アイドルマスター・シンデレラガールズの安斎都さんのSSです。
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[ ??? ]
———犯人は、あなたです。
薄暗い事務所の中に、声が響く。
ああ。もう、隠しきることはできないのだろう。
間に合わないだろうか。もうすぐだ。もう少しだけ、時間を。
———どうして…こんなことを。
悲しそうな顔で問われて、どんな顔をしていいか分からない。
芽生えた罪悪感から、口を開くことができない。
ただ、視線を逸らすことしかできない。
今、できることと言えば…時間を稼ぐことだろう。
1分1秒…少しだけでもいい。きっと、そうすれば—————。
事務所へと続く階段から、誰かが登ってくる音が聞こえる。
全てを…話を聞いて駆けつけてきたのだろう。
足音は1つだけではないようだった。いくつもの足音が聞こえる。
窓際に寄り、事務所の下を眺めてみると、数台の車が停めてあるのが見えた。
車から人影が次々と伸びていく。連れて行く準備はできたのだろう。
しかし…全てはここから。まだ間に合う。
表情から察するに、まだ、全てを知られているわけではない。
それならば、これからやることは1つだけ。ああ、本当に…言葉が出ない。
顔を伏せたまま、心の中で、ずっと謝罪を繰り返した。
それが声になっていたのかは分からない。
けれど、嘘偽りの本心から。
…許してほしい、と。
[ 現在 ]
ページを繰る手を止めて、私はちらりとガラス越しに空をみた。
ああ、いつの間にか、こんなに暗くなっている。
レッスンの後に少しだけ…そう思っていたはずなのに。
空から手元に視線を落ち着かせ、背表紙を指でそっとなぞった。
相変わらず、読書と言えば探偵などの推理ものを読んでいた。
本を読み進めるごとに、状況は一変していく。
著者の思惑…すなわち、読者を思考の迷宮に落とすこと。
言い換えれば、読者をいかに上手く騙すかという、著者の技術。
それらと自分自身の推理を組み立てて、戦わせることが好きだった。
何十、何百と有名なものから、そうではないものも読んでいる。
けれど…まだ、推理がそれに勝つことは半分と少しくらいだ。
それでも、推理を成功させたときの達成感は、形容しがたいもの。
このような小説から、ドラマのようにまで…こんなふうなりたいと思った。
アイドルという人と関わる仕事をしていれば、いずれ事件は舞い込む。
そして、そのとき、そこが…探偵アイドル・安斎都の活躍する場。
…という夢を思い描いてはいるけれど、その為には推理力を養わないと。
考え事をしているうちにも、空はますます黒く塗りつぶされていく。
きっと、これからもっと寒くなる。もう12月なのだから。
帰って続きを読もう。真犯人は、誰なのだろう。
「今日は、私はもう帰ります!お疲れ様でした」
『ああ!今日も、お疲れ様。またな、都!』
プロデューサーさんの笑顔に釣られ、微笑んだ。
彼の笑顔、そして誠実さ…それらにとても元気づけられる。
事務所の階段まで続く廊下を歩く歩幅が、少しだけ大きくなっていた。
…外に出て、空を見上げると、微かに雪がちらついていた。
◆
ひと通り書類事務を終えて、伸びをする。
全員帰ってしまったけれど、まだまだやることがある。
仕事は未だに終わる気配を見せない。
書類事務が終わろうと、次はスケジュール管理だ。
うちはアイドルの所属数が桁違いな為、骨の折れる作業だった。
けれど、アイドルの成長を間近で見られるのは、幸せなことだ。
ああ、そういえば、まだ事前連絡を済ませていない。
いつも通りに受話器を取り、ファイルからリストを取り出していく。
仕事でお世話にになっている局や人物の連絡先がそこにリストアップされている。
電話対応のマニュアルもそこには用意されていたが、もう慣れたものだ。
かちゃりと受話器を取り、耳に当て、しばらく待った。
深呼吸、言葉遣いに気をつけて口を開いた。
「もしもし。わたくしは、シンデレラガールズ・プロダクションの—————」
このような事をしているプロダクションは、多くはない。
入社当初に、社長からそう聞いてはいたが、これも営業の一環だ。
些細な事から、信頼は生まれていく。アイドルと共にいて、気付いたことだ。
最近は、この習慣に目に見える成果が出ていることもあり、やる気があった。
アイドルがいい仕事をしたとき、すぐに電話がかかってくるからだ。
お疲れ様です!また、是非そちらのアイドルを———。
ありがとうございます。よろしくお願いします!
