【閲覧注意】男「窓の向こうの彼女」 (34)
俺、幼馴染み、友。
小学生の頃、俺たちはいつも三人だった。
どこへ行くのも一緒で、泥んこになるまで遊んでいた。
中学最後の冬。
色っぽくなった幼馴染みが俺と友と帰りながら嘯いたのを覚えている。
幼『おっきくなったら……二人のうちの誰かと結婚するのかな』
男『は? な、なに言ってるんだよ……』
友『なに? どしたん?』
幼『今日ね、友達のお姉さんが結婚するって話があったの』
男『へー。それはおめでたい』
どうやらその話を聞いて自分もいずれは結婚するのだと思ったようだ。
年相応に膨らんだ胸に、彼女の長い黒髪が流れ落ちていた。
友『行き遅れそうになったら、そんときゃ俺が貰ってやるよ』
男『おい、友!』
幼『あはは、それ消去法だよー?』
上目遣いでこちらを見る幼馴染み。
その目はどことなく期待しているように見えた。
けれども俺はそれが思春期特有の勘違いなのだと言い聞かせていた。
幼『男は……貰ってくれないの?』
男『べっつにー? 高校に入れば俺モテモテだから』
幼『やー、ないない。男は高校デビューとかできないよ』
友『んじゃ、俺は? 俺は?』
幼『友はしそうー! 髪染める予定あるの?』
友『おう、染めるね。ピアスもするよ』
俺は密かに思い描いていた。
いつか幼馴染みと恋をして付き合うという幸せな未来を。
いや、きっと友が恋人になっても同じだろう。
コイツなら諦め切れる。
男『幼は下ネタに耐えられないとダメだろうな』
幼『えー? 大丈夫だよー。ちょっとは……うん』
友『それは大丈夫な人間のリアクションじゃねえな』
下ネタに弱い幼馴染み。
それを指摘すると、決まって口だけでは反論していた。
北風に乗った彼女の髪の匂いが鼻をくすぐる。
幼『え、えっちなことくらい……言えるよ!』
友『リピートアフターミー、セックス』
幼『せっっっ……む、むり! 参りました!』
男・友『あっははははは』
幼『は、ハードル高いよー……もっとソフトじゃないと、ね?』
友『いやいや、セックスなんて小学生でも言えるんじゃね?』
男『だな』
幼『い、意味わかってないからだよ。中学生になると言えないの!』
笑い合いながら家へと帰る。
やがていつもの別れ道で友にまた明日と次げ、俺は彼女と二人きりの下校を楽しんだ。
心待ちにしているけど、来てほしくない時間。
何を話せばいいのか分からなくなるときが一番怖い。
つまらないことを言っていないかと、不安になる。
幼『さっきの続きなんだけど……男はモテモテになりたいの?』
男『あぁなりたいね。なって色んな女子と付き合いたい』
幼『いやらしいことも……?』
男『……それは聞かないのがマナーだろ』
幼『そ、そだね。……うん、ごめんね。今のは忘れて欲しいな』
言い過ぎたと思ったのか、彼女の言葉が尻すぼみになっていく。
事実そうだったので言い返さないでいると、隣で溜め息が聞こえた気がした。
幼『大人になるのって、ヤだなぁ』
男『春には高校生だろ? 幼は結婚だってできるようになる』
幼『けど、いやらしいことをするために大人になるんじゃないから……』
全くその通りだ。
セックスするために大人になるワケじゃない。
働くために大人になるんだ。
でもその働く世界には少なからず「いやらしいこと」も含まれる。
そこが彼女は怖かったらしい。
この会話で、何か結果が出たワケではなかった。
ただいたずらに生々しい未来への不安が広がっただけ。
いっそこんな会話をしなければよかったとさえ思う。
やがて、幼馴染みの家まで着いた。
そこで彼女は立ち止まり、足許に落ちていた煙草を見る。
幼『……お義父さんの吸ってる銘柄だ』
男『そっか』
