ユミル「身を削り身を裂き」(209)

☆サシャ「食糧対策担当のサシャ・ブラウスです!」の勝手なインスパイア
☆基本ユミクリ、ただ百合だとは思わないでください
☆途中からグロ注意……?
・9、10巻ネタバレあり
・何も考えていません

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ユミル「まだ貴族気取りなのか」

クリスタはうつむいたまま答えない。
顔は細って、瞳にも影が宿り、せっかくの美貌や愛嬌が台無しだ。
いや、そんな冗談すら言えない状況じゃないか……からかい癖で固められた私にも分かる。

―― どれだけ頑張っても自分じゃ死ねずに、とうとう一番消極的な方法を選びました、ってか?
今の私がひねり出せる言葉はこれくらいしかないが、口を開くのはやめておく。
他の奴らは別として、少なくともこいつには、意味もなく雑言を浴びせることはできない。
ましてや、なおさら細って血の巡りが悪くなった体を目の前にしては。

クリスタは日に日に生気を失いつつある。
誰が悪い? ああ一人思い浮かぶさ。本当は悪くなんてないのは知っているのにな。

ユミル「そろそろ慣れろ。自分のためだ」

人間の姿をした餓鬼……いやあいつのせいじゃない……サシャが「新しい食事」を開発してからというもの、
クリスタは戦いに臨む身とは思えないほど弱っていった。
周りの庶民どもが次々に慣れていく中、こいつだけは上流の癖が抜けずにいた。
元々体格にも体力にもハンデがあったのに、このままだと差が広がるばかりだ。

ユミル「お前はもう兵士だろ」
何度も似たようなことを言って目を覚まさせようとしたが、高貴な習慣は骨の髄まで染み込んで抜けずにいる。

私の手には布袋がある。八本足が二匹入っている。
少し前までは、残りの食事を部屋に持ち込んではいけなかった。
今は誰も責めやしねえ、原材料が有り余っているのだから。

クリスタ「いや、だ……そ、れ」

指差す手は震え、見つめる目は行き場を失っている。
頭に刷りこまれた恐怖が、中身を教えてくれているのだろう。

ユミル「嫌も何もねえよ。お前は心臓を捧げた。誰に捧げた?
こんな下らねえことで消えて、お前を除け者にした奴らに笑われる気か」

不器用な説得が通じるとは端から思っていない。
正直、本当に下らねえことだとも感じている。
だが、こいつにとっては、このゲテモノを食うか食わないかが、人間が持つべき尊厳の境目なんだ。
私は何とかしてこの壁を打ち砕いてやらないといけない。
そうしないと報われない。どれだけ裏から手を回してやったと思ってる?
いや、違うね。手を回してなんかいない。全部私自身のためだ。

力なき手首を握る。
脈はある、当たり前だ、けれども冷めはじめている。
一か月も経っていないし、今まで通りの薄いスープやら何やらも残っているから、まだ望みはある。
その証拠に、こんな姿形でも、こいつはしっかり練習に出ている。
もしかしたら、クリスタが弱っているというのは、私の思い込みなのかもしれない。
とはいえ、昆虫食は急速に広まっている。
仕方ない、芋女のみならず、あのミカサの野郎まで賛美しているんだ。

きっと、どうにかしてやれるのは私しかいねえ。
自分のためなんて言ってられるか。

ユミル「クリスタ。とりあえず、寝てろ」
クリスタ「きょうは、いいの?」
ユミル「いいから寝てろってんだ。子守でもいないと安らがないか?歌でも歌わないと寝つけないか?」
クリスタ「そんなことないよ」

目をつぶった、今だ。
念のため手元に警戒しながら、袋から一匹を取り出す。
頭に齧りつく。前歯で割り、犬歯で裂き、奥歯ですりつぶす。
衣はとっくにしなびて、虫の味を騙すことができなくなっていた。
とろみの凝縮された濃い汁が舌にまとわりつく。
私からしたら大したもんじゃない、むしろ、前の水同然の食い物に比べればよほどマシだと思えるものだ。
ただ、クリスタが不味いやら嫌だやら言うものだから、最近ではそれが移りつつある。
戦場に不必要な理性を押しつけられている。
……もうこれ以上言うなよ、私は飢え死にしたくねえ。

一通り形がわからなくした後、飲みこまずに舌の奥にしまっておく。
初めての試みだ。どちらに転ぶかもわからない。だが引くつもりはない。
お前が理性を押し付けるなら、私は本能を押し込んでやる。
クリスタは、苦しみを自分から消し去るかのように目を開けない。それでいい。

私は寝姿に忍び寄り、真隣に潜む。
こいつの頬に手を添え、顔を合わせ、味気なく、唇を触れる。
初めは軽く、緩やかに強く。
暫くしてまぶたが開く。
そうだ、もう見てもいい……いつもやっていることだからな。
両手をうなじに持っていき、逃げ場を失わせる。
クリスタの瞳が安堵を取り戻したその隙に、私は口を開け、舌を差し入れ、
中身を、ねじ込んだ。

抱き寄せる体が強張る。安らぎに満ちていた目が混乱と焦燥に見開く。
腕にかかる力を強引に抑え、離れようとする頭を縛り付ける。
原形のない内容物を、舌で舌に塗り付け、擦り付け、貼り付ける。
クリスタの手が、抗おうと私の背を叩く。だが力の差は明らかだ。
それに、こいつは天使で女神様だ。私のような性悪にも、決して罰を与えることができない。
私が一番知っているんだ。

クリスタ「こ、これ、それ、あの」
ユミル「何の味がした」

予想通り、私の身には傷一つつかなかった。舌を噛み切られることもなかった。
全部を送り込んだ後、あえて質問を投げる。
クリスタは凍っている。

ユミル「ほら。何の味がした」

怯える目がすべてを語っている。
どれほどすり潰しても、いつも出されている味と同じだということを直感で悟ってしまっているのだろう。

ユミル「私の味がしたか」

それでも私は引かない。

ユミル「私の味だ」
クリスタ「ちがう」

ユミル「それは私だ。今お前が胃に入れたのは、私の残りカスだ」
クリスタ「ちがう。ちがう、こんなの」
ユミル「私だって言ってんだよ」
クリスタ「だって、これ」
ユミル「信じてくれないのか」
クリスタ「そんな」
ユミル「お前は、誰に対してもご丁寧に好意を振りまいてやるのに、他人から受けた好意は要りませんって言うつもりか」

刷りこみを重ねる。

ユミル「ははは。それとも、私の味を忘れましたってか」
クリスタ「ユミル。どうして。ここまで……」
ユミル「いい加減覚えろよ」

クリスタの身を引き寄せる。か細い嬌声が漏れる。
有無を言わさず再び口先を押し付け、舌で口腔を掘り下げる。
歯を閉じられることもなく、侵入は成功した。
歯茎の裏や頬の粘膜をまさぐり、残した部分がないかを確かめる。
生理的に受け付けないにしては、よく飲みこめている……それも作法だろうか。

ユミル「覚えたか」
クリスタ「忘れてない」
ユミル「さっきお前が口にしたものと同じだよな」
クリスタ「ちがう」
ユミル「同じだね。 私は虫ケラの味がする」
クリスタ「何言ってるの」
ユミル「だって私は虫ケラだからな。
だから虫ケラも食えるし、虫ケラのようにけなされても何とも思わねえし、虫ケラのようにしぶとく生きられる」
クリスタ「そう。 ……そう思ってるなら、こんなことしないでよ」

味がようやく流されたのか、クリスタの瞳に輝きが戻り始める。反抗を伴った輝きが。
クリスタ「本当に虫ケラなら、虫ケラぐらいの頭しかないなら、自分のために生きてよ。
下らない気遣いで頭を疲れさせないでよ。こんなことしたくらいで、神様から恵んでもらえると思うの?」
ユミル「お前に言われたくはないね。虫が食えないぐらいのことで」
クリスタ「虫が食えない、それぐらいのことだよね。そうですよね。ユミルにはわからないんだ」
ユミル「私は虫ケラだからな。戦う虫ケラだ。それに、私は根っから自分のために生きてる」
クリスタ「私も自分のために生きてる」
ユミル「じゃあいいじゃないか」
クリスタ「じゃあ……いい、よ」

こいつは流されやすい。
ずっと消極的な目標のために生きてきたからだ。
私はクリスタのその部分だけは叩きなおしてやりたい。
だが、今はその流されやすさを使う。
忍ばせていた布袋、残りの一つを手に取り――

ユミル「食うか」
クリスタ「お、おことわりします」

ああ、この雰囲気じゃまだ駄目だったな。まあ仕方ない。

ユミル「食え」
クリスタ「ユミル」
ユミル「なんだ」
クリスタ「それを食べることで、何かメリットはあるの?」
ユミル「腹が満たされる。そうすりゃお前の体が治る。
治れば強くなるし、肌に艶も戻るし、その愛しい髪も質感を取り戻す」
クリスタ「お腹はもう十分だし、今の食事でもきっと何とかなるし、肌とか髪とかはユミルの願望だよね」
ユミル「メリットがもっと欲しいのか。悪い子だ」
クリスタ「だって」
ユミル「してやるよ」
クリスタ「え」
ユミル「これを食い切ったら、最後までしてやる」
クリスタ「……それは」
ユミル「ただし。全部自分で食え。最初からだ。自分の歯で噛み砕いて、自分の舌で味わうんだ」
クリスタ「ユミルって、なんか、趣味が」
ユミル「食え」

<ちなみに、蜘蛛編は前半です。 つまり、後半は…… 元ssをお読みの方は、察してください>

八本足を近づけてみる。クリスタは目に入るや否や後ずさりの準備をする。
これはまだ無理そうか?

クリスタ「あの、あのね」
ユミル「ああ」
クリスタ「……さっきのは……だめ?」

思いがけない頼みに私は一瞬目を丸くする。

ユミル「いいのか。 ……いや、駄目だね」
クリスタ「なんで」
ユミル「クリスタさんよ。お前は、食堂でも同じように食うつもりか」
クリスタ「あ、それ、は」
ユミル「私だって、人前でそこまでできるほどの恥知らずじゃないんだ。
他の奴と同じように食えるまでが訓練だ。訓練は全部くまなく完成してなきゃ評価されないだろ?」
クリスタ「でも、……でも」

言わなくてもわかる。目の泳ぎっぷりと言い、声の震えと言い。
虫を持つ方と反対の手で、私はクリスタの髪を撫でる。張りが戻るように願いながら。

ユミル「分かったよ。じゃあ、半分だ」
クリスタ「あ、その」
ユミル「これ以上は譲れないね」

クリスタは八本足から目を離さない。

ユミル「安心しろ。最後までちゃんとしてやるから。中途半端じゃ私もつらい」
クリスタ「ユミル、ばかでしょ」

私は半分をかじり、残りをクリスタに手渡す。
クリスタは、慎重に手を動かしながら、四本足をつまみ取る。

ユミル「いけるか」

クリスタは動かない。

ユミル「それは私だ。ユミルだ」
クリスタ「これは、ユミル」
ユミル「そいつを見ながら、ユミル、って繰り返してみろ」
クリスタ「ユミル、ユミル、ゆみる……ゆみる」

繰り返す一回一回の間に、時たま深呼吸の音が交じる。

ユミル「そうだ。これはユミルっていうんだ」
クリスタ「これはユミル」
ユミル「……行け」

クリスタの舌が「ユミル」の足に近づく。
クリスタがユミルの足先に歯を立てる。慣れていないクリスタは、まだユミルの味を知ろうとしない。
クリスタはユミルを噛む。震えながら、とうとうクリスタはユミルを舌で味わい始める。

不覚にも、目の前のユミルに私は入り込みつつあった。

クリスタは私を舌で味わい始める。足の間を舐め回しているところだろうか。
見えないが、今はきっと私の体に歯形を付けている。裂けそうなくらい強く。裂けているかもしれない。
そしてクリスタは私の肉汁をすする。慣れない味に悶えながら、蜜を吸いこみ、飲み下していく。
クリスタが、目を瞑りながら私の全身を蹂躙している。形がなくなってしまいそうなほどに。
ああ。

クリスタが全部飲みこみ、
「ユミル、ゆみるのあじ」と声に出した瞬間、
私はたまらずクリスタに覆いかぶさり、三度目の口づけをした。
さらに、残りの四本足を自分の口に含み、再び飲みこまずに噛み砕き、四度目。
このころには既に、クリスタの顔からは嫌悪が消えつつあった。

ユミル「私の味だ。もう何と言おうが、お前の中でこの虫は私だ。こいつの味は私の味だ」
クリスタ「ユミル、……ユミル」
ユミル「よくできた。ちゃんと2匹残さず食えたな」
クリスタ「うん。よかった」
ユミル「約束、ちゃんと守ってやるよ」
クリスタ「うん、ユミルの、あじ」
ユミル「しっかり食わせてやるからな」

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サシャ「最近、神様じゃなくなってる気がします……お恵みを」
クリスタ「ごめんね、今日もだめなの」
サシャ「そんなあ」
ミカサ「これくらいが普通。彼女は今まで食べなさすぎた。勿体ない、こんなに濃厚な風味なのに」
クリスタ「うん。普通だね。ユミルの唐揚げ」
サシャ「ゆみ……?」
ユミル「おいバカ」
クリスタ「う、ううん!なんでもないの」
ミカサ「唐揚げ」

少し間をおいて、ミカサが例の旦那さんに目線を遣った。
こいつが何を想像しているか、私にはすぐに予想できる。
いつも通り変質的な妄想を繰り広げているんだろうな……私が、私らが言えたことじゃねえが。

クリスタ「今日もよろしくね」
ユミル「ああ」


(前半 クリスタ痩せないend)

後半はきっと日曜か月曜です。前半の二倍くらいになる?