元気よくそう答え、交流をはかっていく。反応に期待しよう。
たまにお酒の席にも呼ばれるようになり、仕事にさらに楽しみを覚えていた。
ふと時計を見ると、既に23時を回っていた。
今日はそろそろいいだろう。
事務所に誰もいないことを確認し、きちんと鍵をかけて、家路についた。
月は雲で隠れ、路地の電灯だけを頼りに歩いた。
帰る途中でコンビニにより、いくつか食べ物を買った。
仕事を終えたのだから、という事でアルコールも少し。
家に帰っても、アイドルの出演する番組のチェックがある。
オンエアの際は、収録の際と色々違うことが出てくるからだった。
CMまでの区切り、カットされた箇所を記憶と照らしあわせてメモを取っていく。
オンエア前に、手入れされていないそのままの収録が1度送付される。
アイドルたちも自分の勉強の1つとしてみなでよく見ている。
それらに彼女らの向上心を垣間見ることができて、その度に喜びを覚える。
ああ、言うなれば…彼女らに憧れを抱いているようなものだろうか。
と言っても、恋愛感情と言った類ではない。純粋な気持ちとして。
彼女らに恋愛感情を抱くなど…あり得ない。あってはならない。
これはアイドルを支える者として…常識として、そういうものだ。
仕事の疲れが来ているのか、ほどよい眠気がまぶたを閉じようとする。
そういえば、入浴もすませていなかった。きっと眠気も飛ぶだろう。
時間もないので、烏の行水のようにシャワーを浴びた。
コンビニで買ってきた缶を開け、少し値が張る肴にも手をつけた。
身体があたたまっているせいか、さらに眠くなっていた。失敗だっただろうか。
眠気に耐えながら1日の仕事を終え、ベッドにもぐりこんだ。
あと少しで2時になってしまう。業務に差し支えないよう、眠らないと。
夢と現の間で、今日のできごとが走馬灯のように駆け巡る。社長が何かを言っていた。
…ああ、安斎都のことだったはずだ。
◆
「おはようございます!」
『ああ、おはよう…都、今日の収録までは時間あるぞ』
プロデューサーさんは、とても眠そうに目をこすっていた。
私の表情に気がついたのか、すぐに表情を引き締めた。
「…私、コーヒーでもいれてきます」
彼が眠い原因の1つには、私のこともあるのだろう。
ならば…少しくらい、私にもできることをしてあげたい。
『…ありがとう、ブラックで頼むよ』
いつもは遠慮しているけれど、珍しいこともある。
よほど疲れているのだろう。なんだか申し訳ない。
入れなれたコーヒー2杯を置いて、対面の空いたソファに座った。
ティーカップが、かちゃりと音を立て彼の口へ運ばれる。
『うん、おいしい。ありがとう』
『都は本当にコーヒーをいれるのが上手いな。いい香りだし』
私は自尊心をくすぐられ、ほこらしげにティーカップを持った。
そのまま優雅に香りを楽しみ、舌で味を転がし、一言。
「探偵はコーヒーにこだわ…」
「………」
「お砂糖…」
どうにも、まだ私の舌はこのような大人の味に親しみがないらしい。
慌ててミルクとお砂糖を入れ、ティースプーンで混ぜ、味を塗り替えた。
…少し恥ずかしいけれど、彼が少しでも笑ってくれたので、よしとしよう。
◆
仕事を終え、設置されたパソコンと顔を合わせていた。
アイドルたちの業務報告を綴っていた。
雑誌社の取材、テレビ出演…膨大な数になる。
それでも、彼女らの活躍は全て覚えているのだが。
芸能界は様々な情報の上に成り立っていると思う。
共演する俳優・アイドル…大手の業界人。
それらすべての情報が頭になければ、成功は難しい。
誰と誰の共演はNG、このような話題は好ましくない、という情報。
あまり言いたくはないが、その琴線に触れぬよう仕事をせざるを得ない。
できることなら、アイドルたちには自由に仕事をしてほしい。
ただ、自分たちには、それをするだけの業績がない。
厳しい現実に、頭を抱えるしかなかった。
そして今日も受話器を取り、可能性を埋もれさせないよう努力する。
ぜひ、よろしくお願いします。なにか仕事があれば。
無論…そうそう取れはしない。
基本的に経営年数の深い、老舗と言われるようなプロダクションが攫ってゆく。
それだけ芸能界と繋がりがあるゆえ、信頼されて仕事を任される。
けれど、このプロダクションは、新設されてそう長くない。
今、その信頼の基盤を整えているというところだ。
