侍コーチ☆夏休みを送る(68)

ミーンミーン

侍「暑いでござる……」

侍「家でごろごろしていると母上に煙たがれるし……」

侍「冷房の効いた職員室で寝ていたら、もっと冷ややかな目で見られるし……」

侍「今日はどこで涼むとするでござるかな……」

侍「ぱちんこにでも行くとするでござるかな」ゴソゴソ

ポトッ

?「ん?」

侍「金がないでござる……無念なり」ガックリ

侍「はあ……こんびににでも行くでござるか」

スタスタ

?「あ、あの……何か落としたでやんすよ」ヒョイ

?「ってもういないでやんす、早っ」キョロキョロ

?「さっきのはたしか侍先生……」

?「届けてあげなきゃ可哀想でやんすね」

?「これって一体なんでやんしょ?」パラパラ

?「!?」

?「こ、これは……!」

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の続き

───


侍「はあ……5時間立ち読みしただけで追い出されたでござる」トボトボ

侍「さて、これからどうし……ん?」

新二「おう、侍先生やないか」

侍「その口調……もしや新二殿でござるか?」

新二「せや。小っこくなっとったのによう気づいたな」

侍「なるほど。身体を子供にし、みーこ殿の家に転がり込む作戦は成功したのでござるな」

新二「せや。博士に土下座してクスリ作ってもらったわ」

侍「それで?」

新二「おお、まさかやったわ。まさかみーこがあんなどす黒い……」

侍「違うでござる。盗撮写真でござる」クイクイ

新二「あんた、まだ悪い商売考えとったんかいな。大体あんたが小っこくなったときに撮ったネガ持っとるやろ」

侍「どこかで失くしてしまったのでござる」

新二「おいおい」タラー

みーこ「あれ?侍先生」

侍「あわわ、なんでもないでござるみーこ殿!いやみーこ殿がなぜここに!?」

みーこ「……だってここ、私の家の前」

侍「あわわ、そうでござったな。この子供が居候しているのでござったな」

みーこ「え?粉モン君のこと知っているんですか?」

侍「コナモン?」

粉モン(ワイの仮の名や。まさか新二なんて名乗るわけにはいかんやろ)ヒソヒソ

侍(それはいいのでござるが……なぜ粉モンなのでござる?)ヒソヒソ

粉モン(決まっとるやろ。関西人だからや。咄嗟に出てきたんや)ヒソヒソ

みーこ「二人で何こそこそしているの?」

粉モン「なんでもないんやで。関西人ならやっぱりお好み焼き&ご飯が最高っちゅう話や」

侍「でも拙者関西人じゃないでござる」

粉モン「どないやねん!」ビシッ

みーこ「……」

侍「……」

粉モン「……」

みーこ「……えーと」

粉モン「本当になんでもないでみーこ姉ちゃん。この変な兄ちゃんに道を聞かれたから丁寧に教えてあげて───」

侍「粉モン殿とは昔からの付き合いでござる。新しい家が決まったから遊びに誘われたのでござる」

粉モン「なんやて!?」ガタッ

みーこ「そうだったんですか。じゃあどうぞ。散らかってますけど」

侍「そんなことないでござる。きちんと整理整頓されていたでござるよ」

みーこ「え?」

侍「あわわ、違うでござる。そんな気がしただけでござる」

みーこ「変な先生……いつものことか」

粉モン(……どういうつもりや?)ヒソヒソ

侍(決まっているでござる)ヒソヒソ

粉モン(……?)