書いてたら腹減ったタイタン肉舐めたい

(後半 タイタン・ミート編)

クリスタ「食べないの?」
ユミル「あ、ああ。 食べる」

…… まさか、私がクリスタの気持ちを理解する日が来ようとはね。

ユミル 「お前も食べろ」
クリスタ「うん」
ユミル 「な」
クリスタ「ユミルも」
ユミル 「ああ」
クリスタ「うん」

兵団の料理に、タイタン……巨人の肉が採用されてから数日が経つ。

サシャ 「どうしましたか? ふたりとも」
ユミル 「いや」
クリスタ「うん」
ミカサ 「二人とも、食わず嫌いはよくない。 戦いに贅沢はない」
サシャ 「もったいないので、食べちゃいたいですけどね」
ミカサ 「サシャは控えたほうがいい。 この部位は脂肪分がある」
アニ  「まさか、巨人に脂肪分なんて概念があるとはね」
サシャ 「アニも食べましょうよ」
アニ  「…… いや、私は。 太りたくないから」
サシャ 「大丈夫ですよ! すぐに消費しますって」
アニ  「もっと筋肉があるほうが、私は好きだよ」
ミカサ 「このステーキは、足の腿を使っている」
アニ  「いや、そうじゃなくて。 体格の……」
ミカサ 「体格?」
アニ  「忘れて」

ユミル 「筋肉があるやつは、噛みつきづらいだろ。 なあ、アニ」
アニ  「え? ええ」

それとなく探りを入れたが、こいつには気づかれなかったようだ。
芋女改め虫女の食糧改革は、訓練兵の肉体・精神の改善だけでなく、
「巨人を食う対象として見る」ことによる士気の上昇をもたらした。
だが、巨人食の効果はそれだけじゃなかった。
巨人を食う際に、一人一人の訓練兵が見せる反応の違い……
つまる所、裏切り者のあぶり出しだ。

どうやら、この点に気付いているのは私しかいない。そう信じたい。
いや、この反応の差も、私の気のせいなのかもしれない。
……そう信じたい。

ユミル 「うめえ。 うめえよ」
クリスタ「ユミル……」
ユミル 「この位脂が乗ってりゃ、食えるもんだな」

けれども、それは逆に、行動次第では私の正体が探られることも意味する。
だから私は食うことにする。
まあ、だったら最初から食っとけって話だが。

最初は慣れない食い物に戸惑っていた訓練兵どもが、
今回は、虫の時とは違って、すぐに慣れて、それどころか、前よりもずっと食欲旺盛になりやがった。
その中でも残し気味なのが、私の見ている限りでは、アニ、ベルトルさん、クリスタ、そして私だ。
私は当然確定。
クリスタはお嬢様だから除外。それ以上の秘密があるがな。
残るは二人だ。
そうすると、ライナーの野郎も気になる。
おとといは全部食って、昨日は全部残した。
だから慣れ以外の何かがある。
何が引っかかるって、あいつは昨日、容疑者さん二人と飯を食ってた。
…… まさかな。 たぶんその二人に合わせたんだろう。
そもそもだな、味が合わないってだけの可能性もあるじゃないか。
私の基準を適用するのはまずい。
それこそ、私は巨人と同じ思考をしてますっていうのをバラすだけだ。
忘れよう。

万が一マジで私の同類だとしても、味方か敵かもわからねえ。
そりゃそうだ、元々私には敵しかいないんだよ。
はは。ははは。

ユミル「ごちそうさん」

…… ま、正直、うめえんだよな。
虫女改め巨人女も、普段は頭が空っぽなくせにこういうところにばかり知恵が回る。

私が巨人の肉を食いたくねえ理由。

ひとつ。戦いを思い出す。
私は巨人同士で戦って、巨人同士で食い合ってきた。
うなじを噛みちぎる時の、薄っぺらい木くずを食ってる時の味がいつも頭に浮かびやがる。

ふたつ。他の物の方が美味い。
ぶっちゃけた話、外の物な。牛肉なり豚肉なり、これはクリスタもよく食ってた時期があるだろうが、
魚だよ。鯖なりにしんなり、こういうのは内地の奴らにはわかんねえだろうな。
……私も贅沢舌だね。クリスタのことを馬鹿に出来ねえ。

みっつ。
やっぱ、自分を食ってる気がする。

さて、クリスタは。

ユミル 「どうだ」
クリスタ「やっぱり……」
ユミル 「食うかい」
クリスタ「大丈夫」
サシャ 「私が」
ミカサ 「だめ」
ユミル 「ああ。許さない」
アニ  「あげるよ」
サシャ 「ありがとうございます!」
ユミル 「待ってやる」
クリスタ「うん。でも」
ユミル 「いいよ。一緒にいてやるよ」
クリスタ「そんな」
ユミル 「独りぼっちは、さみしいもんな」

今日も駄目そうだ。
前よりも困ったことになった。
虫を食ってた時は、普通の薄い食事も出てた。クリスタには逃げ場があった。
だが今はどうだ。巨人と虫が半々だ。 このままじゃどうにもならねえ。

…… 結局、今日の昼飯も駄目だった。
食ってやったよ。何だかんだ言って、私もそれなりに慣れてきてしまったみたいだ。
とはいえ、外のもんに比べたら、この軽い肉は小腹を満たす菓子ぐらいでしかない。
悪いな芋女、せっかく努力してくださってるのに。
生で食う時の木くずよりはマシだが。正直、虫よりも。

ユミル 「帰るか」
クリスタ「うん……」
ユミル 「どうした?」
クリスタ「……」
ユミル 「おい」

気づけば、こいつは地面に手を着いていた。

――――――――

クリスタは遂に、栄養失調で医務室送りになった。
普通の料理が消えたこと、精神の不調で口移しすら拒むようになっていたこと、
私自身が口移しできるほどの量を今まで食えていなかったこと、理由はいくつも重なっていた。

クリスタ「ごめ、んね」
ユミル 「大丈夫だ」
クリスタ「私、どうなるのかな」
ユミル 「どうにかなる」
クリスタ「このまま下らないことで死んじゃうのかな」
ユミル 「……」
クリスタ「それも良いかな」
ユミル 「やめろ」
クリスタ「だって」
ユミル 「黙れ」
クリスタ「ごめん」

死ぬことはないだろう、あったとしても私が止めてやる。
ただ、このままの状態ではいずれ開拓地送りになるのは間違いない状態だった。
立体機動にしても対人格闘にしても、私が底上げできないくらいにヘロヘロになっていたのだから。

ユミル 「これなら、持ってきてやったよ」
クリスタ「いや」
ユミル 「これは私だ」
クリスタ「ちがう」

飴色になったイナゴの足を見たとたん、クリスタは顔を引きつらせた。
前と同じように虫を食ってくれればいいんだが、残念ながらそうはいかない。
巨人肉が始まって以来、「虫=私」の刷りこみまで切れちまったんだ。
この刷り込みさえあれば、食事の半分は食えるはずだったのに。

さてどうすればいい。
口移しは却下。今回のクリスタは、それすら嫌がっている。
なら、もう一度刷り込ませるのは。
だめだ。こいつは刷り込みが解けるぐらいのショックを受けたんだ。


クリスタ「ユミル。となり」
ユミル 「……ああ」

今はただ、隣にいてやることしかできない。
二人で横たわる。

クリスタ「いいにおい」
ユミル 「はは」
クリスタ「ユミルのにおい」

こいつ、頭までヤバくなってやがるんじゃねえか。
どうすればいい。
今は頭を撫でてやることしかできない。

クリスタ「ユミル」
ユミル 「ん」
クリスタ「おいしそうなにおい」
ユミル 「は」
クリスタ「ゆみる、おいしそう」

言葉だけでは理解できなかった。
なのに、私の脳は直感で解決策を導き出した。

イナゴを自分の口に放り込む。
舐める、舐め回す、ねぶり尽くす。
唾液が芯まで染み渡ったところで、試しに渡してみる。

クリスタ「ゆみるだ」
それを摘む私の手に、もう一つの手先が近づいてくる。
希望の瞬間がやってきた。

クリスタ「ゆみるいろをしてる。 ゆみるのにおいがする」
クリスタの口腔はついにそれを受け入れた。

クリスタ「ゆみる、おいしい」
私の女神は救われた。




(今日はここまで)

サシャ 「胸肉の燻製と、白アリのタイタン油炒めです」
ユミル 「ありがたく受け取っておくよ。 あと、涎を拭け」
サシャ 「は、はい」
ユミル 「ただ、前よりは食い意地張らなくなったな」
サシャ 「栄養的には十分になりましたからね」
ユミル 「腹回りもいい感じで増えてきてるだろ。服を替える時期だな」
サシャ 「……乙女にそんなこと言わんとよ!」
ユミル 「いいぞ芋女、いや芋臭女。そういう言葉遣いの方がお前らしい。
     食欲さえなくせば、男の心を掴めるんじゃねえか」
サシャ 「あ、アホやろ」

サシャが小走りで出て行ったのを確認して、私は準備を始める。

ユミル 「じゃあ、待ってろ」
クリスタ「うん」
ユミル 「お先に。いただきます」

机には二つの料理が二人分並べられている。
私はまず、自分の方の白アリ炒めを口にする。
決して手放しで美味いもんだとは言えないが、唾液が出てくるぐらいにはマシなものだ。
そう、この唾液を使う。
味付けがわからなくなるまで噛み砕いているうちに、次々と舌の裏に溜まってくる。
充分な量になったところで……クリスタの料理に垂らす。
まずは白アリ炒めに今出た分を。
燻製にも同じことを繰り返す。

匂い付け、これがクリスタに生気をもたらす鍵だった。
こいつが口移しを拒んだのは、決して刷り込みを忘れたからじゃなかったんだ。
刷り込みには「私の匂い」という条件があったということを、クリスタのうわごとが気づかせてくれた。
口移しでは、口から口に直接食い物が移る。
鼻がないから、食い物の匂いが私の匂い、という思考回路が作れない。
だから逆に、先に匂いを付けてやればいい。
気づいてみればとても簡単なことだ。

――――――――――

サシャ 「がんばりましょう」
クリスタ「サシャもね。 ポーズだけじゃだめだよ」
アニ  「大丈夫。 ふざけた真似をしたら、私の相手になってもらうよ」
サシャ 「が、がんばりましょう!」
クリスタ「やろっか」

一週間が経って、クリスタはようやく綺麗に戻り、体力も見違えるほどになっていた。

アニ  「何だそれ。 気になるね」
クリスタ「え、うん。 調味料、みたいなものかな」
アニ  「へえ」
クリスタ「お肉にかけるとおいしくなるんだよ」
サシャ 「なんですか! 私にもください」
ユミル 「だめだ芋女」
サシャ 「そんな! ずるいです」
クリスタ「ごめんね。 これ、なんていえばいいのかな。 お薬も兼ねてるの」
ミカサ 「……そういえば、あなた、ずっと体調悪くしてた」
ユミル 「そういうことだ」
サシャ 「そうですか……」
クリスタ「今は元気だけどね。しばらくこれを使わないとだめみたい」
ユミル 「元気出せよ」

食事にいそしむ女子たちを尻目に、クリスタは瓶を振り、今日の料理にかける。
何滴も、何滴も。
そして、立ち昇る香りに鼻を向けたあと、おもむろに口へと運んでゆく。

私が編み出した方法のおかげで、もうこいつが医務室にいる必要はなくなった。
小瓶には液体が入っている。
材料。
私の唾液、瓶半分。
私が運動で流した汗、瓶四分の一。
私が頬を噛んで出した血、七滴ぐらい。
もちろん、中身は毎日交換だ。

ミカサ 「サシャが色々考えたおかげで、栄養価の高い、色々な味のものが食べられるようになった」
アニ  「ゲテモノには変わりないけどね。まあでも悪くない」

アニの奴も、いつの間にか慣れていた。
やっぱり前のは気のせいか。

クリスタは手を動かすのを止めない。
最強女は違う味と言った。
だが、クリスタは今のところ同じ味を求めている。
私の味を。

ミカサ 「みんな、食べるようになった」
サシャ 「やっぱり食は人間を元気にするんですよ」
ミカサ 「サシャはたまには正しいことを言う」
ユミル 「食いもんのことだからな」

そんな私も、いつのまにかすっかり慣れていた。
クリスタの笑顔が食欲をくれる。

……足りねえ。
どうしてだ。
クリスタの笑顔だけで食っていけるはず、いや、笑顔なしでも十分なはずなのに。
こいつが瓶を使うのを見ていると、それ以上を求めてしまいたくなる。
それ以上ってなんだ?
私が今目にしていることか?