受話器を置き、営業を行った日付と結果報告を綴ってゆく。
12月6日。不可、不可、不可。希望あり。可。
そしてふと昨日の夜を思い出す。
そういえば社長が言っていた。安斎都のことを。
けれど…彼女なら途中で気付くだろう。隠し通すことは不可能だ。
君に任せるよ、と社長は一任してくれたが、自信がなかった。
彼女は、自分の洞察力や推理力を過小評価しているが、全くの間違いだ。
事務所内の微細な変化にもよく気がつく。そんな彼女を欺くことができるだろうか。
…ああ、何を考えているのか。
既に答えは決まっている、というのに。
なら、まずは…計画を立てることから、だろう。
◆
「ええと、ちひろさん。ここ、どうしたらいいですか」
『ああ。ここなら、確か資料があったはずですが…』
レッスンを終え、私はソファに身体を埋めた。
プロデューサーさんとちひろさんは、今日も忙しそうだ。
私の後ろに続いてアイドルのみなもレッスンルームから顔を出す。
『はい、のど、乾いたでしょう。ドリンク用意してあるから』
ありがとう、ありがとう。みな、ちひろさんから飲み物を受け取る。
私もその1人となり、レッスンで疲れた足に力を入れた。
やはりレッスンの後はこれが最高、と思える。
どうやって作っているのだろう。
多分、私が絶対に解決できない謎の1つだ。
私だけじゃない。きっと、誰にもできないのだろうけど。
プロデューサーさんはまた、悩んでいるようだ。
けれど…いつもと違う雰囲気を感じ取った。
そこまで、何を悩んでいるのだろうか。
もし、私にも解決できる謎であれば、協力してあげたい。
そっと後ろから近づいて、書類を覗き込もうとした。
電灯でできた私の影に気付いて、慌てて振り返っていた。
持っていた資料を後ろ手に隠して、私の事をじっと見ていた。
「あ…ごめんな、都。これは、見せられない資料だから」
なるほど。そういう資料は確かにあるだろう。
アイドルが関知するような事でなければ、仕方がない。
こういうのは、ちひろさんや社長と話し合うようなものでしょう。
『ああ、いえ。すみません!』
素直にそう声が出た。特にその態度を気にしてはいなかった。
ああ、けれど。全てを気にしていないと言えば嘘だった。
…その資料は、そこまでして隠さなければならないものだったのか、と。
◆
さて。
社長に話もした。
残るは実行に移すだけ。
みなは、どんな反応をするだろうか。
きっと首を縦に振ってくれる事を祈るばかりだ。
ああ、そんな心配をしなくても、そうであるに違いないだろう。
時間には余裕がある。
けれど、それが問題とも言える。
この長い時間のうちに…勘付くことがないといい。
安斎都だけには、決して悟られてはいけない。
それのためにはどうするか…彼女のことを想い描く。
そうだ、彼女がいつも読んでいる…そう、推理小説、だ。
あれを参考に、上手くやることができたなら。
あのような事を現実でやることになるとは。
フィクションが、ノンフィクションに変わる瞬間だ。
そう思うと、思考が明瞭になっていくのを自分自身で感じた。
…まずは、誰に話をするべきだろうか。
外堀からゆっくりと埋めていくべきだろう。
いつものように受話器を取り、電話をかけ始めた。
もう、後には戻れない。
◆
雑誌社の取材を終え、事務所で推理小説の書評を書いていた。
最近発売されたばかりのもので、サンプルが発売前に送られていた。
文章に惹き込まれ、私は眠る間もなく土日の休みを費やした。
けれど、手の内からはすらすらと文字が綴られていく。
睡魔は襲ってくるが、それよりも感想を述べられる方が嬉しい。
トリックだとか、内容については詳しく触れられないのが、もどかしい。
仕事の琴線に触れないよう、思案しながら文章を構成していた。
きりのいい所で、休憩をはさもうとしたときだった。
「ただいま、戻りました!ええと、ちひろさん。相談があって」
『ああ、お疲れさまです。相談…ですか?社長も今は手が空いていますが』
「いえ。ちひろさんにお願いしたくて…昨日の資料、その…」
『…もしかして、お金…足りなかった、ということでしょうか』
「………」
「はい、俺が上手く交渉できていたら、と思いますが…すみません」
「あれ以上は、不可能だと…」
『そうですか…私の方では、それ以上は…』
「…わかりました」
