の別れみたいこと言わないでくださいよぉ」
魔王「さぁ行くんだ」
側近「……」ウルウル
魔王「……。出て行けこの無能めぇ!! 二度と私の前に姿を見せるな!!」
側近「ひぅっ」ビクッ
側近「お世話になりました…」トボトボ
魔王(すまん…)
バタン
勇者「やっとふたりっきりだね♥」
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