その夜、私は久々に事に及んだ。
長らく、クリスタの体を気にして耐えていたが、もう弾けた。
いや、事って言ってもだな、周りの目も耳もあるしな、他の奴らが寝てる間に、
声を出さないようにして、手で触るだけ、本当に触るだけのごっこ遊びでしかねえ。
ただ、今の私らにはそれで充分。
…… 医務室、もう一度使えねえかな。

翌日、私も同じように瓶を持っていた。
新しい配合だ、成分が一つ増えた。
教えてやるもんか。

――――――――――――――――
唾液、汗、血、その他の体液。
この定番が変わったのは、さらにしばらく後のことだ。
―― エレンの奴が私より先に正体を現しやがった。

ユミル 「で、どうするつもりなんだ? 行き先は」
エレン 「オレはあいつらの仲間なんかじゃねえ。 それを証明してみせる」
ユミル 「質問には答えなよ」
ミカサ 「口のきき方には気を付けてほしい」
アルミン「まあまあ。 エレンには今、三つの選択肢がある。
     調査兵団の元で人類の希望になって生き続けるか、
     憲兵団に送られて解剖されて死ぬか、その中間か」
ユミル 「中間?」
アルミン「調査兵団の元で、解剖されて、人類の希望になって、生き続けるんだ」
ユミル 「はあ? 私にも分かるように説明しろ。 頭がデカい割には、馬鹿なこと言うんだな」
アルミン「分からないのは仕方ないよ。 僕もまだ頭がついて行ってないからね。
      …… ハンジ分隊長の下に就いて、食糧増産の研究対象になるんだ」

ユミル 「……つまり、どういうことだ」
ミカサ 「何度も言わせないで。
     第三の選択肢の場合、エレンは実験体、いえ、食の対象になる。
     今までの巨人と違って、エレンは意思疎通ができる。それを使って実験をするらしい。
     分隊長は、いえ、団長も、絶対に死なせはしないと約束してくれた。
     ただ、それでも、エレンの体が傷つけられ続けるのは間違いない」
エレン 「俺はその道はごめんだ」
ミカサ 「ええ」
エレン 「駆逐できねえだろ」
ミカサ 「分かっている」
エレン 「生きるだけじゃ意味がねえんだよ。オレは巨人共を駆逐するために生きている。
     それは体が巨人でも同じだ。兵長も支持してくれてる」
アルミン「ただ、今の僕たちは……そのことを対外的に証明しなくちゃいけないんだ」
エレン 「証明してやる」
ユミル 「ああ。そうか。もういい」

私の背筋さえも震わせる話の内容。
だが、これが私を次の段階に進ませるとは、まだこの時点では考えていなかった。

エレン「行ってくるよ、兵長の下に。またな」

当然、こいつはお上の監視下にある。
幼馴染の奴らのように自分から見舞いに行かない限りは、見ることができなくなった。
じゃあ私がどうしてここにいるかって?
見舞いって言う名の偵察だよ。

ミカサ 「アルミン。エレンはどうなると思う」
アルミン「正直、三番目は妙案なんだ。死んだことにして民衆を欺きながら、実験体として生かしておける。
     しかも、端的に言えば憲兵団と同等の扱いなのに、調査兵団も半分は賛成するだろう。
     いざという時には兵器に転用すればいい、なんて考えているかもしれない」

ミカサ 「だめ。 エレンが食べられるなんて」
アルミン「分かってるよ」
ミカサ 「エレンの肉」
アルミン「嫌だよ」
ミカサ 「えれんのにく」
アルミン「……ミカサ?」

予想通り涙を浮かべてやがるミカサ。
だが、肉と呟いたときの声色は、悲しみとは別の物だった。
……私には、理解できてしまった。

ミカサ 「えれん、たべられちゃうの? えれんはおいしくない。 だれもたべないで」
アルミン「食べないよ。 誰も食べるわけないじゃないか。 仲間だよ?」
ミカサ 「たべるのはわたしだけでいい。 わたしはおいしいといえる。 えれんのいたみをむだにはしない」
アルミン「ミカサ」
ミカサ 「えれん」
アルミン「疲れてるんだミカサ。 もう帰ろう」
ユミル 「ま、明日には治るだろ。 最強なんだろ? 心も強くなきゃ駄目じゃないか」
アルミン「ユミル」
ユミル 「私も帰るとするか」

ユミル 「肉」

私の匂い、私の味。
一番の答えは、そうだ、私の肉。
わざわざ味付けする必要もない、歯ごたえまで私そのものの、正真正銘の私の肉。
筋肉の繊維一本一本、脂肪の塊一つ一つ、全部混じりっ気なしの、他の奴らに邪魔されない、私の肉。
汗をかき、涙を流し、血を垂らし、股を濡らし、身を削り、身を裂き、
最初から最後まで、すべてが私でできている。
これは特効薬だ。
クリスタに与えてやらないと。
クリスタを治してやらないと。
私なら大丈夫だ、適量なら死ぬことはない。
この体に生まれてきてよかった。
偽らずに生きてきてよかった。
今までは嫌われてきた、誰からも死ぬことを望まれていた。
今は違う。
生きている私の何もかもを望んでくれる奴がいる。
生きられる。
よかった。
生きてやる。


ユミル 「にく」
サシャ 「お肉がどうかしましたか! 持っていらっしゃるんですか」
ユミル 「うまれてきてよかった」
サシャ 「そんなにすごいお肉なんですね!」
ユミル 「だまれ」


(今日はここまで)

―――――――――――――

クリスタ「おやすみなさい」
ユミル 「おやすみ」

周りはもう静まっている。

クリスタ「ユミル」
ユミル 「どうした」
クリスタ「さびしい」
ユミル 「いい子だ」

私はクリスタの頭を撫でる。
こいつは私の胸元に顔を埋める。
服に鼻を密着させ、深い息を吸い続け、吐き続けている。

クリスタ「ユミル」
ユミル 「よしよし。眠れないのか」
クリスタ「ううん。大丈夫」

クリスタは上に這い上がる。
口元が私の首筋に来る。
ひ弱な体からは想像できないほどの力で、皮をしゃぶり出す。

ユミル 「やめろ。 おいたが過ぎるんだよ」
クリスタ「ゆみる」
ユミル 「周りに聞こえるぞ」
クリスタ「おいしい」
ユミル 「待て」

私がクリスタの鼻をつまむと、こいつはしばらくの間目を白黒させて、口を離した。

クリスタ「ごめんね」
ユミル 「いいんだ」
クリスタ「ごめん」
ユミル 「大丈夫か」
クリスタ「だいじょうぶ」

最近、こんな日がしばらく続いている。
刷り込ませすぎたのか、私の匂いに過剰反応するようになってきてしまった。
今でこそ夜にだけ反応が出るから良いものの、日に日に依存は増している。
どうすればいい。
私の肉。
クリスタはおいしいと言った。私の肉。
こんな言葉を表だって聞かせてはいけない、おいしい、絶対に。
いくら私の味がいいと言っても、私は表向き人間で、それを食いたいと言うのは明らかに人間の思考でなくて、
最悪こいつは処分される、肉を解体される、たとえ恵まれた血の下に生まれたとしても、
その血を抜かれて、バラ肉にされる。
肉になるのは私だけでいい、私はクリスタを守る。
私なら舌触りのいい肉になれる、クリスタは絶対喜んでくれる、匂いも脂の乗りも歯ごたえも最高の肉。

どうすればいい?
ああ、これだ。

ユミル 「クリスタ。明日、待ってろ」
クリスタ「うん? ……うん」
ユミル 「良い子は寝るんだよ。おやすみ」
クリスタ「おやすみなさい」

変わらない朝が来る。いただきます。

サシャ 「ミカサ、大丈夫ですか」
ミカサ 「問題ない」
ジャン 「エレンの野郎に近づけなくなって日が経つからな。あんまり気を落とすなよ」
ミカサ 「気にしないで」
アルミン「とにかく、僕たちは待つしかない」
ミカサ 「ええ」
アルミン「このままでは、エレンは食糧になってしまう」
クリスタ「どういう、こと?」
アルミン「より良い巨人肉を作るための実験体になるんだ」
サシャ 「それは、私でも……ちょっと」
ミカサ 「えれんのにく」
ジャン 「アイツの肉がこの場に出るなんて、聞くだけで恐ろしい話だな」
ミカサ 「おいしそう」
アルミン「ミカサ!」
ジャン 「……おい、今、なんて言った?」
アルミン「ごめん。ミカサは疲れてるんだよ」
ジャン 「ああ。それくらいの状況だからな」
ミカサ 「にく、おいしい」
クリスタ「そうだよね。おに」
ユミル 「あんまり気にすんな! あいつが人類の味方だったら戻ってくる。 それだけの話だろ」
ミカサ 「うん」

私はクリスタの言葉を遮った。次の単語が予想できたから。

もう躊躇っている暇はない。
今だ、今がやる時だ。

順調に立体機動の訓練を終えて、晩飯を食った後。

ユミル 「クリスタ」
クリスタ「うん?」
ユミル 「来い」

私はクリスタを更衣室の前に連れて行った。

ユミル 「お前、最近……自分がおかしいことに気付いてるか?」
クリスタ「え? どういう」
ユミル 「……『私の肉』」
クリスタ「ゆみるのにく」
ユミル 「ああ」
クリスタ「おいしい」
ユミル 「クリスタ。分かるか」
クリスタ「なに」
ユミル 「これは私のせいでもある」
クリスタ「いいよ。だって、おいしいから」
ユミル 「クリスタ」

淡々とこいつの口を塞ぎ、舌を絡め、さらに鼻を指でつまむ。
完全に息をできなくしてやって、十数秒待つ。
こいつの瞳が潤んできたところで、全部離してやる。

クリスタ「な、なに」
ユミル 「分かるか。さっきまで、何をしてたか」
クリスタ「ん……思い出せない」
ユミル 「今お前は、そういう状況なんだ」
クリスタ「うそ」
ユミル 「だがな、良いもんがある」
クリスタ「どういうこと」
ユミル 「特効薬だ」

肌色の塊を袋から取り出し、クリスタに差し出す。

クリスタ「これ、は」
ユミル 「キノコの一種らしい。お前の症状を治すことができる」
クリスタ「なんなの。私はどうなったの、症状ってどういうこと?」
ユミル 「私にもわからねえんだが、アルミンの奴がそう言ってたんだよ」