侍(冷房の効いた部屋で涼みたいだけでござる)ヒソヒソ

───みーこの部屋


みーこ「どうぞ」コトッ

侍「麦茶まで忝のうござる」グビグビ

みーこ「そういえば先生、ゆっこのことなんですけど」

侍「ああ、鰻とはうまくいったのでござるか?」

みーこ「それはどうでもいいんだけど」

侍「それがどうでもいいなら本当にどうでもいいのでござるが……」

みーこ「私とりんって軽音部辞めた後、バスケ部に入ったでしょ」

侍「ああ、たしかバスケで突き指して音楽の未練を断ち切るとかいうアホ丸出しの考えでござったな」

みーこ「はい。結局皆軽音部に戻ってきたしめでたしめでたし……ってそうじゃなくて!それでその間ゆっことあんずも別の部に入っていたんです」

侍「ほう。なんて部でござる?」

みーこ「……野球部」

粉モン「なんやて!?」ガタッ

侍「はて野球部?どこかで聞いたような……」

粉モン「何言っとるんや!あの学校の人間なら誰でも───」

みーこ「え?粉モン君知っているの?」

粉モン「ううん。僕知らなーい」

侍「ああ、たしか面倒臭い連中の集まりとか」

みーこ「はい……その噂を聞きつけたゆっことあんずは、自由に暴れられるかもしれないよって野球部のマネージャーになったんです」

侍「とんだクズでござるな」

みーこ「頭が弱いというか……なんでも暴力で解決しようとする子たちだったから」

侍「されど、二人とも軽音部に戻ってきたではござらんか」

みーこ「それが……野球部の方はそれを良く思っていないらしくて……」

侍「二人を連れ戻そうとしているのでござるか?」

みーこ「はい……正確に言えばゆっこだけですけど。あんずは行方不明だから」

侍「あ……」

粉モン「あ……」

みーこ「そういえばあんず、どこ行っちゃったんだろ……」

侍「し、知らないでござる!」

粉モン(帰れるわけないわな。ワイらに正体見られたんやもんな)

みーこ「なんか最近、行方不明者が多いから心配だな。グラサン君と道夫君も見なくなっちゃったし」

侍「それは本当に知らないでござる」

粉モン(そういや人体実験のバイト紹介した後行方不明やな。事件性は皆無やし、迷宮入りやで)

侍「どうでもいいことで話が逸れたでござる。それで拙者にどうしろと?」

みーこ「野球部を説得して───」

侍「断るでござる」

───街


侍「んー、夕暮れ時になっても暑いでござる。いい涼みスポットが見つかって良かったでござる」

侍「だが毎日行くとみーこ殿がうるさそうでござる」

侍「野球部か……野球部に関わると面倒だと教員の間でも話題になっていたでござるしな」

ザッ

?「やいやい止まれでやんす」

侍「いきなりなんでござる?断るでござるよ。突然現れた輩に指図される覚えはないでござる」

?「信号赤でやんすよ」

侍「……」

?「止まったついでにちょっと話でもするでやんす」

侍「……何奴でござる?」

?「オイラは野球部の阿倍でやんす」

侍「野球部……?野球部が拙者に何の用でござる?」

阿倍「……頼みがあるでやんす」

侍「なに?」

阿倍「オイラ達、元々はこの辺じゃ強い学校だったでやんす。全国も夢じゃなかったでやんす」

侍「急に語り始めたでござる」

阿倍「ところがある日、我々野球部は怪しい博士に人体実験のモルモットをやらないかと言われたでやんす」

侍(……間違いなく黒幕殿でござる)

阿倍「失敗したら再起不能になるかもしれないが、2.5%くらいの確率で成功したらプロになれるかもしれないと言っていたから引き受けたでやんす」

侍「それでよく引き受けたでござるな」

阿倍「そしてその結果……全員能力が下がったり骨折したりサボり癖がついたり風邪をひいたり可愛い子に見とれて車にひかれたり、散々な目に遭ったでやんす……レギュラー陣は未だに入院中でやんす」