『やはり、社長にかけあってみるべきでは…』
ああ、私にできることはないのだろうか。
大人の事情、と言われればそれまでだが、何か力になりたい。
けれど、まず、何に悩んで…何に困っているのかを知らなければならない。
いったい、どうするべきだろうか。
◆
「あの…社長。すみません…お話があって」
姿勢とスーツの襟を正して、入室する。
気付かぬままに、口調は強ばっていた。
『………』
『彼女のこと、かな』
「…ご存知だったんですか」
『君たちはアイドルを支え、私は君たちを支える側なのだから』
社長は入室して左側、窓際の隅に設置されている金庫に手を掛ける。
少々旧世代的なデザインだが、その強固さは誰にも破ることは不可能だ。
社長は2つの封筒を取り出した。どちらがどちらと見分けもつかない。
けれど、それが何なのか、についてはすぐに察しをつけることができた。
『ええと、予定通り、予算から80万円ほどは用意することができた』
『その封筒には、30万円ほどのお金が入っているはずだ』
『言っていた通り、君の好きなように使ってくれ』
「…ありがとうございます、社長」
『いいんだ、たまには…ぜいたくも必要だろう』
「…はい」
『それに…この見返りは、とても大きいのだから』
『このくらいは、きっと、許されるはずだよ』
『そして』
『残りの50万円は、渡しておいた方がいいかな』
「いえ…まだアイドルたちもいるようですから」
『確かに、何かの拍子に勘付かれてしまうのは、よくないな』
「はい。預かっておいていただくのも手ですし、それに…」
『わかった。なら、誰もいないときにでも渡そう』
「ありがとうございます。こちらの30万円はデスクに入れておきます」
「鍵もつけていますし、ここを探るアイドルも居ないはずですから」
『普段から彼女らにからかわれてもいるようだが、確かに、そこまではしないだろう』
「ええ。自慢のアイドルですから…それに、支えるものとして、信頼していますから」
『うん、社長として、嬉しい限りの返事だよ。それじゃあ、よろしく頼むよ』
「わかりました。それでは、失礼します」
ふう、と部屋を出てからため息をつく。
相変わらず、社長室に入るのは緊張する。
デスクに戻り、アイドルの視線に注意しながら封筒を取り出す。
ここで中身を確認するべきではないだろう。封は開けずに引き出しへ。
よし。誰にも勘付かれてはいないようだ。さて、仕事の続きをしなければ。
お金も手に入ったが、どのように使うべきだろうか。
…まだ時間はある。考えるだけでは、怪しまれはしないだろう。
とりあえず、溜まった仕事を消化するところから、はじめるとしよう。
ああ、それにしても…この大金。使い道を考えただけでも、顔がほころぶ。
気をつけなければ。
◆
日をまたいで、未だに私は、事務所で書評を書き綴っていた。
なめらかに綴られていた文字は、もうそこにはなかった。
探偵も、公私混同は禁忌とされているが、それどころではない。
私の腕は書評に向かっているのに、頭はプロデューサーさんのことばかりだ。
いつも私を助けてくれる彼に、私は何もできないのだろうか。
問題を、謎を。探偵とはそういうものであるはずだ、というのに。
時計に目をやると、営業に行ったプロデューサーさんが帰ってくる頃だ。
「…ただいま、戻りました」
いつになく彼の声が重い。何かあったというのだろうか。
私がそれを尋ねる前に、ちひろさんが同じ事を問いかけた。
『ええと、プロデューサーさん…どうか、したんですか』
「その…昨日、社長に掛けあって…みな帰った後、お金をいただいたんですけど」
「やはり、その…50万円はかかるようで、30万円では足りない、と…」
『…30万円、ですか?』
『………』
「ああ…すみません、ちょっと用事があって…今日は」
『…はい、わかりました。お疲れさまでした』
「お疲れさまです…それでは」
ぱたん、とドアが閉まる音が聞こえ、そこには考えこむちひろさんが1人。
腕を組み、首をかしげ…考えこむようなしぐさを続けていた。
そして…ひとりごとのように、小さく呟いた。
『………』
『20万円…足りない?』
心拍数が上がる。
表情の変化を、顔に出してはいけない。
そう。わたしは…私は、探偵なのだから。
ポーカーフェイスを決めるぐらいでないと。
すぐに呼吸を整えて、ちひろさんに喉まで来ている疑問を尋ねた。