ユミル 「食え」

惑うクリスタの口内に、容赦なく塊を突っ込む。
重ねて、再びの口づけ。

クリスタ「おいしい。ゆみるのあじがする」
ユミル 「ああ。これは、好きなやつの匂いや味がするキノコだ」
クリスタ「きのこじゃないよ。はざわりも、ゆみるのはざわり。これはおにくだよ」
ユミル 「これはキノコだ。歯触りもまねることができる」
クリスタ「おいしい」
ユミル 「いいか。お前は最近おかしくなってるんだ。
     私が好きすぎて、食欲まで私に支配されてるらしいんだ」
クリスタ「そうだよ」
ユミル 「嬉しくないとは言わねえが、いろいろ問題がある。寝てる間に食われちゃ困るしな」
クリスタ「だっておいしいもん」

ユミル 「お前は私の匂いを嗅いでばかりいる」
クリスタ「いいにおいだから、おなかがすくから」
ユミル 「かわいいクリスタでも、そこまで愛されるとちょっと困るんだ。だからな」

いくつもの塊が詰まった袋を渡す。

クリスタ「いいにおい」
ユミル 「これ、やるよ」
クリスタ「たべたい」
ユミル 「待て」
クリスタ「まつ」
ユミル 「いいか。これは、私の匂いが気になってきて、頭が朦朧としてきたときに一個ずつつまめ」
クリスタ「たべる」
ユミル 「待て。いい子にするんだ」
クリスタ「わたしはいいこ」

クリスタの鼻と口を手で塞ぐ。

クリスタ「ん……私、何か変なこと」
ユミル 「気にするな。
     これは、私の匂いが気になってきて、頭が朦朧としてきたときに一個ずつつまめ」
クリスタ「うん」
ユミル 「分かったか」
クリスタ「分かった。約束する」
ユミル 「いい子だ」

その夜はよく眠れた。
だが一つだけ、クリスタが私の嘘に気付いているかどうかが、いや、
きっと気づいているだろうということが、気がかりだった。

―――――――――――――――――――――――――――

立体機動訓練の後、誰も見ていない木の下で。
私は尖った枝を手に取り、片腕に刺し込んだ。
クリスタを救う。
クリスタを守る。
願いながら、傷の周りに蒸気が立ち込めるのを眺める。

腕の周りだけに肉と皮が生成された。
安堵のため息をつく。
伊達に巨人をやってねえし、この程度の技術は忘れていないと確信していたが、
失敗したら追い出されるじゃ済まねえからな。
まだ温かい肉を取り外し、腕や指の形だとわからないように細かい欠片にちぎり、袋に詰め込む。
あとはバレないように運ぶだけだ。
特に、サシャには匂いを嗅がれないようにしたい。
ま、今や巨人肉は食糧庫にいくらでもあるもんだから、これを持ってたところで身元が割れることまではないだろう。
せいぜい営倉行きだ、そこだけは幸運なところだ。
後は、クリスタにどう説明するか。
キノコとでも言っておくか、気休め程度なのは分かっているけどな。

―――――――――――――――――――――――――――

ジャン 「結局、会議はどうなったんだ」
アルミン「調査兵団に留まることは確定したよ。ただ、まだそれ以上は分からない」
コニー 「確か、食われるか食われないか、だったよな」
アルミン「つまり、前線に出るか、実験体になるか、だよね」
コニー 「そうだ、じっけんたい、だ」
アルミン「そこなんだよ。 積極的に前線に使いたいと主張したのは、リヴァイ兵長だけだった。
     エルヴィン団長でさえ、二つを同時並行で行おうと考えていたんだ」
ジャン 「どいつもこいつも腹空かしてるもんな」
コニー 「背に腹は代えられない、ってやつか」
アルミン「君はそういうところで間違わないんだね」
コニー 「やったぜ」

アルミン「贔屓なしで言っても、エレンは戦力として人類の希望になる。
     ただ、巨人食が皆の体力を格段に上げているのも事実だ。
     もしかしたら、食糧としての巨人を研究すれば、エレンを直接使うより大きな進歩につながるかもしれない。
     その辺りを、団長もハンジ分隊長も、天秤にかけてるんだと思うよ」
コニー 「分かんなくなってきたぜ」
ジャン 「仕方ねえな。
     それにしても、どうやって憲兵団や宗教の奴らを黙らせたんだ?」
アルミン「エレンは……『巨人を全部駆逐して、一匹残らず食ってやる』って言った」
ジャン 「ああ」
アルミン「そして、実際に食べた」
ジャン 「は?」
ユミル 「ちょっとさ。その話、もう少し聞かせてくれよ」
コニー 「いたのかお前」

ユミル 「巨人の肉を、食ったのかい?」
アルミン「そうだよ。 ウォール教の人が、『お前が人間なら、巨人の肉を口にして見せろ』って言い出したからね。
     大量の肉が持ってこられた。 エレンはそれを衆人環視の中で食べきった」
ユミル 「どんな様子だった」
アルミン「叫び続けてたよ。 『くってやる、こまぎれにして、ばらばらにして、くってやる』って。
     憲兵団の人も、それを見てから何も言わなくなった」
ジャン 「怖えやつだな。何も言えなくて当然だな」
ユミル 「……匂いとか、味とか、言ってなかったか」
アルミン「ああ、確か……『うまそうなにおいさせやがって』なんて呟いてたね。
     『こんなにきもちわるいやつなのに、どうしてうまいんだ』とか。何度も」
ジャン 「気持ち悪いのはお前だよ、って言いたくなるぜ」
ユミル 「もういい。分かった」
コニー 「確かに巨人肉は美味いよな」
ジャン 「そういう問題かよ」




(今日はここまでにします)

くってやる。
ぜんぶおれのものだ。
こまぎれにして、ばらばらにしてから……くってやる。
おれはきょじんをいっぴきのこらずくちくして、にくのかたまりにするんだ。
そしてくってやる。
どうしておまえらはうまそうなにおいをさせるんだ。
にんげんのてきだろ。
おまえらがにんげんをくうんだろ。
それなのにどうして、おまえらはくわれたがるんだ。
ならくってやるよ。いっぴきのこらず。
じんるいをなめるな。おまえらなんてただのうまいにくのかたまりなんだよ。
くってやる。いいか。
にどとちじょうにおまえらがすめなくなるように、にどとこうばしいにおいがしないように、
くってやる。
おれははらがへった。
はらがへったおれには、おまえらはてきじゃない。ただのよだれをさそうにくだ。
おれはおまえらをくちくするためにくう。
どんなにうまくても、くうためにくちくするんじゃねえ。おぼえてろ。
くってやる。




(おやすみなさい)

起きたら百合がホラーになってた!コワイ!

>>76
おっと同族がいたようだ

◆しよう◆コマシャルー活動な◆しよう◆

人類の希望、スゴイタカイカベ・マリア陥落!
「アイエエエエエ!?キョジン?キョジンナンデ!?」
「アバーッ!」「オゴゴーッ!」
迫りくるキョジン!
平安時代より存在しモータルを見境なく食してきた彼らが、現世に再び恐怖をもたらす!

「ドーモ、キョジン=サン。タイタンスレイヤーです。イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!……サヨナラ!」
ソウルの源泉、ウナジを切り取られた巨人は爆発四散!

彼はタイタンスレイヤー、
シガンシナ・シティ出身の善良な少年であったエレン・イェーガー。
母を食われ自身も死の縁にあった彼に、
タイタンニンジャ・クランの邪悪なニンジャソウルが宿った!
ニンジャとなったエレンは、タイタンニンジャ・クラン特有の「キョジンに化けるユニーク・ジツ」を使い、
家族を失った憎しみを原動力にキョジンを倒し続ける!
「キョジン……駆逐すべし」

◆ t i t a n s l a y e r ◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

大量のキョジンに苦戦するタイタンスレイヤー/エレンの前に、豊満な腹筋をした女が姿を現す!
「ドーモ。ドラゴン・アッカーマンです。エレン、今からあなたにインストラクションを授ける」
「インストラクション?」
「まずは見ていて。イヤーッ!」「アバーッ!サヨナラ!」「イヤーッ!」「サヨナラ!」
次々に爆発四散!
彼女はドラゴン・アッカーマン。
その腹筋は豊満である。
彼女こそ、現代に唯一残るトウヨウニンジャ・クランのアーチニンジャ、ミカサ・ニンジャその人である!
「インストラクション。カラテあるのみ。今のあなたはジツ頼り。カラテを忘れてはいけない」
リアルニンジャの圧倒的な力により、キョジンをなぎ倒すドラゴン・アッカーマン!
豊満な腹筋には、通常のニンジャ100人分の力が詰まっていると言われる。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「隊員の情報にアタックをかけたところ……驚くべき結果が出たんだ」
アルミン・アルレルト。
非力なモータルではありながらも、並ならぬハッキング能力でエレンたちを支える。
「アニ、いや、レディータイタンは……タイタンニンジャ・クランの憑依者だ。
 つまり……ニンジャだ」
彼が告げたのは、仲間の恐るべき裏切り!
「そして、これは未確定だけれども、ircへの侵入によって……
 あと二人、容疑者が割り出された」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ドーモ、タイタンスレイヤー=サン。アーマードタイタンです。
 ついでに、こいつはウルトラタイタンって言うんだ」
「えっ、ド、ドーモ……ウルトラタイタンです」
「ドーモ、ライナー=サン、ベルトルト=サン。タイタンスレイヤーです。
 裏切り者、駆逐すべし」
「イヤーッ!」突然のアンブッシュ!
アーマードタイタンとウルトラタイタンに刃が向けられる!
しかし致命傷とはならない!
「……今日のアンブッシュは0点……躊躇ってしまった。
 ドーモ、ミカサ・ニンジャです」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「エレン!」
牙を剥く二人のニンジャ!
狙われるエレン、追うドラゴン・アッカーマン!
運命やいかに!



◆○◆~~~

アニ  「ねえ、あんた」
ユミル 「なんだ無口女」
アニ  「今日の格闘、私と組まないか」
ユミル 「断りたいところだね。私にはクリスタがいる」
アニ  「……話したいことがある」
ユミル 「肉体言語でか?」
アニ  「いいから。組むって言いなよ」
ユミル 「手加減しろよ」
アニ  「しない」
ユミル 「困った女だ」

――小一時間の後。
案の定、組み伏せられる私がいた。

アニ  「手ごたえがないね…… エレン程じゃないけど」
ユミル 「すまねえな」
アニ  「いいにおい」

こいつなんて言った。
確かに私らは汗をかいている。
だが、今言うべきことか?
いい匂いがするのは間違いないが。

ユミル 「そうだな。いいにおいだ」
アニ  「どうしてだろうね。おなかがすいてくるよ」

私らはなんて言った。
いくら美味そうだとはいえ、対して知りもしない肉の、人間に対して
腹が減るような香りをさせてるからってそれを声に出して食いたいって言うか?

