阿良々木暦「まことネレイス」 (65)
・化物語とアイドルマスターのクロスです
・化物語は終物語(下)まで。細かいネタバレ等あるので気になる方はご注意を
・化物語の世界から約五年後の設定です
・アイドルマスターは通常運転
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阿良々木暦「ちはやチック」
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001
菊地真を巻き込んだ諍いを綴るその前に、おこがましくも矛盾、という言葉について稚拙ながら語ろうと思う。
矛と盾。
中国の故事成語だが日本人で中学生以上ならば誰でも知っている程有名な言葉だ。
何でも貫ける矛と何物も通さない盾、果たしてどっちが強いのか――。
一休さんを連想させるような話だが、要するに二律背反を端的に現した言葉だ。
人間は誰であれ矛盾を孕んで生きていることは間違いないだろう。
と言うより、現代においては矛盾が無ければ許されない、という風潮さえ強く感じる。
あの全てにおいてすべからく完璧である羽川さえ、その根本には大きな矛盾を抱えていたのだから。
日本において最早標準語の地位を得てしまったツンデレだって、突き詰めてしまえば矛盾だ。
好きなのに冷たくしてしまう。
社会に反抗的なヤンキーが雨の日濡れた仔猫を助ける。
清楚で真面目な委員長が実は小悪魔なギャル。
いかつい身長二メートルの柔道部エースの趣味が裁縫とお菓子作り。
悔しい、でも感じちゃう。これは違う。
極端に表現してしまえば、いわゆるギャップ萌えである。
少量の矛盾はむしろ好意的なものとして受け取られるいい例だ。
完璧なものは美しいが、親しみは感じられないからであろう。
羽川のような完璧超人並の完成された人間はそれ故に近寄りがたく、実際羽川は周囲から尊敬され、崇拝され(主に僕に)、慕われてはいるものの、親友と呼べるほど身近な人物はそれこそ片手で数えるほどしかいない。
あまりにも完璧なものは、畏れの対象になりかねない。
何でもかんでも萌え萌えの現代において、神が全能すぎて神様萌え、とならないのと似ていると言える。
分かり易い例を挙げると、今や日本一有名な五人組男性アイドルグループは当初、『隣に住む気さくなお兄さん』をコンセプトに組まれたらしい。
また、今も一世を風靡し続ける大量量産アイドルチームも、コンセプトは『出会えるアイドル』だ。
僕は日常生活で会ったことないけれど。
何物も寄せ付けない程に美しいアイドルよりも、多少平凡で、親近感の湧く方が支持される傾向にあることがここから窺える。
アイドルの本来の意味は偶像崇拝、であるにも関わらず、だ。ここにも矛盾は存在している。
大仰なことを言えば、矛盾は現代において欠かしてはならない要素の一つとも言えるのだろう。
しかし、人間の本質的に矛盾は無い方が良しとされる。
矛と盾の故事のように、互いが互いを完全否定するものは許されないのだ。
恋愛に例えると、好きだから相手を殺す、となれば究極の愛情表現かも知れないが、一般的には限りなくノーだろう。
核爆弾の存在を全否定する国が大量虐殺兵器を開発するようなものだ。
一体全体、何をやりたいのかわからない。
つまり、僕が何を言いたいのかと言うと、矛盾には許容されるものとされないものがあるということだ。
それは単純に程度の違いで括られるものでしかないのかも知れないが、それこそ全要素を問わずに矛盾は矛盾として適用されるのだ。
そして本題。
今回の主役。
菊地真 。
彼女には、日常的に、恒常的に願っているひとつの願いがある。
『女の子らしくなりたい』。
と。
それは少女として珍しくもない願いだ。
可愛くなりたい。
キレイになりたい。
白馬に乗った王子様に迎えに来てほしい。
世間に流布する女の子の夢の代表格と言っても過言ではない。
彼女もまた年頃の少女だということを鑑みれば、至極当然の望みと言えよう。
女の子なのに『女の子らしく』とは、言葉だけ見れば矛盾に該当するのかと言えば僕は違うと思う。
女の子が可愛くあろうとするのは全男性が肯定するところだ。
そこに異存は全くない。
現代において男が主に責任という形で男らしくあろうとするように、女は自らの魅力を磨き生物としての価値を高める。
男女差別を連想させる表現になってしまうが、女を生物学上のいち個体として考えた時、根本にあるのは、女は繁殖と言う大役を背負うが為に、基本的に生物として男より弱いのだ。
ちなみに僕は男女平等という言葉が大嫌いだ。
元から違うものを平等にしたら、両方とも何処かで割を食うのは目に見えている。
まあ、世の中を探せば影縫さんや火憐ちゃんのような男も顔負けどころかノックアウト負けな女性もいるにはいるが、いくら女性優位の世の中になろうが世の理としてそれは変わらない。
だから女は別の形で存在意義を主張しなければいけない。
その中のひとつが、可愛く在る、ということだと僕は考えている。
だが、それは許されなかった。
あろうことか、彼女自身によって。
002
僕、こと阿良々木暦は仕事をしていた。
社会人たる者、日々勤労に身を窶すべし。
特に今日は音無さんがお休み、秋月は竜宮の付き添いで外出中なのだ。
僕が微力ながらも仕事を片付けておかなければまた休日出勤の落ち目に遭ってしまう。
休日出勤は嫌だ。
学生時代の大半を落ちこぼれとして過ごした僕ではあるが、決して怠惰ではない、と自認している。
だから働くこと自体は嫌いではない。
だが、要はモチベーションの違いである。
本来休みの日に働くなんてテンションが下がること甚だしい。
……とは言え、芸能界なんて休みなど無いに等しい上に765プロは人員不足なので、ほぼ毎週休日出勤しているのだけれど。
その分お給料はいいので良しとしておこう。
大人の事情だ。
僕も大人になったからには存分に大人の事情を使わせてもらおう。
僕は割と現実主義者なのである。
一日二十時間労働だろうと、それに見合う報酬があれば良し。
さて、とっととノルマくらいはこなしてしまおう。
「プロデューサー、プロデューサー! 見てください!」
と、勤労意欲に火を灯そうとした瞬間、水を掛けられたが如く僕は背後から菊地に声を掛けられた。
菊地真。十七歳。
僕の担当するアイドルであり、『王子様』の二つ名を持つボーイッシュな少女。
今や髪を伸ばしてめっきり女性らしく変態、いや変身した神原駿河だが、出会った当時の彼女に菊地は非常に似ている。
誰が誰に似ているという表現は失礼にあたるかも知れないが、それでも似ていると言わざるを得ない。
髪型、スポーツ少女、 活発な性格。
性的嗜好は神原が常軌を逸しているのでそこだけは違うが(同じだったら大問題だ)、その他の部分はかなりの割合で相似している。
類稀なる細く均整の取れたスタイルは、僕がかつて健康美の女神と称した神原の裸に匹敵するのでは、と予想している。
まぁ、無論菊地の裸を見たことはないのであくまで予想だが。
その上プロダクション内で健康優良児なる言葉が我那覇と肩を並べて似合うであろう彼女は、火憐ちゃんと同じくして空手を嗜んでいる(火憐ちゃんのあれを空手と呼んでいいのかは甚だ疑問だが)上に、生涯、斧乃木ちゃん以外に会うことはないだろうと思っていたボクっ娘である。
しかも斧乃木ちゃんは童女だからまだ性差が薄いと理由で片付けられるが、菊地は十七歳だ。
ボクっ娘女子高生。
メガネ三つ編み委員長、ロンスカスケバンに並ぶ絶滅危惧種である。
超萌える。
激蕩れだ。
要約するに菊地は『王子様』の呼称からも見て取れるよう、カッコいい女の子、だ。
僕は菊地の呼びかけに仕事の手を止め、振り返る。
「なんだよ菊地、僕は今仕事中で――」
そこには、その王子様が、
「らぶらぶずっきゅん☆
ラブリーエンジェル菊地真ちゃんなりよ☆」
ヒラヒラフリル!
