アニ「この雨に秘密を隠さないか」(68)
エレン「何だって?もう一回言ってくれよ。雨音強くて聞こえなかったから」
アニ「……何でもないよ」
アニ(ちゃんと聞いてなよ、バカ)
エレン「しかしやまないもんだな。もう二日間降りっぱなしだ」
アニ「雨は嫌いかい?」
エレン「湿気った空気が苦手なんだよ。髪や肌までベタベタするし。アニは好きなのか?」
アニ「……さあね」
短めです
書く必要があるか悩む程度の微妙なエロありです
アニ「そう言えば、珍しくミカサがそばにいないじゃないか」
アニ(なにが“そう言えば”だ。ずっと気になっていた癖に)
エレン「ああ、あいつは俺以上に雨が苦手でさ。そばに居た方がいい時と居ない方がいい時が極端でよ。俺よりアルミンの方が相性がいいから任せてるんだ」
アニ「あの子があんたよりいいと思うものがあるなんてね」
エレン「そんなに意外か?まぁこんな時はアルミンの出番なんだよ。俺はつい突っかかっていらないケンカしちゃうからな」
アニ「あんた今暇なんだね?……それならさ、やっぱりさっきの話をしたいんだけど」
エレン「さっきの?」
アニ「私が言いかけて、雨音で聞こえなかった話」
エレン「おお、やっぱり何か言ってたのか。なんて言ったんだ?」
アニ「私と秘密を作らないか?」
エレン「なんだそれ。芋でも盗みに行くのかよ」
アニ「芋女が104期に二人もいたら訓練兵団は破滅するよ」
エレン「じゃあなんだ?秘密って何を誰に隠すんだ?」
アニ「私たちの関係を周囲に隠す」
エレン「関係って言ってもよ、俺たちが二人でトレーニングしてる事なんて皆も知ってるぜ?」
アニ「だから、さ。トレーニング以上の事をしようって言ってんの。相変わらず鈍いねあんたは」
エレン「……そう来たか。ずいぶん直球だな。俺、勘違いしてないよな?」
アニ「勘違いしてるかどうかは私にはわからないけど。あんたは女に興味は無いのかい?」
エレン「あるに決まってんだろ。男の性欲なめんなよ?皆そしらぬ顔してても、部屋じゃそんな話が一番盛り上がるんだからな」
アニ「想像に難くないね。ライナー辺りはそんな話でも兄貴風吹かしてんだろう?」
エレン「ジャンだってやたらに詳しいけど童貞だしな」
アニ「……ま、どうせフランツ以外は全滅だろうね」
エレン「そうとも言うな」
エレン「で、アニさんは俺をフランツ側にしてくださるって?」
アニ「そこまで考えてないよ」
エレン「おふ……そうか、じゃあ俺の交渉次第って事だな」
アニ「そういうことにしておこうかな。で、秘密の事だけど……」
エレン「誰にも言わない。誰かに気づかれたら終了、でどうだ?」
アニ「上出来。もし誰かに指摘されたり、秘密の事を匂わされたりしても終了」
エレン「速攻でアルミン辺りに気づかれたら嫌だな」クスクス
アニ「嫌だってのは……ミカサにバレるのが怖いの?それとも実は私に興味でもある訳?」
エレン「実はアニに興味があるって事」
アニ「……へぇ、それはどうも」
アニ(ニヤケそうになる顔を引き締めておくのは……思った以上に大変だ)
アニ(こいつの言葉はいちいち真っ直ぐだね、本当に)
エレン「元々アニは俺のいち押しだからな」
アニ「私が?意外だね。ミカサはどうなの?かなり美人じゃないか。あんなのが隣で甲斐甲斐しくしてくれるのは男なら嬉しいもんじゃないのかい?」
エレン「世話焼くついでに頼めばすんなり股開かれそうでな。そんな関係が怖いってのもある」
アニ「……そう」
アニ(ずっと確認したかった。ミカサに対するこいつの反応が、ただの照れ隠しなのか否か)
アニ(少なくとも……付け入る隙はありそう)
エレン「お前今ニヤケてるぜ?結構可愛いところもあるな。知ってたけど」