ユミル 「ああ、はらがへってきた。 そういや、用件は何だ?」
アニ  「忘れた」
ユミル 「は?」

沈黙に包まれる。
元々会話の種が大してないんだ、仕方ない。
どうする?
聞きたいことを聞いておくか?
そうするか。

ユミル 「ベルトルさん、結局どうなったんだ」
アニ  「さあね。今頃まだ捕まってるんじゃないか」
ユミル 「あんなに狂っておいて、よく開拓地に戻されねえな」
アニ  「あれでも成績はいい方だからね」
ユミル 「……本当にそれだけか?」
アニ  「さあね。私にもわからないんだよ。
     せいぜい、地下室に行ったことくらいしか知らない」

……結局、私がそれなりに知ってる奴ら、つまりは成績の良い奴らの中で、
食糧改革から脱落したのはあの目立たねえ大木男だけだったんだよな。
食事中に突然「食べられたくない」って叫びだしたのには笑わせてもらったよ。
私から見たら、もう正体バラしてるようなもんだと思うんだが。
下位の奴らにはそれなりに開拓地に戻ったのがいるらしいからな。

ま、そんな奴と組んでるこの無口女とゴツイ野郎も当然怪しいわけだ。
この疑いは最近確信に変わった。
無口女なんて噛み心地良さそうだし、舌の上で柔らかく溶けそうだしな。
今一瞬思考が飛んじまった。
あとは、私だけが鼻がいい、違う、勘がいいことを祈るだけだ。

クリスタ「ゆみる」
ユミル 「どうした、女神さんよ」
クリスタ「おなかすいた」
ユミル 「よしよし、飯はもうすぐだ」
クリスタ「ちがうよ。おなかすいた」
ユミル 「……ああ」
クリスタ「おくすり」
ユミル 「待ってろ。明日までに作ってやる」
クリスタ「きのこ」
ユミル 「よしよしわかった」

ユミル 「やめろ、あ……落ち着け、良い子にしろ、もうすこし、よわく」

クリスタが「薬」を切らしたこの夜、上下関係が逆転してしまった。
何を言い出すか分かったもんじゃないので、
なんとかこいつの口に伸ばした服を噛ませて轡にすることだけは成功したが、
それ以降は手でされるがままだ。

ユミル 「いてえ、そこ、だめだ……ん、ぐう、おまえ、もうすこし」

近くにいる奴を確認する。
芋女は寝ている、当然だ。
ミカサは起きている。
起きている。

ミカサ 「えれん、おいしい……うでが、やわらかいんだね。たくさんのうで。あたたかい」

そうだ、こいつはこういう奴だ。
ずっと前に不可侵協定を結んだ気がする。
私らはミカサが自分を慰めても気にしない。
ミカサは私らが絡み合っていても気にしない。
……クリスタに布を噛ませているのが、少し馬鹿らしくなってきた。

――昨晩は散々だった。
昼間でもここまで汗はかかねえ、無口女との格闘以上だ。
クリスタが……まさかもう使い果たしていたとはな。
多めに作っておこう。できるだけ毎日。

ミカサ 「おはよう」
ユミル 「はは。もう朝か」
ミカサ 「ちょうしょく」
ユミル 「は」
ミカサ 「かおり」
クリスタ「するよね」
サシャ 「なんですか? このにおい」
ユミル 「何、を」
アニ  「どうしたんだい。 おはよう。 いいにおいだ」
ミカサ 「あなたからも」
サシャ 「そうですね。 あにからもにおいがします」
ユミル 「そうだ、おまえもこうばしい」
ミカサ 「ふたつのかおり」

クリスタ「ちょうしょく、たべないと」
アニ  「さっさといくよ」
ミカサ 「いや、ここでたべよう」
ユミル 「おい」
サシャ 「そうですね」
アニ  「それはえんりょしたいね」
クリスタ「そんな。おいしいのに」
ユミル 「まて」
ミカサ 「いただきます」

私はクリスタさえも放置して、扉の向こうへ走り出した。
無口女がついてくる。

キース 「おい、お前ら。何やら騒がしいようだが」
ユミル 「……教官」
アニ  「あの……」

ユミル 「体を洗わせて頂けませんか」
アニ  「どうかお願いします」

ユミル 「しかしだ」
アニ  「何さ」
ユミル 「まさかお前と向かい合わせで飯を食うことになるとはね」
アニ  「別に。そういう日もあるでしょ」
ユミル 「はは……」
アニ  「今日の夢は最悪だったよ。周りの人に手足を食べられる夢」
ユミル 「半分正夢だったな」
アニ  「そうだね。こんなに汗が噴き出したことはなかったよ。
     人間なのに人間に食べられるなんてね」
ユミル 「『人間なのに』」
アニ  「……」
ユミル 「何か聞こえたか?」
アニ  「何も。
     ……私、戦士をやるの、疲れた」
ユミル 「よく分からねえが……後で、話聞いてやるよ」

サシャ 「みなさん、あの」
ミカサ 「ん」
クリスタ「どうしたの?」
サシャ 「私たち、朝、どうしてましたっけ」
クリスタ「……」
ミカサ 「……そう言えば」
サシャ 「覚えてませんか。やっぱり」

コニー 「覚えてないのくらい、誰にでもある!心配すんなよ」
ジャン 「お前じゃねえんだからよ」

マルコ 「ただ、今日は不思議だったね……」
アルミン「僕たちも、朝の記憶がないんだ」
ライナー「覚えてるのは俺だけだって言うんだ。
      勘弁してくれよ、朝から不運続きだ」
アニ  「……ちょっと、聞かせてくれないかな」
ライナー「手足を食われる夢を見てな」
アニ  「ああ。それ以上はいい」
ライナー「そして起きたら、部屋の奴らが男好きになってやがった」
ジャン 「そんなこたねえよ。男好きはお前なんじゃねえのか?」
アルミン「ライナーは冗談が好きだよね」
ライナー「それでだな、追われて」
アニ  「ライナー」
ライナー「なんだ」
アニ  「思い出しな。あんたは」
ライナー「……ああ」

私は騒ぎを外から眺めていた。
点と線がつながってきた。

キース「貴様らにいい知らせが二つある!
     まず一つ!効率化のために、訓練兵団の食事から昆虫食を廃止する!
     明日以降全ての肉は巨人の肉となる!
     そして喜べ、巨人肉の料理が一品増える!」

ああ、こんな事誰も望んでねえよ……
と思ったら、周りの奴らは一様に目を輝かせてやがる。 ちくしょう。

キース 「巨人食の採用によって、貴様らは過去に類を見ない成績を上げるようになった!
     士気の向上だけでなく、体力の強化も明確に見られる!」

その通りなんだよな。
特にミカサの奴なんて、ただでさえ人間じゃねえのに……私が言うべき言葉じゃねえな……
人格を犠牲にして超絶的な兵器になってきてやがる。

キース 「もう一つ!
     エレン・イェーガー訓練兵の実戦投入が決定した!
     本日から貴様らと再び顔を合わせる!
     彼の存在は人類の希望となるだろう!」

キース  「エレン・イェーガー訓練兵! 前に出ろ!」

教官の後ろから見慣れたガキが姿を現す。
ミカサの奴、目を輝かせてるだろうな……涎を垂らしてなきゃいいが。

エレン  「久しぶりだな、お前ら」
ジャン  「なんだよ、あの目つき」
マルコ  「鍛えられたんだろうね」
エレン  「いいか」

演説が始まる。

エレン  「オレらは何のために訓練兵団に入った。
      巨人を駆逐するためだ。駆逐するためにはどうすればいい。
      食うんだ。食い尽くせ、肉をひとかけらも残さずに。
      おまえらは巨人のにくを食ってきただろう。あじも分かってるはずだ。
      くってわかったよな。あいつらはにくい。巨人というなまえがゆるせないほどにくい。
      だがな、いままでとはちがうんだ。むかしはきょじんはくうがわだった。
      そして、こううんなことにな、あいつらはうめえんだ。なんびゃっかいくってもあきねえほどにな。
      いまはおれらがくうがわだ。くらいつくせ。ひきさけ、すりつぶせ、のみほせ。
      どれだけあいつらがうめえにくをもってるか、わかるだろ。
      くちくしろ。くちくするためにくいつくせ」

キース  「……以上だ。
      最後に……貴様らに、巨人肉の調達を許可する」
アルミン 「質問です!」
キース  「何だ」
アルミン 「調達とは、どのような方法でしょうか」
キース  「今までやってきたことと変わらない。
      壁内に入り込んだ巨人を、自分の手で捕獲しろ。
      今の訓練兵どもなら、巨人に食われることはもうない。
      安心して励め。
      解体は専門の奴らが手伝ってくれるだろう。以上だ、わかったか」
アルミン「はっ!」

キース 「最後の最後だ。
     調達のための実地訓練を、評価項目に追加する」

―――――――――――――――――――――――――――――

エレン 「くってやる……くってやる」
ミカサ 「えれんのにく。きょじんをえれんがたべる。
     そのたべたにくはえれんのにくになる」
アルミン「エレンは右に!ミカサは上から三体連続で!」

思考を改造されただろうエレンと、エレンに引っ付いて匂いを常に嗅いで回るミカサ。
傍から見れば狂人どもにしか見えなかったが、こいつらの捕獲頭数は超常のものとなっていた。
狂気の補正は、どうやら頭でっかちが担っているようだ。

アルミン「エレン班、57頭!一時壁外に出たことをお許しください!」
ミカサ 「私たちにも食べきれません。他の班に分けることを提案します」

ユミル 「クリスタ班、13頭」
クリスタ「おいしいおにく。でもゆみるはもっとおいしいんだよ」
ライナー「くりすた。こんなおんなより、おれのにくをたべよう」
クリスタ「おいしければね」
ユミル 「くりすたはわたしをくう。いいか」
ライナー「なら、はんぶんずつはどうだ」

私らも、狂人どもほどじゃねえが、それなりの戦果を得た。
一応、これでも2位らしい。
クリスタ、強くなったな。
図体のでかい野郎が勝手についてきたのは気に食わねえが。
……どうしてばれないんだろうね、この男は。
まさか、この期に及んで私の勘違いなんかじゃねえだろうな。

――――――――――――――――――――――――――――

この日の晩は巨人肉の宴が開かれた。
訓練兵の誰もが、言い表してはいけないほどの痴態を晒していた。

そんな中で、私ともう一人は、宴から密かに抜けて宿舎に戻っていた。

アニ  「なあ、そばかす」
ユミル 「ああ」
アニ  「もう、分かってるんじゃないの?」
ユミル 「なにがだ」
アニ  「しらを切るつもりかい。 私は戦士をやめたいんだ」
ユミル 「戦士が何かはまだ分かんねえが、お前が隠したいことはわかる」
アニ  「はは。あんたは賭けに勝った。
     でもね、私も賭けてるんだよ。あんたにも隠してることがあるってね」
ユミル 「今さら隠す気にもならねえ」
アニ  「同族の匂いがする」
ユミル 「ああ」
アニ  「いいにおい」
ユミル 「いいにおい」

アニ  「……怖いんだ」
ユミル 「はは」
アニ  「ずっと前から怖かった。
     食べられる側の存在に近寄りすぎて、感情が分かるようになってきたのが怖かった。
     ただ、今は……食べられる側と食べる側が逆転したことが、怖いんだ」
ユミル 「私はたいして怖くねえな」
アニ  「どうして」
ユミル 「私には感情を注いでる奴がいるんだ。そいつになら食われても構わねえってくらいにね」
アニ  「……あんた、同族だけど、同族じゃないね」
ユミル 「染まりすぎたんだ」
アニ  「もう一人も……もう一人って、分かるだろ……あんたと同じようになった」
ユミル 「ああ、もう一人、か。 はっ、一緒にすんなよ」
アニ  「でも、感情を注ぐ対象は、同じでしょ?」
ユミル 「ははは。 がははは」

アニ  「もう、やめるよ。全部チャラにしよう」
ユミル 「ばらす、のか」
アニ  「そうだね。いつがいい?」
ユミル 「明日でもいいだろ。 もしバラして死ぬなら、いつでも結果は同じさ。
     なら、早く決着を付けときたい。それで、誰に言うんだ」
アニ  「誰がいいだろうね。聞いた途端に撃つような人間じゃなきゃ大丈夫じゃない?」
ユミル 「戻らねえか」
アニ  「そうしよう」

宴に戻ろうと食堂を目指していたさなか。
廊下に立つ人影に声を掛けられた。

アルミン「アニ、と、ユミル」
アニ  「……どうして、ここにいるんだい」
アルミン「僕が聞かせてもらいたいよ」

アルミン「ごめんね。少し、耳に入っちゃったんだ」
アニ   「どこまで?」
アルミン「いいよ。細かいところは、今は問題じゃない。
     大体、僕には察しが付いていたからね」
ユミル 「そうか」
アルミン「匂いでもわかる」

普通なら流れているだろう冷や汗すら流れない。
焦りという感情をとっくに通り越しているからだろうか。

アルミン「この異常な状況。僕でも抜け出すのに時間がかかった。正直、今でも抜け出せていない。
     二人には、いや……あともう一人いれば良かったんだけど、とても大事な話をする。
     どうして今、二人の周りの人たちが変わっていっているか、の話だ」
ユミル 「つまり、なんだ」
アニ  「聞かせてくれるの?」


アルミン「まだだよ。
     教えるのは……アニとユミルが、自分の責任を果たしてからじゃないと」
アニ  「責任、か」
ユミル 「なるほどな。大したもんだね」
アルミン「今ならきっと大丈夫だ。受け入れてもらえる」
アニ  「その自信はどこから来るのさ」
アルミン「そういう疑問も含めて、僕は説明できるはずだ。
     でも、やるべきことはやってほしい。それが最低条件だ。
     条件を飲めないなら、二人は僕にとって悪い人になるね」



(今日はここまで)

(ユミアニってありだと思うんだがなあ。巨人で百合できる唯一のカプだよ。
表向きの性格も割と似てると思うし。本質は180度違うけど)

運命の、あるいは最悪の朝がやってきた。
もう隠すことはできないだろう、十分に分かってるさ。
ただな、もう少しいい状況でバラしたかったよ。
文字通り「匂いを嗅ぎつけられた」ってやつか。
クリスタと元の名前なんて約束を交わしたのが昔のようだ。
……約束した当人といえば。

クリスタ「おはよう。あさごはん」
ユミル 「もう少し待つんだぞ。いい子いい子」
クリスタ「じゃあ、おくち、ちょうだい」

こんなかわいい子になっちまって。
乳離れさせてやんねえからな?

ユミル 「あのな。クリスタ」
クリスタ「なあに」
ユミル 「私がいなくなっても、泣くんじゃねえぞ」
クリスタ「え。なに、それ?いやだ」
ユミル 「よしよし」
クリスタ「いやだよそんなの。わたしはどうすればいいの?
     ゆみるがいなかったら、わたしはもういなくなってるかもしれないのに」
ユミル 「嘘だよ」
クリスタ「……ゆみるの、ばか」

私は愚直な手段を取ることにした。
小細工なんていらねえ、もうこれで決めたんだ。
あとはタイミングだな。
これだけは考えとかねえと、どうせ躊躇する。

ユミル 「大丈夫だよ。私はずっとそばにいる」
クリスタ「うん」

アルミン「エレン班、45頭!」
ユミル 「クリスタ班、14頭」

訓練が終わった。
実地訓練に名を変えた立体機動訓練が。
この訓練は、訓練兵団、いや兵団全体の活動趣旨を大きく変えている気がする。
……見ろよ、あいつらの顔を。
笑ってるんだ。
訓練兵のどいつも、巨人を見るなり笑うようになった。それでいいのか。
そもそも、壁はどうした。
なんで穴が開きっぱなしなんだ、確か……エレンの奴が何かして閉めるって計画じゃなかったのか?
これじゃあまるで、自分から巨人を招いているようなもんだ。
ついでに、周りに兵以外の人間がいない。
住居は建ち並んでいるのに、「実地」のはずなのに。疎開したのか?
まさか……この場所を訓練場にするために、わざわざどっかへ追い払ったんじゃねえだろうな。

……やめろ。
思考停止するな。
今じゃないか、躊躇うな。
責任を忘れるために、別の考えで頭をごまかすな……

キース 「エレン班は快調だな! だが、クリスタ班、貴様らも褒めてやろう!
      エレン班は人間でない奴らが集まっている。
      クリスタ班は大きく差を付けられているように見えるが、人間ばかりの中尽力している。
      他班が多くて4頭程度にとどまっている中で……」
ユミル 「教官。申し上げたいことがあります」

キース 「何だ、言ってみろ。褒美ならいくらでも考えている」
ユミル 「いえ、そういうことではありません。
      ただ、お願いがあります。
      どなたでも構わないので、上官を呼んでいただきたい」
キース 「意味が分からんな」
ユミル 「お願いします。 これはとても重要な話なんです」
キース 「ふむ」
アルミン「教官!」
キース 「なんだ、アルレルト訓練兵」
アルミン「彼女の言うとおり、これはとても重要な話です。どうか」
キース 「お前が言うなら、信憑性はそれなりにあるな」
アルミン「……少なくとも、ハンジ分隊長をお呼びくださると」

―――――――――――――
リヴァイ「クソメガネに連れられて来たが……なんだこの空気は」
ハンジ 「お待たせしたかな。面白い話が聞けるそうだね」
ユミル 「いえ、面白い話ではないのですが。
      ……お前ら、聞いてくれるか。笑うなよ。
      私は長話が嫌いだ。だから最初に言う。
      いいか。私は……


     ……私が憎むべき存在なら、駆逐してくれ。
     食いたいんなら食ってくれても構わない。
     私はそれだけのことをした。
     ただ、万が一私のことを許してくれるなら、人類の道具として使ってほしい」

アニ  「分隊長、兵士長。
      私からも申し上げたいことがあります」
ハンジ 「はは、まさか?」
リヴァイ「まさか、だろ」

アニ  「私も先ほどの彼女と同じ罪を犯しました。
      いえ、私の方が罪は重いはずです。なぜなら、私は……


     罪が許されるとは考えていません。
     許されないなら、今ここで食肉にされる覚悟があります」

無口女の方は、私と違って、許してほしいとは言わなかった。
私は腰抜けだと思われちまうな。
ま、あいつは正体だけじゃなく自分の所属までバラしたから、仕方ねえ。
超大型巨人とやらの一味だってことを。
過去の業を考えると、許しなんて口が裂けても乞えないだろう。

―――――――――――――――――――――

クリスタが微笑みながら涙を流していた。

―――――――――――――――――――――

衆目の中、私ら二人……いや二体は、分隊長の手で施設に連れて行かれた。
前にも見たことがある、エレンの奴をかくまってた場所だ。
頭でっかちも付いてくる、そういや、昨日の話があったな。

ハンジ 「さて。聞きたいことはたくさんあるけど、その前に。
      私の隣にいる優等生君に解説してもらおう」
アルミン「は、はい、ええと。
      ……二人に、そしてエレンに起きたことが何か。
      キーワードは『匂い』だ」
アニ   「匂い」
ユミル  「ああ、そこまでは分かる」

アルミン「長い話になるけど、聞いてほしい。
      エレンたちを研究することで、巨人肉が人間にもたらす様々な効果が判明した」
アニ   「……エレン、『たち』?」
アルミン「ああ。エレンと、ミカサだね」
ユミル  「なん、だって」
アニ   「つまり、ミカサも」
アルミン「そういうことじゃない。僕が見た限り、ミカサはれっきとした人間だった。
      ただ、実験の被験者は、エレンとミカサ二人なんだ。
      むしろ、ミカサが主体だと言ってもいい。
      ……ミカサに様々な状況で巨人肉を与え続け、継続的に観察した。
      そして、途中から、エレンの肉も積極的に使うようになった」
ユミル 「おい。どういうことだ」
アルミン「誤解しないでほしいんだけれど、これはミカサ自身が望んでやったことなんだよ」

ハンジ 「そうさ、驚いたことに、あの子は『エレンの肉を食べたい』って言い出したのさ!
      この理由も後々聞いてればわかるよ」
アルミン「はい。
      巨人の肉には、精神の強化だけでなく、身体能力の強化もあることが分かったんだ。
      いや、もっと言えば、この二つが相乗効果を起こしている。
      ミカサの場合、彼女は任意に身体の限界まで力を使う能力を持っている。知っていたかな?
      それが、巨人肉によってどうなったか。
      まず一つ。身体の限界を超えて、肉体構造が壊れるまで力を使えるようになった。精神的作用の一種だ。
      ただ、それだけだとすぐに使えなくなってしまうよね。
      もう一つ。身体の限界そのもの、つまり肉体の構造自体を強化できるようになった。
      つまり、身体の限界を超え、それに応じて肉体構造が拡張し、を繰り返しているんだ。
      そして、ミカサはエレンと同様の兵器になった」

冷静になって、クリスタの身に起きたことを思い出す。
性格の変化ばかりに気を取られていて見ていなかったが、
訓練の度に急速に向上する機動力。
これはあいつだけじゃねえ、どの104期の奴らもそうだ。
薄らと柔肌を突き破り始めた腹筋や上腕筋。
「薬」が足りなくなった瞬間に現れる、私を組み伏せて固めるほどの腕力。
はは、なるほど。

アルミン「ただ、精神の変容は、自我の強化や士気の向上以外に、副作用をもたらしている。
      ひとつは、匂いだ。
      巨人の匂いを嗅ぐと、巨人食の人間はただちに食欲を催す。
      これだけなら、ある意味士気の向上につながるかもしれない。
      けれども、感じ取った匂いが強すぎると、彼らは自我の制御を一時的に低下させる。
      つまり、前後不覚の症状に見舞われるんだ」
アニ   「……よく分かったよ」
ユミル  「見当は付いてたけどな。
      本能で気づかれてたってわけか、やっぱり」

アルミン「もう一つは……依存性だ」
アニ   「依存?」
アルミン「そう。巨人の肉には強い依存性がある。
      常食していると、それなしではいられなくなるんだ。
      さらに、日に日に必要とする量を増して、場合によっては性格自体を変えてしまう」
ユミル 「性格……クリスタの」
アルミン「ああ……そうだね。クリスタは特に症状がひどかった。
      それにも明確な理由がある。
      依存性は、元々の精神状態に大きく左右されるんだ」
ユミル 「は?クリスタが元からおかしいって言うのか」
アルミン「そういう意味じゃない。 言い方が悪かったかな、人間への強い感情、としか言いようがない。
      分かりやすい例がミカサだ。
      ミカサはどうしてあれほどまでに巨人肉を、それもエレンの肉を求めると思う?」
アニ  「……ふふ、なるほど。元から狂ってたからね」
アルミン「だから、違うんだ。
      ミカサはエレンに強い感情を抱いている。それだけの話だよ」

ユミル 「強い感情」
アルミン「そう。巨人に対して強い敵意や愛情があると、依存性ははるかに高まる。
      敵意の最たる例はエレンだ。エレンは正直、僕から見ても恐ろしいくらいになってしまった。
      敵意の方はサンプルがいくらでもあった。訓練兵の多くは、巨人が憎いだろうからね。
      けれども、愛情の方は、ミカサ位しか分かっていなかった。
      巨人に愛情を持つ人間なんて、本来いるはずがなかったからね」
ハンジ 「うん。私も、実際には巨人が憎いからさ。当たり前だよ」
アルミン「あはは……。 だから、僕も確かなことは言えなかったんだけど」
ユミル  「つまり」
アルミン「つまり、だ。ユミルとクリスタ、そういうことさ」

>>129 訂正
×アルミン「そういう意味じゃない。 言い方が悪かったかな、〈人間への強い感情〉、としか言いようがない。

○〈巨人への強い感情〉

ユミル 「ああ。確かに私らは、その、愛し合っていたよ。
     だがな、愛情とやらだけで、あそこまで変わるもんか?」
アルミン「事実なんだ。クリスタの状態は、ミカサと同じ。
      特定の巨人への依存によって、その巨人の肉をとりわけ欲するようになる。
      愛情が肉への依存を高めているんだ。
      もしくは、肉への依存が愛情を高めているのかもしれないよ」
ユミル 「まさか」
もしも私のクリスタが、好きと言う言葉の裏に飢えを詰め込んでいるなら。
触れてくれる歯が、常に皮膚の奥にある血肉をすすろうとしているなら。
いや、それでもいい。
私の肉を食べてくれるんだ。
私の肉はおいしい。むしろ今のは朗報じゃないか。
クリスタはもっと肉を食べてくれるんだ。私だけを。

アルミン「巨人食が始まってから、ミカサはエレンの匂いに敏感になった。
      エレンが巨人と知られてから、ミカサはエレンの匂いを常に求めるようになった。
      実験が始まってから、ミカサはエレンを食したいと感じるようになった。
      クリスタも、同じじゃないかな?」
ユミル  「ああ。何も異論はない」


アルミン「これで、一通り話は終わったよ。いい?
      もう少し説明しなきゃいけないことはあるけど、まだ早いんだ」
ハンジ 「二人とも、お疲れさん!」
アニ   「ありがとう。 あんたは本当に頭が利くね」
ユミル  「ありがとうよ。 さて」
アニ   「……」

ユミル  「分隊長。私たちの処断は、いかがなさいますか」
ハンジ  「そうだねえ。どうしたい?」
ユミル  「私は意見できる立場にありません」
アニ   「私もです。すべて任せます」
ハンジ  「それくらい正直なら、今すぐ元に戻してあげたいくらいだ。
       だけど、ごめんね。少しだけ我慢してもらおう。
       これまでがどうあれ、君たちが持つ情報は我々人類の宝だ。
       でも、だからこそ、君たちには、そして私には果たさなければならないことがある」
ユミル   「となると」
ハンジ   「ま、お固いことはなしにして!
        なに、しばらく部屋に入ってもらうだけさ。案内するよ」

薄暗い通路を渡ると、分隊長は立ち止まった。
太い鉄でできた格子が張り巡らされ、クリスタと十数人の見張りが待ち構えていた。
格子の向こうには、30人入っても余るような空間があった。
天井の高さも、大の大人10人分は軽く超えている。