ショッキングピンク!
ミニスカート!
「きゃっぴぴーん☆
プロデューサーもきゅんきゅんさせちゃうぞぉ?」
「…………」
ふわふわ!
きらきら!
きゃぴきゃぴ!
「ま、真ちゃん……」
いけない、一瞬気を失いかけた。
そう、あえて形容するならば――魔法少女のような服だ。
今にも僕と契約して魔法少女になりそうだ。
ウェヒヒヒとか笑いそう。
いや、どちらかと言えばジャンクフード中毒の赤色――いや、菊地の場合は水色か?
ああ。
久し振りに八九寺に会いたいなあ。
元気かなあ。
今度会ったらいっぱい色んなところをペロペロしてやろう。
ベロベロだといやらしいけどペロペロだとそこはかとなく可愛く感じるのは僕だけだろうか。
……いかんいかん、現実逃避をしている場合ではない。
斜め上どころか四次元方向からの攻撃に一瞬意識が飛んだじゃないか。
ほら、萩原も驚いてるよ!
わけがわからないよ!
「菊地いいいいいいいいいいいいいいい!」
「ふえっ!?」
ふえ、とか言いやがった。
萌えるぜ。
だが今は萌えている場合ではない!
燃える場面だ!
燃えるプロデューサーさんだ!
「お前、誰に脅されてるんだ! ?
ストーカーか!? あ、961プロか!?」
「え、ええぇ?」
「ちくしょう! 僕がついていながらお前にそんな思いをさせてしまうなんて!」
「ちょ、ちょっとプロデューサー?」
「くっそおおおお!
こうなったら今すぐ961プロの奴らを凌辱してやる!」
「凌辱!?」
「待ってプロデューサー! 待って待って!」
「なんだ、僕は奴等の尻にキュウリを突き立てる為に八百屋に行かなければならないんだ」
「やめてください!」
食べ物を粗末にしないでください、と魔法少女こと菊地が僕を止めた。
だがそんなことで止まる僕ではない。
「キュウリって漢字で書くと胡瓜と書くんだが、南瓜といい西瓜といい冬瓜といい、日本人は瓜が好きなのだろうか」
「別に好きって訳じゃないでしょうけど……」
「へちまも糸瓜って書きますしね」
そもそも食用となるウリ科の植物を単にわかりやすく漢字にしただけらしい。
僕としては南瓜ってウリ科に見えないけど。形的に。
「そろそろ新しい瓜のついた漢字が産まれてもいい頃じゃないか?」
「ウリ科……メロンとかですか?」
「メロンか……女の子のように甘く繊細な味わい、という意味合いで『女瓜』と書きたいところだが、既にメロンという漢字はあるんだ」
「そうなんですか?」
「甜瓜って書く」
「へえ、プロデューサーは物知りなんですね」
萩原が柔らかく微笑む。癒されるなあ。
それに話が合いそうだ。
「とにかく、変なことはしなくていいですから」
「むう」
ふむ、確かに食べ物を粗末にするのは良くない。
お百姓さんに申し訳ないしな。
「じゃあトーテムポールにしよう」
「同じです!」
「だったら僕は何を奴等の尻に突き立てればいいんだ!」
「なんでそんなにお尻にこだわるんですか……」
と言うかトーテムポールってどこで売ってるんだろう。
ロフトか?
ともかく、と菊地が溜息をつく。
「この服はボクが好きで着ているんです。誰かに脅されたとかそういうんじゃありませんから」
「なに? そうなのか?」
「真ちゃんはこういう服が好きなんですよ」
それは意外だ。
ああいや、そう言われてみれば時々王子様よりお姫様がいい、とかカワイイ服が着たい、とか愚痴っていた気がする。
菊地の外見上、そういう仕事はあまり――というかほとんど無いのだけれど。
似合っているかどうかは別問題として、好きで着ているのならば問題はない。
誰も凌辱せずに済んだ。
――ならば、僕がやるべきことは一つしかない。
「ヒューっ!
超絶カワイイ! まーこりーんっ!」
「いぇーい! ありがとーっ!」
「結婚してくれーっ!」
「それじゃあいくよ? せーのっ!」
「まっこまっこりーん!!」
「ぷ、プロデューサー……」
煽りまくりだ。
僕も菊地もノリノリである。
萩原がちょっとどころではないレベルで引いていたが、気にしないでおこう。
こういうのは気にしたら負けだ。
「えへへー、やっぱりカワイイ衣装はいいですね!」
「ウン、カワイイアルヨ」
アイドルのモチベーションを上げるのはプロデューサーとしての重要な仕事なのだ。本当に。
「……なんでカタカナで?」
思わず呪泉郷のガイドみたいな喋りになってしまったがそこは許して欲しい。
何せ菊地にふわふわフリルの魔法少女ルックスは、正直言って似合っていないのだ。
魔法じゃなくて暴力で悪を倒す感じ。
格闘系魔法少女。
マジカルグラップラーだ。
魔法の力で身体能力上げたりして。
ある意味斬新だが似合ってないことに変わりはない。
青とか緑とかのクール系統の色ならまだしも、今菊地が着ているのはピンク色なのだ。
かの初代のスポーツ魔法少女でさえ黒だったのに。
「うーん……確かに可愛いことは可愛いんだが……」
「似合いませんか……」
「で、でも真ちゃんは誰よりもカッコいい服が似合うよ!」
萩原が落ち込みかけている菊地にフォローを入れる。
が、全くもってフォローどころか止めを刺したようなものだ。
「う、うぅ……」
「ま、まぁ……ドンマイ?」
「なんで疑問系なんですかぁ!」
似合わないことは本人も多少は自覚していたらしい。
まぁ、そうだよな。
自分の顔なんて毎日見るものだし、ましてや菊地はアイドルだ。
同年代の女の子より自分の容姿については把握している。
でも、それほど着たかったということだ。
菊地はそれほどに可愛い衣装を着てみたいと願っている。
これは男としてプロデューサーとして、そういう仕事を頑張って取って来るしか無かろう。
……僕の営業能力で可能かどうかは別として。
「はぁ……こんなことならいっそのこと男として産まれて来れば良かったのかな……」
「真ちゃん……」
「あまり落ち込むなよ菊地、僕もなるべくそんな衣装が着られるような仕事を取って来るからさ」
「……はい」
「それに菊地が女の子だって事は僕が保証するよ」
「プロデューサーに保証されなくてもれっきとした女の子です!」
鬱雲をまとう菊地をよそに僕の携帯が鳴った。
悪い、と菊地達から離れ、こちらに来てから機種変したスマホの画面を見る。
『神原駿河』
「…………」
無言で切った。
が、すぐにまたかかってくる。
神原のことだから無限にかけてくるのは目に見えるので、観念して通話ボタンを押した。
僕に絶対服従に見えて意志は強い奴だ。
一度決めたことは余程のことが無い限り覆さない。
強い意志を僕への電話ではなく、ぜひ別方向に向けて欲しいものだが。
「お掛けになった電話番号は、現在お前のような百合で露出狂なスポーツ女に対しては使われておりません。もう一度電話番号をお確かめの上、かけ直さないで下さい」
『よう阿良々木先輩、久し振りだな!』
遠回しに見えて超直接的な拒絶はまるで通用しなかった。
神原のメンタルはプラチナキング並に硬いのだ。
『しかし流石は阿良々木先輩、久方振りの通話だと言うのに私を楽しませようといつでも遊び心を忘れない懐の大きさには感服するばかりだ。しかもその切れ味は一向に衰えない、いやむしろ壮絶な進化を現在進行形で遂げているな!』
「……僕は仕事中なんだ」
僕はお前に少しは進歩してほしいのだけど。
主に社会人である先輩への心遣い、という点で。
『阿良々木先輩が仕事中なのは重々承知の上だったのだが、実は少しばかりピンチに陥ってしまってな』
ピンチ?