アニ「ほっといて。ミカサより興味があるって言われりゃ、いくら私でも嬉しいと思ったりもするさ」
エレン「そんなにミカサは評価高いのか。で、俺達の事はどうするんだ?」
アニ「……雨の日にしないか?」
エレン「雨の日……確かに外の訓練は雨天決行もありゃ雨天中止もあるからな。中止の時にって事か」
アニ「わかりやすいだろ?」
エレン「うーん……でも降らない時はずっと降らないからなぁ……」
アニ「がっつくんじゃないよ。雨を待つのも楽しみの一つにすりゃいい」
エレン「アニは結構乙女なんだな。提案自体は別にしても」
アニ「それじゃあ決まりだね」
エレン「よろしくな。出来れば長く」
アニ(スッと距離をつめたエレンに身構えてしまうのは対人格闘の癖か)
アニ(もっとドライなキスから始まるかと思っていたのに)
アニ(抱き締められながらじゃ……胸の鼓動が聞こえてしまうじゃないか……)
──…
アニ(思いの外、あんな交渉も上手くいくもんだね)
アニ(正直言って突っぱねられると思ってたよ)
アニ(……あいつがキスしかしなかったのは紳士だからか、へたれだからか)
エレン「アニ、おはよう」
アニ「……おはよ」フィッ
アニ(昨日の今日で早速話し掛けるんじゃないよ)
アニ(……と言っても無視も嫌か。うん、嫌だな)
エレン「疲れてそうだな、寝てないのか?」
アニ「……ほっといて」
エレン「……俺も寝てない。興奮し過ぎた」クスクス
アニ「!」
エレン「じゃあな」
アニ(興奮……してたんだ)
アニ(まぁ、それもそうだね。五回キスしただけで、他には何もしていないし)
アニ(……私なんで数えてるんだろ)
アニ(ダメだ……あいつの顔がチラついてニヤケそうになる)
エレン「……こんな所で百面相してたら怪しいぜ?」
アニ「ひうっ!?……うるさい。じゃあなって言ったならさっさとどこか行きな」
アニ(いつもはジャンとケンカして皆とバカな事やって、訓練を真剣にやって巨人巨人ってうるさいだけの男が)
アニ(……余裕ありそうに接してくるのはちょっとムカつく)
アニ(でも私を意識して態度を変えてきた事には)
アニ(優越感も少々……いや、かなり)
ミカサ「アニと何を話していたの?」
エレン「ん?今日の対人格闘もよろしくなって。さ、朝飯朝飯……」
──…
アニ(ちょっと緊張する)
アニ(いや、対人格闘で組むのは今まで通りだけど)
エレン「いくぞっ!」ダダッ
アニ「……フッ!」ガッ
ミカサ「……」チラッ
アニ(いつも感じていたミカサの視線に)
アニ(何かを見抜かれそうで)
エレン「ハッ!」ガシッ
アニ「う…!?」ヨロッ
エレン「やったぜ!今のは効いただろ?」
アニ「チッ……悪くないよ」
アニ(もう少しヤキモキしながら眺めてておくれよ)
アニ(……まだキスしかしてないんだから)
──…
アニ(二日、三日と何もなく過ぎる)
アニ(当たり前だ。雨の日なんて実のところそうそうないんだから)
アニ(……ところがどうだい?この暗く厚い雲と湿気った風)
エレン「普段の行いがいいと天気まで俺の味方だな」
アニ「雨を待ってたって事かい?」
エレン「当たり前だろ。一日中雨が降らないか考えてるって」
アニ「……とんだ変態野郎だね。知らなかったよ」
アニ(私だって、一日中考えていたけど)
アニ(次は何をするのか……されるのか)
エレン「正常の範囲内だろ。アニだって教官が中止を伝えた時にニヤついたじゃないか」
アニ「!……お互い様ってことさ」
エレン「じゃあアニも変態女だな」
アニ「悪いかい?じゃなきゃこんなことには誘ったりしないさ」
エレン「悪い訳がないだろ。じゃあ後でな」
アニ(!……いけない、秘密の話なのに少し声が大きかったかも)
アニ(昼食後の歩兵訓練、前回の雨で予定の山道が崩れていたらしく今回は延期)