「ち…ちひろさん。20万円…足りない、って…どういうこと、ですか」
『…ごめんなさい。口に出していたかしら…気にしないで』
『きっと、私の勘違いかもしれない…だから』
「いいんです!それでも、教えてください。お願いします」
深々と頭を下げた。これだけは譲れないと思ったからだ。
聞いておかなければならない。ちひろさんの態度からそう思った。
わざわざ、プロデューサーさんが出て行ってから、考えをまとめていた。
ということは…彼に、何かあるということだろう。
短い付き合いだけれど、信頼関係は生まれているはず。
けれど…そうすることができないだけの事情が、そこにある。
『………』
『…これは、誰にも言わない、って…約束してほしいの』
強く頷いた。決して、お遊びで尋ねているわけではない。
これは、もしかすると———。信じたくはないが、まさか。
『とある企画のための予算が50万円。これは私も社長も、確認してる』
『社長と予算を組み直したから、80万円くらいの余裕はあるはずなの』
『でも、30万円では足りない…プロデューサーさんは、そう言っていた』
『プロデューサーさんは、少なくとも、50万円は持っているはずなのに』
それは、つまり。
プロデューサーさんが、お金を?
違う。そんなはずはない。
なにかの間違いだ。
もし、ええと…私的流用、をしているのならば、それは犯罪だ。
犯罪。思い直して、その重大さに、口が開かない。
あり得ない。彼はきっと、そんなことはしないはずだ。
どうしよう。盲目的に彼を信じても、問題は解決しない。
ならば、どうするべきか…それはすぐに思いついた。
消えた20万円の行方を探ること。
プロデューサーが犯人でないことを…証明する。
そうしたら、きっと、答えが。
…出せる、だろうか。万が一、彼がそうであったなら。
私は告発できるだろうか。きっと、このプロダクションは。
1人しかいないプロデューサーを失えば、私も…いいえ、みなも。
ああ、違う、そうじゃない。私は決めていたはずだ。
公私混同はしない。探偵の初歩の初歩だというのに。
これは真似事であっても、決して遊びじゃない。
そしてきっと、彼を無実だと、証明してみせる。
さて、まねっこホームズはしたことがあるけれど。
シャーロック・ホームズになるときは、来るのだろうか。
輝かしい夢に満ちた、そんな未来を、私…安斎都は、推理する。
本日分の投下は以上です。
ありがとうございました。
× けれど、嘘偽りの本心から。
○ けれど、嘘偽りのない本心から。
です。なぜか文字化けしているようで、記号を変更して修正しました。
◆
帰りは、20万円という大金をどう補うか、が悩みの種だった。
これ以上の予算が割けないことは、聞いている。
ならば…どこからそのお金を。
案が浮かばない。
口から悩みと共に吐き出されるため息は、空に白く消えてゆく。
ああ、悩んでいても解決するわけではないというのに。
そうは分かっていても、どうすることもできなかった。
いっそ、受け取った30万円のうちから、捻出しようか。
…それはいけない。これは社長との約束なのだから。
それこそ、私的流用になってしまうではないか。
まだ、あの企画の締め切りまでには時間がある。
それまでに間に合えば、全て丸く収まる。
一歩一歩が小さくなってゆく。
もともと大きいわけでもないが、さらに小さくなっていた。
この20万円の誤差は、明らかに安斎都は不審に思うだろう。
どうして、このタイミングで誤差を生んでしまったのか。
…計画にミスがあった…いや、違う。そうじゃない。
とある仮説に行き着いたときには、既に家の前についていた。
スーツを脱ぎ、しわにならないように保管する。
ひとり暮らしをしているうちに、身についた習慣だ。
使い古された質感の黒い鞄から、あの封筒を取り出した。
中には、50万円が入っていた。
これで本当に本日最後の投稿分とさせていただきます。
失礼しました。画像を貼っていただいた方、お手数をおかけしました。
>>20 修正です。
× これ以上の予算が割けないことは、聞いている。
○ これ以上の予算が割けないことは、知っている。
としてお読みください。失礼しました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません