俺「うちのクラスに肉の妖怪がいる」 (62)
俺「おはよー」
友「うす」
俺(このクラスになって数週間)
俺(ようやく慣れてきたけど)
がつがつ
女「美味しい?串カツ」
肉女「うん!うまし!」
俺(あいつ何者だ)
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入学初日
俺(やべえ同じ高校のやつ誰もいねえ)
俺(……まあ、大丈夫か)
ガツガツガツ
俺(?)
女「美味しい?からあげ串」
肉女「うまし!」
俺(入学初日からあんな調子だったな)
俺(毎朝肉を食ってるのに、なんであんなに細いんだ)
俺(何故だ、現役女子大生)
先生「えー、大腿骨の骨格はこのように、大結節と小結節がー」
俺(あれか?肉を食う事で骨を理解するのか?)
俺(いや、それはないか)
入学当初
男1「なー、誰が一番かわいい?」
男2「やっぱ高橋さん?」
男3「いや、俺は肉女さんをおすね」
男1「あー、わかるわ、でもなー」
男2「性格きついよな」
男3「あ、俺おはようって言っても無視された」
俺(……怖い人なのか)
俺(全然話さないから知らん)
男1「おい、お前は?」
俺「福田さん」
俺(あ、また適当に答えた)
俺(いい加減この癖は治さないといけないな)
男2「おお、いいとこつくな」
俺「顔は好み」
俺(ほら、また嘘だ)
俺「福田さん、服のセンスいいし、背筋もぴんとしてるし、声もかわいい」
俺(なんてあの時は、またでたらめをペラペラと)
俺(バカみたいな事を言ったもんだ)
俺(てか、肉の匂いがやばい)
俺「窓開けていいか?」
肉女「え、やだ寒い」
俺「」
俺(ほんとに性格きついんだな)
俺(……いや、なんか)
俺(わざとらしい気がする)
肉女「カラアゲうめえ」
俺(まだ食ってた)
友「どんまい」
俺「黙れ留年生」
友「その呼び方はやめろ」
俺「大体、ああいうタイプはリハビリの仕事に向いてるわけがないんだ」
俺「なんのためにこの学校に入ったんだあいつは」
友「まあそう言うな。入学してから変わるもんもあるだろ」
俺「どうだか」
俺(と言ってみたは良いが)
俺(あんな風に短絡的に他人の人格を否定するもんじゃないな)
俺(何と言うか、知る機会さえあればいいんだけど)
先生「はい、今日の解剖学実習は、上肢の骨格の触診をします」
俺(はい二人組になってーとか勘弁してくれ)
先生「では先生が今から言うペアになってください」
俺「助かった」
俺(明らかに先生のアトランダムでペアが決められていく)
俺(俺の名前を早く呼んでくれ)
先生「は、では本山君と」
俺(あ、呼ばれた)
先生「肉女さん」
俺「」
俺(まさかこんな時に)
俺(まあ、チャンスでもあるか)
俺「よろしく」
肉女「あ、もやし男」
俺「黙れ肉妖怪」
肉女「妖怪じゃないし」
俺「じゃあなんだよ」
肉女「妖精」
俺「ねえよ」
肉女「こんな可愛い顔してるのに?」
俺「なんだこの無駄な自信は」
先生「はい、では肩甲骨の下角から肩峰に向かっての触診をどうぞ」
俺「おい、触るぞ」
肉女「やめて変態」
俺「じゃあ俺の触れ」
肉女「やめて変態」
俺「どうすりゃいいんだよ」
肉女「仕方ない、もやし男だし、触らせてあげよう」
俺「なに様だよお前」
肉女「お姫様」
俺(話せば理解が速まると思ったけど)
俺(こいつやべえ)
俺(ここのでっぱりが下角か)
俺「おい、肩回せ」
肉女「回して下さいでしょ、もやし」
俺「回して下さい肉妖怪」
肉女「その呼び方やめてよ」
俺「じゃあそのもやしってのやめろ」
肉女「いやあんたもやしだし」
俺「お前も肉じゃねえか」
俺「大体、なんで教室で肉毎朝食ってんだ?」
肉女「え、かわいいでしょ?」
俺「かわいくねえよ」
肉女「こんな可愛い顔してるのに肉食べるとか、まじギャップ萌えでしょ」
俺「作ってたのかよ」
肉女「いや、普通に肉は好きだけどね」
俺「肉は食肉工場で加工されてこい」
肉女「もやしはラーメンから子どもに除けられろ」
俺「俺子どもの頃もやし好きだったし」
肉女「だからそんな体系になったのね」
俺「関係ねえよくそが」
俺「てかさっさと触診続けるぞ」
肉女「はいはい」
俺(骨ってのはどうにもややこしい)
俺(留年生のあいつ曰く、筋肉になるとさらに難しいらしいな)
俺(憂鬱だ)
翌日
俺「あ、今日は肉じゃねえんだな」
肉女「売り切れてた」
俺「今日はバナナタルトか」
肉女「うまいよ」