アニ(普段なら雨天決行もおかしくないけど……これは関係を進めろって事なのかもしれない)
アニ(……っていう私の希望的観測)
──…
アニ「あんたの友達二人は探しに来たりするかね?」
エレン「用事がなきゃ俺達だって別行動くらいするさ。それに俺はどこでも寝ると思われてる節があるから、追求されても“すまん寝てた”で終了だ」
アニ「……本当は膝に女乗っけて尻を撫でてました、だろ?」
エレン「お前の尻って形いいよな」ナデナデ
アニ「伊達に足技鍛えてないよ」
エレン「なる程な。って事は俺の尻もいい形になるかな」
アニ「……バカ言ってんじゃないよ」ハァ
アニ(エレンに体を誉められるのは悪くない)
アニ(むしろ急にその部分が誇らしくさえ思えてくるから)
アニ(私は自分で思っていたよりも単純みたいだ)
エレン「アニ、もうちょっとこっち向けよ。今何考えてるんだ?」
アニ「……キスの次はお尻ってところがマニアックだなって思ってた」
エレン「胸が良かったか?」ハムッ
アニ「んっ…。ふ、服の上からなめるな。変な所が濡れてたら言い訳も出来ないじゃないか」
エレン「なめてない。唇で挟んでるだけだから濡れないし」ハムハム
アニ「ん……ふ、う……」
エレン「可愛い声だな」
アニ「ほ、本当は気持ち良くなくても声ぐらい演出してやるのがいい女なのさ」
エレン「いい女はそんな事暴露しないだろ」クスクス
・・・・・
エレン「そろそろ時間か……俺から先に戻っていいか?」
アニ「人のお尻撫で回して胸にいたずらするのは構わないけどね……笑えるぐらい元気なあんたのソレはどうすんのよ」
エレン「便所寄って行くから気にすんな」ヒラヒラ
アニ「……ふん」
アニ(あいつを興奮させたのは私の体だ)
アニ(今から一人で処理する時だって私を思うはず)
アニ(思う……はず)
アニ(自信が無い理由を……)
アニ(今日は一度もキスされなかったからだって言ったら)
アニ(笑われそうな気がする)
──最近エレンが優しい
アニ(ミカサが珍しく女子達の恋バナに混ざったかと思ったら)
アニ(頬をうっすら赤らめながら言っていた)
アニ「……どうせ気のせいだろ」ボソッ
アニ(話には混ざりもせずにいたくせに、ベッドの上から思わず呟いたのは)
アニ(少なからず嫉妬していたから)
アニ(……その一瞬後に浴びた殺気は凄まじかったけど)
──…
アニ(前の逢瀬から一ヶ月)
アニ(久しぶりに揃った二つの要素)
アニ(雨、そして中止になった訓練)
アニ(なんの事はない、またあいつと待ち合わせて、少しだけ過剰なスキンシップを楽しむ……それだけなのに)
アニ「今回は都合が悪い。また今度ね」
アニ(ミカサの言葉を引きずって、嫉妬混じりに約束を反故にした)
エレン「わかったよ」
アニ(少しも未練を見せないエレンに、寂しさとイラつきをぶつけたいけど)
アニ(お門違いは私がよくわかってる)
──…
ミカサ「エレン、水を持ってきた」
エレン「悪い、ありがとな」
ミカサ「……こぼしてる」
エレン「後で拭くよ」
ミカサ「放っておいたら服につく。すぐに拭くべき」フキフキ
エレン「おい……まぁいいや、ありがとな」
アニ(……チッ)
アニ(最近あまりあいつはミカサに怒鳴りつけない)
アニ(それでもその程度の“優しさ”なら)
アニ(私の方が優しくされている)
アニ(……たぶん)
──…
アニ(提案したのは私だけど)
アニ(求められているのは私だという体裁を保ちたい)
アニ(だから言えない)
エレン「すまん、今度は俺が都合悪いんだ。アルミン達から座学のわからない所教えてもらうから」
アニ「……好きにしな」
アニ(私を優先しなよ)
アニ(アルミン“達”ってそんなに大事かい?)
