リヴァイ「悪魔の意思」(46)

グロ展開・捏造等

慌てて飛び起きた。周囲をさっと見回して、いつもの寝室であることを確認する。
何事もなく、暗闇が静かに辺りを包んでいるのを見、やっと先程の出来事は夢であったと認識した。
ほっと安堵の息をついたと同時に体中から嫌な汗が噴き出す。
粗末な寝衣が皮膚に纏わりついて気持ち悪い。

恐ろしい夢だった。夢の内容を反芻して思う。
幾度となく修羅場を潜り抜け、死にそうな思いも数えきれないほどしてきた。
迫りくる巨人も、飛び散る血飛沫にも、とっくに慣れてしまった。
それでも、さっき夢の中でみた光景は目を覆うものであった。

乱れた呼吸を整えてから、ベッドから怠い体を引き剥がし、寝室を出る。
とてもこのまま眠りにつく気にはなれなかった。

井戸にいき、地下でよく冷えた水を汲み上げる。
今夜は雲が厚く、星も月も出ていない。暗闇を吸い込んだ桶の水面を眺める。

夜中で誰もいないので、汗を染み込んだ衣服と肌着を取り払い、頭からその冷水をかぶった。
夜の冷気が濡れた剥き出しの肌に突き刺さる。
体中の筋肉が縮こまるのを感じたが、それと同時に先程の不快感は幾分かマシになった。
顔もついでに洗うと、適当に体を拭いて部屋へ戻ろうと入口の方を振り返る。
そこには部下の一人が驚いた顔で佇んでいた。

「あ、ごめんなさい・・・まさか兵長がいらっしゃるとは・・・」

おろおろと視線を彷徨わせながら彼女は言った。
幸いズボンだけは穿いていたが、上半身は剥き出しだったのでなんだか申し訳ない気持ちになる。
精鋭班の一員とはいえ、嫁入り前の生娘に男の裸をさらすのは気の毒だと思った。

気にしなくていい、と言い、素早く衣服を身に着ける。
軽く頭を下げたあと、こんな時間にどうしたのかと彼女は尋ねてきた。
夢の話など言えるわけがなく、ただ汗が気持ち悪かったから、と返す。
彼女はその答えでは納得いかないらしく、心配そうな表情で俺の顔を見つめる。
部下の気持ちはありがたかったが、実のところ、一刻も早く部屋に戻りたいと思っていった。

さっき洗い流した汗がじっとりと背中に滲みでてくるのを感じる。

チラリと彼女の足元を見る。いつもの兵団服ではなく、今はゆったりとしたワンピース型の寝巻を身に着けている。
僅かな夜風にふかれて彼女の白い足首がちらちらと覗く。
・・・ここでもし、「そう」したら彼女はどんな反応を見せるだろうか。

「・・・兵長?」

ハッと我に返る。俺の腕は妙な高さで静止していた。
なんでもない、と言って腕を下ろすと俺は逃げるようにその場を離れた。

あれか、伊良部のネタだなww

高く積まれた書類の山。
精鋭班の部下たちがせっせと内容を確認して判を押している。
俺はその確認が終わった書類を受け取りに来た。

山を思いっきり崩したくてたまらない。
いつもの症状が出そうになるのを押さえる。

「あれぇ?また押さえちゃうの?」

どこからともなくそいつは現れると俺の顔を覗き込んでそう言った。

「こいつらが頑張って仕事してるのにそんな真似できる訳ないだろうが」

手汗をズボンでこっそり拭いながら言う。
誰もこちらに目線を向けず、黙々と作業に没頭している。

「でも、これ全部同じ書面でしょ?崩して多少混ざっても問題ないって」

いたずらを提案する子どものようにそいつは言う。
確かにその通りではあるが、そんなことするのはただの嫌がらせではないか。

「大丈夫大丈夫。適当に躓いたとか言っとけば皆許してくれるよ」

それに、とそいつは付け足した。




「これ、治療だよ?」

踏み出した勢いで机を一気に揺らすとバサバサ嫌な音を立てていくつもの山が一気に崩れた。
部下が驚いた顔でこちらを見る。

「わぁ!兵長!どうしたんですか!?」
「あ、あぁ・・・すまん・・・躓いてしまって・・・」
「兵長が珍しいですね?こちらで集めておきますので気にしないでください」
「・・・すまない」