「大丈夫なのか?」
『なに、大したことはない。もう少しで処女を失うところだった程度だ』
「大事件じゃねえか! 絶対大丈夫じゃないだろそれ!」
『実は休日を利用してサプライズで阿良々木先輩に会いに行こうとしたのだが、都会は不慣れなので迷っていたのだ。そしたら優しそうなおじさんに道を教えてあげる、と声を掛けられてビルに連れ込まれ、脱げと言われた』
「知らない人にホイホイついて行くな!」
『あっはっは、都会は怖いなあ!』
「笑い事じゃねえ!」
僕に会いに来て処女を失うとか重すぎるわ!
僕がひたぎに殺される!
『まあ、結局は脱いだのだがな』
「脱いだのかよ!」
『まぁ聞いてくれ、下着姿になったところで聡明な私は気付いたんだ。もしやこいつらは不貞の輩なのでは……? とな』
「そんなもん脱げと言われた時点で気付け!」
聡明どころか自明だよ!
『と言うわけで不貞の輩の急所に一撃入れて逃げて来たのだが、服を忘れてしまってな』
急所……どこに一撃入れたのだろう。
神原も火憐ちゃんに護身術らしきものを習っていると聞いたから、その相手が死んでいなければいいが……。
神原のポテンシャルと火憐ちゃんの格闘術を鑑みると想像するのも恐ろしい。
聞かないでおこう。
「って事は神原、お前、今……」
『うむ、公衆の面前で下着姿だ。困ったこととはその事だ』
僕の後輩が!
僕に会いに来て!
ストーリーな王様で捕まってしまう!
『ああいや、私とて警察の世話はごめんだから、公衆便所に隠れているんだがな』
神原にも一応、世間の目という常識は存在したらしい。喜ばしいことだ。
しかしどっちにしろ時間の問題だな……。
どうやら僕に選択肢はないらしい。
いや、見捨てるって選択肢はあるにはあるんだけど、ひたぎや羽川という二次被害の方が酷そうだ。
とんだサプライズだよ。
「……どこだ、迎えに行ってやる」
『恩に着るぞ、阿良々木先輩……場所は――』
幸運にも近い場所だった。
薄幸な神原にしては珍しい、と皮肉を言ってやりたいところだが、今回は僕の身も危ないから助かる。
「十分で行く、引き籠ってろ。絶対外に出るなよ!」
『それはフリか?』
「違う! 大人しくしてろ!」
『わかった、全裸で待っているぞ』
「全裸だったら事の顛末を全部お祖母ちゃんにチクるからな!」
言い捨てて通話を切った。
神原のお祖母ちゃんはガンダニウム合金並の精神を持つ神原に通用する数少ない切り札なのである。
お祖母ちゃんお祖父ちゃんっ娘だから。
さて。
行く前に神原に持っていく服を調達せねばなるまい。
「菊地、萩原」
「あ、プロデューサー。電話なんだったんです?」
「ああ、実はちょっと出掛けなければいけなくなっちゃってな」
「そうなんですか? じゃあお留守番してますよ」
「頼む……ついでと言っちゃ何だが、もう一つ頼みがあるんだ」
「なんですか?」
「私たちに出来ることでしたら……」
「――服を脱いでくれないか」
003
「世話を掛けた、阿良々木先輩」
「全くだ、もうちょっと自分の身を大事にしてくれ」
「私一人の体ではない、と?
大胆だな阿良々木先輩」
「そんなことは一言も言ってない」
奇跡的にも神原は言いつけ通り下着姿で待っていた。
人目の少ない公衆トイレとは言え、女子トイレに某有名な蛇のごとく侵入した僕の気持ちを察して欲しい。
「ところでこれは誰の服なのだ?
見たところ、買ってきたものではないようだが」
「ああ、職場の女の子が貸してくれたんだ」
「職場? そう言えば聴きそびれていたが、阿良々木先輩はなんの仕事に就いたのだ?」
「あ、あれ? 言ってなかったっけ?」
無論、神原には教えていない。
と言うか知られるわけにはいかない。
なんせ割と冗談抜きにうちのアイドルたちの貞操が懸かっている。
「聞いていない。教えてくれ」
「しがないサラリーマンだよ、営業やってるんだ」
嘘はついていないからいいはずだ。
アイドルのプロデューサーと言えどサラリーを貰っている以上はサラリーマンに違いない。
「怪しいな……普通の会社に女子高生がいるのか?」
え?
なんで女子高生ってわかったの?
僕言ってないよね?
「おいおい阿良々木先輩、女子高生ならば服の匂いでわかって当然だろう」
「そんな当然があってたまるか!」
僕がおかしいみたいな顔するな!
「淑女の嗜みだ」
どんなスキルだよ!
全然貞淑じゃねえ!
ちなみに神原が脱ぐ脱ぐ言うから菊地と萩原に服を借りるときに言い間違えてしまった。
正確には服を貸してくれ、だ。
結果としては菊地が快く貸してくれたのだが、怯えた萩原の誤解を解くのに時間が掛かってしまった 。
「何か隠しているだろう、阿良々木先輩」
「そんなこと……あ」
「やあ、おはよう阿良々木君」
どうやって神原を言いくるめようか考えていると、出勤してきた高木社長と鉢合わせた。
いいなぁ重役出勤。
「おはようございます、社長」
「うむ、そちらの女性は?」
「初めまして。私、阿良々木さんの後輩で神原駿河と申します」
「これはこれはご丁寧にどうも。いやあ、美人な方だ」
流石の神原も初対面の目上の人間に対してはきちんとしているようだ。
体育会系だし、当たり前と言えばそうか。
「てっきり阿良々木君が新しい子をスカウトしてきたのかと思ったよ」
「スカウト?」
あ、やばい。
「いえ、ちょっと彼女がトラブルに巻き込まれてしまいまして……勤務中にすみません」
「いいよいいよ、困った時はお互い様だ」
「では僕は彼女を送り届けて勤務に戻りますので……」
僕は忙しいんですオーラを全力で出しながら去ろうとしたが、
「神原さんと言ったね。ティンと来た!
