男「この地球上に於いて、俺の事を正しく認識できるのはお前だけだ!」
女「ま、まぁね……」
男「でも何故なのだろうか――」
男「俺は、昔から人間として認識されたことは一度として無かった」
男「だがお前は違う! 理由は……まだ分からんがな」
男「一緒に、この不可解な問題について考察しあおうじゃないか! 女よ!!」
女「キミが理解することは、一生、不可能だよ……男くん」
ものすっっごくスロー進行です。(たぶん)
見ていくなら、そこんとこの覚悟をヨロシク。
男「……フラれてしまった、か」
男「ようやく、俺の事を正しく認識し、理解してくれる人間が現れたというのに――」
男「一生、か…………」
男『……お母さん』
母『――それでね、○○君の子が――』
男『……お父さん』
父『――はい。商社との連絡ですね――』
男『――産まれて数年後、俺は誰からも認識されなくなった』
男『両親からでさえも、だ。捜索願も出されているようだし』
男『食糧に困ったので、物を勝手に食べるようになっていった――』
除霊師『亡くなったお子さんの霊が見えます』
男『ふざけんなよ。出鱈目抜かすなら帰れこの不法侵入者』
除霊師『声が聞こえますね……拒んでいるようです』
男『おい……お前、俺の言葉が、存在が――わかるのか!?』
除霊師『ええ……貴方の魂を、天国にお送り致しますよ』
男『……って、マジかよ!? 俺死んじゃったの??』
除霊師『あなたが死んでのち、悪さをしたから私が呼ばれたのです』
男『いや、たぶん悪さしてないぜ? それに、死ぬようなことも無かったし』
除霊師『嗚呼、自らが死んだことを理解していないようですね』
両親『まぁ……』
男『はぁ……俺が何をしたってんだよ…………』
男『――結局、あいつとは小一時間話したんだっけっかな、懐かしい』
男『ただ、有益な情報も聞き出せたがな――』
除霊師『――魂は、身体から抜けた時点で成長をやめます』
男『でも、腹減ったんだよ……いい加減俺を開放するか、なんでもいいから飯をくれ……』
除霊師『……どうやら、あなたは少々特殊な例ですね。私にはどうにも――』
男『なら仕方ない。あんたの役立たずな身体だけ貰っていくよ。じゃあな』
除霊師『ッ――――!?』
男『――つまり、現時点で俺が幽霊であるという線は薄い』
男『その後は頃合を見て両親の肉を喰らって家出をした、と……』
男『分からん! 何も分からんっ!! せめてあと何か思い出せれば…………』
男『――――自宅のカギは……開けたまんまでいっかな。誰もいないし』
男『……そういえば、俺が幽霊ならドアとかすり抜けられるんじゃね?』ガンッ
男『…………いや、カギとか自由に開け閉めする位なら……』キィーッ
男『………………無理、か……そんなことより、食糧の安定供給が先、だな』
男『――じゃあ、俺はやっぱり幽霊じゃなさそうだな』
男『でもそうすると、あの除霊師だけ俺が見えたのはおかしい話だ』
男『俺の姿が見えないのは、いささか不便だしなぁ……服だけ見えるってのも』
男『まぁ、そのお蔭で食糧確保の面では無問題だがなっ』
男『監視カメラに映らないから、万引きはし放題だぜ』
男『商品だけ浮いて、店を出て行くのに誰を捕まえろってかな。かっかっか』
男『……さて、今日も当然スーパーへ行くぜっ!』
男『一連の調理用品はある。飽きないように食材を――』
?『こっ――こら! こんなとこで何やってんの!!』
男『家族連れの喧騒……都会は騒がしいねぇ』
?『キミだよ! そこでカレー粉の見定めなんてしてるキミ!!』
男『……えっ? 俺!?』
?『そんな姿で……公衆の面前に…………破廉恥なっ!!』
?『とにかく連行だよ! ショまで連行ってヤツだよっ!!』
男『…………?』
客『……ヒソヒソ…………』
?『…………!?』
?『――――お、お騒がせしましたっ!!』グイッ