幼『道に捨てるなんてダメだなぁ、もう』
律儀にも、アスファルトにしゃがみ込んで煙草を拾い上げた。
幼馴染みの父親はタバコを吸っている。
あぁ、正確には義理の父親か。
例え同じ銘柄だからって、義父が捨てたとは限らない。
純粋な善意でも、場合によっては冤罪を作ったともいえる行動だった。
それでも彼女は義父をそのように評価していた。
灰皿を携行せず、吸殻を道に平気で捨てる人間なのだと。
幼『じゃあね。そろそろ晩ごはん作らないといけないから』
男『……あぁ。無理するなよ』
幼『無理はしてないよ……うん、してない』
返事というよりは、自己暗示だった。
不安しか感じさせないセリフを残し、幼馴染みは家のドアを開け、消えた。
男『………………』
幼馴染みの母親は去年の夏に再婚した。
顔も知らないし、職業も知らない。
幼馴染みも何も教えようとはしなかった。
これはきっとデリケートな問題なのだろうと、俺も友も敢えて聞かなかった。
俺たちだって親の仕事を知らないのだから、よく考えれば自然なことだ。
変化があったとすれば、再婚してから彼女の家の敷居が高くなったことだけ。
何となく、俺も友も今は踏み入る勇気が持てなかった。
夜になった。
寒々とした夜の闇が、日中のわずかな熱さえ奪っていく。
男『……悪いとは思ってるんだけどな』
形だけ罪悪感に駆られてるふりをして、俺は双眼鏡を構えた。
俺の部屋の窓からは幼馴染みの家が少しだけ見える。
見えると言うより、親に頼んでそれが可能な部屋を私室にして貰っただけだ。
だから偶然っぽく言ってはいけないのだろう。
観察日記はつけていない。
けれども彼女の私生活見たさに今夜も双眼鏡を構えた。
こちらはマンションで向こうは一軒家だから、音は当然届かない。
そして見える光景もかなり限られている。
今夜は珍しくカーテンが空いている部屋があった。
可愛らしいピンク色のそれが遮光していなかったのだ。
俺はそこが彼女の部屋だと知り、僥倖だと思った。
しばらく覗いていると、シャワーを浴びた彼女が部屋に入ってきた。
濡れた髪が頬や額に張り付いて色っぽい。
少しすると、熱さに耐えかねたのか上着のボタンを外し始めた。
思わず、つばを飲み込んだ。
もしかすると裸になるかもしれないという淡い期待が、俺のペニスに現れる。
パタパタと手で風を送る彼女。
期待とは裏腹に、パジャマのボタンを二つ外しておしまいだった。
心の中で舌打ちし、また、そんなことで苛立った自分に落胆した。
普段見られない就寝前の彼女の行動すべてが新鮮で、時が経つのを忘れた。
周りの家から電気が消え始めるころには彼女も着衣を直し、明日の時間割りを確認していた。
しかし突然、バッグの中の教科書を入れ替える手が不自然に止まる。
男『――?』
よくよく見たが、こちらからは何も分からない。
虫が出たのかとも思ったが、冬に出る可能性は低いだろう。
尚も彼女は手を止め、何かを待つようにじっとしている。
数秒の静止のあと、彼女はこちらの死角からの謎の力に引っ張られ、そこへ消えていった。
男『……え?』
驚きのあまり動けなくなった。
しかしその死角から彼女の着ていたパジャマが次々と飛んでくる。
それはまるで、誰かに脱がされているかのように。
男『何なんだよ、これ……』
声は届かなかった。
その晩に見えたのは男の足と、振り乱される彼女のモノらしき黒い髪だけ。
他には何も見えなかった。
翌日、彼女は学校を休んだ。
続きは明日書く
寝取られが嫌いな人はUターンで
そんで、胸糞だからって荒らしはやらないでくれると助かる
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