どうだい、ウチでアイドルやってみないかい?」
「……アイドル?」
僕のアイドルを守ろうと必死で行った努力は、皮肉にも組織のトップにより瓦解したのであった。
004
「初めまして、アイドルの皆さん。神原駿河、得意技はエアハイクだ!」
「二段ジャンプできるのか……」
道理でその身長でダンクがかませる訳だ。
火憐ちゃんも出来そうなイメージがある。
事務所に戻ると、菊地と萩原に加え高槻と水瀬、双海姉妹が来ていた。
なんだか平均年齢に神原の執念を感じざるを得ない。
だがまぁ、ここは犠牲者候補が素直に減った、と考えておこう。
ポジティブでもなければやってられない。
「こんにちは、菊地真です!」
「は、萩原雪歩……です」
「初めましてーっ! 高槻やよいですっ!」
「水瀬伊織よ」
「双海真美だZE!」
「双海亜美だYO!」
「あぁ……っ! 可愛いなぁ……可愛いなぁ……!」
恍惚とした表情で涎を垂らしている変態がそこにいた。
っていうか言うまでもなく僕の後輩だ。
「あ、阿良々木先輩、どこまでなら許される?
Bか? Dまで行っても構わないか?」
「何も許されねえよ!」
そもそもDってなんだよ!
「ね→、がんばるお姉ちゃん、兄(C)ってどんな先輩だった?」
「おい、真美ちゃん……」
それに頑張るじゃなくて神原だ。
「阿良々木先輩はそれはもう素晴らしい先輩だったぞ」
「そうなの?」
「ああ! 学校では僅か一年の付き合いだったが、阿良々木先輩が男の友人と一緒にいるのを見たことがない」
「お前は僕を貶めに来たのか!?」
「『直江津高の一匹人間』とは何を隠そう阿良々木先輩のことだ」
なんだよ一匹人間って!
それって要はぼっちじゃねえか!
「違う違う、阿良々木先輩は女性にもてもてだったぞ、と言いたいんだ」
「絶対嘘だ!」
「うわぁ……」
「兄(C)……」
「かく言う私も実は愛人二号だったのだ」
「最低ね……」
「うっうー……」
信頼が!
僕が必死で半年かけて培った信頼が音を立てて崩れていく!
「ははは、冗談だ。
確かに女子の友人は多かったが、信頼は誰よりも篤く受けていた。
私も、阿良々木先輩が死ねと言えば死ねるくらいには信頼している」
「ふうん……」
アイドルたちが疑惑満々の眼で僕を睨んでいる。
悲しすぎる。貝になりたい。
「ともかく、とても頼りになる先輩だ。私は心から尊敬している」
「ま、いざと言う時にはちょっと頼りになるものね、コイツ」
「ありがとう水瀬……」
「ふんっ! ちょっとよ、ちょっっっとだけ!」
「はいは→い!」
「はい、亜美ちゃん」
「兄(C)の青春について知りた→い!」
「あっ、真美も→!」
「いっ!?」
本音のところ、ひたぎのことはあまり知られたくないのだ。
独占欲とかではなく、教育的側面という意味でも。
高校三年生の時分に見事更生を果たしたひたぎではあるが、その毒舌もとい悪舌は出現頻度こそひどく下がったものの、切れ味は増している。
あまりアイドル達に会わせたくはない。
ひたぎの事だからアイドルのプロデューサーなんて仕事はやめて、とは絶対に言わないだろうが、皮肉は存分に言われそうだ。
その後、神原も言いくるめて誤魔化すのに一時間を要したのであった。
そして定時になり、神原と共に家路に着く。
僕が仕事をしている間、神原にはアイドル達の面倒を見てもらっていた。
時々、自分の頬を張ったり壁にヘッドバットをしていたのは、自制していたのだろう。
アイドル事務所は神原にとって天国であると同時に鬼門だ。
ちょっと不憫だったが自業自得である。
「重ね重ね礼を言う、阿良々木先輩。
突然押し掛けた上に寝床まで提供してもらって」
「いいよ、お前が野宿なんかしてまた変な奴に絡まれたら、僕がひたぎに怒られちまう」
「しかし阿良々木先輩も人が悪い。
なぜ私にアイドルのプロデューサーをやっていると教えてくれなかったのだ」
「自分の胸に手を当ててみるんだな」
胸を揉まれた。
目にも止まらぬスピードだった。
「うむ、いい感触だ。流石は阿良々木先輩」
「誰が僕の胸を揉めと言った!」
「可愛かったなあ、あの子たち……持ち帰りたいくらいだ」
「当たり前だ、僕の自慢のアイドルたちだからな」
アイドルのプロデューサー。
半年前の事件によってなし崩し的に就いたこの職ではあるが、今は自信を持って言える。
僕はこの仕事に誇りを持っている。
仕事なんで寝ます。
明日中に完結させる予定です。
005
次の日。
「う……ん」
けたたましい着信音と共に携帯が鳴る。
画面には『阿良々木月火』と表示されていた。
「もしもし……」
『朝だぜ姉ちゃん! 起きろよ!』
『朝だよお姉ちゃん、起きなきゃいけないよ』
姉ちゃん……?
新しい芸風か?
「ん……なんだお前ら、風邪引いたのか? 声変だぞ」
『何言ってんだ、元気バリバリだぜ!』
『何言ってるんだよ、元気いっぱいだよ』
電波でも悪いんだろうか。
いつも通り妹達に起こされ目が覚める。
あいつらは離れても電話で起こしに来る。
真に遺憾ながら僕を起こすことが生涯のライフワークだと二人の中で決定してしまったらしい。悲しいことだ。
「ん、んん、あー」
妹たちへの対応もおざなりに身を起こす。
そう言えば僕の声も変だ。
風邪でもひいてしまったか。
「ああそうだ、神ば……ら……!?」
さすがに女性を床で眠らせるのは気が引けたので神原には僕の布団で眠ってもらったのだが(僕はソファーで寝た)、神原が寝ていたはずの布団には、
「すぅ……すぅ……」
「……!?」
見知らぬ男が、静かに寝息を立てていたのである。
かなり背の高い、美形の男だ。
それはハンサムという言葉がまるで彼のためにあるかのような造形の美しさだった。
「だっ、誰だ!?」
「ん……?」
男は眠そうに胡乱げな目をこすり身を起こすと、僕の姿を確認しにっこりと笑った。
貝木あたりとは正反対の、爽やかで気持ちのいい笑顔。
正常な女の子であればその笑顔だけで落とせてしまいそうなほどだった。
そして、
「おはよう、阿良々木先輩」
と、あろうことか僕の名前を呼んだのだった。
「お前……何者だ? 神原はどこだ!?」
「……? 何を言っている、阿良々木先輩……。
俺が神原駿河だ、寝惚けているのか?