男『んなっ!? 首根っこを――』
?『……どうやら、キミの事が見えてるのは、私だけみたいね』ダッシュ
男『……って、あんた――――俺の事が見えるのか!?』
?『ええ…………でも、なんでかしら?』
男『……もしかして、あんたは除霊師の人?』
?『…………なるほどね。なんとな~くは分かったわ』
?『だから家までダッシュ!!』
男『――――とりあえず。俺は、男って言います』
?『私の名前は女。別に除霊師とかじゃないから安心してね』
女『さっきは突然ごめんなさい……だから、反省会をしましょう♪』
男『――俺を捕まえた女ってやつの第一印象は、なんとなく俺と似ていたこと』
男『俺という、存在しえない事象にも何か理由があるといって譲らなかった』
男『俺はできうる限りの現象と、自分なりに体感した可能性について教えた』
男『その内容はどれも、先述したような訳の分からないものばかりだったが――』
男『女は、最初から最後まで、真摯に聞いてくれた、最初の人だった』
男『俺について、考えてみようと言ってくれた最初の人だった』
男『聞いたところ女のほうも、どうやら不可解な過去を持っているようだった』
女『――私も、あなた……男だっけ? と、少しだけ似てるかな……って』
女『私って、ものすご~っく、他人から認識されづらいんだ……』
女『かろうじて認識はされるんだけど……なんていうか、陰が薄いんだよね』
女『それも、人並みじゃなく、薄いんだ♪ 男くんとおんなじだね~』
男『――女は、俺と違って少しだけ、世界に、認識されていた』
男『でも除霊師や交霊師とはちゃんと会話できるあたり、俺と同じだった』
男『そしてのち、俺達は俺達についての研究を始めたのだった』
女『――で、他人は服とかカレー粉とかだけ、認識できるんだね』
男『そうなんだよ……声も伝わんないし…………』
女『筆談はどうだったの?』
男『……内容は読めるんだけど、心情は伝わらないみたいな――微妙な感じだった』
女『それって、ただ男くんの文章力が低いだけじゃ――――』
男『俺にとって久しぶりの談笑は、とにかく楽しくて充実た物だった』
男『……あの話題に、触れるまでは…………』
女『私にしか見えないもの、か…………幽霊、とか?』
男『幽霊、ねぇ……近いんだけど、なんかちょっと違うような…………』
男『ってか、女って幽霊とか見えるんだね』
女『まぁねー……まぁ、見えて楽しいもんじゃないよ?』
女『幽霊って、強い意思や怨念を持った思念体だからさ。主に――』
男『なぁ……幽霊って、やっぱり存在するのか?』
女『そりゃあ、もちろんっ』
男『――女が言ったことには、すべて根拠や例が備わっていた』
男『だから、幽霊は存在するという事象にも、何かしら理由があると期待していた』
女『んー……理由かぁ…………無いんじゃないかな?』
男『……いや、なんかしらあるだろ普通』
女『――説明しづらいけど……理由が無い、という理由によって成り立っている事象?』
女『って感じかな。幽霊は――――』
男『なんだか、何かを知っていて、何かをはぐらかしているような。そんな感じを覚えた』
男「――――それから、楽しい時間をたくさん過ごしてきた気がする」
男「女の通っている大学に通ったり、そっち方面で著名な教授とお話したり」
男「結局、大学の研究費で、俺達は一冊の本を出版した」
男「『影の薄い女と、もっと影の薄い男に関する事情と考察』」
男「世界中のみんなが読めば、きっと誰かもう一人――」
男「女のような、そんな魅力と不思議に満ち溢れた人間が現れるかと想ったのに……」
男「結局、その本の存在感も俺達同様に薄かった。翻訳どころか重版すらなかった」
男「……結局、何も分からなかった」
男「俺に関しても、女に関しても、何も成果が得られなかった」
男「ただひとつ、分かったことといえば――」
男「お前の事が好きだ! が、理解はできない!」
