ことり「群青色の夏空」 (45)
・SID風味
・一応前作みたいなものがありますので、よろしければ。
ことり「幸せな休日」
ことり「幸せな休日」 - SSまとめ速報
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とある夏の日のことです。
このオトノキも東京の一角らしく、やっぱり夏はとっても暑くて。
「あーつーいーにゃーっ!」
「凛、騒げば騒ぐほど暑くなりますよ……」
「あはは……」
ここは海未ちゃんのおうち。
『この間はことりちゃんちにお邪魔したから、海未ちゃんの家も行ってみたい』って言う凛ちゃんと一緒に、ことりもお邪魔させてもらってます。
穂乃果ちゃんも誘ったんだけど、今日はお店の手伝いでどうしても来れないみたい。
「ねえ海未ちゃん、クーラーはー?」
「すいません、室外機が壊れてしまったようで……」
「しばらく使ってないとたまにあるよね……」
仕方なく風の当たる縁側で3人並んで座っているんだけど、やっぱり。
「さすがに暑いですね……」
いつもはあんまり暑いとか寒いとか言わない海未ちゃんもまいってるみたい。
うーん。
「ねえ海未ちゃん、私達が子供の頃使ってたビニールプールとかないかな?」
「あー、あるかもしれませんね。けどさすがに入れませんよ?」
「ほら、足だけでも冷やすと違うと思うし」
「それにゃ!凛も出すの手伝うよー!」
「そうですね……ちょっと母に聞いてみます」
海未ちゃんママに聞いてみたいところ、やっぱり物置に入ってるみたい。
ということで、懐かしいビニールプールを3人で引っ張りだします。
「うわあ懐かしい!」
「もう何年ぶりでしょうね」
「ビニールプールなんて久々に見たにゃー」
子供の頃、海未ちゃんや穂乃果ちゃんとよく遊んだビニールプール。
だいぶ色褪せてはいるけれど、柄とかはあの頃のまま。
幸いにも穴とか傷はないみたい。
「この空気入れ懐かしいねー」
分かるかな?足で踏んで空気を入れるタイプの空気入れ。
小さい頃は代わりばんこに一生懸命踏んでたっけ。
「あ、凛やりたい!」
「ふふ、じゃあお任せします」
「疲れたら言ってね」
「お任せにゃー!」
しゅこ、しゅこ。
昔懐かしいあの音が庭に響きます。
子供の頃よりやっぱりプールが膨らんでいくスピードは速くて。
「えいっ、えいっ」
夢中で踏む凛ちゃんがなんだか微笑ましいです。
「懐かしいですね、本当に」
「夏はいっつもこのプールで遊んでたもんね」
子供の頃、あんなに大きく見えていたこのプールも今見るとなんだかとても小さくて。
私達3人で入ったりなんかしたらすぐぎゅうぎゅう詰めになっちゃいそう。
「でっきたー!」
凛ちゃんの元気な声が響くと、足元にはすっかり膨らんだビニールプール。
「ふいー、余計暑くなっちゃったにゃ」
「お疲れ様です、どうぞ」
あらかじめ用意していた氷の入った麦茶を海未ちゃんが手渡します。
「わあ、ありがとー!」
「それじゃあ、水を張りましょう」
「ことり、ホース持ってくるね」
これもまた懐かしい、緑色のホース。
最近ではすっかり自分で使うことってなくなった気がします。
小さい頃は勢い良く水が飛び出すのが面白くて、ホースの先を指で抑えて細くして水の飛び方を変えて遊んだりして。
ふふ。いろいろ思い出すなあ。
きゅっと蛇口を捻ってプールに水を溜めます。
水がプールに落ちていく音もなんだか懐かしくて。
「涼しげな音ですね」
「だね」
「うん、この音だけでも結構気分違うかも!」
しばらくして、水が溜まりきると。
「凛がいっちばーん!」
ばしゃーん!と勢い良く凛ちゃんがプールに足を入れます。
「うわー、冷たくて気持ちいいよ!」
「こら凛、ことりに水がかかるじゃないですか」
「あはは、暑いしすぐ乾くよー」
ちょっぴり水がかかったけど、むしろ気持ちいいくらい。
ぱちゃぱちゃ、と凛ちゃんはご機嫌な様子で足をばたつかせて。
「そうそう、さっき物置でこんなものを見つけたんです」
そう言って海未ちゃんが取り付けたのは綺麗な群青色の風鈴。
「わあ、綺麗」
「海未ちゃん色だにゃー」
「なんですか、それ」
くすくす、と海未ちゃん。
でも本当に綺麗な色。どこまでも深い青は確かに海未ちゃんっぽいかも。
「では私達も……ひゃっ、冷たっ」
「ふふ、冷たくて気持ちいいねー」
3人肩を寄せあって、プールに足をつけて。