部下に対して罪悪感を感じた。
しかし、ゆっくり傾きながら崩れる書類とひらひらと舞うそれらの光景は、とても愉快だった。

昼でも薄暗い廊下を先ほどの資料を抱えながら歩く。
まだここに来て日が浅いため、掃除仕切れていない部分が気になる。

ふと、立ち止まって、廊下の壁に掛けられた肖像画を眺めた。
以前使われていたときに置き去りにされたままなのだろう。
額縁に積もった埃に顔をしかめる。

ここは玄関と各部屋へつながる廊下なので、この肖像画は多くの者の目に留まる。
どこかの上流階級の男であろう。上等で煌びやかな衣装を身に着けている。

手が震えた。

「ねぇ。やっちゃえば?落書き、したいんでしょ?」

他人事だと思いやがって。いい年した大人がそんなことするなんて。

「でも汗凄いよぉー?ほら、インク貸してあげようか?」
「・・・これも、治療なんだよな・・・」
「そうそう。ほら思いっきりやっちゃいなよ。誰もいないうちに」

俺はインクを受け取ると肖像画に手を伸ばした。

「おい、お前か。肖像画にこんな落書きしたのは?」
「違いますよ!オレはずっと掃除してたんですから!」
「こんな幼稚な悪戯するなんてお前ぐらいしかいないだろ」
「濡れ衣ですって!」
「・・・どうした」