侍「車は関係が……」

阿倍「残ったベンチメンバーではどうすることもできず、暗黒面に落ちるしかなかったでやんす」

侍「どうすることもできないのであれば暗黒面に落ちるしかないでござるな」

阿倍「しかし、そんな我々にも救いの手を差し伸べてくれた人たちがいたでやんす」

侍「ほう」

阿倍「マネージャーのゆっことあんずでやんす」

侍「なに?あの二人が?」

阿倍「怪しい博士の実験失敗により、オイラ達は記憶障害に陥り野球のルールすら忘れてしまったでやんす」

侍「ヒエッ……」

阿倍「突然入部してきたゆっことあんずが監督代わりにオイラ達をマネジメントして、野球を教えてくれたでやんす」

侍「マネジメント違いではござらんか?野球部マネージャーの仕事ではないでござる」

阿倍「オイラ達はなんとか試合ができるようにまでなったでやんす」

侍「あの二人すごいでござるな」

阿倍「ところがある日、そんなマネージャーが野球部を辞めたでやんす。軽音部が復活したとか言って」

侍「意外と野球部の方が合っている気がするでござるが」

阿倍「やんしょ!だからオイラ達はあの手この手を使って取り戻そうとしたでやんす」

侍「ふむふむ」

阿倍「でもダメだったでやんす……ゆっこは戻る気ないし、あんずは行方不明だし」

侍「大変でござるなあ。辛かったでござるなあ」

阿倍「先生!一生のお願いでやんす!ゆっこを野球部に───」

侍「断るでござる」

阿倍「……」

侍「そんな下らないことにいちいち拙者を巻き込むなでござる」

阿倍「……あんたが教師らしい仕事を一切せず、こむぎに全て任せていることをバラしてもいいでやんすか?」

侍「な、なぜそれを!?」

阿倍「これに全部書かれていたでやんす」パラパラ

侍「それは拙者のメモ帳!?いつの間に失くしたでござる!?」ゴソゴソ

阿倍「今日あんたが落としたのを拾ったでやんす」

侍「し、しまった……!」

阿倍「さあ、ゆっこを野球部に連れてくるでやんす」

侍「はあ……わかったでござるよ」

阿倍「わかればいいでやんすよ」

侍「ただ、ゆっこ殿は自らの意思で軽音部に戻ったでござる。一筋縄ではいかんでござるよ」

阿倍「やんすね……」

侍「だからここは───」

───次の日・みーこの部屋


みーこ「えっ!?」

こむぎ「や……」

りん「野球部と試合!?」

侍「左様」

みーこ「な、なんでそんなことに……」

侍「実は拙者、昨日ここを出た後、野球部に話をつけに行ったでござる」

みーこ「もしかして、私がお願いしたから……?」

侍「勿論でござる」

みーこ「先生……ありがとう」

侍「はっはっは。お安いご用でござるよ」

りん「安いどころじゃないだろ!なんで私たちが野球部と試合しなきゃなんないんだよ!」

侍「彼奴らの執念はとてつもないものでござった。拙者にはそれが精一杯だったでござる……くっ」

みーこ「先生は悪くない。自分を責めないで」

こむぎ「でも、それに勝ったらゆっこちゃんを諦めるってことでしょ?」

りん「そんなこと言ってもよー、こっちは素人だし、人数だって……」

みーこ「やるのって9人だよね?私とりんとこむぎとゆっこと……」

粉モン「面白そうやな。ワイも協力するやで」

りん「お、日本のガキんちょは野球好きって風潮があるからな。頼んだぜ」

粉モン「任せときや」

こむぎ「それでもまだ5人よ」

りん「ゆっこに鰻太を捕獲してもらおうぜ」

みーこ「そうだな。闇彦も一緒に釣れるかもしれない」

こむぎ「それで7人……あとは」

りん「外の電柱に隠れているやつも仲間に入れてやるか」

みーこ「外の……?」


?「ウホッ」チラッ


みーこ「ひっ……!」

りん「この際文句言っていられないだろ」

みーこ「うう……」

りん「残りの一人はさむちゃんでいいよな」

こむぎ「そうね。先生お願いします」

侍「残念ながら拙者はできないのでござる」

みーこ「え、なんで……」

侍「拙者は教師でござる。生徒を平等に見る義務があるのでござるよ」

りん「ちぇっ、そんなの気にするなんてらしくないぜ」

こむぎ「仕方ないわ。先生の立場もわかってあげましょうよ」

侍「その代わりと言ってはなんだが、あと一人なら心当たりがあるから連れてくるでござるよ」

───試合当日


りん「あれから毎日練習したし、絶対勝とうぜ!」

粉モン「おー!」

みーこ「うん」

こむぎ「私もバッティングセンターでバイトしながら上手い人の打ち方研究したわ」

ゆっこ「頑張るんだよ!鰻太!」

鰻太「なんで俺がゆっこのために……でも野球は好きだからやってやるぜ!」

闇彦「僕こそなんでですよ……この人たちと関係ないし、野球もそれほど好きでもないし」

青木「数合わせは黙っているウホッ!」バキッ

闇彦「ぐふっ」バタッ

鰻太「闇彦のくせに生意気だぞ」ペッ

闇彦「うう……」

こむぎ「あとは……最後の一人だけど、まだ来ていないみたい」キョロキョロ

みーこ「先生結局今日まで誰が助っ人なのか教えてくれなかったね」

侍「おおい!」タッタッタッ

りん「あ、さむちゃん!どこ行ってたんだよ」

侍「すまぬでござる」

みーこ「それで、助っ人は?」

侍「何言っているでござる?そこにいるではござらんか」

りん「えっ?」

こむぎ「どこに……?」キョロキョロ

カシャンカシャン

みーこ「え……」

おもちゃ「……」カシャンカシャン

全員「「「……」」」

全員「「「さるー!?」」」

侍「紹介するでござる。ボナ之助でござる」

ボナ之助「……」カシャンカシャン

りん「さむちゃんのアホー!何考えてんだ!?」

侍「拙者はアホじゃないでござる。むしろ策略家でござる」

みーこ「どういうこと……?」

侍「敵の戦力を削るのも戦略でござるよ」

こむぎ「敵?」

阿倍「よくやったでやんす。侍先生」ザッ

りん「野球部の阿倍!?」

みーこ「よくやったって……まさか」

侍「拙者は野球部の隠密だったでござる」バッ

りん「くそ!そういうことだったのか……!」

こむぎ「すっかり騙されたわ」

青木「許せないウホッ」

鰻太「こうなったら絶対勝たなきゃな」

侍「精々粋がっているでござる」クックック

───


山藤「なぜ私が審判などを……」プハー

侍「学校に残っている教員がお主しかいなかったでござる」

山藤「だからといって……」プハー

侍「頼んだでござるよ」

山藤「……」プハー

───一回表


りん「私たちの攻撃からだ。一番誰が行く?」

青木「ゴリが行くウホ」

りん「青木か……まあいいや。みーこ、応援してやれよ」

みーこ「が……頑張って」

青木「ウッホホーイ」ピョーン

───


青木「ウホッ!ウホッ!」ブンブン

阿倍(こいつのパワーは侮れないでやんす。一球外して様子を見るでやんす)

侍「……」コクッ

山藤「プレイボール」

侍「うおおお!」ピュッ

阿倍(よし、完全なボール球。これを振るようなら……)