海未ちゃんは右側、私は左側。そして真ん中に凛ちゃん。
「えへへ、なんだか三姉妹みたいだね」
「ことりちゃんが優しい長女、海未ちゃんがちょっと厳しい次女で凛はやんちゃな三女って感じかな?」
「自分でやんちゃって言っちゃうんだ、ふふ」
「ちょ、厳しいってなんですか厳しいって!」
そんな他愛もない会話をして過ごす午後。
うーん、なんだか幸せ♪
「あらあら、まとめてうちの子になっちゃいますか?」
すると、くすくすと上品な笑い声が後ろから。
「スイカ、切ってきたのでどうぞ」
「わあ、美味しそー!」
「ありがとう、海未ちゃんママ!」
「いいのいいの、ごゆっくり」
同性でも見とれちゃうような優雅な笑顔を浮かべて、海未ちゃんママは下がっていきます。
昔っから全然変わらない、とっても綺麗なお母さん。
「海未ちゃんのお母さんって綺麗だにゃー……」
「そうですか?」
「海未ちゃんも綺麗だよ?」
「ちょっ、ことり!?」
ふふ、こうやってからかうとすぐに真っ赤になるんだから。
「もう……いただきましょう」
「いただきまーす!おいしー!」
「とっても甘いねー」
火照った体に冷えたスイカがとっても染みる。
これぞ日本の夏!って感じです。
のんびりスイカをかじっていると、気持ちのいい風。
ちりん、ちりん。
さっき吊り下げたばかりの風鈴の綺麗な音。
「ふーりゅーだにゃー……」
「心なしか、ちょっと涼しく感じますね」
「うん、不思議だよね」
3人の髪を風が撫でて。
風鈴の音、甘いスイカ、冷たいプールの水。
なんだかいいなあ、なんて思うのです。
「こーとりちゃんっ」
「わ、凛ちゃん?」
「えへへ」
こてん、と私の膝に寝っ転がってくる凛ちゃん。
この間以来、凛ちゃんは私の膝枕がお気に入りみたい。
「ふふ、凛はすっかりことりに懐いてますね」
「なんだか安心するんだー」
「ありがと、凛ちゃん」
いつも通り、ゆっくりゆっくり凛ちゃんの頭を撫でる。
この時間は私も大好き。
「本当に姉妹みたいに見えますよ」
「ことりおねーちゃん、好きー」
「あはは、照れちゃうよ」
妹がいたらこんな感じなのかな、なんて。
一人っ子のことりは本当の姉妹っていうのがどういうものか、よくは知らないけど。
凛ちゃんみたいな可愛い妹なら大歓迎です♪
「……かわいい……」
ぽつり、と呟く声が聞こえた。
……海未ちゃん?
ふっと目を向けると。
「あ、いや、今のは」
「ふふ、海未ちゃんも撫でてみたら?」
「凛は猫じゃないよー?」
「し、失礼しました」
「でも海未おねーちゃんにも撫でてほしいなー?」
にやにやとイタズラっぽい笑顔で言う凛ちゃん。
海未ちゃんも素直じゃないんだから♪
「ほらほら、凛ちゃんもこう言ってることだし」
「う、で、では」
なんだかおそるおそる、凛ちゃんの頭を撫でる海未ちゃん。
ふふ、微笑ましいな。
「気持ちいーにゃー」
「そうですか?」
「うん……」
凛ちゃん、ウトウトしてきちゃったかな?
「凛ちゃん、眠い?」
「ちょっとだけ……」
「いいですよ、後で起こしてあげますから」
「いい子いい子……」
「にゃー……」
すっかりおやすみモードの凛ちゃん。可愛いなあ。
2人で凛ちゃんを撫でてるって不思議な感じ。
「妹がいたらこんなに可愛いのかなあ」
「どうなんでしょうね」
「ふふ、2人でホントに海未ちゃんちの子になっちゃおうかな。あ、穂乃果ちゃんも一緒に」
「それは大所帯ですね。穂乃果と凛が揃ったら騒がしくなりそうです」
2人でそんなことを言いながら笑い合う。
「ことりおねーちゃん、海未おねーちゃん……」
しばらく撫でていると。
半分夢の世界にいる凛ちゃんが私達を呼ぶ。
「どうしたの、凛ちゃん」
「なんです、凛?」
「だーいすき、にゃ……」
私達は顔を見合わせて笑い合う。
ホントに妹にしたくなっちゃいます。
「やれやれ、しばらく寝かせてあげないといけませんね」
「海未ちゃんてさ、結構シスコンとかになりそうだよね」
「な、ないとも言い切れません……」
「あはは」
ちりん。
綺麗に響く、風鈴の音。
見上げれば、風鈴と同じような色をした、どこまでも広がる青空。
おっきなおっきな入道雲。
ゆっくりとした時間の流れる不思議な感覚。
そんな暑い夏の日の午後。
またひとつ、とっても幸せな思い出ができたのでした。
以上です。
スイカ食べたい。
このSSまとめへのコメント
すごく良い
凛ちゃん可愛い♪
ことうみりん
これは珍しい組み合わせですね!