数時間後、再びそこを通るとオルオとエレンが言い合いをしていた。
俺に気づくとパッと敬礼をする。

「兵長!エレンがこの肖像画に落書きを・・・!」
「だから違います!兵長!オレは本当にやってないんです!」

ちらり、と肖像画をみる。
ちょび髭につながり眉毛。先程までの貫録はどこへ行ったのか。

「・・・許してやれ。もともと大昔の忘れ物だ。今更大した価値もないだろう」

はい、というオルオの潔い返事とエレンのやっていないという主張が聞こえたが、クルリと背を向けた。

エレンには悪いことをした。
が、思わず口角が上がってしまいそうになるのを隠すために足早にその場を去った。

なるほど。確かに我慢は良くないらしい。
今でかつてないほど楽しい気分だった。

今度は何をしようか、と思ったとき、一際目立つところにつり下げられた鐘が目に飛び込んできた。
火事や災害等、非常事態を知らせるときに鳴らす鐘である。

誰にも見つからないよう、注意しながらそこへ向かった。

敷地中に非常を知らせる音が響き渡る。

立体機動装置をつけた部下や同僚がとび出し、周囲を警戒する。

あっ、とそのうちの一人がこちらを指差す。

それに釣られて全員がこちらに顔を向ける。

瞬く間に俺は大人数の兵士に囲まれ取り押さえられる。

俺は気が狂ったように笑う。

仕方ない、といった様子で何人かが目配せしたあと、一人がブレードを抜き、そして・・・

そんな妄想が突如頭の中を駆け巡り、鐘を前にして俺は固まった。

またしても大粒の汗がポタポタと丸いシミを作った。

「前よりも酷くなってるじゃねぇか」

ハンジの部屋に駆け込んで俺は言った。
本人は特に気にした様子もなく、茶を飲みながらのんびりこちらを向く。

「えぇー?そぉ?発散できない?」
「むしろ抑えが利かなくなってどうしようもないことになってきてる」

ふーん、とこちらの焦りも知らず能天気な返事を寄越す。ムカつく。

「だってさぁ、リヴァイ、本当にしたいことは別にあるんじゃないの?」

思わず言葉に詰まる。
そんな俺の様子をみて、ぐふっっと愉快そうな笑い声をたてた。

「元の原因をはっきりさせないとさあ、治るものも治んないよお?」

ぞわりぞわりと虫が這うような話し方に鳥肌が立つ。

「ねぇねぇ。教えてよお」






















「本当は、何がしたいの?」

その日は、新兵の所属兵団が決まる日だった。
エレンの同期達だ。皆、神妙な面持ちである。

腕を組んでその顔ぶれを眺める。
この中の何人が調査兵団に入団するのか。
万年人手不足の調査兵団にとっては、一人でも多く新兵を確保したいところである。

しかし今回はトロスト区の襲撃があった。
実際に巨人の脅威を目の当たりにした者が多い。
例年より志願者がぐっと落ち込むのは容易に予想できた。

が、俺の不安は全く別のところにあった。
地面を見つめて、ぐっと腕を組み直す。

早く終われと頭の中で唱える。

「・・・どうした。リヴァイ」

隣のミケが小声で尋ねてきた。やっぱり症状が出てきている。
目をぎゅっとつむり、なんでもないと答える。

体全体がガタガタと震える。
汗も尋常ではない。
自分が周りからどう見ても異常であるとは分かるが、否定するしかなかった。

ちら、と檀上を見ると、エルヴィンが演説を始めようとするところだった。
精悍な顔立ちが松明の火でチラチラと照らされる。

ぎっ、と目を細め奴を睨む。酷く残酷な衝動が体中を駆け巡る。
腕に爪が食い込み、歯が噛みしめた下唇を突き破り、血の味が口の中へ広がった。

俺が、調査兵団に入った、理由。

俺は、

エルヴィンを

××××

と思って

そのとき、誰かが俺の腕を引いた。
目を細く開けると、あいつがニヤ、と笑っていた。

「ほら、チャンスだよ」

檀上を手で指し示す。

「オーディエンスもこんなにたくさん」

新兵を見回す。

「きっと忘れられない夜になるだろうねぇ。ここにいる誰にとっても」

頭がクラクラする。やめてくれ。

「あんなに強い調査兵団団長、エルヴィン・スミスが消える夜だよ」

とん、とそいつは軽快に後ろへステップを踏むとまたあの気味の悪い笑い声をたてた。

「私が手伝ってあげようか?」

「・・・いらねぇ。俺は、やらない」

「そっ」

そいつはくるり、と背を向けた。

「じゃあ、私がやるよ」

ぴたり、と体の震えが止まった。

「おい!!リヴァイ!!なにをするつもりだ!!」

珍しくミケが叫ぶ声がする。
構わず地面を蹴り、加速する。
他の兵士も俺の行動に気づき、止めようと手を伸ばす。
が、誰も俺を捕まえることができない。

今の俺はきっと立体機動に匹敵するほど速いに違いない。

新兵と檀上にいたエルヴィンも異常に気付く。
が、その時は既に俺はエルヴィンに飛び掛かっていた。

立体機動装置も、超硬質ブレードもいらない。
この二つの手さえあれば十分だ。

ずっと抑え込んでいた、心の闇。

それは、じわりじわりと少しずつ溢れ出して俺の精神と体を蝕んだ。

どうしようもない破壊衝動。妄想。幻覚。

いつのまにか俺の中に生まれた悪魔の意思。

今、その残酷な悪魔の声にしたがって俺は





























.

崩れ落ちる奴の体。

調査兵の絶望した声。

騒然とする新兵達。

耳障りなあいつの笑い声。

何度も夢に見た、残酷な光景。

取り返しのつかないことをしてしまった。
絶望感と後悔、罪悪感が溢れる中、俺の顔は興奮で上気していた。

混沌とする会場を松明の火は先程と少しも変わらず赤く照らしていた。

俺は腕をまっすぐに挙げ、金色のそれを高く掲げる。
夜風が優しく上質な人工毛を揺らした。

ミケ「・・・エルヴィンはまだ立ち直らないのか」

ハンジ「まぁあんな公開処刑されちゃえばねぇ・・・」

ミケ「実質団長がいない状態だぞ・・・」

ハンジ「まぁまぁ。なんだかんだで今期は新兵がたくさん入ってよかったじゃない」

ナナバ「あの時のリヴァイの動きは全く無駄が無くて恰好よかったからね・・・いいプロモーションにはなったけど・・・」

リヴァイ「・・・本当にすまなかったと思ってる・・・」

ナナバ「まぁ・・・しょうがないよ・・・最近おかしいって皆言ってたし・・・」

ミケ「もうよくなったのか?」

リヴァイ「おかげで・・・」

ハンジ「すべて丸く収まったって感じ?丸坊主だけに」

ミケ「・・・すべてではないけどな・・・」

ハンジ「あ、丸坊主はスルーね。オッケー。まぁ、ネスみたいにバンダナでも巻けばいいんじゃないかな」

ナナバ「そうだね・・・提案だけしてみようか・・・」

リヴァイ「ハゲましてやらねぇとな・・・」

おわり

元ネタは奥,田,英,朗の小説「空中ブランコ」の『義父のヅラ』より
話の展開の仕方・雰囲気と不気味なハンジはアニメ版参考+声優ネタ
>>21で見破られた時の衝撃は忘れない

ここまでありがとうございました

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