アニ  「部屋は、どこですか」
ハンジ 「ん。ここだよ」
アニ  「え?こんなに広くて」
ユミル 「ああ、多分、看守さんか何かと一緒に入れられるんじゃないか。一人じゃ持て余すだろ」
ハンジ 「一人じゃないけど。二人だよ」
ユミル 「はあ」
アルミン「実際に、見てみようか」
アニ   「……え?」

私たちは再び歩かされた。
同じような鉄格子が広がり、番人が群がり、その向こうでは。

アニ  「えれ、ん」
――巨人化したあいつが、全身をワイヤーで縛られていた。
隣にはミカサが控えている。

エレン 「オアエ、クウカ」
ミカサ 「うん。ありがとう。いいにおい」

つまり、私らも。

ハンジ 「こういうことだけど、大丈夫かい?」
ユミル 「従います。これが私たちの受けるべき罰です」
アニ  「私も、逆らいません」
クリスタ「ユミルには、私だよ」
ユミル 「ああ。だからか」
クリスタ「うん。ずっといるから」
ユミル 「クリスタ。心配をかけて悪かった。どうか許してくれ」
クリスタ「だいじょうぶ。私、なんとなく分かってたんだ。
      あなたがどんな人でも、ちゃんとそばにいるからね」
ユミル 「本当か」
クリスタ「うん。もし何かあっても、ちゃんと、ほねのずいまでしゃぶりつくしてあげるから」

そうだ。それでいい。
それでこそ私の女神。

アルミン「アニには僕だ。
      ごめんね、他の二組と違って、付き合ってるとかそういうのじゃなくて」
アニ  「そうか。いいよ、私はずっと孤独だからさ。そんなもんだよ」
アルミン「僕はアニのことを信じたいんだ」
アニ   「あんたって、本当良い人だね」
アルミン「良い人なんかじゃない。僕は僕のために動いている。
      アニには、僕にとっての悪い人になってほしくないんだ。
      だから、ちゃんと見ておきたい。アニがこれからどうするか」
アニ   「いい趣味してるよ」
アルミン「少しの辛抱だけど、よろしくね。
      ぼくにも、すこしだけでいい、たべさせてくれないかな」
アニ   「え」



(今日はここまで  終わりはきっと近い)

(正直ここで終わらせてもそれなりにサイコで余韻がある気もしますが、
大事な人物があと二人残っているんです)

(自分で読み返して、そういやあ>>18までの虫編があったなって思い出した次第。
巨人肉編、虫編の何倍あるんだ。全然前編後編じゃない。
あと、今さらながら、食糧対策サシャを書いた人には感謝したいです。ありがとうございます)

――――――――――――――――

そして、私らの共同生活が始まった。
私は手を噛む術を覚えた。エレンの奴がやっていることらしい。
クリスタの望む体になるには、「強い意志を持つ」ことが必要なんだが、
アルミン曰く、「クリスタを守る」程度のことでも大丈夫なんだそうだ。
実際、あいつが言った通りにしたらできたから、そうなんだろうが。

クリスタ 「ゆみる」
ユミル  「アンダ」
クリスタ 「ちょうだい」
ユミル  「アア」

今の私は両手だけが自由だ。
手首を自分の口元に持っていき、針山になっている歯で噛み取る。
生きたまま捌けば巨人の肉は消滅しない、分隊長はそう言ってたが、
まさか本当だとはね。長い人生の中でも知らなかったよ。

肉を切り分ける感覚は、垢を擦る感覚に似ている。
一つ一つ自分の体から離していくたびに、古いものが捨てられ、新しく生まれ変わる。
その微細な感触が、私の「本体」にも確かに伝わってくる。
新生した皮膚から漏れ出る蒸気が、私を内側まで温めてくれる。

クリスタは一心不乱に貪っている。
それでも、天使と称される微笑みは未だに残っている。
だからこそ、この微笑みが、なおさら私への執念を感じさせて、
いとしい。

私はクリスタと一緒に暮らす。
訓練の時以外はここから出られない。
放り込まれ、縛られ、クリスタ以外の奴らにも見張られている。
風呂も入れない。
この独房にシャワーを付けることも検討されたらしいが、
巨人になることで古い細胞が常に排除されるなんて理由で取り下げられたらしい。
なんて不便な住処だ。

でもそれでいい。
不便さを引き換えにしてでも、得たいと思える存在がすぐそばにいるのだから。

クリスタ「ゆみる」
ユミル 「ア」
クリスタ「ゆみるはね、おなかがいちばんおいしい」
ユミル 「オアガ。 オイ」
クリスタ「だからね。ずっと、このおなかといっしょにいたいな。
     ゆみるのにおいのとなりにいるの。こころがやすらぐんだよ。
     わたしね、きっと、あなたのおかげで、とってもつよくなった。
     だからがんばる。がんばるために、たくさんたべるね」

またクリスタがおかしなこと言ってるな。
いくらかわいくても、勝手にちぎって取るのはだめだ。
わたしはほかの奴らより治りがおそいんだから。ちゃんと自己管理するんだよ。
こら、おなかばっかり食うな。もっとさ、ほら、うでとかにしろ。
それでだめならあしでもいい。まんぞくできないか?なら、したでもかまわねえ。
それにしても、なまみできょじんのにくをきりきざめるなんて、つよくなったなあ。
わたしはそんなにえいようかがたかいのか。よろこんでやるよ。

ああ、くりすたがでていっちまう。
ふろにはいりにいったんだ。わたしがふろにはいれたらなあ。
おゆをのませてやったのに。そういえば、ちゅうしょくにすーぷがあったな。
もしわたしがもどれたら、つくってやりたいな。
はやくかえってこいよ。
それまでに、おつまみのかけら、たくさんよういしておくからさ。


幸せな日に浸っているうちに、二週間以上かそこらが過ぎた。
私と無口女は自由への権利を手にした。
アニは人間の生活に戻ることにした。
頭でっかちと手をつないでたのは気のせいか。

エレンの奴らは、ずっと前から自由を選べるはずなのに、自分の意志でとどまっている。
今さらながら変わった趣味だ。

私はひとまず出ることにした。
クリスタに、一度みんなと同じ空気を吸ったほうがいいよ、と勧められたからだ。
去り際に、新しい牢屋があることに気付いた。
看守さんどもが群がっている。
私らの時の三倍以上はいるだろう。
中にいたのは……

あいつ、なんだ、ずっと前に壁を壊したクソ野郎じゃねえか。
鎧の巨人、って言ったよな。

ハンジ 「ああ、彼かい?新入りさんだよ」
ユミル 「その、『中にいる』のは」
ハンジ 「訓練兵のみんなに聞けばわかるさ」
ユミル 「あんな奴、誰が担当するんですか」
ハンジ 「そうだね。大事な話だし、教えておこう」

アルミンと言った。
次に、なんて言いやがった。

ハンジ 「ごめんよ、怒りたい気持ちはとてもよく分かる。
     でも、どうしてもその二人が必要なのさ。
     ちゃんと理由はあるんだ、許してくれよ、な?」
ユミル 「……いえ、申し訳ありません」

訓練の初めに、私と無口女は新しい起動装置の刃と防具を手渡された。
刃は巨人のどんな皮膚にも勝り、防具は巨人のどんな歯にも劣らないらしいが。

ユミル 「技術革新できるほどの資力、本当にあるのか?」
アニ  「いや、これは見知った技術さ……
     確かに、これならどの巨人にも打ち勝てるかもしれない」
ユミル 「何か知ってんのか」
アニ  「嗅いでみな」

……なるほど、慣れた匂いがする。
その技術か。
人間は、恩恵に授かっただけなんだな。

知らぬ間に、「巨人兵団」ができていた。
いや、正確にはただの俗称らしい。
構成メンバーは、エレン・アニ・そして私と、
この三体を支援する、ミカサ・アルミン・そしてクリスタだという。

キース「実地訓練だ!始め!」

巨人兵団の実地訓練は、巨人化訓練と通常訓練に分けられた。
……無口女、デカくなるとあんなに強かったんだな。

「エレン組! 38!」
「アニ組! 36!」
「ユミル組! 25!」

はは、大したもんだ。

――――――――――――――――――――

ユミル 「なあ」
クリスタ「なに?」
ユミル 「あの図体のでかい野郎に、何かヤバいことされなかったか?」

この時点で、私はそいつの正体を聞いていた。

クリスタ「大丈夫だよユミル。人に悪いこといっちゃだめ」
ユミル 「いや、すまない。だが、あいつは実際に人類を襲ったやつだ。そんな奴のそばにいて」
クリスタ「だいじょうぶ。だから私が行くの」
ユミル 「……勝手にしろよ」

サシャ 「あの二人はいつも通りですね」
アニ  「アルミン」
サシャ 「はい?アルミンはここにはいませんよ?女子寮じゃないですか」
アニ  「い、いや」

どうやら、私らは許された……の、だろうか?

―――――――――――――――――――――

さらに日が経った後。
巨人組は分隊長とアルミンに呼ばれ、例の施設に集まっていた。

アルミン「一通り実験結果がまとまったよ。まあ、あんまり言うことはない。
      ただ一つだけ、巨人側の反応について、確かな成果が出た」
エレン 「反応、か?」
アルミン「端的に言うね。エレン、君はミカサを愛しているだろう」
エレン 「あ、いや、ああ」
アルミン「ユミルは、クリスタを愛している」
ユミル 「その通りだ」
アルミン「そして」
アニ   「……」
アルミン「いや、何でもない。つまりさ、とても単純なこと。
      巨人にも人間への愛情が見られる、っていうことだ」


エレン  「オレは人間だ」
アルミン「まあ、そこはそうなんだけど。今は、聞いてほしい」
エレン  「人間だ……たぶん」
アルミン「君たち三人に……アニも含んでおくね、いいかな……共通して見られた行動に、
      情を持つ相手に対して自ら積極的に肉を提供する、というものがあった」
ユミル 「何も間違っちゃいねえな」
エレン 「違え、あれはミカサが欲しいって言うから」
アルミン「うん。そうかもしれない。でも、よく考えてみなよ。
      エレンが人間だとして、いや人間だけどね、肉を食べられるって感覚は普通良いものじゃないよね」
エレン 「……そう、だ」
アルミン「その非常識を可能にする感情が、君たち三人には存在するんだ。
      僕自身、アニと実験して、とてもよく理解できた」
アニ  「聞き間違いかな」


アルミン 「なんだい」
アニ    「いや、今。 実験って聞こえたんだけどさ」
アルミン 「これから話してあげるよ」
アニ    「話次第では、どうなるだろうね」
アルミン 「大丈夫。分かってるよ。
       肉を分け与えるという特殊な行動に対しては、いろいろな仮説が考えられた。
       一つは、人間の意識と巨人の意識の葛藤。
       巨人を憎む人間。一方、同族なのに巨人を食べ続ける巨人。
       おそらく後者の意識は、自己嫌悪や自傷につながる。
       二つの複合が、巨人である自分を自ら滅ぼしめる行動につながるんじゃないか、っていう説」


アルミン 「また一つは、共感する人間を増やそうという意思。
       肉を与えることで人間を喜ばせ、巨人を支持する人間を生み出そうとする、って説。
       さらにもう一つ、人間を武器にしようという考え。
       巨人肉の身体強化を使って人間を改造し、自分の駒として使おうとする、という説」
エレン  「アルミン! てめえ何言ってんだ……いくらアルミンでも言って良いことと」
アルミン 「待ってエレン、話は終わってない。
       分隊長や他の人たちといろいろ考えたんだ。興味深い説からくだらない説まで、真剣に。
       ただ、結局、答えになるのは一つしかなかった。
       ―― 愛、しかなかったんだ。 一番くだらない、かな」
ユミル  「オイオイ、お前頭回しすぎて夢の世界にでも言っちまったか」
アルミン 「そうかもしれないね。ただ、認めざるをえないんだ。
       人間と巨人の間にも、確かに愛は存在する」

アルミン「アニ」
アニ   「……」
アルミン「聞いてくれるかい」
アニ   「いいよ」
アルミン「僕は初め、確かに君との付き合いを実験だと思っていた節がある。
      アニが悪い人ではないと信じたかったけど、まだ分からなかったから」
アニ  「……」
アルミン「でもね。 ずっと姿を変えた君を見て、僕に敵意の目を向けないでくれることを知った。
      時には普通に話して、アニの寂しさや心苦しさを知った。
      そして結局、たとえ巨人だとしても、君には確かに人間の心があることを信じられるようになった」
アニ  「そう、かい……つまり、何が言いたいの」
アルミン「分かるじゃないか。
      アニ、僕は君を本当に好きになった。人間として愛したいと思った」