……いや、崇高な阿良々木先輩のことだ、起き抜けの俺を試しいつもとは一味違う朝を演出しようとしていたに違いないな」
顔立ちも、仕草も、その過剰な物言いも、神原そのものだった。
ただひとつ、女性ではないと言う点だけを除いては、彼はこれ以上ないほど神原駿河だったのである。
「今日も相変わらず美人だな、流石は阿良々木先輩だ。胸を触ってもいいか?」
美……人……?
……まさか。
僕は脇目も振らず洗面所に向かい、鏡と向き合った。
そこに映っていたのは、ロングヘアーの僕そっくりな女性。
胸元に感じる違和感。
つまり、そういうことらしかった。
006
「ふむ、要するに阿良々木先輩は実は男で、俺を含め全員の性別が逆転している、と?」
「ああ、そうだ……」
神原に事情を話すと、思いの外素直に話を聞いてくれた。
そして、この世界での事情も全て教えてくれた。
どうやらこちらの世界でも僕は同じように吸血鬼となり、ひたぎや羽川や八九寺、神原に千石と――男性の『彼ら』と、怪異を通じて知り合ったそうだ。
そして現在はひたぎと付き合っている――唯一の相違点は、性別だけ。
こちらの神原も少し前まで左腕に怪異を宿していただけあってか、容易に僕の荒唐無稽な話を受け入れてくれた。
「阿良々木先輩の言うことだ、信じざるを得ないな……俺は、ずっと男として生きてきたが、そちらでは女なのか」
「ああ、他の部分は全て一緒だ」
しかしこいつ、でかいな……見上げないと話も出来ない。
僕もバスケをやっていたらこれくらいになっていたのだろうか、と思うと過去の僕に是非ともバスケを勧めたい。
ん?
ちょっと待て。
逆転しているとなると、百合の神原は……!
「 ん? どうした阿良々木先輩、腐女子がBL禁止令を喰らったような顔をして」
「お前、まさか、男でもひたぎのことが……」
「無論だ、俺は薔薇なのだ」
いやあああぁぁぁ!
百合ならまだ辛うじて百歩譲って許せたのに!
同性愛に偏見がある訳ではないが、女同士と男同士、どう考えても女同士の方がマシに見えるのは僕だけじゃないはずだ!!
「ああいや誤解するな、百合も好きだし俺はタチ専門で可愛い子にしか興味がないからな」
「誤解の意味わかってるのかお前!?」
「安心しろ、阿良々木先輩は俺の好みだぞ」
「安心する要素がひとつもない!」
「本当は忍ちゃんがストライクなのだがな」
「忍にまで魔手を伸ばすな!」
……ん?
「そうだ、忍、忍!」
ふと思い立ち 、自分の影に向かって叫ぶ。
しばらくの後、影から少年がにゅるりと顔だけで出てきた。
金色のストレートの短髪をふわりと棚引かせる、美少年だった。
少年の姿でこの分ならば、全盛期の吸血鬼の姿なら途轍もない美青年だろう。
「なんじゃ、うるさいのう……」
朝一番に起こされたから、恐らく寝たばかりなのだろう。
これ以上ないほど不機嫌そうだ。
「おお、おなごのお前様も中々のもんじゃの。かかっ」
「笑い事じゃないだろ……」
「久し振りだな、忍ちゃん」
「ん? 猿の……こちらでは男か。
ぬしとも決着はつけんとのう」
「気持ちは解るが僕に免じて今度にしてくれ」
「ま、仕方ないの。どうじゃ、我があるじ様に現状を説明出来るか?」
「それは無理だ。俺はそもそも、本当に阿良々木先輩がこちらの住人でないのかどうかも断定できていない」
阿良々木先輩の言うことは信じるけどな、と付け足す神原。
確かに、元から世界はこの状態で、僕がおかしいという線も否定できてはいないのだから。
「やれやれ、面倒じゃのう……」
ん、と影から出て背伸びをし、後でドーナツ十個じゃからな、と付け足すことも忘れない。
「結論から言えば、この世界は何らお前様を含めた森羅万象に影響を及ぼすことはない」
「え?」
「倒海牛」
「さかさうみうし?」
「非常に特異で例外的な怪異じゃ。
怪異にしか感知出来ぬ怪異、とでも言おうかの。
世界ひとつを歪める程の力は持っているが、基本的に人畜無害じゃよ」
「さっきから無害を強調してるけどさ、僕がこうなっている以上は……」
「話は最後まで聞かんか、たわけ。
倒海牛の起こすこの現象は一日で終わるし、誰も覚えておらん。
明日になれば皆元通りじゃ」
「は?」
「倒海牛は人の願いを叶える。
性同一性障害、というやつだったかの?
兎も角、女でありたい男と、男でありたい女の願いを一日だけ叶えるんじゃ」
女になりたい男。
男になりたい女。
それこそ相対するものになりたいという矛盾の極みだが、わからなくもない。
僕だけに限らず、誰だって生涯で一度くらい異性なってみたいと思うことはあるはずだ。
「だが、それも一日だけ。
感知出来るのは儂やお前様のような怪異と願った本人のみで、人間は元からそうであるように、何の違和感も持たず仮初めの一日を過ごす。
取り立て大きな害もない、頻度も儂が知る限り百年に一度程度。
ただ一日だけ雌雄を入れ替える……それだけの存在じゃ。
儂ら怪異は性別の概念が薄いせいか、自覚は保てているようじゃがの」
僕も中途半端とは言え、怪異のようなものだ。だから、意識出来ているらしい。
と言うことは……羽川も怪異を精神に宿す、という意味では自意識を保っているのだろうか……。
男羽川。
男委員長。
「…………」
と、タイミングを図ったかのように着信があった。
羽川からだ。
相変わらず僕の動向を全て把握しているようなタイミングだ。
「……もしもし」
『あ、阿良々木くん? やっほー』
「やっほー……」
やはり、男の声だ。
そして『阿良々木くん』ということは、羽川もこの異変を認識出来ているようだ。
『何だかおかしなことになってるね、阿良々木くんも女の子になっちゃったみたいだし』
「ああ、羽川以上のボインだぜ」
ウソだ。実際、今の僕の胸部はせいぜいCカップがいいところだ。
男が女になったら一度は絶対にやるであろう、自分の胸を揉むという行為を先程やってみたのだが、どうやら人間は自分の身体には欲情できないように出来ているらしい。
想像以上に柔らかかったが、それだけだった。
僕はここに例の『二の腕とおっぱいの柔らかさは酷似している』という噂は虚偽だったと申告しておこう!
二の腕とおっぱいじゃレベルが違う。
どのくらい違うかと言うと仮面ライダーとライダーマンくらい違う。
二の腕は偽物だ。
『ライダーマンは改造されていない人間なんだよね』
「僕の心を読むな!」
『阿良々木くんのことだから自分のおっぱいを揉んだりしたんだろうな、って思って』
「…………」
見透かされていました。
『それで、この状況はなんなの?