俺「くれ」
肉女「やらん」
俺「畜生」
俺「おまえさあ、なんでそう無愛想なわけ?」
肉女「無愛想?」
俺「クラスの男子の何人かが、無視されたとか、睨まれたとか」
肉女「私もともと目つき悪いし」
肉女「めんどくさかったら聞こえないふりする癖あるから」
俺「それが無視だよ」
肉女「……え?」
俺「無視すんな」
肉女「私の必殺技が否定された」
俺「人格を疑われるからやめとけ」
肉女「うーん、考えとく」
俺「リハビリの仕事就くんだからさ、その辺しっかりしねえと」
肉女「クラスの人との関係くらいは別にいいでしょ」
俺「よくねえよ」
肉女「言ってあんたもそんなに友達いないじゃない」
俺「当たり障りなく適当に生きたらこうなった」
肉女「かわいそうに」
俺「お前結構女子とは仲いいよな」
肉女「女の子にもてるタイプ」
俺「男にくらい興味持てよ」
肉女「彼氏いるし」
俺「いたのかよ」
肉女「いますけど」
俺「どんな人?」
肉女「社会人のおっさん、ゴリラみたい」
俺「それのどこがいいんだ」
肉女「なんかねー、いいの」
肉女「かれこれ三年」
俺「おお、長い」
肉女「でしょ」
俺「あ、彼氏いたから、他の男に媚びを売る必要がなかったってことか」
肉女「そういうこと」
俺「別れたらどうする気だよ」
肉女「その時は、まあ」
肉女「てかありえないし」
俺「ならいいけどよ」
翌日
肉女「別れたしにたい」
俺「おい」
俺「あんな自信満々だったのにどうした」
肉女「わかんない、もういやしにたい」
俺「とりあえず肉でも食って落ちつけ」
肉女「来る途中でからあげクン全部食べた」
俺「すさまじい食欲」
俺「まあ、元気出せよ」
肉女「三年だよ?あれ、四年だっけ」
俺「うろ覚えじゃねえか」
肉女「培ってきたあの日々はなんだったのよ」
俺「まあ落ち込める時に落ちこんどけ」
肉女「鼻毛出てるって一回でもいいから言っとけばよかった」
俺「後悔のポイントそこかよ」
陶芸の授業
俺「おい、壷歪んでるぞ」
肉女「これでいいの、私の精神状態を表してるの」
俺「授業にまで私情を持ちこむなよ」
俺「先生、これどうなんですか、こいつの」
先生「あら、ステキ」
肉女「やった」
俺「いいのかよ」
俺(わけがわからん)
俺(世の中は不公平だ)
先生「来週、貴方達には保育所へ行ってもらいます」
一同「えー!」
俺(なにしに?)
先生「えーじゃありません。園児たちに、粘土の手ほどきをしてあげるのです」
先生「はい、解散!」
俺(……めちゃくちゃだ)
肉女「なあもやし」
俺「なんだよ肉」
肉女「彼氏との思い出の品とかって捨てるべき?」
俺「いや、知らねえけど」
肉女「時計とか何ゴミになるのかな」
俺「まず自分がどうしたいかじゃね?」
肉女「別にどうとも思ってないしー、うーん」
俺「てか売れば?金になるし」
肉女「それはいや」
俺「なんで」
肉女「なんか」
肉女「いや」
俺「あっそ」
肉女「傷心の私に何かおごろうとか」
肉女「そういうこと思わないの?」
俺「思わねえな」
肉女「クーリッシュ買ってきてよ」
俺「クーリッシュってなんだっけ」
肉女「……もういい」
肉女「あ、ラインID教えて」
俺「はいはい」
帰り道
俺(……くーりっしゅ……なんだっけ)
ふぁみふぁみふぁみーまふぁみふぁみまー
俺(アイス買ってこ)
俺(あ)
俺(これか)
俺「クーリッシュ何かわかったぜ」
俺「あの、吸うアイスだろ」
肉女「ググったでしょ」
俺「ググってないし」
肉女「必死でググったでしょ」
俺「広辞苑で調べました」
肉女「男前!」
肉女「なんでそんなに男前なの」
俺「才能かな」
肉女「もっとがたいよかったら付き合ってあげてもよかったのに」
俺「配られたカードでしか勝負できないのさ」
肉女「深い」
俺「スヌーピーで言ってた」
肉女「深いなあの犬」
肉女「なあ、もやしどこに生息しとるん」
俺「学校から一駅程」
肉女「こんど押しかけよう」
俺「来なくていいです」
肉女「ついでに晩御飯もいただこう」
俺「勘弁して下さい」
肉女「飯まずいのか」
俺「うまいし」
肉女「じゃあお弁当作ってきてよ」
俺「報酬は?」
肉女「懐く」
俺「微妙」
肉女「じゃあ福田さんにいい噂流しとく」
俺「なんで福田さん?」
肉女「あれ?好きとか言ってなかった?」
俺「顔はね」
肉女「顔だけかい」
俺(……仕方ない、適当に作ってやるか)
俺(卵焼きは砂糖多めにしとこう)
俺(ウインナーはタコにしておこう)