青木「ウホッ!」ブン

阿倍「ただのド素人でやんす!この試合もらったでやんす!」

ギュイーン

阿倍「えっ?」

ギュイーン

阿倍「な、なんでやんすこの軌道は……バットに当た───」

カキーン

青木「ウホッ」ニヤリ

ヒューン

侍「な……」

阿倍「ホ……ホームラン……」

青木「やったウホッ!みーこ見ていたウホッ!?」


りん「やったなあいつ!」

みーこ「うん、すごいね」


青木「ウッホホー」


みーこ「あのバット」

───回想


みーこ『が……頑張って』

青木『ウッホホーイ』ピョーン

粉モン『兄ちゃん、待ちや』

青木『ウホッ?』クルッ

粉モン『いくらパワーがあったってバットに当たらなきゃ、一軍に上がっても代走要員やで』

青木『ウホホ……』

粉モン『そこでこのバットを使いや』スッ

青木『これは……?』

粉モン『博士に作ってもらった改造バットや。これで振ればボールはロックオンされて、必ずバットに当たる仕様やで』

青木『小僧……恩に着るウホッ』

───


青木「これでみーこのハートはゴリのものウホッ」タッタッタッ

山藤「待て」ガシッ

青木「ウホ?」クルッ

山藤「お前、不正バット使ったな?」プハー

青木「ウホウホウホ!」

山藤「退場だ」プハー

青木「ウホホ……」ガックリ

りん「なんてこった……いきなり不正がバレちまったぞ」

みーこ「しかも退場……一人少ない状況で戦わないといけないなんて」

粉モン「正確には二人やで」

りん「お前が変なもん持ってくるからだろ!」ゴン

粉モン「すまんな。次はワイが行くで」

こむぎ「どうしましょう……意外と審判がまともで卑怯な手が使えなくなったわ」

粉モン「そんなことないで」

こむぎ「えっ?」

粉モン「要するにバレなきゃええんやで」ニヤリ

───


粉モン「さあ来いや」

侍「そんな小さな身体で拙者の球が打てるでござるかな?」クックック

粉モン「言っとれや裏切りモンが。吠え面かかせてやるわ」

侍「うおおお!」ピュッ

粉モン「来たな。真っ直ぐど真ん中や!舐めすぎやで!」ポイッ

阿倍「なっ!?バットを捨てた!?」

粉モン「ワイはサッカー部や!ボールは蹴ってなんぼやで!」

バコォン

侍「なっ!?」

粉モン「よっしゃヒットや!博士のサッカーがすごくなる靴やで!さすがにこれはどこからどう見てもただの靴や!見抜けんやろ!」タッタッタッ

山藤「反則、退場!」

粉モン「なんやて!?」ガタッ


りん「おおい!」

みーこ「また退場……」

侍「うおおお!」ピュッ

みーこ「バットは怖いからベースで」ゴン

侍「なに!?」

みーこ「やった!面積が大きいから当たった!これが本当のベースボ───」

山藤「退場!」

みーこ「そんな……」

鰻太「俺が打つ!」

モコモコモコ

阿倍「な、なんでやんす?鰻太の懐が膨らんでいるでやんす」

鰻太「えっ?」モコモコモコ

バッ

ゆっこ「鰻ぃー太ー!」ガバッ

鰻太「うわ!こんなところに隠れて───」

山藤「まとめて退場!」

こむぎ「沢庵目潰しよ!」ピュッ

ペタッペタッ

阿倍「うわあああ!見えないでやんす!」

山藤「退場!」

闇彦「僕の番です」ゴクリ

山藤「退場!」

闇彦「なんで……」

───


りん「お前らやる気あんのか!?」

みーこ「だって……怖い」

こむぎ「まさかバレるなんて……」

粉モン「あの審判只モンやないで」

りん「私だけになっちゃったじゃんか!ゆっこも!お前のためにやってんだぞ!」


ゆっこ「待てー!」タッタッタッ

鰻太「ひぃー!」タッタッタッ


りん「うー、もういい!私だけで勝ってやる!」

───最終回表