アニ   「……答えて、ほしい?」
アルミン「後でいい。少し、大事な話があるんだ」
エレン 「お前、こんな奴だったっけ」
ユミル 「はははは、見せてくれるじゃねえの」

ハンジ 「お取込み中のところ、いいかな?
     私のこと、忘れてない?
     今日はとっても大事な話をしに来たんだけどなあ」

―――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――

ベルトルト 「き、みは」
アニ     「久しぶりだね」
ベルトルト 「ああ」
アニ     「痩せたか」
ベルトルト 「食べられるものをほとんど出してくれないからね、ここの看守は」
アニ     「あのさ。話がある」

―――――――――――――――――――――――――――

がらんどうの空間に二人が立ち尽くしている。

ベルトルト 「ここ、は」
アニ     「私たちの最後の希望さ」
ベルトルト 「こんな広い場所、近辺にあったか」
アニ     「近辺の地図を片っ端からくすねた。
        どうやら、この空間は長らく忘れ去られた場所らしいんだ。
        そして、さ……地下室の中で、一番壁に近い位置にある」

長い間閉じ込められたベルトルトは、壁の穴が塞がれていないことを知らない。
―― おそらく、実地訓練のために。

ベルトルト 「……つまり」
アニ     「分かった?
        あんた、人類にこんな仕打ちを受け続けるの、憎しみが積もるでしょ。
        私もさ、同族の肉を食べさせられてばっかりで。涙が出ちゃいそうになるよ」

アニ    「今こそ、戦士に戻る時じゃない?」
ベルトルト「あ、ああ」
アニ    「あんたが一番戦士だったんだ。今はどうなのさ。恥ずかしくない?」
ベルトルト「だけど」
アニ    「憎しみは、十分すぎるほど知ったよね。
       ベルトルト……今、やらないと。ここで」
ベルトルト「……」
アニ    「……」
ベルトルト「ああ。今、やるんだな。ここで」

アニ    「私もいっしょについてくよ」
ベルトルト「ありがとう」
アニ    「……合図は、私が『人間は憎い?』って聞いたとき、とか、どう」
ベルトルト「ああ」

アニ    「……」
ベルトルト「……」
アニ    「人間は、憎い?」
ベルトルト「……ああ」







アニ    「きいやあああああああああああああああああああああ
       ああああああああああああああああああああああああああああ」

ハンジ 「今だ!」

巨人兵団出撃。
皮膚のない上半身が空間を埋め尽くしている。
足が生えるほどの高さはなかったのか?
それとも、完全に実体化できないほどに擦り切れてやがったのか?
ま、こいつの事情なんて知ったこっちゃねえ。

まず狙いを定めたのは鎧の巨人、こいつの仲間だったはずの、
人類の敵だったはずのクソ野郎。
そいつが今は、ただ図体がでかいだけの肉風船に向かって、自分から突進をかましている。
超大型は蒸気を放つ。
だが鎧は意に介さず、床から生えた腰に蹴りを加えていく。
肉の塊が揺らぐ。

次に、無口女、あるいは女型。
軸を失った上半身にさらに執拗な攻撃。
塊、突っ伏して倒れる。
すかさず肩に移り、頭を床に押し付け、うなじを手で握りこむ……中身が逃げねえように。
鎧は後ろから超大型の腰を押さえる。

さらに、エレンと私。
エレンは右腕、私は左腕に向かい、左右完膚なきまでに絡め取る。

頃合いになったところで、四体が息を合わせ、超大型の伏せられた巨躯を斜めに起こす。

最後に、ミカサ。
あいつ、一応人間だよな?
時には飛び回り、時には体を歩き回り、進むたびにワイヤーを体に絡めていく。
巨人にはできねえ細かい作業だ。







―― 本日、超大型巨人……確保 ――





.

ライナー 「これで、俺も……兵士になれるんだな」
アニ    「まだだよ」
ハンジ  「君に与えられるべき罰は、もう少し重いからね」
ライナー 「……そうだ。俺は半端なクソ野郎に成り下がっちまったんだ」
エレン  「それがどうしたんだよ。裏切り者だってことを自慢したいのか」
ライナー 「はは、お前は血気盛んだなあ」
エレン  「お前は許さねえ。でもよ、許されるまで人類に尽くせ。
       オレにとっては不本意だが、それが人類の意思だ」

―――――――――――――――――――――――――――


訓練兵団に、あっさり卒業の時がやってきた。
上位の発表はなくなった。
なんでも、訓練兵が全体的に強化されすぎた結果、甲乙が付けられなくなったそうだ。
さらに、104期は半分以上が調査兵団志望だと言う。
肉の味から離れられなくなったらしい。

そして、私らは。
「ここに、巨人兵団を設立する。
 団長……ハンジ・ゾエ!」
第四の兵団に配属されることになった。

「おはよう!団長って肩書きは重いね。
 まず、最初の仕事は。 あの木偶の坊くんの話を聞いてあげることだ」
「それ、いつもじゃないですか」
エレンが不平を漏らす。
他の奴らは気にせず、例の地下牢に向かう。
……あの巨人は、未だに人間では相手ができないんだ。

「アイツも、そろそろ戦士の心を捨てりゃいいのにね」
「あれは信念に凝り固まってるな。まだまだ難しいだろ」
「なら、力ずくで心をバラバラにしてやるだけだ」
「エレン、それは不毛」

木偶の坊こと人類最大の敵こと超大型巨人こと……ベルトルトは、
私ら巨人兵団の監視の下、
巨人にされ、人型にされを繰り返し、
時に肉を切られ、
その肉は、ウォール・シーナの内側で消費されている。

ぶんたい、いや、団長曰く、
「人類全員分の絶望を味わった後で、誰かに愛してもらえばいいんじゃないかな」
ということらしい。

「結婚してくれるか?ならこっちへ来い。にくをくわせてやる。うまいぞ」
「やだ。らいなーのにく、かたい」
「かたいのは、とってやるから。なかにはたくさんやわらかいのもつまってる。どうだ」
「りょうほう、ちょうだい」
「ぼくも、りょうほうほしいな」
「ああ、おまえらほんとうにかわいいやつらだ。ぜんぶもってけ」

ライナーの奴は、いやほんと、別の意味で救えねえな。
とりあえず、私のクリスタを未だに借りてるのが許せねえ。
その上、頭でっかちの方にも発情しやがったらしい。
クソが。
これでも一応巨人兵団の一員だ、余計ムカつく。
あと何年、戦いのとき以外は牢屋入りなんだっけなあ?
一生入ってろ。

――――――――――――――――――――
「訓練で優秀な物には、特別素材の刃を与える!」

「この水晶みてえな刃と金属みてえな刃、どっちが強いんだ?」
「金属の方が一応固いらしいぜ。でもよ」
「でも?」
「水晶の方は、女から取れたんだとよ」
「何だって」
「じゃあ、俺水晶!」
「オレもオレも」
「……僕は、強いんなら、こっちの方」
「なんだお前ホモか」
「違うよ!」

「憲兵団、調査兵団、駐屯兵団、そして訓練兵団、全兵団において十分な効果が確認できた。
 ―― 人類の福祉ならびに体力増進のために、巨人の食肉を庶民に配布する」

「いらっしゃい、いらっしゃい!新発売のタイタンミート、軽いけど歯ごたえしっかり新食感……」
「肉だあああああ!」
「待て、押すな!俺が先だ!」
「私が!」
「いや俺が!」
「皆さん待ってください!タイタンは今や余るほどあるんです!
 だからもう少し落ち着いて」

「ほう。これが」
「憲兵団の間でもまだほとんど流通していない、すばらしい珍品ですよ」
「一口、構わんかね」
「どうぞ」

「なぜこんなに柔らかいのだ。ほぼ火を通しただけだと言うのに。
 しかも脂が乗っている。においもする。
 したにのせただけでここまでかおりがひろがるものか。
 まえばでかんだときはゆきのようにとけ、
 おくばでかんだときはにくじゅうがひろがり、どちらもゆめのようだ。いやまさゆめだ」

「いかがでしょうか」
「いまいっただろう。すばらしい。
 これはどれくらいのおおきさなんだ。
 おおきいやつほどあじがふかいといううわさをみみにしたぞ」

「60m級です」
「……なんと、まさか、これが……」

「我らはミート教!
 汝肉を愛せよ、まずはじめに肉ありて、次に肉から人が生まれ……」
「天に肉あれ!」「地に肉あれ!」「土を肥やせ!」「自らを肥やせ!」
「ミート・エレン!」「ミート・アニ!」「ミート・ユミル!」「ミート・ライナー!」

「ほら、あいつらですよ」
「また厄介な集団だな、これは」
「急速に信者を増やしています。それだけならいいんですが。
 巨人肉への信仰が、巨人そのものへの信仰にならないか。
 我々が監視すべきはこの点です」

「……を称えよ、聖女を称えよ、聖女、サシ……」

「今言っていた、『聖女』、とは」
「ああ、あの子ね。確かに人類に多大な貢献をしましたけど。
 関係ないらしいですよ。むしろ、勝手に祭り上げられて迷惑してるそうです」

「おかあさん!」
「なにかしら?」
「ぼく、ちょうさへいだんになりたい」
「あら、なんてこというの」
「大丈夫さ。調査兵団も最近ではずいぶん安全になってきた。
 それもこれも、食糧改革のおかげさ」
「で、でも」
「ぼくはおにくをたべてつよくなる!
 それでね、ちょうさへいだんにいって、
 おとうさんとおかあさんのためにたくさんおにくをとってくるんだ」
「……いい子、いい子だわ」

「肩、四人分ください!」
「私は頭!」

「いやあほんとおいしいねえ」
「こんなものがまいにちたべられるようになるなんて」
「ちかごろ、まちじゅうにくがやけるにおいだらけだ」
「いえでつくれるようにもなったし」
「うまい」
「うまいねえ」

「ミート!」「ミート!」
「ミート!」「ミート!」「ミート!」
「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」
「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」
「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」
「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」「ミート!」


…………

――――――――――――――――――――

「おい肉女」
「なんか?」
「思うんだけどさ。お前、どうして調査兵団のままなんだ?」
「あはは、いいやろ」
「いや、いい。いいんだが。
 お前、自分が人類って種族の回復にどれくらい貢献したか知らねえのか」
「いんや、そんなのないよ」
「将来の身分が十分約束されてる身だぞ?
 私から見りゃちったあ羨ましい」
「……私にゃ私の生き方があるんや」

「はは。大したもんだね」
「私はハラが減る。私は飯を食うために生きる。私は獲物を獲るために生きる」
「ああ」
「それでいい。私はこの世界に生かしてもらっとる。それで充分や」
「私もだ。
 私も、この世界に生かしてもらってるな。一度は死なされかけたが」
「そうなん?」
「そうだ。でも、今こうやって生かしてもらってる。とても大事なことなんだ」
「ああ、そうて……」
「お前も、なんだかんだ言って私を生かしてくれてるのかもな。
 とても間接的な形でだが」
「……ああ」
「これでも、感謝してるんだよ」
「ありがと」

「じゃ、狩りに行くか」
「行こか!」



(終)

(皆さんありがとうございました。では)

すまん、
>>185の後ろに追加してくれ。完全に頭から抜けてた
「あのクソ野郎は何がどうしてこうなった。お前はいいとして、なんでクリスタなんだ」
「ああ、ライナーかい?
 彼は最初、僕がいろいろと説明したんだけどね、自分が人間だと言い張ってやまなかった。
 騙そうとしてるんじゃなく、心の底から人間だと信じ込んでいたようなんだ。
 だから最初は苦労したよ。アニを呼んでようやく、自分が巨人だってことに気付いてもらえた。
 アニから聞くまで、まさか鎧の巨人だとは思ってなかったけどね」
「ん……じゃあ聞くが、どうしてベルトルなんとかはずっと捕まったままだったんだ?
 あの無口女がバラす前から、疑いがかかってたのか」
「そりゃ、匂いだね。しかも、アニが言う前から……超大型の疑いがあった」
「は?」
「それも匂いだ。エレンが、蒸気の匂いを覚えていたんだ」
「頭おかしいんじゃねえか……それで、何でクリスタなんだ」
「ライナーが求めているからさ」
「は?お前もか」
「うん」

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