エレン「アニ」グイッ
──チュッ
エレン「怒るなよ」
アニ「……もう一回してくれたら許してやる」
アニ(結局私が約束を破った分までキスで支払わせて計四回)
アニ(笑っちゃうほど単純に、イライラが消えた胸)
アニ(キスの最中、目の端に映った人影は……見ないふり)
──…
エレン「悪い、アルミンに見られてたみたいだ」
アニ「……そうかい、じゃああの約束も終いだね」
アニ(バツの悪そうな表情)
アニ(バカ正直に言わなきゃいいのに……私に触りたいなら)
アニ(これでもう、雨の待ち合わせにこいつは来ない)
アニ(今日が雲一つない快晴なのは)
アニ(雨雲に隠れるしかない意気地無しの私を、太陽が嘲っているからなのか)
エレン「アニ、俺……」
アニ「構わないよ。どうせ遊びだ。雨の日の……暇つぶしだよ」
アニ(毎日、空を見上げてしまうほど心待ちにした暇つぶしなんてあるもんか)
エレン「遊び、か。アニがそこまで割り切ってるんなら、さっさと抱いちまえば良かったな」
アニ「……あんたは何に遠慮したって言うのさ」
アニ(そうだ、あんたは抱けば良かったんだ。あれでも手を出さないなんてとんでもないへたれだね)
エレン「……アニを大切にしたいと思う、俺の本気に」
アニ(……え?)
エレン「これでも随分悩んだんだ。いつ死ぬかわからない世の中だからこそ、未練は残したくない」
エレン「でもあんな約束の延長で抱いちまうには……俺はお前に惚れすぎた」
エレン「出来ればよ、アニ。次の相手とは……俺にバレない程度には上手くやってくれよ」
アニ「あ……待っ……」
エレン「アルミンは俺がなんとかするからお前は気にするなよ、じゃあな」スタスタ
アニ(頭が回らない)
アニ(今引き留めなかったら……)
アニ(私の思いはあいつの中で“遊び”になってしまう)
アニ(でも……声が出ない……)
エレン「……泣いてるって事は、脈ありとみていいのか?」
アニ「!あんた今、じゃあなって……」
エレン「そりゃ未練があるからよ、振り返りもするだろ。そんでお前が泣いてたらさ、駆け寄りもするだろ?」
アニ「知らないね、あんたの考えなんて」グスッ
エレン「……まぁあれを“遊び”にするにはお互いを知らなさすぎたって事だろ」
エレン「ところでよ、雨の日の約束は終いだけど……新しい約束を取り付けるのは可能か?」
アニ「……次はどんな条件にする気だい?」
エレン「太陽が空に昇った日に、誰にバレてもやめない条件で」
アニ「欲張りだね」
エレン「自分の気持ちを隠したまま、俺から告白させた奴に言えたセリフか?」クスクス
アニ「ほっときな。誰のおかげで私に触れたと思ってるんだか」
エレン「雨のおかげだろ?」
アニ「……そういう事にしといてあげる」
アニ(気恥ずかしい)
アニ(心を隠した雨雲を、吹き飛ばしてしまったあいつの本気)
アニ(これからは太陽の約束を胸に)
アニ(もっと素直な自分で)
完
お付き合いいただきありがとうございました
進撃ss七作目です
前作はアルミン「友達募集掲示板」です
レスくださった方、ありがとうございました!
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