りん「はあ……はあ……くそ……とうとう最終回か」

みーこ「もう無理だよ……諦めよう」

りん「そんなわけいかないだろ!私がここで諦めたらゆっこが……ゆっこが……」

こむぎ「ゆっこちゃんが野球部に行っちゃうなんて、そんなのダメよ!ダメ!ダメ!」

みーこ「……そうだな。ゆっこが軽音部を辞めちゃったら……」

りん「人数足りなくて廃部になっちゃうだろ!」

こむぎ「りっちゃん、なんとしても勝って!」

りん「でも最終回で33ー4なんて……どうすりゃいいんだ……」

みーこ「29点差……」ゴクリ

こむぎ「ここまで一方的なんて……」

粉モン「いやむしろ一人でよう点とったな」

?「酷い有り様だな」

りん「!?」

?「ふん、情けない」

みーこ「あ、あなたたちは……」

?「やっぱり俺たちがいないと始まんないっしょ」

こむぎ「誰ぇー!?」

阿倍「や、野球部レギュラーでやんす!」

侍「なに?」

?「髪形を変える気はない」スタッ

阿倍「1番、俊足関山!?」

?「俺、それだけでいいんだよ」スタッ

阿倍「2番、キャプテン神輿山!?」

?「どーも」スタッ

阿倍「3番、ルーキー赤山!?」

?「俺がエースだ」スタッ

阿倍「4番、エース兄山!?」

?「……ふん」スタッ

阿倍「5番、怪力新山!?」

?「しまっていこーぜ!」スタッ

阿倍「6番、ムードメーカー若山!?」

?「左利き用のグローブねえか?」スタッ

阿倍「7番、冷静沈着岡山!?」

?「にゃー」スタッ

阿倍「8番、のっぽ湯山!?」

?「レギュラーは渡さねえ」スタッ

阿倍「9番、ヒゲ髭山!?」

阿倍「な、なんであんたたちが……?」

兄山「退院したんだ。明日から復帰できる」

阿倍「ほ、本当でやんすか!?だったらもうすぐ試合が終わるでやんす!一緒に祝勝会するでやんす!」

兄山「いや……審判」

山藤「ん?」

兄山「この試合、野球部は棄権する」

阿倍「な……」

侍「なんでござると!?」

阿倍「何言っているでやんす!?」

兄山「いきなり来てすまねえな。だが聞き入れてくれ」

阿倍「この試合はただの試合じゃないでやんす!」

侍「そうでござる!」

兄山「……」

阿倍「負けちまったらマネージャーが……」

侍「拙者のメモ帳が……」

兄山「……俺たちは入院中も野球部のことが気になって、たまに試合も見に来ていたんだ」

阿倍「えっ?そうだったでやんすか?」

兄山「お前たち、記憶障害になった後野球は誰に教わった?」

阿倍「マネージャーのゆっことあんずでやんす」

ゆっこ「ほえー」

兄山「やっぱりな。酷い試合だった」

阿倍「えっ!?」

兄山「大差で勝っているのに最後まで相手の死体を蹴るような盗塁を敢行させたり、超スローボールを投げさせて相手を挑発したり……」

りん「ひでえ……」

阿倍「それが戦術じゃなかったでやんすか……?」

兄山「練習中も暴力が日常茶飯事だった」

みーこ「そんな……」

阿倍「体罰は当たり前じゃなかったでやんすか……?」

兄山「やがてその悪評は世間に轟くことになった」

こむぎ「えっ!?」

みーこ「ま、まさか野球部の悪い噂って……」

ゆっこ「ほえー」

りん「ゆっことあんずのせいかよ!」

兄山「あいつのことは忘れろ。あんなマネージャーがいたら俺たちは大会から締め出されちまう」

ゆっこ「ほえー」

阿倍「オイラは……間違っていたでやんすね」

兄山「仕方ねえさ。記憶障害になったお前らを利用した悪質なマネジメントだ」

阿倍「マネージャー……」

ゆっこ「……」

りん「……お前、そんなことしていたのか」

みーこ「なんでそんなこと……」

ゆっこ「で、でもおにぎり作ったよ!2万個は作ったよ!」

侍「おお、案外マネージャーらしいこともしていたでござる」

兄山「それを全部自分で食わなきゃな」

侍「ほげっ」

兄山「そう部費でタダ飯が食えるから野球部にしがみついていたんだろう。今では軽音部がその対象だ」

こむぎ「まあ」

ゆっこ「……」

阿倍「ど、通りでおかしいと思ったでやんす。毎日おにぎりを待っていたのにカメムシやら灯油やらを出されていたでやんす。栄養が豊富とか言って……」

りん「どう考えてもおかしいだろ……」

こむぎ「もう、ゆっこちゃんはしばらくおやつ抜きね」

ゆっこ「!?」ガビーン

───


神輿山「よーし、明日から全国目指してまた頑張ろうぜ」

阿倍「でもオイラ達大会には出られないでやんすよ」

神輿山「なんだって!?」

阿倍「最後の大会から顧問がいないでやんす。新しく顧問になったやつらも皆すぐ辞めていったでやんす」

兄山「これもマネージャーのせいかよ……」

神輿山「そんな……これで野球部は終わり……?」

阿倍「あ!」

侍「……」

阿倍「侍先生がいたでやんす!野球部の顧問になってほしいでやんす!」

侍「……」

神輿山「先生……もう俺たち先生しかいないんたよ」

侍「……」

兄山「先生!」

侍「……違うでござろう」

阿倍「え?」

侍「拙者はド素人でござる」

神輿山「わかっているよ……でもここは形だけでも」

侍「お主らが本気で高みを目指すならば、ちゃんとした指導者が必要でござる」

阿倍「でもそんな人……」

侍「そこにいるではござらんか」

山藤「……む?」プハー

阿倍「山藤?なんでそいつが?」

山藤「……」プハー

侍「今日のような荒れた試合でも、確実に裁いたあの技量は野球経験者でしかあり得ないでござる」

阿倍「山藤が経験者?」

山藤「……」プハー

侍「拙者の目は誤魔化されんでござるよ」

山藤「……」

侍「……」

山藤「……ふっ、さすがですね侍先生」

阿倍「マジでやんすか!?」

山藤「私は昔、この学校で全国大会に出場した気がする」

阿倍「ええっ!?」

山藤「そこでヒットも2本打っているような気がする」

神輿山「すげえ!」

兄山「……なんで今まで隠していた?」

山藤「なんで私がお前らのために貴重な時間を費やさなければならないのだ」

髭山「てめえ!」バッ

兄山「やめろ!」ガシッ

髭山「兄山!止めんな!バカにしやがって!」

兄山「落ち着け」

兄山「じゃあなんであんたはこんな下らない試合の審判まで引き受けたんだ?」

山藤「……」

兄山「野球に未練があるんじゃないのか?」

山藤「……」

兄山「……」

山藤「……その通りだ」

───


侍「……ふう、助かったでござる」

侍「あんな面倒そうなこと誰が好き好んで引き受けるでござる」

侍「メモ帳さえ取り戻せばこんな場所に用はないでござる」

侍「それにしても黒幕殿からあの薬をパクっておいて良かったでござる」

侍「なんの役に立つのかと思った……虚言癖になる薬」

侍「あれをやつの煙草に染み込ませておいたでござる」

侍「山藤もド素人でござろうが拙者には関係ないでござる」チラッ



山藤「ノーヒットノーランをやった気がする」

阿倍「ひえー!」

山藤「優勝した気がする」

神輿山「すごいぞ!」

山藤「ドラフト1位でプロになった気がする」

兄山「こいつは本物だぜ!」

ワイワイガヤガヤ


侍「夢にときめくでござるよ」フフッ

ザッ




おとしものの中身は勝手に見ないで
死にたくなること書いてあるから
まだ見ていないならすぐ返して
いろいろ見ちゃったら何も言わずに燃やして捨てて

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