男「――俺が、最初からあいつに惹かれていたってことだけだった、か……」
男「人間としての愛情は、受けたことがない。女からのそれは少しだけ違った」
男「あれはお互い、研究対象としてだけの愛情だったのだ」
男「俺は、ちゃんと愛を伝えた。一部の嘘も被せず、一部の尾びれもつけずに……」
男「だが、返答はあまりにも簡潔だった。それは、俺も思いかけていたこと」
男「そして、あえて言わずにいたこと……でも、きっと間違いじゃない」
女「キミが理解することは、一生、不可能だよ……男くん」
男「……だけど、俺は理解したいんだ! 女のことを! 全て!」
男「だけどまるでダメだ! 一部だって分かってないものを! きっと一生分からんさ!!」
男「…………一生?」
男「ちょっと待て……女は、俺について何か掴んだのかもしれない!」
男「そして、それをはぐらかし続けていたのかも、しれない――――ならば」
男「もう一度、よく考えるんだ…………俺が、理解のために、何をすればよいのかを」
女「キミが理解することは、一生、不可能だよ……男くん」
男「…………やはり、一生……か」
男「……分かったよ、女……いや、女が何をしたいのかは分からないけどさ」
男「俺、まずはこの一生を終わらせてみるわ」ザシュッ
男「………………」
男「あれ? 痛くない……死んだら痛くないのな――――ナイフでも」
男「……やっぱりナイフ刺さってるな。血も出てる」
男「まぁ、とりあえずこれも資料かな。メモメモ、っと」カキカキ
男「………………」
男「……………………何も、変わってないのか?」
男「だって、もしも俺が死んでいたなら、メモも取れなかったじゃないか!」
男「……幽霊に、なった? そんなのはありえない話だ」
男「女の話は何度も聞いたけど、やっぱりそこだけは信用ならない」
男「幽霊は、存在しえないんだ。きっと」
男「…………ってことは! 分かったぞ!」
男「幽霊が存在しえないってことを、女に証明すればいいんだ!」
男「……その為には、思念体である今の俺がここに居ちゃいけないな!」
男「死んでも何も変わってない俺の姿を幽霊と誤認したら、あいつが、悲しむから……」
男「できるだけ、遠くへ……」
男「俺も、女も、行けないくらいに遠くへ…………」
男「――――――」
男「西には断崖絶壁! 東には大海原!! 何よりここは無人島なのだッ!」
男「これで、あいつを……納得させられる…………!」
男「…………」
男「女、さすがにまだ来ないな…………って、まだ昼過ぎだぜ? 男さんよぉ」
男「――――」
男「――――――――」
男「女のやつ、今頃何してるんだろう?」
男「俺よりマシってだけで、あいつも認識されづらいのは確かだからな…………」
男「何か、苦労してなきゃいいけど……」
男「――――――――」
男「――――」
?「こっ――こら! こんなとこで何やってんの!!」
男「…………? おお、女っ!?」
女「ずいぶん探したんだよ? ……あ~あ、もう日が暮れそうじゃない!」
男「女! お前――なんでこんなところに…………」
女「それはこっちのセリフだよ! 何ここ! 無人島じゃない!!」
男「……って、おまえ大丈夫か? 女……その格好…………」
男「服とか、かなりボロボロだけど――」
女「道中、ここまで来るの、大変だったんだよ?」
男「……あれ? そうでもなかったような…………」
女「…………なるほど、やっぱりそうだったのね!」
男「やっぱりって、何が――」
女「ちょっと、そこの木にアタマぶつけてみてよ?」
男「……女って、結構変わったやつだとは思ってたけどさ。でも――」
女「そんなことは、どうでもいいのっ! ……早くぶつけてきなさいよ、バカ」
男「しょうがないな……えいっ」
男「あれ? 痛くない……ってか、すり抜けた!?」
女「男……ってさ、幽霊、信じてないんでしょ?」
