佐久間まゆ「月灯りふんわり落ちてくる夜」 (22)


窓を開けて、私は夜空を眺めます。

いつもは真昼のように眩しい街も、今日はまばらに灯りが漏れているだけ。

鬼の居ぬ間になんとやら、と言わんばかりに満月と星たちが雲一つない空で輝きを放っています。

部屋にあるつけっぱなしのテレビは、ニュースキャスターが淡々と台本を読み上げる声を流しています。


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あの人は今、何をしているのでしょう。

大きな月を見上げたまま、私は軽くため息を吐きます。

今すぐにでも会いに行きたい気分ですが、そんな事をして迷惑をかけるわけにはいきません。

ぐっとこらえて、我慢です。


少し待てば、すぐ会えるんですから。


窓の下からは今を精一杯生きている人たちの声が聞こえてきます。

お酒に酔っていたり、楽しそうに笑っていたり、みんな辛いことを忘れて騒いでいます。

お酒、ですかぁ。私はまだ飲んだことがありません。未成年ですから。

いつか大人になったら、あの人と二人っきりで飲みたいですね。なぁんて。


テレビから聞こえてくるニュースキャスターの声も、何十度目かのループを迎えます。

穏やかな音楽をバックに、数時間前に録音されたであろう声が流れ始めます。


『地球へ向けて落下してきている月ですが、専門家の見立てでは早くて今夜、遅くても明け方には地表へ落ちるとのことです』

『テレビの前の皆さん。やりたいこと、やり残したことはありませんか? 残り数時間の人生、悔いの無いようにお過ごしください』


声の再生が終わり、穏やかな音楽だけが部屋の中から聞こえてきます。

画面には川や草原といった自然風景の映像が映されていることでしょう。数時間前に見た時もそうでしたから。


「……私のやりたいこと、ですかぁ」

私はあの人の元へ行って、あの人とたくさんお話して、あの人の存在を感じたいです。


でも。


最後の日に私が押し掛けて、あの人のやりたいことを邪魔してしまうわけにはいきません。だから。

まゆは少しずつ大きくなっていく月と、輝く星たちを眺めながら貴方の事を想い続けます。


まゆは思い出します。貴方と過ごした日々を。

まゆは思い出します。頭を撫でてくれた貴方の手のぬくもりを。

まゆは思い出します。ドライブした日に貴方と観た景色を。

まゆは思い出します。貴方のすべてを。


「…………はぁ」

早く貴方に会えますように。

私の想いは、空を覆う月のように少しずつ膨れ上がっていきます。

これにて終了です。先日抜いた親知らずの穴が塞がってきました。歯茎って結構プニプニしてるんですね

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