俺(無駄に力入れてしまった)
俺(俺は案外他人へのサプライズが好きなのかもしれない)
翌日
肉女「あ、ほんとに作ってきたんだ」
俺「がんばったのにその言い草か」
肉女「有難く頂こう」
俺「どうも」
放課後
肉女「普通だった」
俺「そうか、二度と作らん」
肉女「返す」
俺「洗って返せ」
肉女「あとレタス残したから」
俺「野菜食え」
肉女「ミートボールもっといれてね」
俺「二度と作らないって言ったよな」
俺(そういや、もうすぐ保育園のやつだな)
俺(まあ、子どもは嫌いじゃないし、正直楽しみだ)
俺「なあ肉、なんでお前この学校来たんだ?」
肉女「なんでって?」
俺「いや、なんとなく気になって」
肉女「給料安定するかなって」
俺(……まあ、そんなところか)
肉女「なんとなく漠然とさ、来たかったから」
俺「あっそ」
肉女「やりたいこと、なのかなあ」
俺「それは自分で決める事だ」
肉女「無責任」
俺「自分の事には自分で責任を持て」
保育園訪問当日
男1「こっちだっけ?」
男2「いや、こっちだって」
俺「なんでうろ覚えで来てるんだよ」
男1「冒険心を忘れちゃいけないだろ?」
俺「いい年してなにが冒険だ」
俺(……冒険、ねえ)
俺「やっと着いた」
男1「まだ時間あるな」
男2「中で待つか」
俺「あ、子ども屋上でご飯食べてる」
男1「あんまり凝視すんなよ、子どもが逃げる」
俺「逃げねえよ」
俺(粘土自体は、あまり得意じゃ無かった)
俺(もともと手先は不器用だったし、楽しいとも思わなかった)
俺(もともとやりたいことは、一つだけあったけど)
俺(それをやることから逃げてた気がする)
俺(あ、肉来た)
俺(ファミチキ食ってら)
先生「今日はみなさん来てくれてありがとうございます」
先生「では、あなたたちは、気に行ったお兄ちゃんとお姉ちゃんのところに行きなさい」
俺(誰も来なかったらどうするんだ)
先生「一人一つずつですからね」
俺(俺たちは物か)
子ども「」じー
俺(あ、きた)
俺「もと兄ちゃんって呼んでくれ」
子ども「もやし兄ちゃん」
俺「誰から聞いた」
子ども「あの姉ちゃんが言ってた」
俺「あの妖怪め」
俺「君のお名前は?」
子ども「たかし」
俺「たかしくんか」
俺「兄ちゃん粘土下手くそだけど、がんばろうね」
たかし「うん!」
俺「で、お皿はこんな風に」
たかし「うん」ぎゅるぎゅる
俺(うわ超うめえ)
たかし「どう?」
俺「俺よりうまいよ」
俺(肉はどうしてんのかな)
俺(うわ、すげえ笑顔)
俺(子ども好きなのかな)
俺(めちゃくちゃ楽しそうにしてるわ)
俺(あんな顔できたんだな)
たかし「兄ちゃん?」
俺「あ、ごめんごめん」
俺(結局たかしくんより下手になった)
たかし「兄ちゃんのぐちゃぐちゃ」
俺「これが芸術ってものさ」
たかし「そうなの?」
俺「そうさ」
先生「ではみなさん、ダンスタイムです」
俺「は?」
子ども達「わーい!」
俺(聞いてない)
先生「音楽お願いします)
♪
子ども「わーいわーい」
俺「わ、わーい」
俺(しんどい)
肉女「ひゃっはー!!」
俺(あいつは何なんだ)
夜
俺(結局楽しく終わった)
俺(また行きたいな)
ピロン
俺「?」
肉女「学校やめる」
俺「わお」
俺「そりゃまたどうして」
肉女「保育士目指す」
俺「入学金もうち高かったのに」
肉女「保育士目指す」
俺「聞けよ」
俺「決めたの?」
肉女「うん」
俺「ほんとに?」
肉女「うん」
俺「後悔しない?」
肉女「このままここにいたほうが後悔する」
俺「そうか」
俺「わかった」
俺「お前かっこいいよ?」
肉女「ありがと」
俺「元気でな」
肉女「うん」
俺(思いきったなあいつ)
俺(俺も、なんか思い切ってみようか)
俺「あの、すいません」
俺(授業が終わった今がチャンス)
俺「誰か俺と演劇しませんか!」
俺(高校時代演劇部だった)
俺(ここにきて、そういうものと縁が無くなった)
俺(なんとなくさみしかったんだな)
俺(あー、もやもやふっきれた)
俺(あいつのおかげだ)
俺(まあ、思い切り笑われたけど)
数年後
俺「おい肉」
肉女「なにもやし」
俺「ひろしくんとさやかちゃんの回復は順調だぞ」
肉女「養護学級指導員、結構板についてるね」
俺「お前も一般園児のほうがんばれ」
肉女「ん」
おしまい
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