男「ああ……そりゃあ勿論」
女「じゃあさ! この現実を、どうやって解釈するのかな? 男くん……?」
男「っ……! …………っ……………………!!」
女「まぁ、男の代弁は、できないんだけどね」
女「男のことなんて、私、何一つ理解できてないんだよね~」
女「幽霊はちゃ~んとそこに存在するのに、それを理解できない男を、理解できない」
女「理解できないけど、それはきっとずっと理解できそうもなかったんだ……」
女「でも、今ならたぶん大丈夫……理解してもらえそう、かな」
女「幽霊の存在を認めようとしない、その頑なな姿勢が、大好きだよっ」
男「……えっ?」
女「私の愛を、理解してくれるのかなぁ……男くんは?」
男「女のことは……何も、分からない」
女「うん」
男「でも、女が居ないと、心配で、悲しくて、寂しくて――」
男「あくまで背理法によって、だけどね。俺が女の事が好きなのは」
女「っ、最後まで貫くなぁ……でも、そんな男くんが、大好きだよ……」
女「……だから、さ……約束して欲しいな」
女「キミは、男自身の存在を否定しないために、もうキミ自身の研究をしないこと。いい?」
男「ああ……分かった。もちろん、幽霊なんて居るわけ無い」
女「本当は違うんだけどね……ま、そういうコトにしといてあげる♪」
男「女も貫き通すなぁ……少しは人の意見聞くのはどう?」
女「だって、私にはキミと違って折れる理由がありませんから! 残念っ!!」
男「……でも、俺はそんな女が、たまらなく好きだ」
男「研究対象としても、確かに興味深いけどさ――」
男「やっぱり、人間として、君のこと好きなんだ」
女「ありがとう……やっぱり、生きてる甲斐があったわ」
男「……えっ?」
女「最初、男が死んだって分かったとき、私も一緒に死のうかと思ったの」
女「そうすれば、男に会うのに苦労はしなかったわ」
女「……でも、それじゃ男が満足しないでしょ?」
女「最初、研究仲間として告白してくれたとき、凄く嬉しかったんだ」
女「男が、それだけ自分の正義を貫くんだって、分かったから……」
女「だから、その正義を守ってあげたい、って思えたんだ――」
女「幽霊が存在しないためには、研究対象が幽霊じゃダメでしょ?」
男「女、俺のためにそこまで考えて――」
女「まったく、男みたいに何も考えずに孤島に来たりしませんってば!」
男「ち、違う! 何も考えてなかったわけじゃない! ちゃんと――」
女「ナイフのあとは、キミの考えは全部知ってたよ」
女「私のことを、想ってくれてたから――無意識に、分かっちゃうのよ……」
男「そう、だったのか……でも本当に、ごめん…………」
男「これからどうしようか――」
女「……男には、罰を与えなきゃね」
男「……どんな罰でも受けるよ。効くか分かんないけど」
女「私の身体を抱きしめなきゃいけない罰、とかどうよ?」
男「どうよ? って……果たして、罰なの? それは――」
女「ええ。これによって貴方は今後、私のこと『しか』考えられなくなるわ――!」
男「……って、『しか』はさすがに困る気がするよ! 生存欲求を越しちゃうの!?」
女「さぁね~♪ でも、罰だからね……どんな罰でも受けるんでしょ?」
男「……分かったよ。なんだか興味深そうだしね」
女「言われなきゃ、研究対象としてしか見てくれなかったくせにっ」
男「前も今も、変わらないよ――」
女「もちろん、私もだよ――!」
男「お前の事が好きだ! が、理解はできない!」 ――完――
以上です!
(一見、誰も居るようには見えないけども、)皆さんお疲れさまでした!
また、どこかで逢えることを願って――おやすみなさい
乙、ところで男が完全に死ぬ前はなんで認知されなかったのかが気になった
男はどの段階で死んでたんだ?
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