心当たり、ある? 私も協力しようか?』
「いや、心当たりはないけれど忍曰く、害はないみたいだ。
明日になったら戻るし、今日一日を異性として過ごすだけでいいってさ」
『そっか、ありがとう。起きたら男になっててビックリしちゃったよ』
そりゃあびっくりするだろう。
男が女になるよりも、女が男になる方がショックはでかい気がする。
「たぶん、身内でこの状況を認識出来ているのは僕と羽川と八九寺……あとは斧乃木ちゃんくらいだと思う」
『つまり怪異そのものか、怪異を身体に持つ人間ってこと?』
「ああ、今神原が傍にいるが、かつて怪異を宿していた、では認識出来ないらしい」
『ふうん……じゃあ、一日だけ男を満喫しよっかな』
「僕もそうするよ」
『あ、女になったからっていやらしいことしちゃ駄目だよ、阿良々木くん』
「する訳ないだろう。僕を誰だと思っているんだ」
『…………』
羽川の呆れた顔が思い浮かぶようだった。
いや、もう自分の胸を揉んだんだけどね。
『それじゃあね、阿良々木くん』
「ああ、またな羽川」
と、羽川からの電話を切った瞬間に仕事用携帯に着信があった。
着信音はキラメキラリだ。僕、あの歌大好き。
直接、双海姉妹に生歌を録音してもらって着信音にした。
この世界では僕と一部の怪異を宿した人間以外は普通らしいので、動揺しないよう構えて通話ボタンを押す。
「もしもし、阿良々木です」
『プロデューサー! た、た、大変なんです!』
「どうしたんだよ、落ち着け」
『あ、朝起きたら男の子になってて!
雪歩も男の子で! でも雪歩は女の子じゃないって!
ボクは女の子ですよね!?』
「……落ち着け、菊地」
菊地真、17歳。
ボーイッシュが売りの女子高生アイドル。
彼女は、海牛に裏返された。
007
海牛。
かいぎゅう、と読むとジュゴンやマナティーを指し、うみうし、と読むと以下に記す軟体動物を指す。
腹足綱後鰓亜綱の軟体動物。
巻貝の一種であるが貝殻は退化、外見は蛞蝓に似ており、二本の触覚を持ち海中で海藻を主食とする。
そして最大の特徴は、蛞蝓と同じくして、両性具有体ということだ。
彼らには雌雄の区別がない。
彼らはオスでありメスである。
生殖も、二つの個体でどちらかがもう一方に行う。
「プロデューサーも女の子になってたんですね……」
「女の子って歳でもないけどな」
電話を受け近辺の喫茶店まで駆けつけると、菊地は酷く動転していた。
無理もない、突然性別が入れ替わっていたら誰でも驚く。
「プロデューサーは……その、なんでわかっているんですか?」
言いたい事は解る。
起床した菊地は動転し、765プロの全員に電話を掛けたらしい。
朝なので眠っていた者もいたが、軒並み男性となっており、
性別を逆だと認知出来ているのは菊地だけだった、と言う訳だ。
全員それが菊地の冗談だと受け取ってくれたのは、菊地にとってはともかく、不幸中の幸いだったが。
「菊地、これからの事は765プロの皆には基本的に黙っておいて欲しい」
「え?」
僕はコーヒーと共に注文したスコーンについて来たフォークを手に取ると、周囲の眼を確認し、手の甲に全力で突き刺した。
フォークの割れた部分が半分ほど刺さり、抜くと血が滲み出る。
「ちょ、ちょっとプロデューサー!?」
「見てくれ」
突然の奇行に驚く菊地に傷口を見せる。
「…………!?」
一分ほどかけて、傷口はゆっくりと閉じていった。
血も最初から無かったかのように消滅する。
「僕は高校三年生の春休み、吸血鬼になった」
高校三年生、春休みの地獄。
僕は鬼と出会い、鬼と遊び、鬼となった。
羽川と忍野メメの手により日常生活に戻ることは出来たものの、今もその後遺症を僅かながら遺している。
「き、吸血鬼……?」
「限りなく人間に近くはあるけれど、明確には人間じゃない……だから、こういう訳の分からない事態には慣れているんだ」
鬼に始まり、猫、蟹、蝸牛、猿、蛇、蜂、不死鳥――期間を空けて、魔王に雛鳥。
「僕らはそれを、怪異と呼んでいる」
「怪異……」
「急で、気持ち悪いかも知れないが、理解してくれ」
「いえ……ちょっとびっくりしましたが、大丈夫です」
菊地はこの異常事態に少し落ち着いたらしく、カフェオレを一口飲む。
「僕のこの体質を知っているのは天海と如月、秋月くらいだ。混乱を避けるために、出来るだけ黙っておいてくれ」
「はい……でも今は、心強いです……こんな、よくわからない事態で、わかってくれる人がいて」
しかし……。
「? どうしたんですかプロデューサー」
男になった菊地は少なくとも僕の眼には、元々中性的な菊地だから仕方ないとは言え、皮肉にも以前より女性らしく映っている。
倒海牛は菊地の願いを叶えた筈だ。
この状況を認識できるのは、性差の薄い怪異絡みと、願った本人。
まさか菊地が怪異を身体に宿している――なんてことは、ないと思う。
仮にも半年、プロデューサーとして彼女に接して来たのだから。
「菊地、ひとつだけ聞きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「今まで、こんな変な事象に関わったことって……無いよな?」
「無いですよ、こんなちゃらんぽらんな状況……」
心当たりがないのなら、とりあえずはいいか。
本人が気付かずに憑かれているという事例もあるが、それこそ疑い出したらキリがない。
「心配はないよ菊地、この現象は一日で終わる」
「ほっ、本当ですか!?」
「ああ、悪い夢だと思って一日過ごすんだな」
「はぁ……良かったぁ」
心底安心したのか、へたり込んで安堵の溜息をつく菊地。
こうなった事由は、話さない方がいいだろう。
出来る事ならば何も知らずに、今日のことは忘れてしまった方がいい。
「ところで菊地、ちょっと教えて欲しいことがあるんだ」
「何でしょう? ボクにわかることでしたら」
「ブラの着け方を教えてくれないか」
「……はい?」
待て、誤解しないで欲しい。
みんなの人気者・阿良々木くんは変態ではない。
いや、家にはあったのだ。下着と一緒に収納されていた。
でも着け方がわからなかった訳だ。
一日くらいブラ着けなくてもいいや、と考えた今朝の自分を殴りたい。
正直、していないと不安で仕方ない。
男で言えば、腰のゴムがゆるゆるのジャージにノーパンで歩いているようなものだ。
世の女性はブラなんて着けなければいいのに、と思っていた僕が愚かだった。
だが僕を含む女性ノーブラ推進派の諸君よ、考えてみて欲しい。
女性がノーブラになった時点で、男はまともに生活することが出来なくなるだろう。
何をするにもその先端突起に目が行ってしまい、男は行動の七割を制限される。
即ち、ブラが無ければ人類の大半は機能を大幅に落とし、いずれ絶滅するだろう。
「ブラは僕達を……いや、人類を守ってくれていたんだな……」
「いや、そんな悟った目で壮大な妄想をされても」
「そうそう、そう言えば菊地の下着って何色?」
「みず――ってさり気無く乙女の下着の色を聞かないでください!」
009
次の日。
「なんでだよ!」
「阿良々木先輩の言うことが妄言でなければ、こういう事なのだろうな」
僕はまだ女のままだった。
そして、恐らくは菊地も。
僕の動揺を悟ったのか、忍が影から出てくる。
「これはもう決定的じゃの」
「どう言うことだ、忍」
「そも、倒海牛は性同一性障害の人間の願いを叶える。だが件の男の娘は、そうではないのだろう?」
男の娘ってキミィ。
「じゃあ、元々菊地が原因じゃなかったって事か?」
「話は最後まで聞けい。今回考えられるケースは三つじゃ。
ケース1、偶然二日連続で倒海牛が願いを叶えた」
「それは可能性として薄そうだな」
「うむ、数十年、数百年に一度という頻度の異変が二回連続で起こるなど天文学的な確率になる」
「二つ目は?」
「倒海牛ではない、新種の怪異の仕業 ……だが、これも可能性としては有り得るが、ほぼ無いじゃろ。
あまりに似通い過ぎておる。習性が似ている怪異は星の数ほどおるが、全く同じものは一つとしておらん」
そんなもの存在する理由がないしの、と。
「ケース3、これが本命じゃ。願った張本人が倒海牛に願い続けておる」
「菊地が?」
馬鹿な、それこそ有り得ない。
だって菊地はあんなに可愛い女の子になりたいと願っていた。
「倒海牛の特徴として、願い続ける者には無制限に願いを叶え続ける。
一日で終わると言うのは、ほとんどの人間が一日で元に戻りたいと思うからじゃ」
「それ、おかしくないか?
願った人間にとっては異性になるのは本望なんだろ?」
「そりゃあ、自分だけならの」
「あ……そうか」
倒海牛は 、自分どころか世界中の性を逆にする。
もし好きな相手が同性だったのなら本末転倒だし、人間関係も大きく変化するだろう。
大半の人間は元に戻りたいと思うのは容易に想像出来る。
「阿良々木先輩」
と、神原が口を開いた。
「真ちゃんと会わせてくれ。
俺なら――なんとか出来るかも知れない」
010
765プロ事務所、応接室。
僕と神原が並んで座る対面に、菊地は座っていた。
「プロデューサー……」
思っていた通り、菊地は男の子のままだった。
自意識を持って今いる世界がおかしいと感じたまま。
目を伏せ、手を握り膝に押し付け、絶望にも似た表情を浮かべている。
とてもではないが、菊地が今の状態を望んでいるようには見えない。
「ボクは、この世界は、このまま元には戻れないんでしょうか……」
「菊地……話がある」
「……」
「菊地真ちゃん、一昨日会った神原駿河だ」
神原が真面目な表情で菊地に向き合っている。
対し、菊地は事務所に入ってきた時に軽く会釈をしただけで、相当気が張っているようだ。
「話は阿良々木先輩から聞いたよ。君の気持ちは――良く解るつもりだ」
「……」
「俺も昔は右手に怪異を宿していた。
雨の日の猿、レイニー・デビルと言う、あの有名な猿の手を」
僕が大学に入学してすぐ、神原の右腕は元に戻ったと聞いた。僕のニュービートルに乗せた、あの日だったらしい。
「俺には尊敬している先輩がいた。
戦場ヶ原ひたぎ先輩、阿良々木先輩の彼氏――いや、彼女だよ」
「……」
「俺と戦場ヶ原先輩は仲が良くてね、中学時代はヴァルハラコンビなんて呼ばれてた。
でも戦場ヶ原先輩は怪異に出会い、心を閉ざし、後を追い高校に入学してきた俺を拒絶した。
その一年後、阿良々木先輩と付き合っているのを見たのさ」
戦場ヶ原ひたぎは、蟹に行き逢い、周囲の人間全てを敵視するようになった。
偶然彼女の異常に触れた僕は忍野メメを紹介し、結果、彼女は蟹から解放された。
それが彼女の状況を大幅に変えた訳ではなかったけれど、結果として戦場ヶ原ひたぎという少女は救われる運びとなったのである。
「俺は戦場ヶ原先輩が好きだった。
なんで隣にいるのが俺じゃいけなかったんだ、女だったら良かったのか、とね。
そして嫉妬に狂った俺は猿の手に願ったんだ。阿良々木先輩なんて、死んでしまえばいいのに、と」
「……神原、それ以上――」
自虐をするなよ、と言いかけた僕を、視線で遮る。
「……お気遣いありがとう、だが大丈夫だ」
本人の望みを叶える悪魔の手。
神原は、心の底で僕がいなくなる事を願ってしまった。
猿の手はそれに応えたが、吸血鬼である僕を殺すのに手間取っているうちに、戦場ヶ原によって王手を掛けられたのだった。
「……っ!」
「結果は、醜い猿の右腕だけが残ったよ……何が言いたいかと言うとね、菊地ちゃん」
目を閉じ、静かに息を吸う。
「怪異に願って上手く行く、なんて事は有り得ない」
それは、神原がかつての自分を戒めているようでもあった。
神原はもう十二分に罰は受けた。今更僕がどうこう言う事じゃない。
「ボクが……この世界を望んでいるって言うんですか?」
「そうだ」
僕はきっぱりと断言した。
「菊地、お前は元の世界に戻り王子様と言われるくらいなら、こちらで可愛い男の子としてお姫様と扱われる方がマシだって思い始めている。
だからこの悪夢は終わらない」
「……!」
逆転した世界での菊地真というアイドルのコンセプトは、『お姫様のように可愛い男の子』だった。
だから、以前よりも女の子らしく『調整』されているのだろう。
僕は俯いたままの菊地に続ける。
「神原の言う通りだ、菊地。
怪異に関わって全て上手く行き幸せになった奴は、いない」
戦場ヶ原は良い方向に進んだとも言えるが、それも本人の努力と決断あっての結果だ。
羽川は僕の知る限り、怪異に関わり最も被害を被っている人間とも言えるが、それでも彼女は自分の力で立ち直った。
神原は右腕を換えられバスケットの出来ない身体になり、千石は人間をやめてしまった。
八九寺に至っては存在すら許されなかったし、火憐ちゃん月火ちゃんも酷い目に逢った。
「だったら……どうしろって言うんですか!」
勢い良く俯いていた顔を上げ、菊地は絞り出すように叫んだ。
「可愛い女の子って言われたくて、可愛い格好が大好きで、でもいくら頑張っても似合わない、男らしい方が似合うって言われるボクに、どうしろって言うんですかぁ!」
それは悲痛な叫びだった。
人間は、自分の持っていないものを潜在的に羨む傾向にある。
隣の芝は何とやら??菊地もその例外には漏れていない。
「でもな、菊地」
他人の評価がどうであれ。
本人の認識がどうであれ。
「一生懸命女の子らしくあろうとするお前は、世界一可愛い女の子だよ」
ボーイッシュで、元気のいい王子様。
そんな呼称なんてどうだっていいじゃないか。
女の子が女の子らしくしようと精一杯頑張っているその姿を、この世の誰が笑えるって言うんだ。
「か、可愛いって……そんな」
本当に女の子じゃなかったら、可愛いと言われてそうやって顔を赤くしたりなんてしない。
「お前は誰より努力家で、誰より女の子らしい、可愛い女の子だ。僕が保証する」
「そんなこと……言われても……」
「おいおい阿良々木先輩、堂々と浮気宣言か?」
「阿良々木暦は性別が変わっても可愛い女性の味方だ」
僕はキメ顔でそう言った。
……寒いな。キャラ付けとは言え斧乃木ちゃんの真似はよした方が良さそうだ。
「安心しろ菊地。例えずっとこのままだとしても、僕はお前をずっと女の子として面倒を見てやる」
なるべく安心させるように菊地の頭を撫でてやる。
「……」
菊地はむずがるように身をすくめたが、すぐに顔を綻ばせてくれた。
「……へへっ、プロデューサーがそう言ってくれるならこのままでもいいかな……なんて」
「勘弁してくれ。もう女でいるのはこりごりだ」
「……相変わらずだな、阿良々木先輩は」
「何が?」
呆れ顔の神原は無駄にでかい身体を屈めると、僕の影に向かって声を掛ける。
「なあ忍ちゃん、阿良々木先輩は男でも女でも変わらんのか?」
「うむ」
それに呼応してゆっくりと姿を現す忍。寝たんじゃないのかよ。
突然現れた美少年に菊地が目を丸くしている。
「な、なんか出た……」
「ああ、彼女……今は彼か。
忍野忍だよ。吸血鬼で僕の片割れみたいなものだ」
「相手が男でも女でも主様は異性にもておる。
かかっ、主従関係の儂としては誇らしい事よ」
「なあ阿良々木先輩、提案がひとつあるのだが」
「何だよ?」
「戦場ヶ原先輩に電話をかけてみないか」
ひたぎに?
なぜ?
「男性の戦場ヶ原先輩。阿良々木先輩も少しは興味があるだろう?」
確かに。
あの下手な男よりもよっぽど男らしいガハラさんが本当に男になったら、どんな感じなのだろう。
「事情は俺が話そう」
言うが早いか、神原は携帯を取り出し通話を始める。
「もしもし、戦場ヶ原先輩。
久し振りだな。ああ……うん、うん、実はな」
男版ガハラさん……やっぱりオリジナルに輪をかけてドSなのだろうか。
「阿良々木先輩に代わろう……はい」
神原に携帯を手渡され、耳に当てた。
「も、もしもし」
『戦場ヶ原ひたぎだ』
美声だった。
「あー……その」
『余計なことはいい、事情は神原に聞いている。
男の暦に女の俺……興味深いな』
「……女のひたぎはとても可愛いよ。萌え萌えだ 」
『当り前だ。だが男だろうが女だろうが変わらないことがある』
何となく。
本当に何となくだが、ひたぎが言いたい事はわかった気がした。
これが恋人同士のシンパシーだとしたら、とても喜ばしいことだ。
『戦場ヶ原ひたぎが、阿良々木暦を好きだという事実だ』
「僕もだよ、ひたぎ」
うん。
ひたぎはやっぱり、男になろうがひたぎだ。
『女の俺をよろしく頼む』
「ああ、こちらこそ、女の僕を可愛がってくれよ」
『もう充分に可愛がっている。
具体的にはーー』
「あ、いや、その先は出来れば聞きたくない……」
『ふふ……ではな。愛しているぞ』
011
後日談というか、今回のオチ。
翌日、何事もなかったかのように元に戻った世界で、菊地は相変わらず可愛い衣装に袖を通して僕の元にやってきた。
「見てくださいプロデューサー!」
「うんうん、似合うよ菊地」
振り向きもせずに答える。
どうせ菊地が選びそうな服は予想が着くし、それに。
「……見もせずに言わないでくださいよ」
「菊地は何を着ても似合うさ」
「誤魔化そうったってダメですよ!」
「わかったよ」
椅子を半回転させ、菊地に向き直る。
「どうですか?」
そこにはヒラヒラフリルの衣装――ではなく、普通にキュロットパンツにニーソックスを履いた菊地がいた。
「……びっくりした。本当に似合うよ、菊地」
菊地の言う可愛い、というよりはボーイッシュなイメージの方が大きい服装だったが、それだけにその格好は菊地にぴったりとはまっていた。
それでいて女の子らしさもきちんと表現出来ている。
女の子のファッションについては詳しくない僕だが、これははっきり言ってかなりいいのではないだろうか。
「やっぱり真ちゃんはそういう服装の方が似合うよ」
「うん、無理しても似合わなかったら意味ないもんね」
「ああ、その通りだ」
「この間みたいなカワイイ服は、もっと似合うようになったら着ます」
「そうだな、その時は見せてくれ」
「へへっ、でも女性のプロデューサーも似合ってましたよ」
「やめてくれ」
ちょっとしたトラウマになりそうだったんだ。
女の子って大変だよな、と改めて認識した分はいい経験だったのかも知れないが。
「……? プロデューサー、女装したんですか?」
「いや、そういうことじゃないんだけど……似たようなものなのか?」
「わ、私もプロデューサーの女装見たいです!」
「おい、萩原……」
なんでそこで身を乗り出すんだ。
菊地は何が面白いのかニヤニヤ笑ってるし……後で覚えてろ。
「そうですねえ、雪歩も見たいって言ってることですし、アイドルの期待に応えるのがプロデューサーなんじゃないですか?」
「プロデューサー……」
「う……」
やめてくれ萩原!
そんな濡れた子犬のような目で見ないでくれ!
「い、いやでも衣装とかないし……残念だなあ。あればしても良かったんだけど――」
「衣装ならボクのを貸しますよ」
「私、お化粧しますね」
「――――」
……。
…………。
………………。
萩原の哀願に勝てる人類なんていないのではないだろうか。
あの貝木でさえ落としてしまえる気がする。
化粧は口紅まで塗られ、黒髪ロングのウィッグに付けまつ毛までつけられた。
それに菊地の衣装がぴったり、というのも地味に傷付く。
……僕は何をしているんだろう。
それは多分、誰にもわからなかった。
「うわぁ……プロデューサー、キレイですぅ」
「似合いますよ、プロデューサー」
「プロデューサー、着やせするタイプだったんですね。お陰で女の子の服が似合います」
「……もう脱いでいいか」
目をキラキラさせている萩原には悪いが、こんなもの一刻も早く脱いでしまいたい。
こんな場面、他の誰かに見られたら――。
「おはようございます!
再び登場、神原駿河だ! 得意技は――」
「――――」
「……あっ……」
いきなり事務所の扉が開き、入ってきたのはかつての後輩。
僕は急展開について行けず固まってしまった。
神原も神原で不可解なものを見たせいか、笑いと困惑、両方であろう感情から頬を引きつらせている。
「……な、何をしているのだ? 阿良々木先輩……」
「ち、違う神原! これは――」
「とりあえず写メっておこう」
「やめて! 写真は事務所を通してください!」
この日、僕は神原に大きな弱点を握られる羽目になった。
神原は写真を後日ひたぎに見せたらしく、爆笑したひたぎを見られたことだけは菊地と萩原に感謝してもいいのかも知れない。
まことネレイス END
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